Written by 独鴉
エピソード2 もう現れる新たな(てこいれ)魔法少女
「つまり、お前達は偽物ではなくパーツの守護者というわけだな?」
「……はい。相違ありません」
気が済むまでスミカに殴られた後、正座させられたまま青あざだらけのマッチョダンディな二人は自らをパーツの守護者ジャックとゲドだと名乗った。
「それで他のパーツもお前達のように守護者が居るのか?」
「いえ、私達以外事は何も……」
ヘルメットをかぶっているというのに心なしか二人が青ざめて見えるのはきのせいだろうか。
「スミカ先輩、私は戻りますがこの守護者とパーツはお任せしていいでしょうか」
ウィンDはインテリオルユニオン専属、二人を連れていくには説明がつきようが無い。 幸い今は長期休暇期間、独立傭兵が二人ボディーガードが増えた所で問題はないだろう。
「わかった。私の方でこれは預かろう」
その日のうちにセレンはジャックとゲドを空き室に押し込むと書類をまとめ二人をボディーガードとしてカラードに申請を済ませ眠りについた。
翌日、見たことの無い二人がいることに気付いたリンクスはセレンに事情を聞きに部屋を訪ねてきた。
「セレンさん。あの二人は?」
変身中のことを覚えていないリンクスは何事かと驚いている。あの姿の事を覚えられていても困るのだが。
「休暇期間中のみの短期間採用のボディーガードだ」
大柄で筋骨隆々の偉丈夫が二人、リンクスはすぐに納得したのか簡単に引き下がった。 カラード内を歩くセレンとリンクスの後ろをボディーガードとして付いて歩く。
違和感がかなりあるが、どこの警備ルートもボディーガードと言えば押し通せるほど二人の体格が良いのがある意味幸いだっただろう。
全ての任務が無い現在、緊急時に備え昼間はカラード内で時間を潰すのみ。セレンに付き従う二人は静かに周囲に立ち、ボディーガードらしく周囲を警戒している。
なんとか一日を乗り切り夜も深まり日を越えた頃、静かな違和感を感じてスミカはベッドから起き上がりステッキを手に取る。
「変身」
星型の光がスミカの周囲を回転しピンクのフリルの付いた魔法少女の姿に変わる。リンクスも時を同じくしてモフモフした姿に変身し、
隣の部屋からスミカの部屋の扉を開け、その後ろには二人のダンディな男が立っている。
「姐さんお手伝いします」
「姐さんあっしらも行きますぜ」
「お前らがいても邪魔なだけだろう」
二人の守護者はついてくるというのを断ろうとしたが、二人には自信があるような素振りがみえる。
「あっしらも守護者の端くれ。飛べますぜ」
「それなりに力もありますぜ」
二人は上半身の服を脱ぐと宙に浮かび上がり、ボディービルダーのようにポージングをとってみせる。僅かながら周囲を覆う光の球体が見える事から防御能力もあるようだ。
「いいだろう。モフ、お前達行くぞ」
空間を引き裂くと二人と一匹を連れ目標地点間際へと転移、エリアはインテリオルユニオンの管轄範囲にある水没した旧都市群だった。
海上にある水没した都市の中、巨大な蜘蛛のような群体が都市の間に巣を張り巡らしている。その体躯は白く輝きあからさまに異常だとわかる。
僅かな隙があったのかこちらに気付いた途端蜘蛛は糸らしきモノをスミカとモフに向けて吹き付けてきた。
「姐さん危ない!」
二人の守護者はとっさにスミカとモフ、そして蜘蛛の間に割り込むと巨大な糸にからみとられ、そのまま巣に引き寄せられると固定されてしまう。
もがいている姿をみてスミカは急いで助けようと思ったが。
「うむ、ゲドよ。これも悪くは無いプレイではないか?」
「私はもう目覚めてしまいそうだ。ジャック」
二人の言葉を聞いて僅かでも心配したスミカはどっと疲れてしまったが、無事なようで安心するとモフの頭を掴む。
「モフ、あれが今回の対象で間違いないんだな?」
「間違いないモフ。あそこから世界の神の片鱗を感じるモフ」
首輪付きから手を離すとスミカの右側の空間の裂け目から砲身が姿を現す。
「PITONE レールガン!」
高速で撃ち出された弾体は何重にも重ねられた糸に阻まれ、あと少しで到達する前に止まってしまう。
「あの糸、厄介過ぎるか」
実弾とはいえ高速物体さえも止められる強度と糸の多重放出、弱点が分からない場合長期戦になってしまう。
「糸は熱に弱いモフ!」
「ALTAIR レーザーライフル!」
