《ウォーニング!!》

この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。

 
 
 
 

 
 
 
 

Written by 仕事人


 【ケモノのスミカ レギュ09 《Interi “ALL” Union ~宴~》】
 
 仰け反らなければ果てが見えない程、それでもはっきりと見る事の出来ない高さの吹き抜けの空間に、足音がこつこつと単調に響いている。縦長の場所は其の足音を立てている二人しか居ないため、空恐ろしい寂しさすら感じる。静粛さの中で一歩一歩、階段の段差を上る様は、まるで吊り下がるロープへと向かう絞首台を昇る死刑囚を思わせる風だ――が、其の実、
「スミカさぁん、エレベーター使いましょうよぉ」
「ここ一年っ、私はデスクワーク続きで、全然運動してっ、いないんだっ! このままでは無駄に脂肪が付いてしまうっ」
「でもぉ」
「でもぉ、じゃないっ。それにっ! 今の体型が一番いいって言ったのは――お前だろう、がぁっ」
 ――と、そんな訳で、エレベーターも旧世紀に比べれば揺れも随分と軽減され、更なる高速化も為され、そして停止する事も殆ど稀になった(手動でなら話は別だが)今の世で、此の二人がカラードのひっそりとした階段を上っているのは、スミカの運動不足を解消する為である。
 ちなみに目指す階層であるリンクス御用達のシミュレータールームへは、1階から始まって――13階である。
 今、二人が居るのは7階の踊り場辺りで、半分を少し過ぎたぐらいだ。
 愚痴を零しながらも、ひょいひょいと上っている少年に対し、言いだしっぺのスミカの方は、彼を率いるように先立って――手摺をがっちりと掴みながら――ずんずんと鼻息荒いのは声の感じを聞けばなんとなく察せられるであろう。
 つまり少年が愚痴っているのは自分が辛いからではなく、あと半分を残してスミカが既にばて始めているからなのだ。だが依怙地になっているスミカに「疲れたでしょう?」などと気遣っても「疲れてないっ!」と返されるのがオチなのは明白である――実際にそんな遣り取りは既に5階ぐらいで行なわれてもいた。
「前はっ、こんな事――朝飯前だったと云うのにっ! くそぉぉっ! 私がこんな――何故っ?!」
「……」
 仮にも元リンクスであるから嘗ては常人よりは鍛え込んでいたが故に、今の自身の体たらくが認められないのであろう。気付いたら身体が老いていたご老体の方の口惜しさと似たようなものか。
 今もインテリオルに在籍してはいるが、既にリンクスを引退して悠々自適の生活を送っている、同僚ではあったが所謂犬猿の仲の間柄であった男の、プライドの高さから来る何かミスした時の口癖のような呻き声を上げながら踏み抜かんばかりに力強く階段の段差を踏み付けているスミカを、少年が後ろからそっと見守っている。
 
 さて、何故スミカがこんなにも意地を見せているかと云うと、運動不足の解消なのは彼女自身が言った通りで、そして現状維持と云う意味でのダイエットの為だ。
 幾らか前の事だが、或る日少年に二の腕を柔らかいと(彼の弁を借りれば”ぷにぷに”と)評価されたスミカは、久しぶりに女性にとっては逃れたい現実でもありながら、しかし定期的に乗り越えなければならない――というか乗らなければならない脱衣所の隅にそっと置いてある金属製の板の上に、バスタオル一枚だけを巻いた格好で恐る恐る乗った。
「――あれ、意外と平気だな」
 言うまでも無いだろうが体重計の――おお、なんと恐ろしい物体であろうか! 口にするのも憚られる! あくまで女性、男の場合は主に中高年にとってだけ、であるが――小さな窓には彼女の身長を考えれば、痩せ過ぎでもない、太り過ぎでもない数値が表示されていたので、スミカはほっと一息――は、まだ吐けなかった。
 最近になって自身のプロポーションに幾ばくかの自信を持ち出した彼女にとって無駄な脂肪が余り無いのは良かったが、それでも場合によっては更に絞る必要があるのだ。
 其れが決定されるのは――
「あいつは――どうなのだろう」
 彼女に女性としての自信を備えさせた張本人でもある少年の嗜好如何によって。
 其処でスミカは男に自分を合わせようとしていると云う、今までは想像も出来なかった殊勝な態度を取っている自分に気付く事はなかった。
 そして好みの体型を聞かされた事も聞いた覚えも無かったのでスミカは内心恐れ慄きながらもソファの上に寝そべって『月刊ネクスト』を読んでいた少年にそれとなく尋ねたのだ。どんなのが好みかと。
 そうして首だけを向けた返した彼の実に意外そうな口調による答えは――
「へ? 今のスミカさんですけど」 
「そ、そうか?」
 そんな風に遠回しに褒められた最近機嫌の良いスミカは、鼻歌交じりで彼の傍に座ると耳掻きをすると云う建前で膝枕をしてやって、頭を撫でたりしたのだった。
 そんな正に有頂天であった彼女であるが、それと同時に、
 ――今、油断していると後でとんでもないしっぺ返しが来るのではないか。
 一抹どころか十抹ぐらいの不安を、いやさ今の幸せが崩壊してしまうのでは無いかと云う危機感を覚えた。
 それで思い付いたのが現状維持の為の運動だ。
 丁度本日よりスタートされて彼女らは階段を上っているのである――。

 急にスミカが階段の方に足を向けたのを少年は不思議に思っていたが――それは明らかに訝しそうな眼を向けていたエントランスの受付嬢達も同じで――途中で、疲労から来る愚痴と一緒に吐き出された言葉は運動不足の解消とだけしか言わなかったが、自分の為にプロポーションを維持しようとしてくれている事も少年は理解していて嬉しかった。
 とはいえ、もしこのまま続けられたら、肉付きの良いむっちりとした太腿が硬い筋肉だけに覆われてしまうのではないかと危惧もしているのだが。
 そんな風に惜しむような心境で、少年が下から丁度彼女の太腿の裏を見上げていると踊り場で、
「あっ――と」
 何時の間にかに解けていた靴紐を逆の足で踏んでしまって、転びそうになった。
 階段を上っている途中で転んでしまっては大変だと、早速その場で屈んで靴紐を結び始める。大した作業ではなく、何なら毎日やっている事なので早々に終えて――そこで少年は、ふっと悪戯心が沸き上がった。
 スミカはと云うと、彼がどんな心境になっているかも分からず、況してや靴紐が解けた事も結んでいた事も知らずに階段を上っている。
 少年は靴紐を結び終えたのに、屈んだままで待機している。一段目の段差にぴったりと寄り添うように。
 その間もスミカはやや遅めながらも一段ずつ上っているわけで、つまり見上げると――、
(わ……)
 下からの見上げる角度に加えて、黒のストッキングに覆われた太腿を上げた拍子に黒味の強い灰色のパンツスーツの、ぴっちりしたミニのスカートの裾がふわりと持ち上がって、陰になりながらも、更に黒に覆われながらも、其の中の布地がはっきりと見えた。
 スミカのスカートの中を見ようと思えば毎日のように見れる立場の彼であるが、自宅ではない外の、殆ど公共施設で、更に隠れて覗き見したと云う要素が相俟って、相当な興奮をきたす。すると片膝立ちをしている姿勢の為に、ぴんと張られている下半身の衣類の股布の部分が異様に盛り上がりを見せていた。
 多少歩き難さを覚えながらも少年はスミカとの距離を早足ながらも、こそこそと忍ぶように縮めていって――、
「きゃあっ?!」
 甲高い悲鳴が上へと延々と続く階段の隙間を潜り抜けていった。 
「こらぁっ! な、何をっ! や、やだっ、当てるなぁっ! というか、こんな所で――!」
 突然に下半身の風通しが良くなったと思ったら、スカートが紐のようになるまで捲り上げられて黒のストッキングと黒のショーツが露になっていた。またそれらに覆われているとはいえ上に、遮る物が一枚無くなった臀部にデニムの硬い生地を強調するように盛り上がりが触れている事に意識が行っていたスミカであったが、今自分が居る場所の事が思い返されて、羞恥の声を張り上げる。
 そして隠す為にスカートを下げようとしたのだが、
「あっ! やんっ、だめぇ……」
 スーツの上から突き出ている双丘をやんわりと手で揉まれた事で身悶え、嬌声を鳴らして手が止まってしまった。また其の隙に遠慮無しにストッキングの中に差し込まれた手がショーツのクロッチの部分を指で押し込まれて、更なる声を漏らし、仰け反るように首筋を晒す。
 此れは一種の無意識の合図だった、動物が腹を見せて無抵抗を示すような。
 神経が狭い範囲に集っているような性感帯をしなやかに動く指先の手で、最近になって弄られる悦びを覚えた尻を雄の強固で弄られるスミカは早々に白旗を上げるように少年に身を任せてしまっている。
 三枚もの布を押し上げる胸の、そして広がり出した沁みの上で突起の&ruby(しこ){凝}りが強くなっていくのを自身で感じながら――また蹂躙者にも感付かれていると分かっている――スミカが力の抜けた身体を緩やかにしていると、背後で抱き竦めている少年が昂奮の吐息をうなじや耳朶に吹き掛けながら、またねちっこく舐め上げながら熱っぽい声で言った。
「――スミカさんが、いけないんですよ」
「んぁっ……え?」
「階段上るって分かってたのにっ、こんなエッチなの履いて……!」
 そう言いながら少年が股間を押し付けているスミカの臀部に視線を遣る。
 ストッキングの下で歪な三角錐にぐっぐっと突き上げるように押し込まれているショーツは尻肉の谷間に食い込んで紐のようになっているのだが、布が押された為にそうなっているのではない。元からこういう――スカートの中でとはいえ桃肉を露にさせる形状なのだ。
「僕の事……ンっ、誘ってたんですか? 僕と外でエッチしたかったんですかっ?」
「ち、違うっ! 今日は、此れしか無かったんだ……あンっ!」
 布越しに菊門を突かれているスミカは言い訳がましくそう行ったが嘘であった。
 本当の所は以前に少年に喜んで貰えるかと思ってTバックを履いてみたのだが、思いの外履き心地が良かった為に常用とまでは行かないが時折履くようになっていたのだ。
 少年の言う通り階段を上る事も分かっていたが、寧ろ布の面積が少ないから脚を上げ易いのではないかと思って履いてきてしまった。それがまさかこんな事になるとは思ってもいなかっただろう。
 それにしても下着が覗けただけだと云うのに、やけに熱が入っているのは何故かとスミカが訝しんでいると、少年は苛立っているように彼女の耳元で、小声で何事かを呟いている。
「誰かに見られたら、どうするんですかぁっ……スミカさんのお尻を見ていいのは、僕だけなのにっ」
 つまりは実際に見られた訳でも無い何処かの男に少年は嫉妬しているのだ。
 其れを聞いてスミカは想像以上に独占欲が強いのだなと思いつつも、普段は大人びていて自分の多くを受け容れようとしている癖に子供染みている矮小な欲望にいじらしさを覚える。
「あっ、ぁあっ……ふぅ、ン……っ!」
 階段の段差の上では足元が覚束無いから一つ下の踊り場まで連れ込まれたスミカは矢張り羞恥は感じるから出来るだけスカートを下げようとしている手は変わらないが、反対の手では人差し指を柔く噛んで声を抑えている、
 性感を受け容れようと唇の狭間で濡れた歯と舌が覗けている所作に妖艶さを感じて、少年は引き寄せるように柔い身体を抱き竦めている腕の力を強くしながら乳頭を摘み上げて捻ったり、ショーツを蜜が溢れ始めている蜜壷の中に入れるように指を押し込んだりと責めの手を強くしながら、自身の昂奮の度合を示すように更に熱り立ったモノを擦り付ける。
「はぁっ……はンっ! はぁっ、はっ……!」
 嬌声の代わりにスミカの口から垂れ流される熱い吐息の甘美な音高が更に彼の性欲を駆り立てていく。
「ンっ……? いやっ! やめぇっ! あぁ……」
 すると荒々しいながらも力強さに心地良さすら感じた抱擁の束縛が解かれてスミカが寂しげな声を漏らしたが、今度は下腹部を包む物が同時に擦り下げられて直ぐに拒絶の声を上げた。
 自分のテリトリーではない場所でまるで自らそうしているように丸まったスカートを握ったまま、恥毛も、濡れそぼった淫唇も、既に勃起して包皮の剥け掛っている淫核を露にしている状況にパニックになったように膝ががくがくと震えながらも、
(そんな……私、興奮してるのか?)
 ぞくぞくと背筋どころか全身を覆う小波に自問すると、答えを示すように脚の間で張られたショーツに、とろりと粘ついた愛液が糸を引きながら垂れた。
 其の様子を、下着を下げた際に蹲った少年が指先を埋め、糸を引かせるように桃肉ごと秘唇を開いて、真っ赤な淫肉を眺めながら感嘆する声を出した。
「スミカさんのおまん○……綺麗です」
「やぁっ! 見るな、見るなぁっ……ひぃあっ! いや、いやぁ……!」
 背徳感に浸っていたスミカであったが直近で視姦されている事を思い出し、急いでスカートを下ろして、ぱっくりと拓かれている充血している割れ目を隠したが、直ぐに其の手を掴まれて押し退けられると――抵抗する程の力も入ってはいなかったが――スカートの中に突っ込ませるように少年が顔を臀部の谷間に埋め、肉を掻き分けるように左右に振られて恥ずかしげに喘ぐ。
「ふぅっ、ふぅ……!」
「あっ、やぁ! どっ、何処を嗅いでるんだ、この馬鹿ぁっ!」
 会陰を通って菊門と陰部に吐息が掛かかっているとは感じていたスミカであったが、まさか恥部を嗅がれているとは思っておらず、スカート越しに少年の頭を掴んで引き剥がそうとしたが、抗うように腰を掴まれて殊更に埋められてしまう。
「ふぅ、はぁぁ……ふぁ……」
 普段とは比べ物にならない、異常と云える程に行為に熱が入っているのを自覚している少年だが、何故か止められず、汗の滲む尻の谷間に頬を、これまで幾度も蹂躙してきた二つの孔の間に鼻先を擦り付けるようにして、むせ返りそうだが脳髄が痺れそうな体臭を鼻腔や、更に口腔の粘膜全てに行き渡らせるように、たっぷりと吸い込んで嘆息を漏らす。
 と、勢い余ってするりと滑った拍子に鼻梁が淫唇に喰い込んでスミカの身体が掠れ声と共に跳ねた。
 滑り気に鼻先が覆われる感触に辛抱が利かなくなった少年は、もう一歩股の間に割って入ると、暴いている桃色の内奥を真下から見上げるようにして滅茶苦茶に舌を這い回す。
 また自らを中で圧迫している股間のモノを、先走っている汁で手を汚しながらズボンのファスナーを開けてスリットから取り出すと、膝立ちの下半身を傾けて、まだ其処は黒に包まれているスミカの踝の辺りに擦り付ける。
「はぁっ……あぁっ、ンっ、ンンっ、ン!」
 スカートの暗がりの中で秘唇を舐め回され、膣肉を柔肉に擦られ、菊花を骨ばった鼻の尖りで小突かれ、足に怒張の存在を感じさせられているスミカは背後の嬲りから逃れようと身体を仰け反らせるが、寧ろ少年に見せ付けるような、また行為をし易い角度になってしまっていて、更に背徳が身体を奔り、退かせようとしていた手も何時しか、押し付けるように力のベクトルが逆を向いていた。
 垂れ流れる芳ばしい快液が舌先に纏う涎と混じって、ぽつりぽつりと小雨のようにショーツの上に降り注いでいく。
 
「もう、もうっ……!」
 過度な興奮の為か、呼吸困難のように後が続かない言葉を発して少年は立ち上がると、背後から覆い被さるようにスミカに抱き付いて、乳房を揉みしだきながら、腰を前後に遣い、にゅるにゅると強請るように秘所に肉棒を擦り付ける。
 スミカは主に自身が溢れさせた物で湿り気を帯びている其処を隠そうとしていて、半分降りているストッキングと沁みが出来ているショーツをハンモックのように脚の間に張りながらスカートの端掴んで引っ張っていると云う一種矛盾めいた格好だ。スカートの縁で折り曲げられた五指がつんつんと小突いたり、ぴんと張られた生地にじわりと腺液の沁みを広げながら凸を作るように歪に盛り上げさせる。
「――っ」
 熱い喘ぎを漏らしながらスミカが首だけを動かして濡れた瞳で少年を見詰める。初めて身体を重ねた時が同じ体勢であった所為か、異様な昂揚を感じている事を伝えるように。
 ――早く来て
 そのように、掻き乱れたもみあげと前髪の隙間から挿入を望み、媚びる視線を投げ掛けながら。
 息苦しい為に全開に開かれた口から八重歯を覘かせている少年は其れを受け取ると、鞠のように跳ね返りのある乳房を弄んでいた手を下腹部へと、つぅっと撫でるように滑らせていき、スカート越しに淫らに涎を垂らしている陰唇にむしゃぶりつかれているペニスを掴み、餌を強請る魚のように物欲しそうに半開きになった口へと、そして其の奥でぬらぬらと愛液で充満している肉壷へと――
「はぁうンっ!」
 襞を削るように勢いを付けて滑り込ませた。
 其の瞬間、スミカの身体は疲れた衝撃で跳ね上がる。手は侵入者を快く受け容れた秘肉のように、虚空へと向かうように手摺を握り締めている手がぎゅっと力強く締められ、口許から飛び出した涎が、吹き抜けを通って、階下へと堕ちていった――。
「あンっ! あンっ! はぁンっ!」
「はぁ……っ、あぁー……」
 先程まで声を抑えようとしていたのは何処へ行ったのか、突き上げてくる男根に自ら押し付けるようにスナップを聞かせて腰を波打たせているスミカは半裸になっている。抽迭の最中に腰を遣いながらも器用にスーツとシャツのボタンを外し、ブラジャーを下げた少年の手によって、果物の皮を剥くように露出された白い丘陵や桃色の円に囲まれて尖っている突起を弄ばれている。其の狭間ではネクタイが所在なさげに左右へと振り子のように揺れる。
 照明を反射するように、つるりと丸みを帯びている肌理細かい尻肉と、突き出た器官の根元が現れ、隠れるを繰り返している下で肉欲がたっぷりと詰まっている陰嚢が揺らぐ、薄く陰毛が茂っている下腹部が激しく爆ぜ合い、牡と牝の甘美な泣き声に、ぱちんぱちんと拍手をする様に音を立てている。
「うぁぁン! も……だめっ! イキ……そうっ、イキそうなのぉ……!」
「僕も、僕も……もうっ!」
 誰かが来るかもしれないと云う緊張の所為か、まるで苦悶しているように喘ぐ二人に呆気無く限界が訪れようとしている。
 疲れたように踊り場の手摺にぐったりと身体を預けながら突かれているスミカと、其の腰から尻を鷲掴みで掌握しながら腰を振っている少年との間から鳴る攪拌音が一際強くなっていく。
 其の時だった。
 
「――っ!」
 ガチャリとノブが回る音が、ギィと扉が開く音が吹き抜けの空間を、結合している二つの身体を貫いて、即座に二人の心にさっと緊張と硬直を走らせる。
 しかし左手の上層の扉、右手の下層の扉は動きを見せていない。どうやら一階半か、それ以上の高さの階の扉が開いたらしい。
 二人はラストスパートに入っていた抽迭も成りを潜めさせ、様子を窺うように聞き耳を立てていると、話し声が聞こえた。
「ホンット、面倒だよなぁ。煙草一本吸うために喫煙所まで行くの」
「しかも態々、オフィスの遠くに作りやがってな。当て付けとしか思えんね」
「煙草を吸わない人間の権利も大事だけどさ、煙草を吸う人間の権利も大事にして欲しいモンだよ」
「まぁ、そう言いながらこうやってルールを破っている俺らみたいのが居るのも原因の一つだな」
「確かにな」
 カラードのオフィスに勤めている男性職員が仕事の合間の一服をしにきたようだ。
 とはいえカラードの中は所定の場所以外での喫煙は許可されておらず、人通りが圧倒的に少ないこの階段でも其れは変わらない。しかし彼らは今しがた話していた通りに喫煙所へ向かうのが億劫で、人通りが少ないのに目へ付けて此処へ来たのだろう。
 つまり、彼らは其の場に居るだけで下りてくる事は無く、吸い終えたら直ぐに立ち去ると云う事だ。
 そう考えてスミカがほっとしたのも束の間、
「ん――っ?!」
 中途半端な深さに収まっていた肉棒が、ぞろりと膣肉を抉りながら活動を再開し始め、真上の踊り場を見透かそうとしているように眺めていた身体がびくんと仰け反り、甘い声が漏れそうになる――のを何とか防いだ。
 今の気付かれてしまってはいないだろうかと不安げな眼を上へと向けて、男達は談話を続けているのを確認してから、自身が後ろへと突き出している尻を見るように少年をキッと睨む。
「……こっ、この馬鹿っ! 見付かったらどうす――やめろ、やめろってば……は……ぅっ」
 悪戯心を表情に浮かべている彼を囁くような声音で叱るも、まるで見せ付けるように押し込んでいた腰を引き抜くのを見せられ、そして見ている前で返す刀で一気に突き出され、スミカの歯を噛み締めた口から抑え付けられて掠れた嬌声が漏れる。
「ふぅっ、やっ……はぁ……っ!」
 止めさせたくても口を開けば声が溢れてしまいそうで言葉を発する事が出来ない。
 結合を解こうと身を捩れば其れを利用され、後背位の体勢もあって膣壁を小突かれてしまう。其れに見ず知らずの誰かとは、壁を一枚挟んでいるだけのような隔たりしかないので、何か大きな動きを見せたら其れだけで気付かれてしまいそうなのだ。
 結局、何かをする決断が出てこないまま、スミカはまるで受け容れているように、きつく締めた口許を更に掌で覆って、揉まれる度、摘まれる度、擦られる度、突かれる度、弄ばれる度に際限なく溢れる声を、目尻に涙を潤ませながら必死に噛み殺す。
「さっき廊下で見掛けたおっさんさ。あれ、何処のお偉いさんだったっけ」
「ええっと、インテリオルだったかな?」
「そうそう。で、あのおっさんと一緒に女の子達が居たじゃんよ。あの子達、可哀想だったよなぁ」
「ああ、あの親父のエロい目ときたら。昔だったらあれだけでセクハラで訴えられるんじゃないか」
「今は企業が法も握っているもんなぁ。そこんところどうなってんだろ? 下手したらお偉いさんには何されても泣き寝入り――って事になるよな」
「いや、それは案外企業側も気を使っているらしいよ。それを許したら働く人間もいなくなるだろうし、何よりそんなのが居るってだけでイメージが悪いから――誰のイメージに気を遣ってるか知らんけど」
「ああ、確かにアレはイメージ最悪だわ。もしあんなのが作ってると知ったら俺その商品買わないモン」
 特に直接の繋がりがある訳ではないけど、立場が上の人間の、特に好かない人間の陰口は話が弾むようで機嫌良さそうにマナー違反の社員達は笑いを交えて話している足場の鉄板一枚下では、
「は……ふぅっ……ふぁ……っ」
 拒絶と甘受の狭間で揺れ動いている――と云うよりは揺さ振られている女と、嗜虐感に浸る男が敏感な器官を擦り合わさせて、言葉は無くとも身体同士が深みの強いコミニュケーションを繰り広げている。
「やましい事があれば即、給料にも出世にも響くんだろうさ」
「じゃあアレは昔懐かしいというか重要文化財というか――時代遅れのエロ上司ってやつ?」
「ぁん……っ、ひゃぁ……」
 ――パチン、パチン。
「あれで本人、気を付けているつもりなのかもしれないけど、ああいうのに限って、何時か仕事にもボロ出すんじゃないかねえ」
「全くだ。お尻に手を伸ばす暇あるんなら、ちゃあんとお仕事しないと」
(お願い、お願いだから……気付かないでくれ……! )
 ――グチュ、グチュッ。
 地上数十階、そして地下にも伸びる天井を切り抜かれた縦に広大な空間の僅か数mの距離の間で、出所も、秘められた感情も、音量も、全てが異なる様々な音が発せられている。 
「――あ、やべっ」
 やがて話が思いの外弾んでしまった為か、灰の長さを気に掛けていなかった煙草の先がぽとりと落ちて砕けるのを見て男性の一人が喫煙の証拠を残した事への危惧の声を漏らすのと同時に、
「んんっ!」
 眼が蕩けている事から分かるように、陶酔してしまって一瞬気が漫ろになっていたのだろう、抑え付けられている口と、頬に埋まる指の隙間から一際大きな喘ぎが漏れた。
 その声量の大きさに気が付いたのだろう、はっとしたような顔をスミカが浮かべるや否や、声を出させた少年が慌てたように乳房を弄っていた右手で彼女の口を塞いで、一緒に天井へと窺う視線を向けた二人の心裡に再び強い緊張が奔った。
「――ん? 今何か言った?」
「え? 何も……いや、言ったっちゃあ、言ったけど」
「いや、その後に何か聞こえたような気がしたんだけど」
「俺は何も聞こえなかったけど――え、もしかして」
 其れを皮切りに上階の会話がどんな物へと向かうかは容易に想像が出来る所で、更に少年とスミカの緊張が強くなっていく――緩慢とはいえ、尚も続けられている抽迭を煽るように強張った身体が、肉棒を、秘唇に力を籠めさせて。
 ひそひそとした小声で、上の一人が言った。
「……誰か来てるんじゃないか?」
 二人がそれを聞きつけた途端、一際強い波が身体の隅々を駆け巡ってドクンと鼓動が高鳴った。
 特にスミカが殆ど絶望に近い感情で以って心中で(気付、かれた)と声を上げた。
 腰が抜けるように先ずは膝の、やがて全身の力が失われていくような浮遊感、と云うよりは墜落感に苛まれたのは、
(見られて、しまう……! セックス、してるのを、見られてしまう……! )
 勿論自分から始めた訳では無い、しかし快感に浸っていたのは事実。
 相手は他人で、言い訳など聞いて貰える訳も無い。同時に見ず知らずだからどう思われようと関係の無い事とも考えられるが、其の瞬間の感情の起伏は想像すら出来ない。
 普段から冷静なスミカが珍しくパニック状態に陥ってる風に、(どうする、どうする)と自分自身に打開策を出せと言わんばかりに自答を繰り返している時であった。
「ふ――っ?!」
 まるで座っていた所を無理矢理に立たされるように、胴体の底から頭頂へと突き抜けるような衝撃が突然に駆け上ってきて背筋がぴんと張り詰めた。
 いや実際に前方の手摺へと凭れ掛るようにしていた身体を、下からは突き上げられ、上では口許を塞いでる手で引き寄せるようにして真っ直ぐに起こされていたのだ。
「あ……あ……っ」
 深々と分け入られている蜜壷の奥の方で僅かにこんもりとしていて、ざらついた鋭敏な膨らみを勢い良く抉られた事で、限界一歩手前のスミカの四肢が刺激に耐えかねる風にぶるぶると震えている。其の拍子に少し開いた口を少年が、指で掻き分けて舌を挿し入れて愛撫しながら、消えてしまいそうな声量で彼女の鼓膜を震わす。
「僕、もう……っ」
 一旦は果てそうに成っていた所を闖入者によって遮られたが、緩やかに続けていた抽迭によって再び訪れたのだろう――それは殆どスミカの方も同じであるが――少年がそう告げると、円を描くようにスミカの秘所を嬲り始めた。
 開け放たれた空間では性交の音などまともに聞こえる物ではないだろうが、尻肉を激しく打ち据える様は、最早見られてもいいと覚悟を決めている風である。ただそれでも、ディープ・キスのように舌を愛撫しているとはいえ、スミカの口を塞いでいるのは限界を迎えそうな中でも残った、せめてもの気遣いか。 
「ふぁ……っ、ああっ……」
(来る、のか?)
 激しく出し抜きされ始めた直後に上の二人が何か言ってたようだが、スミカには聞こえていなかった。だから様子を伺いにやって来るのか、それとも気の所為だと云う事にして、そのままの状態が続くのかが分からず、唇の端から唾液を少年の指を伝わせて垂れ流しながら、快感の波に攫われる浮遊感の中でぼんやりと考える。
 すると上で動きがあった。
 簡素な鉄階段の為、革靴の良く響く足音が聞こえてきたのだ。
(来てる……! )
 右足、左足と踏み出されている足音が一つ一つずつはっきりと聞こえる程に、緊張で研ぎ澄まされたスミカの意識が全てをスローに感じている。足音が一つ鳴る度に速くなる鼓動が血流を迸らせ、身体の隅々を暖めて、より感覚を鋭敏にする。背後で聞こえ、耳朶を擽る喘ぎ混じりの熱い吐息が其れを掻き立てる。
(来る、来るっ! )
 腹の内側の壁を押し付けながら抉ってくるペニスの反復を襞の一つ一つで感じ取りながら去来するものを予感して心中で叫びを上げると、其れに呼応するかのように抽迭が小刻みになる。
 自身も感じつつ、出来る限り性感を与えようと云う事を具に伝えてくる、いつもの動きに酔い痴れる。
「イ……イク……」
 抑えていた、腹の底から、心の底からの高らかな喘ぎを上げたい衝動を、爆発する一歩手前で前兆のように少年の指を嘗め回しながらスミカはそう漏らした。目蓋を弱く閉じながら天を仰ぐ少年は応えるようにスミカをより一層突き上げていく。
 そして二人が束縛の全てをかなぐり捨てようとした時であった。
 ――ガチャリ、ギィ。
 再び闖入の音が聞こえた。
 内との鬩ぎあいで外への関心を亡くしていた二人が気配を確かめるも、既に誰も居ない。
 見付かると思ったのは向こうの方だったのか、それとも自分等と同じような密かな交わりを察したのかは、定かではないが、始まりの音を終わりにもして、彼らは去っていった。
 しかし、スミカと少年に必要な事は居なくなったと云う結果だけで理由はどうでもよく、それだけを確認し―― 
「――うぅぅぅぅ~~……っ!」
「あーー……あーー……っ」
 スミカが前屈みになりながら呻き、挿っているモノを捻り上げるように下腹部に全身の力の全てを結集させると自ずから締めた事で更に強く律動を弱所に味わう。噴出した淫水がショーツとストッキングを濡らし、踊り場の床に水滴を残す。
 性感に戦慄き、慄く壁に肉棒の様々な箇所を数多の方法で愛撫されて、少年が全身をびくつかせながら狭まった場所で膨らませた亀頭の先から白濁の噴水を幾度も最奥に叩き付ける中で「出てる……まだ、出てるぅ……」と嬉しそうに声を漏らすスミカに当てられたように射精が更に続いて、腰が電流に打たれたようだった。
「あ、ンっ……この、馬鹿」
 絶頂後、満身創痍と云った風に少年との結合を解きながらよろよろと手摺の上に上体とたわわな乳房を凭れさせたスミカが脚の間で張られたショーツの股布にぼとりと精液が落ちていったのを見た後、流し目で彼に視線を送る。
 しかし非難の言葉の割りには其の眼は妙に艶やかで熱っぽい所がある。
「こんなに、はぁ……出して……どうするんだ、これじゃ履けないだろう」
「だって、スミカさんがきゅっきゅって締め付けるから」
「私の所為だと言いたいのか? ……お前のが、気持ち良いのがいけないんだ」
 スミカはそう言いながらくるりと身体を回し、手摺に背中を預けながら汚れきった下着を脚から抜き去ると、ネクタイを挿んでいる乳房と丸出しになっている臀部を揺らし、今しがた犯されたばかりの蜜壷から澱んだ愛液を垂らしながら少年に凭れ掛かり、壁に背中を付けさせるように押し倒した。
 そして汚れさせない為か、焦ったような手付きでズボンのファスナーを開いて、今度は逆に彼の下着を摺り下ろす。
 射精直後で萎びれていたが途端に隆々と活力を取り戻した、淫液の残滓で濡れているペニスの長さや太さを確かめるように上下にゆっくりと扱きながら、先端を一通りちろちろと舐めてから彼の顔を覗き込む。
「お前の所為だからな。ちん○が欲しくてしょうがなくなってるのも、身体が疼いてるのも、もう一回イキたいのも――全部、全部っ」
 まだ身体に残る疲労とこれからの期待で息苦しく喘ぐ少年に畳み掛けるような勢いでそう言ったスミカは、再び行なう事の承諾を得る事も無く、中腰になると確りと左手で滾りを握ったまま己の性器の口をぱっくりと開いた――。
 
 其の頃、カラードのとある階。
 何事かと驚いている職員が、自ずから拓く道を踏み締めるように力強く闊歩している二人と、其の後ろをちょこちょこと付いて行く一人の――女性達が階層の端の方へと向かっている。
 三人に共通しているのは彼女等の制服の右胸には《インテリオル・ユニオン》のロゴ、左胸に夫々の名前が印されていて、また肩には煌びやかな階級賞が並んでいる。
 後ろの一人が憤然と歩く二人に声を掛ける。
「あの~、ウィンちゃんもスティレットさんも、どうしてエレベーター使わないんですか?」
 そう聞いたインテリオル所属のリンクス、エイ・プールに応えたのは、同所属のウィン・D・ファンションだ。
「――あの下衆と狭い空間の同じ空気を吸って堪るかっ!」
 其れに同調するように矢張り同じインテリオルのリンクスである、スティレットが続く。
「私達は階段で行く。別にお前はエレベーターを使っても構わん」
 日頃から口調は無愛想な二人であるが、特に今日はぶっきらぼうなのは、一重に怒り心頭だからである。
 その理由を掻い摘んで話そう。 
 クレイドル体勢の現在、各企業の本社は全てクレイドルに在ってインテリオルも例外ではない。
 そして地上には支社があって彼女等のような専属リンクスは其処で居住しているケースが殆ど。だが其の時のクレイドルの位置にも依るが本社から支社まで行くよりは、此処カラード本部に来る方が時間が早く済む事が多い。
 リンクスにしてもシミュレーターなどがあるカラード本部にも立ち寄る事が多い。其の為、本社の重役がリンクスに用がある場合――通信で済ませない理由は最強の個人と云えるリンクス相手に立場を誇示したいからだ――カラードを合流地点にする事がままある。
 そして先程インテリオルの重役がリンクス達に会いに来たのだが――この重役と来たら、中年で、縦に短く横に長い身体は脂ぎっていて蝦蟇蛙のようで、見た目だけで女性に不評を買うのだが、其れに加えて何よりも目付きや態度が厭らしい。
 インテリオル美人三姉妹リンクスなどと呼ばれているスティレット、エイ、ウィンなどは特にこの視線の被害者である。今日も企業人特有の此れでもかと云う程に偉ぶった態度で長々と内容の薄い訓示を述べながら、威厳でも見せようとしているのか胸を張って室内を行き来していたが、其の視線はかなりの頻度で彼女等の胸だったり、脚だったり、臀部だったりを盗み見していて、戦場を職場とする三人でもおぞましさすら覚えた程だ。
 それで話が終わると便利な世の中と云う事もあるが、何よりも前述の体型であるから蝦蟇蛙は勿論、エレベーターを使うのだが、少し歩くだけで汗ばむ中年の体臭など嗅ぎたくもないし、近距離で視られたくもないのでウィン、スティレットが率先して鍛錬の為にとか何とか云って同乗を断って――現在に至る訳だ。
 ちなみにエイが蝦蟇蛙を嫌いつつもエレベーターを使いたい訳はと云えば、
「階段なんか使ったらお腹空くじゃないですか」
「時間も時間だ。一階の食堂で飯を食えばいい」
「何を言っているんですか、ウィンちゃん。ユニオンの社員食堂じゃないからタダじゃないんですよ?!  ウィンちゃんが驕ってくれるなら構わないですけど」
 普段の仕事の効率の悪さから年がら年中貧窮しているエイにとっては食堂券のサービスの利かない、カラード食堂での食事など在り得ないのだ。結構、高いと云うのもある。
「エイ、横から口を挟むがな。普通は先輩であるお前が後輩に驕るものじゃないか」
 呆れたようにスティレットがそう言うと、エイはさも当然と云わんばかりに胸を張る。
「そうですよ。だからスティレットさんに半分驕って貰うつもりです」
 蝦蟇蛙と同乗しないとしても次のエレベーターを待てば良いのにエイが態々二人にくっ付いて来たのは、一人だと寂しいからと云うのもあるが、大半はその為である。
 溜息を吐きながらウィンとスティレットは「分かった、分かった」と投げ遣りに答える。
 矢張り階段は全く使われていないからか、此の方向に来ると途端に人気が少ない。
 そんな場所とはいえ清掃員はきっちり仕事をしているのだが、それでも何処と無く埃っぽい気がするのは寂しさの所為だろうか。
 並んでいる内、ドアノブ側であったウィンが至って普通に棒状のノブを下に倒し、やや重めの扉を開いて吹き抜けの中に一歩足を進め、スティレットとエイが続いて下へ降りる為に右手の方向を向いて――ぴたりと足を止めた。呼吸も止まった。そして時間も止まった。
 何故ならば何の気も無く、ただ階段を使う為に其処に訪れた三人がある光景を見たからで、其のある光景とは――、
「――え」 
「な……っ」
「きゃっ」
 直ぐ下の踊り場で床の上で向かい合うように座っている半裸の男女が、互いに艶かしい声を上げながら上下に揺れている光景だったからだ。
 しかも其の二人の顔には、三人が三人見覚えがあり―― 
「あぁンっ……ン?」
「ふぁっ……え?」 
 きょとんとした風に五つの視線が合わさって、沈黙が続いた。
 見下ろしている方、見上げている方のどちらも、何が起こったかを理解出来ていないと云う風に。
 そして沈黙を破る第一声を放ったのは――、
「んな……何をしているんだっ、キマサらッ!」
 幾つかある候補の中からそう切り出したのはウィンであったが、余りのショックの所為か”キサマら”と言おうとした所を噛んでしまって”キマサら”となっているが、今の状況で其処に言及する物は流石に居なかった。
 先陣を切った事からも分かるように交わりを目撃した三人の中で最も動揺しているのはウィンである。
 何せ、嘗てリンクスとしてのイロハを己に叩き込んだ師匠が人通りが極端に少ないとはいえ公共の場所で半分近く歳が下回っている年下の、男とも言えないような少年に――しかしその彼は疑いようもない程に男である事を、牡である事をウィンは身体で以って知っているのだが――跨っているのだから。
 シャツが肌蹴て露になっている胸を前に、ズボンが摺り下げられている下半身の上で。”其処”はどうなっているかは、最早想像するまでも無い。
 ちなみに怒号を上げたウィン以外の二人はどの様な反応を見せているかと云うと、スティレットは感心するように身体を仰け反らせていて、エイは手で口許を押さえているが表情たるや興味津々と云った風である。
 顔が真っ赤に紅潮しているのは三人全員に共通している。
 其の三人に負けない程に顔を赤らめている当の粗忽者、若しくは歌舞伎者のような二人は慌てふためていると云う風に、スミカは必死に下半身を隠そうとして腰で丸まっているスカートを下ろそうとしているが三人から其処は見えず、また少年の方はシャツを引っ張ってスミカと自分を覆うとしているのだが明らかに布の面積が足りていないのでどちらも徒労に終わっている。
 するとウィンの怒声に対して、スミカが言い訳を述べるように「こっ、これはな……違うんだっ」と口を開いたが、「何が違うと云うんだ! 見たまま……その……だろうっ!」と恥らいながらウィンは一蹴する。
 しかし、スミカは食い下がって、
「お前らも知っているだろうが――いや、見て分かるが――こいつは若いからちょっとした拍子に……その……大変になってしまったんだ。それで鎮めようとしてだな」
 つまり、あくまでしょうがなく、こういった状況になったとスミカは述懐している訳だが驚いたように三人から彼女へと視線を移した少年の反応通りに当然、嘘である。
 三人は知らない事だが一回目は少年がスミカを後ろから踊りかかった訳だが、二回目の今は完全にスミカの方から少年へと跨った結果である。
 とはいえ其の理由は聞こえは良く、加えて三人は各々様々な理由で彼の”若さ”を知っている為に納得したようだ。だが当人自身が言ってから野暮だと気付いたのだが、ウィンは少し突っ込んだ話に持っていく。
「だったらスミカ、お前も……する必要は無いだろうに」
 確かにそうだと思いつつも、其れを尋ねるのかと云う風にエイとスティレットがウィンを見るが、視線には気付いていないらしい。
「わ、私はこいつの――んんっ。こ、こ、恋人だからなっ。惹かれたとしても、と、当然だろうっ。何か文句あるかっ? 恋人に抱かれたいと思うのはヘンかっ?」
 柄にも無い事だと自覚しつつも――そして言わんで良い事まで言ったのも自覚しつつ――スミカがそう言ったのは言い訳の立証性を強める為でもあったろうが、恋人たる少年と身体を重ねた経験のある三人に対しての嫉妬や、自分こそが自分だけが恋人であると云う主張だった。
 それで元々他人のまぐわいを、しかも知人のものを見てしまった事で動揺してしまっている三人を言い包められたと手応えを感じてスミカは「だから、すまないが早く何処かに行ってくれ」と敢えて弱腰な姿勢で頼み込むと、バツが悪そうな顔でエイを先頭にそれぞれ戻っていった――階段の段差だったり、自分の脚に蹴っ躓いたりしながら。
 また粗忽者のエイは慌てていた為か、元々は下りるつもりだったのだから元の階へ戻れば良かったものを何故か上へと昇ってしまっていった。
 そして人間の心理なのか、違和感はあった筈だろうにウィンとスティレットは先を行く彼女に続いてカンカンと音を立てながら上っていき――最後にお決まりの開閉音がしたのを確認してから、スミカと少年は「ふぅ……っ」と心底疲れたように嘆息を漏らした。
「僕の所為にするなんて酷いです」
「元々はお前の所為だ! もうっ、いいから早く終わらせよう」
「それで――どうなったら終わりなんですか」
「……知るかっ」
 友人達に見られたのは矢張り相当恥ずかしったのだろう、拗ねて八つ当たりをするようにスミカは荒々しく少年の唇を覆い被さって奪うと、身体を叩き付ける様にして上下させる。
 引き締まっているが細い身体に腕や脚を大蛇のように絡ませながら。
「ふぅ、ンっ……ほら、お前も動け」
「はい――ふぅっ」
「あぁンっ! ン、いいぞ……気持ちいい……ちん○、いい……」
 身体全体を使って自ずから抽迭をするスミカは抜き差しの中で腰を前後に振って、自分の好きな所に熱く滾ったモノを擦り付けさせる。
 少年は眼の前で実っている果実の果肉だったり、種を貪りながら、肉が乗った肢体を抱き寄せて、上下に起伏が激しかったり、小刻みであったり、また膣口を広げるように肉棒を掻き回す。
 そうなると再び誰も居なくなった空間は二人だけのもので、誰にも気兼ねする事なく、甘く激しい淫らな嬌声が吹き抜けを上下に奔っていき、抽迭の度にどしんと階段が揺れて、結合部の隙間から潤滑剤が床に垂れていく。 
「すごい……」
 そんな情交の様子を上の階段の手摺の隙間から見守るように好奇心に瞳を爛々と輝かせている――つまり覗いているエイがぽつりと感想を漏らす。
 性交音に紛れて当人達には聞こえる筈も無かったが、覗きの行為には当然静寂を求められる物であるから、
「静かにしろ」
 と隣でエイと同じように紅潮していたり、やや口が半開きになっていたりと興味の度合を表情に滲ませているスティレットか細い声で注意した。
 また其の隣ではウィンが無言で食い入るように荒々しく、粘つくような淫らな光景を一心に見詰めている。
 何故フロアに戻ったはずの三人がこんな事をしているかと云うと、話は数分前に戻る。
 
