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#setlinebreak Written by 独鴉 ---- 変化と抑制 ---- レッドラム+スタルカ撃破・・・ GAにとって戦力の充実した今、オーメル陣営に属するネクストを一機でも多く排除し、迫ってきている企業間戦争に備えて置きたいのだろう。 ラインアークのホワイト・グリントが居なくなったことで、オーメルの制約が解かれた事は間違いないのだ。 GA領域内カラード ミーティングルーム・・・ リンクスはGAからのレッドラムとスタルカの撃破依頼を請け負った。だがGAからは僚機を雇うことを確約させられ、依頼を確実に成功するよう万全を期するよう念を押されている。 いや、させられたというべきだろう。むろんセレンも僚機を雇うことには賛同しており、選ばれたのは領域殲滅能力とAFの撃破に優れる有澤重工 雷電だった。雷電はカラードランクにおいてはスタルカを上回っているが、問題なのはレッドラムだ。その事をわかっているセレンは、万全を期して僚機契約を行っているキルドーザーを後詰めで待機させていた。むろん戦うためではなく退却時支援のためだが。 「作戦領域では濃霧が発生している。視界も悪いしレーダーを積んだほうがいいんじゃないか?」 相変わらず緊張感の欠いた言葉だが、必要な情報をしっかり出すところはさすがGAの仲介人というとこだろう。 「作戦領域は濃霧が発生し易い…か」 セレンは得られた情報をすぐに整備場へと送り、整備場では機体背部に接続しているレーダーとカメラアイの調整が始まる。 雷電を僚機として選択してから数分しか経って居ないのだが、別室で待機していたらしく、ミーティングルームに有澤隆文が秘書兼オペレーターと入ってきた。 「レッドラムは私よりもランクが上だが、期待には応えてみせよう」 自信が有るのだろう。事実KIKUを除くスタルカの標準火力では雷電を削り切ることは出来ない。問題があるとすればレッドラムだろう。 「有澤か、本当に出来るのか?半年前のカラードマッチで敗北したばかりだろう」 普通ならば言葉に加減というものがあるのだが、セレンにそれを求めるだけ無茶というものだろう。そして的を射ているだけに性質が悪いというべきか。 「確かにレッドラムの火力を全ては受け止めきれない」 雷電は半年前のカラードマッチでレッドラムと13分間に渡り死闘と呼べるほど激しい戦いを繰り広げたが、レッドラムの機動力と接近戦において絶大な火力を誇るスラッグによって雷電は撃破されている。相性の問題もあるが、互いに平面的な機動を重視している以上、雷電の単発火力は高機動で駆けるレッドラムには当てにくく、さらに機動力の低い雷電は的と化してしまう。 「だが、今回はシミュレーターではない。実戦のシミュレーターでは体にかかる負担はま ったくといっても良いほど別物だ。同じ結果になるとは限らないだろう」 「それは向こうにとっても同様だ。雷電が同じ結果にならないとは限らないだろう?レッドラムはこちらがやらせてもらう。状況戦ならこちらのほうが対応できる」 有澤とセレン、どちらの意見も間違ってはいない。実戦とシミュレーターは違うが、レッドラムが勝利したことも確かなのだ。話し合いから外されているリンクスはただ二人のやり取りを見ていただけだが、僚機として選ばれなかったメイ・グリンフィールドからのメールが届き自動で携帯端末の画面に内容が表示される。 〔僚機に選ばれなくて残念だったわ。有澤社長なら大丈夫と思うけど、私も緊急時に備えて待機しておくわね。時間が有ったらまた一緒に食事でもしましょ♪〕 緊急時、それほど相手は強いのだろうか。そう頭を過ぎった時セレンと有澤の話が終わったらしく、セレンは書類を持って席に戻ってきた。 「話は付いた。有澤にはスタルカの相手をしてもらう」 雷電のような武装パターンは相手に読まれ易い。いや、状況戦に持ち込まれれば対応しきれない可能性もある。優秀な対ECMレーダーと頑強な装甲を持つサックスならば状況戦にも対応できるはずとセレンは考えていた。 依頼内容から作戦内容まで話がまとまり、戦域への移動を開始してもなお、リンクスの気分は晴れていなかった。PA-N51に駐留する2機のネクストを撃破する。依頼の重要度と危険度は今までの中で最高レベルなのだが、アルゼブラで喧嘩を売ってきた女性リンクス シャミア・ラヴィラヴィ、彼女を殺すのは何故か気が引けていた。それはアルゼブラで説教を受けていたときのことが原因だった。 「もういい。気が済んだ」 セレンはそう告げるとシャミアとリンクスを残し、アルゼブラブースから立ち去っていった。セレンの後ろ姿が通路の先から見えなくなるとリンクスはゆっくりと立ち上がる。 「…今日は長かった」 リンクスは二時間以上もの説教から開放され、安どの表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がる。冷え切った脚は少々痺れてはいるが、もはや慣れている正座にそれ以上の問題はなかった。軽く足腰の柔軟を行い、まともに動くことを確かめると立ち去ろうとした。 「ちょっと…手を貸しなさいよ」 リンクスが振り返るとシャミアは脚を崩した状態のまま動けないでいた。慣れない人は正座を長時間すると足がしびれ動けないことがあるのだが、どうやらその例にはまってしまったらしい。シャミアは何度か立とうとしているのだが、その度に電気が走るような痛みに結局立てずに居るようだった。 「手を貸して立てるなら構いませんが、無理だと思いますよ」 「うるさ…いわね。いいから手を貸しな…さいよ」 リンクスはシャミアの前にしゃがむと背中を向ける。 「手を貸しても痺れていたら立てないでしょう。背中を貸しますよ」 シャミアは目の前で背を向けてしゃがんでいるリンクスを見て、久し振りにS心がうずき始めていた。 (…この男面白そうね。それに体力ありそうだし) 「私を抱かかえなさい」 「は?」 「聞こえなかったのかしら?抱かかえなさいと言ったのよ」 強いアクセントを込めた口調、そして僅かに見下ろすような視線と自然と誘わせる手の動き、他人を従属させる時自然に彼女が行う仕草だった。 「まぁ、構いませんが?」 リンクスはシャミアのしゃがみ、脚と背中に腕を回すとゆっくり立ち上がる。シャミアの赤い髪がリンクスの首をくすぐっている形なのだが、感覚が麻痺しているのか鈍いのか何の反応もない。いままで大抵の場合何かしらの反応があったのだが、まったく反応のないリンクスを見て首を傾げる。 (おかしいわね?大抵何かしらの反応があるんだけど) 「それでどこまで送ればいいんですか?」 やはり何も感じていないらしく、リンクスの表情はしゃがむ前となんら変わっていない。 「レッドラムの整備場まで連れて行ってもらうわ」 「それはさすがに遠過ぎる」 シャミアは開いている手でリンクスの襟を掴むと顔を引き寄せる。 「文句は言わせないわよ」 僅か数センチと言えるほどシャミアの唇がリンクスに迫る。 「戦場に降下する。気を抜くな」 リンクスはセレンの言葉で意識を切り替えようとするが、どこかひっかかったものが抜ける感じはしなかった。 「了解」 戦域に降下された2機のネクストを出迎えたのは強力なECMの展開された廃ビル群と濃霧だった。視界状況は最悪、着地さえもセンサーを駆使しなければ安全に着地できないほど。 「この濃霧に加えECMも散布されている。奴ら闇討ちをやるつもりだ。慎重に動けよ」 セレンは送られてくる情報を解析し、周囲のビルの配置やECM状態をサックスとリンクしている雷電へと送る。 