Written by 独鴉



カラードランクマッチ 29
ミセス・テレジアとの戦い

セレン・ヘイズは一人机へと向かい、3時間前に行われたカラードマッチのデータをまとめていた。

[・・・リンクスにAMS負荷は感じられず、引き続き監視を続ける。以上で報告を終える]

キルドーザーとの戦闘結果を報告書にまとめ、オペレーター側の戦闘映像と共にセレンはカラードへデータを送信した。
セレン・ヘイズがオペレーターとして各方面に持つコネクションを維持するため、カラードの研究所にランクマッチ中の戦闘データを送ることになっている。
もちろんこの事をリンクスは知らないが。

「・・・そろそろ行くか」

そろそろリンクスとミセス・テレジアの駆るカリオンとの戦いが始まる。
セレンはカラードの情報室から出るとかラードマッチのオペレータールームへと向かった。

「テレジア・・・か」

GAEが壊滅した後、脱出に成功した研究員や技術者と共にミセス・テレジアは発足したばかりのインテリオル・ユニオンに救援を求めてきた。
当時インテリオル・ユニオンの主力リンクスであった私はインテリオルの総意を受け、GA部隊の追撃を受けているGAE残存兵力の救援を行った。
それから稀に話す程度の仲ではあるが、トーラスの良くない噂と彼女の素行から最近は連絡を取っていなかった。
今では身の安全と機体テストの為にわざわざ下位リンクスとしてカラードランク29にいる。

考え事をしながらカラードの通路を歩いていくと、オペレータールームの前で見慣れた人物とセレンは出会った。

「自分のリンクスのカラードマッチ中だというのに随分ゆっくりとご到着ですね。セレン先輩」

セレンにも負けず劣らずの鋭い目つきと眼光、そしてセレンと同質の冷たい雰囲気を纏う数少ない女性、ウィン・D・ファンションが壁に寄りかかりながらセレンを待っていた。

「ウィンDか、そちらから来るとはどういった用件だ?」

セレンはウィンDの事をろくに見向きもせずオペレートルームを開くと中に入った。

「この二回後にローディーとカラードマッチが予定されているついでだ」

ウィン・D・ファンションもその後に続いて入ると扉は閉められた。
暗い部屋の奥には大型ディスプレイ一機と小型ディスプレイが複数設置され、ストレイドの戦闘映像と刻一刻と変化する詳細な機体データが表示されている。
セレンは大型ディスプレイの前におかれているイスに座るが、ウィンDは壁に寄りかかったまま戦闘映像を見ていた。

ストレイドはアンテナの間をすり抜けることでカリオンの砲撃とミサイルを障害物にぶつけ、
戦闘エリア中を逃げ回るストレイドとカリオンの追いかけっこが5分を過ぎたとき、急にストレイドの動きが変わった。

いままで逃げ回っていたストレイドだが、MARVEとTRESORを構えながら高速でカリオンの背後を取ろうと動き出した。
一方カリオンはすでに弾薬が枯渇していたBISMUTHコジマミサイルとSULTANをバージ、
両手に持つBZ‐BROCKENバズーカとALLEGHENY01ミサイルを撃ちながら後退を始めた。
威力重視の武装であるカリオンは長時間の戦闘には向いておらず、常に攻勢に出ていたカリオンの弾薬が切れかけるのは当然だった。
戦闘映像をセレンと共に見ていたウィンDは呆れた表情を浮かべながら口を開いた。

「弾丸切れを待つようなリンクスが今後使い物になるのか?」

「・・・今回は損傷を30%以内に収めろと伝えてある」

セレンも眉間にしわを寄せて苛立っているようだが、自分の命令を遂行するためにストレイドはこの行動を取っていた。
ウィンDはセレンの言葉を聞いて機体装甲の総合状態を示すディスプレイに目をやった。

「AP91%か、手段はともかく回避はきっちりと出来ているようだが」

確かにただスピードに任せて逃げ回っているわけではなく、ストレイドはQBの出力を微妙に調整することでアンテナの間を上手くすり抜け、
僅かに減速と同時にQTと再度MQBで離脱を繰り返していた。基本中の基本動作がきっちりと出来ている証拠でもある。
だが、それだけだ。攻守が完全に入れ替わったことで、後一分もすればストレイドのDRAGONSLYERのレーザーブレードがカリオンを捕らえるだろう。