「……エイ? 何を」
 先頭を切って昇って行ったエイが扉を開けると、何故か態と大きく音を立てるようにして直ぐに扉を閉めたので、スティレットが蚊の鳴くような声で詰問すると、振り返ったエイの眼は少女のように天真爛漫に輝いていた。
 其れを見て、何が目的かを理解したスティレットは無言のままに、にやりと頬を歪ませてエイと共に忍び足で戻っていく。
 残されたウィンも遅まきながらに察して、二人に「お、おい。どうするんだ、気付かれたら」と声を掛けるも無視されてしまった。
 しかしスミカ達に悪いと思っていたり、自分には覗きの趣味なんて無いと思うのなら、そのまま出れば良かったものを流されるように結局、不安定な段差の上で階段を陰にして――覗いている訳である。
「はぁぁンっ! もっと、もっとしてぇっ!」
「気持ちいいっ! 気持ちいいよぉっ! スミカさぁんっ!」
「――」
 白い頭髪を毟るように少年の頭を快感に突き動かされるままに乱暴に掻き寄せているスミカの、そしてひしと肌蹴たスーツに覆われている身体を抱き竦める少年が上下している。
 耳にするだけで気恥ずかしくなりそうな淫語が、また愛の囁きが短距離の中で飛び交い、激しく絡み合っている証拠である肉同士の打音が聞こえてくる。
 そんな中で窃視者達は、つるりとゆで卵の白身のような官能的に肉が乗った丸い桃肉が上下する度に、その陰の中で滾りに滾っているのだろう、嘗て自分達の其処を貫いたモノの事が思い出されて、隣の者に気付かれないように、体を直しているのだと云う風に疼いている股間を掻き毟りたいような衝動の代わりに其処に極近い内腿を擦り合せている。
 自分でも昂奮しているのだと自覚出来る程に夫々の吐息は熱っぽい。
 こんなにしたら気付かれてしまうのではないかと思う反面、時間が経つにつれて体勢を直す間隔は狭まって、加速度的に回数が増えていく度に隣の事などどうでもよくなってくる。
 その隣の二人も殆ど似たような状態だ。
 まるで尿を我慢しているように手を内腿の間にひしと挟んでいて、もういつ眼前の淫景を肴に己を慰め出しておかしくない。
 ――そうすれば、濡れてじっとりとした不快感によって、より感じてしまう疼きを少しなりとも抑えられるのに。
 淫行に耽りたいと云う浅ましい衝動を心中とはいえ隠す事も無く、三人はこれから今すぐ恋人と情事に臨む程の昂りを見せている。
 其れが故に精神的にも肉体的にも存分に熟した肢体を満足させてくれるパートナーを持ち、そして眼の前で行為を繰り広げている友人に羨望の眼差しを、また実際に以前に肉体的な悦楽を与えてくれたのに、今は見る事も叶わない少年の牡の隆盛に願望の眼差しを向ける。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 獣のような本能が垣間見えるような荒々しい吐息を吐き始めて熱く濡れそぼった秘所へと指が伸ばし始める。
 そして美人三姉妹などと揶揄される三人が仲良く同じ物を肴に、仲良く並んでの傍で見たら、さぞ官能的であろうショーが始まりそうに、
「――あらぁ、二人共お盛んね~~」
 ――なっていたのを背後からの声が遮って、はっと我に返った三人が、流石にリンクスらしい鍛錬された身体を機敏に翻らせる。其の下では二人が驚愕の表情で上を見上げると其処に居たのは――、 
「テ、テ、テレジア……ッ!」
「はぁい、正解。テレジアよ」
 誰が上げたのか驚愕で硬直した青ざめた声に至極愉しそうに応えるテレジアが手摺をぬらりと撫でながらゆっくりと階段を下りて、やがて下の手摺に肘を置いた頬杖の格好になると顔を歪ませながら下の二人を見下ろしている。
 此処に来て最悪の人物に見付かったと思ったのは、本人以外の全員であろう。
 覗き見していた三人は今正に自慰をしようとしていた事を悟られないように衣服の乱れを直し――寧ろ其れが何よりの証拠になっているのだが、動転している為に気付いておらず、性交の途中であった二人は怯えるように互いを抱き寄せ合っている。
「久しぶり、ぼうや。元気だった?」
 彼女等の焦燥に気付いていないのか、それとも楽しんでいるのか、テレジアは何食わぬ顔で少年にそう声を掛けると、彼は「は、はぁ……」と気の抜けたような返答をする。
 そして其の二人が一度、肉体関係を結んだ事実を知らぬインテリオルの三人が直感的に何かがあった事を嗅ぎ付けたのは女の勘と云う奴だろうか。
「何故、お前が此処に――!」
「何故って……此の子達と同じよ。インテリオル本社の人間に呼び出されたの。でも私はトーラス唯一の専属だし、それにリンクスだけじゃなく企業人でもあるからね――まぁ、朝ダーリンと張り切り過ぎちゃって遅刻したんだけど――取り敢えず、これで一応責任者でもあるから個別にお話があったのよ」
「いや、そうじゃなくて……」
「え? ああ、階段を使ってるのは何時もの事よ。美容と健康の為。それにね、ここ重要よ。太腿やお尻を鍛えるとアソコの締まりが良くなるの。いい? あなた達、これは絶対に覚えておきなさい」
 思えばウィン、スティレット、エイが来ている時点でこいつの可能性も考えておくのだったと今更ながらにスミカは後悔が募り出して、自分への怒りを八つ当たり的に周りへとぶち撒けた。
「それと――お前等は何でまだ居るんだ!」
 詰問された夫々が「あ、いや」「あの~」「それは……」などと思い思いに口を開きだしたが結局覗いていたなんて言えず、思い思いに口篭っていると、
「この子達はあなた達がヤっている所を覗き見しててね、もう少しでみぃんなして一人エッチする所だったわよぉ。正直見たかったんだけど、どうしても我慢出来なくてねぇ。ごめんねぇ、邪魔しちゃったかしら」
 是正も補足もしようのない、実に的確な説明をされて三人は恥じ入るように耳たぶまで顔を真っ赤にして俯いた。
 三人が並んで自慰をしそうだった事に驚いたのか、それとも何かしら惹かれる物があったのだろうか、少年が彼女らの方を見ると、テレジアが指を振りながら彼に声を掛ける。
「こらぁ。ダメよ、ぼうや。今もハメちゃっているのに他の子の一人エッチを想像する・な・ん・て」
 どうやら図星だったらしい、三人と同じように少年が真っ赤になって俯くと、つむじの辺りに強い視線が痛い程に突き刺さってきた。 
「分かったから、もう全員早く行け!」
 いい加減付き合いの長い友人達に裸体やら繋がっている所を見られるのにはうんざりだと、同時にいい加減此の状態を早く終わらせたいと云った風にスミカが泣き声を上げる。窃視者三人はそそくさと立ち去ろうとしたが、
「何なら私が代わってあげましょうか」
「ふっ、ふざけるなっ!」
「わぷっ」
 普段通りに悄然としているから何処まで本気で、何処まで冗談かは分からないがテレジアがそう言うと、スミカが反射的に少年を乳房の合間に埋めるようにしつつ、ぎゅっと抱き寄せた。
 しかし、テレジアの方はどうやら想像を遥かに超えて――本気だったらしい。
「ぼうやのが元気になっちゃってて大変なんでしょ? それなら皆でした方が手っ取り早くないかしら」
 そのとんでもない提案に一同が度肝を抜かれたように静まり返る中、テレジア一人だけが、何か変な事言ったかしら、と云う風にきょとんとしていたが、やがて自分の言葉を反芻するようにうんうんと頷いてから続ける。
「うん、それがいいわよ。皆で愉しみましょ! 乱交パーティーね、女の子と複数プレイなんて久しぶりだわ~」
 一般人からすればどうすればそういう結論に達し、どういう考え方をすれば名案のように提唱出来るか、不思議でならないだろう。
 極めて特殊な職業の四人だって理解が出来ていない。
 そして複数人に依る情交と云うキーワードに引っ掛かったのか、何人かが同時に声を張り上げた。
「――断るッッ!」
 短いので言外の意図を察するしかないのだが――もう何度も言っているが――付き合いの長い、しかも同性の友人と裸で絡み合うのなんて死んでもやりたくないと云った所だろう。
 仮にそういう事に話が進んだとしても目的は少年の疲弊であるのだから、女同士で絡み合う必要は無さそうだが――何せテレジアだ。確実にそっちもやらせようとしてくるに違いない。
 そしてそれが分かっていても流されてしまうだろう。
 そんな予想が短い一言になって発せられ、寧ろ短いからこそ真に迫っていたのだが、テレジアは拗ねたように、
「えぇー。いいじゃない、しましょうよぉ~。乱交パーリィー。酒池肉林~。中々経験出来ないわよぅ?」
 年齢と良い意味で全く吊り合っていない見た目をフルに活かした、駄々を捏ねる子供のように――というかほぼそのもので、顔を膨らませながら身体を左右に振っているのだが、強請られている相手は実年齢を知っていて、しかも同じ女であるから通用する訳も無い。少年とエイだけは少し可愛いなどと思っていたが。
「そんなふざけた事になど絶対に加わる物か! スミカ、私達は行くからとっとと終わらせてしまえ!」
 覗き見していた癖に何を言うのか、猫のように髪を逆立てながら怒声を張り上げたウィンはそう怒鳴りながら、去ろうとしたが、其れをテレジアが進路を塞ぐように前へ出ながら制止して、
「お願いよぉ。ちょっと待って、ウィンちゃん――うん、そこでいいわ」
 強引に其の場に留めると思いきや、何故か不自然に一歩引いて、 
「はい、チーズ」
 ――パシャッ。
「え?」
「もう一枚いっとこうかしら。いいよ~」
 ――パシャッ。 
 テレジアはスカートのポケットから真四角の物体を何気なく取り出し、眼鏡の前に掲げると、ぱちりと光が瞬いた。
 唖然とフラッシュに照らされる一同を他所に、更にもう一枚。
 そして独り言なのだが何が起きたのか理解出来て無い全員に語りかけるように言葉を発する。
「よしっ。今週の《週間トーラス》の一面の写真はこれで決定ね。見出しは――『インテリオル美人三姉妹と期待の新人リンクスの危ない性癖! 』って所かしらね~。プライバシーの保護なんて知ったこっちゃないわ。売上一位は確実よ! ハーハッハッハッハ!」
 満足そうにデジタルカメラの画面に映し出されているのだろう、撮ったばかりの写真をテレジアが眺めていると、途端に現実味が戻ってきたのだろうか、矢張り近い所為かウィンが先陣を切る。
「テレジアぁッ! 貴様、何を考えて……!」
「何、って? 勿 論、スクープよ。アダルトとゴシップは兄弟や姉妹みたいな物だからね、私の管轄の一つよ」
「そんな事はどうでもいいッ! 早く写真を消せッ! いや、ソイツを寄越せェェエエエーーッ!」
 怒涛の勢いでがなり立てるウィンが気魄を篭らせて腕を突き出し、カメラを奪い取ろうとするが、飄々とした様子のテレジアは気圧される事もなく、ひょいと身体ごとカメラを引くと追撃が来る前に嗤った。
「ウィンちゃぁん。最近のポータブルってのは便利でねぇ。本職のカメラのように綺麗なのが撮れてオマケにボタン一つで――送信出来ちゃうのよっ?」
 つまり此れはゴシップ週刊誌に、折り重なっている男女を背後にして自分の顔が実名と共に載るのも載らないのも、全ては自分の気持ち一つで決まるのだと言う脅迫である。
「ちなみに写真に写ってるのはウィンちゃんだけじゃなく、スティちゃんもエイちゃんもよ。あ、あなた達二人は当然だけどね。実物見る? よく撮れてるわよ~」
 そう言いながらテレジアがポータブルを反転させて、うやうやしく掲げると、すっとウィン達が顔を寄せる。
 遠くのスミカと少年には見る事は出来ないが、その写り具合は、たじろいだり、硬直したり、顔に手を当てているなどの三人の反応を見れば直ぐに分かった。
「……それで? 貴様の目的は何だ?!」
「流石ウィンちゃん、話が早くて助かるわぁ。写真を消す交換条件は皆で一緒に――ら・ん・こ・う」
 言葉に嫌味ったらしい甘い響きをケーキの生クリームのようにたっぷりと乗せながらテレジアは愉しげにそう言った。
 三人の中でも特に付き合いが長いスティレットは最終的にはこうなると分かっていたのか、既に何処か諦めているような雰囲気を漂わせている。
 エイは戸惑ったようにあたふたとしている。
 ウィンは怒りでわなわなと震えている。
 そしてやや遠い所為か、すっかり蚊帳の外のようになっているが確りと勘定に入っている、寧ろ主役と言ってもいい少年は、スティレットと同じようにがっくりと肩を落としているスミカを心配そうに見守っている――但し想像が掻き立てられているのか、何処か瞳に期待が秘められているのは気のせいではないだろう。
 どっと疲労が凝縮したような雰囲気が漂う中、テレジアがまるで学校の先生の如く、気を引き締めるように手をぽんぽんと叩きながら、
「それじゃ皆、早速移動するわよ」
「移動って……何処にですか?」
「上の階。クレイドル体勢が出来上がった直後に企業の重役が使ってた会議室の階があるんだけど今じゃ使ってないし、階段からはそのフロアに入れないから絶好のポイントなのよ~。と云う訳で出発!」
 るんるんと浮かれている足取りで進むテレジアを先頭にして、後の五人がだらだらと追っていく。
 スミカはシャツのボタンやブラジャーはそのままでスーツの上着だけを留めていて、ぐしょぐしょになったショーツとストッキングを指で摘んでおり、少年は片手ではファスナーが開け放たれたズボンの裾を掴んで、もう片方の手ではトランクスを入浴する際のタオルのようにして、治まっておらず、服の中にも収まらない股間の一物を隠して、階段を昇っている。
 布を前に垂らしているだけでは脚を上げる度に揺れて現れてしまうので、押し付けているのだが、その為にくっきりと雁首の段差まで形が浮き出てしまっている。下手に出しているより、よっぽど存在感が強く、気になるのかスミカとテレジア以外は其処にちらちらと視線を送られているのが少年には妙に気恥ずかしいのだが、見られている感覚の所為で一向に治まる気配が無い。
 テレジアはと云うと横目などではなく、時折振り返ってじっくりと鑑賞するように眺めては、その度に艶のある笑みを浮かべるのだった。
「……流石に詳しいな」
「昔から隠れてダーリンとか拾った職員と、よくそこでしてたの。先客が居るかもしれないけど、知っているのは大体お友達だから黙っていてくれるわ。寧ろ向こうの方がバラされたらマズいからね。脅そうとするのもいないでしょ、何せこれだけリンクスが揃ってるんだからね~。仮にそんなのが居たとしてもこの全員で口裏合わせた上で殺っちゃえばいいんだし」
 ――今さらりと不倫の事を述べたのだが、ここの夫婦のシステムは一体どうなっているのだろう。それに最後の不吉な文言は何故か経験があるように感じられるのだが無視していいものなのだろうか。
 全員が全く理解の及ばないテレジア夫婦の間柄や素行を不思議に思いつつも――また理解したくも無いと考えていると、当のテレジアはポータブルを取り出して夫に電話を掛けた。
 例の衝撃写真が納められているだけにポータブルが出てきた時は全員が身構えたが、テレジアの口振りからは「ちょっと遅くなるから時間潰してて」などと、至って普通の内容だ。
 しかし電話を受けている旦那は如何な理由で遅くなるのか果たして分かっているのだろうか、また察しているとして、これから不倫をする妻と「うん、後でね」なんて普通の言葉を出させるぐらい大らかな会話を出来るのは何故なのだろうか。
 一向に疑問は尽きない。
 
「よかった。誰もいないわ」
 もう何度も言って来たが実年齢と掛け離れている見た目のテレジアが、まるで展望台に昇ってきた子供がはしゃぐように後続を置いて駆け出して、目的の踊り場を見回してから上機嫌そうに言った。
 現在の階層は20階ほど。
 10階程上ってきた所為で、歩き辛いのを含めて何人かは既に疲労している訳だが、そんなのに構う事なく、テレジアは何が入ってるやら確認もしたくないハンドバックを漁り出すと、穴の空いた蓋を冠っている皿のようだ立体感のある小さな容器を取り出して床に置くと、其の蓋を開けて火を付けて、また閉じた。
 すると細い煙が揺ら揺らと立ち昇って、辺りに甘い香りが立ち込めた。
「何だ、それ」
「ウチで作ったお香の試作品」
 つまり碌でもない代物であると云う事は最早説明するまでもないだろう。
「イイ気分にさせてくれるお香は昔から結構あったんだけどね、それの効果をより長時間利くように、より強く、そしてよりお手軽にしてみたの。昔からこういうのが伝わってた有澤がまだ手を付けていなかったのはラッキーね。ちなみに私が既に効果は試して副作用とかの無いのも、効能の具合も確認してあるから問題ないわよ」
「……火災報知機とかに引っ掛からないのか? いやだぞ、水浸しになるのは」
「ふふん。其処ら辺も考慮して、ぎりぎり探知されない量の煙だけが出るようにしてあるの。大変だったわよ~、あらゆる探知機で実験したんだから」
「確かに今の世の中、そういうのが設置されている家は多くありますけど、普通家の中で使う前提なんだからそこまで気を遣わなくても――ああ、今のような状況のためなんですね」
「ピンポーン。さぁて、始めましょうか。うふふふ」
 テレジアが楽しげに且つ淫靡に微笑すると、幾つもの溜息が香炉から燻る煙を吹き散らす。
 今からする事はと云えば、そういう事であるから服を脱ぐ必要があるのだが、そんな状態だから勿論の衣服に伸ばした手は躊躇いがちである。
 また至極どうでもよい事であるが、こういった所には夫々の個性が良く出ている。
 例えばインテリオルの軍制服の上着のジャケットから脱いだのは三人共通であったが、続いてネクタイを外してそれからシャツのボタンを外しに掛かっているウィンは上からだが、エイは下から。またスティレットは先にスカートの方から着手している。
 それにウィンやエイは腰までに至るストッキングなのだが、スティレットはガーターベルトだ。ちなみにエイは安物なのか、生地が明らかに薄い。
 しかし前述の通り、個性の外に嫌々といった感じが良く出ている為に其の手付きは亀の歩みのようだ。
「こらこら、みんな早くして」
 そんな様子に苛立っているテレジアが、矢張り先生のように呼び掛けたので、全員がそちらに向くと、ぴたりと手が止まった。
 というのも言いだした張本人だけあって既に脱ぎ終えていて、シャツや襟首に回されていたネクタイやスカートなどは既に床の上に主婦らしくきっちりと綺麗に畳まれているのだが見当たらない物があったのだ。
「テレジア、ちょっと聞くが――下着は?」
「え? 今日私ノーパン、ノーブラだけど? ああ平気よ、シャツ結構厚手だったから。それでもスレて気持ちよかったから少し危なかったかしらね。ほら、もう勃っちゃってるでしょ? どうかしら、ぼうや。私のここ、可愛い?」
「……えええ?!  さっき階段使ってましたよね?!」
「下から誰か来たら寧ろ見せるぐらいの心構えに決まってるじゃない。勿論、ちらりと、まるで微笑を残すようにね。”あれ、今の履いてたかな? ”って思わせるぐらいが、さりげない露出の肝ね~」
 一応とはいえ、こんなのが同僚なのだからウィン、スティレット、エイの心境たるや如何な物なのだろう。
 嫌気が差しているだけで済んでいるのか、それとも到底不可能であるが他所のグループに移りたくなっているか、はたまたテレジアの方をトーラス毎他所に金を払って譲り受けて欲しくなっているか。
 元同僚のスミカも似たようなものだろう。
「もう、そんな事はどうでもいいのっ。こっちは早く始めたくてウズウズしてるんだから、ちゃちゃっと脱いじゃって……あら、ぼうやもまだなの! あなたはちん○一本あればいいんだから、とっとと出しちゃいなさい」
 それにしても、いたいけな青少年、文字通りの少年に対して酷い言いようである。
 女は抱ければいいなどと云うプレイボーイは数多く居て、世の女性は其の類の発言に憤慨しているだろうが、同じ事を言われれば、男だって同じように傷付く――尤も夫以外の男は肉体以外に興味など無いと思っている上に、夫が居ても憎い隊関係をあっちこっちで結んでいるテレジアに倫理や道徳など説いても全くの無駄か。
 そうして漸く全員が全員、頭の上から爪先まで露にして――まだ諦め切れなさそうに手で局部を隠している。其の前にシャツを使っていたのだがテレジアに剥ぎ取られた。
 とはいえ夫々身体にも個性があってスミカやウィンなどは桃色の突起こそ隠せていても、突き出ている物は到底隠し通せる物ではなく、細い腕の線の上下から果実がはみ出ている。
 彼女等に比べると小振りなエイや、そうでなくても小振りなスティレットにしても、恥部を隠す為に脚をぴっちりと閉じて横にしているのだが、むっちりとした太腿や桃肉が露になっている。
 そして少年などは彼女等と違って隠す所は一つだが、手やら腕だけで日を遮る物ではなく、腹の方へ向けられている隆起の半分以上が股間に重ねられた腕の隙間から覗けている。
 此の中では特に身体の線の起伏が少ないテレジアなどは一人だけ勇ましく仁王立ちであるから、そもそも隠していない。
 ちなみに少年の裸を見て、エイ、スティレット、ウィンは、スミカとテレジアは兎も角として自分以外に対して、
 ――何故、驚かないんだろう。
 自分は見た事があるから知っているが、不自然にも彼の尻肉の狭間の根元、背骨の先から生えている尻尾が不思議ではないのだろうかと。しかし前に協働でもした時に偶然見掛けたのかもしれないと夫々結論付けた。
 三人が三人、恋人であるスミカは勿論、それに色情魔のテレジアはいいとして自分以外が華奢で、年下で、前述の通り恋人が居る少年と身体を絡ませていたとは思わなかったのは至極当然の事か。
 尽きない疑問と放棄した疑問が積み重なる中、
「ふふ、やっとパーリィー開幕ね」
 プロデューサー、若しくはフィクサーが、宴の開幕を宣言した。 
 ――何をやっているのか、自分は。
 但し、拍手も歓声も無く、心中での力無い呟きと、嘆息だけが会場を包むのだった――。
 獰猛で妖艶な笑みを浮かべながら一糸纏わぬ姿のテレジアは、同じように生まれたままの姿の、スティレット、ウィン、エイ、そして事の発端であるスミカと少年の計五人を独りで相手取っているかのように仁王立ちだ。
 裸体を隠す為にちんまりと身を丸めている一同が嫌々と云う風に嘆息を漏らすのも気に掛けず、テレジアがさっそうと隙間を縫うように歩いていく。
「――え? え! ……んんーっ?!」
 中でも特に生娘のように恥ずかしそうに俯いているエイが影を掛けられて顔を上げると、身体を隠していた腕を掴まれて裸体を曝されながら同性であるテレジアに突然に唇を奪われた。よく冷えた眼鏡のフレームやガラスが鎮まっていない昂揚で火照っている顔を一部分だけ熱も奪いながら。
 エイからすれば同性とのファースト・キスであるのだが、しかし内容たるや其の名称とは余りに掛け離れている。
「ンぁ……ふむぅ……」
 唇で以って割られた唇の縁を舌でなぞられ、やがて淵から中へと侵入してくると、彼女自身を表わすようにおずおずと控え目に口腔で収まっていた舌を絡み取るようにしながら引きずり出され、熱心な様子で愛撫されている。
 ざらついた味蕾同士が擦れ合い、互いの粘つく唾液の甘みを感じ取っていき、淫音が肉に染み渡っていく。
「ふぁ……」
 他の四人の視線の下、銀色の糸が舌同士を紡ぎながらテレジアとエイの顔が離れていく。
 熟練されたテレジアのエロティックなキスにすっかりと緊張を解されたようにエイは口を半開きにして眼を蕩けさせた牝顔で喘いでいると、耳元にそっと顔を寄せられて小声で囁かれた――但し、周囲にも確り聞こえる声音で。
「皆の中じゃ、あなたが一番乗り気だったでしょう?」
「そ、そんなことっ……ありません」
 指摘されるようにそう言われて、かっと顔に朱を差しながら反論しようとしたエイだが途中で言い澱んだのは、矢張り図星だったからだろう。事実、テレジアが提案をした時にスミカ、スティレット、ウィンが嫌だと言った時に、黙っていた彼女は本人も理由が分からない何かに、トクンと胸を打たせていた。
「そう? そういえば覗き見してた時、あなた――始めちゃってたわね」
「し、してませんっ!」
「ふぅーん、じゃあ……」
 再び俯いたエイが茹で上がったように頭部から首筋まで全てを真っ赤にしながら、ばっと顔を上げて否定したが、過剰な反応は殆ど認めているような物だ。それを更に固く確かめるようにテレジアはそっと手を伸ばす。
「あっ、やっ!」
「どうして、こんなに濡れてるのかしら。ねえ、どうして? どうしてオナニーした後みたいになってるの? ――しかもイク直前みたいに」
 執拗に重ねて続ける質問の間に指に愛液が絡み付く音が挟まれるのを、呆気に取られているような四人も聞かされている。
 エイも、はいそうです、と答えられる訳も無いので細い喘ぎ声を漏らしながらとはいえ黙秘を続けている。
 だがテレジアは無理から口を割らせるつもりはないようで、其のいじらしい様子に愉悦の視線を送りながら言った。
「へえ、じゃあエイちゃんはオナニーもしていないのに、おまん○がこんなに濡れて、赤くなっちゃうのぉ? それは大変ねぇ。そうだ、私だけじゃ分からないから、異常かどうか皆にも見て貰って判断して貰いましょう」
ぽつりと漏れた「え……?」と聞き返す音を満足に発する事なく、口内へと、秘所への淫撫で既に腑抜けになっているエイの身体が腕を掴まれて持ち上げられ、踏鞴を踏みながら引き摺られていく。
 ちょうど場の中央辺りでテレジアに犬を呼ぶようにちょいとちょいと反復する指で呼ばれた少年が今の光景でまた更に血が充填されてしまった一物を隠しながら歩いていくと、今度は指が下に向けられて座れと命令され、言われたままに座る。
「わっ」
 いきなり突き飛ばされて、全身を曝されるように床の上に寝転がされた。ただペニスだけは反り返ったまま。
 其れを見た少年が慌てたようにまた手で隠そうとしていると、途端にふっと顔に影が掛かって、股間から斜め上へと視線を移す。
 其処には生まれたての小鹿のようにとまでは言えないが、ぶるぶると震えているエイの脚と、其の根元でぐっしょりと濡れた毛を冠っている花弁が在って、少年はごくりと生唾を飲み込む。
「じゃあ、開きましょうね」
 看病するように寄り添いながらも寧ろ容態を悪化させているようなテレジアが、「いやぁ……やです、やめて……」とかぶりを振りながらむずかるも罠に絡み取られたように強く抵抗の出来ないエイの、四つの、その内一つは特に熱烈な視線と光に曝されている陰部を擦っていって――ぱっくりと口を開かせて朱肉を暴いた。
 溢れる蜜を少年の鼻先に垂らしながら。
「ほら、これなら皆にも見えるでしょ。特にぼうやは絶景ね」
「――やっ! やだっ、やぁ……あぁ……っ、見ない、でぇ……!」
 屈みながら腰の両側から回した上で身体に絡み付く格好で左手で秘唇を開きながら、突き立てる右手の指を抜き差しすると、エイが嫌がってはいるのだが背後で焚かれている香にも劣らない甘い香りを醸す泉を溢れさせている。一本から二本へと数が増えていくテレジアの細い指が愛液を掻き出すように抽迭させ、少年の頬や目蓋、口中に落ちていく度に、エイの背後で怒張が跳ね返る。
 スミカ、ウィン、スティレットは敷かれた男の上で女の裸体が蛇のように絡み付いているのと、視界の端で跳ね上がる物へと交互に眼を遣っていく。
 やがて一身に視線を浴びながら責められているエイが悲壮な声を上げる。
「テレジアさ……許して、もう……」
「どうしたの?」
「だめ……なの、だめなのぉ……」
「思った通り、エイちゃんはドMね。皆に見られながらイっちゃうんだ?」
「私っ、マゾなんかじゃありません……それに、そうじゃなくて……はっ、はぁンっ!」
 執拗に膣肉を嬲りながらも徐々に蜜で溢れていく其処を眺めるのから、昂揚で身体に滲む汗を舐め取るように腹に舌をべろりと這わしていたテレジアが、エイの言葉に怪訝そうであったが直ぐに「ああ、なるほどね」と冷笑を浮かべて、手はそのままに上体を戻して「潮、吹いちゃいそうなんだ?」と囁くように尋ねる声を拭き掛けると、エイは認める事の恥じらいを振り払うように、何度もこくこくと頷いた。
 見られながら果ててしまいそうな事は既に認めているとしても、このままでは股間の下の少年の、しかも顔に自らのを掛けてしまう事になるのは避けたいのだろう。
 だがテレジアは心底意地の悪そうな笑みを見せ、
「ぼうやの顔を汚したくないの?」
「ん、ンンっ、ンぅっ! ……は、はい」
「分かったわ。じゃあ止めてあげる――でも、その代わり認めたらね」
「何……はぅンっ……を、ですか」
「当然さっきオナニーしてたのと、おまけに、実は、イってたことよ」
「そ、そんな……」
「嫌なら良いのよぉ? このままぁ……イカせてあげるだけだから」
「――やあぁぁっ! ま、まってっ! だめっ、ほんとにだめなんですぅっ!」
 テレジアもテレジアで気分が乗ってきたらしい、眼鏡の奥で瞳を獲物を追い立てる嗜虐の色で燃やし、口の端が吊り上がっている、一目で昂奮していると分かるパーツを乗せている紅潮した顔で、やおらにエイの秘所への抽迭を速め出した。
 牡のような荒々しさであるが、同じ女だからか、それとも経験故か狙いは的確なのだろう、高い技量に速度が乗った責めにエイが叫び声を上げながら性感から逃れるように仰け反るも、腰を抑えられていては身体を落とす事も出来ず、テレジアの手の中で弄ばれる。
 ぐちゅぐちゅ、と更に高まりを見せる淫音の中、エイは腰を引いたり、テレジアの手を押し退けようとしている。
 だが腰を引けば回されている左腕でぐっと戻されてる上に其れを利用した勢いで肉襞を抉られ、手を退かそうとしてなんとか少しずらしても、矢張り腕を戻す勢いを利用して指の挿しが速くなるだけであった。
 最早最後が近いのだろう、雨漏りしている屋根に徐々に雨足が強くなったように少年の顔への落水が落ちていく量と間隔が早くなった頃、エイは目尻から涙を垂らしながら叫んだ。
「うっ、うう……分かったからぁ……分かりましたからっ! もう、やめてぇっ!」
「じゃあ言って御覧なさい! ほら、ほらっ!」
「わ、私っ……私ぃっ! 私っ、オナニーしてました! イっちゃいましたぁっ!」
 嗚咽交じりの涙声で泣きながら認めたエイであったが、テレジアはまだ手を止める様子は無い。
 口を開かせた勢いに乗るように、エイの膣の天井を擦りながら更に質問を重ねる。
「ここ? ここ好きなの?」
「はいっ! そこ……! そこ、イイっ! イイんですぅ! 気持ちいいの!」
「認める? 見られながらおまん○されてイクようなMだって。変態だって」
「もう……私、マゾでも変態でもいいからぁ……テレジアさぁん、お願……い」
 もう自分の身体を支えるのも覚束無いのだろう、弱々しく秘所を容赦無く責め立てている相手の身体に凭れ掛り、エイは潤んでいる瞳でテレジアの顔を見詰めながら懇願する。テレジアはエイのそんな様子を眺めて愉悦を感じているのだろう、ほうと溜息を漏らしてから、あやすように彼女に優しく微笑みかけた。
「――じゃあ、イカせてあげるわね」
「え……う、嘘――あぁぁあっ!」
 何食わぬ顔で約束を破り捨てたテレジアにエイが昂揚で赤味がかっている顔を青ざめさせた瞬間。僅かに弱まっていた一箇所を集中的に狙う指の抽迭が、弱まる前よりも速くなり、テレジアの腕の中でエイの身体が口から唾液を撒き散らしながら、尚も秘所から愛液を垂れ流しながら跳ね上がった。
「やめて、やめてっ、やめてぇ! 出ちゃう、出ちゃうからっ! ほんとに出ちゃうから! 出ちゃっ、かけちゃうよぉっ!」
「どうせ期待してたんでしょ。いいから、潮ブチ撒けて――」
 今度ばかりはエイもなけなしに力を振り絞るようにテレジアの肩口辺りを強く掴む。しかしテレジアは其れを歯牙にも掛けず、身体の捻りだけで振り払うとエイの小振りな乳房に顔を寄せ、今までラビアを開いていた指をそっと上にずらしていく。そして触れてもいないのに真っ赤に尖りを見せている乳頭を前歯で挟み、被っていた包皮を自ら剥いだ淫核を抓り上げた。どちらも痛い程に。
「――イッちゃいなさい」
「きゃ……」
 其の瞬間、エイは己の全身を電流に貫かれたを感じ、また其れが視界で爆ぜるように瞬くのを見て、無意識に眼球を上へと向けて――
「――あああぁぁぁっ!」 
 断末魔のような悲鳴を上げながら全身の骨が軋む程に身体の筋肉を痙攣させる度、壊れた水道のようにテレジアの指が突き刺さっている膣から大量の愛液を吐き出す。幾度も幾度も、水が満杯に入ったコップを引っ繰り返すように。
「あー……あーー……あっ、あっ……あぁっ……ぁぁ……」
 テレジアの腕に背中を支えられながら、がっくりと背後に向かって垂れ下がった頭は、清廉な水色の頭髪の端を虚無を見ていて濁っている眼から流れる涙で濡らし、本来は真っ白だが今は赤くなっている頬を唾液が線を引いて伝わらせていく。
 びくびく、と絶叫の残滓の呻き声を上げながら弱く跳ねる胴体の底では、真っ赤に充血した秘唇は夕立が上がった後の屋根の廂のように、水滴をぽたりぽたりと垂らしている。
「はぁ……は……ぁ……」
 其の周りを囲んでいる女は羨むように其の光景を見詰めていて、もぞもぞと落ち着きなく手をあちこちに動かしいる。喘ぎながら下腹部から垂れる淫水で鉄の床を濡らして。
 またそれぞれの膝の先で横たわっている少年も彼女等と同じように熱い呼吸を吐いている。
 水を掛けられたように、ぐっしょりと濡らした顔で。
 立ち込める愛液と、香の甘い芳香が全員の脳髄を気付かぬ内に緩やかに溶かして行く――。

