小説/長編

Written by えむ


「ヴェーロノーク、目標を確認しました」
「フォートネクストも確認した。これより戦闘に入る」

 旧ピースシティエリア。今は砂漠化に見舞われ、砂に覆われた廃墟が点々とそびえる場所。
 そんな場所で、今レックスにとって初の対ネクスト実戦が行われようとしていた。

「ようやくネクスト投入か。仕掛けが遅いぞ、インテリオル」

 レーダーで補足し、ネクストの反応のある地点へと移動を開始する二機に、敵ネクスト――ワンダフルボディからの通信が入る。

「仕掛けってのは、こうやるんだ」
「!?」
 
 不意にレーダーに複数の反応が現れる。その様子をモニターから確認していたセレンが、小さく舌打ちをする。

「ちっ、取り巻きをぞろぞろと。だが気にするな。目標はワンダフル・ボディだ。奴さえ落とせばいい」
「わかった。攻撃を開始する。エイ・プールさん、よろしく頼む」
「わかりました」
 
 フォートネクストの背部に搭載された大型ミサイルのハッチが開く。それと同時にヴェーロノークの両腕――武器腕も展開。
 まずは先制攻撃。大型ミサイル2発と大量のASミサイルが撃ち出される。
 当たれば、決してダメージは無視できないミサイルによる弾幕。しかし、それはワンダフルボディには届かない。
 ワンダフルボディのリンクスであるドン・カーネルは、いきなりのミサイルの嵐に一瞬驚きこそしたものの、すぐさま肩に装備されたフレアを射出。その熱源に釣られるように、大型ミサイルとASミサイルの両方が逸れていく。

「なっちゃいねぇなぁ。今度はこっちの番だ!!」

 ワンダフルボディの多連装型と通常型の垂直ミサイルがお返しとばかりに火を噴いた。
 ヴェーロノークは、クイックブーストによる高速回避でミサイルをかわし、レックスはフォートネクストを横ブーストと垂直ブーストによるホバリング移動でなんとか回避しようとする。だが、そこにノーマル部隊からの攻撃が届き、それまでは避け切れないフォートネクストは、PAを削られていくが、さすがに頑強な装甲までは届かない。

「くっ。フレア装備か…っ」
「ちょっとやばいですね…」

 回避に専念しつつ、二人とも険しい表情を浮かべていた。フォートネクストこそグレネードを積んではいるが、主力は大型ミサイルの大火力頼み。ヴェーロノークに至っては、全武装がASミサイル。そんな二機にとって、対ミサイル用のフレアの存在は無視できない。
 このままでは攻撃が届かない。そこで、やむを得ず作戦を変更する。

「作戦を変えよう。エイ・プールさんは、まずはノーマルを頼む。ワンダフルボディは僕が引き受けるから」
「それが一番無難ですね…。すみません。なるべく早く片付けて、援護に向かいますから」

 ヴェーロノークがノーマルの方へと移動を開始。あとにはフォートネクストとワンダフルボディの2機がその場に残される。

「お前らの主力攻撃は届かないぞ? さぁ、どうする?」
「主装備が無理なら、副装備でいくだけさっ!!」

 右腕のグレネードを撃つ。だが、それを警戒しないワンダフルボディではない。ある程度の距離があれば弾速の遅いグレネードをかわすのは、ネクストなら難しいことではない。

「そう、当たりはしないか…っ」

 反撃とばかりに飛んでくるアサルトライフルの射撃を、再び横へのブーストで凌ごうとするレックス。だが同時に撃ち出されていた多連装ミサイルが上空から、フォートネクストに襲い掛かる。

「さすがに有澤ほどではないが硬いな。だが、そんなんじゃ的だ!!」

 的。その指摘は、否定しない。元より回避など、ほとんど捨てているのだ。耐えて大火力で仕留める。それがフォートネクストのスタイル。問題は、その大火力が使えないということなのだが。
 足を止めることなくブースト全開で移動し、グレネードと大型ミサイルのクロストリガーで攻撃を仕掛ける。
 しかしやはり弾速が遅いのがネックとなり、冷静にフレアとブーストで攻撃をかわされ、距離を詰められる。
 さすがに近距離ともなれば完全には回避できないらしく、ようやく被弾するワンダフルボディ。ただし直撃とまではいかないため、足止めには至らない。

