Written by へっぽこ
夕暮時の事である。
冷蔵庫をぱくっと開けて中身を確認。
牛乳が切れていることに気が付いた僕は、炊飯機をセットして、そんなわけでのお買いものである。
歩く歩く道すがら、頭の中は冷蔵庫の中身と、未来の献立で構成されたパズルでいっぱいであった。
にもかかわらず、前から来る通行人に目が留まったのは、彼女がちょっと異質な格好をしていたからに他ならない。
しかもどこか愛嬌のある、見たことのある顔である。
それはどこで?
「あ」
「あ」
すれ違う直前で、気が付いた。それは向こうも。ばっちり、かち合う僕と彼女の視線。
思い出した。あれはカラード本部でのことだった。
「エイさん?」
そしてその風体はというと、まるでフード付きのマントみたいな、青く薄い都市迷彩柄のレインコートで身を包んでいる。
「おやぁ」と、エイさん。
外、とはいえここは天井付きの地上都市で、今日のように晴れてなくとも、そもそも雨の心配は不要だ。
ほら。見上げれば赤い空。
けれど目を凝らせば、そこにはうっすらと碁盤目状のマス目が見える。
だからレインコートなんてどう考えても必要ないのであるが、しかしそんな違和感は予期せぬ友人との出会いというイベントのインパクトには遠く及ばないのだった。
おかしな格好であろうがおかげで気付く事が出来た。
そう思えばレインコートぐらい気にならないし、むしろレインコート姿でよかったとも言える。
それに、そのレインコート姿を僕は結構似合っているなと思った。
なかなかどうして可愛いんじゃないか?こう、幸薄そうで。
受ける印象はさながらマッチ売りの少女である。
「こんにちは」
と一声。向こうもそれに応えてくれて、眩しい笑顔が飛んでくる。
「やや、首輪付きさん!」
うん、ところで僕の首輪付き扱いはいつまで続くのだろう?と、一瞬そんな疑問と、得体の知れないどす黒い感情の塊が頭をよぎるが、知らんぷりする。
「お久しぶりです!」
エイさんはぱたぱた駆け寄って来たかと思うとぎゅっと僕の手を握り、ぶんぶん激しく握手した。
そうして、はずみではだけるレインコートと、おかげで露になるエイさんの装い。
思わず、わお、と驚愕の言が口を付きかけて、すんでのところで噛み殺し、ごくりと喉を鳴らすに留まる。
そんなエイさんの服装は、露出の多い(多い!)近未来チックのぴっちりした服装で、まるでSF的パイロットスーツのヒロイン、あるいはスクールと名のつく水着を連想するいでたちであった。
そんなエイさんを前に、僕は握手をやんわりと切り上げ、まわれ右。
「あ、じゃあ僕はこれで。」
レッツ他人のふり開始である。
「ちょ、ちょっと待ってくださーい!」
果たしてエイさんはレインコートから内側の服装が見えている事に気付いているのかいないのか、天然の笑顔を武器に僕の進行方向へと回り込むと、ばばっと行く手を阻むのだった。
ああ、ほらそんなに動くからレインコートの前がよけい開いちゃって。
依然として屈託なく、エイさんはあっけらかんと僕に言い寄る。
「もう、そっけないですよ! 久しぶりの再会なんですから大事にしましょうよ!」
むー。そりゃ僕としてもそうしたいところではあるのだが。
「だって、エイさん、その格好は流石にどうかと」
失笑である。
「んーやっぱりレインコートは変でしたか。えへえへ。あ、でもでも声を掛けてくれたのはあなたの方ですよ?」
一瞬の照れと、でもでもと前に出るそのバランスの妙といったらないですね。
天然ですか、それともわざとですかエイさん。
どちらにしても悪女の類だ。たぶん小悪魔系。
元気いっぱいのエイさんをよそに、露骨に口ごもる僕。
「まあ、その。えーっと――」
胸が、いや胸も、やばいです。正直目のやり場に困ります。
だって、良く見りゃへそのカタチが判るぐらいピッチリしてらっしゃるのよ? まずいでしょ、いろいろ。
