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[[小説/長編]] #setlinebreak Written by 雨晴 ---- ORCA旅団との抗争は、二人のリンクスの手により終結へと向かっている。 尊い平和は守られた。そう宣言した企業連は、クレイドル体制の再構築を速やかに行い、かつての姿を取り戻しつつある。 二人のリンクスは企業連から向けられた賛辞を受け入れ、情勢は企業連に有利だと思われていた。いや、実際に有利に働いていた。 ORCA旅団を壊滅させる原動力となった、とある一人の独立傭兵。彼に目を付けられた、BFFを除いては。 BFF本社施設から数キロ南。その地点から、とても正気とは思えない通信を発した男が居る。 "リリウム・ウォルコットを奪いに来た"。 堂々と宣告した男は、即時展開されていた大隊規模のサイレント・アバランチから放たれた一斉射撃を軽々として避けつつ続ける。 "黙って差し出すのなら被害は与えない。だが" その言葉の後、2キロ程度離れていたサイレント・アバランチやノーマル部隊との距離が一瞬で詰まる。 数十機の輪に潜り込み、直立する黒のアリーヤ、ストレイド。最早知らない人間は存在しないであろう、その機体。 ノーマルを駆る一人の兵士は、その黒を直視し固唾を呑んだ。向けられた複眼に冷や汗が流れた。この程度の戦力で、敵うはずがない。 操縦桿を握るその手は、震えていた。 本社施設内、知らせを聞いて呆然としていた。自室に閉じ込められ、数十分が経つ。 まさかこんな形で彼がやってくるとは思わず、と言うか、彼は何を考えているのだろう。 常識で考えて、一人の人間の為に一企業を敵に回すなんて事は有り得ない。有り得ない筈なのだが、彼はそこにいる。 嬉しいか嬉しくないか、と言えば嬉しいに決まっている。 彼に最後に会った日、大人の真意を知っても彼は、私と一緒に居たいと言ってくれた。奪いに行くとも言ってくれた。 だが、それはきっと成就しないだろう。私はBFFの箱入りだから、ここから抜け出すことは出来ない。彼がここに来る事はない。 実際、あの日からカラードや企業連へ向かうことは大人に禁じられていた。 最近本社施設から出た事と言えば、ORCAの残存勢力対策に駆り出されたくらいのこと。他人との接触は殆どない。 彼がどれだけ望んでくれようと、彼の元には向かえないのだ。 ドアがノックされる。 一瞬驚き、はい、と声を上げる。 返事はない。訝しげに思って、ドアへと向かう。覗き窓から先を伺い、再び驚きつつ戸を開けた。 「ロイ様にウィン・D様・・・どうしてここに?」 見ると、警備の二人が寝息を立てている。よう、と何事も無いかのように挨拶される。つい頷いてしまった。 「あいつの代わりに攫いに来たぜ、リリウム。大人しく攫われな」 聞きながら、頭の中を整理する。そうだ、今日はお二人がユニオンから派遣されてくると、誰かから聞いた気がする。 「ORCA残存勢力掃討作戦の足並みを揃える為にここへ来たが、ついでだ。彼に借りを返さなければならないしな」 ほら、行くぞ。そうウィン・D様に手を引っ張られ、それでも急に不安になった。足を止めてしまう。 「どうした?」 聞かれ、立ち尽くした。 「そ、その・・・」 よく考えれば、私がここから居なくなることでBFFが被る被害は少なくないだろう。 ずっとお世話になってきたのに、良いのだろうか。俯く。ロイ様の溜め息。 「リリウム、お前、あの男じゃ不満か?」 「そ、そんなこと!」 不満だなんて、そんな筈が無い。顔を上げたと同時に恥ずかしくなって、再び俯く。 「相変わらず愛されてるなぁ、アイツ」 「それよりも、行くのなら早く行かなければ。見つかったら面倒だ」 「で、ですが・・・」 再び、ロイ様の溜め息。 「お前、自分がBFFから居なくなったら、なんて心配してるんだろ?」 「・・・はい」 その通りだ。正確に言い当てられ、驚く。全く、とロイ様の声。 「お前、これまでどれだけBFFに尽くしてきたと思ってるんだよ」 「・・・え?」 「短くとも、これまでの人生殆ど費やしてまで仕えてきたんだろ?そろそろ、わがままの一つくらい言っても良いと思うぜ」 わがまま。彼の傍に居たい。それも、わがままだろうか。 「それに、どうしてもって言うなら独立傭兵って選択肢もあるしな。良いぞ、独立傭兵。面倒なしがらみは一切無いしな」 それを聞いて、ロイ様に目を向ける。