#author("2017-08-26T00:08:18+09:00","","") [[小説/長編]] #setlinebreak Written by 雨晴 ---- クレイドル空域と呼ばれる高空を、黒が疾走する。背負われた高出力のブースターが、音速の二倍の速度を軽々と叩き出す。 『クレイドル21まで距離15000、VOB使用限界は95秒後になります』 「了解しました」 男がコンソールを操作すると、黒の持つ兵器に火が入る。弾丸が装填されていく。 『敵戦力はノーマル36機と飛行型ノーマル12機。最優先目標は、クレイドル21の防衛です』 「思いのほか大規模ですね。速やかに終わらせましょう」 『はい。・・・敵通信を傍受しました。聞かれますか?』 男が肯定する。数秒後、繋がれた。 『―――方より急速接近中!機数1、ネクスト反応!迎撃体勢急げ!』 雑音と共に、焦ったような声が聞こえてくる。男の表情は変わらず、口が開く。 「気付かれましたね」 『そのようです。進路上の敵飛行型ノーマル、こちらへ接近してきます』 望遠カメラで確認、真っ直ぐに向かってきている。 「迎撃しますか?」 『いえ、先にクレイドル上のノーマルを。VOB使用限界まで20秒、ご準備下さい』 オペレーターが言い終わるのと同時、黒が敵機と交差する。 『黒のアリーヤだ!』 再びの、焦ったような声。 『クソ、あの英雄気取りか!』 英雄気取り。そう呼ばれた男が苦笑を漏らす。まあ、あながち間違いでもない。そう思う。 だが、彼は彼の答えに従じているだけだ。 『VOB使用限界、パージします』 振動が来る。クレイドルは黒の直下、自由落下。 『戦闘を開始します。ハイン様、どうか無事の帰還を』 重力に引かれ落ち行く中、男が微笑む。その声は彼の助けたいもので、守りたいもので、一緒に生きていたい人の声。 息を吸い込む。 「勿論です」 直後、クレイドルへと接地する。直近のノーマルが後ずさり、独特の複眼がそれを捉えた。 『―――ストレイド・・・』 呟かれた敵の声を振り切って、ストレイドが突撃する。 放たれる弾幕を翻しながら、何十倍もの敵機の群れに襲い掛かった。 耐Gスーツから着替えた男が廊下へと出ると、そこに目当ての女性は居なかった。左右を確認し、肩を落とす。 非常に残念である。深い溜め息が吐いて出て、待とうか探そうかを迷う。迷った挙句、待つことに決める。 靴音。 「ハイン・アマジーグ」 声に反応すると、その先には知り合いが一人。歩いてくる人影に一礼。 「お久しぶりです、ジェラルド。カーパルス戦以来ですね」 「ああ」 立ち止まり、正対する。 「遅れたが、終戦の英雄に敬意を」 ジェラルドが頭を下げ、いえ、と男が返す。 「そんな大それたものではないのですが。それでも、有難う御座います」 男二人、深々と頭を下げ、同じタイミングで上がる。似たもの同士と言うべきか、しかしながら異様ではある。 「それと、おめでとう、で良いのだろうか」 「何がです?」 「現在、BFFのリリウム・ウォルコットと恋仲にあると聞いたが」 一瞬の無言。はぁ、と、わかっていないような声。 「誰からです?」 「ロイ・ザーランドだ」 ハインと呼ばれた男が首を傾げる。一拍置いて、口を開いた。 「恋仲、と言う括りが果たして合っているのかわかりませんが、大切なパートナーではありますね」 「パートナー?」 ええ、とハイン。 「ずっと一緒に居たい方です」 今度はジェラルドが首を傾げる。 「それを恋仲と言うのではないのか?」 「・・・そうなのですか?」 「いや、恋仲足るにはどうすべきか、というのを知らないのでな」 「私もです。どうなのでしょうね」 男二人、腕を組み、唸り、恋だの何だのと口に出しつつ考え始める。似たもの同士である。気味が悪い。 と、パタパタと軽い音。ハインの顔が左へ30度ほど向いた。追う様にジェラルドが身体を向けると、議題に上っていた女性の姿が有る。 目を疑った。 「ハイン様」 嬉しそうに駆け寄ってくるリリウム・ウォルコットの姿を見ながら、ジェラルドは思う。こんな女性だっただろうか。 彼の知っているリリウム・ウォルコットと言えば、会議の場での姿。王小龍の後に付き、飄々とした表情。 そこには、誰も居ないような。 「リリウム。待っていて良かった。すれ違いになってしまうところでしたね」 「申し訳御座いません、少し用事を済ませていましたので」 つい走ってきてしまいました、などと笑みを零す彼女は確かにリリウム・ウォルコットの外見をしていて、と言うか、完全に蚊帳の外である。 仲睦まじく会話を交わす二人に、つい咳払い。あ、とリリウムから声が掛かる。眼中にも無かったらしく、割と落ち込みかけた。 「ジェラルド・ジェンドリン様、お久しぶりです。