Written by 独鴉


オリジナルミッション


オーメルの策略と主を失った翼・・・

ORCA旅団、そして旅団長マクシミリアン・テルミドールの名を持って全ての企業に対して行われた声明、
短くそして真相を隠しクレイドルに住む企業重役達に対するそれは明確な宣戦布告だった。

       "To Nobles."
     "Welcome to the Earth"
 
 

 ORCA旅団から全ての企業に対して発せられた放送は企業重役達を恐怖させ、情報統制や火消しに躍起となり企業連の名を使って
全てのリンクス達に対して命令が下された。

“ORCA旅団への全面攻撃及びORCA旅団に関連する情報の口外を禁止”

 地上の汚染はすでに市民に知れ渡っていることだが、現体制が何よりも優先して隠していていた衛星について知られたくはないのだろう。
事実国家解体戦争を生き抜いたセレン・ヘイズも空を覆っていた衛星について聴いた事がなく、
今回の放送を聞いて状況を知ったセレンは一時カラードの仕事を休みインテリオル会長室に赴いていた。
 一方リンクスはカラードを離れ廃墟となったコロニー アナトリアに居た。数日前差出人不明のメールのタイトルと内容に惹かれるものがあったからだ。

【君に渡したい物がある】

 差出人不明のメールはタイトルと指定場所のみ記載され、それ以外の情報は何もなく写真のみが添付されていた。
普段ならばランダムで送信される悪戯メールとして処理してしまうだろうが、添付されていた写真を見てリンクスは態々アナトリアまで足を運んでいた。
写真には地下整備場と思われる場所に格納されているホワイト・グリント写されており、その日付はなんと一週間前の物だったからだ。
ホワイト・グリントを操縦していたレイヴンに会えるかもしれない。そんな期待と同時に何故メールが自分宛に送られて来たのかリンクスは知りたかった。
 指定された場所は壊滅したコロニー アナトリアの地下格納庫。廃墟となって年数がたって要るためあちこち壊れているものの、
指定された格納庫はアナトリアから少々はなれた場所にあり思ったより老朽化しておらずコジマ粒子濃度も非常に低い。
人気のない空の格納庫で一時間ほど待っているが予定時刻を過ぎても人の気配はなく、リンクスは帰ろうとタラップを上りはじめる。

「ようこそ、ストレイドのリンクス」

 聞いた事のない声が格納庫内に響くと暗かった格納庫内が光に照らされ格納庫下部のハッチが開いていく。
リンクスは急いで格納庫中ほどに設置されている通路まで上ると開かれたハッチを覗き込んだ。
エレベータになっているらしくゆっくりとネクストの影が上ってくるのが見えた。
白く染め上げられたカラーリングと革新的とも言える特殊な形状のネクスト、カラードに所属するリンクス全ての畏怖の対象。

「ホワイト・グリント、あの写真は嘘じゃなかったのか」

 エレベータが停止するとネクストの足元に一人の男がたって居た。会った事の無いアナトリアの傭兵かとリンクスは一瞬思ったが、
その様子から別人だと気付くのに長くはかからず彼が自ら名乗ることで誰かはっきりとわかった。

「私の名はアブマージュ、この機体のアーキテクトだ」

 アブマージュ、初代ホワイト・グリントのアセンブラーであり二代目はネクストその物を製作した天才として知られている。

「アブマージュさんが私に何のようですか」

 念のためリンクスは高い位置の通路から降りようとせず、いつでも腰に収めている銃を抜けるよう体を斜めに傾けている。

「君にこの機体を託すよう頼まれてね。私個人としても作品がこれ以上使われないのは悲しいところもある」

 ホワイト・グリントはラインアーク橋上から水中に落下後消息を断ち、あれから一年近く経過した現在ではカラードランクからの抹消も考えられていた。

「自分にこの機体を?」

 リンクスは白く染め上げられたネクストを見て考え込んでしまった。企業連に仇名し⑨という畏怖のナンバーを与えられたAC、
性能は戦ったことがあるため身をもって知っているが、使用する事で企業連に対してどういった意味にとられてしまうか予測できないからだ。

「君はこの機体を知っている。そして身をもって性能を知っているはずだ」

 アブマージュの言葉はリンクスの心を揺さぶった。機動性能と装甲そしてPAに至るまで高いレベルで安定した性能、
これと近い性能を持つと考えられるローゼンタール製の二機種はあるがどちらも一歩劣る点があるだろう。

