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[[小説/長編]] #setlinebreak Written by えむ ---- ORCAから全世界へと一つの声明文が放たれた。 簡潔明快なその声明文が、クレイドルに住む人間へと向けられているのは、誰もがわかることであり、クレイドルに暮らす者にとって、それはあまりにも衝撃的な宣戦布告であった。 そして、そのORCAからの宣戦布告から1時間あまり後のこと。カラードでは、リンクスによる『お茶会』が開かれていた。 その主な話題は言うまでもない。ORCAと今後の動向についてだ。 「『To nobles Welcom to the earth(貴族の諸君。ようこそ、地球へ)』か。実にわかりやすいじゃないか」 最初に口を開いたのはインテリオルのトップリンクスである、ウィン・D・ファンションだった。軽口を叩いているようにも聞こえるが、その声は刺のあるものだ。 「これは明らかにクレイドル。ひいては企業連への宣戦布告だ」 王小龍の言葉に続き、リリウム・ウォルコットが今後の企業側の動きについて説明を入れる。 「この布告に伴い、企業連はカラードの業務を一時凍結。所属する企業および独立傭兵のリンクスは全て、対ORCAのための作戦に投入されることになります」 「総力を挙げてORCAを潰しに掛かるわけか」 「そういうことになる。何か意見はあるかね?」 王小龍がその場を見回す。すると、ローディが静かに口を開いた。 「ラインアークのリンクスは?」 「それに関しては、当方からORCAの宣戦布告後にすぐ通達がありました。ラインアークは、状況が許す限りフォートネクストの出撃要請に答えるそうです」 ローディの問いに、リリウムが答える。 「状況が許す限り…か。いや、それ以前に布告後すぐに…と言うのが気になるな」 「すでにこうなる事態を予測でもしていたか」 「かもしれん。ただ、現段階でラインアークが何を考えているかはわからん。そして駒として使えるのなら使わない手はない。仮にORCAとつながりがあったとしても、その時はその報いを与えるだけだ」 誰も返答はない。王小龍は話を進める。 「近いうちに、作戦についての連絡があるだろう。以上だ」 その言葉を持って『お茶会』は解散となった。 接続をカットし、現実へと意識が戻ってくる。王小龍は軽く首を振り、すぐにモニター画面に表示された資料へと視線を向ける。 主な内容は、アルテリア施設の被害報告と襲撃したネクストについての情報だ。それらに目を通している間にも、新しい情報が次々と入ってくる。一つ一つに目を通していくなか、少しばかり注意を引く物もいくつかあった。 その一つはORCAの宣戦布告直後から、北アフリカを拠点としているコルセールが何やら動きをみせ始めていると言う物だ。 コルセールについては王小龍も多少は知っている。アルゼブラのバーラット部隊、BFFのサイレント・アヴァランチに並ぶとも言われる、練度の高い独立傭兵部隊。さらに唯一ネクストを保有していることでも有名だ。 「…動向は見守る必要があるか」 傭兵部隊と言うだけあって、依頼があれば、どこについてもおかしくはない集団だ。ORCAに雇われれば、ORCAにだってつくだろう。そうなれば、それはそれで面倒なことになる。少しでも敵は少ない方がいい。最も、そうと決まったわけでもないが……動きをみせるタイミングのよさから、何かあるのは間違いない。 だがORCAとの戦いを前に貴重な戦力を割くわけにもいかない。さしあたって「監視」をつけることにし、王小龍は次のデータへと目を向けるのであった。 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ さて、ORCAの宣戦布告から数日が過ぎていた。まさに嵐の前の静けさとも言うのか、企業もORCAも大きな動きを見せることはなく、緊張した空気を漂わせつつも、ある意味では平穏とも言える日々だ。 そして、その数日の間に。レックスはさらに自分のスタイルを磨くべく、訓練と機体構成の見直しを重点的に行っていた。 「それでコアをARGYROS/Cに換装して、FRSも整波性能を優先的に全振りしようかと。