「――ふぇ、うっ……ごめ、ごめんなさ、ごめんなさい……うえぇ……ひどい、ひどいよぉ……」
 絶頂後、短い間とはいえテレジアの腕に支えられながらエイは死んだように動かなかったのだが、どうやら失神していたらしい。そして眼を覚ましてから真下の少年の顔を見てから子供のように泣き出してしまい、そうさせたテレジアに宥められるように頭を撫でながら、あやされている。
「ごめんね、エイちゃん。あなたがすっごく可愛いかったから、ついやりすぎちゃったの」
 ――最初からそのつもりだった癖に。
 そんな視線を風と流すテレジアは、少年の腹の上に腰を落ち着けて眼を充血させているエイの顔を自分に向けさせると、やんわりとキスをした。
 鞭の後の飴のような甘い口付けに泣いていたエイも心地良さそうに受け容れて、我知らず恋人にするようにテレジアの身体に腕を回すと、自ら唇を貪るように顔を左右に振り出す。
 やがて少ししてテレジアの方から顔を離すと蕩け切ったエイの顔は名残惜しいと云う風であった。
「本当に可愛かったわよ。だから私も……こんなになっちゃった」
「あ……すごい、です」
 テレジアは囁くようにそう言いながらエイの腕を取って、其の先の細い指に膝の辺りまで引かれている滑りのある線を辿らせるようにして自らの秘所を触れさせる。
 エイは他人の濡れそぼったラビアを始めて触れた事に些かの躊躇を見せる事なく、指に絡み付いてくる愛液や、陰唇の縁の感触を確かめている。
「それにね、ぼうやも悪い気はしてないと思うの」
「でも……本当に、ごめんなさい。」
「あ、いえ、平気です……」
 自身の腹の上で繰り広げられていた、甘美な交流に、そして未だに顔全体に張り付いて離れない牝の芳香と塩っ気がありながらも甘味に、ぽーっと顔を赤らめていた少年が声を掛けられて、今しがた目が覚めたような風に返した。
「そうよね。こんなに可愛い子の美味しいおツユ沢山貰ったんだから、寧ろ嬉しいわよね」
 実に満足気な顔をしているテレジアが先程までエイを嬲っていた右手の指をしゃぶりながら感想を漏らすと、エイが顔の肌に赤を入れた。
 一頻り指を舐めたテレジアは足りないと云うように今度は少年の顔に舌を這い回す。そして、愛液を舐め取るついでだったのか、それともそっちが目的だったのか、少年にキスをしたと思ったら僅かに顔を離して、彼の口中に粘液を垂らす。
「ん。どう、私の唾液とエイちゃんのおツユのブレンドの味は?」
「はい……美味しい、です」
 唇から涎を垂らしながら尋ねる妖艶さに少年が鼓動を少し昂らせていると、テレジアはエイの方に振り返って「エイちゃん。後ろ、見てみなさい」と指示した。
「え? ……きゃっ」
 腹の上に座っているエイが振り返れば其処には当然、彼女自身が作った淫景や、溢れさした愛液で以って、張り詰めているペニスが聳え立っている。エイと同じように其れを陶然として見詰めるテレジアが呟いた。
「私とした時よりもすごく大きくなってるじゃない。やっぱり成長期なのね。此の若さでコレなんて本当にスミちゃんが羨ましいわ~」
 どうやらエイとテレジアだけではなく、スミカもウィンもスティレットも熱り立っている肉の塔に熱心な視線を送っているらしい。
 それで少年がそうしようとした訳ではなく、見られていると思う所為で勝手にだったのだが、まるで期待に応えるかの如くソレをビンと弾くように跳ねさせてしまった。
 あざといような感じで少年は恥ずかしかったのだが、彼女等は察してくれたのか軽蔑するような事はなく、それとも本当に期待に応えたのだろうか、寧ろ息を呑む、飢えが表出したような空気が流れた。
 其の時、テレジアが一瞬少年に視線を送った。
 だが彼は少し違和感を覚える。
 というのも先程からも――そして以前も――あくまで誘導するような、また扇動するような身の振りをしてきたテレジアの攻め気の強い、嘲るような瞳の色が其の瞬間だけ妙に湿り気のある色に、云うならば受身になったような気がしたのだ。
 そしてテレジアは皆を煽るようでもあり、また自分に対して言うように声を出した。
「ほらぁ、あなた達、これはパーリィーなんだから。そんな座ってばかりじゃなくて、もっと好きにやりなさいな。特にスミちゃん!」
「な、なんだ」
「全く、ダメでしょお。あなたはぼうやの恋人なんだから率先してフェラとかしなきゃあ。ウィンちゃんもスティちゃんも気分的に乗れないじゃない。でも、あなた達もあなた達で、自分からぼうやに触って貰うとか、何なら触りにいくとか、積極的にならないと!」
「いや、その……なあ、ウィン?」
「写真。いいの?」
「……くそっ、分かってる!」
「分かればよし。まぁ初めてだし、戸惑うのもあるかもしれないわねぇ……取り敢えず私が決めるわ。エイちゃんはぼうやにして貰いなさい。ウィンちゃんもそうして。スミちゃんはフェラなりパイズリなり好きに。スティちゃんは私とね――ああ、心配しないでもいいわよ。最初は私が全部してあげるから。まっかせなさい」
 まるで皆で食事を作る際の役割分担を決めているような風であるが、指示している方も、指示されている方も全裸な訳だから異常極まりない光景と云っていいだろう。
 しかし先程のエイが見せた痴態の所為か、効果を発揮してきた香の所為か、写真を消さなければならない強迫感の所為か、もしかしたらテレジアの一種カリスマめいた物があるというのか――いや、単にテレジアに振り回される事が沁み込んでしまっているだけかもしれない――これから彼女自身の手でこってりと絞られるスティレットを筆頭に全員何かしら嫌がる素振りを見せるが、本気で逃れようとはしていないのだ。
「して貰うっていっても……」
「ん? ああ、そうそう。悪いけどクンニはちょっと待って。さっきのエイちゃんみたいにぼうやにスティちゃんのイク所見せてあげるから。だから指か、若しくはソープみたいにすればいいわよ」
「いや、そういった事に詳しくないんだが」
「あなた達がぼうやの腕とか脚とかに擦り付けるの。一回ぐらいは机の角とかにお股擦り付けてオナニーした事あるでしょ? そんな感じ……あ、忘れてた! 挿れるのはまだダメよ。先ずは皆の身体を愉しまなきゃ、ね」
 寧ろ、エイやウィンのように指示を扇いでいたり、スティレットはまるで乙女のようにもじもじとしながらもテレジアの元へそれなりに自主的に向かっている。
 そして女性陣の中で唯一確かな関係を持つスミカとは云えば、
「あっ! スミカさん……そん、な……うあぁ……」
「ンンっ、ンぁ……ふぅ、む、ン……」
「あら。スミちゃんったら、やけにご執心ね。そんなにぼうやのおち○ち○好きなの? でも、程々にね。スミちゃんも入れて、ぼうやには五人も相手にして貰わないといけないんだから」
 横になっている少年の股の間で、隆起した男根を乳房で立たせるように挟んでいて、全身を使って扱き上げている。
 また彼女が備えている物を以ってしても収まり切っていない、赤黒い冠を口内に含めたり、樹木に絡む蔦のように突き出した舌を幹に這いずり回せている。其の雁首の段差の裏側まで、そして包皮の皺一つ一つの溝までを洗うような奉仕は少年が音を上げる程に熱心で、まるでソレしか見たくないと云わんばかりだ。 
 少年が寝そべったままの格好で声を漏らしながら、ひくんひくんと身体を小さく痙攣するように時にびくりと大きく脈動するように震わせていると、力んでいる腕に寄り添うように両側にちょこんとエイとウィンが首相名様子で座った。
「こんな事言うのも変ですけど――写真の事があるものですから――その、お願い、します。」
「すまないな……スミカも」
 肉体関係を結んだ事はあるのを勘定に入れてもスミカはその恋人であるから、ウィンが申し訳無さそうに少年から彼女の方にちらりと目を遣るとエイも追随した。
 しかし其の視線の先には、ねちっこく男のモノに顔を寄せている光景が広がっているから、二人は顔を赤くしながら直ぐに視線を逸らす。
 すると息継ぎのような呼吸をした後、スミカが二人に声を掛ける。
「……気に、するな」
「え?」
「私達だって、あんなのが世に出られたら困るしな。それに元はと云えば、あんな所でしてた私達が悪い。だから寧ろ謝るのはこっちの方だ。お前達を巻き込んでしまったんだから」
「でも、いい気分じゃないだろう? その、自分の、男が……」
「そんな事言ってもしょうがない。確かに奴の言う通りになるのは癪だが、こうなったら自棄だ――精々愉しんでやるさ」
 自分の乳房ごと、其の間にある熱を刺激しているスミカは言葉通りに自棄っぱちの色を秘めた眼をウィンとエイに向けながら、そう言った。
 相対している二人の背中の後ろから発せられている甘い嬌声を小耳に挟みながら。そして二人から其れを発している少年の方へ視線を移すと、挑戦的とも取れる語調で言った。
「お前も覚悟しろよ。今日は搾り取ってやるからな」
「は、はい……あぅぅっ!」
 スミカのギラギラと輝くような眼に射竦められた少年は慄いたように返事をすると、次の瞬間には激しく音を立てながら啜るようにペニスを吸引されて背筋を弓反らせる。
 ウィンとエイがそんな性感に打ち震える少年と淫らに性器を責め立てるスミカの様子を戸惑っている風に交互に見遣っていると、
「そうそう。どうせ私達は何時本当の意味で昇天しちゃうか分かんない難儀な商売なんだから、思いっ切り、ヤれる事を――そう! 人生を楽しまないとね~。特にセックスは相手さえ居ればお手軽に、そして最ッ高に楽しめちゃうんだから。更にこんだけ居れば其れこそ天国ってモンよ。ヤれる時にヤんなきゃ損なワケ――ほぉら、ぼうや。今度はスティちゃんのおツユをたぁっぷり飲ませてあげるからね」
 呵呵大笑としながらテレジアがスティレットの背中をやんわりと押しながら、其のすらりと伸びた肢体を二人の間に立たせた。
 勿論、真下には少年の顔を置くように。そうして先程エイにしたように下半身に腕を回して――エイの時は絡み取るようにしただけだったが、矢張り乗ってきているのだろうか、今度は其の過程で腹や尻を撫で回しながら――そして大抵の物事には動じなさそうな冷艶な印象だが、今は少女のように羞恥で頬を赤に染めているスティレットの秘所の割れ目に右手の中指を沿わせて往復してから、左手で顔と同じく赤くなっていて自ずから僅かに開いていた花の扉を、あられもなく一気に開け放った。
 スティレットが目蓋をぎゅっと瞑る。
「エイちゃんも勿論だけどスティちゃんのここも綺麗。ねぇ、ぼうやもそう思うでしょ?」
「はい……すごく綺麗です」
「な、何を言っているんだ、お前らっ……あぁうっ!」
「お香が利いてるみたいね。敏感になってるから、もうぐしょぐしょ。それとも元々濡れ易いのかしら?」
「ちが……ぁンっ!」
「んー、エイちゃんはもう一目でMって分かるっていうか虐めてオーラだしてるんだけど、スティちゃんはどんなのがお好みなのかしら……そうね、性格は結構キツめだけど意外と優しくされるのに弱い。キスをされたら一発で蕩けちゃうとか――ンン? どうしたのかしら?」
 テレジアが天井を仰ぎ見ながらつらつらと独り言を述べながら、スティレットのラビアの縁から桃色の肉が覗けている膣口を、まるで指揮者が演奏者の指揮をするに若しくは宙に絵を描くような優雅な手付きで指を回して擦っている。
 するとスティレットは唇を真一文字に閉めながら、さっと顔を背けた。
 図星、というよりは恐らく長年の経験によって身に付けた冴え渡る勘で予め――もしかしたらずっと前から――予測していたに違いない。
 確信犯的な笑みを浮かべるテレジアは、
「だったら、そうしてあげないとね。勿論、スティちゃんが大好きなキスもしてあげる」
「うぁ……やめ……っはぁ……ンン」
 弄んでいたようなものから正しく愛撫の文字通りの、優しく慈しむような手付きへと変えて、また秘肉を眺める為に屈ませていた上体を起こすと、スティレットの身体に奔っている心地良い悪寒を促進させるように首筋に舌を沿わせて撫でていき――研いだように鋭い光沢を放つ濃紫色の髪に鼻先を擽られながら――閉じられていた唇を割る。途端に其れまで頑なと云える程であったスティレットは金色の瞳をとろんとさせると、甘やかな声と吐息を漏らし始めた。
 左腕の二の腕に刻まれた青いハイヒールの刺青も赤味を帯びる。
 またテレジアは秘所だけではなく、回している腕を肌の上で蠢かせて出来る限りの範囲の白い裸体を緩やかに擦っている。しかし陰唇は暴くように容赦無く開いているのが矛盾を感じさせる。
「ぷあっ……ほら、スミちゃんにお墨付きを貰ったんだから、エイちゃんもウィンちゃんも楽しみなさいな。スミちゃんも手が、いえ、口が止まってるわよ。ぼうやは……スティちゃんのおまん○見てるので結構満足してるみたいね」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「く……ぅンっ」
 性器を肉に挟まれ、舐られている上に桜色の秘肉が淫蜜に塗れてぬらりと輝く様を仰いでいる少年が喘ぎ、その情欲の熱の篭った風にスティレットは愛撫されている秘所を更に擽られて、もどかしそうに身体を弱くばたつかせる。
 直ぐ眼の前で今にも垂れてきそうな淫水を啜りたい衝動に駆られながらも、縛られているように身体を動かす事が出来ず、エイの時からの生殺しにされているよう。
 遊んでいるようなテレジアの手によって、入り口が開閉される光景に意識を向けていると、横へと投げ出していた腕や手に突然に滑りが感じられたと思うや、
「くぁ……うぅっ」
「ンンン……っ」
 鳴き声が耳朶を打った。
 肌が悦びに打ち震えるように粟立つのを知覚しながら左右へと少年が眼を遣ると視線の先、右ではエイが仰向けにしていた掌に手を遣っていて、開かれている筈であった指を曲げて自身の肉襞がうねる膣内へと導き入れつつ、ぷっくりと膨れ上がった陰核に親指を擦り付けている。
 また左ではウィンが肘から下辺りの腕を確りと握りながら其の上に馬乗りで跨っていて、物欲しそうに口を開いている陰唇を、そしてエイと同じように、こんもりと盛り上がる筋肉に擦り付けようと腰を起点に股間を擦り付けている。にちゅにちゅと肉同士の間に広がる淫らな音が肌を伝わってくる。
 一見すれば、髪留めの外されたセミロングのブロンドを掻き乱しながら恍惚とした表情のウィンが積極的にも見えるが、少年の細長い指を潤んだ瞳で見つつ、其れを介して陰所を弄っているエイも性感を求める事に貪欲である。
(すごい、これ……すごい! )
 スミカからの情の篭った、激しさは無いが性感がある線を越えそうになると抑えがちになる、焦らしているようなねっとりとした愛撫が淫茎から陰嚢までをふやけさせるように延々と続けられていている。
 何時からかスティレットの側面から前へ移ったテレジアが「綺麗よ、スティちゃん。本当に綺麗になったわね」と、恋人のように褒め称えながらエイと違って一箇所だけではなく全身を撫で回し、嘗め回している。
 また他人の事を言えない程に愛液を垂らしている秘所をスティレットの膝に擦り付けている光景が眼球を刺激する。
 そして本人達としては自分が快感を貪ろうとしている為に行なっているのだろうが、咥えている指をしゃぶってくる膣口の収縮が、腕を撫でる陰唇のキスが肌を包む。自分から指を動かしたり、腕を押し上げてやったりすると殊更に強く押し付けてきて柔らかい局所の肉の感触が強くなる。
 むせ返る程の牝のフェロモンが鼻腔を撫で回し、口腔を甘い香りで一杯にしている。
 そんな夢のような今の状況に、少年がまさに夢現のような心地良さの中で思考をすっかり蕩けさせていると、スティレットが切迫した泣き声を上げて――、
「っふ……ぁあ! だめ、だ……もう、これいじょ……っはあぁぁぁっ!」 
 唐突に全身を震えさせ、二本の白い指の根元まで収まっていたヴァギナから液体をテレジアの手首に水流を分断されつつ、少年の顔へとぷしゅっぷしゅっと間隔を置いて液体を噴き始めてしまった。
 右目の泣き黒子を涙の中で歪ませて。
 最後の最後まで寧ろ最後に最高潮に虐めるつもりだったのがやや口惜しく、また性感が高まり出してから絶頂を迎えるまでの幅の短さに驚いてもいるテレジアは、スティレットの膣の天井をぐっぐっと押し込んで潮の残りを搾り出させると、愛液を浴びせ掛けられた手に舌を這わす。
「あぁっ! あっ……や、めぇ……ふぁぁ……」
「へぇ、スティちゃんはすぐキちゃうタイプなのね――ん、エイちゃんより味も香りも強いかな。ぼうやはどっちが好きかしら?」
 テレジアはちゅぱちゅぱと己の指をしゃぶった後、エイの秘所から溢れた洪水も渇き切っていなかった所を今度は豪雨に晒された少年に、股の間から覗くようにして尋ねる。
 真水のようでもありながら、幾らか粘度を持っている液体で顔を火照った輝かせている彼は、余韻で戦慄いている淫肉を見上げながら「エイさんもスティレットさんのも美味しくて……いい香りです」と答えた。
 其れを聞いてテレジアの華奢な腕や身体に支えられているスティレットは「すま、ない……」とぜいぜいと喘ぎながら絶頂の証拠を掛けてしまった事に申し訳なさそうにしつつも痴液を堪能された事に羞恥を感じ、少年の右手の指を使っているエイも似た反応を示して更に白い指を濡らさせた。
「ぼうや、チューしましょ」
 しゃくり上げているのを慰めるようにテレジアに肩を凭れていたが、離されて膝に力が入っていないスティレットは圧し掛かる事は無くとも少年の腹の上に尻を落とす。
 体勢が崩れるのを止められず、彼の脚の方へ後ろ向きで倒れていきそうになるのを右手だけ後ろ手に床に突かせて何とか止めると扉を開くように右腕を中心に左半身が後ろへ向けられて、
「あっ、と……う」
「ん?」
 其の拍子に抱え込んでいるようにしても尚隠れ切れていない肉の塔に刺激を加えているスミカと突き合わせるように顔を合わせてしまって、テレジアにいいように玩ばれた後だからか、同性のしかも十年来の友人だと云うのに緊張するように胸が高鳴ってしまった。
 ――もし、あのまま唇が触れていたら。
 そうなったら最悪スミカにも身体を許してしまうのではないかと考えて、スティレットはぞっとするような感覚でありながらも、何処かで惜しいとさえ思ってもいて、唇を指でなぞった。
 ぞくりと背筋に甘い波が奔った。
 急に振り返ってきたスティレットを灼けた砲弾を咥えながら上目遣いで見ていたスミカはさっと身体を戻して視線を逸らした其の心境に気付いていない。
 ただ其の様子に片思いの相手に出くわした少女のようだと云う印象を心の片隅で薄く抱いていた。
 バツが悪そうな顔をしてスティレットが振り返ると、腹の前には小さな白頭が尻尾を振るように揺れている。強く何かをしたら直ぐに折れてしまいそうな脆弱な愛護心を描き立てる華奢な背中を辿っていくと、白い毛先同士が絡み合っていた。
 犬のように少年の顔を舐めながら、テレジアは時折口付けを落とし唾液と愛液の混合物を流し込んでいく。
 愛撫もあって一通りスティレットを堪能し終えたと見えて、髪を振り上げるように頭を起こすと直ぐ後ろのスティレットや其の背後のスミカ、今も尚少年の腕に縋り付いているエイやウィンを一偏に視界に抑えながら淫悦に満ち溢れた笑みを浮かべる。
「本当に最高の気分よ。夢みたい。あなた達とこんな事出来るなんて。ずっと待ってた甲斐があったわ」
「え、それって……」
「あら、知らなかった? 私、両刀使いなの。所謂バイセクシャル」
「え?!」
 突然のカミングアウトに一同が驚愕を篭らせた視線をテレジアに向けるが、純粋な驚愕を向けていたのは少年だけで、其れ以外は合点がいったような顔をしている。
 というのも、
 ――何か背筋に悪寒が奔るような視線で見られたりだとか。
 ――同性だから冗談で済んでいたセクハラ紛いの身体へのタッチだとか。
 そのように思い当たる節が幾つもあるからだ。
 しかもテレジアのような理性のタガが外れているような人間に狙われていたと考えると、よく今まで毒牙に掛からなかったなと心底不思議に思っているぐらいだ。
「そういえばあなた達をオカズにオナニーした事もあったかしら」
 そう考えると、先程スティレットのセックスの嗜好を当てたのも納得出来る。前々から妄想していたに違いない。
 恐らくエイも、スミカも、ウィンの事もこの子はこういうのが好きに違いないから、こうしてやれば、どうなるだろうかと云った具合に。
 すると不意にテレジアの視線がスミカに飛んだ。眼鏡の奥で眼光がギラギラと輝いている。
「私ね、好きな物は最後まで残すタイプだからスミちゃんは一先ず最後。何せまだ子供だった頃から知っているんだもの、たっぷりとオトナになった事を味合わせて貰うわよ。本当、昔からあなたは可愛かったわ――勿論、スティちゃんもよ? ――大人になったらどれだけ綺麗になるか考えるだけで子宮が疼いちゃって、私は小さい子にはあまり興味が無いけど、もう何度食べちゃおうかなと思ったか……ふふ、そしたら最高に脂が乗っている時に食べられるなんて、ね」
 極上の獲物を前にしたようにテレジアが舌なめずりをした後、ほうと漏らした溜息で締め括ると、スミカが悪寒であるのだが何故だか決して心地悪くもない魔性の風に撫でられたと感じたのと、
 ――嘘を吐け。
 何故かウィンだけが、心中でそう毒づいたのは殆ど同時だった。
「さっ。ぼうやの腕でお楽しみの所悪いけど、ウィンちゃん、いらっしゃい。ぼうや、スティちゃんは優しく虐めてあげてね」
「は、はい」
「はぁ……」
 死刑台を昇る順番が自分に来た――と云ったら些か大袈裟だが、何にせよ遂に自分の番が来てしまったと云うようにウィンが溜息を吐いて少年の腕に名残惜しそうに淫液の糸を引かせて、スティレットと場所を交代する。
 本来なら脅迫者は其の場で抹殺してもおかしくないような彼女が写真一枚でこうまで操られてしまうのは矢張りテレジアと云う存在そのもののせいだろう。
 此処ならまだあそこの方が良いと思いながら、ウィンがちらりと少年の手を掴んで自身の乳房を掌握させ、ぐにぐにと形を変えさせているスティレットの様子を横目で眺めていると、風も起こさず隣に忍び寄ったテレジアが耳元にそっと囁いた――鼓膜を撫でるような声でありながらも、矢張り其の場の全員に聞こえる声量で。
「ウィンちゃん。あの癖――直った?」
 そう尋ねられたウィンが途端にテレジアにキッと強く鋭い視線で睨みを利かすも、飄々としている彼女には通じない。
「懐かしいわね。あなたがスミちゃんの下に居た頃だったかしら、私がふざけてバイブをお股に当てたら……」
「い、言うな……!」
 脅迫者に対して気魄で脅しを掛ける辺りは流石、カラードでも指折りのトップランカー、ウィン・D・ファンションと云った所だが、其の言葉と眼には少女のような怯えが確りと刻まれている。
 テレジアが何を言おうとしたのか、ウィンが何を言わせまいとしたかは分からないので、自身が塗した涎でペニスを寄せた顔を濡らしているスミカ、慣れていない動きで上下に腰を恐る恐る遣い出したエイ、手の先の腕を愛おしそうに撫でながら膣壁に指を押し付けているスティレットが怪訝そうな眼をしている。
 だが其の中で唯一、ウィンとテレジアの股の中心を眺めながら聞いていた少年だけは、なんとなくテレジアの度の過ぎた悪戯がウィンにどのような顛末を与えたかを察していた。
「其の様子だとそのままみたいね。知られたくないって言うなら詳しくは言わないけど……直ぐに分かっちゃうかもね? それが嫌だったら我慢なさい」
 同じ事を此の場で繰り返し、しかも自分と少年以外に更に目撃者を増やそうと云うのだろう、言外にどうせ無理だろうと匂わせながらテレジアがそう言う。
 それにウィンが「あ、ああ……」と実に彼女らしくない自信なさげながら反抗の態度を見せると、テレジアはくつくつと哂いながら後ろに回って、
「でも、むっつりスケベのウィンちゃんに我慢出来るかしら――ねぇっ?!」
「ひゃああっ?!  そ、そんな……いきな……りぃいっ!」
 ウィンの充血しながらもぴっちりと入り口の閉じている陰唇の間に指二本を突っ込み、包皮に守られている肉芽をぐりぐりと押し潰す。
 エイやスティレットの時と違って、荒々しく粗暴な遣り口による突然の刺激にギチとウィンが歯を噛み締める。其れが可笑しいのかテレジアはまだくすぐったい嘲笑を続けている。
「うふふ。普段は生真面目なフリして、やっと尻尾を出したわね。エッチな牝猫ちゃん」
「な、何の事だ……ぁっ!」
「私、ちゃあんと見てたのよ。スミちゃんとぼうやのセックス見てオナニーしてたのはエイちゃんだけじゃなくて、あなたもだったでしょ。しかもエイちゃんよりも早く始めちゃってて」
 其の事実が意外だったのだろう。全員に見られているのを感じて、ウィンがかぶりを振る。
「ち、違うっ! してない、そんなことしてな……あぁっ!」
 しかし、反論などさせないと云わんばかりにテレジアがアッパーカットのようにウィンの秘所を突き上げ、身体を浮かせてより蜜壷の中に深く捩じ込んだ指を、壁、天井、壁、床と肉襞を削るように何周もさせる。
「先にイったのはエイちゃんだけどね。でも、それもぼうやのおちん○に釘付けになってたからでしょう? くふふ、あの時のウィンちゃんったらまるでスカートの中を覗こうとしている男の子みたいだったわぁ。もしかしてこんな風にちん○突っ込まれるの想像してたの?」
「ちが……ちがうぅ……そんな事、想像してない……!」
「今まで何人も相手してきたけど、ウィンちゃんのおまん○が一番本人の性格のままね。入り口はイヤイヤって閉じてるのに、中は欲しがっててもう大変。クリちゃんもビンビンだし。ほら、ぼうやも分かるでしょう?」
 抽迭も淫核への責めも中断したテレジアがウィンの秘唇を摘まんで両手で開いて少年に見せ付ける。
 白い肌の一箇所を菱型に刳り貫いたようにエイやスティレットのにも負けず劣らずサーモンピンクの華やかな淫肉がヒクついているのが見えて少年が素直に「はい」と頷き、其の戦慄きの具合を思い出したように肉棒が跳ねると、
「うぁっ! そんな、強く吸っちゃ……ぁあんっ!」
 それまでは舌先でちろちろと擽るように舐めるだけだったのが、突然に引き抜くように吸引されるのに加えて、先から溢れている腺液が吸い出されて尿道を掛けていく快感に少年が身体をびくびくと跳ねさせながら下腹部に顔を埋めているスミカの方を見る。
 彼女は拗ねたような眼でじろりと睨んでいて、また雁首まで咥えている所為で膨れっ面のように見える。
「あらら。スミちゃん、妬いてるの?」
 テレジアが尖りを捏ね繰り回してウィンへの責めを再開しながら背後を振り返ってスミカに訪ねるが、ふんと鼻息を鳴らすだけで無言である。その代わりに啜りは止まっても、尚も少年が喘いでいるのが答えか。
 仲裁する風にテレジアが少年に尋ねる。しかし其の割には眼に悪戯っぽい色を忍ばせて。
「ウィンちゃんのだって綺麗だけど、スミちゃんのも綺麗よね?」
「皆さんのも綺麗だけどぉ……スミカさんのも綺麗ですっ」
「うふふ、嬉しい事言ってくれるのね。でもスミちゃんの何が、どう綺麗なの? 言ってあげないとスミちゃん、きっと拗ねたままよ?」
「は、はい。スミカさんの……おまん○、ピンク色ですごく綺麗で、柔らかいのに締め付けてきて……大好きです……あ、んっ」
 すると先程のとは打って変わって、心底愛おしそうな様子でペニスを撫でながら大量のキスの雨を降らされて少年が小さく喘ぐ。
 それに愛されている事を思い出して居るのだろうか、片手で自らのを弄りながら奉仕しているスミカの姿を、少年の手を局所に宛がって自身の身体を撫で回させているスティレットとエイが蕩けた半眼で以って、テレジアが「お互いのが大好きなんて最高のカップルね」と見守るような眼で眺めている。
「――とか言ってるけど、ウィンちゃんの事も忘れてないから」
「うあっ! やめ……ろぉっ」
 さわさわと微風が撫でるようなテレジアの手付きが一変し、ウィンの股間を強烈に弄り始めた。
 皮を剥いた豆のように、つるりとしたクリトリスは親指と人差し指の腹で引き伸ばされる程に摘まれ、突っ込まれている指によって膣は内壁を掻き回されている。
 同じ女であるからこそどうされるかを、またどれ程無茶が出来るか分かっている力に翻弄されてウィンが裸体を痙攣させながらも反抗の言葉を搾り出すが、
「そう言う割には感じちゃってるんでしょ? こっちの方はすごく正直よ」
 とテレジアがお決まりながらも事実を述べて、付け加えるように「おまけにもっと欲しいって鳴いてるわよ」などと淫液を攪拌する音を強くする。
 仮にテレジアの言う通り、ウィンが肉欲に溺れ易いとして。
 願望は兎も角経験の方は同性相手は勿論、異性相手だろうと足元に及ばないのだから抗う術がある筈も無く、否定したい囁かれる言葉を自身の身体で体現してしまっていて、否定する分だけ自分自身が違う事を痛感させられるウィンが悲壮な声を上げ始めた――鮮やかに輝く桃色に染められた秘肉と同じ色に染められた吐息を交えながら。
「うっ、あぁっ、はぁぅっ! やめ……ンくっ! やめて、くれ……」
「んん? どうしたの、我慢出来なくなっちゃったの?」
「ちがう、違うっ! 勝手にだ、勝手になんだっ! 私のせいじゃない!」
「違わないわよ、教えてあげるわ。ウィンちゃんはね、イクと出ちゃうんじゃなくて出さないとイケないの」
 ウィンが秘所を無遠慮に弄る腕を押し退けようとしているが、性別と体格の割には妙な膂力を誇るテレジアを性感に神経を蹂躙されていて虫の息のような身体では抑えられず、せめてもの抵抗にか、テレジアの言葉を否定するようにかぶりを振りながら「違う」と繰り返している。
 傍から見ている、と云うよりは真下から見上げている少年は其の痛々しい程の様子に少し胸が痛くなりそうであるが、同時に少女のように泣き喚く様に出所不明な昂奮を覚えている節もある。
 ついでにこのままでは自分にどのような事が起こるかも確信的に予想して。
 其の時だった。
「――うあああ! やめ、やめっ! ぃぃい……っ!」
 ウィンの限界を感じ取ったのか、テレジアが妖艶ながらも獰猛な笑みをニィと浮かべると、其の擬音を一瞬で霧散させるように指を根元まで肉壷の中に埋めている手首を動かし始めた。
 胴体から股間だけをそっくり抉り取ろうとされているように思えているのか、人間が怪我をすれば其の箇所を見るのは当然の反応であるように、ウィンは恐怖で眼を見開きながら陰部を見遣りながら、噛み締めた歯を剥き出しにして、がくがくと震える口端から唾液を垂らす。
「皆イッたんだから恥ずかしくないわよ。それともイキたくない理由でもあるなら是非聞かせて欲しいわ。もしかしたら止めてあげるかも」
 知っている癖に今更になって惚け出したテレジアがそう言う。
 望んでいないのに心地良すぎて恐怖と化している性感が昇りつめてくる秘所の様子を窺うように俯いていると思うや、ウィンは心を落ち着かせるようとしているのか天井、そして其の先の遥か先にある空を仰ぎ見るように仰け反ると云う風に腕の中で揚げられた魚のように跳ねる。
 しかし同じような立場に曝されていたエイの末路を思えば、それ以上の苛烈な嬲りに遭っているのだから信用出来る訳も無いのだが、ウィンは其処に一縷の希望を見出すしかない。
「んーっ、ンンーーっ! ……このままじゃ……で、出そうなんだっ、出てしまうっ!」
「何が出そうなの?」
「や、やだっ! いやだ、言いたくない……言えないっ!」
「あっそぉ、じゃあいいわ。ぼうやだけじゃなくて皆もよく見てなさい。あのクールなウィンちゃんが――」
「言うなっ! 言うなぁっ!」
「だったら言いなさいな。言っとくけど無粋な言葉は使わないようにね。子供っぽくよ、大人の癖にしちゃんだから――あ、これいいわね。最初に”大人なのに”って付けたら可愛いかも」
 思いがけず口から出た言葉が気に入ったのか、楽しげにアイデアを膨らませているように眼球だけを上に向けていると、その間も手だけは猛烈に動いていた所為で、
「ふーーっ、ふーーっ……! いやだ、出るのやだぁっ……出るっ、出て、しまう、でるっ、でる――っ」
 テレジアの腕に背中を預けるようにしていたウィンが内から溢れそうな何かを抑えるように小刻みに震えながら小声で呟いていたのだが、やがて虚を映しながら上下に震えるように泳いでいた眼球が緊張の糸がぷっつりと切れたらしく、引っくり返らんばかりに上へと滑って――、
「ぅああああ……っ! 
 失敗に気付いて「あっ!」と声を上げるテレジアの腕の中で、絶叫を上げながら身体が畳まれてしまうのでは無いかと思う程に背骨を折り曲げながら背筋が反り返り、目尻から涙が飛んでいく。
「……でて、る。でてる……でて、しまってぇ……るぅ……」
 元々の昂奮に加えて引き抜くように抓り上げられながら引っ張られていた淫核と、口と言わず、内壁と言わず、膣の中の局部と言わず、掻き毟るように蹂躙されて真っ赤に染め上げられた赤身の間の小さな穴から、薄い黄金色の液体が流れ出して宙に弧を描き出した――下に敷かれている少年に向かって。
 しかし、瀬戸際の抵抗だったのか。
 果てた瞬間にテレジアの力をも振り切って後ろのスミカに窄まりを見せ付けるように腰を引いていた為、穢れの無い純白の髪に覆われている美麗な造りの少年の顔面には掛っていないが、尿口から迸っている人肌の暖かさの恥水は首筋辺りに、じょぼじょぼと排泄の音を立てながら降り注いでいて、跳ね上がった雫が顎の裏や頬や、時折口の中に飛び込む。
「うっ……うく……うぅっ」
 ウィンが嗚咽を噛み殺すのを聞きながら、じっとりと直接喉を濡らしながら床へと流れた徐々に出来上がっていく水溜りに少年は後ろ髪や後頭部を濡らされて、仄かな熱に頭が、ツンツンと小突くような刺激臭に鼻腔や、喉を鳴らして黄金水を嚥下した口腔に塩気が広がると、飲み込んだ物と同じのを吐き出す鈴口で腺液の雫が風船のようにスミカの鼻先で膨らんだ。
 余程溜まっていたのか、それとも切羽詰まれば詰まる程、逆に排泄されてしまうのか、少年の腹の上に座り込んでしまってからウィンは暫くの間、放尿してしまっていた。
 排泄している様を見られているのだから何とか止めようとしていて股間を押さえていたが掌を濡らすだけだった。
「――うあぁっ、あぁっ……あぅっ……わぁ~~っ」
 そして漸く止まったと思ったら自らが漏らしたアンモニア臭に皆を、そして自身自身が包まれながら子供のように、わんわんと泣き出してしまった。
 放尿が止まった少年の身体に今度は涙滴が落ちていく。
 其の姿に少年は想像を膨らませた。
 何年も前にウィンがまだ少女の域を逸しきれていない時分、テレジアに悪戯をされた際にも、こんな風に泣いたに違いないと。スミカの下に居た頃だからインテリオルの本社の廊下などで擦れ違いざまか、若しくは向かい合っていたが突然の奇襲だったのか。スミカは知らないようだから其処には居合わせて居なかったのだろう。
 少女に性具の刺激は強過ぎたに違いなく、未知の感覚に心もだが、身体も驚いてしまい、力が抜けてしまった。そして、もしかしたら人前でお漏らしをしてしまった事は繰り返すようだが少女には屈辱の過去であるから一種のトラウマになってしまったに違いない。
 するとそうさせた張本人が泣いている子供をあやすように――子供ではないが泣いているのは事実――傍に座ると、濡れた手を取って舐め始めた。綺麗にするように。
「やめろ……そんな汚いのを、舐めるな……っ」
 自分が排泄した物であるのだからウィンとしては他人に口にされるのは嫌なのは当然である。それでもテレジアは尚も柔い掌の肌を擽るように舌先を這わせて、
「ふぅ、ンっ……そんな事無いわよ。ウィンちゃんのおしっこ、美味しいわ。ぼうやも美味しかった?」
「……え? あ、はい。少しだけですけど、美味しかったです」
 惚けたような眼で出した本人の眼を見ながらテレジアはそう言うと、尋ねられた少年も同じように返した。
 だがテレジアとしては褒めたつもりであろうが、ウィンにとっては羞恥以外の何物でもないだろう。火照っていた顔を更に赤らめながら視線を逸らすと、今度は驚いたような眼をしているスティレットと視線が合ってしまい、結局俯いたが、視界の殆どを腹筋や胸板が埋めてしまっている所為で居た堪れないような思いである。
「おしっこは案外汚くないのよ。飲尿健康法だって昔からあるぐらいだし。それに精液は完璧に、愛液は似たような場所から出てくるんだからそう考えると結構エッチな物じゃない。だから飲尿プレイとか放尿プレイなんてのもあるの。私のダーリンもすごいハマった時があってね――飲ませる方も飲む方もね――セックスの前に大量にお水飲まされてイク時は必ずお漏らしさせられたり、逆に飲ませてくれって言われたりしたわ。ピークの時ったら凄かったわよ~。朝、ふと起きたら、おちん○咥えさせられてて、起きたのを確認したと同時に大量に出されて、飲みきれなくって、つい口から離したら今度は顔に掛けられちゃって、もう溺れちゃうかと思ったわ。まぁ、其の後は私もダーリンの顔をおしっことおツユ塗れにしたけど――いや~ん、どうしよう。ブーム再来かも」
 テレジアは気を遣ってそんな事を言ったのだろうが、職種的には兎も角、性的な嗜好に関しては一般的なウィンにそんな事を話されても仕方が無いだろう。
 しかも途中から夫婦の営みについてなのだから、ウィンは呆れた風に「はぁ」とぐらいしか言えない。泣いていたのはピッタリと止まったとはいえ狙っていたかどうかは怪しい。
 矢張り夫への愛は堅牢で揺ぎ無い物なのだろう。夫の事を話しているテレジアの顔といえば、性別問わず、此の場の全員を手玉にしている女とは思えない程で、頬を僅かに赤く染めていて思慕の色を瞳に潤ませている、乙女と云うようないじらしい表情だ――しかしたった今やっている事はと云えば、他に言い様も無く、不倫であるのだが。
 そんなテレジアがほうと溜息を吐いたと思うや、何か思い付いたように、くるりと少年の方を向いた。
「そうだ、ぼうやはスミちゃんのおしっこ飲んだ事あるの? または飲ませた事は?」
「えっ?! いえ、どちらも無いですけど……」
「じゃあ、あなた達も今度してみなさいな。愛してる相手のだと何故かとっても美味しく感じて、おまけに”私、おしっこ飲んでるのに興奮しちゃってる”って感じになれるし、飲ませるのは飲ませるので興奮するの」
 そう勧められて少年とスミカはウィンの肩越しに視線を合わせる。
 そして互いに其の光景を想像したのか、スミカは彼のと自分の淫部を握る手の力をぎゅっと強くし、少年は双丘の狭間で肉棒をビンと跳ねさせた。
 其の様子を見ているテレジアは楽しそうで、スティレット、エイ、ウィンは何処か羨ましそうだった。

