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Written by ケルクク

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姐さんの「戦闘開始」の声と同時に四脚に突っ込んでいったレイテルパラッシュに茶色い逆脚の放ったミサイルが降り注ぎ、「ち」ウィンディーが舌打ちと共に横QBでミサイルの雨を回避する。
その直後、レイテルパラッシュがQBを使ったことでこちらと四脚の間の射線が出来た瞬間に、四脚から緑色の極光がヴェーロノークに向かって放たれる。
「姐さん!!」「幾ら不意をついても正面、それも遠距離じゃ!!」俺の警告より先にヴェーロノークはQBを使って致命的な一撃を回避する。
だが、「しまっ!?」QB直後の僅かな隙を狙い放たれたスナイパーキャノンがヴェーロノークに突き刺さる。
くそ!こっちが本命かよ!不味い!ありゃぁ、コックピットの真上じゃねぇか!!
「姐さん!?…くそ!」ピクリとも動かないヴェーロノークに駆け寄りたいが、ヴェーロノークに止めを刺すべく逆脚がミサイルを発射したため慌ててヴェーロノークの前に出て盾となり、降り注ぐミサイルをWGPで迎撃する。
「ぐぅう!」足を止めざるを得ない俺に2つのスナライとレーザーが突き刺ささるが、歯を食いしばって耐えながら迎撃を続けていると、とあるミサイルを迎撃したところで空に緑色の花が咲いた。
「コジマミサイルだとぉ!?マジかよ!!」「ロイ君、すいません!もう大丈夫です」
驚愕の叫びを上げる俺に姐さんから通信が入る。
「姐さん!無事だったのか!!」
「…ええ。コックピット直撃はギリギリで避けましたら。衝撃で一瞬トンじゃいましたけどね。
 注意してください。本命のコジマキャノンを敢えて囮にして私のQBを誘い、そのタイミングはおろか着地点まで読みきってあの距離から正確にコックピットを狙撃した四脚。
 そしてウィンちゃんが突っ込んでいった瞬間に、牽制・狙撃・止めという流れを閃き即座に実行した逆足。
 どちらも単体でも侮れない相手です。それが高度な連携を行ってくる。手強いですよ」
「大丈夫だよ。ECMのせいでレーダー潰れて確認できないが四脚はウィンディーが引き離してすぐに仕留めてくれるさ。
 それに敵も連携は上手いかもしれないが俺達の相性も中々のもんでしょ?」
声が沈んでいる姐さんを元気付けるために楽観論を口にする。
「…そうですね。私達の相性はばっちりですもんね。戦闘も体もね。
 さぁ!仕切りなおしますよ、ロイ君!まずはノーカウントを倒して数的優位を確立します!」
「あいさ!!」

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「ブッパの初撃で仕留められませんでしたか。流石にお強い。ですが想定済みです。これからあなた達がパッチを狙ってくるのも含めてね」
PQは全てが自分の思い通りに運んでいる事に笑みを浮かべる。
想定どおり敵は一番潰しやすいパッチを狙ってきた。しかし、彼はそう簡単には潰せない。
彼は確かにリンクスとしては三流もいいところだが生への執着だけは超一流だ。まるで私の愛する鎧土竜のようにしぶとい。
彼は集中的に狙われたら逃げに徹するだろう。そしていくら腕の差、人数差があろうと逃げに徹する相手を速やかに倒すのは難しい。
「ましてECMに目を潰され、私やブッパの援護があればなおさらです」
そう呟いた後PQはレーダーでパッチ達の位置を確認するとそちらに素早く向き直り、ハンドミサイルを紙一重で避けながらビッグバレルに肉薄するレイテルパラッシュに向けて050ANSRを発射する。
想定外の攻撃に不意をつかれ被弾し僅かに動きを止めたレイテルパラッシュにハンドミサイルが喰らいつき、爆炎が上がる。
そしてその隙を逃さずに放たれるスナイパーキャノン。ギリギリで横QBでかわすレイテルパラッシュ。
だがビックバレルはレイテルパラッシュと同時に逆方向にQBを使ったため距離を離す事に成功する。
そして、
「うぉ!?砂砲!?」「ロイくん!!」
レイテルパラッシュが避けたスナイパーキャノンがノーカウントを追い込んでいたマイブリスを掠める。
避けましたか。まぁいいでしょう。これで彼等は目の前の相手以外からの攻撃も警戒するようになります。
ですがあなた達の目、レーダーは潰してあります。何処から来るか解らない攻撃を警戒するのは困難ですがあなた方に出来ますか?出来るとしても今までと同じように攻め続ける事ができますか?
逆に私達はECMの影響は無く、加えてレーダを積んでいるノーカウントと情報を共有する事で目を確保し、さらに全員が射程の長い武器を装備している為相互に援護が可能です。
ふふ、戦力差を覆して余りあるこの圧倒的な状況差!戦いは実際に相対する前から始まっているのですよ!そう、自らに有利な戦場を築き上げる。これが私の戦い方です。

さらにあなた達は致命的な事実に気付いていない。
レーダーが使えないのも後方との連絡が取れないのも全てノーカウントのECMが原因と思っているのでしょう?そうではないのですよ!
もっとも間抜けなあなた達がそれに気付いた時にはもう遅いのですがね。

「さぁ、パーティを続けましょう」

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「ECM濃度急速上昇!!エリア内との通信はおろか、一切の状況がわかりません!!」
オペレーターのシルヴァーナが何時もの癖でどうしますか?というように僕を見た後、慌てて顔を逸らす。
仕方ない。何しろ無傷でも並以下の僕の顔は、今は殴られた右頬の痣が青く腫れ上がり、切った唇も化膿して腫れておまけに前歯も二本ばかり欠けているせいで正視に耐えないモノになっている。それこそさっきトイレで確認したら思わず笑ってしまうほど醜くね。
それに群れの仲間を、家族を捨石にした作戦を立てた僕への反感もあるだろう。
「それは困ったな。さてどうしよう」
周囲から向けられる嫌悪と憐憫の視線に気付かないふりをしながらこれからどうするべきか考える。
いや、結論は一つしかない。ロイさんから留守を預かっている群れを不用意に危険に晒すわけにはいかない。
「安全を確保するためにECMの影響が出ない場所まで後退します」
「安全を確保するならエリア内に入ってインテリオルのホームと合流するべきです!!そうすれば護衛のノーマル部隊に私達も守ってもらえるじゃないですか!!」
シルヴァーナが抗議の声を上げる。思いを穴だらけの詭弁で取り繕って可愛いな。素直にエマが心配って言えばいいのに。
「レーダーも通信も使えない状況でどうやって合流するつもり?インテリオルを探している間に敵に襲われたらどうするの?ここはレーダーが使えるところまで後退して安全を確保すべきです。
 合流するのはECMが解除されて危険が無くなってからでも良いでしょ?」
「またあの子を見捨てろって言うんですか!危険があるならなおさらあの子を保護しに向かうべきです!!」
ほら下手に取り繕うからもうボロがでた。気持ちは痛いくらいに解るけど認めるわけにはいかないね。
「一人を助ける為に全員を危険に晒すわけにはいかないよ。ここは退きます」
「でも!!…いえ、解りました」
シルヴァーナが憎悪の篭った視線で僕を睨み付けるが、すぐに嫌悪と哀れみと同情の表情を浮かべ視線を外し頷く。
…頭に上った血が下がって冷静になる程僕の顔は醜いかい?計算通りとはいえ流石にちょっと傷つくな。
でも優しい君達が醜い哀れな僕に同情して僕の命令に従ってくれるならそれでいい。
だから顔は女の命というけれど、僕程度の命で皆の命が助かるのなら僕の顔なんかどうなってもいい。
だから僕は僕を殴った親父さんを恨まないし、殴られるように仕向けた事を後悔しない。
ロイさんの合流までこの傷を放置していたら痕が残っちゃうけど平気だ。
でもロイさん、帰ってきたら一晩だけ胸を貸してください、覚悟はしていたけどやっぱりちょっと辛いんです。
少しの間支えてもらえれば、一晩うんと甘えて泣いたら、僕は強いからきっとこの傷を恥じる事なく胸を張って誇れるようになると思うんです。だからお願いです。
「ありがとう。では後退を」
乱れる心の内を一切口に出さず僕は冷静に命令を下す。
僕の命令に従い僕達のホームは後退する。ロイさんと一番新しい家族を残して、ううん、見捨てて自分の安全を確保するために作戦領域から遠ざかる。

だから神様、生まれて始めて祈ります。あの子を切り捨てた僕がこんなお願いをするのは図々しいと思いますが一生に一度のお願いです。
どうか二人を無事に帰してください。

****

「おやおやおや、逃げてしまうのかい?これは意外、意外だねぇ。てっきりエリア内に入るか、そうでなくてもここで留まると思ったんだが。
 ふむ、さてはさて、どうするべきか、べきなんだろうねぇ?追いついて殲滅するのは容易いが、それだと我輩がORCAの協力者だとバレてしまう。
 それは不味い、不味いねぇ。だがしかし、しかし伏せている三機を動かすわけには行かないし、天才少年には他の仕事がある。
 ふむふむ、ならば仕方ない、仕方ないねぇ。ここは見逃してあげようじゃないか!逃げるという事は蚊帳の外に行くのと同じだからねぇ。
 ははははは、君達は賢明だ、賢明だとも。無力な弱者は長生きしたければ危険に近寄らないのが一番だ。はははははははははははははは」

