小説/長編

Written by 雨晴


風が吹き、砂が舞い上がる。視界が遮られ、目を凝らす。

親代わりであったアマジーグが、アナトリアの傭兵に奇襲を受けて殺された。同じくススも、彼に殺されている。
解放戦線は崩壊した、そう言っても過言ではない。けれど、悲しんでなどいられない。
まだ守らなければならない人達がいる。サブカメラを、キャンプに回す。

この人達に非は無い。死ぬ必要の無い人達だ。なのに企業は、この場所を蹂躙しようとしている。
父親に貰ったのは三つ。アマジーグの名、戦士としての誇り、そして戦闘技能。
キャンプを汚染から守る為の単独行動から、滅多に会うことは出来なかったけれど。それでも父は、尊敬に値する人だった。

手ほどきを受けたのはシミュレーターでのネクスト操作だけだが、ノーマルにだって応用できる。
やってやる。父から受け継いだ名を、このキャンプを、ウィルを失うわけにはいかない。

『守備隊各機へ、敵軍は大規模だ』

だが、何としても絶対防衛線は死守しろ。隊長機からの通信に、気を引き締める。

『各機起動』

勝率は殆ど無い。それでも負ける訳にはいかない。

僕らの部隊の相手はGAのノーマル部隊。ショットガンを至近距離射撃。コアへと数回叩き込み、一機落とす。
動きの鈍さに助けられつつ、次を迎撃。アサルトライフルを連射し、ミサイルを射出する。撃墜。

『ハインが二機落とした。各機、負けるなよ』

周りの仲間も次々と敵を迎撃していく。高機動型のノーマルは、GAのノーマルには相性が良い。
そう思ったのも束の間、遠距離から砲撃が来る。爆発。

『クエーサーだ!』

GAの移動砲台の名が聞こえ、レーダー上から3機分の光点が消え去る。

『各機、ノーマルに構うな、移動砲台の破壊を最優先』
「それではノーマル部隊が前線を突破してしまいます」
『確かに。ではすまないがハイン、お前のチームはノーマルの陽動と破壊を頼む』

出来るか?と訊ねられ、肯定を返す。

「お気を付けて」
『お前もな』

遠ざかっていくブースターの火を見送り、振り返る。9機のGA製ノーマル。

『隊長、どうしますか』
「近距離戦闘。それ以外無いよ」

少年兵二人が、僕のチームメイト。歳は5つも離れていたし、人種も違うけれど。
けれど、仲間だ。

「僕達は、僕達にしか出来ないことをしよう」

ブースターを全開へ、先陣を切る。二人の仲間が続き、カバー。
ミサイルが来る。フレア展開、射出。中距離から、3機分のミサイルを射出する。
接敵。脚を狙い、転がす。次へ向かうと、後ろの二人がミサイルでの援護をくれる。頼もしい。
次の敵は頭部、メインカメラを損傷させたところでパス。榴弾を被弾し、機が傾く。

『隊長!』
「大丈夫」

こんなところで倒れられるか。皆頑張っているんだ。踏み込む。右腕兵装起動。
アサルトライフルが敵のブースターを打ち抜き、飛行していた敵機は落下していく。衝撃で硬直している隙に、ミサイルが降り注ぐ。

「ナイス」

続けて右前方、ブースター起動、上方から攻撃。近距離でミサイルを撃ち込んでくる敵機に、ライフルで応戦。誘爆。
ひるんだ隙に後方へ、右側ブースターを解除、左側ブースターだけを利用し、クイックターンもどき。後方獲得、排除。