「さて、お次は――ふふ、やっとね――スミちゃんが私の玩具になる番よ。それでね、あなた達にお願いがあるんだけど」
 手を合わせる頼み込む仕草で順々に視線を送るテレジアに、次のターゲットであるスミカが「……なんだ」と、こちらが土台無理だと思える注文だとしても押し切るんだろうなどと言いたげな風に返す。
「乱交なんて言っといてなんだけど、スミちゃんとは一回だけでいいから、どうしても二人だけでしたいの! ね、お願ぁい」
 正直其の場の全員が前半に当たる、スミカと自分を交えての複数プレイが出来ないけど我慢して、と云う文言はどうでもよかった。好きにしてくれと云った所だ。
 しかし後半はスミカにとっては些か躊躇いを覚えたようで、少年も心配そうにウィンのブロンド越しに彼女の事を見ている。
 これまでは矢張り少年を介していたから平気だったのが、一対一には矢張り抵抗があるのだろう、スミカは恐る恐る尋ねた。
「……もし、拒否すると言ったら?」
「明日の週間トーラス号外の売上が間違いなく全世界で一千万部を越えるわね」
「だろうな。ああ、そうなるだろうさ」
 重ねていた手を開いて作った暗がりから覗き込んでいるテレジアが洞穴の中から聞こえてくるように不吉な声音で脅しかける。
 スミカは腹を括ったらしく、そそり立つペニスから身体を離して、引き締まった身体と、其処から女性の突き出ているシンボルを揺らしながら挑むように座っているテレジアの前に立ち塞がった―― 一瞬、ちらりと不安そうに少年に視線を残して。
「心配しなくても平気、取って食おうなんてワケじゃないんだから――ま、食べちゃうんだけど。うふふふ」
 スミカの視線に、そして同じように不安そうにしている少年に気付いたのか、テレジアが茶化すようにおどけて、そう言う。
 そして司令塔を失って困惑しているスティレット、エイ、ウィンに
「スミちゃんの眼を気にしなくていいから、ぼうやに可愛がって貰いなさい。してほしかったんでしょ?」
 と言い残してスミカをまるで毒々しいネオンが煌くホテルに連れ込むようにして四人から離れていった。
 気まずそうにあちらこちらへと視線を移していた四人だが、やや遠くからテレジアとスミカの睦言が聞こえてきた時だった。思い詰めたように俯いていたエイが顔を上げると、突然に跨っている少年の手の先の腕に抱き付いた。
「あ、あンっ! 気持ちいい……」
 そして熱い蜜壷の中に埋めている指を壁に当てるように、股座を掌で掴まれるように、骨ばった肩口や引き締まった筋肉で盛り上がっている二の腕に乳房やピンと張った乳頭を擦り付けて、水色掛った頭髪を純白の毛先に触れ合わせながら、か細い嬌声を耳に当てている。
 そして驚いたように自分の方を見た少年の眼を潤んだ瞳で見て
 ――もっとしていいですか? 
 と問い掛けた。
 無言であったが、ぐっと小柄な身体を持ち上げるように腕を押し付けてきたのを答えとして、エイは更に局部から発せられる臭いを沁み込ませていく。
 それに当てられたのだろうか、スティレットが乳房の形を変えさせていたやや小さい手を臀部へと導いてから、柔らかそうで肉付きは良いが肥えている訳でもなく、尖っているようで細いが痩せこけている訳でもない、不思議な見た目を持つ少年の頬にそっと手を添わせてから尋ねる。
「……いいか?」
 矢張りこちらの方にも驚いたように彼は息を呑んだが、やがてこくりと一度頷いた。
 スティレットは躊躇しているように、しかし甘い音が立つ優しい口付けを落としてから、一旦離して少年と互いに蕩けた眼を合わせると、濡れた唇をまた近付けていく。
 最初は触れ合うだけだったが、二人の口吻の摩擦が徐々に激しく、互いに「んんっ」と息苦しそうな喉声を鳴らしながらも、肉欲のままに肉が絡み合っていく。
 奥に硬い筋肉を持ちながら羽毛のようなふわりとした柔らかさが開閉を繰り返す少年の掌に広がる。その都度、宙で絡み合う舌が一瞬だけ硬直する。
 ぐねぐねと少年の手で波打つ桃肉の下ではスティレット自身の指で貫かれている花肉が床に蜜の糸を引く。 
 眼の前で男一人と女二人が言葉通りに身体を重ねている光景を気恥ずかしそうにしながらも惹かれるように確りと見ているウィンは、そう思った自分に違和感や恥を感じる事無く、正直に
(私は、どうしよう)
 と考えている。
 己の神経の集積所を擽ってくれ、体液を啜ってくれるであろう少年の右腕も左腕も口もエイとスティレットに占有されてしまっているのを眺めて、まるで自分一人だけ除け者にされているような疎外感と寂寞を感じながら。玩具屋のウィンドウを前に欲しい物を見つめる子供のように。
 すると視界の端、エイの背中越しにあるモノが眼に入った。
 淫液が擦れる音なり、エイが身体を前後させるなり、スティレットが自分が見えるように舌先をいやらしく小刻みに反復させるなり、何かしら動きがある度に嬉しそうに二つはぴょこんぴょこんと上下に跳ねている。
 一つは純白で、一つはやや黒ずんでいる。
 ウィンは媚声を上げている二人を意識の外に遣り、只それらだけを見詰めながら獲物を見付けた豹のように、ゆるりとした動作の四つん這いで――失禁絶頂によって腰に力が入らないので――少年の身体の傍をぐるりと回る。
 そして先程スミカが占有してた場所に来ると目の前に伸びる細身の身体の底、脚の付け根の狭間で、真っ白で豊かな毛に覆われた尻尾と、力強い筋肉の筋のように血管が包皮に浮き出ている肉棒が痙攣している。
 おずおずとした手付きながらも惹き込まれるようにウィンは身体の表の方で跳ねている方にそっと手を伸ばすと、
「あ……ぅっ」
 今度は全身が跳ね上がった。
 鈴口で膨らんでいた腺液が限界を破ってウィンの手へ雪崩れ込む。
 其の拍子に腕に凭れていたエイが膣壁を引っ掻かれて軽く絶頂を迎えたらしく、白濁した愛液を挿っている指に纏わせて殊更に強く腕に抱き付く。スティレットの方はお構い無しに自身と少年の口許を涎塗れにしてキスに熱中しながら屹立している突起の片方を手に、片方を少年のに擦り付けている。
「はぁ……」
 指に先走りが絡んだ手を握って上下に動かしながら、ウィンは我知らず溜息を漏らしていた。
 男性の象徴を自ずから積極的に手で触れたのは余り無い経験だが、嘗て自分を陶酔させたモノとなれば然して怖くも無かった。それにソレの所為で覚えさせられてしまった事を想うと、胸に期待が募っていく。
 ウィンは記憶の中よりも更に凶暴さが増したような気のする天に向かって聳えるペニスを少年の下腹部の上に寝かせ――手で抑えてないと今にも飛び上がってきそうな脈動が掌を伝って、より期待に心を打たれる――愛液と小水に塗れた股を開きながら上に跨った。
「あっ、あっ!」
「ふぁ……ンっ」
 淫茎の一部の表面を包むように挟んだ柔肉の感触に震える少年を喘ぐ身体が抑える。
 秘唇や秘肉を何かに擦り付けて快感を得る方法を先程テレジアにレクチャーされたウィンであるが、以前に少年と身体を重ねた以降というものの自慰に耽る際は専ら其の方法を用いていた――少年との行為後に帰宅した時などは丁度良くフィットするのを探すように、そして行為を想い出しながら室内の椅子や机の角に股座を何度も擦り付けては、その度果てていた程だ。だからウィンはコレはお手の物だ。
 まるで傍から見れば男のモノを貪っているように腰を前後に滑らせて男根を自身の蜜で濡らし、先端間近の雁首の辺りでは腰をぐいぐいと回して陰唇を引っ掛ける。
「そこ……いいっ、いいっ! でる……ううっ!」
 局所同士を引っ付かせながら抱き付くように凭れ掛ってきたウィンに、スティレットのと触れ合っていない方の乳頭を甘く噛まれ少年は自らとウィンの腹の間で精を諾々と放った。
「……あっ! だめ、まだっ、だめえ……あぁ……ふぶっ」
 だが絶頂した事など構わずに虐められるように尚も肉棒と、乳首を擦られて少年は甘くも苦悶の声を漏らすも、右腕どころか脇腹にまで這い依ってきたエイその物が心地良い。しかし開けた口を強引に塞がれた。
 三つの肉感が全身を撫で回し、包んでくる感触に身体中が素直に悦びに震える。
 すんなりと入ってきたり、少し強かったり、艶かしく滞る芳香が鼻腔を擽る。
 三匹の牝に集られるように圧し掛かられている少年は、一気に神経に様々な信号が走っていて脳が混乱しているのか、ふわふわと浮いているような按配だ。
 彼女等にしてあげているのか、それともされているのか分からない。
 只、少し眼を下にすれば媚びるような上目遣いだったり、全てを自分に任せるように目蓋が閉じられていたり、快楽に蕩けた半眼で自分を見ている何れも紅潮した顔が眼に入る殆ど寝ているだけの彼と、夫々思うままに悦楽を求める中で端正な白い顔が淫らに歪むのを眺める格好の三人が思っている所は、可愛らしさや愛らしさだったり、そそられると云う風に一致している。
 するとまた少年の腰辺りに強く心地良い電流が走り、股間の先から勢い良く迸っていった。
 尻尾がぶわりと逆立つ。
「ほぉら、スミちゃん。早くぅ」
「あ、ああ」
 四人から少し離れてから脚を投げ出すようにして座ると掌で床をぺたぺたと柔らかく叩いて、スミカを誘う愉しんでやると自ら宣言した手前だとはいえ矢張り緊張があってスミカは少し戸惑っていたが、そんな子供のような仕草に解されるように隣に座った途端、
「んむっ?!」
 頬を先程まで床を叩いてて冷たく、甘い香りのする小さな掌に掴まれながら唇を奪われた。驚いて開いた眼には中腰で被さるように心地良さ気に、うっとりと眼を瞑っているテレジアの姿がある。口先には吸い付いてくる彼女と、愛撫してくる舌の感触がある。捻る動きに割け入ろうとしてくる意思がありありと感じられたが、離れて行った。
「楽しみましょうね」
 にこりと微笑みながらも性愛に燃えるテレジアの瞳にスミカは慄いたが、怖い物見たさに近い好奇心が影から姿を見せ始めている。ぞろぞろと耳元でざわめく囁きに身を任せるようにスミカはテレジアの眼を見詰めた。同じ色と艶やかさを秘めて。
 怯まずに、寧ろ挑むように”女”を見せてきた彼女にテレジアが期待の波を背筋に走るのを感じて、ぞくりと身体を震わせる。
「イイわ。スミちゃん、本当にあなたはイイ女になったわ。嬉しい」
 一目で狩り心が駆られた獲物を敢えて見逃した結果、想像を遥かに超えた肉付き、毛並みの良さを持ち、そして相手としては不足の無い一筋縄ではいきそうにない狡猾さを兼ね備えた姿で再び現れた事にテレジアは実に満足そうだ。まるで自分の為だけに作らせた一級品の美術品を眺めているように。
 テレジアは再びスミカと顔を付き合わせて、たっぷりと肥えた蛭のような細くも厚い肉の膨らみを舌でなぞると向こうから絡ませてきた。極近い距離で一層に熱を帯びた瞳の視線と味覚の器官を絡ませながら旨そうに肥えた二つ並んだ果実のように瑞々しい肉の丘を手で包む。
 同じ果実でもリンゴ一個握るのがやっとなテレジアの手では収まる筈も無く、張りの良さを表わすように跳ね返しながらも、柔軟さを知らしめるように導いてもいるようだ。
 それは正に四足獣のしなやかさだった。
 埋もれた手を動かす度に顎の下を擽られるようにスミカは喉を鳴らしているが決して全てを許す訳ではない意思を表わすように、掌の中心を硬い尖りが反抗的に噛み付いてくる。
 だが乳頭の凝りの感覚は抜きにしてもスミカの奥に秘めている態度についてはテレジアはそれでいいと思っている。この跳ねっ返りがいいのだ。
 掌で玩ばれていながらも決して全てを委ねずに、虎視眈々と隙を伺っている狡猾さである。
 確かに女の子を――あくまでテレジアからすればだが――玩具にするのは好む所ではあるが、それ以上に此の剣先と剣先を突き合わしている緊張感も堪らないと言いたげに、にやりと頬を歪ませようとした時だった。スミカと同じように牝声を鳴らしてテレジアが僅かに仰け反ってから哂った。
「ふぁっ……案外、慣れてるのね。何時もぼうやのを弄ってるの?」
「別に。偶にするぐらいだ――何だ、文句あるか?」
「いいえ、そんな事ないわよ。男だって此処は感じるものなんだから。何ならイクのを覚えるまでやってあげればいいわ。ねぇ、それよりもっとして……」
 矢張りスミカは噛み付いてきた。
 弄られているお返しとばかりにテレジアのなだらかな胸の上で屹立した小さな突起を摘んで、固さを確かめるように上下に扱いた――揉みしだくだけの胸が無かったからだが。先程からずっと責めているだけで触れられる事は無く火照りを玩んでいた身体は――少年とのキスだけで疼いている秘所が新たに涎を一筋垂らす程の――容易に反応を見せた。
 与えられた性感で蕩ける眼を上目遣いにして強請る少女のようなテレジアにスミカは背徳感に似たのに感情を根底にした言い知れぬ昂揚を覚えた、いや覚えさせられた。
 しかし、そんないじらしい態度を見せ、両の手に胸板と言ってもいいような薄い胸乳と、それとは対照的に熱り勃った乳頭を責められていてもテレジアの手付きは衰えを知らない――下から掬い上げるように乳房の廂に手を遣って鞠のように跳ねさせて汗を飛ばしながら二つをぶつける――谷間に覗ける胸板を隠し、中心に寄せて両側から捏ね繰り回す。丁度間に男のモノを挟んで扱いているのに似て――ピシと親指の腹と一指し指の側面で、そしてお互い同士で桜色の乳頭を弾き合わさせる――寧ろ殊更にバリエーションを見せている。
「はふ――ふぅあ……っ?」
 雄弁とさえ表現できるテレジアの責めにスミカは堪らず己の口許をしゃぶってくる小さく濡れた紅唇を退けるように口を開いて喘ぎを漏らす。すると其の僅かな間隙を縫って、蛇の如き俊敏さで彼女の口腔に突き出された舌が潜り込んだ。蛇に締め上げるように絡み付かれ、嘴に捉えられて引き摺り出されたスミカの舌が吸引される。
 ちゅうちゅうと音を立てるように吸う様は母乳を飲む赤子のようだが、赤子は乳首を舌の表面を舌で撫でる事はしないし、母親の乳房にしがみ付く事はあっても玩びはしない。それに頭を左右に振る事も無ければ前後させる事もしない。
 甘い唾液に包まれ小刻みな凹凸の溝の一つ一つを刺激されてスミカは舌を何処か別の世界に連れて行かれてしまったような心持ちの中、テレジアの前述の動きに何か心当たりを感じ、
 ――フェラチオみたいだ。
 と、直ぐに思い至った。
 サイズに随分な差異があるが熱心な様子で咥えた物を責める様は近い物がある。突き出た肉の器官のサイズと機能が違うと言えどサイズのほうは如何ともし難いが、機能に関しては大した違いは無い。
 食物の味か、女の味を味わうぐらいの差。
 またテレジアの眼を瞑りながら舌と頭を激しく動かしながらも、視角の都合で愛おしそうな程に咥えている物が意図的に隠されているような光景をぼんやりと眺めているスミカは、普段自分が少年にしている時もこんな風なのかと考えて気恥ずかしくなった。
 もしテレジアの表情や仕草と自分のものの間に大した差が無いとして、淫らとしか言い様が無いからだ。簡単に言って性器を口に含める行為それ自体の淫靡さは兎も角、表情の事までは自覚していなかった。それを幾度も少年に見せていたのだから。
 しかし同時にスミカは納得もしていた。
 舌先で玩ぶ度に口腔に収まっている肉棒の強靭な頑健さとは裏腹に少年が酷く甘い声で鳴く事に。性感を得ている、つまりは気持ちの良い事は承知していたが、奉仕している方の必死さから伝わってくる少女のようないじらしさとは裏腹にこの上ない厭らしさが合わされば、させていようと、されていようと関係無しにあのような声も出るだろうと。
 とはいえスミカも秘所を見せ付けるようにして奉仕させた事は多々あるが、あくまでそこから得られる少年の表情への欲情は女の側からであって、テレジアの様子に抱く感想は男寄りの視点でのものだった。
 そして女から男への、男から女への劣情の隙間に女から女へのものの片鱗が見えそうであったのだが、其の前にテレジアは口を離してしまった。舌先だけではなく口端からも糸が引かれるスミカの表情を物寂しげにして。
「ごめんね、スミちゃん」
 突然に謝られたスミカかは、何か開いてはいけない扉を開き損ねた事に気付かれたような気がして「な、何がだ」と少し当惑しながら返した。
「男って精液出しちゃえばそれで終わりじゃない。でも女同士だと何時までも続けられるから、もっともっと永くしてあげたいんだけど――それにスミちゃんに言うのもなんだけど――私もぼうやのが欲しくなっちゃってるの」
 気付いたら小柄な身体に跨がれている形になっていたスミカが、テレジアの上擦った声と共に酷く羨ましそうな眼が向けられた方につられて視線を送る。
 少し先に女らしく突き出た尻と、なだらかな背筋が前後に重なり合って起伏を立てる波に攫われるように少年の小さな身体が覗けている。波止場に波がぶつかっているように甲高い潮騒の中を低めの音が分け入っている。僅か数m先なのにスミカには其処がとても遠くに感じられた。
 途端、濃紫色で縁取られている波がぎゅっと強く握られ、にゅっと突き出ている脚が俄かに跳ね上がった。すっかり場に馴染んだ香の香りの間に付け込むように仄かに、むっと臭って来るような青臭さの素がテレジアの欲しているモノの先からまた放出されたのだろう。
 其れも埋もれてしまっているようだが、スミカは波浪に隠されているだけで洞穴には入っていないのだろうと何故か確信出来ている。
 単純にアレが其処に挿ってしまっていれば、波は小波どころか高潮になっているからだ。
 聞こえてくる声は、か細いが甘い。しかし三人はそれでもテレジアの言い付けは守っているようらしい。スミカはテレジアの存在力のようなものに脱帽しながらも、何時の間にかに乗り気になっていた三人に少しだけ憤慨している――それに今も甲高く喘いだ少年にも。
 火種が点いて煙が燻り始めたかの如く嫉妬の念が心中に浮き上がったのを自覚しつつ、スミカは四人を見ているのから、やや睨むのへと変えていると
「うふふふ、ぼうやが感じてるのが悔しい? でもね、その内、其れがゾクゾクしてくるようになるわ――でも、今は私を見て」
 茶化して言っているのか、本気なのか、言葉の前半と後半で声音に違いがあるので判別付かなかったが、身体を重ねている相手が他に余所見しているのは我慢できないのは同じ女として理解出来るとスミカは思った――だが少年が身体を重ねるべき自分ではない女と絡んでいるのは当のテレジアの所為である事に気付いたのは、少し後の事だ。
 甘える色でありながらも、ぎらぎらと燃える火を燈らせる眼に甲斐甲斐しく「ああ」と答えて視線を合わせると、テレジアは横に投げ出されているスミカの脹脛辺りを掴み、ベッドからシーツを剥ぎ取るのと殆ど同じ動きで、ぐいと引っ張った。
 布が捲られるバサッと云う音の代わりに「きゃっ」と高い声が鳴って、スミカが床に背中を預ける格好になる。此れが他の誰かにやられたらスミカはすかさず、何をするのかと詰問した所であっただろうが、そうしなかったのは矢張り相手が相手だからだろう。其れを抜きにしてもスミカはドクンと心臓が高鳴った。
 というのも何時の間にかに掴まれていた自身の足首を持ち上げるようにされている今の格好は、少年が覆い被さって突いて来る時のものなのだ――スミカは此の体勢が、少年の顔が見えるからというのもあるが征服されている被虐感があるために割かし気に入っている。
 とはいえ角度の所為か、テレジアの眼鏡に光が反射して眼が見えない事にスミカが不安を煽られていると、「ねぇえ、スミちゃん」と鼻に掛った、幾度も聞かされた揶揄う声色がした。
「どうしてかしら、って思わない?」
「……急に何だ、何の事だ?」
「どうしておちん○はあんなに――ああ、アレはちょっと一般的じゃないわよね。ま、普通のサイズの事だと思って聞いて頂戴――太くて、長くなるのに、クリちゃんはこんなに小さいのかしら?」
 テレジアはそう言いながら、実際に真っ赤に熟れた小豆のサイズを確かめるようにスミカの左足首を掴んでいた右手と視線を己の股座に遣って、「んっ」と鼻声を漏らす。
 急に生物学的な――と言っていいのだろうか――疑問をぶつけられたスミカはと云うと戸惑いながらも
「さぁ、分からん。でも、アレだけ大きくなると考えると――いや、やっぱりアレは極端だが、まぁそれでも普通の大きさでも――何かと生活に不便じゃないか? アイツなんか私の下着が少し見えたぐらいで前のめりになるしな」
 丁度死角になっているので見えないが自分の淫核を弄っているテレジアが先程そうしたようにちらりと少年を横目で見ながら、そう答えた。勿論、寝そべりながら股を大きく開かされている格好のままで。
 テレジアは回想するように、うんうんと頷きながら、そっと手をスミカの足首に戻しながら言う。
「確かにそれは一理あるわね。私のダーリンも若い頃は並んで歩いてた私の手がちょっと触れただけで大きくなっちゃって鎮める為にトイレに連れ込まれた事もあったし。でも、こういう時は勿体無いな、なんて思うの――んんっ!」
「ひゃあんっ?!」
 スミカの身体を引き寄せるようにしながらテレジアが腰を突き出した。
 テレジアのぷくりと膨れている淫豆が濡れそぼった割れ目の間をレールにして奔り、其の先で聳えている形や大きさは僅かに差異があるが同じ物と擦れ合う。そしてスミカのが滑りに覆われた肉に挟まれた。
 したのはテレジア、されたのはスミカであったが、同じ局所同士の摩擦は二人の身体を同じように弓反る。
 絡み付く淫液の滑りを堪能した喘ぐテレジアが、喉を晒すスミカに身体全体を押し付けながら腰を上下に小刻みに遣う。一度反復する度に潤滑は増して、接触し合う陰核がより赤味を強めていく。
「あっ、あっ、はぁンっ!」
「くっぅ……ふぅ」
 上から突起を潰すように、下から掬い上げるように腰を動かし、スミカに口許から涎を垂れさせ、全身を一頻り撥ねさせたテレジアが腰を離す。
 攪拌されて白く濁った蜜に覆われた真っ赤な花弁の間に、何筋もの輝く琴線が紡がれる。ハープのように。ただ奏でられる音色はいやに水気が多い。
 重力に流されて糸がふわりと垂れ下がると同時に「スミちゃん、キスしましょ」とテレジアは言った。大きな舌に秘所を舐られたような初めての感覚に惚けていたスミカは自然に眼を閉じて下顎を微かに突き出す。
 しかしテレジアはその様子を見て、くすくすと笑ったのだった。
「そっちもいいけど……」
 テレジアが腰を捻りながらスミカの身体の上に脚を投げ出す。相手を互いに両脚で挟むような形になった。
 スミカが困惑した眼で自分の脚だったり、股の間のテレジアだったりと視線を泳がせている。答えを見せるようにテレジアは正面にある、むっちりとした脚を抱え込むようにして太腿をぺろりと舐め上げる。何をされるか直感的に理解したスミカが制しようと声を上げようとしたが、
「――こっちでね」
「はっ、はぅンっ!」
 自らが垂れ流す液に塗れ、端に吹き出物のような突起を生えさせた唇同士が触れ合った。唾液が交じるのよりも高い、ぬちゃりとした粘音が立つ。どうだと言わんばかりに、ぐっぐっと股座を押し付けていたテレジアだったが、辛抱溜まらないと云う風に、ほっそりとした薄めの肉を、ぽってりと膨らんだ厚い肉を擦れさせる。恋人が繰り広げる濃密なキスのように、唇が唇をしゃぶるように食ませて。
「いいっ、いいわっ、スミちゃんのおまん○いいっ!」
「そん、なこと言う……ふぁあっ!」
 小さな乳房の上で弄って貰いたくてしょうがないと云うように屹立している尖りをスミカの太腿で弾きながら、テレジアは腰を上下左右に、また回転させると其の度に淫水が溢れて、ねちゃねちゃとした淫らな音が殊更に大きくなっていく。己の股座で昂る果肉の具合に言及されて羞恥に駆られるスミカだが、無意識にとはいえ、自ずから其処を押し付けてしまっている。
 片方を食まれた割れ目が拓き、そしてお互いに拓き合うようにして、胴体の其処の影に真っ赤に爛れた淫肉を曝す。時に秘唇が花芽に口付けを落とし、なぞる。
 もし其れが頭部の方の口で行なわれていたのなら、性交の始まりだと一目で分かる熱烈な口接である。
 身悶えするしかないスミカに対して、テレジアは抱いている内腿や脹脛に舌や手を這わしたり、ちろちろと舌先で擽っている。腿に触れる乳頭の感触が小指に小突かれているようだともスミカは思えた。
 小泡を多分に含んだ液に二人の胴体の底が――秘所だけではなく、会陰や褐色の窄まりまでもが――びしょびしょになった頃。
 テレジアが「ふぅっ」と短く溜息を吐き、振り上げた白髪の下に蕩け切った牝の顔を浮かべながら再びスミカの上に覆い被さった。少しでも快感に浸りたいのか、くちゅくちゅと音を立てるようにしてラビアを触れさせている。
「それでさっきの話なんだけど」
「はぁっ、はぁっ……ん、くっ……何、だ?」
「クリちゃんがもっと大きければいいって話。私は思うのよ、そうだったら、こんなまだるっこい事しなくていいのにって――」
 テレジアはそう言いながら股間に手を遣る。縦筋を挟むように人差し指と中指の間を押し当てて指を開くと、ぱっくりと花肉が花開く。口を開けた唇をそのままに、ぐっと腰を突き出して―
「ひっ、ひああっ!」
「そうっ……ンンっ! 思う、のよ」
 濡れた肉でスミカの女芽を挟んだ。
 セックス・ローションを塗ったくったように、ぬらりと艶かしく輝く唇のような肉に局部を挟まれて――しかも陰唇だけではなく補強するように上から指が押し潰してくる――スミカはピリピリと其処から駆け上ってくる電流に耐える為、力んだ脚は気付いたら己の股間を玩んでいる腰に回されていた。テレジアは其の拘束を更に強めるように後ろ手で脚を引っ張ると、満足げに嗤いながら身体を上下させる。
「そうだったらスミちゃんはっ、私のおまん○をずぼずぼって出来る、のにっ!」
 テレジアは同じ女に突かれている光景を想像しているのか、うっとりと眼を瞑りながらも半開きの口元から唾液を一筋垂らして、ラビアで挟んでいる肉芽を更に激しく扱いている。
 またスミカも、卑猥な口頭表現に当てられたのか、現実では小指の先程の大きさであるが、肥大化したクリトリスで突いている光景を夢想しているのか、ぞくぞくと性感の波が奔っている――想像上では少年の肉棒の大きさ程になった陰核の、その隅々から同じ強さの電流が駆け巡っているのだ。
「ねえ、気持ちいい? 私のおまん○、気持ちいい?」
「あぅっ! あっ、ああっ! いいっ……いい、ぞ。いい……い、イク……イク……っ!」
「わ、私もスミちゃんのクリ、いいのっ……きちゃい、そうっ……あっ! きてるっ! くるっ!」
 快感に思考も蕩けていたのか、淫靡な顔で殊勝にもスミカがそう言った事に、そして絶頂が近い事を伝えたのに触発されたテレジアは腰を回転させながら胎内に埋もれた肉芽をぐりぐりと摘み上げる。
 其れは己の陰唇を責める事にもなり、それまで優位を保っていたテレジアが形振り構わない様子で浮言のように呟く最中、淫芽をすっぽりと熱の中に包まれ、縦横無尽に動く上に二枚の舌に舐られているような快感にスミカが浸っていると、一際力強く其処を押し潰されて――
「――イっクぅぅぅぅぅっ!」
 しならせた全身を痙攣させながら、ぐいと脚の筋肉を緊張させて縛り付けているテレジアを引き寄せ、赤く腫れた局所を震わせる。
 そして其の下で覘けている肉穴の上にある小さな口から透明な性水を噴出すると、閉じられているテレジアの花唇の隙間から鋭く、火壷の中へと飛び込んで紅く灼けた淫肉を突く。
「あっ! だめっ、だめっ! だ、出されてる、中に出されてるぅぅっ!」
 男のどろりと粘度のある白濁とは違った射精に――云うならば拳で殴るのと、刃物で突き刺す違いのような――テレジアも果てた瞬間、スミカと同じように潮を噴出した。勢い良く放たれた淫水は閉じられた陰唇に食むられている陰核に向かっていく。
「――ひぃあああっ?! か、かけるなっ! 止まらなくなるっ、イクの止まらなくなるからぁっ!」
「もっとぉ! もっと出して、私の中に出してぇ!」
 ぴったりと触れ合った二人のラビアの放尿の似た排水音がくぐもって響き、隙間からだらだらと透明の甘い香りの液体が流れ出る。まるで牡の絶頂時のように液体を相手へと放ち、それがまた相手の絶頂を導く、円環の渦に二人は呑み込まれていった――。
「あ……すごい、こんなに……」
 顔面を紅潮させながら力無く横たわらせている全身を上下させて喘いでいるスミカを余所に、テレジアは股を開いて更に秘所の扉を開け放つと、奥からとろりと液体が溢れ出たのを見て、身体を包んでいる余韻が更に心地良い物に変わっていくのを知覚していた。陶然としている彼女の様子が気になったのか、スミカも其処に眼を遣って納得すると同時に強い昂りを感じた。
 少年との性交後に膣内に射精された精液が入り口から流れ出る様を、彼は繁々と眺める事がよくあるが、其れは何故なのかと思っていたが、実際にそうさせた立場で見ると確かに劣情が煽られると。これならば、もう一度組み伏せてきてのも理解できると。
 そして自分のこんな淫らな様を少年に視られていたと思うと、身体の奥が疼くようであった。
 ごくりと生唾をスミカが飲み込んでいると、うっとりとした様子のテレジアが顔を近付けてきた。
「私、今まで何人か女の子とやってきたけど――スミちゃんが一番よかったかも」
 嬉しいのか、それともどうでもよかったか分からなかったがスミカは彼女の、見た目に似合ったような乙女めいた様子に胸を打たれた。
 しかし少年に対しても想うところであるが、いじらしい様に劣情を覚えてしまう自分に少し嫌悪感を抱いた。(可愛ければ何でも、最早性別すらどういいのか)と、そんな風に。
 心の中で長い嘆息を吐いていると、テレジアの顔に仕切りたがりの色が戻ってきた。
「はい、これで個人戦終わり。続いては漸く団体戦……なんだかホントに運動会みたいねぇ~」
 男と女が身体を跳ねさせ回るのだから――今の状況を考えれば訂正の必要がある。同性同士でも――性交の俗っぽい表現にそんなのがあるが、個人戦、団体戦などと区切ると途端に生々しさに溢れるようだった。
 皮肉屋の性質が疼いたのか、スミカは(なんだ、〈玉入れ〉やら〈大玉転がし〉でもするのか?)と突っ込みを入れようとしたのだが、思い付いたのが如何にも生々しかったので止めておいた。
「『選手は準備をして下さい』、ってところかしらね。さぁ、グラウンドに行きましょうか、スミちゃん」
 どうにも児童期の保護者に聞かれたら抗議を受けそうな言葉に率いられつつ、スミカとテレジアは今も絡み合っている四人の元へ向かった。
 股間から性の終着を迎えた証を垂らして。
 それは宴への招待状だ。
「ふぁ……んん、んむ……」
 テレジアとスミカが股座を擦り合せていた頃。
 スティレット、ウィン、エイ、それと少年の方の陣形――と云う表現は正しいのだろうか――の方にも幾らか変化が生まれていた。敢えて局部は避けて身体を愛撫させていたスティレットは少年の唇を占有して舌同士を絡ませていたのだが、腕や脇腹に擦り付いていたエイが羨ましそうな眼で見詰めていると思ったら、「私も、キス……したいです」と言い出した。
 最初は少年の頬、口端や上下の唇のどちらかに口付けを落とすだけだったが、スティレットと絡む為に突き出している舌と口許の隙間から己のを挿し入れて、根元から中腹辺りを擦り始めたのだ。
 最初こそ普段の彼女の性格をそのまま表わすかのような腰の引けた風であったが、やがて目的のものだけでなく、スティレットと絡むのも厭わない様子で徐々に舌を上へと上げていった。そうなると三枚のチロチロと蠢く舌先が絡み合いだし、男である少年は兎も角として二人も個人差のある、ざらざらとした舌ざわりに陶酔していった。
 また先輩二人の痴態から気恥ずかしそうに眼を逸らしていたウィンも、唾液が絡み付く音が鳴る度に自らの臍の下で、そして秘所の下で肉棒が反応を見せ始めた事に興味が引かれたのか、まるで遊んでいる子供達の仲間に入れて欲しそうな子供が気を引こうと周りをうろうろとするように、二人の頭の隙間から、または少年の胸板の上で己の乳房の先にある物のように尖っている乳頭を唇で食みつつも結合部を覗き込んでいた。
 しかし、じれったくなったのか、遂に割って入るように少年の鎖骨の辺りから首筋、喉元、思春期であろうが第二次性徴が始まっていないような、つるりとした顎をなぞるように舌を這わして行って、手を取り合っている中に入って行った――おずおずとしながらも声を掛けたエイに対して大胆にも分け入ったのがウィンらしいといえばらしいだろう。もしスティレットが彼女等と同じだったらどうしただろうか。興味を引くように周りをうろつきつつも、結局は声を掛けられるまで待っていたかもしれない。
 最早少年とキスしているのか、隣となのか、更に隣となのか、若しくは全員となのか、相手が判別しない中で舌が絡み合う。
 愛おしく感じるのか、時折、少年のではなく――エイだったり、スティレットだったり、ウィンだったりするが――上へでなく横へと突き出しているのを己の口中に引きずり込んでいる。然して強い力ではないが吸引に負けて顔を寄せると唇が触れて、眼の前にある快感に蕩け切った可憐な顔が視界を埋める。
 同性であるし同僚であるから、普段からじろじろと観察する事も無いし、また想う訳も無いのだが、今はそうなる度に(ああ、綺麗だったんだ)と本気で想っている。
 特に中心の少年は舌のあちこちを、それぞれ少しの差だろうが決定的に違う云える感触の三人の滑った舌に撫でられて、前から薄々思っていたが舌にも性感帯がある事を叩き付けられるようにして体感していた。
 前にもスミカにしてもらったが、ペニスへの口淫のように、先端、中腹、根元を愛おしそうに舐められて、舌の付け根から気道や食道を、それらと並列する背骨を介添えにして身体中を性感が奔る。
 甘酸っぱさに獣臭が交じる、四人四色の香りを放つ熱い幾つもの吐息が夫々の鼻梁と味蕾を擽る。
 そして下腹部の器官は今も尚、ウィンのぷっくりと腫れたラビアと濡れた膣肉が自身の吐き出した白濁を潤滑剤にして滑っていく感触に負けて、
「――ふぅあっ! うぁっ、ああっ、ああンっ! あっ!」
 絶頂に戦慄く身体が四人の結合部を解きながら眼を瞑って顔を歪ませる少年を仰け反らせる。それでも首筋だけだが。
 少年はペニスが跳ね回る度に奔る性感に支配されつつも、口を離した拍子に誰かに傷でも付けていないかと心配になって頭を引いたままで細く眼を開くと、其処には儚げな銀色の残滓を宙に突き出したままの舌から引きながら、上気した頬、物欲しげな蕩けた眼、半開きの口と、発情した三匹の牝の顔であった。
 ごくりと生唾の塊を呑み込み、勃起がもう一度跳ねて先端から白濁が零れた。
 すると其の脈動に導かれたようにしてウィンが、敷いている身体に手を突いて、腹の間にどろりとした穢らわしい線を引き真鍮色の髪を振り上げながら上体を持ち上げて天井を仰ぎ見る。汗を飛ばしながら、ぶるんとたわわな乳房が上下に跳ねる。
 最早そこに安定したと言える程に牝顔を保ちながらも、腰だけは前後に激しく滑らせ、淫茎を根元まで桃色の突起に擦らせた瞬間、
「イ……クぅ……っ! はあぁぁ……」
 犬の遠吠え時の格好のまま、ぶるっ、ぶるっ、と全身を小刻みに痙攣させて果てた。震える度に双丘も揺らして。心地良そうな溜息の残滓を何時までも漂わせていたウィンだったが、三人に視られている事に気付いて咄嗟に胸部を隠した。
 だが視線が顔とかではなく腹に向けられている事に気付いて、三人につれられるように其処を視ると衰え知らずと云った風に尚も固さを保っているペニス――ではなく己の下腹部がたっぷりと塗り付けられたように精液で濡れていたのが眼に入った。
 光を受けて精子の塊に連なる粘液がぬらぬらと妖しく輝く。フロアーのに比べると幾分か弱い、間接照明のような明度の光が逆に淫靡さをより強く醸し出している。
 ウィンはさも当然のように自分のではないような気もするし、しかし何処か覚えのある其処に指を這わせる。
 不快な感触の淫液が指に纏わり付く。肌から離しても引っ付いてくる様子はまるで自分を求めているようだと思った。
 それからウィンは己の腹の上に絵を描くように精液を広げていく。腹の下から解放されたむっとする精臭が鼻を突く。
「あの……」
 絶頂を迎えていたウィンは兎も角として、スティレットとエイの舌が引っ込むのを名残惜しそうに眺めていた少年は自らが吐き出した精水を見ている三人に意を決したように声を出した。
 途端に三人が彼の顔を視る。どれも間違いなく美貌である。
「僕のを……舐めてもらっても……いい、ですか?」
 テレジアの脅迫があるから自分と肌を擦り合わせている三人にそんな事を頼むは厚かましいと、図々しいと自覚しつつも少年は懇願した。蘇るどころか先程から舌先にこびり付いている三人の厚い肉の感触、それらに舌を舐られた事で、どうしてもウィンの牝汁と己の牡汁に塗れたモノを責められてみたいと思ったのだ。
 期待を秘めるように弾痕がぐっと身体を起こした
 自己主張の弱そうな少年にそんな風にお強請りをされた事が――内容そのものもあって――三人は戸惑っている。しかし甘えるような少年の眼、隆々と聳える肉の塔、鼻腔を厭らしく擽る白濁の臭い、それらの何れかか、若しくは全ての前に屈したのか、三人が興奮していると分かる荒い呼吸をしながら、誰かが生唾を飲み込んだ。
 先ず最初に動いたのはエイだった。
 名残惜しいのか、跨っている腕に身体の底を擦りつけながら向きを変えると横目で少年を見ながら言った。
「わ、私。自分からするのは始めだから……何か、駄目な所があったら、ごめんなさい」
「い、いえ。お願い、します」
「はい、それじゃあ……あ、すごい、かおり……」
 臭いと言わずに香りと言ったのは性格の良さから来たのだろう。少年の下腹部に顔を寄せた途端に強くなった牡の臭いにエイは嫌がる素振りを見せる所か、寧ろ自分から取り込むように小鼻をひく付かせる。
 そして怖いのか、鼻腔を埋め尽くす臭いを堪能しているのか、眼を瞑ると唇の間から、ちょこんと短く突き出した舌をおずおずと近づけて行って頭全体を使って舐め上げた。
 少年が喘ぎながら、其処と全身を震わせる。
 エイの舌先に苦味や甘酸っぱさが広がる。誰か恋人などに口淫をしてあげた事もまたレズビアンでもないが、彼女は其れらの味を知っていた。
 禍々しく、グロテスクな器官への怖れは既に無いが思い切った行動にも出られず、水を飲む仔猫のようにエイはちろちろと舌を動かしている、それも徐々に一箇所だけだったのが反り返る淫茎の腹の線を辿り出した。
 白い肌の顔、薄めの唇から覗けている紅い肉が少年の眼に淫猥に映る。
 行為に移ってから大きく気後れする様子の無い、寧ろ熱を帯びていっているエイの様子に安心したのか、または好奇心が湧いたのか、それとも羨ましく感じたのか、今度はスティレットが少年の顔を盗み見る。
「その、私もこういう事するのは初めてなんでな――意外、か?」
「あ、いや。そういう訳じゃないです……嬉しいです」
 初めてを貰ってくれるのを嬉しいと言われた事が嬉しい――何処かに行って久しい、若い時分の乙女の心がひょっこり戻ってきたように鼓動を早めてしまった自分の事が気恥ずかしかったスティレットは顔を赤らめた。始めて性交で絶頂を迎えさせられた相手と云うのも大きかったかもしれない。
 頭を下げた拍子に垂れ下がる長髪を手で掻き揚げながらスティレットは、エイが既に幹を占有していたからか、そうでなくても其処に狙いを定めていたのだろうか、ペニスの中でも一際生々しい赤黒い亀頭に口付けを落とす。
 矢張り緊張があったのだろう、痛めないようにしようにも加減が分からなかったらしく、逆に弱すぎた接吻は小さく音を立てただけであった。
 だが怜悧な年上の女性に局部に甘い音の立つキスを落とされた事、そして手から溢れた髪の毛先がチクチクと肉を小突いたのが少年には堪らなく、つるりとした質感を確かめるように全体に件の柔らかな感触と鋭い感触が小刻みに降らされ、同時に下を撫でられて少年は横たえた身体をひくつかせる。
 今まで間柄に歳の差による隔たりは感じた事が無かったが、矢張り二人は年長者だと、大人の女であるとウィンは改めて知らされたようだった。
 他人に言われても認めないだろうが、正直に言えばフェラチオに興味のあった彼女はそれでも先輩二人に先を越された、若しくは遅れてしまっていた。かといってスミカやテレジア程は慣れていないのだろう、最初こそは決して大胆ではなく、コツも掴めていなかったスティレットとエイであったが、矢張り順応力の高さは戦場に生きる者と云った所か――若しくは”女”としての能力の高さか――二人掛りとはいえ、次第に少年の反応が大きくなり始め、当の二人の口遣いも段々と淫靡さを纏い出した。
 先程と同じように口淫を眺めていたウィンが行動を起こそうと決意したのは、少年の眼を見たからだった。
 憂いを帯びるように潤んだ瞳に母性を擽られて求められる事全てをしてあげたくなってしまう――本気でウィンはそう思った。彼がそうであるようにスミカが彼にのめり込んでいる理由が分かるとも思った。
 テレジアに揶揄されたように弟子である自分は師匠であるスミカに似てしまったのかと――それも性癖まで――ウィンは自嘲しながらも早打つ鼓動と少年の視線に誘われるままに身体を後ろへとずらして行って、己の痴液に塗れていたが、すっかりエイが洗ってくれていたペニスと、スティレットが愛おしそうにキスの雨を降らしている亀頭の境の結び目をなぞった。
「はぁうっ」
 口による行為の性感がウィンのを引き金にして一瞬の起伏を見せたのか、それともウィンの責めた場所が弱かったのか。それまで声が抑え目だった少年が途端に甘い声を漏らす。
 優しそうな見掛けの癖に始めての、そしてそれまでの男達よりも――特にウィンは一度心からの想いで男の股の間に跪いた事があったが止められた経験がある。それも向こうの勝手の幻想の為に――欲望を隠そうともせずに其の権化を身体に擦り付けてきた少年が鳴いたのを聞いて、三人は嗜虐感に駆られている己を自覚して、三人が三人、またウィンは改めて女としてスミカが彼に惚れ込んでいる理由を察したのだった。
 すると、またも顔を近付けて突き出たモノに舌を這わせている三人の頭に影と明るい声が、
「やっと皆乗り気になったのね。ね、私も混ぜてぇ」
 そして少年にも影と陰のある声が掛けられた。
「随分とお楽しみのようだ――なっ!」
「むぐっ? むーーっ!」
 尚も衰えずに甘い香りを発している香に劣らず、甘酸っぱい芳香を漂わせているテレジアとスミカが合流した。テレジアの方はウィンの身体と少年の脚の下に入り込むと後輩達に良い所を譲ってあげると云う風な様子で、少年の張り詰めた肌に包まれている身体の中で二箇所だけ皺が刻まれている陰嚢を口淫に耽っている三人の誰よりも、そして三人の合わせても足りないぐらいに淫らな舌付きで、べろりと舐め上げる。
 スミカは幾ら乱交を愉しむと言ったとはいえ少年が愉しんでいたのは腹が立ったのだろう――しかも奉仕させているのだから――顔の上に跨って股間を乱暴に押し付けた。
 息苦しそうに少年がもがいているが、荒い呼吸と抵抗が秘所を擽っている。整った鼻に割れ目をぐいぐいと押し付ける。自分の臭いを沁み込ませるように。
「ふぅンっ……ンっ、やっぱりこっちも大きいのね」
 そして彼女の脳髄を溶かそうとしている芳香の元を製造する垂れ下がる袋に覆われている睾丸の一つを小さな口の中に収めて、ころころと舌で飴のように転がす。呑み込むかのように吸引する。かと思えば狭い口腔から解放したり、また含んだりする。左右交互に代わる代わる行う度に少年が甲高い悲鳴を上げるのがテレジアには嬉しく、スミカには面白くなかった。
 自分自身はテレジアに良い様に玩具にされるのは許容出来るが彼をそうされるのは繰り返すようだが愉しむと言ったのだが如何にも苛立つのだ。怒りで身体を捩る代わりに少年の顔に股間を殊更に強く押し付けて――実際は捩っているのと殆ど変わらないが――なまっちょろいフェラチオをしている三人に手本を見せるように彼の肉棒に齧り付いた――勿論、実際に噛み付いた訳ではなく、あくまでそんな勢い、と云う意味である。
 スティレットの口吻を、ウィンの舌先を、エイの横顔を跳ね飛ばすようにして先端から口腔の広さが許す限り咥え込む。
「うぐっ……むぅぅっ」
「あっ、あっ! スミカ、さんっ!」
 勢いが良すぎた為に肉の穂先が口蓋垂、所謂のどちんこや、咽頭のエラを掠めて軽くえづきそうになって、また涙が出てきたが、少年は視界の利かないというのにしているのは自分だと分かってくれた事にスミカは少し嬉しかった――他にそこまでやる者もいないと云うのはあったかもしれない。
 頭を上下しながら、ねっとりと唾液を塗した舌を絡ませ、「ぷはっ」と口から空気を漏らして、顔を擦り付けるように縦横無尽に肉幹を舐め回す。せっついた勢いの為に小泡を多量に含んだ唾液の塊が口から溢れるも、逆に其れも塗り付ける。
 手による支えの無い肉棒はあちらこちらへと翻弄されるがスミカはそれに追い縋るように喰らい付く。自分の唾液で顔がべとべとになるのも構わず、機関車の如く鼻息を吹かして熱烈に食んでいると、
「ふあっ……もうスミちゃんったら、ちん○好きなのは分かるけど皆で仲良くしましょ? それに、このままだとぼうやも直ぐイっちゃうし」
 テレジアに苦笑された。憂さを晴らすように責め立てていたスミカであったが、唾液の糸を引きながら亀頭から口を離すと、ウィン、エイ、スティレットが呆然とした表情で自分を見ているのに気付いた。恐らく熱心で無我夢中な口淫が繰り広げられているのに見入っていたのだろう。三人とも口が半開きだ。
 自分のしていた事を省みて急に恥ずかしくなったスミカは逃れる為に背後を見遣り、尻を上げて、文字通り尻にに敷かれていた少年の顔を見ると、息苦しそうに酸素をたっぷりと取り込みながらも、もっと下半身にも顔にも熾烈な責めを望んでいるような蕩けた顔になっていた。だからだろうか、短い時間とはいえ呼吸を制限させていたのだが特に謝る気にはならなかった――矢張り悔しかったからか。
 しかしスミカは睨みながらも快感に溺れて弱った少年が愛おしくて、鼻梁に開かれた割れ目の奥から蜜が其の顔に垂れしていると、乳房を玩んだ手で皺袋を玩んでいるテレジアに「ね、スミちゃん」と声を掛けられて其方を見る。
「お尻でイカせた事ある?」
「な……そんなのある訳ないだろう!」
「あら、男でも此処は感じるのよ。こんな風に……」
 テレジアが掌の上で袋を揺らして指で中の貯蔵庫を転がしながら、空いている方の手の指を少年の窄まりに捩じ込むように押し込むと少年が「あっ、わ、わあっ!」と驚いたような嬌声を上げる。実際に其処を抉られている事に、そして四人の視線が集中しているのが分かり、菊門がひくひくと戦慄く。
 しかしテレジアは直腸まで蹂躙する事は無いまま指を引き抜いて言った。
「じゃあ初めてはスミちゃんに取っておくわね――ああ、そういえばスミちゃんは経験あるのよね」
 実は以前に少年に後ろの孔のバージンを捧げた際に其の仕方を調べるに当たってスミカが頼ったのは――テレジアであった。注意点も必要な道具も、更に性感の具合とか形容などもじっくりと教授された。
 予想外の暴露に予想通りにウィン、エイ、スティレットの視線が痛い。
 信じられないといいたいのか、それとも詳しく聞きたいのか、単純に感心しているのか、三人の表情はそれらが織り交ざっていた。スミカが恥じ入るようにもじもじとしながら助けを求めて少年の方を見るも、未知の快感の扉を叩かれた彼は喘いでいるだけで、今の質問を聞いていたかも怪しい。
 そんな中で意外とテレジアは笑っているでもなく、口惜しげである。
「そうだったのよねぇ。すっかり忘れてた。覚えてたらさっきも責めまくったのにぃ」
 今にも指を鳴らしそうな風ながらも「で、男の方は直腸に前立腺が近いからアナルなら気持ち良さは女より上じゃないかしら」と教えられて、スミカは正しい手順を踏んだとはいえ最初こそ苦しかったが回数をこなす内に絶頂さえ迎えられるようになったアナルの快感に――しかも其れ以上の――少年の端正で繊細な顔が歪むと夢想して胸が躍るようであった。
「まぁ、アナルでイクのを見たかったけど、それは我慢するわ。その代わり……ねえ、ぼうや聞こえてる?」
「は、はい?」
「スミちゃんのおまん○で目隠して見えないと思うから想像して御覧なさい――あなたのちん○、これから五人におしゃぶりされるのよ?」
 少年がごくりと生唾と息を呑む込む気配がし、五人の女の顔前で隆起している肉の管も、嚥下する喉元のようにしなった。言われた通りに想像したに違いない、期待が募っている分かり易い反応だった。また涎を垂らすかのように腺液が一滴新たに流れ出た。スミカの下腹部辺りに俄然早まった鼓動が響く。
 循環の勢いが増した血流によって海綿体が膨れ上がり、どくどくと脈打ち出すと――
「はぅんっ、わっ、あぅっ、うああっ! あぁーっ!」
 誰かの舌に茎の裏側を舐め上げられ――浅い水溜りを湛える鈴口を抉られ――広がっている傘の裏側をなぞられ――右側面から唇で食まれ――亀頭の一部を含められて――熱くざらついた肉のうねりの感触が一つ、また一つと増えていく度に少年は身悶えした。
 そして、ざわざわと大胆に且つ怯えるように五枚の蛭が蠢き、吸い付き始めた。しかし彼女等は赤い血の代わりに青い精を望んでいる。
 か細い嬌声を耳元で囁いていたエイも、甘い吐息を顔に吹き掛けていたスティレットも、胸乳を鼻息で擽っていたウィンも、あられもない言葉を喋っていたテレジアも、嫉妬を隠そうともしていなかったスミカも、昂った吐息を漏らしているだけで只管に無言で口だけを動かして――矛盾している表現だが正しい――ぴちゃぴちゃ、ちゅうちゅうと湿り気のある音と、少年の切なげな喘ぎだけが響いている。
 暗闇の性感に玩ばれる彼は鼻先のスミカの陰部を責める事さえ出来ない。
「ひゃああうっ?!」
 誰かの口腔が赤黒い先端を丸ごと包み、じゅぽっと水音を上ると、牡の味をより強く味わおうと頭を前後させている。
 熱い温室に包まれた実と、冷ややかな外気に晒される幹と、環境に差が出ながらも液に塗れた蔦が絡み付くのは同じである。
 ヘッドバンキングしているのは矢張りスミカらしい。少年の細い身体に衝撃が叩き付けられ、顔を淫蜜で濡れたラビアが叩かれ、べちゃべちゃと糸を引いているのだ。しかし其れ以外は本当に誰のしている事なのかは判別付かない。
 誰かが舌を肉樹に纏わり付かせて半分程覆い、頭を上下させて扱いている。誰かが雁首を唇で擦り、お乳を吸う赤子のようにしゃぶっている。誰かが頭を横に傾けて陰茎に食らい付くと舌で叩きながらハーモニカを吹くかのように口を滑らせている。そして誰もが鋭敏になっていて肉が露になっている性器官に熱い視線を突き刺している。
「ああぁっ! そん、な……しちゃ、ダメぇっ! ダメですっ、出ちゃ、出ちゃうっ! でちゃうっ! でちゃうよぉっ! でちゃうぅぅっ!」
 女の勘と云う奴なのか、少年が逼迫した泣き声を上げる直前にペニスから気配を感じ取った五人は夫々の口淫から途端に殆ど同じ行動を取った。丁度それは猫や犬の母親が子供に排泄を促すの似ていた。に排泄器官の辺りを舐めている。
 但し彼女等のは淫猥さに溢れていて、空いた場所を掴んで男根の脈動を掌で感じながら一箇所を細い筆先で擽るように、ちろちろと舌先を反復させている。二人が亀頭を二人が長く太い陰茎を、一人が出張った雁首をと場所の分担まで無言の内に成っている。
 このままじゃ――そう思い、ぐんぐんと精輸管を昇りつつある射精感を抑えながらも、汚したいと云う衝動にも駆られて鈴口が砲門の如くぱっくりと開いて暗闇を広げる。
 回転を始めるエンジンのように陰茎が据えられている腰が震え出し、五人の頭をやおらに揺らす。
 そして引き金を引いたのは矢張りスミカであった。
「あぁーっ、でるっ! でるっ! で……!」
 少年が跳ね上がった瞬間に悲鳴に近い嬌声を顔ごと彼女の股間に埋めた瞬間、肉体的にも性感的にも突かれ、其の拍子に膨れ上がった亀頭の表面の全体を一緒に奉仕している誰かの舌ごと、ぬるりと舐め上げて――、
「――ぅぅぅうううううっ!」
 噴火するマグマの如く尿道を迸る射精感と共に五人の口先の感触を強くしながらペニスそのものが天へと奔る。
 大地が隆起するように突き出された腰の上で脈動が広がった直後、見上げる五人の眼前に雨のように白濁が降り注ぐ。びくびくと一つ脈を打つ度に誰かの髪に、額に、鼻先に、口許に、頬に牡汁が塗り付けられる。
「ふっ、ふぅっ、ふぅンっ!」
 精気の前に酸素を全て出し尽くした少年が性感に戦慄く身体を収めようとスミカの腰に縋り付いて引き寄せて息を取り込むと牝の淫臭がたっぷりと肺に送り込まれ、それに導かれるように精液がもう一塊打ち出される。其の分は全てスミカの顔に掛けられた。
 凝縮された牡臭に包まれて惚けた表情の五人は眼前で尚も聳え立つ肉棒の存在感に、顔にこびり付いた粘液の感触に酔い痴れている――。
「はあぁ……」
「何度か出してるんでしょう? なのにこの量なんて……」
「すごく、濃い、です」
「香りも、くらくらしてしまいそうだ」
「あ、熱い……それにまだ、大きい」
 自分の顔に触れ、向かい合っている誰かの顔を見て、空気を取り込んで、舌を回して、崩れて来た塔に頬を摺り寄せて。夫々が口々に感想を述べているのを聞いて、女五人を惚けさせている事に少年は男としての悦びに背筋を快感が奔っていくのを止められなかった。そしてスミカには悪いと思いながらも今すぐにも圧し掛かってる身体を退けて、白濁で穢された彼女等の顔を眼に焼き付けたいなどと考えていると、
「エイちゃん、ほっぺたにべったり付いてるわよ、んっ」
「きゃっ! テレジアさんっ、く、くすぐったいです」
「スミカ、お前も……」
「なっ、何を、スティレット! やめ、ん……ふぁ」
「何をしてるんだ貴様等! って、エイ! や、やめろ……んむぅっ?」
 視界が全く利かない状態での彼女等の仲睦まじいスキンシップの声に否応なく劣情が滾って、僅かに萎えていたペニスも力を一気に取り戻した。だが五人はスキンシップの方に夢中なようでそっちに反応は無く、中途半端に期待していただけに少年は少し肩を落としていると、
「スミちゃん、ぼうやは何発ぐらい出せるの?」
「そう、だな。多い時だと、十――五回前後かな。何だ。お前らその目は」
「オッケー。それなら一人に一発としてもまだ全然イケるわね。それに若いんだし、ちょっとぐらい無茶しても平気でしょ。帰ってからまたするのなら話は別だけど」
 小さいからテレジアのだろう、モノをむんずと握られながらそんな相談が交わされる。少年は不安なような、愉しいような、そわそわとした落ち着かない心持ちである。
 ゆるゆると扱かきながらテレジアが続けて提案を出した。
「スミちゃんとウィンちゃんでパイズリしてあげたら?」
「な、なんで私が……」
「それはあなたたちのおっぱいが特に大きいからに決まってるじゃない――ウィンちゃん、パイズリは知ってるのね」
「……あ。いや、それは」
「別に恥ずかしがらなくてもいいのよ。幾らあなたがむっつりスケベでも皆それぐらいは知ってるわよ。ねえ、エイちゃんに、スティちゃん?」
 二人からの返事は無かったが、逆に其れが肯定であった。
 またウィンも写真の事を先に出される前に腹を括ったらしく「……しょうがない」と言った。
 スミカとしては先程も自ずからやっていたし、日頃も少年にせがまれているから特に嫌がると云う事は無いようだ。
 但し、ウィンと顔――ではなく胸を付き合わせるのに如何な感情を抱いているのかは定かではないが。それはウィンも同じだろう、躊躇していたのは行為そのものよりも寧ろ其方に抵抗感があったからに違いない。
 ともあれ少年が下腹部ににじり寄る存在感をひしひしと感じていると、
「ダブルパイズリ、しかも師弟のなんてねぇ。中々お目に掛れないわよ。おっぱいが大きいのも似たのかしら?」
「幾ら師弟とはいえ、そこまで似るとは思えないが」
「そう? どっちもエッチなんだし、充分在り得ると思うわ」
「そうですね。スミカさんは年下好きですし、ウィンちゃんはむっつり――」
「ええい、黙れ貴様等ッ! 集中出来ないだろうがッ!」
「……ウィンディー、何をそんなに苛立っているんだ」
 吐き出された怒気と唾の飛沫がぶち当たって、風に吹かれた樹木のようにペニスがしなった。
「もう、何でこんな事を……あ、熱い……お、おいスミカ。そんなに顔を近付ける、や、ンっ!」
「わ、私だってそんなつもりは……うぁっ!」
「ふあぁ……あっ、いい……気持ち、いいです……」
 豊満な胸乳がミル・クレープのようにふんわりと重なりながら先端の蛇苺が互いを小突き合い、擦れ合う。その隙間を先端へ向けて膨らんでいる泡立て器が伸びている。但し、泡立て器が掻き混ぜているのではなくケーキの方から纏わり付いている。
 五人の唾液に塗れている肉棒は滑らかに生地の間を滑り、突き出た突起が雁首の窪みを抉る。先からだらだらと溢れるシロップが乳房にとろみをつける。
「ほらほら二人共、ケンカしないの。それに先っぽもちゃんと舐めて上げなさいな……なぁに? さっきまで一緒に仲良くおしゃぶりしてたんだからちょっとキスするぐらいどうって事ないでしょ」
「ひゃっ、ひゃあんっ! はぁんっ!」
「だ、だめっ! それ、だめぇっ!」
 四つん這いにしたスティレットとエイを後ろから膣内に挿し入れている指を抽迭させて善がらせているテレジアに二人が嫌だと言いたげな視線を送るが、そう言われてしまって今度はお互いに眼を合わせる。
 今、陣形がどうなっているかと云うと、相も変わらず寝そべっている少年の胴体の上に快感に顔を歪ませているスティレットとエイが前述の通り四つん這いになって凭れ掛っていて熱い吐息で薄い胸肉や小さな乳頭、また臍の辺りを擽っている。
 其の後ろでは中腰のテレジアが両手を忙しなく動かしている。
 伸ばされた両脚の上に圧し掛かっているウィンとスミカは向かい合い、夫々の乳房で彼のモノを挟んでいる。
「しょ、しょうがないな……ンっ、ンン」
 先に肉に埋まり切っていない男根の先端部に舌を這わせたのはウィンの方だった。躊躇していてるのだろう、ちろちろと控えめに。
 遅れてスミカも胸に、口に馴染んでいると云っていいソレに舌を這わす。慣れている為にウィンよりも動きは大胆だ。記憶の通りの質感や熱が舌先に広がるが、やがて記憶には無いぬるぬるとした異物に触れた。勿論、異物の正体は言うまでも無くウィンの舌であり、唇である。
「う……」
「あっ……」
 眼を瞑って口淫に励んでいた二人だが途端に目蓋を開けてしまって、口吻を触れさせながら眼が合う格好になる――そして見ているのは鏡写しの虚像でもあった。
 赤黒い肉茸の地平線の向こうに下唇は隠れていて上唇の方は食むように触れていて、時折隙間から這い出てくる舌は固い精口を解すように縁をなぞっている。溢れ出る腺液に口端を、へばり付いている精液に顔中を妖しく輝かせて。
 真紅と琥珀の宝石の眼光が交差し合った瞬間、それぞれの持ち主が抱いたのは嫌悪ではなく単純に緊張だった。それも何かの拍子に異性と至近距離で眼を合わせてしまったような、そんな種類の緊張。
 息を呑んだまま形で唇の先を触れさせたまま硬直してしまっている二人の脳裏に昔の記憶が過ぎった。
 例えば少女だった時分に憧憬を抱きながら見上げた女性の姿だったり、純粋に可愛らしいと思いながら見下ろした少女の姿だったりと。
 セピア色に彩られた記憶が秘める己の感情に触れた二人が、肉棒を間に挟んでいるとはいえ虚像に口付けを落とすのに時間は殆ど掛らなかった。
「ンンぁ……ウィン、ディ……」
「ふぅ、ン……スミカ……」
 互いに唇で唇を食みながら亀頭をなぞり上げて通過した舌を相手のに這わす。つるつると滑りの良い固い肉の感触から一転、滑り気に覆われた柔い肉へと摩り替っていき、また戻る。
 琥珀色と真紅の瞳を潜ませる眼は霞がかったように虚ろであるが二人は其の色を不思議とはっきり見ている。何故だか溢れた涙で潤んで、まるで炎のように揺らめいているのを。
 少年の男根を包んでいる己の乳房が零れないように押さえていた手が外され、虚像のをそっと包み、さわさわと掌で撫でる。深いキスを行なう為に上下に揺れる身体が挟んでいるモノを根元から扱く。
 ほんのりと舌先に広がる唾液の味は甘かった。
「あらあら、仲がいいのね」
 和やかな声だが普段なら、たちまちに怒声で返していたテレジアの嘲る言葉も風に流れていく。
 口淫をしていると云うよりも殆ど二人はディープ・キスに耽っていた。舌の間にあるのも牡の器官というよりは多少大きな舌のようで三人で絡ませ合っているのではないかと思える程に。
 良く知っている相手だからだろうか、掌に吸い付く相手の肌理細かな肌に覆われた乳房を左右に動かすと肉棒を介して一回は歪み、弾かれるが最終的に突起が導かれたかのように自身のを小突いてくる。
「はぁっ、あっ! イキ、そうっ! イッちゃいそうですっ!」
「テレジ、アさんっ! もっとぉ……もっと激しくしてえ……」
「あぅぅっ、いいっ! そこっ、そこ、いいっ! もっとこすって、くれぇっ!」
其の傍らでは嘗ての師弟二人が「スミ、カ……スミカぁ……」「ウィン……ウィンディ……」と互いの名を甘い声音で呼び掛け合いながら口吻の間でぴちゃぴちゃと音を立てる二人の艶かしくも美しい光景、そして四つの乳房と四つの乳首にペニスを扱かれる感触、自分の身体の上で淫音を股間から上げながら喘ぐ二人の吐息によって、下腹部の沸騰を抑える力の限界を感じて切羽詰った鳴き声を漏らす。
 だが誰も聞いている様子は無い。何度も絶頂のサインを連呼するも反応の無いまま――、
「イクっ! イク、イク、イクっ、イっクぅぅっ……!」
 二人の口腔の熱さに包まれたまま肉棒を律動させてしまった。噴水のように撃ち出した白濁が顔の何処かに勢い良く衝突して、びちゃびちゃと音がするのがペニス越しに聞こえてくるようだった。
 舌の愛撫の間に分け入ってくるように精液が口腔に飛び込んできたスミカとウィンは唇を開いて其れをじっと黙って受け止める。乳房の谷間でびくびくと震える脈動が収まるのを。
 熱い粘液が腺液の沁みを上から塗り潰し、顔中を再び好き勝手に穢す。、
「――ウィンディー? ……ふむっ?! むぅーっ?」
 途端に唇が離れていったと思ったら火照って赤くなっている頬に手を添えられながら見詰められたのでスミカが声を掛けると、蕩けた顔を身体ごと乗り出してきたウィンに覆い被さるようなキスをされていた。歯茎を撫でられ歯の裏をなぞりながら口腔の中全体を掻き回されて戸惑ったように彼女の腕を掴む。
 それでも女同士のキスであるのに口の中一杯に牡の味が広がる。
 幼い頃の憧憬を穢す背徳感に背筋が悪寒で波打つ。
 するとウィンに注がれていた精液が唾液を伴ってスミカの方へと流れていき、親しんだ味が強みを増した時だった。
「ふぁ……っ? んんっ、ンっ、ふっ、ふぅぅン……!」
 負けん気の強さに火が点いたのか、スミカは歯が当たりながらも身体ごと頭を持ち上げて――其の拍子に少年のペニスが勢い良く扱かれて尿道に残っていた白濁がどろりと垂れ流れて彼女等の胸を穢した――後頭部に回して後ろ髪を掴んでいた手を引っ張ってウィンの顔を上に向けると、逆に覆い被さるようになった。
 そして口腔に溜まった白濁を彼女の粘膜に沁み込ませるように舌を激しく掻き回す。
 淫液の混合物がねちゃねちゃと音を立てて口蓋に染み渡る中、ウィンはまるで愛しい恋人にキスされているようにスミカの背中に腕を回した。
 洗濯機の水のように渦を巻く精液であるが、少年の物である事に独占欲を抱いているのかスミカはウィンに与えたままにする事はなく、自分の口中に引き摺り込んだりしながらも扱い荒く、また流し込んだりしている。
 すると熱烈で淫靡なキスを無我夢中で繰り出していたスミカであったが、向けられている視線に気付いて顔を横に向けると――浮かされているウィンが名残惜しいのか、「ふぁ、ん」と溜息を漏らし、もっとと強請るように腕を回したままで、彼女につられて同じ場所を見る――上体を起こした少年が、全身を揺らして喘ぎながらもエイとスティレットが、膣を蹂躙している指を動かしながらもテレジアが、じっと見詰めていた。
「あ……ん、くっ」
「――けふっ、けほっ!」
 不倫の情事を発見された男女のように絡みついたまま硬直した二人は息を呑む拍子に丁度半分程口腔にあった精液を喉に流し込んでいた。日頃から少年のを飲み慣れているスミカは兎も角、飲精は初めてであったウィンは濃い精液特有の粘つきが喉に引っ掛かる感じに咽せて咳き込む。
 気まずい沈黙を破るようにテレジアが恐る恐る口を開く。
「前はずっと一緒に居たから昔は冗談で言ってたけど、もしかして……本当にあなたたち……」
「ち、違うぞ! 違うっ! 断じて違う!」
「そうだ、違う! 決して私達は……その……」
 慌てふためいて否定する二人は同時にお互いを至近距離で視線を合わして、恥じ入るように一瞬硬直した。そして今更ながらに気付いたらしく、二人共顔を真っ赤にしながらスミカは掴んでいた後頭部から手を離し、ウィンが回していた腕を解き、肉棒の圧迫を解いて二人は身体を離した。
 長い付き合いの割には奇妙な距離を開けて。
 再び場に沈黙が流れる。
「……一応言っておくけど、私は驚いただけよ。意外だなって。別に二人の間に何かあってもヘンに思ったりなんてことは――」
「そんな事は無いと言っているだろうが!」
 気を取り直すように――というのも奇妙であるし、誓って其の場の全員が思うような関係には一度たりともならなかった二人にも悪い気がする――六人は宴を再開した。
 そろそろ背中が痛くなり出していた少年は、上体を完全に起こして座る、うつ伏せ以外の体勢になっている。
 開かれた股の間にテレジア、エイ、スティレットが四つん這いで顔を寄せて三人で口淫を行なっている――スミカとウィンと違って胸を使えないのは三人とも多少小振りだからである。テレジアにいたっては殆ど無いと表現出来るだろう。
 そして色眼鏡で此れまでの関係を見られるようになったスミカとウィンは少年の傍らで挟むようにして腰を落ち着けている。
 どちらも少年に抱きかかえられていて全身を撫で回され、局部を摘まれたり、指を入れられたりしているがスミカの方は貪られるように口を塞がれている。
 エイとスティレットを連れて少年の股座を占有したテレジアは、スミカが横に来るなり強引に抱き竦めた少年の言動については、このように感想を漏らした。
「あらら、スミちゃんがウィンちゃんと仲良くしてるのを見て嫉妬しちゃったのかしら」
 正に其の指摘通りである。
 少年は状況が状況、昂らせる香の存在や、テレジアと既に絡んでいて躊躇が無くなっていた等のお膳立てあるとはいえ、スミカが自分以外に対して熱烈な振る舞いをしていたのが悔しかった――勿論、今の彼に自分も似たような事を、更にそれ以上の事を他の女としていた事は念頭に無くなっている。
 また表立って認めたくも無かったのでテレジアに何かを言われても無視したのだが其の頑な反応と、そもそもウィンをおざなりしてのスミカへの行為は、認めたも同然であった。
 身体を押し付けるように頭全体を使っての鮫が獲物に喰らい付くのに似た接吻に、虎が獲物を絞め殺すのに似た喉へのしゃぶり付きと、傍から見ればスミカは捕食されていると思える。そして細く滑らかな指は尻を、太腿を愛撫し、膣の天井を抉り、陰核を抓る。息苦しくなったのかスミカが僅かに身を捩れば、腕で背中を抱え、前面に回した手で乳房を揉みしだきながら引き寄せる。
 スミカへの其れに比べればウィンへの行為は易しいものだが、秘所を擽られている彼女は掌の上で心地良さそうに身悶えしている。それでも囁くように嬌声を耳に吹き掛けながら凭れ掛ってくるウィンを少年は見もしない。
「二人共、見てご覧なさいな。あれだけ愛されれば女冥利に尽きるってものよねぇ」
 其の少年の股の間で身を屈めて、未だ萎えを知らない肉棒に口付けを落としながらテレジアは横のスティレットとエイにそう言った。言われなくても二人共、柔い口淫をしながらも確りと其の様子を見ていたが。
 うんうんと満足げに頷きながら見入っていたテレジアであるが、途端に顔を顰めながら両隣の二人を交互に見遣って、
「もうっ、あなた達ったら! そんな生っちょろいのじゃあダメ! もっとガンガンやんなきゃ――こうよ、こうっ!」
 蛇の鎌首のように小柄な身体をもたげさせて――眼前に聳え立つペニスを頭から咥え込んだ。
 驚く二人を余所に頭を上下させるがテレジアの小さな口腔では根元まではとてもではないが不可能である――例え彼女に比べれば身体が成熟している二人や咥え慣れているスミカであっても物理的に口腔に収め切る事は到底無理だ。
 しかし、ある手段を用いれば其れを可能に出来るのだが、あくまでテレジアも二人に対するデモンストレーションのつもりなので改めて陰茎を唾液塗れにするぐらいで口から引き抜いた。
 其の光景は隣のエイに鞘からぞろりと刀身を引き抜くのを、スティレットには何故かビニール袋から先端が結ばれたソーセージを取り出すのを想い出させる。
「ふうっ。やっぱり大きいわね、全然入らない――まぁディープ・スロートでもすれば何とか入るけどあなた達にはちょっとハードルが高いもの。それに苦しいしね。私なんかはダーリンを口だけで満足させる為にはどうしても必要だけど。ま、あんまり大きいのも困るって事かしら。あ~あ、口でする時だけはもう少し小さくなってくれたらいいのにっていつも思うわ。其の分、アソコを突かれるのは天国だけど」
 聞き慣れない単語にエイとスティレットはキョトンとしている。
 どうやら知らなかったのだろう、それに教えられなくて良かったかもしれない。さぞや驚いただろう、喉までを使って性器を咥え込んで締め付けるなどと教えられた日には。
「ほら、ぼおっとしてないの。次はあなたたちの番。しっかり咥えちゃいなさい」
 そう言われたが、エイとスティレットは困ったように顔を見合わせる。
 陰茎を舐めるだけなら二人でも同時に出来る。だが先端から咥えるとなると一人しか出来ない訳で――丁度テレジアのを見守っていたのと同じようで――二人共、正直に言えば、やってみたいとは思っているが、問題はどちらが先にするかと云う事であった。
 しかし名乗りを上げれば相手にペニスをしゃぶり付くのに興味があると教えているようなものであるから、中々自分が先にとは口に出せずにいる。
 するとじれったくなったのか、テレジアが掌を広げた五指を好き勝手に蠢かせながら「早くやらないと無理矢理口にブチこんじゃうわよぉ?」と脅し掛ける。
 流石にそんな事を言われては腹も括ると云う物だ。何せ、熟練のテレジアですら顔を顰めていたモノを全くの素人である自分らが無理からにされればどれ程苦しいのか分かったものではない。おまけにあのテレジアだ、恐らく加減など小指の爪の先端程もしてくれないに違いない。
 世界的にもなりを潜めている上にインテリオル内部でも全く重要視されていないが、年功序列の念なのだろうか、年上として年下を思い遣ったスティレットが「じゃあ、私が」と名乗り上げた。勿論、言い出せなかった希望を、背中を押して貰って果せるようになったと云うのもあるだろう。
 スティレットは髪が汚れない為、それとも毛先で突かない為なのかは本人も分からなかったが、髪をたくし上げながら口を開いて肉棒に顔を寄せると予め伝えようと少年の顔をちらりと見遣ったが、ジュルジュルと云う淫音を立ててスミカとのキスに耽っている彼に気付く様子は無かった。
 なので不思議と失礼かな、などと思いつつも眼前で脈打つモノが少し怖ろしく感じたので眼を瞑りながら寸前に口を大きく開きながら頭を落す。
「ンぁ……」
 唇の裏を擦りながら卵のような形の物体が――途中までは――生臭くも嫌いではない味が口腔を埋め尽くす。舌先でも、触れた指でも、そして膣の中でも其処の質感が其れこそ磨いた卵の殻のようにつるりとしているのは知っていたが口の中だとより強く感じる――とスティレットは思った。
 思っていた程苦痛では無いと考えながらも既に舌の動く範囲を埋めつつあるのに、目蓋を開いた眼に入ったものは永遠に続くと思えるような黒ずんだ包皮に覆われた陰茎。
 まるで自分の口から小さな子供の腕が生えていると思った程だ。そして全く場違いにも”喉から手が出る”なんて諺が思い付いてスティレットは自分の思考にあきれ返った。
 ともあれ最初から全てを含めれると思ってはいなかったが、咥えてみてスティレットは改めて其の大きさを知らされたようだった。しかし、おめおめと引き下がるのも癪だとも思い、取り合えずやれる所までやろうと考えた。しかし矢張り目の当たりにするのは怖いから眼を瞑る。
「ンン、く……ぅ」
 徐々に頭を下ろしていく。先端から溢れた腺液が垂れて舌先に体液の酸っぱさと精の青臭さが広がる。亀頭の表面が味蕾を撫でていき、舌先に雁首が触れる。
 先の見えない行軍のようであったが絶望感は無く寧ろ自分が何処まで出来るのかと云う楽しさがあって、苦しいと思いながらもスティレットはもう少し、もう少しと言い聞かせながら陰茎を飲み込んでいく。
 そして喉が広がる感触が出た辺りで涙が浮かぶ眼を開くと――全く進んでないように感じて余り達成感は抱けなかったが、口腔一杯を男の性器で埋め尽くされている被虐感に胸躍った。
 ちらりと眼を上に向けるとスミカを乱暴に抱きかかえている少年と眼が合う。必死な様子の中に苦悶が浮かんだのを見てスティレットは純粋に面白いと思った。
(じゃあ、これはどうなんだろう)
 反応を見たくて口腔に肉傘の全てと陰茎の一部を――其処だけ切り取れば茸そのものの形じゃないかとスティレットは頭に思い描いた。脳裏に描かれた其れは筋が浮かんだ何とも言えない見た目であった――含んだまま、舌先を乱暴に動かす。
 迫り出している雁首の段差が弾かれ、血管が浮かぶ裏筋を撫でられて肉棒がひくひくと震える。
 感じているんだ――口の中のモノの、そして顔を歪めた少年の反応に、以前に間違いとはいえ無理矢理に自分を劣情の深淵へと叩き込んだ彼がどうしようもなく身悶えする姿が滑稽でスティレットはテレジアやスミカがしていたように頭を前後させてみる。
 少年が身体を捩った――更に感じている。
 其の先が見たくて、もっとしてやろうと熱が生まれ、当惑していると分かる眼で見てくる少年に挑戦的な視線を投げ掛けながら、口に収まり切らない陰茎の露出した箇所を、むんずと両手で掴む。
 こびり付いた汚れを落とすかのように激しく擦り上げながら、上目遣いの顔を上下に振る。
 苦悶しているかの如く震える男根は、しかし掌握されていて逃げ場がなく、開きっ放しの鈴口からたらたらと腺液を溢れ出し、掌中と口腔全体に震動が広がっていくのを感じていると――
「スティちゃん、愉しいのは分かるけどそこまで。このままじゃぼうやがイっちゃうわ、エイちゃんと変わってあげましょうね」
 苦笑しているテレジアにぽんと肩を叩かれて制されてスティレットは、はっとして己を省みた。
 両手で握った男のモノを咥え込んで責め立てて愉しんでいた、しかも夢中で――そう考えると顔から火が出そうな程の羞恥を感じたが、もし相手が本当に大事な異性だったらもっとしてあげたいような気もした。
 そしてもっと奥、無理して咳き込んだとしても”彼”のモノを自分は口腔に納められるのだろうかと考える。
 そこまで出来る相手が今まで居たかと自問したが迷い無く居ないと即座に自答した。
 イメージの所為か、支配される事を望まれる事はよくあってその通りにしてきたが、それは其の役割を乞われたからそうしただけで、自発的に、心の底から喜ばしてあげたいと想った男は居なかったと。
 スティレットはスミカが酷く羨ましく思えた。
 本音を余す所無く言えば、毎回のセックスが心地良いであろうサイズの大きなペニスを持つ恋人を持っている事に加え、迷い無く心の底から奉仕できる恋人が居る事に。
 今までの自分の傍に居たのは日々のストレスの憂さ晴らしでしかなかったような気がしてスティレットは、
「ぷぁっ……はぁ」
 と、肉樹が引き抜かれた口吻から憂いを含んだ深みのある溜息を漏らしたのだった。
「う……」
 スティレットが惚けている中、無言の視線でテレジアに促されたエイだったが正直な所――怖かった。
 眼の前にあるペニスがではない。何せ其れは以前に既に一度自分の口に捩じ込まれているし、色々あって肉欲に溺れていたからかもしれないが案外嫌でもなかった。
 彼女が心配しているのは、其れを責め立てる事に自分が熱中してしまいそうな事――正確には奉仕に夢中になってしまう事に。いや、間違いなくそうなるとエイは半ば確信的に予想している。
 清楚ぶる訳ではないが性とは一歩置いていた――いや、矢張り清楚ぶっているのだろう。テレジアやスミカ程淫らでは無いと無意識に思ってしまっている――其れまでの自分が容易に崩れてしまう。
 そんな瀬戸際に立たされている。
 かといって淫蕩な一面が目覚める事でアイデンティティの全てが壊れる訳でもないのは良く分かっていた。寧ろ其れは何時まで経っても少女染みている、自分の”女”としての魅力を一段階高めてくれるのでは無いかと期待さえある。
 不安の本質を極端に言葉にすれば――恥ずかしいのだ。
 幾ら前述の通り少女の残り香のあるエイも時に情欲に身悶えする事はある。しかし此処は自室の一人だけの、シングルベッドの上ではない。頭から爪先まで包むシーツの中でもない。
 他人の、同僚達の、友人達の眼の前である。
 その事がエイにブレーキを掛けている。仮に身体を許してもいいと心底思える恋人一人の前だとしても、変わらないだろう。外観に漂う少女の残り香をそのままに、もじもじとするだけなのだ。事実今までもそうだった。
 しかし其れが今までの自分であるとしても所詮、不可抗力の、消極の積み重ねでしかないと分かっている。だとしても一切の異を挟む余地無く自分である事にも変わりは無いのだ。同時に素直に成れなかった自分にうんざりもしている。
 だからこそ少年の肉欲の権化を前にしての渦巻く感情は不安であり――期待でもある。
 そこで、エイはふと思った。
 決して数は多くはない、寧ろ極少数であるが今までの恋人から心が離れた理由は自分自身にあるのではないかと、そして彼らにもあったのではないかと。
 もう少し自由であれたのなら違っていたのだろう――無理をする必要が無かったのなら。外観のイメージではなく心の欲望のままに縋り付かせてくれたのなら、誰かの傍に居る事に疲れるとは思わなかったのだろうと。
 気が付いたらエイは蛾や蝶を誘う灯火のように、液に塗れて輝く男のシンボルに引き寄せられていた。
「ふぁ……む」
 あっという間に口の中を占有した牡が粘膜を愛撫する。口では呼吸が出来そうも無いので鼻から酸素を取り込むと、生臭さ汗の甘酸っぱさが混じった芳香が鼻孔を犯す。
 自ずから口を含めるのは初めてであるのだから、当然コツなどが分かる訳もない。しかし痛いであろうから歯を立てないように気を付けながらも、口腔を支配されている感覚にもっと溺れたいと云うように咽頭の手前までモノを誘う。かといってそこから何をすればいいのか矢張り分からず、少しの間そのままであった。
 すると舌を刺激された事で好物を鼻先に突き付けられたように唾液が溢れて、頭を下に向けている為に口吻と肉棒の隙間から涎が染み出た。
 眼下に其れを臨むエイは、胎内がこれに侵入されている時はこんな風になっているのだろうな、と思った。
 そして、自分がどうすればいいか、如何にすれば男が悦ぶ方法に気付いた。
 そう、答えは自身の身体にあったのだ。
「んっ……ふぅっ、ふぅんっ、ふぶっ、ンンっ、ンぐぅ……」
 エイは性交中の記憶を辿り――結合部を締上げる(唇をきゅっと窄める)――経験は無いが男に自分が跨っている仮定して身体全体を上下に振る(頭を前後させる)――腰遣いに角度を付けて膣の天井に穂先を擦り付ける(口蓋に亀頭を触れさせる)――そして自分の身体そのものが男を堪能するように蠕動する(口腔全体を遣って吸引する)。
 口の中で肉棒が善がりの震えを起して褒めるように舌を撫でた。うっすらと開いている視界の中で咥えているモノの根元の方で左右に開かれた二本の太腿の上に筋が張られる。
 性感を得ている証左を感じ取ってエイは湯船に浸かった瞬間の似た身体の力が抜けていくのに感覚を抱いていた。ほうと顔の筋肉が和らいでいくのが分かる。
 弛緩した表情で股座に頭を埋めている自分を想像して股間の奥が疼いているのをエイが知覚していると、
「はぁ、ぅ……っ」
 自身の唾液に塗れた男根を口の中に引き寄せようとした途端に跳ね上がって、飛沫を顔に撒き散らしながら結合が解けてしまった。あっちこっちにしなりながら、所在なさげにぶらぶらと揺れている。
 エイの口淫の様子を眺めていたテレジアが、
「へぇ、結構上手く出来たじゃないの。ホントに初めて?」
 グラスの奥で冷艶な好奇心を秘めた眼に尋ねられたエイは「は、はい……」と落ち着かなさそうな様子で答えてから、無意識に今の奉仕で蜜が溢れている股間が気になっている風にそっと伸ばした腕を太腿で挟みながら言った。
「……ここ、みたいにしてみました」
 其れを聞いて、成る程と言いたげに感心しているスティレットの隣で、テレジアがにやりと嗤う。
「うん。いい発想ね、エイちゃん。とどのつまりは男が悦ぶのは結局其処だもの。身体そのものが本能的に悦ぶ場所っていうか。はぁい、よく出来ました」
 テレジアの手が空色の髪をよしよしと撫でられてエイが人懐っこい、少女のような笑みを浮かべる。
 するとエイがもじもじとしながら口を開いた。
「あの、テレジアさん」
「ん。なあに?」
「口でしてあげるの、なんだか……気持ちよかったです。男の人のモノにされてるんだけども、だけど向こうも感じてるんだなぁ、って」
「ああ、それは分かるな――可愛いというか」
「うんうん。よく分かるわぁ。咥えている方が主導なのがフェラチオ、咥えさせている方がイマラチオで区分されててね、つまりお口でするのは”してあげてる”のと、”させられている”のに分かれるんだけど、どっちもいいものよね」
 テレジア、エイ、スティレットの三人が口々に口淫の感想を述べ始めた。テレジアの経験談にエイとスティレットが頷いていたりと、二人が夫々してみたい事などを述べたりと他愛も無い猥談に花が開いていると――、
「あら、ごめんね。つい、話が弾んじゃって――」
 放置されている自分の存在をアピールするようにテレジア、エイ、スティレットの前でペニスが下から上へと飛び上がった。
 途端にそれまで楽しそうに会話に興じていた三人の顔から笑顔が掻き消されて、熱に浮かされているのに似た蕩けた媚貌と化す。テレジアが天に向かって屹立しているモノを「そんなにして欲しいんだ? エッチなぼうやだこと」と言いながら、ぴんと指で弾くと、。
 ――そうだ。
 と、言いたいのか。ぶらりと揺れたソレは弾かれたままの勢いで腹の方へ、そして戻ってくると云う風に前後に――頷いた。
 持ち主の方は其処からの性感が無くなっているのでスミカの乳房に齧り付いており――傍らで上からせがむように白い手が添えられている小さな手でウィンを抱きながら乳頭を摘んでいる。
 肉欲の権化そのものの懇願に――寧ろ欲求に――三人が求められている事を具に感じ取り、劣情を滾らせる。
「ンむ、ンンっ、ンぁ」
「はっ、はぁ、ふぁうっ」
「ふは、ふぅっ、はむっ」
 エイ、テレジア、スティレットが熱り立つ男根にしゃぶり付いている。
 幹を淫らに艶めく舌が舐め上げ、左右に広がる袋の根を妖しく輝く唇が含み、赤黒い実を厭らしく蠢く口腔粘膜が締上げる。夫々を三人が譲り合い、時には奪い合いながら誰の物とも分からない荒々しい吐息を吹き掛けて。
 純白の、空色の、濃紫色の頭髪の鋭利な毛先が汗と唾液に濡れそぼった表皮を突き、擽る。
 次々に変わる先端を咥え込んで扱き上げる口も、夫々微妙に速度や吸引の具合に差があって鳴る音が違う。
 塊の唾液が淫茎を伝って行って、横から貪り付いている者に掬い上げられる。やがて其の者の唾液と混ざり合って塗り付けられるか、上から垂れ流されるのを繰り返される肉棒が小泡を含んだ粘液に纏われて妖しく光を放つ。
 すると掌を唾液塗れにして扱いて、ぬちゅぬちゅと立つ淫音を耳の直ぐ傍で聞きながら、なぞり上げるように舌を這わしていたエイが、ぽつりと囁き掛けた。そして言い終わるや否や、また口を寄せる。
「おち○ち○、おいしい……」
 また其の下で陰嚢と男根の境辺りに顔を埋めるようにして舌先で擽っていたスティレットが
「この臭い……好きになってしまいそうだ」
 整った鼻先を茎の裏に擦り付けて、間隔を置いて舐め上げながら囁いた。
「ふ、ふっ、ふぅンっ」
 雁首の段差に唇の裏をぐいぐいと引っ掛けているテレジアは何も言わなかったが、味を堪能しているらしく、舌を亀頭の表面で蠢かせている。
 立て続けに上がる淫音に己のモノへ向けられた淫蕩な感想に、局部から直接奔る性感、そして自身の秘所を弄っていないか、ペニスを扱いていない手か、空いている手を少年の内腿をさわさわと擦っている感触に迫られて少年は漸く、乳輪を舐め上げ、乳首を甘噛みしていた眼の前にあるスミカの乳房から股座の三人へと視線を映した。
 すると蕩けた群青色、黄金色、翡翠色の瞳の媚びるような上目遣いが眼に入る。
 それが引き金になったように腰の辺りに電流が奔り、そして肉棒がぐっと膨らんで――、
「う――うぅぅぅっ……!」
 這っている舌に、寄せている唇に唇、包んでいる口腔に射精の脈動を叩き付けながら、性感がそれらの向こうで噴火する。それを受け止めたのは丁度、咥えていたテレジアだった。
「ふあっ……ンっ、ンっ、ンっ、ンン……」
 第一射はそのまま放たせたが、それ以降はペニスから口を離すと、眼を閉じて舌を目一杯伸ばす妖艶な姿で、小刻みに扱いている片手で放出を促しながら口内に注がせている。
 どくっ、どくっと脈打つたびに精液が飛び込んで行く。
 エイとスティレットが見守る中で十回近い律動と共に射精が終わるとテレジアが突き付けられた穂先に吸い付き、尿道に残ったのを吸出してから口吻を離す。白いダマが鎖のように連なる糸が引かれた。
 そしてテレジアが固く瞑っていた眼を開きながら口を開けると、舌の上を白濁の泉が占有していた。
 ――確り受け止めた。
 口内の様子を見せ付けている彼女はそう主張しているのだろう。
 少年が見たのを確認したのか、テレジアは精液を飲み込まないように気を遣いながらスティレットの方に頬を両手で掴んで顔を寄せる。スティレットは拒否せずに成すがままに顔を持ち上げられて、自ずから口を開く。
「ン……」
 直接口吻が触れる事は無かった。充分過ぎる程に間の空いた空間を通って、熔けた鉄に似た固体とも液体とも付かない白く濁り、泡を含む物体が溶鉱炉から流れ出るように、テレジアの口からスティレットの口へと、どろりと擬音が聞こえてきそうな具合で注がれていく。
 スティレットが受け止めると全く同じ工程を踏んで次にエイへと与えられた。
 そして三人の口の中に――恐らく平等の量の――精液の味が、臭いが広がっていく。
 ジェル状の舌触りを確かめるように舌で触れて、一人は歯触りを確かめるように咀嚼して、くちゅくちゅと音を立たせて暫く堪能してからゆっくりと嚥下した。喉に粘つく為に全てを一気にという訳にもいかず、喉元を何度も波打たせて。
 そして胃へと流し終えた時間に差はあったのだが――実に不思議なもので――そう、不思議な事なのだが――また示し合わせた訳でもないのだが――何故か三人は殆ど同時に、
「はぁ……」
 体内を蹂躙される感覚に、うっとりとした恍惚とした溜息を漏らしたのだった――。

