注意!!この作品は殺人・食人・死姦等々ちょっとだけ過激な要素が含まれています。

グロ作品は読みたくないけど、続き物だから話の内容を抑えときたい人向けに、この作品の要約を三行で書いておきますね。

首輪付きとスミちゃんが
ORCA残党とコールセールと一緒に
クラニアムに出発した!

Written by ケルクク


神はいませり。神はいませり。神はいませり!
天上楽土に神はいませり!
大いなる神は常に我等を見守れり!
故に信徒よ。清く生きよ。故に信徒よ。正しく生きよ。
心せよ。汝の行いは常に神に見られている事を。
故に信徒よ。人を傷つける事なかれ。
故に信徒よ。人を欺く事なかれ。
故に信徒よ。人から盗む事なかれ。

故に信徒よ。人を殺める事なかれ。
 


 
目を開ける。
周りは一切の光のない闇。
一瞬だけAMSを繋ぎ時間を確認する。
約束の時間までもう少し。
ならそれまで昔の夢を見ていよう。


 
俺を育ててくれた爺さんが教えてくれたところによると
俺が生まれたのは大きな戦争の最中だったらしい。

他にも爺さんは色々教えてくれたが俺は頭が悪く殆ど理解できなかった。
理解できたのは三つだけ。

一つ目は、俺の両親はその戦争で死んだこと。
二つ目は、その戦争のせいで地上は人の生きている場所ではなくなったこと。
三つ目は、爺さんは病気でもうすぐ死ぬこと。
 




「あ~、そろそろ限界だな」
咳と同時に大量の血を吐きながら爺さんが凄絶な笑みを浮かべ、嫌だ!死なないで!と泣き叫ぶ俺の頭を血だらけの手で撫でる。
「無茶言うな。60年も生きたんだぞ?お前の父ちゃん母ちゃんの三倍以上生きたんだ。だから、ちと早いが十分生きたさ。
 それになすげー痛いんだぞ。いい加減もう楽にしてくれや。
 まぁ、お前を一人にするのは悪いとは思うけどよ。でもそれは孤児院の手配をしたって事で勘弁してくれ。な、頼むよ」
爺さんの最後の頼みに嫌だ嫌だと首を振る俺。そんな俺を見て爺さんは最後に「すまんなぁ~」と呟き天国へ行った。

…爺さんは幸せだったのだろうか?
戦争で妻と息子夫婦を失い、自らも重度のコジマ汚染に犯された。
それでも死病の体を押して、全身を苛む激痛を押して身を粉の様にして働き、力尽きる。
その生涯に幸福はあったのだろうか?その生涯に救いはあったのだろうか?
もしかしたら幸福はあったのかもしれない。でも、きっと、不幸のほうが多かっただろう。
そして絶対に救いはなかった。

でも問題ない。でも大丈夫。
だって爺さんはいい人だったから。だって爺さんは正しい人だったから、死んだ後天国に行ったに違いない。
だから問題ない。だから大丈夫。
きっと爺さんは天国で幸せに暮らしてる。きっと爺さんは天国で救われてる。
何故なら神は天国で俺達を見守っていてくれるんだから。

神がいるから大丈夫。
 




「合流まで後二時間てとこだね。解ってるんだろうね?今回はあたし達、コルセールはORCAに協力する。
 代わりORCAはこれが終わったら私達の指揮下に入る」
モニターの向こうで豹の毛皮を敷いたでかいソファーに座る女が肉食獣の笑みを浮かべながら聞いてくる。
「あぁ。貴様もわかっているんだろうな?私達には相応の待遇を約束してもらうぞ?」
私も同じような笑みを浮かべながら返す。
「あぁ。解っているさね。金でも女でも男でも好きなだけくれてやるよ。それでORCAの戦力と最高クラスのネクスト2機が手に入るなら安いもんさ」
女、フランソワ=ネリスが手元の扇子を開きながら答える。
「ふん。ならばいい。しかし本当にいいのか?クレイドルが落ちれば企業は大打撃を受ける。
 そうなればお前のスポンサーが黙ってはいないんじゃないか?
 それにその混乱は新興勢力の台頭を許すぞ?下手したら北アフリカの既得権を失うんじゃないか?」
僅かに残った良心の呵責からしなくてもよい確認をしてしまう。
「はん!構わないさ。あたし達はねぇ、今まで散々企業の裏の仕事を命懸けでやらされてきたんだ。
 なのにあいつ等と来たら、十分な報酬はおろか、感謝の気持ちすらなくあたし達をスカベンジャーと蔑みやがる。
 そんな奴等に忠誠を誓えって?冗談じゃないよ!」
「それに、混乱は悪いことじゃありませんや。確かに新興勢力の台頭を許すでしょうが、逆にうち等が新興勢力になって企業を脅かせるかもしれませんからね」
フランソワの横に立つ男(確かクレイドル21で私を殺そうとした男だ)が、言葉を続ける。
「そうさね。上手くいけば次の世界の支配者はあたし達だ。なら、命を張るのも悪くないさね」
「そうか。解った。そちらが理解しているならいい。それでは二時間後に」
「あぁ。よろしく頼むよ」「それではボスに宜しくお伝えください」
フランソワとの通信を打ち切ると同時に待ちかねたようにもヴァイオレットから通信が入った。
「合流すんならコールセールとの繋ぎを作る契約は完了だな?
 だったら、そろそろ報酬をよこせ。それとも踏み倒すつもりなのか?あぁん?」
「いや、約束どおりスペースシャトルを譲ろう。これが座標だ。
 しかし、いいのか?整備はしてあるが20年前の骨董品だぞ?」
座標を送りながらヴァイオレットに確認する。
「宇宙にはいけんだろ?」
「あぁ。ただし、再突入は不可能だ。宇宙にいったら二度と帰ってこれずに漂流するだけだぞ?」
「別に宇宙にいければどうでもいい。んで?燃料は?発射準備は整ってるんだろうな?」
宇宙に出たらお前は死ぬぞと暗に言ってやったにもかかわらず、微塵の躊躇いもなく頷くヴァイオレット。
「そうか。覚悟が出来てるんならいい。それとすぐにでも発射できる」
「よし。それじゃぁ、短い間だが世話になったな。アンタは長生きしろよ」
あっさりとした今生の別れを告げるとヴァイオレットからの通信は切れた。

…ふぅ。これでよし。
この戦力なら仮にカラードに残る全戦力が妨害に出ても私達はクラニアムに辿り着けるだろう。
辿り着けさえすれば問題ない。クラニアムを占拠できる。
そうなればあの子の望みのままに世界を滅ぼすことが出来る。

…世界の破滅、人類の死滅。かつての自分なら絶対に許さない悪行を行おうとしているのに僅かに良心が痛む程度。
「堕ちているな」自嘲する。そう堕ちている。あの子と共に昏い穴の底へ真っ逆さまに堕ちている。
そう、あの子と共に。だから構わない。だから仕方がない。
霞・スミカ。いや、セレン・ヘイズは決めたのだ。何が起きても死ぬまであの子と共にいると。

「さて、上手く行った事を教えてくるか」
立ち上がり、愛しい我が子が眠る部屋に向かう。
 




 
爺さんが死んだ(死因はコジマ汚染とかいうやつらしい)後、引き取り手のいなかった俺は孤児院に入った。
爺さんの死後、俺は少し荒れていた。孤児院にいる奴らもそんなのばかりだった。
俺達は狭い箱庭で昔を思い出し泣くか、寂しさを忘れるために殴りあうかのどちらかだった。
あいつが来るまでは。

あいつは俺の一ヶ月後に来た。
何でも両親が神とかいう奴に仕えていたらしくあいつも神に仕えているのだそうだ。
あいつは来た日からお節介を始めた。
泣く奴がいたら泣きやむまで励まし、争いが起きれば争いが止むまで間に入り続けた。
何度騙されようともどんなにボロボロになろうとも。
最初は全員が鬱陶しがっていた。全員が馬鹿にしていた。俺もそうだった。
でも、違った。あいつは諦めなかった。
どんな酷い目にあっても人を信じ、誰かが泣きやんだり争いが止むたびに笑顔をみせた。
そんなあいつに何時のまにか皆魅かれていた。俺もそうだった。
そして気付けば俺達は泣く事も争うこともなくなっていた。

あいつは俺達に色々教えてくれた。やっぱり頭が悪かった俺はほとんど理解できなかったが。
理解できたのは三つだけ。

一つ目は、死んでしまった両親や爺さんは神とかいう奴のところで幸せに暮らしていて俺達もいつかそこに行くこと。
二つ目は、人間は平等であること
三つ目は、頑張れば神とかいう奴がいつか幸せにしてくれること。

***

孤児院から出される飯は少なかったから何時も腹は減っていたし、玩具も本もなかったから娯楽も少なかったはずだが、
それでもこの頃は俺の黄金の時代だった。
勿論、リンクスになった今なら美味い(もっとも味覚がぶっ壊れているため味は感じられないが)ものを腹いっぱい食えるし、
望めば何だって手に入るけどそれでもこの頃にはおよばない。

だが、そんなものはすぐ終わる。

***

クレイドル。
汚染された地上を汚染することで安全な空を飛ぶ揺り籠。
未来を犠牲に今を生きる箱舟。

それがいいか悪いかなんざ俺には分からない。
大事なのは俺たちがそれに乗れないという事だけだ。

まぁ、考えてみれば当然だ。
いくらクレイドルがでかくても人類全員を乗せることなんざできやしない。
そして、誰かを切り捨てなければいけないとしたら真っ先に候補に挙がるのが
何の後ろ盾もなく何の役にも立たない俺達だった。

そして、見捨てられた俺たちだがそれでも何とか居場所を見つけられた奴らもいた。
ある奴は武装組織に入った。ある奴は企業の兵士達の慰安施設に自分を売った。
そして居場所を見つけた奴らが一人抜け、二人抜けしていって気が付くと残ったのは、
銃を持たせての捨て駒にも、体を売ることさえできない正真正銘何の役にも立たない幼いガキどもと、
そんな無力なガキを見捨てられない馬鹿なあいつと、あいつに惚れてしまったもっと馬鹿な俺だけになった。
 