確かにこの人は、独立傭兵でありながらユニオンについている。 ・・・そうか。 「・・・わかりました」 頷き、ウイン・D様に握られたままだった手に引っ張られていく。何となく、姉が居たらこんな感じだろうか、なんて思ってしまった。 いつもは慌しい歩き慣れた廊下には、誰も居ない。それはそうだ。反則とも思える強さのネクストが一機、目と鼻の先に居るのだから。 「陽動成功だな」 「贅沢な陽動だ」 若干同意しつつ、先を急ぐ。監視カメラもあるが、彼らがここまで来られたということは、きっと警備室も抑えられているのだろう。 角を曲がる。エレベーターがそこにはあって、目的地もきっとそこなのだ。 こうしてみると、私の籠はこんなにも脆かったのかと思ってしまう。エレベーターを呼び出し、3人でそれを待つ。靴音に、振り返る。 「リリウム、どこへ行く?」 掛けられた声に、籠の脆さなんて考えは失われた。 「た、大人、これは・・・」 「貴様らも貴様らだ。なぜここに居る?誘拐など、褒められたものではないな」 その問い掛けに、ロイ様が顔を顰めた。ウィン・D様も同様。暫く睨み合う3人。 「返してもらうぞ」 「断る」 ウィン・D様が断固として告げ、繋がれた手が少しだけ強く握られる。 と、大人の後ろからもう一つ靴音が響いた。ローディー様が顔を出す。彼も今日の話し合いの場に居たのだろう。 「ロイ、それにウィン・Dか。姿を眩ませたかと思えば、どういうつもりだ」 ロイ様がローディー様へ目を向け、笑みを浮かべる。 「どうもこうも、与えられた任務をこなしているだけです」 「それは、すぐそこで黙々と回避行動を続けている男の為か?一機として敵機を落とさずに」 「さあ、どうでしょうね」 とぼけた様な回答に、ローディー様が黙り込んだ。視線が来て、目を伏せてしまう。 「あとは、ウォルコット嬢の為に、か」 「知ったことではない」 大人が距離を詰めてくる。それを、ローディー様が制した。 「何だ、ローディー」 彼の右手にオートマティック拳銃が握られていて、大人の後頭部へと向けられている。 「あの若者には、ネクスト一機では返しきれん借りがあってな」 「・・・貴様、何を考えている」 「なに、ウォルコット嬢の後継が見つかるまでの面倒くらいみてやろう。同じGAグループだしな」 ローディー様から目配せを受ける。ロイ様が頷き、どうも、と返した。 「あの若者に、宜しく伝えてくれ」 「了解」 エレベーターの扉が開き、ウィン・D様に引かれつつ乗り込む。大人と目が合った。その目は、初めて見る。どこか、諦めに似たような。 一礼をする。今の私が居るのはきっと、大人のおかげでもあるのだから。扉が閉まる。 昇っていくエレベーターに揺られながら、何か言葉にし難い感覚を得ていた。 「もう離せ、ローディー。時間の無駄だ」 言われたローディーは、銃口を王小龍から外した。ユニオン所属のヘリは既に飛び立ち、確かにこれ以上の意味はないのだろう。 短く溜め息が漏れ、珍しく初老から発せられたそれを拾う。 「珍しいな。貴様が溜め息など」 「吐きたくもなるだろう」 まあ、確かに。長年掛けて手塩に育てた側近を失うのだから、当然だ。 「奪還は考えないのか?」 「まず不可能だろうな。出来たとしても、報復があるだろう」 報復。例の若者は恐らく、BFF一社の機能を奪う程度ならやってのけるだろう。スポンサーは付くだろうから、確実に攻め落とされる。 なら。 「どうして何もせず行かせた?私が引き金を引けない事くらい、わかっていただろうに」 王小龍を撃ち殺したとあっては、BFFに対するGAの立場は悪くなっていただろう。私としては、それは避けなければならなかった。 まあ確かに、脚を撃ち抜くくらいのつもりはあったが。いずれにせよ、この男は動かなかった。 「・・・そうだな」 初老が目を閉じる。 「まあ、あの娘一人でBFFが安堵するならば、それはそれで構わんと言うことだ」 「嘘だろう、それは」 いや、半分事実で半分嘘か。 一瞬視線が来る。面倒臭そうに鼻を鳴らして踵を返した王小龍に、微かに笑みを浮かべる。 まあ何者であれ、情が移ることもあろうよ。思い、初老とは逆の方向に歩き出した。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&20000くらい+counter(total); ---- **コメント [#fcac345d] - こんにちは、雨晴です。前話での大量の感想有難う御座います!