・・・あの、お二人はお知り合いなのですか?」 「対ORCA、カーパルス防衛戦で協働した。久しぶりだ、リリウム・ウォルコット。その様子だと君にも、おめでとうで良さそうだ」 「はい?」 首を傾げるような仕草。それも、ジェラルドにとっては新鮮なもの。しかしながら、人は変わるものだ。そうも思う。 「ハイン・アマジーグとの関係は良好と見える。おめでとうで良いのだろう?」 ぴくりと肩が動いた。驚いたらしい。 「え、あの、その・・・」 指摘されると恥ずかしいらしく、しどろもどろ。みるみる顔が紅潮していく。 「あ、有難う御座います・・・」 搾り出したような声の語尾は聞き取り辛い。言い終わるより、俯くほうが先だった。 ジェラルドの目が細まる。 「・・・存外に可愛らしいな」 「そうでしょう。決して誰にも渡しませんけれどね」 では。そう切り出し、ハインの目がジェラルドへと移る。 「そろそろ私達は戻ります。また、機会があれば」 「そうか」 ではな。そう言って別れる。数歩進んだ後、ふと振り返った。 極自然に繋がれたその手。他愛の無い会話に、二人の幸せそうな表情。あれで恋仲でないのならば、何だというのだろう。 ただ、とても辛い過去を歩んできた者と、自身の生き方さえ縛られていた者。ああいった人間こそ、幸せたるべきだ。 二人を見送り、影が見えなくなる。ジェラルドは、自身が笑みを浮かべていることに気付いてはいなかった。 「ところで、用事とは何だったのですか?」 ゆったりとしたペースで、彼の隣を歩く。 「いえ、先日お願いしていた荷物の受け取りをしていただけですよ」 そうでしたか、と彼。目指すは彼の自室。 このスピードは、彼が合わせてくれるもの。丁度良いペース。私から彼に合わせようとした時にも、彼はこのスピードを貫いてくれる。 そんな気遣いさえも嬉しくて、それを享受出来る私は幸せで。 「何だか嬉しそうですね、リリウム」 そう気付いてくれる彼のことがとても大切に思えて、向けてくれる笑顔のために私は、きっと何だってするだろう。 「今日は、ハイン様にして差し上げたいことがありまして」 「ほう。それが何なのかは、教えて下さらないのですね?」 「はい、秘密です」 ただ、彼に料理を振舞おうとしているだけだ。何でしょうね、と彼が悩む。さあ、何でしょうね。とぼけてみる。 顔を向かい合わせて、笑み。 「意地悪ですね、リリウム」 「ええ。ハイン様を見習いましたので」 そうだ。彼は少しだけ意地悪だ。物凄く優しいけれど、少しだけ。わたしはきっと、そんなところも。だから。 ところで、と彼が話題を切り替える。 「先ほどジェラルドと、私と貴女との話をしていたんです。その中でひとつだけ気になっているのですが、尋ねても?」 「え、はい」 何だろう、そう思う。どう話せば良いやら、そう苦笑が来る。すぐに真剣に悩むような表情になって、そのまま口を開かれた。 「ロイ曰く、私たちは恋仲らしいのですが、リリウムはどう思います?」 どう思うって、何がでしょう。恋仲かどうか、と言う事でしょうか。 「・・・え?」 恋仲?誰と、誰が? 「いや、ジェラルドとも議論を交わしたのですが、如何せん私も彼も、その正確な定義を知り得なくてですね」 「い、いえ、ちょ、ちょっと、ちょっと待って下さい」 必死で整理する。恋仲?ハイン様と、ロイ様が?いえ、確かに仲は良いようですが、話の流れからしてそう言う事では有りませんよね? そもそも、"私と貴女"って仰っていませんでしたか?・・・つまり私と?・・・私!? 「どうしたんです、固まって。・・・ああ。ジェラルドとの議論で、貴女との過ごし方を事細かには説明していませんよ。少しだけです」 「い、いえ、そういうことではなくですね、・・・彼に何話したんですか!?」 「何って、そうですね・・・例えば、最近ようやくリリウムの方から―――」 「う、わ!」 背の高い彼へ手を伸ばし、必死で口を押さえる。口先へ触れていることに心臓が高鳴り、しかしそれどころではない。誰かに聞かれる訳にはいかない。 いや、誰も居ないが。 もごもご言いながら視線を向けてくる彼を尻目に、ここ最近の事を考える。よくよく思えば、そんな気がした。 いつか読んだ小説の主人公も、今の私と似たような体験をしていた気がする。それに、これだけいつも一緒に居るのだから。 恋仲。そんな響きを、こんな身近で聞くことになるなんて。自分自身のことなんて。それにしても、全く気付かなかった。 改めて私の置かれている状況を理解すると物凄く幸せなようで、しかしながら照れが勝る。 きっと、顔は真っ赤なことだろう。どこか第三者的な立場でそう考えつつ、ただ一つ、足りないものが浮かんだ。 「それで、どうなのでしょうか」 気付けば彼の口から私の手は外れていて、彼の顔を直視できない私が居る。