残りはKP出力と旋回。あと腕部の運動性能と照準精度…かな」 「徹底的に狙うことと耐えることに特化させるわけか」 「さすがに次からは完全に足を止めずに戦うけどね。それでも回避は捨てたも当然の機動だろうけど」 構成変更に伴うステータスをチェックしながら、レックスが答える。 「これに背部用の追加整波装置も乗っければ、相当硬くなると思うんだ。まぁ、その辺は状況にあわせて使い分けることにはなるけど」 「あの戦い方なら、硬さを突き詰めて損はしないだろう。最も、あそこまでいくとネクストである必要があるかとは思うが」 「旋回にクイックブースト使うこと除けば、ほんとど通常ブーストしか使わないからね。まぁ、元々ノーマル乗りなわけだし。こちらとしては動かしやすくていいんだけど」 ほとんどのネクストの長所を丸投げするつもりなレックスに、セレンはただため息をつくしかなかった。だがシミュレーターの訓練を見てみると、確実に戦績が上がってきているのは紛れもない事実だった。なんせ、AI制御とはいえ、ホワイト・グリント相手にAPギリギリではあるが勝ち始めたのだから。 「あとはジェネレーターとかブースター周りかな。この辺も突き詰めていく必要はあると思うけど…」 「それなら――――」 さらに内装関連へと話し合いは進展していく。 そうやって、あーだこーだと互いに意見をぶつけあっていると、『彼』とフィオナ・イェルネフェルトの二人がやってきた。 「レックス、ちょっといいかな?」 「ん?何か?」 AXSISの画面から目を離し、レックスが向き直る。 「……君のプランに関することだ」 その一言にレックスの表情が引きしまる。 「企業がORCAと戦っている間は良い。だが、その後のことで聞きたい。君は、ブロック・セラノを含め俺達に言ったな。『状況次第では、企業とも敵対することになるかもしれない』と」 そう告げる『彼』の脳裏に過ぎったのは、レックスがラインアークへと所属する際に話した『策』――プランについて聞いた時のことだった。 とりあえずは、クレイドルを守ることを最優先とする。それと同時に、企業が動かざるを得ない材料を見つけ、それを武器に企業と交渉・現状を打破するように促す。それがレックスの提示したプランのおおまかな流れであった。 その説明の際にレックスは企業と再び戦うことになる可能性も告げたのだ。その際にはラインアークは守ると宣言した上で。 「企業を敵に回すことになったとして、その時にラインアークを守りきれると思うか? 正直に答えて欲しい」 「後手に回ったら、きっと僕じゃ守りきれないと思います」 『彼』の問いに、レックスは正直に答えた。こう言っては何だが、機動力に欠ける以上…広範囲を防衛するような状況になると、どうしても足の遅さがネックとなって不利になってしまう可能性がある。 「それに陽動などを仕掛けられた場合。間に合わない可能性もある」 「……だろうな」 場合によってはラインアークを危うくしてしまう可能性もあるプランの内容。だがその事実を責めるわけでもなく、予想していたとおりだとばかりに、一言そうとだけ答えるだけだった。 「君の事だ。そういう事態も想定して、手は打っているのだろう?」 「一応は。ただ、完璧な計画と言うのは不可能だから…」 それでも穴を突かれる可能性は否めない。もっとも、そうなるのはもう少し先になるだろうが。 「予期せぬ事態と言うのは、戦場に置いて良くあることだ。とりあえず、俺が聞きたかったのはそれだけだ。邪魔をしたな」 そう告げて、『彼』はその場を後にした。そして、押し黙ったまま通路を歩いていく。しばらくの間、沈黙が続いていたが。やがて意を決したかのように、一緒に歩いていたフィオナが口を開いた。 「ねぇ、何を考えているの?」 「…………………」 『彼』は答えない。だが、それにも構わず、さらにフィオナは言葉を続ける。 「彼にだけ任せていいのだろうか。何か出来ることはあるんじゃないかって、そう考えているんじゃない?」 「………」 「そして、その場合。あなたが出来ることと言えば戦うことだけ。――乗るつもりなの?」 「………っ」 心の奥底を見透かされたかのような一言に、思わず足を止めてしまう。