加えて沢山の閲覧も頂いて、幸せったらないです・・・本当に有難う御座います! エピローグ前ラスト、ハインさんは大変なものを奪っていきました編です。短いですが、前回のにくっつけるのはどうかと思いこの形で・・・ 1話と3話あたり以降ローディー×大人の絡みを書いてなかったのでここで実行。これまで王さんに悪役ばかり押し付けてきたので、最後の最後で人間らしいところをば。渋々ながらっぽいですけれどw と、いう訳で次回はルート最終回、エピローグになります。で、その後はオマケとして後日談をちょこちょこ。そこで質問ですが、エピローグやオマケで、ハインさんとリリウムさんの絡みはホロ甘、甘々、ゲロ甘、どの程度で書いてきましょうか。エピローグはともかくとして、オマケははっちゃけたいなぁとか思いつつ、ではまた次回・・・ -- [[雨晴]] &new{2009-09-03 (木) 23:03:35}; - 甘い、甘すぎる。ここで騙して悪いが鬱エンドなんでなとk(ry まぁ、書きたいように書かれるのが良いと思いますw面白かったです、ラスト期待してお待ちしております -- &new{2009-09-03 (木) 23:15:59}; - 甘いのかよ、結局www もうラストか・・・ 期待させてもらいます -- &new{2009-09-03 (木) 23:57:10}; - 甘い・・・甘過ぎるぞこれは・・・・いいぞもっとやれwww -- &new{2009-09-04 (金) 01:42:01}; - リリウムの為にネクストを出すと言ったときのセレンさんの反応が気になるw 駄目だ!フロム脳から妄想が逆流sギャァァァアアア!! -- &new{2009-09-04 (金) 02:54:14}; - みんないい役してるなぁ・・・。エピローグは最ッッッ高に甘くしてください -- &new{2009-09-04 (金) 07:02:48}; - ローディまじ渋いぜ…王大人もいいキャラだ。この作品が終わるのは残念ではあるが…ラストは逆流するぐらいスイートにしてくだされ! -- &new{2009-09-04 (金) 07:46:51}; - ローディー先生紳士やわぁ~・・・紳士の鑑だろ -- &new{2009-09-04 (金) 08:43:56}; - 独立傭兵のリリウム…凄く気になるwwラストは見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい甘い話にして下さいぃ!そしてハラショォォォォォォ!! -- &new{2009-09-04 (金) 08:49:47}; - ニヤニヤしっぱなしでした、ラストは・・・ゲロ甘!ゲロ甘!! -- &new{2009-09-04 (金) 11:03:52}; - ああ、もう終わってしまうのか…もうここまで来たら、ゲロ甘で!ジーク・ハイン! -- &new{2009-09-04 (金) 12:06:36}; - 王大人は娘を嫁に出す親の気分だろうなぁ。むしろ孫を嫁に出す爺ちゃん? あ、絡みはMAXコーヒーX(500ml)に蜂蜜いれるくらいでお願いします。 それと誤字報告。ラストだけ『王小竜』になってます。 -- &new{2009-09-04 (金) 14:52:02}; - つまり王大人はBFFのことを第一に考えながらも、どこかでリリウムにも幸せになって欲しいって思ってたんだよ!(AA略 ・・・死ねとか言ってごめんね、大人・・・ -- &new{2009-09-04 (金) 18:34:38}; - ローディー格好いいなwハインさん、苦労の末に沢山の良い人に巡り会えて良かった・・・大人も実は良い人だったし、幸せになってくれよ・・・ -- &new{2009-09-04 (金) 22:11:52}; - 皆に幸あれ・・・! エピローグ、期待してます -- &new{2009-09-04 (金) 23:03:38}; - ローディーと王大人イイッ!!!ラストはゲロ甘でおながいしますw -- &new{2009-09-04 (金) 23:49:03}; - せっかくなんでエピローグは一度読んだだけで歯が全部虫歯になるくらいのゲロゲロ甘甘ぐらいで -- &new{2009-09-05 (土) 00:15:46}; - ゲロ甘以外のリクエストが無いってどういう事なのwじゃあここはひとつ俺が・・・エロ甘をリク(ry -- &new{2009-09-05 (土) 00:22:56}; - 王小竜⇒王小龍に修正しました、ご指摘有難う御座います・・・ 大量の感想有難う御座います!