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蘭達が作戦領域から全速で遠ざかっていた頃、蘭達より遥かに危険な場所にいながらそのばに留まり続ける者達がいた。
レイテルパラッシュ・ヴェーロノーク・マイブリスを送り出したインテリオルのホームのクルー達である。
彼女達は急激に発生したECMにより前線にいる三機とも、後方の基地とも連絡が取れずにその場に留まっていた。
当然危険だからこの場から退避すべしという意見も出ていた。
だが三十機のノーマルに守られているという事実と、彼女達に与えられている命令が『三機を回収するまでその場で待機する事』である事が彼女達の動きを鈍くしていた。
通常、この鈍さは問題にならない。なぜなら直前の偵察で周囲に敵影は発見されなかったからだ。
偵察の目を誤魔化せるのは精々数機であり、その戦力ではノーマル三十機を壊滅させる事は不可能である。
無論、隠れている数機がネクストであれば話は別だが、ネクストが襲うとしたら前線の三機であろう。
一度きりしか使えない奇襲を戦略的価値の無い自分達に使うはずが無い。
故に繰り返すがこの遅れは問題にならない。なぜならここは安全だからだ。

だが何事にも例外は存在する。

****

『解ってんな。まだ俺達がORCAだって事がばれるわけにはいかねぇ。
 だから徹底的に無慈悲に圧倒的に殲滅しろ。有象無象の区別無く、老若男女の悉く、善悪理情等しく、一切合切全てを殺し尽くせ』
「はい、解っています。バイオレットさん」
少年はオペレーターからの通信に返事をし、前方のノーマルに守られたホームに頭を下げる。
「悪いが手段を選んでいる余裕は無いのでね。皆殺しにさせてもらいます」

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『ん?この反応は。
 …まさか!?ホームがネクストに襲われているのか!?』
「本当かスミスミ!!不味いぞ!ネクスト相手にノーマル30機程度じゃ時間稼ぎにもならない!!ミテレア!!今すぐ救援に向かおう!!」
オペレーターからの報告を受けると共にスティレットは待機状態にあったレ・ザネ・フォルを戦闘状態へと立ち上げ始める。
「落ち着かんか。今更向かっても間に合わんよ。それより霞の、確認するが本当にホームが狙われたんじゃな?なら襲ったネクストの詳細はわかるかえ?」
『あぁ、襲われたのは借金娘達ではなく、間違いなくホームだ。襲撃している相手は解らん。そもそも襲撃自体が断片的に捕まえられた通信から類推した確定に近い想像に過ぎん』
「なるほどの。スティレット、どうみる?」
かつての戦友であるオペレーターからの報告を聞いたテレジアはもう一人の戦友に水を向ける。
「………相手は自分達の戦力に自信を持っているんだろう。三対三でも負けないという自信があるから撤退の際に撤退先を見られないようにエイエイ達の前にホームを襲撃した。
 だが排除が終われば今度こそソイツはエイエイ達を狙いにいく!!それに今ならまだ生存者がいるかもしれない!だから!」
「そのとおりじゃ。そして奴はあちき等に奇襲をかけるのではなく、ホームを狙った。あちき等に気付いておるならこちらを先に奇襲するはずじゃからの。そして霞の、我々の役目はなんだったかの?」
スティレットの声を遮ったテレジアが今はセレンと名乗っている戦友に訊ねる。
『戦闘を監視し、貧乏娘達が負けた場合には帰還する奴等をつけて拠点を見つけ出し、強襲し情報を手に入れる事だ』
忌々しげに告げられる作戦目的にテレジアは頷く。
「然り。ならばあちき等のすべき事は決まっておるの。このまま待機じゃ。あの三人が勝てばそれで良し。そうでないなら作戦開始じゃ。よいな?」
「ふざけるな!!何も教えられずに突然戦場に引っ張り出されて、エロイ後輩達を見捨てろなんて命令にしたがえるか!
 情報が欲しいなら奴等を捕まえて下半身に聞けばいい!!私はエイエイ達を助けるぞ!!」
「それはインテリオルに逆らうという事かの?おんじ、自分が何を言っとるのか解っておるのか?」
激したスティレットとは対照的に冷たい声でテレジアが問いかける。
「当た『それ以上言うな、スティレット。言えば戻れなくなるぞ』
セレンがスティレットの決定的な言葉を遮る。
「戻れなくなったらどうなるって言うんだ!!クビになったら霞と一緒に独立傭兵をやってもいいし、どこかの武装勢力に雇われてもいい。私はリンクスなんだ!食い扶持は幾らでもある!!
 私を討つというなら討ちに来るといい!!返り討ちにして肉奴隷にしてやる!!」
「確かにおんしは最強クラスのリンクスじゃの。おんしを粛清するのは中々に厳しかろう。
 なれどおんしの親類縁者はどうじゃ?彼奴等は果たして企業から身を守る術はあるのかえ?」
「な!?家族は関係ないだろう!!」
うろたえるスティレットをテレジアが嘲笑う。
「何を甘い事を。企業にそのような正論が通じるものか。おんしが抜けた瞬間におんしの縁者は惨の果てに殺されるじゃろうな。
 おんしにその覚悟はあるかえ?自らの理想の為に自らの身内を犠牲にする覚悟はあるかえ?ないなら、そこで黙って座っておれ」
「…だがそれでも私はエイエイたちを見捨てるなんて!!」
尚も逡巡するスティレットにテレジアは溜息を吐き、カリオンを戦闘起動させ レ・ザネ・フォルに照準を合わせる。
「それともう一つ。あちきと霞の童は今回おんしが命令に従わねば処分するよう、上から言われておる。
 おんしはやりすぎたんじゃ。先のクレイドル21での証言はいくらおんしでも許されん。今やおんしはロイの小倅に匹敵する不穏分子と上には認識されとるよ。
 あきらめい。あちき等を相手にしては仮に勝てても小娘どもの援護にはいけん」
『……諦めろ、スティレット。私はお前に死んで欲しくない』
「霞まで。………わかった」
カリオンに次いでストレイドまで戦闘稼動した事を確認したスティレットが力ない返事をしてすすり泣きながらネクストを待機状態に戻す。
「すまんの」それを確認したテレジアがカリオンを待機状態に戻す。
『だが私はお前の泣き顔も見たくない。だからミセス・テレジア、悪いが契約違反をさせて貰うぞ』
「なんじゃと?」
『私達はホームを襲撃中のネクストの撃破に向かう。そして撃破後は借金娘達の援護に行かせて貰うぞ。あれは私の可愛い後輩達でもあるからな』
「スミスミ!!」スティレットが歓喜の叫びを上げ、
「いいのかよ、ババァ?」今までのやり取りを我関せずと無視していた少年が始めて声を上げる。
『ああ。スティレットには山ほど借りがあるからな。返せる時に返しておく』
「それにあの三人に貸しを作っとくのも悪くねぇか。OKだ。そういう事なら従っとく」
「霞の、インテリオルに逆らう気かえ?」
『あぁ。だから違約金を払うさ。そういう契約だからな。それとも墓の下にいる私の家族を人質にでもとってみるか?』
からかうようなセレンの声にテレジアは眉を顰めて答える。
「いくら企業でも死者を蘇らせることは出来んの。じゃがあちきがそれを許さんと言ったらどうするつもりじゃ?スティレットならともかくそこの小童ではあちきを相手にすれば勝ち目はないぞ?」
『そうだな。だが優しいテレジア小母さんはそんな意地悪は言わないんだろう?今回のミッションの違約金がとてつもなく安く設定されているのは貴女が働きかけたからではないか?』
「さて、あちきは旦那も息子も孫もおる身ゆえ迂闊な事は言えんのう。だが確かにあちきが命じられたのはスティレットが裏切った場合に処分しろのみじゃ。
 おんし等に関しては何も言われておらんから契約に従い違約金を払うと言うのなら手を出す必要はないの。
 じゃが心しておけよ、霞の。おんしの行動はインテリオルとおんしの間に決定的な溝を生むぞ?」
『覚悟の上だ。それに溝ならずっと前から出来ていたさ。私がそれに気づかなかっただけでな。じゃあな、スティレット。小母さんの言う事を聞いていい子にしているんだぞ!』
「じゃあな、同性愛者!そこで俺様の活躍を見てるといいぜ!」
別れの言葉と共にストレイドがOBを使用して一気に遠ざかっていく。
「頼んだぞ、スミスミ。とついでに馬鹿餓鬼」「若いとはいいのう~」
残された二人は遠ざかるストレイドをそれぞれの言葉と想いと共に見送り潜伏を続けるのであった。

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「おやおやおや、騒いでいるから何かと思って見に来たらこんな所に隠れていたのかい。ふむふむふむ、これは凄い。
 今飛び出して行ったのは最近売り出し中の二代目霞スミカこと、『首輪付き獣』君。
 そしてここにはオリジナルが二人もいるじゃないか!!ははははは!これは凄い!凄いねぇ。まさにインテリオル渾身の隠し球だ。
 だがねだが、見つかってしまっては意味がない。意味がないのだよ。さてとさて、報告をしないとねぇ、報告を」

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「う~ん、これからどうしましょうかぁ~。それにしても天井は歩きづらいです~」
エマは防護服も着ずに無人のホームの天井を目的地もなく適当にぺたぺたと歩いていた。

突如襲来してきた赤いネクストはノーマルの守りをあっさりと突破するとホームに向かってグレネードを撃ち込んできた。
それは何とか直撃を避けることに成功したのだが至近で爆発したグレネードの爆風でホームは上下逆さまにひっくり返ってしまったのだ。
続けて赤いネクストはホームに止めを刺そうとしたのだが生き残ったノーマルがホームを守ることを放棄しばらばらに逃走し始めると攻撃をやめてそちらの追撃に向かったのだ。
その隙にホームの乗組員達は我先にと防護服と脱出手段を奪い合い、双方を確保できたものからホームを脱出していった。
そしてエマは機会の全てを他者に譲り続けた結果、防護服も無いまま引っくり返ったホームに一人取り残される結果になったのだった。