 
「助けて!!お願い助けて!!殺さないでください!!お願いします!!!!」
「さぁ、殺せ」
悲鳴を上げる教材を無視して武装組織に行く事が決まった王焔達に指示する。
「いや、ちょっと、ボス。殺すなんて。食料だけ分捕れれば殺す必要は…」
「ターコ。あのなぁ、武装組織は何するんだよ?殺すんだろう?殺し合いをするんだろう?
 だったら人を殺せるようになっとけよ。じゃないと、お前等が死ぬぜ?」
「いやああぁあ!!死にたくない!死にたくないよぉお!!」「殺さないで!殺さないで!!」「パパァ~~!!ママァ~!!」「お願いです!妻と子供だけは助けてください!!お願いします!!」
腱を切られるか手足を縛られて動けない教材が悲鳴を上げる。
「…そうっすね。俺達がいくのはそういう世界なんすよね」
王焔がゆっくりと拳銃を教材の一人に向けて、
「やめてぇええ!!」「よるな!!よるんじゃない!!ジャン、母さガペ」
引き金を絞る。
左頬と鼻の間を撃ち抜かれて教材がくすんだ悲鳴を上げて、痙攣する。
「パパアァアア!!!」「いやあぁああ!アナタァアア!!!」「うわあああぁあああん!!!」
父親の血が降りかかったことでパニックになる教材たち。
「まぁだ。生きてるぞ。最初の内は動かなくなったからって安心するな。動かなくなるまで確実に殺せ。
 殺し続ければどの程度やれば殺せるようになるかわかるから、そっから加減の仕方を覚えればいい」
「はい!!」王焔が痙攣する教材に向かって拳銃を乱射する。
弾が命中する度に痙攣するように跳ねる死体。飛び散る血。あがる悲鳴。
「よ~し。それでいい」弾を撃ち尽くしてなお、引き金を引き続ける王焔の肩に手を置く。
途端に崩れ落ち、地面に座り込み吐き始める王焔。
まぁ、初めてなんだから仕方ないか。
「さぁ、お前等もサクサク撃てよ。何のために苦労して全員生け捕りにしたと思ってんだ」
残ったアディーン達に声をかける。
それでも逡巡するアディーン達に舌打ちする。
「アナタァア!あなたぁああ!!」「パパ!起きて!起きてよぉお!!」「いやぁああああぁあ!!」
母親が這いずって頭が半分崩れた死体に縋りつく。息子が懸命にはみ出た臓腑を加えて腹の中に戻そうとする。目を瞑り丸まりながらひたすら泣き叫ぶ娘。
盛り上がってんな。だが不味いな。もう警察なんざいねぇが、騒ぎがあいつに聞こえたら面倒な事になる。
「で、でもよぅ。言ってたじゃねぇか。人を傷つけたらいけないって。だから殺しはよぉ~」
アディーンがおずおずと反抗すると残った奴等もそうだそうだと頷く。
ち、やっぱそうなるよな。俺も最初はそう思ったモンな。
仕方ないな。ホントは殺した後に説明しようと思ってたんだが
「ちげーよ。よく考えろ。いいか、人は死んだら天国に行くんだ。だったらここで俺達が殺すのも寿命で死ぬのも早いか遅いかの違いだろうが。
 いや、むしろ早く楽園にいけるんだから良い事なんだよ。良い事。だってそうだろ?このまま生きていたって苦労するに決まってんだ。
 だったら、ちょっと痛てーの我慢して楽園に行ったほうが全然マシだろうが?」
「…そう、そうなのかな?そうなのか?いやでも、少し違うような気が…」
「違わねーよ。さっさっと殺れ。それともお前等が俺に天国に連れて行って欲しいのかぁ?」
「い、いや。解ったよ。殺すよ。殺せばいいんだろ」
アディーン達が銃を構える。
「あ、ああ、あああああああ」「私の後ろに隠れなさい!!」「パパァ~。ママァ~」
小便を漏らしながら虚空に向かい悲鳴を上げる娘。夫の首筋に噛み付き引き摺りながら呆ける娘の前に移動し自らと夫を盾にしようとする母親。その母親の後ろを必死についていく息子。
そんな美しい家族愛を極力見ないようにしながらアディーンが俺に尋ねる。
「な、なぁ。本当にこれは罪じゃないんだよな?俺達天国にいけるんだよな?」
「たりめぇだろうが。とっとと殺れ」
「わかった!!」響き渡る拳銃の発射音と断末魔の悲鳴。

盾になったにも拘らず守りきれずに目の前で娘の顔が弾けとび絶望の叫びを上げる母親の表情を見かねて、目を瞑る。
…すまねぇな。俺は嘘を吐いた。
いや嘘じゃない。確かに天国にいける。
だがその前に地獄に行くだろう。当然だ。人を殺して罪にならないはずがない。だから地獄で罪を償わなきゃいけない。
でも、それでもここで人を殺す経験は必要なんだ。お前らは、優し過ぎるからな。だからきっと敵にも優しくしてしまう。戦場で敵を殺せない。
そうなれば、相手に殺されるか、兵士として失格だと放り出される。だからお前等がこれから生きていくためには優しさを自分達だけに向けなきゃいけない。
だからごめん。俺は嘘を吐いた。

でも大丈夫。お前達は俺に騙されて殺したんだ。
だからきっと神は罪を軽くしてくれる。だからきっと直に天国へいける。

それに大丈夫。今殺した奴等もこれから殺す奴等も天国にいける。
だからきっと彼等は救われる。だからきっと俺達も救われる。

神がいるから大丈夫。

****

「力を抜け、アホエマ」
夜、人が減ったせいで空き部屋となった部屋のベットの上でガチガチに固まったエマに声をかける。
「は、はい~~!!や、優しくしてください!!」
と言いながら、全力で体に力を入れるエマに溜息を吐く。
たく、こいつは。初めてでもないし、そもそも自分から抱いてって来たんだろうに。
こうまで硬くなられちゃ弱点攻めも効果ないだろうしな~。
仕方ない。まずはお喋りで緊張を解くか。
触るか触らないかのソフトなタッチで全身を優しく撫で回しながら、口を開く。
「にしても、驚いたぜ。娼館行く奴等が初めてを好きな奴にあげてからいくってのは知ってたが、まさかお前が来るなんてな?
 なに?お前、俺に惚れてたの?あんだけ喧嘩したのに俺に惚れるなんてお前マゾ?」
いつものからかい口調だが実は本当にこれは疑問だ。こいつとはただの喧嘩友達だよな?少なくとも好意を表に出された事なんてないんだが?
「バーカ。相変わらず、自意識かじょーですねー。私がお前を好きになる事なんて死んでもありませーん。
 私はただ、別れる前のお喋りでエイミーやクウがお前が凄い優しくて気持ち良くしてくれたって聞いたから興味を持っただけです~。
 そんなに気持ちいいんなら試してみようかってね。それに今まで誰も優しくなんてしてくれませんでしたからね」
エマは何時ものように俺にデコピンするが、その口調は何時もと違って恐怖が滲み出ていた。
あぁ、そうか。こいつも今まで俺の所に来た奴等の大部分と同じなんだ。
本当に俺が好きなんじゃなくて、これから行く娼館が恐くて、これからする仕事が恐いんだ。だから上手いって噂の俺に抱かれてせめてセックスが恐いものじゃないって知りたいんだろう。思いたいんだろう。
「むぅ~~!な~に、ガキの癖に味のある顔してるんですか!生意気!」エマが俺の鼻を抓る。
「言っときますけどね~、私はお前に抱かれた事を死ぬまで覚えておいてやりますよ~。それで他の人に抱かれるためにお前の下手さを思い出して嗤ってやるんですからね~!」
ペシペシと笑いながら俺のおでこを叩くエマの腕を掴んで唇を奪う。
「ん~~~!!!??」急な事に目を白黒するエマが俺の背中をドンドン叩く。
一分ほどキスを続けただろうか?へばってきたエマの抵抗が弱くなったきたところで唇を離し、エマの右耳に顔を寄せ囁く。
「大丈夫。優しくするから」言葉としてはそれだけ。でもその言葉にありったけの想いを込める。
「約束ですよ。もし嘘だったら怒りますからね?」と、エマは何時もの調子で口を尖らせながら全身の力を抜いた。

ようやく力を抜いてくれたエマに「任せとけ」と告げながら最新の注意を払いながら愛する。
男に抱かれるという行為に恐怖を抱かぬように、男に抱かれるという行為を楽しめるように、懸命に懸命に奉仕する。 
そして心の中であいつに詫びる。あいつという恋人がいるにも拘らず他人を抱く事を。
そして心の中で神に願う。これからのこいつの人生に幸せを願うほど愚かではない。だから、せめてこいつに降りかかる禍が少しでも軽くなうようにと。そしてこいつが死んだ後直に天国にいけることを。
大丈夫。神は天国で俺達を見守っていてくれる。だからこれから地獄を味わうこいつはきっと死後に天国にいけるに違いない。死後に救われるに違いない。

神がいるから大丈夫。

****

「偽る事なかれか」手元にある徽章を手に自嘲する。
コネを駆使して手に入れたBFFの入隊章。これなら配偶者一人までクレイドルに上がれる。そう、一人だけだ。
だから俺はあいつを騙さないといけない。あいつを騙してあいつを助ける。孤児院に残されたガキ共(家族)を見捨てて。
きっとあいつは俺を許さないだろう。きっとあいつは悲しむだろう。きっとあいつは俺を憎むだろう。きっと俺は天国にいけないだろう。
でもそれでもあいつが助かるならそれでいい。

「おかえり。お疲れ様。どう?ご飯あった?」「いや」「そう。大丈夫。まだ、余裕はあるし、きっと明日は見つかるよ」
何時もと同じ笑顔で俺を迎えてくれたあいつの顔を見るのが辛い。
駄目だ。平静を装え!今からやろうとする事をばれるな。
「ガキ共は?」「ん、寝ちゃってる」「そっか」
よし、好都合だ。俺は意を決して口を開く。
「なぁ、ちょっとい!?」
喋っている最中にあいつが俺の唇に人差し指をくっつける。
「駄目だよ。これ以上喋っちゃ。嘘を吐くと神様に怒られちゃうよ。
 知ってるんだよ、ぼく。だからいいの。ありがとね。
 ぼくのかわりにレイを連れてってあげて」
隠してきたつもりなのに全てばれていた事に愕然とする。
同時に知られてしまっては説得が困難に、いや、不可能であると気付き、絶望する。
それでも何とか説得しようと黙り込み言葉を捜す俺の頭を抱え、あいつが微笑む。
「うん。いいんだ。ありがとう。君は今まで皆が天国に行けるように一人で罪を背負って頑張ってくれたんだもんね。
 でももういいんだよ。もう解放されていいんだ。
 今までお疲れ様。ごほうびに、チューしてあげよう」ちゅっとオデコにキスをされる。
あぁ、そうか。そうなのか。
こいつは全部知ってたんだ。知ってて知らないふりをしてくれた。知ってて俺を許してくれた。俺を受け入れてくれていた。俺を愛してくれたんだ。
立ち上がり、子供部屋に向かう。そしてスヤスヤと眠るレイを抱き上げ、次いで残った中で最年長のロンを蹴り起こす。
「ぷぎゃ!?む~、なにすんだよぉ~、兄ちゃ~ん」
寝ぼけるロンの胸倉を掴みいいきかせる。
「いいか。BFF軍への入隊の権利を手に入れた。お前は今すぐレンを連れてB2458へ向かえ。そこに迎えが来てる。いいな?」
「ちょ!?いきなり何を言ってるんだよ!わけわかんないよ!」いきなりの事にパニくるロンにさらに言い聞かせる。
「いいか、何を言われても絶対に降りるな。どんな事をしてでもついていけ。いいな?もし、ついていけなけりゃ死ぬ。解ったな?」
「わ、わかった」正直何もわかってないだろうが、俺の迫力に圧されロンがこくりと頷く。
「よし!なら急いで準備しろ。三十分後には出発しろよ!」「う、うん。でも兄ちゃん達は…」
「気にするな。何とかする。それよりもレンのことは頼んだぞ!お前が兄ちゃんなんだから守ってやれよ!」