「これっ……! これ、すごい! ほんとにっ、いれてるみたいで……あぁっ!」
「ふぅん、ンあ……お前の胸はやっぱり、大きいな、羨ましい……あン」
「ふむっ……でもお前の方が、形がいいと思うぞ……ンっ」
 身悶えする少年の腹の上と太腿の上で向かい合って手を繋いでいるスミカとスティレットが、胸から突き出る尖りと柔肉同士を擦り合わせながら間を割っている熱り立つモノを秘所同士で挟んでいる。
 ぷにぷにとした質感の唇に食まれているペニスは胸部を擦り合わせる中で同時に扱かれ、二人の毛質の細いヘアーに擽られて、触り心地の良い腹に先端を撫でられている。
 そうするように言われたのはテレジアの指示であったが、二人は寧ろソレを刺激するよりは親友同士の情交に酔い痴れている。
 思っても口に出す事は絶対になかった相手の身体の自分から見て思う長所を羨ましがりながら、自分の身体を褒められて気分が昂る。言われてもいないのに何時の間にかキスをしてしまっていて、見慣れた顔が夫々の性格の為に他人よりも範囲の広いパーソナルスペースを踏み越えて近付き、全く新鮮に思えている。
 夫々の色の瞳は記憶よりも澄んでいる。夫々の肌は記憶よりも滑らかで肌理細かい。
 新たな印象の土台には確りと面影が残っている為に(こんなにこいつは綺麗だったのか)と云う風に。
 じっとりと汗が滲んでいる所為か、初めて握り合った所為か、絡んでくる指と吸い付いてくる掌は艶かしい程で手触りが良い。ずっと触っていたい、撫でられたいとさえ思った。
 口中に広がる唾液の味は漂ってくる相手の香りよりも甘い。
 そして何時の間にかに少年の顔の上でテレジアが腰を回していた。少年は嬌声を漏らしながら自分からも鼻梁を擦り付け、舌を割れ目の中に潜り込ませて膣肉を舐め回す。
「ンっ……やっぱり、ぼうやはクンニが上手いわね。おまん○に顔を突っ込むのが好きなの? それともスミちゃんの趣味?」
 少しだけとはいえ技術を仕込んだ事は彼女自身であるが隠すようにテレジアはそう言って、自分から性感を得ようとする動きから少年から与えられる方へとシフトしながら背後のスミカを見遣ったが、スティレットに夢中で聞いてはいなかったようだ。やれやれと言いたげに肩を竦めて眼下の顔に視線を戻す。
「ふふ、可愛い顔に自分の臭いを沁み込ませるのは本当に愉しいわ。だからもっと、もっと感じさせて……ああんっ!」
 少年は言われた通りに愛液を奥から引き摺り出すように、そして秘所を形成する局部を口腔に含めるように強く啜った。途端に頭の上にあっても苦にならない程の軽い身体が瑞々しさを示すかのように汗を振り撒きながら跳ねた。
 また其の傍らでは、
「ウィンちゃんは此処も綺麗なんですね」
「あ、貴女だって……可愛らしい」
 エイとウィンが横になって頭を相手の脚の方、相手の頭が脚の方にと云う風に相手お互いの秘所を覗き合っている格好になっている。
 エイの眼の間にはウィンの陽光で輝く草原のように滑らかな黄金色の陰毛を被った割れ目が、
 ウィンの眼の前には元々体毛の少ない体質の為か、恥毛が生え揃っていないような少女のままだと思えるエイの膨らみがある。
 エイは有り余る好奇心のままに、ウィンはおずおずと怯えているが興味はあるように、口を開いて秘肉を覗かせているラビアに手を伸ばす。自慰の時に絡み付いて来る己のものとは異なる手触りの愛液が、くちゅと淫らな音が目の前で立ち、可憐な声の、よく貫る声の小さな嬌声が視線に曝されているに性域に吹きかけられる。
 入り口を捲ると芳醇な芳香が鼻腔を擽り、その向こうにはひくひくと蠢いている蜜に濡れた秘肉が姿を現して、また同時に己のも暴かれている。其の上では――平均の大きさなど二人は知らないが――エイには少し大きいのかなと、ウィンからすればやや小さいと感じたクリトリスが存在を主張している。
 劣情の吐息を吹き掛けながらエイを其処を指でつんつんとつつき、ウィンは指でそっと摘んであちこちから眺めてから二人は「ひゃんっ」「きゃっ」っと声を上げた。殆ど同時に陰唇から淫核までを舐め上げたのだ。
 自分も備えている場所だとはいえ、舌先に今までは知る由も無かった牝の味が広がる――でも自分の味はまた違うのだろうと二人は思った。
 気付いたら割れ目を開いている指をも潜り抜けて舌が蜜壷の中に侵入していて(されていて)、更に強く酸味の強い味が、塩気を多量に含んだ味が口腔に広がり、舌先に唇の裏や頬の内側のような滑らかな舌触りが感じられて、粘音と喘ぎが耳朶を擽る。
「はぁっ! イ、ク……っ! イクっ! ――あンっ! スミカ、やめっ! もう私イったからぁっ! 押し付けるなぁ、ンっ!」
「わ、悪い、でもすぐイクからぁ……私もイクっ、イクっ……!」
 女体に身体を擦り付けて接吻をするのに夢中になっていたスミカとスティレットであるが、其れと同時に相手に触れていない下腹部を肉棒に擦り付けていたのもあって早々に絶頂を迎えると、
「ふぅぅ……ンンンっ!」
 テレジアの股座の下で少年がくぐもった声を上げてスミカとスティレットの狭間に熱水をぶち撒けた。ぴったりと挟まれて支えられていた為に真っ直ぐに上へと放たれて、二人のなだらかな線に臍の窪みのある腹部、其の上の双丘の麓までもを白く穢した。
 そして射精の電流の衝撃で仰け反った拍子に彼の整った鼻梁がテレジアの割れ目をなぞり、陰核を跳ね飛ばした。
「ふぁぁんっ! あっ、出る! 飲んで! 私の飲んで!」
 がっちりと純白の髪に覆われた頭を掴んだテレジアが殊更に陰口を口許に押し付け、噴出す愛液を少年の口に、口の中だけに注ぎ込む。
 絶頂の余韻に震える四人の身体が立てる、ぶるぶるっ、と云う痙攣に少年が女の射精を嚥下する喉音が続く中で、
「はぅぅぅ……っ!」
「うぅンンンーーっ!」
 口吻に挟まれた陰核を吸引されるエイがウィンの内部に根元まで挿し込んだ舌で奥の天井を力強く抉りながら突起を吸引し、膣壁の奥深くまで侵入してきた舌に腹の裏を抉られるウィンがエイの肉芽を窄めた口許で啜り上げて、割れ目から自分の股間に埋められている相手の顔に濁りのある熱い性潮を噴き掛けた――。

