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機械の鴉18.6(小説・全年齢) の編集
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#setlinebreak Written by 独鴉 ---- WG戦中篇です 前編18.3 後編18.9となります ---- ホワイト・グリント撃破中編・・・ ラインアーク橋上に降り立ったステイシスとストレイドはホワイト・グリントの到着を待った。 ノーマルACとMT部隊は先行した通常軍を追い払う為に出払っている。 ただ静かなときがゆっくりと過ぎていく。 その静寂を破ったのはオッツダルヴァの声だった。 「準備できているか、貴様。まぁ、空気でもかまわんがな」 どうやらオッツダルヴァはストレイドの援護など不要だと言いたいのだろう。 確かに他の上位ランクリンクスならまだしも、ストレイドはいまだランクは低い。 「一人で勝てるのなら自分は呼ばれないと思いますが」 「まぁいい、死にたくなければせいぜい気を張ることだな」 ストレイドに向けられたオッツダルヴァなりの気休めの言葉、僅かだが通信機から伝わる声に緊張感が隠れていることをセレンは読み取り、オッツダルヴァもかつてない強敵に緊張しているのだろうと考えていた。 「こちらホワイト・グリント、オペレーターです」 開放回線に突然割り込んできた女性の声、ラインアークからの通信だ。 そしてカメラアイでぎりぎり捕らえられる最大レンジだが、OBを停止させ特徴的なOBユニットを格納しながらゆっくりと橋上に白いネクストが降り立つ姿が映る。 「あなたたちはラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ実力で排除します」 「フン。フィオナ・イェルネフェルトか。アナトリア失陥の元凶が何を偉そうに」 オッツダルヴァの言葉に怒りのようなものが込められている。 そうリンクスは感じたが、戦闘中であるため記憶にしまいこみ自らの意思を戦闘に集中させる。 「どうしても、戦うしかないのですね」 戦闘開始と同時にホワイト・グリントに向かってステイシスとストレイドはOBで急加速、同じくOBを起動したホワイト・グリントと橋上ですれ違い、音速の衝撃波がぶつかり合い頑丈なはずの橋脚歪ませ異音を上げた。 交差から僅かな間をおいて正面からミサイルがストレイドとステイシスに襲い掛かる。 ホワイト・グリントがOB機動前に発射しておいたのだろう。 ステイシスは突撃ライフルを、ストレイドはMARVE突撃ライフルを掃射、ミサイルの七割を撃ち落すとステイシスはOBをカット、QTで180度機体を転回させホワイト・グリントに向かっていく。 一瞬の間をおいて遅れたストレイドがステイシスの後を追う為QBT、ストレイドの視界に映ったのは海面ぎりぎりを駆ける2機のネクストの姿だった。 「ホワイト・グリント、大げさな伝説も、今日で終わりだな」 ホワイト・グリントを追いかける状態のステイシスからMP―0901 PMミサイルが撃ち出され、5つのミサイルはホワイト・グリントへと迫っていく。 ホワイト・グリントはブーストで距離をとりながら海面に立ち並ぶ廃ビルに突撃ライフルを掃射、崩れ落ちるビルの残骸をMQBでさらに加速することで突破し、その後を追い残骸に突っ込んだ3発のミサイルは巻き込まれ爆発。 ホワイト・グリントはQBTで180度旋回、残り2発のミサイルは突撃ライフルに撃ち落され、廃ビルの間から発射された散布ミサイルがステイシスへと襲い掛かっていく。 分裂したミサイルはステイシスを覆うように向かっていくが寸前でMQBを点火、ミサイルはステイシスのすぐ後方でお互いに接触し爆発、だがステイシスとホワイト・グリントの間には分裂したミサイルの群れが迫っていた。 