#author("2016-12-09T01:13:34+09:00","","")
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Written by マサ
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 世界は縮小していた。かつて人類はこの星の隅々まで探索したと言われていたが、そんな物、全て妄想が生んだ虚構では無いのかというほどに、世界は狭かった。

 世界は汚染し尽くされ、残された人々は小さな生存可能な土地にしがみつくように生きていた。だがその小さな土地というのは『皆のため』に有るわけではない。人が集まれば戦いが起こる。まして分け合えるだけの資源が無いならなおのことだ。
 ならばどうするか? この世界で欲する物を手に入れられるのは強者のみ――意味するところは単純だ。戦って、奪うしかない。

 Another place in ACV もう1つの世界

「ブリーフィングを始めるぞ」
 リーダーの男の声に、ブリーフィングルームが慌ただしくなる。ヘリパイロット、ACパイロット、歩兵部隊の隊長が集まっただけに、かなり人口密度が高くなっている。
「今回のミッションオブジェクティブはシティを牛耳る代表の捕縛、並びに暗殺。そのために今現在我々の所有する10機のACを全て戦線に投入し、企業の軍勢を殲滅する。企業がまた未確認兵器を出して来る可能性はあるが、各自ツーマンセルでカバーして何とかしてくれ」
 リーダーの言葉に集められた10人の傭兵は皆一様に苦い顔をする。確かに前回も上層部までは進撃出来たが、企業の連中と代表の攻撃に遭い、今残った10人が命からがら逃げかえったような状態だ。
 元は20人余りいた傭兵戦力が企業、代表のワンアタックで半減したのだ。それを覚えている彼らとしては身震いするのも仕方ない。それでも戦う以外生きる道がないのだ。
「ミッションプランとしては1グループがシティ外縁を迂回して、電源施設を襲撃。市内の防衛システムをダウンさせ、その後北部から企業の戦力を殲滅しながら代表の塔を目指す。他の4グループも市街外縁で待機し、防衛システムのダウンを見計らって一斉に別々の方向から進軍。全ての企業戦力を殲滅し、代表を追い詰め、殺す。以上だ――質問はないか?」
 オペレーティングシステムのブリーフィングモードが示す企業戦力の推定は、ACこそ無いが戦車や高速型攻撃機、防御型等を合わせれば市内全域で400機はいる。これに代表の保有するAC等の戦力を加えればおそらく10機のAC全機が奮戦しても、ギリギリの戦いになるだろう。代表持つAC部隊だって木偶の群れではない。
 それでも、誰も依頼の場から逃げ出す事はなかった。
「みんな、ありがとう」
 リーダーがそう呟く――まるでそれが今生の別れであるかのように。

「リーダー、本当に上手く行くと思いますか?」
 行軍する大型ヘリの中のキャビンの中、リーダーの側近の女性が訊ねる。聞かれたリーダー自身浮かない顔をしていることからしても、この反抗作戦に勝ち目が薄い事が察せられる。
「どうだろうな。だが少なくとも諦観の内に壊死するような真似だけはしたくない」
 だがこのまま何も手に入れられなければ、彼らレジスタンスは全て潜り込んだ地下で壊死するだけだ。今の代表は生き延びられる最低限の人々を生かす事だけに執念と言ってもいい力を込めており、奴を殺さずにいれば、死ぬのはレジスタンスだ。レジスタンスは奴が救う命の勘定に入っていない。
「上手く行こうが行くまいが、我々には選択肢は与えられていないんだ」
 あの代表――ヴェニデとかいったか。奴の首を挙げずして、レジスタンスに明日はない。
「全機速度上げ――低空で突入し切り離し、以後は各自で配置についてくれ」
「「「「「了解!」」」」」
「ヘリ全機、オペレーションシステム起動準備。ここが正念場だ。派手に行くぞ」
 こちらから攻撃に使えるのは、行軍速度を考えてもACだけだ。
 多少ヘリも攻撃に回せるとはいえ、ACよりも圧倒的に機動力に劣るヘリを前面に出せる訳がない。従って展開した10機がレジスタンスの生命線だ。ヘリの面々も、代表の塔に突入する歩兵も、全ての命が10機のACの肩に委ねられる。
「全機、位置に着いたか?」
「「「「機体コンディショングリーン。配置よし!」」」」
 4つのグループから一斉に返ってくる通信。火蓋が切って落とされるのも近い――
 だが、電源施設の制圧に向かったグループだけが返答を帰してこない。これは一体どうしたことか。
『リーダー……。計画が、読まれていました……。やはり、奴らは――』
 待ち望んでいた通信は、その言葉を最後に断絶する。グループ単位で通信が切れるということは、まさかと思うが、電源設備を攻撃しに行った2機が揃ってやられたのだろうか? 
