小説/長編

Written by えむ


Written by えむ

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「えぇい、やかましいっ。男だろうがっ!!」

 通信用のヘッドセットにレックスの絶叫が響いた。そのうるさい声に思わずヘッドセットから耳を離して、怒鳴るセレン。
 現在実行中なのはBFFのミッション。スフィアに侵攻してくるオーメルの部隊をVOBで背後から奇襲。その後、反転迎撃すると言う物であり、今まさにレックスの駆るフォートネクストは音速の世界の住人となっていた。
 ただ、それだけのことなのだが…。 

「だ、だって早っ。めっちゃ早…。てか、目が…目がーまーわーるぅぅぅぅぅぅ!?」

 今、レックスはVOBのあまりのスピードに、コクピット内でパニックに陥っていた。
 クイックブーストの機動すらついていけない彼にとって、VOBの超高速状態は、もはや恐怖以外の何ものでもなかったのである。
 そんな彼の様子を見て、セレンがレックスを拾ったのは正しかったのだろうかと不安になったのは言うまでもない。

「しっかりしろ!!もうすぐ侵攻部隊の最後尾が見えてくるぞ!!」

 すごく不安にはなったが、今はミッションの最中である。すぐに気を取り直したセレンは、すぐさまレックスへと警告を放った。

「……っ」

 それと同時に小さく息を呑む音が響き、悲鳴が止まる。その様子に、セレンのレックスに対する評価がいくらか回復した。パニック状態から、有事の際にそこから自分を御すると言うのは、そう簡単なことではないからだ。

「か、確認した」

 レックスが前方へとカメラを向けると、確かに侵攻部隊と思しき飛行部隊が見えてり、FCSはすでに捕捉もしている。

「現状で攻撃が無理なら、反転してから迎撃しろ。最終的に勝てばいいんだ」
「い、いや大丈夫。攻撃は出来る…っ」
「何…?」

 最終的に侵攻部隊を迎撃できればいいのだ。VOBによる奇襲は諦め、反転後に全てを賭けたところで問題はない。そう考えたのだが、返ってきたレックスの返事は予想外の返事であった。

「飛行部隊は「遅い」から…やれる」

 レックスの言うとおりであった。彼から見れば、飛行部隊は確かに遅かったのだ。ただし飛行部隊が遅いわけではない。VOBと言う超高速状態において、相対速度の関係で、それらだけが普通の速さに見えたのである。
 背部に搭載したスナイパーキャノン061ANSCと高速ミサイルVERMILLION01を展開。すぐさま攻撃を開始する。
 高速下ではあるが撃ち出された徹甲弾とミサイルは見事に、目標へと追いつき撃墜していく。
 下手な装備では弾が追いつかないと言う事態も考えられたが、弾速を重視した装備で組んであるため、その心配はない。
 一機、また一機と確実に落としていく。

「…やればできるじゃないか」

 セレン的には予想外の展開ながら、感心したようにうなづいた。エンカウント直前までの様子だと、到底無理だと思っていたのだが。
 ちなみにレックスはと言えば、ゆっくりに見える敵だけを見ることで、なんとか幾らかの冷静さを取り戻していた。風景は物凄い速さで後ろへと流れているが、それは意識しちゃダメだと自分に何度も言い聞かせながら。

「VOB使用限界近いぞ。用意しろ」
「いぃぃぃぃぃっ?!」

 再び加速し、飛行部隊を追い抜きはじめるVOBに、レックスの声が強張る。残りの飛行部隊を追い越し、BFFのスフィアが見えてきたところで、VOBがパージ。通常速度の世界へと戻る。

「…っ。はぁっ…はぁっ」

 見慣れた速さの世界へと戻ってきて、一気に極限状態から開放された。落下するフォートネクストをクイックブーストで180度ターンさせて着地。残りの飛行部隊と地上からの侵攻部隊へ対峙する。
 まずはグレネードで地上部隊を排除。その後、残った飛行部隊をスナイパーキャノンと高速ミサイルで迎撃する。それが後半のプランだ。
 気を取り直し、気持ちを落ち着かせる。もう高速下ではない。だから怖くない。大丈夫。
 
「よ…よし、第二ラウンドと行こうか」

 大きな深呼吸一つを経て、レックスはいつもどおりの調子へと戻っていた。
 その後の戦闘は至って順調であった。特に特筆すべきこともなく、ミッションは無事終了。それなりの報酬を受けて、レックス達は拠点へと戻ることになる。そう、なんと言うことはない。いつもどおりの流れ。
 
 その帰りの輸送機の中にて。

「セレン、僕さ。もうVOBやだ…」

 ネクストから降りたレックスの第一声がこれだった。それに対し、セレンは静かに答える。

「そうか。だがリンクスである以上…今後もVOBを使用するミッションがある可能性は高い。慣れろ」
「慣れろと言われても…。そもそもVOBなんて、そうひょいひょい使える物でもないんだから無理だって」

