小説/長編

Written by えむ


 オーメル傘下の企業アルゼブラ。かつてイクバールと言う名であった企業は、リンクス戦争後に
は名を変えて存続している。強固な量産体制と特異な兵器開発思想を持つ企業は安くもそれなりの性能を持つ各種パーツと、射突ブレードと言った代物で有名な企業だ。
 そんなアルゼブラの兵器開発部門の一つが、一つの新兵器を作り上げた。その装備が開発された理由は、ただ一つ。
 ロマン。
 この一単語に全ては集約される。
 実用性だとか機能性だとか性能だとか、そんな物は二の次。
 古い時代に放映されていたあるアニメに心を動かされ、それを抑えることができず、気がつけば、彼らはそのロマンを形にしてしまった。ネクスト用装備として。
 そしてその性能テストを、噂のリンクスへと依頼。
 と、ここまでならいつもと変わらない展開だったのだが、今回の性能テストはいつもとは色々な意味で状況が異なっていた。

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「それではミッションプランをご説明します」

 目的地へと向かう輸送機の中で、アルゼブラの代表が厳かに口を開く。ちなみにイリアもオウガも今回依頼でテストすることになった装備がどんなものかは、まだ把握すらしていなかった。テスト前日にアルゼブラ社の地上基地へと、イリアの機体を搬送。そこで、すでに換装済みであることは明らかなのだが、朝のうちに輸送機に積み込まれていて、結局機体がどうなったのかは、いまだわからないのだ。

「今回はわがアルゼブラ社の開発した試作兵装のテストを行っていただきます」
「近接格闘…ということは、新しい射突ブレードか何かで?」
「いえ、それとは全く異なるものですよ。恐らく、元トーラスのあなたならすぐにでも気に入るかと」
「……ほぉ」

 不敵な笑みを浮かべるアルゼブラのスタッフに、オウガの目がキラリと光る。
 一方、イリアはそんな二人を交互に見つめ、そこはかとなく不安を感じていた。なんか嫌な予感がしてしょうがないのである。

「キシャァ…?」
「え? あ、うん大丈夫だよ」

 膝の上にいつの間にか乗っていた手乗りAMIDAことアミちゃんが心配そうにイリアを見上げていた。すぐにニコリと笑い返して撫でてやると、嬉しそうに目(?)をチカチカと点滅させる。

「そろそろ、作戦領域に到達しますので準備をお願いします」
「あ、はい。じゃあオウガさん。アミちゃん、行って来るね」

 ネクストが格納してある格納庫へと向かい、イリアはそこで愛機(名称決定・後日発表)の片腕に装備された武装に目を丸くした。

「こ、これって……」

 片腕を覆うように装着されたその試作装備。その先には円錐状の槍のようなものがついていた。いや槍ではない、円錐螺旋状をしている。つまり回転することにより、さらに本体を奥へと進ませ強引に穴を空けぶち貫く。ロボット物で良く見られるそれが、ネクストの片腕に装着されていた。
 しばし呆然とするも、すぐにネクストへと乗り込む。
 AMS接続。全システム起動。兵装システムをチェック。「ドリルブレード」の名称を確認。
 それから通信を開く。

「オウガさん。ドリル!!ドリルがついてる!!」
『ドリルだと?!ロマンの塊として名高い…あのドリルか!!』
『ふふふ。その通りです』
『おお…』

 自信たっぷりにアルゼブラのスタッフが笑みを浮かべ、オウガが感嘆の声を上げる。
 AFに掘削シールドなんて代物をくっつけるアルゼブラだ。ネクスト用にドリルを作ったとしても何も不思議ではなかった。
 かつてトーラスでもウルスラグナにドリルをつけようとしたことがあったのだが、インテリオルに妨害・却下されてしまったという経過があった。だがアルゼブラは、オーメルを見事出し抜いて作り上げた。それだけでも大したものだ。

「ところでどんなテストをやるのか、まだ聞いてないんだけど…」
『おっと、それは失礼。今回の作戦目標は、地上最強と名高いGAのグレートウォールを攻撃してもらいます』
「はい?」

