ミッション開始。
年齢制限を破る、未成年を排除する。
大人ぶったところで、所詮子供の浅知恵程度が関の山だ。
騙しとおせるものではない。
読むのすら論外だ。わかっているな。
Written by ケルクク
あいつの顔はどんなだったろうか?
あいつの声はどんなだったろうか?
あいつの体はどんなだったろうか?
そもそもあいつの名前は何だった?
全て思い出せない。
いや、ただ一つだけ覚えている事がある。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
ここはこの世の掃き溜め。行き止まり。
流れ流れた者達が辿り着く最後にして最期の楽園。
楽園の住人の資格は唯一つ。
狂気にその身を委ねる事。
****
狂宴が開かれていた。
十メートル四方の狭い部屋。
その中で老若男女あわせて二十名ほどが絡み合っていた。
年齢・人種・体格あらゆる面で違う彼らだったが共通点が唯一つだけあった。
それは正気を失っている事。
皆正気を失い、言葉を失い、意思を失いただ快楽だけを追い求める獣となっていた。
そんな中で唯一人、言葉も意思も失わ無い者がいた。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
男は鼻歌を歌いながら十歳程度の少年を貫きながら、老婆と口付けをかわす。
そして男は老婆の舌を食い千切ると持っていた注射器を少年の首筋に刺す。
注射された少年は狂ったように快楽の叫びを上げると涎を垂らしながら上下運動を増す。
臀部は裂け出血しているにも関わず激しく動く少年を見ながら男は楽しそうに嗤い、ドアを開けて入ってきた侵入者に目を向けた。
「どうしたぁ?」
「ボス、お楽しみの所申し訳ありませんが副団長からの連絡です。どうします?待たせますか?」
「いや、繋げ。そろそろだと思ってたからな」
「へい。少々お待ちを」
男は無粋な侵入者が出て行ったのを見ながら近くにいた二十代の女を抱き寄せ、首筋に注射器を突き立てた後、口付けをかわしながら局部に左手を突っ込んだ。
一瞬痛みに悲鳴を上げた女だが、直ぐに薬が回り嬌声を上げながら肘まで埋まった腕をさらに埋めようと体重をかけていく。
男の腕が子宮を貫き破壊し、さらに内臓を破壊していく快感に口から血を吐き出しながらよがる女。
男は女が吐き出す血を飲みながら小腸に指を突き刺し膀胱を握り潰す。
「何をしているオールド・キング。クレイドル23の占拠はどうなったのだ?」
死に至る快感に喘ぐ女を弄びながら男は侵入者が持ってきた通信機に目を向ける。
「とっくに上手く行ったさ。ターミナルを落として部下を揺り籠に上げた。現在その戦利品で楽しんでいる最中だ。ん?ようやく効いてきたか」
男は痙攣するばかりで動かなくなった少年を床に捨てると、左手を女から引き抜き、いきり立つ自らを女の眼球に突き立て、激しく動き始めた。
「それは結構だ。だが楽しんでいる所を悪いがもう一働き」
「ああ、解ってる。慌てふためいたカラードが首輪付きをVOBで上げてきたんだろう?」
男は通信しながら侵入者に合図をして絡み合う二十代半ばの青年と十代半ばの少女を引き寄せ、二人の首筋に注射器を突き立てる。
「………その通りだ。情報が早いな。その為計画を変更する。お前は」
「直ちにクレイドルに向かい障害を排除した後に当初の計画に従いクレイドルを墜とせ。それとも他のクレイドルにぶつけろか?
墜とすなら先はウルナ。ぶつけるなら08てところか」
男は嗤いながら女の脳を搔き回し、青年に貫かれ、少女から送り込まれる唾液を飲んでいく。
「ウルナだ。解っているのなら」
「予定時間まではまだ時間がある。そんなに焦りなさんな。
お前にもこいつをくれてやろうか?最高にいい気分になれるぜ?もっとも直に射てば廃人確定だからこうして他人に射って粘膜で摂取しなけりゃならんがな?」
「結構だ。相手はストレイドだ。油断だけはするなよ。では人類に黄金の時代を」
通信が切れる。
「ストレイドねぇ。成程。こいつはいい」
男は嗤い、腰を激しく使って女の脳を破壊していく。痙攣し意味のない絶叫を上げながら死にいたる快感を貪る女。
「ああ、最高だ。いい締め付けだ。そうだなぁ。試してみるか。くっ」
男が達すると同時に女は両目から血と精液と脳漿の混合液吐き出し瞳から命の輝きがいえる。
男は痙攣する女をそのまま床に放り出し、達しても未だ力を失わない自らを少女の膣に突き立てそのまま動きだす。
そして腰を動かしながら男は腰につけていたボトルを逆さにし少女に振りかけていく。
少女は自らにかけられた液体がガソリンだと知らずにただひたすらに快楽を貪っていく。
それを見て男は嗤いながら少女に火を点けた。
全身を燃やされる苦痛すら快楽に変え、さらに快楽を貪ろうと激しく動く少女。
男はそんな少女に中に欲望を吐き出すと少女を蹴り倒し、ゆっくりと出口へと向かう。
男は部屋から出る寸前、少女から燃え広がった炎が周りや自らを包もうと構わず快楽を貪る自分以外の楽園の住人達を見て嗤い、鼻唄を歌いながらその場を後にした。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
あいつと出会ったのは多分イクバールのリンクス養成所だ。
どんな出会いをしたか忘れたし、どんな話をしたのかも忘れたが俺達は恋に落ちた。
俺はリンクス候補生、あいつは確か唯の清掃員だった筈だ。
身分違いもいい所だがそれでも俺達は暇を見つけては抱き合い愛し合い語り合った。
俺が唯一つ覚えている鼻唄もあいつがいつも歌っていたからだ。
ああ思い出した。この癖はあいつに移されたんだ。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
「こら!動くな!じっとしていろ!!」
「やだよ~。目に入ったらいてぇもん!せめて水にしてくれよ!」
「冷たいからいやだ!!痛いなら目を潰れ!!」
シャワーから逃れようともがく少年を抑えつけながら、少年に纏わりついた耐Gジェルを流していく。
「まったく、もういい加減子供じゃないんだからシャワーぐらい一人で浴びれるようになれ!!」
「一日やそこら風呂に入らなくても死にはしないからいいじゃん」
「耐Gジェルを付けたままだと臭いだろうが!!!」
髪、顔、上半身、下半身の順に念入りに洗っていく。
全裸に無骨な首輪の十代半ばの少年となればインテリオル魂が疼き悪戯(セクハラ)がしたくなりそうなものだがいい加減三年以上も風呂の度にこんなやり取りを続けると何も感じなくなる。
だから乱暴に耐Gジェルを削ぎ落した後、全身にソープの泡を点けたままの少年を湯船に放り込み、自分も汗を流す為に軽くシャワーを浴びる。
「ちゃんと千まで数えろよ?」
「へいへい、い~ち、に~」
律儀に数を数える少年を横目で観察しながら自らの身体を流れるシャワーの水で肌年齢を確認する。
よし、大丈夫。
そのまま入念に髪とお肌のケアを開始する。
それが終わったると何時ものように丁度少年が1000数え終わったのでそのまま二人して更衣室に行き、これまた濡れたまま全裸で外に跳び出そうとする少年を叱りつけ服を着せて外に出る。
「あ~、疲れた。とっとと、部屋帰って休もうぜ」
「その前に今日の反省会だ」
「うげ、勘弁してくれよ。明日でいいじゃん明日で」
「………今日出来る事は?」「今日終わらせるのが良いリンクス」
「なら解っているな?」
「へ~い」
項垂れる少年を周りを行き交う研究者や職員達がクスクス笑う。
それは馬鹿にしているのではなくどちらかというと微笑ましいといった笑みなのだがそれでも自分の事のように頬が熱くなる。
「ほら!さっさといくぞ!!」
少年を引き連れ予約してあった会議室に行き、席に着きディスプレイを起動する。
少年は画面に表示されるグラフや数字を一瞥するが直ぐに興味を失い、欠伸を始める。
「ちゃんと、見ろ」
少年の頭に拳骨を落とす。
「痛て!だって~、何書いてるかわかんね~だもん。でもいい感じじゃね?VOBの使い方がようやく解ってきた感じ?」
「確かに最初に比べればマシになった。だが気絶した最初を基準にするな!!」
「まぁまぁ、落ちつけよババァ。あんまり怒ると小皺が増えるぜ?ケケケ」
ケタケタ嗤う少年に微笑み、少年の急所を握りしめる。
「うぎいぃい~~~!!!ちょっと、待ったババァ!いや、セレンさん!セレン姉様!!!潰れる!潰れる!!」
「ま じ め に や れ」
「はいぃいっぃぃい!!!」
「まったく」
溜息を吐きながら少年の下半身を放し、ディスプレイに目を落とす。
しかし、成長したな。大きくなったし硬くなった。いや、違う。VOBの使い方だ。うん、上手くなった。
最初の様に意識を失う事も、朦朧とする事もなくなりきちんとVOBとネクストを制御出来ているようになっている。
なにせ最初のVOB使用ミッションであるスフィア侵攻部隊反転迎撃では、簡単なシュミレーションで使い方を学んだだけという事もあり、VOBが加速し始めた直後に失神。
その後は私が何とか遠隔操作でコントロールしてスフィア前の丘に激突させてその衝撃で目を覚まさせた為、ミッションは失敗しなかったしこいつも無事に帰って来た。
次のVOB使用ミッションであるAFギガベース撃破では気絶こそしなかったがやはり集中力が足りなかったためVOBの異常の感知が遅れ危うくVOBと共に爆散するところだった。
まぁそれについてインテリオルに『抗議』をしたら、詫び料+次のミッションまで貰えたのだからよしとしよう。
抗議に行く時にシリエジオに乗っていた甲斐があったという物だ。
もっともVOBのテストに付き合わされる破目になったが、まぁそれも慣れるという意味では悪くない。カラードのシュミレ―ターはGもかからないから訓練にならんしな。
それにここ数日の成長は賞賛に値する。そうだな。ご褒美ぐらいはあげてもいいか。
目に?マークを浮かべながら数字とグラフを追いかけている少年の頭に手を置く。
「確かにここ数日の上達には目を見張るものがある。
だがそれを感覚だけで理解するな。最後に信じるのは感覚だが、感覚だけの理解は危険だ。今は解らなくてもいいからとにかく数字とグラフを眺めておけ。
それが終わったら感想と纏めをして今日は終わりにしよう」
「へ~い」
「私はアイスを買ってくる。それまで見ておけ。何味が良い?」
「バニラ!!いや、やっぱりチョコ!!いやバニラにしようか、でもチョコのほうが。う~ん、どうしよう??」
先程までと違い真剣に考え込む少年に苦笑し、頭を撫でまわし髪をくしゃくしゃにする。
「バニラにしておけ。それで私はチョコを買ってくるから半分こにしよう」
「おお!!ババァ賢い!!!それでいこう!!!」
「それじゃぁ、買ってくるからちゃんと見ておけよ?」
「ウィ!ババァ!早く早く!!」
「はいはい」
「あ~、腹痛かった」
「私の分まで食べるからだ」
「だって~、美味しそうだったんだもん」
「美味しそうだったんだもんじゃない!体調管理は基礎の基礎と教えただろう!まったく」
トイレから出てきた少年の頭に拳骨を落とす。
「痛て!!ったくそんな心配せんでも大丈夫だよ。誰かさんと違って若いんだし」
「ほ~う、是非その誰かさんの名前を聞きたい所だな?」
「え~と、そのお休み!!ババァも早く寝ろよ!若くないんだからさ!!!」
捨て台詞と共に寝室に逃げ込もうとした少年をギリギリの所で捕まえそのままヘッドロックをかけ、妄言に対する罰を与える。
「誰が、若くないだぁぁあああ!!!!」
「あがっがががが!!!ちょっとババァ!!マジ入ってるって!ギブギブ!!セレンさんは若いです!!もうメイ姉ちゃんに匹敵します!!」
「ならいい」
めでたく少年が自らの間違いを認めたので許してやる。
「たく。死ぬかと思ったぜ。まぁいいや。お休み、バ…セレンさん」
「待て」
「なっなんだよ!最後まで言ってないだろうが!!」
「違う。寝る前に首輪を外していけ」
怯える少年に溜息を吐き、無骨な首輪を示す。
この無骨な首輪は思春期特有の痛いファッションでもなく、私の趣味でもなく医療器具である。
少年は重度のコジマ汚染で五感の内、視覚と聴覚以外を失っており、失った味覚と触覚と臭覚をこの首輪が補完しているのだ。
何でも元々はAMSを民生用に使おうとしていた時代に作られた一品で、負荷が高過ぎて並みの人間はおろか並みのリンクスでも使えない代物なのだが幸か不幸か少年はAMS適性だけは異常に高いので平気らしい。
とはいえ、付けっぱなしにしておくと脳が休まらないので寝る時は外すように医者に強く言われているのだが、
「え~、やだよ。これつけると身体が無くなるみたいなんだもん!!」
と嫌がる時がある。
最初は情理を尽くして説得したり強引に力尽くで外していたのだが、何を言っても「ちゃだ!!」としか言わないし、本気で抵抗するのでいつの頃からか合理的な手段、つまり交換条件を取る様になった。
その条件を果たす為に溜息を吐いて、寝巻代わりのシャツを脱ぎ捨て上半身裸になり、ソファーに腰掛ける。
「仕方ないな、ほら」
興奮に踊る内心を悟られない様に気だるげな表情を取り繕う。
「さすが!話が解る!!」
少年が歓声を上げ私の隣に座り露わになった胸を揉み始める。
「ん」
少年の外見に合わない巧みな攻めに思わず熱い吐息が漏れ、そこに少年が唇を合わせてくる。
侵入してきた舌を拒否するように歯を閉じていると、侵入してきた舌は開けて開けてというように歯をノックし歯茎と唇の裏を舐めていく。
仕方なく歯を開けてやると少年の舌は喜び勇んで口内に侵入し、暴れ回るので嗜める様に私は舌を絡ませる。
すると少年は一人ではしゃいでいた事を詫びる様に濃厚に絡みつき返して来たので、私達は暫く濃密に絡み合う。
少年が私を弄んでいたのは口だけではない。
舌で交わっている間も右手で私の乳房を弄びながら、左手で背骨をなぞったり鎖骨の上で円を書いたりと好奇心の赴くままに私の身体で遊び続ける。
私は何もしない。両手をソファーの背に掛け少年が私で遊びやすい様にしているだけだ。
これが私が自分に課したルール。少年が求めない限り自分からは何も行わない。
それがギリギリの妥協点。私以外は何の意味もない、私が親子とも恋人とも師弟とも姉弟とも違う少年との関係を持続させる為の歪で醜い妥協。
もう少年を拾って三年にもなるのに未だに少年の名前を付けていないのと同じ卑劣な行為。
嫌になる。
自己嫌悪を忘れる為少年が齎す快楽に集中する。
少年が唇を放し悪戯っ子の様に舌を突き出したので、チューと吸ってやる。
チュポンと離し、今度は突き出した私の舌を少年が吸う。
そしてやはりチュポンと離すとまた唇を合わせ、唾液を送り込んできたので飲み込んでやる。
そして頃合いを見て今度は私の唾液を送り、少年が飲む。
そんな唾液の交換をやっていると少年が私の右手を取り自らの股間に導いたので優しく扱いてやる。
「ああ、いい!ババァ、そろそろ、イデ!!」
「ババァ、言うな。優しくしてくれよ」
「努力する」
少年の妄言に袋を抓ってやり、悲鳴をあげた少年に頼みこむ。
そして少年は私の懇願を聞き届けると唇を放し私の全身を舐め回し、時に甘噛む。
少年の舌の熱い感覚と、甘噛みされる事による軽い痛みと供に来る痺れる様な甘い快感に全身に鳥肌が立つ。
少年の左手が私のぐっしょり濡れた股間に入り、親指で核を器用に剥かれ転がされ残りの四本で内部を蹂躙される。
「ああ!!くぅう!!」
噛み殺していた喘ぎ声が遂に抑え切れなくなり口から洩れ、私は自らの限界が近い事を教える為に少年を扱く速度を上げる。
少年がそんな私を見て目だけで嗤い、全身を舐め回すのを止め左の鎖骨の第二骨の部分を二度甘噛みする。
合図だ。今夜はそこか。
私は許しが出たことに安堵し扱くスピードを一気に上げ、少年は私を昇らせるべく両手の動きを激しくする。
「あぁあ~~~~!!!」
突然下半身を襲った暴力的な快感に悲鳴とも嬌声ともつかない叫びが漏れる。
少年が左手を手首まで私の膣の中に入れたのだ。
そのまま少年が手を出し入れする。
「あぁああぁあ!!!ああ!」
その度にもはや暴力的といってもいい程の快感に押し流され頭が真っ白になる。
「くいぃいい~!!」
もはや声を殺そうなど考える余裕はない。
定期的に膣から送られてくる衝撃に合わせ、私は快感の余り涎と涙と鼻水を垂らしながらよがり狂う。
「いいぜぇ、ババァ。可愛いよ」
誰かに嗤われた様な気がしたがもはやそれどころではない。
壊れる!壊れてしまう!壊されてしまう!!!