顔が赤らむのは致し方なく、ていうか、気を抜いたら勃ちかねない。
ここが海とかプールならまだ耐えられただろう、けれど街中でこれはやばい。
非日常過ぎて煽情度甚だしい。
そんなわけでしどろもどろ。
あのそのこのかの、と、のの字を挟んだ文字行列が口から駄々漏れ。目が泳ぐ泳ぐ。
右見て、エイさん見て、左見て、胸を見て、お腹見て、さらに下を……ごくり。
そんなどうにも格好の悪い僕を眺めつつ、「はい?」なんてぽかん顔でエイさんは小首を傾げる。
なんだかもの凄くレベルの高い、あるいは低い、精神攻撃を一方的に受けている感じ。
まったくもって落ち着かないし、指摘するにしても、なかなかどうして言い辛い。
でも、本当はもうちょっとだけ見ていたい! なんてね。冗談冗談。
兎にも角にもどうすんだこの状況。と、判断を自身に問うたところで、なぜかとってもいかがわしい事を、いの一番に考えてしまう己の人畜っぷりに辟易する。
まあまあ。
可笑しな、犯しな発想は無論思いつく端から忘却の彼方だ。
ともかく今は僕の精神衛生上にも、気付いてもらわないことにはどうしようもない。
だからこれは仕方のないこと。うん、仕方ない仕方ない。
「てりゃ」
もみもみ。
瞬間、スパン、と腰の入った無茶苦茶切れのあるビンタを喰らう僕である。
「いや、レインコートはだけちゃってるから仕方なく……」
スパン、スパンと言葉を遮る往復ビンタ。痛烈である。
そして流れる沈黙。
ああ、今頃になって、自分の格好(レインコートの下)に自覚的になったのか、そろり、エイさんは視線を下げて。
当然そこには自身の、はだけたレインコートと、そこから覗く大胆に肉感的な美学(エロス)があるわけで。
ポンと何かが弾ける音がした…ような。
しかしながら、わけわからなくとも、ちゃんと身の危険を察知し、頭がぐわんぐわんするくらいの強烈なビンタを瞬間カウンターするその対応力は流石である。
おお痛い。が、悔い無し。
悔い無し!
「……――っ!」
エイさんは、ガバッとレインコートの“まえ”の部分を引き込み、体を隠して後ずさった。
「え、見てないよね?」
見てないも何も、揉んだんだけども。
それでも。
きっと、彼女のその目は“見ていない”と笑う僕の姿を夢見ているに違いない。
恥ずかしー格好を見られたくないのは誰もが思うこと。
そして、例え事実見られていたとしても、見られていないことにできるのであれば、もちろん十全ではないけれど、やはり精神的負担は軽くなるものだ。
いわゆる見て見ぬふり、というやつだ。ある種、やさしい嘘である。
その一言が、真実とは程遠い虚偽であろうとも、彼女の心の平穏につながるのだろう。
だから僕は。
だから僕は!
「バッチリ見たっす!」
親指をグッと立てて応えてあげました。
目を背けたくなるような真実というやつだ。
再び沈黙が僕らを襲う。
あ、嫌だなこの感じ。沈黙は苦手なんだよな、とか。
けれどそんな中、先に動いたのはエイさんで、彼女は目にじわわーと涙を浮かべて、力なくそのままその場にぺたんとへたり込んだ。って、正に青天の霹靂で甚だ想定外です、その反応。
キレッキレのビンタかましたあの娘はどこに?
「うぅ、見られた。知り合いに見られてしまいましたー」
しかもそのままわーわー泣きだした。
そして僕はそんなエイさんを見て、ただただあたふたするのだった。
「え? うそ。ちょっと、エイさん? ごめんなさいごめんなさい」
「もうダメだぁ、私のステキお姉さんイメージがぁ」
溢れた涙は止めどなく、エイさんは頭を抱えている。つか、減給?借金?
「ともかく落ち着いて、それから泣きやんで下さいエイさん! いや別に可愛いと思いますよ? その、――コスプレ?」
「わーしかもコスプレって言われたー、もう色々ダメだぁー」
ああもう、なんだこの状況は!