『敵機撃墜!』

飛翔。

『あと4―――』

カバーに入っているはずの後方で、爆発が起きた。

『ディラン!』
「・・・ッ!」
『隊長、ディランが!』
「落ち着け、あと4機だ。全て落としてから悲しもう」

ショットガンを向ける。相手は、仲間を落とした機。バズーカなんて当たるものか、自由落下、頭からショットガンの連射を叩き込む。

「3!」
『一機撃墜、畜生、畜生!』

あと2、と思ったところで彼の様子がおかしいことに気付く。出すぎだ、と注意するのも、遅かった。

「・・・」

バズーカをコアに受け、爆散する僚機。前を向く。こいつらさえ、そう思ったところで、轟音が響いた。
クエーサーの、遠距離砲撃。だが、狙いは僕ではなくて。
キャンプ。

『くそ、被害状況は!』
『これ以上撃たせるな、全機集中しろ!』

呆然としていた。ミサイルが飛来し、1発貰う。機が揺れ、意識を取り戻した。
叫びたい気分だった。それでも歯を食いしばって、あと2機と相対する。ミサイル、マルチロック。
右腕ライフルで右側の敵を、左腕ショットガンで左側の敵を。右側沈黙。
急げ、そう思う。早く、そう思う。
ミサイルが底を尽き、パージ。身軽になり、さらに踏み込む。ショットガンの残弾も心許ない。気付けば、ライフルも。

だから、この一機が最後だ。そう言い聞かせ、ゼロ距離でショットガンを放った。
崩れそうになる敵を逃さず、ライフルを食い込ませる。5発。爆発。

「ハインです!GAノーマル部隊を撃破、僚機はロスト、残弾無し!帰投し、キャンプ被害者の救助を行います!」
『了解だ、良くやった。キャンプを頼む』
「了解!」

ブースターを全開まで吹かし、1秒でも早く到達を目指す。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
到達したキャンプは、まるで地獄だった。
北側からの砲撃は遠距離からの一発だけだったが、南側は一時防衛線を破られたのか、至る所で煙が立ち昇っていた。
焼死体が転がり、何かの破片に押し潰された人も居る。外部マイクから聞こえるたは泣き叫ぶ子供の声と、男の怒号。

良く夕食をご馳走になった家族のテントが焼け崩れていた。
一緒に歩哨をしたお爺さんのテントも消し飛んでいる。

悪い夢だ、そうに違いない。呆然とし、ノーマルごと立ちすくんだ。
嘔吐感に苛まれ、目は回るようで、何が起きているのか分からない。
何もかも、あいつらのせいだ。許さない、許してたまるか。・・・そうだ。

ウィルは?

そう思い、急いでノーマルから飛び降りてテントへと向かう。幸い、原型を留めている。
キャンプの中心部は、まだ被害は薄い。

「ウィル!」
「・・・兄さん?」

戸を空ければ、妹が居た。安心感に足が崩れ、そのまま抱え込む。

「馬鹿、何で逃げなかったんだ」
「だって、ここに居れば兄さんが迎えに来てくれると思いましたから」
「もしかしたら来なかったかもしれないじゃないか」

腕の中で、もぞもぞと首を振るのが分かった。

「兄さんは優しいですから、必ず来てくれます」

またそれか、と苦笑い。何百回と聞いてきたウィルの口癖。苦々しくても笑えたおかげで大分落ち着いた。
でも怖かったんですからね、と言う妹の体は震えていた。悪かった、と一言。安心したが、それで終わるわけにはいかない。

「行こう、ウィル。皆を助けないと」
「はい」

手を握り、立ち上がらせ、外へ出る。出たところで、ウィルが声を上げた。

「大切なものを忘れてしまいました」
「何?」
「カメラです。兄さんに、写真を見せてもらわないと」

そんなもの、と否定すると、すぐに戻りますからとテントへと戻っていってしまう。
頑固なところがそっくりだと、昔養父に言われていたことを思い出す。途端、目が何かを捕らえた。
それがミサイルではないのだと、否定したかったのかもしれない。近くにあったアンテナに直撃し、鉄塔が傾く。
その先には。
 
 
 
 
目を覚ませば、気分の悪さに苛まれていた。
フォトスタンドに入れた写真。ある意味これが、ウィルを奪っていったのかもしれない。
カメラは破砕され、それでもフィルムが残っていたのは軍用品だからだろうか。そんな事、考えても仕方はないけれど。

涙が止まらず、顔を洗いに立つ。

鏡には、私。私一人。もう、僕ではない。あの頃には戻らない。
あそこまで鮮明な夢を見たのは久しぶりだった。戦う理由を、嫌でも考えさせられる。
無理矢理涙を止め、机へと向かう。確認しておかなければならないものがある。
昨日、セレンから渡された封筒を開けると、メモリースティックが1本入っているだけ。
モバイルに接続し、中身を伺おうとした。

『初見となる』

すると突然、何かが再生され始める。

『マクシミリアン・テルミドールだ』

私が答えを確実なものとする前だというのに、明確な扇動がそこにあった。


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