「いっちゃったね。よかったの?」
無事にロンを見送った後、あいつが俺の肩にこつんと頭をのせながら聞いてくる。
「ああ。これでよかったんだ」あいつの肩を抱きながら頷く。
良くはない。これで脱出の道は断たれた。
食料が手に入るあてもなく、食糧の備蓄は少ない。
だから遠からず俺は飢えかコジマで死ぬ。愚かな選択だ。我ながら馬鹿な事をしたもんだ。
でも、
「へへ。良かった。ホントはね、君がいなくなったら寂しいなって、ボク思ってたんだ。だから君が残ってくれてよかった」
隣にあるこの笑顔を見た瞬間にそれでもいいかと思ってしまう。
「ね、ね、チューしていい?」「あぁ。つーか、その先は?」「ダーメ。ボクたちにはまだ早いです。結婚するまではチューで我慢しなさい」
あいつとキスをしながら狂おしいばかりに神に願う。
お願いです。俺はどうなっても構いません。だから、だからどうか俺の家族だけはお救いください。
祈りが顔に出たのかもしれない。あいつは唇を離すと微笑んだ。
「大丈夫。大丈夫だよ。不安にならないで大丈夫。ボク達皆死んだら天国にいける。神様はボク達を見守ってくださってるんだもの。
 だから最期の時まで健やかに、清く、正しく生きましょう。
 大丈夫だよ。ボク一人じゃ不安だったけど。君となら大丈夫。きっと出来るよ」
そういってもう一度顔を近づけてきた。
そう大丈夫。大丈夫だ。
俺達は天国にいける。俺達は神に救われる。

神がいるから大丈夫。
 




 
だが、何の力の無い奴らが生きていけるほどこの地上は甘くない。
飢えと何より汚染で、
三日目で最年少だった4歳のキャスが死んだ。その日からあいつは笑わなくなった。




 
「あぁあああぁあ!!痛い!痛い!痛い!痛いよぉ~~!!助けて!助けて!お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!」
毛細血管が破裂し真っ赤に染まった瞳から血涙を流しながら、鼻と耳から血を流しながら、咳き込むたびに血を吐きながら、毛細血管が破裂したせいで全身から血を流しながら、キャスが絶叫する。
「大丈夫!大丈夫だから!大丈夫よ!」
あいつは痛みでベットの上を転げ回るキャスの手を握りながら涙を流しながら祈るように言い聞かせ続ける。
何が大丈夫なのか、どうして大丈夫なのかは馬鹿な俺にはわからない。
このまま行くとキャスは爺さんのように2~3時間で死ぬだろう。
だがそれがわかっていてもどうしようもない。俺には、俺達には薬も知識も力も何もない。何も出来ない。
キャスがこんなに苦しんでいるのに。キャスがもうすぐ死んでしまうというのに。何も出来ない。
だから俺もキャスの手を握りながら泣きながら必死になって祈る。

天におわします神よ。どうかお願いです。キャスを助けてください。

****

キャスは死んだ。最後は悲鳴を上げることすら出来ずに、ただイタイイタイと呟き続けるだけだった。
結局俺は何も出来なかった。キャスを助ける事も、キャスの痛みを和らげる事も、何も。
死の際まで苦痛に苛まれていた事を証明するように、見開いたまま固まった血涙がこびりつくキャスの目を閉じてやる。
「天にまします神よ、キャスの魂に安らぎを。キャスの魂に平穏を」
泣きじゃくりながら、つっかえつっかえになりながら、それでも気丈にあいつが祈る。
せめて苦痛に蝕まれたキャスが死後の平穏を得られるようにと。

神よ、俺からもお願いです。キャスは生きている間あんなに苦しんだんです。せめて、死んでからは幸せでありますように。あいつの好きなチョコプリンをお腹一杯食べさせてあげてください。

****

「ごめん、今日は一緒に寝ていい?」
キャスが死んだ後、動ける奴等全員でお祈りし、俺とあいつの2人で墓を作り部屋に戻る最中にあいつが聞いてきた。
「あぁ」「ありがと」
2人とも疲れきっていたので直に汚れた服を脱ぎ捨て裸になりベットで横になった。
飲み水にすら不足しているので当然体を流す事もできないから2人とも土まみれだ。明日は違うベットで寝ないとな。
「ねぇ、キャス死んじゃったね」「あぁ」「死んじゃったね」
そのまま俺にしがみついて泣き出したあいつの頭をそっと撫でてやる。
「ボク達このままどうなるんだろう。恐いよう。怖いよう」
「大丈夫だ」と気休めにもならない嘘を吐きながら泣きじゃくるあいつの背を優しく撫でながら考える。
そう、嘘だ。院にはキャスの葬式にも出れないぐらい具合が悪くなった奴等が大勢いる。そいつらはすぐにキャスと同じように死ぬ。
多分次はミーナだ。キャスの様子から考えるときっと、明日の昼には全身から血を流して明後日の明け方までにはキャスと同じように死ぬ。
だがわかっていても俺にはどうすることも出来ない。助けられない。どうしようもない。
視界が歪む。涙が溢れる。嗚咽が漏れる。
あぁ、お願いです神様。俺はどうなっても構いません。どうか俺の家族を救ってください。お願いします。
それが叶わないならせめて、死に逝くあの子達がせめて苦しまずに逝かせてください。

お願いします。神様。
 




 
二週間目にミカが死んだとき遂に俺らは飢えに負けてミカの死体を食べた。その日からあいつは俺と一緒じゃないと寝れなくなった。
 




 
空っぽの墓を作った後、そこに入るべきだったがりがりにやせ細ったミカの死体を隣家のキッチンに運び込む。
もっと重いかと思ったが意外なくらい軽かった。いや当たり前か。ミカは汚染でなく飢え死にしたんだから。軽いに決まってる。
そして今ここでミカを解体して、明日の食事にしないと俺達の殆どが飢えて死ぬ。
だから俺はここでミカをなんだがわからなくなるまで解体しなければならない。
そして何食わぬ顔で皆に食料がとれたと偽らなければならない。
だから、だから、やらないといけない。
やれ!やるんだ俺!悩みも逡巡も終わり、結論を出しただろう。
例え地獄に堕ちようと、例えミカに恨まれようと、俺はやると決めたんだ。だからやれ!
「ミカ、ゴメンな」謝る事で最後の覚悟を決めた俺が手に持ったナイフを振り上げたところで、
「見つけた」とあいつの声がした。
しまった!!一番ばれちゃいけない奴に!!どうする?どうしたらいい?
焦る心のまま、とりあえず弁解しなくちゃと何をしゃべればいいのかもわからずに口を開
「これ「大丈夫。解ってるから。止めないよ。これしかないもんね。ただ、ボクもやる。ボクも君と一緒に罪を犯す。地獄に堕ちるなら一緒に」
こうとしたところで、あいつが人差し指を俺の口に当てて止める。
そして俺のナイフを持ったまま振り上げた手に手を添えると、そのまま力を込めてミカの腹に振り下ろさせた。
皮と肉と内臓を抉る感覚が伝わってくる。
「…これで共犯だね。さ、早くしよ。夜が明けちゃうよ。大丈夫。こうしなきゃ皆死んじゃうんだんだモン。
 だからミカも神様も解ってくれるよ」
無表情に俺にそう言ってあいつが俺を促す。あぁ、この表情は見慣れている。
ここに来た奴等がよくしてる顔。あまりに辛い事があり過ぎてまともに感じたら壊れちまうから感情を凍らせてる顔だ。
…なんでだろう。なんで皆にこんな顔をさせない為に頑張ってるこいつがよりにもよってこんな顔をしなくちゃいけないんだろう。
「どうしたの?」「いやなんでもない。続けよう」
無表情に聞いてくるあいつに首を振る。
嘆いても呪っても考えても俺にはどうしようもない。何も出来ない。ならせめてこいつがこんなになってまでやろうとしているこの作業を完成させちまおう。