ともかく、人が集まる前に何とかしなくては、と、あたりを見回すそこにAMIドーナツ(通称アミド)。
ラッキーである。ドーナツが嫌いな女の子なんて、そうそういないよね。
「あの、取り敢えずそこのAMIドーナツ(通称アミド)に入りましょ? 僕が奢りますんで!」
瞬間、エイさんの泣き声がはたと止む。
そして上目遣いに、涙を浮かべた瞳でこちらを見上げるエイさん。
「奢ってくれるの?」
その表情は反則だよ。どなどな。
「ええもちろん!」
「水と砂糖とガムシロップ以外も頼んでもいいの?」
「どんとこいです!」
「騙して悪いが、とか言わない?」
「言いませんよ! ほら立って下さい!」
「うん。わかった」
僕は片手を差し出して、やっとで泣きやんだエイさんを引き起す。
「ささ、どうぞこっちこっち」
そのままエイさんの後ろに回って背中を押しつつ問いかける。
「その代わり、話、聞かせて下さいよ?」
エイさんはこくんと一度、小さく頷いた。
◇
場面変わって、ショップ内。飲食スペース二階の端、四人掛けのテーブル席で向かい合う。
店内は席の四半にも満たない客数で、さほど混んでいるというわけではなかったけれど、少数であれ注目されるのは居心地が悪いので、僕はジャケットを渡してエイさんはそれで自身の上半身を隠し、レインコートを膝掛け代わりに下半身を隠し――まあそれでも大分おかしな格好ではあるのだが――あとは目の前に山と積まれたドーナツを次々にむしゃむしゃした。
そして、僕の財布はすっからかんになった。
むしゃむしゃするエイさん。
見れば見るほど深まる“小動物チックな人”という僕のエイさんに対する印象。
そしてその思いを後押しする、およそ期待を裏切らないエイさんは今現在、両頬が膨れてまるでリス見たいで微笑ましい。
「――――と、まあふぉんな、むぐむぐごっくん。感じなのですよ。もぐもぐ」
ポンデリングを咥えながらエイさんは言う。
行儀が悪いので食べながらしゃべってはいけません、とはこの際言うまい。
リスは頬袋にドングリを詰めたままでもしゃべるだろうし。や、しゃべれないけどね、リスは。
ともかく。
そんなわけでエイさんの説明内容であるが、まず格好については、短期のバイトだそうで。
街の外れに位置する企業連展示場、通称ビッグサイトなる施設で開催中のコズミックマーケットの企業ブースでうんぬんかんぬん。
ほんで、なんかのキャンペーンが、あーだこーだ。そのあたりはよく聞き取れなかったけれど。
何故リンクスやってる彼女がバイトなぞ、と、当然のように思うのだが、つまりこうだ。
ORCA事変。
で、強敵との度重なる戦闘。
により、気付けば予算計画を上回る弾薬費(というかミサイル費?)。
ので、借金。
今に至る。
そんなこんなで現在、エイさんはリンクスる片手間、もっぱらバイト生活とのことだ。
もちろん、ACの運営にかかわる資金関係が、一個人のバイトでどうにかなるわけはない。
ていうか、いくらリンクスがコストに見合った成果を求められるとは言え、彼女は企業所属の、言ってしまえばサラリーマンなわけで、給金がマイナスになることは考えられない。
が、手取りはぐぐーっと下がるのだそうな。ばっさばっさと、ピンはねされるのだそうな。そんなわけでのバイトなのだそうな。
とはいえ、曲がりなりにも人類の頂点近傍ネクストさんが、バイトなぞに精を出すというのは、万が一のことを考えても企業がそんな事を認めるわけもなく、秘密らしい。
ばれるとナニカサレルことになるんだとかなんとか。
なんて不憫な。
世界の為にそんな苦労を背負い込んでいたとは知らなかったですエイさん。
