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[[小説/長編]] #setlinebreak Written by 雨晴 ---- 「セレン」 掛けられた声に、セレン・へイズは振り向いた。そこには男が居て、その男こそ、彼女の見出したリンクスである。 「お会いする事が出来て良かった。何分急な話でしたから、もうお会い出来ないかのと思いましたよ」 「さすがに何も言わず出て行く筈が無いだろう。荷造りが忙しいだけだ」 「いえ、貴女ならやりかねませんから」 その言葉の後、二人が軽く笑みを浮かべる。別離に対する悲しみなど感じさせず、ただ静かな廊下で会話を交わす。 「引き止めても、無駄なのでしょう?」 「ああ」 簡単に頷く。やはり、長年の付き合いに対する感情などは見出せない。 だが、きっとそれで良いのだろう。 「どうしてかと尋ねても?」 疑問に、そうだな、と返す。無言の間が流れ、男も急かさない。 「世話の焼けた男がようやく、私が居ずとも生きていけるようだから。と、言ったところか」 「誰のことです?」 「誰のことだと思う?」 言って、再び互いに笑みを交わす。男が目を閉じ、開け、切り替えた。 「これから、貴女はどうするのですか?」 それは、男にとって最も気になることだ。セレン・ヘイズは間違いなく恩人であるのだから。 ふむ、と考えるような仕草。 「まあ、またリンクスを育てるか。或いは、静かに余生を過ごすさ」 「では、今生の別れとはいかないのですね」 良かった、と零れたのをセレンが拾う。 「お互い、生きていればいつでも会えるだろう。お前は死なないだろうしな」 「それもそうですね」 「・・・ああ、そういえば、だ」 今度はセレンが切り替えた。セレンの無表情に、男も表情を変える。 「お前の指導者か、或いはオペレーターとして、最後の忠告をしといてやる」 頷く。 「伺います」 「お前の新しいパートナーだが、ああいうタイプは押しに弱いが繊細だから気をつけろ」 「・・・は?」 「それに、怒らせるなよ。ああいう女は普段怒らない分、性質が悪いからな」 男の真面目な表情が崩れた。セレンが表情を軽い笑みに戻し、雰囲気が数十秒前のそれに戻る。 「貴女からそのような指導を賜るとは」 「意外か?」 ええ、と肯定が返る。いくらかの沈黙が流れ、セレンが男の名を呼んだところでそれが途切れた。 「お前は、今のお前自身に満足しているか?」 それは、男にとっては唐突と言える質問だ。それでも考える。過去と現在を照らし、目を伏せ、答えを探る。 「満足、という括りで表現できるかと言うと、疑問です」 そう言って、視線をセレンに合わせる。それは真っ直ぐに彼女へと伸びて、それを彼女も受け止めた。 「ですが少なくとも、今の私は幸せです。本当に、誰よりも、そうである自信が有りますから」 「―――そうか」 視線を受け止めていたセレンの目が閉じられる。噛み締めるような表情の後には、いつもの表情が戻っていた。 「少し、そこで待っていろ」 言い終わるよりも早く男に背を向け、彼女が廊下の奥へと進んでいく。 自身の部屋へと進んだ彼女が男の所へ戻った時には、左手に小さめの紙袋を携えていた。突き出す。 「受け取れ」 短く言って、無理矢理に手渡す。中身を伺った男の表情が途端、驚きへと変わる。 それは、男にとっては無くしてしまった筈の物。傷だらけで、けれど原型はそこに在る。 どうして。そんな疑問が浮かぶ。 「ハイン」 呼びかけに、ハインと呼ばれた男が顔を上げた。見ると、セレン・ヘイズが踵を返すところだ。 「成就しろよ、お前の答えを」 その言葉は、いつか耳にした。クラニアム戦開始以前、彼女の口から漏れた言葉だ。目を見開く。 あの時とは、少しだけ意味が違うのだろう。 彼の右手に携えられた紙袋が揺れる。その重みは、久しぶりに感じるものだ。 ハインが頭を深々と下げるのを、きっと彼女は見てはいない。それでも届いているであろうそれを、彼は長く長く続けていた。 「ハイン様」 声を掛け、近寄っていく。シミュレータールームから出てきた彼を迎え入れ、お疲れ様でしたと労う。 「有難う御座います。問題はありませんか?」 問い掛けに肯定、大丈夫ですと返す。柔和な笑顔。それよりも。 「その、どうでしたでしょうか・・・」 その疑問は先のシミュレーションに対するもの。彼が、そうですね、と考えるような表情をして、すぐに向き直る。 「セレンとは全く別物のオペレーションで、最初は戸惑いましたね」 戸惑い、その言葉に落ち込みかける。かけたところで、でも、と否定が入った。 「慣れてきてからは、的確な指示や戦力分析でとても戦い易かったですよ。勿論、世辞抜きで。さすがです、リリウム」 彼のてのひらが頭に載り、撫でられる。認めて頂けた嬉しさと、その心地よさから頬が緩んだ。 「しかし、私には贅沢ですよ。貴女にオペレートして頂けるのはとても嬉しいのですが」 「そんな事ありません。私だってハイン様が無事で居られるように、出来ることはしたいのです」 セレン様の代わりになれるかどうかは心配だが、彼がそうであるように、私も私に出来ることがしたい。 彼のオペレートもそうだし、必要であればアンビエントだって駆り出したって良い。 私たちは、お互いに生きていなければならないのだから。 「ですから、贅沢だなんて思わないで下さい。私だって、貴方の隣に居られるなんて、これ以上の贅沢は無いんですよ?」 自分の言動に少し恥ずかしくなって、けれど視線は逸らさない。