小説/長編

Written by えむ


 今、インテリオルの基地では、着々とVOBの発射準備が進んでいた。取り付けられているのは言うまでもないタンク型のネクスト。ランク31 レックス・アールグレイの駆るフォートネクストだ。

「今回の装備は―――これは…」
「ギガベースは張り付ければ、こちらに勝機はある。さすがに主砲の威力はランドクラブとは比較にならないから、接近戦挑むしかない。だから機動性重視にした」
「…そうか。だが…これはアリ…なのか…?」

 フォートネクストを見上げる。その両手には、レーザーブレードのドラゴンスレイヤー。肩には追加ブースター。これだけ見れば、ブレードを主体に置いたアセンと言えよう。問題は機体がタンクという一点に限るが。

「そして、何が何でもグレネードは積むんだな…」
「タンク乗りの命だからな。これでも妥協したんだ」

 そう答えるレックスの視線には、背中に積まれたアルドラのGRB-TRAVERSの姿があった。
 今回の切り札は、あくまでドラゴンスレイヤーであって、グレネードを使う予定はないが、それでも積むのがレックスなのである。

 その後、順調に準備は進み、いよいよミッション開始まで3分を切った。
 レックスはすでにフォートネクストへと乗り込み、あとはVOB点火を待つだけだ。
 が、発射直前。

「どうしてもやらなきゃ…駄目?」

 レックスの情けない声が通信機越しに届いた。そんな彼の声を、セレンはムーンライトでばっさり断ち切る。

「駄目だ。問答無用。VOB点火してくれ」
「ちょっ。待っ―――いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 巨大なブースターが点火され、その大推力によって一気にフォートネクストを前へと飛ばす。速度計は、見る見るうちにあがっていき、時速1300kmへ到達。

「やっぱり怖いっ。怖いってぇぇぇぇぇぇぇっ」

 例のごとくパニクるレックスの悲鳴を聞き流しつつ、セレンは密かに思った。今後のために、何が何でもクイックブーストなどに慣らしておく必要があると。この調子では、将来的に絶対にまずいと…。
 が、まずは目前の敵だ。生きて帰らねば、特訓どころではない。
 VOB点火から約4分。第8艦隊の駐留する海域へと到達。

「もうすぐ作戦海域だ。ギガベースからの砲撃に注意しろ。拠点型とはいえ、AF。火力はでかいぞ」
「今度は、相対速度的に考えて、ギガベースの砲撃かわせる自信もないんですけど」

 レックスの不安は最もだった。前回のミッションのように同じ方向に進んでいるわけではなく、砲撃は逆方向に飛んでくる。つまり、VOBのスピード的に考えて、通常とは比較にならない速度で飛んでくるのだ。そんな高速に対応できるはずがない。
 が、セレンのアドバイスはこうだった。

「砲声が聞こえたら、サイドへクイックブーストで動け。それで避けれる」
「…なんていいかげんな…。……うおっ!?」

 そう言いかけたところで、前方から轟く砲声。レックスは弾道も確認せず、ただクイックブーストで機体を横へとスライドさせた。その、すぐ横を超高速で大口径の砲弾がすり抜けていく。

「ひぃぃっ!?」
「避けれただろう?その調子で行け。次が来るぞ」
「つ、次…? き、来たぁぁっ!?」

 第二射。それも避ける。第三射。避ける。

「はぁ…はぁ…。こ、この間隔なら―――」

 連射速度はそれほどでもない。このくらいなら、なんとかなるかもしれない。そう考え始めるレックスだったが甘かった。
 連射速度が上がったのである。

「え?ちょっ。うわっ!?何か音が連続で…おわっ。どわっ。ぎゃぁぁぁっ!? こ、こんなのっ。聞いてっ!!ねぇっってっ!! てか…っ!!もうや…っ!!だぁぁぁっ!!」

 間髪いれずに飛んでくるギガベースの砲撃。しかし、なんだかんだ言いつつレックスはそれらを全弾回避していた。砲撃を見切っているわけではない。ただセレンの言うとおり、音がしたら横へクイックブーストをしているだけのことなのだが。
 それでも、なんとか全弾回避しつつ突き進む。
 この調子なら、なんとかなるか。そうセレンも思いかけた、その時のことだった。

「……!?」

 非常事態を知らせる表示が点灯する。すぐさま調べると、VOBのブースターの一つに突然爆発したことがわかった。

「くそっ。VOBに異常発生だ。このままでは爆発するぞ!!」
「な、なんだって!?」

 後方を確認する術のないレックスは、ただ驚くしかない。一応コクピット内にも、VOBの異常を知らせる表示は出ているのだが、砲撃回避で精一杯の彼にそこまで気を配る余裕はない。

「やむをえん。VOBをパージする」

 ギガベースまでの距離は、まだ相当にある。だが、今はレックスの安全を確保する方が先だ。
 パージ用の爆発ボルトが点火し、VOBが空中で分解。大推力によって押し出されていたフォートネクストは、その勢いで前方へと投げ出されるも、なんとか海面へと着水する。