 目を点にして聞き返すイリアの機体へとデータが送られてくる。

『性能テストですので対象は必ずしも破壊する必要はありません。ようは、地上最強の装甲にわが社の装備がどれほど通用するかが知りたいのです。もちろん撃破した場合は、ボーナスも出しますが』
「硬いものを貫くのがドリルの醍醐味…だものね」

 だからって、何もAF…グレートウォールで試さなくてもいいのに。そう思わずにはいられないイリア。だがグレートウォールの装甲だからこそ、その効果性がはっきりするのだ。
 続けてオウガからグレートウォールのスペックデータが送られてくる。

『ドリルの掘削試験だからグレートウォールに張り付く必要がある。敵の武装は大型のガトリンググレネードと多連装ミサイルランチャー。だけど、あくまで中~遠距離用だから懐に飛び込んでしまえば、向こうは直接攻撃する術をほとんど持たない。さらに現在グレート・ウォールは大規模輸送を終えて撤退中だ。内部突入しなければ、ノーマルとの戦闘もほぼないと思っていいだろう』
「可能性はゼロじゃないだろうけどね」
『うむ。まぁクライアントの言うとおり撃破狙いじゃないから、危なくなったらすぐ戻ってくればいいよ』
「うん。じゃあ行って来る」

 後部ハッチが開き、そこからイリアの機体が空へと飛び出す。今回の武装は右腕にアルゼブラのドリルブレード。左手にはACACIAアサルトライフルと、武装的には最低限のものだ。

「うわぁ、どれだけ大きいんだろ…」

 グレートウォールの射程外。安全圏からの接近となるが、相当な距離があるにも関わらず、その姿は巨大だと見るからにわかるものだった。
 ENの消費を少しでも抑えるため、地上をブーストで走る。やがて、向こうもこちらの接近に気がついたらしく、巨大なガトリング砲がその砲身をこちらへと向けるのが見えた。
 連続した砲撃音。
 すぐさまクイックブーストで、その場から右へと機体を跳ばす。今いた場所で、複数の爆発が続けておこう。
 
「さっさと近づいた方が良いかも、これは…」

 かわすのは難しくない。だがこちらの接近に気が付き、さらなる対応を相手が取ってくれば、それはそれで面倒だ。
 オーバードブーストを起動し、一気にグレートウォールへと肉薄する。そして先頭車両の横腹あたり、足場となるような段差のところを確保する。オウガが言っていた通り、グレートウォールそのものが壁となり、攻撃はこちらにまで来ない。
 
「よし、それじゃあ―――」

 ドリルブレードを起動する。キュィィィィィン…と言う独特の回転音が響き始め、イリアはその先端部をグレートウォールの装甲へと押し付けた。
 凄まじいほどの火花が散りはじめる。
 なかなかドリルは先へと進まない。さすがに地上最強と言うだけあり、グレートウォールの装甲は恐ろしいまでの堅固なようだ。
 だが、それでも一点を集中して攻めるドリルの力は偉大だった。少しずつではあるが、ドリルがグレートウォールの装甲に穴を穿ち始めたのだ。ただやはり厚みも半端なものではなく、貫通させるには、まだまだ時間がかかりそうだ。

『さすがドリル。グレートーウォールの装甲も貫けるとは―――』

 正確には貫いたわけではない。だがドリルが前進を始めたということは、つまり貫通可能ということであり、ドリルブレードの性能は、実証されたも当然であった。
 あとはやれるところまでやってみようと、さらに作業を続ける。だが、それがまずかった。思わぬ伏兵がいたのである。

「……きゃぁ!?」
『イリア君!?』

 突然機体が爆発と共に。大きな衝撃に揺さぶられた。だが右腕のドリルは深くはまっているため、イリアの機体はそこからすぐには動けない。
 攻撃を受けたと思われる方向へとカメラを向けると、グレートウォール上部の端から、こちらへと巨大な砲身を向けるタンク型のネクストがいた。

