小説/長編

Written by えむ


 レックスの目の前には、二つの依頼が来ていた。
 一つはラインアーク。もう一つは、企業連。片方は防衛。そして、もう片方は攻撃。ほぼ同時に来た依頼は、完全に相反する内容であった。唯一の共通点は、戦いの舞台はラインアークと言う事である。

「で…どうするんだ?」

 二つの依頼メールを前にして、セレンが尋ねる。それに対し、レックスは少し考えてから答える。

「普通に考えれば企業連に協力するのが妥当なんだろうな。クライアントのほとんどは企業なんだし。だけど――ラインアークには同情したくなるんだよな。体制的にもガタガタなのに、それでもがんばろうとしているわけだし。理性的に考えれば、企業連。感情的にはラインアークってとこだね」
「それはわかった。で、本当にどちらを選ぶんだ」
「ラインアーク」

 再度の問いに対し、レックスは即答で答えた。迷いもせず即決したレックスに、セレンは少し目を丸くしつつも尋ねてみる。

「では聞こう。なぜラインアークに?」
「弱い者いじめは嫌いなんだ」
「ぶっ」

 レックスの返答に、思わずセレンが吹き出しかけた。なんとも子供っぽい理由。だが、これほどわかりやすい理由もない。状況的には、まさにラインアークへの攻撃は弱い者いじめに他ならないのだから。もちろん、様々な思惑が背景にあって今回の件に繋がったのだろうが…、一介の独立傭兵にそんな事情を知るすべはない。

「…す、すまん。少し不意を突かれた。だが―――いいんだな?」
「もちろん。自分で選ぶ道だ。後悔はしないさ。最も……苦戦は確実だろうけどね」

 そう答えて、レックスは考える。
 敵はランク1 オッツダルヴァ。直接の面識はないが、彼の戦い方は知っている。彼の動きはリリウム以上。実戦経験も高いし、それでいて才能もある。機体構成じゃ軽量型だが実弾・エネルギー・ミサイルとバランスが整っている。技能は天と地ほどの差があるのも確か。正直、勝てる気はしないが――それでも「わかっている」だけでマシだ。
 むしろ、レックスとしてはそれ以上に気になるのは、パートナーだ。自分が断ることになる以上、別の誰かを選び出してくるのは間違いない。ランク1であるオッツダルヴァが、自分を狙ってくる可能性は低いだろうから、当然…自分が対峙することになるのは、そのパートナーと言う事になる。
 では、それは誰か。それを分析するための、手持ち情報は少ない。そして敵についての情報がないという状況ほど、レックスにとって厳しい物はない。自分の弱さや、タンク機の苦手とする状況等や相手との差を、装備と策でカバーするのがレックスの基本的な戦い方。だが情報がほとんどない状態では、装備で補うことができず、その分だけ不利になりかねない。

「…これは徹夜フラグかな。…仕方ないか」

 ミッション期日までは時間がない。レックスは少しでも時間を有効に使うため、セレンに後のことを任せて。自分の部屋へと入っていくのであった。

□  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  

 ミッション当日。
 ラインアークに沿って一直線に伸びる連絡道路上に、二機のネクストの姿があった。
 一つはレックスのフォートネクスト。もう一つは、ラインアークの守護者であるホワイトグリントだ。
 そこからネクストのレーダーでは確認できない距離にいるのが、ランク1オッツダルヴァの駆るステイシスと、ランク19 CUBEのフラジール。
 距離を置いて向かい合う4機の、その様子は戦闘というよりはむしろ決闘のようである。

 張り詰めた空気の中。レックスは、少し前にいるホワイトグリントの後ろ姿をじっと見ていた。かつて伝説的なレイヴンであり、AMS適性が低いにも限らず、最強の一角として知られているリンクス。
 出撃前、格納庫にて生の姿を見かけたが、思わず言葉を失った。年齢的には中年程度のはずなのに、それ以上に歳を取っているように見えたのだ。そして無理をしているのが、傍目に見てもわかるほどだった。
 ラインアークのスタッフの一人に聞いた話では、相当に自分を酷使しており、いつどうなってもおかしくない状態とのことらしい。それでも、彼はラインアークを守ろうとして戦おうとしている。

『ホワイト・グリントのオペレーター。フィオナ・イェルネフェルトです』

 落ち着いた女性の声が響き、そこでレックスは我に返った。

『協力を感謝します』
「…気にすることはない。うちのオペレーターに話したけど、弱い者いじめって嫌いでね。どこまでやれるかわからないけど、全力は尽くさせてもらうよ」
『わかりました。共に幸運を――』

