Written by ケルクク


気がつくとおかしな場所に立っていた。
辺りには地上では見られなくなった草花が生い茂り、そこをガキ達が楽しそうに駆け回っている。
さらに目の前にはムービーでしか見た事の無い馬鹿でかい教会がででんと建っている。
「…なんだこりゃ?夢か?」
あまりに周囲の光景が現実離れしていて驚くより戸惑ってしまう。
そういやぁ、俺はクレイドルで射殺されたんだっけか。って事はここは天国か、あるいは今際の夢ってやつだな。
多分後者だな。100歩譲って天国があるとしても俺がいけるとは思えねぇし。
夢だとしたら俺はナニがしたいんだ?
ウィンディーか美女の大群でも出してくれたら楽しめるんだが、辺りにいるのが年齢二桁に達してないガキどもじゃナニも出来んぞ?
いや、どうせ最期なんだから最年少記録を更新しろってことなのか?どうする?派手に死に花を咲かせるか、ロイ・ザーラント?
「あれ?新入りさん?」
物騒な思考にのまれかけたときに目の前の教会の扉が開き、中から赤ん坊を抱いたシスターが出てきた。
不味い保護者か!!
考えるだけなら罪でないし、そもそも俺の夢なのだから何をしても問題ないはずなのだが、やましい思考していたせいか、つい身構える俺にシスターは柔らかく微笑んだ。
「そんなに身構えなくていいよ、新入りさん。ようこそ、天国へ。まぁ、正確に言えばここは入り口前の待合所だから天国じゃないんだけどね」
シスターがペロリと舌を出してニヒヒと笑う。
なんつーか、随分とガキっぽいな、いや実際にガキなのか。見たところと15(±1)年ってとこかぁ。
まぁ、これならギリギリオッケーだ。よし、人生最後の撃墜マークはこの子にしよう。
にしても、どうせこの年頃を出すならに始めて会った頃のウィンディーにしてくれりゃぁいいのに。我ながら気がきかなねぇなぁ。
「へ~、確かに天国みたいだな。地上にはこんなに自然が残ってるところなんざねぇし、クレイドルなら無粋な天井が見えるはずだ。
 それに何より天使みたいに可愛い嬢ちゃんがいるんだから天国に決まってる」
とりあえず無理やりは好きじゃないので軽い会話から入る。このぐらいの年齢の子は異性に褒められるのに慣れてないので思った事を口に出してやればいい。
後は過剰におだててやりゃぁ、ちょろいもんよ。ケケケケケ。
「うわぁ~、おじさん口が美味いね~。おじさんみたいに素敵な人に口説かれちゃうとボク、ドキドキしちゃうよ。
 でもごめんね~。ボク好きな人いるから。まぁ、とっても馬鹿で単純だし、それに今は思いっきり道を誤って堕ちちゃってるんだけど…それでも好きなんだ」
あ~こりゃ駄目だ。完全に恋する乙女の瞳だ。俺様視界に入ってない。無理無理。撤退。撤退。
って、断られんのかよ!いったい俺はナニがしたいんだ?まさか、こいつに懺悔しろってのか?
懺悔したい事は山ほどあるが流石に死の間際に反省して許された気になるって卑劣すぎんだろ!そんな醜い事する気はねぇぞ!
どうしていいか解らなくなり頭を掻き毟る俺にケタケタとシスターが笑いながら人差し指を立てる。
「っと、仕事しないと。え~、では、迷える子羊さんにヒントです。おじさんが最初に考えた事を思い出してください」
最初に考えた事?え~と、確か、天国か今際の夢って、おいおい。まさかここは天国なのか?
「ブッブー。ここはおじさんが見ている夢だよ~」
腕をクロスさせるシスター。抱かれた赤ん坊も真似して手をクロスさせてるのが可愛らしく同時に腹立たしい。
「夢だったら尚更好きにさせてくれよ。死ぬ間際に落胆させられるって俺ドンだけMなんだよ」
「だから、おじさん死なないんだって」
「なにぃ!?ありゃぁ、文句なしに致命傷だっただろ!?どう考えても助かるわけねぇだろがぁ!」
「その辺は生き返ってから聞いてよ。ボクは知らないし。それじゃぁ、そろそろ起きるみたいだし、お一人様現世にごあんな~い!」
最後は安い呼び込みのような言葉と共に少女が指を鳴らすと地面の感覚が消える。
「って、落下とかベタすぎんだろ~~!!うわぁあああぁああぁああぁああ~~~~~~!!」
浮遊感と共に凄まじい勢いで落下する感覚に意識が薄れていく。
「またのおこしをお待ちしていま~す!おじさんに、いえ全ての生ける者に神の祝福があらん事を~」
そんな最後まで明るいシスターの声を最後に俺は意識を失った。
 




 
「ちょべり!」
したたかに体を打ちつけた痛みで目を覚ます。
いて~。目を開ければ目の前にはベットの足。どうもこいつから墜ちたらしい。
あれ~?俺寝相はいいほうなんだけどなぁ~。
って、そういやぁなんで俺生きてんだ?ありゃ、どう考えても致命傷だった筈なんだが??
首を傾げながら撃たれた胸に視線を落とすが包帯ぐるぐる巻きでわかりゃしない。
試しに大きく息を吸ってみると全然痛くない。つーことは完治かそれに近いとこまで行ってるって事か??
んなあほな。奇跡が起こって助かったとしても全治一年は確実コースな怪我だったぞ。それともそんなに長い間寝てたのか?
体を軽く動かしてみる。うん、筋力は殆ど衰えてねぇ。つーことは、アレから殆ど日は経ってないってことか??
一体何が起こったんだ?くそ!とにかく状況を確認しないと。
体を起こしながら周囲を見回す。
「………どこだよここ」
明らかに意識を失う前にいたクレイドルの病院ではなかった。
ベットの他はドアがあるだけの寂しい部屋だ。
窓が無いから確証は持てないがクレイドル特有の振動音と振動がないから多分地上だ。
そしてこの部屋にはもう一人、人がいた。俺が落ちたであろうベットの上にちょこんと腰掛けているガキがいる。
「こんにちわ!」
「お、おう、こんにちわ」
目が合った瞬間に元気よく挨拶されたので気圧されながら挨拶を返す。
いかん、いきなり気圧されちまったがとりあえずこのガキしかいない以上、こいつから情報を手に入れるべきだろう。
「え~と、じょうちゃんはなんてんだ?」
「???」ガキがコクンと首を傾げる。どうも俺が何を言ってるのかわからないようだ。
あ~もう、これだからガキは!
「あ~、お名前を教えてくれるかな?」
「じょしゅあはじょしゅあだよ!さんさい!」
今度は理解できたのか腕をびっと突き出しながら聞かれもしない年齢まで答えてくれる。
どうでもいいが指が四本立ってるぞ。三歳なのか、四歳なのかどっちだよ。
「おじちゃんのおなまえはなんですか?」
「おじちゃんじゃねぇ。お兄ちゃんだ。まぁいい。俺はロイだ。それで親の名前はなんてんだ?」
「???」またガキがこくんと首を傾げる。
あ~~もう!だからガキは嫌なんだよ!!
「え~と、お父さんとお母さんのお名前を教えてくれるかな?」
「パパとママ!」
「…え~と、じゃぁ、ここはどこかわかるかな?」
「びょーしつ!」
「……今日何日だ?」
「パパのお仕事の日!」
よし!諦めよう。ガキに期待した俺が間違いだった!ドアから脱出して情報を集めよう。
いや、待てよ。いざって時の為にこのガキは人質にしたほうがいいのか。
ガキを抱き上げるべく腕を伸ば…
「止まりなさい、ロイ・ザーラント」
…そうとしたところで後ろからかけられた声に金縛りにあった。
「おねえちゃん!」
なんだ!?動けねぇ。いや、違う。動きたくねぇ。なに!?何なの!?
なんといえばいいんだろう?別に縛られているわけじゃないから簡単に体を動かせるはずなんだけど、頭が幾ら命じても体がそれを拒否する。
いや、頭も本気で命令しちゃいない。なんというか、全力でこの顔も知らない声の主の命令をききたいと思ってる?
冗談だろ?寝てる間に洗脳でもされたのか?
「ジョシュア、こっちにきなさい」
「は~い!」
ガキがベットから飛び降りて声の主へと駆け寄っていく。
いや、違う。そんなんじゃない。なんつーか人間としての格の差で絶対服従してる感じ?。例えるなら女王蟻と働き蟻。あるいは女王様と奴隷。
やばい。やばい。やばい。無意識に服従したくなるのを理性で懸命に押さえつける。
「回復するや否や女性に手を出すとは。しかもジョシュアちゃんのような子供にまで。やはり噂は正しかったようですね。人を呼ぶので暫くそのままでいなさい」
「はい」
勝手に返事をする俺。おお!やばい。これはやばいですよ!ウィンディーと仲間と美女の次に愛する自由が奪われちゃいそうですよ。
だが焦る内心とは別に体はピクリとも動かないのであった。