だが、その言葉を否定することはできなかった。 「これでも付き合いは長いんだから。あなたの考えていることなんて、想像はつくの。でも、お願いだからやめて。今のあなたの状態じゃ、もうホワイト・グリントの負荷には耐えられないわ」 「わかっている。…今のまま乗ったとしても、負荷が大きすぎてネクストを動かすことは出来ない。ただ――」 「……ただ?」 「方法がないわけじゃないと気づいた」 それに気づいたのは本当に偶然だった。だが、その方法ならAMSの負担を軽減できることは明らかだ。 そう呟く『彼』を見て、フィオナはため息をついた。 昔から、『彼』はそうだった。守るためになら、どんな無茶をしてでも守ろうと動く、そんな人なのだ。そのことは傍にいた自分が、誰よりも知っている。 「…本当はもう戦ってほしく…ないのだけど」 前にもこんなやりとりがあったな…。あれは確か……ラインアークに流れてきて、守護者としてホワイト・グリントに乗ることになった時だったか。そんなことを考えつつ、フィオナは静かに言葉を続ける。 「約束して。本当に……。本当に必要な時にしか、乗らないって」 「……フィオナ?」 「……あなたのことだから。皆が本当に危なくなった時、きっと死ぬとわかってても無理に出ようとしちゃうだろうから。それなら、その時に無事に戻ってこれるように、今から備えた方がいい。でもだから…約束して。……約束してくれたら、また私もあなたを助けるから」 『彼』もまた、以前に同じようなやり取りがあったことを思い出していた。リンクスとして、再び戦場に出ることを決めた時に、コレに近いやり取りをかわしたことを。 ―――その時、なんと答えたか 「……約束するよフィオナ。……すまない」 そう答え、『彼』はフィオナにそっと顔を近づけるのだった。 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 「オールドキングが?」 『そうだ。奴さん、何を考えたのか勝手に持ち場を離れてしまったのだよ』 ORCA旅団の拠点であるビッグボックス。その留守を預かっている身でもあったメルツェルは、仲間であるネオニダスからの通信に、珍しく焦燥を露にしていた。 当初の予定では、ネオニダスの月輪と共闘で重要拠点の一つである、衛星軌道掃射砲エーレンベルグの防衛をさせる予定だった。だが、不意にそれを放棄し姿をくらましてしまった。 「こうなる事態も考えてはいたが、こうも早いとは…」 彼は、かつて反体制武装勢力であるリリアナを率いたリンクスだ。今はORCAに身を置いていたが、それでも他の団員とは常に一定の距離を保ったままであり、何を考えているか。メルツェル自身ですら読めないことのある得体の知れない男。それだけに危険な物を感じ、密かに注意を払っていたのだが。 このタイミングで離脱してしまうとは考えもしなかった。いや、むしろORCAに来て以来、大人しかったせいで判断を誤ったか。いずれにしても、このままにしておくわけにはいかない。 オールドキングが何をしようとしているか。そこから考える。 彼にクローズ・プランの全ては話していない。よってアルテリアの襲撃は、クレイドルを落すための物としか知らないはずだ。そして、彼の興味はクレイドルを落すことに向けられているのは間違いない。仮にもアルテリア施設の襲撃にはしたがってくれたのだから。 となればクレイドルに襲撃を仕掛けることは、ほぼ間違いない。あとは―――どのクレイドルを狙うか。 地図を開く。エーレンベルグの位置を中心に、最も近いリリアナの拠点を表示。さらにそこからクレイドルの飛ぶ高度へ向かうことの出来る輸送機などがある基地施設などをまとめて表示させ、そこに各クレイドルの進行ルートを重ねる。 「…………………」 さらに移動時間なども考慮し、狙われるであろうクレイドルを絞っていく。やがて一つのクレイドルが条件と合致する。 クレイドル03。人口1億人を有する、数機のクレイドルで構成されたグループだ。 オールドキングが狙いそうな目標はわかった。あとは、この危機をどうするかだ。ORCAの団員を送るのはダメだ。この局面に置いて、戦力を割くのは危険すぎる。 となれば残る手段は一つ。企業側でなんとかしてもらうしかない。