本心なのだから。 彼の手が、私の頭の上に置かれたまま止まる。視線が交わり、会話が途切れる。 ・・・あれ?これ、実は"良い雰囲気"と呼ばれるものなのでしょうか? 「リリウム・・・」 「は、はい!?」 声が上ずる。ああもうどうしてこういう状況への対応パターンを学習してこなかったのでしょう。 どうして良いものか分からず、取り敢えず脳内で今後予測される事象をシミュレート。いつか読んだ小説の、一連の流れが浮かぶ。 ・・・あ、わかりました、目を閉じれば良いんですね。いえちょっと待って下さいここは往来の真中ですよ? 「あーやだやだ。目に毒だから、そうゆうの余所でやってくれないですか?お二人さん」 脳内のシミュレーションが、良く知っている男性の声に遮られた。後ろに1歩飛び退く。声を出して驚いてしまった。 「ロ、ロイ様にウィン・D様、いえ、これは、違うんです」 「何がだよ。どっからどう見てもアレじゃないか」 「ロイ。ウィン・Dを連れて後ろを向いて、速やかに今来た道を戻って下さい。今現在、とても重要な局面にありまして」 とても重要な局面って何ですか。と言うか、何を言っているんですか。うるせえよ、とロイ様。笑っている。 「君達が何をしようが構わないが、頼むから人気の無いところでやってくれ。精神衛生上、あまり芳しくない」 ウィン・D様に真顔で反応され、ハイン様は渋々と肯定する。どうして渋々としているんですか。 「そ、それよりもお二人とも、お疲れ様でした」 頭を下げ、上げる。おう、とロイ様。 「わかってはいたが、歯が立たないな。やっぱり強いわ」 「まあ、我々にとっても良い経験になるのは確かだ。また誘ってくれ」 お二人に対して有難う御座いますと返したハイン様が、そういえば、と辺りを見渡す。 「ダン・モロはご一緒ではないのですか?」 ダン・モロ様。彼も、私たちの恩人である。ハイン様と私との模擬戦闘に、二人と共に快く応じてくれたのだ。 「ああ、今頃自信喪失して燃えカスみたいになってるところだ」 「はぁ」 どうして、といった表情のハイン様に、ウィン・D様が補足する。 「接敵十数秒で戦闘不能にされたら、誰でもそうなる」 「そういうものなのですか」 「そういうもんだ」 ふむ、と考え込む仕草をしていた彼が、顔を上げる。ところで、と切り出した。 「先日のお礼を、まだ面と向かってはしていませんでした」 有難う御座います、と深々と頭を下げる彼。彼にならって、私も同じ動作。気にするな、とウィン・D様。 「これで貸し借りは無しだ」 「俺もこれで返したぜ。クラニアムについて行けなかった分、な」 顔を上げる。 「余るくらいですよ、本当に。今度は私があなた方の為に、何かしなければ」 「なら、次は俺とウィン・Dをくっつける方向で頼ッ!」 ロイ様が言い終わるよりも早く、彼のわき腹へとウィン・D様の右拳が注がれた。呻いている。 「ロ、ロイ様、大丈夫ですか?」 「滅多なことを言うんじゃない」 「そ、そんな全力で殴らんでも・・・」 ロイ様の抗議に、知らん、とウィン・D様。 「照れ隠しですよ。良かったですね、ロイ」 「こんな照れ隠しあってたまるか・・・ほとんど暴力だこれ」 ああ畜生、とロイ様が直立する。まだ痛いようで、わき腹は押さえたままだ。 「やっぱりウィンディーにもリリウムくらいの可愛らしさが欲しいぜ」 「悪かったな」 そう言うウィン・D様がどこか拗ねているようにも見えたけれど、言わないでおく。 「なんだウィンディー、拗ねてるのか?」 言わないでおいたのに、ロイ様自ら口にしていた。今度は左、鋭く振りぬいて、ロイ様がうずくまる。 「照れ隠しで決定ではないですか。おめでとう御座います、ロイ」 「君も、滅多なことを言わないでくれ」 「了解」 うずくまるロイ様にハイン様が手を貸し、引き起こす。ロイ様が大事無さそうなのを確認すると、不意に笑みが零れた。 無意識の笑み。自分自身が笑っていることに気付いて、理由を探る。 きっとこんな輪の中に、当たり前のように居られることが嬉しいんだろう。箱入りだった頃の私では、もう無いのだから。 「では、私たちはそろそろ」 ハイン様がそう伝えると、ロイ様が反応する。 「なんだ、用事か?食事にでもと思ったが」 「食事は後日、改めてこちらからお誘いしますよ。ですが今日は、リリウムを連れて行きたいところがありまして」 あー、はいはい。ロイ様がそう言って、わざとらしく肩を竦める。 「羨ましいことで」 「羨ましいでしょう。誰であろうと渡しませんけどね」 そんな彼の言葉が、嬉しくも恥ずかしい。ロイ様がニヤニヤしている。 行きましょう、リリウム。促されて、歩き出す。お二人に挨拶を済ませ、彼の隣につく。 ごゆっくりー。そう冷やかしてくるロイ様の声は、聞こえない振りをした。多分、顔は真っ赤だろうけれど。 まず向かった先は、彼の自室。それを知った途端、心拍数が最高速をマークした。え、何ですか、まさか。 どうしよう、どうしようなんて考えているうちに、少し待っていて下さいと声を掛けられた。・・・え、待つんですか? 言われた通りにしていると、すぐに彼が出てくる。右手に紙袋、それ以外の変化は見られない。 「行きましょうか」 何事も無かったかのように告げられ、歩いていってしまう。 どっと疲れたような気がした。彼を追う。残念だと思うのもきっと気のせいだ。本当に、何を考えているのだろう。 結局連れて行かれたのは、航空機の発着施設だった。 「それで、どちらへ向かうのですか?」 「到着したら、お話しますよ」 チャーター機から降り、駐機されていたヘリコプターへと足を運び、乗り込んだ。 