****

「来ましたか。それでは後は任せましたよ。相手は悪名高きインテリオルの淫獣です。お気をつけて」
「いくよ、ジョシュアちゃん」「はーい!ねーいんじゅーてなーに?」「けだもののことですよ」
背後に人の気配が満ちると同時に声の主が遠ざかっていく。
同時にようやく呪縛が解けて体が動くようになる。
「誰が淫獣だ!!」とりあえず、突っ込みながら後ろを向くと後ろには三人の奇人がいた。
一人はきっかりと高いスーツを着た温泉マークのついたダンボールを頭に被ったガタイのいい男。
一人は緑色の看護服を着た頭にデフォルメされた血涙を流しながら笑う顔をプリントした袋を被った巨乳の娘。
一人は某アメコミヒーローの着ぐるみ。
なんだここは?ハーロインはもう終わった筈だぞ。つーか、突っ込みどころがあり過ぎて色々とメンドクセェ。やべぇ、頭が痛くなってきた。
「とりあえず、ダンとメイちゃんと、有澤の旦那なにやってるんすか?」
「あわわわわ!!ど、どうしてメイと社長のやる気の無い変装はともかく俺の完璧な変装がばれたんだ!?」
「やる気の無いってなによ!アンタこそ変装の意味知ってるの!アンタのは仮装って言うのよ!仮装!」
「コスプレのお前に「あぁあん?お前?」ひ、っひい!メイ、いやメイさん、いえ、メイ様です!」
何時もの漫才を始める二人を放っておいて有澤(仮)が前に1歩出てくる。
「残念だが、ハズレだ、スミス君。現在ダン・モロとメイ・グリンフィールドと有澤隆文の三人は有澤主催のパーティに出ており私達三人とは何の関係も無い。
 君とクレイドル03で病死したロイ・ザーラントがなんの関係もないようにな。
 今ここにいるのは、ラインアークに住んでいるコスプレ仲間の温泉仮面とワラキーとアッシュだ」
「…つまり、ここにいるのはオフレコなわけね。了解だ。人違いして悪かったな。取り合えず色々聞きたい事はあるんだが」
「物分りが良くて結構だ。そうだな。君の疑問に答える前に事情を説明しよう。
 まず、致命傷を負った君が助かった理由だがこれは簡単だ。偶然人工心肺のサンプルを君が撃たれた病院に有澤が売りに来ていてね。
 少々値が張るものだが人命には変えられんからな。快く有澤が提供したのだ。
 それと君の彼女に感謝したまえ。彼女が三日間付きっ切りで君の傍にいたからこそその間に殺し屋は仕事が出来ず、有澤が売りに来るのが間に合った」
そっか。俺はまたウィンディーに助けられたのか。アンガトな、ウィンディ。
「もっとも準備に少々手間取ったので一度は死亡確認されてしまったがね。おそらく殺し屋のクライアントにはそれが届けられているだろう。
 その後はクレイドル住民でない君は規則に従い地上に転院したというわけさ」
「成る程ね。俺はアンタに助けられたわけか。それで、そこまで手間暇かけて俺を助けたアンタは何をして欲しいんだよ?」
「特に何も。暫くはここで静養していたらどうかね?」
「じゃ、じゃぁ、社長の影武者になるのはどうだ?ロイさん程の腕前だったら俺なんかより、ずっとずっと立派に勤められますって!」
「ちょっと、アンタ何言いだすのよ、ダン!いい加減に馬鹿なことばっか言ってないで覚悟決めなさい!!」
「だって、リンクスだけでいいと思ったらまさか社長の仕事までやらされるなんて…」
「泣き言言うな!私や秘書さんが手伝ってあげてるのに不満があるの!」
「ワラキーの言うとおりだ。あの子の代わりに影武者になるといったのは嘘だったのかね?それに私は君以外を代理にする気はないよ。自分の後釜は君か息子にというのが奴の遺言だったからね」
なんだダンの奴面白い事になってんな。いや、俺も愉快な状況さでは負けてないか。
「話を戻そう。とにかく君に今頼む事はない。ただ後々助力を頼むかもしれないがね。なに、たいした事じゃない。とある人物の罪について証言して欲しいだけだ」
「OKだ。アンタには助けてもらった恩もあるしクソジジイにリベンジできるんなら悪くねぇ、………と言いたい所だが、全力で断る!」
「ふむ、何故かね?」
「アンタもクソジジイと変わんねぇからだよ。アンタもテメェの政争の為にクレイドル03の奴等の命を利用しやがっただろ?
 TOP潰して自分が頭になるためにクレイドル襲わせた王のクソジジイも許せねぇが知ってて防がなかったテメェも同罪なんだよ!!
 わかってんのか!?テメェらの下らない争いのせいで6000万も死んだんだぞ!!6000人じゃねぇ!6000万だ!
 それになによりなぁ、テメェらの下らない政争にウィンディー巻き込んだことが一番許せないんだよ!!」
「成る程。それはすまなかったな」
「謝って済む問題じゃないだろうが!!!謝ろうが祈ろうが悔やもうが死人は生き返らないんだよ!!」
気がつくと怒りで目の前が真っ赤になって有澤を殴り倒していた。
さらに溢れ出した激情の赴くままに倒れた有澤にさらに蹴りを入れる。
「わかってんのか!!死んだのは死ぬ覚悟して前線にいる戦闘員じゃねぇんだぞ!!!なんの覚悟も無い女、子供がテメェ等のくそくだらねぇ政争のせいで死んだんだぞ!
 そんな6000万の死の責任を感じたウィンディーがどんだけ傷ついたと思ってんだよ!くそくそくそ!殺すんならテメェらだけで殺し合いやがれ!!
 なのに助けてやるだぁ?人命には変えられないだぁ?テメェの都合で助けたくせに胸糞悪い!寝言は死んでから言え!」
「やめて!!」「落ち着けって」
さらに蹴りを入れようとした所で後ろからダンとメイにしがみつかれて止められる。
「放せよ!!テメェらだって利用されたんだろうが!!こいつのせいでテメェらの知り合いは死んだんじゃないのかよ!!
 それともテメェらも共犯なのかよ!」
「そんなわけ無いじゃない!!それに社長のせいじゃないのよ!!私達じゃどうしようも無かったんだから!!
 直前まで知らなくて!知ってからは軟禁されてどうしようもなくて!!なんとか脱出したのに私が撃たれて!!!ホントは私を見捨てれば社長も一緒に脱出できたのに助けてくれて!!!!
 私を助けるために社長の部下の人がいっぱい死んじゃって、私のせいで!せいで!せいで!
 そうよ!私が全部悪いのよ、私が!責めるなら私を責めなさいよ!」
「泣くなって、メイ。最後まで何も知らなかった俺のがもっと最悪なんだからさ。
 それとロイさん、社長は自分の都合でアンタを助けたわけじゃないよ。
 だってアンタ公式には死んでるんだ。それに王がクレイドルを襲わせた証拠も何も無い。
 だから実は生きてましたってノコノコ出ていって王の罪を告発したって別人の戯言で片付けられてしまいさ。それよりアンタを生かした事が王にばれたほうがやばいんだよ。
 だからさ、本当に社長はお礼がしたかっただけなのさ。俺達が助けられなかった4000万人を助けてくれたお礼をさ。
 そのためにラインアークにまで行ってアブさんに土下座までして、クレイドル03までロイさんの手術をしてもらいに行ってもらったんだぜ?
 アブさんが帰ってくるまでラインアークで人質にまでなってさ。
 な、ロイさんが怒るのは当然だけど、二人を悪く言わないでくれよ。その、マジで何もしてない俺には何してもいいからさ」
足に縋りついて泣くメイと鼻を啜るダンの声に熱くなっていた頭が冷える。
「………放せよ。もうしねぇからよ。
 でも謝らねぇぞ。理由はどうあれアンタがウィンディーを利用した事は変わらないんだ」
二人を振り払って倒れた有澤に手を伸ばす。
「かまわない。理由はどうあれ、王の凶行を止められなかった事は事実であり、ロイ・ザーラントの恋人を利用した事は事実だ」
「…それと、協力もしてやる。どっちみち今は戻ったらあいつ等に迷惑かけちまうから戻れないんだ。って事はここにいるしかないわけだしな」
「すまない。例を言う」
有澤が伸ばした俺の手を掴む。
言っとくがこれは和解の握手じゃないからな。あくまで倒れた有澤に手を伸ばしただけだからな!!

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三人が帰った後、訪ねてきたM=オカムラ博士と名乗った怪しげなアブ・マーシュの怪しげな話によると
俺に移植された人工心肺は、旧国家時代の強化人間の技術を応用したもので、制御にAMSを使わないが定期的にメンテナンスを受けないと危険かつ、
国家解体戦争時に企業に徹底的に抵抗して滅ぼされた傭兵国家の技術なのでメンテナンス出来るのが極少数なので遠出しないように注意を受けた。
(ついでにどうせなら神経の光ファイバー化や骨格や筋肉や血管も人工の物に置き換えてついでに自爆装置と加速装置もつけないかと怪しげに熱心に勧められたが丁寧に断った)
まぁ、死にたくなければラインアークに一生いろと言いたいんだろうが、残念ながらメンテナンス出来る奴には当てがある。
確か爺さんが酔っ払った時に自分は傭兵国家出身だと言っていたからな。

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そして仮初の自由(好きにしていいと言われたが一文無しの上に支給されたのが病院着と家庭用の多目的端末一つだけでは外出すらままならない)を得た俺は、
会えないにしろとりあえず皆に生きている事を伝えようと色々とコンタクトを取ろうとしてみたが、悉く空振りに終わってしまった。
いや、正確にはコンタクトを取るところまで行っていない。
ホーム全体の連絡手段から、個人用の連絡手段まで軒並み企業に抑えられていてどうしようもない。
唯一の幸運が企業が俺が生きていると知って監視しているのではなく、単純に不穏分子でだからという理由で俺の仲間を監視している事だった。
つまり監視されている事を教えて威圧する事も目的の一つなのであからさまな監視が行われており、それに気付けた俺は企業に気付かれる事なく撤収する事ができた。
だが連絡が取れない事には違いは無い。
焦った俺はとにかく少しでも情報を集めようと、企業にばれないように仲間達が普段利用しているアクセスフリーな場所を片端から見てみたがあいつらも自重しているのか殆どアクセスした形跡はなかった。
いや、ただ一人例外はいた。やけになっているのか、企業への嫌がらせか爺さんだけは普段通りの生活をおくっているようだ。
当然なんとか接触したかったのだが、企業に一切怪しまないように爺さんに俺だと知らせるのはかなり厳しかった。というか、ちょっとでも接触したら辿られる。
あまりにも厳重な監視体制に流石に少し時間を置くしかないと諦めかけていた時、俺は爺さんが公開した一本の動画を見つけた。
爺さんはよく「エロは世界で共有するものじゃ」と手に入れたエロ動画を公開していて今回も同じだろうし、何より企業のチェックが何重にも入っていたのが解ったのでおそらく得られる情報はないだろうが、
それでも爺さんらしからぬ扇情的な説明文に興味を惹かれた俺は息抜きのつもりで再生したのだった。

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始まると『美女に色々と悪戯してみよう大作戦』と書かれたスケブが映された。
スケブが1ページ捲られると、『嬢ちゃんの予定』と書かれた下に7:00起床に始まり25:00就寝まで細かく書かれた予定表が映される。
最後にスケブが外され、馬のお面を被った爺さんが「こんな一日を過ごす美人の嬢ちゃんに透明人間のわしが色々と悪戯するぞい!!」としめて場面が切り替わった。

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7:00 起床 ~~~嬢ちゃんの寝室~~~

「今は6:00。つまり嬢ちゃんはあと一時間はナニをされても起きん!というわけでレッツ、悪戯じゃ!」
見慣れたウィンディーの私室で爺さんがそう宣言すると、規則正しい寝息をたてる見慣れたTシャツとハーフパンツ姿のウィンディーをくすぐったり、髪を引っ張ったり、耳元で叫んだりする。
だがウィンディーは起きずに規則正しい寝息をたてつづける。
爺さんが水が一杯に満ちたバケツをウィンディーの上でひっくり返す。びしょ濡れになるウィンディー。濡れたTシャツが肌に張り付き形の良いバストがくっきりと浮かび上がる。
そのバストを爺さんが揉みしだく。爺さんの手によって形を変えるウィンディーの胸。
だがウィンディーは起きずに規則正しい寝息をたてつづける。
爺さんがウィンディーのびしょ濡れのハープパンツを脱がせる。そして「いくつ入るかの」と俺が贈ったショーツをずらして前と後ろの穴にローターを入れていく。
前に四つ、後ろに五つ入ったところで爺さんがローターのスイッチを入れる。
部屋に響くくぐもったローター音。
だがウィンディーは起きずに規則正しい寝息をたてつづける。
「見たかの?つまり嬢ちゃんは何が起きても決まった予定を実行するのじゃ。とりあえず、起きるまで巻くぞい」
爺さんがローターを入れたまま安らかな寝息をたてるウィンディーの頬を抓りながら宣言すると、画面が切り替わった。
 


