Written by 独鴉


フランソワ・ネリスはなんの為に戦うのか。


オリジナル、フランソワ・ネリスの力・・・
 コルセールは独立傭兵団としては最大規模を誇る。他の独立傭兵もある程度の傭兵団を保有し、
セレン・ヘイズの独立傭兵団もそれなりの規模はある。だがコルセールに比べれば遥かに小規模と言えた。

 砂煙を上げながらコルセールの旗艦たる大型戦闘艦と共にランドキャリアー等の船団が荒地とな
った大地を進んでいた。コルセールの戦力は企業とラインアークを除けば最大級、それを支えるの
はたった一人の女性、フランソワ=ネリスのカリスマ性とその実力故だ。ネクストを扱えるからだ
けではない。元々テロリストの集まりだったコルセールを傭兵団まで整え直し、
荒くれ者
達の頂点に達するのは並大抵のことではない。規律を守らぬ者を殺し、利を与える者を重用し、不
要なものを排除する。だがそれだけではない。自ら戦闘に立ってネクストで戦い、力と存在を示さ
なければ誰もついてはこないのだ。
 いまコルセールの旗艦たる大型戦艦の通路を一人の女性が歩いていた。外部と違い艦内にはそれ
ほど騒音が響いておらず、僅かな振動音と軍用靴の鳴らす一定の靴音だけが響いていた。軍服を着
た女性が鉄製の扉の前に立つと軽く扉を叩く。

「ネリス様、失礼いたします」

 返事を待たず鉄製の頑強な扉をオペレーター兼副官が開ける。戦闘艦内だが広めの部屋は接照明
によって薄暗く照らされ、僅か香る優しい香水の匂いが眠気を誘う。女性は静かに室内へと入ると
少々大きめのベッドの横立った。ベッドに寝ていた女性はすでに目が覚めていたらしく、ゆっくり
とベッドのから身を起こす。服を着ている状態ではほとんど解らないが、下着姿で寝ていたネリス
の体には何箇所も裂傷の痕が痛々しく残っていた。

「ネリス様、カラードから依頼が届いております」

 副官は丁寧に頭を下げながら情報端末をネリスの前に差し出す。

「見せな」

 ネリスは副官の持っていた端末で内容を確認する。まだ完全に目覚めては居なかったのだが、内
容を見て意識がはっきりと覚醒しいく。

「王小龍め、リリウムを殺す気かい!」

 ネリスにとって、いやメアリーにとって現在BFF頂点に立つリリウムとは少なからず縁がある。
ウォルコット家はフランシスカとユージンを輩出し、当時BFFのオリジナルであり、頂点に立って
いたメアリーが後輩たる存在に指導しないわけにはいかなかったため、まだ小さかっ
たリリウムとも出会っていた。

「ストレイドに連絡を付ける!お前たちは私の機体をいつでも出せるように準備しな!」

「はっはい!」

 副官は急いで部屋を出て行く。ネリスはベッドから出ると義足を足に装着し、片腕だが手馴れた
動きで服を着ていく。

「イルビス相手にリリウム一人で勝てるものか!」

 イルビル・オーンスタイン、彼のランクは14とリリウムよりも低いが、オーメルの圧力と意図
的にカラードマッチを敗北することで意図的にランクを下げている。イルビスの実質的な実力は最
上位クラスに匹敵すると言われるのはここから来ていた。いくらAMS適性が高いといっても戦闘
経験の豊富さから言ってリリウムが勝つのは難しい。
 むろんカラードマッチの様な単純な戦闘に関して言えばリリウムはイルビスに勝てるだろう。
だが相手の得意とする領域、PAN‐51となれば話は別だ。濃霧とECMによってレーダーも視
界もほとんど利かない領域、そういった場所で役に立つのは戦闘経験から来る読み。リリウムには
それが圧倒的に足りてないのは明白だった。
 ネリスはベッドサイドに立てかけてある杖を掴み、片足を引きずりながら急いで通信室へと向かう。
前にセレンから手に入れたアドレスで直接通信も可能だが、秘匿性が高いものとなるとやはり通信
室で行ったほうが確実だった。
 通信室に入るなり部下を退出させ、携帯端末に記録されているアドレスとパスワードを入力、3分
ほどして繋がった通信画面には不機嫌な顔の女性が映し出される。通信画面の光を浴びてうっすら
と光る黒髪は整えられておらず、ラフな服装から寝起きなのが見て取れる。

