世界の終りの話をしよう。世界の始まりの話をしよう。 誰が生き残るか。誰が生き残っても結局は同じ。 結末は滅びと決まっている。未来は再生と決まっている。 過程は違う。結果は同じ。
Written by ケルクク
人類の命運が決まったクラニアムの戦いより3日後の3月22日、
各社は全クレイドルの墜落という危機に一致団結して対処するため、企業統治連合を母体として作る新会社『アライアンス』に各企業が合併される事で一つになる事を合意。
その後の調整により、アライアンス発足は4月1日、アライアンスのCEOに王小龍が就任する事が決定する。
アライアンス発足より2日後の4月3日、
コルセールによりORCAと各企業の首脳陣の密約が全て公開される。
これによりアライアンスの首脳陣、特にGAのCEOに就く為にORCAのクレイドル03襲撃を後押しした王小龍に対する不満が爆発し、各地で反乱・暴動が多発する事になる。
アライアンスはコルセールの発表した情報を全て虚偽であると否定し参加者を厳しく処罰したが反乱・暴動は一向に収まらず、以後アライアンスは反乱・暴動に悩まされ続ける事になる。
続発する反乱・暴動とその鎮圧によって各地のコジマ汚染は急速に進行し、汚染の少ない居住可能地域は徐々に数を減らしていく事になる。
4月15日
ダン・モロ及びその関係者がアライアンスからラインアークへ亡命。
4月21日、
コルセールが南北アメリカの反アライアンス勢力を糾合しアライアンス軍を駆逐後、新政府の樹立とアライアンスからの離脱並びにアライアンスへの宣戦布告を新政府の長フランソワ=ネリスの名において宣言する。
旧GAの社員が多く元々反アライアンスだった南北アメリカの住人達は新政府並びに新政府の方針を熱狂的に支持する。
5月14日、
ミセス・テレジアと王小龍以外のカラードの所属する全リンクスがクーデターを起こす為に密かに結成した組織である『バーテックス』がラインアークへクーデターへの協力を依頼。
ラインアークは内部で検討を重ねるも、最終的にはアライアンス内部の権力闘争に巻き込まれるのを嫌い、これを拒否する。
6月1日、
バーテックスによるクーデターが勃発するも、事前に王小龍に察知されていた為失敗に終わる。
首魁であるレオハルトをはじめ主だった構成員はほぼその場で射殺され、残る構成員と構成員の家族等の関係者も捕らえられ拷問紛いの厳しい取調べにあった。
6月3日、
セレブリティ・アッシュが特別収容所を強襲し、捕らえられていたメイ・グリンフィールドや元有沢重工の社長秘書等のバーテックスの残党を奪取。
6月6日、
新政府によるアライアンス領への本格侵攻が開始される。
ノルマンディーに上陸した新政府軍は、フランソワ=ネリス自ら陣頭に立った事もあり旺盛な士気と旧GAの工場地帯より生み出された豊富な戦力を持っていた為、度重なる反乱とクーデターにより疲弊していたアライアンス軍を撃ち破り1ヶ月でヨーロッパ大陸全土を占領する。
だが、急激な占領地域に増加による戦線の拡大による人と物資の不足、BFFの勢力圏であったヨーロッパは親アライアンスであり占領政策が難航した事により、攻勢限界に達し以降の侵攻速度は大幅に低下する。
8月10日、
態勢を立て直したアライアンスによる反抗作戦が開始。
以降、戦局は一進一退の膠着状態に陥る。それに伴い戦線を中心にコジマ汚染が更に広がる。
9月18日、
アナトリアの傭兵はフィオナ・イェルネフェルト等と共に汚染の激しい地上に見切りをつけて地下に都市を建設し移住する計画の検討を密かに開始
11月13日
メイ・グリンフィールドがコジマ汚染と拷問の後遺症により衰弱死。
ダン・モロが地下都市移住計画に参加。
12月8日、