「まさか、航空機を使うほどの遠方とは思いませんでした」 どこかへ行く、と言うことは聞いていて、けれどそれ以上のことは何も知らなかった。彼が教えてくれなかったのだ。 「今更ですが、遠出は嫌でしたか?」 「まさか。むしろ嬉しいです」 本心からそう思う。ヘリコプターが上昇していき、加速。 会話が途切れ、彼を向く。彼の眼は、外へと向いていた。 「ところで、それは何なのですか?」 彼の大事そうに抱える紙袋。こちらを向いてくれ、これですか、と彼。 「そうですね、到着したらお見せしますよ」 彼が、再び視線を外へと移す。その感慨深げな目は、何を見ているんだろう。 ヘリコプターへと乗ってから、彼の口数が少なくなってきている。彼を真似て、外を向いた。 ここは、どこなのだろう。 「申請頂いた座標はこちらですが、よろしいのですか?」 「ええ、間違いありません。汚染区域ではありませんね?」 接地したと同時に、そんなやりとり。パイロットもきっと、ここで良いのだろうかと迷ったのだろう。 「コジマ汚染は確認されていません。ドアのロックを解除しますので、そのままお待ち下さい」 音を立ててドアが開く。少し強い風が入り込んだ。砂ぼこりに、少しだけ目を細める。 「有難う御座います。では、一時間後に」 降りましょう。そう促され、先に足をつける。続いて彼。数メートル歩いたところで、ヘリコプターが飛び立った。大きな音。 強い風に身をかがめて目をつむる。細目で何とか伺えば、その風の中でも直立を続ける彼がいる。 視線はまっすぐ先へと延びて、表情は柔らかい。弧を描いていた口が動いた。その声は聞こえなかったけれど。 "懐かしいな"と、そう刻んでいるように見えた。 目を凝らした先、砂ぼこりの向こう、集落のような何かが在る。ようやく理解出来た。 ―――ここが。 手を握られ、どこかぼぅっとしていた意識が戻ってきた。行きましょう、と彼。頷いて、歩き出す。もう、声は聞こえる。 「今更訪れても、もしかしたら何の意味も無いのかもしれませんが」 彼の歩みに続き、その声に耳を傾ける。あるのは風切の音。彼の声。 「それでも、もう一度来てみたかった。貴女と一緒に、家族達に報告をしたかった」 おかしなことに付き合わせてしまいましたね。謝罪が来る。首を振る。 「私も、貴方の見てきた風景を辿ってみたいと思っていましたから」 有難う御座いますと伝えられ、こちらこそと返す。笑顔。 歩みを進めるうち、集落の姿がしっかりと目に映るようになる。朽ちたノーマルやMT、崩れた鉄骨。 「まさかここまでとは。時間の経過というのは、残酷ですね」 彼の表情を伺えば、苦笑を浮かべていた。 それがどこか悲しそうにも見えて、辛そうで、握られていた彼の手を強く握り返す。気付いた彼の顔が正面に来て、いつもの笑み。 「大丈夫ですよ。気持ちの整理は出来ていますから」 その声も無理しているように聞こえて、彼の腕を取った。距離が縮まって、影も重なる。 どうか、私の事も頼って下さい。そんな意図は伝わっただろうか。彼が一瞬目を閉じる。すぐに開かれた。 「やっぱり、優しいですね。リリウム」 立ち止まる。いつの間にか、目的地は目の前だ。風が吹いて、砂ぼこり。 「ようやく、ここへと帰ることが出来ました」 長かった、と彼。朽ちたノーマルやMT、崩れた鉄骨。近くから見ても、それは変わらない。 強い風が止んで、視界が更に開ける。立ち止まったまま、動かない。 「ただいま」 彼を向き、見上げる。いつもの優しげな表情で、そう呟いた。迎える人は居ない。けれど彼はきっと、それでもいいのだろう。 彼が辛ければ、悲しければ、私が守ってみせる。彼がそうしてくれるように、私だって。 取った腕を、もう少しだけ強く握りしめた。 どれだけそうしていただろう。今でも思い出せる光景を照らし合わせて、懐かしさを噛み締める。 もしかしたら悲しくなってしまいそうな、辛くなってしまいそうなそれでさえ、この娘の存在がそうさせない。 私は、幸せだ。 何度繰り返したかも判らないその言葉が、頭に浮かんだ。本当に、幸せだ。 強い風が来て、抱き寄せる。少し身体がこわばったけれど、すぐに柔らかなものになる。受け入れてくれるのは、幸せだ。 覗き込めば、その顔は真っ赤になっている。全くもって可愛らしい人である。 そうだ。 紙袋を漁り、取り出す。彼女がそれを捉えて、首を傾げた。 「これは?」 「―――ウィルを写したカメラです」 かつて喪った、けれど、それがここに在る。興味深そうに見詰める彼女。 「本当はフィルム以外、壊れてしまって原型を留めないほどだったのですが」 「それが、どうして?」 「壊れたカメラごと手渡して、あの写真の現像をお願いしたのがセレンだったんですよ」 オーメルの実験施設に居た頃、唯一手にしていた私物がこれだった。あれからもう、どれだけ経ったのだろう。 「では、セレン様が」 「ええ。きっと、彼女なりの祝いの品なのでしょう」 セレンが写真を手渡してくれたとき、カメラのことは何も言っていなかった。 彼女が私を認められるようになるまで、ずっと待っていてくれたのだろうか。ならこれは、証だ。 「でしたら、折角ですから何か撮ってみたいですね」 その一言に、つい驚いてしまった。どうしましたか、と尋ねられる。 "でも折角だから、何か撮ってみたいですね"。 光景が重なっていく。良く見ていた夢が思い出されて、それは妹の言葉の筈で、けれど、それもここに在る。 呆けていたのだろうか、腕の中で何かが動く感触に意識を送る。