小説/長編

Written by えむ


『初見となる。私はマクシミリアン・テルミドールだ』

 そのメールは、その一言から始まった。
 カラードを経由せず、セレンではなくレックスの端末に直接送られてきた「依頼」。それはアルテリアの一つであるウルナを襲撃するという前代未聞のものだった。
 その内容一つで、レックスは全てを察する。各地のアルテリアを襲撃していたのは、まさに今メールをしてきている男のグループであり、この男こそがリーダーなのだと。
 唖然とする中、メールのメッセージはさらに続く。

『我々が行おうとしているのはクレイドルの前提を覆す…明確な反逆行為だ。それを理解した上で私の言葉を聞いてくれ』

 依頼だけかと思えば、さらに何か続く話があるらしい。そのままレックスは、静かに耳を傾ける。

『一部の者はクレイドルに逃れて清浄な空に暮らし、一部の者は地上に残されて汚染された大地に暮らす。クレイドルを維持するために大地の汚染は更に深刻化し、それは清浄な空をすら侵食しはじめている。クレイドルは矛盾を抱えた延命装置にすぎない。このままでは人は活力を失い、諦観の内に壊死するだろう。』

「………」

『これは扇動だが・・・同時に事実だ』

 事実。その事実は、地上で戦ってきたレックスから見ても認めざるを得ない事実だった。空すらも侵食されていると言うのは、さすがに初耳だったが。

『よく考えた上で、答えを教えてほしい。以上だ』

 ボイスメールが終わる。最後に、恐らく「返事」を聞くためだろう。一つの連絡用と思われるアドレスが画面に表示されていた。






「それで、お前はどうするつもりだ?」

 レックスに呼ばれ、メールを見せられたセレンの第一声は、そんな問いかけの言葉だった。

「返事は決まってる。マクシミリアン・テルミドールの言う事は事実だし、共感できるものもある。言われるまでは気づかなかったけど、確かに彼の言うとおりだしな」
「じゃあ、ORCAに合流すると…?」
「…いや。いくら共感できるものがあっても、やり方が気に入らない。人類を助けるためとは言え、クレイドルを落すことになるやり方なんて、認めるわけにいかない」

 落ち着いた声でレックスは答える。だが、その表情は険しい。

「とは言え、今の今までのことを考えたら、企業に任せていたら……間違いなく、彼の言った通りになるのは確実なんだろうな」

 企業は、マクシミリアン・テルミドールの言った問題を「見ていない」振りをしている。それはそれで―――問題だ。
 レックスは椅子の背もたれに寄りかかりながら、静かに天井を見上げた。そして視線をあわせないまま、セレンに一つ尋ねる。

「なぁ、セレン。ただの一リンクスに、企業を動かすことって出来ると思うか?」
「レックス……。お前……」

 毎度のように思いもつかないような戦術や発想を考え付くレックス。何気に、彼との付き合いが長いからこそ、セレンはレックスがいつものように「何か」を企んでいることに、すぐに気がついた。

「一体……何を考えてる?」

 質問に対する質問。その質問にレックスは視線をあわせぬまま、答える。

「クレイドルを守りつつ、同時に今の状況を打開できる方法はないかな…って」
「……本気か?」
「方法がないわけじゃない。企業連が、その気になれば―――いくらでも手はあるはずだし。ただ、どうがんばっても一リンクスじゃ出来ることが限られてくるんだよね」
「あたりまえだ。それは個人でどうこう出来るスケールの話ではないのだぞ」
「…わかってる。だから、考えてるんだ」

 そう答え、レックスは黙り込んでしまった。
 沈黙による静寂がその場を包み、短くも長い時間が過ぎていく。やがて、レックスがポツリと呟く。

「ラインアーク…」
「…む…?」
「ラインアークだよ。企業と対等に立てる可能性があるのは、あそこくらいだ」

 レックスが身を起こして告げる。それに対し、セレンは難しい表情を浮かべる。

「今のラインアークの現状では、到底無理な話だな。ホワイトグリントを失って以来、ラインアークの状況は、さらに不安定になってる。企業と対等に立つなど、到底無理だ。そもそもラインアークの立場を企業連と対等にまで、どうやって引き上げるつもりだ」
「どうやってって。リンクスでできることなんて、たかが知れてるじゃないか」