ぺたぺたと天井を歩いていたエマは片方は食堂へ、もう片方は整備スペースへ通じている道に辿り着いた。
「う~ん、どうせ助からないんですから、死ぬまでの間食堂で美味しいものでも食べていたほうがいいんですかね~?」
エマは窓から外を見ながらのほほんと呟く。
外ではノーマルを掃討し尽くした赤いネクストが脱出したクルーを殺して回っていた。
特に嬲っている様子は見られないが、淡々と効率的にクルーを殺害していく様は処理という表現が相応しく、赤いネクストが生存者を残す気がない事がはっきりと解った。
「う~ん、やっぱり死ぬのは嫌なのでこちらに向かいましょう。もしかしたらお宝があるがあるかもしれませんし」
特に迷う事無くエマは整備スペースへと歩を進めた。
その在り方から誤解されがちだがエマは別に死にたがりではない。
確かに脱出手段が一つしかなくそこに生きたいと願う他人と自分がいるのなら迷いなく脱出手段を譲るが、今のように自分ひとりが生きるか死ぬかだけなら彼女も人並みに助かりたいし生きたいのだ。
故にエマは僅かな可能性に賭けて整備スペースを目指す。

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格納庫に着いたエマはある物を見つけて自分にまだツキがある事を確信した。
ある物とはホームが引っくり返った際に運悪く首の骨を折って即死した整備員の死体であった。彼女はコジマの塊ともいえるネクストの整備中に死んだために当然ながら防護服を着ていた。
「あれだけ派手に横転すれば一人ぐらいはと思いましたがずばりでした~。死人には防護服は必要ないですよね~。いただきます~」
エマは慣れた手つきで死人から防護服とついでに貴金属と財布を剥ぐ。
防護服は死んだ整備員の血や汚物がこびりついており、常人なら着込むことはおろか即座にもどしかねない猛烈な悪臭がしたがエマにしてみれば慣れ親しんだ香りなので気にせず着こんでいく。
「ざんね~ん。金歯はありませんか~。ならば、貴女に安らぎを~。神の国にいけますように~」
着込み終わったエマは、あさり忘れた死体の歯の確認を終えると自分に金と防護服をくれた死者のために昔教わった祈りを行う。
神がいるか解らないし、もし神がいるとしたら祈りの手順を間違えたぐらいで怒る程器量が狭くはないだろうから大雑把で構わないだろう。
それに昔教えた恩人であり友人でもある『彼女』は大事なのは気持ちといっていたし。
「神よ彼女に祝福を与えたまえ~ラ~メン、じゃなくてザ~メンでしたっけ?まぁいいです」
祈りを終えた彼女は周囲を見回す。
「さて~、このままだと私も神の国に逝ってしまう事には変わりないんですよね~。う~ん、どうしましょう?」
防護服を着たので外に出れるようにはなったが、今ノコノコと外に出れば赤いネクストに処理されるだけだ。
かといってこのままここに留まっていても赤いネクストが脱出したクルーを全て処理したらホームごと消し飛ばされるに違いない。
だから何かしら生き残る方法を探さなければいけないのだが…。
「あ~あれは~」何かないかときょときょとと辺りを見回していたエマはネクストのコックピットに使われる耐Gジェルの貯蔵層を見つけてそこに向かう。
「ふむ~、一杯です~。え~と、これって確かじ~野田にも色々な物に強いんですよね~。うん、ここに隠れましょ~」
エマは頷くと、耐Gジェルの中にその身を躍らせた。

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エマが耐Gジェルにその身を躍らせてより五分後、クラースナヤのグレネードがホームに撃ち込まれた。

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熱源探知で周囲に殺し漏れた人間がいないことを確認した後、リンクスはSAPLAをひっくり返ったホームに発射した。
榴弾の直撃を受けたホームが爆炎に包まれる。
念のため炎上するホームにさらに051ANNRを1マガジン分撃ち込んでダメ押しの誘爆を狙う。
狙いは成功し、ホームに次々と爆炎が吹き上がり最後に一際大きい爆発と共に四散した。
「よし」第二段階が成功した事に安堵の声を漏らすとオペレーターから通信が入った。
『随分と時間がかかっちまったな。くそ!とっととホームにグレぶち込めれば簡単にケリがついたのによ!』
「それをやってしまうと熱源探知が出来なくなって逃げたクルーを探せなくなってしまいますからね。ネクストの人間を探す方法が光学の他に熱源しかない以上仕方ありませんよ」
『わーてるよ。あぁ、そうそう協力者からの連絡だ。交戦中の三機とは別にまだこの戦場には三機のネクストがいるらしいぜ。
 そのうちの一機、ランク20位のストレイドがこっちに向かって来ているそうだ。接触予想時刻は二分後だとさ。
 戦力を読み間違えやがった陰険メガネとゴキブリ野郎は後で泣かすとしてまずはストレイドだ。リンクスはガキだそうだが遠慮はいらねぇ。ぶっ殺せ』
幼子なら泣き出してしまいそうな獰猛な声と気配を出すオペレーターをリンクスである少年は気にする事無く自らの思考に沈み込んだ。

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ストレイドのリンクス。
その獰猛を通り越して狂猛の域にまで達した戦い方からつけられた二つ名が『首輪付き獣』或いは単に『獣』
リンクスになる前の経歴はおろか本名・年齢を含めて過去の全てが不明なもう一人のUnknown。
解っているのは歴代二位の異常なAMS適性を持っている事と、僅か一年足らずでカラードのランクを31から20まで上げた凄腕だという事。
そして霞スミカの名を継ぐ者にして、オールド・キング曰く掘り出し物。

セレン・ヘイズ。
霞スミカのオペレーター。
その正体は初代カラードランク1にしてオリジナルNO.16である初代霞スミカ。
本人曰く『リンクス崩れの三流オペレーター』
だがカラードのシュミレーターで霞スミカはおろかランク三位のウィン・D・ファンションすら翻弄している姿が度々目撃されている事や、
霞スミカがウィスとイェーイに騙され、ランクマッチで彼等と二対一の戦いを強いられ撃破寸前まで追い詰められた際にシリエジオで乱入し二人~~とついでに霞スミカ~~を一蹴した事、
さらにカブラカン撃破の際に救援に来なかったギガベースを報復の為に襲撃し犠牲者を出さずに全砲門及び推進器を破壊し『ケジメ』をつけた事等から、
最盛期の力を未だに保持していると考えられる最強クラスのリンクス。
そしてメルツェルさん曰く、気難しいが道理の解らない女ではないので是非ORCAに引き抜きたい人材。

確かにセレン・ヘイズを引き抜くことが出来れば同時に霞スミカをも引き抜く事が出来る。
「ねぇ、ヴァイオレットさん」
『お祈りは終わったか?ならそろそろ来るぞ。準備しとけ』
「僕はストレイドのリンクス、いえストレイドのリンクスのオペレーターと話がしてみたいです。いいですか?」
『間抜け。戦場でちんたら話す暇があると思うか?話がしたいなら後で場所を用意してやるから妙な事を考えるな』
呆れたようなオペレーターであるヴァイオレットの声に少年は首を振り更に頼み込む。
「話し合うのに相応しい場所はここなんです。ECMで通信が妨害され誰にも盗み聞き去れる事がない今が一番話がしやすいんです。他の場所では何処に企業の目と耳があるかわかりませんから」
『…危険だぞ?相手がぼんやり話を聞いてくれるようないい子ちゃんだと思うか?』
普段はナヨナヨしてるくせに一度決めたら頑固な少年の気性をしているヴァイオレットは僅かに考え込んだ後に、溜息をついて少年に尋ねる。
「いいえ。でもクローズプランには少しでも戦力が必要です。だからここは命を賭けるべき場所だと思います」
『相変わらず言い出したら聞かんな、このクソガキは。いいだろう。そこまでいうなら俺は何も言わん。死んで来い。骨は拾ってやる』
そして結局何時ものように少年に押し切られ行動を認めるのだった。
「ありがとうござます。でも僕は死ぬ気はありませんよ。ヴァイオレットさんと一緒に宇宙を見る約束をしていますからね」
「ガキの癖に女を口説くのは一人前だな。だがお前如きが俺様を口説くのは十年早い!!馬鹿な事言ってる暇があったらとっとと迎撃の準備をしろ!ハリ!!」
真っ赤になって怒鳴っているであろう粗暴だが純情な自分のオペレーターを想像し、彼女にばれないように少年、ハリは急速に接近してくるストレイドに意識を集中する。