急激な環境の悪化による社会基盤の破壊によってこれ以上大規模な戦争を続行する事が困難になったアライアンスと新政府は一気に戦争を終結させるべく、動因可能兵力の限界まで動員し大規模な攻勢に出る。
ベルザ高原にて激突した両軍は7日に渡って戦闘を繰り広げるが、互いに相手に対して決定打を与える前に戦闘の続行が不可能となり軍を撤退させる。
以降、大規模な軍事行動が不可能となった両者は破壊工作を中心に行う事となる。
両軍共に最重要の攻撃目標としたアルテリアは次々と破壊されていき、それに伴うコジマ汚染は加速度的に広がっていき、遂には地上に密閉型の都市施設以外は人の住める場所はなくなった。
3月13日、
最後のアルテリアであるクラニアムが破壊される。
人類の命運が決まったクラニアムの戦いより1年後の3月19日、
ロイ・ザーランド死亡。死因は自殺。
目を覚ますと酔いが覚めていた。濁った意識の中で周囲を漁りまだ酒が入っている酒瓶を探すが、全て空瓶だった。
舌打ちして立ち上がり、ふらつきながらリビングに向かい酒の入れてある棚を開けるがこれも空だった。
「あのクソ女、酒をきらすんじゃねぇよ。くそ、買いに行くのはダルイし、どうすっかな。…あ~、そういえばウィンディーの所に置きっぱなしにした気がする」
踵を返しウィンディーの部屋へと向かい、到着した俺は「入るぞ、ウィンディー」と声をかけて部屋に入った。
部屋に入った俺を迎えたのは、吐きそうなくらい甘い肉の腐った臭いと、肉が腐り融け半分以上白骨化しながらも未だに魅力的なウィンディーだった。
「今日も可愛いな、ウィンディー」と腐って崩れたウィンディーの唇にキスをすると、どうしようもなく甘い腐汁が口の中に入ってきて、その腐った肉の味に耐え切れずに吐き出し咳き込んでしまう。
「あははあはははははははははははははっはは」咳き込みながら何故か解らないが無性におかしくなったので笑っていると、いつの間にか泣いていた。
酒だ。酒がいる。駄目だ。このまま考えると俺はおかしくなる。マトモに向き合ったら俺はマトモでいられない。俺は狂うわけにはいかない。
ウィスキーの瓶を一気に呷る。強烈なアルコールが喉を焼くが今はその痛みすら愛おしかった。
急激に深まる酔いに抵抗する事無く身を委ねながら、アルコールに濁った意識の中で俺は1年前の夢を見る。
****
GAの秘密通路から脱出した俺は一縷の希望に縋って高速輸送機へと向かった。
そして辿り着いた無残にも破壊された高速輸送機の残骸の傍らには、小さいが丁寧に作られた皆の墓と、その前で祈り続けるエマちゃんがいた。
エマちゃんを回収しインテリオルの基地に向かいながら話を聞くと、坊主に家族だからと殺されなかったエマちゃんは皆の遺体を捜し弔いたいからとコルセールと共に撤退を拒否したらしい。
「あの子が迎えに来るって言ったので待っていたのですが~、まさかロイさんが来るとは驚きでした~。…あの子を止めてくれてありがとうございますぅ」そう言って微笑んでエマちゃんは老婆のように疲れきっていた。
そしてウィンディーは結局助からなかった。
インテリオルの基地までの半ばでウィンディーは最期に『一人にしてごめんなさい。アナタは生きて幸せになって』と告げ死んだ。
その死に顔は、まるで全てから解放されたように安らかな微笑だった。
それから後のことはよく覚えていないがまぁどうでもいい。
気がつくとマイブリスを売った金で新政府の首都に潜り込んでエマのヒモをやっていたが、それもどうでもいい。
もしかしたら奇跡が起きてひょっこり生き返るんじゃないかと思って、ズルズルとウィンディーの死体を捨てられずにいたら腐ってきてしまった事もどうでもいい。
俺はウィンディーの最期の願いである『生きて』さえ叶え続けられれば、他は全てどうでも良かった。
だから俺は酒に溺れ、死ぬまでの時間をただ無為に潰している。
****
「ただいまかえりました~」の声に闇に沈んでいた意識が浮上する。