「なんだ…。こんな時間に」

 画面隅で表示されている時間はAM2:00を示していた。だが、そんなことにかまっていられる時間的余裕はなかった。

「セレン、ひとつ頼みがある」

「お前から頼みだと?」

ネクスト移送用多目的エアキャリー内・・・
 セレンは依頼書及び作戦内容が書かれている資料を投げ捨て、機体から送られてくる情報に目を移した。

(敵対側として雇われるようするとは、面倒なことをさせてくれる)

 BFFからきていた僚機依頼を受諾したセレンは、大幅に機体構成を変更した上でリンクスを出
撃していた。ただ武装に関してはBFFからの要望があり、右背に重砲を装備させられ、左背には
BFF製レーダーを装備。慣れない機体なのは仕方ないが、支援機として必要とされている以上ア
センブルの変更は必須だった。セレンはリンクスの精神状態を確認するため通信のスイッチを入れる。

「作戦内容は理解しているな?アンビエントは前衛型だが任せきりには出来んぞ」

「しかし、私はタンク型ACも援護狙撃もあまり得意では」

 脚部まで指定はなかったのだが、重砲の発射衝撃を抑えるためにタンク型脚部KIRITUMI
を選んでいた。ストレイド・サックスともに重量の差が有るといってもカテゴリーは2脚タイプ、
タンク型ともなるとAMSを介した操作方法も異なり今までどおりには行かないことをセレンも解っている。

「基礎訓練はしただろう。後はお前次第だ」

「…あれが基礎訓練ですか?」
 セレンは依頼を受領してから2時間ほどシミュレーターを使用した射撃訓練と回避を重視した動作
訓練をリンクスに命じていた。むろん付け焼刃程度に過ぎないものだが、訓練をさせないよりはま
しと有澤重工 霧島のデータを使って訓練をさせている。

「機体はレインがちゃんと調整している上に支援が主たる任務だ。出来ないことはない。やってみせろ」

「やってみせろですか…」

 リンクスは機体起動プロセスを開始、システムチェックが始まり待機状態だった各部の稼働率が上がっていく。

[システム戦闘モードを起動させます]
 AMSとのリンクが開始される直前、リンクスは小さいプラスチックケースを取り出し、中に入った薬を飲み込む。

「AMSとのリンク開始」

PA‐N51・地下統制管理室……
 GAはここ数日、アルゼブラ領域すぐ近くまでAF部隊を展開、いつでもアルゼブラ領行きへの侵
攻可能な状態を維持していた。

「GAの子飼い共が、調子付きおって!」
 この事が充分なほどイルビスの癇に障っていたが、アルゼブラ上層部としては先制攻撃を控えて
いた。企業間駆け引きのレベルとなるとイルビスも勝手に動くわけにも行かず、最前線であるPA
‐N51で常時出撃可能状態での待機を余儀なくされていた。司令室内では刻々と変化するGA 
AF部隊の展開状態が司令室の中央ターミナルに地形情報と共に三次元表示され、その状況を見て
いることしか出来ないことがイルビスの機嫌を非常に悪くする要因の一つになっていた。

「上層部からの命令はまだか!」

 すぐ近くで待機している通信仕官にイルビスは怒鳴りつけるが、恐怖で引きつった表情のまま首
を横に振るだけで連絡が来ている様子はない。

「上は何を考えているのだ!GAの戦力を削る良い機会だとわからんのか!」

 イルビスが苛立つ中、展開しているGA部隊だけではなく新たな熱源を確認したレーダー仕官は
情報仕官と共にデータとの照合を始める。

「イルビス様!ネクスト反応が二つこちらに接近しています!」

 他の一般士官達はレーダー士官からの言葉に焦り始めるが、イルビスは不敵な笑みを浮かべる。

「これで先制攻撃を仕掛ける理由が出来たわ!ネクストを片付けた後GA軍も叩く!全機出撃準備をしろ!」

 上層部の許可がなくともGAがPA‐N51に仕掛け、報復処置としてGA軍に対して攻撃を行
ったといえば上層部はそれほどうるさくはない。イルビスは足早にマロース専用整備場へと向かった。