ミカの腹に突き立てたナイフを半分引き抜く。思ったほど血が噴き出さなかった代わりに予想より多くガスがでる。
あ~、そうか。何時もの生きている奴等と違ってミカは死んでいるから血が出ないのか。ガスはなんでだろう?理由はわからないがまあいいか。
あ!血が噴き出さないなら…。付近を見回すと丁度ミカがすっぽり入るタライを見つけたので、ミカの死体を抱えてそこに入れる。
「こうすれば後で血も入れられるからな。悪いけど血を容れられる水筒とか探してくれないか」
疑問を浮かべるあいつに指示を出す。
「わかった」と頷き容器を探し始めるあいつ。
よし。今の内に解体してしまおう。なるべくなら見せたくない。
内臓を傷つけないように慎重にミカの腹を下に裂く。生きてるうちはあんなに柔らかかったのに思ったより硬い。死肉だからだろうか?それとも栄養が足りないから皮だけになって硬く感じるのか。
グズリグズリとグヨグヨする皮と肉を切り裂いていく。その度に固形化しかかった赤黒い血がドロリドロリと傷口から溢れてミカを伝って垂れていく。
半分ほど裂いたところで服が血を吸ったら勿体無いな、と途中で思い服を脱いで裸になった後、作業を再開する。
グズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリグズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリグズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリグズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリ
お尻まで裂けた。腐りかけの血と肉の匂いが強烈に臭い立つ。本来ならするはずの排泄物の匂いはあまりしなかった。何も食べれなかったからか。
今度は肋骨にそって骨と皮を切り取って行く。コツが解ってきたのか裂くのに比べて簡単に切れる。だが思ったほど肉が少ない。いや飢え死にしたから当然か。
切り取った赤黒く染まったミカの皮と肉を横に置いた皿の上においていく。血塗られた肉片が皿に置く度にグショリグショリと音を立てていく。
グショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリグショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリグショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリグショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリグショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリグショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリグショリグズリグショリグズリドロリグショリドロリ
直にミカのおなか周りのお肉はなくなった。少し前までは生きたときのまま歳相応にぽっこりと可愛らしくでていたおなかは今は無残にも切り裂かれ暴かれて赤黒く染まった内臓を晒していた。
「持ってきたよ。多分これで足りると思う。次は何をすればいい?」ポットや水筒をかき集めてきたあいつが声をかけてくる。チラッと見る限りでも余裕で5リットルは入りそうだ。これなら十分だろう。
「サンキュ。なんか刃物ある?出来れば包丁とかじゃなくてナイフとかでっかいの」「うん。さっき居間で見かけた」「そっか、じゃぁ持ってきてくれる」「わかった」
ならあいつに振る仕事の準備をしないとな。
ミカの右足の付け根、腰と右足の間にナイフを刺す。そして右足と腰を繋ぐ腱や神経をブツブツと断ち切っていく。
グズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリグズリブツブツドロリグズリブツドロリドロリブツブツグズリ
最後に残った間接部分に一気にナイフをつき入れ、てこの原理でグルリと回しながら関節を断ち切る。断ち切った途端ごぼりごぼりと溢れ出す血。
とりあえず胴体を無視して足を逆さに持って血抜きをしていると「持ってきたよ」とあいつが刃渡り15CMほどの大振りなナイフを持って現れた。
「それじゃぁ服脱いでこん中でコレの肉を削いでくれ。削いだ肉は適当な皿に置いて」「解った」
言われたとおりに服を脱いだあいつがミカの右足の肉と皮を懸命にそぎ落とし始める。
好きな女が血塗れになりながら家族の右足の肉を落としている。
余りに非現実的な光景。余りに冒涜的な光景。余りに悲しい光景。
視界が歪む。視界が回る。気分が悪い。吐きそうだ。泣きそうだ。叫びそうだ。忘れていた、忘れようと努めていた、心の奥底に厳重に鍵をかけて閉じ込めていたモロモロが溢れ出しそうになる。
頭を振る。駄目だ。駄目だ。駄目だ。そんな時間はない。今は一刻も早くミカを食料に変えないといけないんだ。
今すぐ叫びたい衝動を強引に無視して解体を続ける。
ミカの内臓にナイフを入れて切り出していく。切り出す前は中身をどうするか考えていたのに悲しくなるくらい何も入っていない。
わかっている。飢え死にしたからってのはわかってるんだ。でも、ああ、だけど、ゴメン、ミカ。ごめんなさい。
心の中で何に謝っているのか解らないまま解体を続けていく。皮膚や肉と違ってここはあまり変わらない。まるで生きているかのようだ。
それでも若干硬い。ブヨブヨとグヨグヨの中間のような。そして血が流れ出す量が倍以上に増えた。そうか。人の血は内臓に貯まるのか。
ブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロ
切り分けている間にあいつが右足が終わったので、左足を切り取りこちらも同じようにとお願いする。
ブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロブヨドロブヨドロドロブヨドロ
内臓を全て切り出したので次は背中と腰を切り出し始める。同時に両手を切り取ってあいつに渡す。
グズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリグズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリグズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリグズリグズリドロリドロリグズリグズリドロリドロリグズリドロリグズリドロリ
そして俺達が作業を終えた時、ミカは顔以外全て骨だけになっていた。
残った顔を見るとミカが生きていた頃を思い出す。
お兄ちゃん、お兄ちゃんとにこにこ笑いながら後を着いて回られた事。ニンジンがきらいでよく残してあいつに怒られて泣いていた時の顔。内緒でにんじんを食べてやった時の花が咲いたような笑顔。
そういえばまだおねしょが直らなくて、おねしょしちゃった日は何とか隠そうとするんだよな。シーツを前に両手をパタパタして必死に隠そうとする時のあの表情。余りにも可愛くて、余りにも愛しくて思わず笑って抱きしめちゃったんよな。
また視界が歪みそうになるのを必死で押さえつける。やれ俺!頭が一番栄養があるんだ!だから!
「ボクがやるよ」いつのまにか隣に来ていたあいつが震える俺の手からミカを取り上げ頬にナイフを突き刺す。
そのまま一気に切り取る。頬に空いた真っ赤な穴から真っ赤に染まったミカの歯が見える。
続けて逆の頬も切り取り、下顎と上顎の境にナイフを入れて一気に頭を二つに割る。
そして上の部分を一度おいて下顎を持ち上げ舌を切り取った後、下顎部分の肉をじょりじょりと削ぎ落とし、削いだ肉を皿に盛っていく。
だが小さいミカには削ぐ肉も殆どなくじょりじょりじょりと肉を削ぐと直に骨だけになった。
そして骨だけになった下顎部分を降ろすと今度は下には血が溜まっていたため真っ赤に染まった上顎部分を取り出し、なんの躊躇いもなく耳にナイフを当てるとゴリゴリと二つとも切り取る。
続いて鼻の周りにナイフを突き立て、ぞぶりぞぶりと鼻を抉り始める。可愛いミカの顔がナイフで傷つけられ抉られ醜くかわっていく。
そして抉り出された鼻を皿に除けると、今度は目に指を突きたて眼球をぐるりと二つとも抉り出す。
あっという間に三つの赤黒い空洞が空いたミカの顔。思わず目を背けたくなるような悪夢のような光景。
だがあいつはそこに更にナイフを入れてゾリゾリと肉を削ぎ始めた。ゾリゾリと音が鳴るたびにミカの面影が消えてゆく。
ゾリゾリゾリと音が鳴るたびにミカが消えていく。ぞりぞりぞりぞりと音が鳴るたびにミカが殺されていく。ミカが!ミカが!ミカが!!!
やがて骨だけになったミカの頭の上あいつがナイフの柄の部分を勢いよく振り下ろす。
ごきゃとくぐもった音を立てて砕けるミカの頭。
そしてあいつは砕けた頭を持ち上げて皿の上で逆さにし、ミカの脳みそを掻き出すと俺に振り返り言った。

「コレで後は血を淹れれば終わりだね。急ごう。夜が明けてみんな起きちゃうよ」

****

キャスの血を移し終えた俺達は院に帰り、溜めた雨水で体を拭う(本当は汚染が酷いのでやりたくなかったんだが全身血がこびりついていたのでしょうがなかった)と、ミカを材料にして料理を作り皆に食べさせた。
味付けも塩ぐらいしかなかったが、それでも皆がうまいうまいと食べてくれた。それはいい。材料を知らないんだからな。
だがショックだったのは、材料を知っていた俺達もまた美味いと感じてしまった事だ。
料理をする時は覚悟をしていた。もし吐きそうになっても飲み込もうと。だが実際は一口食べてみれば仲間意識など空腹の前ではどうにもならなかったのだ。
俺達はキャスの目を!耳を!鼻を!指を!美味い美味いと貪るように喰ったんだ。

そして食べ終わった今思ってしまった。あぁ、もっと食べたいな、と。

****

久しぶりの『まともな』食事が終わり、汚染で寝込んでいる子達の症状も栄養が取れたためか小康状態になったので、
久しぶりに自分のベットで寝ようと部屋に帰ると「ごめん。お邪魔してる」と二時間前に休んでいるはずのあいつが俺のベットに腰掛けていた。
「どうしたんだ?休まないときついぞ?今はリフテンやマルカスの具合も落ち着いてるが直にまた悪くなる」
「うん。解ってる。解ってるんだけど…」
普段は明るくはっきりと喋るあいつが珍しく言いよどむ。だが理由ははっきりしている。恐らくミカの事だろう。
そりゃそうだろう。
見捨てられてから、皆を食わすために、皆を生かすために、他人を襲い、殺してきた俺でさえミカの体を傷つけるのはきつかったんだ。
いくら体が魂が天国に行った後の抜け殻だとしても気が咎めるだろうし、俺と違って死体を傷つけるのは初めてだったはず。
それに人を傷つけてはいけないという神の教えにも反してるわけだしな。
「…ミカの事か?」「…うん。ねぇ、そんな所にいつまでも立ってないでこっち来たら?」
あいつが自分の隣をポンポンと叩く。
「あぁ、そうだな」あいつの隣に腰掛ける。
「ミカのことは気にするなってのは無理だろうが、あんまり気に病むなよ。地獄で罪を償って天国でミカに会ったら謝りゃいいさ。
 大丈夫。事情が事情なんだ。神様もミカも解ってくれるさ」
あいつの背中をポンポンと叩きながら、極力軽く明るく言う。
「そうだね。一生懸命謝れば許してくれるよね。うん、でもやっぱりボクは地獄行きか。
 あ~あ。ママとパパに天国にいけるように頑張るって約束したのにな~」
「別に地獄に行ったからって天国にいけないわけじゃない。罪を償えばいけるさ。天国では俺も一緒に謝るよ」
「当たり前だよ。ボクのパパとママって事は君のパパとママって事になるんだから。
 でもやっぱり辛いんだ。ねぇ、グリグリして」
あいつが俺の腕にギュッと掴って顔を押し付ける。
「あぁ。そんなに辛いんなら次からは俺一人でやろうか?」
言われたとおりあいつの頭を開いた手でグリグリ撫で回す。
「ううん。いい。罪を犯すなら一緒にしよ。だから地獄でも天国でもボクから離れちゃ駄目だよ?君は目を放すとすぐ無茶をするから一緒にいないとボク不安だモン」
「う、そ、それは。ほら、会う前に犯した罪があるじゃない。だから多分、地獄にいる時間は俺のほうが長いかと…」会った後も犯した罪があるしな。
「む~。しょうがない。じゃぁボクも一緒に罰を受けれるように神様に頼んであげるよ」
「いや、そこまでしなくても。先に天国で待っててくれれば」
「いいの。ボクが待ちたいから待つの。ボクが君といたいから待つの!わかった!」
「はいはい」「よろしい。それじゃあご褒美にチューしてあげよう」
腕から顔を上げたあいつが顔を近づけてくる。
触れ合う唇。それは舌も唾液も交換しない子供過ぎるキスだが、俺には十分過ぎた。
興奮した俺は何時ものようにキスをしながら手をあいつの胸にやる。
服越しでも確かに感じる柔らかい感覚に唾を飲む。
…と言ってもここで終わりだ。この後はいつものようにゲンコツを頭に落とされるか手の甲を抓られるかのどちらかだろう。
ほら、あいつの眉が歪んだ。くるぞ~!
だが予想に反して眉は歪み続けているもののあいつは一向に動かない。
あれ?疑問に思うも止める者のない手はそのままボタンを一つ外し、直接胸を揉む。
うおおおお!!!!初めての感触にドギマギする。一ヶ月近く風呂に入っていないため脂と汗で粘ついているがそれでも極上の肌触りだった。
恐る恐るだった手を欲望のままに大胆に動かす。眉がますます強く歪む。柔らかいおっぱいを思う存分モミまくる。目が閉じられる。邪魔になったボタンを外し服をはだけさせる。抱いている体が強張る。
そして手を下半身に伸ばした時、あいつの目に涙が浮かび俺は手を止めて体を離した。
「悪い、調子に乗った。でもどうしたんだ?」
「ううん。ボクのほうこそゴメン。いきなりだからちょっとびっくりしちゃって。いいよ続きをしても」
そう言って上着を完全に脱ぎ、パンツを脱ぐあいつ。
「俺は理由を聞いたんだけど?」
「別に。…前から君がしたがってたからいいかなって思っただけだよ」
「うそつけ。そもそも結婚するまでは駄目なんじゃなかったのか?」
「うん。地獄に堕ちちゃうからね。でももう堕ちることが決まったんだからいいかなって。ニヒヒ、共犯だよ」
何時もの調子であいつが悪戯っぽく笑う。コレに関しては嘘をついてないようだ。だが…
「それだけじゃないだろ?」「それだけだよ」「そっか。じゃぁ今日はいいや。俺疲れてるから寝る。お休み~」
顔を逸らされてしまったので溜息を吐いて寝そべり壁を向いて毛布に包まる。ホントは興奮して寝れなそうだけど根性だ!俺!
「む~!人が折角していいって言ってるのにコラ~!起きろ~!」
あいつがゆさゆさと体を揺するがわざとらしく寝息をたてる。
あ、つーか、本当に寝そう。よく考えたら二日近く徹夜したし、それまでも看病と墓堀りと食料探しでまともに寝てなかったモンな。
急速に眠りに落ちる寸前、
「ねぇ、寝ないでよ。ボクを一人にしないで。寝るのが恐いんだ」
と声が聞こえた。
堕ちる意識を強引に覚醒させる。
「どうしたんだよ?」
いつの間にか背中に抱きついていたあいつに声をかける。
「寝るとね、夢に出てくるんだ。ミカがね。死んでるミカじゃないよ?生きてるんだ。
 夢の中のボクはミカが止めてっていうのに無視してミカに近づいて包丁を振り下ろすんだ。
 そしてミカの悲鳴、ううん、ホントはボクの悲鳴なんだけど、で目を覚ますんだ。
 恐いよね。夢の中では百年すぎた気がするのに、起きたら寝てから五分も立ってないんだよ。それに何回寝ても同じ夢を見るんだ。
 だから寝るのが恐い。恐いの。ヘンだよね。疲れてて眠くて眠くてしょうがないのに」
ひっくり返って泣くあいつを抱きしめ頭を撫でる。
「それで思い出したんだ。君が上手いって噂。皆、意識を失うくらい気持ちよかったって言ってた。
 あ、謝らないでよ。事情はわかってるし知ってて黙ってた時点でボクも同罪なんだから」
「…わかった。でも一応隠してるつもりだったんだけど」
「無理だよ。なんとなく雰囲気でわかったし、それにごめんなさいって謝りにきた子もいたモン。
 ボク達は隠し事なんて出来ないよ。皆、嘘を吐けない、嘘の下手ないい子ばっかりだし、家族だもんね」
悲しそうに微笑むあいつ。
「だからしていいよ。もう地獄行きは決まっちゃったし、君もしたがってたし、なにより気絶しちゃえば寝れるかもしれないから。
 だからしよ?」
おずおずと上目遣いで俺を見ながら不器用に恐る恐る俺のアソコを触るあいつ。
あぁ、そうか。そうなんだ。結局眠りたいからなのか。
勿論俺の事は愛しているだろう。勿論俺がしたがっていたことも原因だろう。
でも直接の原因は、根本的な理由は寝ると悪い夢を見るから夢を見ないくらい深い眠りに堕ちたいんだ。
おかしいな。あぁ、おかしい。確かに俺はあいつとやりたかった。何度あいつの事を思ってオナニしたかわからない。
他の女を抱くときにあいつに置き換えたことすらある。
あぁ、それでも。だけど、それでも。実際に出来るようになっても嬉しくもなんともない。
何故だろう。泣きたい。泣いて叫んで喚きたい。
「わかった。任せろ。責めて責めて、トばしてやるよ」
それでもそんな事は言えやしない。あいつを助けたいし、なによりあいつを抱ける事に今まで生きてきた中で一番興奮してるんだから。
「うん。いいよ。ボク初めてだけど優しく、ううん。滅茶苦茶にして」「ああ」
望みどおり、露になった胸にむしゃぶりつきながら、右手の中指を閉じたままの膣に強引に侵入させる。
「痛っ。いいよ!もっと!もっとむちゃくちゃにして!ミカにやったみたいにむちゃくちゃにして!」
準備も何も整っていない乾いた膣の中を指に動かれるだけでかなりの痛い筈なのにあいつは更に痛みを求める。
きっとコレはあいつの中では罰なんだろう。ミカを傷つけた自分への。罪を犯した自分への。
そう、俺がいくら愛しても罰にしかならないんだ。なら俺もそうしよう。愛するのではなく楽しもう。交わるのではなく犯そう。
拭っても拭いきれないミカの血の味がするあいつの胸をしゃぶり、舐め、吸い付きながら、指をさらに侵入させあいつの純潔の証を引っ掻く。
「ぎいいぃいぃい!!?」声にならない悲鳴をあげ、痛みを懸命に堪えるあいつの姿がたまらない。気が狂いそうなくらい興奮する。
さぁ、夜は始まったばかりだ。望みどおり、願いどおり、祈りどおり、徹底的に陵辱してやろう。