「確かに私の指示どおり30%以内に損傷を抑えるだろうが、これはお仕置きだな」

(・・・あなたはレオーネ・メカニカが合併してからも、昔と何も変わっていない)

険しい表情を浮かべるセレンを見て少し寂しい表情をウィンDは浮かべた。
彼女はセレン・ヘイズが新人リンクスの教官を勤めた一人目の生徒だが、気の強い性格から上層部などと意見が合わず、
ウィンDの訓練期間が終わると同時にセレンは企業から遠ざかってしまった。
今ではお茶会などと呼ばれる有力企業代表リンクスが集まる場に、
ウィンDがインテリオル代表として参加しているが、本来はセレン・ヘイズが代表として選出されていた。
国家解体戦争とリンクス戦争を生き延びたオリジナル・リンクスとしての実力は十分だった。

セレン・ヘイズの、いや霞スミカのネクスト シリエジオはカラードではなく、
インテリオル・ユニオン、旧レオーネ・メカニカの専用整備施設でいつでも出撃可能な状態で整備されている。
そのことをセレンは知らず、カラードのインテリオル系格納庫で埃を被っていると思っているだろう。
元レオーネ・メカニカの女社長、現インテリオル・ユニオン会長がいまだに信頼を置いているのは私とセレン・ヘイズの二人だけ。
巨大に成り過ぎたインテリオルは幹部同士の裏切りや謀略によって内部は混沌としており、
さらにトーラスという不安要素が増えたことでさらに内情は不安定となっていた。
ウィンDがカラードに来た本当の目的は、霞スミカにインテリオルに戻って欲しいと伝えるためだった。
スティレットは企業内争いに興味はなく、エイ=プールは中立、テレジアはトーラス専属。
レオーネ専属時代から何者にも染められず、強い意志を持った霞スミカは使い勝手は悪いが金や権力で裏切る人物ではないからだ。

「どうした。何か言うことでもあるのか?」

考え事をしているうちにストレイドとカリオンの戦闘は終わっていた。
セレンは戦闘データが記録されているデータディスクを手に持ち、すでにオペレータールームを出ようとしていた。

「いや、なんでもない。それでは私も準備があるのでこれで」

ウィンDはオペレータールームを出るとレイテルパラッシュが置かれている格納庫へと向かった。

(セレン先輩ならきっと私が何を言っても無駄だ。いつも自分自身の意思で決める人なのだから)

そして・・・・
カリオンとのカラードマッチを終え、AMSとのリンクを解除する。
相変わらずの頭痛と吐き気を抑えながら狭いコックピットハッチを開くと、ストレイドからゆっくりと降りた。
リンクス用に処方されている鎮痛剤と吐き気止めの混合の錠剤を前もってセレンさんから渡されているが、
服用後長時間に渡って緩慢な眠気が襲ってくるのが欠点だ。
数秒間考えた後、結局薬を飲まずにしまったまま片手で痛む頭を押さえながら待合室へと向かった。

待合室・・・・
「あのざまは何だ!」

セレン・ヘイズは戦闘を終えたリンクスが戻ってくるなり怒鳴りつけ、
コンクリートの上に正座させている。

「30%以内に損傷を抑えろと言ったが、カリオンが弾切れになるまで逃げ回れなどと命令はしていないぞ!」

リンクスは固い床の上で小さくなりながらセレン・ヘイズの言葉を黙って聞いている。

「相手が熟練リンクスとはいえ情けない!」

怒りは収まるどころかどんどん加熱しているようで、口調がどんどん強くなり、
手に持っていたセレブリティ・アッシュのデータが掛かれていると思われる紙を棒状に丸め、
もう一方の開いている片手に打ち当てていい音を立てている。

「相手が四脚型とはいえ重量タイプ!高速突撃型のアリーヤなら回避しながらも十分に攻撃は可能だ!それなのにお前は!!!」

その後、冷たい床の上で足の感覚が鈍くなるまで説教を存分に受けた後、
翌々日に行われるセレブリティ・アッシュとのカラードマッチに備えて解放された。


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