Written by 独鴉


ワンダフルボディとチャンプスの過去


ワンダフルボディ救援・・・・オリジナル任務

「今回のミッションはワンダフルボディの僚機として出て欲しい。
オーメルが訓練中の新人リンクスの最終試験としてワンダフルボディを襲わせる計画があるらしいってわけだ。
ドン・カーネルもそう簡単にやられる程度ではないが用心ってわけだ」

「奴は新人にやられる程度のリンクスだろう。うちのリンクスを使わないでもGAのスマイリーあたりを護衛に付ければいいはずだ」

GAの仲介人は苦い顔をするとクビを横に振る。

「ドンが護衛を全て断っちまってね。奴も元GAノーマル部隊隊長のプライドがある。だから護衛ではなく僚機として依頼を出したのさ」

セレンさんは呆れ顔で契約書に目を通し始めた。自分はただ静かに依頼内容の説明を聞くだけなのだが。

「話を戻すが、やっかいなことにオーメルはテストリンクスと訓練中のリンクス候補生を複数抱えてるって噂だ。気をつけてくれると助かる」

大まかだが書類に目を通し終えると書類をこちらに投げ渡しセレンさんは仲介人との話に入る。

「ワンダフルボディの僚機として敵勢力圏内に孤立したGA部隊救援はいいが・・・、さすがに2機のネクストでは無理があるな」

「そこはこっちも考えてるさ。GA部隊離脱依頼の方はキルドーザーに依頼しといてある。単純な突破だけならキルドーザーでいけるだろう」

確かにキルドーザーは短時間だが突貫力はある。仮にもネクスト対ノーマルとなれば使い物になるだろう。

「ネクスト三機がかりとはな。どれだけオーメルが怖いのだ?」

「念には念をって奴だな。GAにとってドン・カーネルも貴重なリンクス、そう簡単に失うわけにはいかないのだろうさ。おっとこれは上には言わないでくれよ」

砂漠ではドン・カーネル行動を共にしているGAノーマル部隊がオアシス近くに設営された仮設基地で夜間行軍の準備に入っていた。

「暑い!暑いぞ!!」

「暑い暑いうっせぇなぁ・・・」

「お前ら少しは静かにしないか」

3機のノーマルACは日除けのぼろ布の掛けられた状態で警戒行動に当っている。砂漠のど真ん中では日陰があるだけで十分違うが暑いことには違いはない。

「くそ。ドン隊長は空調が効いた場所で羨ましいぜ」

「ネクスト降りた後のあの姿見てもそう言えるお前が俺は羨ましいよ」

先ほど帰還したドン・カーネルは並程度のAMSより若干低い適正しかもたない故にネクストから降りるたび、激しい頭痛に襲われている頭をさえながらその場に座り込んでしまうことも多々ある。

「だが高給な上にあの待遇だぜ?」

ノーマルACが向いた先にはワンダフルボディの搭載されたGA製最新型ランドキャリアが置かれている。

「この砂漠でも空調が効くらしいじゃないか。どんだけ俺らと待遇に差があるんだか」

「馬鹿が、俺らはドン隊長が口利きしてくれてるからまだマシなほうなんだぞ」

「あ~あ、俺にもAMS適正があればなぁ」

「適正試験でゲーゲー吐いていた奴が何をいってやがる」

荒々しく指揮車の扉が開けられると額に青筋を浮かべたドンが姿を現す。

「お前ら少し黙ってろ!俺だって暑い中我慢してるんだ!!」

最初からドンは黙って聞いていたが、AMS適正のことが話題になると黙って入られない。望んでリンクスになったとはいえ、任務から帰還するたびに激痛に耐えることは楽ではない。

「それにいまは警戒中だろうが!ちゃんと気張って見張ってろ!」

荒々しく扉を閉めるとドンは空調の効かない指揮室でノーマル部隊の隊長と共に地図とにらめっこを始める。仮にも元隊長である彼にとっても部隊を無事にGA圏内に送り届ける責任感があった。周辺の地形状態から大まかな移動方向にめぼしを立てると地図に線を引こうとした時指揮車の扉が開かれる。