迎撃しようとステイシスが突撃ライフルを向けたとき横からの弾丸の掃射がミサイルを撃ち落としていく。 オッツダルヴァが視線を銃撃の方向に向けると追撃の遅れていたストレイドが割り込むように2機の戦闘に乱入、047ANNRライフルとMARVE突撃ライフルをホワイト・グリントへと向ける。 ライールとアーリヤは姉妹機であり、AMS負荷やEN消費の激しさはほぼ同じ、英雄ベルリオーズ・鴉殺しアンジュなど戦闘に長けたリンクスでなければまともに扱うことすら難しい代物。 レイレナードから引き抜かれたオッツダルヴァには、乱入してきたストレイドが一瞬シュープリスの姿に重なって見えた。 「ベルリオーズ…」 国家解体戦争の英雄ベルリオーズ、そして彼のネクスト シュープリス、ストレイドと同じく光の反射を抑える為のマッドブラックに染め上げられたアーリヤ、戦況に合わせあらゆる武装を使いこなす才能、当時訓練の最終段階に合ったオッツダルヴァにとってベルリオーズは目標であった。 そしていまでもその気持ちは変わっていない。 「ほう、案外使えるようだな。貴様」 オッツダルヴァは彼なりの賞賛を述べると意識を戦闘へと切り替え、ストレイド攻撃を巧みに利用しながらホワイト・グリントの隙を突いていく。 戦闘を見ていたセレンはホワイト・グリントの動きに違和感を覚えていた。 英雄と呼ばれたホワイト・グリントの動きが余りにも鈍い。 あの程度なら昔の私でも撃破出来ただろう。 いや、後輩のエイ=プールでも調子が良ければ単独で撤退くらいには持ち込めるかもしれない。 セレンには核心に近い答えが一つあった。 (AMS適正の低さによる高負荷と老いか) リンクスはコジマ粒子とAMSの精神的負荷によって短命だが、ローディーのように低いAMS適正でも十分な休息を取り、体内残留コジマ粒子の治療を受ければそれほど影響は恐ろしくは無い。 だが、ラインアークは違う。ホワイト・グリトントたった一機では十分な休みを取れない日々が続くこともあるはず。 「アナトリアの傭兵か。恐ろしい男だ」 低い適性の結果抉られ続ける精神によって引き起こされる体と精神の衰弱、コジマ粒子の影響、一人で何年間もラインアークを企業連から守り続ける為の代償。 たった一人でレイレナードの精鋭部隊とレイレナード本社壊滅させたのも頷ける。 (フィオナが羨ましいものだ) フィオナの為に命も人生も全てを捨てながら純粋に愛し、そして同じだけ愛せる価値のある男が目の前にいる。どちらにとっても幸せでありこの現実は残酷だろう。 フィオナを護る為にはアナトリアの傭兵はネクストに乗らなければならず、アナトリアの傭兵がネクストに乗る事はフィオナにとって悲しみであり苦しみとなっている。 レーザーバズーカがPAを失ったホワイト・グリントのコアに直撃し海上へと落下、機能を停止したホワイト・グリントはゆっくりと海中へと沈んでいく。 (親父達の言った伝説のレイヴンの話は夢物語なのか…) 伝説のレイヴン、最強の存在 イレギュラー、その象徴たる存在がランク1のリンクスに敗北し海中に沈もうとしている。 喪失感に襲われながらリンクスは海中に沈んでいくホワイト・グリントを橋の上から見下ろしていた。 「フィ ナ もう 君の」 突然の開放回線の通信、ノイズだらけで声も絶え絶えの為はっきりとは聞き取れない。 (ホワイト・グリントの通信、なのか?) 「ありがとう…レイヴン」 海上からは確認不可能な領域までホワイト・グリントは沈んでいく中、ホワイト・グリントの消えかけていたカメラアイが蒼く輝き傷だらけの機体がブーストで海面へと浮かび上がる。 「ホワイト・グリントの撃破を、いやまて!再起動だと!?ありえるのか。こんなネクストが!」 AMSが規定数値を下回ったにしろ、ダメージ限界を超えたにしろ、再起動などほぼ不可能なものだ。 