嬉しいっす・・・では、次回以降はゲロ甘でw エロ甘>それは、あなたのエロム脳に期待致します☆ -- [[雨晴]] &new{2009-09-05 (土) 19:28:23}; - ゲロ×∞甘でヨロwww ところでローディーのオートマはコルトガバメントですよね? -- &new{2009-09-05 (土) 20:33:41}; - 王大人、あなたって人は……よし、リリウムの代わりには不足だが、今からBFFの入社試験受けてくる。 -- &new{2009-09-08 (火) 19:17:59}; - 一人より二人だ俺もBFFの入社試験を受けてこよう -- &new{2009-09-09 (水) 08:12:22}; - ↑俺もついていこう -- &new{2009-09-09 (水) 08:42:07}; - ↑私も私も -- &new{2009-09-10 (木) 16:52:33}; - ↑↑↑俺も一緒にBFFの王子目指すわ -- &new{2009-09-11 (金) 19:35:02}; - こうしてBFFにアイドルユニットが結成されるわけか -- &new{2010-01-23 (土) 14:10:06}; - いったい何なんだこの流れはwwwまぁそんなリンクスも悪くはないがな -- &new{2010-02-12 (金) 06:34:19}; - 存外甘い男たちなのだな・・・・悪くない -- &new{2010-03-11 (木) 05:26:10}; - 素晴らしいの一言に尽きる・・・甘い話は大歓迎だw -- &new{2010-03-12 (金) 01:46:44}; - こんな企業連ルートなら、大歓迎ですね。 -- &new{2012-11-13 (火) 08:18:59}; - おまいらじゃよくてイクバールだよ -- &new{2014-09-19 (金) 05:36:45}; #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説]]
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[[小説/長編]] #setlinebreak Written by 雨晴 ---- ORCA旅団との抗争は、二人のリンクスの手により終結へと向かっている。 尊い平和は守られた。そう宣言した企業連は、クレイドル体制の再構築を速やかに行い、かつての姿を取り戻しつつある。 二人のリンクスは企業連から向けられた賛辞を受け入れ、情勢は企業連に有利だと思われていた。いや、実際に有利に働いていた。 ORCA旅団を壊滅させる原動力となった、とある一人の独立傭兵。彼に目を付けられた、BFFを除いては。 BFF本社施設から数キロ南。その地点から、とても正気とは思えない通信を発した男が居る。 "リリウム・ウォルコットを奪いに来た"。 堂々と宣告した男は、即時展開されていた大隊規模のサイレント・アバランチから放たれた一斉射撃を軽々として避けつつ続ける。 "黙って差し出すのなら被害は与えない。だが" その言葉の後、2キロ程度離れていたサイレント・アバランチやノーマル部隊との距離が一瞬で詰まる。 数十機の輪に潜り込み、直立する黒のアリーヤ、ストレイド。最早知らない人間は存在しないであろう、その機体。 ノーマルを駆る一人の兵士は、その黒を直視し固唾を呑んだ。向けられた複眼に冷や汗が流れた。この程度の戦力で、敵うはずがない。 操縦桿を握るその手は、震えていた。 本社施設内、知らせを聞いて呆然としていた。自室に閉じ込められ、数十分が経つ。 まさかこんな形で彼がやってくるとは思わず、と言うか、彼は何を考えているのだろう。 常識で考えて、一人の人間の為に一企業を敵に回すなんて事は有り得ない。有り得ない筈なのだが、彼はそこにいる。 嬉しいか嬉しくないか、と言えば嬉しいに決まっている。 彼に最後に会った日、大人の真意を知っても彼は、私と一緒に居たいと言ってくれた。奪いに行くとも言ってくれた。 だが、それはきっと成就しないだろう。私はBFFの箱入りだから、ここから抜け出すことは出来ない。彼がここに来る事はない。 実際、あの日からカラードや企業連へ向かうことは大人に禁じられていた。 最近本社施設から出た事と言えば、ORCAの残存勢力対策に駆り出されたくらいのこと。