状況が状況なだけに、悠長なことをしている暇もない。 通信を繋ぐ。だがそれは直接ではない。数箇所を経由し、発信源を特定されぬよう慎重に用意された特別なものだ。 そして、「内通者」を装って、情報をリークする。ORCAがクレイドル03を襲撃しようとしていると。 本当ならばオールドキングの独断であり、ORCA側としては本位ではないのだが。それを説明したとしても相手は聞く耳を持たないだろう。それなら、悪役としての汚名を被る他ない。クレイドルを地上に降ろそうとしている時点で、汚名を受けているのだから。 「あとはカラードのリンクスを信じるしかない」 ―――オールドキングの暴挙を必ず止めてくれると。 To Be Countinue…… ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); ---- **移設元コメント [#zf972207] -「彼」が再び戦場に・・・。楽しみであると同時に心配です。果たして、いかなる手段で負荷を軽減するのだろう?ともあれ、レックス君、防衛頑張って! -- 2010-07-27 (火) 23:58:42 -コルセールの動向が気になりますね。次も楽しみにしてます。 -- 2010-07-28 (水) 00:04:02 -彼がどういった方法を思いついたのか、そしてオールドキング戦はどうなるのか…楽しみだな -- 2010-07-28 (水) 06:46:48 -コルセールの動きはやはり、レックス君の策によるものかな?しかし、オールドキングか~最初のクレイドルで殲滅できなくては勝ち目はないかな… -- 2010-07-29 (木) 15:36:55 -タンクでリザを相手にするのは厳しそうですがとくに相手の間合いに入ったら致命的 -- 2010-07-29 (木) 23:46:09 -コルセールの伏線がすごく気になる・・・古王とレックスが戦ったらどうなるんだろう。火力の差的に考えてやられはしないだろうけど・・・レックスがんばれ! -- ライサンダーF? 2010-08-02 (月) 15:45:00 ---- ☆作者の一言コーナー☆ えむです。 CHAPTER3も終了し、ついに次回からCHAPTER4へ突入。ゴールも少しずつ見えてきました。 そして立てるフラグ。この小説は、勢いとノリとその時の思いつきが9割を占めています。自分が面白いだろうと思ったら、以前言ってたことなんて投げ捨てで突き進む。それがえむ’sクオリティ。後悔は今後もしません。 ではコメント返信を。 >……、私的にはジェラルドとエメリーの絡みが欲しかったなぁ >ジェラルド・ジュリアスの絡みは確かに欲しかったかな。 忘れていました、ごめんなさいorz >これぞ伝統のガチタンスタイル・・・! >さすがガチタンだ!何ともないぜ!ってか。 >まさにガチタン…ここにタンク乗りの鏡ともいえる漢がいる…!! 感激だ!! こんなネクストがいてもいい。そう思いはじめました。 >…それと作者にちょっと質問。両背両腕両格納の全てにグレという夢の浪漫装備はもうやらないの? 予定はあります。しかもVerUPさせての最強状態として(ぇ 今後を楽しみにしててくださいねw >カーパルス防衛を受ける経緯だなかったのが少し残念に思える。前回にカーパルス防衛の依頼が来ただけでしたし ……そっちも完全に失念してました、本当にごめんなさいorz >よかったけど、もう少し時間をかけて書いてもよかったんじゃないかな? 時間はいつもよりかかっていたりしますが、返す言葉もありませんorz 以上、コメントレスでした。 なんか色々すっぽ抜けてたのに、コメントで言われるまで気づかなかったと言う…。 物書きとして、まだまだ精進が必要なようです。と同時に今回のご指摘もバネにがんばっていきたいと思うので、生暖かくでも見守っていただければ幸いです。 さて次回は、タンクで挑むクレイドル03防衛。一体どうなることやら…。 ---- **コメント [#e6df3328] #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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[[小説/長編]] #setlinebreak Written by えむ ---- ORCAから全世界へと一つの声明文が放たれた。 