「…ぐぅっ!?」

 そこでフォートネクストが大きな衝撃に襲われた。ワンダフルボディの拡散バズーカが近距離で直撃したのである。

「どうした?そんなものか?」
「奴のバズーカには気をつけろ!!至近距離で当たれば、タンクでも洒落にはならんぞ!?」

 セレンの警告が飛ぶ。
 二発目の被弾を避けるため、近距離と言う状況の中で大型ミサイルを撃ちだすレックス。

「なっ!?正気か、お前!?」

 さすがにこれには相手も肝を冷やしたらしくアサルトライフルと拡散バズーカ、そしてフレア撃ちながら、あわてた様子で後退していく。

「なんとか仕切りなおした…」

 レックスもフォートネクストをブースト全開で距離を開ける。

「今のは私も肝が冷えたぞ!?」

 通信機越しにセレンの怒鳴り声が響く。
 それはそうだろう。大型ミサイルの近距離発射。しかもこちらはPAが剥がれた状態だったため、もしアサルトライフルで自爆覚悟で迎撃されれば、ダメージが大きかったのはこちらだ。
 迎撃ではなく相手が回避を選んでくれたので良かったが、下手をすれば落ちかねない危険な賭けだ。まぁ、その賭けには勝ったのだが。
 
「僕も怖かった。それより、どうするかな…」

 再び距離を開けての射撃戦へと突入する。なんとか大型ミサイルを当ててみようと、タイミングやグレネードをまじえて攻撃してみるが、何度やっても当たらない。
 やむなく攻撃の頻度を減らし、レックスは回避に専念する。先日の地獄の特訓のおかげで、だいぶクイックブーストに慣れることができたのだ。相変わらず攻撃と併用は出来ないが…。
 そのまま、さらに時間がいくらか過ぎたところで、ワンダフルボディに異変が起きた。
 
「なんだ、動きが悪いな。ワンダフルボディ」

 理由はわからない。だが急に動きが鈍ったのは事実だ。なんせ歩き出したのだから。
 なんとか再びブースト移動を始めるが、これは絶好のチャンスだ。普通のリンクスならば。
 だが、レックスにとってはそうでもない。攻撃に移ればクイックブースト機動は使えない。つまりのところ、こちらも相手同様に『動きは悪い』のだ。さらに言えば、切り札を封じられたまま。当たれば、なんとかなるのだが―――なんとか当てようと何度も撃ったせいで、弾数はほとんどない。
 だが悪いことばかりでもない。ワンダフルボディがブースト移動メインになったことで、レックスにとって一番慣れた展開。つまりノーマルVSノーマルでの戦いと言う構図になったのだ。
 実際、ここからのレックスの回避率は格段に上がった。それでいて攻撃もしっかり当てると言う安定ぶり。前半戦の振り回されっぷりが嘘のようだ。 

「あ、あれがネクストの動きなのか!?」

 必死に応戦しながら叫ぶドン・カーネル。だが、レックスは即答で答える。

「違うっ。これはノーマルの動きだっ!!」

 クイックブーストを使わないブースター頼りの動き。それは確かにノーマルと変わらない。そして、自覚もしている。とは言え、それを堂々と言い放ったレックスに、セレンがオペレーター席で突っ伏したのは言うまでもない。

「とは言え、どうするかな」

 すでにグレネードの弾数もなくなってきた。いかんせん前半で撃ちすぎたのだ。

 こんなことなら、やぱっりヴェーロノークと一緒に攻撃した方が良かっただろうかと今更ながらに思う。先にフレアをASミサイルで使い切らせる…という戦法があったことを、今の今になって思いついたのだ。

「…鈍ったかな」

 作戦を考えるのは昔から得意だったのだが―――どうやら動きが悪いとは言えネクストの性能に甘えてしまっていたのかもしれない。そんな考えが過ぎる。
 これは今後の課題だな…。ふと苦笑が浮かぶ。戦闘中ではあるが、今のレックスにはそれだけの余裕も出来ていた。
 でもとりあえずは、ワンダフルボディだ。向こうもダメージは蓄積しているはず。だがこちらもAPがすでにレッドゲージに達している。