「アナトリアの傭兵、彼はもうこの機体を使うことはない。この翼は主を失っている」

 主のいない翼、この言葉はリンクスにとって辛い言葉だった。RAVENとして翼をもがれた者が多い中いまだ戦場に居られる幸せなことだろう。
だが山猫とも鴉ともいえないリンクス自身ホワイト・グリントに乗ることには躊躇いがあった。
 考え込んでいる時通信機が鳴り響きリンクスは考えを中断して通信機を手に取った。

「急いで戻れ。企業連から依頼が来ている」

 通信相手はよく知っている人物だったが、普段よりも機嫌が悪いのか怒鳴り声で用件だけ言って切れてしまった。
どうしたものかと考えはじめたときアブマージュはリンクスに声をかけた。

「難しいことはない。ここからオーバードブーストでカラードに戻れば良い」

 ホワイト・グリントは巡航型オーバードブースト形態を持つゆえ単独でも長時間の飛行することが可能であり、
ヴァンガードオーバーブーストの試作機実験機と一部では言われている。

「……すぐ動かせますか?」

 通常ルートを使用して戻るとなればアナトリア近くのカラードまで半日、そこからインテリオル系カラードまで飛行機でさらに半日かかる。
そう考えると今はこの機体を使用してカラードに戻ったほうが良いだろう。

「私はネクストの専門家、すぐに調整して飛べるようにできる。スーツは更衣室に古いタイプだが数着あるから急いで着てくるといい」

 指差された方向の扉にリンクスが走っていくとアブマージュはネクストの調整に取り掛かった。
 更衣室も随分とあれていたが、少々がた付いたロッカーを開けるとRAVEN用のスーツがいくつか入っていた。
疑問に思いながら取り出すと一部リンクスに必要な部位が追加された改造品。
RAVEN上がりのリンクスなどによって国家解体戦争中に考案されたものだが、
高Gに対応できるよう新たに作られたパイロットスーツに切り替えられほとんど使われていない代物だ。
 サイズが合うものを着用すると何かRAVENだったときの懐かしさと共にしっくりする感じがした。
腕や体を動かして見ても体に感じる違和感はほとんどなく、他の旧式のものよりも出来がいいことがよく分かる。
2分とかからず着替えを終えたリンクスは格納庫に戻るとすでに設定が終わったのかアブマージュはリンクスを待っていた。

「カラードには私の名でこの機体を登録しメンテナンス情報は君のオペレータに送っておく。心配せずに戻るがいいよ」

 リンクスはタラップを上りコックピットに乗り込むと機動プロセス踏みAMSとの接続を開始した。
流れ込んでくる情報と統合制御体に刻み込まれている戦闘情報と彼の戦う理由となっていた女性の顔、
どれもアナトリアの傭兵がこの機体を使い、そして何の為に戦っていたかリンクスに教えていた。

[システム通常モード起動、こんにちはRAVEN]

 想像していたよりもホワイト・グリントとのAMS接続負荷は低く、操作のほとんどがマニュアル操作に変更され
元RAVENでもなければまともに操作できない作りになっていた。

「……自分に託したかったわけだ」

 普通のリンクスならば訓練でノーマルの操縦を覚えたりはするが本格的に操縦すると話は別だ。
戦闘中に反射的に取ってしまう行動を身ではなく操縦桿とペダルに反映しなければならない。
これだけは一朝一夕に出来るものではなく、年単位で機体に乗り続けるしかないからだ。
 エレベータが停止し眼前の隔壁が開くとアナトリアが一望できる小高い丘だった。すぐ目の前には機体を格納し輸送するために
使用していたと思われる滑走路が残っていた。々荒れ果てているがネクストがオーバードブーストを機動させるには充分な状態を保っている。
エレベータから滑走路に機体を進ませるとオーバードブーストを起動、背部の特徴的なオーバーブーストユニットがサイドにスライド、
水平に接続されるとハッチが開き14連装の高効率小型ブースタが姿を現した。
さらに折り畳まれ格納されていた補助ブースタの12連も水平に展開し機体を加速させていく
。500キロを越えたところで操縦桿を引き機体を離陸させると空に舞い上がりアナトリアを離れていった。

