小説/長編

Written by えむ


 フランソワ・ネリスを加えての対ネクスト特訓が始まった。
 とりあえず攻撃を当てること。それを最優先にして、試行錯誤を繰り返しつつ、シミュレーターを使っての訓練を重ねる。訓練の内容もさまざまだ。実際にネリス相手に模擬戦を行ってみたり、動き回る高速機を相手に正面に捉え続ける練習をしたり。
 しかし、なかなか成果は実らないまま時間だけが過ぎていた。

「なかなか思うようにいかんな…」
「うーん、なんでだろう?」

 休憩時間。セレンとネリスは二人して、首を傾げていた。見る限り訓練そのものは無駄にはなっていないのは確かだ。攻撃を当てるという一点を除いて、それ以外のレベルは確実に上がっている。

「まぁ、武装の問題もあるとは思うけどね。グレネードキャノンは弾速は鈍いし…」
「それは確かに言えるな…。だが、必ずもっていく装備だからな。なんとしても当てれるようになる必要がある。…む、そうだ」

 そこまで告げたところで、セレンはふとあることが気になり、ネリスに尋ねてみることにした。
 元レイヴンであるレックスだが、ノーマルのタンクを使っていた時がどうだったのか…と言う点である。もし、その時から今の調子だったのなら―――正直リンクスには向かないと結論づけるしかないが…。
 だが、ネリスの答えは、予想を斜め上に裏切る物だった。

「レックスの、ノーマルの腕? レイヴンとしては、かなり技量高いんじゃないかな? タンクでも普通に、逆関節機とかに当ててたし。防衛任務の時は、後方支援だったけど、動き回るネクストに当てたこともあったっけ」
「……待て。だったら、なぜ今は当てれないんだ?」
「ボクも、それが不思議なんだよねぇ。AMS適正低いとは言え、動きが見えてるんだし、充分やれそうなんだけど」

 謎は深まるばかり。ただ、とりあえず全く希望がないというわけではないようだ。

「何かあるんじゃないかな。ノーマルとネクストの違いによる、何かが。レックスも気づいていないんだろうけど」
「……ノーマルとネクストの違い…か」

 元レイヴン。ノーマル乗りであったこと自体が、何かの枷になっている。その発想はなかったが、言われてみれば筋も通っている。ノーマルとネクストでは、メインシステムから操作方法まで大きく異なっている。ある程度動かせているので、全く気にも留めなかったが…。
 だが、突破口は見えた。そんな気のするセレン。あとは、それが何かを突き止めることだが―――

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 その頃。レックスはレックスで、これまでの映像記録を見返しながら考え込んでいた。
 特訓の甲斐もあって、回避と攻撃の両立は擬似的にだが出来るようになった。避けながら撃つ事はできないが、避けて…それから撃つ。その切り替えを早くすれば、なんとか実戦には通用することがわかったのだ。あとは、意識の問題。いかに早く頭を切り替えるかに関わってくる。
 問題はやはり攻撃の命中…である。最もネクスト相手に100%当てるのは不可能だろうが、それでもほとんど全く当たらないのでは話にもならない。だが、回避力のないタンク機を使う以上、火力の高さで押し切る以外に方法がない。そのためにも攻撃を当てることは必須だ。
 当てれなくはないはず。その自覚は、レックスにもあった。最初はネクストのスピードそのものについていけなかったので仕方ないと思っていたが、今は相手の動きを追える。それなら当てれるはずなのだが、実際は違う。
 ノーマルに乗っていた時と同じ感覚で狙っても、ほとんど当てれないのだ。