****

この夜あいつは望みどおり気絶するまで俺に責め抜かれ、悪夢すら見ない深い眠りへと落ち、
俺はあいつが深い眠りについてもなお、精液と破瓜の血と愛液でぐっしょりと濡れた膣へと自らの精を放ち続けたのだった。

この夜以降、あいつは俺に気絶するまで犯されないと眠れなくなった。
 




 
一か月で体の弱い奴と八歳以下のガキはみんな死んだ。その日からあいつは泣かなくなった。
 




  
「ねぇ、不思議だよね。ライが死んでグロンが死んで一杯一杯悲しいのに涙が出ないんだ。ボクどこかおかしくなったのかな?」
「…大丈夫だよ。俺もだ。俺も泣けないから」
「そっか。ならいいや。でも、泣きたいのに泣けないのは悲しいね」「そうだな。哀しいな」
 




 
半年後にランが死んで俺たち以外ではアミーだけになった。その日あいつから子どもが出来たと聞かされた。
 




 
「終わったの?」
「あぁ、血抜きして塩漬けにしてきた。これで半年は持つだろ」
「ありがと、お疲れ様」
ベットの上で体を起こしたあいつが礼を言う。
「気にすんな。それより、食事にしよう。一人で?」
「うん。大丈夫。アミーに食べさせてあげて」
二ヶ月前に死んだカワテの塩漬けを煮込んで作った簡単なシチューを受け取りながらあいつが言う。
「わかった」
昨日から高熱が出て意識が朦朧としているアミーの元に行き、汁と肉をまず俺の口の中に入れる。
そして十分に咀嚼しゲル状になったものをアミーへと口移しで少しずつ流し込んでいく。
喉に詰まらせないように慎重に量を調節していると後ろであいつが咳き込む音が聞こえる。
…良くない兆候だ。体力の低下も考えると何処まで生きていられるか。
長い時間をかけてシチューを一口分食べさせたら、今度は水を口に含みこれも長い時間をかけて水を三口分のませる。   
「…二週間ぐらいかな?」「そこまで持てば神に感謝だな」「だね」
これでアミーの食事は終わりだ。これ以上食べさせると極度に弱ったアミーの消化器官で処理できない。
する事が終わったので自分の分を食べる。壊れた味覚では何の味も感じ取れないのでただただ流し込む。
食事でもなんでもない。ただの栄養補給。それでも汚染が味覚にしか来ていない俺はラッキーなのだろう。

食べ終わった食器を片付けた後、俺は何時ものようにあいつをキスをしながら押し倒す。
だがいつもなら「しょうがないなー」と受け入れてくれるあいつは「だ~め」と久しぶりに俺の右手を抓り上げた。
いぶかしむ俺にあいつは首を振り自らの下腹部を押さえる。
「ただの不順だと思ってたんだけど、念のため昨日検査してみたらね、陽性だったんだ。
 わかる?ここにはボクと君の子供がいるんだよ。
 だから我慢して。かわりに口でしてあげるから」
「んな!?」あいつが余りの事に絶句する俺のモノを咥えこむ。ぎこちない、けれど精一杯の愛撫。
それはとても気持ち良く、あまりの快感に声が出そうだ。
だが俺は快感にあえぎ声を上げながら狂おしいほどの焦燥に身を焦がす。

あぁ、俺はどうしたら2人を守れるんだろう。俺はどうしたら2人を助ける事ができるんだろう?俺はどうしたらいいんだろう?
いくら悩んでも答えは出ない。いや答えなどあるはずがない。そんな事わかっている。
だから、だから俺は今度も祈る。俺には祈る事しか出来ないから精一杯、力の限り、自らの無力を呪いながら祈る。

神様、お願いします。どうか二人を助けてください。
 




 
それから十日後の朝、アミーが死んだ。その夜に俺達の子供が生まれる前に死んだ。
 




 
結局祈りは叶わなかった。祈りは届かなかった。
アミーが死んだ直後に、「2人っきりになっちゃったね」と呟くと同時に体調を崩し、余りの腹痛に半ば意識を飛ばしかけたあいつは、
半日苦しんだ後、最後に股から羊水と共に、生まれる前に、名付けられる前に死んだ俺達の子を産んだ。

そしてあいつは小指ほどの大きさの俺達の子を掌に抱き、ひたすらごめんなさいと一晩中獣のように血を吐きながら謝罪の言葉を叫び続けた。

俺はそんなあいつに何も言えず、何も出来ず、ただ俺達の子供の死後の安息を願う事しか出来なかった。
神よ、俺達の子に救いをお願いします。

大丈夫。大丈夫だ。神が俺達の子を救ってくれる。

神様がいるから大丈夫。




 
次の日、あいつは俺に結婚してほしいと言った。
汚染された地上の朽ち果てた孤児院で俺達は死が二人を別つまで愛しあう事を誓い合った。
誓いのキスが終わった後、あいつはあの日以来流せなくなった涙を流しながら半年ぶりの笑顔で俺に願った。

自分を殺してほしいと。

俺はあいつを殺した。




 
明け方まで叫び続けるあいつの隣で祈っていたが、いつの間にか眠ってしまったらしい。
慌てて目を開けると、あいつが膝を抱えて昏い目で俺を見つめていた。
「お、おは「ねぇ、結婚しよう?」
「い、いや、何を?」「いいじゃん。結婚しようよ?それともボクとはしたくない?」
「い、いや、したいけど、でもアミーと俺達の子の墓をつくらなきゃ」
「いいよ。そんなの後で。それよりも結婚しようよ」
「わ、わかった」…無表情で幽鬼のような迫力を出すあいつに気圧される形で頷く。
「じゃぁ、準備しよう」

****

まずは結婚式の式場を作ります。。
会場は皆にも参加してもらうので、皆のお墓がある裏庭で。
次は飾り付け。でも、お花は全て枯れてしまったので院の所々に飾ってある布で作った造花を集めましょう。
その後は台を皆のお墓の正面に起き、その上に神様の像をおきます。これが牧師さまの代わりです。
そして墓の前に椅子を二つ置きます。ここは特等席。一つには死んだアミーを座らせ、もう一つには死んでしまったボク達の子供を置きましょう。
最後はボク達のドレスアップ。まずは汚れきった全身を水で洗い流す。コジマに汚染された水は浴びるだけで肌がピリピリ、涙がボロボロ出るけど気にせずに頑張って全身を綺麗にしましょう。
綺麗になったらお化粧を。一生に一度の思い出だからね。綺麗に綺麗に。あいつがボクの顔を思い出す時はきっと今日のこの顔になるんだから念入りに。
そして院に残っていた一番いい衣装を引っ張り出して着ます。いい服だけどサイズがあわないドレスとスーツを精一杯着こなしましょう。