私はそれに抵抗する為にあるいは受け入れる様に右手を激しく上下させる。
ここも熱い。下腹と同じように熱い。あるいは私の身体はとっくに壊されて膣と右手しかないのかもしれない。
「いぁあぁあ!!!!!」
突然、胸の先端を襲った衝撃に体が跳ねる。噛まれたんだ。よかった。まだ、胸もある。
「っと、やり過ぎた。これ以上やったら壊れちまうな。子宮引っ掻いてあげるからイけよ、ババァ」
何か聞こえた瞬間、膣に何かが深く差しこまれ最深部に達した瞬間何かが伸びて私の子宮を引っ掻く。
「!?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
声にならない絶叫をあげ仰け反った瞬間に何かが私の身体に噛みつき、私の肉を食い千切る。
「あぁぁあああぁあっああああぁあ!!!」
それが最後の一押しとなり私は絶頂を迎える。
「う~ん、それとババァの肉はやっぱり美味しいね~。これはお礼だよ。んじゃぁ、お休み~~」
荒い息を吐きぐったりとソファーに凭れかかる私に対し、私の肉を咀嚼し終えた少年は丁寧に私の傷口を舐め溢れ出る血を飲み、血がでなくなると私の顔にモノを押し付け射精する。
そして私の髪でモノを拭い、汚れた私を一瞥し嗤った後少年は首輪を外し私にキスをして寝室に消えていく。
よく見ると、全身汗まみれの私と違って少年は一切汗をかいていない。
「完全に遊ばれたか。ふふふ。くっくっくくくくくあははははああああはははあはははは!!」
何故か可笑しくなり嗤いが止まらなくなった。
扉が閉まる。
少年に食い千切られた脇腹がジクジクと痛む。
視界がぼやける。少年にかけられた精液が目に入ったのだ。
痛さを覚え手で拭ったが涙は後から後から湧き出てきた。
何時の間にか嗤いは嗚咽に変わっていた。
食人癖。PTSDの一種だそうだ。
あいつは私が拾うまでは廃墟で独りで生きてきた。
汚染の為まともな食糧どころか草一本、動物一匹すらいない場所で生きていくには付近を通りがかる人間を襲うしかなかったのだろう。
少年は人の肉を喰らってあの廃墟で生き延びてきたのだ。
そんな生活を長く続けてせいで少年は人間を餌としか認識できなくなっていた。
今でこそ見ず知らずの他人をいきなり殺しはしないが、保護した当初は腹が空くと私以外なら誰かれ構わず殺害し喰らおうとした。
異常なAMS適性という特異な才能が無ければ少年は危険人物としてすぐさま処分されたに違いない。
そして二年近く私と共に暮らし大分人間性が戻った今もその悪癖は治りきっていない。いやむしろ悪化したとすら言える。
少年は時折無性に人を食べたくなってしまう。
それは我慢すればするほど大きくなっていきそして堪え切れなくなった時に爆発する。
医者が言うにはフラッシュバックの一種だそうで何れ治るそうだが治るまで何らかの方法で抑えが必要だった。
それが毎日少しずつ私の肉を与える事。
獲物を喰らうというプロセスが重要らしくパックした人肉を与えるのでは意味がなく、あくまで人間から食い千切る必要がある事。
そして本当は人肉なら誰でもいいのだが私以外だと少年は食べ過ぎて殺してしまう場合がある為にこれは私にしかできない。
食べられる時に少年を射精させているのも喰う快感を性的快感と錯覚させるためだ。
医者が言うにはこれを続ければ何れ性的欲求を満たせば人を食べなくても我慢できるようになるらしい。
確かにそれが功を奏し少年はだんだん食べる量が減ってきている。
医者が言うにはあと数年続ければ完治するだろうとのことだ。
だから私は『しょうがなく』少年にその身を捧げている。
本当はこんな事をしたくないが『少年の為』なのだ。
そう自分を誤魔化している。
…反吐が出る。
何時までも泣いてばかりいられないのでしゃくりあげながら立ち上がり、傷の手当てをした後に部屋の後始末をして汗を流す為にシャワーを洗い流す。
そしてシャワーから出た後、自らの身体が未だ熱を帯びている事に気付き、やけくそ気味に慰めながら汗を拭く。
汗を拭き終わり、自分を慰めるというより苛めながら脱衣所から出てリビングに戻った所で立っていられなくなったのでソファーに身体を横たえようとした所で先程の情事の匂いを嗅ぎ取ったため避け、通信機の前の椅子に腰かけ、臆病な自分を罰する様に乱暴に続きを始める。
そして達する寸前、通信機に着信が入る。
無視しようかと思ったが相手がエイ=プールだった事と、このままだとイった後もう一度泣いてしまいそうだったので通信を取った。
「こんばんわ、スミカさん。一人でいるのは寂しいから連絡入れちゃいました~。慰めて下さ~い。って、既に自分を慰めてる最中ですか」
「その通りだ!くぅ!!」
何時もの調子で丁寧な口調で馬鹿をいう親友に見せつける様に達する。達した際に噴き出した潮がモニターに掛かり、親友を汚す。
「別に真っ最中なら急ぎじゃないんで後でも良かったですのに」
「真っ最中ならな。今はクールダウンしてただけだから別にかまわんさ。それになんとなく見せつけたい気分だったしな」
溜息を吐く親友に笑って答える。
もはや何度も身体を重ねている仲だし、この程度の事ならしょっちゅうとまではいかないがそれなりにあるのでお互い格別に慌てたりはしない。
もっとやばい事も一杯したしな。
「クールダウンって、相手は。あー!ツバメ君ですか!ズルイですよ~独り占めして!私も混ぜて下さいよ!!!」
「おいおい、私が育てた私のリンクスだぞ。ようやく美味しく育ったのを独り占めして何が悪い」
友人の軽口に軽口で返す。気分が晴れていくのが感じる。
助かったな。このままだとまた酒か薬に頼らないと眠れない所だった。やはり持つべきは友人だな。
「う~、それはそうですけどお零れぐらい下さいよ~。未成年の子とはもう十年以上してないんですよ~。くそう!私も光源氏しとけば良かった」
「ひかるげんじ?なんだそれは?」
「何でもシャッチョサーンの出身の古いアイドルで靴にローラーを付けて車道を爆走しつつ、チンチンポテトという魅力的なポテトの宣伝をしてたらしいですよ?」
「チンチンポテトか。名前を聞く限りでは素晴らしそうな商品だな。しかしそんな卑猥な物をアイドルが売るとは日本という国は凄かったのだな。流石ニンジャの国。しかしそのアイドルがなぜアイツと関係がある?」
「ああ、そのアイドルグループが所属していた会社は全国各地から魅力的な少年を集めて歌や踊りや寝技や忍法を仕込んで一人前の芸者に育てたそうです。
ただし当然裏がありまして少年がある程度育ったら何故かベットがある社長室に呼ばれまして、こう言われるらしいですよ。『デビューしたかったら解ってるね?』って。
この事から魅力的な少年を自分好みの性奴隷に育てて収穫する事を光源氏というらしいです」
「光源氏殆ど関係ないじゃないか。育てるのもアイドルか芸者か性奴隷かもわからんし。多分それどっかで情報ねじ曲がってるぞ?」
「そうですかね~?って話を逸らさないでくださいよ!!私をツバメちゃんと二人きりにさせる話はどうなったんですか!!」
「いつそんな話をした。そもそも二人きりになったら喰われるぞ?」
「食べられるですか~。最近攻めてばっかりなので受けに回るのもいいですね。親子ほどの年齢の子にヒィヒィ言わされちゃうなんてハァハァ」
性的な意味じゃなくて食事的な意味なんだけどな。無論このつっこみは口には出さないが。
まぁ、こいつには世話になってるし私も一緒にいれば大丈夫だろうから一度くらいはいいか。
「仕方ない。今度私達が犯ってる所を生で見せてやるから存分にオナっていいぞ。特別に動画でも保存させてやろう」
「だから何で美味しいところどりするんですか!!!ズルイです!!先輩はいつも何時もそうです!!
レイレナードとの懇親会の時も直ぐにベルリオーズさんを連れ出して!!!
それに第十七次巨貧戦争の時だって私に面倒なポイントを…」
ベルリオーズか。懐かしい名前だな。
延々と紡がれる文句を受け流しながら懐かしい顔を思い出す。
あいつはいい男だった。あらゆる意味で。紳士的でありながら野性味があり基本真面目だがジョークがわからんわけではない。
最強であったが驕らずかといって自らを卑下する事もなく自然と強者の風格を出していたな。
正直憬れていた。いや半ば恋していたといってもいいかもしれない。少なくとも惚れてはいた。
もしベルリオーズが愛妻家でなかったら、あるいはもう少し私が若ければ後先考えずに奪いに行っていただろう。
おかげであの夜は年甲斐もなく初めての小娘のように舞い上がってしまったものだ。
そのせいで普段は騙されないであろう冗談に引っかかってしまったな。アサルトセルか。まんまと引っかかったよ。
「先輩!!聞いてますか!私の話!!!」
「ん?ああ、すまん。まったく聞いてなかった。あの夜のことを思い出していたよ」
怒るのは分かっているがからかってしまう。悪い癖だな。
しかし、ノリが訓練生時代と変わらんな。変わらぬ友情と誇ればいいのかそれとも進歩がないと嘆けばいいのか。うーん、後者かな?
「くぅうっぅう!!!自分だけいい目を見た夜を思い出すなんてずるいです!!