「目標出現ポイントにビーコンセット。オペレーションシステムでスキャンしろ」
『やっています。スキャン率90パーセント――スキャン完了、目標モニターに出ます!』
 データリンクによりオペレーションシステムのカメラに映されたそのACは、血のような赤色だった。右手にバトルライフル、左手に弧を描く月を模したようなレーザ―ブレードを装備した、見たところかなり重防御型の中量2脚――間違えようもない程他にないアセンブルだ。何より特筆すべきはその左肩のエンブレム。血のような色の大鵬を見間違えるはずがない。
「紅い鳥のエンブレム――セサル=ヴェニデか!」
 セサル=ヴェニデ。現シティの代表ヴェニデの息子にして、代表が保有する最強のAC戦力。元々レジスタンスの傭兵も全てヴェニデの配下だ。ただ力至上主義のヴェニデに辛酸を舐めさせられて鞍替えをしただけだ。つまり――
「AC全機へ、セサル=ヴェニデのACを確認した。ビーコンをセットする。奴を抹殺しろ! 奴さえ消せば、勝機はある!」
 少数対1では勝ち目はない。現状こちらが8機を残しているからこそ、早期に殲滅するしかない。固まる前に襲われたら、こちらのACではひとたまりもない。
『速過ぎて撒けねえ!』
『オペレーター援護しろよお!』
 重量2脚の2人組があっさりと捕まる。そもそも電源設備を破壊し損ねたおかげで、防衛設備は思いっきり稼働している状態である。迅速な輸送と防衛用砲台などの稼働による波状攻撃でこちらの傭兵は自由に動けない有様だ。
『私は弱者に用はない』
 短い言葉と共に、辻斬りが走った。
 ガドリングを放ちながら重量2脚ACに接近していく防衛型戦闘メカの背後から飛び出した赤いACが、重量2脚ACの片割れを頭からブレードで粉砕した。
 幾ら熱量に強い重量2脚であろうと、頭からコアにかけてをブレードで袈裟切りにされては、機体が保ってもパイロットが持たない。おそらく痛みも熱も感じる間もなくパイロットは蒸発しただろう。
『いいから当たれえええ!』
 大破したACを踏み台にセサル=ヴェニデが駆ける。撃ちっ放しのガドリングを、ACを踏み台にしたブーストドライブでやり過ごし、ドリフトターンで向き直る。あまりに迅速な方向転換に、旋回性能の鈍い重量2脚は完全に背を向ける形になってしまった。
『ひいいい!』
 とにかく今は離れなければ危ない。近距離はヴェニデの必殺の距離だ。
 トリガーを引きっぱなしにして2艇のガドリングを垂れ流しながら機体を左右に振るが、ヴェニデは壁を蹴り、ハイブ―ストを交えた高速機動で一気に近づいて来る。ガドリングが全て膝のシールドに弾かれていても、今は武装を変える時間すらない――射撃を止めた時がパイロットの死ぬ時だろう。
『恐怖に駆られた雑魚が――』
 実際は射撃を続けていようが死ぬわけだ。赤いACの強烈な膝蹴りがコアを拉げさせた。
 だがそれで終わるならヴェニデはこのシティの最強ではない。食らった乗り手が吐き気を催す蹴りの一撃から、もう一段階加速した蹴りが重量に勝るはずの重量2脚を蹴り飛ばした。横合いからの回し蹴りに、完全にバランスが崩れて無様に転がる。機体は完全に沈黙。パイロットの応答も無かった。
『2機程度で勝てる相手じゃない。全6機集合してヴェニデに当たれ!』
 もはや同じAC同士の戦いとは思えない。少なくとも4対1。可能なら5対1、6対1だ。もしもヴェニデ1機に対して当てられるACの数が4機を下回れば、おそらくこちらの凡百の傭兵たちでは太刀打ち出来ないだろう。だからこそビーコンを表示して早期に安全に合流出来るポイントに傭兵たちを集めようとしたのだが――
『大型ヘリが1機被弾! 墜落します』
「今度は何だ!?」
『敵第2射、来ます!』
 夜空を裂く青い閃光。最強のレーザーライフルと名高いkarasawaを思わせる光だが、その破壊力は全く違う。ビル陰に隠していたヘリが、ビルごと撃ち抜かれて大破――爆炎を上げて墜落する。もちろんそんな事karasawaにだって不可能だ。一体誰がこんな真似を――!
