Written by 独鴉
SOM戦後・・・・
SOM崩壊直前に撃ちだされた砲撃によってランスタンは左腕を奪われ、
急激に増えたAMS負荷に耐え切れず動けなくなった機体ごとリンクスは回収された。
インテリオル・ユニオン所有領域・カラード施設・・・・
ランスタンはカラード整備場に運び込まれ、ハンガーに固定された後、
整備士達の手によって左腕の取り外しとAMSのリンク切断準備に追われていた。
そんな中、胸に整備士長のマークを付けた女性が大声を張り上げる。
「状況報告!各リーダーは集まんな!」
セレンと同じ黒髪の女性整備士の言葉に各チームリーダーが集まり始める。
「レイン整備士長。AMSリンク解除まであと1分です!」
「医療班を待機させますか?」
「外部供給電源と接続完了しました。ジェネレーター停止作業開始中です」
「AMSは休止状態です。統合制御体が負荷を抑えていると思われます」
集まってみると他の整備士達の中央に立つレイン整備士長は一回り以上大柄な体格をしていた。
「AMSとの接続解除されるまで両腕取り外すんじゃないよ!AMS解除急ぎな!
医療班は念のため待機!ジェネレーター班はコジマ粒子の安定処置を急がせるんだよ!」
『了解』
レインの指示に従って整備士達は作業を急いでいる中、ゆっくりとコックピットが開かれリンクスがネクスト機から降りてくる。
その表情は苦痛に歪み、ゆっくりと歩いているが左右にふらつきながら整備場隅に置かれているソファーへと向かっていく。
「ん?」
慌しく作業が進められていく中、リンクスがふらついていることに気付いたレインは話しかけようとしたが、目の前で倒れそうにリンクスをとっさに支える。
「っと、大丈夫かい?」
「・・・今回はAMS負荷が掛かりすぎました。このまま休ませてください」
そう言ってリンクスはレインに身を預けたまま目を閉じる。
「ちょ、ちょっと!?」
コックピット内ですでに薬を服用していたのかリンクスは意識を失ったかのように眠り始めていた。
「仕方ないな」
レインはため息をつきながらリンクスの両腕を持ってソファーまで引きずっていき、
リンクスを寝かせると自分の仕事に戻った。
それから4時間ほどしてランスタンのデータ収集を終えた整備士達は整備場の片付けを始めていた。
その中、セレンへのデータ提出を終えたレインは更衣室で着替えを終え、
男子更衣室の前を取ったとき開け放たれた扉の中でリンクスが着替えを終えたまま眠っているのが目に入った。
恐らく着替え終えたところでまた睡魔の波が来たのだろう。
「仕方ない・・・。家まで運んでやるか」
リンクスを背負い整備場を抜けようとしたとき一人の整備士が気付いた。
「あ~!レインさん何リンクスに手を出そうとしているんですか!抜け駆けは卑怯ですよ!」
「え~!?」
その言葉に気が付いた他の整備士達は作業の手を止めブーイングを上げ始める。
インテリオル系から引き抜いた整備士達のほとんどは女性、
実力のあるリンクスともなれば地上限定とはいえ超高収入、狙う女性が多いのは当然だ。
「ばっ、馬鹿!疲れて寝てしまっているから家まで運んでやるだけだ!変な誤解するな!」
「それなら私が運びます!」
「私も!」
「私が運ぶ!」
「俺が運ぶ!」
不毛な争いが始まる気がしたが、レインはあきれながら口を開いた。
「お前達じゃ運べないだろ。他のリンクスと違って対G機能の低い機体でも耐えられるように鍛えられているから重いぞ」
精密作業がほとんどのネクスト技術者や整備士達は通常兵器と違って力仕事は余り無い。有ったとしても作業機械でやってしまうのだから力など要らなかった。
「1~2週間程度セレンから休暇の通達が来ている。コロニーで男でも捜してきな」
しぶしぶと整備士達は作業に戻っていく。
「ただし!男任せで病気やガキとか貰ってくるんじゃないよ!そうなったら辞めさせるからな!」
ぶつぶつ言いながら仕事をしている部下達を尻目に整備エリアを出て行くとレインは足を止めた。
「そう言えばこいつってどこに住んでいるんだっけ?」
考えてみればこのインテリオル系コロニーのどこに住んでいるか一度たりとも聞いたことが無かった。
