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Written by 独鴉
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アルテリア・カーパルス防衛・・・・・・
 セレンは傷の癒えたリンクスを自分の住まいであるマンションの下階の一室に住まわせることで共に居る時間を増やし、
どんな些細なことでもリンクスとよく話す事を心がけた。最初は戸惑っていたリンクスも徐々に打ち解けていき、
今まで休日をACのコックピットかカラードの訓練施設で過ごしていた事を聞いてセレンは驚いた。
私生活に関して一切かかわりを持っていなかったとはいえ、戦闘に関わらないこと全てを切り捨てた生活をしているとは考えても居なかったからだ。
さすがにこの現状には問題があると感じたセレンは自らの趣味である
音楽鑑賞やライフル競技にリンクスを何度も付き合わせた。



ライフル射撃場・・・・・・
「ルールは解るな?」

 立射で50m先の円形標的を撃ち抜く。もっとも簡単で基本に忠実なものだが、それ故に癖が出易く疲れ易い競技でも有る。
重量の有るライフルを構えるには持久力と筋力が必要であり、呼吸の度に微動する照準を修正する集中力と併せて非常に忍耐が要る。
 セレンは他にもランニングターゲット射撃やクレー射撃もリンクスとなる前から趣味としていた為レオーネ製PITONEレールガンを自由に扱えた。
なんの前準備も無く才能だけで手持ちの狙撃武装を使えるほどロングレンジ射撃は簡単ではない。

「レクチャーを先ほど受けたのでなんとか」

「まぁ、構えてみろ」

 先ほどセレンにレクチャーを受けたとおりリンクスはライフルを構えるがやはり生身での実戦を経験しているためか方は崩れており、
肘溜めや腕の絞りが甘く銃身が呼吸の度に大きく揺れてしまっている。

「まずは十発程度自分のペースで撃て」

 セレンが離れるとリンクスは一呼吸置いて撃ち始めた。回転式ボルトアクション方式の為かリンクスは胸元まで銃を下ろしリロード、
その度に構え直すのでどんどん構えは乱れていった。

「やれやれ、呼吸を抑えて一発ずつ撃つものだぞ?」

 セレンは呆れながら標的の状態が映されているディスプレイを確認。初心者にしては標的中央を撃ち抜いてはいるが、
やはり構えの乱れと呼吸を整えていないのか全体的に着弾点がずれてしまっている。

「まぁ、最初はこんなものだろう」

 移動しながら物体に当てるということならばリンクスは自分以上に上手いとセレンは読んでいたが、
距離を取った上で正確に狙い撃つとなれば話は別とも解っていた。

「心を落ち着かせ冷静に自分の状態を観ろ。自らの呼吸と心音を読んでトリガーを引くタイミングを掴め」

 狙撃は自らを冷静に観測し焦る気持ちと乱れる感情を抑え、最適なタイミングを見極める集中力が要る。
その為体と精神に掛かる負担は大きく、もっともキツイ競技となれば精神と身体的疲労から2時間の競技で1キロ以上痩せてしまう選手がいるほどだ。
 リンクスはセレンの言葉に頷くと装填を行う。リンクスは手早く装填していくがその手をセレンは止めた。

「機械的に行うな。ゆっくりと心を落ち着かせながら装填するんだ」

「心を落ち着かせながらですか?」

 まだ良く理解していないのかリンクスは首をかしげているがセレンは言葉を続けた。

「頭と心を落ち着かせることで心音も安定させる。当てることが全てではない」

 セレンにとってこの射撃訓練はリンクスの技術を上げるためではない。焦りや緊張、怒りなどによって自分自身を見失ってしまうリンクスの精神を鍛えるためだ。

「しかし、競技上当てる事が全てでは」

「違う。自らを高める為に心身を鍛える意味もある」

 元々武道やスポーツにはそういった側面もあるが多くの人が忘れてしまっていることだろう。
勝つ為ではなく自己を高めた結果を表現する為の競技会がいつの間にか優劣を決める競争へと変わる事はよくあることだ。

「心身ですか……」

 なんとなく分かったのかリンクスは深呼吸をするとゆっくりと銃を標的に向ける。
相変わらず構えは乱れているが、セレンが言った事を理解したのか呼吸が安定し銃身のブレが小さい。