 
「現在、6:59分、嬢ちゃんが起きるまで後1分じゃ」
爺さんの言葉通りにきっかり1分後に目を覚ますウィンディー。
「このまま約三分間、あ~、正確には169秒間伸びをして、その後五分間、え~、正確には325秒間ストレッチをするぞい」
爺さんの言葉通りに伸びをした後ストレッチを始めるウィンディー。
まるでローターなど入っていないかのようだ。
だが実際にはウィンディーは全身びしょ濡れであり、股間からはくぐもった音が聞こえて来ている。
「あ~、その後はトイレにいって小を済ませた後、7:50分までシャワーを浴びて汗を流すぞい」
爺さんの言葉通りにストレッチを終えた後、トイレへと向かうウィンディー。その後ろをついていく爺さん。
トイレに入る直前にウィンディーを抜かし先にトイレに入る爺さん。
だがウィンディーは爺さんを無視してトイレに入ると、爺さんがいるにもかかわらずトイレに入り便座に腰を落とす。
爺さんが閉じたウィンディーの足を開く。カメラがアソコをドアップにする。
ウィンディーのアソコがひくついた瞬間に勢い良く小便が迸る。
同時に力が抜けたからだろうか前と後ろの穴からローターがボトボトと零れ落ちる。
ボチャンボチャンとウィンディーから出たローターが便座の中に落ちていく。
ジョボジョボジョボボチャンボチャンジョボジョボボチャン

……頭がどうにかなりそうだ。

やがて全て出し尽くしたウィンディーは一度震えると、アソコをビデで漱ぎ、温風で乾かすと立ち上がり流す。
当然ローターが入っているためにまともに流れずに詰まるが気にせず立ち上がりそのままバスルームに向かうウィンディー。

服を脱ぎ捨てるとシャワーを浴び始めるウィンディー。
爺さんがシャワーを熱湯にしたり逆に水に変えたりするが一切動じる事無くシャワーを浴び続ける。
「さて、シャワーから出るまでちょっと巻くぞい」
シャワーを浴びるウィンディーの尻穴にシャンプーを挿しながら爺さんが宣言すると、画面が切り替わった。
 


 
「さぁて、もうすぐ嬢ちゃんがシャワー室から出て来るんじゃがちょっと悪戯しようかの」
爺さんがずぶ濡れのTシャツとハーフパンツと俺が贈ったショーツをゴミ箱に放り込む。
同時にウィンディーがバスルームから出てくる。
ウィンディーは濡れた体をバスタオルで拭いて髪を乾かすと、存在しない服を掴みそしてそのまま存在しない服を着始めた。
そして存在しない服を着終わったウィンディーは全裸のままバスルームを出て外へ出て行く。

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8:30 朝食 ~~~食堂~~~

ウィンディーが全裸のまま食堂に到達し、用意されたパンとコーンポタージュスープとヨーグルトを黙々と食べ始める。
「さぁーて、ここで悪戯じゃあ!」
爺さんがやけっぱちと紙一重の陽気な声でウィンディーのスープにタバスコを一本開ける。
ポタージュの濃厚な黄土色が一瞬でタバスコで真っ赤に染まる。
だがウィンディーはそれを平然と飲み続けていく。
「すごいのぉ~。甘党のワシは一舐めで限界じゃわい。
 さぁて、食事が終わった嬢ちゃんはこの後トイレでお通じをするんじゃが、トイレはさっきやったのでちょっと趣向を変えるぞい」
そう言いながら爺さんはロープでウィンディーの右足とテーブルの足を繋いだ。

やがて食事が終わったウィンディーが立ち上がり食器を返そうとカウンターへ向かう。
だが足を繋がれている為、当然進む事はできない。それでもカウンターへ向かって足踏みを続けるウィンディー。
そして存在しないカウンターへと食器を返すウィンディー。
当然、カウンターはないので床に食器が落ちる。だがそれに一切かまわずウィンディーは今度は食堂の出口へと向かい足踏みを始める。
「ひょい」爺さんがウィンディーに足払いをかける。
足を掬われたウィンディーが受身も取らずに顔面から床に転倒する。
だがウィンディーは文句も言わずぜんまい仕掛けの玩具のように倒れたまま足を動かし続ける。
「…足を縛られるのも転倒する事も予定にないからのぅ。だから嬢ちゃんは対応できんのじゃ。
 さぁて、トイレにつくまで後大体三分じゃ。それまで芋虫嬢ちゃんを観察じゃ!」

三分後、ウィンディーは立ち上がると鼻血を拭いもせずに存在しないドアを開け、存在しない便器に腰掛ける。
当然そんなものはないので無様にひっくり返るウィンディー。
「ひょ。どうせならこの格好のほうが面白かろう」
ウィンディーの腰を持ち上げ、頭を下に腰を上にする体位、通称マングリ返しの体勢に固定する爺さん。
「さぁて、嬢ちゃんがぶっといのをひねり出すのは九時二十三分じゃ。後、三十秒じゃの。カウントダウンいくぞい」
カウントダウンを始める爺さんや自分の状態がわかっていないかのようにいきみ始めるウィンディー。
「3,2,1,0」
0と同時に大便を始めるウィンディー。勢い良くでてきた排泄物がウィンディーの体を伝って顔に滴り落ちて、綺麗な顔を汚していく。
「ひょっひょっひょ。可愛い化粧じゃのう。次は食糞で

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気がつくとモニターを蹴り壊していた。
「なんだよこれは!!なんなんだよ!!」
激情に任せてベットを蹴り倒し、テーブルを殴りつけ、灰皿を壁に叩きつける。
「くそ!!」ぐちゃぐちゃになった頭のままともかく爺さんに連絡を取ろうと端末を立ち上げ…
「駄目だ!!」
…ようとしたところでギリギリで踏み止まる。
落ち着け!!爺さんに連絡して何があったが問い詰める事は簡単だ。
だがその後どうする!!今不用意に連絡を取ったら俺が生きてるってばれちまうんだぞ!!そうなれば二度と皆に接触を持つことはできねぇ!!
そうなりゃウィンディーに何か異変が起こってるにしろ、ありえねぇと思うが爺さんが裏切ってウィンディーを調教したにしろ、俺はウィンディーを助ける事はできなくなる!!!
だから落ち着け!!とにかく今重要なのは俺が生きてるってばれないように一刻も早く皆に、特に爺さんと接触を持つ事だ。
どうする?フリーの情報屋か何でも屋を使うか?
駄目だ!!今の俺には自由に使える金がねぇ!!奴等は十分な前金がなきゃ動かねぇし、そもそも接触したら奴等俺が生きてるって情報を売りかねねぇ!
どうする!どうすりゃいい。
部屋の中をぐるぐると回りながら妙手を考える。
とにかく、金が要る。十分な前金があれば俺が生きてるって事を黙ってて貰う事は可能だ。
だが当てがねぇぞ!ロイ名義の金を動かしたら一発で企業にばれちまうし、隠し預金や別名義の金も何処まで監視されてるかわからねぇから無理だ。
どうする!どうすりゃいい!!
くそ!こうなりゃ誰かから借りるか?駄目だ!リンクス、ロイ・ザーラントならともかく身分保障無しの俺に貸してくれるわけがねぇ!!
くそ、せめて俺がリンクスだと証明できれば、って、待てよ!
「そうだ!!いるじゃねぇか!!俺がリンクスだと知ってる奴がよぉ!!」

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「ん~、ざぁんね~んだけどぉ~、君のきょうぐぅ~にはどぅじょ~するけどぉ、お願いハァ~却下させてもらうよぉ~。
 ちみぃの情報がぁばぁれずにぃ君のくぉいびとぉを助けられるとはぁお~もえないし、かぁりにぃ奇跡が起こっすわいごぉまでばれなくても結局情報やぁに君が生きてる情報をう~られちゃうからねぇ~」
怪しげに首を振りながら怪しげに明確に拒絶する怪しげなアブ・マーシュ。
ぐ、やはり断られたか。まぁ、当然だ。突然部屋に訪ねてきて金貸してくれなんて断られるに決まってる。むしろ叩き出されなかった事を感謝するべきだろう。
だが、感謝してもここで退くわけにはいかない。なにしろ企業にばれずに俺に金を貸してくれるのはコイツ(ラインアーク)しかいないのだから。
「そういわずに頼む!!金はあいつ等と連絡さえ取れればどうとでもなるし、最悪モルモットにしてくれてもいい!!
 それに王の野郎の悪事に対する証言なら俺でなくてウィンディーでもいいはずだろう?いや、むしろ俺なんかよりウィンディーのほうが証言の価値は高いはずだ!!
 ウィンディーは説得して絶対にお前達につくようにするからお願いだ!!俺に出来る事ならなんでもする!!」
土下座して頭を床に叩きつける。とにかくここで断られたら終わりなので駆け引きなぞ考えずに拝み倒すしかない。
「…ふぅ。君は僕がアスピナ出身と解ってなんでもするとか、モルモットになるなんて言葉を言ったのかい?
 僕達みたいな人種にそういう事を言うと狂う事も死ぬ事も、最後には人ですらなくなるよ?」
アブ・マシューが普段の怪しげな態度を引っ込めて俺を見据える。
この目は知っている。CUBEの周りやリンクス養成所に時々いた科学に全てを捧げてる人を道具としか見ない冷徹な科学屋の目だ。
体が震える。あぁ、解る。今コイツが言った事は冗談じゃない。コイツは本当にやる。ここで頷いたら俺はきっと生きながら地獄って奴を体験する事になるんだろう。
だが、それでも
「あぁ。構わない。ウィンディーを助けられるのなら俺はどうなっても構わない」
「…ふぅ~。わぁ~かったよぉ~。ぬわぁんとかしようじゃないか。
 ざぁんねぇんながらぁ、ぼぉくにはそぉんなぁ大金用意でぇきぃるぅ~つてぇはないがぁ、
 もってそうな人はぁしぃってるからねぇ~。れんらぁくしてみるよぉ~」
溜息を一つ吐いた後、アブ・マーシュはそう言って怪しげに電話をとって誰かと連絡を怪しげに取りはじめた。

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アブ・マーシュは電話を終えると金と情報屋の両方に当てが出来たので、明日情報屋と会わせるので詳しくは情報屋と話してくれと怪しげに告げた。

そして翌日、訊ねてきたエドと名乗る男に簡潔に企業に絶賛監視中の爺さんと連絡を取りたいというと、
男は一瞬だけ眉を顰めたものの、「ま、いっか。あの馬鹿から何も言わずに協力してやってくれって頼まれてるし」と肩を竦めて、
俺に現在解っている爺さんの状況と爺さんの性格を聞いた後、報酬の話もせずに立ち去ろうとした。
慌てて俺が報酬に関して尋ねると、
「いらん。まことに不本意な事だがお前を紹介した奴にはどでかい借りがあるからな。ロハとは流石に言えないが後払いの実費で構わん」
と肩を竦めて立ち去った。