「ドン隊長、本部から通信が入ってます」

「すぐに行く」

ドンはペンを置くとノーマル部隊隊長に後を任して指揮室を出ると通信室に向かった。

「増援は来るんだろうな?」

「いえ、すぐにドン隊長を呼べとのことで詳しいことは・・・」

「そうか」

指揮室の扉を開けると通信兵は占められた扉の向こう側に立つ。

「すぐにGA勢力圏内に戻ってください」

通信室に入るなりドンに伝えられた内容は無理難題だった。

「簡単に言ってくれるが、いまオーメルグループに囲まれているんだ。簡単に突破できると思うか?」

「ネクスト2機を増援に向かわせました。協力して勢力圏内を脱出してください」

「まさかチャンプスの旦那とダンじゃねぇよな?」

「チャンピオン・チャンプスとあと一機はストレイドです」

「ストレイド・・だと!奴は俺を撃破した奴だぞ!」

ドンは相手が独立傭兵とはいえ、自分を撃破した奴と共に行動することを承服したくなかった。

「すでに上層部が決定したことです。VOBですでに向かっていますので合流次第移動を開始してください」

「っ、・・・・了解した」

ドンは通信室の扉を開けると待機していた居た部下を捕まえる。

「GA圏内まで撤退する。すぐに行軍準備をしておけ」

「了解です!」

部下が敬礼をした後足早に去っていく。周囲に誰も居ないのを確認するとすぐ横にあったドラム缶を蹴飛ばしたが怒りは一向に収まらなかった。

「くそっ!」

キルドーザーならともかく、自分を倒したストレイドの支援を受ける自分自身の不甲斐無さが何よりも悔しかった。

5分ほどしてレーダーに2機のネクスト反応が映りドンは準備の整った部隊に隊列を組ませ待機させる。

「VOBか・・・」

バージされ2機のネクストが降下してくる。見慣れたキルドーザーのGA旧型ネクスト、そしてもう一機見慣れないネクスト。

「あれは・・ストレイドか?」

ゆっくりと降下してくるその機体は間違いなくGA製ネクスト タイプSSLだ。有澤重工腕部装着型グレネード NUKABIRA、MSAC腕部装着型ハンドミサイルNIOBRARA03 と俺と同じOSAGE03垂直ミサイル2基、GAグループ製のパーツのみで構成された機体と前のストレイドとは余りにも違いすぎる。

「俺はワンダフルボディのドン・カーネルだ。キルドーザーとストレイドだな?」

通信に呼びかけると聞きなれた声が返ってくる。

「やっとこさ雇ってきたんだ。面倒な事は後にしてとっとと退却しようぜ。あぁ、俺はGAオペレーターだ。宜しく頼むぜ」

「・・・いや、いつもの仲介人だろ。お前」

「はっ、予算が足りなくて専任まで雇えるわけないだろ。GA専属といってもメイのお嬢さんやローディーの旦那とは違うだぜ?俺がサービスでついてやってるだけ感謝して欲しいぜ」
ドンは自分の待遇を考えれば妥当だろうと深くため息をつく。

「そのことは了解だ。だが、ストレイドの姿が前と違うのはどういうことだ?」

ストレイドは黒色のアーリヤベースからGAベースの重量型に変更されている。余りにも機体構造の大きな変更を行えばリンクスが機体を扱いきれない可能性が高いことくらいドンも知っている。

「ともかくデータすぐに送る。理由は『簡単な依頼などこれで十分だ』との事だ」

「・・・ストレイドも言ってくれるじゃないか」

ドンは慣れたNSSでもきついAMS負荷に耐えているというのに、ストレイドのリンクスは余裕を持って別機で戦場に赴いていることが腹立たしかった。

「あぁ、向こうのオペレーターは自分のリンクスに相当自信を持っているからな。まぁ、オペレーターも普通じゃないが・・・」

「何か言ったか?」

女性だがドスの聞いた声でストレイドのオペレーターが回線に割り込んできた。

「なんでもありません!」

「ならいい。無駄口を叩かず任務に集中しろ」

「了解であります!」

「おい、・・・口調が変わってるぞ」

いつもの軽い調子から急にいびられている新兵のような口調に変わった仲介人に若干恐怖を感じる。

「そろそろ移動を開始したいのだが、識別名はストレイドでいいのか?」

「好きに呼ぶがいい。こちらは部隊後方から警戒行動に移る。早く行軍を開始しろ」

「了解した。行軍を開始する!全機警戒態勢のまま緩めるな!」

『了解!』

ノーマル部隊の中央に補給及び工兵部隊を配置し、先頭にワンダフルボディとキルドーザー、最後尾にストレイドが周囲を警戒した状態で行軍が開始されたが、15分後レーダーに2機のネクスト反応が現れた。