「よぉ、あのマザーウィルを落とした傭兵って、あんたでいいのか?」

 不意に割り込んできた声に、思考が中断される。振り返ってみると、そこには一人の若い男がこちらを向いて立っていた。手にはコーヒーの入った紙コップが一つ。

「…えっと、どちらさま?」
「俺か? 俺はカニスってんだ。あんたと同じ独立傭兵って奴だよ。まぁ、よろしく頼むわ」

 ご機嫌な様子で笑いながら、ばんばんレックスの背中を叩くカニス。

「にしても元気ないな? あのマザーウィル落としたんだろ? もっと、どんと胸張れよ。誰でも出来ることじゃねぇんだぞ?」
「あぁ…まぁ、それはそうなんだけどな…」
「なんだ?何かあったのか? よし、ここは独立傭兵の先輩とも言える俺が特別に聞いてやろう。ほら言ってみな」
「え…。いや、急にそう言われても」
「気にすんなって。悩みなんてぶちまけた方が気が楽だぜ? おらおら、とっとと吐いちまいな」
「えーっと……」

 初対面の相手にいきなり話せるようなことではない…と思うのだが。そんなレックスの意思は関係なしとばかりに、先を促すカニス。結局、根負けしてしまい、レックスは一部始終を話した。

「ネクスト相手に攻撃が当てれねぇのかぁ。ん?でも、ノーマルの時は早い相手にもそれなりに当てれたんだっけ。あぁ、だったら簡単じゃねぇか」

 あっはっは、と軽快に笑いながら答えたカニスの言葉に、レックスの表情が変わる。

「ど、どうするんだ?」
「ノーマルに乗っちまえばいいんだよ」
「いやいやいや、それじゃあ意味ないからっ」

 すぐさま突っ込みを入れるレックス。カニスの言うことは間違っちゃいないが、それでは何の解決にもならない。

「あ、そっか。それじゃあリンクスじゃねぇもんな。そうだな、だったら――この手があったぜ!!」

 少し考えるようなそぶりを見せ、カニスはぽんを何か閃いたかのよう手を叩いた。

「ネクストをノーマルにしちまえばいいんだよ!!」
「さっきと何が違うんだ、それーっ!!」
「そりゃあお前。乗り換えずに済むじゃねぇか」
「いや…そりゃあそうだけど。でもネクストをノーマルにしてどうす…る………。……ん?」

 再び突っ込みを入れようとするレックスであったが、ふと言葉に止まった。そして数秒の間を経て、その場にて勢いおよく立ち上がる。

「そ、それだっ!! カニス、ありがとう。君のおかげでなんとかなりそうだ!!」

 向き直ってカニスの両手を握って感謝するレックスに、笑いながらカニスも頷く。

「お?そうか? なんかよくわかんねぇけど、そりゃあ良かったな」
「あぁ!!さっそく試してくる!!」

 打開策が見えた。レックスはカニスと別れてすぐ、セレンとネリスの元へと急いだ。そして、第一声で二人に告げる。
 
「セレン、ネリス。もしかしたらいけるかもしれない!!ネクストをノーマルにすればいいんだよ!!」
「「…は?」」

 言うまでもないが、二人の反応はこんな物だった。あたりまえである。






「……こうも変わるとはな」

 それから十数分後。フォートネクストとバッカニアの模擬戦の様子を眺めつつ、セレンは半分呆れつつも、同時に驚いていた。
 フォートネクストのグレネードキャノンが時間差で火を吹き、そのうちの一発がバッカニアに直撃する。一発目を囮にした誘導射撃。相手の動きを読んだ上での予測射撃を併用した攻撃だ。
 レックスの提案によって思い切った設定の変更をしてみたところ、グレネードキャノンの命中率は格段に上がっていた。具体的には0.5%から30%程度に。
 たかが3割。だがフォートネクストの火力の高さを考えれば、充分。それだけ当たるようになれば充分戦えるレベルだ。