それから三日後、準備が出来たと再び現れたエドに連れられて半日ほど潜水艦や航空機や車を乗り継いだ結果、俺はとある繁華街のホテルの一室に辿り着いた。
「アンタが連絡を取りたがってた男はガチガチにインテリオルに監視されてるな。
 四六時中、それこそ、トイレに行っても買った女とヤってる時も何重にも監視と盗聴がついてやがる。
 監視中何人か企業か組織のエージェントが連絡を取ろうとうろついてるのを見たがみーんな諦めて帰ってったぜ」
「んな事、解ってんだよ。だからアンタ等に頼んだんじゃねぇか!」
「焦るなよ、若造。いいか、今ターゲットはこのホテルの16階で買った女と真っ最中だ。
 んで、同じ16階でこの辺りを仕切ってる組織の幹部とその幹部の上司の妻がもうすぐ会ってこっちもヤり始める。いわゆる不倫ってやつだな」
ニヤニヤと嫌らしく笑うエドを睨み付ける。
「それがどうかしたのかよ!悪いけど俺は他人の恋路に気を使ってられる状態じゃないんだよ!」
「だから落ち着けって。いいか、その幹部な、不倫は初めてじゃなくて常習犯なんだよ。いわゆる他人のモノを無性に欲しがるタイプなわけだ。
 そしてそいつは以前不倫を他の奴に盗聴&盗撮されて脅されて痛い目を見たんだよ。
 んで、反省したそいつはどうしたと思う?
 不倫を止めた?普通はそうするよな。だが、愉快な事にそいつは普通じゃなかったんだよ 
 驚く事にいつも利用するホテルに盗撮と盗聴を防止する装置をつけちまったんだよ。んで、コトに及ぶ時は毎回その装置を作動させてるのさ。
 まったく、救われない奴だよなぁ?まぁ、そのおかげでこっちは助かるんだけどな」
エドが笑いを引っ込めて顔を引き締める。
「いいか。20分だ。装置が発動してからインテリオルのが対応するまで最速で30分。
 移動に5分と見て往復10分。悪いがこれ以上は無理だ」
「いや、それで十分だ。サンキュな、エド。3日でここまでの事を調べて実行するなんてアンタ凄腕だったんだな」
「当たり前だ。そもそも俺は戦局じゃなくてコッチ系の情報を集めるのが専門だし得意なんだ。それなのにあの馬鹿。人を無能リサーチャー呼ばわりしやがって」
「お、おい、エド?」
ブツブツと独り言を始めたエドに声をかけた。
「あぁ、すまん。シーラ、じゃなかったターゲットと一緒にいる女には事情を話してあるが、ターゲットには事情を話してないからな。まずは説明から始めてくれよ。
 それと、俺は着いていかないから何かあったら女の指示に従ってくれ」
「あいさ。了解」

****

「よし!スタートだ!若造!」
エドの声が聞こえた瞬間に部屋から飛び出し、階段まで走り抜ける。
そのまま走ってきた勢いを殺さず階段を二段飛ばしで駆け上り、目的の部屋までノンストップで駆け抜ける。
そしてドアを開けて、
「いいところでお預けとは酷いのぉ。にしても特別ゲス」
ベットの上で女の胸を呆けている爺さんへと全力疾走し
「って、誰じゃ?まさかロイ!!やっぱりお前生きてお「死ねぇえええぇえええぇえ!!!!」
思いっきり顔面をぶん殴ってやった。

****

「ふぁにすんじゃ!この馬鹿餓鬼!!」
「うるせぇ!人の女を晒し者にしくさりやがって!いくらアンタだってただじゃおかねぇぞ!」
爺さんが投げてきた灰皿を跳ね除けてもう一発蹴りを入れ
「は!自分の女ぁ?だったら人に押し付けるような事をせずに最後まで面倒みんか!若造!
 ワシ等に嬢ちゃんを押し付けた時点で何をされても文句は言えんのじゃよ!!」
ようとしたところで爺さんに足を掴れてそのまま倒される。
すかさずマウントポジションを取った爺さんがそのまま殴りかかってくる。
「お前が死んだと聞かされてワシ等がどんな気持ちじゃったと思う?お前を守れなくてワシ等がどんな気持ちじゃったと思う?
 ええか?今一自覚しとらんからはっきり言っておくがワシ等の中でお前はかなりの大きな部分を占めとるんじゃ!
 とりわけお前が趣味で拾ってきた奴等はな、殆ど依存かあるいは呪いと言ってもいいレベルでお前を慕っておるんじゃ!
 なのに死んだと誤解させた上に今の今まで連絡をせんとは無責任にも程があるじゃろう!」
殴る爺さんの目が潤んでいるのは多分殴られすぎて視界がゆがんでいるせいだろう。
「…悪かったよ」
だから俺が謝ったのは爺さんに殴るのを止めてもらいたかったからだ。
「ふん、わかればいいんじゃよ。まったくそんな事もわからんとはまだまだお前もガキじゃな」
爺さんが照れたようにそっぽを向きながら立ち上がり倒れた俺に手を伸ばす。
その手を取って
「だがそれとウィンディーにした仕打ちは別だろうがクソジジイ!!」
思い切り引っ張ると倒れてきた爺さんの鼻に向かって全力で頭突きを決めた。
「があぁあ!」悲鳴を上げながら転げまわる爺さん。
「説明しろよ。何の理由もなくあんな事したとは思わねぇけど半端な理由じゃ納得しねぇぞ」
「…頼まれんでもしてやるワイ。の前に、すまないがお嬢ちゃん、向こうの部屋に行ってもらえんかね?」
爺さんがベットの上で胡坐をかいて煙草をすいながら俺達を面白そうに見物していた女に声をかける。
お!改めてみると美人!こんな状況じゃなきゃ一声かけるとこなんだけどな~。
「…別に構わないけど後十五分以内に済ましてよね?それ以上は彼ここにいれないわよ?」
そうなのか?と爺さんが俺を見るので、ああと頷く。
「了解じゃ。ならロイ。とりあえず黙ってわしの言う事を聞け。質問は後にせい。ええな?」
「わかった」「それじゃ、十三分後に戻ってくるから」
俺が頷くと女は裸のまま隣の部屋に歩いていった。 ん~いい尻。いい体。いつか一戦交えたいね。
「それじゃぁ簡単に言うぞい。
 ワシが嬢ちゃんにあんな真似をしたのはな、お前と一刻も早く連絡をつけるためじゃ。
 ワシ等に監視がついたのはわかっとった。そしてお前が死んでなければワシらに連絡を取るのを監視が緩くなるまで待つだろうということもな。
 さっきのワシの発言とは矛盾するがその判断は間違っとらん。今この状況でワシ等に無理に連絡を取るのは百害あって一利無しじゃ。
 じゃが、ワシ等には時間がなかったんじゃ。じゃからどうしてもお前と接触する必要があった」
「それはさっき聞いたよ!俺が聞きたいのは!」
いきり立つ俺の前に爺さんが手をかざす。
「いいから黙って聞け。確かにお前が死んで皆ショックを受けた。その中でも一番ショックを受けたのは嬢ちゃんだったんじゃ。
 当然じゃろ?嬢ちゃんが話を持ってこなければお前は死ななかった。嬢ちゃんが早く敵を倒せばお前は死ななかった。
 …真実がどうでアレ嬢ちゃんが全て自分のせいと思い込むのは簡単に想像がつくじゃろう?」
「そのフォローを俺は爺さん達に!」
「間抜け。嬢ちゃんの中のお前は他人が埋められるほど小さくないワイ。それに平時ならともかくワシ等もお前が死んだと聞かされていっぱいいっぱいだったんじゃ。そんな状況でまともなフォローなんぞできるわけなかろう。
 ともかくお前が死んだと聞いた瞬間に嬢ちゃんは倒れ、目を覚ましてからはロボットのようにお前が死んだと聞かされた日の前日の行動を繰り返す様になっとたんじゃ。
 詳しい症例はお前が見た動画のとおりじゃよ」
「なんでそんな状況でほうっておくんだよ!とっと医者にでも診せろよ!!」
詰め寄る俺に対して爺さんは肩をすくめる。
「それはそうなんじゃがな、医者からインテリオルに連絡が行ったら奴等嬉々としてワシ等を皆殺しにして嬢ちゃんを回収するぞい?
 インテリオルがワシ等を生かしておく理由はただ一つ。貴重なリンクスであるウィン・D・ファンションへの人質じゃ。
 その価値がないならお前と同じ反乱分子のワシ等を生かしておく理由はないワイ。
 じゃからワシ等は自分の身を守る為に嬢ちゃんを犠牲にしとったんじゃよ。その事を言い訳するつもりはないぞい」
「つまんねぇこと言ってんじゃねぇよ。ウィンディーも回収されたら良くてモルモットじゃねぇか」
「ふん。とはいえ何時までも隠し通せるものじゃないからの。医者に診せられん以上嬢ちゃんを元に戻せるのはお前だけじゃ。
 じゃからワシ等としては早急にお前と連絡を取らねばならんかった。
 じゃからお前が見たらどんな手段をとってもワシ等に連絡を取るような内容の動画を作ったんじゃよ。ついでにお前に症例を知らせることも出来るしの」
「事情は解った。はっきり言ってやり過ぎだが…俺のせいでもあるしな。しゃーない、二人揃ってウィンディーが正気に戻ったら殺されよう。
 …でもあんなモンだしてインテリオルはなんか言ってこなかったのよ?」
俺の問いに爺さんは何時もの笑みを浮かべ
「ひょひょひょ。他の企業なら大問題になったじゃろうがリンクスの性癖の暴露本を同じリンクスが出したり、カラード内での身体検査の盗撮画像をリンクスが売って小遣い稼ぎにしとるんじゃぞ?
 それらに比べればそれほど大きな問題にはならんよ。
 それでロイ。お前すぐに戻ってくることは可能なのか?」
考える。
もし俺が戻ったら王は今度こそ面子にかけて確実に俺の抹殺を行うだろう。そしてインテリオルも前回と同じように特にそれを止めないに違いない。
「…いや無理だ。今戻ったら絶対に迷惑がかる。というかBFFやインレリオルは俺を殺すためにホームを吹き飛ばしかねない」
「そうか。解った。ならロイ。お前今何処で世話になっとるんじゃ?」
「ラインアークだよ」
「解った。ならワシ等がそっちにいく」
「はぁ!?突然何言ってんだよ!インテリオルから抜けるんだぞ!解ってるのか!!」
先程とは違う意味で詰め寄る俺に爺さんはヤレヤレと肩をすくめる。
「どちらにしろこのままインテリオルに残っとたら殺されるから全員で亡命するしかないんじゃよ。
 まぁクレイドルに家族がいる者は残しておくがな。
 安心せい。自分で言うのはなんじゃがワシ等は超優秀な技術者じゃ。家族という人質がいる以上インテリオルも殺そうとはせんよ」
何か他に手がないか考えてみるが何も思いつかない。
「……それしかないか。解った。上の連中には俺が話しておくよ」
といっても俺も知り合いは幼女とアブ・マーシュしか知らないのだが。まぁ何とかなるだろう。てか何とかしなくちゃいけない。
「頼んだぞい。それじゃぁワシは戻ったら主要メンバーにそれとなく知らせておく。多分1週間程度でそちらいけるはずじゃ」
「OKだ。それじゃぁ、よろしく頼む。あ、それと動画はとっとと消しておけよ?もちろんマスターもだぞ」
「…コピーはいらんのか?」
「いる!!……わけがないだろ!」
「ギリギリのところで理性が勝ったようじゃな」

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こうして爺さんとの話が終わった後、俺はラインアークへ戻りアブ・マーシュに1週間後に爺さん達が亡命してくる事を伝え受け入れを依頼した。
アブ・マーシュは優秀な技術者は大歓迎と快く受け入れを約束してくれた。
そして俺は一週間後の受け入れに向けて準備を始めたのだが、残念ながら無駄に終わってしまった。
何故ならあいつらが予定を1週間も繰り上げてこちらに亡命してきてしたからだ。
 