さぁ、これで準備万端。
それでは始めましょう。ボク達以外は死者と神様しか見届ける事のない結婚式を。

****

「あなたはボクの事を死ぬまで愛しますか?」
「あぁ、愛します」
「お前は俺の事を死ぬまで愛しますか?」
「はい。死後も愛する事を誓います」
牧師がいないので互いが宣言するという妙な形の愛の誓いが終わる。
「では、新郎は新婦に指輪をはめなさい」
そのまま言葉のままに式の直前に渡されたあいつの母親の形見の指輪をあいつに嵌める。
「では、最後に誓いのチューを」
これも流されるままにあいつにキスをする。
「ん、これで二人は夫婦として認められました~!!」
あいつの宣言が空しく響く。拍手や祝詞の言葉どころか当事者以外誰もいない結婚式。見守るのは神の像と死者だけだ。
「…もういいだ…ろ」
といいかけたが、あいつが半年ぶりに泣いているのを見て止める。
「ねぇ、一つお願いしていい?」
「あぁ。俺に出来る事なら何でもかなえてやるよ」
「ありがとう」あいつが笑う。その笑顔は半年前まであいつが常に浮かべていた、キャスが死んでから浮かべる事が無くなった、俺の一番好きな笑顔だった。
「ボクを殺して」
笑顔のままに紡がれた言葉にさしてショックを受けなかったのはなんとなくだが予感があったからだろう。
「…どうしてもか?」
「うん。ボク、もう無理。天国でパパとママに会いたいんだ。皆に会いたいんだ」
「……ずるいな。それじゃぁ説得も出来やしない」俺に迷惑をかけるからではなく、自分の希望だけを言うあいつに文句を言う。
「…ごめんね。ホントは君に迷惑かけたくないんだけど自殺したら天国に行けないから…」
あいつがすまなさそうに頭を下げる。
「いやいいよ。…なにか最後にしたい事は?」
「ない。ボクの夢は、君のお嫁さんになるって夢は叶ったんだもん。もう何も思い残す事は無いよ」
「わかった」ゆっくりとあいつの首に手をやる。
何故だろう?本当は止めなきゃいけないのに、全然そんな気が起こらない。何も思えない。何も感じない。
まるでここに来たばかりの頃みたいだ。まるでもう死んでしまったみたいだ。
「あ、ごめん。やっぱりチューして。ボクが死ぬまでずっとチューしてて」
「わかった」あいつの首に手をかけたまま顔を近づけ、キスをする。
同時に抱きついたあいつが、そっと目を閉じる。
俺は手に力を込める。
「あ」ゴキリとあっさりとあいつの首の骨は折れ、一度痙攣すると動かなくなった。
まるで冗談のようにあっさりと死んだ。死んでしまった。殺した。殺してしまった。
現実感がない。だが、膝を濡らすあいつの小便が、小便を漏らしても何も反応せず目を瞑ったままのあいつが紛れもなくコレは事実だと教えてくれた。
死んだあいつから唇をはなし、そっと台の上に横たえる。
不思議だ。あいつを殺したら凄く悲しいと思っていた。凄く悔しいと思っていた。凄く絶望すると思っていた。凄く寂しいと思っていた。きっと狂うと思っていた。
なのに何も感じない。全然寂しくない。完全に冷静だ。
「さてと」立ち上がる。とりあえずアミーをあいつの墓を作らなくちゃいけない。俺達の子供も一緒に埋めてやろう。
埋める?何を埋めるって言うんだ?全て食べるんだから埋める必要はない。それより早く解体しないと。
いや、もう解体する必要はない。残っている肉も全て埋めてしまおう。
おいおい?何を言っている?明日から何を食べていくつもりだ?
もう明日の食事を心配する必要はない。
何故?
三人の墓を作ったら生きる必要がない。生きていく理由がない。生きていてもやることがない。だから死ぬ。
「あぁ、そうか」悲しくない理由がわかった。悔しくない理由がわかった。絶望しない理由がわかった。寂しくない気持ちがわかった。狂わない理由がわかった。
俺は死ぬからだ。死んで俺は皆に会いに行く。なら、納得だ。

「今行くから、少し待っててくれよ」
晴れやかな気分で冷たくなったあいつにキスをする。
さてと、ここにいられちゃ墓を作るのにちょい邪魔だから移動してもらわないとな。
あいつをお姫様抱っこで抱え上げる。やはり、軽い。きっと死んだら魂が抜けてその分軽くなるのだろう。
抱えあげたあいつから一枚の便箋がひらりと落ちる。
「ん?なんだこれ?」




 
あいつとアミーの死体を墓地に運び埋めようするとあいつの死体から手紙がこぼれおちた。
手紙にはただ一言書かれていた。

「一人にしてごめんなさい。君は生きて幸せになって」

俺はあいつの後を追って死ぬのを止めた。
 




 
「わかった。それがお前の願いなら俺は全力でやりきるよ」




 
部屋のドアを開ける。
途端に漂う猛烈な腐臭と血臭。
最初の頃は吐き気を堪えるのに精一杯だったが今では慣れてしまった。
慣れたのは臭いだけじゃない。少年が行う全ての事に慣れ、無条件に肯定するようになってしまった。
照明が点いていなかったので点ける。
あいつは…いた。
「食事しながらでいいから聞け。コルセールとの交渉は終わった。あいつらは今回に限り味方だ」
テーブルの上に置かれた頭の上半分が砕けたリリウム・ウォルコットの死体の左足首に齧り付いている素っ裸の少年に声をかける。
「ほっか、おふはれはま、ファファー」「ババー言うな。それと物を口に入れたまましゃべるな」「フィで!」
口の周りを血で黒く染めた少年にゲンコツを落とし、そのまま少年の隣に座る。
悲鳴をあげた少年が慌てて口の中の物を飲み込み、「ごくろうさま、セレンさん」と頭を下げる。
「気にするな。これが私の仕事だ。いや、私がしたい事だ」
私の言葉を理解できなかった少年が、リリウムの左足の第三指~第五指まで一気に咥え、骨ごと噛み千切りながら頭を傾げる。
「気にするな。食事を続けろ」「ふぁい」「だから、物を喰いながら喋るな」
そのまま少年がリリウムの足首から先を食べるのをなんとなく見つめる。
少年はそのまま口の中でもごもごやっていると、やがてペッと唾液でベトベトになったピンク色の骨を吐き出す。
どうだ凄いでしょうとばかりにこちらを見るので手を二、三回叩いて「あ~、すごいすごい」と褒めてやる。
折角褒めてやったのにどうもお気に召さないらしくそのまま食事を再開する少年。
やる事もないので少年の様子をじっと見つめる。
よくもまぁ手を口だけでああも上手く人の肉を食べられるものだ。
しかし、目の前で死肉を喰らう少年を可愛いと思い、食べられているリリウムに僅かといえ嫉妬している私はもう狂っているのかもしれない。
「ん?どうしたババァ?」「ババァ言うな」無意識の内に溜息が出たらしく、それを敏感に感じた少年が私を気遣う。
「いて!んで、どうしたんよ?」「…いや、なんでそんな食べ難い物を食べているのか気になってな。別に他の物が食べれなくなったわけじゃないんだろう?」
内心を押し隠して他の質問をする。こういった事が簡単に出来る程度には歳をとった。
「別に食べたくて食べてるわけじゃないんだけどな。ただ、チビが他の皆は食べられたのに自分だけ食べられないのは仲間外れだからやだって駄々こねてな。まったく、ガキなんだから」
少年が肩をすくめて苦笑しながら頭を叩く。それは私に向けた事のない無邪気な顔だった。
胸の中に黒いモヤモヤが溜まる。は、情けないぞ、霞スミカ。死人の、しかもこんな子供に嫉妬か。
「仲間外れか。なら私が死んだら食べてくれるか?」「ん?別にいいけど…あ~はいはい。わかってるよ。先にチビを食べるよ」
少年がリリウムを見ながら頷く。
「なら先に手付けを払っておこうか」「ふぇ、う、うわ!?」
嫉妬に駆られた私はこれ以上少年がリリウムを食べないように少年の口を私の口で塞ぎ、そのまま押し倒す。
「ちょ、ババァ!俺まだ食事中!」「そうか。なら私を食べるといい」
素早く向きを変えて、少年の半勃ち状態のペニスを咥え込む。
汗と先走りの臭いがこの場に満ちる血臭と腐臭を圧倒する。その強烈な雄の臭いと、我が子の性器を咥えるという強烈な背徳感に自分のヴァギナが濡れるのを感じる。
「たく、しょうがねぇなぁ」少年がブツクサ言いながら濡れる私のヴァギナに指を突っ込みかき回す。同時に太股の内側を強く噛み、皮と肉を喰いちぎりそこから溢れる血を舐め始める。
「あぁ!!そうだ!もっと私を食べてくれ。私をお前と一つにしてくれ!」ギリギリの自制心で『小娘などは食わずに』を口に出さずに飲み込む。
下着ごと私のスカートを引き千切った少年が、指で好き勝手に私のヴァギナをかき回す度に声が漏れる。少年が私の太股を噛み千切るたびに軽くイってしまう。
たまらなくなった私は立ち上がり、私の唾液でべっとり濡れた少年のペニスの上に腰を落とす。
「あぁあああぁああ~~~!!」目がチカチカする。腰が砕ける。挿れただけで力が入らず少年の上に倒れこてしまう。
「しょうがねぇな~」少年が腰を動かしながら私のTシャツを破り、露出した腹と胸に気紛れに噛み付き、肉を喰いちぎっていく。
「もっと!もっと!もっとだ!!」犯されながら捕食される快感に涙を流しながら私は更なる快感を懇願し、少年に、我が子にはしたなくねだる。
噛み千切られた箇所から出る出血で少年が真っ赤に染まる。痛みと快感と自らが少しずつ削られていく恐怖に脳内麻薬が過剰分泌される。
少年の顔にたれた血を人差し指で掬い、少年の口に持っていく。少年が指をしゃぶり私の血を舐め取る。
「んあぁあん!」少年が腰を高く突き上げると同時に人差し指を強烈に噛み付き、骨に歯を立てる。子宮と骨を攻められる甘美な痛みと快楽に失禁し、床と少年を濡らす。
「お漏らしかよ、ババァ。お仕置きだ」「ぎぃいい!?」少年が嗤いながら脇腹の傷口に指を突っ込み、折り曲げ、皮と肉と神経を引きちぎる。余りの痛みと快感に視界が回る。意識が回る。
「はははは!ババァ!すげぇ!すげぇ!締付けだ!」少年が喜びの声を上げながら私にキスをして、噛み砕いた私の肉を送り込んでくる。
「がぁ。ごほがほ」体が拒否し異物を吐き出そうとする。
「おっと、持ったいねぇ。だめだぜ、ババァ。食べ物は大事にしないと」吐き出す寸前に少年が左手を抜きで突っ込み栓をする。
出所を無くした肉が逆流し鼻から出ようとするが余りの大きさゆえに詰まり、呼吸が出来なくなる。
「ん~、んん~」少年の手を掴み何とか外そうとするが、その度に少年は傷口を抉り痛みで邪魔をする。
「陸で溺れさせてやるよ」少年の手が喉の奥を引っ掻き回す。その度にえずき胃から胃液が逆流し喉を焼く。
「ごぉおお!」遮られた胃液が鼻を満たし、僅かに肺に入り、猛烈に咳き込む。だが咳は入る事も出る事もできずにただ、胃酸を肺の中に飛び散らせるだけに終わった。
あぁ…ぁ、こ、……の……まま、じゃ…死「おっとアブネェ」視界が真っ暗になる寸前、少年が私の喉から手を抜き、「ごっ」同時に腹を殴りつける。
「!?げぇえええ!!」ようやく出口を見つけた胃の中身が口の中から溢れ出す。
耐え切れず床に四つん這いになって、吐き続ける私を容赦なく少年が後ろから攻め続ける。吐かれる度に獣のような嬌声を上げ自らの吐瀉物の中で吐きながら悦ぶ私。
吐き終えて息も絶え絶えな私を少年が裏返し、覆いかぶさり、私の喉を破る寸前の強さで噛み付く。
あぁ、あと少し力を入れられたら私は死ぬ。少年に殺される。
「そう!殺して!私を殺してぇえ!!」自ら腰を振りながら少年に懇願する。更なる快感に意識が跳ぶ。認識が跳ぶ。思考が跳ぶ。心が跳ぶ。
「やぁだよ!」少年が首から口を離しながら更に腰の動きを加速する。
「!!!!!!?」更なる快感に遂に言葉すら発せられなくなった私は、跳ばされないように懸命に少年に抱きつく。
そうだ。もっと快感を。更なる快感を。私を跳ばしてくれ。
そうじゃないと私は動けない。快感に、愛に、少年に溺れないと私は堕ちていけない。少年と一緒でないと私は堕ちる事すらできない。
「ババァ!まずは一発出すぞ!!」「来て!来て!私に頂戴!」少年の腰に足を絡め自らの一番深いところで少年を受け止める。
「がぁあ!!!」射精すると同時に少年が私の肩に噛み付き、喰いちぎる。今までとは比べ物にならない出血。
子宮に当たる灼熱と、肩口から流れ出る灼熱と、全身から抜けていく熱。
自らが発する雌の臭いと、少年の臭い、そして自らの血の臭いに猛る私は貧血で意識が抜けていくのを感じながら、一度出しても硬さを失わない少年のペニスを更に締め付けながら腰を動かし始める。
少年がそれに応え、滅茶苦茶に腰を動かしながら血が溢れ出る肩口にむしゃぶりつき血を啜り始める。
犯されている。吸われている。喰われている。殺されていく。一つになっていく。闇に堕ちていく。
出血多量による貧血と体力の限界によって急速に闇に堕ちていく意識の中で私は、
ヴァギナを無茶苦茶にかき回す熱いモノと、傷口を抉り啜る熱いモノに、自らが削られていく恐怖を感じながらも強烈な少年との一体感を抱き満足していた。