「はい!ヴァイオレットさん!」

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燃えるホームの残骸に囲まれた赤いネクストがこちらにゆっくりと向き直る。
「ちっ、気付かれたか。奇襲は失敗と」
PAを回復するためにOBを切って通常ブーストで赤いネクストに近づいていく。
『あれはクラースナヤ!?気をつけろ!五分と時間を区切れば奴はスティシスいや、W・Gに匹敵するぞ!』
「時間をかけろってか?でもそうするとロイ兄んとこに行くのが遅くなるぜ?」
『そうしなければ死ぬのは私達だ。それにそんなに時間は掛からん。奴の限界は多く見積もっても十分から十五分だ』
「は~いよ。なら暫くは防御優先でいくぜ。それなら多分出来そうだ」
クラースナヤを改めて値踏みする。あぁ、確かに強い。だが恐くはない。これなら簡単にもたせられるだろ。
でもおかしいな。殺気が少ない、いや無い。戦う気あんのか?
クラースナヤとの距離がつまり、OBで減ったPAが回復すると同時にクラースナヤからカラード共通チャンネルで通信が入ってきた。
「ババァ?」『聞くだけ聞こう。いつでも仕掛けられるようにしておけ』
『こちらクラースナヤのリンクス、ハリです。僕に交戦の意思はありません。僕はあなた方と話がしたい』
戦場で何言ってんだこいつ?頭ん中お花畑か?
「ババァ?」『好きにしろ』それでも一応お伺いをたてるとシンプルな返事が来たので「あいさぁ!」とMP-O203と049ANSCを発射する。
『問答無用ですか。でも話は聞いてもらえているようですね。なら勝手に話し続けさせてもらいます』
フレアを上空に打ち上げながらQBで049ANSCを回避したクラースナヤからふざけた通信が入る。
「そうかよ!喋りながら死にたいのか!ならお望みどおりぶっ殺してやるぜぇ!ひゃはあははは!!」
自らを昂ぶらせ、敵を怯えさせるための偽りの狂気に身を委ね、嗤いながら牙と爪の間合いに入るべく前QBを使って距離を詰める。
『ハンデだよ、ガキ。こうでもしないと差があり過ぎてイジメになっちまうからな。
 ハリ、相手は毛の生えてないようなガキと女を卒業したロートルなんだ!なんならもっと手ぇ抜いてやってもいいぞ!』
『誰が女を卒業したロートルだ!私はまだまだ現役だ!くそ!私と私のリンクスを侮辱したこと後悔させてやるからなっ!』
若い女、ハリのオペレーターか?の挑発に気にしていた事を突かれたババァがぶち切れる演技を始める。俺ものっとくか。
「ひゃははははは!!ババァ、ホントのことを言われたからって怒るなよ!」
ババァにチャチャを入れながら両手に持ったライフルでこちらを牽制しながら上手く逃げるクラースナヤを追いかける。
だが上手くいなされ中々間合いをつめることが出来ない。
くそ!フラフラと動きやがって捕まえづれぇ!!俺の動きが読まれてんのか?
『誰がババァだ!!いい度胸だ。ミッションが終わったら待っていろよ、貴様!!
 …それはともかく確かに私も大人気なかったな。男に生まれ損ねた女もどきの嫉妬の言葉に踊らされるとは』
『んな!!誰が女もどきだ!俺はれっきとした女だ!!てめぇ!いい加減な事いってっとぶち殺すぞ!!!』
俺を怒鳴った事で冷静に戻った演技をするババァ逆襲し、今度は向こうの女が熱くなる、あるいは熱くなった演技を始める。
今だ!!リロードで僅かに出来た僅かな隙にクラースナヤとの距離を詰める『させない!』「くそ!!」直前に足元にレーザーキャノンを撃ち込まれ機先を制される。
くそ!やっぱり完全に読まれてやがる!!!俺一人じゃやっぱりどうしようもねぇな。ババァに期待だな。
『記録上はな。だが実際はどうかな?ランク10位『時間限定の天才』ハリの専属オペレーターヴァイオレットは性別を虚偽申告しているともっぱらの噂だぞ?確か女子更衣室に入ったら男と間違えて通報されたそうじゃないか』
『更衣室じゃねぇ!!女子トイレだ!!あん時はたまたま男っぽい格好をしていただけで…』
『それはすまなかったな。だが私もパンツスタイルはよくするが一度も男に間違われた事はないぞ?
 クククク、その分だと女からはともかく男にはまったく縁が無かったんじゃないか?なんなら私の男でも女でもイケル私の知り合いを何人か紹介してやろうか?』
『うるせぇ!余計なお世話だ!!大体男でもいけるってどういう意味だ!』
『落ち着いてください、ヴァイオレットさん!!ヴァイオレットさんが実は一人のときは子猫の画像を見てホンワカするような可愛い女性だって事僕は知ってますから!!』
ババァの狙い通りに見かねたハリが二人の会話に入る。馬鹿が。
『んな!?ハリ!なんでテメェが俺の秘密を知ってるんだ!!誰にもばれないように隠してたはずなのに!!』
『なんだ天才少年。まさかお前はゲイなのか?』
『いいえ。僕は女性が好きですよ。特に普段は乱暴な言葉遣いで男勝りに振舞っているくせに、一人になると猫のぬいぐるみに向かって可愛いにゃ~とか言っちゃう女『今だ!!』
ハリが会話に気をとられ僅かに緩んだ隙を突いて049ANSCを放つ。
回避するために横QBを使って右に跳ぶクラースナヤ。
計算通り。お前がそっちに跳ぶ事は読めてんだよぉ!
クラースナヤより僅かに早くこちらも右に横QBを使って跳ぶ。
お~け~だ。これで早く跳んだ分俺は早く着地できる。なら着地の直後に前QBで距離を詰めれる。このタイミングなら遅れて着地したクラースナヤが即座にQBを使っても間に合わねぇ!
「まだです!」だが元々の距離に加えギリギリでクラースナヤがQBの方向を修正し右でなく右後方に飛んだ為にギリギリ前QBでは詰められない距離が開く。
「やるなぁ。でも無駄なんだよ!ひゃはははははははははは!!!!」
前QBを発動寸前で止めて限界以上のエネルギーを注ぎ込み、暴発寸前で一気に解放する。
限界以上のエネルギーを解放した事で通常の2倍以上の推力を得たストレイドは一気にクラースナヤとの距離を詰める。
『ハリ!!!』「ひゃははははははははあ!捕まえたぁ!!ぶっ殺してやるぜぇ!!」
偽りの狂気に命じられるがままに嗤いながら左手の爪をがむしゃらに振るう。
クラースナヤは自らに振るわれる鉄塊を上手く捌き、避け、直撃を受けない。だがPAの範囲内で振るわれる鉄塊は凄まじい勢いでクラースナヤのPAを削っていく。
『ハリ!何とか引き剥がせ!!その間合いは不味い!!』
PAがダウンしたのを見てクラースナヤのオペレーター、ヴァイオレットとかいったか?が悲鳴混じりの指示を与える。
「ひゃはははははは!!逃がすわけねぇだろうがぁ!!」
『そうですよ、ヴァイオレットさん。ようやく話しを聞いてもらえる状態になったんですから逃げるわけにはいきません』
『あぁ?何を言ってんだテメェ?』
焦り一つ無いハリの言葉にヴァイオレットが疑問の声を上げる。
『さっきまでのような近・中距離戦ではオペレーターは指示やネクストのモニター等する事が山ほどあります。そんな余裕の無い状況ではまともに話なんか出来ない。
 でもこんな接近を通り越した零距離ではリンクスの反射神経と腕が全てです。オペレータが出来る事は殆どありません。なら僕の話を聞く余裕が出来る。そうでしょう?』
俺の爪を捌きながら落ち着いた口調でハリが囀る。舐めやがって!つまりお前は俺の相手をしながらお喋りをする余裕があるって事かよ!!
『…つまりそこまでしてでも話したいことがそいつじゃなくて私にあるわけか。いいだろう、確かにお前の言うとおり手持ち無沙汰だし話ぐらいは聞いてやる。
 だが、少しでも気を抜けば私のリンクスに食い殺される事を覚悟しておけよ!!
 お前も手加減をする必要は無いぞ。30%まで負荷をかけることを許してやる。つまらん余裕を見せた事を後悔させてやれ』
OKだ、ババァ。俺もここまで舐められて笑っていられるほどお人よしじゃねぇ。統合制御体に30%の負荷をかけるよう指示を出す。
途端に全身に重圧に似た苦痛が走る。同時にストレイドとの一体感が増していき、俺とストレイドの境界が消えていく。
懐かしくそして心地よい苦痛と一体感の中、俺は全身の穴という穴から血を流しながら痛みに泣き喚き、最期には泣く力すら失って虫けらのように死んだ&ruby(キャス){弟};の姿を幻視する。
「はっはっは、ヒャッヒャッヒャッヒャハハアハハハッハハハハハハhッハハハアハッハハハハハハッハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
 了解だぁババァ!!抉って潰して捻り切って、体の穴という穴から噴水みたいに血ぃ流さしてぶっ殺してやるぜぇ!!」
偽りでなく本物の、かつての狂気を取り戻した俺はそれに突き動かされるがまま、かつてのように嗤いながら食べやすいように獲物を解体すべく爪と牙を振るい襲い掛かる。

『構いません。僕にも命を賭ける理由がありますから。
 では、セレン・ヘイズ。いえ、オリジナルであり実質的なレオーネのTOPリンクスであった霞スミカに問わせていただきます。
 企業の欺瞞を知った貴女はなぜ未だにそちら側で戦うのですか?』

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右肩を不気味な緑色に光らせながらこちらを狙い続ける四脚を常に視界に入れながら、ヒルのように纏わり付いてくるミサイルをかわして四脚との距離を少しずつつめていく。
レーダーがグッドラックのECMのせいで完全に死んでいる為、一瞬でも奴を見失う事は死に直結する。そのプレッシャーは平時の何倍ものスピードで私の精神を消耗させていく。
「く!?」左武装をハンドミサイルからスナイパーキャノンに換えた四脚の狙いから外れようと左にQBで跳ぶ。
だが同時に四脚もQBで左に跳ぶ。読まれたか!
「まだだ!」スナイパーキャノンを発射しようとした四脚に一瞬早くKAPTEYNを当ててコジマキャノンのチャージを無効化し、スナイパーキャノンの発射を阻止する。
「貰った!!」そのままACRUXを放とうとしたところで、四脚がスナイパーキャノンを発射しようとしている事に気付く。
だが遅い!!KAPTEYNの硬直の分私の方が早い!!これならACRUXを撃った直後に回避を行うことが可能、いや待て!
今、逆足からスナイパーライフルを当てられると、一瞬発射が遅れ四脚と相打ちになってしまう。
いや、相打ちじゃない!四脚はコックピットを狙っている。そして四脚はACRUXの直撃を受けても焼け残るが私はコックピットを撃ち抜かれたら死ぬ。
「くそ!!」射撃を中止してQBを使って距離をとる。「チッ!」四脚がスナイパーキャノンの発射を止めて、私のQBに合わせて逆方向に跳び距離をとった事に舌打ちが漏れる。
「そして結局逆足からの援護は無かったか。くそ!!!」再び右肩を緑色に光らせる四脚を視界に入れながらヒルのように纏わりつくハンドミサイルを回避しながら唇を噛み締める。
さっきから全てこのパターンだ。地力では僅かに私の方が上。さらに相性もいいのでジリジリと押していき決定的なチャンスを作る事は出来るが、その全てを逆足の援護、もしくは今のように援護を警戒したせいでふいにしていた。
逆足の援護は最初を除いて三度。そしてチャンスは今ので十度。確立が三分の一なら賭けてもいいかもしれない。
だがその三度は全て致命的なタイミングで放たれたのだ。もし避けることが出来なければ私は死んでいただろう。
あいこも勝ちだが負けたら死ぬじゃんけん。そんなギャンブルは遠慮したい。
それに賭けに負けて自分が死んでしまえば四脚は二人の所に行くのだ。そうなれば二人は相当厳しい事になる。
「通信か、せめてレーダーが生きていれば連携が取れるんだが」
だがどちらも潰されており向こうの様子はわからない。
どうする?どうすればいい?ここは賭けるべきなのか?それとも二人が相手を倒すのを待つべきなのだろうか?どちらが正しい?どちらが?