おい企業(インテリオル)、何とかしてやれ! と、身内贔屓で思う一方で、借金を背負った理由は実はネクストと関係ないことだったりするのでは?と、思ったりもする。
ひょっとすると、今の話、結構な感じで嘘なんじゃ?とか。
て言うか、よくよく聞けば、黒幕はエイさんのオペレータじゃね?とか、思わなくはない。
が。
まあ疑問は尽きないが金に困ってそうなのは本当に本当なので、粗方食べ終わってストロー咥えてちゅーちゅーオレンジジュースを吸い上げるエイさんに僕は言う。
「よかったら今度家に来ませんか? 夕飯でも昼食でも朝食でもおやつでも御馳走しますから」
と、気前の良いふりをする僕であるが、しかし。
御馳走します、なんて、これ、まるっきり僕の見栄だよな。だって本質ヒモだし、今の僕。
せかせかバイトするエイさんのその姿に胸がきゅぅとする。
甘んじて自堕落な生活を騙し騙し送るのはもう限界かもしれない。
本気で何か見つけないと、とは思っているのだけど、全企業に一切合切関わることのできない僕に、就職先はなかなかどうして見つからない。ちょっと世知辛い。
「得意なんですか? 料理」
ふと、エイさんが尋ねた。
「本当は得意というより、好きといった方が正確かも知れませんが、」
始めたばかりの頃はともかくとして、やはり毎日の積み重ねは偉大だった。
今ではあのセレンさんをして及第点と言わしめる出来まで上り詰めた。その自負が苦もなくさらりと言葉を押し出す。
「そこそこ美味しいと評判ですよ」
エイさんはおーと感嘆しつつぱちぱち小さく手を叩いた。そして、
「あ! でしたらこの際、喫茶店とか営んでみては?」
「え?」
思いがけない提案をさらり口にした。
突飛で大胆すぎるその言葉は、きっとエイさんなりのネタフリなのだろう。
「そんでもって、私を従業員として雇って下さい! そうすればみんなハッピー!」
ほら、オチが付いた。
けれど、僕はその考えを真に受ける事にする。
ネクストを動かす事しか能がなかった僕ではあるが、その考えは悪くないと素直に思った。
いや、決して簡単な事ではないが、歩むには十分、見通しも舗装もされた道だろうと感じ入る。
何より平和ではないか。
「それ、マジでハッピーかも」
でしょでしょと朗らかにエイさんは笑う。
うんうんと僕も頷き笑みを溢す。
僕らの考えてる事はきっと全然別なのだろうけれど、共にその内情は笑いとして表現された。
つまりはどう転んだって朗らかだってことだよ。
人生の指針なんて、案外簡単に決まってしまうものだ。
それは例えば。
とある英雄との別離であったり。
とある憧れとの邂逅であったり。
とある強敵との対峙であったり。
いつか戦場で味わった空気であったり。
そんな仰々しいものでなくたって。
なんてことのない日常の、ある日に偶然出くわした友人の、何気ない言葉とか。
「なんだか――」
じゅるじゅるとオレンジジュースを飲み干し、だけど依然としてストローを咥えたままエイさんは言う。
「ほーんと、平和ですよねー」
ふう、とどこか遠い目のエイさん。
世界は変わった。
大まかに言って平和になった。
ネクストは例外こそあれ、そのほとんどが、今や抑止力の銘を打たれた偶像と化している。
ならばこそ、祀られた彼らに降りる事は許されず、リンクスである事を全うし身を削る。
決して傾いてはならないシーソーの両端で、彼らは今も立ち尽くしている。鉄の武装を施したままにだ。
がむしゃらに、生きることをだけ考えて駆け抜けた戦場は、もうずっとずっと背中の向こう側の遠景と成り果てて、ゴールを迎えたはずの、生き残った彼らはこの先はどうなる?