 イルビスが向かった専用整備場とは別の場所では、ネリスが率いるコルセールの輸送機と共にバ
ッカニアが待機していた。

「ネリス様、アルゼブラ側から出撃指示が来ました。敵ネクストの迎撃に協力するようにとの事です」

 ネリスは待機していたオペレーター兼副官はアルゼブラ側からの指令書を受け取る。

「機体構成を確認しているかい?」

 指令書を押さえていたバインターから副官はもう一枚紙を取り出す。

「はっ、現状では基本構成のみですが情報網で確認してあります。ベースはNSSですが腕のみSS,霧積の脚部を利用しております」

(セレンのリンクスはタンク型か、どうやらこちらの情報は生かしてくれたようだ)

 KIRITUMIのタンク型脚部、NSSコアと頭部、SSの腕部、実弾兵装しか持たないイル
ビス相手なら有効だろう。だがネリスに不安材料がないわけではなかった。機体構成を大幅に変更
すればそれだけリンクスの負担になる。2脚系以外のネクストをセレンのリンクスが使用した、そ
ういう情報をネリスは得たことがなかった。

(さて、機体構成では有利、あとはどれだけあいつがやるかどうか)

「よし、出撃するよ!輸送機は予定箇所で待機しておきな!」

「了解しました」

 ネリスの部下たちは慌しく移動の準備を始める中、ネリスは杖をつきながらバッカニアへと向かっていく。

PA‐N51地上……
 豪雪地帯のPAN51エリアは一面雪で覆われており、展開の始まったECMと激しい吹雪の中、
アルゼブラ側に立つネクストが二機行動を開始した。

「こちらバッカニア、援護だけでいいのかい?」

「貴様など上の命令がなければ不要な存在だ。せいぜい巻き添えで死なないように気をつけるのだな」

 声を聞いた誰もが解るほどイルビスの声に怒りが込められている。アルゼブラを信望する彼にとって、
金次第でアルゼブラの敵にも味方にもなる独立傭兵は嫌悪の対象なのだろう。

「それなら楽をさせてもらうよ」

 だが彼とてアルゼブラに所属する者の一人、上層部によって派遣されたネリスを攻撃するわけには行かなかった。

「GAの犬が、バラバラに引き裂いてくれるわ!」

 イルビス・オーンスタインという男はGAという言葉に過剰に反応する。アルゼブラを狂信的に
信望する故、アルゼブラと敵対しているGAは彼にとって憎悪の対象なのだ。イルビスの駆るネク
スト マロースはOBを起動させ、吹雪とECMに紛れ出撃していった。

「アルゼブラの狂犬が…。オペレーター、相手の武装わかったかい」

 ネリスはバッカニアを廃ビルの間をゆっくりと進ませる。依頼を遂行する為に焦る必要もないのだ。

「アンビエント武装に変更ありません。タンク型、両腕にGAN01‐SS‐WGP、背部BFF
レーダーの050ANNRと同社製061ANSC、肩部BFF製ECM051ANEM、格納については不明です」

「重装備できたかい。上出来だね」

(セレンのリンクスが負けたら、最悪私が)

 ネリスが考え事をしているとバッカニアの右肩装甲をオレンジ色のレーザーが焼いた。吹雪と高
ECM下の中、バッカニアの位置を特定しアンビエントはレーザーライフルの照準をバッカニアに合わせていた。