任務時間4時間前にネクスト整備場に一人で来てはセレンと共にブリーフィングを受け出撃、
帰還した後は2時間ほど休憩したあとレポートを提出し一人で帰っていく。
そんな状況なのだから知るわけも無いが。
「セレンに聞くか」
通信端末を取り出したところで、表示されている時間を見て手が止まった。すでに午前0時を回っている。
もし眠っていたのなら起こしてしまい相当気分を害してしまうだろう。
「うちで休ませるしかないな」
すでに薄暗くなっているカラード内を通り抜けると真夜中だというのに閉鎖型コロニー内のネオンが明るく光っているのが見える。
駐車場に止めてある車のドアロックを解除すると助手席にリンクスを押し込み、反対側に回って運転席に座るとゲート前まで車を走らせる。
「IDカードの提示を御願いします」
ゲート周辺には銃を持った警備兵達が巡回している。自分のIDカードを提示すると眠っているリンクスのポケットを探り、IDカードを見つけると警備兵に見せる。
「確認しました。お気をつけてお帰りください」
ゆっくりと開かれたゲートを通り抜け、数分してビルの乱立するメインストリートを走り抜けていく。
24時間開いている飲食店や洒落た雑貨店、仕事帰りの技術者達に声を掛けるクラブや風俗店、
そういったものに興味ないレインはいつも来るまで通り抜けていってしまう。
10分程車を飛ばし、警備兵が何人も巡回している高級マンションの駐車場入り口に車を乗り入れる。
「レイン様お帰りなさいませ。隣の方は?」
「客だよ。ところでセレンはもう帰っているか?」
「セレン様でしたらすでにお帰りになっています」
「そうか。ご苦労様」
警備兵が軽く手を振ると地下駐車場へのゲートが開かれレインは車を地下に走らせる。出入り口近くのグレーコルベットの横に車を止める。
磨り減ったタイヤから相当荒れた運転か下手なのだろう。
「セレンの奴機嫌が相当悪いな。タイヤ代も馬鹿にならないのに」
車からリンクスを引きずり出すと背負い直しエレベーターに乗るとIDカードを取り出し、基盤に差し込むと最上階のボタンを押した。
40階建てのビルはセレンの所有物であり、部下達全てに階下を使用させている。付き合いのもっとも長いレインはセレンと同じ最上階の半フロアを使っていた。
エレベーターの扉が開くとすぐ目の前に二つの扉になっている。片方の扉には『無断開錠抹殺』の札が下がっているが、
セレンのプライベート時間に立ち入れるのは彼女の後輩2名とレインくらいなものだ。
自室の扉を開くと自動で光が灯る。
ゆっくりと玄関にリンクスを下ろし、少々疲れた体を伸ばすとリンクスをベッドへと引きずっていく。幸い広い家には客用の部屋とベッドがある。
「これだけやっても起きないなんて、神経が図太いか大物かのどっちかだな」
客間の扉を開くとベッドにリンクスを寝かせた。レインは客間を出るとダイニングの備え付けてある冷蔵庫を開ける。
中には今では手に入りにくい湧き水が封入されている小瓶と酒やスポーツ飲料の入った缶が詰め込まれていた。
中から小瓶を取り出したが、かなり汗をかいていることに気付いた。
小瓶をしまうとビール片手に脱衣所に入る。洗濯機に服を投げ入れ、壁のパネルを操作し浴室内の温度と湯の温度を設定。
一通り設定を終え浴室に入ると湯気と暖かい蒸気が満たされていく。
タオルを壁にかけ湯船のふちにビールを置くと髪を後ろにまとめている紐を解きながらシャワーの取っ手をひねる。
暖かいシャワーが三方向から掛けられ作業で付いた汚れを洗い流していく。十分にシャワーを浴びた後、
すぐ横の壁につけられている鏡を見ると筋張った体の数箇所には裂傷の痕がくっきりと残り、顔にも数箇所裂傷の傷が残っていた。
その姿を見てレインはため息をつきながらビールを掴み湯船に浸かった。
レインの体はレオーネ・メカニカ通常軍ノーマルパイロット時に鍛えられ、
筋肉は盛り上がりセレン以上に主張している胸以外はお世辞にも女性らしいとは言えなかった。
翌日・・・
10時になったことを知らせるベルが枕元で鳴り響く中、布団から伸びた白い腕が目覚まし時計目掛けて振り下ろされた。
バキャッ!