『有澤重工の雷電!? まずい、イリア君。すぐにそこから離脱するんだ!!』
「わかってる…!!」

 ドリルを逆回転させ、開きかけていた穴から右腕を引き抜く。そしてグレートウォールの壁を思いっきり蹴ると同時に後方へとクイックブーストで跳ぶ。
 僅かな時間差で二発目直撃を回避。だが至近弾により、巻き起こった爆発と衝撃が再度イリア機を襲う。

「……っ」
『イリア君。ドリルの効果は十分確認できた。撤収するんだ』
「そうしたいところだけど、……雷電だけでも何とかしないと逃げるのは無理そう。さっきのダメージでオーバードブーストが動かないの」
『なんてこった…。でも無茶だ、今の装備では雷電相手に―――』

 火力が足りない。持っている武器はACACIAアサルトライフルとアルゼブラ製のドリルブレードのみである。
 タンクとは言え、相手もネクスト。射突ブレード以上にネクスト戦闘には向きそうにないドリルで戦うのは、きっと困難だろう。なぜなら当て続けることで、その攻撃力を発揮するのだから。そしてアサルトライフル一丁で落とせるほど、柔な装甲をしている相手ではないのは百も承知だ。

「いや……勝てる…と思うよ。ドリルで。ネクスト戦であるまじき戦い方になるし、たぶん機体にも結構無理がかかるけど」
『…本当に?』
「雷電がタンクじゃなかったら無理だと思うけど。……それで駄目なら投降する。でも、やらせて?」
『……わかったよ。がんばれ』
「うん、がんばる」

 イリアはすぐに左腕のアサルトライフルをパージした。そしてクイックブーストを巧みに使いながら、雷電の方へと距離を詰めにかかる。
 接近してくる相手に雷電もOIGAMIから武器腕のグレネードへと切り替えて反撃してくるが、それでもイリアはそれらを発射のタイミングで機体を大きく逸らし、確実に距離を詰める。
 
『近接格闘を狙うつもりか…』

 イリアの機体の右腕の装備。それが近接装備であることはリンクスである有澤隆文も見抜いていた。それならばと、敢えて動きを止める。通常なら回避に徹すべきだが、雷電の戦い方は違う。
耐えた上で、それ以上の火力を叩き込むことなのだ。
 イリア機がグレートウォール上部へと着地した。そして、さらに雷電へと迫る。右腕のドリルブレードを起動し、大きく振りかざす。
 
『来るか…!!』

 距離は150、弾速の遅いグレネードでも必中の距離。武器腕グレネードを撃ち出す。瞬間。イリア機が右へとクイックブーストで回避していた。まるで攻撃するタイミングを読んでいたかのように。
 そして、前へ。雷電のすぐ横をすり抜け、ドリフトターンから前クイック。そのまま格納中のOIGAMIにしがみつき、右腕のドリルブレードを雷電の脚部に叩きつける。
 
「この距離とった…!!」
『ぬぅ?!』

 高速回転するドリルが雷電脚部をずたずたに破壊していく。ネクストとしては破格の装甲を持つ雷電とは言え、グレートウォールとは比較にならない。グレートウォールの装甲すら貫くドリルを持ってすれば、ネクストの装甲はダンボールのようなものだ。
 しかし、このまま素直にやられる有澤隆文でもなかった。咄嗟の判断で、OIGAMIを展開。それによって機体を固定していたイリアの左腕が緩む。その瞬間を狙ってクイックターン。大きく振り回され、イリア機が雷電から落ちる。
 バランスを崩して倒れたイリア機に、雷電がOIGAMIを向ける。またしても至近距離。爆発範囲的に自爆覚悟だが、雷電の装甲をもってすれば相手のほうがダメージは大きいだろう。

『覚悟してもらおう』
「今っ!!」

 寝そべった状態で、イリア機がOIGAMIの砲身先端部を蹴り上げた。絶妙なタイミングで砲身を逸らし、放たれた砲弾が遠くへと消えていく。
 その隙にイリアは機体を立て直し、その場から一気に離脱にかかった。雷電もすぐに追跡しようとするが、ドリルによって脚部を破壊されていたため、旋回以上の動きはとれない。
 