ホワイト・グリントの蒼いカメラアイがストレイドのほうを向く。 今まで弱々しく有機的動きだったカメラアイは無機的に、機械的に動く。 まるで過去のACのように。 「伝説のレイヴン…か」 リンクスは恐怖を抑えようと歯を食いしばる。 だが恐怖が引く所か動こうとしないホワイト・グリントを見ているだけで冷や汗が流れ、得も知れぬ恐怖の感情に支配されていた。 「もはやホワイト・グリント…ではないな。アナトリアの傭兵に、レイヴンに戻ったか」 映像越しにでさえ伝わる冷たい殺気による恐怖がセレン・ヘイズを襲っていた。 過去にたった一度だけ相対したときに感じた恐怖、リンクス戦争を越えた今の彼女にはそれがなんなのか分かっている。 これは『気迫』だ。 それも尋常ではないほどの。 殺しをなんとも思わない凶暴性でも、天才的な戦闘センスでもなく、ただ産まれ持った『気質』が持てる気迫。 意思や性格とも言われる不安定かつデータ化もできない気質が、イレギュラーな存在となる事を許しそして強要する。 イレギュラーは常に争いの場に置かれ、互いに殺し合い、淘汰され、僅かなイレギュラーが生き残り、そしてその殆どが自制を失い自滅していく。 僅かな例外に当てはまるアナトリアの傭兵のようなタイプを除いて。 巣を護るために翼を広げるのを止め、緩慢な死を謳歌していた鴉が消え去った。 だが、死を敏感に感じ取り山猫さえも喰らい殺し続けた渡鴉、老い果て病に身を侵された白色の渡鴉が翼を広げ今まさに目の前の獲物を喰らい殺す為再び空へ戻ろうとしている。 「ホワイト・グリント、貴様に進化の現実って奴を教えてやろう」 オッルダルヴァは臆することなくホワイト・グリントへと襲い掛かっていくが、リンクスはホワイト・グリントの希薄に押されステイシスから数秒遅れて行動を開始した。 OBユニットを展開したステイシスとホワイト・グリントは橋脚とビル群の間を正気とは思えない速度で駆け抜け、鳴り響く銃撃音と崩れ落ちていく廃ビルだけが何が起きているか物語っている。 OB時の高速状態をいまだ制御しきれていないストレイドが追従できない中、ホワイト・グリントが先行し空に舞い上がるとステイシスが後を追い、2機は廃ビル郡を抜け空高く舞い上がっていく。 突然ホワイト・グリントはOBをカットしBQB点火、僅かに右へとブーストで機体を滑らせながら両肩のミサイルをバージ。 「しまった!」 オッツダルヴァが気付いた時にはFCSによって修正され、新たな物体に向けて撃ち出された突撃ライフル弾とビームがミサイルユニットを破壊していた。 内部に装てんされているミサイルが誘爆、連続した激しい爆発によって残骸が周囲にばら撒かれ、ホワイト・グリントの後を追っていたステイシスに襲い掛かる。 OBの高機動状態の目の前で発生したミサイルユニットの爆発によってPAを急激に失っていく。 「おのれ!ホワイト・グリント!」 爆炎を突破したオッツダルヴァの目に映ったのはステイシスを飲み込みながらエネルギーの奔流となって襲い掛かってくるAAの光だった。 襲ってくる爆発音と衝撃波が後を追いかけるストレイドに届いたときステイシスのブーストが消え海面へと落下していく姿がストレイドのカメラアイに映った。 「メインブースターが逝かれただと!狙ったか!ホワイト・グリント!よりによって海上で、クッ、駄目だ飛べん!」 「ステイシスがやられた…だと?」 早々にステイシスが戦闘不能となった通信内容を信じられないらしく、冷静なセレンから信じられないという言葉が発せられる。 いくら軽量化したとしてもACの補助ブースターだけで浮上はできない。冷静なオッツダルヴァとはまったく違う焦りが感じられる声が通信機から伝えられる。 「浸水?馬鹿な…これが私の最後というのか!?認めん。認められるかこんなこと…」 ランク1、カラード最強のオッツダルヴァが海中に没した。 「水没? 馬鹿なあの程度で。