 
「……どういうことでしょうか?アブ・マーシュが聞いた話では貴方のホームの方が亡命してくるのは1週間後という話でしたが?」
隣を歩くスーツを着込んだ美女がちくりと俺に嫌味を言う。
ぱっと見は普通に見えるがよく見ると目のクマや疲労を見事な化粧で覆い隠している。おそらく急な対応でろくすっぽ寝てないに違いない。
「いや、確かに俺もそう聞いたんだけどなぁ。あはははははは。えーと、すいません。
 そうだ、このお詫びに食事でも行きません?いや、貴女のような素敵な方とはお礼抜きで一度食事をお願いしたいのですが?」
とりあえず誤魔化すために口説いてみる。まぁ美人なのは確かなので食事をしたいのは事実なんだが本命は断られる事だ。
意識がそちらにふれてくれれば誤魔化せられるだろう。そもそもこの美女は多分子持ちの人妻だ。指輪はしてないが仕草と雰囲気から間違いない。
「夫も子供もいるので結構です」
美女がにべもなく断ってくる。予想は両方とも的中か。
「それは失礼。しかし貴女のような素敵な女性を伴侶にした旦那が超羨ましい」
予定通りそのままおどける。さぁ、どんどん話を脱線させてやる。ケケケ。
「それはどうも。話を戻しますが先の部屋に全員集めてあります。貴方にお願いしたいのは面通しと事情聴取です。
 私達が聞くより貴方のほうが向こうも話しやすいと思うのでお願いします」
「了解。俺も聞きたいしばっちり聞き出してやるぜ」
胸をどんと叩いた瞬間に扉の前に着く。
美女がカードと網膜照合で扉を開ける。
「ではお願いします」
女性に続いて扉を潜り見知った顔を捜す。
えーと、蘭か爺さんに聞けばいいかな?
んー、どこに「ロ、ロイさん?」「え!?ロイ?」「お兄様!」「嘘!?」「ロイっち!」「やっぱり生きてた!!」「ご主人様」「ロイ!!」「う、うぅ!ロイさぁあん!」「幽霊じゃないよね?」「ロイ!!」「お兄ちゃん!!」「ロイ殿!!」「ロイ兄!」
全員が幽霊でも見たかのように俺を見る。
………あれ?なんかこの反応おかしくね?まさか!?
「おい!爺さん!アンタまさか俺が生きてること皆に言って「「「「「「ロイ!!!」」」」」」
三人を残して全員がいっせいに俺に飛びついてきた事に悲鳴を上げる。
「ちょっと待て!!その人数で抱きつかれたらぎゃああああぁああああああ~~~~!!!!」
潰される寸前に俺が見たのは崩れ落ちるウィンディーとそれを介抱するエマちゃんにスマンと頭を下げる爺さんだった。

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「あ~、つまり昨日ルーチンワークでメールチェックしてたウィンディーが企業連からのメールを見た瞬間に覚醒したと。
 そんでそのまま止めるまもなくお茶会に出席して、お茶会終了後にそのままカラードに脱退宣言してきたね。んで、そっからは亡命の準備で忙しくて話す暇がなかったと」
78人から揉みくちゃにされるという今までの人生の中で7番目ぐらいのガチの命の危機を何とか乗り越えた俺は倒れたウィンディーを膝枕しながら爺さんに確認する。
ちなみに周りは閑散としている。殆どの奴はまだ感極まって泣いているか、泣いたせいで乱れた化粧を直すためか顔を洗ってスッキリするためにトイレに向かっている。
「ま。そうなるの。ちなみにメールの内容は『ORCAと密約が成立。各リンクスはクラニアムを占拠するORCAへの攻撃を禁止する。詳細はお茶会で説明する』だそうじゃ」
「成る程ね。そりゃぁウィンディーが正気に戻るわ。企業の連中何考えてやがる。クラニアムが墜ちたら全クレイドルが墜ちるんだぞ?」
「おそらく首脳部の安全は取り付けたからこその密約じゃろうな。相変わらずといえば相変わらずじゃが」「ち、救いがねぇ」
「ですが、恐らく急な話だったのでしょう。企業も一枚岩ではないようです」
背中に暖かい感触と共に心地よい重さがかかる。誰かが俺と背中合わせに寄りかかって座っているようだ。
この重さと微かなシナモンの香りは蘭だな。どうやら向こうで泣きじゃくっていた蘭が復帰したようだ。
まだ微妙に鼻声なのは触れない方がいいのだろう。
「なんじゃ、まだ鼻を啜っておるじゃないか。無理しなくてよいぞい。先にトイレに行って着たらどうじゃ?」
爺さん。デリカシーって言葉を知ってるか。
「優先度の問題です。これが終わったら行きますよ。…化粧が崩れて酷い事になってるんでロイさんはコッチ見るの禁止です」
「解った。悪いな」
「埋め合わせはデート一回でお願いします」
「解った。リクエストはあるか?」
「特には。あ、いえ、デートは二人っきりでお願いします。それさえ守ってくれるなら何処でもいいです。
 それで話を戻しますが、企業も一枚岩ではないようですね。
 交渉してみたらあっさり今回の離脱に関しての反逆罪は残してきた家族も含めて適応しない事と、勝利後のカラードへの復帰を約束してくれました。
 さらにクラニアムの最上級のセキュリティコードもくれましたから一気に最深部までいけますよ」
「なんじゃそりゃ。インテリオルとしてはクラニアムに仕掛けて欲しいって事か?インテリオルと企業連の意思は別ってことなのかよ?」
裏工作が得意のオーメルがインテリオルの単独行動を許すとはらしくないな。
言葉に出さない俺の疑問を感じ取った蘭が口を開く。
「恐らくはこの密約自体が王の主体だと思われます。流石の王もGAの内部固めで精一杯なのでしょうね。
 それにそもそも現在の企業連にはネクストを止められる戦力が存在しません」
「マジか!?王の奴、GAのTOPになったのか!?それにネクストを止められないってどういう事だ?まさかORCAとの戦闘に負けたのか?
 俺が寝てた一週間ぐらいに何が起こった?」
「…それは、その」「03襲撃でGAのTOPは王以外全部死んだからの、繰り上がりじゃ。今はCEOの前に暫定とか仮がついとるが直ぐにとれるじゃろうよ」
チ、有澤の野郎。大口叩いといて失敗しやがったな。それともまだ機を窺ってるのか?
「えーと、簡単に現在の状況を説明しますと企業連とORCAとの戦闘は衛星破壊砲攻略作戦以外は全て企業連の勝利に終わっています。ですが被害は企業連の方が何十倍も大きいです。
 敵の主力はネクストですからね。通常兵器主体の企業軍は数で押さないと勝てません。ですが数で押せば大きな被害がでます。
 激化した経済戦争で企業の戦力が漸減していたところで、これですからね。
 止めは企業連の切り札たるAFをあの子が墜としてしまった事です。
 結局ORCAとの戦争でORCAは壊滅状態に追い込みましたが、代償として重要施設の守備隊とネクストを除けば企業の戦力は零になりました。
 勿論ORCAも本拠地も拠点も通常戦力も失って壊滅状態です。ですが、ORCAは元々ネクストが主力のテロ組織です。
 そして数機のネクストの撃墜が確認されていない事からまだ継戦能力は残していると考えるべきでしょう。
 多分ORCAは最初からこの状況を作るのが目的だったと思います。自身の破滅すら想定済みで策を立てるとは全く、鬼謀とはこの事を言うのでしょうね。
 とにかく、現在確認されているORCAのネクストで撃墜が確認されていないのは、月輪・スプリットムーン・クラースナヤ・ストレイドの四機です。
 これにさらにマクシミリアン・テルミドールの駆るネクストとシリエジオは確実に加わります。
 ですが、六人のうち誰か一人は第二次衛星軌道砲破壊作戦でアレサに搭乗し死亡したと考えられ、時間的にアンサラーを撃破したストレイドは戻れてないでしょう」
「カスミの姐さんが坊主の傍を離れるとは思えねぇから、クラニアムいるのは三機か。
 3対2なら多少分が悪いが、安全保障付きなら企業のお偉方が賭けに出ようと考えるのはおかしくねぇか。
 俺達がクラニアムを奪還できればそれでよし。奪還できなくとも自分達の安全は確保されてるから問題なしってな」
「それでどうするんじゃ?」「私は、いえ。私達はロイさんの判断に従いますよ」
二人の問いに首を振る。考えるまでもない。企業の思惑通りに動くのはムカツクが現状それしか手はない。
「止めるさ。放っておけば億単位で人が死ぬ。知らなきゃほっとくんだが知っちまったからには止めるしかねぇだろ。
 それに仮に俺が行かないっていってもこいつは一人で行っちまうからな」
意識を失っているウィンディーの頬を人差し指で突く。
「わかりました」言葉と共に背中から重さが消える。
「方針が決まったので化粧を整えてきます」
「ワシは事情を説明してくるわい。お前と一緒に来た嬢ちゃんでいいじゃろ?」
「ああ。頼む」「おう」今度は爺さんが立ち上がり美女の元に向かう。

眠るウィンディーの髪を弄りながらこれからの事を考える。
取りあえずあいつ等が一生食っていけるだけの金はある。
そしてあいつ等のラインアークへの亡命手続きは終わったからこれからについて心配する必要はないだろう。
さらにラインアークならば企業の息がかかってない医者を探すのは難しくない。
…ならウィンディーが目を覚ます前にアルテリアにかちこんじまうのも手かもしれないな。
勝ったならそれでよし。負けてもこいつ等の生活の心配は無いし、ウィンディーの心の傷もいずれ癒えるだろう。

勿論成功率を上げるならウィンディーと共に行くべきだ。
だが仮に万全だとしても死ぬ可能性の方が大きい。
なら病み上がり、もしくはオカシクなったままのウィンディーを連れて行くのは遠慮したい。
勝ててもウィンディーが死んだら何の意味もないのだ。
だとしたらウィンディーの生存率を少しでも上げる為にまず俺が捨て駒として特攻した方が良いんじゃないだろうか?
勝てればそれでよし。
負けて俺が死んでウィンディーがオカシイままになるのは嫌だが、取りあえず死ぬ事は無いし、心の傷はいずれ治る。
正気に戻ってクラニアムに征くとしても俺が戦力を減らしておけばいい。
それに自分が弱いとは思わないが超一流のレベルだと俺はそれほど強くない。
つーか、ウィンディーはノロイ俺と一緒に戦って行動を制限されるより、単騎で戦場を縦横無尽に駆け抜ける方が強い。
うん。やっぱり特攻が無難か。俺がほぼ確実に死ぬけどしょうが「…ロイだ」
結論が出掛かった思考が突如頬っぺたを摘まれて引き伸ばされた事で中断される。
「ようやくお目覚めか、お姫様」
虚ろな目で俺を見上げながら頬を引っ張るウィンディーに声をかける。
「ロイだ」
だがウィンディーは俺の声が聞こえているのかいないのかひたすら俺の頬を伸ばしたりひねったりしている。
…大丈夫かな?良く考えたら俺と会ったからって治るとは限らないんだよな。
「あったかい。すけてない。さわれる。うん、ロイだ」
…どうしたらいいんだ?
「そうだよ。言っとくけど幽霊じゃないぜ」
取りあえず何時もの調子で笑いかけてみるが、ウィンディーは反応せず「ん」そのまま俺の腹に顔を押し付けてしまった。
う、息が微妙にくすぐったい。
…えーと、どうしたらいんだろう?とりあえず、頭でも撫でとくか?
だが、ウィンディーの髪を梳こうとした手をがっちりとウィンディーに掴まれる。
「うん。ロイのにおいだ」俺の腹から顔を上げたウィンディーがそのまま掴んだ俺の手の指を口に含んでチュパチュパと吸い始める。
「ふぁん。ロヒのふぁひふぁ」ウィンディーが口から涎が垂れるのを構わず、俺の指をしゃぶりながら嬉しそうに微笑む。
いかん。なんかエロイ。そういえば起きてからご無沙汰だから勃っちゃった。
「これはゆめ?げんかく?それともわたしくるっちゃった?どうでもいいか。しぬまえにロイにあえたんだもん」
ウィンディーが一瞬眉を寄せて考えた後、すぐに首を振って俺の腹に顔をうずめる。
いかん。幼児退行を起こしてるじゃないか。何とかして正気に戻らさんと。
「だから、夢でも幻覚でもましてやウィンディーが狂ったわけでもないつーの。
 普通に生きてます。ほら、息子もこんなに元気」
言いながら腰を上げて息子をウィンディーに当てる。
あかん。いくら焦ってるとはいえナニをしてるんだ俺は。
「ん。ロイのにおいがする。ねぇ、ホントにロイ?」
「あぁ。そうだって言ってんだろ」
「ホントにホント?」
「あぁ」
「そっか。かみさまがわたしがしぬまえにおねがいをかなえてくれてんだね」
ウィンディーが更に俺の腹に顔を強く押しつける。
「ごめん。なんかあふれそうだからいっかいなくね。なきおわったあとにしんぱいかけたばつとしてはんごろしにしたらいつものわたしにもどるからちょっとまっててね」
「半殺し決定かよ!!まぁ、仕方ねぇか。まぁいい。そうだな。泣け。泣いてすっきりしちまえよ。俺は何処にも行かないからさ」
ウィンディーの頭を撫でながら溜息を吐く。
「ありがとう。それじゃおなかかりるね」