『発射地点割り出せました――代表の塔です!』
「着弾地点から何キロ離れてると思ってる! そんな訳無いだろうが!」
 そもそもACの攻撃圏など重狙撃砲で1キロ程度である。代表の塔は現場から5キロはある。そんな遠間を攻撃出来るACの武装なんて――
『何のつもりだ、貴様』
『いやいや、ゴミ虫どもが蠢いてるから、ちょっとお手伝いをね――!』
 青白い光が3度夜の街を駆ける。疑惑の目を向けるヴェニデを他所に、無慈悲に放たれた一撃は、またもレジスタンスのACの上半身を、チリさえ残さず消滅させた。疑いようもないくらい、敵のACは塔の上を陣取っていた。
『糞が! 俺たちをゴミのように――! 不公平だろ……!』
 悲痛な言葉を残し、夜の闇の向こうの『主任』と呼ばれた男のACを狙おうとレジスタンスのACの1機が闇雲にライフルを振り回すが。当然届くものではない。無残な反撃は瞬く間に無残な死に変わった。
「貴様らは一体何者だ!? 何が目的だ!」
『貴方にはその質問をする権限がありません』
 リーダーの問いに、突然聞こえる女の声。だがその声には以前も聞き覚えがある。
 冷徹にして、聞いた者を突き放す、そんな声だった。確かこいつは。
「貴様は、キャロル=ドーリーと言ったか、小賢しい奴が、また会うとはな――」
『覚えていていただき光栄です』
 そうは言っても口ぶりは慇懃無礼そのものだ。刻々と追い詰められているレジスタンスを嘲笑っているような節さえ感じる。
 4度目のリチャージ。解き放たれた巨大な砲が生む力は、今度は青白い光と共に1区画ごとACを吹き飛ばす。通信断絶――ACが大破した事がリーダーの方にも伝わってくる。もはや理解出来る次元ではない。こいつらは何がしたいんだ?
『全く、主任は困った方です。あの区画には我々の味方もいたはずですが』
『キャロりん。俺たちに味方なんていなんだ――そう、いないんだよ』
 神妙な言葉を吐く一瞬――だが何が言いたいのかは全く分からない。クソッ。何なんだ本当に。
『愛してるんだぁぁぁあああ、君たちをぉぉぉおおお! ハハハッ!!』
 正気を疑う哄笑と共に、第5射が放たれる――本丸でもあるこちらには来なかったが、被爆した箇所で爆炎が上がる。見れば超高熱の熱戦に溶解する大型ヘリの姿が――。一体後どれくらいこちらの戦力は残っているのだろうか?