他人との接触は殆どない。 彼がどれだけ望んでくれようと、彼の元には向かえないのだ。 ドアがノックされる。 一瞬驚き、はい、と声を上げる。 返事はない。訝しげに思って、ドアへと向かう。覗き窓から先を伺い、再び驚きつつ戸を開けた。 「ロイ様にウィン・D様・・・どうしてここに?」 見ると、警備の二人が寝息を立てている。よう、と何事も無いかのように挨拶される。つい頷いてしまった。 「あいつの代わりに攫いに来たぜ、リリウム。大人しく攫われな」 聞きながら、頭の中を整理する。そうだ、今日はお二人がユニオンから派遣されてくると、誰かから聞いた気がする。 「ORCA残存勢力掃討作戦の足並みを揃える為にここへ来たが、ついでだ。彼に借りを返さなければならないしな」 ほら、行くぞ。そうウィン・D様に手を引っ張られ、それでも急に不安になった。足を止めてしまう。 「どうした?」 聞かれ、立ち尽くした。 「そ、その・・・」 よく考えれば、私がここから居なくなることでBFFが被る被害は少なくないだろう。 ずっとお世話になってきたのに、良いのだろうか。俯く。ロイ様の溜め息。 「リリウム、お前、あの男じゃ不満か?」 「そ、そんなこと!」 不満だなんて、そんな筈が無い。顔を上げたと同時に恥ずかしくなって、再び俯く。 「相変わらず愛されてるなぁ、アイツ」 「それよりも、行くのなら早く行かなければ。見つかったら面倒だ」 「で、ですが・・・」 再び、ロイ様の溜め息。 「お前、自分がBFFから居なくなったら、なんて心配してるんだろ?」 「・・・はい」 その通りだ。正確に言い当てられ、驚く。全く、とロイ様の声。 「お前、これまでどれだけBFFに尽くしてきたと思ってるんだよ」 「・・・え?」 「短くとも、これまでの人生殆ど費やしてまで仕えてきたんだろ?そろそろ、わがままの一つくらい言っても良いと思うぜ」 わがまま。彼の傍に居たい。それも、わがままだろうか。 「それに、どうしてもって言うなら独立傭兵って選択肢もあるしな。良いぞ、独立傭兵。面倒なしがらみは一切無いしな」 それを聞いて、ロイ様に目を向ける。確かにこの人は、独立傭兵でありながらユニオンについている。 ・・・そうか。 「・・・わかりました」 頷き、ウイン・D様に握られたままだった手に引っ張られていく。何となく、姉が居たらこんな感じだろうか、なんて思ってしまった。 いつもは慌しい歩き慣れた廊下には、誰も居ない。それはそうだ。反則とも思える強さのネクストが一機、目と鼻の先に居るのだから。 「陽動成功だな」 「贅沢な陽動だ」 若干同意しつつ、先を急ぐ。監視カメラもあるが、彼らがここまで来られたということは、きっと警備室も抑えられているのだろう。 角を曲がる。エレベーターがそこにはあって、目的地もきっとそこなのだ。 こうしてみると、私の籠はこんなにも脆かったのかと思ってしまう。エレベーターを呼び出し、3人でそれを待つ。靴音に、振り返る。 「リリウム、どこへ行く?」 掛けられた声に、籠の脆さなんて考えは失われた。 「た、大人、これは・・・」 「貴様らも貴様らだ。なぜここに居る?誘拐など、褒められたものではないな」 その問い掛けに、ロイ様が顔を顰めた。ウィン・D様も同様。暫く睨み合う3人。 「返してもらうぞ」 「断る」 ウィン・D様が断固として告げ、繋がれた手が少しだけ強く握られる。 と、大人の後ろからもう一つ靴音が響いた。ローディー様が顔を出す。彼も今日の話し合いの場に居たのだろう。 「ロイ、それにウィン・Dか。姿を眩ませたかと思えば、どういうつもりだ」 ロイ様がローディー様へ目を向け、笑みを浮かべる。 「どうもこうも、与えられた任務をこなしているだけです」 「それは、すぐそこで黙々と回避行動を続けている男の為か?一機として敵機を落とさずに」 「さあ、どうでしょうね」 とぼけた様な回答に、ローディー様が黙り込んだ。視線が来て、目を伏せてしまう。 「あとは、ウォルコット嬢の為に、か」 「知ったことではない」 大人が距離を詰めてくる。それを、ローディー様が制した。 「何だ、ローディー」 彼の右手にオートマティック拳銃が握られていて、大人の後頭部へと向けられている。 「あの若者には、ネクスト一機では返しきれん借りがあってな」 「・・・貴様、何を考えている」 「なに、ウォルコット嬢の後継が見つかるまでの面倒くらいみてやろう。同じGAグループだしな」 ローディー様から目配せを受ける。