「お前らは予定通りこのままのルートを進め、ネクストはネクスト同士でしかどうにもならん」

「ドン隊長お気をつけて」

「御武運を」

ドンの部下たちは予定通りのルートを進み3機のネクストから離れていった。

「敵さんのお出ましだ。敵は・・・やっぱオーメルの連中だな。ご丁寧にカラードランク申請中の新米とサベージビーストだ。新人テストの情報は本当だったようだな」

「ちっ、どいつもこいつも俺を軽く見やがって」

仮にもGA通常軍叩き上げの軍人のドン・カーネルは、民間人などから集めたAMS適正者と同格以下に扱われるのは良い気がしなかった。
視界に入ったのはランセル(LANCEL)ベースのローゼンタール標準ネクスト、武装も右肩に同社製チェーンガン1・両手に突撃ライフルとレーザーブレードの標準構成機。そして現ランク22のローゼンタールよりの独立傭兵 サベージビーストのカニスの2機構成。

「チャンプスの旦那・・・とストレイド。新人は俺がやる。手は出さないでくれ」
開放回線の通信を聞いていたカニスは回線に割り込んでくる。

「そりゃちょうどいい。俺も見届け人として呼ばれたんでね。キルドーザーとストレイドは手を出さないでくれよ。まぁ、出させないがね」

キルドーザーとストレイド、どちらもランクは30と31の最低ランク、一方サベージビーストはランク22、2人くらいを相手にしても問題はないと判断したのだろう。

(馬鹿が、お前程度あの2人が真面目にやれば敵じゃねぇよ)
自分を倒したストレイド、そしてGA AMS第1被検者のチャンプスの旦那、粗製の俺とはものが違う。

「戦場と訓練場の違いを教えてやる!」

ドンはブーストでワンダフルボディを加速させるとOSAGE03垂直ミサイルとWHEELING01多連装ミサイルを発射、16連続で射出される通常ミサイルと上空に一度上がった後降下しながら向かっていく2種類のミサイルがランセルに向かっていく。ランセルはブーストで後退しながらチェーンガンと突撃ライフルをミサイル群に向けると乱射、迎撃されたミサイルが次々と爆発していくが、上空から迫っていくミサイルがPAに接触し機体を揺らしている。ミサイルから拡散バズーカとGAライフルに切り替えると爆発の衝撃で動きの鈍っているランセルに照準を合わせトリガーを引こうとした時激しい衝撃を胸部に受け機体が停止した。

「くそ・・!」

ドンは激痛に耐えながら機体の状態を確認すると前面の新型複合装甲中心部まで弾丸が食い込んでいる。しかし構造部にはダメージを負ってはいないようだ。

「BFF製スナイパーキャノンか!?それともインテリオルのレールガンか!?くそ!」

回避行動を始めようとしたときにはすでに体勢を整え直したランセルから銃撃の応酬が待っていた。

「く・・そ!」

増していく弾幕密度に向かってライフルと拡散バズーカを乱射、一時的に弾幕が薄くなった瞬間にSQBで弾幕圏内から機体を脱出させる。しかし、2発目の砲弾が左脚部に喰らい付いた。機体が急に傾き始め統合制御体から左脚部駆動部損傷が伝えられる。

「ちっ!」

舌打ちしながら左腕の拡散バズーカで機体を支えるが、中量型のランセルの照準はすぐにワンダフルボディを捉え激しい銃撃が再度襲い掛かる。

「一対一に水差しか。くだらない奴がいますよ。セレンさん」

離れたところからワンダフルボディの戦闘を眺めていたが、さすがに一対一の戦いに奇襲攻撃を仕掛けるとなるとほってはおけない。

「離れた所に1機いる。ご丁寧にBFFベースの四脚型だ」

「それは俺がどうにかしよう。ストレイドにはサベージビーストを頼みたい。彼は抑えられないのでね」

「まぁいいだろう。四脚の座標はすぐにでもそちらに転送しておく。四脚はキルドーザーに任せお前はサベージビーストを抑えろ」

キルドーザーはブーストで砲撃方向に向かい始めるのを見送りながらストレイドは視線をサベージビーストへと向ける。

「あの・・・自分の意見は?」

普段から自分を通り越して戦略を立てるが、第三者が関わっているのでさすがに今回は口を出してしまった。

「そんなもの今の状況で必要があると思うのか?」

「わかりました。ストレイド、サベージビーストを抑えます」

無駄なことだ。冷静に状況を分析できるセレンさんに相手に意見が通ることはほとんどない。

「無理はするなよ。慣れた機体ではないのだからな」

「抑えるだけならなんとかいけます」

OSAGEを担ぐとサベージビーストに照準を合わせる。

「その程度の事が出来ないのなら訓練のやり直しだ」

「・・・肝に銘じておきます」

(そろそろAMSを起動させないと不味いな」
チャップスは機体を停止させ、操縦桿から手を離すとマニュアルモードからAMSモードへとシステムを切り替える。頭の中をぐちゃぐちゃにかき乱される感覚に数秒間耐えるとディスプレイではなくカメラアイからのダイレクト映像に視界が切り替わる。