『喧しいな。貴様も――』
 通信にセサル=ヴェニデの声が入る。見れば赤いACがブーストドライブを頼みに、高度を上げ、グライドブースターで夜空を駆けて行くところだった。
『――少し黙れ』
 超高速で接近していった赤いACが、タワーに陣取る青白い装甲の重量2脚型ACを躊躇いも無く蹴っ飛ばす。ほとんどイカれた奴ら同士のやり口だ。
 街の一角を焦土にする砲撃を放つACも、それを回避して突っ込み、蹴りを叩きこむ奴も尋常じゃない。
『ここは私たちの街だ。貴様ら企業の協力を受ける事は父の決めた事だから構わないが、シティの破壊行為に及ぶならご退場願おうか』
『へえ、面白いじゃんセサル=ヴェニデ――紅い鳥』
 巨大な砲身を一蹴りでへし折られ、コアに小さくは無い歪みを着けられながらも、主任は静かに笑っていた。バランスを崩し塔の上部から落ちたAC――ハングドマンが猛烈な勢いで爆発した。やはりあの砲何かおかしかったんじゃないだろうか?
『覚えておきましょうセサル=ヴェニデ。貴方のような例外もいた事を。』
 それだけを言い残して通信が絶える。あの企業の連中、一体何のために出て来たんだ? こちらへの攻撃のため? アレだけ無差別に街を破壊しておきながらか? 
 ヴェニデの黎明期からいると言われているあのACは一体何なんだろうか――
「リーダー」
 声を掛けられて正気に返る。奴らが何者であっても、少なくとも今は、考える必要はない。そんな事は生き延びてからゆっくり考えればいい。
『リコンを撒け。味方の数と敵の数を割り出せ。直ぐにだ』
 絶望が少しでも晴れる事を期待して指示を下すが、次々上がってくる情報は無益で、戦意をへし折る事実ばかりだった。
『300メートル間隔で撒いたリコンが捉えた合計索敵数が100を超えています。更に遠方から大型輸送ヘリ。全機ACを牽引しています』
『リーダー、こちらの残存戦力は、AC1機です』
『ヘリ部隊の方も2機を残して全滅です。突入した歩兵も、企業の軍勢に進路退路共に塞がれ戦死しました――我々の、敗北です……!』
 確かに、この戦力差では勝てないだろう。相手の大多数のACと善戦するくらいが関の山のこちらの傭兵たちだ。実力差で押し切られる前に速攻を掛けるはずが、セサル=ヴェニデの読みと企業の介入で予定の1割さえ進行出来ずに追い詰められている。
 認めるしかない。ヴェニデに対し、レジスタンスは完全敗北した。
「だが、セサル=ヴェニデ――! 貴様だけは!」
 せめて道連れにする。残されたレジスタンスの戦力の全てを結集した反攻作戦。自分たちがここで倒れたとしても、後に続く者たちのためにも、ただ座して殺されるのを待つ訳にはいかない。
「大型ヘリを塔に突っ込ませろ! こっちはセサル=ヴェニデのACに特攻を掛ける!」
『おうっ!』
 残されたヘリ2機とACが一気に動き出す。目指すは代表の塔。こうなれば一点突破だ。逃げる余力も、逃げ込む場所も無い以上、これ以上の方法もない。
『私たちヴェニデの秩序に、弱者は不要だ』
 塔に飛び込む2機のヘリを、塔上部から飛び降りて来た紅いACが両断する。
 ぶった切りながら地面に降りた紅いACが返す刀で一散に突撃しに行ったレジスタンスのACも両断する。必殺の気合いで放たれた迎撃のヒートパイルも、セサル=ヴェニデには届かなかった。

『イレギュラー』
 そんな単語が頭を過る。とても常識の範疇に収まるモノではない。こんな化け物を相手に戦って、勝てる訳がなかったのだ。
「せめて、お前みたいな奴が、いてくれたら――」
 朦朧とする意識の中で、リーダーはそう溢す。自分たちではヴェニデを追い詰めるのには役者不足だった。あの『紅い鳥』の前では『並み以上』レベルのACでは何機揃えても無駄だ。それこそ、対抗するには奴と同じレベルの奴が――
 セサル=ヴェニデと同じ領域にいるような傭兵が何人もいたら、それは世界が終るか。
 だが、それでもイレギュラーの力無しには秩序は壊せない。その事実に絶望しながら、リーダーは目を閉じた。

 セサル=ヴェニデに比肩しうる者――『黒い鳥』と呼ばれた伝説が『紅い鳥』セサル=ヴェニデと銃火を交えるのはそれから数年後、別の大陸まで赴いての事だった。
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