「こちら有澤重工雷電だ」 サックスの右前方に雷電の姿が見えているが、霧のためネクストのカメラアイでも完全な姿は捉えられない。 「予定どおりスタルカをお願いします」 「了解した。それでは正面から行かしてもらおう」 雷電が移動を開始したとき、霧に覆われた廃ビルの陰から1機のネクストが姿を現した。 「殊勝な羊達ね。態々狼の餌場に出てくるなんて」 地面を這う様に駆ける赤い機影、カラードランク15のネクスト レッドラム。一瞬姿を見せたもののすぐに廃ビルの間をすり抜け姿を隠してしまう。 「抉らせて貰うでぇ GA!」 そしてもう一機、機体バランスを著しく狂わしているだろう巨大な実ブレードを持つネクスト、カラードランク19のスタルカ。僅かに空中に浮いた状態からMQBを点火し、スタルカは雷電の左正面、廃ビルの間から姿を現す。その大振りな実ブレードを装着した右腕を引くとKIKUの射出体制をとる。だが間髪いれずに発射された有澤のグレネード弾がPAに直撃し、爆発がスタルカを後方へと弾き飛ばした。だが爆炎に紛れながらも濃霧と廃ビルの中へとスタルカは再度姿を隠し、追撃の手が及ばないように距離をとっている。 「スタルカを撃破した後援護をしよう。それまでは無理をしないように」 雷電はスタルカが吹き飛ばされた方角に向け移動を開始、無限軌道を僅かに浮かせると滑るように廃ビルの中へと姿を消していった。だが、姿を消してすぐにロケットとグレネードの連続した爆発音と共に火柱が上がり、スタルカと雷電の戦闘が始まったことを伝えていた。時折炎の光に照らされ空中を舞うスタルカの姿が見えるが、スタルカの姿はすぐに濃霧の中へと消えてしまう。 「さすが雷電、マッチでは運よく勝てたが、次は勝てるかどうか解らないな…」 スタルカは周囲のビルの間を跳躍しながら雷電にロケットなどを打ち込んでいるが、雷電は攻撃をまったく気にも留めず周囲のビルごとスタルカをなぎ払う。直撃を嫌うスタルカは距離を取るため必殺のKIKUの有効射程には入れず、他の手持ち武装では火力も圧倒的に不足していた。このままいけば雷電はスタルカを撃破するだろう。 カラードマッチで対峙した時は死を感じないシミュレータ故にリンクスは勝利できたが、実戦ともなると強烈な爆炎と衝撃に巻き込まれる恐怖は半端なものではない。遠距離からも確認できる巨大な爆炎は充分なほどリンクスに恐怖を与えていた。だが恐怖は判断速度と認識速度を遅らせ、周囲の認識さえも鈍らせてしまう。最高危険度の戦場では命とりになりかねないものだ。 「左からスタルカ接近しているぞ!」 セレンの叫びと共に濃霧の中からスタルカがサックス目掛け襲い掛かった。 「なっ!雷電の攻撃から逃れたのか!?」 リンクスは迎撃しようとQBTで機体を回転させ、SAKUNAMIを向けようとするが重量級ゆえの旋回機動の遅さ、なによりも重量級という自覚の薄さが間違った判断をさせていた。 サックスの旋回速度では迎撃が間に合わない、誰の目にもわかるほどスタルカは最高のタイミングと角度からサックスに奇襲をかけていた。サックスの左腕にKIKUが突き刺さり、容易くGA装甲板を食い破り激しい振動と共に内部駆動を蹂躙、重装甲を撃ち砕きコア目掛け鉄杭が突き進んでいく。だが、コアまであと僅かというところで轟音と爆炎が周囲に撒き散らされ、スタルカとサックスを炎の渦が飲み込んだ。軽量なスタルカはサックスの元から吹き飛ばされ、ブーストでバランスをとりながら霧の中に姿を消す。 「君ごとになってすまないが、大丈夫かね」 雷電のグレネードがサックスごとスタルカをなぎ払ったのだ。もちろんGA製で組まれた重装甲に追加製波装置を付けたサックスはたいした損傷には至っていない。 「…なんとか大丈夫です」 だが、KIKUから受けたダメージはひどいものだった。腕は繋がっているものの左肩から下は垂れ下がり、SAKUNAMIを落してしまっている。このことから肩から下の駆動系を丸ごとやられているのだろう。だが、問題は損傷だけではない。腕の機能を失うほどの損傷を負ったのだからAMS負荷は並大抵ではないはず。 「統合制御体が左肩から下の機能を排除中だ。少し耐えれば楽になる。だが、戦闘続行不可能と思うなら退却しろ」 セレンの意見は間違っては居ない。サックスの持つ最大の火力と言えるSAKUNAMIを失った以上総火力の大幅な減少は否めない。 「いえ…武装はあります。問題…ありません」 左腕は垂れ下がったままの状態だが、左背のガトリングキャノンを担ぎリンクスは戦闘の継続を望んだ。腕の機能を失うほどのAMS負荷は決して低くないのだが、リンクスは現段階での戦線離脱だけはしたくなかった。 「…まぁいい、やれるだけやってみろ。だが」 セレンのオペレータールームに送られてくるデータはサックスの損傷程度は低くまだ充分戦える範囲内を表している。だが、リンクスの状態を示す脳波やAMS負荷値はイエローゾーン 危険範囲を指していた。 「撃破される危険性が今以上高くなれば退かせるからな!」 「了解しました」 リンクスはAMSとのリンクを一時切断し、統合制御体にシステム復旧機能を優先させる。僅か5秒足らずの再調整時間の間にリンクスは液体の入った注射器を取り出し、自らの首に突き刺すと中の液体が自動で注入されていく。 「問題がないのなら戦闘を再開するとしよう。今度はそちらに決していかせん。雷電を楯にしようともな」 決意のようなものが込められた言葉を残し濃霧の中へと雷電は消えていく。 [AMSの再接続を開始 戦闘状態の再稼動完了] 統合制御体から再起動が完了の報告が上がり、リンクスへと周囲の情報がAMSを介して大量に流れ込んでいく。即効性の高い液状薬は痛みや苦痛さえも消え去るほどの劇薬、本来ならばリンクス用の薬は戦闘前に飲むAMS接続の苦痛を減らすタイプ。そして戦闘後に激しい痛みを和らげるタイプの二つしかないのだが、リンクスがいま服用したのは激痛だけではなくある薬物が加えられた特別な代物。ホワイト・グリント戦以降にセレンが用意したものだった。 「ド・スの奴、私の獲物にまで手を出したわね」 シャミアは自らの獲物に傷をつけたド・スの攻撃を疎ましく思うが、状況を選んでいる余裕などなかった。もう一機のネクスト 雷電の火力は凄まじく、カラードマッチの結果から推測してもスタルカ単独では長くは持たないことはシャミアもわかっていた。 「まぁいいわ。せっかくの獲物ですもの」 重厚なネクストを穴だらけにする。そう考えるだけでもシャミアの感情は高揚し、サディズム快楽が身を高ぶらせていった。 「ゆっくりと…味あわせてもらうわ」 レッドラムは四脚を折りたたみMQBを点火、濃霧下で廃ビルの立ち並ぶ中を高速ですり抜け獲物へと向かっていく。 「今回の獲物はどんな快楽を私にくれるのかしら」 視界に入った重装甲の機体は大型のレーダーを積んでいたようだが、高濃度ECMと濃霧のせいでレッドラムの動きを掴みきれていない事をシャミアは解っていた。重装甲の機体背後へと回るとMQBを点火し一気に加速、有効射程内へと入り込むとKAMALを叩き込む。広範囲へとばらけていくスラッグ弾のほぼ全てがPAに接触、激しい緑色の光と共に弾丸は侵食され重装甲に阻まれてはじけ飛んでいく。サックスの肩部のSQBが炎を吹き上げ重装のネクストはレッドラムの方を向き始めるが、レッドラムは左SQBを点火し廃ビルの陰へと滑り込み、重装のネクストが振り返った先にはレッドラムの姿はなかった。 「ふふふ…いいわ。