「私の翼を頼むよ。次のRAVEN」

 オーバーブーストでアナトリアを離れていく自らのネクストを眺めたあとアブマージュもまたアナトリアを離れた。
 
 
 
 
  
 
 
  

アルゼブラ領・・・・・・・ 輸送部隊
 資材と食料を積んだAFカブラカンがアルゼブラ工業施設へと向かっている中、レーダーにネクスト反応があり静かだった艦橋は慌しくなった。
レーダー仕官の調べによってネクスト情報と取らし合わせ接近している機影が判明、オーメル所属ランク33のトリケア、
最新型ライール系列のパーツに右腕のアルゼブラ製実ブレードMUDANを装着した高速機でありオーメル専属でもある。
 艦長は自ら通信機を手に取るとK・Kの元へ通信を繋げた。

「K・K様! オーメルのネクストです!」

 通信聞いていたK・KはAMSとの接続を開始、迎撃するため自ら出撃準備をはじめた。
(やはりこのタイミングで来たか。ORCA旅団さえも自らの発展に利用するとはオーメルの連中め)

「お前達は予定通り工業コロニーへと移動を続けろ。予定期日内に資材が届かなくては業務に遅れが生じ損失となる」

 履帯を守っていた防壁の一部が開かれると一機のネクストが姿を現した。
 一撃必殺を主とする旧式実ブレードRAJM(新製品名MUDAN)と旧標準ショットガンSHAITAN(新製品名MBURUCUYA)
を持つ至近距離戦闘を想定したネクストAC リバードライブ、旧イクバール陣営のオリジナルリンクス K・Kが操縦し、
国家解体戦争後イクバールでセカンドの地位に座しリンクス戦争を生き残った歴戦の兵。

「了解しました。K・K様お気をつけて」

 カブラカンが離れていくのを確認するとこちらにヴァンガードオーバードブーストで向かってくる機影にK・Kは意識を傾けた。

(戦場のたつのも十数年ぶりか…)

 リンクス戦争を越えた後前線から退きアルゼブラ内で新鋭機の開発や後人の指導に当たっていた時と違い、
懐かしさと共に戦場こそが自らが居るべき場所だとK・Kは感じていた。

「任務遂行に対して障害を確認。排除する」

 開放回線から伝えられるトリケアのリンクスの意思表示、戦闘領域に到達したトリケアはまず障害である眼前のネクスト リバードライブを敵と認識したらしい。
だがどこか無機質感を感じるその言葉にK・Kはなんとも嫌な感じをうけた。

「これは条約に違反している行為だと君はわかっているのか?」

 何も応えるつもりがないのか応答はなくただ通信機からは僅かなノイズ音のみが聞こえてくるだけだった。

「まぁいい、君も任務を遂行したいのなら私を倒すことだ」

 目の前に居るのは新型ライール系列のみで構成された新鋭機、高速で接近し実ブレードを確実に狙ってくるだろう。

「だが、私も無条件でやられてやることは出来んよ」

 一方こちらは定期的な整備こそされてはいたがイクバール時代のパーツで構成された旧式機、性能差は確実に機動に表れ差となる。
そこを補うのはK・Kの戦術眼と操縦技術、そしてリバードライブの統合制御体のメモリーに記録されている戦闘記録意外何もない。

(さて、私の腕がさび付いていなければ良いのだが)

 背部にコジマ粒子の光が集まるとオーバーブーストを起動させトリケア目掛け正面から突進していく。
リンクス戦争中リバードライブの速度はトップクラスであり、
オーバーブーストを利用した接近から正確にRAJAMを打ち抜く技量と併せ一部では鴉殺しのアンジュと同等の実力者とも言われていた。
 ショットガンを単射し様子を見ながらトリケアの左側に回りこんでいくがトリケアは肩のブースタを噴射し、
リバードライブの正面に入りSG-0700ショットガンの連射が減少を始めていたPAを急減少させる。