「そうだ、おちついてゆっくりと狙えばいい」

 セレンは諭すようにゆっくりと話しながらリンクスの横に立ち、リンクスの腕に触れると姿勢を整える。

「焦っても迷っても心を乱して自分を見失っては駄目だ。望む自らのイメージを持ってトリガーを引け」

 遠距離射撃を除けばネクストの高速機動も近接戦闘もすでにセレンが教えられる事はなく、また専門家ではないセレンが出来ることは限られている。
しかしセレンは自らが地下都市で選択した答えであるリンクスを育て上げるという決心、それを曲げるつもりも途中で折れる気などなかった。
それから2ヵ月トレーニングが続く中ローゼンタールから同社が保有する最大規模のアルテリア・カーパルス防衛依頼が着ていた。



ローゼンタール領カラード施設・・・・・・
 カラードのミーティングルームにリンクス達が到着すると余程慌てているのか詳細は移動中に確認して欲しいと
現在の状況と敵がネクストACであること以外情報を聞くことは出来なかった。
陸地から離れた海上に設置されたアルテリア、視認性に優れる故に長距離砲台を多く設置されており、陸地及び海上から通常軍の襲撃は不可能。
その為ネクスト戦力が投入されることが予想されており、襲撃情報が入った途端ローゼンタールは主力ネクストの投入が決定。
予想される戦力はネクスト1機、安全を考慮して支援ネクストを1機付けることで不測の事態にも備えようと考えているらしい。

「情報が少なすぎるがやれるか?」

 リンクスは怪我が治ってからネクストの戦闘訓練は行っておらず、2ヶ月間を心身のトレーニングに費やした為少々ブランクが出来てしまっている。
だがローゼンタール専属のトラセンドは別任務で出払っており、すぐに出撃できる独立傭兵はリンクス以外いなかった。

「2対1だから大丈夫ですよ」

 共に出撃するのはオリジナルリンクスの一人であるレオハルトの元乗機、ローゼンタールの象徴たるノブリス・オブリージュ。
調整や武装強化が行われているとはいえ、20年も経った事で若干旧式化しつつあり、ローゼンタールでは新型ネクスト LANCELが完成している。
しかし搭乗者であるジェラルド・ジェンドリンの技量と安定した精神状態はローゼンタールの象徴となる資格を持ち合わせ、
ノブリス・オブリージュを運用することで貴族達の誇りを守り続けていた。

「お前が大丈夫と言うなら良いだろう。無理だけはするな」

 2ヶ月間リンクスと共に居る時間が多かったセレンはリンクスが何を考えて大丈夫といっているか分かっていた。
基礎トレーニングは怠っていなかった為身体能力は落ちておらず、感覚さえ取り戻せばすぐにでも元の状態に戻る段階に留めていた。





アルテリア・カーパルス・・・・・・
 カーパルスへと続く海上道路へとネクストの降下が完了するとカーパルスがすでに陥落したと情報が入った。

「防衛部隊が全滅…? 20秒足らずで…か」

 上位リンクスでなければ不可能な殲滅時間、最低でもランク12 クラースナヤ程度の実力はあると判断できる。
しかしクラースナヤがカーパルスを攻撃する理由はなく、企業連によって定められた条約の中にアルテリア施設への攻撃は禁止されていた。

「最後まで抵抗したノーマルから映像が来ているな」

 オペレータルームから統合制御体に送信された情報によってリンクスも映像の参照が可能となり不明だった敵ネクストのアセンブルの確認を行う。

「細身のシルエットからして高速軽量級だろうか?」

「油断はできんな。オーメル系の武装で固められているが、左手に持つインテリオルの試作ライフルは危険だ。どこのルートで仕入れたか気になるが」

 リンクス戦争終結後インテリオルから距離を置く前、CANOPUSよりも選れたハイレーザーライフルの開発プランがあったが、
余りにバランスを欠いた初期仕様書にセレンは反対した為記憶にはっきりと残っていた。

「試作、つまり威力や連射性能の情報はないということですか」

「私も離れて長いからな。 詳細は不明だがプラン段階ではCANOPUSよりも単発ダメージを重視していたはずだ」

 セレンはインテリオルに試作ライフルの情報を要求する為映像から武装の部分を抽出、
カラードを通してインテリオルに要求を出しながら分かる限りの情報を映像から集めていく。

「ノブリス・オブリージュ 青いイレギュラーを排除する」

 ノブリスはOBを起動させアルテリア・カーパルスへと続く橋上を飛行していく。
リンクスはノブリスの行動を確認すると通常ブーストで移動を開始、霧積をベースとしたタンク型ネクストはゆっくりとノブリスを支援可能な距離まで機体を進めた。