私なんて一人寂しく瓦礫の山を片付けていたのにぃいい!!!」
「片付けって、お前あの夜は真改とよろしくヤってたんじゃないのか?」
「あ!まずぅう!!…ん~~、もう時効だからいいか。内緒にしといてくださいね」
一瞬顔をしかめるが直ぐにいつもの顔に戻り、口の前に指を一本立ててシーとやる。
「内緒って、お前何をやったんだ?それと年を考えろ」
「あ~~!!!歳のことは言わないでくださいよぉ!!それを言ったら自分はどうなんですか?まだ女なんですか?」
「そうか、エイ=プール久しぶりに霞スミカの本気が見たいか。いいだろう冥途の土産にNO16の強さを刻み込んでやろう」
意地の悪い笑顔を浮かべるエイ=プールに微笑んでやる。
「それはまた今度の機会ということで。
そっそれでですね!!あの夜何が起こったかといいますと、真改さんに麻痺薬を盛って部屋に連れ込んだのはいいんですが、剥いてる時に怒り狂ったアンジェさんが部屋に踏み込んできたんですよ。
まったく、催淫+睡眠薬を仕込んでやったのにどうやったんだか。それでその後はバールのようなものを振り回すアンジェさんと命懸けの追いかけっこですよ。私は3Pでもいいって言ったのに」
「それはあれだろ?当時から噂になってたじゃないか。アンジェが真改相手に中学生の恋愛をしているって」
汗をダラダラ流す親友が露骨に話をそらしてくるがそんなに怒ってないのでここは乗ってやる。今度あったら半殺しだがな。
ついでに通信機に緊急で入ってきた通信を切る。さらに、全部着信拒否と。
「あ~、いいんですか?怒られちゃいますよ?」
「いいんだよ。もうオフだ。それで追い掛け回されてどうしたんだ?」
「それで命からがらセーラちゃんとサーがゲームしている部屋に逃げ込んだんです。
そしたら怒り狂ったアンジェさんが蹴破ったドアの破片がたまたまセーラちゃんに当たりそうになっちゃいまして、
それに怒ったサーがアンジェさんを問答無用で殴り倒しちゃったんですよ」
「あちゃぁ~。それでどうなったんだ?」
今度は携帯通信機が鳴ったのでバッテリーを抜く。
「それで追い掛け回されたのに腹が立ったので皆を誘って気絶したアンジェさんの全身に落書きしてたんですが、そこに今度は真改さんが飛び込んできまして。
そしてあられもない姿になっているアンジェさんを見た瞬間に腰の剣を抜いて斬りかかってきたんです。
そこをサーが迎撃して後は二人の乱闘ですよ!!」
「ほう!!それはちょっと見てみたかったな」
感嘆しながら懐から出した拳銃で煩く私の呼び出しを続けるスピーカを撃ち抜く。
「ええ凄かったですよ!!最初は先読みの真改さんが有利だったんですけどサーがインテリオル流交殺法影門心技『火武訃』を使ってからはガチでしたよ!!
もう拳や剣で壁や地面を砂に変えるわ、壁はおろか天井まで利用してネクストばりの三次元戦闘を行うわ無茶苦茶でしたよ」
「砂にって。まさか最源流技の一つである神音を」
次を予測してドアに鍵とチェーンをかける。ついでにクローゼットをドアの前におく。
「ええ!しかも神移からの連続技でです!!でも真改さんも負けていませんでしたよ。超級武神覇斬や九頭竜閃を使って一歩も引きませんでした!!
そして三十分あまりの死闘の最後はサーのインテリオル流交殺法真陰流『神殺』と真改さんの星薙ぎの太刀がぶつかり合ったんです」
「それで!どうなったのだ!」
クローゼットの向こうから私を呼びかける声に「ここには誰もいない!」と叫び続きを促す。
「あまりの技の威力に真改さんの刀が負けて折れてしまったんです。
でも止めをさそうとしたサーに一瞬早く真改さんが折れた剣を喉に突きつけたんです。
そこからは硬直ですよ。
真改さんが少しでも動けばサーは真改さんの頭を砕くでしょうし、サーが少しでも動けば真改さんはサーの喉に剣を突き刺すでしょう。
そして空気が凍りつくような緊張感についに耐え切れなくなったサー」
「セレン・ヘイズ!!!!緊急通信に答えないとは何を考えている!!至急第一会議室に来い!!!」
「断る。今日の仕事はもう終わりだ。八時間後に出直すんだな」
鍵をこじ開け、チェーンを焼ききり、クローゼットを蹴り倒して入ってきた無粋で無礼な侵入者を睨み付ける。
ムサイ大男か。タイプじゃないな。興味を失った私とは対照的にこの手のタイプが好みで「うわぁ~、美味しそう」と涎を垂らしている親友に向きなおり「で?それからどうなったんだ」と続きを促す。
「ふざけるな!!貴様何様のつもりだ!!!緊急の依頼だと言っているだろう!!」
大男が私の腕を掴み上げる。
「断る。それと離せ」大男の眉間に拳銃を突きつける。
「貴様!!何をしているのかわかっているのか!!」
大男は拳銃に怯えず腕も離さずに私を怒鳴りつける。
気に入らんな。本当に撃ってやろうか。
「何を苛々しているのかわからないけど落ち着いてください!先輩!!!あ!もしかして女の子の日ですか?まだ女だったんですね。おめでとうございます」
私が本気ということに気付き気を逸らそうとする親友の言葉を無視して大男に嗤いかける。
「どちらの事か知らんがどちらも十分にわかっているぞ。
依頼の受諾の決定権はこちらにあるのだから受けなくても問題はないし、
夜に私の部屋に乱入して乱暴を働こうとする犯罪者の頭をぶち抜いても問題はあるまい?ちゃんと証人もいるわけだしな。そうだろう、エイ=プール?」
「ちょとぉおおおぉおお!!厄介ごとに巻き込まないでくださいよぉおおお!」
通信機越しの悲鳴を無視して引き金に指をかける。
「ふざけるのもいい加減にしろ!!クレイドルがテロリストにジャックされたのだぞ!!」
「それが遺言か。じゃあワプ!?」
大男の頭を吹き飛ばす寸前に水を浴びせられる。
「ナイスです!!!スティレット先輩!!」
「いきなり何をする!!」
拳銃を人の部屋に入って来るなり部屋の主に水をぶっかけたもう一人の十年来の親友に向ける。
「バケツ一杯じゃ頭は冷えないか。仕方ないな」
自分に拳銃が向けられていることなど無視してスティレットが足元においてある消火用の放水砲を手に取る。
「出力は、ん~、面倒だし最大でいいか。これで頭を冷やせ」
「ちょっと待て!!冷静になった!!私は頭を冷やしたぞ!!!」
「スティレット先輩!!それ暴徒鎮圧にも使われてますからフルパワーで発射したら先輩が死んじゃいますよ!!!!」
「待たんか!!!その位置で撃つと我輩まで巻き添えに!!!」
慌てる私達にスティレットは微笑んだ後、親指を下に向けた。
「Fayer☆」
「くそ!!何で生意気なやつをちょっと脅しただけで放水砲を二回もぶっ放された上に頭からしょんべんかけられないといけないんだ!!!」
凄まじい水流が荒れ狂い滅茶苦茶になった部屋の床に腰掛ける。10CMくらい水が溜まっているので腰に悪いが気にしない。
「すまない。返事がないからまだ頭に血が上っているのかと思って。それでお前の大好きな放尿プレイで楽しくさせてやろうと思ったんだ。でも洗ってやっただろう?」
目の前で軽く頭を下げるスティレットを睨み付ける。何でこいつは『洗ったし謝ったから許してくれるよね?』みたいな顔ができるんだ?
「あれは気絶していたんだ!!そもそも頭を冷やすなら最初にお前に放水砲を向けられたときにとっくになっとたわ!!なのに何故ぶっ放したし!!」
「なぁ、エイエイ。水に濡れたスミスミって萌えないか?ムラムラしたから押し倒しても怒られないかな?」
「それは怒られると思いますよ。そもそも何か用があって来たんじゃないんですか?」
「人の話を聞け!!!」
私を無視して通信機に語りかけるスティレットの胸倉をつかむ。
だが、スティレットは怒る私を見て微笑むとそのまま強引に唇を奪った。
「ん~!!!」「うわぁ、エロイ」
離れようともがく私をそのままがっちりホールドし続けて、二十秒程度私の口内を蹂躙し満足したのかようやく唇を離す。
「いきなり何をするんだ貴様!!!」
「ごめん、怒ったスミスミが可愛くてつい。本当は押し倒したいんだがそれより前に言わなきゃいけないことがあるんだ」
そう言って、真顔で服を脱ぎ始めるスティレット。
「建設中のクレイドル21がリリアナにジャックされた。悪いがVOBで至急向かって欲しい」
全裸になったステイレットが服をきれいに折りたたみ床に置く。すぐに水が滲みこんでぐちゃぐちゃになるが気にしていないようだ。
「だからその話は断るといっているだろう。悪いが先約が入っているんだ。専属のお前にはわからんだろうが傭兵は信用商売だ。だからどんな理由があろうと一度受けた依頼をキャンセルすることはできん。
それ抜きでも保護者同伴で格下相手に初のネクスト戦なんて美味しいミッションを逃すわけにはいかん」
話をしながらさりげなくジリジリとにじり寄って来るスティレットから距離をとる。
「そうですよ!!こっちのミッションはもう動き始めているんですから今更キャンセルなんてさせませんよ!!私はフレア持ちの相手には無力ですし。
そもそも先輩がいるんだから先輩がいけばいいじゃないですか!!」
「私もいくさ。ただし向かう先は未だリリアナが占拠しているクレイドル行きのターミナルだがな。
何ならどちらかに換わってやろうか?オールドキングを倒せば大量の報奨金が出るぞ、エイエイ?
あるいはスミスミでもいいぞ。初めての相手があの狂人なんて、スパルタらしくてスミスミらしいじゃないか」
「無理ですよ~~。お金より命が大事です」
「馬鹿を言うな。お前に匹敵するような本物に尻に殻をのっけた雛をぶつけて勝てるわけないだろう。
その、お前は大丈夫なのか?負けるとは言わんがそこの万年金欠娘なり伊達男なりを連れてった方がいいんじゃないか?」
後退を続けていたが背中が壁にぶつかったので壁沿いを平行移動してさらに逃げる。
「連携は苦手だし好きにやりたいから一人がいい。…と普段なら断るんだが事が事だからな。GAからディディ、オーメルからルルララが後から来るそうだ」
「そのニックネームは無理がありますよ~。ともかく応援が繰るのなら先行する必要はないんじゃないんですか?それに二人来るのならどちらか片方をクレイドルに回せばいいじゃないですか」
「残念ながらそうはいかないんだ。応援が来る前にターミナルの到達圏内に14が来る。そしてほぼ同時期に14と21が再接近するんだ。この意味がわかるか?」
「圏内に入ると今度はノーマルではなくオールドキングが14を襲う可能性があると。そうでなくとも21を14にぶつけてくるかもしれんな」
「そっそんな~~!!!何とかならないんですか!14はインテリオルの居住区があるんですよ!!」
「タイムリミットまでに仕掛けられるのはVOBで現場に急行できる私とモフモフ君のみだ。
だから霞、頼む」
スティレットが部屋の隅に追い詰めた私に頭を下げる。
…仕方ないか。老人共がくたばるのは願ったりだが、知り合いや知り合いの家族に死なれるのは気分が悪い。
「貸し一つ、いや二つだぞスティレット。
おい、万年金欠娘。いいことを教えてやろう。先週ウィン・Dと買い物しているときに聞いたんだがな、明日は半年ぶりに取れた有給を使って彼氏様とデートだそうだ」
「もう!そうやってすぐ損な役目を全部私に押し付けるんですから!!ええ、いいですよ!可愛い後輩のデートをぶち壊してあげますよ!!
まったく、それじゃぁ私は上層部に掛け合って共働のミッションを取り消させますね。あぁ、違約金でまたお給料がぁ~~」
「すまない、エイエイ。私のほうからも根回しはしておくし、エイエイも私の名前が使えるのなら使ってくれて構わない」
「は~い、お任せください。それじゃぁ私は色々動かなきゃいけないのでこれで。先輩、ツバメ君との3P忘れないでくださいよ!」
さらりと報酬を要求してくるエイ=プールに苦笑して頷く。
「わかったよ。今度一緒に三人で遊ぼう」
私が頷くのを見たエイ=プールが「楽しみにしていますよ~~!」とガッツポーズをしながら通信機から消える。
「やれやれ、あの現金なところは見習いたってキャァ!」
苦笑しながらスティレットに向き直ったところで一瞬の隙を突かれ押し倒される。
「お前!!緊急じゃなかったのか!!!」
逃れようともがく私を押さえつけたスティレットが、慣れた手つきで私の弱点を攻めて昂ぶらせていく。
さすが千回以上も肌を合わせた女だ。私以上に私を知っている。って、感心している場合じゃない!!!
「VOBの発進準備が整うまで九時間、最終ブリーフィングが始まるまで三時間あるから大丈夫さ。やってる間にちゃんと説明するからさ。
それにずっとお預けされていてもう我慢できない。いいだろうスミスミ?ほらスミスミのここもこんなに濡れてるし」
私に指を見せる。水とは違う粘度のある液体でぐっしょりと濡れていた。
「やってる最中に言われたことなんて全部覚えてられるか!!!それに濡れているのは水だ!!!