「遅くなりました。これより援護に戻ります」

 ちょうどそこでエイ・プールからの通信が入った。どうやらノーマルを全て撃破してきたようだ。

「ちょうど良いところに来た。頼むっ」
「了解。これより攻撃に移ります」

 再びヴェーロノークがASミサイルをばら撒く。今度の今度はワンダフルボディでも回避できないはず。そう考えたが甘かった。
 ドン・カーネルもまた、リンクスだったのだ。

「くそぉっ。だが、こんな場所でやられるわけにはいかないんだよっ」

 背部の多連装垂直ミサイルが上空へとばらまかれる。一見すれば、何の意味もない行動に思えたが、ASミサイル相手に限ってはそうではなかった。オートロックの仕様の都合上、ミサイルにも反応してしまうのだ。
 結果として、ASミサイルは垂直ミサイルの方に飛んでいってしまい、ワンダフルボディに届かない。

「……っ」

 攻撃が届かなかったことに対して、小さく息を呑む音が聞こえる。
 そして宛てにしていた援護が役に立たないとわかり、レックスは再び思案をめぐらせる。次の手でいくしかない。

「勝負に出るしかないか。…セレン」
「なんだ?」
「賭けに失敗したらごめん」
「なに?」

 そうとだけ告げ、レックスはフォートネクストを前へと動かす。

「当たらなくてもいい。そのまま続けて!!」

 エイ・プールにそう指示を飛ばし、オーバードブーストを起動。爆発的な推力が一気にフォートネクストを押し出す。その加速状態から、最後の大型ミサイルを2発射出。二次加速を得た大型ミサイルは、まっすぐに――間髪入れずに飛んでくるASミサイルに気をとられ、ちょうど足が止まったワンダフルボディへと向かう。
 まさかの不意打ち。だが飛んできた大型ミサイルにニヤリと笑みを浮かべる。

「残念だったなっ。フレアはまだ残ってるんだよっ!!」

 最後のフレアが撃ち出される。これにより大型ミサイルは逸れる。あとは向かってくる相手にカウンターで拡散バズーカを叩き込んでやれば、こちらの勝ち―――。

 そう思っていた。

 大型ミサイルがフレアを無視して突っ込んでくるまでは。

「ば、馬鹿な!?」

 凄まじい衝撃と共にカメラが真っ白に染まる。PAが一気に剥ぎ取られ、抑え切れなかった熱と衝撃がワンダフルボディのAPをごっそりと持っていく。だが…さすがはGAの機体。ギリギリのところで耐え切った。

「く、くそっ」

 なんとか機体を立て直す。死んでいたカメラが回復し、フォートネクストを捉えた。正確には、頭部に突きつけられたフォートネクストのグレネードキャノンを。

「チェックメイト。こちらの勝ちだ」

 レックスの静かな声が響く。それと同時に、フォートネクストのグレネードキャノンが火を吹いた。






「なんとか撃破したか。このままだと先が思いやられるがな…」

 完全に沈黙したワンダフルボディを前に、セレンの安堵と不安の織り交じったため息と、そんな言葉が聞こえてくる。

「確かに。今回の戦闘でつくづく感じたよ」

 完全に振り回されていた。後半動きが鈍ったから良かったものの、この調子では恐らく他のネクスト相手には生き残れない。

「もっと腕を磨かないと―――」

 いつまでもレイヴンのままではいけない。名前ばかりのリンクスではなく、本当にリンクスとならなければ。

「とりあえず特訓あるのみだな」
「そうだな。さらに厳しく行くからな」
「……わかった。でもソブレロ使ったアレはやめてくれ。頼むから」

 追加ブースターを装備したソブレロで超絶機動を2時間ぶっ続け。しかもEN設定無制限。後半1時間は、通りかかったアスピナ関係者のアドバイスにより、肩にも追加ブースターが搭載された。
 もうあれはトラウマ以外の何者でもない。