「リリウム…、やるようになったわね」

 ネリスはSQBですぐ真横の廃ビルの陰にバッカニアを滑り込ませた。バッカニアの使用してい
るホバータンク型脚部RIGEL、MBを装備しないことで前方や上昇に関しては弱いが、同型
のSBを使用した場合他の脚部より遥かに機動性が勝っている。アンビエントの照準から逃れると
吹雪の中へ、廃ビルの間を高速で移動し数秒でアンビエントの索敵範囲から逃れる。
PA‐N
51に発信されているECMの解析パターンはバッカニアにも記録されている。それ故にアルゼブ
ラ側についているネリスのレーダーにははっきりと2機の動きが映っている。アンビエントの探索
を逃れるようにバッカニアは吹雪とECMに紛れ、有視界確認可能な距離までマロースの交戦して
いる位置まで移動。到着して最初にネリスが視認したのは激しいマズル・フラッシュだった。アル
ゼブラ製グレネードの爆発炎に紛れてはいるが、吹雪の中を照らす連続したマズル・フラッシュと
発射音がリンクスの位置を正確に教えている。

「あれじゃ良い的ね。霞は何を教えていたのかしら?」

 視界の悪い場所で自らの場所を相手に知られる行為より愚かなことはない。この状態では機動力
で勝るマロースにセレンのリンクスが一方的に撃破される可能性があった。セレンのリンクスと比
べてアンビエントを駆るリリウムは優秀といえる。先ほども随行型ECMを使用しながら無駄な発
砲を控え、自らの位置を隠しながら襲ってきた。むろんPA‐N51のダイヤモンドダストともい
える吹雪に慣れたマロースの現在の動きには遠く及ばないのだが、ほとんど的と化しているリンク
スと比べて遥かにましと言えるだろう。
 ネリスが状況を確認しているとレーダーにネクストの反応が映りロックオン警報が鳴り響く。

「あら、予想していたより早いわね」

 左SQBを点火しバッカニアを後方に滑らせるとミサイルが連続して地面に接触し爆発、地面
に着弾することから空中から撃ち出したのだろう。ネリスは冷静にそう分析しながらMQBを続け
て点火、交戦中のマロースとネンク型ネクストのすぐ近くを通り抜けていく。

「マロースの弾薬さえ充分に消費してくれればいいけど。まぁ死んでもその程度の男に用はないし」

 ネリスは高速で流れていく情景からイルビスとリンクスの戦況を読み取り、上空から降り注ぐア
ンビエントのミサイルを回避し廃ビルの影に隠れる。

「アンビエントも吹雪の中をよく動く。だけど…まだだめね」

 バッカニアは吹雪と廃ビル群を利用し、カメラアイとFCSを巧みにだます事で回避を続けていた。
アンビエントは吹雪の中空中を舞うことで視界を広げ、バッカニアを追っているが廃ビルの間を高
速で駆け抜けるバッカニアを正確に視認することは出来ないでいた。

「こっちよ?」

 廃ビルの影からSQBで飛び出すとA12‐OPSの照準をアンビエントに合わせ照射、青い
二条のレーザーはアンビエントの左サイドから迫っていく。直撃するかと思われた二条のレーザー
光にアンビエントは即座に反応しBQBで回避、QBTを行いながら063ANNRを向けるがバ
ッカニアは吹雪と廃ビルの中に隠れてしまう。ネクストACは確かに優秀だが、国家解体戦争の戦
力差は100対1どころではなかった。過剰なまでの弾幕全てをPAだけでは受け止めきれず、遮
蔽物を利用した回避やECMを利用したかく乱によってPAを回復させ、圧倒的な物量差を覆して
いったのだ。詳細なPAN‐51の立地情報とECMによる戦術情報の優位さと揃っていれば、ネ
リス いやメアリー・シェリーにとってアンビエントの裏をかくことは容易だった。

「どうにかなりそうだけど、問題はあちらね」

 廃ビルの間に隠れながらメアリーはリンクスの駆るタンク型ネクストの様子を確認し、再度アン
ビエントのかく乱と回避に専念する。

 その頃タンク型ネクストを駆るリンクスはマロースに損傷をほとんど与えられず、吹雪とECM
の中を縦横無尽に疾駆するマロースに翻弄されていた。しかし、機体構成は対実弾性に優れている
GAと有澤のみ、致命的な損傷を負ってまではいない。