…とはいえ、お前もそのままじゃおさまらんだろうからしょうがないから相手をしてやる」
顔を背けた私の言葉を聴いたスティレットが嬉しそうにニンマリと微笑む。
「何だ?そんなに私とするのが嬉しいのか?この淫乱」
「うん。スミスミとするのは嬉しいよ。でも一番嬉しいのはスミスミが元気になったことかな。やっぱりスミスミはイライラよりツンツンしている方が可愛いよ。
愛してるよ、霞」
「んな!お前の好みなんか知るか!!!やるならさっさとやれこの馬鹿!!」
そして私は真っ赤になった顔を見られないために元気付けてくれた親友の唇を奪うのだった。
****
「なぁ、おっさん。いい気持ちで寝てるときにいきなりびしょ濡れのおっさんをぶつけられた俺は誰に文句を言ったらいいんだと思う?」
「知るか。なぁ、小童。正当な手順で何度も呼びかけたのに無茶苦茶な難癖で殺されかけた挙句に放水砲で吹き飛ばされた我輩は誰に文句を言えばいいんだと思う?」
「知るか!くそババァ。俺のこと無視して盛りやがって!!覚えてろよ!!」
「誰か助けてくれんかの~。はぁ~、今回も我輩完全に被害者なんだがやっぱり首なんだろうか?」
ある日、あいつから子供ができたと聞かされた。
俺はその場であいつに結婚を申し込み、あいつは頷いた。
その次の夜、あいつが住んでいたD級社員用の居住区で大火災が発生した。
生存者は一人もいなかった。
「それじゃぁ、後は頼んだぜ?」
リザの胎内から地上に残る部下に通信を入れる。
「へい。無人MTとオートパイロットにしたノーマルを目晦ましに置いておいてとっととずらからせて貰いますよ。まだ終わるには早すぎますからね。
あ、そうだボス、一つ悪戯を仕掛けていいですか?」
「悪戯ぁ?」
「へい。ここを陥とした時に捕まえた玩具がまだ残ってるんで。ただ棄てるだけじゃぁつまらないでしょう?」
部下の喜悦を含んだ声に何をしたいか悟る。
「いいだろう。好きにしろ」
「アイサー!ん?ボス、航路のインプット終了です。んじゃぁ、ご武運を」
部下の通信が終わると同時にリザを乗せた高速シャトルが離陸を始める。
「さぁて、それじゃぁ行こうかリザ」
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
「ミッション開始。
クレイドル21を占拠する、リリアナを排除する。
過激派といったところで、所詮はノーマルていどが関の山だ。
ネクストの敵ではない。
苦戦すら論外だ。わかっているな。
但し、さっき説明したが背後関係を調べたいから最低一人は生捕りにしろと御達しだ。
なので今回の課題は全員の生捕りだ。やってみせろよ」
「ういうい。ちょっと、課題が面倒だけどまぁ問題ないっしょ。
ここまでくれば後は消化試合みたいなもんだからババァは休んでいていいぜ?」
「お前がせめて半人前ならそうするよ。人の心配をできる腕前か!さっさといけ!!!」
「へ~い!!」
怒鳴りつけられたストレイドが目の前のノーマルに突っ込んでいくのを見て溜息を吐く。
少年にはああいったものの確かに限界だ。少々休ませて貰おう。
最低限の情報を確認しながら砂糖たっぷりの極甘ミルクティーを淹れて飲む。
カロリーが怖いがとにかく今は疲れきった脳に糖分が欲しかった。
何せ、さっきまで延々とVOBの制御をやっていたのだ。
超高速で移動するVOBは僅かに進路が逸れるだけで目的地とまったく違うところに行ってしまう。
さらに今回は目的地が静止目標だった今までと違って、VOBに比べれば遅いとはいえ十分高速で移動し続けているクレイドルが目的だ。
おかげで秒単位で起動計算と軌道修正をせねばならなかったためクタクタだった。
「たく、唯でさえスティレットの馬鹿に精力を絞りとられたっていうのに」
ミルクティーを一杯飲み干したことで余裕ができたので、カップに二杯目のミルクティを注ぎ足しながら周囲の様子を確認する。
当たり前だが伏兵も増援もいない。高度七千キロメートルもの高空なので当然だが。
しかし、綺麗な空だな。地上から見る濁った空とは大違いだ。クレイドルに住む家畜共にはもったいない。
「空か」ふと思いつき輸送機のレンズを最大望遠にして上空に向ける。
「何もないか。ベルリオーズの嘘つき」
モニターには澄んだ空が映し出されていた。当然空を覆うアサルトセルなどは見えない。
「どうしました、セレン・ヘイズ?上空に何か異常でも?」
リリアナを捕らえる為に同乗していた企業連の兵士が尋ねてくる。
「いや、綺麗な空だな思っただけだ。クレイドルに住むお前達には珍しくもないだろうが、私は中々クレイドルに上がる機会がないからな」
「なるほ「ババァ!!終わったぜ!!ノーダメだし今回こそ100点満点だろ!!!」
会話の途中で少年が割り込んでくる。
レーダーで敵がいないことを確認した後、ストレイドの状況を見て採点を始める。
「72点だな。確かに周囲の被害は0だし、全員生捕りにしている。さらにほぼ無傷であり残弾も十分だ。だがいくら課題があるとはいえ時間がかかりすぎだ。もう少し効率的に動け」
「でも俺だって頑張ったんだぜ!」
「頑張っただけでは意味がない。全ては結果だ。
だがボーダーの60点は超えているな。いいだろう。帰ったらご褒美をやろう」
「ヒャホー!!!バ…セレンさん太っ腹!!!じゃぁ、『火星の鴉VS地上の鴉』を買ってくれよ!!
そうと決まったらババァ!!早く早く!」
採点後の沈んだ声と一転して明るく騒ぐ少年が急かす。
「そう焦るな。今向かっているところだ。それまで周囲の警戒と捕虜の監視を頼む」
後で知ったことだが、当初企業は社員全てをクレイドルに上げると約束していた。
だが計画が進むにつれて全員をクレイドルに上げるのは無理だということが判明した。
さらに単純な肉体労働のD級職員はクレイドルでは完全に機械化されているためそもそも上げる必要が無かった。
しかし、企業の面子的に今更前言を翻すことはできなかった。
また仮に翻せても切り捨てられるD級職員の反発は必至だし、C級以上の職員も次に切り捨てられるのは自分達かと企業に不信感を抱くだろう。
ゆえに袋小路。八方塞だ。
しかし、『幸運』にも『偶然』D級の居住区で大火災が発生しD級の職員は皆死んでしまった。
そして、企業は『計画通り』『生きている』社員全てをクレイドルに上げた。
企業連の兵士に制圧されたリリアナの連中が武装解除されていくのをモニター越しにボーっと見る。
「ん?」全員特に抵抗もせずに従順なのだが程度の差こそあれ皆一様にこちらを馬鹿にしたような笑みを浮かべているのが気になった。
「おい、大丈夫なんだろうな。こいつらと心中するのはごめんだぞ?」
気になったので企業連の部隊長に通信をいれる。
「ご安心を。何重ものチェックを行いますし、万が一見逃してもこいつらを載せるコンテナは特別製でしてね。ネクストのグレネードをぶつけられてもびくともしませんよ。
さらに完全密閉しているのでBC兵器も問題ありません。どうぞデーターを送るのでご確認ください」
モニターにデータが映し出される。なるほどこれなら確かにOGOTOも数発は耐えられそうだ。OIGAMI喰らったら消し飛ぶだろうが。
「のようだな。すまない。手間をかけさせたな」
「いえ、気に「や~い、ババァの心配性~!そんなに気にしてばっかだとまた皺が増えるぜ?ぎゃははは!!」
監視ばかりで退屈なのか少年が会話に割り込んでくる。仕方ないやつだな。
「…八つ裂きと車裂きどっちがいい?」
「じょっ冗談だよ!ババァ!そんなに怒んなよ!!」
「八つ裂きと車裂きどっちがいい?」
「いや、ちょっと落ち着こうぜ、バ…スミカさん」
「ど っ ち が い い ?」
「…ごっごめんなさい!許してください!!!」
「別に謝らなくてもいいよ。それでどっちがいいんだ?」
「どっちもやだよぉ~~!!」
少年の声が泣き声に変わるがまだまだこんなもんで許してやるつもりはない。
「駄目だ。どっちだ?」
「……」
「黙っているということは両方か?」
「うぅ、じゃっじゃぁ、ん?通信」
「話を逸らすって私もか」
くそ!いいところで!!相手は…スティレットか。にしても最優先の緊急通信とは穏やかじゃないな。
「何のようだ、スティレット。私はい」
「今すぐそこを離れろ霞!!!オールドキングがそちらに向かっているぞ!!!」
いつも冷静というかマイペースなスティレットが珍しく焦って叫ぶ。こんなに焦っているのはロイが書いた暴露本が大ヒットした時以来…ってちょっと待て!!
「オールドキングだと!?どういうことだ!!奴はターミナルにいるんじゃないのか!?」
「まんまと騙されたんだよ!!
ターミナルにいたリリアナ本隊は無人MTとオートパイロットに設定したノーマルを残してとっくに撤退してる!!
しかもあいつらノーマルのコックピットに生き残った人質を置いていきやがった!!おかげで私は味方殺しよ!!くそ!!
いや今はそんなことはどうでもいい!とにかく残された痕跡を辿ったらリザを載せた高速シャトルがそっちに向かって発進したのがわかったんだ!!
ターミナルは完全に破壊されてるからこっちからの追撃は不可能!だから早く逃げて!!」
くそ!それが狙いか!!最初から08襲撃を匂わせてターミナルを囮にするつもりだったんだ!!そして手薄になった21にオールドキングが向かって再占拠する気か!!
最初から21に向かわなかったのはぎりぎりまでターミナルに目を向けさせておくつもりだからか!!!
「くそ!おい!今すぐ撤退するぞ!ここにオー「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
警告を発そうとしたところで歌が響き渡った。
「んだぁ?歌ぁ?ババァ、通信で歌が送られてきたけどどうするんだ?」
最悪の事態が起きたことがわかっていない少年が問いを発した瞬間に、レーダーに新しい光点が一つ増えた。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
アイツの事は何もかも忘れてしまったがこれだけは覚えている。
焼け焦げて炭になったアイツは、苦悶の表情のまま絶命したアイツは、
生きていた時より遥かに美しかった。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
敵性を示す赤い光点は獣が袋小路に追い詰めた獲物の恐怖を煽るようにゆっくりと近づいてくる。
嬲られるのはむかつくが好都合だ!!
「今すぐここから離れろ!!!」
真っ青な顔で俯くスティレットを放って、少年を怒鳴りつける。
「はぁ?ババァこそ巻き添え食らわないように離れてろよ」
「馬鹿野郎が!!お前程度が勝てる相手か!!
いいか、奴に勝てるのはスティレットかウィン・Dぐらいなもんだ。エイ=プールやロイでは10戦して1勝できるか。ましてお前では100回戦っても無理だ!!
余計なことを考えてないでとっとと逃げろ!!」
「じゃぁ、まずはババァから逃げろよ。ババァが逃げたのを確認したら俺も逃げるから。
守りに徹すればしばらくは持つだろうし、武器を捨てればアイツも追いつけないだろうしね」
少年のあっけらかんとした声に腹が立つ。くそ!こんなことしている暇はないのに!!
「いいか!この輸送機のスピードじゃ安全圏に逃げるのに一時間はかかる!!それまでお前如きがもつものか!!!いいから早く離脱しろ!!
基地に着いたらロイの下に行け。ロイならお前がリンクスを続けるにしろ辞めるにしろ上手く取り計らってくれるはずだ。
スティレット、悪いが私の代わりにこいつの面倒を見てやってくれ。それでモロモロの貸しと今日の事はチャラにしてやる」
いつの間にか声を出して泣いていたスティレットに頭を下げる。
「あ、あぁ解った。クッ、任せてくれ。スマナイ、御免なさい霞」
スティレットがしゃくりあげながら何とか頷き、次いで頭を下げる。こいつがここまで取り乱すんのは珍しいな。サーが死んだとき以来か。
「別に気にすることはないさ。傭兵なんてものをやっていれば遅かれ早かれこうなった。あまり気にするな」
「おいおいおい、お涙頂戴をやるのは勝手だがなそこに俺を巻き込むなよ。
そもそも、俺達はいつから自分を犠牲にして相手を助けるようなまともな関係になっちまったんだ?
俺達の関係は『互いの目的の為の相互利用』だろう?
なのに駒を助けるために自分を犠牲にするんじゃ、意味ねえだろう」
スティレットを何とか慰めようとした私に少年が呆れた様な声を投げてくる。
「別に私だってお前を犠牲にすれば私が助かるならそうするさ。ただ今回はそれすらできん。
全員死ぬか、それともお前だけ生き残るかなら私は後者を選ぶし、私の死が絶対なら面倒をみるように頼みもするさ。
その程度にはお前に情が移っているんだよ」
自分の言葉に少しだけ偽りを感じた。だがそれがどこか解らない。その事が少しだけ私を苛つかせた。
「解ったらさっさといけ!!金庫の番号は解っているな?」
だが苛立つ私を見て少年は溜息をついた。
「…もしかして本当に解ってないのか?
いいか俺がおかしいって言ったのはなアンタが最初に俺だけ逃げろって言った事なんだよ。
もしそこで今すぐ私の所にきて私をコックピットに入れろなら二人とも助かったかもしれないんだぜ?