心配そうに私を見上げる、彼女の顔。 かつての光景と切り離されたようで、或いは重なっているようで、不思議な感覚を覚える。 笑みを向け、息を吸い込んだ。 「では、貴女を撮りましょうか」 その一言に、わ、私ですか、と必要以上に驚く彼女から離れる。数歩進んだところで、キャンプを背に彼女を向く。 ファインダーを覗き、風は止んでいて、視界は良好。 あの時もそうだった。妹の、慌てていてぎこちない、可愛らしい笑顔がそこにあった。 彼女の姿を捉えて、ピントを合わせる。浮かび上がったのは、砂漠を背景にしても褪せない様な、可愛らしい笑顔。 少しだけぎこちないそれを、私はもう、二度と手放さない。 それが、私の答えなのだから。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:20000くらい+&counter(total); ---- **コメント [#b17b25e1] - 大変お待たせしてしまいました、エピローグになります。これ以降は後日談の更新になりますので、本編では一区切り、という形になります。 と、いう訳でお楽しみ頂けましたでしょうか。慣れないジャンルの長編と言うことで肩肘張って書いていましたが、沢山の閲覧数や感想に励まされて完走することが出来ました。本当に有難う御座いました。幸せっす・・・ では、後日談を書いてきます。本編後でだだ甘なのをご所望された気がするので、がっつり書いてきますw -- [[雨晴]] &new{2009-09-14 (月) 17:27:30}; - お疲れさまでした。後日談を待ち望んでおります。 -- &new{2009-09-14 (月) 17:31:52}; - おいおい、この時点ですでに顔がにやけるんだが後日談はどれだけ甘いんだ。すっごく楽しみにしてます。 -- &new{2009-09-14 (月) 18:09:30}; - あぁ…ちくしょう、この時点で俺のAP七割が吹き飛んだぜ…後日談読んだら逆流するのは確定的に明らか。楽しみに待っております。 -- &new{2009-09-14 (月) 18:24:06}; - セレンの言葉にゾクッとして、リリウム視点のテンパりっぷりにニヤニヤして、最後のハインさんで泣きそうになった・・・このカップルを無条件に祝福できるぜ俺は。何よりも作者、本当にお疲れ様。素晴らしい作品でした。畜生、俺に画力があれば最後のリリウムの写真を描くことが出来るのに・・・ -- &new{2009-09-14 (月) 19:12:06}; - 乙でした!これでも十分ゲロ甘なのに後日談楽しみすぎるw -- &new{2009-09-14 (月) 20:09:59}; - よーしこの調子でドロ甘あたりを行ってみようか・・・ -- &new{2009-09-14 (月) 21:57:34}; - あんまいなぁwww後日談もじゃんじゃんバリバリやっちゃってー! -- &new{2009-09-15 (火) 00:01:58}; - てっきり麺類コンビみたいに一緒に戦っていくと思っていたけど、よく考えたら今のハインの動きに付いて行くのはキツイか。それにリリウムはオペレーターだから安全だし、ハインも気が楽か。戦場には万が一ということもあるから。 -- &new{2009-09-15 (火) 01:55:41}; - 甘過ぎる・・・修正は必要ない -- &new{2009-09-15 (火) 09:13:40}; - リリウムが可愛すぎるw完走乙樽!更新早い、楽しい、読みやすいで無茶苦茶楽しめました!後日談、楽しみにしてます! -- &new{2009-09-15 (火) 17:51:06}; - お疲れ様でした。後日談にも期待です -- &new{2009-09-15 (火) 20:03:12}; - 後日談でさらにゲロ甘になるだと?あり得るのか、こんな小説が?ハッハー!まだまだいけるぜ、メルツェ逆流する!ギャアアアアア!!! -- &new{2009-09-16 (水) 08:48:52}; - 例の番外編の件もあるし、このハッピーエンドは素晴らしいな -- &new{2009-09-17 (木) 19:25:36}; - 甘ぁーーいぜメツェエエエエエル!! -- &new{2009-09-24 (木) 19:37:39}; - ハッピーエンドだ、 -- &new{2009-12-21 (月) 21:04:55}; - イヤッホォォォォォ!ハッピーエンドだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!甘すぎるぜぇぇぇぇぇ!! -- &new{2009-12-21 (月) 21:08:34}; - 神だ、神がいる。ありがとうございました。 -- &new{2010-01-10 (日) 16:51:27}; - ドロ甘を希望するぜぇぇぇぇ!!!!メルツェェェェェェェェェル!!!!! -- &new{2010-03-11 (木) 05:39:02}; - 甘い!甘過ぎる!甘党の俺から見ても圧倒的に甘いぞぉおおおおお!!!! -- &new{2010-03-12 (金) 01:52:12}; - 良い、凄く良い! -- &new{2010-03-16 (火) 23:52:52}; - 生身なら殺せるってことで刺客が送り込まれるんじゃないかってびくびくしながら読んでた俺は心配性すぎるか… -- &new{2010-05-10 (月) 22:12:06}; - なぜか死にたくなったどうしてだろう… -- &new{2010-05-15 (土) 22:29:22}; - 素晴らしい。作者に心からの謝意を表する。 -- &new{2012-03-18 (日) 00:31:03}; - 後日談の始まりだ、 -- &new{2013-05-22 (水) 22:54:09}; - 誇ってくれ、それが… -- &new{2014-01-17 (金) 21:44:25}; - 神カ? -- &new{2014-02-14 (金) 23:49:08}; - 神カ? -- &new{2014-02-14 (金) 23:50:24}; #comment ---- RIGHT:[[小説へ戻る>小説]]