簡潔明快なその声明文が、クレイドルに住む人間へと向けられているのは、誰もがわかることであり、クレイドルに暮らす者にとって、それはあまりにも衝撃的な宣戦布告であった。 そして、そのORCAからの宣戦布告から1時間あまり後のこと。カラードでは、リンクスによる『お茶会』が開かれていた。 その主な話題は言うまでもない。ORCAと今後の動向についてだ。 「『To nobles Welcom to the earth(貴族の諸君。ようこそ、地球へ)』か。実にわかりやすいじゃないか」 最初に口を開いたのはインテリオルのトップリンクスである、ウィン・D・ファンションだった。軽口を叩いているようにも聞こえるが、その声は刺のあるものだ。 「これは明らかにクレイドル。ひいては企業連への宣戦布告だ」 王小龍の言葉に続き、リリウム・ウォルコットが今後の企業側の動きについて説明を入れる。 「この布告に伴い、企業連はカラードの業務を一時凍結。所属する企業および独立傭兵のリンクスは全て、対ORCAのための作戦に投入されることになります」 「総力を挙げてORCAを潰しに掛かるわけか」 「そういうことになる。何か意見はあるかね?」 王小龍がその場を見回す。すると、ローディが静かに口を開いた。 「ラインアークのリンクスは?」 「それに関しては、当方からORCAの宣戦布告後にすぐ通達がありました。ラインアークは、状況が許す限りフォートネクストの出撃要請に答えるそうです」 ローディの問いに、リリウムが答える。 「状況が許す限り…か。いや、それ以前に布告後すぐに…と言うのが気になるな」 「すでにこうなる事態を予測でもしていたか」 「かもしれん。ただ、現段階でラインアークが何を考えているかはわからん。そして駒として使えるのなら使わない手はない。仮にORCAとつながりがあったとしても、その時はその報いを与えるだけだ」 誰も返答はない。王小龍は話を進める。 「近いうちに、作戦についての連絡があるだろう。以上だ」 その言葉を持って『お茶会』は解散となった。 接続をカットし、現実へと意識が戻ってくる。王小龍は軽く首を振り、すぐにモニター画面に表示された資料へと視線を向ける。 主な内容は、アルテリア施設の被害報告と襲撃したネクストについての情報だ。それらに目を通している間にも、新しい情報が次々と入ってくる。一つ一つに目を通していくなか、少しばかり注意を引く物もいくつかあった。 その一つはORCAの宣戦布告直後から、北アフリカを拠点としているコルセールが何やら動きをみせ始めていると言う物だ。 コルセールについては王小龍も多少は知っている。アルゼブラのバーラット部隊、BFFのサイレント・アヴァランチに並ぶとも言われる、練度の高い独立傭兵部隊。さらに唯一ネクストを保有していることでも有名だ。 「…動向は見守る必要があるか」 傭兵部隊と言うだけあって、依頼があれば、どこについてもおかしくはない集団だ。ORCAに雇われれば、ORCAにだってつくだろう。そうなれば、それはそれで面倒なことになる。少しでも敵は少ない方がいい。最も、そうと決まったわけでもないが……動きをみせるタイミングのよさから、何かあるのは間違いない。 だがORCAとの戦いを前に貴重な戦力を割くわけにもいかない。さしあたって「監視」をつけることにし、王小龍は次のデータへと目を向けるのであった。 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ さて、ORCAの宣戦布告から数日が過ぎていた。まさに嵐の前の静けさとも言うのか、企業もORCAも大きな動きを見せることはなく、緊張した空気を漂わせつつも、ある意味では平穏とも言える日々だ。 そして、その数日の間に。レックスはさらに自分のスタイルを磨くべく、訓練と機体構成の見直しを重点的に行っていた。 「それでコアをARGYROS/Cに換装して、FRSも整波性能を優先的に全振りしようかと。残りはKP出力と旋回。