硬くて、大きくて、素敵な風穴をたくさん開けられそう」 サックスはレーダーの光点に合わせてバズーカとガトリングを掃射するのだが、かすりもせず。レッドラムは高速状態を維持しショットガンと突撃ライフルの射撃を行い濃霧に紛れ姿を消す。高速で地上を駆ける軽量四脚型を視界の悪い状態で捕らえるのは至難の業。さらにサックスの武装である強化バズーカとガトリングキャノンの弾速はそれほど早くはない。霧の中を突如現れては突撃ライフルとスラッグで射撃を行った後再度霧の中に消えるレッドラムの戦法。有効視界で捉えられるのは2~4秒程度。さらにECMでレーダーの精度は落とされ、高出力QBでの高速機動で照準は外されている。そんな敵相手に現在のサックスではまともに対処しきれるものではなかった。 「現機体ノ反応速度では通常対応不可能。戦術プログラムのサーチ開始」 サックスは決して悪い機体ではないのだが、レッドラムの機体構成との相性が悪すぎた。 「該当戦術プログラムのロード完了。危険度イエローレベルの方法以外選択なし」 それなりの損傷は負うがレッドラムが地上を駆ける以上動きを止める方法はあった。リンクスはある程度の損傷を覚悟し、レーダーと濃霧によって視界の悪い周囲に目を配る。SSの単眼カメラアイでは完全に捉え切れないだろうが使用しているパーツはNSS。防弾に優れたスリットタイプのメインカメラアイと広域を認識するための4個のサブカメラアイ、それ故にNSSの死角はSSと比べて少ない。 濃霧に覆われた視界の中、左正面の廃ビルの間に赤い陰が右から左へと一瞬通り過ぎ、レッドラムはサックスの右側面方向に回り込もうとしていることが解る。 「レッドラムの攻撃予測地点を推測」 SQBを点火、QBTで右方向に90度回転させ続けてMQBを点火、重量級の機体故に瞬発力こそ劣るものの、クーガー製のブースターは重量級向けに設計されており、重い機体を中量級比べてさほど劣らない瞬発力を発揮してみせた。サックスが加速してから1秒と経たずにサックス正面の廃ビルの間からレッドラムが姿を現す。 「予測位置に誤差ナし」 正面から来るレッドラムに対してさらにMQBで接近するとそのまま機体をぶち当てる。接触までにレッドラムの突撃ライフルとショットガンがサックスのPAと装甲を抉るが、内装以外はメリーゲートとほぼ同じアセンブル、対実弾・対衝撃に特化している以上、至近距離でライフル弾と散弾を撃ち込まれてもGA製の重装甲は十分に耐えてみせた。 真正面からぶつかり合った両機は激しい衝撃によって動きを止め、PA同士の接触による相互干渉でコジマ粒子が舞う。重量負けしたが故に激突の衝撃で動きの止まったレッドラムの両腕に向け、サックスは強化バズーカとガトリングガントリガーを引いた。だがレッドラムはSQBで瞬時に距離を取り直し、ガトリングガンの掃射を掻い潜りながら濃霧の中に姿を消す。 「レッドラム左腕の破壊確認。こちらの損傷率47%に上昇」 リンクスはこの交差と同時にレッドラムの両腕を抉り取るつもりだったのだが、トリガーを引くと同時にレッドラムの右背の大型スラッグガンが咆哮を上げ頭部に直撃、強化バズーカを一発撃つだけで限界だった。 さすがのGA製とは言え至近距離でアルゼブラの誇る大型スラッグガンの直撃を受けた為にカメラアイの左側が破損し認識不能。腕一本と片目とは余り良い代償ではなかった。 シャミアはイライラしながら肘から下を失った右腕とのAMSのリンクを完全に切り離すと負荷による頭痛に耐える。 「あのリンクス…、やってくれるわね」 だがシャミアは少々腑に落ちないことがあった。腕ではなくコアを撃てばアルゼブラ製の脆弱な装甲を撃ち破り撃破できたはずなのに相手は両腕を狙ってきている。そればかりか高速戦闘中も脚部を狙うばかりでコア周辺は狙っていなかった。 「どういうつもりか知らないけど、生きが良い獲物を仕留めるのは楽しいわね」 シャミアは自然と攻撃的な笑みをこぼしていた。 リンクスは自ら気付いていなかったが、ホワイト・グリント戦時に近い高スペックを叩き出していた。その高スペックを制御し、維持するためにセレンはある種の賭けを行っていた。 「やはり…、予測どおり抑えられているようだな」 予測どおりというのにもかかわらずセレンの顔は曇っていた。レオーネ時代の伝を利用して探し出させた精神医療に関わる医者に処方させた薬。それは不安定化する精神をフラットな状態にすることで他の人格を抑えるように作られたものだった。 (だが、これで奴の監視と経歴の洗い直しが必要になったということか) インテリオル・ユニオンの情報網、カラードの情報網、それだけで世界の情報はほとんど手に入るはずなのだが、リンクスの所属していた独立傭兵部隊は国家解体戦争開始の50年ほど前に突然と記録に上がり、それ以前のものはまるでなかった。それまで部隊そのものが存在していなかったかのように。 [機体ダメージが危険値に到達] オペレート機器からサックスのダメージが駆動部に達したことを伝える。 「レッドラムの次行動の予測を開始」 だが恐怖を何も感じていないのか、サックスから機械的に戦闘情報を処理している声だけがセレンのいるオペレートルームに届いていた。 「戦闘用人格を要した強化人間か…」 どこか悲しげにセレンはそう呟くと行われている戦闘映像に思考を移した。 スラッグガンの面射撃と突撃ライフルの連続射撃にサックスのPAは耐えられず、再展開と霧散を繰り返した装甲表面に無傷な場所などなかった。しかしこの攻撃はサックスの動きを徐々に限定し、目的とする場所へとレッドラムの攻撃は行われているのに過ぎない。 「ふふふ…あと少し、あと少し」 サックスの周囲を高速で移動を続けるレッドラムの攻撃は円をかたどっているのだが、徐々にその半径を小さくしつつ、廃ビルなどを利用した離脱や防御がしにくい一箇所に誘導するものだった。 1分後、サックスが追い詰められた先は背後の廃ビル一つを残し、サックスの二連続QBでも離脱可能範囲内に他の廃ビルが一つ無い場所だった。だが、レッドラムの高機動性を考えれば廃ビル群からの攻撃がいまだ可能な距離、レッドラムの作り上げた巣の中心にサックスは捕らわれた。離脱しようとMQBを点火するとスラッグと突撃ライフルの掃射がサックスの動きを押し留め、また廃ビルのある中心地点へと戻ることを余儀なくされてしまう。反応速度と機動速度の限界を考えればすでにサックスでは攻撃も充分な回避行動も長時間維持は出来ない。さらなる危険な戦術を取らなければならない状況だった。 サックスは廃ビルにPAが接触するぎりぎりまで後退。背部の命中精度がもっとも高くなるよう脚部をロック、射撃体勢を整えると広範囲射撃圏内に入ったレッドラムの予測範囲位置へとガトリングでの射撃を行う。 廃ビルの間から姿を現したレッドラムの正面には大量の銃弾が迫り、回避するため左SQBを点火、そのため突撃速度がにぶりGA製強化バズーカの照準がレッドラムへと合わされる。撃ち出された弾丸がレッドラムへと迫る中、右SQBを点火しシャミアはレッドラムを無理やり急加速させる。機体に襲い掛かる重力は緩衝装置でも抑え切れずシャミアを襲うが、眼前へと迫っていた銃弾の射線軸から外れることに成功。PAを貫き銃弾はあさっての方向へと飛んでいった。 「っ、この状態で抗うなんてやるじゃない!」 シャミアはサックスに迎撃されたため、突撃速度が鈍ったレッドラムを再度濃霧の中へと潜らせる。大きく周囲を旋回しつつ、シャミアはサックスの動きを確認。ゆっくりとした動きなのだが、レッドラムの進行方向へと機体正面を向けようとしている。 (私の先を…読んでいる?) 