****

「よし!スッキリした!本当はまだまだ泣き足りないし殴り足りないし甘え足りないがそれは夜にしよう」
宣言どおりウィンディーは三十分ほど子供のように大声で泣きじゃくった後、泣きながら十五分ほどかけて念入りに俺を半殺しにすると元に戻った。
その後、トイレで簡単に身支度を済ませたウィンディーはボロ雑巾のようになった俺を膝枕しながら爺さんと蘭から事情の説明を受けた。

****

「ウィンさんが混乱していた間の状況とロイさんの蘇生の経緯は以上です。
 ではウィンさん、状況の説明を願いします。一応私が知り得る限りの状況はロイさんと皆に説明してあるので、貴女しか知らない情報を中心にお願いします」
蘭がボロ雑巾のような俺を無視してウィンディーに問いかける。
「情報といってもどう答えればいいか。あと、二人は後で10分の7殺しな」
ウィンディーが俺と爺さんを睨みつけながら首を傾げる。
うげげ、やっぱりそうなるか。まぁ、100分の99殺しじゃないだけマシと思おう。
「では私が聞きたいことを質問しますので答えてください。
 まずはお茶会の内容を教えてください」
蘭が青くなった俺達二人を無視して質問をする。
「内容自体はメールと変わらないさ。
 企業はORCAを黙認する。
 代わりにORCAはこれ以上企業の生産力を落とす事無くアサルトセルを排除する。
 そうなれば、企業は宇宙という新たなるフロンティアと破壊からの復興という二つの経済成長の土壌を手に入れることができる。
 故に短期的には大きな損失を受けるが長期的に見ればより大きな利益を受けることが出来るのでこれを容認するそうだ。
 自分以外の人の命を数でしか見ない老人達が言いそうなことだろう?」
ウィンィーが吐き捨てる。
「恐らく他にも密約があるんじゃろうな。
 黙認すれば企業首脳の生命を安堵し、彼らの過去を秘匿するとかな。
 まったく、企業の奴等はわかり安すぎじゃ。完全にORCAに読みきられとるじゃないか!」
「ええ。ですが、そこが付け目です。
 彼らは自らが確保されるのであれば、全てを賭ける気概はありません。
 そして、彼らの望みは現状維持なのですから、本当はアサルトセルの排除などはせずに、現状を続けていたいと思っているはずです」
「だから安全保障つきの賭けに出たか。
 それでウェンディー、どうするつもりだ?」
「決まっている。ORCAを止める。企業の思惑なんぞどうでもいいが、無辜の民を殺すわけにはいかない」
今日のお昼はラーメンよ。ぐらいの気軽さでウィンディーが告げる。
ウィンディーにとってこれは決定事項なのだろう。
まずいな。何とかしないと。つっても、止めても無駄だろうしな。えーと、どうすんべ。
「あ~、ウィンディー、やる気なのは結構だけど。まだ病み上がりで辛いだろ?ここは俺が行くからお前は俺に任せて休んでろよ。
 んで、万が一俺が負けたときの後詰を頼みたいんだが?」
断られるのを覚悟で、とりあえずお願いしてみる。
まぁ、説得は無理だと思うんで爺さんに頼んでネクストを出撃不能にするか、最悪薬で眠らせてしまおう。
「別にそれでも構わないが、お前が死んだら仇をとった後に私も死ぬからな?」
たんたんとウィンディーがとんでもない事をほざく。
「ちょ!?」「当たり前だろう。お前が死んだと聞かされて私がどんな気持ちになったと思う?もう二度とあんな思いはごめんだ」
「いや、待てって!落ち着け!!なにも、ん~!?」
説得しようとした俺の口をウィンディーが唇で塞ぐ。それは技巧も何もない。舌を絡めもしない単純に唇を合わせるだけのものだ。
だがそれでもウィンディーの決意は十分過ぎるほどに伝わってきた。
確認代わりに至近にあるウィンディーの瞳をみる。迷いのない瞳。意思を宿した俺の愛した女の目。
あ~、こりゃ説得は無理だわ。ウィンディーは俺が死んだら、何の躊躇いもなく首を吊るだろう。
「あ!それ私も参加します!」「じゃぁ、僕も!」「私もご主人様が死んだら後を追います」「あたしも~!」「えーと、僕も」
さらに周囲にいた蘭やクリスやアンジーやラミィやナンやウゴル等が次々と手を上げていく。
「だから言ったじゃろう。お前の命はお前だけのものじゃないって。じゃから、一人で特攻するんならマイブリスの整備はせんぞ?」
爺さんがそれ見たことかと笑いながら肩を竦める。
……あ~そうかい。そうかよ。解ったよ。
ドイツもコイツも馬鹿ばっかりだ。何時死ぬかわからないリンクスに命を張るなんて冗談じゃねぇ。
「ぷは。ちなみに、これは何も今だけじゃないからな?これから先お前が死んだら私も死ぬからそのつもりでいろ。
 つまり、私を殺したくなかったら長生きしろ」
唇を離したウィンディーがにっこりと笑いながら恐い事を告げる。
なんて、無茶な脅迫だ。俺の最愛の人の命をネタに脅迫するなんて酷過ぎる。
ウィンディーの膝枕から勢いをつけて立ち上がり、周りにいる家族を見回す。
たく、どいつもこいつもいい笑顔で笑いやがって。
いいぜ。覚悟完了だ。一度背負い込んだんだ。だったら最後まで面倒見てやるよ!
「オ~ケ~。オ~ケ~。解ったよ。この馬鹿野郎共が。俺を脅迫しやがってお前等今月の給料覚えとけよ!
 そんなに言うんだったら何が何でも生き残ってやろうじゃねか!
 それじゃぁ、テメェら!クラニアムにかちこむぞ!!」
「オオ~~!!」「はいぃい!!」「うん!!」「OK!!」「了解!!!」「任せてよ!!」「行こうよ!!」「やったらぁ!!」「はい!」
俺の激に全員が思い思いの歓声を上げる。
たく、しまらねぇなぁ。こういう時は一つにまとまるもんだぜ。
苦笑しながら床に座るウィンディーに手を伸ばす。
「俺の背中は任せたぜ、花嫁さん」
俺の手をとったウィンディーが笑いながら立ち上がる。
「任せて、旦那様。結婚式は帰ってきてから皆を呼んで盛大に開きましょう」
「おうよ」そのままウィンディーを抱き寄せ、胸の中で目を瞑ったウィンディーへ口付けを