「2機か。警告したはずだが、侮られたものだな。私とアステリズムも」

 聞いたことの無い女性の声が開放回線からカラードに所属する2機のネクストに届いた。
リンクスは音声をそのままオペレータのセレンに繋げ、橋上から水上へと静かに機体を移動させる。視界の先にはアルテリア・カーパルス中央、
白銀のネクストが待ち構えている姿が映っていた。
リンクスは両手に持つ050ANSRスナイパーライフルを構えた時ノブリス・オブリージュと白銀のネクストは交差、
レーザー光とミサイルがノブリスに向けて撃ち出される。

「アステリズムだと……、まさかジュリアス・エメリー君か!」

 通信内容からおそらく2人は知り合いなのだろう。戦う相手がわかった途端目に見えてノブリスの動きが鈍くなり、
有効射程外のレーザーを回避したもののミサイルの爆発に飲まれてしまっている。

「狙います」

「落ち着いてやればいい。焦るなよ」

 リンクスはFCSによる照準補佐を利用しながらアステリズムと名乗った白銀のネクストの移動予測先に向けトリガーを引いた。
銃口から撃ち出された2発の弾丸は喰らい付く獲物目掛けため音速で向かってく。だがあと少しで直撃するはずだった弾丸は
寸前の所で左肩ブースタの噴射によって当たることはなかった。しかしアステリズムの動きを見てセレンは
さっきの狙撃はリンクスが外したと思わず、確実に弾丸を視認後回避したことに気付いていた。

「同時発射せず一発目を囮に使え。連続して回避できる弾速ではない」

「つまりタイミングを読まれていた?」

 タイミングを読まれていたとリンクスが考えるのは妥当といえる。訓練と実戦を積み重ね攻撃のタイミングを読んで回避する事はある程度可能だ。
事実ホワイト・グリントの経験から来る【読み】は非常に正確で近距離からのりレールガンさえも回避している。
 しかし弾丸を認識した上で回避するということは動体視力と反射神経に優れ、さらにAMS適性が高くなければならない。

「なんにせよやる事は変わらん。自分の腕を信じてやれ」

 いくら選れた技術を持っていたとしても2対1という数的有利さから来るアドバンテージは大きい。
機体構成の相性は決してよいものではないが、接近戦をノブリスが行っている以上優位性を保つ為に適切な支援攻撃を行うのがリンクスの仕事。
落ち着いてアステリズムの行動を制限または損傷を与える事を考えて行動すれば良い。

「わかりました。 続けます!」

 薬莢が輩出され自動リロードが完了したスナイパーライフルの照準を再びアステリズムに向け、
移動先を予測しながらその照準を合わせるべく意識を集中させ呼吸を整えていく。



「ジュリアス・エメリー! 君が何故この様なことをする!」

 戦闘中だというのにジェラルドは標的である敵ネクストのパイロットに向け通信を行っていた。

「ジェラルド、貴族の狭義のみを守っている君には分からない事だよ」

 集中力と心の安定を欠いたノブリスの動きは不安定であり、本来の彼なら回避できるだろう
分裂ミサイルのフェイントから来るレーザーによって装甲は徐々に溶解していく。

「君がしていることは罪のない民を苦しめる事に繋がるのを判っていないのか!」

「罪の無い民衆など居ないんだよ。ジェラルド」



 アステリズムはMR―R102突撃ライフルの連射を後方へと下がりながらアルテリア施設の建物で防ぎ、
左右のブースタを連続噴射することで建物間の僅かな間にでる瞬間レーザーライフルとミサイルを放ち再び遮蔽物の陰に隠れてしまう。
そのためリンクスが支援狙撃を行おうにも次に姿を現す場所の特定とトリガーを引くタイミングを掴むことができずただ無駄に弾丸を消費することしかできなかった。
 軽量機の使い方を心得ているだけではなく、多対一戦闘でも冷静な判断を下せる安定した精神、カラードであるならば上位一桁に食い込める実力者だろう。

「相手のほうが上手だな。戦術プランを練るから少々待て」

 ノブリスの動きがおかしくなった事にセレンは気付き焦り始めていた。こちらはノブリスのバックアップに過ぎず、フレーム・武装ともに支援となっている。
前衛のノブリスが十分にその力を発揮できなければリンクスに危険が及ぶ可能性が高い。現状のノブリスを生かす支援を行うのは簡単なことではないが、
それができなければリンクスも撃墜されることを覚悟しなければならない。