あと腕部の運動性能と照準精度…かな」 「徹底的に狙うことと耐えることに特化させるわけか」 「さすがに次からは完全に足を止めずに戦うけどね。それでも回避は捨てたも当然の機動だろうけど」 構成変更に伴うステータスをチェックしながら、レックスが答える。 「これに背部用の追加整波装置も乗っければ、相当硬くなると思うんだ。まぁ、その辺は状況にあわせて使い分けることにはなるけど」 「あの戦い方なら、硬さを突き詰めて損はしないだろう。最も、あそこまでいくとネクストである必要があるかとは思うが」 「旋回にクイックブースト使うこと除けば、ほんとど通常ブーストしか使わないからね。まぁ、元々ノーマル乗りなわけだし。こちらとしては動かしやすくていいんだけど」 ほとんどのネクストの長所を丸投げするつもりなレックスに、セレンはただため息をつくしかなかった。だがシミュレーターの訓練を見てみると、確実に戦績が上がってきているのは紛れもない事実だった。なんせ、AI制御とはいえ、ホワイト・グリント相手にAPギリギリではあるが勝ち始めたのだから。 「あとはジェネレーターとかブースター周りかな。この辺も突き詰めていく必要はあると思うけど…」 「それなら――――」 さらに内装関連へと話し合いは進展していく。 そうやって、あーだこーだと互いに意見をぶつけあっていると、『彼』とフィオナ・イェルネフェルトの二人がやってきた。 「レックス、ちょっといいかな?」 「ん?何か?」 AXSISの画面から目を離し、レックスが向き直る。 「……君のプランに関することだ」 その一言にレックスの表情が引きしまる。 「企業がORCAと戦っている間は良い。だが、その後のことで聞きたい。君は、ブロック・セラノを含め俺達に言ったな。『状況次第では、企業とも敵対することになるかもしれない』と」 そう告げる『彼』の脳裏に過ぎったのは、レックスがラインアークへと所属する際に話した『策』――プランについて聞いた時のことだった。 とりあえずは、クレイドルを守ることを最優先とする。それと同時に、企業が動かざるを得ない材料を見つけ、それを武器に企業と交渉・現状を打破するように促す。それがレックスの提示したプランのおおまかな流れであった。 その説明の際にレックスは企業と再び戦うことになる可能性も告げたのだ。その際にはラインアークは守ると宣言した上で。 「企業を敵に回すことになったとして、その時にラインアークを守りきれると思うか? 正直に答えて欲しい」 「後手に回ったら、きっと僕じゃ守りきれないと思います」 『彼』の問いに、レックスは正直に答えた。こう言っては何だが、機動力に欠ける以上…広範囲を防衛するような状況になると、どうしても足の遅さがネックとなって不利になってしまう可能性がある。 「それに陽動などを仕掛けられた場合。間に合わない可能性もある」 「……だろうな」 場合によってはラインアークを危うくしてしまう可能性もあるプランの内容。だがその事実を責めるわけでもなく、予想していたとおりだとばかりに、一言そうとだけ答えるだけだった。 「君の事だ。そういう事態も想定して、手は打っているのだろう?」 「一応は。ただ、完璧な計画と言うのは不可能だから…」 それでも穴を突かれる可能性は否めない。もっとも、そうなるのはもう少し先になるだろうが。 「予期せぬ事態と言うのは、戦場に置いて良くあることだ。とりあえず、俺が聞きたかったのはそれだけだ。邪魔をしたな」 そう告げて、『彼』はその場を後にした。そして、押し黙ったまま通路を歩いていく。しばらくの間、沈黙が続いていたが。やがて意を決したかのように、一緒に歩いていたフィオナが口を開いた。 「ねぇ、何を考えているの?」 「…………………」 『彼』は答えない。だが、それにも構わず、さらにフィオナは言葉を続ける。 「彼にだけ任せていいのだろうか。何か出来ることはあるんじゃないかって、そう考えているんじゃない?」 「………」 「そして、その場合。あなたが出来ることと言えば戦うことだけ。――乗るつもりなの?」 「………っ」 心の奥底を見透かされたかのような一言に、思わず足を止めてしまう。だが、その言葉を否定することはできなかった。 「これでも付き合いは長いんだから。