「わかった。あれは少しやりすぎたと私も思っているよ…」
「なら、いいけど…」

 小さく胸をなでおろし、ヴェーロノークのほうへと通信をつなげる。

「協働ありがとう。助かったよ」
「いえ…。弾幕、薄くなかったですか?」
「充分すぎるほどでした」

 結果として、ワンダフルボディの注意を逸らすことが出来た。そういう意味では充分すぎるものだったと思う。

「それは良かったです。それと、一つお聞きしたいのですが」
「ん?」
「最後の大型ミサイル。フレアに反応しませんでしたよね? どうしてですか?」

 最後の決め手となった大型ミサイル。だがフレアに反応しなかったのが、彼女にとってはどうしても不思議だった。実はセレンも同じ意見だったのだが、帰ってから聞けばいいやと思って、すぐに尋ねなかっただけだったりする。

「あぁ、あれか。ノーロックで撃っただけだよ」

 ノーロック。つまりロックオンをせず、手動照準のみで真っ直ぐに撃ったのである。ロックオンしなければ熱源追尾もしない以上、フレアには反応しない。
 それまで全てフレアでかわされていたからこそ使えた奇策であった。フレアでかわせると相手に思わせるための。

「さてと、とりあえず……撤退しよう。さすがに疲れた…」
「そうですね。お疲れ様でした」

 何はともあれ、レックスの初ネクスト戦はかろうじてではあったが勝利することが出来たのであった。同時に今後の課題もたくさん出てきたが。
 そして、話は終わりそうでまだ終わらない。
 
 ミッションが終了して、報酬結果が届いた。それは、もうすごい結果だった。
 セレンが、エイ・プールの弾薬費が桁違いなのを思い出したのはその時だったが―――ぶっちゃけ、そんなことはどうでも良かった。
 エイ・プールの出費もすごかったが、それ以上にレックスの出費がすごかったのだ。それこそヴェーロノークが霞んでみるくらいに。

 これがその報酬の決算書である。
○ ヴェーロノーク [修理費用:93800] [弾薬費:70800]
○ フォートネクスト[修理費用:75000] [弾薬費:431800]

報酬[レックス ‐171200][エイ・プール 0]

 まぁ、ほぼ全弾撃ち切ってしまったのだから、当然と言えば当然なのだが。報酬の決算書を見て、レックスもセレンも真っ青になったのは言うまでもない。レッドバレーのダメージに加えて、これだし。
 ちなみに報酬がゼロのエイ・プールは大丈夫なのかと聞いてみたところ。

「大丈夫です。こんなこともあろうかと、小さいですけど家庭菜園作ってあるので」

 ―――とのことだった。彼女は報酬がなくなることが多いため、自給自足のサイクルを構築していたのである。なんともたくましいことだ。
 だがレックスとセレンに、そんな備えはあるはずはないわけで………。特訓以前に、まずは生活の危機をなんとかせねばならなくなった二人であった。
 
 ちなみに以前のように株取引で資金を作ろうともしたのだが。
 最低限必要な元手にすら、現在の資金が足りないことが発覚。さらに結果が出るのに数日を要するため、その間飲まず食わずの状態と天秤にかけて、断念したのはここだけの話である。

To Be Countinue……


now:65
today:2
yesterday:1
total:2585


移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 女性の首輪付っていないなぁ。あと重二脚とか…と書きかけ小説あるのに別ネタ浮かんでフロム脳を刺激されている、えむです。

 さて今回のワンダフルボディ撃破(HARD)。報酬結果はゲームでの結果そのままを使いました。
 弾薬のほとんどを撃ち切り、AP残り10%と言う状況で勝てた、ある意味奇跡の結果です。弾薬費見て、リアルに吹きましたがw
 さすが大型ミサイルとグレ。半端じゃないw

 ちなみにノーロック射出でフレアに反応しないかは定かでありません。
 試したら、フレアを撃ちもしませんでしたのでorz

 さて次回は、金策に走り回るレックス達の話。
 完全にオリジナル展開となります。
 この危機的な状況をどう乗り切るのか。どんなミッション(アルバイト)を受けるのか。
 お楽しみに。


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