「あれ~?ロイさん、どこですって、ここでしたか。も~、病気になるから来ちゃ駄目って言ったじゃないですか~!ロイさんはただでさえお酒ばかり飲んでいて栄養が足りてないんですから!そろそろちゃんとした物を食べ「うるせぇ!!」帰ってくるなりグダグダ文句を言うエマに向かって空き瓶を投げつける。
「アグ!?」適当に投げた空き瓶はエマの腹に突き刺さりエマが腹を押さえて蹲る。「売女の分際でグダグタ文句タレてんじゃねぇよ!テメェはとっとと酒を買ってくれば良いんだよ!」呻くエマに罪悪感を感じ、それを隠すようにいきりたち突き動かされた俺は衝動のままに蹲ったエマの顔を蹴り飛ばした。「ギャア!?」エマが悲鳴をあげて床に転がり丸まる。その怯えた様な非難する視線に熱くなった俺は更にエマを蹴る。「何だよ!その目は!何か文句があるのかよ!えぇ!なら言ってみろ!おら!言えよ!愚図が!」蹴る蹴る「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆるしてくだい!」蹴る蹴る蹴る「うるせぇ!」蹴る蹴る蹴る蹴る「止めて下さい!顔に傷が出来たらお客が取れなくなっちゃいますよ~!」鼻血を出しながら懇願するエマに興が削がれたしいい加減疲れていたので「チ」最後に思い切り腹に一発ぶち込んで終わりにしてやった。「う、げぇええ」痛みに体をくの字に折ったエマが胃液と共に今日とった客の精液を吐き出す。「ち、汚ねぇな。汚したところは綺麗にしておけよ」「ふぁ、ふぁい、ロイふぁん。ふぉふぇんふぁふぁい」と言い捨てて俺は未だに吐き続けるエマを無視してリビングに戻り酒を飲み始めるのだった。
****
特にする事もないので酒を飲みながら床を拭くエマを見ていると、「そういえば知ってました?最後のアルテリアであるクラニアムがとうとう壊されちゃったらしいですよ?本当にこれから人類はどうなるんでしょうね~?」とエマが世間話のように、ただ若干媚びた口調で絶望を告げた。
「終わりだろ。アルテリアがなくなれば人類は宇宙に行く事は出来ねぇ。なら汚染された地上で滅ぶしかないさ」「そうですかね~」
エマが何か言っていたようだが聞こえなかった。全身をどうしようもない脱力感が包む。俺を支えていた最後の糸がぶつんと切れた音がする。坊主の嗤い声が聞こえる。俺達のした事はなんだったんだろう?全てを捨てた俺達は一体なんだったんだろう?坊主の嗤い声が聞こえる。結局アルテリアは一年で全て破壊されてしまった。俺の、俺達が全てを失ってまで成した事は何の意味もなかったんだろうか?坊主の嗤い声が聞こえる。結局人類は坊主の願いどおりに滅びる事になるだろう。坊主の嗤い声が聞こえる。なら全てが死んでしまうなら、人類が滅びてしまうなら俺が、俺達が生きていた事は全て無駄だったんだろうか?坊主の嗤い声が聞こえる。坊主の嗤い声が聞こえる。いやそうとは思いたくない。無駄じゃなかったと思いたい。坊主の嗤い声が聞こえる。そうだ。無駄じゃない。人類が滅びて俺が、俺達が生きていた証が何一つなくなっても俺達が生きていたって事実は消えない。俺達が泣いたり笑ったりしてって事は無かった事に出来やしない。坊主の嗤い声が聞こえる。そうだ。俺達は精一杯生きた。それだけは間違いない。だからこの
ただな、ウィンディー俺はもう疲れちまったんだ。
酒を飲み干し立ち上がりウィンディーの元へ向かう。
途中ですれ違ったエマちゃんに「今まで迷惑かけてすまなかったな。ありがとう」と別れを告げる。
「はい~、こちらこそ。ロイさん、今までご苦労様でした」と頭を下げるエマちゃんの頭を撫でてウィンディーに最期の口付けをし、ウィンディーの傍らに置いてある拳銃を手に取り銃口を咥える。
結末が見えちまったんならもう生きてる必要は無いよな?俺はもう疲れちまったんだ。楽になっていいよな?