あなたの考えていることなんて、想像はつくの。でも、お願いだからやめて。今のあなたの状態じゃ、もうホワイト・グリントの負荷には耐えられないわ」 「わかっている。…今のまま乗ったとしても、負荷が大きすぎてネクストを動かすことは出来ない。ただ――」 「……ただ?」 「方法がないわけじゃないと気づいた」 それに気づいたのは本当に偶然だった。だが、その方法ならAMSの負担を軽減できることは明らかだ。 そう呟く『彼』を見て、フィオナはため息をついた。 昔から、『彼』はそうだった。守るためになら、どんな無茶をしてでも守ろうと動く、そんな人なのだ。そのことは傍にいた自分が、誰よりも知っている。 「…本当はもう戦ってほしく…ないのだけど」 前にもこんなやりとりがあったな…。あれは確か……ラインアークに流れてきて、守護者としてホワイト・グリントに乗ることになった時だったか。そんなことを考えつつ、フィオナは静かに言葉を続ける。 「約束して。本当に……。本当に必要な時にしか、乗らないって」 「……フィオナ?」 「……あなたのことだから。皆が本当に危なくなった時、きっと死ぬとわかってても無理に出ようとしちゃうだろうから。それなら、その時に無事に戻ってこれるように、今から備えた方がいい。でもだから…約束して。……約束してくれたら、また私もあなたを助けるから」 『彼』もまた、以前に同じようなやり取りがあったことを思い出していた。リンクスとして、再び戦場に出ることを決めた時に、コレに近いやり取りをかわしたことを。 ―――その時、なんと答えたか 「……約束するよフィオナ。……すまない」 そう答え、『彼』はフィオナにそっと顔を近づけるのだった。 □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ 「オールドキングが?」 『そうだ。奴さん、何を考えたのか勝手に持ち場を離れてしまったのだよ』 ORCA旅団の拠点であるビッグボックス。その留守を預かっている身でもあったメルツェルは、仲間であるネオニダスからの通信に、珍しく焦燥を露にしていた。 当初の予定では、ネオニダスの月輪と共闘で重要拠点の一つである、衛星軌道掃射砲エーレンベルグの防衛をさせる予定だった。だが、不意にそれを放棄し姿をくらましてしまった。 「こうなる事態も考えてはいたが、こうも早いとは…」 彼は、かつて反体制武装勢力であるリリアナを率いたリンクスだ。今はORCAに身を置いていたが、それでも他の団員とは常に一定の距離を保ったままであり、何を考えているか。メルツェル自身ですら読めないことのある得体の知れない男。それだけに危険な物を感じ、密かに注意を払っていたのだが。 このタイミングで離脱してしまうとは考えもしなかった。いや、むしろORCAに来て以来、大人しかったせいで判断を誤ったか。いずれにしても、このままにしておくわけにはいかない。 オールドキングが何をしようとしているか。そこから考える。 彼にクローズ・プランの全ては話していない。よってアルテリアの襲撃は、クレイドルを落すための物としか知らないはずだ。そして、彼の興味はクレイドルを落すことに向けられているのは間違いない。仮にもアルテリア施設の襲撃にはしたがってくれたのだから。 となればクレイドルに襲撃を仕掛けることは、ほぼ間違いない。あとは―――どのクレイドルを狙うか。 地図を開く。エーレンベルグの位置を中心に、最も近いリリアナの拠点を表示。さらにそこからクレイドルの飛ぶ高度へ向かうことの出来る輸送機などがある基地施設などをまとめて表示させ、そこに各クレイドルの進行ルートを重ねる。 「…………………」 さらに移動時間なども考慮し、狙われるであろうクレイドルを絞っていく。やがて一つのクレイドルが条件と合致する。 クレイドル03。人口1億人を有する、数機のクレイドルで構成されたグループだ。 オールドキングが狙いそうな目標はわかった。あとは、この危機をどうするかだ。ORCAの団員を送るのはダメだ。この局面に置いて、戦力を割くのは危険すぎる。 となれば残る手段は一つ。企業側でなんとかしてもらうしかない。状況が状況なだけに、悠長なことをしている暇もない。 