「ここから通常推力でギガベースに接近するしかない」
「……ぼ、僕的には、そっちのほうがいい…」

 VOBの高速環境下から解放され、落ち着きを取り戻し始めるレックス。
 すぐさまオーバードブーストを展開し、前方正面―――ではなく斜め方向へと機体を飛ばす。

「どこに行く気だレックス!!ギガベースのいる方向はそっちじゃないぞ!?」
「わ、わかってる。でも艦隊のど真ん中を突っ切ったって的になるだけだ」

 機動性に長けたタイプならともかく、こちらは所詮はタンクだ。機動性がほとんどない以上、全方位からの集中砲火を受ければ、回避力が低い分…無事ではすまない。オーバードブーストを使えば、その間は安全かもしれないが、エネルギーが切れた時が危険だ。
 じゃあどうするのか。答えは艦隊を避けていけばいいのである。いくら機動性がないとは言え、艦船とネクストでは天と地の差もある。向こうはこちらを追いかけることは出来ない。
 それを踏まえて、、大きく横にそれたルート――艦隊の端の、さらに外側から回り込むルートをとり、オーバードブーストで突っ切る。途中でエネルギーが切れるが、艦隊を避けたルートであるため、大した攻撃も来ない。危険なのは、ギガベースの砲撃くらいだ。
 しかし、それも高速下でなければ、レックス自信の技量でも充分回避可能なものだった。
 オーバードブーストのエネルギーチャージの時間をクイックブーストで稼ぎ、再びオーバードブーストを起動。それを数回にわたって繰り返し、ついにギガベースの横腹を視認できる距離まで近づいた。

「見えた…!!」

 なおも飛んでくる砲撃をかわし、最後のオーバードブーストを吹かす。
 あとは正面突破あるのみ。主砲の死角に入ったのか、脅威的だった砲撃は止まっており、代わりにミサイルや機銃による迎撃攻撃が始まる。
 しかし、その程度問題はない。タンクとは言え、オーバードブーストで1000km近い速さはあるのだ。機銃の弾幕などによって多少の被弾はあるものの、それらはPAと装甲で弾き、そのままギガベースの横腹へとフォートネクストを突っ込ませる。
 グレネードを撃ちつつ近づいていき、両手のドラゴンスレイヤーを起動。そのまま勢いに任せて、両手をギガベースへと突き刺す。
 収束されたエネルギーが装甲を貫いた。その一撃は、ギガベース全体からすれば小さな物だったが――――燃料タンクか弾薬庫か何かを貫いたのだろう。
 そこから起きた爆発は瞬く間に広がり、ギガベース全体を包み込んだ。
 
「ギガベースの撃破を確認。よくやったな」

 とりあえず完全に沈黙したギガベースの上へとフォートネクストを降ろしたレックスに、セレンの労いの言葉が届いた。

「あぁ、ありがとう。一時はどうなるかと思ったけどな。VOBは爆発するし―――。もう本当にVOBとか嫌だ…」
「まぁ、今回ばかりは私も同情を覚えざるを得ないな。とりあえず今日は休め」
「わかった。そうする」

 そう答え、少しばかりコクピットの中で身体を伸ばす。すでにギガベースが敗れたことで第8艦隊の残存艦は撤退を始めているが、そちらへの攻撃は依頼の枠の外だ。
 そんなわけでインテリオルの回収部隊が来るまでの間、レックスは少しばかり足を伸ばすのであった。

 その数日後。
 それは訓練のため、カラードへとやってきた時の事だった。

「色々考えたのだが、やはり高速下の動きになれるべきだと私は思うんだ。タンクで高機動戦をやれとは言わんが、お前の高速嫌いはなんとかする必要がある」

 シミュレーターでスタンバイするレックスに、セレンはそう語りかけてきた。

「そこで高速下という環境に慣れるため、特別に機体を組んでおいた。お前はただそれに乗っておけばいい。戦闘機動とかはこちらでやる」

 つまり乗っておけばいいということらしい。だが、この時すでに―――レックスは少なからず嫌な予感を感じていた。例えるなら、セレンのおやつを盗み食いして、それがばれた時のような……。
 そして、その予感は見事に的中することになる。

「一体どんな機体なん……だ………と!?」

 シミュレーターが起動し、自分がどんな機体に乗っているかをコクピットのモニターで確認したレックスは絶句した。それこそVOBに乗ったときとは比較にならないくらいに。
 そこには――――アスピナの傑作機「X-ソブレロ」の姿があった。ただし頭は、オーメルの最軽量ヘッドHD-HOLOFERNES。極め付けに背中には、追加ブースター。
 気になって内装をチェックしたら、メインブースターはレイレナードのS-04 VIRTUE。ジェネレーターはアクアビットのLINSTANT/Gになっていた。その他の装備は全て重量重視でスペックは度外視。
 FRSメモリは全てジェネレーターとブースター周りに全振り。
 とりあえずアスピナでもやらないだろうと思える、超高速仕様だった。

「いぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ムンクの叫び状態で叫ぶレックス。だが時はすでに遅かった。
 
 特訓の結果。高速下への耐性はつくにはついた。あんな機体で1時間以上もクイックブースト機動をされれば、大抵の機体の機動は可愛いものだ。
 ただ……その後、数日にわたって毎晩毎晩うなされることになったのは、ここだけの話である。

To Be Countinue…


now:242
today:1
yesterday:3
total:2129


移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 気がつけば隔日更新をやってる気のしているえむです。
 予告どおりのAFギガベース戦(HARD)は、完全に自分のプレイが元となりました。
 いやぁ、やれば出来る物ですね。何度か挑戦しましたが、S評価取れました。出費は2400cr。
 ポイントは大回り。艦隊の外側からギガベースの横っ腹を突くようなルートで行くといけます。たぶん。

 さて次回は――。
 何人もの主人公リンクスをどん底に叩き込んでいそうなあの人が登場です。
 お楽しみにっ。


コメント



小説へ戻る