「な、何だか恥ずかしいです。それにあそこに……ひゃぁっ!」
「そう? 私はエイちゃんの顔をこんなに近くで見れて嬉しいわ」
「はーっ、はぁぁ……っ」
 テレジアが誘うように仰向けになった上にエイが覆い被さっている。そしてテレジアから見て正常位で、エイから見て後背位の体勢で少年が二人の股座の狭間に肉棒を挿し入れて、二本の割れ目の溝をゆっくりと往き来させている。
「エイちゃん、好きなようにしてご覧。勿論、ぼうやもね」
「は、はい。あ、ンっ……テレジアさんのと私のが、当たってぇ……あぁっ、おち○ち○、おっきい……」
「んっ、エイちゃんのって、乳首もおっぱいもツンって尖ってて可愛い。ほら、自分からもぼうやのに擦り付けて」
「はいぃ……あぅっ! あっ、熱い……」
「はンっ! いい、わっ、ちん○の感じが強くなってる……」
 エイが自分の先端の突起を強調するように乳房を掴んで、テレジアの胸から突き出ているものと触れさせて、ぴん、ぴんと弾く。強くも一瞬の電流に喉元を晒すとテレジアに其処を舌でなぞられた。そして言われた通りに下腹部を擦るモノに自ら腰を押し付ける。
 エイが体重を乗せる分、テレジアの秘所への接触も強くなる。
 それは同時に肉茎への圧迫も強まる事になり、落ち着かなさそうに、目の前に具えられた桃肉や、広げられた内腿に手を突いて身体を支えながらも、撫で回している少年の端正な顔が性感に歪む。しかし、彼は眼だけは何とか瞑らないようにしていた。
 というのも、
「はぁっ、だめ……ああぅ! あンっ!」
 エイとテレジアの頭の上、少し遠くでスミカがウィンとスティレットに責められて身悶えている光景が広がっているからだ。乳頭や乳房の殆どは濃紫と真鍮に隠されていて、時折、どちらかがスミカの口許を隠し、また頬を隠している。
 広げられた股の中心を、筋が這った内腿の下を細い指が其の辺りをそろそろと這い回り、精液でしな垂れた陰毛を掻き分ける。濡れた二人の指の内、片方が女芽を押し潰し、陰唇を潜る――そして時に同時に。
 少年がはっ、はっと犬のような呼吸をしながら腰を前後させて其の光景に見入っていると、テレジアが首を上に伸ばす。エイも頭を上げる。
「あら、すごいわね。あの二人」
「どうしたんでしょう、二人共」
「ウィンちゃんはアレだと思うのよ。女子校に通う女の子がかっこいい先輩に憧れちゃうみたいな。それがぶり返したのよ」
「あぁ――成る程、なんとなく分かります」
「でも其れだとあの子屈折してるわ~。普通憧れなんだから”されたい”と思う筈でしょ? 思い切り手篭めにしてるわよ、アレ」
「ウィンちゃんだからですかねぇ」
「それで納得出来ちゃうのも何だかねぇ。それとスティちゃんは……なんだろう、友達としてるっていう状況に燃えてるような感じかしら」
 エイとテレジアの冷静な分析とは対照的にウィンとスティレットは熱っぽい様子で尚もスミカを責め立てていて、戸惑いを含む喘ぎ声で鳴かせている。
「エイちゃんも興奮してるの?」
「えっ? そんな……」
「そうかしら、腰の動きが速くなってるけど? ――ぼうや、エイちゃんったら、あなたのちん○でオナニーしてるわよぉ」
「や、やめて下さい、そんな言い方っ! テレジアさんだって……か、感じてる癖にっ!」
「あんっ! そんな事するんだったら私もしちゃうわ……よっ! ついでにこっちも……ねっ、と」
「ふあぁうっ! だめっ、押し付けないで……! そこ、摘まんじゃ、ああんっ!」
 図星だったエイは圧し掛かっている立場と云う事もあって彼女にしては珍しく攻勢に出て腰にぐっと力を込めたが、即座にテレジアに同じ事をし返された上に左右の乳首をきゅっと摘まれてしまって、媚声を上げるに終わった。
 きゃっきゃっと黄色い声を上げて、はしゃいでいた二人であるが、当然その様な事をされて最も被害の度合が強いのは――特に害されている訳でも無くて寧ろ逆だが――少年であった。
 上下からペニスを滑った唇に圧迫されて、隙間からぶじゅと愛液が溢れる感触に甘い声を上げると、エイとテレジアは思い出したように自分等の腹の間を見た。
「ぼうやも気持ちよかったみたいね、我慢汁が溢れてる。私達のと混じっちゃって何が何だか分からなくなってるけど――あ、また出てきた。見られて興奮してるの?」
「あの、テレジアさん……我慢汁ってなんですか?」
「ん? カウパー腺液の事よ。アレ、鈴口――先端の所から出てきてるでしょ、透明のヤツ。興奮すると、特に射精する前に出てくるから、そう呼ばれてるの。精子が受精しやすいようにアソコの中を洗うのが目的。まぁ、そんなのはどうでもいいから肝心なのはアレにも精子が入ってるから、中出ししなくても妊娠するから注意ってのと――ほら、こんなに伸びるって事を覚えておけばいいわ。お口でしてる時に溢れたのを舌とか指で触って伸ばすのを見せると男は悦ぶから」
「わぁ、何か水飴みたいです」
「舐めてみる? はい」
「ン……ウィンちゃんの、というより私達のとあまり変わらないですね。しょっぱくて、ちょっと苦いです」
「嫌な味?」
「いいえ、そんな事はなくて……何だか興奮します」
「良く分かるわ。私も好きよ、コレ。それに女の子のも、精液の味も、ね」
 自分ので、しかも見えない所でこの二人は一体何の話をしているのかと少年は思ったがテレジアに鈴口をちょんと指で触られた時とエイが自分の腺液を口にした感想を述べた時は身震いした。
 更に亀頭の表面を滑った感触のある指の腹が這い回った。まだ腺液で遊んでいて、伸ばして広げているようだ。一本だけだったのが「エイちゃんもやってご覧」とテレジアが言うや撫でてくる柔らかい感触が二つになり、くるくると円を描いている。
 このままだと果ててしまいそうなので抽迭をしていたのも止めて尚も少年は性器を玩ばれている性感に顔を顰めて身悶えしているとテレジアが頭を傾けつつ、エイの空色の髪を掻き分けながら顔を出して言った。
「出ちゃいそう?」
「は、はい……っ」
 少年が声を震わせて答えた。右手がエイの桃肉を、左手がテレジアの太腿をぎゅっと握りながら。
 するとテレジアは頭髪を押さえていた手をエイの頬に添えながら、小さい声でそっと彼女の耳元に何事かを囁いた。だがエイは直ぐに「そんなの……」と嫌々とかぶりを振ったが、「いいからやってご覧なさいな。練習だと思って」とテレジアに言い包められて、仕方なくと云う風に頷いた。
 少年が其れを見た直後、
「――う、あぁっ!」
 途端にテレジアとエイが身体を速く前後させ始めた。股間で挟んでいるモノを扱くように。
「ホント、ぼうやの感じてる時の顔も声も可愛いわ。あ、イキそうになったらちゃんと言うのよ」
 そう言われて少年は辛抱出来なさそうに腰を遣い始める。
 ぱっくりと拓かれた陰唇の裏側に撫でられ、淫核が幹を削られる感触に二人も嬌声を上げる。
 しかし果ててしまいそうだから止めていた訳だから限界は元より近く、また身体を擦り付けながら喘ぐエイとテレジアの鳴き声に鼓膜を擽られ、しかもペニスを刺激する動きも互い互いに上下する風に摩擦が強い為に、
「イキそう、です……! イっちゃう……!」
 音を上げるのは早かった。
 するとテレジアが「ほら、エイちゃん」と何かを促すように声を掛けて、エイが首をゆっくりと後ろに出来るだけ回して少年の方を見る――口端に髪の毛を貼り付けた彼女はウィンよりも年上の筈なのだが同年代のようにも見える普段よりも幾分か大人びていて、また妖艶さを醸し出していた。
 そして矢張りゆっくりと口を開いた。白い頬を真っ赤に染めながら。
「……イっても、いいですよ。いっぱい……精液、出して」
 性とは遠いような印象すらある彼女の淫らな言い回しに――勿論、言わせたのはテレジアであるが――少年は手の痕が残る程彼女の尻を、テレジアの内腿を握り締めて、力一杯腰を、そして男根を二人の間を滑らせて突き出すと、
「あぁぁぁっ!」
 本当に其の言葉を引き金にしたように、射精した。
 脈動の度に二人の尻を叩くように下半身を叩き付け、白濁を噴出させる。
 其の瞬間に身体の間を覗き込んでいた二人の白い乳房や桃色の濁った白に塗り潰され、更に顔にまで汚された。しかし二人共、精液が鼻先や頬にこびり付けられ目蓋の上を覆られても眼を瞑るぐらいで、顔を背ける事無く脈動を最後まで見守っていた。
 そしてエイはテレジアに言われた訳でもなく自ずから、怯えているかのように余韻に震えているペニスにそっと手を伸ばして、なだめるように撫でた。淫液の混合物で掌を濡らしながら愛おしそうに――。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
 汚された身体を清めるように――主に顔や胸回りを――エイとテレジアの二人が相手のそこかしこに唇を寄せ合っている所に彼女等の愛液と射精で汚れた肉棒を少年が突き出すと彼女等はそれも洗ってくれている。あくまで洗うだけの柔い口淫に少年が絶頂の余韻もあって喘いでいる。また彼の股座に顔を埋めている二人の小柄な身体の向こう側で、何時からかウィンとスティレットに胸部だけではなく身体のあちこちを口や舌で責められてしまって果てたスミカが其の息遣いに同期するように身体を震わせながら全身で呼吸している。
 とはいえ荒く呼吸しているのは少年とスミカだけでなく、全員であるが。
 するとつい先程までスミカの股間に顔を寄せていたスティレットが口端に濁った愛液の糸を垂らしながら口を開いた。
「ちょっと、いいか? 簡単な質問なんだが――」
 またあられもなく両腕を太腿に挟みながら――彼女の名誉の為に言っておくが自慰を行なっている自分を態々其の場の全員の視線を集めて見させている訳でもないし、そもそも行為そのものをしていない――全員に、特にテレジアに向かって問うた
「――これは”どこ”までするんだ?」
 沈黙の中には常に潜んでいるが、其の問いを境に場の緊張感は殊更に強くなった。というのもぼかしていたが彼女の言わんとしている事は全員に伝わったからだ。ごくり、と生唾を呑み込む音と共に。
 ずれた眼鏡を直すテレジアがグラスから鋭い反射、フレームから鈍い反射、そしてまるでもう一つグラスがあるように小さな光を輝かせながら言った。
「じゃあ、そろそろ”する”?」
 すると全員に待ち望んでいた物がやって来たような気配が流れた。
 しかし、言い出した本人は途端に苦笑いを浮かべて、
「でもね、ここまでやったといて悪いなと思って言い出せなかったんだけど――」
「なんだ」
「私、今――ゴムの手持ちが二つしかないの。つまり先着で二人しか出来ないって事なのよね、アハハハ……」
 誤魔化すように愛想笑いをするテレジアがつんつんと人差し指同士を突き合わせながら言う。
 余りに性に関して淫蕩な彼女であるが――彼女や、また夫の中にはそれなりのルールもあるらしいとはいえ――避妊具が無ければ挿入は禁忌としているのだろう。またそれも一つの彼女なりの掟みたいな物でもあるのだろう。納得するようなものと共に、”以前の経験”からか、何とも言えない空気が流れていると、
「テレジア。一応、私は避妊薬を持っているが」
 スミカが上気してほんのり紅く染まっている顔を少年の頭に凭れ掛けさせながらそう申告した。
「え」
「手持ちの分だと……」
 性感の疲労でよろよろと四つん這いになりながら身の回りの物が置いてある所に言ってバッグの中身を漁って、
「あ、丁度五回分――この場合だと五人分になるのか? まあ、取り合えず一人一錠ずつある」
 其れを聞いてウィン、スティレット、エイが喜ぶような気配を漂わせていた実際に行動に移す事は無かった。この際、羞恥はどうよりも流石に恋人であるスミカを前にして少年と行なえると云うのを露骨に喜ぶのはどうかと思ったのだろう。代わりに質問した。
「ところで、どうして持っているんだ」
「えっ? いや、一応用心の為だ、さっきだって此の馬鹿は考え無しに中に……」
「それって、私達が見付けちゃった時の前にもしてたって事……」
 またも微妙な空気が漂う中で少年だけは気付いていた。
 テレジアが嬉しいような、困ったような、そんな矛盾する感情を抱えている表情を浮かべていたのを。
 しかし、まるで夢の儚さを思わせる風に一瞬で其れを何処かに吹き消すと普段の人を食ったような態度を取り戻して、
「じゃあ、勇気を振り絞ったスティちゃんが一番にしましょうか。もう我慢できないんでしょ?」
 と、苦笑を浮かべながら言った。
 スティレットは反論しようにも図星だったらしく、こくりと殊勝な様子で頷いたのだった。
 そして次に少年を見ると、当惑を見られた事に気付いていたのか、それとも頑張ってねと言いたかったのか、彼に何か含みのある笑みを向けたのだった。
 
 テレジア曰く、
 ――この場は女の方が多いから女が上だからね。
 と云う事らしい。
 して其れがこの宴に何の関わりがあるかと言えば、
「い、いいか、いくぞ……?」
「は、はい……どうぞ」
 またも寝そべられた少年の下腹部の、そして勃起の上に荒い息遣いを上げながらスティレットが跨ろうとしている事に到達する。如何いう事かと云うと彼女が仰向けになろうとしたらテレジアが「自分が上になる体位――騎乗位って言うんだけど――した事ある?」と聞かれて、スティレットが戸惑いがちに首を縦に振ると件の事を言って、この形になったのである。
「はぁっ、はぁっ、はあっ!」
 流石に経験がある為か――と言ってもそこまで多い訳ではないが――スティレットは犬のように喘ぎながら、眼下に聳えるペニスに向かって、すんなりと狙いを定める。陰唇が亀頭を包んで、ちゅく、と粘音を立てると「あンっ!」とスティレットが甲高い嬌声を上げた。
 そうして期待に膝を震わせながら、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「きてる、はいってきてる……っ」
 充血した亀頭が充血したラビアの中の内側に入る――狭い肉洞を押し開きながら雁首の傘が中でぱっと広がる――陰茎がずぶずぶと奥へ奥へと誘ってくる蜜肉の中に沈んで行き―― 
「はぁぁ……っ」
「うっ、くぅっ」
 先端が最奥の壁をコツンと小突いて、スティレットは隙間無く聖域を侵された、侵した実感にスティレットは法悦の溜息を漏らし、少年は嬌声交じりの息を吐く――しかし野太い肉釘は釘頭まで少しを残して針が僅かに露出していて、身体を落ち着けようとスティレットが膝を突こうとした瞬間、
「……ぁうぅぅぅぅっ?!」
 子宮口に亀頭がぐっと減り込み、雁首が膣内の局所を抉った事で電流が脳髄へと迸り、物理的に一直線に貫かれたように背筋がぴんと張り詰めた。濃紫の長髪が飛び散る汗と共に舞って、きらきらと輝く。
 膣肉が痙攣しながら蠕動を激しくし押し拓いて来た者を更に導こうとする。
 軽く絶頂を迎えたらしいスティレットは虚を捉えている眼で天井を仰ぎながら仰け反ったままの格好で少しの間全身を震わせていた。
「ふぅぁ……はぁ、はっ」
 羨望の眼差しを一身に受けながら余韻に浸っていた彼女であったが、軽くであった為か、意識の浮遊時間は短く直ぐに身体を前へと戻して少年の腹に手を突くと、夢現の気分なのか、蕩け切った表情で酒に酔ったような声で呟いた。
「はぁ……すごい、やっぱり大きい……」
 肉棒のサイズに慄くように目を瞑って、ぶるぶると身体を震わせていたスティレットであったが、何か視線に気付いて周りを見ると誰かが言った――いや、恐らく四人程が。
「えっ」
「……え?」
 其れに遅れてスティレットが似た声を上げる。
 先のは驚きに対してで、彼女のは疑問のだったが。
「スティレットさん。”やっぱり”って、どういう事ですか? やっぱりって……」
 瞬間、場の異様な雰囲気に気付いたのだろう、エイだけではなく、ウィン、テレジアが少年の身体を挟んで視線を合わせる。跨っているスティレットは周囲を見渡す。跨られている少年は左右を見渡す。
 そして言い出そうかどうか悩んでいる空気の中でテレジアが切り出した。
「もしかして……皆、ぼうやと……ヤってるの?」
 途端に主張の声が上がったが、混ざり過ぎて殆ど雑音だったので分ける。とはいえ各々相手に言いたい事は伝わっていただろうが。
「私とテレジアさんだけじゃないんですか?! 
「私とテレジアだけじゃ……?!」 
「私とテレジアっ……?!」
 エイ、スティレット、ウィンがそう同時に叫んだ中に、二つが紛れていた。
「えっ、スティレットさん?!」
「ああ、そういえばそうだったか。はぁ……なんだと? それって――」
 女性の中にあってもペニスが萎えてしまいそうな緊張感が一瞬で漂った中で――例えるなら不倫相手同士が顔を合わせたような。とはいえ少年はスミカ以外と正式な付き合いがある訳ではないが――口火を切ったのは、また、的確でもあったのは、 
矢張りテレジアだった。
「つまり私達全員、もとから穴兄弟ならぬ……棒姉妹ってワケ?」
「うそ……」
「なんだって……」
「うそだろう……」
 勿論、スミカ以外はそんな事とは知る由も無かった――幾ら同僚とは云え、所属以外にもまさか一人の少年の下半身で自分等が繋がっていようとは。
 全員が全員、シンパシーを感じているような、それでいつつも蔑むような視線を互い互いに送っていると、
「ひゃンっ!」
 急にスティレットが嬌声を上げたので一同の眼が向けられると、小振りだが形の良い彼女の乳房に少年が手を伸ばして揉みしだいていた。
「あ、この感じ――スティレットさんが言っているのって、もしかして僕が風邪を引いてた時ですか?」
「あ、ああ。そう……やっ、ぁンっ、君が寝惚けていたのか、熱の所為か分からな、はぅっ、私とスミカを間違えて、あっ、そこっ、摘んっ……だめぇ……」
 そうだったのかと言いたげに冷静に頷く少年の腰の上で、説明するスティレットが善がる様を見せている。
 すると緊張感溢れる空気の中で行為に耽るのには気が引けていたのか、乳頭を玩ばれて捩るだけの彼女であったが、
「もっ、我慢出来なっ……はぁんっ! あぁっ、いいっ! おっ、きい……大きいっ!」
 心底辛抱し切れないと云う風に叫ぶと、身体を上下させ始めた。
 みっちり埋まっていただけに膣肉と肉棒の摩擦は強く、前よりも更に太くなった胴回りに、更に広がった雁首が開拓するかの如く抉ってくる。きゅっと締まった尻肉が少年の股間を叩く度、腺液を溢れさせている泉が奥底を小突く。
 形振り構わず、視線を気にせず快感を求め出したスティレットに――其の割には腕の落ち着き場所が定まっていないように肘を曲げた両腕を身体の傍で固めて、手を上に向けている仕草が少年には可愛らしいと映っている――驚愕の事実の動揺をあっさりと風と流したテレジアが重なる牡と牝ににじり寄る。
「――まっ、些細な事よね。私としては笑い話で済むし……よっ、と」
「あ、やあっ! そこ、そこはぁっ!」
 揺れる女体の後ろに回り込んで最初は乳房を弄ろうとしたようだが既に少年の手が占拠していたので腰に手を回してクリトリスを摘み上げて捏ね繰り回すと、スティレットが切なげでありながらも嬉しげに声を上げる。
「ねぇねぇスミちゃん。ぼうやとしちゃった順番ってどうなってるの?」
「えっと――スティレット、お前、エイ、ウィンの順番だったかな。確か」
「ふぅん、そうなるとスミちゃんが長女だとして、スティちゃんが次女、私が三女、エイちゃんが四女、ウィンちゃんが五女って事になるのね。ふーん……ね、エイちゃん。繋がってる所をナメナメしてあげて」
「わ、私がですかっ?!」
「妹は反抗しなーい。姉命令よぉ」
「うぅ、分かりましたぁ……」
 確かに俗っぽく表現すれば姉妹と云う事になるとはいえ実際に本当に姉妹でも無いし、仮に実の姉妹だとしても従う必要は皆無なのであるが、何故かエイは逆らわずに言われた通り、少年と次女――ではなくスティレットの結合部に顔を寄せて、ぺろりと舌で舐め上げた。
 今までの彼女だったなら一度で終わらして三女に叱れるところだっただろうが、何度も何度も、次第に熱心な様子へと変わりながら続けていく。
「はぅっ! はっ、はあっ!」
「うあっ、あうっ!」
 攪拌の所為か、質の問題なのか、既に白く濁った液に包まれて出入りを繰り返しているペニスと、口一杯に広がったラビアに舌がなぞり上げられていく。
 牡と牝のが凝縮されつつ入り混じった芳香にエイが溺れていく。
 手の下の彼女の様子を満足げに眺めていたテレジアは次にスミカとウィンに声を掛ける。
「じゃあ、お姉ちゃんとウィンちゃんはぼうやの乳首を摘んであげたり、おっぱい吸わせてあげて」
「この阿呆。お前の方が歳は上だ。お姉ちゃんなどと言うな、腹立たしい――全く、こいつに言われるなら兎も角」
「……もしかして言われた、いや。言わせた事があるのか?」
「黙ってろ、ウィンディー――って、こらっ、乳首を当てるなぁ! はンっ!」
「ぬ、濡れ衣だっ、そっちがやったんだろう! ひゃうっ!」
 スミかが愚痴りながら肉棒を蜜肉で扱かれている上に舌で撫でられている性感に、蕩けた表情の、うっとりと眼を閉じて半開きにしている少年の口に乳頭を差し入れようとしたら、同時にウィンも自分のを差し出して来て、少年の唇に触れる前に二人のがぶつかり合う。
 そのまま口喧嘩になりそうだったが、目蓋に影が掛けられた少年が眼を開いて眼の前で吊り下げられている、よく熟れた双実のサクランボに喰らい付いた。
 吸引される口吻の中で伸ばされる舌が嬲ってきて、乳頭同士が擦れ合い、話はそのままお流れになったのだった。
「君も、動いてくれ……あぁっ! いい、いいのっ、そこ、いいっ! いいところに当たってるぅっ!」
「ふう、ぅンっ!」
 其れまで少年は成すがままに跨られていただけであったが、スティレットの嘆願に応え、腰を動かし自らも抽迭を行なう。補助の所為もあるだろうが途端に膣口の、そして膣肉全体の締め付けが良くなる。反射的に握力が強まり、掌を小突く尖りの感触も強くなる。また其れを感じていると摘まれている自身の物からの小波が神経を撫でる。
 口の中にある乳首を吸引する事で喘ぎを噛み殺しながら、亀頭の先でぷにぷにとした子宮口の感触を堪能していると、
「あっ……もう、もうっ、もう……来る……くるっ、くるのっ! すごいの、くるぅっ!」
 スティレットが襲い来る性感から逃れるように、且つ攫われたいように、弱々しくかぶりを振り、身を捩る。
 潤んだ黄金色の縁から一滴涙が溢れ、濃紫が優雅に舞う。伸ばされている指の隙間からは桃色の突起が覘ける。
 上下していた腰が膣壁の膨らみに重点的に中てるような前後の動きへと変わっていき精子を誘惑するうねりが勢いを増すと、少年も口に果実を含んだまま上体を持ち上げ、唸り声を上げながら、俄然抽迭を速める。
 そしてスミカとウィンの乳房の間にある少年の血の如く紅い瞳と、スティレットの黄金色の瞳が見詰め合った直後、
「はあああぁぁぁぁ……あっ……あぁンっ、ぁあっ……」
「ふぅぅうううーーっ!」
 先に達したスティレットの淫肉が少年の男根を締上げると、其れを引き金に精水が放たれた。
 白塊が膣壁を殴り付ける度に更なる射精を促すように愛おしく撫で、乞われた通りに更に注ぎ込み、また強請る。
 熱い塊が鋭敏を極める局所に流し込まれる性感にスティレットはぶるぶると戦慄き、ぶしゅっ、と噴いた潮の跳ね返りでテレジアの指とエイの顔を穢す。
 やがて、ぱっくりと膣口に暗闇を覗かせながら濁った愛液と薄い潮と濃厚な精液に彩られた長大なペニスが引き抜かれると――其の瞬間に天井を雁首で擦られてスティレットは余韻の中でまたも軽く果てた――穿たれた孔から性液が流れ出た――。

「あ、あれ……上手く、はぅっ、入らないよぉ……テレジアさん、その、支えて貰っていいですか……?」
「はいはい。これで平気?」
 スティレットに倣って少年の怒張の上に覆い被さったがいいが、騎乗位は初めての為か、エイは上手く導き挿れる事が出来ず、割れ目の上を亀頭が滑るだけであった。其れも其れで心地良かったのだが、流石にもどかしく、挙句には結合部を舐める準備をしているテレジアに頼んでペニスを確り固定して貰ってから――、
「はうぅぅ……」
 膣内に迎える事が出来た。
 サイズに怖れをなしたのか速度は緩慢であったが、其の分以前の遠慮無しに、そして躊躇無しに分け入れられた時と違って、肉襞一つ一つで少年の牡の形や大きさを堪能している。更にエイはぼんやりとだが彼のは自分と行なった際よりも大きくなっている気がしているので、また思えばこれまでもセックスの際に相手のモノを味わう事は無かったので尚更新鮮であった。
 そして更に、
「――ひぃああっ!」
「わ、悪い! 痛かったか? 慣れてなくてな」
「あの……すごい、よかった、です……あぅうっ」
「そ、そうか」
 背後に居るスミカが淫核を摘み、少年とエイの身体が垂直に交わる点に顔を埋めているウィンに痛々しい程に広がった陰唇を指で舌で擽られている。返事を受けたスミカと云えばエイに性感に惚けた顔を――丁度少年がテレジアと交わった日の深夜に見せたのに似た――向けられて胸が高鳴って、つくづく自分の性癖の範囲の広さのようなものに呆れていながらも、こりこりと突起を指の腹で転がすのを止められないでいる。
 スミカとテレジアに玩ばれつつも――順序は逆の方が状況的には正しいのかもしれない――肉棒を蜜壷で咥え込んでいるエイは、今の体位に慣れていない為にぎこちなさが窺える緩慢な動きで腰を前後にゆっくりと恐る恐ると云う風に遣っている。膣は伸縮するとはいえ彼女の体質の所為か、少年のモノが収まりきっておらず、根元が覗けているのもあるだろう。
 肉襞を傘で抉られる度に法悦の表情に瞬間の歪みが入るエイであるが、すっと眼を開いて少年を見た。物足りなさそうに――つまり物欲しそうに群青色の瞳が揺らぐ。
「はっ、ひゃぅっ……あ、あの……」
 頬を上気させた牝の顔になっているエイに少年は少し驚いていた。イメージなのか、エイは繋がっている最中にお強請りをしてくるタイプだとは思っていなかったので、また其れだけ求めているのかもしれないと多少誇大な解釈をして「は、はい」と緊張した声で返す。吃ったのは、ウィンとスティレットに乳輪の円をなぞられ、乳頭を弾かれたのもあるが。
 エイは気恥ずかしそうに眼を背ける。顔も隠したい衝動があるのか右手が頬辺りに当てられている。
「……つ」
「つ?」
「つ、突いて下さい。私のここ、思い切り、突いて……」
 言い切った瞬間、エイの頬が真っ赤になって、目蓋が皺が出来る程力強く閉じられた。口も真一文字、といった風である。
 余程恥ずかしかったのだろう、しかし其れでも性感を求めてはしたない嘆願をした彼女の事が少年はいじらしく思えた。股間の突起を触った直後に見せたスミカの表情も納得できると。
 嬲って欲しいと言われて興奮しない訳もなく、少年がごくりと生唾を飲み干してからエイの柔らかい脇腹を擦っていた手を固め、
「――きゃああうっ! ひぃあっ! はぅぅ……ンンはっ! すご……すごいっ、奥に! ごつごつってぇ……!」
 腰を言われた通りに思い切り突き上げる。
 エイの小柄な身体は容易く浮き上がり、ぽっこりと下腹が膨らみ、落下傘のように空色の髪がふわりと浮かんだ。
 無理に陰茎の全部を収めてから左右にペニスを振って、ゆっくり引き抜くと――また力強く突き上げた。そして殆どを挿し込んだまま、小刻みに抽迭をする。
 瞑られていた眼は陶酔の半眼で、口もだらしなく開きっぱなしになって、突き上げられる度に唾液が飛び出る。
 少女のようないじらしさを醸し出していた表情は途端に淫蕩な牝のものへと変わり、忍び寄った少年の手に尻肉を形が変わる程に揉まれ、スミカの指に淫核を刺激され、テレジアの舌に接合部を外れて太腿を舐められる度に膣口のように開かれた口から媚声を零す。
「気持ち……いいっ! おち○ち○、いいのっ! 感じるっ、かんじるよぉっ!」
 其の傍らで普段のあどけない彼女が何処かに消え去ってしまったようでウィンとスティレットは呆然としつつも、少年の胸に愛撫を加えている。スティレットは胸板に顔を寄せて汗の芳香を嗅ぎながら乳首を食み、ウィンは乱れるエイを横目で盗み見つつ、引き締まった胸板と腹筋を愛おしそうに撫でている。
 白い乳房と濃紫の頭髪を視界に収める少年は、スティレットの絡み付いて来るのとは違ってペニスを搾り取ろうと収縮を繰り返す肉壷の性感に抗っていると、
「あンっ、あンっ、はああンっ! 私ぃっ、イってもいい、ですか……?! だめぇ、イっちゃうぅ……」
 真っ直ぐと欲情の炎が燃え盛る眼を向けられ、少年は余りの素直さに竦んだように声が出せずに彼女の懇願に頷きで返す。
 空色の髪がたおやかに踊らせ、つんと尖った小さめの乳頭を据えた乳房が上下に激しく揺らす最中、首だけを僅かに後ろに向けてエイは言った。
「スミカさん、前みたいにっ、して下さいっ! イクっ、前に、お願いっ!」
 絶頂へ向かいつつある者が持つ一種の気魄に気圧されたスミカは望みを叶えてやりたいと思ったものの何の事か分からず困惑していると、エイが両腕を差し出して理解した。
 そして彼女の性癖を考慮した力を込めて空いている手で細い二本の手首を拘束して手綱のように引っ張ると、無理矢理仰け反らさられた格好になったエイは「これぇっ! これがいいのぉっ!」と殊更に甘い声で鳴きながら――、
「イっクぅぅぅンンっ……!」
「――うあああああっ!」
 子宮口を貫かせるかのように自ずから腰を落としてペニスを根元まで咥え込む。
 絶頂で小刻みに収縮を繰り返す膣壁に幾度も幾度も締上げられた侵入者は耐え切れなくなって大量に吐き出した。
 しかし火壷の責めは尚も続き、付き合わされる形で少年はエイの痙攣に身を同化させた。
 丁度接合部に鼻先をつけていたテレジアの眼鏡が愛液の飛沫に曝される中、華奢な身体が縛り上げたスミカに凭れ掛り、エイは潤んだ瞳で彼女に甘酸っぱくて熱い吐息を吹き掛ける。
 スミカはキスをしたい衝動を堪えるのにいたく苦労した。
「はああ……ン」
 次に男根に跨る順番はウィンであったが、少年は驚いて硬直した。
 というのもウィンは此の中でもスミカと並んで身長が高い為か、一物を根元まで確り胎内に埋める事は出来たのだが――とはいえ膣の長さや筋肉の伸縮具合と、身長の高低に因果関係があるかはどうかは知らない――腰を落ち着けた途端に身体を崩して彼に圧し掛かってきたのだ。
 更に一番の問題は両腕を背中に回して縋り付いて来ているのだ――此の状況で最早それに何の意味があるかは甚だ疑問だが――恋人であるスミカの前で恋人のような振る舞いをしていると云う事になる。
 こうなると背後から彼女の局部や、少年の胸、そして二人の結合部を弄る事が難しい。何せ手を入れる隙間も無さそうな、それほどまでにウィンは確りと抱き付いてしまっているのだ。
 同僚や嘗ての師匠が普段のクールな彼女が男に抱かれている時はこうなのかと驚く一方で、耳元を熱く、甘やかな音色に擽られている少年も(あの時もこんな感じだったけ)と回想している。
 あの時の仕草は無理にシャワーの中で肉欲に溺れようとしたのではなく、彼女にとって至って自然なものだったのかと。
 抱き着いたままのウィンに如何する事も出来ず――同じように背中に腕を回そうかと思ったがスミカの前で其れは気が引けた――結局身を委ねている。
「ふぅっ、ふあっ……はぁンっ」
 漸くウィンが自ずから腰を上下させ始めた。
 また其れだけではなく、少年の頬に舌を這わせ、鳥が嘴で啄ばむような短いキスの雨を落としている。
 其れを見ているテレジアは苦笑していて、エイは顔の方の接合部を覗き込んでいて、スティレットは全く別の方を見ているが――ウィンの紅潮した顔とブロンドに視界が埋められている少年には見る事が出来ない。
 熱烈な交わりをしてくるウィンに驚きの表情を向けつつも膣口で陰茎を締上げられて少年が性感に顔を歪ませていると、
「きゃああっ?! な、なにっ?! ああぅっ!」
 急に眼の前で叫び声を上げたので矢張り少年は驚いた。眠りに就くように陶酔に意識を浸す直前であったから尚更だ、其の拍子に身体が飛び上がってしまって、ウィンを突き上げる格好になった。何かに驚きつつも彼女は反応していて、それから異変の原因を探るべく背後を見た。
「ス、スミカっ? な、なにを! そ、そこは……あっ、いやぁ!」
 声を張り上げるウィンに対して――何かをされているのか、嬌声も混じるが――少年は矢張り豊かな金髪の長髪に其方を隠されてしまっていて見る事は叶わない。
 すると聞き慣れた声がした。主にベッドの上でもって聞き慣れた声が。
「何をって? 今まで通りに皆で愉しもうとしているんだ。お前は一人だけで愉しもうとしているようだがな」
「や、やだあっ! そんなとこ、触るな……あぁンっ!」
「ほう? いい声を出すじゃないか、ウィンディー。ほらお前らも見てみろ、可愛いぞ」
 何となく少年はウィンがどんな目に合っているのか理解出来た。恐らくスミカはウィンの所作に憤りを感じて――矢張り性格的にも何処か似た所のある上に(事実ウィンの甘える仕草はスミカにそっくりである)、弟子というのが苛立ちを増させるのだろう――彼女の恥部、これまでも嬲られてきたし、今も男のモノを挿れられている場所ではなく、もっと恥ずかしい場所を責められているのだろう。おまけに他の三人も呼んでいる。
 そして勿論、こういう状況になると現時点でスミカにとっての助け舟と、ウィンにとっての疫病神が加わる。場が場なだけに増援も多い。
「あらホント。ウィンちゃんのお尻、つるんとしてて綺麗ねぇ――穴の方も」
「へえ、ここはこんなに動くものなのだな」
「ひくひくってしてますね」
「見るなぁ! 貴様等、見るなっ!」
 うら若き乙女が――客観的に言っても乙女と云う程の歳でもなければ主観的にも自認している訳ではないが――排泄の器官を何人の眼に曝されているのだから羞恥の度合は計り知れないだろう。
 少年を抱き締めていた腕を尻の方へ振るが、届く訳も無く徒労に、無駄な抵抗に終わる。
 ウィンの眼にじわりと涙が浮かぶのを見ていた――そして疫病神の伏兵は正に彼女の眼前に居た――少年は其れまで身を委ねていたのだが掌を返すように、
「はああうっ! やめっ、今はだ……めえぇっ!」
 逃げれないように腕で肉付きの良い肢体をがんじがらめに縛り上げて身体を浮かした。
 四人が見ている前で奔って行く肉棒によってウィンの秘唇が捲れ上がり、菊門が戦慄く。そしてウィン自身が羞恥と――出所の知れない快感に慄く。
「うっ、くぅ、貴様ぁ……きゃンっ?! なんで、大きくぅ……ああンっ!」
 若葉色の瞳で少年を睨み付けるウィンであったが、涙を眼孔一杯に湛えた其の様子に脅しの効果は一切無く、寧ろ彼に劣情を醸させるだけであった。劣情は容易く彼女が咥え込んでしまっているモノと――自ら己が胎内に納めたモノ――同化して四人に視られている場所を更に広げる。と、同時に性感は身体の反応と簡単に混合し、膣口の狭まりを菊門の戦慄きを強くする。
「やめて、やめてぇ……っ、見られてる、見られてるからぁ……!」
 其の嘆願を聞いて少年の思った事は、其の泣き声がどれだけ魅力的か理解していないんだろうな、と云う事だった。繋がっている女がより一層魅力的に映る。とすれば男がする事は一つだけしかないと云う事も。
「はぅぅっ! はぁっ、だめっ! だめって、言ってるのにっ……やぁっ、そこ触るなぁ!」
 少年が紅く染まる耳朶にそっと尋ねる――何でだめなのかと。
「……き、きそう」
 何が、と尋ねる必要は無かった。向こうが勝手に答えてくれたからである。
「見られながら、見られながらぁ……ダメなところ、触られてぇ……イってぇ、しまいそうなんだ……」
「だったら、とっととイけ、ウィンディー。それとももっと奥まで指を突っ込んでやろうか。うん、そうしてやろう。物欲しそうにしているし――なっ!」
 少年が分泌液の量が多くなった秘所の中に膨れ上がった肉棒を突き立てるのとスミカが何れかの指を菊門を貫通して直腸内へと到達させたのは同じだったらしい。またウィンが無意識に腰を上下させていたのも同じだった。
 其の瞬間にウィンの身体は彼の腕の中でぶるぶると震えると――
「いやぁぁぁぁ……っ! ……あぁっ、ああぅっ……」
「ふぅぅー……っ」
 背徳的な性感を抱いた絶頂は内部は撫で回すように、入り口は締上げるような収縮によってペニスを責め立てて射精を大いに促した。
 白濁を注ぎ込む脈動が肉壁を通ってスミカの指に伝播し、それがまたウィンに己の穢れた場所に立ち入られた事を殊更に強く実感せしめる。そして突き刺すような八本もの視線に秘所をざくざくと刃物のように突かれている感覚に、また膣口がきゅうっと窄まる。
 殆ど同じ場所で少年の余韻の喘ぎと嬌声交じりの泣き声が入り混じる。
 五人がウィンを宥めすかすのには多少時間が要した所である。
 