仮に敵が俺らの動きに気づいて直にOB使ってもコックピットにアンタは入ることができた。
そうすりゃぁ、戦いながら隙を見て逃げることもできたのに」
「!?そんな手が。いや、だが!!」
「ああ、そうだな。確かにその手を使えば確実に助かる俺が生き残る確立は30%ぐらいに減るだろうな。
でもな、アンタの生き残る可能性は0から30に増えるんだ。
なら当然そうするべきだろう?何故そうしなかったんだ?少なくとも出会ったばかりのアンタなら確実にそうしたぜ?
情が移った俺が死ぬ可能性が増えることを嫌ったか?それとも、そもそも思いつきもしなかったか?
まったくどうしちまったんだよババァ。両手どころか全身真っ赤なくせに今更善人のふりか?ひゃははははは!!!!無理無理無理!!
アンタも俺も死ぬまで汚れたままだよ!ひゃはははははは!!!」
俯く私を見て少年が嗤う。
「ふざけるな!!!確かに霞は激しいところもあるが根は優しい奴なんだ!!お前みたいな狂人と私の霞を一緒にするな!!!」
震える私を見かねたスティレットが少年に反論する。
だが少年はスティレットを無視してさらに私を嗤う。
「なぁ、いい加減に狂気に戻れよセレン・ヘイズ。
アンタはイタイケな俺を騙して自分の駒に仕立て上げるような大悪人だろう?
アンタは何も知らない女達を俺に喰い殺されると解って世話係にするような自分の目的のためなら何人死のうが構わない大罪人だろう?
アンタは失われた五感を戻す首輪で俺の体を縛り、愛という鎖をもって心を縛る大咎人だろう?
アンタに何があったか知らないがごっこ遊びはもう終わりだ。いくら楽しい遊びでものめり込んじゃ意味がないぜ?
アンタの本性は…ちっ、時間切れか。獲物が来たようだな。
最後にもう一度だけ言うが、そろそろ狂気に戻れよセレン・ヘイズ。
さもなくば、アンタの望みも、あいつの願いもここで終わりだ。
俺はそれでも構わないがあんたは困るだろう?WGに復讐できなくなっちまうぜ?ひゃははははははははははははは!!!」
そう少年は言い捨てると最後に私を嘲嗤い、オールドキングに向かって突っ込んでいった。
変わり果てたアイツに射精しそうなくらい興奮している事に気づいた時、俺は悟った。
俺は狂っている。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
「ひゃはははっはは!!ぶっ殺してやるぜぇ!!」
通信機から首輪つきの哄笑が聞こえる。いい声だ。殺してやろうかと思ったが気が変わった。
「お前にはこの世の真実を見せてやるぜ、首輪付き!!」
挨拶代わりのPOPLAR01をOBでこちらにまっすぐ突っ込んでくる首輪付きに向かって発射し、上昇を開始する。
「無駄だぁ!!」
ストレイドがフレアを上げながらさらにこちらに突っ込んでくる。
突っ込んでくるか。それでその後はどうするんだぁ、首輪付き?
お前のネクストはフレームはEKHAZARで武装はLABIATAにドーザーにグレネードにレーダーと駆け出しにありがちな対ネクスト戦を考慮していない全距離対応型だ。それじゃぁ、近距離で俺には勝てないぜ?
様子見をかねて突っ込んでくるストレドにLABIATAを乱射する。さぁ、どうするんだ首輪付き?上をとるか?それとも左右か?あるいは意表をついて下か?
どう動いても対応できるように身構える。だがそれは無駄に終わった。
「んな!?」「ひゃはははあははは!!!」
あろう事かストレイドは自らに突き刺さるLABIATAを無視して一切速度を緩めず俺に激突したしたのだ。
「がぁああぁ!!」激突の衝撃に悲鳴を漏らす。くそ!完全に裏をかかれた!!だがPAこそ吹き飛んだもののダメージは無い。
間抜けがぁ。OBでPA剥げた所にLABIATAを喰らってまでやった事が俺の不意をついたことかぁ?それじゃぁ収支が合わな「ぐぅ!」
AMSから送られてきたエラーに眉を顰める。なんだぁ?今のは首輪付きの攻撃かぁ。この距離で有効な武器を首輪付きは持ってって、しまった!
「ひゃははあ!もう一発!」ストレイドが嗤い声と共に左腕を振りかざす。「くっ!」再度、ダメージ。
くそ、そういやぁドーザーがあったな。そいつの間合いは確かに0距離、どんぴしゃだ。
「確かに驚いたが種が割れれば終わりだな首輪付き」
さらにストレイドがドーザーを振るった瞬間を見計らって後QBで跳び、同時にSAMPAGUITAを発射する。
さぁ、避けな首輪付き。それで距離が取れれば俺の間合いだ。そうしたらいい物見せてやるよ。
「がぁああぁあ!!らぁぁああ!!」しかし、ストレイドは散弾に自ら飛び込むように前QBを使い、こちらに踏み込んでくるとドーザーを使った。
それを上体を捻る事で辛うじてかわし、そのまま横QBを使う。
「くそ!そうかい、被弾上等なら俺が離れてや、ぐぅう!」だが一瞬送れて横QBで喰らいついてきたストレイドが振るったドーザーがリザに突き刺さった。
くそ!確かにドーザーを振り終えた後の硬直を狙った筈なんだがミスったか?まぁいい、今度は慎重に。
「ひゃははあは!!死ねよ!死ねよ!」「っと」首輪付きがドーザーを振るった直後に横QBを使う。さて、これで仕切り直「ひゃははは!!逃がさないって言ってんだろ!!!」
「んなぁ!!」あろう事か首輪付きはドーザーを振りながら横QBを使ってきた。
「あはあはははあ!!!死ね死ね!あははああはあ!!!」さらにそのまま凄まじい勢いでドーザーを持った左腕を振り回し始める。
その通常のネクストではありえない格闘武器の乱打を捌きながら俺はようやく首輪付きの戦闘、いや狩りの仕方を理解した。
ENにしろ実弾にしろブレードは一撃の精度と威力を高める方向に進化してきた。
それは何故か?簡単だ。そうしないと当たらないからだ。
ENブレードで説明するのならノーマル時代ならいざ知らず通常速度で数百キロ、瞬間的には千キロを超える速度で戦うネクスト同士の戦闘では相手が間合いに入ってからブレードを振るうのでは遅い。
従って相手と自分の未来位置を先読みして攻撃する事が必要になる。だが人に大体はともかく完璧に自分と相手の位置を予測する事は不可能だ。
故に大雑把な位置と距離を合わせた後、実際に当てるのはFCSに任せる事になる。
リンクスは一時的にFCSに全制御を委譲し、FCSはネクストの全機能を使って相手と自分の未来位置を演算し、演算終了後にネクストの全機能(腕や肩の捻りやQB等)を使って演算で得た解を実行する。
これが俗に言うブレードホーミングと呼ばれる現象だ。
実弾ブレードの場合も基本的に同じだ。違いは実弾ブレードは相手に接触した瞬間にパイルバンカーを撃ち出さねばならない関係上さらに正確な演算が必要となるため当てに行く際にQBを使う余力が無くなるぐらいか。
つまり相手の未来予測の演算と実行にはネクストの全機能が必要なのだ。にもかかわらず全機能を使わせなければどうなるか?
当然命中率は激減する。恐らくENブレードは今の実弾ブレード並みに、実弾ブレードに至っては奇跡でも起きなければ当たらなくなる。
激減した命中率を補うために振り回すのも無理だ。実弾ブレードは言わずもがなだし、ENブレードも振り回している最中ずっと刀身を展開させておく事は技術的に不可能だからな。
が、ドーザーだけは別だ。パイルバンカーを撃ち出さないため当たる瞬間を演算する必要が無く、刀身を展開し続ける必要の無いドーザーだけは連続で振り回すことができる。
そして全機能を使わないなら射撃武器のようにドーザーを振りながらQBも使う事ができるだろう。
首輪付きはそれを最大限に生かしたスタイルなのだ。
被弾を気にせず一直線に獲物の懐に飛び込み、飛び込んだ後は相手が動かなくなるまで喰らいつき殴り続けるという単純で凶悪なスタイルだ。
「成る程。お前が戦績の割りにオーダーマッチで異常な勝率を持っている理由がわかったぜ」
一度この形が出来てしまえばカラードの紛い物達ではどうしようも無いだろう。
何しろ0距離で使えるネクストの武装は殆ど無い。
また、距離を引き離そうにもMBとBBでは勝負にならないためSBを使わねばならないが、動きを見る限りストレイドは高出力のSBと重ジェネを装備しているため出力差で引き離す事もQB連発のEN勝負にでるのもかなりきついだろう。
故に首輪付きに勝ちたいのなら0距離で振るわれるドーザーを捌き続けねばならない。
とはいえそれ自体はそう難しくない。何故なら背武器はお互いに射角の問題で使えないし、右腕のLABIATAも距離適性の問題か使う様子もないし仮に使われても痛くないので気にする必要はないので左腕にだけ注目すればいいからだ。
だから冷静に左腕の動きを見て隙を見て反撃していけばいい。
「が、お前相手に冷静になるのは難しいだろうなぁ、首輪付き」「ひゃはははあはははははあはははは!!!」
だがそれを難しくさせる理由の一つがこの嗤い声。
首輪付きはオープンチャンネルと外部スピーカーをONにして獲物に嗤い声を聞かせていた。この狂気染みた嗤い声は俺のような異常者はともかく自称正常者共にはかなりのストレスになるだろう。
そしてもう一つはドーザーの連発だ。先もいったがこれ自体を避けるのはそれほど難しくない。
だがこちらのPAの圏内で振るわれるドーザーは確実にこちらのPAを減衰させる。おかげでPA同士の相互干渉もありリザのPAは常時ダウンしている状態だ。
自らを守るPAの消失。これもリンクスにはかなりの違和感とストレスを与え続けるだろう。
故に首輪付きの獲物は二重の重圧に耐えながらドーザーを捌き続けなければならないのだ。もし集中力を切らして殴られたが最後立て直す事ができなければ死ぬまで殴り続けられる事になる。
つまり、首輪付きとの戦闘は操縦技術ではなく精神力が重要になる。首輪付きの狂気に呑まれずに自らを保っていられるかの勝負だ。
「だがお前の狂気は極上だ。それに耐え切れる奴が果たして何人いるかなぁ?」
しかし、逆に言ってしまえば耐えてしまえば首輪付きは雑魚に成り下がる。何度も言うがドーザーを捌く事自体は簡単なのだ。
故に先ほどの俺のように捌いてチビチビとカウンターを入れて嬲ってやってもいいし、あるいは上海で団長殿がしたように急所に当てて一気に決めてもいい。
「だが、お前はここで終わらせるには惜しすぎるぜ、首輪付き」
だからあえて最低限の反撃に留め上昇を続けていく。
さぁ、俺と一緒に天国へいこうぜ?
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
二機のネクストが絡み合いながら天に昇っていくのをボーっと眺める。
一見ストレイドがリザを一方的に攻めているように見えるがその実リザはストレイドの攻撃を全ていなしてる。
オールドキングが嬲っているのか遊んでいるか何を考えているのかは知らないが今は反撃を殆どしてこないが、反撃を始めれば直にストレイドはスクラップに変わるだろう。
本当は少年のオペレートをして何とか生き残る方法を考えなければいけないのだろう。だがそんな気にはなれなかった。
「どうでもいいか」
モニターを眺めるのを止めて椅子に持たれかかり、なんとなく天井を眺める。
「結局全部見透かされてたってわけか」
そうだ。私は少年の言うとおり最初から少年を私の復讐の道具として利用するつもりで引き取った。
少年に首輪を与えたのも私から逃がさないようにするためだし、少年に惜しみない愛情を注いだのもそれが人間を縛る上でもっとも効果的だと知っていたからだ。
そして少年は全てを承知した上で私と恋愛ごっこをしていたのだ。
「これじゃぁどちらが飼われていたのか解らんな。いや、飼われていたのは私か」
何しろ少年は私が自覚していなかったいつの間にかごっこ遊びに本気になって少年に魅かれていた事にすら気づいていたのだから。
いや、ひょっとしたら最初から少しずつ私はそのように調教されていったのかもしれない。
だとしたら少年には私はさぞ滑稽に映ったことだろう。
「馬鹿みたいだな私」
自嘲の笑みを浮かべて卓上に残されていた誰かの煙草をとり十年ぶりに吸ってみる。
「不味、ぐぅ、ゴホ」
だが十年ぶりの煙草は不味いだけじゃなく強く思わず咽てしまう。
「ッゴハ、ハァハァアハアハハ、なんて無様なんだ私はハハハハ」
咳は笑いの発作に変わったがそれを辛うじて自制する。きっと今笑い出したら何時ものように号泣してしまう。
一人きりなら構わないが今はスティレットが見ている。十年来の親友に見せる最期の姿が泣き顔というのは避けたい。
これだけ無様を晒しておいてまだ見栄を張ろうとする自分にさらに嫌悪感が増す。
もういい。いい加減終わらせてしまおう。もう少ししたら少年を破ったオールドキングが降りてくる。
そうしたら自分は嬲り殺しだ。そんな最期の方が自分には合っている気がするがわざわざ苦痛を味わう必要はないだろう。
腰に下げていた拳銃を手に取り、銃口を顎の下に合わせる。
「じゃぁな、スティレット。今まで世話になったな」
そして親友に簡単な別れを告げ通信機のスイッチをオフに
「待て!霞!!」
しようとしたところでスティレットに止められた。
「何だ?ああ、私が死ぬところが見たいのか。悪趣味な奴だな。まぁいい」
親友の意外な趣味の悪さに苦笑し引き金を
「違う!!霞!お前まだ幕を下ろすには早すぎるだろう!!アイツは戦ってるんだ!!だったら死ぬのはアイツが負けた後にしろ!!」
引こうとしたら怒鳴りつけられた。
「今更私が何をしたって勝てるわけないさ。強さの格、いや桁が違う」
「そんな事はわかっている!!だがリンクスが死ぬまで共に戦い続けるのがオペレーターの役割だろう!!どんな結果であれアイツが終わるまで見届けるのがアイツを戦いに導いた者の義務だろう!!