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果断即決が信条であるウィン・D・ファンションだが、かかっているのが自らの命だけでなく仲間の命とあっては慎重にならざるを得なかった。
また直に結論を出さずとも戦局が悪化しない事がウィン・D・ファンションの決断を遅らせていた。

それがPQの狙いだとは気付かずにウィン・D・ファンションは貴重な時間を浪費し続け、自らの勝利の確立を減らしていく。

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「これは不味い事になってきましたね」
口内に満ちる血を吐き捨てて、エイ=プールはヴェーロノークにASミサイルをばら撒かせる。
「ナイス援護!姐さん!」ASミサイルに追われ無様に逃げ惑うノーカウントを追い込もうとするマイブリスだが、不明ネクストのライフルとレーザーに妨害される。
「うぜぇんだよ!ゴキブリ野郎!!」
マイブリスが不明ネクストに両肩のミサイルを発射し、そのままノーカウントを追う。
自らに向かってくるミサイルを回避しながらマイブリスを追撃しようとする不明ネクストに「させませんよ!!」ASミサイルを発射する。
すると不明ネクストはあっさりとマイブリスへの追撃を諦めミサイルとASミサイルの回避に専念する。
やっぱり危険を冒してまでバッチの援護はしないか。
「そして…」妨害の無くなったマイブリスはノーカウントを追い回すが、ECMと相手が逃げに徹している事と重量級と軽量級の持久力と機動力の差で、それなりの傷は与えたものの致命傷を与える事はできずに逃げきられ距離をとられてしまう。
「やはり相手は勝つ気が無くただ時間を稼いでいる。
 何故?四脚がウィンちゃんに勝つと確信しているから?それとも増援の当てがある?
 あるいはもしかして私の傷に気付いてる?」
吐いても吐いても直に口内を満たす血にうんざりしながらエイ=プールは答えのでない問いを重ね続ける。

先程の四脚のコックピットを狙った一撃。
コックピットへの直撃こそ避けたものの至近に受けた衝撃は耐Gジェルをもってしても殺しきれず、凄まじい勢いでコックピットに叩きつけられ右半身に重傷を負ってしまった。
「右腕がハンバーグの材料になってしまったのはこの際構わないのですが、折れた肋骨が内臓に刺さったのは不味いですね。いくら私がMの気もあるといってもこれは辛いです。
 それとも首の骨や背骨が折れなかったことを喜ぶべきなんですかね?」
自らの血で溺れないように吐血を続けながらエイ=プールは自嘲する。
腕の傷は既に止血などの手当が行われているが、内臓のほうはどうしようもない。
統合制御体は速やかに戦闘行為を中止しネクストの全機能を生命維持に傾けないと、後十分程で意識を失い、一時間以内に絶命すると警告してきている。
「あと一時間の命ですか。逃げたいのは山々なんですがそうもいかないんですよね」
血と共に溜息を吐く。今自分が抜けたら二人は確実にやられてしまう。無断で撒き餌にした上に自分一人逃げ出すなんて事は出来ない。
だが今のままだと後十分で意識を失ってしまう。戦闘終了後に即死する事を覚悟しても投薬等で引き伸ばせる時間は精々十分。
つまり戦闘を続けられるのは後二十分だけだ。
「本当はロイ君に理由を話して私を囮に二人で逃げて欲しいんですけど、絶対にOKしてくれないでしょうね」
むしろ私に離脱するように勧めてくるだろう。そして私がそれを受け入れなければ十分以内に二機を倒そうと無茶な特攻を行うに違いない。
だがノーカウントはともかく不明ネクストのほうはそれが通じる甘い相手ではない。むしろ逆手に取られてロイ君が返り討ちに遭ってしまうだろう。
だからロイ君に私の怪我を教える事はできない。ウィンちゃんになら言ってもいいのだけれどECMのせいで通信が繋がらない。
そして私が意識を保っていられる二十分の間に目の前の二機を倒せるかと問われれば答えはNOだ。逃げに徹する二人を倒しきることは私達にはできない。

だから私に出来る事は二十分以内にウィンちゃんが四脚を倒してこちらに来てくれることを祈りながら戦い続ける事だけ。
「お願いしますよ、ウィンちゃん。私が死ぬ前に来てくださいね。そうじゃないと毎晩枕元に立っちゃいますから」

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「作戦通り炙り出しには成功したが、レ・ザネ・フォルにカリオンか。想定よりも相手の戦力が大き過ぎるな。どうもインテリオルは勝負をかけてきたようだ。どうする、銀翁。仕掛けるか?」
ジュリアスの問いに銀翁は考える。
確かに別行動のハリがあえて派手に仕掛け隠れているであろう別戦力を炙り出すというPQの策は成功を収めた。
なれど隠れていた戦力が予想よりも遥かに大きい。予想では隠れている戦力はストレイドのみであり、加わってもシリエジオのみであるはずであった。
だが実際はシリエジオの姿こそ確認できないもののオリジナルが二人も加わっている。
しかもオリジナルはハリに釣られずにその場を動かずに不気味な沈黙を続けている。
「さて、これはハリの相手はストレイドで十分だからなのか、それともいざとなればシリエジオの援護があるからなのか、あるいはまったく別の思惑があるからなのか、どちらかの?
 そもそもPQはともかくメルツェルの小僧めが予想を外すとは珍しいが、…まぁ、あやつも人の子、たまには間違える事もあろうよ」

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銀翁には知る術がないことだが今朝まではメルツェルの予想は確かに当たっていたのだ。今朝までの作戦ではストレイドのみが予備戦力であった。
だが何者かのリークにより極秘のはずの不明ネクスト襲撃事件が敵対会社に漏れ、朝一でカラードを通して不明ネクストのリンクスの引渡しが要求された事にインテリオル首脳部は過剰反応をした。
即ちそれなりの重要な立場にいる何者かが情報をリークしたに違いないと。
だが第一候補であるかねてよりの不穏分子であるロイ・ザーラントはこちらの監視下にいたため外部との接触は不可能。
ならばまたしてもスティレットが仲間を犠牲にする作戦を中止させる事を目的に二社にリークしたに違いないと上層部は決め付けた。
まさかロイのクルーが独自に調査し、リークしたとは露とも思わず、上層部はまともな調査を行わず偏見に満ちた独断で、流石にクレイドル21ではやり過ぎたと自主的に謹慎していたためにミッションの内容はおろか、第三輸送部隊が襲撃された事すら知らなかったスティレットを犯人と決め付けたのだった。
そして制裁を行うために急遽スティレットとテレジアを動員し強引に作戦に捻じ込み、霞スミカとテレジアにスティレットが妙な動きをしたらすぐさま撃破するよう密命を下したのだ。
こうして不明ネクストが後退した場合に追跡し情報を持ち帰るという簡単なミッションにオリジナル2機が投入されるという異常な事態が出来上がったのである。

メルツェルもスティレットが疑われる可能性やロイのクルーによるリークを考えなかったわけでえはない。
だがラインアーク侵攻作戦が失敗した事でかなりの戦力を消耗したインテリオルが守りの要であるネクストを軒並み動員するとは考え難く、
またいくら前科があるとしてもインテリオルに多大な功績があるスティレットを証拠も無く犯人と決め付けるとも考え難く、
さらにリークされた二社がスティレットやロイならともかくロイのクルーでは十分な情報の裏づけが終わるまでは信じるとも考え難かった為、
ストレイドとシリエジオ以外が投入される可能性は無いと判断し、戦力を投入したのだ。

だが実際はリークを受けたBFFが殆ど裏づけを取らずにすぐさま強硬にインテリオルに対して不明ネクストの身柄引き渡しを要求し、それにGAグループ全体が引き摺られ、
さらにGAがここまで強く早く要求するからには独自ルートで裏が取れているに違いないとオーメルまでもが乗り遅れまいとGAの後に続く形で引渡しを要求した。
そしてインテリオルは二社がここまで強く早く要求するには余程信頼できる情報元から漏洩したに違いないと考え、上記の思考の元スティレットだと断定したのだ。

ORCAにとって不幸中の幸いだった事は、メルツェルが待機戦力の二人~~特にセレン・ヘイズ~~の撃破でなく、投降もしくは捕縛を視野に入れた為に投入戦力を大きくした事であった。
もし撃破だけを狙った場合、投入された戦力は銀翁とヴァオーのみであり、もしそうであったのならこの時点で作戦を中止して撤退せざるを得なくなっていたであろう。