 リンクスに出来ること。それはネクストを動かすことだ。そして、ネクストを動かして、ラインアークの存在を引き上げると言う事は―――

「レックス。お前…第三のホワイトグリントにでも、なるつもりか…?」
「ホワイトグリントにはなれないよ。だけど……別の何かにはなれるかもしれない」

 そう言って、レックスが意味深な笑みを浮かべる。
 
「言うまでもなく、これから企業連とORCAは衝突することになる。だったら、それを利用しない手はない。企業のために戦うとしても、それがラインアークのリンクスなら、向こうだってラインアークを無視できなくなるだろう?」

 そうなれば必然的にラインアークの立場は高くなる。そして、レックスが何か大きな働きをすればするほど、その貴重な戦力を派遣したということで、ラインアークの存在は大きくなるのだ。

「……なんというか。お前が言うと、本当に出来そうだから怖いよ」
「それは、褒め言葉と取っておくよ。まぁ、そんなわけだから――――」
「私は止めんよ。……お前が決めた道だ。ただし最後まで貫けよ?」
「ありがと。それじゃあ返事をしてくる」

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

「返事はなんと…?」

 通信が終わるのを見計らっていたのだろう。通信が切れると同時に声をかけられ、彼マクシミリアン・テルミドールは静かに後ろを振り返った。

「メルツェルか。…「そちらの言い分はわかるが、やり方が気に入らないから断る」。そう言われたよ」
「そうか。あまり敵には回したくなかったのだが残念だ」
「お前がそう言うのは珍しいな」
「私自身が謀略家なのでね。なんとなく同類ということでわかるんだよ。―――ああいうタイプは、突拍子もないことを平気でしてくるからな。敵に回すと、大抵面倒なんだ」
「なるほど。だが、そう言っても仕方ない。行動に移すとしよう。クローズ・プランを」

 そう告げ、テルミドールは席から静かに立ち上がるのだった。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 専属のリンクスとして、ラインアークに所属する。その旨がレックスからカラードへと通達があったのは、次の日のことだった。
 そして数日を経てラインアークへと拠点を移したレックスはセレンと共に、ラインアークの指導者であるブロック・セラノと面会。その際にレックスはラインアークに来た「理由」と一世一代の賭けとなる「策」を告げる。
 その内容に驚きこそしたものの、ブロック・セラノはレックスの賭けに乗ることを承諾。出来る限り協力を惜しまないことを約束してくれた。そして、その会談が終わって、レックスは一人。ある人物の元を訪ねていた。

「…君か。直接会うのは初めてだな」

 車椅子に腰掛けたその人物は、レックスを一目見るなり、そう口を開いた。

「俺を助けてくれたそうだな、ありがとう。いくら感謝を言っても足りない気分だ」
「いや、その……。元気そうでなによりと言うか…」
「はははは。おかげさまでね。最もこんな身体だが」

 レックスの言葉に、苦笑いを浮かべる。

「それで?俺に何か用があるんじゃないか?」
「実は、頼みたいことがあるんだ」

 そこまで告げ言葉を切る。そして大きく深呼吸し、決意を新たに口を開く。

「僕を鍛えて欲しいんだ。元レイヴンのリンクス。そしてAMS適正が低いにも関わらず、カラード最強とも言われるほど強かった。色々な意味で、目指す姿に一番近いのがあなたなんだ」
「一つ聞こう。君はなぜ、強くなりたいと思ってるんだ?」

 彼が尋ねる。その眼差しは、まっすぐにレックスへと向けられていた。身体がボロボロなのにも関わらず、その瞳に宿る何かは全く衰えていないようだった。
 その視線を正面から受けつつも、レックスは全く物怖じせず、そして答える。その返事を聞いた彼の眼が丸くなる。そして、いきなり吹き出した。
 予想外の反応にレックスが唖然とする中、彼は笑いながら答える。

「いや、すまない。少し予想外だったと言うか…。不意を突かれてしまったと言うか。だけど…悪くない。ある意味、好感すら持てるよ」

 笑いをかみ殺しながら、さらに言葉を続ける。

「とりあえずわかった。君が俺の代わりにラインアークも守ってくれることは、フィオナからも話は聞いている。それなら、俺は俺で出来ることをするだけだ。―――ただし、時間もあまりないだろうから、それなりの覚悟はしてもらうぞ?」
「……やっぱりスパルタ…とか?」
「それに近いと思ってくれればいい。じゃあ、さっそくだが始めようか。俺が使ってた訓練用のシミュレーターがある。こっちだ」