「上空から狙い撃て。最長レンジから撃てば相手の反撃も少なく済む」

 相手よりも勝るロングレンジ武装を持つアドバンテージを少々失ってしまうが、すでに両手に持つ050ANSRの弾丸を半分ほど使ってしまっている以上
遮蔽物越しに相手を認識し攻撃を行うことが優先される。タンク型ネクストはゆっくりと上昇していくと高度900程度で停止、
海上ゆえに吹き荒れる強風に機体が徐々に流れていく。

「脚部ブースタと安定性を統合制御体でサポート、腕部制御を全てこちらへ」

 統合制御体に空中で制止するよう命令を下すと残りの処理を統合制御体に任せ、両腕のスナイパーライフルの照準をアステリズムへと向けた。
 全ての制御を自分で行う必要は無く、必要に応じて統合制御体に任せてしまえば集中して他の制御が可能となる。
これはチャンプスがAMS負荷を極端に落してネクストを動かすときに使用している方法で、
動作は鈍くなる代わりに特定の動作に集中することが出来ると前に聞いていたからだ。



 その頃ジェラルドはジュリアス・エメリーとの話に怒りを覚え始めていた。

「民を護る為に私達はリンクスになったのだろう! このような事をして何になるというんだ!」

「君がローゼンタールの規範となってどれだけの人が変わったと言うんだい?」

 人はそう簡単に変わるものではない。ましてやリンクス戦争の英雄 レオハルト侯と比べてジェラルドはまだ若く、
リンクスとなって短い為それほどローゼンタール内でも影響力は高くはない。

「護るべき民などどこにも居ないんだよ。ジェラルド」

 HLR7-VEGAをノブリスに向けトリガーを引こうとしたとき突然一発の弾丸がPAを貫きコアに着弾、
衝撃が機体を揺らし照準がずれたことでプラズマ粒子はノブリスの頭部をかすめていく。

「ん? さすがに対応してきたのか」

 ジュリアスは攻撃の行われてきた方向を確認すると射程外の場所で滞空しているタンクの姿が見えた。
空中に静止していることから操作の一部を統合制御体に任せているのだろう。
ジュリアスはノブリス及びタンク型ネクストの一方向の視界に入るよう回避パターンを変更、
再びタンク型ネクストの援護狙撃に対応できる体制を整えるとノブリスに意識を集中させた。



 さすがにノブリスを間に挟まれては援護射撃をしにくく、単発を的確に当てるしか方法はリンクスに残されていない。

「やります。サポートを」

 061―ANSCに武装を切り替えタンク型ネクストは橋上へと下りると機体を前傾姿勢に傾け衝撃に備える。
むろんそんなことが不要なほど機体の安定性はあるのだが、僅かな不安要素さえも取り除くことを考えれば
車体をロックし前傾姿勢で撃つほうが反動を完全に制御し確実な射撃を行うことが出来る。

「良く狙え、当てるイメージと敵の動きを一致させろ」

 リンクスは深呼吸し呼吸をゆっくり整えると二門の061―ANSCの照準でアステリズムを追った。
遮蔽物の間を高速で駆けるアステリズムの先を読むことは難しい。ひとつ前の遮蔽物を使用したとき機体はどう傾斜していたか、
どのブースタを使用したか、前はどういう方向に移動したか、そういった多くの情報から先を予測するには経験とセンスが必要だがセンスはリンクスに欠けている要素だった。

「二連射ある、一つ目をきっかけに使ってみろ」

 リンクスは予測できる限り最適と思われる箇所に照準を合わせると二回立て続けにトリガーを引いた。
二発の弾丸は機影の無い場所に向かっていったが、ノブリスの攻撃を回避し障害物の陰からアステリズムが飛び出した。
さすがに予測されていたのか一発目は余裕を持った跳躍によって回避される。

「なっ!?」

 眼前に迫る一発の弾丸気付き肩のブースタを点火し機体を傾けるが、PAを貫き左肩に直撃した衝撃によってバランスが崩れてしまう。
この隙をジェラルドは見逃さなかった。
 翼に似た形状を持つレーザーキャノンを展開、アステリズムのコア目掛けノブリスの特徴であり最大の武器であるE―0307ABが撃ち出された。
PAを貫いた六条のレーザー光がコア装甲を溶解させ六つの穴を穿つ。さすがに軽量級のアルゼブラ製コアSOLUH-COREにはこの一撃は致命的だった。

「私か、侮ったのは……」

 両背の武装をバージしきびすを返すと白銀の機体はOBを起動させカーパルスを離脱していく。
追うつもりなのかノブリス・オブリージュはカーパルス防壁の上に上るとOBユニットを展開、コジマ粒子の光が後方へと集まっていく。