廃ビルが陰になったところで機体をバックブーストで急停止させ、進行方向をまったくの逆に変えてみる。しかしレッドラムの動きに連動し、サックスの銃口はシャミアが考えている攻撃位置へと向けられようとしていた。 ある一定上の経験を積んだリンクスならば、一度は戦ったことのあるホワイト・グリントから与えられている決定的な恐怖がある。それは行動の先を完全に読まれる事からくる、感情まで読まれているかのような感覚。それが人の恐怖を何よりも駆り立て、冷静な判断力も思考力も奪ってしまう。この時その恐怖を思い出したシャミアは、自らの内で高ぶっていたサディシズムな高揚感が冷め始めるのを感じていた。 「私の攻撃位置を読んでいる…。いえ、偶然よ」 シャミアはOBを起動させ、サックスの背後に佇む廃ビルの裏へと回りこむ。レッドラムの統合制御体とシャミアの経験上すでにサックスの装甲は限界、あと数秒近距離でKAMALとACACIAを撃ち込めば機能を停止するはずだった。 「読まれていても、これで終わりよ!」 廃ビルを突撃ライフルで破壊し、反応の送れたサックスの背部目掛けてスラッグを叩き込むはずだった。だが、廃ビルの崩れた先にはこちらを向いたサックスが待ち構えていた。 崩れ落ちた廃ビルの残骸越しに二機は対面、ストレイドとレッドラムの持つ火器が同時に咆哮を上げた。至近距離からの銃撃戦、それもお互いに近距離でその能力を発揮する強化バズーカ・ガトリングガン・ショットガン、レッドラムの得意とする高速戦にならず、数秒足らずで撃ち合いは終了した。 「ふっふふ、穴だらけ…ね」 散弾はPAを貫きGA製ネクストの装甲に喰らいついていたが、サックスの装甲板を抉っていただけでまだ稼動していた。しかし同じように至近距離で強化バズーカとガトリングガンを掃射されたレッドラムはすでに機能を停止。元々軽量級である上にPAが厚くないアルゼブラ製、一方はPAよりも装甲を重視するGA製とでは至近距離での実弾撃ち合いとなれば当然の結果ともいえた。 サックスは動かなくなったレッドラムのすぐ傍まで歩いて近づき、レッドラムのコアに強化バズーカを向ける。すでにガトリングの銃撃を受けたレッドラムのコアはゆがみ、PAを失った状態では至近距離でのGA製強化バズーカの大口径弾を受け止めることは不可能。このままトリガーを引けばレッドラムのコアは完全に破壊され、リンクス シャミアは死亡し依頼は完全に完了する。また、このままにしておいてもコジマ汚染か凍死で死亡するだろう。もはや周囲に救援を行うようなアルゼブラの部隊はいないのだ。 その時大爆発が鳴り響き、もう一つあった光点が消えている。恐らく至近距離で有澤重工のOIGAMIがスタルカに直撃したのだろう。文字通り消し炭と化したはずだ。 (今日も説教か・・・) レッドラムに向けていた強化バズーカを下に降ろすと通信回線を雷電へと繋げる。 「有澤社長。依頼がある」 レッドラム・スタルカとの戦闘後・・・・ カラードのとある病室にリンクスは居た。味気のない壁に囲まれた個室のベッドの上では治療の終わったシャミアが静かに眠っている。あの後、大破したレッドラムから意識のないシャミアを引きずり出し、有澤重工の医療班と共にカラードへと移送。すぐさま精密検査が行われたが、後遺症が残るような怪我はなにも無く、数日もすれば退院してまたリンクスとして戦えるらしい。 「変わった…かな」 そう呟くとリンクスはベッドの傍に置かれている近くのイスに座る。ネクストの乗り手となってからセレンや色々な人と話し、戦い以外の事を考えるようになっていた。今までACに搭乗中であれば殺しさえもなんとも思わなかったが、知り合いというだけでシャミアを殺す事を躊躇い、わざわざGAに睨まれるリスクを冒してカラードへと運んだ。この行動がリンクスの何をどう変えたのか、何を意味しているか、リンクス自身には解っていないが彼の両親たちが聞いたらさぞ驚くことだろう。 「そろそろ帰るか」 病室にシャミアが運び込まれてから15分ほど経ち、起きる様子がないと判断したリンクスはイスから立ち上がり、椅子をベッドの横に片付けると病室の扉の取っ手を掴んだ。 「殺さないなんてどういうつもり?」 声に振り返るとシャミアはベッドに寝たまま半身をこちらに向けている。 「戦闘中コアは狙わなかったのはどういうこと」 AMSの負荷によってまだ上手く立てないのだが、シャミアはベッドから起き上がろうとしている。なんとかベッドから降りて立ったが、ふらついてバランスを崩す。とっさにリンクスはシャミアを支えたが、それが癇に障ったらしく鋭くなった眼つきでリンクスを睨みつける。 「あんたは私をどうしたいの」 「…解らない」 それがリンクスにとって一番素直で簡潔な言葉だった。自分自身、GAに睨まれるリスクを冒してまでシャミアを助ける利点などないのだ。 「イカれたこと言ってんじゃないよ!自分の事は自分にしかわかるわけ無いだろうが!」 外で待っていたセレンが大声に気付き、扉を開けるとリンクスの首を絞めようとしているシャミアの両腕を背後から掴んだ。セレンに遅れて注射器を持った医者と数人の看護士が病室に駆け込んでくる。 「早く鎮静剤を!」 シャミアは看護師たちに取り押さえられ、ベッドへと押さえつけられる。 「腕をしっかり押さえて!」 「シャミア様落ち着いて!」 看護士達にベッドに押さえつけられているが、それでもシャミアの怒鳴り声は止まる気配はない。 「イルビスの奴もド・スの野郎も殺しやがって!」 何も言い返すことは出来ない。シャミアが言うとおり、イルビスもド・スも死ぬきっかけを作ったのは自分なのだから。 「最後に私だけ生かして笑い者にでもするつもりかい!殺せ!私・・も殺し・・な」 薬が効いてきたのか声の力が弱まり、最後にはそのまま気を失うように静かになった。 「どうやら御節介が過ぎたようだな。私は先に戻るがお前はまだ残るのか?」 「…たぶん遅くなると思いますのでセレンさんは先に戻っていて下さい」 「好きにしろ。任務時間外の使い方はお前の自由だ」 少々セレンさんの機嫌が悪くなったようだがこの場は仕方ない。リンクスは倒れたイスを元に戻すとシャミアの眠るベッドの横に座った。 「あの・・・、2~3時間は眼が覚めませんし、また暴れられては困るのですが」 医者が暴れた原因の一つである自分が残ることには反対したいようだ。 「いや、今度は大丈夫ですよ。たぶんですが」 「はぁ・・・、何かあったらそこのボタンで呼んでください。くれぐれも無茶はさせないでください」 (目覚めるまでに理由の一つ二つくらいは考えておかないとな) 静けさを取り戻した病室でリンクスはシャミアが目覚めるのをゆっくりと待った。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); --- **コメント返し(コメントありがとうございます [#ha16994a] >- 位置情報を元にしての狙撃…カッコイイですなw しかも重二の次にタンクとは…。この様子だと、4脚も出てきそうだ。 -- &new{2010-10-24 (日) 13:54:14}; しかし、タンクとしての推奨される行動は何も出来ていませんでした。 ただ的と化し、与えられた障害物の排除とリリウム・ウォルコット作戦通り動いたのみ。 とうてい扱えているとは。。。。4脚はどうなんでしょうねぇ。。。 ---- **コメント [#u7a1f664] #comment(below) ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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#setlinebreak Written by 独鴉 ---- 変化と抑制 ---- レッドラム+スタルカ撃破・・・ GAにとって戦力の充実した今、オーメル陣営に属するネクストを一機でも多く排除し、迫ってきている企業間戦争に備えて置きたいのだろう。 ラインアークのホワイト・グリントが居なくなったことで、オーメルの制約が解かれた事は間違いないのだ。 GA領域内カラード ミーティングルーム・・・ リンクスはGAからのレッドラムとスタルカの撃破依頼を請け負った。だがGAからは僚機を雇うことを確約させられ、依頼を確実に成功するよう万全を期するよう念を押されている。 いや、させられたというべきだろう。むろんセレンも僚機を雇うことには賛同しており、選ばれたのは領域殲滅能力とAFの撃破に優れる有澤重工 雷電だった。雷電はカラードランクにおいてはスタルカを上回っているが、問題なのはレッドラムだ。その事をわかっているセレンは、万全を期して僚機契約を行っているキルドーザーを後詰めで待機させていた。むろん戦うためではなく退却時支援のためだが。 「作戦領域では濃霧が発生している。視界も悪いしレーダーを積んだほうがいいんじゃないか?」 相変わらず緊張感の欠いた言葉だが、必要な情報をしっかり出すところはさすがGAの仲介人というとこだろう。 「作戦領域は濃霧が発生し易い…か」 セレンは得られた情報をすぐに整備場へと送り、整備場では機体背部に接続しているレーダーとカメラアイの調整が始まる。 雷電を僚機として選択してから数分しか経って居ないのだが、別室で待機していたらしく、ミーティングルームに有澤隆文が秘書兼オペレーターと入ってきた。 「レッドラムは私よりもランクが上だが、期待には応えてみせよう」 自信が有るのだろう。事実KIKUを除くスタルカの標準火力では雷電を削り切ることは出来ない。問題があるとすればレッドラムだろう。 「有澤か、本当に出来るのか?半年前のカラードマッチで敗北したばかりだろう」 普通ならば言葉に加減というものがあるのだが、セレンにそれを求めるだけ無茶というものだろう。そして的を射ているだけに性質が悪いというべきか。 「確かにレッドラムの火力を全ては受け止めきれない」 雷電は半年前のカラードマッチでレッドラムと13分間に渡り死闘と呼べるほど激しい戦いを繰り広げたが、レッドラムの機動力と接近戦において絶大な火力を誇るスラッグによって雷電は撃破されている。相性の問題もあるが、互いに平面的な機動を重視している以上、雷電の単発火力は高機動で駆けるレッドラムには当てにくく、さらに機動力の低い雷電は的と化してしまう。 「だが、今回はシミュレーターではない。実戦のシミュレーターでは体にかかる負担はま ったくといっても良いほど別物だ。同じ結果になるとは限らないだろう」 「それは向こうにとっても同様だ。雷電が同じ結果にならないとは限らないだろう?レッドラムはこちらがやらせてもらう。状況戦ならこちらのほうが対応できる」 有澤とセレン、どちらの意見も間違ってはいない。実戦とシミュレーターは違うが、レッドラムが勝利したことも確かなのだ。話し合いから外されているリンクスはただ二人のやり取りを見ていただけだが、僚機として選ばれなかったメイ・グリンフィールドからのメールが届き自動で携帯端末の画面に内容が表示される。 〔僚機に選ばれなくて残念だったわ。有澤社長なら大丈夫と思うけど、私も緊急時に備えて待機しておくわね。時間が有ったらまた一緒に食事でもしましょ♪〕 緊急時、それほど相手は強いのだろうか。そう頭を過ぎった時セレンと有澤の話が終わったらしく、セレンは書類を持って席に戻ってきた。 「話は付いた。有澤にはスタルカの相手をしてもらう」 雷電のような武装パターンは相手に読まれ易い。いや、状況戦に持ち込まれれば対応しきれない可能性もある。優秀な対ECMレーダーと頑強な装甲を持つサックスならば状況戦にも対応できるはずとセレンは考えていた。 依頼内容から作戦内容まで話がまとまり、戦域への移動を開始してもなお、リンクスの気分は晴れていなかった。PA-N51に駐留する2機のネクストを撃破する。依頼の重要度と危険度は今までの中で最高レベルなのだが、アルゼブラで喧嘩を売ってきた女性リンクス シャミア・ラヴィラヴィ、彼女を殺すのは何故か気が引けていた。それはアルゼブラで説教を受けていたときのことが原因だった。 「もういい。気が済んだ」 セレンはそう告げるとシャミアとリンクスを残し、アルゼブラブースから立ち去っていった。セレンの後ろ姿が通路の先から見えなくなるとリンクスはゆっくりと立ち上がる。 「…今日は長かった」 リンクスは二時間以上もの説教から開放され、安どの表情を浮かべながらゆっくりと立ち上がる。冷え切った脚は少々痺れてはいるが、もはや慣れている正座にそれ以上の問題はなかった。軽く足腰の柔軟を行い、まともに動くことを確かめると立ち去ろうとした。 「ちょっと…手を貸しなさいよ」 リンクスが振り返るとシャミアは脚を崩した状態のまま動けないでいた。慣れない人は正座を長時間すると足がしびれ動けないことがあるのだが、どうやらその例にはまってしまったらしい。シャミアは何度か立とうとしているのだが、その度に電気が走るような痛みに結局立てずに居るようだった。 「手を貸して立てるなら構いませんが、無理だと思いますよ」 「うるさ…いわね。いいから手を貸しな…さいよ」 リンクスはシャミアの前にしゃがむと背中を向ける。 「手を貸しても痺れていたら立てないでしょう。背中を貸しますよ」 シャミアは目の前で背を向けてしゃがんでいるリンクスを見て、久し振りにS心がうずき始めていた。 (…この男面白そうね。それに体力ありそうだし) 「私を抱かかえなさい」 「は?」 「聞こえなかったのかしら?抱かかえなさいと言ったのよ」 強いアクセントを込めた口調、そして僅かに見下ろすような視線と自然と誘わせる手の動き、他人を従属させる時自然に彼女が行う仕草だった。 「まぁ、構いませんが?」 リンクスはシャミアのしゃがみ、脚と背中に腕を回すとゆっくり立ち上がる。シャミアの赤い髪がリンクスの首をくすぐっている形なのだが、感覚が麻痺しているのか鈍いのか何の反応もない。いままで大抵の場合何かしらの反応があったのだが、まったく反応のないリンクスを見て首を傾げる。 (おかしいわね?大抵何かしらの反応があるんだけど) 「それでどこまで送ればいいんですか?」 やはり何も感じていないらしく、リンクスの表情はしゃがむ前となんら変わっていない。 「レッドラムの整備場まで連れて行ってもらうわ」 「それはさすがに遠過ぎる」 シャミアは開いている手でリンクスの襟を掴むと顔を引き寄せる。 「文句は言わせないわよ」 僅か数センチと言えるほどシャミアの唇がリンクスに迫る。 「戦場に降下する。気を抜くな」 リンクスはセレンの言葉で意識を切り替えようとするが、どこかひっかかったものが抜ける感じはしなかった。 「了解」 戦域に降下された2機のネクストを出迎えたのは強力なECMの展開された廃ビル群と濃霧だった。視界状況は最悪、着地さえもセンサーを駆使しなければ安全に着地できないほど。 「この濃霧に加えECMも散布されている。奴ら闇討ちをやるつもりだ。慎重に動けよ」 セレンは送られてくる情報を解析し、周囲のビルの配置やECM状態をサックスとリンクしている雷電へと送る。 「こちら有澤重工雷電だ」 サックスの右前方に雷電の姿が見えているが、霧のためネクストのカメラアイでも完全な姿は捉えられない。 