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[[小説/長編]] #setlinebreak Written by 雨晴 ---- 「セレン」 掛けられた声に、セレン・へイズは振り向いた。そこには男が居て、その男こそ、彼女の見出したリンクスである。 「お会いする事が出来て良かった。何分急な話でしたから、もうお会い出来ないかのと思いましたよ」 「さすがに何も言わず出て行く筈が無いだろう。荷造りが忙しいだけだ」 「いえ、貴女ならやりかねませんから」 その言葉の後、二人が軽く笑みを浮かべる。別離に対する悲しみなど感じさせず、ただ静かな廊下で会話を交わす。 「引き止めても、無駄なのでしょう?」 「ああ」 簡単に頷く。やはり、長年の付き合いに対する感情などは見出せない。 だが、きっとそれで良いのだろう。 「どうしてかと尋ねても?」 疑問に、そうだな、と返す。無言の間が流れ、男も急かさない。 「世話の焼けた男がようやく、私が居ずとも生きていけるようだから。と、言ったところか」 「誰のことです?」 「誰のことだと思う?」 言って、再び互いに笑みを交わす。男が目を閉じ、開け、切り替えた。 「これから、貴女はどうするのですか?」 それは、男にとって最も気になることだ。セレン・ヘイズは間違いなく恩人であるのだから。 ふむ、と考えるような仕草。 「まあ、またリンクスを育てるか。或いは、静かに余生を過ごすさ」 「では、今生の別れとはいかないのですね」 良かった、と零れたのをセレンが拾う。 「お互い、生きていればいつでも会えるだろう。お前は死なないだろうしな」 「それもそうですね」 「・・・ああ、そういえば、だ」 今度はセレンが切り替えた。セレンの無表情に、男も表情を変える。 「お前の指導者か、或いはオペレーターとして、最後の忠告をしといてやる」 頷く。 「伺います」 「お前の新しいパートナーだが、ああいうタイプは押しに弱いが繊細だから気をつけろ」 「・・・は?」 「それに、怒らせるなよ。ああいう女は普段怒らない分、性質が悪いからな」 男の真面目な表情が崩れた。セレンが表情を軽い笑みに戻し、雰囲気が数十秒前のそれに戻る。 「貴女からそのような指導を賜るとは」 「意外か?」 ええ、と肯定が返る。いくらかの沈黙が流れ、セレンが男の名を呼んだところでそれが途切れた。 「お前は、今のお前自身に満足しているか?」 それは、男にとっては唐突と言える質問だ。それでも考える。過去と現在を照らし、目を伏せ、答えを探る。 「満足、という括りで表現できるかと言うと、疑問です」 そう言って、視線をセレンに合わせる。それは真っ直ぐに彼女へと伸びて、それを彼女も受け止めた。 「ですが少なくとも、今の私は幸せです。本当に、誰よりも、そうである自信が有りますから」 「―――そうか」 視線を受け止めていたセレンの目が閉じられる。噛み締めるような表情の後には、いつもの表情が戻っていた。 「少し、そこで待っていろ」 言い終わるよりも早く男に背を向け、彼女が廊下の奥へと進んでいく。 自身の部屋へと進んだ彼女が男の所へ戻った時には、左手に小さめの紙袋を携えていた。突き出す。 「受け取れ」 短く言って、無理矢理に手渡す。中身を伺った男の表情が途端、驚きへと変わる。 それは、男にとっては無くしてしまった筈の物。傷だらけで、けれど原型はそこに在る。 どうして。そんな疑問が浮かぶ。 「ハイン」 呼びかけに、ハインと呼ばれた男が顔を上げた。見ると、セレン・ヘイズが踵を返すところだ。 「成就しろよ、お前の答えを」 その言葉は、いつか耳にした。クラニアム戦開始以前、彼女の口から漏れた言葉だ。目を見開く。 あの時とは、少しだけ意味が違うのだろう。 彼の右手に携えられた紙袋が揺れる。その重みは、久しぶりに感じるものだ。 ハインが頭を深々と下げるのを、きっと彼女は見てはいない。それでも届いているであろうそれを、彼は長く長く続けていた。 「ハイン様」 声を掛け、近寄っていく。シミュレータールームから出てきた彼を迎え入れ、お疲れ様でしたと労う。 「有難う御座います。問題はありませんか?」 問い掛けに肯定、大丈夫ですと返す。柔和な笑顔。それよりも。 「その、どうでしたでしょうか・・・」 その疑問は先のシミュレーションに対するもの。彼が、そうですね、と考えるような表情をして、すぐに向き直る。 「セレンとは全く別物のオペレーションで、最初は戸惑いましたね」 戸惑い、その言葉に落ち込みかける。かけたところで、でも、と否定が入った。 「慣れてきてからは、的確な指示や戦力分析でとても戦い易かったですよ。勿論、世辞抜きで。