霞が傷ついているのは解る!!でもそれを理由にして逃げるな!」
そして泣き腫らして真っ赤に腫れた目で私を睨み付ける。もう何をやっても無駄な事も私が傷ついているのが解っているくせに逃げるなか。無茶を言う。
「無理を言うな。そのせいで死に損なって嬲り殺されたらどうしてくれるんだ?」
「その時は私がリリアナの奴ら全員にお前の代わりに万倍返しで復讐してやる。それが終わったら地獄に詫びに行ってやる。だから安心しろ、霞」
力強く頷くスティレット。もし本当に私が殺されたらこいつは本当にリリアナの連中を死ぬよりつらい目に合わせて嬲り殺した後、自殺するだろう。
別れて随分経つのに相変わらず一途な奴だ。私はバイだと言っているのにな。
まぁいい。確かに可能性が無いからと言っておとなしく死ぬのは私らしくない。せめて一矢は報いてやらんとな。
「後半は余計だ。折角お前と別れられたのに追いかけられてきて堪るか。精々私の代わりに長生きしろ。
だがまぁ、私を立ち直らせてくれた事は褒めてやる。お礼に霞・スミカ様の最期のオペレートを特等席で見せてやる」
久しぶりに笑顔を浮かべてストレイドのモニターを開始する。
「うん、さっきまでみたいな傷ついた女の子の顔よりそうやって肉食獣みたいな獰猛な笑顔を浮かべているほうがスミスミらしいよ」
うっとりした口調で失礼な事をいう親友に中指を突きたてながらストレイドに通信を送る。
「悪い、遅れた!!」
「遅いぞ!ババァ!!早速なんだが空に妙な影がちらついてるんだ!何か解らねぇか?」
「空?」少年から挨拶もそこそこに言われた言葉にとりあえずモニターとレーダーを頭上に向けるが何も反応は無い。
「とりあえず光学とレーダーには反応がない。大方人工衛星でも見えているか、AMSか機体の不具合だろう。
そんな事より今すぐ右腕も攻撃に加えろ!いいか!お前の攻撃が捌かれているのは左腕しか攻撃していないからだ。
避けられてもいいから右腕で攻撃して相手の注意を左腕から少しでも離せ!」
「あいよ!!」少年の言葉と共にストレイドが突如右腕をくねらせLABIATAを乱射する。
LABIATAの近接適性もEKHAZARの運動性能も決して低くは無いがそれでも距離が近すぎるため殆どの弾が外れていく。
しかしそれでも数発はPAの剥げたリザに当たり僅かな隙を作る。
「らぁああ!!」その隙を突きストレイドがドーザーを叩き込む。
「今だ!!一気に押し込め!!!」
これが最後のチャンスだ。オールドキング程のリンクスならばこの程度の攻撃すぐに対応する。だからそれまでに勝負を決めるしかない!
「了解!!ひゃはははは!!!死ねよやぁああぁあ!!って何だ!?攻撃!くそどこからって空ぁ!?くそ!!ババァ!空に何かいやがる!!」
だがストレイドがラッシュを始めたとき。空を流星が満たした。
ストレイドが突如右腕のLABIATAを乱射する。
「ち」不意をつかれたせいで何発かの被弾を許し僅かな隙を作ってしまう。
「らぁああ!!」その隙に乗じたストレイドが振るったドーザーがリザに突き刺さる。
「ひゃはははは!!!」そしてそれに乗じたストレイドが一気に勝負を決めるべくラッシュを仕掛けてくる。
…戦い方が変わったな。さっきまでは狂気に引き摺られて出鱈目な攻撃だったが、今は上手く狂気を御してやがる。
LABIATAを使わせた事といい良い調教師を持っているみたいだな、首輪付き。
さぁて、このままだと負けるとはいわないが遊ぶ事は不可能になるな。
「だが、残念だったな。時間切れだぜ、首輪付き」
突如頭上を埋め尽くしたアラートに笑みを浮かべる。
「お楽しみはこれからだぜ!!首輪付き!!!」
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
「何だ!?何が起こっている!?攻撃?大気圏外からか!」
突如動きを乱した二機に半ばパニックになる。
「見りゃぁわかんだろ!ババァ!!」
「何も見えないんだ!!!」
少年に怒鳴り返す。
そう、モニターにもストレイドから送られてくる視覚映像にも何も表示はされていない。
にもかかわらず、確かにストレイドは攻撃を受けていた。
何なんだ!!まさかリリアナの新兵器か?いや、攻撃はリザも受けているからそれはない!!なら何故!!
「まさかアサルトセル!?」
遠い昔に寝物語に聞いた与太話を思い出し、通信機器を引っつかんで非常口から外にでる。
見上げた空には流星が満ちていた。
「なんだ、アレは… 空が、空が自律兵器で埋まっているぞ!全速で退避だ!近付くな!やつらの攻撃は無差別だ!」
まさかアレはアサルトセルなのか!!そんな!幾らなんでもこれだけのものが観測されない筈が。
いや、ベルリオーズは言っていた。アサルトセルは企業全体の罪であり、だからこそ全ての企業が隠していると。
そうか。アサルトセルを地上から観測するには目視やチャチな望遠鏡では不可能だ。実質的に観測される可能性があるのは電子機器を用いた場合のみ。
ならば観測する可能性のある全ての電子機器に予めアサルトセルを隠蔽するプログラムを仕込めばいい。企業ならばそれが可能だ。
さらにクレイドル体制になってから地上からの高空の観測はクレイドルの防衛の観点から禁止されている。多分これもアサルトセルを隠蔽するためなんだ。
そして、アサルト・セルを肉眼で観測可能なクレイドルは天蓋に覆われ住民達が直接空を見る事はない。
くそ!こうなるとクレイドル計画そのものがアサルトセルを隠蔽するための計画だったのか!?いや流石にそれは穿ち過ぎか?しかし否定できる材料は無い。
ともかくアサルトセルがある以上、ベルリオーズが言った国家解体戦争はアサルトセルの存在を隠すために行われた事とレイレナードの目的がアサルトセルの打破による贖罪というのも本当なのだろう。
足から力が抜け膝を着く。
「だとすると私は二重の意味で罪を犯した事になるわけか」
一つは国家解体戦争で老人達に加担した事。そしてもう一つは我が身かわいさにベルリオーズたちを見捨てた事。
くそ!!何故ベルリオーズから聞いたときにもっと詳しく調べなかった!!
そうして気づいていればインテリオルが降伏した時に他の連中を説き伏せてまとめてベルリオーズ達に合流できたのに!!
「ババァ!!何を呆けていやがる!!!驚かされたが無差別なら問題ねぇ!!続けるぞ!!オペレートしろ!!」
少年の怒鳴り声に正気に戻る。
そうだ!懺悔は後にしろ、セレン・ヘイズ!!今はここを生き残る事だけを考えろ。生き残りさえすれば罪を償う事も罰を受ける事もできる。
そしてならばチャンスだ。どうせまともにやっても勝てないんだ。ならばアサルトセルというお互いの計算外が起きた今なら紛れが増える!
いつの間にか噛み切っていた唇の破片を口内にたまっていた血と共に吐き捨て、通信機に向かって叫ぶ。
「解っている!!いいか!多少の被弾はかまわないから攻め続けろ!!相手に混乱から回復する時間を与えるな!!そして絶対に下に逃がすな!!むしろ上に追い詰めてやれ!!」
「了解!!ひゃははははは!!さぁ!俺と一緒に天国に行こうぜぇ!!」
そして空に満ちる流星雨の中再びストレイドがリザに襲い掛かった。
「くくくく。この状況で逃げずに逆に嵩にかかって攻めてくるか。いいねぇ、やっぱりお前は最高だぜ!首輪付き」
全身をアサルトセルの攻撃に晒しながら尚も攻撃を仕掛けてくるストレイドに思わず笑みが零れる。
さぁて本当ならまだまだ楽しんでいたいんだが、既に反撃していないだけで本気を出しているにもかかわらずストレイドの攻撃を捌き切れていないのでそろそろ限界だ。
それに高度1万メートルを超えた事もありアサルトセルの攻撃も無視できなくなってきた。
「だから残念だがひとまずここでお開きだ。木偶にしてやるぜ!首輪付き!!」
LABIATAをストレイドに向けマガジンに残っていた弾を全弾発射する。
「ひゃはははあははあ!!!!」ストレイドは嘲笑と共に避けようともせずに突っ込んできて左手のドーザーを振りかぶり右のLABIATAを乱射する。
どちらかは避けられんな。ドーザーを避けてLABIATAを喰らうのが正解なんだが、今回はマガジンを交換する時間を稼がなくてはいけない為ドーザーを受ける。
「ぐぅ!」ドーザーを受けると同時にブーストを吹かし距離を稼ぐ。よし、マガジンの交換は終わったな。
「逃すかぁあ!!」離されないように距離を詰めて来るストレイドにLABIATAを向ける。
よぉく狙ってっと。
そしてストレイドがドーザーを振りかぶる瞬間を狙ってLABIATAを発射すると同時に前QBを使う。
「甘いん…ってくそ!!BBが!!」俺に合わせて後QBを使おうとしたストレイドだが、QBを吹かす直前で機体前面についているBBを全て撃ち抜いてやったため不発に終わる。
「くそ!こうも差があるか!だがまだだ!!TRAVERSをパージ!!」ストレイドの調教師の声を聞きながらQTを行い、ストレイドに向き直る。
そしてストレイドにLABIATAとSAMPAGUITAを向けた俺の目の前にストレイドからパージされたグレネードがあった。
「くそ!それが狙いか!!」「今だ!!AAを使え!!」
失態を悟った俺が引き金を引いた瞬間、ストレイドのAAに巻き込まれたグレネードが大爆発を起こした。
「やったか!?」
二機が誘爆したTRAVERSの作った爆炎に呑み込まれる。
次いでストレイドが背面に凄まじいダメージを受ける。
無理も無い。今回ストレイドは一発もTRAVERSを撃っていないんだ。だから18発分のグレネードの爆発を直撃ではないといえ至近でしかもAA直後のPAが剥げた状態で受けたんだからな。
だからこそそれに加えてAAまで受けたリザは致命傷を受けたはずだ。
だがもし致命傷で無かった場合打つ手は…。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
爆炎から一機のネクストが飛び出してきてそのままOBを使ってこちらに接近してくる。確認するまでもない。リザだ。
右腕は捥げているし他にも色々ガタがきているようだが戦闘続行は十分に可能か。
「待ちやがれ!!くそ!うごかねぇ!!!」
次いでストレイドがリザを追って飛び出してくるがその動きは余りに悪かった。
モニターを見てみるとOBとMBが破壊されていた。おそらくAAと相打ちの形行われたリザの攻撃だろう。
「もういい。私たちの負けだ。ダメージこそリザのほうが大きいがOBとMBとBBまで破壊されてはこれ以上の戦闘は不可能だ。折角見逃してくれるんだ。そのまま落下して地上で拾ってもらえ。スティレット頼めるか?」
「ああ、任せてくれ。その霞、私」
「頼んだぞ。それとスティレットお前のおかげで最期に格好をつける事ができたよ。ありがとう」
「そんな事ない!!霞!私は」
「じゃぁ、私はやらなくちゃいけない事があるから切るぞ。じゃあなスティレット、愛しているよ」
「霞、待ってく」
叫ぶ親友を無視して通信機の電源を落とす。名残惜しいが時間が無い。それにこれからやる事を見られるわけには行かない。
鞄の中身を全てぶちまけて化粧ポーチを拾う。そしてポーチからメイクおとしを取り出す超特急でメイクをおとし、再度メイクを行う。ただし今度のメイクはいつものビジネス用ではなく男に媚びるものだ。
メイクが納得の行く出来に仕上がったので次に後ろに纏めていた髪を解く。そして自慢の腰まである髪にブラシをあて簡単に整える。
それが終わったら今度はきっちり着ていたカラードのオペレータスーツを脱ぎ捨て裸になった後に再度着込んでいく。ただし、男の目を惹くように着崩して。
さて、シャツのボタンはどうする?三つ目を外すとブラもインナーも着けていないから乳首まで見えてしまうが、二つ目までだと押しが弱い。誘う必要はあるが余り露骨だとな。
小考の末、二つ目と三つ目の間でタイで留める事にした。仕上げにシャツを水で不自然でない程度に濡らす。シャツが透けて地肌が僅かに見える事を確認する。
そして鏡を覗く普段の自分とは違う、男の欲情を煽る一匹の雌が映った。
「こんなところか。これで最低でも殺される前に輪姦されることはできるな」
正直自分以外に自分を好きにされるくらいなら死んだほうが億倍ましなのだが今回は違う。
何故なら私は自分の罪を知ってしまった。ならば簡単に死を選ぶわけには行かない。私はどんな事をしても生きて罪を償わなければいけないのだ。
「だからスマナイな、兵士諸君。私の代わりに死んでくれ」
心にもない謝罪の言葉を口にしながら輸送機の機銃の照準を企業連の兵士に合わせトリガーを引く。
何が起こったかわからないまま絶叫を上げミンチに変わっていく兵士達を眺める。ふん。僅かも胸が痛まないか。確かに私は自分のためなら何人殺しても構わない最低の人間のようだな。
「くくくく。何のつもりだ?」
三十人全員を挽肉に変えたところでリザから通信が入る。
さぁ、気合を入れたんだ。少しは聞いてくれよ!