「BFFからの通信だ、周囲の建物を全て破壊しろ。マロースとバッカニアの隠れる場所を無くしてしまえ!」

「すでに破壊済みです。他に命令はありますか?」

 自らの位置を曝け出していた無駄な射撃の狙いは周囲の廃ビルだった。すでにガトリングが届く
範囲の廃ビルはなぎ払われており、吹雪の中なのだが視界が随分と開けている。

「おまえ・・・、所属を言って見ろ」

「カラード所属、ランクは31 以上です」

「・・・まぁいい、戦闘を継続しろ」

 リンクスの言葉に違和感を感じたセレンは、またフラッシュバックによる異常が起きたのではと
思ったのだが、抑揚こそ欠いているもののいつもの変わらぬ回答だった。

「装甲が限界です。次の指示をお願いします」

 物理的な攻撃に対して強固な装甲を持つGA製といっても、直撃を繰り返したアルゼブラ製グレ
ネード SAPLAのダメージは大きく損傷率は61%を超えていた。

「アンビエントからの連絡はそれだけではない。情報を送るから準備をしておけ」

「了解しました」

 リンクスは肩部に装着してあったECMを設置し吹雪の中機体を後退させる。

「退くことを許すと思うのか!」

 射程範囲外へと逃れようとするがイルビスがそう簡単に逃がすわけもなく、空中から追撃のMP
‐0200Iの照準を合わせる。その時PAを貫いたレーザーがマロースのMP‐0200に損傷
を与え、統合制御体からイルビスへと爆発の危険を伝えられた。イルビスはすぐにパージの命令を
下すと背部の接続ユニットから切り離され地面へと落下、地面にぶつかると同時に激しい爆発が起
こり残弾が周囲に飛び散っていった。

「あなたの相手はこちらです」

 いままでバッカニアと交戦していたはずのアンビエントはECM使用し、いつの間にかマロース
機から300の距離まで接近していた。

「ネリス!そちらで逃げた奴を追っておけ!」

「了解だよ」

 バッカニアはタンク型ネクストの消えた方向へと向かっていく。

「ここで良いのですか?」

 車体をロックした状態のままリンクスはECM発生装置の設置数を増やし、吹雪と高濃度ECM
の中に機体を隠していた。

「指定場所はそこだ。静かに待て」

 両腕のガトリングを捨てると格納庫から大振りなライフルを二丁取り出す。

「随分と指定が多い任務ですが、何か裏でもあるのでしょうか?」

「確認済みだが問題はない。是が非でもマロースを沈めたいということだ。もはや手段を選ばずにな」

「手段を選ばず…ですか。つまり私以外にも何か用意されている訳ですね」

「すぐにでもそのことはわかる。いまは静かに待て」

「了解」

ECMと吹雪の中、PAさえも切ったタンク型ネクストは静かに身を潜める。

 マロースと銃撃戦を繰り広げていたアンビエントは徐々に劣勢に追い込まれ、後方に下がりなが
ら063ANARと067ANLRを連射、しかしマロースは吹雪の中にうまく紛れ込み、063
のカメラアイをもってしても正確な照準は行えておらず直撃にはいたっていない。一方で連続して
襲ってくる銃弾はアンビエントのPAを減衰させ装甲板から火花を上げて接触していた。前衛仕様
の063ANは充分にその攻撃に耐えてはいるが、前衛といっても近距離から中距離の間程度を考
慮されている。近距離での指し合いとなるとマロースの方が上手だった。2分近い攻防は終始マロ
ースが圧倒し、その巧みな銃撃によって動きの制約を受けたアンビエントは廃ビルに背中からぶつ
かって動きを止めてしまう。
 減衰したPAに消滅させるため撃ち込まれ続けるLABIATA、それも射撃軸を悟られないよ
う空中を移動しつつなのだが、激しくなっていく吹雪の中正確に撃ち込んでいく。そして止めとば
かりにSAPLAの照準がアンビエントに合わせられる。

「GA犬に尻尾を振るメス犬が死に失せるがいい!」

 一発目が発射されアンビエントを爆発と衝撃が襲った直後、衝撃がマロースのコックピットを襲った。
統合制御体は銃弾がPAを貫き、コアに損傷を負ったことを伝えている。だがこの吹雪の中正確に
狙うのは並大抵の技術では不可能なもの。オリジナルのメアリー・シェリーや霞スミカならまだし
もストレイドがこのような高等技術を持っているはずもなく、マロースは油断しきっていた。
 2機の戦闘位置から離れた場所で二丁の061ABSRの銃身に触れた雪が蒸発し白煙を上げて
いた。薬莢が輩出され地面に落下、積もり始めていた雪を溶かしていく。