 通信が切れる。出来る物なら、アナトリアの傭兵とも話してみたかったが、それは出来なかった。AMS適正の低さから、搭乗中は話す余裕すらないらしい。

『向こうが動き出したぞ。敵はステイシスと、フラジールだ』
「フラジールってことは。ソブレロ…。フォートネクストとは真逆の相手か…」

 事前の打ち合わせにて。戦闘は1対1の状況に持ち込む方針で話は決まっていた。レックスではオッツダルヴァに勝てる可能性は低い。だがホワイトグリントなら勝機はあるだろう。だからステイシスのパートナーを自分が引きつけることで一対一の状況を作り、ステイシスのみに集中できるようにするのが狙いだ。
 今回選んだ装備は、両腕にガトリングガンGAN01-SS-WGP。背には、これまで使用を控えてきたレックス曰く有澤の最高傑作。究極にして至高のグレネードキャノンOIGAMI。左格納にNUKABIRA。両肩は、追従型ECMと言った構成。FCSは通常通りである。
 
『勝機はあるのか…? それに場合によっては、ステイシスともやりあう可能性もあるわけだが』
「…勝率は5割。最も、ラインアークが戦場になったおかげでだけどね。用意した策は3つ。それに賭けるよ」
『そうか。じゃあ行ってこい!!』
「了解した!!」

前へと飛び出すホワイト・グリントを追って、フォートネクストもまた前へと飛び出す。
 やがてレーダーに機影が二つ映り、2機ともホワイト・グリントへと向かった。

「脅威を先に潰す気か…っ!!」

 道路から降りて下へと着水。水面を走りつつ、両腕のガトリングガンをフラジールへと発砲する。攻撃は弾幕となって襲い掛かるも、横へのクイックブーストによって射線から逃げ、なおもステイシスと交戦しているホワイト・グリントを狙おうと向かっていく。
 ―――速度では追いつかない。すぐさまオーバードブーストを起動し、フラジールの後を追う。乱戦でオーバードブースト。本来ならPAを削ってしまうため使用を控えるリンクスが多いが、レックスは気にしない。フォートネクストは巡航性能に重きを置いているため、オーバードブーストを使用してもPAが減少しないよう、オーバードブーストとジェネレーターには考慮してある。
 必死に食い下がりつつ、フラジールの後ろからガトリングガンを放つ。PAによって弾の勢いは殺されるも、タンクが追いついてくるとは思っていなかったらしく、一応の初被弾を達成する。そして、そこまで来てようやくフラジールも、こちらを脅威と判断したようだった。

『オーバードブーストまで使って追いついてくるとは予想外でした』

 感情の感じられない淡々とした声が響く。それと同時に横方向へとクイックブースト。そして、すぐさま後方へクイック。オーバードブーストで前進していたフォートネクストの背後を取り、両背のチェインガンを浴びせてくる。
 みるみる削られるPAを気にしつつ、レックスはすぐさまオーバ-ドブーストをカットし、クイックターン。腕部武器を向けガトリングガンを放つ。が…射線からフラジールが消えた。

「…これが本場のソブレロか…っ!!」

 速度もさることながら、機動が凄まじい。左右に前後に、普通だったら耐えられそうにない機動を平然とこなしつつ、フォートネクストを翻弄してくる。その動きに、フォートネクストは追いつけない。それどころかレックスも目で追うのがやっとで、そもそも反応速度が間に合わない。
 訓練として超速仕様ソブレロを相手にしたことはあるが、それらの挙動はリンクスが動かしていたわけではなく、自動制御だ。
 機械と人間の差。動かすのが違うだけで、こうも変わるのかと舌を巻きつつ、クイックターンを 駆使して、フラジールの動きをなんとか追いつづける。
 だが同時にホワイト・グリントとステイシスの動きにも注意を払う。1対1前提とは言え、援護してはいけないルールなどはないのだ。

『ふむ。これだけ当てているのに落ちる様子がないとは。相手が頑丈だとこうも違う物なのですね』
「頑丈さが取り得なんでな」

 そう答えつつも、PAの減衰は止まらない。すでにかなりの量の弾を浴びあせられPAの回復が追いつかない状況になっており、完全にはがれてしまうのも時間の問題となっている。多少はクイックブーストなどで動いて被弾を減らしているが、振り切れる様子ではない。
 