単機でやると言うのか」 過去何度も世界を変える力を持ったレイヴン達が「イレギュラー」と呼ばれていたことを、先天性戦闘好適者「ドミナント」であることを、そして紛れもなくその一人が目の前に存在して居る。 銃口を向けて今にもリンクスの命を奪おうと迫っていく。迫りくる死に絶叫を上げて逃げ出したい、 だがそれ以上に伝説のレイヴンと戦える事にリンクスは狂喜していた。だが、操縦技能・戦術眼・戦闘経験、どれをとってもリンクスが伝説のレイヴンに敵うわけがない。 ホワイト・グリントは通常ブーストで左右に機体を振り、たまにQBを使用しているだけなのだがストレイドの放つ弾丸は霧を掴むかのように空を切るだけだ。 だが、ストレイドもただトリガーを引いているわけではない。 フェイントを織り交ぜ先を読まれにくくしているが、いとも簡単に先を読み回避しながら精密かつ冷酷な銃撃がストレイドのPAと装甲を抉り取っていく。 「ストレイドの先を予測しているのか!?化け物かあいつは!?」 彼女はリンクスに充分に訓練を積ませた。 高速機動戦闘も戦術も教えた。 それ故に彼女のシリエジオとは比べ物にならないほどリンクスは高速機動を可能としている。 動きを予測したとしても計算どおりの回避と銃撃を与えられるわけがない。 海面や橋を高速で駆けずり回っているがアーリヤ全体に無数の弾痕が穿たれもはや結果は見えていた。 だが、それでも喰らい付いていくかのようにホワイト・グリントに襲い掛かっていく。 「撤退しろ!聞こえているのか!」 奴は自分が誰だかさえ解っていないことにうすうす気付いていたが通信機に怒鳴り続けた。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); ---- **コメント [#u7a1f664] #comment(below) ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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#setlinebreak Written by 独鴉 ---- WG戦中篇です 前編18.3 後編18.9となります ---- ホワイト・グリント撃破中編・・・ ラインアーク橋上に降り立ったステイシスとストレイドはホワイト・グリントの到着を待った。 ノーマルACとMT部隊は先行した通常軍を追い払う為に出払っている。 ただ静かなときがゆっくりと過ぎていく。 その静寂を破ったのはオッツダルヴァの声だった。 「準備できているか、貴様。まぁ、空気でもかまわんがな」 どうやらオッツダルヴァはストレイドの援護など不要だと言いたいのだろう。 確かに他の上位ランクリンクスならまだしも、ストレイドはいまだランクは低い。 「一人で勝てるのなら自分は呼ばれないと思いますが」 「まぁいい、死にたくなければせいぜい気を張ることだな」 ストレイドに向けられたオッツダルヴァなりの気休めの言葉、僅かだが通信機から伝わる声に緊張感が隠れていることをセレンは読み取り、オッツダルヴァもかつてない強敵に緊張しているのだろうと考えていた。 「こちらホワイト・グリント、オペレーターです」 開放回線に突然割り込んできた女性の声、ラインアークからの通信だ。 そしてカメラアイでぎりぎり捕らえられる最大レンジだが、OBを停止させ特徴的なOBユニットを格納しながらゆっくりと橋上に白いネクストが降り立つ姿が映る。 「あなたたちはラインアークの主権領域を侵犯しています。速やかに退去してください。さもなければ実力で排除します」 「フン。フィオナ・イェルネフェルトか。アナトリア失陥の元凶が何を偉そうに」 オッツダルヴァの言葉に怒りのようなものが込められている。 そうリンクスは感じたが、戦闘中であるため記憶にしまいこみ自らの意思を戦闘に集中させる。 