(早くしないと、時間がきてしまう)

激痛に耐えながら先ほどストレイドのオペレーターから指示された地点にOBで機体を加速させるとすぐに四脚の赤黒いネクストが視界に映る。BFF製の四脚型ネクストにBFF製の大型スナイパーキャノンを2基搭載していた。

(あれ・・か)

こちらに気付いたのか砲身がこちらに向く。ほぼ同時にキルドーザーはOBをカットし右にSWBで機体を走らせた。次の瞬間一発の砲弾が空気を切り裂いて通り過ぎていくが、SQBを使用したことで一気にAMS負荷が増し視界がかすんでいく。

「どっせぇぇい!」

気合で意識を無理やり奮い立たせるとOBを発動、正面から四脚ネクストに向けて突撃を始める。四脚ネクストはもう1基の大型スナイパーキャノンの照準をキルドーザーのコアに合わせ発砲、砲弾は正確にキルドーザーのコアを捉えたが、傾斜の付けられたコアに弾き飛ばされる。しかしOBが停止しキルドーザーの動きが止まってしまった。コックピットの中でチャンプスはMS負荷の激痛で身動き一つ取れなくなっていた。統合制御体はチャンプスの異常を感知し負荷を和らげようと背部武装がパージされ機体の周囲に落下する。
その間にも四脚型ネクストは一射目の空薬莢が排出されるのを待ちながらゆっくりとキルドーザーに歩いていき、先ほど弾いた衝撃で歪んでいる箇所に砲身を突きつける。

「何をしているチャンプ!やられるぞ!」

懐かしい自分を呼ぶチャンプという言葉に飛びかけていた意識が繋ぎ止められ暗くなっていた目の前が急速に明るくなっていく。

(チャンプ・・・、俺は)

「貴様チャンピオンだろうが!新人などに負けが許されると思っているのか!」

「!!」

激痛の走る感覚を精神力で無理やり押し殺すと停止しかけていた機体に意識を叩き込む。はっきりとしたコマンドを受けた統合制御体は機体の稼働率を引き上げキルドーザーが息を吹き返した。
光の弱まっていたカメラアイが輝きを取り戻すとキルドーザーはいきなり四脚ネクストの頭部を左ドーザーで殴りつけ、右腕を大きく振りかぶりながらステップだけで四脚型の右側面に回りこみ右肩にドーザーブレードを叩き込む。衝撃で60ほど吹き飛ばされた四脚型ネクストを追ってはキルドーザー走って向かっていく。四脚型ネクストはQBTで向き直ると大型スナイパーキャノンを2発動時に発射。コアに直撃するかと思われた。だが、機体の前に両腕で構えられたドーザーブレードに直撃し周辺にドーザーの頑丈な装甲片が飛び散り、至近距離で直撃を受けた衝撃で機体が停止するだけではなくは後方に弾き飛ばされただけでコアに損傷は無かった。

「だっしゃぁぁぁ!」

気合と共にMQBが大きな噴出炎を上げ、後方に飛ばされかけていた機体が再度敵ネクストに向かって急加速、一瞬でお互いのPAが接触する距離まで接近すると右腕のドーザーブレードを四脚型ネクストのコックピット目掛けて突き出す。PAの干渉作用によって激しい緑色の発光がドーザーブレードごと右腕を覆い、侵食現象によってPA圏内に入った存在を破壊していく。だが、大質量と頑強さを誇るドーザーブレードはPAを突き破るとBFF製コアにめり込み、MQBの加速力が乗せられた一撃はそのままコアを押し潰した。