さすがです、リリウム」 彼のてのひらが頭に載り、撫でられる。認めて頂けた嬉しさと、その心地よさから頬が緩んだ。 「しかし、私には贅沢ですよ。貴女にオペレートして頂けるのはとても嬉しいのですが」 「そんな事ありません。私だってハイン様が無事で居られるように、出来ることはしたいのです」 セレン様の代わりになれるかどうかは心配だが、彼がそうであるように、私も私に出来ることがしたい。 彼のオペレートもそうだし、必要であればアンビエントだって駆り出したって良い。 私たちは、お互いに生きていなければならないのだから。 「ですから、贅沢だなんて思わないで下さい。私だって、貴方の隣に居られるなんて、これ以上の贅沢は無いんですよ?」 自分の言動に少し恥ずかしくなって、けれど視線は逸らさない。本心なのだから。 彼の手が、私の頭の上に置かれたまま止まる。視線が交わり、会話が途切れる。 ・・・あれ?これ、実は"良い雰囲気"と呼ばれるものなのでしょうか? 「リリウム・・・」 「は、はい!?」 声が上ずる。ああもうどうしてこういう状況への対応パターンを学習してこなかったのでしょう。 どうして良いものか分からず、取り敢えず脳内で今後予測される事象をシミュレート。いつか読んだ小説の、一連の流れが浮かぶ。 ・・・あ、わかりました、目を閉じれば良いんですね。いえちょっと待って下さいここは往来の真中ですよ? 「あーやだやだ。目に毒だから、そうゆうの余所でやってくれないですか?お二人さん」 脳内のシミュレーションが、良く知っている男性の声に遮られた。後ろに1歩飛び退く。声を出して驚いてしまった。 「ロ、ロイ様にウィン・D様、いえ、これは、違うんです」 「何がだよ。どっからどう見てもアレじゃないか」 「ロイ。ウィン・Dを連れて後ろを向いて、速やかに今来た道を戻って下さい。今現在、とても重要な局面にありまして」 とても重要な局面って何ですか。と言うか、何を言っているんですか。うるせえよ、とロイ様。笑っている。 「君達が何をしようが構わないが、頼むから人気の無いところでやってくれ。精神衛生上、あまり芳しくない」 ウィン・D様に真顔で反応され、ハイン様は渋々と肯定する。どうして渋々としているんですか。 「そ、それよりもお二人とも、お疲れ様でした」 頭を下げ、上げる。おう、とロイ様。 「わかってはいたが、歯が立たないな。やっぱり強いわ」 「まあ、我々にとっても良い経験になるのは確かだ。また誘ってくれ」 お二人に対して有難う御座いますと返したハイン様が、そういえば、と辺りを見渡す。 「ダン・モロはご一緒ではないのですか?」 ダン・モロ様。彼も、私たちの恩人である。ハイン様と私との模擬戦闘に、二人と共に快く応じてくれたのだ。 「ああ、今頃自信喪失して燃えカスみたいになってるところだ」 「はぁ」 どうして、といった表情のハイン様に、ウィン・D様が補足する。 「接敵十数秒で戦闘不能にされたら、誰でもそうなる」 「そういうものなのですか」 「そういうもんだ」 ふむ、と考え込む仕草をしていた彼が、顔を上げる。ところで、と切り出した。 「先日のお礼を、まだ面と向かってはしていませんでした」 有難う御座います、と深々と頭を下げる彼。彼にならって、私も同じ動作。気にするな、とウィン・D様。 「これで貸し借りは無しだ」 「俺もこれで返したぜ。クラニアムについて行けなかった分、な」 顔を上げる。 「余るくらいですよ、本当に。今度は私があなた方の為に、何かしなければ」 「なら、次は俺とウィン・Dをくっつける方向で頼ッ!」 ロイ様が言い終わるよりも早く、彼のわき腹へとウィン・D様の右拳が注がれた。呻いている。 「ロ、ロイ様、大丈夫ですか?」 「滅多なことを言うんじゃない」 「そ、そんな全力で殴らんでも・・・」 ロイ様の抗議に、知らん、とウィン・D様。 「照れ隠しですよ。良かったですね、ロイ」 「こんな照れ隠しあってたまるか・・・ほとんど暴力だこれ」 ああ畜生、とロイ様が直立する。まだ痛いようで、わき腹は押さえたままだ。 「やっぱりウィンディーにもリリウムくらいの可愛らしさが欲しいぜ」 「悪かったな」 そう言うウィン・D様がどこか拗ねているようにも見えたけれど、言わないでおく。 「なんだウィンディー、拗ねてるのか?」 言わないでおいたのに、ロイ様自ら口にしていた。今度は左、鋭く振りぬいて、ロイ様がうずくまる。 「照れ隠しで決定ではないですか。おめでとう御座います、ロイ」 「君も、滅多なことを言わないでくれ」 「了解」 うずくまるロイ様にハイン様が手を貸し、引き起こす。ロイ様が大事無さそうなのを確認すると、不意に笑みが零れた。 無意識の笑み。自分自身が笑っていることに気付いて、理由を探る。 きっとこんな輪の中に、当たり前のように居られることが嬉しいんだろう。箱入りだった頃の私では、もう無いのだから。 「では、私たちはそろそろ」 ハイン様がそう伝えると、ロイ様が反応する。 「なんだ、用事か?食事にでもと思ったが」 「食事は後日、改めてこちらからお誘いしますよ。ですが今日は、リリウムを連れて行きたいところがありまして」 あー、はいはい。ロイ様がそう言って、わざとらしく肩を竦める。 「羨ましいことで」 「羨ましいでしょう。誰であろうと渡しませんけどね」 そんな彼の言葉が、嬉しくも恥ずかしい。ロイ様がニヤニヤしている。 行きましょう、リリウム。促されて、歩き出す。お二人に挨拶を済ませ、彼の隣につく。 ごゆっくりー。