「さすがに速いな。リバードライブよりも」

 左肩のクイックブースタを点火し射線軸から外れると跳躍し慣性を生かしたまま着地、片足を深く踏み込み機体を回転させると
僅かにブースタを点火し再び跳躍し先ほどと同じように慣性と通常ブースタの滑空を巧みに利用し
僅かなエネルギー消費で機体を滑るように走らせ500程度距離を取った。
 一方トリケアはジェネレータ出力と容量を利用してクイックブースタの連続点火によってリバードライブに接近、
ショットガンとMP-0700分裂ミサイルによって怒涛の攻めを見せるがK・Kは冷静にトリケアの攻撃を見切り、
ショットガン連射のタイミングとミサイルの追尾方向の間隙に通常ブーストで機体を滑り込ませほとんどを回避してしまう。
 熟練したレイヴンならば見切ることが出来る攻撃の間隙、速度や攻撃の物量に惑わされない経験と技術に裏打ちされる戦場を視る眼、
これがK・Kの強みでありリンクス戦争を生き残ることが出来た理由だった。
 しかし高速で接近戦を挑むトリケアの攻撃を完全に回避することは戦法上出来ることではない。
僅かずつだがPAを貫く銃弾が装甲板に傷つけ、数度目かの着地を行い再び距離を取るため跳躍しようとしたとき
リバードライブの放ったショットガンとロケットに直撃しながら急接近、接近してくるトリケアの意図をK・Kが読んだときにはすでに手遅れだった。
近距離でのショットガンの連射はPAを貫きトリケアの狙いだったリバードライブのショットガンに着弾、
鈍い音を立てて部品が飛び散り使い物にならなくなってしまう。
元よりネクスト同士の戦闘を考慮していなかった旧式ショットガンSHAITANを撃ち砕きリバードライブの主武装破壊を狙うのは良い判断だろう。
ネクスト相手に戦うにはPAを減衰させ易いショットガンと単純火力に優れるロケットの両方がなくてはリバードライブの性能でネクストと渡り合うのは難しい。
 リバードライブが武装を失ったことを確認したトリケアは肩に付けられていたフラッシュフラッシュロケットを発射、
一旦距離を取ると余計な武装を全てバージしコジマ粒子の光が機体後方に集まっていく。
その様子を見ていたK・Kは腰部のブースタを点火し後方に下がりながらロケットの照準をトリケアに合わせる。
 オーバードブーストとメインブースタの同時使用によって最大瞬間速度が3000キロを越えたトリケアは
MUDANを構えるとリバードライブ目掛け真正面から突撃していく。
相対距離から到達まで一秒もない僅かな時間だがその照準は正確にリバードライブのコアを捉えていた。
音速の衝撃波とロケットの爆発によって土煙が舞う中二機のネクストはぶつかった衝撃で数百メートル移動した後停止、
土煙が治まった時姿を現したのは真正面からMUDANを突き出しているトリケアと右半身をトリケアにむけた状態で密着し、
MUDANを持つ腕を左手で掴んでいるリバードライブの姿だった。
 K・Kはコアに到達する前に機体を半身動かしライールの腕を打ち払い機体の外側に方向を変えていたのだ。

「……良い腕だ。タイミングも突撃速度も最高だった。だが実ブレードを扱うのにもっとも必要なことが欠落している」

 左手で受け止めていたトリケアの腕を機体の側に再び打ち払いトリケアのバランスを崩させると右腕でライールのコアを掴み左腕を振り被った。

「それは接触距離での経験だ」

 突き出された腕と成形炸薬が爆発する音が鳴り響き撃ち出された二つの杭はライールコアに突き刺さった。
強烈な振動と共に装甲板を突き破りコックピットまで到達し中のパイロットを潰して停止、
深く突き刺さるように角度を鋭角に切り替え再びRAJMの杭が打ち込まれライールコアは粉々に砕け散り地面に転がった。

「……」

 オーメルに対して警告の意味を持たせる為に完全に破壊したものの、
さすがに必要以上の破壊を行ったことにK・Kは自己嫌悪と相手に対する謝罪の気持ちが生まれていた。

(すまんな)

心の中でK・Kはトリケアのリンクスに謝罪すると先にアルゼブラ工場へと向かったカブラカンの後を追うべくオーバードブーストを起動させた。


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コメント返し

>- コメ待ってました。このセラフは~の人です。初代知らないんですわOrz でもACEのも十分強かったですよ。それはさておきあと少しですか・・・ね?続き待ってます -- 2012-02-10 (金) 04:00:22
たぶんあと少しです。 たぶん、 たぶん……、 タブン………、    ドウダロ

>- 更新待ってました。w ジュリアスとジェラルドの両者が生存しているとは珍しい。今後の展開に期待しております。 -- サイキライカ? 2012-02-10 (金) 18:17:22
内容系にはノーコメです。期待に応えられるよう頑張ります。


コメント

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