ロイ様が頷き、どうも、と返した。 「あの若者に、宜しく伝えてくれ」 「了解」 エレベーターの扉が開き、ウィン・D様に引かれつつ乗り込む。大人と目が合った。その目は、初めて見る。どこか、諦めに似たような。 一礼をする。今の私が居るのはきっと、大人のおかげでもあるのだから。扉が閉まる。 昇っていくエレベーターに揺られながら、何か言葉にし難い感覚を得ていた。 「もう離せ、ローディー。時間の無駄だ」 言われたローディーは、銃口を王小龍から外した。ユニオン所属のヘリは既に飛び立ち、確かにこれ以上の意味はないのだろう。 短く溜め息が漏れ、珍しく初老から発せられたそれを拾う。 「珍しいな。貴様が溜め息など」 「吐きたくもなるだろう」 まあ、確かに。長年掛けて手塩に育てた側近を失うのだから、当然だ。 「奪還は考えないのか?」 「まず不可能だろうな。出来たとしても、報復があるだろう」 報復。例の若者は恐らく、BFF一社の機能を奪う程度ならやってのけるだろう。スポンサーは付くだろうから、確実に攻め落とされる。 なら。 「どうして何もせず行かせた?私が引き金を引けない事くらい、わかっていただろうに」 王小龍を撃ち殺したとあっては、BFFに対するGAの立場は悪くなっていただろう。私としては、それは避けなければならなかった。 まあ確かに、脚を撃ち抜くくらいのつもりはあったが。いずれにせよ、この男は動かなかった。 「・・・そうだな」 初老が目を閉じる。 「まあ、あの娘一人でBFFが安堵するならば、それはそれで構わんと言うことだ」 「嘘だろう、それは」 いや、半分事実で半分嘘か。 一瞬視線が来る。面倒臭そうに鼻を鳴らして踵を返した王小龍に、微かに笑みを浮かべる。 まあ何者であれ、情が移ることもあろうよ。思い、初老とは逆の方向に歩き出した。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:&20000くらい+counter(total); ---- **コメント [#fcac345d] - こんにちは、雨晴です。前話での大量の感想有難う御座います!加えて沢山の閲覧も頂いて、幸せったらないです・・・本当に有難う御座います! エピローグ前ラスト、ハインさんは大変なものを奪っていきました編です。短いですが、前回のにくっつけるのはどうかと思いこの形で・・・ 1話と3話あたり以降ローディー×大人の絡みを書いてなかったのでここで実行。これまで王さんに悪役ばかり押し付けてきたので、最後の最後で人間らしいところをば。渋々ながらっぽいですけれどw と、いう訳で次回はルート最終回、エピローグになります。で、その後はオマケとして後日談をちょこちょこ。そこで質問ですが、エピローグやオマケで、ハインさんとリリウムさんの絡みはホロ甘、甘々、ゲロ甘、どの程度で書いてきましょうか。エピローグはともかくとして、オマケははっちゃけたいなぁとか思いつつ、ではまた次回・・・ -- [[雨晴]] &new{2009-09-03 (木) 23:03:35}; - 甘い、甘すぎる。ここで騙して悪いが鬱エンドなんでなとk(ry まぁ、書きたいように書かれるのが良いと思いますw面白かったです、ラスト期待してお待ちしております -- &new{2009-09-03 (木) 23:15:59}; - 甘いのかよ、結局www もうラストか・・・ 期待させてもらいます -- &new{2009-09-03 (木) 23:57:10}; - 甘い・・・甘過ぎるぞこれは・・・・いいぞもっとやれwww -- &new{2009-09-04 (金) 01:42:01}; - リリウムの為にネクストを出すと言ったときのセレンさんの反応が気になるw 駄目だ!フロム脳から妄想が逆流sギャァァァアアア!! -- &new{2009-09-04 (金) 02:54:14}; - みんないい役してるなぁ・・・。エピローグは最ッッッ高に甘くしてください -- &new{2009-09-04 (金) 07:02:48}; - ローディまじ渋いぜ…王大人もいいキャラだ。この作品が終わるのは残念ではあるが…ラストは逆流するぐらいスイートにしてくだされ! -- &new{2009-09-04 (金) 07:46:51}; - ローディー先生紳士やわぁ~・・・紳士の鑑だろ -- &new{2009-09-04 (金) 08:43:56}; - 独立傭兵のリリウム…凄く気になるwwラストは見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい甘い話にして下さいぃ!