「どうしても、戦うしかないのですね」 戦闘開始と同時にホワイト・グリントに向かってステイシスとストレイドはOBで急加速、同じくOBを起動したホワイト・グリントと橋上ですれ違い、音速の衝撃波がぶつかり合い頑丈なはずの橋脚歪ませ異音を上げた。 交差から僅かな間をおいて正面からミサイルがストレイドとステイシスに襲い掛かる。 ホワイト・グリントがOB機動前に発射しておいたのだろう。 ステイシスは突撃ライフルを、ストレイドはMARVE突撃ライフルを掃射、ミサイルの七割を撃ち落すとステイシスはOBをカット、QTで180度機体を転回させホワイト・グリントに向かっていく。 一瞬の間をおいて遅れたストレイドがステイシスの後を追う為QBT、ストレイドの視界に映ったのは海面ぎりぎりを駆ける2機のネクストの姿だった。 「ホワイト・グリント、大げさな伝説も、今日で終わりだな」 ホワイト・グリントを追いかける状態のステイシスからMP―0901 PMミサイルが撃ち出され、5つのミサイルはホワイト・グリントへと迫っていく。 ホワイト・グリントはブーストで距離をとりながら海面に立ち並ぶ廃ビルに突撃ライフルを掃射、崩れ落ちるビルの残骸をMQBでさらに加速することで突破し、その後を追い残骸に突っ込んだ3発のミサイルは巻き込まれ爆発。 ホワイト・グリントはQBTで180度旋回、残り2発のミサイルは突撃ライフルに撃ち落され、廃ビルの間から発射された散布ミサイルがステイシスへと襲い掛かっていく。 分裂したミサイルはステイシスを覆うように向かっていくが寸前でMQBを点火、ミサイルはステイシスのすぐ後方でお互いに接触し爆発、だがステイシスとホワイト・グリントの間には分裂したミサイルの群れが迫っていた。 迎撃しようとステイシスが突撃ライフルを向けたとき横からの弾丸の掃射がミサイルを撃ち落としていく。 オッツダルヴァが視線を銃撃の方向に向けると追撃の遅れていたストレイドが割り込むように2機の戦闘に乱入、047ANNRライフルとMARVE突撃ライフルをホワイト・グリントへと向ける。 ライールとアーリヤは姉妹機であり、AMS負荷やEN消費の激しさはほぼ同じ、英雄ベルリオーズ・鴉殺しアンジュなど戦闘に長けたリンクスでなければまともに扱うことすら難しい代物。 レイレナードから引き抜かれたオッツダルヴァには、乱入してきたストレイドが一瞬シュープリスの姿に重なって見えた。 「ベルリオーズ…」 国家解体戦争の英雄ベルリオーズ、そして彼のネクスト シュープリス、ストレイドと同じく光の反射を抑える為のマッドブラックに染め上げられたアーリヤ、戦況に合わせあらゆる武装を使いこなす才能、当時訓練の最終段階に合ったオッツダルヴァにとってベルリオーズは目標であった。 そしていまでもその気持ちは変わっていない。 「ほう、案外使えるようだな。貴様」 オッツダルヴァは彼なりの賞賛を述べると意識を戦闘へと切り替え、ストレイド攻撃を巧みに利用しながらホワイト・グリントの隙を突いていく。 戦闘を見ていたセレンはホワイト・グリントの動きに違和感を覚えていた。 英雄と呼ばれたホワイト・グリントの動きが余りにも鈍い。 あの程度なら昔の私でも撃破出来ただろう。 いや、後輩のエイ=プールでも調子が良ければ単独で撤退くらいには持ち込めるかもしれない。 セレンには核心に近い答えが一つあった。 (AMS適正の低さによる高負荷と老いか) リンクスはコジマ粒子とAMSの精神的負荷によって短命だが、ローディーのように低いAMS適正でも十分な休息を取り、体内残留コジマ粒子の治療を受ければそれほど影響は恐ろしくは無い。 だが、ラインアークは違う。ホワイト・グリトントたった一機では十分な休みを取れない日々が続くこともあるはず。 「アナトリアの傭兵か。