「いや、待てまだだ。ご丁寧に増援か。不明ネクスト、もう一機いるぞ。気をつけろ」

 特徴的なヘッドパーツをつけたネクストが海上からアルテリア・カーパルスに向かっている姿が望遠カメラには映っていた。

「こんな時に……」

 ノブリスのカメラアイにはカーパルスを離れていくアステリズムの後姿が映っていた。
もう一機的ネクストが居る以上彼は任務であるカーパルス防衛の為追撃することは叶わない。

「まさか、ジュリアス・エメリーが破れるとはな。メルツェルの先見も凄まじい。だが、すでに手負いだ。
アルテリア・カーパルスはORCAとグレイグルームが貰い受けるとしよう」

「グレイグルーム…だと」

 その名前にセレンは聞き覚えがあった。リンクス戦争終結後、短い期間でカラードランク一桁まで上り詰め
そして突然行方をくらましたリンクスが駆ったネクスト名、それがグレイグルームだった。

「気をつけろ! 相手は元一桁ランカーの」

 注意しろとリンクスに伝えようとしたセレンの言葉をAAの強烈な光と爆発音が遮った。
通常のAA範囲を超える破壊力と広範囲に展開されたコジマ爆発にアルテリア・カーパルスの壁面が一部崩れおち、
防壁の上で待ち構えていたノブリス・オブリージュはAAに巻き込まれ、装甲表面を焼かれながらアルテリア・カーパルスから少しはなれた海面に叩きつけられる。

「ノブリスの損傷は甚大だ。武装を変えてお前が前に出ろ。幸い相手の武装はブレード以外実弾、お前が有利だ」

「了解、敵アセンブルの確認願います」

 PAの性能が他社製よりも劣るGA製のためAAを使用された場合損傷度合いが大きく、回避もしくは使う前に仕留める事が前提となる。

「ノブリスは一旦下がらせ増援を呼ぶ。それまで持たせて見せろ」

 両手に持っていたスナイパーライフルを捨てると脚部から大型のGA強化バズーカGAN01‐SS‐WBPと有澤製榴弾砲NUKABIRAを取り出す。

「戦闘スタイルはPAをマシンガンで剥がしAAとブレードで止めを刺す接近戦だ。注意しろ」

 統合制御体が受信した情報を確認するとアセンブルが表示され機体特性と戦法の確認を行う。
セレンからの補足によって大まかに相手と戦う戦法を決め、橋上に再びタンク型ネクストを戻すとゆっくりとカーパルス内へと機体を進めた。
有効射程が大幅に短くなったとはいえ高速戦闘には不向きなタンクタイプ対EN管理が非常にシビアなランスタンタイプ、
勝敗はグレイグルームがどれだけリンクスの駆るタンク型ネクストを翻弄できるかに尽きる。
 ノブリスがOBでカーパルスから離れていくとグレイグルームは橋上を走るタンク型ネクストに標的を定め海面から橋脚に隠れながら徐々に接近していく。
高火力を持つタンク型ネクストと正面からやりあわず後方や上方から攻めるのは基本だが、実行するのは言うほど簡単なことではない。
有澤重工 雷電ならばそのような状態には持ち込ませないよう後方に下がりながら正確に榴弾を撃ち込むが、
それほどリンクスはタンクの扱いに慣れて居なければ大口径砲の扱いが上手いわけでもない。
橋脚の間に居るグレイグルームに向けてバズーカを放つと鈍い音を立てて橋脚が崩れ落ちるが機影はすでになく、
右サイドからの激しい銃撃によってPAが瞬き他方向から攻撃を受けていることが分かる。
攻撃方向は徐々にタンク型ネクストの後方へと向かっていくが3秒ほどして攻撃が止むと今度は上空からミサイルとマシンガンの複合攻撃に変わり、
グレイグルームは絶え間なくタンクの周りを動きかく乱していた。
なんとか視界に捕らえようとリンクスは両肩のブースタを噴射し鈍重な機体を旋回させるが、
隠れる場所も無い開けた場所を縦横無尽に駆ける軽量級相手に完全に視界に捉えることは出来ない。

「余り貰うな。いくら頑丈なGAとてそう長くは耐えられんぞ」

「やっていますが、さすがに対応し切れません」

 腕部を除きほとんどの制御を統合制御体に任せているため、AMS負荷がほとんど掛かっていない代わりに機体の反応は非常に鈍かった。

「いまダリオ・エンピオがそちらに向かっている。それまで持たせればいい」

 リンクスは激しい銃撃を受けながら増援の到着まで機体を持たせるべく壊れた橋脚の間に機体を移動させる。
一方向からの攻撃から逃れるためだが、いまだ残る12方向の内視界の無い6方向からの攻撃には対処できず僅かに攻撃の頻度が減る程度の効果しかない。