「盛り上がってるところ悪いが、お前達をクラニアムへ行かせるわけにはいかないな」

しようとしたところで、邪魔が入った。
 




 
声をかけてきたのは俺達が入ってきた扉から入ってきた二十歳前後のラフな格好をした若造だった。
動きと体格からかなり鍛え上げていることがわかる。戦場慣れしているようだし若いが歴戦の兵士ってところか?
とはいえ、こいつ程度に出来るやつはその辺に腐るほどいるだろう。
「んな」「…あ」「…ほう」
だが、俺達は一人残らずその一人の男に気圧されていた。
といっても、この男が何かしたわけではない。つーか、殺気すら出していない。精々、微小な敵意をこちらに向けている程度だ。
にもかかわらずどいつもこいつも蛇に睨まれた蛙状態で、金縛りにあったように動けていない。
さっきまで騒いでいた俺達の殆どが腰を抜かしてへたり込んで、歯をガチガチ鳴らしながら震えることしかできていない。
おいおい、それなりに全員修羅場を潜り抜けているんだぞ?俺とウィンディーも腰が抜けずにいるだけで動けてはいないし、何なんだよ、こいつは。
「えーとぉ?どちらさまですか~?」
エマちゃんが気圧された様子もなく何時もの調子でのほほんと、男に向かって名前を尋ねる。
おいおいおい、この状態で普通にできるのかよ。ありえねぇ。どっか壊れてんじゃないか?
「伝説の傭兵、リンクス戦争の英雄こと、アナトリアの傭兵じゃよ。久しぶりじゃな、鴉。国家解体戦争以来じゃの。にしても、相変わらず若々しいの」
エマちゃんと同じように爺さんが何時もの調子で、男に向かって話しかける。
って、アナトリアの傭兵!?味方の坊主に騙して悪いがをされて死んだはずじゃ!!?
つーか、若いすぎんだろ!!確かこいつ30年以上戦い続けてるんじゃなかったっけ??
え?え?どういうことだよ!?
「強化人間だからな。それと今は、レイヴンだ。つーか、生きてた事に驚かないんだな、ランボス?」
「当たり前じゃ。死んだモンが実は生きとったなんてよくある事じゃろう。のう、ロイ?
 それと、ワシも今はジーニーと名乗っとる」
爺さんが話をふってくるが、威圧された俺は返事をすることも出来ない。
そんな俺をみて爺さんが「情けないのう」と溜息を吐く。
「え~と、レイブ「レイヴン」す、すいませ~ん。え~とレイヴンさん。
 私達をクラニアムに行かせないのはなぜですかぁ~?」
「簡単なこった。ラインアークとしてはその方が都合がいいからだよ。
 このままクレイドルが墜ちれば企業は大きな痛手を受ける。そうなればラインアークにちょっかいをかけてくることはない。
 そして企業が悠長に戦力を回復させている間に無傷のラインアークは大きく勢力を伸ばす事ができる。
 それにこれは企業の問題だ。何でラインアークがわざわざ助けてやらなきゃならん。
 言っとくが、ラインアークに亡命してきた時点でお前等はラインアークの戦力だからな。
 だから優秀なリンクス二人をそんな成功率の低い作戦に特攻させるわけには行かない。
 ORCAと企業の密約の証人でもあるしな」
「ほうほう。なるほどぉ~。これはスジの通った理由ですねぇ~。反論のしようがぁありませぇ~ん」
エマちゃんがレイヴンの言葉に腕を組んでコクコクと頷く。
「解ったんなら、部屋に案内してやるからついて来い」
「あ~、ちょっと待ってくれ、鴉」「だからレイヴンだって言ってんだろ」
「ひょっひょっひょ。そうじゃったの。まぁ、ちょっとだけ待っとくれ」
レイヴンに断った後、爺さんが俺達の前までやってきて向き直る。
「まったく、情けない。二人揃って置物状態とは。
 まぁええ。それでええのか?エマの言うように鴉の言っとる事はラインアークの言い分としてはもっともじゃ。
 ここで反論しないと鴉の言うとおりになるぞ?
 言っとくが、後でこっそり整備して出発は無理じゃぞ?こいつらがこんな状態じゃ整備なんぞ出来んし、そもそもお前等も今の状態じゃまともに戦えんじゃろう?
 それ以前の問題として、追っ手にホワイト・グリントが出てこられたらクラニアムに行けるかも解らんわい。
 じゃから、ここで鴉を説得せい。言っとくがわしには無理じゃぞ?「私も無理ですぅ~!」じゃと。つまり出来るのはお前達ふたりだけじゃ」
んなこといっても、喋るどころか指一本動かせないんだけど。
それは胸の中で震えるウィンディーも同様だろう。
「おい、ランボス。余計な事を」
「しっかりせんか!!!クレイドル30億の人間を救うんじゃろう!!!
 そんな大それた望みを抱く人間がただ一人に気圧されてどうするんじゃ!!!
 お前達の願いはその程度のモノなのか!!!!!」
爺さんの檄が飛ぶ。それは震える体をぶち抜き萎縮する心を震わせるモノだった。
だが、それでも体は凍りついたように動かない。
くそ!!動けよ!動いて反論しろ!!そうじゃないと、30億の人間が死んじまうんだぞ!!!
しかし頭がいくら命令を出そうとも体はピクリとも動かない。自分の情けなさに涙が出てくる。
「そんなわけないだろう。私の、いや私達の後ろには30億の人間がいるんだ」
胸の中のウィンディーが俺の涙を拭い、一瞬だけ唇と唇を合わせる。
そして「ここは私に任せて」と俺にだけ聞こえるように呟いた後、レイヴンに向き直った。
「貴方の言う事は正しい。ラインアークの繁栄だけを考えれば見過ごす事は当然だし、
 亡命した以上私達がラインアークの人間だという点も、この事件が企業の問題だというのももっともだ。
 だが、放っておけば何十億もの人が死ぬ。彼等は私達とは違う。死ぬ覚悟も何もない、ただ日々を精一杯に生きる普通の人達なんだ。
 そして今彼らを助けられるのは私達だけだ。
 いや違う。これはいい訳だな。私達以外にも、先輩達やローディに貴方、助けられる人はそれなりにいるし、助ける義務を持った者も多くいる。
 本当は彼らが救うべきなのかもしれない。私には救う理由も助ける義理も何もないかもしれない。
 でも私達は、いや、私は彼らを助けたいんだ。私の手で救える命があるのなら救いたい」
「なんでだ?今まで殺してきた人間への罪滅ぼしか?それとも正義の味方にでもなりたいのか?」
レイヴンのからかうような口調にウィンディーは真っ直ぐに返す。
「殺した人間は殺した人間だ。善行で悪行を誤魔化すつもりもない。それは私が死ぬまで背負うべきものだ。そして罪人の私が正義の味方などと冗談でも名乗れるはずがない。
 私はただ、目の前に助けられる命があって、私に助ける力があるなら助けたいだけだ!」
「は、笑わせんな。そんな青臭い理「いけないのか!!一つの命を想い、慈しみ、助けようとする。それはそんなにおかしなことなのか!」
嘲笑うレイヴンにウィンディーが詰め寄る。
「確かに私はリンクス。職業的殺人者だ。その事は否定しない。
 だが、殺人者が命を愛しんではいけないと誰が決めた!私が人を助けてはいけないと誰が決めた!!
 私は仕事として人を殺す。
 でもそれでも、私は私の意思として誰かを助けたい!死すべき人が救えるなら助けたい!
 それがそんなにおかしなことなのか!!」
「おかしいね。ガキじゃあるまいし今更な「もし!私の発言を否定するのなら!もし私の想いを愚かと呼ぶのなら!それは貴方が歪んでいるんだ!アナトリアの傭兵!!」
レイヴンの言葉を遮ってウィンディーが叫ぶ。
その力強い叫びが、綺麗に磨き上げたガラス玉を大人にガラクタだから捨てろと命じられた子供の泣き声のように聞こえるのは、俺の錯覚じゃないだろう。
「もし世界が私を否定するのなら、世界が歪んでいるんだ」
最後にポツリと付け足すウィンディー。その後姿は僅かに震えていた。
だが俺はその肩を抱き寄せることすら出来やしない!くそったれ!!
「………確かに俺達は歪んでるんだろうよ。そしてお前の青臭くて安っぽい理想論も正論だと認めてやる。
 それで、ご大層なご意見を吐いたアンタに聞きたいんだが、助けた後はどうするんだ?
 今アサルトセルを排除しなけりゃ、30年程度でコジマ汚染はクレイドルの高度まで達する。
 そうなれば結局今助けても全員死ぬことには変わりない。
 いや、手遅れになる前って言うんなら地上全土に汚染が行き渡る5年後までがリミットだな。それ以降は地上全部が汚染されちまって地上じゃ誰も暮らしていけなくなる。
 それまでに何とかする手段が当然あるんだよな?」
「そ、それは」
レイヴンの指摘にウィンディーが口ごもる。
「言っとくが、今思いつかないから後で何とかするや、今はそんな事より目の前の命を救うのが大事だってのはなしだぜ?
 アンタさっき言ったよな?殺した奴等を死ぬまで背負い続けるって。立派な意見だ。俺もそれに異論はねぇ。
 だがな、死ぬまで背負い続けなきゃいけないのは奪った命だけじゃねぇ、助けた命も背負わなきゃなんねぇんだよ!!
 たりめぇだろうが。助けたくなったら助けて飽きたらぽいなんて、嬲るだけ嬲って殺すのと何処が違うよ?そんなもんどっちも感情のままに命を弄んでるだけでかわんねぇんだよ!いや、下手な希望を持たせるだけもっとたちが悪い。
 助けたんなら最後まで責任もって助けやがれ!命ってのはなぁ、テメェが思っている以上に重いんだ!そんな気分でひょいひょい助けていいモンじゃねぇんだよ、小娘!!」
レイヴンの怒声にウィンディーが身を竦ませる。同時に始めて向けられる明確な怒気に意識が遠くなる。
背後で誰かが倒れた音がする。恐らく意識を失ったんだろう。視界の端では何人かの股間が濡れて水溜りを作っていた。
くそ!!自分に向けられたわけでもないのに、こうも気圧されるのかよ!!こんなもんまともに向けられて、ウィンディーは大丈夫なのか?
「それでも、それでも私は人を救いたい!助けたいんだ!その想いだけで人を救っちゃ駄目だって言うのか!私には力があるんだ!彼らを助ける力が!だから!!!」
「駄目だって言ってんだろ、ガキ」
搾り出したウィンディーの震える嘆願を、レイヴンがばっさりと切り捨てて溜息を吐く。
「何も解っていないみたいだから教えてやる。
 いいか。誰かを救うって事はそいつの命だけじゃない、そいつのそれからの人生、そして本来死んでいた筈のそいつが生きる事で生じる結果全てに責任を持つって事だ。
 さらにお前がやろうとしてるのは30億の命を救うってだけじゃない。このまま汚染が進めばクレイドルに乗っている奴以外、地上の人間は遠からず汚染によって死に絶える。
 つまりお前は、冗談ぬきで人類全ての命を背負わなきゃならない。お前にその覚悟が在るのか?背負う力があるのか?そして資格があるのか?
 ORCAの連中はある。あいつらは空に浮かぶ30億の人間を殺し尽くしても人類の未来を切り開く覚悟と、そして生き残った人類が再び繁栄できるだけの計画とそれを実行する力がある。
 対してお前はどうだ?なんの覚悟も計画もなく、ただ死ぬ奴等が可哀想だから、助けたいからと喚いてるだけだろうが!
 そんなお前が力ある意思を持って事を成そうとしているORCAの邪魔をしていいわけないだろうが!!」
「違う、私は。私は!!」
レイヴンの怒声に反論も出来ず、だが認めることも出来ずに声を上げるウィンディー。
「…まったく、しょうがないですねぇ~」
そんなウィンディーを見守る事しかできない俺に誰かが後ろから抱き着いてくる。
この声はエマちゃん?
「いいんですか、ロイさん。
 このままじゃ、ウィンさんあの人に壊されちゃいますよ?
 そうなったら折角内緒で人を殺してまで守ったのがパーになっちゃいますよ」
エマちゃんが俺の耳をしゃぶりながら優しく呟いてくる。
囁かれる言葉は耳に絡みつく熱くぬめった舌と同じように俺の心と体に滲み込んでいく。
「あの人の意見は正しい。一点の非も曇りもない英雄の正論です。
 人の強さ・責任・正しさ全てを持った正しき英雄の語る輝かしい理想です。
 だから同じように正しいあの子は反論できない」
ぺちゃぺちゃという心地よい耳障りな音と共にエマちゃんの言葉が心と体を侵食していく。