「こうするのも久しぶりね、ぼうや。私のおまん○の感じ覚えてる?」
「え? ええ、多分」
「私はもう分からないわね。あなたのすごく大きくなっちゃったし。胸は揉まれると大きくなるなんて話はあるけど突っ込むとコレが大きくなるなんて話は聞かないわね。女を知って男性ホルモンでも滅茶苦茶に放出されたのかしら? と、すればぼうやのはより多くの女を孕ませようとしているという事になるわね。流石尻尾が生えてるだけあって適応が早いわ――あ、やな想像しちゃった。何時かカラード中の女の子の殆どが尻尾を生やした子供を連れてるの……あながち在り得るのが怖ろしいわ」
 泣き癖でも付いてしまったのか、涙をぽろぽろと零していたウィンを泣き止ませた後、飛び掛るようにテレジアが少年の身体の上に圧し掛かってきた。
 此れがスミカやウィンならば多少の衝撃があった所だったろうが、少年よりも小柄なテレジアはまるで羽毛のようだった。そして彼に尋ねながらラビアを陰茎に擦り付けて触感の具合を、また時折身体の隙間に顔を覗かせて眼でも確かめながら学術的の話及び怖ろしい未来の話をしている。
「ねぇえ、もしかして今までヤった時は中出しばかりだったの?」
「……あの……はい」
「ふうん、やっぱりスミちゃんだけじゃなくてあの子達も孕ませたかったんだ?」
「えっ?! そんなつもりじゃ……!」
「冗談よ。真面目に受け取ちゃってぇ、かーわいいんだから」
 くすくすと滑稽そうに笑いながらテレジアが少年に口付けを落とす。彼はと云うと言われた事に関しても、今された事にしてもスミカの反応が恐ろしかった。
「で、本題なんだけど。あの子達とした時はどっちが主導だったの?」
「えっ……と、それは……」
「はいはい、ぼうやの方だったの。スミちゃんっていうイイ女がいるのに罪な子ね~。しかもこの若さでなんて、ねぇ。将来が楽しみなんだか、逆に怖ろしいんだか――ま、それはいいとして」
 呆れられるように言われて少年は苦笑の一つでも零そうかと思ったが、矢張りスミカの反応が怖いので、頬を引き攣らせただけに終わった。すると溜息を交えて語り終えたテレジアは彼に跨っていたのだが、ぴょんと其の上から脚の方へと戻っていって、くるりと振り返った。尚、全ての動作は四つん這いであったために今のテレジアの格好は――
「ねえ、私の事も……めちゃくちゃに犯しまくって……?」
 照明に反射して輝く愛液で濡れそぼった秘所を見せ付けている事になる。
 またそれだけに留まらずテレジアは自分の小さな臀部に手を遣って肉を左右に広げた。桃肉につられて秘唇も開かれ、一人だけ絶頂を殆ど迎えていない欲望で満たされて、ひくひくと蠢く秘肉が露になっている。
 しかも其れまでの強気な態度が嘘のように、媚び諂う淫靡な表情へと変わってもいる。
 其の変化に少年は堪らず立ち上がると、掌で覆えてしまいそうな小さな尻肉を鷲掴みにすると、
「ふはああんっ! はンっ、すごぉいっ! ちん○すごいっ!」
 狭そうな蜜壷の中を一気に最奥まで貫いた。
 とはいえ彼女より多少身長が高い程度のエイでさえ無理して根元まで埋めたから挿いるかどうか不安であったが、桃肉に腰が打ち据えた時にはテレジアは悦びの声を上げて善がっていた。
 其れでも矢張り中は誰のよりも狭かった。
 収縮すると云ってもエイのはポンプのような感じで、ウィンの膣口だけであったが、テレジアの中はまるで蛇が獲物を絞め殺すような風なのだ。そして熱い。
 奥底を小突く度に僅かにだが、力が強くなっていく。
 逼迫に性感を覚える少年がふと眼を下に向けると、其処にはテレジアの小さな背中があった。途端にこれまで虚仮にされて、とまでは思っていないが掌で遊ばされてきた事への反感が湧き上がって来た。
 しかし今ならどうだ、と云う声も。
 少年は冷静に善がり声を上げている身体を支えるように床に手を突いている細い腕を取って、手綱を引くように両腕を夫々掴んで引っ張ると、
「あ……? あぁぁっ! あんっ、あ、あ、あ、あぁぁーーっ!」
 まるで騎手が馬の尻に鞭を振り下ろすように股間を丸い肉に打楽器の如く打ち付けて、締め付けてくる膣肉を雁首で抉り、精液の残り香を放つ亀頭を子宮口に叩き付ける。
 少年からは後頭部の白い後ろ髪が風にはためくように揺れているのと、背筋が軋んでいるの、そして切羽詰った喘ぎ声しか聞こえないので思っている以上に酷い事をしてしまっているのではないかと心配になっていた。
 其の答えは丁度テレジアの前に居る四人の顔を見れば分かる事で、では実際にどうかと云うと誰もが驚くというよりは呑まれている風だ。
 もしテレジアの顔が本当の意味での苦悶に歪んでいるのなら、そんな顔をする訳もない。
 少年の危惧が杞憂である事は彼女の、淀んでいる翡翠色の瞳を、上気した頬を、開かれたままの口から桃色の舌が突き出されているのを見れば一目瞭然であった。
「イっ……く! イク! おまん○イクっ、イクぅぅぅ……イ、イってるのにぃ、まだぁ……? だ、め……だめっ! またイクっ! また、イッちゃうのぉっ!」
 遥かに歳を下回る少年に玩具のように扱われている被虐感にテレジアは陶酔している。五人を手玉にしていたが本人は本人で肉欲が昂っていたのだろう。それこそ燃え盛り、煮え滾るように。
 焼け付く程の熱を持った染み出した多量の分泌液を纏った膣壁が男根を包み込んで来ている。
 其の時であった。はしたなく喘ぎながらテレジアの華奢な身体ががくがくと揺さ振られるのを見た事で此れまでの恨みが募ってきた者がいた。
 彼女はすくと立ち上がると、テレジアの前に立ち塞がって――。
「あぅ……? ンンぶっ?!」
「舐めろ」
 其れを皮切りに四つん這いの女豹が尻を振りながら動けない獲物に集り始める。
 少年は其の光景に女の怖さを見た。
「わあ、ちっちゃいおっぱい。子供みたいですね」
「それでも乳首はしっかり固くなるものなんだな」
「ここも皮が剥けてるが……こいつの事だ、勝手に剥けるんだろう」
「ふぁぅっ! ふぅっ! だめ、やめ……うぅンっ!」
「黙って口を動かせ」
 一般的に考えられている事として性別で分けると粗暴さでは男が優り、逆に熾烈さや容赦の無さでは女が上だと。
 四つん這いで吊られているテレジアの口にはスミカが秘所を押し付けている。右の乳房をエイが掌握していてる。左の乳頭をスティレットが捏ね繰り回す。淫核をウィンが摘まんで引っ張っている。
 夫々丁度良い憂さ晴らしの機会に誰もが愉しそうである――勿論、怖れを抱きつつも局所の一つを責められる度に圧迫が強くなる膣力を味わっている少年も愉しんでいるのは同じだが。
 特に熾烈なのがスミカであった――これは女というよりも彼女の性癖の問題なのかもしれない――先程まで上げられていた遠吠えのような嬌声を紡いでいた舌を肉壁になぞらせているのだが、後頭部に手を遣って股間に更に顔面を押さえ込んでいるのだ。
 腰は滅多矢鱈に打ちつけつつも呼吸が出来ているのかと不安になっている少年の視線にも気付かずに嗜虐感に惚けている表情は口角が上がっている。また腰の動きから察するに恐らく淫核を鼻梁に擦り付けているのだろう――此れは彼が何度もやられた事があるから分かった、但しこれほど愉悦の表情だとは知らなかったが。
 何本もの指に、異性の性器に、そして自分が持つ物と同じ性器に全身を蹂躙されているテレジアの様子を眺めている内に嬲りの背徳感に背筋を撫でられて少年の全身が戦慄き、肉棒が筋肉を膨張し、射精を促すように膣肉の扱きを小刻みにし始めると、
「ふぁンっ! あンっ! やっ、だめぇっ! 中はだめっ! 中に出さないでぇっ……ふむっ!」
 テレジアが頭を抑制する手を振り払って涙を浮かべた翡翠色を揺らめかせながら少年の方を見て懇願した。恐らく此れこそがテレジアの自戒なのだろう、膣内で男の肉欲を受け止めるのは夫のものだけであると云う。しかし直ぐに「いいからっ、私をイカせろ……!」と頬を吊り上げるスミカにまたも奉仕を強要されて口はあっさり塞がれてしまった。
「はぶっ! やぁっ! だめっ! 出さない、んん! でぇ……お願、ンンぐっ、だからぁ……」
 そして少年は確りと彼女の言葉を聞きつつも腰を振る。幾ら速度重視の浅めの抽迭とはいえ彼のモノは容易に奥底まで突いていて、肉襞の痙攣に加えて亀頭の接触が快感を煽る。
 テレジアは拒否の声は対面の少年と同じように切迫したように押し込んでくる陰唇に潰され、少し悪戯のつもりが本気になってしまったような顔の三人に神経の集中点を弄られ、そして爛れた秘肉を容赦無く抉られて――、
「ふぅぶっ……ぷぁあ……ぁああああ……あぁぅ……」
「はぁぁあっ! はぁっ、はぁっ、はぁ……」
 外へ追い遣ろうと収縮する肉襞を押し退けるように、ぶくり、とペニスが膨らむ。
 そして圧迫に負けるように俄かに萎むと同時に鈴口の腺液のぬかるみを吹き飛ばしながら奔流が拒否を続けていた膣肉の壁を無遠慮に侵す。
 ぶくり、どくん。ぶくり、どくん。ぶくり、どくん――と、侵入の脈動を幾度も叩き付けられながら顔に愛液塗れにさせられたテレジアの眼はスミカの腹を見透かして、ずっと遠くを見ていた――。

「ひど……ひど、い……っ」
 夫以外に膣内に射精される事は彼女にとって余程の禁忌だったのか、五人の手から解放されたテレジアは尻を高く上げたまま這い蹲った格好で膣口から垂れ流れる精液の感覚に身体を震わせながら、震えた声で呟いた。
 しかし同情する者は殆ど居ない。今まで自分達の方が酷い目に合わせられたと思っているからだろう。一人だけ少年が罪悪感を抱いていたが、誰あろう彼が呆然とさせている張本人だ。
 テレジアの脚と共に震える臀部を眺めていた少年だが、やおらに身体を押し倒されて「わっ」と声を上げる。目の前には熱く喘ぎながら嗤っている眼で自分を見下ろすスミカの姿があった。
「いくぞ」
 そう突き付けたスミカは彼が「はい」と答える暇も無く、慣れていて且つ少年のモノの大きさを知り尽くしている動き、最小限だけ腰を持ち上げて秘唇に亀頭をしゃぶらせると、
「はい……ったぁ……はぁぁ……っ」
 一気に腰を下ろして何のてらいも無く胎内に淫茎を収めて、挿入の間隔、膣を広げられる感触に妖艶な溜息を長く漏らしていたが、次の瞬間、
「うあっ! ああっ、あぁぁぁ……っ」
「はああンン……っ! って、え。もう……出ちゃったのか?」
 入れて数分も、それどころか一分も経っておらず、また動いてもいないのに少年が挿入しただけで放出してしまっていた。突然の射精の感覚にスミカは愛おしい男の絶頂が腹に響く性感に善がりながらも、矢張り驚きの方が大きかった。ショックから少しは立ち直って身体を起していたテレジアを含め、挿入を見守っていた四人もそれは同じだった。
 何せそれまで四人を確りと絶頂せしめていた上に慣れている恋人相手に何故こうなってしまったのかと。
 ぎゅっと目蓋を瞑って絶頂に耐えていた少年が頬を上気させながらも彼自身が不思議そうにしている顔にスミカが心配げでありながら怪訝そうな眼を向けて、
「どうした、平気か?」
「分からない、です……何かいつもより気持ちよくて……ぁンっ」
 そう言っている間に射精の最後の脈動が起こったらしく少年が嬌声を漏らして、奥底に溢れた白濁が触れる。一端そこで己の身体に言葉を切られてしまった彼だがスミカの芳香を含む酸素を多量に取り入れて一息吐いてから口を開いた――時間を置いた割には非常に短かったし、言わずもがなの事であったが。
「――すぐ、出ちゃい……ました」
 涙を滲ませた切なげな表情でほう、と甘やかで染み入るような溜息を漏らした少年にスミカの鼓動が、どくんと早打つ。
 エイやテレジアの蕩けた顔を見た時とは比にならない程の劣情の昂りであった。
 ぞくっ、ぞくっと例えるなら射精時のペニスのように背筋を矢継ぎ早に高波が奔っていき、膣肉がきゅうと窄まって、更に少年が細やかに喘ぐ。
 魅力的過ぎて――どういう風に魅力的かは推して測るべし――どうしてやろうかとスミカが逆に困惑していると、
「やっぱり身体の相性かしら」
「スミカの感触に彼はとても弱い、と。そういうことか?」
「へええ、すごいですね。だっていれただけですよ」
「私達の時とは大違いだな……いや、別にショックって事でもないが」
「平気よウィンちゃん、あなたの気持ち良くなかったって事じゃなくて、きっと精神的にもスミちゃんが一番って事なのよ。愛されてる証拠ねぇ」
 背後の四人の会話に耳だけではなく、頭も振り返らせて聞き入っていたスミカが少年を見ると、彼は図星なのか恥ずかしそうに顔を赤らめていた。性感による上気ではなく恥らいの紅潮で、である。
 二人共気恥ずかしかったから、暫く繋がったままで見詰め合うだけの時間が続いた。
 だが全くの無言で重なり合っているだけなのには流石に訝しく思ったのかテレジアがそっと声を掛けた。
「――しないの?」
「えっ、ああっ。ええっと――する、か?」
 其の問いに少年はこくりと頷く――其れがまたいじらしいとスミカは思った。
「取り繕うように咳払いをしてから身体の隙間を少し空けて自分と彼が繋がっている場所に熱い視線を送ってから口付けを一つ落とす。そして投げ出されている彼の腕に手を辿らせて開かれた手に重ね合わせて確りと握り締め、少年も握り返すと、
「はぁ……あんっ、ンっ、ンっ」
「あっ、あぁっ、ふぅンっ!」
 二人は穏やかにお互いの局所を擦り合わせ始めた。
 喘ぎ声も善がる様も、性感のと云うよりはまるで抱擁に酔い痴れているような、そんな風である。
 しかし結合部はスミカの多量の愛液と少年が放出した精液と腺液が混ざり合い、延ばされて潤滑剤となっていて結合部で妖しく光を放っている。
 濃淡に差はあるがどちらも血のように紅い瞳が細められ、スミカの漆黒の長髪が舞い上がり、少年の純白の髪が揺れる。
 絡み合う指が抽迭で噛み合せが少しずれる度に前よりも更に固くしがみ合う。
「――あうぅっ! スミカさんっ、ごめんなさ……出ちゃう、また出ちゃうっ!」
「んん――我慢しないでいいぞ。ほら、いっぱい出せ?」
「あンンっ! 出るっ、出ちゃう……で――ぅぅぅぅ……っ」
 途端に抽迭がぴたりと止まったらペニスが収縮する度に蜜壷の中へと、ぐっ、ぐっと腰ごと強く押し込まれていく。絶頂こそ迎えていなかったが精の放出を受け止めるスミカは背筋をぴんと伸ばして天を仰ぎ見ていて法悦が刻まれた顔は口を開いて堪能の溜息を漏らしている。
「――はぁー、はぁーっ」
 少年の手がスミカの手を頑なに握る。
 苦悶とも云える性感に歪むその表情をスミカは愛おしそうに見守っている。手が塞がれていなければ髪や頬を撫でていただろう。
 既に彼は二回果てた訳だが、まだ続けるかについては二人の間で会話は無い。だが其の眼を見れば意思は読み取れるというものだ。一目見れば。
 少年と炎のように熱い視線を絡ませながらスミカが口を開いた。
「実は、な」
「はい」
「今のは私ももう少し動いてれば、きてたかもしれない。でも簡単にイったら……悔しいだろう?」
「何が、ですか?」
「あいつ等が簡単にまいってしまったお前をもっと負かしてやりたいじゃないか。それなのに直ぐに終わっては、私がお前の一番だというのが何だか嘘みたいになってしまうだろう? でもな、そろそろ――」
 照れているのだろう、はにかみながら語るスミカを手の拘束を解いた少年が彼女の身体を縛る。
「はい……次は一緒に」
「うん、一緒に――」

「――スミカさんっ、スミカさぁんっ!」
「――あぁーっ!あぁあンンっ! いいっ、いいぞ! いいっ!」
 座り合って向かい合う、対面座位になった体勢で二人の身体が上下に跳ねる。先程よりもずっと情の篭った喘ぎに肉同士が打ち合う音を響かせながら。
 スミカは突き出た乳房に少年の顔を埋めて抱き寄せるように、少年はスミカを見上げながら抱き寄せるように。
 何処か二人の関係の一端を表わしていると思える自然な光景にテレジアは微笑ましいような笑みを浮かべ、スティレット、エイ、ウィンは羨望の眼差しで以って見守っている。
 それまでの彼女等は少年とスミカの二人の世界を形成する意識的な壁に阻まれて間に立ち入れぬとしても、其処から醸し出される劣情に当てられてお互いを慰めあっていただろうが――テレジアは夫が居るから除かれるが――今は夫々自慰に耽っている。少年とスミカがそうであるように自分達だけの世界に浸っている。
 唇を、ラビアをなぞり、全身を愛撫し、そして蜜壷の中に深々と突き立てている指は、夫々にとって未だ知らぬ最高の相手の――唇であり――手であり――指であり――ペニスである。
 脳内で描かれている行為は――己の肢体が――そして心が――隅々まで最高に悦ぶ行為である。
「大好きっ! スミカさん、気持ちいいっ! 大好きですっ! 愛してますっ!」
「私も、気持ちいいっ……! お前にされるの……嬉しいっ、嬉しい……!」
 幾人かの身体を通って辿り着いたスミカの身体に少年は身体の奥底から身悶えし、スミカはやっと少年に抱かれる歓喜に涙すら流す。
 引き寄せられるように唇が吸い付き、互いの腕が相手を縛り付ける。少年は突き出た乳房の感触を刻み付けるように身体を押し付け、スミカは自分の胎の中にもっと引き摺り込むように脚を絡める。ペニスは言葉の代わりに最奥を叩く音で求愛を繰り返し、ヴァギナは縋るように誘い込もうと蠕動し、うねりながら圧迫する。
 結合部が失禁したかのように濡れて肉が打つ音に多量の水分が混じった頃、
「スミカさんっ、イクっ! 僕イキますっ! スミカさんの中でイクっ!」
「きて……っ! 私の中に、注いで……私を、イカせてぇ……っ!」
 不可視の筈が形を作りそうな程に濃厚な吐息を互いに噴き掛けながら、それを貫く紅い眼光を燃え尽きる一瞬の蝋燭のように輝かせながら二人は相手を求める。
 其れを見守るスティレット、エイ、ウィンの指遣いも凄まじい程になっている。彼女等が抱く空想でも最期が近い。二人に同調するように。
 何故なら相手が年上であったり体位が違ったりなど――例えば組み伏せられていたり、例えば相手の上に跨っていたり、例えば寝そべって向かい合っていたり――完璧に重ならないとしても少年とスミカの情交が、今抱いている理想の一端どころか其の多くを形成しているからだ。
 そして悲鳴に近い喘ぎと理想の空想から溢れ出た嬌声が混じり、大気をも震動させるように少年とスミカの身体が震え――、
「――うぁぁああっ!」
「――はぁぁぁああンンっ!」
 相手を、そして自分をも押し潰してしまいそうな程に全身の筋肉に唸り声を上げさせながら力む二人が性器が痙攣する度に全身を痙攣させ、脈動する度に全身を脈動させる。
 どくん、どくんと心臓のように力強い伸縮をするペニスは余す所無く膣と子宮を一杯に埋める程に精液を諾々と注ぎ込み、肉襞の一つ一つがざわつきながらヴァギナが奥へと誘うように吸引する。
 胎内を満杯に浸す白濁の淫水は、ぶしゅっと音を立てて噴いた潮と一緒に接合部の隙間からだらだらと流れて、みっちりと埋まっている二人の尻と下半身に流れて、それぞれの臀部の線をなぞって、ぽたりと、時にぼたりと流れ落ちていく。
 頭の血が全て下半身に回ってしまったように少年とスミカが抱き締め合いながらふっと意識を混濁させる中、夫々の体勢で指を濁った愛液塗れにしている三人は膣内に空想を突っ込んだまま同じように床に倒れ込んだ。空想は夢となり、より虚ろながらも現実感はある世界の中に。
 どれだけ注ぎ込まれようも受精を叶わない事を知っているのか、自棄っぱちのように下りたスミカの子宮口は精液の塊を嚥下し、其の中で少年の精子が好き勝手に暴れまわる。余りを費やし尽すような騒ぎの様子は、宴の最後にも似ていた――。

「――よし、こんなものでいいかしら。はい、皆起きてー」
 ぱんぱんと手を打ちながら五人がのそりのそりと目覚める。
 そして最初に全員が気付いたのは自分の状態が完璧な事であった。シャツも上着のボタンはきっちりと留められている。スカートはファスナーが上まで確り上げられてズボンはベルトも帯を全て通っている。
 ネクタイをしていたスミカ、ウィン、スティレット、エイは自分の今までの会心の出来より更に数段上のレベルで締められているし、少年は赤い革製のチョーカーが苦しくもなく、緩くも無くと素晴らしい按配だ。
 ストッキングやショーツも履いているようであるし、少年はトランクスのスミカ手製のトンネルに尻尾が通っている感覚もある。おまけに体液がべっとりと付着していた筈の身体も汚れ一つ無い――と云う風に失神していた五人が自分の衣服の状態を驚きで以って改めていると、
「そういえばスミちゃんのは流石に無理だったから……はい」
「え? あ……あっ!」
 小さなビニール袋の中に黒く細い布が入っていてスミカは股座に手を遣ったが下着を履かせられていないらしい。
 直にストッキングを履かせられた事にテレジアを恨めしげに見るが、
「そんな眼で見られても……いや、私だってちゃんとしたかったけど、あんなに精液がべったりこびり付いちゃってたんだから」
 当然、その後のスミカの憤怒の眼差しは少年に向けられた。
「はい、いい気持ちで眠ってたのは分かるけど。皆、立って、そろそろ帰りましょうねー」
 夢の所為か、ふわふわとしたような浮遊感の中でテレジア以外が立ち上がる。まるで託児所の保母と、子供達のようである。と、昼寝を終えた女の子達が立ち上がった瞬間、
「な、なんだ?!」
「何か入ってる!」
「おい、テレジア何入れた!」
 急にウィン、エイ、スティレットが声を上げてすかさずテレジアを見る。テレジアはスミカを見ていた時と同じ眼で彼女等を見回す。
「だって寝ているあなた達のお股、どれだけ拭いても濡れてきちゃうんだもの。夢精ってのはあるけど、一体どんな夢見てたの」
 そして三人は押し黙った。
 どうやら心当たりがあるのだろう。夢心地の余韻がいやに心地良かったのも納得できると云う風に。
 途中から存在を失念していた香炉も既に片付けられていて臭いも殆ど無い――口の中も、身体にも――まるで何も無かったように。夢を見ていたような、ファンタジーな童話のようだ。
 しかし記憶は確かに残っている――妙な体験だ、夢のままにしておきたいと思ったの者も当然居る。
 そして別世界の扉を開けた白兎を帰りも導き手として、階段を下りて現実へと帰っていく――。
 
「……前いけ」
「え、どうしてですか?」
「下から誰か上がってきたらどうするんだ! お前が隠せ!」
「いいじゃない、見られて減るもんじゃなし」
「お前は黙ってろ! 減る増えるの問題じゃない! この露出狂め!」
「なぁに階段で励んでた子が言える台詞? 殆ど同類じゃない」
「なんだと?! お前と一緒にするな!」
「まあ、いいから落ち着け」
「お前等だって態々戻ってきて覗いたんだから同類だ! 偉そうにするな!」
 ――斯様に少し揉めながら。

 何だかエレベーターを使うのが悔しくなったのか、そのまま階段を下って一階の扉を開ける前にスミカがぼやいた。
「ああ、くそっ! 結局シュミレーターが使えなかったじゃないか。予約するだけで金が掛かるのに」
「あ、そうでしたね……はぁ」
「お前の小遣いから引いとくからな」
「え?!」
 少年が反抗しようとしたが憤怒の表情でスミカが黙殺したのを見て、溜息を吐きながらテレジアが扉に手を掛けて
「ほらほらケチくさい事言わないの――あ、ダーリンっ」
 フロアーにそれこそ兎の如く跳ねるように飛び出していった。
 一瞬、少年が「え、今の誰の声?」と言った程に色が変わっていたが、聞き慣れているのか、他は誰も大した反応を見せなかった。というよりは何だか居心地の悪そうな顔をしている。彼としては寧ろそっちの方が気になりながら扉を潜って――、
「――なっ……」
 また驚いた。しかも声が詰まる程。
 だが無理も無い。
 と云うよりは、そら驚くってモンである。
 何せ一階のガラス張りで外から日暮れの陽光が差し込むエントランスには、ミゲさんとかおやっさんの趣味でアジトに映像媒体が置いてある映画に出てくる主演俳優も真っ青な――いやさ、凍りつくような――美丈夫が居たのである。
 少年自身が小柄とはいえ首を使って見上げる高さの身長は横にも恰幅が良いのだが、ごついと云う程でもなく、スマートさが滲み出ている。着ている衣服はスーツだが決して高級品と云う訳でもなさそうだが、支配下に置くが如く着こなしていてオーラで一級の香りを醸している。
 足は大きく脚は長い。腕は良い按配に長けりゃ、指もピアニストのように長くて細い。
 さぁさぁ、お客人見上げていってご覧なさいな。其の先は中々お眼には掛かれないってモンでさぁ――但し、其の美貌を描写するのには、残念ながら筆者の筆力が著しく足らない為に読者諸兄の想像にお任せする。
 がっちりとした首の上には絶世の美貌がきらきらと輝きを放っていた――恐らく西日もある。
「やあ、ハニー。楽しかったかい?」
 ――ハニー。
 勿論、テレジアのダーリンが急に蜂蜜に話し掛けた訳ではない。妻であり且つ今でも恋人であるテレジアの事である。またテレジアが蜂蜜と云う意味でもない。
 テレジアのダーリンが(以降、ミスターと呼称する。相応しいのもある)妻にそう聞きながら屈むようにして口付けをする。そこで普通、誰もがそうすると予想するのはこう、なんちゅうか――ちゅっ――って感じのだと思う。それが違うんだな、この夫婦は。舌入れてるんだわ、コレが。
 とはいえ短い時間のであったがキスを終えると、ミスターはテレジアを抱き止めながら、驚いている少年と何かそわそわしている四人の方を見た。
「やあ、皆。久しぶりだね。元気にしてたかい? 特にスミカちゃんは本当に久しぶりだ、逢いたかったよ」
 ――訂正する。逢いたかった、ではなく、会いたかった、だ。どうにもこの男が言うと何か違うイントネーションを感じてしまう。
 そして四人は何故かぎこちなく返事をした。精彩に欠けると云う風に。
「あれ? 君達が一緒に出てきたって事は……? おいおい、ハニー。それは、ひどくないかい?」
 ――ああ、そうとも。そりゃひどい。妻の同僚達はおろか、妻自体を玩ばれるなんて、もっての他だと思うよ。実に正しいぜ、ヘイ、ミスター。
「ひどいなぁ、どうして僕も混ぜてくれなかったんだい?」
 ――なんなんだ。この男。
「だって皆で男の子を食べちゃうってシチューエーションがよかったんだもの。あなたがいたら普通の乱交じゃない」
「それだったら――そうだな、僕は見掛けはマトモだけど中身はヘタレのダメ男とか演じたよ」
「そうしたとしても外見が良すぎるでしょ?」
「見ているだけでも良かったのになぁ」
 拗ねたように妻の頬にぐりぐりとミスターが指を減り込ませると、テレジアは擽ったそうに笑った。
 それでも諦め切れないらしくミスターは立ち竦んでいるような五人に近寄ると――少年は兎も角、何故か他の四人にも緊張が奔る――スティレット、ウィン、エイ、スミカ、少年と並んでいる一番端のスティレットの傍に寄っていって――おいおい、何しようってンだい。ヘイ、ミスター? ――濃紫の長髪をふわりと手に絡ませて鼻先に掲げて、
「ああ、スティレットちゃんはこんな香りなのかい」
「え……あ……?」
 手に取った背中に流れていた髪ではなく、頭の方にも顔を寄せてワインのように香りをテイスティンッ、しているではないか。
 恐らくこの男、髪に残る髪の持ち主の芳香を嗅ぎ取っているのだろう、しかし何故かセクハラ一歩踏み込んでいるのだがスティレットは石のように固まってしまっていて抵抗を見せる気配すらない。
 そしてミスターは何事も無かったかのように隣のウィンの方へ行くと、矢張り同じように真鍮色の長髪をスパゲッティッ、のように手に絡ませる――一応言っておくが流石にぐるぐる巻きにしている訳ではない。
 そして鼻先を頭に寄せる――最早髪に埋めている程だが、しかしウィンも何故か動かないでいる。
「ふぅん……んん? ほぉ、見掛けに寄らないなぁ」
「な、何が? というより……その……離れて、欲しいのですが……」
「ウィンディー、君はそっちの趣味だったのか。実に意外。僕なんかは凄くそそられるが」
 恐らくアレの事を言っているのだろう、途端にウィンの顔が真っ赤になった。
「ああ、そのことならウィンちゃんは放尿癖というよりは失禁する癖が付いちゃってるの」
 そして一瞬で暴露する妻――もうちょっと隠してやれよ。若しくはオブラートに包んでやれよ。
「テッ、テレジアァッ! 貴様ッ! よくもバラしたなァァッ!」
 当然、怒涛の勢いでウィンディーは憤怒の怒声を上げるのだが、
「へえ、あのクールな君がお漏らししてしまうのかい――すごく可愛いらしいじゃないか、何時かお眼に掛かりたいな」
「――あの……か、顔が近い、です。は、離れてください……」
「うん? 近い、だけさ。キスをするわけじゃないんだからいいだろう? それと聞きたいんだが、大体君のような癖を持つ女性は達してしまうと”して”しまうものなんだが君もそうなのかい?」
「や……やめて、下さ……」
 ブロンドを撫でつつ、囁きながら頭頂部から眼前へと移ってきたミスターに対しては強く出られていない――ていうかミスターもスゲエな。相手はカラードトップ3のリンクスなのに。
「こらこら、やめてあげなさい」
 流石に旦那が他の女に顔を寄せているのにご立腹なのだろう、テレジアは、ぷんぷんと云った様子で詰め寄ると――、
「セクハラで訴えられるわよ」
 ――訴えられなかったら……いいのか? いいんだろう。
 さてミスターがウィンへの甘美なセクハラを終えると、次は最早石のようにどころか完全に石と化しているエイの方に寄った。
 がっちがちである。恐らくドンと押したら、そのままの格好で床に倒れこんで、更にそのままの格好で床の上に転がるに違いない。
 エイはウィンやスティレットほど髪が長くないのでミスターも髪を手に取る事は無かったが、代わりに前髪や眺めのもみ上げに顔を寄せる――最早傍から見ればキスしてるとしか見えないわけで、頬程度なら挨拶で済むが、角度的に口にしてようにしか見えないわけで――
「……おや、また意外だな」
「へ?」
「エイちゃんは案外、お汁の量が多いんだね。三人姉妹の中で一番、かぁ。この小さな身体の何処にそんなに入ってるんだろう」
 ――アウトである。言葉のみならず、肩を、さわ~、っと、お触りまでしたのだから。
「あはは、そうか。じゃあ、今度どれだけ貯めてるか一緒に確かめてみないかい?」
「へぇ?」
 力んでいる所為か、機械ならぎちぎちと錆びた音を立てそうな程にぎこちない動きでエイがミスターの顔を見る。思考も緩慢になっているのか、意味を理解するのに時間を要したらしく、数秒を間を置いてから顔を真っ赤にした。ミスターが揶揄うように笑い――そして耳元に顔を寄せた。
「ははは、冗談さ――冗談じゃないほうがいいかな?」
「は、あの……その……」
「やめなさいって。このままじゃエイちゃん、熱出して倒れちゃうわよ」
「そしたら僕の所為だから僕が看病するさ。勿論、汗も拭く。身体中ね」
「汗以外の物も出るでしょうね~。あ、そしたら確かめられるわね。一石二鳥じゃない」
 驚くなかれ、機会さえあれば本当にやる不倫宣言をしているのにも関わらず、この夫婦は笑いながら話しているのだ。このトンチキ、絶対後でぶっ殺す、などと憎悪を腹に秘めている訳ではなく、本当に楽しそうに。 
「やあ、スミカちゃん。久しぶりだね」
「あ、ああ」
 スミカと云えば髪の臭いを嗅がせまいと既に身構えていたのでミスターもおいそれと近寄れない――普段の彼女なら其のつもりでも態と隙を作って、相手が引っ掛かったら罠に掛けそうなものだが、最初からファイティングポーズを取っているぐらいである。
「そんなに構えなくてもいいじゃないか」
「いや……その……」
「でもスミカちゃんの場合は近くで嗅がないでも分かるな――うん、君」
「はいっ?!」
 歴戦の女リンクス達を仔猫のように扱ってしまう男に正直心底ビビっていた少年が突然に自分に矛先を向けられたので仰天する――しかも其の男の妻と寝た事もあるのだから、というかついさっき寝たばかりなのであるから、尚更だ。どうなるのかと、更に心の奥の底を捲ったぐらいの奥から怯えていると、
「ふむ。流石、若い」
「え?」
「いや、これは若いだけじゃないな。実に大した射精量だ。五人を相手にここまで臭いを残せるとは、実に大したものだ。うぅむ、羨ましい限りだ。やっぱり歳なのか、最近少なくなってしまったとはいえ仮に同じ頃の僕であったとしてもここまでは出せなかったな――同じ男として尊敬に値する。
 で、スミカちゃんからする君の臭いが一番強いわけだ。しかもアレだね、この濃さは今日の分だけじゃないな……ほほう、分かったぞ。君達はぶっかけプレイが好みだな。ついでに何故スミカちゃんも好きなのかが分かるかって、掛けられるのが嫌な女の子はそもそもが掛けられる事を拒否するから臭いがしない。ところがスミカちゃんは顔どころか髪からも漂ってくる。これは先ず間違いなく嗜好者の証だ。女の子は髪を汚れるのを嫌がる傾向が強いからね。つまりスミカちゃんは甘んじて受け容れている。顔の臭いの強さから考えても、寧ろ自分から受け止めにいっているぐらいだな。どうだい、正解だろう。わはははは」
 図星なので少年もスミカも顔を真っ赤にする。
「あ、失礼。初対面で人の性癖を暴くのは余り褒められた事じゃないな。よろしく」
 ――普通、出来ないであろう。
 ミスターが差し出した手を少年がおそるおそる握り返す――しっとりと濡れた手はこれまで抱いてきた女の汗か、愛液か、それとも涙か。多分、全部だ。
 少年は手を握っただけで、この手で撫でられたら抗えないだろうな、と直感的に思った。
「それで早速尋ねるが」
「はい?」
「どうだった、僕の妻の具合は?」
「ふんがっ」
 口から息を吸うのと、鼻から息を吸うのと、口から息を吐くのと、鼻から息を吐くのがごっちゃになって、おまけに唾液も器官に入って、少年はとても噎せた。
 危惧していた事を笑顔で――繰り返すが仕草や態度に殺意や憎悪などは一切秘めていない、純粋な好奇心と、純粋な性欲だけで――尋ねられたのだから無理も無いだろう。正に杞憂と云う訳だ。
「相性はあると思うが気持ち良くなかったとは言わせないし、言えないと思うぞ。何せ僕の妻だからね」
 脅しかけるようにミスターはそう言ったが、旦那を眼の前にして、お前の女は最悪だ、と言わせないと云う事ではなく、矢張り純粋に良かっただろうと尋ねているのだ。
 繰り返すようだが――なんなんだ、この夫婦。
 しかし満面の笑みでそう言われたとして、声を大にして言える訳もなく、少年は口篭る。
「え、えっと……その……」
「何を恥ずかしがっているんだい、二回も抱いたんだろう? ばばっと言っちゃえ――あ、スミカちゃんは耳塞いでてね。なんなら僕が塞いであげても……おおっと危ない。自分でやる? 塞いだ? スミカちゃん、君はイイ女になったね――よし聞こえてない。いいよ」
「は、はい……気持ち良かったです」
「どんな感じで気持ちよかった?」
 ――其処まで聞くかよ、ヘイ、ミスター
「あの……せ、狭くて、凄く締めて……きました」
「そうだろうっ?! そうともさ! なのにサイズに合わせて包んでくるんだから正に名器ってヤツなんだ――そうだ、スミカちゃん。もういいよ。あ、聞こえてない。じゃあ僕が下ろして――あいたっ。わはははは……」
 スミカに手を叩かれながらも、実に愉快そうに快活にミスターが笑う後ろでテレジアがほんのりと顔を赤くしている。夫に褒められたからなのか――しかも性器の具合を――それとも少年に褒められたからなのか。
 どちらにせよ夫婦揃って奇妙である事に何の疑いも無い。
「で、あなたは其の間、何してたの?」
「僕かい? 僕は久しぶりにマリーちゃんと……あら、言っちゃった。ま、いっか。君達が言わないでくれればいいし――ね、お願いだから言わないでね、マリーちゃんも可哀想だし」
「マリーちゃん?」
「知らない? 僕たちインテリオル関係者は絶対知ってるし、かといってスミカちゃんと尻尾の君も知っていると思ったけど。あ、そうか。名前だけじゃ分かりにくいか、彼女だよ。仲介人のマリー=セシール・キャンデロロちゃん。いい声してるよね」
「……え……えええっ?!」
 知らない訳が無い。インテリオルからの依頼が寄越されてくる時は必ず、そのマリーが必ず間に居るのだ。というか依頼内容の説明や作戦ブリーフィングも彼女の口頭によって行なわれる。
 完璧なインテリオル社員と云う訳ではなくカラードの所属になるから、つまり今居るこの建物の中で顔を合わせた事も勿論ある。
 しかし不倫をするような人間とは思えなかったので二人は驚いたのだ、二人以外もだが。確かに腹が黒そうな所もあるが。しかし当然テレジアは驚いていない。それどころか、
「あら、でも前に二人一緒に遊んであげた時は泣いて帰っちゃったわよね、”あなた達夫婦の玩具になるのはもう嫌です”って言って。今も思うんだけど、そんなに酷い事したかしら? 今日この子達にした事のほうがよっぽどハードだったわよ」
「なんでだろうね? 今日もあまり聞けずじまいだったし。あれかな、君にペニパンで無理矢理されたのが嫌だったんじゃないか? しかも君ったらあの可愛いお尻を、ぺちーんっ、ぺちーんって叩いてた」
「よく言うわ。其の時にあなた、あの子の口どころか喉に、いやいや食道にまで思いっ切り突っ込んでたじゃない。私だってこの子達にはさせなかったわよ。幾らぼうやのが大きいからと言っても」
「ええ? だってあれは君と一緒にする前から練習させてたんだから……でも、そのまま出したのはアレが初めてだったんだっけかな――ソレかな?」
「ソレね」
 ――いや、ソレじゃない。違う、そうじゃない。そういう事じゃないと思う。
 楽しそうに話している二人以外が心中で同時にそう言った。
 つくづく立ち入りたくない夫婦だと云う思いをスミカ、スティレット、エイ、ウィンは改めて己が胸に刻み込んで、少年はただただ困惑していた。
「そういう訳で僕ら家に帰ってお仕置きするから、もう帰るね」
「態々言わなくていい、そんな事は。いいから早く帰れ」
「それじゃあね~」
そして、テレジア夫妻は、春風のような爽やかな余韻を残しつつも、しかし、暴風の如き痕跡を刻んで、去って行ったのだった――。
 