(まだか……)

 心に余裕を持ってセレンは戦闘を見ているわけではない。高い負荷を受けることで感情に揺らぎが起こり戦闘中にリンクスに異変が現れれば対処の取り様がなく、
このまま自らの前から居なくなってしまうのではないかと不安が消えることはなかった。
その為トラセンドが到着することを待ちながら統合制御体から送られてくる情報を逐一チェックし、
脳波に乱れがないか身体的異常はないかとセレンは目を離さずに居た。



 グレイグルームの襲撃から2分が経過したカーパルス内部には間接から火花を散らすタンク型ネクストと損傷を受けていない軽装ネクストの2機がいまだ戦闘を行っていた。
PAは霧散し装甲を激しくマシンガンの弾丸とミサイルの爆発が襲い掛かり、対実弾性に優れるはずのGA装甲は徐々に変形していく。
それでも貫通したり砕けたりしないのはGAの持つ素晴らしい技術といえるが、余りにも無防備に攻撃を受け続けていた。

「……セレンさん、トラセンドはまだ駄目ですか」

「今VOBでこちらに向かっているところだ。まぁ他の防衛からそのまま来る以上疲れてはいるがな」

 2対1の優位性はすでに崩れてしまっているが、トラセンドが来れば確実に意識はそちらに向けられ付け入る隙が必ず出来る。
ましてダリオのトラセンドはローゼンタールの新型、装備する武装も平均的にノブリスよりも高火力でまとまっており、最大瞬間火力以外劣っているところはない。
またリンクスが持つ高火力武装が一撃でもPAを失ったグレイグルームに直撃すれば戦況は一瞬でひっくり返るのだが、
相手も自らの機体が軽量でありPAを失った状態での一撃は致命傷になりかねないことを理解しているのかAAを使おうとはしない。

「そろそろ狙ってくるはずだ。集中してブレードを迎撃しろ」

 グレイグルームは軽装であるため重装甲のタンク型ネクストを打ち倒すには必ずブレードを当てる必要があり、
回避もしくは迎撃しなければリンクスが勝てる見込みは無い。
四方八方から撃ち続けられるマシンガンの攻撃は再展開されるPAを一瞬で霧散させ、そのタイミングを見切って発射されるミサイルがGA装甲板を徐々に破壊していく。
EN消費が激しいはずの構成でありながらタンク型ネクストの照準が合う寸前にメインブースタを噴射しトップアタックを行いながら
背後に回り着地を行うと通常ブーストでタンク型ネクストの旋回と同じ方向に回りこみながら攻撃を行う。簡単なようで計算された機動と
経験に裏打ちされた読みが無ければこれだけのEN消費量の多い機体を動かせないだろう。
しかしリンクスも翻弄されながら単眼のカメラアイはグレイグルームを追い続け、接近するタイミングを逃さぬよう接近できる箇所では決して目を離さなかった。

「すまないがそろそろ終わらせてもらうとしよう」

 トーティエントはコックピット内でそう呟くと眼前の鈍重なタンクを見下ろす体勢から背後を取りPAが収縮を始めた。
早くリンクスを仕留め弾薬の補給と機体の応急整備を行い奪ったカーパルスをトーティエントは防衛しなくてはならない。
すでにジュリアスと共に先行していた部隊は内部で事を進めてはいるが、万全を期するならば占拠し続け来る時に備えたほうが良い。
 収縮したコジマ粒子が限界を超え反作用で爆発しタンク型ネクストに襲い掛かる。
さすがに損傷を負った状態で至近距離からのコジマ爆発は分厚い装甲を持つGA製でも耐えられるものではなかった。
左腕の装甲板は弾け跳び歪んでいた各所の装甲板にはひびが入ってしまう。
腕部のみAMS制御を行っていたとは言えこの損傷はリンクスにフィードバックされ、オペレータルームに表示されていた脳波は乱れ高負荷がかかっていることが分かる。
 統合制御体によって動かなくなった左腕の武装をバージしAMSとのリンクが解除。
リンクスは右腕に残ったNUKABIRAを構えるが、グレウグルームは追撃をかけず距離を取るとカーパルス内の施設の影に隠れてしまう。
僅かなチャンスさえもリンクスに与えるつもりなどトーティエントにはなかった。