恐ろしい男だ」 低い適性の結果抉られ続ける精神によって引き起こされる体と精神の衰弱、コジマ粒子の影響、一人で何年間もラインアークを企業連から守り続ける為の代償。 たった一人でレイレナードの精鋭部隊とレイレナード本社壊滅させたのも頷ける。 (フィオナが羨ましいものだ) フィオナの為に命も人生も全てを捨てながら純粋に愛し、そして同じだけ愛せる価値のある男が目の前にいる。どちらにとっても幸せでありこの現実は残酷だろう。 フィオナを護る為にはアナトリアの傭兵はネクストに乗らなければならず、アナトリアの傭兵がネクストに乗る事はフィオナにとって悲しみであり苦しみとなっている。 レーザーバズーカがPAを失ったホワイト・グリントのコアに直撃し海上へと落下、機能を停止したホワイト・グリントはゆっくりと海中へと沈んでいく。 (親父達の言った伝説のレイヴンの話は夢物語なのか…) 伝説のレイヴン、最強の存在 イレギュラー、その象徴たる存在がランク1のリンクスに敗北し海中に沈もうとしている。 喪失感に襲われながらリンクスは海中に沈んでいくホワイト・グリントを橋の上から見下ろしていた。 「フィ ナ もう 君の」 突然の開放回線の通信、ノイズだらけで声も絶え絶えの為はっきりとは聞き取れない。 (ホワイト・グリントの通信、なのか?) 「ありがとう…レイヴン」 海上からは確認不可能な領域までホワイト・グリントは沈んでいく中、ホワイト・グリントの消えかけていたカメラアイが蒼く輝き傷だらけの機体がブーストで海面へと浮かび上がる。 「ホワイト・グリントの撃破を、いやまて!再起動だと!?ありえるのか。こんなネクストが!」 AMSが規定数値を下回ったにしろ、ダメージ限界を超えたにしろ、再起動などほぼ不可能なものだ。 ホワイト・グリントの蒼いカメラアイがストレイドのほうを向く。 今まで弱々しく有機的動きだったカメラアイは無機的に、機械的に動く。 まるで過去のACのように。 「伝説のレイヴン…か」 リンクスは恐怖を抑えようと歯を食いしばる。 だが恐怖が引く所か動こうとしないホワイト・グリントを見ているだけで冷や汗が流れ、得も知れぬ恐怖の感情に支配されていた。 「もはやホワイト・グリント…ではないな。アナトリアの傭兵に、レイヴンに戻ったか」 映像越しにでさえ伝わる冷たい殺気による恐怖がセレン・ヘイズを襲っていた。 過去にたった一度だけ相対したときに感じた恐怖、リンクス戦争を越えた今の彼女にはそれがなんなのか分かっている。 これは『気迫』だ。 それも尋常ではないほどの。 殺しをなんとも思わない凶暴性でも、天才的な戦闘センスでもなく、ただ産まれ持った『気質』が持てる気迫。 意思や性格とも言われる不安定かつデータ化もできない気質が、イレギュラーな存在となる事を許しそして強要する。 イレギュラーは常に争いの場に置かれ、互いに殺し合い、淘汰され、僅かなイレギュラーが生き残り、そしてその殆どが自制を失い自滅していく。 僅かな例外に当てはまるアナトリアの傭兵のようなタイプを除いて。 巣を護るために翼を広げるのを止め、緩慢な死を謳歌していた鴉が消え去った。 だが、死を敏感に感じ取り山猫さえも喰らい殺し続けた渡鴉、老い果て病に身を侵された白色の渡鴉が翼を広げ今まさに目の前の獲物を喰らい殺す為再び空へ戻ろうとしている。 「ホワイト・グリント、貴様に進化の現実って奴を教えてやろう」 オッルダルヴァは臆することなくホワイト・グリントへと襲い掛かっていくが、リンクスはホワイト・グリントの希薄に押されステイシスから数秒遅れて行動を開始した。 OBユニットを展開したステイシスとホワイト・グリントは橋脚とビル群の間を正気とは思えない速度で駆け抜け、鳴り響く銃撃音と崩れ落ちていく廃ビルだけが何が起きているか物語っている。 OB時の高速状態をいまだ制御しきれていないストレイドが追従できない中、ホワイト・グリントが先行し空に舞い上がるとステイシスが後を追い、2機は廃ビル郡を抜け空高く舞い上がっていく。 