 回数をこなせば、いずれは慣れるかもしれない。パニクらない程度には。しかし、そう何度も何度もVOBを使うミッションがあるわけでもない。まして使い捨てだ。

「確かにな。そこでVOB嫌いを克服するために、次のミッションを受けておいた」
「へ…?」
「ターゲットはAFギガベース。BFF第8艦隊の防衛網をVOBで突破し、ターゲットを一点撃破する。それがミッション内容だ」
「……なん……だと…」

 拒否権はない。何も言ってはいないが、セレンの顔には確かにそう書いてあった。そして、レックスにそれを拒否するだけの度胸もなかった。いや、小さな抵抗はしてみた。

「…鬼だ。あんた鬼だよ…」
「……あ?」
「イエ、ナンデモアリマセン」

 …一睨みで撃墜されたが。

「そんなことよりも…だ」

 その場で縮こまるレックスに、セレンは小さく咳払いをして話しかける。

「スナイパーキャノンに高速ミサイル…か。今回のミッションでは最適だったが、よくもまぁ、使いこなせる物だな。グレネードや大型ミサイル、ハンドミサイルとも特性が全く違うと言うのに」

 セレンがそう告げるのも最もなことだった。
 通常、リンクスは自分にあった装備が決まれば、それを使い続ける傾向にある。企業の依頼などで試験的に他の装備を使うことはあっても、それはあくまで試験レベルのものだ。まれに、装備を大きく変えるリンクスもいるが、ミッションごとに装備を変えるリンクスというのは、セレンが知る中では一人もいない。
 さらに言えば、慣れない装備を使えば、普通は当然戦闘力も落ちる。だがレックスは違う。どの装備を使っても変わらないのだ。もちろん装備と相手との相性が悪ければ、話は変わってくるだろうが―――。 
 感心した様子のセレンに、レックスは苦笑いを浮かべて答えた。
 
「なんと言うか。ノーマル乗りだった頃、これは苦手だとか言って装備を選んでる余裕はなかったし、その時その時で使える装備を使って戦うしかなかったからな。そんな日々を送っていれば、いやでも慣れるものだよ」
「そんなものか? と言うか、どんな状況だ、それは…」
「まぁ、とりあえず、楽しい状況じゃないのは確かだな」

 そう答えるレックスは、いつもと変わらぬ表情であった。





 さて、BFFのスフィアへの侵攻部隊が迎撃された次の日。
 本社の重役オフィスの一つにて。彼――王小龍は、あるリンクスについて調べていた。
 理由は大した物ではない。新しく現れた新人のリンクスが使えるかどうかの評価するだけのことだ。使えるようなら利用する。駄目なら無視する。もし将来性があるのなら、早い段階からつながりを作っておく。そうすれば、他の企業よりも先にBFFに引き込みやすくもなるだろう。
 それらを踏まえての品定め。新しいリンクスが現れるたびにやってきたことだ。
 その視線の先には、レックス本人のデータと彼のネクストのスペックカタログ。そして、ミッションレポート等の資料が展開されていた。

 経歴、元ノーマルのタンク乗り。それ以外は不明。
 ネクストは防御重視型で機動性は皆無。少々気になるとしたら、オーバードブーストの持続時間の長さくらいか。
 操縦技能は至って平均レベル。AMS適正も、ネクストをなんとか動かせる程度で、お世辞にも高いとはいえない。むしろ、よくネクストに乗ろうと思ったものだと言いたくなる。
 
「……ふむ」

 一言で言えば、粗製。それが王小龍のレックスの最初の評価であった。だがさらに調べるうちに、それだけでは留まらない可能性も見出していた。
 王小龍もまた、レックスがミッション毎に装備を変えていることに気がついたのである。そして、それが何を意味するのかも。もし予想通りなら…このリンクスは、とんでもないジョーカーになり得る。それこそ粗製でありながら今はGAのトップリンクスとなっているローディのように。

「これは…見定める必要があるかもしれんな」
 
 運がよければ掘り出し物だ。だが、まずはその価値を確かめなければ。

To Be Countinue…

※作者のコメントコーナーは、コメント欄の下に引っ越しました。


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☆作者の一言コーナー☆
 主人公のスキル…地味?と今になって思っている、えむです。
 すっごく平凡な気もするけど、意外とない気がするから後悔はしません。それに侮れないスキルだと思いますしっ。たぶん…orz

 そして、王大人登場。この人は小説には欠かせないと思います。
 今回は顔見せ程度ですが…。あ…リリウムは、まだまだですよ?

 さて、次回はレックス君の恐怖再び!!AFギガベース戦(HARD)となります。
 高速戦ができないレックスがギガベース相手にとった奇策とは!?
 
 お楽しみにっ。


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