「やはり破れたな…ジェラルド・ジェンドリン」

 開放回線から聞こえてくる自信に満ち溢れた声から聞こえてくるとバージされたVOBの残骸がカーパルス近くの海面に落ちた水柱が上がる。

「貴族の務めなど、大層な御託の割に…クククッ。まぁ、俺が尻拭いをしてやるとするか」

 カーパルスへと続く橋の中央に降り立った赤いネクストはOBを起動させると戦闘が行われているアルテリア施設領域へと向かい始めた。

「トラセンドが到着したか、少々危険だが仕方あるまい」

 グレイグルームはレーザーブレードでタンク型ネクストが背部に積んでいる061―ANSCの基部を切り裂くとトラセンドに向かっていく。
遠距離攻撃が出来る武装さえ無くしてしまえば鈍足のタンクを脅威とトーティエントは思っていなかった。



 グレイグルームはOBで接近していたトラセンドの前から同じくOB接近していくとアサルトアーマーを展開、
衝撃波の中にトラセンドは突入する形となりホワイトアウトした視界の中二つのブレードが交差。
光が治まると距離を取りトラセンドがCG-R500チェーンマシンガンを撃つ姿とアステリズムと同じように遮蔽物を利用するグレイグルームの姿があった。
高機動戦やドッグファイトは確かにネクストの特性を生かしたものだが、それだけで生き残れるほど戦場は甘くない。
視界がなくともレーダーやセンサーを駆使し状況を把握、さらに戦場の立地までも自らが優位にたつ要素とし生き残る。
トーティエントもダリオ・エンピオもどちらもその事を理解し、勝つ為には利用できるものを全て利用することに躊躇など無いだろう。



 その頃リンクスは砲身基部を切裂かれた後動けなくなり、カーパルスから少しはなれた橋上止まったままだった。

「無事か!応えろ!」

 セレンが何回か通信機に向けて怒鳴ったとき、やっとリンクスから通信が入った。

「……大丈夫です。 少し頭がくらくらしますが」

 以前ならば危険な状態に置かれることで自己防衛とも取れる入れ代わりがあったが、どうやらセレンの考えどおり抑え込めているらしい。

「呼吸を整え目を開いておかれている状況を見ろ。まだお前に出来ることはあるだろう」

「今の自分が出来ることを……」

 相変わらず送られているリンクスの脳波は乱れているが、意識だけははっきりしているのかちゃんと受け答えが出来ている。

「自分が今出来ることを……」

破壊された061―ANSC2門をバージするとOBユニットを展開、AN02-NSS-C独特の2連大型ブースタに光が集まっていく。



 トラセンドは障害物を利用するグレイグルームに有効なダメージを与える事が出来ず、

「ちっ、さすがに長時間となるときついか」

 GAとのAFギガベース攻略の途中からこちらに急遽呼び出されたため、充分な休息を取っておらず連続した長時間のAMS負荷は軽くはなかった。
それでもジェラルドを退けた敵ネクストを撃退すればローゼンタール内でダリオ・エンピオの聞こえはよくなり、
家を復興する為の権力や財力を得られるきっかけにもなるだろう。その為にも今無理をしてでもグレイグルームを撃破しなくてはならない。
 弾の切れたCG-R500チェーンガンをバージしレーザーライフルを向ける。光学系故にPAは充分な機能を発揮することは出来ないが、
グレイグルームの基本構成はアクアビット製ランスタンのため対光学性能は高く、さらにレーザーライフルが単射である以上タイミングさえ読めれば回避は難しくない。
 しかしグレイグルームとて余裕があるわけではない。レイレナード製マシンガン01-HITMANの装弾数は多くなく、
多数の敵を相手にするにはかならずレーザーブレードとアサルトアーマーを多用しなくてはならない。
それがグレイグルームの決定的な欠点でありトラセンドが付け入る隙、ダリオもそれを分かっており回避重視に戦闘を組立てようとしているのだがそう上手くはいかなかった。
ダリオは排除する側であり攻勢に出なければならず、また時間が掛かってしまえば評価は下がりノブリスか別のネクストの増援が来る可能性があり早期に決着を付けたかった。
 トラセンドが攻めあぐねていたときオーバーブースタを起動させたタンク型ネクストがグレイグルームの左サイドに急接近、
収縮したプライマルアーマーの衝撃に飲まれグレイグルームは視界とPAを失った。
しかしもとより制波性能が低いGAタイプな上に何箇所か装置そのものが破損しており充分な威力は無い。