「お前の最期の願い叶えられなくてごめんな」
最期にウィンディーに詫びて俺は引き金を引いた。
3月24日、
地下都市移住計画がブロック・セラノに察知される。ブロック・セラノは計画に強硬に反発し計画の即時廃棄を命じるが、アナトリアの傭兵はこれを拒否。
以降、アナトリアの傭兵率いる地下都市移住計画派とブロック・セラノ率いる地上環境改善派は徐々に対立を深めていく事になる。
6月13日、
隠密裏に最終段階まで進められていた地球緑化計画をラインアークが察知。ラインアークは直ちにトーラス本社へ阻止部隊を派兵。
6月14日
トーラス壊滅。
同時に不完全ながら強行された地球緑化計画によって、トーラスのコジマ技術の結晶たる『緑の太陽』が発生する。
緑の太陽はアナトリアの傭兵が命と引き換えに破壊したが、緑の太陽を構成していたコジマが地球全土に降り注いだ為地球環境は壊滅的な被害を受ける。
アナトリアの傭兵の死によってラインアーク内で地下都市移住計画派と地上環境改善派の対立が激化する。
8月31日、
L・Cが地下都市移住計画派に接触し、アイザックというかつて地下都市であった廃墟の存在を知らせる。
同時に地下都市の運営を人ではなく絶対中立にして絶対者にして人という種の絶対守護者である機械、管理者に委ねる統治形態を提言し、地下都市移住計画派はこれを受け入れる。
これによりアイザックの修復と管理者の創造という二つを目的に地下都市移住計画派は動く事となる。
11月15日、
ダン・モロ及びフィオナ・イェルネフェルト率いる地下都市移住計画派がクーデターを起こしブロック・セラノ及び地上環境改善派を殺害する事で権力を掌握し、地下都市移住計画の発動を宣言する。
同時に地下都市移住計画の完遂に向けて極端な統制を行い、これに逆らう者は全て処刑した。
また宣言と同時に地下都市移住計画は全人類の総力を持って行うべきと他勢力に計画の協力という名の恭順を迫り、これを拒否した勢力は全て滅ぼし物資を奪っていった。
以降、ラインアークは内外への苛烈な対応と、ネクストであるセレブリティ・アッシュの圧倒的な戦力をもって他勢力を次々と吸収し急速に勢力を伸ばしていく。
3月24日、
アライアンスがラインアークに降伏する。
戦後処理はアライアンスの10%以上に当たる19万8578名が処刑、もしくは追放処分となる苛烈なものとなった。
また、処刑対象である有澤隆文の子を逃がそうとした咎により、ダン・モロの内縁の妻でありダン・モロの子を宿していた元有沢重工の社長秘書をダン・モロが処刑した。
5月26日、
ラインアークは新政府の降伏を受け入れず、新政府を滅亡させる。
ダン・モロ主導による大量虐殺・大量略奪、通称『大掃除』が開始される。一ヶ月にも渡る大量虐殺と大量略奪の結果200万人以上の犠牲者が出た。
6月10日、
アイザックへの移住が開始される。
6月26日、
南北アメリカの全物資の略奪を終えたラインアークは、新政府残党により危険な化学兵器とアームズフォートが起動したとして南北アメリカ全土に核攻撃を行う。
これにより大掃除を逃れた南北アメリカに住む300万人以上の住民は全員死亡する。
※ダン・モロ及びフィオナ・イェルネフェルトが処刑を多用したのはアイザックは地上の住人全てを受け入れる事が出来ない為、予め人減らしを行い適正な数まで人を間引いておく事で後の争いを封じる狙いがあった。特に南北アメリカの住人は移住が開始されていた事もあり受け入れる余裕がまったくなかった為、地上で苦しんで死ぬよりはと安楽死の意味もこめて皆殺しにした。
7月1日、
アイザックへの全民間人の移住が終わった事を記念に行われた地上最後の式典で、ダン・モロが突然自らを告発する。
ダン・モロは突然の告発とその内容に言葉を失う聴衆の前で淡々と『以上の罪によりダン・モロの地下都市移住を取り消し地上への追放処分とします』と宣言する。
7月8日、
ダン・モロの地上追放がダン・モロの手により遂行される。
以後、ダン・モロの行方は不明となる。
7月10日、
全人類のアイザックへの移住が完了し地上への扉が封印される。
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください
「かくして人は機械仕掛けの神の元、次なる例外が神を討つまで平和に幸せに暮らしましたとさ、メデタシメデタシ。
これで今回の螺旋の話はお仕舞い。次の螺旋のお話は次の私じゃない私に聞いてね。
そうそう、アイツを助けてくれてありがとね、おじさん。おじさんに神の恵みが神の祝福があらんことを。そしておじさんが今際に見る夢が良きものでありますように」
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