 そう言って、レックスを伴ってシミュレーターのある部屋へと向かい、さっそくその日からレックスの猛特訓が始まった。
 具体的には、彼の動きを元に構築されたAI制御のホワイトグリントとの対戦を主体とした、連戦に次ぐ連戦である。
 そして、特訓に明け暮れる日々が続く中、レックスの元に一つの依頼が届いた。

 アルテリア・カーパルスの防衛ミッションである。

To Be Countinue……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 ラインアークルートに踏み込んでしまった、えむです。
 まぁさしあたって、しばらくは企業連ルートと大差ありませんが…。いずれに色々やりたい放題し始めるかと…。
 そしてレックス君の最終強化プラン発動。このために生存させたと言っても過言ではない。でもガチタン&グレ二つは変わらないのでご安心くださいね(ぉ
 
 では、前回のコメントレスをば。

>ORCAに行ったらヴァオーとタンクについて語り合いそうだなぁ…続きが気になるぜ、メルツェェェル
 ORCAルートではなかったため、タンク談義はありません。残念…。

>スタルカにはダブル菊でオーバーキルしていたなぁ、彼女も。そう言えば、あのフルバーストFCS、トーラス製だとGA側の有澤さんは、軽く不味いような。あ、有澤重工あれをベースに独自開発すれば…!!
 有澤重工関係者:その発想はなかった!! さっそく研究せねば!!

>うp主、老神二門で何をするつもりだ。
 ただ撃って焼き尽くすのみ。それしか能がない。

>「糠平と老神の4発同時発射」かいたけど、あくまで「フォートネクスト3門+雷電1門」の計算だったんだぜ  なんか変なネタを与えてしまったような気がひしひしと…
 …あー、そういう意味だったんですか…。でも大丈夫。あと変なネタではありません。素晴らしいネタです。本当にありがとう!!

>作者の発想は新しい・・・惹かれるな・・・
 最高の褒め言葉です。

>ちょっと待て、老神2問ってどうやって乗っける。ガンタンクみたいに常時展開とかになるの?・・・それはそれで良いかもしれんな
 天啓…!!←密かにどうするか悩んでいた人。
 それで行きましょう(ぇ

>シャミアさんが、東方のUSCこと、風見幽香に見えてきた。特に最後のやり取りと見えていると…
 Sっ気満載と言う意味では、確かにそんな気も…。最も、意識はしてませんでしたが(汗

>新しい話の更新乙です。・・・ところで、第七支部、放棄するんですか・・・?せめて防衛記録3のフェイさんの活躍をもっと見たかったですね。個人的に言うと。まあ、全てはえむさんの思うがままですし。これからもがんばってください。そしてえむは新たな空で飛び続けるか・・・お前の答えだ、私はそれで良いさ。
 あちらのことに関しては、あちらのブログにて語っているので、こちらでは敢えて何も言いません。…ただ、こっちはこっちでがんばるつもりなので生暖かく見守っていただければ幸いです。。

>レーダーには頼らないこと・・・というか信じすぎないことって方が正しいかな?ところでレックスはグレネードは外さないとしても・・・他の武装はロケット&とっつき装備の方が実は強いんじゃないか?
 基本的にFCSなしでは、まず当てられません。大抵の機体は三次元機動ですし。障害物が多くて行動制限されるからこその、ノーロック当てだったりします。
 PA-N51みたいな場所だと、それでも強そうですがw

>この展開…まさかお茶会のオーメルの新代表はシャミアか!?なーんて…無いですよね?
 そういやダリオさん、お茶会でれないんでしたねぇ。…やべ、お茶会のこと考えてなかった!?(マテ

>立った!建った!フラグが勃った!でも朴念仁のレックスは気付かないんですね、残念!
 シャミアルートはありませんので…。

 以上、コメント返信でした。
 指摘突っ込み感想その他、よろしくお願いします。

 さて次回は、カーパルス戦。週1更新をめざしてますが、少し次は遅れるかもしれません…。ちょっとした調査を挟む必要があるので・・・。
 それでは今回はここまで。お付き合いいただきありがとうございました~(・▽・)ノシ


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