 さて数日後、あの日の事を――幾ら少年が他の女を抱いた、抱かれたとはいえ、先も中も後も全体が奇天烈過ぎてスミカも腹が立たなくなって普通に話せている――二人が思い返していると、スミカがぼそりと呟いた。
「私が、いや私達がテレジアに頭が上がらない理由が何となく分かった」
「え?」
「テレジアそのものも充分厄介だが……あの男の影が後ろにちらつくからなんだな」
「テレジアさんのダーリンさんですか?」
 少年よ、旦那さん、とかでいいだろう。何だ其の言い回しは。
 スミカが有澤から買い付けた玉露を一口飲んでから言った。
「ああ、というのもな。トーラス――前身の一つであるGAEもそうだが――や、アルドラも含めて、インテリオルには、或るジンクスがあるんだ」
「どんな?」
「――”女性関係者全員は必ずテレジアの旦那にときめく”」
 ずずっと茶を啜る音がする。
 少年は感心している。
「……悪い」
「え?」
「嫌だろう。何と云うか、こういう話は」
「――スミカさんも好きだったんですか?」
「昔、な。といっても国家解体戦争が終わった頃だからお前ぐらいの時だ。いや、もっと若かったかな」
「初恋?」
「そうだな――もう随分と昔だ」
「でも女の子があの人を見たら絶対、好きになってしまうと思います。スティレットさんもエイさんもウィンさんもそうだったんでしょう?」
「だろうな、あの様子だと。特にウィンは諸に惚れていたところを私は見ていたからな――あーあ、何でだろうな」
 スミカは首を傾げながら机に茶碗を置いた。少年も首を傾げる。
「何で初恋はずっと心に残るのだろうな。もう好きでもないのに。しかも大人になった今では絶対に振り向いてくれない事も分かっているのに。子供の私が未だに諦め切れていないのかな。あいつらも、いや皆そうなのかもな……何だ、何にやにやしてる。気持ち悪いな」
 スミカは頬杖を突きながら嘆息を吐いて少年の方を見ると、何故か笑みを浮かべていた。
「じゃあ、僕は幸せ者ですね」
「――そう、か。そうだな。じゃあ私も幸せ者でいいかな」
 スミカはにこやかな少年の柔らかい頬をつんと指先でつついた。
「……さらば、初恋の人よ、と云った所か。というかあんなイカれた変態だと知ったとなると何だか馬鹿らしくなってきた――それにそういう事抜きにしても冗談抜きで本当に二度会いたくないぞ。あの夫婦に関われば必ず災いが降って来る気がする」
「あははは」
「ふっ……」
 まるで疫病神のような扱いに少年が笑って、スミカがつられて笑みを浮かべる。
 するとパソコンにメールが受信された事を告げる電子音が鳴って、二人の笑みがぴたりとやんだ。
「――おい。まさか、だよな」
「――まさか、ですよね」
 恐る恐る二人がモニターの前に行き、受信を報せる手紙型のアイコンをクリックするとメール画面が開いた。そして送信者の欄に目を遣ると――、
 ――T h e r e s i a
 ――テレジア
 と、表記されていた。
「……あいつ等は本当に何かの悪霊かもしれん。何だこの神掛ったタイミングは? 監視されているんじゃないだろうな」
「先ず読むかどうかを決めましょう」
「本音を言えば――読みたくはない。だが読まないというのは敵前逃亡したような気分だから嫌だ。読むしかない。ああ、読んでやるとも」
 力強く握ったマウスのホイールが回転し、画面がスクロールされる。
 件名には『姉妹の皆にプレゼント』と書かれている――嫌な予感だけが募る。
 更にスクロールすると、何故か白地が続く。何も書かれていない。実は空メールで不安を煽るだけ煽って何も無いと云う悪戯なのかと云う考えが二人に浮かぶ。
 しかし、内容はあった。
 一文だけ。文字の羅列されている文。何故か文字の色が青い。何処かのサイトへのURLか、ファイル名だ。
 〈週間トーラス〉の存在が脳内に浮かぶ。
 スミカはURLか何かのファイルなのかポインターを合わせると、小さく文字が現れたが、文字の羅列はどうやらURLの類ではないらしい。と、するとファイルになる。
 しかし開けていいものだろうか、という疑問が浮かぶ。
 差出人不明のメールのファイルというのはパソコンに害を及ぼすウィルスである事が定番だ。
 だが幾らテレジアでもそんな事をするとは思えない。
 二人の額に、冷や汗が滲む。
 進むか、退くか。
 二人は顔を見合わせて――同時に頷いた。
 満場一致のGOサインだ。
 スミカがクリックする。
 すると読み込み画面が立ち上がって――画面が黒一色になった。しかしクラッシュではない、下に再生や巻き戻しを表わす三角の記号があるから、動画という事だ。
 しかし何の動画だというのか、再生が始まる準備の時間が長く感じる。
 たらり――と、マウスを握るスミカの頬、そして顎を伝ってキーボードに汗が触れた瞬間、画面が鮮やかに彩られた。
 そして――少年もスミカも同時に叫んだ。
「……えええぇぇっ?!」
「――な、なんだ……なんだコレはああぁぁっ?!」

 そして、正に同時刻よ――より、少し後。一時間どころか三十分も経っていない。
 幾つかのウィンドウを同時に表示しているモニターの前で一組の夫婦が談笑しながら映像に見入っている。
「おっ、スティレットちゃんも開いたか。あはは、驚いてる、驚いてる。いやぁそれにしても流石はハニー、素晴らしい編集技術だ。あれだけのアングルのしかないのによくここまで上手く纏められたな」
「ホント、位置取りを考えるのに苦労したわ。置いておけるのは二個しか無かったんだもの。おまけにもう一個もアレで、全員を見渡すのは難しいから何とか誘導して全員と絡むのは大変だったわよ」
「それに編集そのものが大変だったね」
「うふふ、見ているだけで濡れてきちゃって、どれだけ慰めても全然満足できなかったわ。あなたが居なかったら私一日これをオカズにオナニーしてたかもしれない」
「手伝った僕だって抑えられなかったよ。これ見ながら何度したっけ?」
「ふふっ、もう覚えてないわ。分からないくらいだもの」
「特に君が皆に犯されているシーンは最高だった。思い出しただけで勃ってくる。ここ数年で一番興奮したかもしれんね……一番手はエイちゃんか。矢張りあの子は素質があるな」
「あ、私があげたバイブよ、アレ。おーっと、何度イク気なのかしら? 最初から震動がマックス」
「電池が切れちゃうかもしれないなぁ」
「送りつけた分、全部処分してないだろうからストックは沢山あるでしょうね。賭ける? エイちゃんがコレで何回バイブを取り替えるか」
「それもいいが、先ずはみんなの様子を見よう……おっと、次はスティレットちゃんだ。へぇ、普段からガーターなんだね」
「下着を取るのも億劫って感じね、マウスも放して両手でしてるわ。おまけに肘掛に脚を置いちゃってるから、ああ大変。丸見えね」
「このポーズはいいなあ。君も後でやってくれよ。一人でしてる時に頃合を見て僕が挿れるんだ、どうだい?」
「どうせなら脚を縛るのもいいわ。来た、むっつりのウィンちゃん……って最初から下着? 胸も出てる、首にタオル掛ってるけど」
「シャワーでも浴びてたのかな? でも其の割には身体が濡れてない……ああ、シャワーの後は普段こういうスタイルなんだね、この子は。わぁお、結構きわどいショーツ。生地が薄目だし、下手すりゃお尻殆ど見えるよコレ。屈んだら確実。でも家専用だな、普段は……あれあれ、今ちょっと映ったでしょ。普通のショーツだもの」
「そうみたいね。って、やっぱりあの子擦り付けオナニー好きねぇ、指をコスコスしてるわ。タオル噛んでるのが可愛いわぁ」
「いやぁ~~絶景かな絶景かな。一級の美人ばっかりの同時オナニーショー――売れるだろうにな~~、勿体無いな~~! 全世界にこの素晴らしさを広めたいな~~!」

 この馬鹿夫婦がやっている事を最初から説明していこう。
 話は数日前のあの日に戻る。
 先ずテレジアは全員を誰も使わない階層に誘った。ここは彼女の保身も兼ねている為、一切何も無い。
 が、問題は次からだ。
 先ず発情を促進する香炉を置いたが、コレは確かに香を焚く機能も当然香炉だからあるが――何と小型カメラが備わっている。
 そして彼女を知る者からはテレジア七つ道具カバンと呼ばれているハンドバック――当然、これの中にもカメラが仕掛けてある。
 テレジアはこれらを確実に性交が撮影できる場所に設置していたのだ。
 しかしあくまで定点カメラである。なのにも関わらず、あの日の当事者達が時折大きなアップになる事があるのは――テレジアの眼鏡のフレームに更に超小型のカメラが仕込んであったのだ。
 この盗撮動画の最後の締めくくりに盗撮では絶対に不可能な失神した五人を嘗め回すように接写するシーンもあるのだが、それも眼鏡のカメラによって撮られたものだ。
 だが小型の為にカメラからデータを送れる範囲は極めて狭い範囲であるのだがこの問題は最初からクリアーされている。記録媒体もハンドバックの中にあったのだ。そして盗撮者本人もプレイも終えて、持ち帰ったディスクはアダルト・ビデオの製作にも関わるテレジアの純然たる趣味の中で編集された。
 そして此処からが今日。
 売る事は当然出来ないがプロフェッショナルの動画はたったいま試写会として出演者達の下にメールで送られている――だがこれだけでは只の悪戯だ。
 この夫婦はそれだけで終わらない。
 今も出演者達の視聴状況を実況していたが、何故そんな事が出来るのか。
 それは現在の社会ではパソコンに電話の機能を備わっている場合が殆ど、それもwebカメラを搭載したテレビ電話が出来る。遠地に居ながら直接対話出来るのだが、この悪徳――もとい背徳夫婦は其処に眼を付けた。
 何とこの動画をダウンロードすることは同時に夫婦の手によって――正確にはトーラスの職員の手によって――作られたウィルスをもパソコン内部に取り込む事を意味する。しかし別に情報を盗んだりする訳も無ければ破壊行為を行なう訳ではない。普段は何もしない。
 ただ、現在四箇所に送られた動画を再生すると、ウィルスは動き出す。
 webカメラの機能をこっそりと起動させてデータの送り先をテレジア夫婦の自宅のパソコンに設定。そして再生している間はモニターの前の映像を送り続ける。尚且つ映像を記録する。
 編集された盗撮動画と共に其の様子を背徳夫婦はじっくりと鑑賞しているのだ。
 夫が口惜しそうに叫んだように、そう純然たる夫婦の間の趣味のために、だ。
 
「これに後で君のも撮影して編集、同時に流れるように……く~~っ、楽しみだ!」
「私は何しようかな。このラインナップで行くとダブらないようにするには……二穴オナニー辺りが妥当かしらね」
「ああ、それはいい! 素晴らしい! でも其の前に僕としよう――丁度あそこも始まった所だしね」
「あっ、ホント。うふふ。スミちゃん、皮を剥かれたバナナみたいになってるわ」
「やっぱり君の予測通り、イイ女になった。どうだった? あの大きなおっぱいは?」
「張りがあって、でも柔らかくて、形も良くて、乳輪も大きすぎず狭すぎず、乳首の感度は抜群。中々の逸物って所ね」
「君のこの小さなおっぱいもいいけど、偶にはあれぐらいのともお相手願いたくなる」
「あんっ……ふふ、スミちゃんには結構拘るのね。久しぶり? あなたが私以外で本当に抱きたいと思った女」
「僕は気に入ればどんな子だって抱きたくなるさ。ただ、君以上に本気にさせてくれる子はいなかっただけさ。これまでも、そしてこれからも。それと拘るのは君も同じだろう?」
「ふふふ、何の事?」
「君が僕を混ぜてくれなかったのは、あの子に抱かれたかったから。そっちだって久しぶりじゃないか。本気で抱かれたいと思った男」
「私だって気に入ればどんな子だって抱かれたくなるわ。ただ、あなた以上に本気にさせてくれる子はいなかっただけ。これまでもきっとこれからも……っといけない。無駄話してる間にもう始めちゃってるわ」
「早いねぇ~、流石若いだけある」
「もうっ、いいから早く頂戴……濡れてるから」
「準備のいい事だ……愛してるよ、ハニー」
「私もよ、ダーリン」

「あぁぁぁンっ! これ、すごいぃっ! す、直ぐきちゃうぅっ!」

「私、こんな……ぁっ……いやらしい顔、してたのか……や、ぅっ」

「あンっ、あっ! ふっ、ふっ、ふっ、ふぅっ! ふぁあっ!」

「な、何でいつもより大きいんだっ、この変態っ! はあうっ!」
「スミカさんだって、締め付けて……くぅぅっ!」

《アナザー・サイド・ストーリー》

 殆ど同じ時間。全く違う場所。
 七人もの男女が同時に肉欲の海に溺れていた。 
 宴は、未だ終わらない――。
 カラード本部の一階に其の男は居た。
 急になんだが妻帯者であり、妻は企業支配化最強の個人の一人であるリンクスであり、巨大企業の一つトーラスに夫婦揃って勤める身分である。妻のほうは何のかんの言っても軍人であり、更に企業の裏側を知っている数少ない人間の中でも企業側とアナーキストの中立に居るようなスタンスなのでインテリオルのリンクスが訓示のために招集された今日も別の場所できな臭い密談を行なっていた。
 それも終了したのだが電話が掛ってきて、少し遅れる、とのこと。この夫婦には普段の事であり、また何の用かとも詮索はしないのがルールだった。
 法律など自分等の為には平気で破るが夫婦の間のルールは厳守する。
「――ああ、分かった。楽しんでおいで」
「またね、ダーリン」
「ああ、また。ハニー……さてどうしたものかな」
 実に愛情溢れた電話に通り過ぎるカラードの女性社員三人がくすくすと忍び笑いをしながら彼の横を通り過ぎて言った。視線に気付いて彼は彼女等を見て、慣れた手付きで手を振ると、黄色い声が返って来た。
 ――筆者の筆力が不足の為に詳しく描写できないのが残念であるが――年齢も分からない程の絶世の美男に手を振られた彼女等は興奮冷めやらぬ様子で飛び跳ねる様子で去っていく声を抑える事も忘れてはしゃいでいる。
「何、あのカッコイイ人?!」
「あんた、知らないの? あれ、テレジアさんの旦那さん」
「結婚してるのよねぇ、残念……って言いたいところだけど案外そうでもないのよね」
「え、なんで?」
「彼、通称”Woman Eater”あっちこっちで女食いまくってるのよ」
「でも結婚してるんでしょ? 上手くいってないの? あんなラブラブの電話してるのに?」
「それがワケわかんないのよ~。不倫は夫婦間で認められてんのよね。信じられる?」
「ええ~~! って事はテレジアさんも?」
「そうよ、そう! あっちあっちで”Men Eater”なんて言われてるし」
「でもラヴラヴ?」
「そう。不可解。全く以って不可解」
「でもさ旦那さんの方は多分凄いんでしょ? で奥さんもヤりまくってるんでしょ? アソコがゆるゆるになってそうよね」
「あー、確かにぃ」
「少しいいかな。君達」
「――おぅああっ!」
 ぬっと顔同士の間を顔が入ってきたのだから大層驚くのも無理は無いだろう。しかも会話の話題そのものがだ。おまけに超絶的なハンサムの美貌が至近距離だ。
「なななななな、なんでしょう?」
「そうじゃないでしょ、まず謝んなさいよ!」
「馬鹿、順番ってものがあんでしょ?!」
「ええ?! 私何も言ってないもん!」
「聞いてくれないか」
「は、はうっ!」
「決して見栄で言うワケじゃないんだがね。リンクス、ミセス・テレジアこと僕の妻は昔も今も変わらず――名器だ」
「……は?」
「名器。め・い・き。名器。どうだい良い響きだろう。もう一回言っとこう、名器。おっと意味は知っているかな? セックスをするにおいて具合の良い膣の事だ。ん? どうだい?」
 三人はぽかんと口を開けている。
「はあ……」
「それさえ分かってくれればいいんだ。僕は妻を愛しているからね、誤解は解いておきたかったんだ。すまない、呼び止めてしまって」
「あ、いえ……こちらこそすいません」
 そしてミスターは去ろうとしたのだが、急に振り返った。
「悪いついでに一つ聞かせてくれないかな」
「はい、なんでしょうか」
 怒ってはいないと分かって安心した上で度を逸したハンサムと話している事が嬉しいのか、先程の緊張も無く、見惚れている三人のうち、一人が答えた。
「君達、この後時間ある?」
「え?」
「話に上げられていた”Woman Eater”がどのようなものかを教えてあげられば、と思ってね。ああ、心配しないでくれ。僕は平等主義者だ。三人に声を掛けたからには三人共に礼を尽くすよ。そういうのも全然好みだから」
 途端に艶かしくなった口調に、眼球の奥までを見据えてくるような視線。肩にす、と掛けられた手の動きに三人は――
「まだ仕事が残ってるんでぇぇえぇぇ……っ」
 逆に怖れをなして脱兎の如く逃げ去ってしまった。
「そうか、残念。また今度ねー」
 猛然と廊下を走っていく三人の背中にミスターは声を掛けるのだった。
 
(さて、どうしたものか。ま、偶にはカフェで時間を潰すのもいいか……そこで見付かるかもしれないし)
 ミスター、女性職員の眼差しを受けながら廊下を闊歩する。時に気まずそうに顔を背けるものいるが。はてさてどのようなことか。
 ちなみにミスター、男性からは以外にも嫉妬の眼で見られる事は少ない。というか殆ど諦観だ。勝てる訳が無いとか、ありゃ無理だとか、あれは実は天使なんだよ、いいや神様の一人だとか。そんな絶望の声と共に。
 中にはやけに熱烈なのも混じっているが、ミスター、あまりそっちに趣味は無い。が、イケると思ったら別にいいんじゃないかなと思っている。妻がバイなら夫もバイでそれはそれで楽しいじゃないかと。
 しかしミスター、初めての男を見る際は滅茶苦茶に面食いになっている。初めては是非素晴らしい男の子がいいと思う、密やかな願望である。何時か巡り合える日が来るのだろうか、楽しみだねミスター! 
 さてミスター、視線の暴風雨を浴びながら――なんてこたぁない、ミスターには何時ものことさ! ――カフェに着いた。
 座っている客達もちらちらと盗み見る方が少ない、寧ろガン見の方が圧倒的に多い。流石だね、ミスター! 
 ミスター、カウンターでマスターに注文したのはカプティーノ。
 ただコーヒーを飲んでいるだけなのだが異様に様になっているミスターが、ふと眼を上げるとカウンターの中の方に置いてあるステンレス製のミルク入れに反射して映っている人物に気付いた。
(ん?)
 其の人物はミスターが眼に留らせるぐらいだから女性である。
 丁度真後ろの彼女は嫌に落ち着いていなかった。手を胸の前でぎゅっと握り締めている風で、あちらこちらに視線を送っているが、時折ミスターの方をじっと見ているようだ。声を掛けようとしているのと、其の場から早く逃れなくてはならないと云うように感情が織り交ざっている、そんな風に。
 表面はぼやけているために細部の視認は困難だがミスターは髪の色や其の仕草から当てを付けていた。振り返って手を振る。
 突然に自分の存在に気付かれて、彼女は硬直していた。ミスターはそんな彼女にお構い無しに歩み寄っていく。
「や。久しぶりだね、マリーちゃん」
「え、ええ。お久しぶりですね。テレジアさんの旦那さん」
 ミスターの挨拶にぎこちなく返事をした女性、マリー=セシール・キャンデロロは、企業からの依頼をカラードを通じて依頼を受け渡す仲介人の一人である。管轄はインテリオル・ユニオンであり、トーラスに所属するミスターと共にインテリオルの関係者と云う事になっている。完全な企業人であるミスターと違い、半分はカラード所属であるが。
「一人かい?」
「ええ、そうですが。それが何か?」
「妻の用事で来たんだけど、彼女、用事が長引いて暇してるんだ。お話でもしないかい」
「はい、構いませんが」
「ありがとう。でも他の場所にいかないか。ここは少し騒がしい」
 あの”Woman Eater”ミスターが声を掛けているという事に、ひそひそと耳打ちするなど周りはざわついている。
 マリーの態度も硬いのもそれを意識してのものなのだろう。
「折角久しぶりに逢えたんだ。つもる話もある。出来れば静かな場所がいいかなと思うんだけど」
「お話するだけなら構いません」
 何処か睨んでいるように見上げながらそう言ったマリーにミスターは愛嬌のある困った笑みを浮かべる。

 角を曲がり、また角を曲がりと好奇の視線と耳打ちもやがて二人を見失った頃、静かな廊下でマリーが硬い口調で言葉を出した。
「テレジアさんの旦那様、どちらまで行くつもりでしょうか」
「寂しいな、マリーちゃん。前みたいに呼んでくれないのかい?」
「……何の事ですか」
「そうだね、例えば――ベッドの上で息遣い荒くしながらも凛としたのを崩さない、あの美しい声で」
「やめて!」
 回想するように天井を見上げながら茶化すようにミスターが嬉々として語っていると、マリーが声を荒げた。
 そう、彼女も”Woman Eater”の嘗ての獲物の一人である――珍しく一夜の限りの関係では終わらなかった稀有な獲物の一人。
 眼の前を歩いている男の名を其の大きな身体の下で甘えるような、上擦った声で囁いていた事のある女だ。
 傷心の記憶に感情を露にしたマリーであったが、普段の仲介人としての自分を取り戻すように――其の時に演じるのは柔らかな雰囲気であるが――髪を掻き揚げて、脚を揃える。
「お話をするのでなければ私は戻らせて頂きます。失礼します」
 余り人通りはないのだろう磨かれた様子の無いのに汚れていない床にハイヒールで汚れを残しながら、マリーが振り返ろうとする。
「マリー」
 だが背中にした名を呼ばれながら男に肩を決して強くない、容易に振り切れる力で肩を掴まれただけなのに、絡み取られてしまったようにマリーは止まってしまった。彼女は昔の事に耽るつもりなどなかった、何と言われようとそのまま去るつもりであったが、其の大きな手を振り払うことが出来なかったのだ。
 すっと背後に寄って来た気配に、早く行かなくては、と自分に言い聞かせるがそれでも何故か動けずにいると、髪を掻き分けるようにして耳朶に気配が接近して囁かれた。
「――僕と君の身体でお話しないかい? 僕達は其の方が昔の事を思い出せるだろう?」
 ――出してはいけない、出してはいけない
 何度も何度も刻み込むようにマリーは自分に言ったが、
「はあ……」
 ぶるりと震わせた喉から官能的な吐息を吐いてしまった。
 そうして気付いたらマリーは何時の間にかに男に壁に追い遣られていた。グラスを掲げるかのように顎を其の大きな掌に優しく持ち上げられて懐かしい香りと共に己の全てを見せた眼と、己の全ての味を知っている唇が近付いてきて覚悟を決めて眼を瞑る。
 口許に郷愁の甘美な記憶が蘇る――筈だったが、
「――おっと。君の答えをまだ聞いていなかった」
 気配はすっと頬の横を掠めていっただけだった。
 濡れた唇が安堵か、若しくは寂寞の吐息を吐く。
 記憶の中では力強く抱き締めてくれた、あの大きな体もただそっと触れているだけ。身体を擽ってくれた吐息も耳元を掠めているだけ。これではまるで少しぶつかった程度の道行く人と何ら変わらない。
 ――私と貴方はそれだけの関係じゃない。でも今は違うの? 
 数年前、決してこの腕にはもう抱かれないと別れを告げた固い決意が身体の奥底で燃え盛る情欲の炎に溶かされていくのをマリーは感じている。
 通り過ぎていった顔が再びマリーの顔を見据える。
「どうする? 君が嫌だと言うのなら僕はこのまま何もしないで君の前を去る」
 マリーは思い出していた。
 この男がどんなに自分の事を褒め称えてくれても決して愛してるとは言わなかった事を。
 そういう関係である事は承知しているし、妻がいる事も分かっていた。だがベッドから出て行く彼を常に行かせたくないと想っていた事を。
 何度扉の向こうに消えていく広い背中に言おうとしたか分からない。それでも言えなかった事を。それが嫌で、苦痛で、苦しくて。マリーは男との関係を絶った。これでは一緒に居る意味は無いと思ったからだ。彼の心は自分の傍らに一瞬たりとも無かったのだから。
 それでも泣いた。毎夜抱かれていた訳ではないが夜は寂しかったから。
 そして今、再会してマリーは己の本心を知った。心までも見透かしてくる眼に捉えられながらマリーは素直に感情を吐露する。
 この人が其の存在が傍に居てくれるのならそれでいい、それだけでいい、と。
「――抱いて」
 己の全てを掌握した手が衣服を、心に被っていた拒絶を剥がしに掛る。
 暴かれていく感覚に、全てを彼の眼に曝け出す瞬間にマリーは酔い痴れている。彼が自分を見てくれる事に恍惚としている。
 歳を取っていないのだろうと昔から思っていた男は昔通りだった。決して強制する事はしないが、いざ委ねると容赦が無い。
 マリーが今正に生まれたままのまっさらな姿にされている此処は幾度も逢瀬を重ねてきた経験のある、人通りの少ない場所とはいえ、建物の一角であり、誰が来るかは本当の所分からない。なのにシャツのボタンを開けてブラジャーをずらすとか、スカートを捲くってショーツをずらすとかそう云う事はしない。プレイの一環で着衣のままと云うのもあるが、何か心にある時は――例えば最初に身体を重ねた時もそうだったし、そして今も――本当に一糸纏わぬ姿にする。
 ぱさぱさと軽い音を立てて、スーツの上着が、シャツが、スカートが、ブラジャーが、ストッキングが、ショーツが床に落ちていく。身に付いているのは不恰好にハイヒールだけになった。
 二人しか居ない冷たい廊下の空気がマリーの表皮を粟立たせ、乳頭を尖らせる。
「んんっ」
 口を塞がれて無遠慮に舌が割り込んできた。唐突にである。何の一声も無い。
 しかしマリーは冷静そのもので、予め準備していたように侵入者を受け容れた。舌の動かし方も男に教わったものだ。動かしている自分で淫らだと思うが、唇を塞がれている事に、彼に侵入されている事が嬉しくて堪らないと云う風に、マリーは眼前の身体に凭れ掛り、一枚たりとも脱がされていない男の衣服の端を掴む。
 男の唾液を受け取りつつ、自分の唾液を流し込みながらマリーは顔を退いた。唾液が自分と彼を繋ぐ糸を紡ぐように。
「変わってないね。マリー。君は覚えがよかった――どうすればいいか覚えている?」
 マリーは素直だと褒められた事が彼に嬉しかった事を思い出し、子供のような殊勝さで以って「はい」と答えてから跪いた。膝が冷たい床に触れる。
「でもやっぱり時間が経っているから復唱した方が思い出し易くなるんじゃないかな」
 聖人のように優しく微笑みながら意地の悪い事をさせるのも変わってないと思いながら、それでも「はい」と返事をしてから、ズボンのファスナーを下げて出来たスリットと、其の更に奥にあるスリットに指を伸ばして、まだしな垂れているペニスを引っ張り出した。
 幾度も自分の奥底を貫き、天国へと導いてきたモノとの再会にマリーは歓喜の吐息を漏らす。でも血の通っておらず柔らかいと云う事はまだ彼の身体が自分に欲情し切っていないと云う事でもあり、少し寂しく思えた。だがそうさせる為に教わった事が数年ぶりに行なう事である。
 ごくりと生唾と共に羞恥を奥底に仕舞い込みながらマリーは口を開く。
「ンっ……ペニスを……」
「ダメだよ、マリー。君の声はとても綺麗なんだ。だから其の声をもっといやらしく使わないと。それも教えたよ」
「あ。はい。思い出しました……ンンっ、お……おちん○を、大きくします」
「そう。いい子だ。それで、どうやってするんだっけ?」
 頭を撫でられてマリーは嬉しそうに眼を細める。
「手で握ったり、扱いたり、舌で舐めたり、口に咥えたりします。そのまま、射精させる事もあります」
「うん、よく覚えてたね。でも今日は早く君と繋がりたいから勃起させるだけでいいよ」
「はい……では、失礼します」
 マリーはしなっていた陰茎を真っ直ぐにすると両手で握って、上下に擦り始める。
 とくんとくんと脈打つのを幹事、男が声を漏らしたのを聞いて、夢にも見たし、幾度か一肌恋しい夜には思い出して自慰に耽ったモノが眼の前で自分を貫く為だけに力を得ているのだと思い、秘所が疼いた。今すぐにも掻き毟りたい衝動を抑えながらそれでも内腿を擦り合わせていると、
「興奮してるのかい?」
「は、はい。おちん○欲しくなっています……ンっ」
 眼の前で固くなりつつある肉棒への劣情の度合を示すかのように舌を根元から這わせていく。男が甘い声を漏らし、マリーの秘所から蜜が溢れる。彼のモノはかなり大きいので、ゆっくりとはいえ先端にまで到達するのは時間が掛った、雁首を弾き、亀頭の表面を手でも撫でながら鈴口の腺液を吸い上げて、マリーは口を離してから「あぁ、すごい……」と感嘆の声を漏らした。
 既に隅々まで力に漲った男根は雄々しく、放つ芳香に鼻腔すら愛撫されている。蕩けたように鉄の棒のように聳えるモノを熱の篭った視線で眺めていると男は「それじゃあ、マリー立って」と促したが、マリーはモノを握ったまま言った。
「あ、あの……少し、少しだけでいいですから……おちん○咥えてもいいですか?」
「あはは、可愛いなマリーは。そんなに好きならしょうがないね」
「はい。私、好き、です……おちん○大好きです」
 ぶるぶると期待に身体を震わせながらマリーは男の野太い性器を頭から咥え込んだ。男に教えられた通り、先端だけを含めて舌を淫らに遣いながら、根元を扱き上げる。普通の大きさならば口吻に触れそうだが、彼のモノならば扱く余裕は随分とある。
「ふぅっ、おいしい……おいしいよぉ……ぁむンっ」
 眼下に臨みながら、これだけのものがよく自分の中に入ったと驚くぐらいであったが、牡の芳香が口腔を包み、腺液の味が舌先に広がる頃には大きさなど気にならず、マリーは弛緩した表情を浮かべていた。
「マリー、そろそろいいかな。君も物欲しそうな顔になっているし」
「ふあ……? 分かり、ました――あっ、ごめんなさい」
「おっ、と。こうなると腰に力が入らなくなるのも相変わらずだ。という事は口で感じてたんだね」
 立ち上がろうとしてバランスを崩したマリーを男が確りと受け止める。胸に頭を寄せながら髪を撫でて耳朶に囁くと、マリーは下半身に密着している陰茎を擦りながら抑揚の無い調子で言った。
「はい。私、咥えて感じてました……」
「従順なあの頃の君にすっかり戻ったね。嬉しいな。寂しかったよ、君に冷たくされるのは」
「ああ……私も、嬉しいです」
 確りと抱き締められてマリーは男の背中に腕を回して法悦の声を上げた。
 暫く抱擁の時間が続いていたのだが、背中に回していた腕の力を強くしながらマリーは言った。
「挿れて、下さいっ。もう、濡れてしまってるんです。貴方の欲しくて、堪らないの……っ」
「ん。分かった。どんな風にされたい?」
「貴方の顔を見ながら……その」
「あはは、イクのが前提なんだ。セックスの経験があってもイった事の無い女性は世の中にごまんと居るよ」
「だって、あなたに抱かれて私……迎えなかった事は……イカなかった事は、ない、ですから」
 男は嬉しそうに「男冥利に尽きるね」と言いながらマリーの身体を離して背中を壁に押し付けると彼女の脚を持ち上げた。陰毛を被る秘所を暴かれたマリーであったが嫌そうな素振りは一切見せず、寧ろ其処を見られた事に、触れられてもいないのに期待だけで受け容れる準備が出来てしまっている場所を見られた事に嬉しそうに溜息を吐いてから、決められた手順をこなすように、それでいて熱が入っている風に、自ずから其処に手を遣って、濡れそぼった陰唇を開いて男を誘った。
「ここに、私のおまん○に……貴方の逞しいおちん○、突っ込んで……掻き回してぇ……っ!」
「うん、良く出来たねマリー。本当に君は良い子だ」
 マリーは己が吐いた言葉を思い返すだけで羞恥に身が焼かれそうであったが、男が笑った事に、喜んでくれていると分かった事が嬉しくて、更に褒められて、殊更に入り口を大きく開いた。
 数年間、自分の指だけしか入れられる事の無かった秘肉が口を開けて、内壁の間で涎の糸を引く。
「じゃあ、行くよ……」
「うあっ! 大き、い……くぅっ!」
 男が体重を前に押し付けてくる。
 扉が開け放たれている膣口に充血した肉の砲弾がゆっくりと押し拓きながら侵入してくる。余りの太さにマリーは悲鳴を上げるが、それでも身体は求めていて、苦痛を自分から甘受するかのように腰を突き出している。
「はあぉっ!」
 ぐぽっ、と音を立てて先端が無理矢理胎内に押し入って、入った後も膣壁を押し広げる圧迫感にマリーは息苦しさを覚えながら仰け反る。しかし膨らんでいるとはいえ、殆ど同じ太さの幹はまだ侵入していないのだ。その事に恐怖と期待を覚えながら静かに喘いでいる。
 男も自分が落ち着くのを待ってくれているのかと思っていた。
「かはっ!」
 しかし、めりめりと容赦なく淫茎が進入を始めて、マリーは声を出せないまま、かぶりを振る。
 予想通りに男はこんな時にも優しい笑顔を浮かべて――
「はっ……ぐぅ……っ!」
 久しく男を忘れていた膣内に全てを一気に突き込んだ。
 ごりっと音を立てて亀頭が最奥を抉った音を境に――マリーの記憶は混濁している。
「はあぉっ! はおっ! はああぅっ!」
 冷徹と云える程に秘所を蹂躙された事と、自分がそれに夢現の中で善がっていた事は覚えている。
 他には口は開きっぱなしだったとか、もしかしたら舌も突き出されていたとか。
 それと――男が微笑みを向けていてくれた事とか。
 最後に「前みたいに僕の名前を言って」と言われて、下腹部から凄まじい音がするのを聞きながら、失神寸前の身体を何とか男の身体に凭れさせて、
「……」
 自分でも聞こえたかどうか定かではない小さな声で彼の名を呼んだ事や、そしてそれを引き金にしたように、広げられた膣内の中で射精が始まった事なども覚えている。
 放たれた精液の熱が引き抜かれた彼のペニスと一緒に広がったままの膣口から抜け出た時に意識を失ったらしい。

 眼が覚めたら、マリーは男に寄り掛かる様に座っていた。
 ぼんやりとした意識の中でも秘所に燻る熱があって、寝ている間に彼に犯された――いや、愛された事は分かった。
「ん? 起きた?」
「……はい」
「ちょっと起きるのが早かったら、また気絶していたかもしれないね」
「もう」
「久しぶりの君の寝顔――それにイキ顔、可愛かったよ。寝ていても確り喘いでくれてたしね。やっぱり君は――いや、止めとこうか。起き抜けは機嫌が悪い君の機嫌を更に悪くしたくないな、あははは」
 男は大柄の身体で彼女を包み込んで髪の毛を撫でながら愉快そうに笑った。
 するとマリーは身体を振り返らせて、彼の胸に顔を埋める。
「嫌いです。貴方なんか大嫌いです」
「……そうか、どんな所かな、直せるといいけど。でも五十も遠くないしな、難しいかもね」
「意地悪で、酷くて、性格が悪くて、女なんか道具にしか見てないし、強制はしないなんて態度取ってるけど私がどうするかなんて知ってるからそう言えるんだし、それから……それから……!」
 一頻り言ってからマリーは男の胸の中で泣きじゃくった。
「ごめん。マリー。どれも直せないな。あ、でも女性を道具とは思ってない、それは誤解。――そうか、嫌いかぁ。僕は君の事まだ何度でも抱きたいんだけどな」
「どうせ好きじゃないんでしょう?」
「好きは好きさ――ただ、愛せない。僕には妻が居るからね。妻が居るから君を愛せないんじゃなくて、彼女以上に好きな人がいない。だから、君を愛せないんだ。申し訳ない、悪い――とは、思わないよ。君や、君達にそう思うのは、卑怯だからね」
「……知ってます」
「ああ、この話は前もした。君は納得したと思ったけど、結局離れていった。まぁ、彼女が割って入ったのも原因かな、でも決して悪気があった訳でも嫌がらせのつもりでも無かったんだ。純粋にプレイのため」
「……それも知ってます。貴方もとても楽しんでいらしたし」
「そりゃそうだ、あははは――さて、どうする、もうこういう関係はやめとく? 君が嫌なら――僕は構わないさ。所謂、去る者は追わないのが僕のポリシーだからね。来る者全員を拒まない、とまではいかないけどね」
 マリーは男の衣服を千切れんばかりに掴みながら押し黙った。
 彼とのセックスは時として今のような失神してしまうほどの快楽を得れる。
 だが数年前と同じで結局、疲れてしまうのだろう。彼が特定の不倫相手が長くいないのは、恐らく自分に心が移る事が無い事が分かってしまうのだろう。見知らぬ彼女等も自分と同じだ。
 でも自分は気付いてしまった。傍に居てくれるだけで自分は満たされる。
 心は得られなくても身体さえあればいいとは――人並み外れた容姿に、人並み外れたペニスがあればいいなどとは言わない。
 ただ、彼と云う存在が傍に居てくれればいいのだ――。
「また……」
「ん?」
「また抱いて下さい」
「ああ、分かったよマリー」

「――さっきは、ああ言いましたが。出来れば、普通がいいですからね」
「わかった、わかった。考えておきます」
 それからミスターはマリーの身体を幾度も貪った。
 立たなくなった足腰が回復するのを待ってエントランスの方に戻りながら顔を赤らめる彼女にそう釘を指されたが、ミスターは釘を抜く気満々であるのは云うまでも無いだろう。
「それでは……ンンっ、また今度」
「うん、また今度」
 そしてガラス張りで強い西日が差し込むエントランスで恥ずかしそうに脚を僅かにふら付かせながら去っていったマリーと別れて、そろそろかなとポータブルを眺めながら妻を待っていると、

「おや、旦那さん。お久しぶりです」
「ん? おや、久しぶり」
 男が話し掛けてきた。軍服に身を包んでいる。
 ミスターよりも背は低いが恰幅が良い、しかし肥えている訳ではなく、鍛え上げられた筋肉だ。ミスターのスーツでは彼の腕は通らないだろう。
「奥さんを待っておられるのですか」
「うん、ちょっと用事が長引いているようだ」
「そうですか……」
 すると男は辺りをきょろきょろと見渡しながらミスターに尋ねた。
「ところで旦那さん。スティレット、エイ、ウィンディーらが何処に居るか知りませんか?」
「あの子達? いいや、知らないな。どうしてだい?」
「いや、顔を合わせる機会が少ないので、久しぶりに一戦交えようかと思いまして」
「真面目だね、君は。”オーダーマッチ”するぐらいなら口説きなさいよ」
「あなたと違い、私はそちらは不得手でして」
「何かと教えてあげられるよ? いっとく?」
「いや、遠慮しときます……しかし”部屋を出たのは同じ”なのに何故見付からないのか。彼女等は階段を使ったから先に着いている筈だったのに」
「え? 君達の訓示は早く終わったんだろう? 今までずっと待ってたのかい」
「いえ、シミュレーターで訓練していました……そうそう、予定表にストレイドのリンクスの名前も見えたのですが、こちらも何故かシミュレーターを使った様子が無い。まるで神隠しです」
「ストレイド……ああ、あの子か。そういえば訓示したのって、もしかして、あの蝦蟇蛙?」
「はい……あ、いや、その」
「聞かなかった事にするよ。あの人、僕と違って露骨にいやらしいからなぁ。スティレットちゃん達はエレベーターに一緒に入るのが嫌だったんじゃないかな」
「なるほど……僕と違って? ……あ、これも失言でしたな。出来れば、こちらも聞かなかった事に」
「いいよ。アルドラの可愛い女の子紹介してくれたらね」
「だから旦那さん、私はそっちが苦手だと……」
「冗談だよぉ。やっぱり真面目だね、”ヤン”君は。学生の頃、イジられてたでしょ? 僕みたいのに」
「ははは……御明察です」
 そう、今までミスターと世間話をしていた、突然現れたこの男は、
 所属するアルドラからグループ宗主のインテリオル・ユニオンからカラード本部への招集を受け、
 スティレット、エイ、ウィンと蝦蟇蛙の訓示を一緒の部屋で受け、
 階段へ向かってごたごたに巻き込まれた彼女等とは違って、蝦蟇蛙とエレベーターに乗っていた男こそは
 インテリオルグループ最後のリンクス、嘗ての英雄〈オリジナル〉が一人、ブラインド・ボルドを愛機とするカラードランクNo.13 
 ――”ヤン”その人であるッ! 
「時間も時間ですし、私はそろそろ帰ります。では奥様に宜しく」
「どっちの意味で?」
「……普通の意味で」
「僕の妻にとっては”そっち”も普通かもしんないよ」
「では何といえば」
「一回ヨロシクされてみる? 最近、マッチョとしたいって言ってたから丁度いい」
「……失礼します」
「冗談だよぉ。怒らないでよ、ヤンくぅん!」
 ――つまり、彼の出番はこれだけである。
 


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