そう冷やかしてくるロイ様の声は、聞こえない振りをした。多分、顔は真っ赤だろうけれど。 まず向かった先は、彼の自室。それを知った途端、心拍数が最高速をマークした。え、何ですか、まさか。 どうしよう、どうしようなんて考えているうちに、少し待っていて下さいと声を掛けられた。・・・え、待つんですか? 言われた通りにしていると、すぐに彼が出てくる。右手に紙袋、それ以外の変化は見られない。 「行きましょうか」 何事も無かったかのように告げられ、歩いていってしまう。 どっと疲れたような気がした。彼を追う。残念だと思うのもきっと気のせいだ。本当に、何を考えているのだろう。 結局連れて行かれたのは、航空機の発着施設だった。 「それで、どちらへ向かうのですか?」 「到着したら、お話しますよ」 チャーター機から降り、駐機されていたヘリコプターへと足を運び、乗り込んだ。 「まさか、航空機を使うほどの遠方とは思いませんでした」 どこかへ行く、と言うことは聞いていて、けれどそれ以上のことは何も知らなかった。彼が教えてくれなかったのだ。 「今更ですが、遠出は嫌でしたか?」 「まさか。むしろ嬉しいです」 本心からそう思う。ヘリコプターが上昇していき、加速。 会話が途切れ、彼を向く。彼の眼は、外へと向いていた。 「ところで、それは何なのですか?」 彼の大事そうに抱える紙袋。こちらを向いてくれ、これですか、と彼。 「そうですね、到着したらお見せしますよ」 彼が、再び視線を外へと移す。その感慨深げな目は、何を見ているんだろう。 ヘリコプターへと乗ってから、彼の口数が少なくなってきている。彼を真似て、外を向いた。 ここは、どこなのだろう。 「申請頂いた座標はこちらですが、よろしいのですか?」 「ええ、間違いありません。汚染区域ではありませんね?」 接地したと同時に、そんなやりとり。パイロットもきっと、ここで良いのだろうかと迷ったのだろう。 「コジマ汚染は確認されていません。ドアのロックを解除しますので、そのままお待ち下さい」 音を立ててドアが開く。少し強い風が入り込んだ。砂ぼこりに、少しだけ目を細める。 「有難う御座います。では、一時間後に」 降りましょう。そう促され、先に足をつける。続いて彼。数メートル歩いたところで、ヘリコプターが飛び立った。大きな音。 強い風に身をかがめて目をつむる。細目で何とか伺えば、その風の中でも直立を続ける彼がいる。 視線はまっすぐ先へと延びて、表情は柔らかい。弧を描いていた口が動いた。その声は聞こえなかったけれど。 "懐かしいな"と、そう刻んでいるように見えた。 目を凝らした先、砂ぼこりの向こう、集落のような何かが在る。ようやく理解出来た。 ―――ここが。 手を握られ、どこかぼぅっとしていた意識が戻ってきた。行きましょう、と彼。頷いて、歩き出す。もう、声は聞こえる。 「今更訪れても、もしかしたら何の意味も無いのかもしれませんが」 彼の歩みに続き、その声に耳を傾ける。あるのは風切の音。彼の声。 「それでも、もう一度来てみたかった。貴女と一緒に、家族達に報告をしたかった」 おかしなことに付き合わせてしまいましたね。謝罪が来る。首を振る。 「私も、貴方の見てきた風景を辿ってみたいと思っていましたから」 有難う御座いますと伝えられ、こちらこそと返す。笑顔。 歩みを進めるうち、集落の姿がしっかりと目に映るようになる。朽ちたノーマルやMT、崩れた鉄骨。 「まさかここまでとは。時間の経過というのは、残酷ですね」 彼の表情を伺えば、苦笑を浮かべていた。 それがどこか悲しそうにも見えて、辛そうで、握られていた彼の手を強く握り返す。気付いた彼の顔が正面に来て、いつもの笑み。 「大丈夫ですよ。気持ちの整理は出来ていますから」 その声も無理しているように聞こえて、彼の腕を取った。距離が縮まって、影も重なる。 どうか、私の事も頼って下さい。そんな意図は伝わっただろうか。彼が一瞬目を閉じる。すぐに開かれた。 「やっぱり、優しいですね。リリウム」 立ち止まる。いつの間にか、目的地は目の前だ。風が吹いて、砂ぼこり。 「ようやく、ここへと帰ることが出来ました」 長かった、と彼。朽ちたノーマルやMT、崩れた鉄骨。近くから見ても、それは変わらない。 強い風が止んで、視界が更に開ける。立ち止まったまま、動かない。 「ただいま」 彼を向き、見上げる。いつもの優しげな表情で、そう呟いた。迎える人は居ない。けれど彼はきっと、それでもいいのだろう。 彼が辛ければ、悲しければ、私が守ってみせる。彼がそうしてくれるように、私だって。 取った腕を、もう少しだけ強く握りしめた。 どれだけそうしていただろう。今でも思い出せる光景を照らし合わせて、懐かしさを噛み締める。 もしかしたら悲しくなってしまいそうな、辛くなってしまいそうなそれでさえ、この娘の存在がそうさせない。 私は、幸せだ。 何度繰り返したかも判らないその言葉が、頭に浮かんだ。本当に、幸せだ。 強い風が来て、抱き寄せる。少し身体がこわばったけれど、すぐに柔らかなものになる。受け入れてくれるのは、幸せだ。 覗き込めば、その顔は真っ赤になっている。全くもって可愛らしい人である。 そうだ。 紙袋を漁り、取り出す。彼女がそれを捉えて、首を傾げた。 「これは?」 「―――ウィルを写したカメラです」 かつて喪った、けれど、それがここに在る。興味深そうに見詰める彼女。 「本当はフィルム以外、壊れてしまって原型を留めないほどだったのですが」 「それが、どうして?」 