僕の答えは決まってる。
どうにもならなければいいんだ。このまま。ずっと。
シーソーが傾くことがないように。
そんな我がままを怠惰に思う。
ふと目を向けた彼女が何を考えているのか、どんな物思いに耽っているのか、僕には到底分からない。
不意に、ふぅと何かを噛みしめ浸るような太息二つがシンクロする。エイさんと僕。
僕らは見詰め合ってくすくすと笑う。
「ほんと。平和が何よりです。」
平和ボケしたリンクスと、平和バカな元リンクス。
奇妙ではあるけれど、それは本当に素敵な事だ。と、僕はそう思うのだった。
/
それから僕はエイさんとの何でもないような馬鹿話に華を咲かせて、ささやかな一時を満喫し、太陽が西へ没してしばらくの夜時、やおら自宅に戻ったのだった。
――戻って、鬼セレンの前で正座している。
ソファーに深く腰掛け足を組むセレンさんは威風堂々。
「つまり、お前は買出しの資金をそっくりそのまま、エイ・プールに貢いだ、とそういうわけだ」
「いや、別に貢いだってわけじゃ……」
「イエスかノーで答えろ」
「いえす」
ぎゃー誰か助けて。
セレンさんは僕から視線を外すと、足を組み直し、物憂えげに頬杖をつく。
無言の圧力。相当量のパスカルが僕の心を握り込む。
だから、沈黙は苦手なんだって。空気に押しつぶされちゃいそうだ。
「えーっと、友達は大事にすべきだと思います!」
耐え兼ねて僕は片手を上げて宣誓。
ぎろり―――と、セレンさんの視線がハイレーザー並みの貫通力を持って再び僕の精神を射抜く。
「あう、すいません」
そう答えるので精いっぱい。今度は僕が視線を外す。
視界の外で、はーとこれ見よがしに溜息を吐くセレンさん。幸せが逃げちゃいそうだ。
「友達、ねぇ。まあ、いいさ。お前が甘いのは今に始まった事ではないからな」
はて? これでお終い?
なんかちょっと拍子抜けかも。と、セレンさんを見遣るが、彼女は徐に立ち上がるとジャケットをコート掛けから手に取って肩に掛けた。
「ってセレンさん、お出かけですか?」
「何を言っているんだ、お前も来るんだよ」
そう言うとセレンさんはジャケットのポケットから財布を投げて寄こした。
「はい?」
「買い物ができなくて、家に食べ物がない以上、夕食は外でするしかないだろう。金を貸してやるからお前が奢れ」
いや、実は炊飯機はセットしてまして、と、言いかけたが止めた。
冷蔵庫には肉も魚もなく、メインに困る食材ばかりで、無論別にそれでも一食くらいは全然問題ないのであるが、ご機嫌ななめのセレンさんを満足させられるかといえば、ちょっと厳しい。
だから、炊いたご飯は明日の朝と昼に回すとして、あとでおにぎりを作ろう。
そういうわけで、外食は有りです!
わーい、外食だー。
と、思うかたわら、冷静に考えてセレンさんの財布を僕が持ったところで、奢る事にはならないんじゃないか?とは思う。変なの。
「呆けるな馬鹿者。さっさと行くぞ。私は腹ペコなんだ」
「あ、はい、了解です!」
ばばばっと立ちあがり、渡された財布は敬意を持ってポケットに仕舞い込む。
玄関から、がちゃりとドアを開く音がして、急いで僕も後を追う。
そうして、僕らは二人揃って外へと繰り出す。
思えば、二人並んで夜道を歩くなんて、そうそうないわけで、ってあれ? これ、まるっきりデートなんじゃ?
ふと、そんな戯言めいた素敵な単語が頭をよぎり、ちょうどその時、タイミング悪く、あるいはタイミング善く、セレンさんがそれとなく僕の左脇に手をまわして腕を組んで、寄り添う。
それで僕の頭はぴーぴー熱暴走し始める。
「――言っておくが、私はジャンクフードで満足するような女ではないからな。」
と、隣で囁くセレンさんの言葉ももはや頭に入らないほど頭真っ白。
とことん舞い上がってしまった僕は、しかし、ここはいっちょ一人前の男としてエスコートしなければと思い直し、クールダウンがてら夜空を見上げて、天井の巨大なプラネタリウムを眺めながらに、さてどこに向かおうか
―――とは少しも考えず、全神経を左肘に集中させるのだった。
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