 AMSをカットする。レックスがいきなりそう言い出したときには何事かと思ったが、詳しい話を聞いてみると、少し違っていた。
 正確にはAMSの一部だけをカットし、腕部をマニュアルのみで動かすと言うのである。
 ネクストとノーマルの違いはいくつか上げられるが、操縦面に関して一番大きいのはAMSだ。ネクスト特有のシステムと言えるこれは、脳と機械の制御装置を接続し、操作を思考によって行うという物だ。これにより反応速度や精密さは大幅に上昇する一方で、リンクスのAMS適正の高さによって、ネクストの動きは左右されることになる。
 レックスの場合、そのAMS適正こそが一つの壁となっていた。感覚でしっかりと捉えていても、適正が低いために、一定のレベル以上の反応に対して、機体に対して完全に伝わらず、命中率の低下へと繋がっていたのだ。
 それならいっそ、AMS切ってノーマルと同じように動かそうと、そういう結論に至ったらしい。それが、カニスの何気ない一言から、レックスが見つけた打開策だった。
 元レイヴンであったレックスにとっては、マニュアル操作は慣れたも当然のものだ。当然、AMSを経由しない以上、反応速度や動きの精密度は低下することとなるが、それでも結果としてレックスのイメージ通りに腕を動かすことは可能となる。そしてイメージ通りに確実に動くなら、あとはこちらのものだ。動きは目で追えるし、マニュアル操作によるラグその他も、これまで培った経験と技術で充分に補える。
 もっともも少しでも腕部の動きを上げるため、腕部はアルドラのHILBERT-G7Aへと換装したりもしてあるが。

「もらった…!!」
「うわっ!?」

 シミュレーターの向こうでは、フォートネクストがバッカニアを撃破したところだった。残りAP30%。ギリギリではあるが、レーザー主体のバッカニア相手なら、よくやったと言えるだろう。

「うぅ、負けた~。…でも、一つだけ言わせてもらうよ。レックスのそれ、タンクの戦い方じゃないっ」
「そうかもしれないけど。グレネードキャノン縛りで戦うとなると、こうでもしないと勝てそうにないし…」

 今回レックスが取った戦法はこうだ。まずオーバードブーストで突撃。その後、近~中距離に張り付き、あとはグレネードで攻撃。横への動きはクイックターンのみで対応。距離を空けようと離れたら、オーバードブーストで追撃する。
 いくら狙いが正確になったとは言え、弾速の差は埋めれられない。撃ってから避けられることも多い。だったら距離を詰めてみよう。そう考えての密着戦法であった。
 ちなみに使ったFCSはトーラスのINBLUE。徹底の程がよくわかる。

「て言うか、なんでグレネードキャノン?」
「タンクと言ったら、大口径の実弾砲じゃないかっ!!」
「だったらバズーカでもいいんじゃないの?」
「駄目だ。バズーカじゃ浪漫が足りない。…主に排莢と爆発な意味で」
「…なんで、そこだけこだわるかなぁ…」
「わかってないな、ネリス。そもそもタンクに置いて大切なのは―――」

 レックスとネリスのやりとりを聞きながら、セレンはまた始まりそうだなぁとヘッドセットを静かに外した。そして、先ほどの戦闘記録をもう一度見返し始める。
 …やはり悪くない。これなら他のネクストとも何とか戦える。
 
「一時はどうなるかと思ったが…なんとかなったか。全く、手間をかけさせる奴だ…」

 そう言いつつも、セレンの表情には笑みが浮かんでいた。
 

To be countine……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 リンクスとして一皮向けた気分のえむです。

 レックス君、ついにレベルアップ。これでようやく互角の勝負が出来る…はず。
 まぁ解決策としては突っ込みどころ満載な気もしますが…。
 ちなみにこれに至った経緯は、ノーロックモードの存在。あれは完全に手動狙いですが。だったら、FCS残して手動操作…ってのもありじゃないかと。
 ローディ先生は武器腕で対策。レックスは通常腕を使うためにAMSカットのマニュアル操作…と言う感じです。前代未聞にも程がある。

 さて、次回からチャプター2へ突入。最初のミッションをどれにするかは未定のままですが…。
 何はともあれ、今回もお付き合いいただきありがとうございました。

 …あ、カラードお茶会やってない(汗


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