通信機を持って非常口から外に出てあえて全身を晒す。
「白旗の代わりだよ。こちらの方が気が利いているだろう?」
「確かにこっちのほうが俺好みだ。いいぜ、ご褒美に命乞いをさせてやる」
PAを切って降りてきたリザがLABIATAがを収めて右手で私を掴む。
気に入らなければこのまま握りつぶすか。全身が恐怖で強張るが気合で押さえつけ笑みを浮かべる。
「ならばさせてもらおうか。私を助けてくれないか?助けてくれるならリリアナに所属してもいい。私は多才で有能だぞ。
それに私はお前といい勝負をしたストレイドのオペレーターだ。私一人を助けるだけでネクストが一機付いて来るんだお買い得だと思うが、どうだ?」
「それで?もう終わりか?」
言葉と共に全身を締め付ける力が強くなる。しまった、失敗したか?
「待て!そうだな、それと私を好きにしてもいいぞ?私はそちらのほうも優秀だからな」
胸のタイをとって胸を露にする。
「くくくく。そうかい。ならばまずはそいつを見せてもらおうか。おい、最後の仕上げにかかれ。手空きの奴はこいつを好きにしていい」
リザが右手を緩め私を地面に落とす。
「ぐぅ」幸い先ほど出来たばかりのミンチの上だったので墜落死するのは免れたが全身を強く打ち咽る。
血と肉と汚物の中で痛みと匂いで咳き込み朦朧とする私に男達が群がってくる。
「そうがっつくな。全員きちんと満足させてやるよ」無抵抗に男達に服を引き裂かれながら笑みを浮かべる。
ここまでは計算どおりだ。
このまま輪姦されて撤退の時に殺されるのが90%。残りの10%も殆どが今助かっても奴隷のように扱われ嬲り殺される可能性が殆どだろう。
ある程度の自由を得てアサルトセルについて調べられるようになる可能性は1%もないに違いない。
だがそれでも0でないなら私はそれを目指す。それがスティレットが思い出させてくれた私の生き方だ。
しかし手近な男に愛撫を加えようとしたところで額に銃口が押し付けられた。
「残念でしたねお姉さん。普段ならもう少し長生きできるんですがお姉さん達がゆっくり来てくれたおかげで既に全部終わっていて後はズラカルだけなんですよ。なので死んでください」
銃を突きつけた男が軽薄に嗤い頭を下げる。
駄目か。まぁ、輪姦されなかっただけよしとするか。すまん、ベルリオーズ。侘びは地獄でいれよう。
「まぁ待てよ」
だが観念して瞳を閉じたところでオールドキングの制止の声が響いた。
「?なんですかボス?自分でやりますか」
「いいやぁ、見逃してやれ。誰か一人でも殺していたら選んで殺すつもりはないから殺してやろうかと思っていたんだが今回は誰も殺してないからな。ならたまには誰も殺さずに終わるのも悪くないさ」
「誰もってターミナルで無茶苦茶殺したじゃないですか。はぁ、まぁた気紛れですか。それじゃぁこいつはどうします?お持ち帰りですか?」
「いんやぁ、置いてけ」
「置いてって気前よすぎですよ。はぁ、まあボスが言うならそうしますけどね。それじゃぁボス、輸送機の準備が整うまでに最後の仕上げをお願いします。それじゃぁまた遇いましょうね、お姉さん」
銃を持った男は突然の出来事に呆けている私の唇を奪うと、頭を下げて輸送機に帰っていく。
「よかったぜ、お前の男は」
そしてリザもそう言い捨てると空に飛び上がった。
何だ!?私は助かったのか?
想定外の幸運に喜びよりも先に戸惑う私の目前で輸送機が飛び立ち、リザがクレイドルの推進器を破壊していく。
私はそれをどうする事もできずに眺め続けていた。
だから別に俺は企業を怨んじゃいない。むしろ早めに俺の狂気を目覚めさせてくれた事に感謝しているくらいだ。
仮に企業が殺さなくても遅かれ早かれアイツと俺達の子供は俺の狂気の犠牲になっただろうからな。
それに企業が殺してくれたおかげでアイツは俺に愛されているという幸せな夢を見ながら逝けたんだしな。
ただ時々俺は夢想する。
もし火事が起こらずアイツと俺達の子供が生きていて、もし俺が狂気に死ぬまで気づかなければ、もしアイツと俺達の子供で平凡でくそくだらない退屈な家庭を作る事ができたのならば、
それはそれで面白くて幸福だったんじゃないかってな。
まぁありえないし、らしくもない事はわかっているんだがな。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
「ボス、お帰りなさい。作戦は上出来でしたね。しかしいいんすか?このままだとクレイドルはよりにもよってクラニアムに墜ちちまいますよ?」
最後の仕上げを終えて輸送機に帰還すると出迎えた副官がビールを放りながら小言を言ってきた。
「良いんだよ、王焔。所詮大量殺人だ。刺激的に行こうぜ」
「確かにそうっすね。ORCAの連中に任せたらクローズプランなんてケチな花火しか上がりやせんからね」
「そういうことだ。俺達で盛り上げてやらないとな。そうだ、ストレイドにはまだ通信が繋がるか?言い残した事があってな」
「あいあい。少々お待ちを」
副官が何故か持ってきていた通信機を操作するのをビールを飲みながら見物する。こいつ、読んでやがったな。相変わらず目端の利く野郎だ。
「繋がった!どうぞボス」
「おう。よう首輪付き、オールドキングだ」
「…何のようだよ?」
呼びかけると警戒したような首輪付きの声が聞こえてきた。
「クククク、そんなに警戒するなよ。先輩からアドバイスをと思ってな」
「アドバイスゥ?」
「あぁ。お前のネクスト、ストレイドとかいったか?は獲物を削る爪はあっても獲物を一撃で屠る牙がねぇ。それじゃぁ小動物は狩れても同格以上は狩れないぜ。
それとお前の調教師はまだ生きてるぜ。早く助けに行かないとクレイドルと一緒にクラニアムに墜ちる事になるぜ、首輪付き。じゃあな」
「てめぇ!ちょっと待」
言いたいことだけ言って通信機の電源を切る。
「敵にアドバイスっすか。はぁ、今回ボスサービスしすぎっすよ?」
「悪いな、お前以来の面白い素材でついな」
「はぁ、もういいすけど。それじゃぁ今度こそ巣に帰りますよ」
「あぁ」
副官と共に通路を歩きながらここにはいない首輪付きに嗤いかける。
クローズプラン開始まで後半年。それまで生き残れよ、首輪付き。
「I'm thinker トゥートゥトゥートゥトゥ」
「ババァ~!!無事かぁ?っておぉ!!血塗れ!?」
リザと輸送機が視界から消えて暫く経ちようやく助かった事に実感をもてた時に満身創痍のストレイドが接近してきた。
MBとBBとOBがほぼ破壊されているのでSBだけの酷く危なっかしい機動で見ているこっちがハラハラしたが無事に近くに着地する。
次いでハッチが開き、中から耐Gジェルでドロドロの少年が手に緊急キットをもって跳び出してくる。
「ババァ!!今止めをって何だ怪我なんかしてねぇじゃん。たく、心配損かぁ~」
近くまで駆け寄ってきた少年が私の全身に付いているのが他人の血と肉と汚物である事に気付くと肩を竦め、地面に落ちている肉片を拾い口の中に入れる。
「死者を冒涜するな!!!いやそれよりも私の事は見捨てていけといっただろう。何故戻ってきた!」
「あ!目玉見っけ!」と目を輝かせながら半分砕けた頭から眼球を穿り出して口に入れようとした少年の頭を殴って止めて叱り付ける。
「うぅ~、目玉食べるのは久しぶりなんだよ~、美味しいのに~」
「そんなに食べたいのなら私のから食べるといい。ただし二度とオペレートは出来なくなるがな」
未練がましく眼球を弄ぶ少年の手をとり私の右目に導く。
「お~け~、解ったよ。たく、狂気にもどれたぁ言ったけど強くなれとは言ってなかったんだけどなぁ~。やりにくくなったぜ。
まぁいいや。そうそう助けに戻ったのはオールドキングから通信が入ったからだよ。ババァが生きているから早く戻って助けろってさ」
少年が肩を竦めて持っていた眼球を地面に落としたのでそれを踏みつける。
「ふん、そうそうお前の好きにさせて堪るか。しかしオールドキングか」
奴め、私達を見逃すなどいったい何を考えている?
「ばばぁ、考え込むのは良いけどこれからどうするんだ?このままだとクレイドルと一緒に俺達も『くらにあむ』とかいうところに墜ちちまうぜ?」
「そうだな、とりあえず…ん?お前今クラニアムって言ったか?」
少年の言葉に聞き逃せない単語が出てきたので少年に問いかける。
「あぁ、オールドキングが言ってたぜ。クレイドルはクラニアムに墜ちるって。何?クラニアムに知り合いでもいんの?」
能天気に訊ねる少年とは裏腹に全身から血の気が引いていくのがわかる。
クラニアムだと!?もしこのデカブツがクラニアムに墜ちたりしたらクレイドルシステムは壊滅的な被害を受けるぞ!!
確かクラニアムは最大規模のアルテリアであると同時に各アルテリアの大本、制御ユニットでもある。
それがもしいきなり壊滅でもしたらいくらカーパルスなどサブ制御ユニットが複数あるといってもどうしようもあるまい。
恐らくクラニアム自身がエネルギーを供給しているクレイドル1~8は墜落。それ以外のクレイドルも墜落はしないだろうが制御を失い機動が不安定になり最悪衝突しかねない!!
「おい!!今すぐストレイドに戻るぞ!!スティレットに通信を開け!!」
「ほふぇ?」私が呆けているのをいい事に肉片を摘み食いしていた少年を引き摺りストレイドに駆け寄る。
「モギュモギュ、ゴクン、っとババァ待てよって、わぁあ!」そのままストレイドをよじ登り少年を耐Gジェルの中に蹴り落とし、次いで自分も血と臓物と肉に塗れた服を脱ぎ捨てて素っ裸になって耐Gジェルに跳びこむ。
肺の中をGジェルが満たす。私を異物と判断した統合制御体は私に酸素を送り込まず一瞬にして私は溺れそのまま二度と覚めない眠りに
「この繋がる前に飛び込んでくるなんて死ぬ気かババァ!!」
つく寸前で酸素が補給されついで心停止状態だった私を耐Gジェルが強引に蘇生させる。
私を蘇生させた手際といい繋がっていない私に『声』を届けている事といい流石だな。
全てを耐Gジェルが満たされた空間に厳密な意味での声、すなわち空気を振動させての音は存在しない。
少年の怒鳴り声は少年が私が声と認識できるように耐Gジェルを振動させて私の鼓膜に擬似的な声を届けているのだ。
って感心している場合じゃないな。そんな小器用な真似ができない私は少年の体を叩きモールス信号で意思を伝える。
「いいからスティレットに通信を開け!!」
「何をカリカリしてるんだか。ほらよ」
少年が肩をすくめると同時にスティレットが表示される。
今度は直接脳に送られる視覚情報をわざわざ投影するか。あいかわらず操縦技術はともかく出鱈目なAMS適性だな。
スティレットは一瞬と惑った後、直に顔を輝かせ何か叫ぶが聞こえてこない。
「いけね。聴覚情報も送らなくちゃいけないのか。えーと、こうか。それと一々言いたい事を伝えるのに叩かなくて良いぜババァ。肺を震わせてくれれば勝手に読み取って声に変換するから」
少年が並みのリンクスがやったら即廃人になる事をなんでもないように実現する。桁外れを超えて異常の域に入っているAMS適性に怖気を覚えるが今は好都合だ。
「スミスミ!無事だったんだな!!」
「心と体に深い傷を負ったがな。慰謝料は弾んでもらうぞ」
「解った責任を取る。結婚しようスミスミ」
「断る。っと、それどころじゃなかった。このクレイドルこちらで計算をした限りだとどうやらクラニアムに墜ちそうなんだ。悪いがそちらでも確認してくれないか?」
何時もの調子で軽口を叩きかけて自制して用件を伝える。とはいえまさかオールドキングから聞いたとは言えないので適当に言葉を濁らせざるをえないが。
「クラニアムだと!?ちょっと待ってくれ!!」
事態の深刻さを悟ったスティレットが確認をするのを祈るような気持ちで見守る。頼む!間違いであってくれ!