数秒黙り込んでから、声に出す。 「そ、その・・・」 「はい」 彼の顔がどこまでも真剣で、なんだか私一人空回りしている気がする。けれど、どうしようもない。 「こ、恋仲に限りなく近い・・・気がします・・・」 私は何を言ってるんだろう。心からそう思う。 ふむ、と彼。 「では、恋仲の定義とは何なのでしょうか。限りなく近い、と言うことは、きっと私たちは違うのですね?」 「・・・その、きっと、誓約みたいなものが必要なのだと思います」 「誓約、ですか」 誓約。あの小説と、今の私たちを比べると、足りないのはそれだ。 "いつまでも一緒に居たい"、彼の言葉がそうであるのならば別だけれど。けれどその言葉は、本当にそのままの意味だ。 何を伝えればいいのか迷う。彼が呼びかけてくれ、顔は見ずとも返事する。 「リリウムは、その誓約を立ててみたいですか?」 弾かれるように彼を向く。やっぱり彼の顔は真剣そのもので、冗談を言っているようには全く見えない。 わ、私にそれを言えと・・・? 頭の中でそう思考し、けれど私だって、自分の掴みたいものは自分で掴みたい。物凄く恥ずかしいが、それでも。 「わ、私は・・・」 「はい」 言いなさい、私。憧れていた情景がそこに有るのだから、掴まなければ。 「その・・・」 私は、貴方と。 「こ、恋仲でありたい、です・・・」 精一杯声を張り上げたつもりなのに、掠れたような声しか出なかった。けれど彼には聞こえたようで、わかったのかわからないのか微妙な顔つきをしている。 「・・・それが、誓約なのですか?」 「そ、そうです・・・」 成る程、と彼。つい俯いてしまう。 「私はそういった事柄に疎くて、正直良くわかっていないのですが」 「は、はい・・・」 「とても嬉しくて幸せだと思うのは確かですね」 顔を上げると、満面の笑みを浮かべる彼。 「有難う御座います、リリウム。でしたら、そう在りましょう」 一瞬、その言葉の意味が理解できなくて、理解した頃には抱き留められていた。 「ハ、ハイン様!?」 これで二度目だ。彼の育ったあの場所以来。正面を向き合ってのものは初めてで、すぐそこに彼が居る。 手のやり場に困って、何を考えていいかわからない。混乱を極める思考回路は焼き付きそう。 けれど暴れてしまったら、彼の腕は解かれてしまいそうで。それは嫌で、そう思うと自然と力を抜くことが出来た。 結局のところ、私もこうしていたいんだ。 ようやくそんな解答へと落ち着き、彼の胸へ身をゆだねてみる。腕を回し、彼を掴む。離したくないな。 おぼろげにそう思いながら、先程まで以上の幸せを感じながら、髪を梳く彼の手が心地よくて。 気付けば私は、目を閉じていた。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:20000くらい+&counter(total); ---- **コメント [#z8c6be23] - こんにちは、雨晴です。後日談一発目です。前回頂いていた感想の通り甘いの目指して書いていたら、気付けばアレなことになってました。これは、ゲロ甘?否、テロ甘。・・・何で、何でこんな事に・・・(書いといて しかしながら、やっぱり主人公たちにはもっと幸せになってもらっても良いかなぁなんて思いつつ、次を書いてきます。いつもいつも、たくさんの感想、閲覧数有難う御座います!励みになります! -- [[雨晴]] &new{2009-09-21 (月) 23:18:52}; - AMSから光が逆流する!ギャアアアアアア!いいぞ、もっとやってくだしあ! -- &new{2009-09-21 (月) 23:41:32}; - ニ、ニヤつきすぎて・・・表情筋が痛い・・・w だが、もっと、もっとやってくだされ!! -- &new{2009-09-21 (月) 23:49:27}; - 「よ、ようやくリリウムの方から・・・」→ど、どうなったnギャアアアアアアアアアア!!www -- &new{2009-09-22 (火) 00:09:11}; - ちきしょう!ハイン!てめぇなんか、末永く最期は愛する者に看取られて死ね! -- &new{2009-09-22 (火) 00:11:35}; - 282828・・・いいぞ、もっとやってくれwww -- &new{2009-09-22 (火) 00:12:50}; - 「恋仲」:これこそ、ハインとリリウムが戦いの先に見つけた「答え」なんでしょね。次回が今から楽しみです。一点だけ気になったのですが、ジェラルドの名前は『ジェラルド・ジェン「ド」リン』ではなかったかと思います。 -- &new{2009-09-22 (火) 00:27:10}; - Oh... ジェンドリンに超修正しました、ご指摘有難う御座います&既に沢山の感想有難う御座います、幸せっす・・・ -- [[雨晴]] &new{2009-09-22 (火) 00:34:54}; - プランGJ、所謂「いいぞもっとやれ」ですね。AMSから甘い光景が逆流する…ギャアアアアアアアア!! -- [[穴]] &new{2009-09-22 (火) 00:36:47}; - テロ甘・・・だ・・・と・・・(AMS負荷急上昇により死亡 -- &new{2009-09-22 (火) 01:10:54}; - この小説から、甘さが逆流する! ギャアアアアアア!! -- &new{2009-09-22 (火) 02:10:28}; - 私はこの作品を形容する言葉をこれしか知らない。だから叫ぼう。ハァァァァァァァラショォォォォォォ!!! -- &new{2009-09-22 (火) 03:58:01}; - 言葉を飾ることに意味はない。だが、この作品を褒め称えないことは私の答えに反する。ハァァァアァァァラショオオオオオオオオォォォォオオ! -- &new{2009-09-22 (火) 07:31:02}; - テロ甘・・・だと・・・?へへっ、やるじゃねえか・・・(鼻血 -- &new{2009-09-22 (火) 14:00:11}; - ラストの、抱き留められてる状態から目を閉じたってことはお前、お前!まさか!とか想像した俺はフロム脳 -- &new{2009-09-22 (火) 19:17:05}; - 甘過ぎる……修正が必要だ……(セラフ起動音) -- [[⑨]] &new{2009-09-22 (火) 19:28:07}; - 修正など必要ない修正するなら俺を倒してからだ!(ゾルディオス×50 -- &new{2009-09-22 (火) 22:32:29}; - ⑨、邪魔するなら容赦しないよ -- [[ムーム]] &new{2009-09-22 (火) 22:40:35}; - これは・・極上の甘さだッ -- [[狙撃された人]] &new{2009-09-23 (水) 00:02:42}; - ここまで甘いと清々しいなw -- &new{2009-09-23 (水) 13:53:52}; - 全てはうぃきの為・・萌の為・・消えろ! イr(ソルディオス直撃 -- &new{2009-09-23 (水) 23:40:01}; - 貴方はまさしくイレギュラーだ! 糖分が逆流する! -- &new{2009-09-24 (木) 04:21:23}; - ジェラルドのターン。ハインとジェラルドが2人して会話してる場面で吹いたwwこの調子でいろんな人を登場させてください。個人的にはロイと少佐のその後が気になって…書いてくれまs…ギャアアアアア!!(少佐砲直撃) -- &new{2009-09-24 (木) 11:24:39}; - リリウムにそれを言わせるか・・・ハイン、なんて罪作りな男だ・・・ -- &new{2009-09-24 (木) 13:25:08}; - ニヤニヤしすぎるが仕方ない・・・読んでいるんだニヤニヤもするさ・・・ -- &new{2009-09-26 (土) 22:38:58}; - 成る程。甘い…これが本物か!…ハイン…美しい。 -- &new{2009-11-10 (火) 07:58:44}; - 視界から砂糖が逆流する!ギャアアアアアアア!! -- &new{2009-12-21 (月) 21:15:59}; - 愛はあらゆる困難と試練に打ち勝つとは良く言ったものだ、この二人の場合、世界をも変えたが・・・ -- &new{2010-02-23 (火) 01:11:53}; - 282828しすぎてwwwwお腹が痛いですwwwwいいぞもっとや(ry -- &new{2010-03-11 (木) 05:49:13}; - ジェラルドがいいキャラすぎるwwwこの作品大好きだw -- &new{2010-04-09 (金) 00:01:39}; - 恋仲の始まりだ、歓迎しよう 盛大にな! -- &new{2013-05-22 (水) 23:02:19}; - さぁ祝おう!恋仲の二人をなぁ! -- &new{2014-01-17 (金) 21:50:12}; - 甘過ぎる…修正は不要だ… -- &new{2014-08-02 (土) 08:00:45}; - ハインてめえええええええライールで沈めてやるわ! -- &new{2014-09-19 (金) 05:47:40}; #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説]]