「一発外したか・・・、メインは外すな」

「弾道情報解析中、完了まで3秒」

 二丁の061ABSRを地面に下げると上半身を前傾状態に変更、BFF製大型スナイパーキャ
ノン 061ANSCがゆっくりと展開され、砲身と基部を接続し強烈な反動をもたらす発射の衝
撃に備える。統合制御体から送られてくる情報はFCSと視覚情報を調整し、視界がないに等しい
状態にもかかわらずマロースの姿を擬似的に映し出していた。

「情報解析良好、遮蔽物なし。第二射撃ちます」

 強烈な発砲音と共に積もった雪を一瞬で溶かしつくすマズル・フラッシュが吹雪を切り裂く。

「狙撃だと!どこからだ!」

 イルビスは狙撃によってコアにダメージを負った事を理解し、敵の攻撃を防ぎながら位置を確認
しようとマロースが降下を始めた。だがその時すでに吹雪を突き破りマロースのコア目掛けて撃ち
出された砲弾は目標へと迫っていた。廃ビルの影に入ろうとする直前今度は激しい衝撃が機体を襲う。

「馬鹿な…。この吹雪の中あの距離で狙って当てる…だと」

 直撃と同時にレーダーとカメラアイが確認した位置はマロースから1300ほど離れた場所だった。
 リリウムは当初から吹雪下で戦うことを考慮し、作戦開始前からリンクスのネクストの持つBF
Fレーダーとデータ連動を行っていた。BFFの指揮官用高性能レーダーの連動機能と解析能力を
フルに利用。位置解析能力も対ECM能力も上がり、二点測量によってマロースの位置を正確に計
測することが出来るがそれだけではない。セレンから送られてくるもう一点からの位置情報と照ら
し合わせ、三点測量によって高度から移動速度まで正確に算出されていた。
最後に直
線に開けた廃ビルの間、待機していたタンク型ネクストの射撃ラインにリリウムは自らを囮として
マロースを誘っていたのだ。MQBとSQBで吹雪の中にマロースを隠すとイルビスは激しい怒り
に襲われながらも戦況を冷静に分析していた。

「GAの分際で私を退けるとは!この屈辱は覚えておくぞ!」

 マロースは高度まで一気に跳躍し、OBを点火し領域離脱を図ろうとする。イルビスにとって尻
尾を巻いて逃げることは反吐が出るほど腹の立つことだが、死んで返せる借りはないのだ。

「離脱する!ネリス援護しろ!」

 だが、返答の変わりに返って来たのは二条の蒼いレーザーだった。レーザーはOBユニットを破
壊し起動不可能な状態に陥る。マロースは頭部とカメラアイを攻撃元へと向けるとそこに居たのは
バッカニアだった。