ドンはほとんど動けない状態のままランセルとの撃ち合いになっていたが、いくら頑強なNSS型のワンダフルボディとはいえ限度がある。全身の装甲には無数の傷跡が刻まれ、間接部からは火花が飛び散り始めている。それでも頑強な基礎構造を持つ故に駆動系はなんとか稼動を続けているが、このまま劣勢のまま倒される危険性は十分にあった。ランセルはレーザーブレードを発生させると一気に距離を詰め始める。単純なGAライフルの攻撃だけでは止められない上に大した損傷にはならないと考えたのだろう。だが、ワンダフルボディは機体を支えていた拡散バズーカを地面から引き抜き、左足を折った状態で拡散バズーカを構えるとすでに絶対距離にまで接近していたランセルに向かってトリガーを引いた。
一瞬の間を置いてコア周辺の装甲を蹂躙されたランセルがワンダフルボディの目の前で停止。ワンダフルボディはブースターで機体を持ち上げると左足を引き摺りながら距離を取り、GAライフルを乱射しながらOSAGE03ミサイルを担ぎ発射。ランセルは停止した機体をMQBで急加速させレーザーブレードで最後の止めを刺そうとするが、すでに降下を始めた8発のミサイルがPAの減衰したランセルに背後から襲い掛かる。ランセルはOBでなんとか引き離そうとするが、旋回性能が高く飛行時間が比較的長いミサイルはランセルに喰らいつき、立て続けの爆発にPAは消滅しOBは未稼働に終わった。

「終わりだ新米!」

アンバランスな機体を必死に支えながら拡散バズーカのトリガーを引いた。拡散バズーカの砲口から四発の大口径弾が解き放たれ、PAを失ったランセルのコアの装甲を食荒らしリンクスの命を奪い去る。だが、それでも至近距離で放たれた大口径弾は運動エネルギーを失わず、装甲を撃ち砕き、コアの残骸を撒き散らしながらランセルは砂漠に転がった。

それからすぐに状況を理解したGA部隊からAFギガベースと通常部隊の増援が送られ、GAノーマル部隊とドン達は回収された。

その後チャンプスはストレイドのリンクスとオペレーターの待つブリーフィングルームへと呼ばれていた。

「貴様、元WBCチャンピオンだろう」

呼び出されるなり突然の言葉にチャンプスは硬直した。

「すっかり忘れていたがな。ボクシングスタイルは典型的なパワーファイター、ひたすら
前進し接近距離で破壊力のある右ストレートを武器にし、7年連続防衛をやってのけた記録的覇者」
セレンさんは持っている分厚い資料をめくりながらチャンプスの過去を話し始める。

「だが8度目の防衛線のとき、試合中相手選手の狂信的ファンに左腕を銃で撃たれ引退。国家解体戦争ではGA通常軍に入っていたが、味方の誤射によって左半身を激しく損傷、GAのSS計画被検体としてAMS治療を受けている」

「よくそこまで調べられましたね。それでどうするつもりですか?」

そこまで調べるということは何かをするつもりとしかチャンプスは考えられなかったが、返ってきた言葉は予想外だった。

「別に何もするつもりはありませんよ」

「はっ?」

リンクスの言葉に驚いているチャンプスを気にもせず、セレンさんは表情も変えず話を続ける。

「僚機契約と教官契約を結ぶ事を考えたのでな。一応調べてみただけだ。まぁ、これからは度々呼ぶことになるとおもうが」

「なぜ俺を選ぶ。他にも良いリンクスや教官は幾らでも居るだろう」

「その理由はこの書類で判るだろ?」

投げ渡された書類にはシークレットマークが付けられている。

「口に出しては欲しくは無いだろう?」

書類を開くと中には国家解体戦争後からリンクスになるまでの間のことが書かれている。大金をはたいて消したはずの過去だった。

「なぜこれを・・・」

「確かに企業連やカラードからは消えていた。だが、GAのネクスト関連なら話は別だ」

「・・そこなら確かに残っている」

GAリンクス養成施設でリンクスとしての処置と訓練を受けたのだから当然のように情報は残っているだろう。ライターで書類に火をつけると灰皿に投げ捨てる。

「さて、それで契約を結ぶのか?こちらとしてはどちらでも構わぬがな」

少し考え込んだ後チャンプスは諦めたようにため息をついた。

「判りましたよ。知っているんじゃ仕方ない。だが」

「どういった事情で隠しているかは知らんが、こちらとしてはキルドーザーとしてのお前と契約をしたいのだ。このままで一向に構わん」

「自分もそのつもりで頼んでいます。少しでも良いので訓練をお願いします」

ストレイドのリンクスは丁寧に頭を下げた。

「それなら受けますよ。チャンプスとしてですが」

自分よりも高いAMS適正と戦闘センスを持ちながら、粗製以下のAMS適正と殴り合う事しかいまだに出来ない自分に対して頭を下げているのを見ると、ボクシングに打ち込んでいた昔を思い出してしまい苦笑してしまう。

(謙虚さと貪欲に求める強さか・・・。懐かしいもんだ)


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