****

さて、敵戦力はオリジナルが二人。
数こそこちらの方が多いがジュリアスと特にヴァオーは経験面で大きく水を開けられており、自分も本来の愛機ではなくようやく慣らしがすんだばかりの新型。
そして期待の相性も敵の二機に対してヴァオーは悪い。
即ち戦力比は五分かそれ以下と見て間違いなかろう。
「今仕掛けたらPQ達の援護にいけないぜ!ジュリァァァァス!!」
「そんな事は解っている!!だからどうするかと聞いたんだろうが!デカブツ!!バナナの皮に滑って豆腐の角に頭をぶつけて死ね!」
なれどこちらには奇襲を仕掛けるというアドバンテージがある。アサルトキャノンを先制で撃込み同時にジュリアスが強襲するという形で始めれば高確率で勝てるだろう。
PQ達の援護はハリか協力者に任せるか、あるいはこちらが少々厳しくなるがヴァオーを回してもよい。
故に仕掛ければ勝てる。勝てるが…

「小僧に、メルツェルに連絡を取るぞ」

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「構いません。僕にも命を賭ける理由がありますから。
 では、セレン・ヘイズ。いえ、オリジナルであり実質的なレオーネのTOPリンクスであった霞スミカに問わせていただきます。
 企業の欺瞞を知った貴女はなぜ未だにそちら側で戦うのですか?」
『……何が言いたい?』
「はっきり言わないとわかりませんか?では言い直しましょう。
 貴女は空を覆う企業の罪を知ったのに何故未だに企業に従っているのですか?
『お前!?何故その事を!?まさかお前はリリアナの関係者なのか!!』
『ひゃははあはははあはぁはぁはぁはあ!!!!!』
会話を続けながら次々と繰り出される鉄塊を避けていく。確かにスピードは上がった。でもこの程度のスピードならまだ余裕で対処可能だ。
しかし現実には避け損ねた鉄塊が確実にクラースナヤのAPを削いでいく。
何故なら『来るぞ!!』ヴァイオレットさんの悲鳴のような警告。同時に嵐のような連撃が止む。
くっ!!QBじゃ間に合わない!!とっさにクラースナヤの体を捩る。
クラースナヤのボディをストレイドの牙、右手に装備されたKB-O004が擦るように通過していく。
何とか避けられた!!安堵の吐息と共にセレン・ヘイズに返答する。
「いいえ。僕はリリアナではありません。ただ僕は僕の目的のためにリリアナとは協力関係にありますが」
至近で炸裂したコジマ爆発が剥きだしのクラースナヤの装甲を蝕んでいく。
『ひゃあはぁはぁあはっはあはぁはぁははぁぁはぁはぁはぁはあぁぁは!!!!!!!!!!!
 まぁだお喋りする余裕があるのかよ!!いいぜぇ、その痩せ我慢が何処まで続くか試してやる!!!』
狂笑と共に嵐のような連撃が再開される。
『気をつけろ!!また爪に紛れて牙が来るぞ!!』
『協力関係?……まさかお前、レイレナードの亡霊か!!!』
ヴァイオレットさんの警告とセレンさんの驚愕した声。
「そう思っていただいて結構です。ただそれも正確ではありませんけど。僕そのものはレイレナードには何の縁もありませんから」
返事をしながら縦横無尽に振るわれるストレイドの爪を捌き続ける。
だがそれだけに注意を傾けるわけにはいかない。KB-O004、こちらを一撃で屠る牙がある。もし僅かでも牙から注意を逸らせばその瞬間に牙に喉笛を喰い千切られるだろう。
だが牙に注意を向ければそれだけ爪に対する注意が疎かになり傷が増えていく。
参ったな。これが二代目霞スミカの戦い方なんだ。
身を裂く爪に気をとらわれると牙に喉笛を食い千切られ、牙を警戒し続けると爪に削ぎ殺される。
まさに字の『獣』に相応しい戦い方だ。
『何だと!!じゃぁ、お前は一体何なんだ!!』
「僕は空を望む者です。ただ空の向こうの宇宙に行きたい。そんな子供っぽい単純な夢の為に僕は戦っています。
 逆に問います。貴女は何の為に戦っているのですか?」
『……戦う理由。私の戦う理由。それは………』
「答えられませんか?」
鉄塊と至近で炸裂するコジマ爆発に少しずつでも確実にAPを削られながら言葉を紡ぐ。
『ひゃはははははあぁはァはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁあはぁはぁはぁはぁっはぁっはっは!!!
 そんなに知りたいのか?なら教えてやる!!ババァの戦う目的はWGに復讐する為だよ!!!』
『避けろ!!』
嗤い声と共に突き出されるKB-O004を上体を逸らす事でかわし、尚も問いかける。
「復讐ですか。何故復讐を望むのですか?そしてそれは本当に貴女の望みですか?」

****

『復讐ですか。何故復讐を望むのですか?そしてそれは本当に貴女の望みですか?』
何故だと!決まっている。私に恐怖を与えたWGに、私に敗北を刻んだアナトリアの傭兵に、私を見逃した事を間違いであったと教えてやるためだ!!

****

最初のラインアーク侵攻作戦からの半年間、アナトリアの傭兵は幾度にわたる企業のラインアーク侵攻をただの一機で退け続けた。
ネクストを凌駕すると喧伝されたAFを纏めてスクラップにし、万を越すノーマルとMTの群れを撃ち破り、自身を標的として放たれた数百の暗殺者を全て防ぎラインアークを守り続けた。
一つを除いたありとあらゆる手段を用いてラインアークを襲った企業の侵攻作戦はその全てが失敗に終わった。
そして万策尽きた企業は最後の手段、ネクストを用いたラインアーク侵攻計画、第二十三次ラインアーク侵攻計画を立案する。
それは企業からしてみれば戦力の基盤をネクストから他に移項させるというこれまでの方針が間違いであった事を認める苦渋の決断であり、
リンクス戦争以後冷遇されてきたリンクス達からしてみればネクストを討つ事ができるのはネクストのみである事が証明された喜ばしい事であった。
だがメンバーに選ばれた当時の私はそんな事はどうでも良かった。
私は最強に挑み、打ち倒す事ができる喜びと、ようやく敵が討てるという想いで胸が満ちていたのだから。

私はリンクス戦争の時に比べて遥かに腕を上げた。それこそ一対一でもアナトリアの傭兵と互角以上の戦いが出来る自信があった。
それに加えて今回はリンクス戦争以来のパートナーであるエイと、私自ら手塩にかけて育ててきたウィンとロイの二人がいる。
この四人ならどんな相手にも負けない自信があった。

それが思い上がりだと知ったのは交戦した直後だった。
私とアナトリアの傭兵の間には天と地ほどの差があった。それは新型AFイクリプス三機とエイとウィンとロイの助力程度では到底埋められない絶対的なものだった。
そして奴は暫く嬲るように私達をあしらった後、突如本気を出して私達を一蹴した。
まるで子供が遊び飽きた玩具を壊すかのように。

その後の事はよく覚えていない。
私はとにかく三人を逃がす為に無我夢中で戦った。
そして何とかイクリプス三機とシリエジオの大破と引換えに何とか三人を逃がす事が出来た。

そうして半壊しイクリプスの残骸と共に海中に沈み行く&ruby(私){シリエジオ};の真上にWGがやってきた。
抵抗しようにもシリエジオは機能を停止していた。
そしてノーマルならともかくネクストならこの程度の水深、攻撃こそ出来ないが行動は問題なく出来る。奴に私を見逃す理由は無い。
だから私は眼前まで迫った死を止める手立ては無く、幼子のように目を瞑り震えることしか出来なかった。
だがいつまでたっても死は訪れなかった。
疑問に思って恐る恐る開けた視界に映ったのは、まるで沈み行く私を哀れむかのように嘲笑うかのように見下ろし続けるWGの姿だった。
そうしてWGは&ruby(私){シリエジオ};が海底に着床し暫く動きが無い事を確認すると、QTしその場を去った。

その後私はWGが索敵範囲外に出たのを確認すると大慌てでシリエジオを再起動させ作戦領域を離脱した。

****

あの時、私にあったのは死への恐怖と生への渇望だけだった。
あの時、私は怯え、泣き喚き、小便を漏らして惨めに震えていた。
あの時、奴は私を嘲笑っていたというのに、私は奴が攻撃してこない事に安堵し、その慈悲、いや哀れみに感謝さえしていた。
あの時、通信が生きていたら私は恥も外聞も無く命乞いをしていただろう。

常日頃弟子である二人やエイに偉そうに戦士として最初に心することは死の間際でも冷静に最善手を考える事だとのたまっておきながら、いざ死を前にした時私は震え、怯える事しか出来なかったのだ。
それ以来、私の時は止まったままだ。
プライドはおろか魂さえズタズタにされ丸裸にされ陵辱され敗北を刻まれたあの時から私は一歩も進んでいない。
だから私はWGを倒さねばならない。奴に私と同じ敗北を刻み、私を見逃した事が間違いであったと思い知らせてやらないと私は一歩も前には進めない。

………………そう思っていた。空を埋め尽くすアサルトセルを見るまでは。
あの日私は企業の罪と、ペルリオーズ達の真の目的と、何より私の裏切りを知った。知ってしまった。
あれ以来、私の中で罪を償いたいと、ペルリオーズの遺志を継ぎたいという想いが日々大きくなって来ている。
そう、空を覆うアサルトセルは私達の罪。
私達リンクスが老人達の罪を隠すために国家を滅ぼし、多くの罪無き民衆を虐殺した。
そして私達は自らの保身の為に罪を清算しようとした仲間を売り払い、犠牲無き贖罪の道を閉ざした。
だから私は罪を償わなければいけない。そうでなければ私は自分を許せない。そうでなければ志半ばで倒れていたペルリオーズ達に顔向けできない。
だからアサルトセルを排除するのは私の義務だ。