左側の空間が引き裂かれるとレーザーライフル召還、連射速度は高くないが糸を焼き切り徐々にだが蜘蛛に近付いていく。
しかし思ったよりも魔法の消耗が多く、一旦休憩して魔力を充足させないと続けられるものではなかった。以前使ったテルスを呼び出して一気にとも考えたが、
上半身を固定する地面が無い海上では不可能。どうしたものかと考えていると連続した爆発が周囲の巣を焼き払っていく。
「人々の笑顔を奪う悪い子達は許さない!」
声の方向を見ると、ど緑のビキニ型スーツに身を包んだ天使の羽を持つ女性の姿があった。
「皆の笑顔を力に 魔法絶対少女 メイ!」
銀色の杓丈とも取れる長めのステッキを持つ姿は、スミカよりも新しい世代の魔法少女のようだ。しかし自らの黄金比率体系に気付いていないのか、
スポーツタイプの水着でもそのスタイルのよさはまったく損なわれていない。むしろぴっちり過ぎて逆に淫猥な雰囲気まで出ている。
スマイリーのあだ名のとおりメイは笑顔のまま杖を向けると先端のGのマークが光り輝き始める。
「GAの力見せてあげる! メリーゲート召還!」
メイの周囲にメリゲートの武装を召還すると正面から圧倒的弾幕で蜘蛛の巣を破壊し、ジャックとゲドが巻き込まれていく。
しかし気に留める事の無い弾幕は周囲の建物ごと全てを破壊していった。どうやら実弾系の消費魔力は少ないようだ。
「モフ、神とやらは一体何人を魔法少女にしたのかわかるか」
「わからないモフ、ただ魔法絶対少女 メイ能力は分かるモフ」
スミカはため息をつくと笑顔のまま破壊を続けているメイを眺める。まだ若く張りのある肌を惜しげもなく露出させ、少しうらやましさとイラっと来る感情を覚えていた。
2分ほどして全てを破壊したあと、海上に一つの光が浮いている。あれが今回の神のパーツなのだろう。
武装を締まったメイに話しかけようとセレンとモフが近付いたとき、メイは一瞬の迷いもなく首輪付きを捕まえるとぎゅ~~っと抱き締める。
「かわい~!」
「くるうれしいもっふぅぅぅぅ!」
首輪付きは薄い水着の胸と腕の間に締め付けられ呼吸困難と柔らかさに顔を赤くしながらもがいている。
「かえせ!」
スミカは首輪付きをメイから奪い返すと優しく抱え込む
「モフは私のものだ! 私だけのものだ!」
「もふぅ……」
なにか恥ずかしそうに首輪付きは頭を掻く。
「も~、少しくらい貸してくれてもいいじゃない」
メイは少しむくれたような表情で訴えるが、スミカはメイの手に届かないように抱き締めたまま背を向ける。
「も~ケチッ!」
スミカはむくれたメイをそのまま光の玉に近付こうとした時、高速な何かが持ち去り離れていく。
「何者だ!」
奪った影の方向をスミカ達が見上げると欠けた月を背後に一つの影があった。
「闇夜に輝く一輪の花。美少女戦士リリウム BFFに代わっておしおきよ♪」
フクロウのような翼、そして白銀の髪をたなびかせながら黒いゴシックロリータ服に身を包んだ魔法少女 リリウム・ウォルコット。
右手で銃を狙い撃つように構える指差しでポーズをとっている。
「これで良いでしょうか。王先生」
「よいぞぉリリウム! それでこそ美少女戦士!」
どこからか王小龍の声が聞こえてくるが、周囲に使い魔のようなものはみえない。
「他の似非者やババアとは違い実にすばらしいぞぉ!」
かなり聞き捨てなら無い言葉を上げている王小龍の居所を必死でスミカは探すが、声はリリウムの方から聞こえるだけでどこにも姿は見当たらない。
「モフ! 王小龍はどこだ!」
スミカは横にいた首輪付きの頭を掴むと乱暴に周囲を見せる。ほんの数分前首輪付きを優しく抱え込み自分だけのものだと言っていた時がまるで嘘のようだ。
「リリウムの背中から使い魔の気配を感じるモフ」
しかし首輪付きは慣れているのか自分の扱いを気にする様子もない。
「そうか!」
「もっふうううぅぅう……!?」
スミカは掴んでいたモフを乱暴に投げ捨てると、首輪付きは叫び声を上げながら海面に向かって落下していく。
どう王小龍を消し去ってやろうかとスミカは考え始めるが、なんとか体制を建て直し上昇してきた首輪付きはセレンのすぐ横に戻る。
「でも、あれも異常の一つモフ!」
モフが異常だと指し示したのは美少女戦士リリウムだった。
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