「壊れたカメラごと手渡して、あの写真の現像をお願いしたのがセレンだったんですよ」 オーメルの実験施設に居た頃、唯一手にしていた私物がこれだった。あれからもう、どれだけ経ったのだろう。 「では、セレン様が」 「ええ。きっと、彼女なりの祝いの品なのでしょう」 セレンが写真を手渡してくれたとき、カメラのことは何も言っていなかった。 彼女が私を認められるようになるまで、ずっと待っていてくれたのだろうか。ならこれは、証だ。 「でしたら、折角ですから何か撮ってみたいですね」 その一言に、つい驚いてしまった。どうしましたか、と尋ねられる。 "でも折角だから、何か撮ってみたいですね"。 光景が重なっていく。良く見ていた夢が思い出されて、それは妹の言葉の筈で、けれど、それもここに在る。 呆けていたのだろうか、腕の中で何かが動く感触に意識を送る。心配そうに私を見上げる、彼女の顔。 かつての光景と切り離されたようで、或いは重なっているようで、不思議な感覚を覚える。 笑みを向け、息を吸い込んだ。 「では、貴女を撮りましょうか」 その一言に、わ、私ですか、と必要以上に驚く彼女から離れる。数歩進んだところで、キャンプを背に彼女を向く。 ファインダーを覗き、風は止んでいて、視界は良好。 あの時もそうだった。妹の、慌てていてぎこちない、可愛らしい笑顔がそこにあった。 彼女の姿を捉えて、ピントを合わせる。浮かび上がったのは、砂漠を背景にしても褪せない様な、可愛らしい笑顔。 少しだけぎこちないそれを、私はもう、二度と手放さない。 それが、私の答えなのだから。 ---- now:&online; today:&counter(today); yesterday:&counter(yesterday); total:20000くらい+&counter(total); ---- **コメント [#b17b25e1] - 大変お待たせしてしまいました、エピローグになります。これ以降は後日談の更新になりますので、本編では一区切り、という形になります。 と、いう訳でお楽しみ頂けましたでしょうか。慣れないジャンルの長編と言うことで肩肘張って書いていましたが、沢山の閲覧数や感想に励まされて完走することが出来ました。本当に有難う御座いました。幸せっす・・・ では、後日談を書いてきます。本編後でだだ甘なのをご所望された気がするので、がっつり書いてきますw -- [[雨晴]] &new{2009-09-14 (月) 17:27:30}; - お疲れさまでした。後日談を待ち望んでおります。 -- &new{2009-09-14 (月) 17:31:52}; - おいおい、この時点ですでに顔がにやけるんだが後日談はどれだけ甘いんだ。すっごく楽しみにしてます。 -- &new{2009-09-14 (月) 18:09:30}; - あぁ…ちくしょう、この時点で俺のAP七割が吹き飛んだぜ…後日談読んだら逆流するのは確定的に明らか。楽しみに待っております。 -- &new{2009-09-14 (月) 18:24:06}; - セレンの言葉にゾクッとして、リリウム視点のテンパりっぷりにニヤニヤして、最後のハインさんで泣きそうになった・・・このカップルを無条件に祝福できるぜ俺は。何よりも作者、本当にお疲れ様。素晴らしい作品でした。畜生、俺に画力があれば最後のリリウムの写真を描くことが出来るのに・・・ -- &new{2009-09-14 (月) 19:12:06}; - 乙でした!これでも十分ゲロ甘なのに後日談楽しみすぎるw -- &new{2009-09-14 (月) 20:09:59}; - よーしこの調子でドロ甘あたりを行ってみようか・・・ -- &new{2009-09-14 (月) 21:57:34}; - あんまいなぁwww後日談もじゃんじゃんバリバリやっちゃってー! -- &new{2009-09-15 (火) 00:01:58}; - てっきり麺類コンビみたいに一緒に戦っていくと思っていたけど、よく考えたら今のハインの動きに付いて行くのはキツイか。それにリリウムはオペレーターだから安全だし、ハインも気が楽か。戦場には万が一ということもあるから。 -- &new{2009-09-15 (火) 01:55:41}; - 甘過ぎる・・・修正は必要ない -- &new{2009-09-15 (火) 09:13:40}; - リリウムが可愛すぎるw完走乙樽!更新早い、楽しい、読みやすいで無茶苦茶楽しめました!後日談、楽しみにしてます! -- &new{2009-09-15 (火) 17:51:06}; - お疲れ様でした。後日談にも期待です -- &new{2009-09-15 (火) 20:03:12}; - 後日談でさらにゲロ甘になるだと?あり得るのか、こんな小説が?ハッハー!まだまだいけるぜ、メルツェ逆流する!ギャアアアアア!!! -- &new{2009-09-16 (水) 08:48:52}; - 例の番外編の件もあるし、このハッピーエンドは素晴らしいな -- &new{2009-09-17 (木) 19:25:36}; - 甘ぁーーいぜメツェエエエエエル!! -- &new{2009-09-24 (木) 19:37:39}; - ハッピーエンドだ、 -- &new{2009-12-21 (月) 21:04:55}; - 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