突然ホワイト・グリントはOBをカットしBQB点火、僅かに右へとブーストで機体を滑らせながら両肩のミサイルをバージ。 「しまった!」 オッツダルヴァが気付いた時にはFCSによって修正され、新たな物体に向けて撃ち出された突撃ライフル弾とビームがミサイルユニットを破壊していた。 内部に装てんされているミサイルが誘爆、連続した激しい爆発によって残骸が周囲にばら撒かれ、ホワイト・グリントの後を追っていたステイシスに襲い掛かる。 OBの高機動状態の目の前で発生したミサイルユニットの爆発によってPAを急激に失っていく。 「おのれ!ホワイト・グリント!」 爆炎を突破したオッツダルヴァの目に映ったのはステイシスを飲み込みながらエネルギーの奔流となって襲い掛かってくるAAの光だった。 襲ってくる爆発音と衝撃波が後を追いかけるストレイドに届いたときステイシスのブーストが消え海面へと落下していく姿がストレイドのカメラアイに映った。 「メインブースターが逝かれただと!狙ったか!ホワイト・グリント!よりによって海上で、クッ、駄目だ飛べん!」 「ステイシスがやられた…だと?」 早々にステイシスが戦闘不能となった通信内容を信じられないらしく、冷静なセレンから信じられないという言葉が発せられる。 いくら軽量化したとしてもACの補助ブースターだけで浮上はできない。冷静なオッツダルヴァとはまったく違う焦りが感じられる声が通信機から伝えられる。 「浸水?馬鹿な…これが私の最後というのか!?認めん。認められるかこんなこと…」 ランク1、カラード最強のオッツダルヴァが海中に没した。 「水没? 馬鹿なあの程度で。単機でやると言うのか」 過去何度も世界を変える力を持ったレイヴン達が「イレギュラー」と呼ばれていたことを、先天性戦闘好適者「ドミナント」であることを、そして紛れもなくその一人が目の前に存在して居る。 銃口を向けて今にもリンクスの命を奪おうと迫っていく。迫りくる死に絶叫を上げて逃げ出したい、 だがそれ以上に伝説のレイヴンと戦える事にリンクスは狂喜していた。だが、操縦技能・戦術眼・戦闘経験、どれをとってもリンクスが伝説のレイヴンに敵うわけがない。 ホワイト・グリントは通常ブーストで左右に機体を振り、たまにQBを使用しているだけなのだがストレイドの放つ弾丸は霧を掴むかのように空を切るだけだ。 だが、ストレイドもただトリガーを引いているわけではない。 フェイントを織り交ぜ先を読まれにくくしているが、いとも簡単に先を読み回避しながら精密かつ冷酷な銃撃がストレイドのPAと装甲を抉り取っていく。 「ストレイドの先を予測しているのか!?化け物かあいつは!?」 彼女はリンクスに充分に訓練を積ませた。 高速機動戦闘も戦術も教えた。 それ故に彼女のシリエジオとは比べ物にならないほどリンクスは高速機動を可能としている。 動きを予測したとしても計算どおりの回避と銃撃を与えられるわけがない。 海面や橋を高速で駆けずり回っているがアーリヤ全体に無数の弾痕が穿たれもはや結果は見えていた。 だが、それでも喰らい付いていくかのようにホワイト・グリントに襲い掛かっていく。 「撤退しろ!聞こえているのか!」 奴は自分が誰だかさえ解っていないことにうすうす気付いていたが通信機に怒鳴り続けた。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); ---- **コメント [#u7a1f664] #comment(below) ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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