例えそれが仮初であっても偽りであっても欺瞞であってもこの瞬間私と少年は一つになっている。
 




 
多くの人を傷つけた。多くの嘘をついた。多くの物を盗んだ。多くの人を殺した。
数え切れないほどの罪を犯した。

大事な家族が苦しんだ。大事な家族が悲しんだ。大事な家族が絶望した。大事な家族は殆ど死んだ。
大事な家族は生きてる間は誰一人として救われなかった。

だが全て問題ない。
神がいる。
神は全てを救ってくれる。
俺が傷つけた人間。俺が騙した人間。俺が殺した人間。
絶望の中死んでいった家族。

みんなみんな、神が助けてくれる。神が救ってくれる。天国に連れて行ってくれる。

そして数え切れない罪を犯した俺も、地獄で罪を償えば天国へ行ける。救われる。

…本当に?

「死後の世界なんてねぇ!!死ねばそれで終わりだ。そのさきはねぇ!!
 喜びも悲しみも怒りも楽しみも生きてるときしか味わえねぇ。死んだら全て0になる!なくなっちまうんだ!
 だから殺しは最低の行為なんだ。相手の未来を全部奪う、最低最悪の行為なんだ!!」
「いやいやいや、そんなわけ無いだろ、ロイ兄。神様はいるんだよ。でないと」
「うるせぇ!!神はいねぇ!!天国はねぇ!!俺はそんな都合のいい幻想にすがらねぇ!!
 俺がレミーナちゃんを殺したのは邪魔だったからだ。俺は俺の都合でレミーナちゃんを殺したんだ。
 俺に殺されたレミーナちゃんはいなくなった。なくなっちまったんだ!!」
「おい、いくらロイ兄でもそれは聞き捨てならねぇぞ!取り消せ」
「うるせぇ!何度だって言ってやる。神はいねぇ!天国もねぇ!死んだ奴はそれっきりだ!!」

違う!神はいる!神は全ての人を救ってくれる!
俺が殺した奴等も俺の家族も俺もみんなみんな救ってくれる!!
…本当は気付いているんだろう?
神様なんていないって。罪の意識から逃れるために作り出した自分の都合のいい幻だって。

「ダリオ、カニスを連れてここから離れるんだ。後は、私が引き受けよう」
「ジェラルド!貴様、俺に施しをするつもりか!」
「まさか。何で私が君にそんな事をしなくちゃいけないんだ。私はね、君に厄介事を押し付けようとしているのさ。
 君にはこれからのローゼンタールを背負っていってもらわなくちゃいけないんだからね。
 ここの敗戦の責任を取り、レイレナードの亡霊と戦い、ノブリス・オブリージュを引き継ぎ、無辜の民を守る。
 ふふ、一つとして楽なものはないよ。これからの君の苦労を想像すると胸がすっとするね」
「ふざけるな!今回の敗戦は俺のせいじゃない!!俺はまだ戦えたのに守備部隊共が勝手にアルテリアを爆破したのが原因だ!
 そもそもそうなったのは貴様がシュープリスを通すからだろうが!!」
「ふふ、そうだよ。どれでいいんだ。これからの苦難の時代を治める事が出来るのは一つの失敗の責任を死を持って償おうとする誇りに縛られる私みたいなタイプじゃない。
 君みたいに自分の失敗をヌケヌケと他人に押し付けれる生き易い人間なんだ」
「貴様!俺を馬鹿にするつもりか!!」
「いや、羨んでいるんだよ。私にはそんな生き汚い生き方どうやっても出来ないから。と、これも馬鹿にしてるみたいだね。ごめん。
 でも、それでいいんだよ。自らの誇りの為、無辜の民を守る為に敵の前に出るのと、自らの権益の為、臣下を守る為に敵の前に出る事。
 理由は確かに違うけど民を守る事には変わりはないだ。
 だから、もう一度言うよ。ローゼンタールの民を頼む。そこには僕の守りたい人も沢山いるんだ」
「…いいだろう。ただし、敗戦の責任は全て貴様にとって貰うぞ。俺は貴様の全てを踏みにじり上に行く」
「あぁ、生きるのに邪魔な物は全て死者に押し付けて君は上に進むといい。
 さて、待たせて悪かったね。テロリスト」
「ひゃっはは!おーい?もういいかぁ?お涙頂戴かっこいいねぇ。つい、夢中になって聞いちまった。
 それに免じてお前が生きている間はダリオを見逃してやるよ、天使様。ひゃははは!
 ケケケ。翼をもがれて満身創痍でブレード一本しかない天使様が果たしてOBもQBもぶっ壊れてるうえにサベージビーストを背負ったトラセンドが逃げれる時間を稼げるか見せてもらうぜ」
「私は君に相当嫌われているようだね。正直君にそこまでの恨まれる覚えはないんだが?」
「そのネクストが気にくわねぇ。神の使いである天使を真似たネクストなんざ不敬もいいとこだぜ。
 だから俺がぶっ壊してやるよぉ。ケケケケ、殺す前にテメェの見てる前でサベージビーストとトラセンドをバラバラにしてやる。
 自分の行いを後悔しながら絶望の中で死ね!!ひゃははは!」
「…君は神を信じてるのか?」
「ひゃははは!あったりめぇじゃねぇか。神は天におわし、全ての者を天国へ導く。
 お前も天国に行ったら今度こそちゃぁんと天使になるんだなぁ!」
「残念だけど私の神はここにいて、天国はここなんだよ」
「はぁ?ばっかじゃねぇの。こんなクソみたいなところのドコが天国なんだよ?」
「人は誰でも心に神を持っているんだよ。良神(心)という名の神をね。
 ただその神はとても弱く脆いんだ。だから人はちょっとした誘惑や迷いで容易く神を殺してしまい、悪に堕ちてしまう。
 でも私は幸いにしてこの時まで、内なる神に背かぬように恥ずかしくない様に生きてこれた。
 そして信頼すべき友に後の事を託すことも出来た。
 私はこれまでの人生に悔いも過ちも一点もなく、死後の憂いもない。
 そう。私は今完全に満ち足りている。
 だから、神は私の心にいて、天国はここなんだ。
 …神を信じる君はどうだい?
 君の人生に悔いや過ちはあるかい?
 君の心に神はいるのかい?」
「うるせぇ!うるせぇ!うるせぇ!
 てめぇの心に神なんざいるわけねぇ!天国はここじゃねぇ!みんながあいつが死んじまったここだ天国のはずがねぇ!
 もういい、死ねよ、てめぇ!」
「自らの心を偽れば苦しむだけだよ。
 まぁいい。来るがいい。
 ローゼンタールがリンクス、ジェラルド・ジェンドリン!!
 我が心に宿る神の為、友をそして揺り篭に眠る民を守る為、ノブリス・オブリージュの名に賭けて君を止める!!」
「やってみろよ!雑魚がぁあ!!」
「はぁはぁはぁ。くそがぁ!雑魚の癖に粘りやがってぇ!!」
「…トラセンド、ロスト。お前の負けだな。撤退するぞ」
「くそくそくそくそくそくそくそぉオオオオおおおおお!!!!!!!!!!!!」

違う!神はいる!神はいるんだ!神はいなければいけない!!天国はなけねばならない!
そうじゃないと、そうじゃないと、俺も!みんなも!あいつも!誰も救われない!
だから神はいなければいけない!
だから神はいる!絶対に!!

「…なぁ、ババァ。アンタ神はいると思うか?」
「ババァ言うな。神だと?いるわけないだろ?」
「なんで」
「私は自分で見たものしか信じない。
 そして私は神を見たことがないし、神の奇跡とやらも見た事がない。
 だから、この世に神はいない」
「…」
「逆に聞くがお前は神を見た事があるのか?」

 