「ネリス貴様!大アルゼブラを敵に回す気か!」

「アルゼブラの狂犬、あなたはGAに損害を与えすぎたのよ。あぁ、狂犬よりもボリスビッチの小兵といってあげたほうがいいかしら?」

 今は亡きイクバールのAC バガモールのリンクス ボリスビッチ、イルビスにとって元主であり
イクバール時代の消し去りたい過去だった。

「ボリスビッチの小兵だと…、貴様何を知っている!」

 再度照射されたレーザーはサイドブースターを抉り、空中で自在に舞う力さえ奪いとる。

「さようなら、イクバールの坊や」

「この精密射撃…、貴様死んだはずの」

 彼の過去を知った上で精密射撃を行えるリンクス、イルビスの中で思い当たる人物はリンクス戦
争中に死んだはずの人物しか居なかった。

「お喋りしている余裕はあるのかしら?敵はすぐ近くにいるのよ?」

 空中で機動性を失ったマロースのコアにアンビエントは照準を合わせる。

「これで御終いです!」

 一瞬の間をおいて撃ち出されたレーザーとライフル弾がマロースのコアを貫いた。マロースは雪
上に落下、各部から炎とコジマ粒子を噴出しながら動きを止めた。ほんの僅かに置かれた間、それ
はリリウムがイルビスを、人を殺すことを躊躇った故に生じたものだ。
マロースが
撃破されたことでPA‐N51に駐留するアルゼブラ部隊は混乱状態に陥っていた。単独で撤退して
いくノーマルACや無謀にもアンビエントに向かっていくノーマルACの動きがバッカニアのレーダ
ーに映し出されていた。アンビエントの動きを確認していたバッカニアや廃ビル群の間を縫うように
抜け、PA‐N51圏内から離脱を始めていた。

「リリウム、殺す事を躊躇するようじゃフランシスカにはまだ及ばないわね」

 廃ビル群を抜けたバッカニアはOBを起動させ、自らの部下たちが待機している戦域外へと離脱していった。

「任務完了だ。回収部隊と輸送機を回す。予定ポイントに移動しろ」

「了解ですが、質問があります」

 リンクスは投棄していたガトリングを脚部上面に置き、統合制御体に送られてきた回収ポイントに向かい始める。

「手短にしろ。お前と違って戦闘後の提出書類が多い」

「あの位置情報はどこから得たのですか?」

 マロースを狙撃するために必要だった正確な位置情報、それは戦闘エリアに存在している何かし
らの情報網を使わなければ得られるものではないからだ。だが、味方はアンビエントのみ、もう
一点から得られた位置情報だけは不明だった。

「バッカニアからだ」

「…用意されていた別の手段とはバッカニアだったということですか」

 リンクスにとって予測範疇の答えだった。ECMを展開していたとしても相手はPA‐N51の
立地条件を把握している。それにもかかわらず易々と完全な狙撃体制を取る事を許し、妨害をする
どころか無接触だったのだ。疑問に感じないほうが無理がある。

「先に用意されていたのはバッカニアだ。保険として用意されたのがお前だ。それ故に支援といっ
たのだ。まぁ支援としては及第点をやる。だが、損傷率とマロースとの交戦は論外だ。訓練プラン
を練っておくから覚悟しておけ」

 セレンはそれだけ応えると通信を切る。リンクスは静かになったコックピット内制御を統合制御
体による完全自動制御に切り替え、リンクス用の痛み止めを飲み干すと光の消えたコックピット内で静かに目を瞑った。


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today:1
yesterday:0
total:880

コメント返し(コメントありがとうございます

•AAによる攻撃相殺効果、意外と使ってる人も多いんだろうけど小説ではあまり見ない気もするだけに、おおwと思わず感嘆の声が出てしまった。単発攻撃の有澤相手には確かに有効ですよね。しかしアリーヤから重量機とは、これまた思い切ったことを・・・。しかも乗りこなせるからすごい、特性とかかなり違うはずなのになぁ。
>何事も基本が大事、基本があれば極端な変更または癖が強くなければある程度はどうにかなるものではないかと。幸い重量が増してもカテゴリーは重2脚型ですしね

•人の視点がいきなり変わる時はもうちょっと区切りを大きくするとかしないと、ちょっとわかりづらいかも。たとえばAMIDAリンクス(?)の視点からメイ&主人公視点に戻ったときの区切りがわかりにくい。あとAMIDAリンクス(?)の名前をだしてしっかり強調しないと主人公の「リンクス」と区別がつきにくいと思う。あと、上から3行目「一月」になってるけど「一ヶ月」の間違いじゃないかな・・・?w 話としては面白かったですw
•あと、初期のほうと比べて会話が増えてるから面白みが初期と比べてかなりおもしろくなってる。読みやすくもなってはいるから、これからも頑張ってくださいw
>UPしてしまったものは大幅に書き直すわけにもいかないので、こまごましたところで手を加えては見ました。ご指摘ありがとうございます。
これからも精進がんばっていきます。

•それはひとつきと読むんじゃないか?w分かりにくいけどさ。 -- 2010-08-12 (木) 19:28:33
>一月「ひとつき」のつもりでしたが、一ヶ月のほうが解り易いのでそのように修正しました


移植元コメント

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