そしてハラショォォォォォォ!! -- &new{2009-09-04 (金) 08:49:47}; - ニヤニヤしっぱなしでした、ラストは・・・ゲロ甘!ゲロ甘!! -- &new{2009-09-04 (金) 11:03:52}; - ああ、もう終わってしまうのか…もうここまで来たら、ゲロ甘で!ジーク・ハイン! -- &new{2009-09-04 (金) 12:06:36}; - 王大人は娘を嫁に出す親の気分だろうなぁ。むしろ孫を嫁に出す爺ちゃん? あ、絡みはMAXコーヒーX(500ml)に蜂蜜いれるくらいでお願いします。 それと誤字報告。ラストだけ『王小竜』になってます。 -- &new{2009-09-04 (金) 14:52:02}; - つまり王大人はBFFのことを第一に考えながらも、どこかでリリウムにも幸せになって欲しいって思ってたんだよ!(AA略 ・・・死ねとか言ってごめんね、大人・・・ -- &new{2009-09-04 (金) 18:34:38}; - ローディー格好いいなwハインさん、苦労の末に沢山の良い人に巡り会えて良かった・・・大人も実は良い人だったし、幸せになってくれよ・・・ -- &new{2009-09-04 (金) 22:11:52}; - 皆に幸あれ・・・! エピローグ、期待してます -- &new{2009-09-04 (金) 23:03:38}; - ローディーと王大人イイッ!!!ラストはゲロ甘でおながいしますw -- &new{2009-09-04 (金) 23:49:03}; - せっかくなんでエピローグは一度読んだだけで歯が全部虫歯になるくらいのゲロゲロ甘甘ぐらいで -- &new{2009-09-05 (土) 00:15:46}; - ゲロ甘以外のリクエストが無いってどういう事なのwじゃあここはひとつ俺が・・・エロ甘をリク(ry -- &new{2009-09-05 (土) 00:22:56}; - 王小竜⇒王小龍に修正しました、ご指摘有難う御座います・・・ 大量の感想有難う御座います!嬉しいっす・・・では、次回以降はゲロ甘でw エロ甘>それは、あなたのエロム脳に期待致します☆ -- [[雨晴]] &new{2009-09-05 (土) 19:28:23}; - ゲロ×∞甘でヨロwww ところでローディーのオートマはコルトガバメントですよね? -- &new{2009-09-05 (土) 20:33:41}; - 王大人、あなたって人は……よし、リリウムの代わりには不足だが、今からBFFの入社試験受けてくる。 -- &new{2009-09-08 (火) 19:17:59}; - 一人より二人だ俺もBFFの入社試験を受けてこよう -- &new{2009-09-09 (水) 08:12:22}; - ↑俺もついていこう -- &new{2009-09-09 (水) 08:42:07}; - ↑私も私も -- &new{2009-09-10 (木) 16:52:33}; - ↑↑↑俺も一緒にBFFの王子目指すわ -- &new{2009-09-11 (金) 19:35:02}; - こうしてBFFにアイドルユニットが結成されるわけか -- &new{2010-01-23 (土) 14:10:06}; - いったい何なんだこの流れはwwwまぁそんなリンクスも悪くはないがな -- &new{2010-02-12 (金) 06:34:19}; - 存外甘い男たちなのだな・・・・悪くない -- &new{2010-03-11 (木) 05:26:10}; - 素晴らしいの一言に尽きる・・・甘い話は大歓迎だw -- &new{2010-03-12 (金) 01:46:44}; - こんな企業連ルートなら、大歓迎ですね。 -- &new{2012-11-13 (火) 08:18:59}; - おまいらじゃよくてイクバールだよ -- &new{2014-09-19 (金) 05:36:45}; #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説]]
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