『逃がしたか…。なかなかにやるものだ』
 
 遠ざかっていくイリア機を見つめながら、有沢隆文は静かに呟くのであった。






『生きた心地がしなかったよ』
「私もしなかった。でもよかった。ちゃんと成果が出てるってわかったし」

 合流地点へと向かいながら、ホッとするオウガの言葉に、イリアはそう言葉を返していた。

『成果?』
「うん。私さ、実戦経験はほとんどないし、場数も踏んでないしね。で、どうやって私なりのアドバンテージを得ようかって考えて、ネクストの方を意識することにしたの。ネクストも結局は機械だから。動きに限度があるでしょ? その辺をしっかり把握してたら、戦闘でも役に立つんじゃないかなって。今回戦って気づいたけど。機体やパーツについて熟知してると、それだけでも攻撃のタイミングとか、結構読めるようになるんだね」

 そうイリアが告げるのを聞いて、オウガはふと思い出していた。
 独立傭兵となって、トーラスから今入るガレージに引っ越して、それなりの時間が経った頃まで話は戻る。
 予定が何もない時。イリアはいつも何か分厚い本を読んでいた。単に読書と言えば、それまでだが、間違ってもそれが小説本や漫画の類でないのは表紙からして明らかだった。
 ある時、一体何を読んでいるのかと、覗き込んでみれば。それはネクスト技術に関する専門書であった。しかも、なにやら色々と書き込みなんかもされていたりするあたり、何度も読み返しているようだった。
 さらに掃除のためにイリアの部屋に入ったとき、(掃除当番だった)その時には、やはり机の上に色々な本が広げられており、その時はネクストパーツのカタログスペックデータについてのものだった。
 そして極め付けに。カラードのシミュレーターで訓練をする際。イリアはよくそれらの本を片手にシミュレーターに入っていくことも多かった。
 何をしているのだろうと思っていたが、全てはこの時のために備えたものだったためらしい。
 雷電のFCSと武器腕の性能から、狙ってくるであろう必中距離を割り出して回避できたのも、OIGAMIが展開してから砲撃可能となり、発射可能になるまでの最短時間を読んで蹴り上げたのも。全て、培った知識と計算による対応だったのだ。
 ネクストそのものを熟知し、それを戦闘に生かす。それをイリアは自分なりに見つけたのだ。図らずも、それが自分があこがれていたあの人がとっていた同じ戦い方とは知らずに。

『確かにあの人も似ようなことしてたな。イリア君よりも危なげなくやってたけど』
「え?そうなの?」

 オウガが笑いながら告げ、イリアが驚いたように尋ねる。だがイリアが一歩成長しているのは間違いようのない事実であった。

 その後、拠点へと戻り、アルゼブラへと提出されたレポートは概略すると次のようなものだった。

 性能面に置いては申し分なし。ただし持続的に当て続ける必要があり、その間は一切移動が取れないため、周辺戦力がいた場合、一方的に蜂の巣にされる可能性大。また対ネクスト戦に置いては、射突ブレード以上に扱いづらい物と思われる。
 よってこれらを正式採用するのはお勧めできません。

 そんな経緯から、ドリルブレードが公式に世に出ることはなかった。
 だが全く使われなかったわけではなく、この装備の噂を聞いたリンクスが、3セットほど購入して言ったとの記録が残されており、戦闘以外の分野で大活躍することになったのは、あまり世間では知られていないことである。
 
~つづく~


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 ロマン武器ドリル!! の巻。
 当て続ければ強力。だけどネクスト戦闘で密着して当て続けるのは、まず無理なので倉庫入り…と言うオチです。
 マンガとかみたいに、どーん!!と貫く威力はありませんので、あしからず。
 
 そしてイリアの考えた「戦い方」。少しの戦闘ですが、それが表現できてれば幸いです。
 さて次回は試作装備関連ではなく通常ミッションの話となります。お楽しみに。


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