Written by レイ・マジーニ
第2話
12月――
何がクリスマスじゃあい!!!!
畜生オオオオオオオオオオ!!!!!!!!
そんなわけで、マザーウィルが陥落する1年ほど前。
アスピナ機関所属リンクス、CUBEはいつも虚ろであった。
究極のAMS技術の実験台として、ただ生かされているだけの肉体は瘦せ細りながら、それでも彼の身体は、精神は戦場で「実験」を繰り返されていた。
そのような中で、企業連内のパワーバランスを計り知るのに相応しいランクマッチが翌週に控えていた。
相手は有澤重工――日本列島が宇宙に進出する以前より存在する重工業――の現社長・有澤隆文と、彼が駆る重量級タンクタイプネクスト・雷電。
量産型アームズフォートに匹敵する火力を誇り、プライマルアーマーに覆われた重装甲は並大抵の火力は通用しない。
CUBEは、正面からの戦闘は不利と判断した。
彼の乗機・フラジールに搭載されているマシンガンとチェインガンでは、手数でこそ圧倒的に勝るにしても、PAの向こう側にある装甲には大した効果を発揮しないであろう。
まして有澤は、噂ではリンクス戦争時代から戦線を駆け巡ったリンクスと聞く。
生半可な火力による突破は恐らく不可能であろう。
「だがフラジールには、有澤を圧倒的に上回る機動性とアサルトアーマーがある。背後に回り込み、アサルトアーマーで一気にカタを付ければそれでお終いだ」
CUBEの「メンテナンス」を担当する技師が、注射器を挿入しながら語り掛ける。
アサルトアーマー――巷では「プロトタイプネクスト」と呼ばれる実験機に搭載されたという、オーバードブースト時に生じる高圧縮コジマエネルギーを周囲に放出するとされる(実際の所原理は完全には解明されていない)兵器。
PA-N51がコジマ汚染区域になったのも、この技術の実験によるものとの噂もある。
「君は勝てる。いつも通りの訓練だ。目の前の目標を破壊すれば良い。簡単だろう?」
薬物を注入しながら、技師が囁く。
CUBEのその眼は、虚ろに正面を向いていた――
「おいシゲェ!!こないだ発注した例の腕の方はどうなってる!?」
――有澤重工地上拠点にて、ネクストのハンガー内に響き渡る声量でシゲ(ワカ)を呼ぶ有澤。
ちなみにシゲさんのシゲは「重」と書く。
「親っさん、いくら何でも無茶ですよぉ。『飛ばした腕をそのまま元の位置に帰ってこさせる』なんて、ウチの連中はおろかMSACのセンサー部門も出来てないのに……」
縮こまりながら有澤に返答するワカ。
例の『腕』――有澤は現在展開しているグレネードランチャー搭載腕では、何か満足しなかった。
『肉と肉のぶつかり合い』に目覚めた有澤の提案は、『遠近対応の格闘術』であった。
ちなみに最近有澤は旧世代に日本で発売されたロボット操縦ゲームにハマっているのは内緒である。
「『衝突して掌が爆発する』ってのは良い案なので採用したは良いんですが、肝心の遠距離に対応するための機構が複雑すぎて……」
「撃ったら撃ちっ放しですよこれじゃあ。肝心の腕が返ってこないんスよ」
「AMSによる操作も考えてはみたんですが……ウチじゃどうにも……そもそもそんな細かい制御を戦闘中にやってたら、リンクスが持ちませんよ」
喧々諤々の技術陣。これはどんな技術開発においてもお決まりなのだが、大抵コレで1ヵ月は満足に眠れなくなる。
「別に納期は定めちゃいねぇんだ、焦るこたぁねぇ。だが……」
若干険悪になりかけた技術陣を宥める様に語り掛ける有澤。
「……国は飛ばせても、今回の腕は飛ばすだけじゃあ足りねぇ。おめぇら、たまには息抜きでもしろや。それで思いつくモンもあらぁ」
遠回しに「一回寝ろ」と語り掛ける有澤。
不器用ながら社員の面倒を見る姿勢が、社員の労働満足度に貢献しているのは間違いないだろう。
「親っさん、それより、アスピナのリンクスとの模擬戦は来週なんスよ。親っさんも、その日に備えて体調を整えて頂かないと……」
「シゲ、俺ぁまだ介護が必要な程弱ってはいねぇつもりだ。自分の身体ぐれぇ、自分で面倒見れらぁ。――それより、どうだ、あのCUBEとか言う若ぇのは」
ハンガーの休憩室から、元GA所属、現有澤重工所属のリンクスであるメノ・ルーが現れる。
「企業連の広報誌によれば、彼は薬物で感情を平静に保ち、それであの高速機動による負荷に耐えながら操縦しているようですね。後は――」
「そうじゃねぇ、あいつの『可能性』はあるのかどうか、どうなんだ?」
メノ・ルーの会話を遮る有澤。
ここで言う『可能性』とは、CUBEがコジマ覚醒に目覚める可能性であり、また薬物による負荷でいつ命を落とすかの可能性でもある。
「あんな華奢な若造が、こんな無理をして早々に死んでもらっちゃあ浮かばれねぇ。何とか救い出す方法は無いもんかねぇ?」
「社長、人道で説得するのは意味ないと思いますよ。何せあのアスピナですから…」
「人を機械かその延長にしか思ってないでしょうからねぇ連中は。――いっそ、ゲンコツでも喰らわせて目ぇ覚ましてもらうとか――」
「それだ」
ポン、と掌を叩く有澤。
冗談めかして言ったつもりのワカの一声。これがCUBEの命運を分かつことになる。
そして――
「シミュレーターを用意しろ!フレームは雷電からサンシャインで行く!!」
「親っさん!?」
唐突に放たれた鶴の一声。
タンクから人型二脚への転換である。
有澤の象徴たるグレネードを捨て、一体何を考えているのか社長!?
次回予告
後半戦だ、親っさんが唐突にタンクから悪魔超人にしようだなんて言い始めてから、俺ぁシミュレーターで親っさんとマンツーマンでスパーリング。
アスピナのリンクスを救おうだなんて、一体何考えてんスか親っさん!?
次回、「覚醒、マイティ・ハーキュリー(後編)」で、また会おう!!
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