何かが砕ける音がした後目覚まし解けの音は止まる。
「・・またか」
ゆっくりとセレンは布団から上半身を起こすと手元で砕けている時計を掴み布団から起き上がる。
停止スイッチ周辺からひびが入りっている時計をゴミ箱に投げ捨てた。
セレンは着古したシャツと下着一枚のままレインの部屋と部屋同士で繋がっている扉を開けるとダイニングに向かい冷蔵庫の扉を開ける。
中から湧き水の入った小瓶を取り出すとふたを開け中を一気に飲み干す。それでも目が覚めないのか眠気眼のままレインの寝室の扉を開けた。
「・・・また飲んだのか」
片付けられ整えられた寝室。ベッドの周辺には空の空き缶が散乱しているが、レインの姿は無かった。
眠い目をこすりながら客室のベッドを開けた瞬間、目の前の光景を見てセレンの目は一気に覚めた。
「なっ!?」
ベッドの上ではセレンと同様の格好をしたレインが確かに寝ていたが、ベッドの下、つまり床でリンクスが寝ているのだ。
しかもレインが着ていたと思われる寝巻きらしき布が周囲に散乱している。
セレンは自分が今どんな姿でいるか忘れ、リンクスの首根っこを掴むと激しく揺さぶる。
「貴様!ここで何をしている!」
激しく揺さぶられているにもかかわらずリンクスが起きる気配は無いが、
その代わりにレインがセレンの怒鳴り声に目を覚ましたらしくゆっくりとベッドから起き上がる。
「朝から一体何を怒鳴って・・・」
レインのぼやけた視界がはっきりしてくるとセレンの掴んでいるものがはっきりと見えてくる。
「なっ・・あっ!?ななんでここに!?」
自分の部屋で寝ているつもりだったレインの一言にセレンの怒りは頂点に達した。。
ブチン!
とうとう限界を超えたセレンはリンクスの首根っこを掴んだまま風呂場まで引きずっていく。
乱暴に扉を開けると浴槽内にリンクスを引きずり込むと手を放し水中に沈める。
さすがに目を覚ましたリンクスが水の中から起き上がるとセレンの脚がもう一度リンクスを水中へと叩き込む。
「貴様には水底がお似合いだ!」
何が起きているのか理解できていないリンクスは危機を脱しようと水中から起き上がろうとするが、
その度にセレンは顔や肩を踏んで水しぶきを上げながら水中へと押し戻してしまう。
「セっ、セレン落ち着いて!これ以上は不味いって!」
セレンを羽交い絞めにするとリンクスは風呂のふちから上半身を投げ出すようにしたままむせこんでいる。
それからレインがセレンに事情を細かく説明するとどうやら怒りが収まったらしい。
「寝ぼけて客間を自室と間違えるとは・・まったく」
「酒を飲むとどうも方向感覚がね」
「まぁいい。問題はこいつをどうするかだ」
リンクスはいまだ浴槽のふちで下を向いたまま動かないでいる。セレンはリンクスの前にしゃがむと顔を複数回引っ叩いた。
「何するんですか。いきな・・・!?」
目を開けたリンクスの表情が固まる。
「まぁ、今回は悪かったな。誤解とはいえ殺そうとしてしまうとは」
「そ・・そんなことより2人とも服と下着が」
「服?」
セレンはリンクスに言われて自分の服装を見て思考が数秒間停止した。
元々気の知れた女同士だからとシャツと下着一枚だった上に、
水飛沫を何度も浴びたのだから体に密着した上に透けてしまっている。
「・・・」
徐々にセレンの顔が赤くなっていくが、レインも同様の状態であるのにそれがどうかしたのかという表情をしている。
「き・・・き・・き」
ここで[きゃぁぁ]とでも言うようなセレンのわけが無い。手で前を隠しながら立ち上がると右足を大きく振りかぶる。
「記憶から抹消しろぉぉぉ!!」
セレンの右足から繰り出された蹴りはリンクスを一瞬中に浮かせた後水底へと没しさせた。
数日後、病院で意識の戻ったリンクスの記憶はSOM後から病院で目を覚ますまで綺麗に抜けて落ちていた。
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