「甘いな。そんな機体のAAなど大した効果は」

 ホワイトアウトした視界が失われている中トラセンドのレーザーブレードがグレイグルームのコアを捉えていた。
タンク型ネクストがアサルトアーマーを展開した時、メインブースタを噴射し衝撃の中無理やり前進しブレードを振るっていた。
コアの3割程度食い込んだときグレイグルームの腰部ブースタが点火され距離を取りそれ以上の損傷を免れる。
だが急に途中でブースタの出力が落ちてしまい機体が僅かに降下してしまう。

「くっ、しまった!」

 予定外の行動はぎりぎりのEN管理を行っていたグレイグルームには致命的だった。
 ENが切れたことで動きの鈍くなったグレイグルーム目掛け榴弾が迫っていた。
EN残量が尽きていたグレイグルームでは回避することも出来ず榴弾の直撃によって爆発と炎に飲まれカーパルス防壁へと吹き飛ばされる。
トラセンドはこの時とばかりに再びレーザーブレードを構え接近戦を挑んだ。しかしグレイグルームは機体を前傾に傾けると壁面に着地、
右手に持つマシンガンで追撃を掛けようとしていたトラセンドに向け連射、
レイレナード製のマシンガンであるHITMANはアサルトアーマーを強行突破し弱っていたPAを意図も簡単に霧散させると同じくレーザーブレードを構えた。
 お互いに振り切られたレーザーブレードはPAを貫通し装甲板に食い込むが、損傷度合いが比較的軽かったトラセンドとPAの消失した状態で
直撃した榴弾と状態の差は大きかった。トラセンドのブレードはCR-LAHIREコアを切り裂き深々と突き刺さっていた。

「遊びは終わりか? ミスターイレギュラー」

 嘲笑するかのような笑い声が通信機から流れてくるとトラセンドは突き刺したブレードを引き抜き、
剣のような形状を持つER-R500の照準を切裂かれたコアに狙いをつけた。

「まさか、これほどとはな……。所詮二流だったということか。 しかし、君一人は私の連れとなってもらおう」

 激しくコジマ粒子が洩れ始めると強制的に再展開されたPAが収縮をはじめ、大規模爆発と思われる振動現象が起こる。
トラセンドは逃れようと腰部のブースタを点火した時6条の光がコアに照射されグレイグルームは完全に機能を停止した。

「ちっ、ジェラルドの奴余計なことを」

 トラセンドが視線を向けた先には損傷を押してカーパルスに戻ってきたノブリスの姿があった。



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**コメント返し [#oca3de9f]
>- 遂にセラフ登場しましたか。w …待てよ。レイレナとレイヤードが繋がってる……まさかこのセラフはACE:R仕様のセラフなのか!? -- [[サイキライカ]] &new{2012-01-14 (土) 00:32:24};
ACE:Rか、その程度の性能でしょうかねぇ・・・・
>- ジャック・Oの香りがしたのは気のせいか?w --  &new{2012-01-15 (日) 07:51:00};
ジャック・Oはいませんよ。興ならいますが
>- このセラフはACE仕様しかないでしょうよ・・・悪夢の再来だ・・・量産機あるんかねぇ。コア形状が近いから繋がりがあると想定・・・なのかな? --  &new{2012-01-18 (水) 18:22:44};
ACEなんて生易しいですよね。我々が刻まれた本当の悪夢を
>- 何気なくジャックがいた。w --  &new{2012-01-21 (土) 17:00:46};
興です。ジャックではありません
>- もしよければ主人公の機体のアセンを、教えてください。 -- [[バッカーズ]] &new{2012-01-24 (火) 19:56:54};
>- ↑読み返してみよう。ある程度わかるよ --  &new{2012-01-24 (火) 21:29:36};
そうですね。以前の物を読めばストレイド及びサックスについては記載されています。
ただ、時折搭乗する機体については記載がありません。
ただ途中で書くと長引くので完結後にアセンを記載します。

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**コメント [#y545a0cc]
**移植元コメント [#y545a0cc]
- コメ待ってました。このセラフは~の人です。初代知らないんですわOrz でもACEのも十分強かったですよ。それはさておきあと少しですか・・・ね?続き待ってます --  &new{2012-02-10 (金) 04:00:22};
- 更新待ってました。w ジュリアスとジェラルドの両者が生存しているとは珍しい。今後の展開に期待しております。 -- [[サイキライカ]] &new{2012-02-10 (金) 18:17:22};

#comment_nospam
**コメント [#u7a1f664]
#comment(below)
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