「予定どおりスタルカをお願いします」 「了解した。それでは正面から行かしてもらおう」 雷電が移動を開始したとき、霧に覆われた廃ビルの陰から1機のネクストが姿を現した。 「殊勝な羊達ね。態々狼の餌場に出てくるなんて」 地面を這う様に駆ける赤い機影、カラードランク15のネクスト レッドラム。一瞬姿を見せたもののすぐに廃ビルの間をすり抜け姿を隠してしまう。 「抉らせて貰うでぇ GA!」 そしてもう一機、機体バランスを著しく狂わしているだろう巨大な実ブレードを持つネクスト、カラードランク19のスタルカ。僅かに空中に浮いた状態からMQBを点火し、スタルカは雷電の左正面、廃ビルの間から姿を現す。その大振りな実ブレードを装着した右腕を引くとKIKUの射出体制をとる。だが間髪いれずに発射された有澤のグレネード弾がPAに直撃し、爆発がスタルカを後方へと弾き飛ばした。だが爆炎に紛れながらも濃霧と廃ビルの中へとスタルカは再度姿を隠し、追撃の手が及ばないように距離をとっている。 「スタルカを撃破した後援護をしよう。それまでは無理をしないように」 雷電はスタルカが吹き飛ばされた方角に向け移動を開始、無限軌道を僅かに浮かせると滑るように廃ビルの中へと姿を消していった。だが、姿を消してすぐにロケットとグレネードの連続した爆発音と共に火柱が上がり、スタルカと雷電の戦闘が始まったことを伝えていた。時折炎の光に照らされ空中を舞うスタルカの姿が見えるが、スタルカの姿はすぐに濃霧の中へと消えてしまう。 「さすが雷電、マッチでは運よく勝てたが、次は勝てるかどうか解らないな…」 スタルカは周囲のビルの間を跳躍しながら雷電にロケットなどを打ち込んでいるが、雷電は攻撃をまったく気にも留めず周囲のビルごとスタルカをなぎ払う。直撃を嫌うスタルカは距離を取るため必殺のKIKUの有効射程には入れず、他の手持ち武装では火力も圧倒的に不足していた。このままいけば雷電はスタルカを撃破するだろう。 カラードマッチで対峙した時は死を感じないシミュレータ故にリンクスは勝利できたが、実戦ともなると強烈な爆炎と衝撃に巻き込まれる恐怖は半端なものではない。遠距離からも確認できる巨大な爆炎は充分なほどリンクスに恐怖を与えていた。だが恐怖は判断速度と認識速度を遅らせ、周囲の認識さえも鈍らせてしまう。最高危険度の戦場では命とりになりかねないものだ。 「左からスタルカ接近しているぞ!」 セレンの叫びと共に濃霧の中からスタルカがサックス目掛け襲い掛かった。 「なっ!雷電の攻撃から逃れたのか!?」 リンクスは迎撃しようとQBTで機体を回転させ、SAKUNAMIを向けようとするが重量級ゆえの旋回機動の遅さ、なによりも重量級という自覚の薄さが間違った判断をさせていた。 サックスの旋回速度では迎撃が間に合わない、誰の目にもわかるほどスタルカは最高のタイミングと角度からサックスに奇襲をかけていた。サックスの左腕にKIKUが突き刺さり、容易くGA装甲板を食い破り激しい振動と共に内部駆動を蹂躙、重装甲を撃ち砕きコア目掛け鉄杭が突き進んでいく。だが、コアまであと僅かというところで轟音と爆炎が周囲に撒き散らされ、スタルカとサックスを炎の渦が飲み込んだ。軽量なスタルカはサックスの元から吹き飛ばされ、ブーストでバランスをとりながら霧の中に姿を消す。 「君ごとになってすまないが、大丈夫かね」 雷電のグレネードがサックスごとスタルカをなぎ払ったのだ。もちろんGA製で組まれた重装甲に追加製波装置を付けたサックスはたいした損傷には至っていない。 「…なんとか大丈夫です」 だが、KIKUから受けたダメージはひどいものだった。腕は繋がっているものの左肩から下は垂れ下がり、SAKUNAMIを落してしまっている。このことから肩から下の駆動系を丸ごとやられているのだろう。だが、問題は損傷だけではない。腕の機能を失うほどの損傷を負ったのだからAMS負荷は並大抵ではないはず。 「統合制御体が左肩から下の機能を排除中だ。少し耐えれば楽になる。だが、戦闘続行不可能と思うなら退却しろ」 セレンの意見は間違っては居ない。サックスの持つ最大の火力と言えるSAKUNAMIを失った以上総火力の大幅な減少は否めない。 「いえ…武装はあります。問題…ありません」 左腕は垂れ下がったままの状態だが、左背のガトリングキャノンを担ぎリンクスは戦闘の継続を望んだ。腕の機能を失うほどのAMS負荷は決して低くないのだが、リンクスは現段階での戦線離脱だけはしたくなかった。 「…まぁいい、やれるだけやってみろ。だが」 セレンのオペレータールームに送られてくるデータはサックスの損傷程度は低くまだ充分戦える範囲内を表している。だが、リンクスの状態を示す脳波やAMS負荷値はイエローゾーン 危険範囲を指していた。 「撃破される危険性が今以上高くなれば退かせるからな!」 「了解しました」 リンクスはAMSとのリンクを一時切断し、統合制御体にシステム復旧機能を優先させる。僅か5秒足らずの再調整時間の間にリンクスは液体の入った注射器を取り出し、自らの首に突き刺すと中の液体が自動で注入されていく。 「問題がないのなら戦闘を再開するとしよう。今度はそちらに決していかせん。雷電を楯にしようともな」 決意のようなものが込められた言葉を残し濃霧の中へと雷電は消えていく。 [AMSの再接続を開始 戦闘状態の再稼動完了] 統合制御体から再起動が完了の報告が上がり、リンクスへと周囲の情報がAMSを介して大量に流れ込んでいく。即効性の高い液状薬は痛みや苦痛さえも消え去るほどの劇薬、本来ならばリンクス用の薬は戦闘前に飲むAMS接続の苦痛を減らすタイプ。そして戦闘後に激しい痛みを和らげるタイプの二つしかないのだが、リンクスがいま服用したのは激痛だけではなくある薬物が加えられた特別な代物。ホワイト・グリント戦以降にセレンが用意したものだった。 「ド・スの奴、私の獲物にまで手を出したわね」 シャミアは自らの獲物に傷をつけたド・スの攻撃を疎ましく思うが、状況を選んでいる余裕などなかった。もう一機のネクスト 雷電の火力は凄まじく、カラードマッチの結果から推測してもスタルカ単独では長くは持たないことはシャミアもわかっていた。 「まぁいいわ。せっかくの獲物ですもの」 重厚なネクストを穴だらけにする。そう考えるだけでもシャミアの感情は高揚し、サディズム快楽が身を高ぶらせていった。 「ゆっくりと…味あわせてもらうわ」 レッドラムは四脚を折りたたみMQBを点火、濃霧下で廃ビルの立ち並ぶ中を高速ですり抜け獲物へと向かっていく。 「今回の獲物はどんな快楽を私にくれるのかしら」 視界に入った重装甲の機体は大型のレーダーを積んでいたようだが、高濃度ECMと濃霧のせいでレッドラムの動きを掴みきれていない事をシャミアは解っていた。重装甲の機体背後へと回るとMQBを点火し一気に加速、有効射程内へと入り込むとKAMALを叩き込む。広範囲へとばらけていくスラッグ弾のほぼ全てがPAに接触、激しい緑色の光と共に弾丸は侵食され重装甲に阻まれてはじけ飛んでいく。サックスの肩部のSQBが炎を吹き上げ重装のネクストはレッドラムの方を向き始めるが、レッドラムは左SQBを点火し廃ビルの陰へと滑り込み、重装のネクストが振り返った先にはレッドラムの姿はなかった。 「ふふふ…いいわ。硬くて、大きくて、素敵な風穴をたくさん開けられそう」 サックスはレーダーの光点に合わせてバズーカとガトリングを掃射するのだが、かすりもせず。