WGへの復讐と過去への贖罪。
やりたい事とやるべき事。
どちらが本当に私の進むべき道なんだろうか?
WGへ復讐するなら企業に所属していたほうがいい。名が売れ力がつけばいつかWGと戦うチャンスは来るだろう。
逆にアサルトセルの排除を目指すならレイレナードの亡霊を名乗るこいつについた方が…。
いや、落ち着け。こいつが本当にレイレナードの亡霊かどうかは解らん。ただ単にリリアナの一員というだけかもしれん。
それに、今こいつを排除しないと、親友と弟子二人が死んでしまう。
だから今はこいつを斃そう。例えそれが先延ばしに過ぎないとしても今は考える時間が欲しい。
ならば、ハリの問いへの答えは、
「ああ。復讐が私の望みだ。復讐を果たさなければ私は前には進めない」
普段より少しだけ硬く、少しだけ早口になっている事を自覚する。
『そうですか。では復讐が終わった後、貴女が歩もうとしている道は僕達と同じではないですか?』
私の答えを受けて即座にハリの問いが返ってくる。
こいつ、全て解っているのか?それともただの偶然か?
モニターに映るクラースナヤを睨み付けるが当然答えは解らない。
モニターには先と変わらず嵐のように繰り出される爪と牙を捌きながら少しずつ削れられていくクラースナヤが映って、
……いや、違う。最初の頃と比べて明らかに爪の被弾が減っている。まさか私が過去に沈んでいた僅かの間にもう順応したのか。
流石は天才と称されるだけの事はある。
『くそぅ!駄目だ!!今のままじゃまだ追いつけねぇ!!枷を付けられてちゃ、牙が奴の喉笛にとどかねぇ!!
 ババァ!!負荷をもう50%上げろ!!それで枷を外せる!!そうすりゃぁ奴の喉笛を喰い千切れる!!』
イラついたアイツの要求。50%の負荷の上積み、今30%だから併せて80%。常人なら即死はしないが後の廃人は避けられない負荷だ。
だが今のままではジリ貧なのは確かだ。私とお喋りしながらアイツの攻撃を凌ぐんだ。なら今のままでは無駄話を止めて戦場に集中されれば瞬殺されるだろう。
…行くしかないか。大丈夫、私のリンクスは特別だ。たかだか80%程度の負荷ぐらい耐え切れるはずだ。

「今ここで私達が会わなければな。ここで死ぬお前と私が同じ道を歩む事はありえんよ。
 いいだろう、負荷を上げてやる。だが負担は今までの比じゃないんだ。遊ぶなよ?速やかに殺せ」

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「駄目だ!このままでは埒が明かない。一か八かだが次で決めよう」
ウィン・D・ファンションは十一度目の決定的なチャンスがPQの援護によってまたも失敗に終わった直後に博打を行う事を唐突に、しかし確固たる意思で決意した。
自分でも何故、今なのかは解らない。だが次に勝負しないと負けるという脅迫じみた思いに押されて決意してしまった。
勿論、次に勝負する理由は幾らでも思いつく。
まず、状況の変化を待つのは自分には合わない事。また三分の二で勝利という確立は命を賭けるには少々物足りないがそれでも勝率自体はいい事。
ここは戦場で相手は先輩とはいえ、自分以外の女と長時間恋人を二人きりにしたくないというつまらない嫉妬と独占欲。
今まで二連続で逆足の援護が来た事はないので、今回援護されたのだから次は来ないであろうというオカルト。
他にも幾らでも思い浮かぶ。だがそれは全て勝負をする理由であり、勝負しないと負けるという理由ではない。
それに自分に決意させたのはもっと言葉に出来ないあやふやな理由だ。強いて言葉にするなら『このままだと嫌な予感がする』からである。
「まったく、そんな理由で命を賭けるなんてロイの悪い癖がうつったかな?」
自嘲するウィン・D・ファンションだが自らの判断を取り消す気にはならなかった。

****

もしこの決断が後五分遅ければ彼女は賭けに勝ったとしても良き先輩であり友人であるエイ=プールを永遠に失い、
さらに十五分遅ければエイ=プールは死亡し彼女の勝率は0になっていた。
彼女はギリギリのタイミングで全てを失わない最良の選択を『なんとなく』した。
これは彼女が今まで培ってきた戦士としての経験が無意識に戦場の不自然さを察知して発した警告をカンという形で受け取った結果か、
それとも&ruby(神か悪魔){人知を超えた存在};が齎した&ruby(気紛れ){奇跡};なのか、それは解らない。

だがどうであれ、まもなく彼女の命を賭けた博打が始まる。

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「匂いが変わった?そうか、最後の勝負に出てくるか。手遅れになるまで様子を見続けると思ったが、活きのよい獲物だ」
ブッパは獰猛な笑みを浮かべる。
折角の狩りなのだ。ならば怯えて逃げ回る兎を狩るよりも、雄雄しく狩人に立ち向かう獅子の額を打ち抜きたい。
獲物からは隠しようも無い殺意が溢れている。次は自らの全てを出し切って挑んでくるに違いない。
「だがそれも読みどおりだ」
狩人は獲物の全ての動きを読み、追い詰めていく。そして追い詰められた獲物が猛り狂い最後の勝負に出るとそれを正面から受け、額を撃ち抜く。

故にブッパは前もって決めていたサインをPQへと送る。
サインの内容は『獲物が最後の勝負に出る。次の援護は確実に』だ。

PQから了承のサインが帰ってきた事を確認したブッパは喜悦の笑いを浮かべる。
さぁ準備は整ったぞ、獲物よ。俺の前に、猟師の銃の前にその美しい姿を晒せ。

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『ハリ!!』
ヴァイオレットさんが悲鳴を上げる。
心配しないでくださいと返したいがそんな余裕は無い。ストレイドから一瞬でも目を離したら僕は死ぬ。
それ程までに今のストレイドは圧倒的だった。
変わったのはいくつもある。
例えば爪の速さに耳障りな狂笑。
でも爪の速さは確かに上がったけれどそれはネクストの限界に近い速さが、限界の速さに変わっただけで上昇量からすれば極僅かだ。だから十分対応できる。
聞く者の精神を削り取る狂笑に到っては、収まって代わりに低い獣のような唸り声に変わったのでむしろ戦闘に集中しやすくなっている。
他にも反応速度や先読みの精度が上がったけれどもそれらも全て対処可能だ。
致命的に変わったのはたった一つ。
牙だ。
それは『ハリ!!!!!!』「くっ!?」
暴風のように振るわれる爪の中から突如現れた牙を体を捻る事で辛うじてかわす。
だが牙をかわすのが精一杯で『同時』に振るわれる爪には何も出来ずに無防備に身を晒してしまう。
「ぐぅう!!」鉄塊の乱打を受けながら、急いで体勢を立て直すがその間にクラースナヤのAPが一気に一割以上削られてしまう。

くそ!いくらなんでもKB-O004を打つ時にFCSに機体の制御を委ねないのは反則だ!
おかげで前のようにKB-O004が放たれる直前にドーザーが止む事が無くなった為に格段に読みづらく避けづらい。
そして何とか避けれても体制が崩れたところに乱打を受けてしまう。
でもドーザーの乱打はドーザー固有の特性を利用していただけだからシステムの範囲内だけど、ドーザーを乱打しながらKB-O004を放つのは完全に仕様の範囲外だ!
インパクトの瞬間にコジマ爆発を起こすために相手と自分の位置の完璧な予測と、予測をナノセカンド単位でこなす事が必要なKB-O004は、リンクスが人間である以上FCSに制御を委ねなければ絶対に相手に当たらない。
そしてFCSもネクストの全機能を使わなければKB-O004を相手に当てることは出来ない。
だからネクスト・リンクスである限りKB-O004を使いながらドーザーを乱打するなんて出来ない!!
くそ!一体どんなルールブレイクを使っているんだ!リンクスが二人乗っている?それともFCSを二つ積ん『ハリ!!!』
「くっ!?」ヴァイオレットさんの悲鳴と同時にQBを使う。だがストレイドはドーザーとKB-O004を振るいながらQBを使って喰らいついてくる。
それでも僕のほうがコンマ何秒QBを使うのが遅かったから何とかKB-O004はかわす事ができた。
余計な事を考えてちゃ駄目だ!!種明かしはここを切り抜けてからゆっくりと考えればいい。大切なのはこのままだと後何分もしないうちに僕は死んでしまうという事だ!
何とか距離を取らないと!!距離さえ取れればまだ僕にも打つ手がある。
でもこのが相手じゃ生半可な方法で距離はとれない!
なら、生半可じゃない、彼が思いもつかない方法を使うだけだ!!
脳裏にヴァイオレットさんの姿を思い浮かべる。うん、大丈夫!僕はやれる!!!