「チャンスか」
『む……?』

 おもむろにOIGAMIを起動したフォートネクストに、CUBEは警戒を強めた。フラジールの機動力なら、当たる可能性は恐ろしく低いが、当たったらほぼ一撃で落ちる危険があるからだ。
 だがCUBEの思惑とは裏腹に、レックスはステイシスの動きに注意を払っていた。
 狙うはただ一撃。OIGAMIなら一撃でも状況を動かすことが出来るだけの威力を秘めているのだ。
 ステイシスは、なおもホワイト・グリントと壮絶な戦いを繰り広げていた。一進一退ながら、状況はこう着状態になっていた。互角の戦い。ただし、その水準は今のレックスでは到底届かない高さにある。「あれがネクストの動き?じゃあ、僕はなんなんだ!?」と、以前に対峙したリンクスと同じことを言いたくなるレベルだ。世界が違うと言ってもいい。
 最も、そう言ったところで自分の答えはすぐに出る。「凄いノーマルの動き」だ。
 とりあえず、それは置いておくとして。自分の腕でOIGAMIをステイシスに直撃させるなど絶対に不可能なのは確かだ。だが、レックスには策があった。そのチャンスをうかがいつつ、フラジールに応戦を続ける。






 ステイシスとホワイトグリントの戦闘は、決着がつかないまま続いていた。
 ホワイトグリントの放つ分裂ミサイルを回避し、PMミサイルとアサルトライフルで反撃をする。ホワイトグリントはライフルの射撃を回避し、わずかな時間差と共に回り込んできたミサイルをも回避、両手のアサルトライフルを撃ってくる。それ横へは敢えて避けず、正面へと大胆にクイックブースト。機体をバレルロールさせて弾幕をすり抜け、レーザーバズーカを距離を詰めて放つ。そこでホワイトグリントが下へストンと不自然に落ちる。その動きがブーストを完全にカットして落ちたものによると気づいたのはその直後。間髪入れずに水面に仰向けになるような体勢から、ステイシスへとライフルが向けられる。下方向から放たれたライフルを、反射的に後方へのクイックブーストで回避。PMミサイルをけん制で放ち、一度距離をあけようと試みるが、そうはさせまにと攻撃しながらホワイトグリントが迫る。
 短時間のうちに攻め手と守り手が何度も入れ替わり、その間を飛び交う弾幕が途切れることはない。一瞬でも集中が途切れれば、そこで終わってしまうギリギリの戦い。並みのリンクスでなくても、長くはもちそうにない熾烈な戦闘を、オッツダルヴァも彼も続けていた。
 このまま行けば、戦闘が持久戦となるのは誰が見ても明らかだった。だが、そうなれば軍配はオッツダルヴァに上がることとなる。AMSに長く接続して影響が出るとしたら、AMS適正が低いにもかかわらず長年戦い続け無理をしている彼だからだ。
 だが、それが起こるとしても、まだしばらく先の話だ。今はまだ均衡を保ったまま、戦闘は一進一退でしながらも膠着状態となっていた。その瞬間までは。

「ぐっ?!」

 均衡が崩れたのは、熾烈な空中戦から水上戦へ舞台がシフトし、立ち並ぶビルを回り込んだホワイトグリントをステイシスが先回りにて迎撃しようとした時のことだ。
 突然、大きな爆発が起こり、ステイシスに一瞬の隙が出来たのである。そして、その一瞬をホワイトグリントは見逃さなかった。距離を詰めつつ、各部が展開。カメラアイが防護カバーによって隠れる。そして、放たれるアサルトアーマー。
 だがそのままやられるようなオッツダルヴァでもなかった。咄嗟の判断でクイックブーストでその場から離脱を試み、かなりのダメージを受けつつもクリーンヒットだけは避けたのである。そして、そのまま水面に着水し、何もせず沈むままに任せる。

「…クッ、メインブースターが完全にいってやがる!!」

 APこそレッドゲージに達しているが、メインブースターは無事なままだ。
 だが、ここは敢えてそういうことにした。状況としては、何も不自然ではない。元々、一つの幕を閉じようとしていたのだ。これは、ある意味では好機だ。

「―――ダメだ…。こんなのが私の最後だと言うのか…」

 わざと忌々しげに呟き、そして完全に沈みきる前に、均衡を崩した一撃が放たれたと思われる方へとカメラを向けた。そこには、有澤製の大型グレネードキャノンを構えたまま、再びフラジールとの交戦に入ろうとするフォートネクストの姿があった。