レッドラムは高速状態を維持しショットガンと突撃ライフルの射撃を行い濃霧に紛れ姿を消す。高速で地上を駆ける軽量四脚型を視界の悪い状態で捕らえるのは至難の業。さらにサックスの武装である強化バズーカとガトリングキャノンの弾速はそれほど早くはない。霧の中を突如現れては突撃ライフルとスラッグで射撃を行った後再度霧の中に消えるレッドラムの戦法。有効視界で捉えられるのは2~4秒程度。さらにECMでレーダーの精度は落とされ、高出力QBでの高速機動で照準は外されている。そんな敵相手に現在のサックスではまともに対処しきれるものではなかった。 「現機体ノ反応速度では通常対応不可能。戦術プログラムのサーチ開始」 サックスは決して悪い機体ではないのだが、レッドラムの機体構成との相性が悪すぎた。 「該当戦術プログラムのロード完了。危険度イエローレベルの方法以外選択なし」 それなりの損傷は負うがレッドラムが地上を駆ける以上動きを止める方法はあった。リンクスはある程度の損傷を覚悟し、レーダーと濃霧によって視界の悪い周囲に目を配る。SSの単眼カメラアイでは完全に捉え切れないだろうが使用しているパーツはNSS。防弾に優れたスリットタイプのメインカメラアイと広域を認識するための4個のサブカメラアイ、それ故にNSSの死角はSSと比べて少ない。 濃霧に覆われた視界の中、左正面の廃ビルの間に赤い陰が右から左へと一瞬通り過ぎ、レッドラムはサックスの右側面方向に回り込もうとしていることが解る。 「レッドラムの攻撃予測地点を推測」 SQBを点火、QBTで右方向に90度回転させ続けてMQBを点火、重量級の機体故に瞬発力こそ劣るものの、クーガー製のブースターは重量級向けに設計されており、重い機体を中量級比べてさほど劣らない瞬発力を発揮してみせた。サックスが加速してから1秒と経たずにサックス正面の廃ビルの間からレッドラムが姿を現す。 「予測位置に誤差ナし」 正面から来るレッドラムに対してさらにMQBで接近するとそのまま機体をぶち当てる。接触までにレッドラムの突撃ライフルとショットガンがサックスのPAと装甲を抉るが、内装以外はメリーゲートとほぼ同じアセンブル、対実弾・対衝撃に特化している以上、至近距離でライフル弾と散弾を撃ち込まれてもGA製の重装甲は十分に耐えてみせた。 真正面からぶつかり合った両機は激しい衝撃によって動きを止め、PA同士の接触による相互干渉でコジマ粒子が舞う。重量負けしたが故に激突の衝撃で動きの止まったレッドラムの両腕に向け、サックスは強化バズーカとガトリングガントリガーを引いた。だがレッドラムはSQBで瞬時に距離を取り直し、ガトリングガンの掃射を掻い潜りながら濃霧の中に姿を消す。 「レッドラム左腕の破壊確認。こちらの損傷率47%に上昇」 リンクスはこの交差と同時にレッドラムの両腕を抉り取るつもりだったのだが、トリガーを引くと同時にレッドラムの右背の大型スラッグガンが咆哮を上げ頭部に直撃、強化バズーカを一発撃つだけで限界だった。 さすがのGA製とは言え至近距離でアルゼブラの誇る大型スラッグガンの直撃を受けた為にカメラアイの左側が破損し認識不能。腕一本と片目とは余り良い代償ではなかった。 シャミアはイライラしながら肘から下を失った右腕とのAMSのリンクを完全に切り離すと負荷による頭痛に耐える。 「あのリンクス…、やってくれるわね」 だがシャミアは少々腑に落ちないことがあった。腕ではなくコアを撃てばアルゼブラ製の脆弱な装甲を撃ち破り撃破できたはずなのに相手は両腕を狙ってきている。そればかりか高速戦闘中も脚部を狙うばかりでコア周辺は狙っていなかった。 「どういうつもりか知らないけど、生きが良い獲物を仕留めるのは楽しいわね」 シャミアは自然と攻撃的な笑みをこぼしていた。 リンクスは自ら気付いていなかったが、ホワイト・グリント戦時に近い高スペックを叩き出していた。その高スペックを制御し、維持するためにセレンはある種の賭けを行っていた。 「やはり…、予測どおり抑えられているようだな」 予測どおりというのにもかかわらずセレンの顔は曇っていた。レオーネ時代の伝を利用して探し出させた精神医療に関わる医者に処方させた薬。それは不安定化する精神をフラットな状態にすることで他の人格を抑えるように作られたものだった。 (だが、これで奴の監視と経歴の洗い直しが必要になったということか) インテリオル・ユニオンの情報網、カラードの情報網、それだけで世界の情報はほとんど手に入るはずなのだが、リンクスの所属していた独立傭兵部隊は国家解体戦争開始の50年ほど前に突然と記録に上がり、それ以前のものはまるでなかった。それまで部隊そのものが存在していなかったかのように。 [機体ダメージが危険値に到達] オペレート機器からサックスのダメージが駆動部に達したことを伝える。 「レッドラムの次行動の予測を開始」 だが恐怖を何も感じていないのか、サックスから機械的に戦闘情報を処理している声だけがセレンのいるオペレートルームに届いていた。 「戦闘用人格を要した強化人間か…」 どこか悲しげにセレンはそう呟くと行われている戦闘映像に思考を移した。 スラッグガンの面射撃と突撃ライフルの連続射撃にサックスのPAは耐えられず、再展開と霧散を繰り返した装甲表面に無傷な場所などなかった。しかしこの攻撃はサックスの動きを徐々に限定し、目的とする場所へとレッドラムの攻撃は行われているのに過ぎない。 「ふふふ…あと少し、あと少し」 サックスの周囲を高速で移動を続けるレッドラムの攻撃は円をかたどっているのだが、徐々にその半径を小さくしつつ、廃ビルなどを利用した離脱や防御がしにくい一箇所に誘導するものだった。 1分後、サックスが追い詰められた先は背後の廃ビル一つを残し、サックスの二連続QBでも離脱可能範囲内に他の廃ビルが一つ無い場所だった。だが、レッドラムの高機動性を考えれば廃ビル群からの攻撃がいまだ可能な距離、レッドラムの作り上げた巣の中心にサックスは捕らわれた。離脱しようとMQBを点火するとスラッグと突撃ライフルの掃射がサックスの動きを押し留め、また廃ビルのある中心地点へと戻ることを余儀なくされてしまう。反応速度と機動速度の限界を考えればすでにサックスでは攻撃も充分な回避行動も長時間維持は出来ない。さらなる危険な戦術を取らなければならない状況だった。 サックスは廃ビルにPAが接触するぎりぎりまで後退。背部の命中精度がもっとも高くなるよう脚部をロック、射撃体勢を整えると広範囲射撃圏内に入ったレッドラムの予測範囲位置へとガトリングでの射撃を行う。 廃ビルの間から姿を現したレッドラムの正面には大量の銃弾が迫り、回避するため左SQBを点火、そのため突撃速度がにぶりGA製強化バズーカの照準がレッドラムへと合わされる。撃ち出された弾丸がレッドラムへと迫る中、右SQBを点火しシャミアはレッドラムを無理やり急加速させる。機体に襲い掛かる重力は緩衝装置でも抑え切れずシャミアを襲うが、眼前へと迫っていた銃弾の射線軸から外れることに成功。PAを貫き銃弾はあさっての方向へと飛んでいった。 「っ、この状態で抗うなんてやるじゃない!」 シャミアはサックスに迎撃されたため、突撃速度が鈍ったレッドラムを再度濃霧の中へと潜らせる。大きく周囲を旋回しつつ、シャミアはサックスの動きを確認。ゆっくりとした動きなのだが、レッドラムの進行方向へと機体正面を向けようとしている。 (私の先を…読んでいる?) 廃ビルが陰になったところで機体をバックブーストで急停止させ、進行方向をまったくの逆に変えてみる。