ストレイドの動きを観察して機を窺う。チャンスは一度。失敗すればKB-O004の直撃を受けるし、仮に避けれても警戒されて二度と使えなくなる。
だからチャンスは一度だけ。次にストレイドがKB-O004を放った時が最初で最後のチャンスだ。
……………来た!!!!!!!
『ハリ!!!』ヴァイオレットさんの悲鳴と共に繰り出されたKB-O004を前々回と同じように体を捻ってかわす。
ただし、前々回は上半身だけだったが今回は全身を捻る。
そして、前々回は避けた後にすぐに立て直した体勢を、あえて直さずにそのまま流れる勢いに任せる。
いや、大地を蹴って更に崩れる勢いを加速させ、全身を右足を軸に回転させる。
今だ!!左足が地面から離れたところで左足だけQBを起動させる。
「あああああぁあああ!!!」『がぁ!!』『蹴りだと!?』『嘘だろ!!』
狙い通り回転の勢いに加えQBの推力まで得たクラースナヤの左足は凄まじい勢いでストレイドの右脇腹に激突した。
『ネクストが蹴りだと!?馬鹿な!!』セレンさんの驚愕の叫びを聞きながら、蹴り飛ばされ砂漠の上を転がっていくストレイドにEC-O300と051ANNRで追撃をかけながら後QBで距離を取っていく。
「正確には外回し蹴りというらしいですよ。ヴァイオレットさんの得意技です。凄いんですよ。2M近い大男をこれ一撃で沈めちゃうんですから!」
軽口を叩きながら被害状況を確認する。
うわ!左足が真っ赤だ。稼働率は30%か。これはちょっと酷いな。
いや、足の後ろ側なんて脆い部分を、コアなんて一番硬い部分にあれだけの勢いで叩きつけたんだ。むしろ捥げなかったのを感謝しないといけないのかもしれない。
『ハリ!!』
「あ!ヴァイオレットさんどうでした?僕の外回し蹴り?何点ぐらいですか?」
『30点だ。フォームがなってねぇよ。って、ふざけてる場合じゃねぇんだよ!!解ってるんだろうな?』
「はい。この手は二度と通じません。いえ、例え通じたとしてももう一度使えば左足は捥げてしまいます。だから次に接近されたらアウトです」
『よし!わかってんならいい。幸い距離はとれたんだ。とっとと、ズラ「だからヴァイオレットさん。僕は本気を出そうと思います」
『…マジか?使ったらどうなるか解ってるんだろうな?』
無理に感情を押し殺した平坦な声でヴァイオレットさんが確認を取ってくる。
長い~~といってもまだ数年だけど~~付き合いだからわかる。これはヴァイオレットさんが泣きそうなときだ。
「ごめんなさい。でも使わないとこの場は切り抜けられません。
 距離を取ったといってもまだ近距離です。QTしてOBなんて事をしたら確実に後ろから攻撃されますし、仮に上手くOBを発動できたとしてもストレイドとのOB勝負をしたら先に息切れするのはこっちです。
 だからストレイドを倒すしか僕の生き残る方法は無いんです。
 そして、ストレイドを倒すには本気を出すしかありません」
『……そうだな』
「大丈夫!僕は信じてますから。ヴァイオレットさんがまた助けてくれるって。だから僕は死にません」
沈み込むヴァイオレットさんを勇気付けるために明るく断言する。
『チッ。きついのはお前なのに俺が沈んじゃしゃーないな。いいぜ、ハリ。骨は、いや何があっても例え死んでも俺がぶん殴って起こしてやる。だから、いけ!!』
「はい!!」

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『腹が減った。腹が減った。皆腹をすかせて待っている。ひゃはは。喉が渇いた。喉が渇いた。皆の喉を涸らして待っている。クヒヒヒ。
 キャスが!ミカが!ランが!チビが!エマが!アミーが!アイツが!みんなみんな、俺の帰りを待っている。いやぁ、違うなぁ。
 エマは四日前に逃げ出したし、キャスは三日前死んだから埋めちまった。
 チビは二日前に売っちまったし、ミカは一昨日死んだからスープにして飲んじまった。
 ランは昨日死んだから焼いて喰っちまった。アミーは今日死んだから骨までアイツと一緒に喰っちまった。
 そしてアイツはアイツは、あぁそうだ。殺してって頼まれたから殺したんだ。首の骨をボキって折ってやったんだ。それから頭からバリバリ喰ったんだ。
 旨かったナァ~。ヒャハアハハハ?あれぇ?アイツは旨かった?旨かった?アイツの味を覚えてないよぉ~!ギャハハハハハハハ!みんなみんな喰ってやった!旨かった!ヒャハハハ!
 腹が減った。腹が減った。皆腹をすかせて待っている。ひゃはは。喉が、なぁ、ババァ?』
獣のような唸り声をあげていた少年が突然わけの解らない事を呟き始め、さぁ意識の混濁かと慌てて少年のバイタルを確認していたら、急に呼びかけられた。
「おい!意識は大丈夫か?混濁してないか!!」
慌てて少年に呼びかける。
『ああ。ちょっと昔を思い出してただけだから心配はイラねえよ。
 そんな事よりあいつは強いよ。久しぶりの大物だ。だから今のままじゃ勝てない。だから本気を出そう。本気を出してあいつを殺そうぜ、ババァ』
てっきり意味不明な妄言を聞かされると思ったがきちんと意味の通った言葉が返ってきた事に安堵する。
「何故だ?確かに蹴りには驚かされたが所詮は一度きりの奇策だ。二度目は無い。
 そして距離こそ離されたが相手は足を損傷しているんだ。多少手こずるだろうが距離を詰めることは十分に可能だ。
 いや、距離を縮める必要すらない。このまま当初の予定通り時間を稼いでいても勝てる。
 だから」
『いいや、駄目だぜババァ。アイツはなにかとっておきを隠してる。それが何かはわからねぇが前とは匂いが、殺気が違う。
 油断してるとこっちが食い殺されるぜ?』
「そんな不確実な理由でお前にこれ以上の負担を『あ~!!グダグダ煩いんだよ!!!』
私の言葉を遮った少年が叫ぶと同時にストレイドがドーザーをパージする。
『ひゃははははは!!こうしちまえば本気を出さないと勝てないぜぇ?』
くそ!この馬鹿が!!確かにドーザーをパージされると現状では勝てない。
かといっても退くのも論外だ。今退いてしまえばエイ達の助けには行けないし、そもそも少年は命じても退かないだろう。
くそ!仕方ないのか!!!
「いい度胸だ。ミッションが終わったら待っていろよ、貴様!!説教じゃ済まさんぞ!!!」
『アイサー!!大丈夫だよ。ババァにもちゃぁんとアイツで作ったスープは分けてやるから。あぁ、でも最初はガキどもだから我慢してくれよ。
 それにしても腹が減った。腹が減っ……』

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こうして期せずして全てが終結に向けて動き出した。

&ruby(広刀剣){レイテルパッラシュ};と&ruby(猟師の銃){ビッグバレル};はどちらが先に相手の体に届くのか。
ロイはPQの罠を破る事ができるのか。
今だ沈黙を続けるORCAとオリジナル達はどのように動くのか。
そして空の果てを望む二人の少年の戦いの決着は?

全ての決着がつくのはこれより十分後。
その時男は彼女の為に彼女を裏切り仲間を殺す。

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&color(white){後書き};
&color(white){某所からの移送です。良かったら見てください};

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now:&online;
today:&counter(today);
yesterday:&counter(yesterday);
total:&counter(total);
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**コメント [#c0e37a29]


#comment(above,noname)
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RIGHT:[[天国も宇宙も人が生きては到達できぬ場所である。ならばそこに違いはあるのだろうか?>仮面劇(小説・全年齢)]]
RIGHT:[[天国も宇宙も人が生きては到達できぬ場所である。ならばそこに違いはあるのだろうか?>ロイのアブノーマルな殺人(小説・R-21G)]]

父さん、母さん、そしてミーシャ。僕を見守っていてください。
少年は祈るようにロケットを模った玩具のペンダントを首から外す。
そして耐Gジェルの中で目の前に浮かぶペンダントを目に焼き付けると祈るように目を閉じる。

****

殺す。殺してやる。絶対に殺す。
少年は凄絶な笑みを浮かべると自らを人に留める首輪を首から外す。
そして一切の感覚が失せた中、殺意に塗潰されたモノクロの世界の中で、唯一色を持つ獲物を睨み付ける。

****

「一つだけ教えてやる。空の向こうには神の国、天国があるんだ」
「そうですか。ならばアサルトセルは天国と地上の境にある門を守る権天使なのかもしれませんね」
「そして生きている奴は絶対に天国にはいけねぇ。まぁ、安心しろよ。死ねば神の国にいけるからな」
「すいません。僕は生きて宇宙に行きたいんです。そしてそれを邪魔する人は誰だろうと倒します。それが例え天使であろうと貴方であろうと」
「ひゃははははははは!!!いいぜぇ!お前を空の向こう、天国に送ってやるぜぇ!」
「僕は皆の夢を叶えます!!僕は貴方を倒して空の向こう、宇宙に辿り着きます!!」

「200%」
「セイフティ解除」


#region(移送元の記録)
●後書き ※見えない時はドラック!
ホントは後書きになるはずだった中書きという名の駄文。
まずはこのような駄作を見ていただいた事に感謝を。
そして注意!!ここは作者が作品について裏話をしたり愚痴をしたりする場所です。壁の落書き並みにどうでもいい事しか書いていないので、お暇な方以外は見ないほうがいいです。
それと本編とノリが違うので冗談半分でみてください!

前回までの描写方から一転!スッキリ短く書こう!と決意して書き始めた元後編。
…あ~、突っ込まなくていいですよ。自分でもこれの何処がスッキリ短くだって解ってますから。
もう!くど過ぎだよね!40越えのオッサンのセックス並みにくどいね!そりゃぁ、気持ちいいことはいいけど、一発やったら双方共に精根尽き果てて二回戦を始める余力は無いね!!
そのままシャワーも浴びえる気力も無いまま寝ちゃって次の日の昼に起きて髪がえらい事になってるのに気付いて絶望するね!!!!!!
っと話が脱線しました。全年齢。全年齢と。折角本編を全年齢で書いたのに後書きでR18にしちゃ意味ないね!!
話を戻すと当初この話で終わる予定だったのですが、書いているうちに長くなっていき、80Kを越えた辺りでこりゃ100K以内で終わらんなって事に気付いて分割しました。
なんでもう一話続きます。だから暇な人は待っててください。

あぁ、ちなみにハリ君とヴァイオレットさんの事ですが彼等は公式小説ではなくオリジナルです。
…半分嘘です。
正確に言うとハリ君はずっと前に中途半端に書いた小説の流用。
相方のオペ子はキャラが決まって無かったので公式から持って来ようとしたのですが、見事に失敗w
なんで完全な別物になってしまったので名前をバイオレットからヴァイオレットに変更しました。類似品にご注意くださいw
ちなみにこの二人のほうが主人公らしいのは仕様ですw

コメント返しは完結編で行います!
それでは、次回の『ロイのアブノーマルな殺人』(R18)でお会いしましょう!
●コメント
- 素晴らしいですね!相変わらずいい感じに狂っています。 --  &new{2011-02-26 (土) 17:42:09};
#endregion