そして一人事態の深刻さをわかっていない少年が待つのに飽きて私に悪戯を始めた頃ようやくスティレットが真っ青な顔でこちらに向き直った。
「こちらでも確認が取れた。後六時間弱、正確には五時間三十八分後にクレイドル21はクラニアム中心部に落着する。スミスミ、そちらから何とか軌道を変えられないのか?」
「無理だな。推進器はすべて破壊されている。それに何か手があってもこちらには人手も移動手段も無いんだ。
企業連の兵士は皆殺しにされ輸送機は奪われた。そしてストレイドはSB以外のブースターをほぼ潰されまともに動けんし武装もドーザーとライフルのみだ。
そちらはあがって来れないのか?」
少年の頭を殴って引き離しながら首を振る。
「無理だ。ターミナルの射程からは外れているしVOBの用意も残り五時間では出来ない」
「打つ手無しか。落着した場合の被害は?」
「確定ではないが恐らくクレイドル1~8は墜落。そして14と18も飛び続けることが出来なくなるそうだ。推定死傷者はなんと10桁の大台に乗るだろうとさ。
現在この問題に関して企業の緊急首脳会議が開かれているがどうにもならんな。既に責任の擦り付け合いになっているそうだ。パックスエコノミカももう終わりかな?」
スティレットがやけになって嗤う。死者が十桁を超えると聴いた瞬間に口笛を吹いた少年を殴りつける。
くそ!どうしようもないのか!!このままだと折角拾った命をクレイドルを守れなかった責任を取らされて捨てる破目になっちまう!!
どうする?落着のドサクサに紛れて逃げるか?だが逃げてどうするって言うんだ!!生きていくだけなら一生逃亡者でもいいが私にはまだやらなくちゃいけない事があるんだ!!
だが焦って考えても無いも思いつかない。焦りばかりがドンドン積もっていきそれが少しずつ私の気力を削いでいくのがわかる。
そして懲りずに悪戯を始めた少年を引き剥がす気力すら失ったとき、
「ん?プライベート通信?相手は……リリウム・ウォルコットね。どうするババァ、出るかい?」
少年が一瞬複雑な表情を浮かべた後聞いてくる。
「…ああ、頼む」
一瞬躊躇したが受ける。今コンタクトをとってきたという事は何かあるんだろう。罠かもしれんがこれ以上状況は悪くなりようが無いので構わない。
「あいよ」少年の返事と同時に目の前にもう一つ映像が現れた。
「通信受託していただきありがとうございます。カスミ・スミカ様、セレン・ヘイズ様」
映像の向こうで優雅な動作で一礼するBFFのクイーン。同時に私の尻を揉んでいた少年の手に力が入る。痛みに顔を顰めそうになるが何とか表情に出さないようにする。
「こんなときまで礼儀正しい奴だな。それで何のようだ?クレイドルを守れずクラニアムに落着させるといった大失態を犯した私達に死刑でも宣告しに来たか?」
「まさか。折角お友達になれた二人にそんな酷い事はいたしませんよ。私はお二人を助けに来たのです」
「…お友達ね」少年が呟くと同時にさらに手に力を籠める。痛い。泣きそうだ。これは確実に痕が残るな。
「救いにか。このどん詰まりからどうやってだ?まさか今からクレイドルを飛ばす手段があるとでも?」
「いいえ。推進器がメイン・サブ・予備・緊急と全て破壊された以上進路変更すら不可能です」
「ならどうするつもりだ?破壊でもするつもりか?」
「御明察です。流石はセレン・ヘイズ様です」
冗談で言った一言を簡単に肯定するリリウム。
「破壊って、正気かリリー!?クレイドル21程の大質量をクラニアム一帯に被害が及ばないようにするには撃墜じゃなくて粉々に砕かなければいけないんだぞ!!」
「ええ。クラニアムに致命的な被害が及ばないようにするには直径十メートル程度にまでクレイドルを砕かねばなりません。これは例え核兵器を用いたとしても不可能です。
ですがご安心を。我等がBFFの誇るSOMならば少々砲撃する手順を考えなければいけませんが可能です。そうですね、おそらく一時間程度砲撃を続ければ望んだ結果が得られるでしょう。
幸いな事にSOMの現在地からクラニアムを射程距離に入れるのにおよそ二時間の移動で足ります。砲撃の一時間を考えても十分に間に合う範囲です」
「そうか!なら直に実行してくれリリー!」
「ですがスティレット様、一つ大きな問題があるのです。
私と王大人は直にでもSOMを動かしたいのですが、他のGAの重役方がSOMを動かすのに難色を示しているのです。無論今も王大人が説得を続けているのですが力不足のため時間が足りません。
今私が通信を入れたのはそのためです。ステイレット様、大変申し訳ないのですが私達にお力をお貸し願えないでしょうか?」
妙だな。私達じゃなくてスティレットに『お願い』だと?疑問に思ってリリウムの顔を見るが取り澄まされた表情からは何も読み取れない。
「そりゃあ、私に出来る事なら幾らでも力を貸すが私は政争など出来ないぞ、リリー?あ!もしかして私の体が交換条件なのか!?
聞いたかスミスミ、もはや私の魅力は会社を超えて全世界に広まっているみたいだぞ!う~ん、本当は駄目なんだが仕方ない。リリーたってのお願いだから特別にスミスミと一緒なら相手をしてやろう」
無茶苦茶な勘違いで舞い上がるスティレットに溜息を吐く。
「違うわアホ。勝手に私を巻き込むな!多分今回の責任がインテリオルにある事を証言しろというんだろう」
推測だが間違いあるまい。これがリリウムのというか王の目的だろう。これなら標的を傭兵である私達からインテリオル所属のスティレットに切り替えた事も納得できるしな。
「御明察です、セレン様。スティレット様には公の場所で今回のリリアナの狙いを読み間違えた責任はインテリオルにあると証言していただきたいのです」
予想通りの要求をするリリウムに舌打を堪える。
もしこの要求をスティレットが呑んだ場合、インテリオルは今回の責任を取らざるを得なくなる。
故にこれをまるまる受けてしまってはインテリオル内でのスティレットの立場は相当悪くなる。というか最悪私達の代わりに処刑されかねない。
ついでにインテリオルに責任を取らせた功績はリリウム、ひいては王のものになり王のGA内での立場はより強固なものになるだろう。
だから何とか交渉して有利な条件を引き出せスティレット。王の爺もある程度の妥協は覚悟しているはずだ。
「わかった。但し一つ条件があるんだけど聞いてくれるかな、リリー?」
「出来る限りお力になりたいと思いますけど、内容によります」
「そんなに難しい事じゃないさ。今回の責任は全て私とインテリオルだけにしてほしい。スミスミは一切のお咎め無しって事にして欲しいんだ」
「それは構いませんけど、そのよろしいのですか?」
「ああ、かまわな「ちょっとまてぇ!!!!」
とんでもない事を言い出したスティレットに慌てて突っ込む。
「馬鹿野郎が!!もっとよく考えろ!!そんな事をしたら最悪今回の責任をとって処刑!!処刑は免れても大幅な立場の悪化は免れんのだぞ!!!王の爺も要求が全部通るとは思っちゃいない!!ちゃんと交渉しろ!!」
「大丈夫。実際に墜落したならともかく被害が無いなら処刑は無いよ。なら私の立場が悪くなる程度でスミスミが助かるなら問題ないさ。
それに私は愛した人の命を駆け引きの材料に出来るほど強くないんだ。心配してくれてありがとね、スミスミ」
怒鳴る私とは対照的にステイレットが静かに首を振る。
それだけで長い付き合いである私にはこの馬鹿が意見を翻すつもりが無い事が解ってしまった。
「…馬鹿野郎が!!勝手にしろ!!!」
潤んだ瞳を見られないように横を向く。
「う~ん、涙目のスミスミは超可愛いなぁ~。リリーもそう思うだろ?ムラムラしない?」
「ムラムラの意味は解りかねますがとても可愛らしいのには賛成します」
茶化すような二人の声に頬が熱くなる。
「煩いぞ!二人とも!!時間が無いんだ!!早く準備をしろ!!!」
「はいはい、じゃぁねスミスミ愛しているよ」
「それでは失礼しま「ちょっと待ってくれよ、…リリウム」
通信を切ろうとしたリリウムに少年が声をかける。
「なんでしょう、カスミ・スミカ様」
「いや、今回世話になったからお礼に食事でもって思ってな。暇な時どうだ?オリジナルよか味は劣るがるすじ肉とジャガイモのクリームシチューを馳走してやんぜ?」
「ありがとうございます、カスミ・スミカ様。初めて食べるので大変楽しみです。お時間があれば是非お願いします。では私はこれで」
一礼とともに通信が終わり眼前のモニターが消える。
「おい、痛いぞ。いい加減に手を離せ」
それを確認してリリウムの返事を聞いた直後についに皮を裂き肉を抉るまでに強く力が籠められた少年の手を引き剥がす。
「…あ!?ゴメンババァ」
少年が私の血で真っ赤に染まった手を見てようやく力を籠めていた事に気付いたのか謝る。同時に耐Gジェルが蠢き私の傷に手当てを行っていく。
そして怪我の手当てが終わった直後「そうだ!待っている間暇だからしようぜ!ババァ!!」と叫び、返事を待たずにいきなり私に襲い掛かってくる。
「ふざけ…仕方ないな」
咄嗟に引き離そうとしたが少年の嗤いながら涙を流す顔を見た瞬間力を抜いて少年を受け入れてやる。
「…ありがと、ババァ」小声で礼を言って私の胸を吸い始めた少年の頭に拳骨を落とした後、優しく抱きしめ囁く。
「ババァ言うな。それとあまり一人で抱え込むなよ。その私とお前の仲なのだからな」
胸に息がかかる。次いで少年が肩を震わせ「…ババァもね」と告げる。
そのまま胸から鎖骨、臍と順々に舐めていく少年の頭を撫でながら少年が舐めやすいように股を開く。
「そうだな、いつか話すよ」
「じゃぁ俺もいつか話すよ」
秘所に到達した少年が私が既に迎え入れる準備が整っている事を確認すると舐めずに、体を起こし私にキスをした後一気に奥まで挿入した。
「約束だぜ、ババァ」「ああ、約束だ」
後書きという名の蛇足
まずはこのような駄文を最後まで読んでくれた事に感謝を
そして注意!!ここからは作者が作品の裏話をしたり感想を言ったりするところです
本編とはノリが違うから冗談半分で見るよろし!
某所からの移送です。時系列的にはこれが一番古いはなし。
多分新規の読者さんが最初に見るであろうから、多少ライトにしてはいるもののケルクク名物のエログロを詰め込んで、合わない人が他の作品を読んでショックを受けないように回れ右できる事を意識して書いた…気がする!
ゆっくりと女の膣を自らのモノで搔き回していた少年が何かに気付き動きを止める。
「時間か」
少年の言葉と共に絡み合う少年と女の眼下にクレイドルが映し出される。
「そうか。よっと、きゃぁあ!!」
映像を見ようと抱き合う形の少年から離れようとした女が耐Gジェルに動きを阻まれ悲鳴を上げる。
そのまま耐Gジェルは女を少年の前に四つん這いにさせる。
「よっと」「こ…っん!?」少年はそのまま腰を前に動かし先程まで挿していた膣のなかに再度埋没させる。
女が呆れた口調で「もう三度も出しただろう」というと少年は「だってこっちのが気持ち良いんだもん」と嗤って腰を揺すった。
「んっ……はぁ、もういい」少年がそれ以上腰を振らなかったので女は溜息をついて妥協して目の前の映像に目を向ける。
そして改めて見たクレイドルの大きさに圧倒された。
自分達の乗るストレイドから1KMは離れているにも関わらず間近にあるように感じる見るものの遠近感を狂わせる程の威容。
「しかしデカイな。本当にこんなものを撃破出来るのか?」
女が不安に思い呟いた時、映像に一つの光点が出現した。
光点は凄まじい勢いで成長して行き、やがて拳大の大きさに成長したところで無音で飛来しそのままクレイドルの左端に直撃し、直撃した部分を轟音と共に消し飛ばす。
そしてようやく追いついてきた一発目の砲撃音と共に2発目・3発目が次々とクレイドルに突き刺さりクレイドルを解体していく。
「うわぁ、すっげぇ」
「関心ばかりするなよ。流れ弾が繰るかもしれんのだ注意しておけ」
女は歓声を上げる少年に注意をするが自らも眼前の光景に呑まれていることを自覚していた。
「これがフラグシップ級AFの力か」
ストレイドではどうしようもなかったクレイドル21程の大質量をこうも容易く解体する次元違いの力。
いずれ自分達が傭兵を続けるならば戦わねばならない相手。その時果たして少年は、いや自分達は勝てるのだろうか?少なくとも今戦えば近寄る事すらできない。
「いや、勝たなければいけないんだ」
そう、勝たなければいけない。自分がアサルトセルの事について調べていけばいつかは企業と敵対しフラグシップ級AFとやりあわなければいけなくなるだろう。
その時までに自分と少年は力をつけておかなければならない。
「見ていてくれよ、ベルリオーズ。私はお前達の遺志を継ぐ」
女は呟き視線を空に向け、既に姿が見えないしかし確かにそこにあるアサルトセルを睨み付けた。
「牙か」空を睨む女の後ろで少年は自らの右手を見ながら呟く。
そして首を振り、砲撃の彼方SOMの艦橋で指揮を取っているであろう少女を想う。
「チビ、いやリリウム・ウォルコットか。いい加減に色々はっきりさせないといけないんだろうな」
そう少年は呟くと何時もの嗤いの仮面をかぶり砲撃の先を睨みつける。
それはまるで大気とSOMの壁を破り少女が見えているかのようだった。
空を睨む女と地を睨む少年。
同じ時、同じ場所で、同じ光景を見ながら繋がる二人の睨む先はあまりにも違う。
それはまるで二人の未来を暗示しているかのようだった。
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