 
嫌な夢を見たな。所々覚えちゃいないが昔の夢だった。
ゆっくりと目を開ける。喉が渇いたな。
目の前をひらりひらりと飛び回る紫色の蝶の羽を生やした包丁を叩き落し体を起こし、体に掛かったピンク色のどんぐりを上につけた餅を剥ぐと、
寝床にしていたスカイブルーな蔦に覆われたタンスの中から「おはよう!お兄ちゃん!」と10歳のチビが飛び出す。
「おはよう」と挨拶を返しながら喉が渇いたので真っ赤な甲羅を背負った鎧土竜の上にある流しへ向かう。
黄色い氷の上をぴょんぴょん飛び回るAMIDAを最初は避けていたが、ミスって1匹踏み潰して黄色い体液が飛び散ってしまった時点で避けるのを諦めて流しに向かう。
踏み潰されたAMIDAの黄色い体液からパッションピンクな双葉が生えて急速に成長し、俺が歩いた後をジャングルに変える。
その上をワンワンとなく猫の頭にキリンの頭を背中にしょった猿が飛び回る。
「うるせぇなぁ~」と、蝶の羽を生やした包丁を猿にぶつけて頭を割ってやると割れた頭から大量のウォーリアバグが湧き出し周囲の猿と木を食い倒しセンチュリオンバグに成長する。
流しの上にある虹色のオッパイを捻ると、「あん」と可愛い声でパパイヤが鳴き真っ黒な樹液を迸らせるのでそれを飲む。
喉を潤したらお腹が空いたので隣にある真っ白なパンダの腹を開けると、ひんやりとした空気と共に食欲をそそる甘酸っぱいイチゴの匂いがする豚肉が入っていた。
腹を開けられて痛いのかコケコッコーと泣き喚くパンダに辟易しながら豚肉を取ろうとしたところで、10歳のチビに腕をつかまれた。
「だめ~!!食べるなら私を食べるの!私を全部食べるまで他を食べるの禁止!」と喚く10歳のチビに「飽きたからたまには他の喰いたいんだけど」と言うとマジ泣きされてしまった。
仕方ないのでパンダの腹を閉め、金色に輝く猪の上に横たわる15歳のチビの元にいき、二頭並んだ黒光りするロケットランチャーの右のロケットランチャーに座る。
「あ~、お兄ちゃん。おっきくなってる~。私の裸見たからでしょ~」と猪の下にもぐりこんだ10歳のチビが悪戯っぽく笑いながら、ツンツンと中途半端に硬くなった俺のモノをつっつく。
「起きたからだよ」とチビにデコピンをくれてやりながら「左足首もらうぞ~」と声をかけて、15歳のチビの左足首に喰らいつく。
「そんなことないもん!その証拠にほらこんなに硬くなってるもん!」と言いながら10歳のチビが俺のモノをアイスのようにペロペロ舐めながら、両手で扱き始める。
10歳のチビを無視して食事を続ける。正直あまりに雑過ぎて余り感じない。その為辛うじて小さくならないだけで硬くするには到ってない。まぁほっときゃそのうち諦めるだろう。
そんな事を思いながら食事をしていると、部屋の壁を泳いでいた薄紅色の梟が悲鳴をあげた。
何かと思ったらババァが部屋に入ってきた為に、壁が開き運悪くそこを泳いでいた梟が真っ二つに千切れたのだ。
天井に落ちて透明の血を流しながらコンコンと鳴く梟を無視して、食事をしながらババァに目をやる。
「Soulsofthemindkeytolife'sÆther...」
全身に鉛色のムカデを這いまわせながらババァが異界の言葉を喋る。
わかっている。ババァはまともな言葉を喋っている。狂っているのは俺のほうだ。
首輪とLINKし異界の言語を解析し、翻訳し意味を汲み取り、「ほっか、おふはれはま、ファファー」と返事をする。
しまった。まだ口に物を入れたままだった。
案の定、AMIDAを踏み潰しながらババァが接近し「Soulsofthelostwithdrawnfromitsvessel!」と俺の頭にゲンコツを落とす。
「フィで!」と悲鳴をあげてしまい、「お兄ちゃんをいじめるな~!」とババァに飛び掛っては通過し壁にぶつかる10歳のチビを放置し急いで口の中を飲み込み、「ごくろうさま、セレンさん」と頭を下げる。
「Letthestrengthtobegranted, sotheworldmightbemended...」ババァがまた異界の言葉を喋る。
だが、翻訳に失敗したのか意味がわからずに悩んでいると「sotheworldmightbemended」と言ってくれたので「ふぁい」と返事し食事を続ける。
用件が終わってもババァが俺をじっと見続けるので、新技の手を使わずに口内だけで肉と骨を分離させるを披露してみたがうけなかった。
それどころか10歳のチビにもあいつの真似をしながら「ご飯で遊んじゃいけません!」と起こられる。うぐぐ、屈辱。
しょうがないので黙ったまま普通に食事を続けていると不意にババァが溜息を吐いたので、「ん?どうしたババァ?」と聞くと「babaaiuna!」と殴られた。
それでもなおも「いて!んで、どうしたんよ?」と聞くと
「…iya,nanndesonnnatabeduraimonowotabeteirukaninattena.betunitanomonogataberarenakunattawakejanainndarou?」と聞かれたので、
「別に食べたくて食べてるわけじゃないんだけどな。ただ、チビが他の皆は食べられたのに自分だけ食べられないのは仲間外れだからやだって駄々こねてな。まったく、ガキなんだから」
と肩を竦めながら答える。ついでに「だって~、私だけじゃ仲間はずれは嫌なんだもん。ただでさえ私ずっと一人だったんだよ」と人の頭の中に顔を突っ込んで内部から拗ねた声を出す10歳のチビに応えるように頭を叩く。
「nakamahazureka.narawatasigasinndaratabetekureruka?」と聞かれたので「ん?別にいいけど」と答えたところで
10歳のチビが15歳のチビの上で「私が先~~~!!」と全力で主張するので「あ~はいはい。わかってるよ。先にチビを食べるよ」と10歳のチビを宥めていると、
ババぁが突如「narasakinitetukewohatatteokouka」とキスをしながら俺を押し倒す。
下敷きになったAMIDAが悲鳴を上げ、飛び散った体液で氷がとけ虹色のマグマが噴出し部屋を多い尽くす。
溶岩のチーズの匂いに包まれながら「ちょ、ババァ!俺まだ食事中!」と文句を言うが、「soukan.narawatasiwotaberutoii」と構わずババァは俺のアソコをぱっくりと咥え込むとジュルリジュルリと吸い始めた。
10歳のチビにずっと弄られてていた事と、10歳のチビとは比べ物にならないテクニックに溜まらなくなった俺は、15歳のチビを食べ飽きていたこともあり、
「ずるーい!次は私の約束~~!」と叫ぶ10歳のチビを無視して「たく、しょうがねぇなぁ」と口だけは厭々、内心はノリノリでこれ幸いとババァを食べる事にした。

****

意識を失ったババァに棗色の雪兎の皮を巻きつける。これで手当てはおしまいだ。危ない危ない。危うく殺す所だった。
でも、裸のババァを手当てしていたらまた勃ちゃった。もう一回挿れちゃおうかなぁ~。
と考えていると、部屋の片隅でぷくぅ~と頬を膨らませながら鯉の頭をしたハリネズミの銀色の針を毟っている10歳のチビが目に入った。
「なぁに、むくれてんだよ?」「ぶ~!次は私の番だって言ったのにお兄ちゃんの嘘つき。おばさんばっかりずるい!」
声をかけるとこちらに背を向けてぐずりだす。あ~、もうホントにこのガキャ。
「あ~、悪かったよ。でも、お前じゃ入らないだろ?」「そんな事ないもん!!」
10歳のチビが真っ赤な目をしながらこちらに飛んできてそのまま自分のスリットを俺のチンコに押し付ける。
「んぎぎぎ!」そのまま顔を真っ赤にしながら挿れようとするが、当然その未成熟なモノでは俺を迎え入れることは出来ず、頭の3分の1が入った所で限界だった。
「ほらもう無理だろ。諦めろ」痛さでプルプルと震える10歳のチビを抱き上げる。
「む~、じゃぁこっち!こっちの私なら大丈夫でしょ!!」と10歳のチビが15歳のチビの元に飛んでいき、15歳のチビのマンコをクパァと開く。
「…おま、確かにそれはできるけど」10歳のチビとは違う確かに女を感じさせる光景に思わず生唾を飲んでしまう。
「よし!じゃ、お兄ちゃんしよ!」「いや、でも食べ物を粗末にするのは」
「む~!お兄ちゃんの嘘つき!嘘つき!嘘つき!!次は私っていったのに!嘘つき!嘘つき!嘘つき!」
チビが泣き喚きながら手当たり次第にそこらを跳ね回るAMIDAやウォーリアバグを投げまくる。
「うお!あぶねぇ!わかった!わかったよ!」AMIDAやウォーリアバグを叩き落としながら降参降参と手を上げる。
「グス。ホント?」「あぁ、準備するからちょっと待て」
勃したモノをババァの膣に突っ込んでかき回して、良く濡らす。
「ア…う・・・」と刺激に反応し微かに体を震わせ声を上げるババァの尻を何となくピシャンと叩いた後、
「はやく!はやく!」とせかす10歳のチビの声に導かれるままに、一気に15歳のチビのアソコを貫く。
く、凄い締付けだ。生者とは違う死者特有の硬直が齎す締め付けに思わずイきそうになるのを堪える。
「あん、お兄ちゃんが私の中に入ってきた!」15歳のチビの中に潜り込んだ10歳のチビが嬌声を上げる。
「へへへ、どう?おばさんより締め付けて気持ちいでしょ?」
「あぁ、凄い締付けだ。それに冷たくて気持ちいい」直にイかないように注意しながらゆっくりと腰を動かし始める。
にしても確かに冷たくて気持ちいい。死者特有の冷たさがババァで熱くなった体を冷やして丁度いい。これは連続してやるのには向かないが最後の一回でやるのにはいいかもしれない。
「へへへ、オッパイもモミモミしていいよ!」「はいはい」許可という名のリクエストに答え15歳のチビの胸を揉む。
15歳のチビの胸を揉む。だが死んだせいで硬くなってもなお美しさと形を失わない胸は、見る分にはいいが揉み応えが足りなかった。
まあ、大きさとしては普通だから仕方ないか。メイやエイプーと比べたら小さいがババァも十分巨乳だ。比べたら可哀想だろう。
そうこうしているうちに、イかないように慎重に動いていたんだが、やはり余りの締め付けにすぐに限界となる。
「く!限界だ!出すぞチビ!!」「うん、いいよ!来てお兄ちゃん!!」
最後に一際深く突き挿れ、15歳のチビの歳奥で発射する。
「うわぁ~。一杯出てる。えへへ、私で一杯感じちゃったんだね、お兄ちゃん」
15歳のチビの下腹部に顔を突っ込んで自分の膣に出されるのを見ていた10歳のチビが嬉しそうに言う。
「まぁな」と15歳のチビに口付けをした後、腐肉特有の甘い香りの余韻に浸りながら、チビの肉片とババァの愛液と精液で汚れた俺のチンポをババァの口に突っ込む。
意識が殆どないがそれでも習性で汚れを綺麗に舐め取るババァ。
綺麗になったのでご褒美に小便をしてやるとそれも全て飲み干した。
「あんがと、ババァ。あと、ここもよろしく」と、15歳のチビのアソコにババァの顔を押し付ける。
「ほら、吸うんだよ!」と尻をぴしゃんと叩いてやると、まだ意識がないにも関わらずゆっくりとチビのアソコに口をつけて俺の精液を吸い出し始めた。
「あ~、ずるい!私のなのに!」と10歳のチビが喚くので「だったら、お前はババァを綺麗にしてやりな」と言うと「はーい」チビが嬉しそうにババァの尻とアソコに吸い付いて精液を吸いだし始める。
2人の背中を撫でながらモニターをつける。

カラードのリンクス
マクシミリアン・テルミドールだ
君がこれを聞いているのであれば、私は既に死亡している
恐らくは、アルテリア・クラニアムに斃れたのだろう
メルツェルも、ビッグボックスから生きて戻れまい
ORCAは、君1人になったということだ
頼む。私に替わり、クラニアムを制圧してくれ
クラニアムが停止すれば
クレイドルは最後の支えを失い、全ての人は大地に還る
衛星軌道掃射砲は、クレイドルを支えたエネルギーを得て
アサルト・セルを清算し、宇宙への途を切り拓くだろう
全てを君に託す
人類と、共に戦ったORCAの戦士たちのために

ククク。いいぜぇ、テルミドール。
お前の最後の指令どおりにクラニアムを制圧してアサルト・セルを掃討してやる。
だがそこまでだ。そこからは俺の好きにやらせてもらう。
そう、俺は問わねばいけない。世界に。
俺は知らねばならない。皆が本当に救われたのかを。
だから求めよう。あらゆる犠牲を払っても答えを知ろう。俺の全てをもって問いかけよう。

Quo Vadis Pater?(クオ ヴァディス パテル?)



後書き
某所からの移送です。良かったら見てください 


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どんなに科学が進歩しようと神の不在、または実在を証明する事は我々にはできない
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