しかしレッドラムの動きに連動し、サックスの銃口はシャミアが考えている攻撃位置へと向けられようとしていた。 ある一定上の経験を積んだリンクスならば、一度は戦ったことのあるホワイト・グリントから与えられている決定的な恐怖がある。それは行動の先を完全に読まれる事からくる、感情まで読まれているかのような感覚。それが人の恐怖を何よりも駆り立て、冷静な判断力も思考力も奪ってしまう。この時その恐怖を思い出したシャミアは、自らの内で高ぶっていたサディシズムな高揚感が冷め始めるのを感じていた。 「私の攻撃位置を読んでいる…。いえ、偶然よ」 シャミアはOBを起動させ、サックスの背後に佇む廃ビルの裏へと回りこむ。レッドラムの統合制御体とシャミアの経験上すでにサックスの装甲は限界、あと数秒近距離でKAMALとACACIAを撃ち込めば機能を停止するはずだった。 「読まれていても、これで終わりよ!」 廃ビルを突撃ライフルで破壊し、反応の送れたサックスの背部目掛けてスラッグを叩き込むはずだった。だが、廃ビルの崩れた先にはこちらを向いたサックスが待ち構えていた。 崩れ落ちた廃ビルの残骸越しに二機は対面、ストレイドとレッドラムの持つ火器が同時に咆哮を上げた。至近距離からの銃撃戦、それもお互いに近距離でその能力を発揮する強化バズーカ・ガトリングガン・ショットガン、レッドラムの得意とする高速戦にならず、数秒足らずで撃ち合いは終了した。 「ふっふふ、穴だらけ…ね」 散弾はPAを貫きGA製ネクストの装甲に喰らいついていたが、サックスの装甲板を抉っていただけでまだ稼動していた。しかし同じように至近距離で強化バズーカとガトリングガンを掃射されたレッドラムはすでに機能を停止。元々軽量級である上にPAが厚くないアルゼブラ製、一方はPAよりも装甲を重視するGA製とでは至近距離での実弾撃ち合いとなれば当然の結果ともいえた。 サックスは動かなくなったレッドラムのすぐ傍まで歩いて近づき、レッドラムのコアに強化バズーカを向ける。すでにガトリングの銃撃を受けたレッドラムのコアはゆがみ、PAを失った状態では至近距離でのGA製強化バズーカの大口径弾を受け止めることは不可能。このままトリガーを引けばレッドラムのコアは完全に破壊され、リンクス シャミアは死亡し依頼は完全に完了する。また、このままにしておいてもコジマ汚染か凍死で死亡するだろう。もはや周囲に救援を行うようなアルゼブラの部隊はいないのだ。 その時大爆発が鳴り響き、もう一つあった光点が消えている。恐らく至近距離で有澤重工のOIGAMIがスタルカに直撃したのだろう。文字通り消し炭と化したはずだ。 (今日も説教か・・・) レッドラムに向けていた強化バズーカを下に降ろすと通信回線を雷電へと繋げる。 「有澤社長。依頼がある」 レッドラム・スタルカとの戦闘後・・・・ カラードのとある病室にリンクスは居た。味気のない壁に囲まれた個室のベッドの上では治療の終わったシャミアが静かに眠っている。あの後、大破したレッドラムから意識のないシャミアを引きずり出し、有澤重工の医療班と共にカラードへと移送。すぐさま精密検査が行われたが、後遺症が残るような怪我はなにも無く、数日もすれば退院してまたリンクスとして戦えるらしい。 「変わった…かな」 そう呟くとリンクスはベッドの傍に置かれている近くのイスに座る。ネクストの乗り手となってからセレンや色々な人と話し、戦い以外の事を考えるようになっていた。今までACに搭乗中であれば殺しさえもなんとも思わなかったが、知り合いというだけでシャミアを殺す事を躊躇い、わざわざGAに睨まれるリスクを冒してカラードへと運んだ。この行動がリンクスの何をどう変えたのか、何を意味しているか、リンクス自身には解っていないが彼の両親たちが聞いたらさぞ驚くことだろう。 「そろそろ帰るか」 病室にシャミアが運び込まれてから15分ほど経ち、起きる様子がないと判断したリンクスはイスから立ち上がり、椅子をベッドの横に片付けると病室の扉の取っ手を掴んだ。 「殺さないなんてどういうつもり?」 声に振り返るとシャミアはベッドに寝たまま半身をこちらに向けている。 「戦闘中コアは狙わなかったのはどういうこと」 AMSの負荷によってまだ上手く立てないのだが、シャミアはベッドから起き上がろうとしている。なんとかベッドから降りて立ったが、ふらついてバランスを崩す。とっさにリンクスはシャミアを支えたが、それが癇に障ったらしく鋭くなった眼つきでリンクスを睨みつける。 「あんたは私をどうしたいの」 「…解らない」 それがリンクスにとって一番素直で簡潔な言葉だった。自分自身、GAに睨まれるリスクを冒してまでシャミアを助ける利点などないのだ。 「イカれたこと言ってんじゃないよ!自分の事は自分にしかわかるわけ無いだろうが!」 外で待っていたセレンが大声に気付き、扉を開けるとリンクスの首を絞めようとしているシャミアの両腕を背後から掴んだ。セレンに遅れて注射器を持った医者と数人の看護士が病室に駆け込んでくる。 「早く鎮静剤を!」 シャミアは看護師たちに取り押さえられ、ベッドへと押さえつけられる。 「腕をしっかり押さえて!」 「シャミア様落ち着いて!」 看護士達にベッドに押さえつけられているが、それでもシャミアの怒鳴り声は止まる気配はない。 「イルビスの奴もド・スの野郎も殺しやがって!」 何も言い返すことは出来ない。シャミアが言うとおり、イルビスもド・スも死ぬきっかけを作ったのは自分なのだから。 「最後に私だけ生かして笑い者にでもするつもりかい!殺せ!私・・も殺し・・な」 薬が効いてきたのか声の力が弱まり、最後にはそのまま気を失うように静かになった。 「どうやら御節介が過ぎたようだな。私は先に戻るがお前はまだ残るのか?」 「…たぶん遅くなると思いますのでセレンさんは先に戻っていて下さい」 「好きにしろ。任務時間外の使い方はお前の自由だ」 少々セレンさんの機嫌が悪くなったようだがこの場は仕方ない。リンクスは倒れたイスを元に戻すとシャミアの眠るベッドの横に座った。 「あの・・・、2~3時間は眼が覚めませんし、また暴れられては困るのですが」 医者が暴れた原因の一つである自分が残ることには反対したいようだ。 「いや、今度は大丈夫ですよ。たぶんですが」 「はぁ・・・、何かあったらそこのボタンで呼んでください。くれぐれも無茶はさせないでください」 (目覚めるまでに理由の一つ二つくらいは考えておかないとな) 静けさを取り戻した病室でリンクスはシャミアが目覚めるのをゆっくりと待った。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&counter(total); --- **コメント返し(コメントありがとうございます [#ha16994a] >- 位置情報を元にしての狙撃…カッコイイですなw しかも重二の次にタンクとは…。この様子だと、4脚も出てきそうだ。 -- &new{2010-10-24 (日) 13:54:14}; しかし、タンクとしての推奨される行動は何も出来ていませんでした。 ただ的と化し、与えられた障害物の排除とリリウム・ウォルコット作戦通り動いたのみ。 とうてい扱えているとは。。。。4脚はどうなんでしょうねぇ。。。 ---- **コメント [#u7a1f664] #comment(below) ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説/長編]]
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