「…奴か」

 いったい何をされたのかはわからない。常に高機動で動き回っている相手に、あの距離からOIGAMIを当てることなど不可能だからだ。だが…何らかの手で「当てられた」。
 それはそれで一つの評価に値する。
 
「ランク31 フォートネクストのリンクス。レックス・アールグレイ…。覚えておこう」

 彼は首輪付きには違いない。だが、今回の状況で企業連に敵対する位置についたことからして一つの可能性が出てきた。あわよくば……。そんなことを考えつつ、迎えを待つことにするのであった。






「よし…!!」

 ホワイトグリントがステイシスを撃破したのを確認し、レックスは自分の援護が効果をなしたことを確証した。OIGAMIを直接当てることは出来ないと思ったので、爆風を当てることだけを考えて機会をうかがっていたのである。
 そして到来したチャンスを狙って砲撃。ステイシスではなく、傍にあるビルに着弾させて爆発範囲に巻き込む。と言った方法でレックスは「当てた」のだ。もちろん爆発範囲の広いOIGAMIだからこそ出来た戦法ではあるが。
 残るはフラジールのみ。ホワイトグリントと協力すれば、なんとかなる。そう思った矢先、ホワイトグリントのオペレーターから通信が入った。

『ホワイトグリント、戦闘不能です』
「なっ?!」

 突然の内容に思わず、自分の耳を疑う。だが、そんなレックスを尻目に、フィオナは静かに言葉を続ける。

『ごめんなさい。もう彼はあなたの力にはなれません』
「………っ」

 脳裏に浮かぶのは、出撃前にスタッフの一人が言っていた話。
 レーダーを確認すれば、確かにホワイトグリントの反応があり、ゆっくりとだが下へと落ちていっている。自分の位置が水面であることから、沈んでいるのは明らかだ。
 そして次の瞬間。レックスはフラジールに背を向けると、攻撃されるのも気にせず、すぐさまオーバードブーストを起動した――――。

 To be continue……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 二回も執筆作業中にパソコンが落ちて、泣きそうになったえむです。
 ついに来たラインアーク戦。思ったよりボリューム増えて、前後編となりました。
 ステイシスの水没が演技だったと登場人物紹介にあったので、ちょっと趣向を変えてみたの巻。
 そしてホワイトグリントとステイシスの戦闘描写…。最高クラス同士の戦いと意識はしてみたもの……。これは精進すべきかもしれませんね、がんばります。

○コメント返信コーナー
>なんか昔のマリオの垂直駆け上がり(スーパーマリオワールドより)を思い出した・・・。両背の雄琴を真下に撃てるってその落ち方は危険すぎるぜ!あとレックス、お前地上からイクリプス狙い落とせるんじゃね…?
 言われてから私は思い出しました。スーパーマリオワールド…ありましたねえ。
 あと地上からの狙撃に関しては出来なくはなかったかもしれませんが、作者が思いつかなかったということで…(マテ

>↑オレはハリネズミの方を思い出した…タンクが猛スピードでメガリス駆け上るの想像すると凄くカッコイイな。次回は真改に続いて相性悪そうな乙と紙飛行機、そろそろ老神とトーラス製スーパーFCS解禁?
 老神は解禁しました。トーラス製スーパーFCS…ノーロックで戦えるならネクスト戦使えると思いますが、レックスには、それは無理です…。

>攻撃は避けない、やられる前にやっちまえ、か。さすがタンクだ、いや、タンクのりの鏡だぜレックス君!!
 彼にとっては、最高の褒め言葉です。ありがとうございますw

>お!?こんなところで地球防衛軍のえむさんを見かけるとは!!・・・是非とも防衛記録のほう、がんばってください;;
 こんなところで、向こうを知っている人と遭遇するとは思いもしませんでした。
 えっとーあっちの方は、…その、ごめんなさいors

 以上、コメント返信でした。
 今回も、たくさんのコメントをいただきました。ありがとうございます。
 何気にモチベ維持の糧として、重宝しております><
 また感想とかツッコミとかありましたら、よろしくお願いたしますね。

 さて次回はラインアーク後半戦。対フラジール戦決着+αとなります。
 相性最悪に加え高速変態機動な相手に、果たしてどう挑むのか…お楽しみにっ。


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