通信を繋ぐ。だがそれは直接ではない。数箇所を経由し、発信源を特定されぬよう慎重に用意された特別なものだ。 そして、「内通者」を装って、情報をリークする。ORCAがクレイドル03を襲撃しようとしていると。 本当ならばオールドキングの独断であり、ORCA側としては本位ではないのだが。それを説明したとしても相手は聞く耳を持たないだろう。それなら、悪役としての汚名を被る他ない。クレイドルを地上に降ろそうとしている時点で、汚名を受けているのだから。 「あとはカラードのリンクスを信じるしかない」 ―――オールドキングの暴挙を必ず止めてくれると。 To Be Countinue…… ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); ---- **移設元コメント [#zf972207] -「彼」が再び戦場に・・・。楽しみであると同時に心配です。果たして、いかなる手段で負荷を軽減するのだろう?ともあれ、レックス君、防衛頑張って! -- 2010-07-27 (火) 23:58:42 -コルセールの動向が気になりますね。次も楽しみにしてます。 -- 2010-07-28 (水) 00:04:02 -彼がどういった方法を思いついたのか、そしてオールドキング戦はどうなるのか…楽しみだな -- 2010-07-28 (水) 06:46:48 -コルセールの動きはやはり、レックス君の策によるものかな?しかし、オールドキングか~最初のクレイドルで殲滅できなくては勝ち目はないかな… -- 2010-07-29 (木) 15:36:55 -タンクでリザを相手にするのは厳しそうですがとくに相手の間合いに入ったら致命的 -- 2010-07-29 (木) 23:46:09 -コルセールの伏線がすごく気になる・・・古王とレックスが戦ったらどうなるんだろう。火力の差的に考えてやられはしないだろうけど・・・レックスがんばれ! -- ライサンダーF? 2010-08-02 (月) 15:45:00 ---- ☆作者の一言コーナー☆ えむです。 CHAPTER3も終了し、ついに次回からCHAPTER4へ突入。ゴールも少しずつ見えてきました。 そして立てるフラグ。この小説は、勢いとノリとその時の思いつきが9割を占めています。自分が面白いだろうと思ったら、以前言ってたことなんて投げ捨てで突き進む。それがえむ’sクオリティ。後悔は今後もしません。 ではコメント返信を。 >……、私的にはジェラルドとエメリーの絡みが欲しかったなぁ >ジェラルド・ジュリアスの絡みは確かに欲しかったかな。 忘れていました、ごめんなさいorz >これぞ伝統のガチタンスタイル・・・! >さすがガチタンだ!何ともないぜ!ってか。 >まさにガチタン…ここにタンク乗りの鏡ともいえる漢がいる…!! 感激だ!! こんなネクストがいてもいい。そう思いはじめました。 >…それと作者にちょっと質問。両背両腕両格納の全てにグレという夢の浪漫装備はもうやらないの? 予定はあります。しかもVerUPさせての最強状態として(ぇ 今後を楽しみにしててくださいねw >カーパルス防衛を受ける経緯だなかったのが少し残念に思える。前回にカーパルス防衛の依頼が来ただけでしたし ……そっちも完全に失念してました、本当にごめんなさいorz >よかったけど、もう少し時間をかけて書いてもよかったんじゃないかな? 時間はいつもよりかかっていたりしますが、返す言葉もありませんorz 以上、コメントレスでした。 なんか色々すっぽ抜けてたのに、コメントで言われるまで気づかなかったと言う…。 物書きとして、まだまだ精進が必要なようです。と同時に今回のご指摘もバネにがんばっていきたいと思うので、生暖かくでも見守っていただければ幸いです。 さて次回は、タンクで挑むクレイドル03防衛。一体どうなることやら…。 ---- **コメント [#e6df3328] #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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