そして首に回されていた右手がゆっくりと体を降りて行き、ズボンの中に入り縮こまった俺の性器を優しく愛撫する。
「でも、貴方は違いますよね。ロイさん。
 貴方は人間がどんなに弱くて汚くて浅ましくて卑しくて脆くて穢れているか知っている。
 人の身勝手さを知っている。そうでしょう?」
そうだ。俺は俺の都合で、俺の為にレミーナちゃんを殺した。
耳と性器への愛撫は尚も激しさを増していく。それはもはや愛撫ではなく陵辱といえるものだった。
だが俺はその陵辱を心地よいと感じ、俺の性器は猛っていた。
「だから貴方は英雄の正論に反論できる。論破できる。だって英雄を殺すのは魔物じゃない。弱くて汚い人間の嫉妬ですもの。
 だから教えてあげなさい。あの英雄と貴方の女に。人の醜さを。
 貴方達が想っているよりも人は弱くて浅ましくて卑しくて脆くて穢れているって」
限界を迎えて放出された精をエマちゃんが器用に片手で全て受け止める。
そして俺の耳元で俺の精を音を立てて啜っていく。
「さぁ、いきなさい、ロイ・ザーラント。
 あの綺麗な二人を汚してあげなさい」
何時の間にやら前に回ったエマちゃんが動けぬ俺にキスをする。
それは先程のウィンディーのキスとは違う俺の精子の臭いが残る生臭い物だったが、そのキスは爺さんの一喝でもウィンディーのキスでも動かなかった俺の体を動かした。
「世界を自ら力で強引に変えようとする者はより大きな力で排除されるんなら、ORCAの連中も排除されるべきじゃないか!あいつらこそ力で世界を変えようとしているじゃないか!!」
「そうだよ。だからあいつ等は役目を終えた自分達の退場の方法まで考えて動いてる。
 わかるか?あいつ等は冗談抜きで世界の為に自分を犠牲にしようっていうんだ!
 お前にその覚悟はあるのか!ORCAの排除後に自分自身を排除する気はあるのかよ!」
「……」
ウィンディーが黙りこくる。ありゃ?おかしいな。普段のアイツだったらある!って言い返しそうなものなのに?
「…無理だ。私は、私の命は、私だ「だったら、何もしないで黙ってろ。安心しろ。かつての俺のようにお前の出番は来る。ORCAを排除するより大きな力、争いを収める力としてお前は必要とされる」
「…わかっ「頷く必要はないぜ、ウィンディー」
レイヴンの諭すような言葉にウィンディーが悄然として頷こうとした寸前に小さく震える肩を抱く。
「今度はお前か。お前には人類全てを背負う覚悟と力と計画があるのか?」
レイヴンが俺に視線を向ける。それだけで凄まじい威圧感が襲ってくる。
うわすげぇプレッシャー。まじで今すぐ土下座して許しをこうか、回れ右して逃げたくなるね。
だが、俺の腕の中で子供のように震えるウィンディーがそれを許さない。いや単にウィンディーにかっこ悪いところを見せるわけにはいかないつー見栄なんだけどな。
暴風雨のように動揺する心を表に出さないように細心の注意を払って何時ものように笑う。
「はっ。んなもん、あるわけねぇだろ。何で助けただけで俺達が最後まで面倒まで見なくちゃいけねぇんだよ。
 いいかぁ、さっきウィンディーが言ったように俺達はクレイドルの奴等を助ける理由は全くねぇ。
 つまり助けなくちゃいけないんじゃなくて助けてやるんだよ。要はボランティアってわけだ。だったら一度助けたからって助け続けなくちゃいけない理由はねぇだろ。
 ボランティアってのはてめぇに余裕がある時に、やるもんなんだからよ」
「お前は俺の話を聞いていなかったのか?助けた瞬間に助け続ける義務が発「発生するわけねーだろ」
レイヴンの言葉を遮る。こいつに長々と喋らせちゃ駄目だ。なにせ、正対するでガリガリ精神力が削られてくんだ。
喋りまくってコッチのペースにしてとっとと終わらせないと。
ウィンディーを強く抱きながら更に言葉を続ける。
「いいかぁ、助ける奴等は犬猫じゃねぇ。れっきとした大人なんだよ、人間なんだよ。だったら自分の事は自分で出来るだろ。つーか、自分でしろ。何で俺達がそこまで面倒見なくちゃ行けねぇんだ。
 まぁどうしても無理だって言うんだったら、次も俺達に余裕があったら助けてやらんでもないが、それも絶対じゃねぇし、最初から当てにされちゃたまんねぇ。
 地上の事だってそうだよ。何で俺達だけで地上に生きる奴等全員を助けなきゃなんねぇんだ。そんなもん地上に生きる奴等が全員で考える事だろ。
 だから当然俺等がクレイドルに行けねぇってんなら俺達も考えるし、死なないためにあがくぜ?
 つーか、さっきから聞いてるとアンタとORCAは何様だ?世界を助けなければいけないとか、人類全てを背負うとか。なに、自惚れてやがる」
泣き出したい自分のテンションを強引に怒りに持っていく。
さぁ窮鼠でも何でもいいから怒れ俺!吠えろ俺!ここで気迫を見せなきゃひっくり返されて終わりだ!
汗ばむ俺の手をウィンディーがギュッと握り締めてくれる。あんがと、ウィンディー。
さぁ、やるぜぇ!!
「一人の人間が救える人の数なんてなぁ精々生涯に一人か二人なんだよ!
 ウィンディーは確かにちょっと人より強いかもしれないがそれ以外は可愛いだけのただの女なんだよ!ORCAの連中もご大層な理想持ってる凄腕のリンクスかも知れねぇがただの人間にすぎないんだよ!
 そんなただの人間が人類全てを背負うぅ?助けた命全てに責任をもつぅ?んな事ぁ出来るわきゃぁねぇだろ!
 まして、一武装勢力が考えた計画なんかで人類全てが繁栄できるわきゃねぇだろ!
 世界ってのはアンタが思っている以上に複雑だし、命ってのはなぁアンタが思ってる以上に重いんだよ、鴉の旦那!
 あんまり、人類を!!俺達を見縊るなよ!!鴉!!」
そうだ。人は皆が皆、レイヴンやウィンディーやORCAの連中みたく強いわけじゃないし、正しい道を選べるわけじゃない。
むしろ殆どの奴は弱くて汚くて浅ましくて卑しくて脆くて穢れていて馬鹿だから、何が正しいかなんて考えられない。
仮に考えられても一時の快感や感情で容易く間違った道を選んでしまう。
だから俺達は遠い未来の事なんか考えられやしない。考え始めるのは何時だって尻に火がついてからだ。
ならしょうがないだろう。尻に火がついてからしか考えられないんなら尻に火がついてから考えればいい。
その結果俺達が死んじまっても自業自得って奴だろう。今まで人類はそうやって生きてきたんだ。だからこれからもそうしてくしかない。
頭のいい奴、強い奴はその事を忘れて、遠い未来の破滅を自分が何とかしなくちゃ、自分だけが何とかできるって思いこむが、そりゃ間違いだ。
人類を導いてきたのは一握りの天才じゃない。人類の歴史を綴ってきたのは何時だって馬鹿な大衆なんだ。
天才が導いたように見えるのは、天才に任せたほうが楽だから導かせてやっただけだ。
だからどんな天才も、偉人も、聖人も人類を一時導くことは出来ても、変革させることは出来なかった。
まして俺達ただのリンクスが出来るはずがない。
いや、どんな人間も人類全てを背負うなんざ無理に決まってるんだ。
「クックック、ハハハ、こりゃ傑作…」
今まで黙って俺の話を聞いていたレイヴンが堪えきれないといったように笑い出す。
ちょっ!?人が真剣に語った話を笑い出すって酷くね!!?
余りな態度にふつふつと湧き上がる怒りが威圧感を消し飛ばす。
「テメェ、何がおかしッ!!?」
怒りのままレイヴンを怒鳴りつけようとしたところで、いつの間にか間合いをつめたレイヴンに殴り倒される。
「笑って悪かったな。それで話は終わりか?」
倒れ伏す俺をニヤニヤ笑いながらレイヴンが問いかける。
くそ、グラグラする。いいもん貰っちまった。だがこんなもんで負けてたまっかよ!
勢いをつけて立ち上がり、折れた歯と一緒に口の中に溜まった血を吐き出す。
「たりめぇだ!大体なぁアンタは自分の事をレイヴン、レイヴンって言ってるけどなぁ、俺達はリンクスなんだよ!
 そりゃアンタみたいな翼がありゃぁいいよ。そうすれば今の巣の調子が悪けりゃ違う場所に飛んでいけばいい。
 でもなぁ、俺達は違う。俺達には翼がねぇんだよ!
 だから巣が燃えたら火を消さなきゃなんねぇ!巣が汚れたら掃除しなくちゃなんねぇ!敵が来たら戦って追い出さなきゃいけねぇ!
 だからこの巣がどうなるかは他人事じゃねぇんだよ!この巣は他に住んでる奴の巣であると同時に俺達の巣でもあるんだからな!
 だったらこの巣をどうするか俺達が手を出したっていいじゃねぇか!
 そしてそれはアンタも同じだろう?アンタはもう自由に空を飛ぶレイヴンじゃない!俺達と同じ色んなしがらみに縛られて動けないリンクスだろうが!!
 アンタの首にはアンタが選んで自分でつけた首輪がついてる!違うか?
 それともアンタは都合が悪くなったら、仲間も女も捨てて独りで飛んでいくのかよ!えぇ、鴉の旦那!!」
俺の言葉にレイヴンの後ろに付き添っていた俺と一緒に来た女がビクンと震え、不安そうな目でレイヴンを窺う。
あぁ、そうか。思い出した。あの女どこかで見たことあると思ったらフィオナ・イェルネフェルト、アナトリアの傭兵のパートナーだ。
全員の視線を集めるレイヴンは、肩を震わせ笑いを堪えていたが、やがて耐え切れずに声を上げて大笑いし始めた。
同時に辺りを包んでいた緊張感がばっさりと途切れる。
「お前の勝ちじゃな、ロイ」いつの間にか隣にやってきた爺さんがポンと俺の肩を叩く。
「いや、お前の言うとおりだ。確かに俺はもう自由に空を飛ぶことは出来ないな。
 俺にはもう、フィオナやジョシュア、それにセラノを捨てることは出来ない」
レイヴンがフィオナを抱き寄せる。
「にしても俺も年をとったもんだよなぁ。まさか、昔俺がホザイタ事と同じような事を言われるとは思ってなかったぜ」
「当たり前じゃ。わしとお前が会ってから二十年以上、最後に会った時から数えても十年以上たってるんじゃぞ」
「そりゃぁそうか。そうだな。今の俺はあいつ等より年上なんだ。そりゃぁ歳を取るよな。
 おい、そこの小娘と若造」
ケラケラと笑いながら爺さんと会話していたレイヴンが俺達に向き直る。
「なんだよ。つーか名前で呼べ。俺にはロイ・ザーランド、こいつにはウィン・D・ファッションって名、ごふぁぁ!?」ウィンディーが容赦なく俺の脇腹に肘を入れる。
「ククク、見ていて飽きないな、ランボス。イキのいいのを見つけたじゃねぇか」
「おう。お前の若い頃にそっくりじゃろう?」「ちょ、笑われてんじゃねぇかウィンディー!突っ込みはTPOを読めよ!」「じゃぁお前も私をからかうのは時と場合を考えろ!」
「ま、名前を呼ぶのはもう少し後だな。いいか、若造共。お前等二人のほざく言葉がそれなりの筋が立ってる事は認めてやる。
 だが俺はお前等が正しいとは認めない。何故なら俺はリンクスだからだ。言ってる意味は解るな?」
「どちらが正しいかは戦って決めようってのか?いいぜ、いくら英雄だからって俺達二人のラブコンビネーションに簡単に勝てると思ったら大間違いだ」
「いや、二対一は卑怯だろうロイ。ここは私が」「いやよく考えろって。前にこいつに便座3機と霞の姐さんと姐さんと一緒に挑んでボコボコにやられたじゃねぇか」
正直あの時の恐怖を思い出すと例え二対一でも勝てるとは思えないのだがそこは空気を読んで手加減してくれることを祈りたい。
「それも面白いが、それじゃぁ余りにお前らに分が悪すぎるからな。だからもう少し簡単な条件にしてやる。
 クラニアムから生きて帰って来い。そうしたらお前達の正しさを認めてやるぜ。ついでに名前でも読んでやる」
「ほ、本当か!本当にクラニアムへ行くことを認めてくれるのか!!!」「ああ」
「おっしゃぁ!!爺さん!整備は後どれくらいで終わる!」「嬢ちゃんの分は微調整だけじゃが、マイブリスは組み立てにゃいかんから半日じゃな」
「蘭!!」「はいはい。ここからなら輸送機飛ばして三日ってところですね」
「よし!なら機内でできる!お前等疲れてるところを悪いがもう一働「落ち着け。整備はここでしておけ」
調子よく指示を出していたところをレイヴンに邪魔をされる。
「なんでだよ。時間を与えれば与えるほど奴等に迎撃の準備を与えちまうし、坊主、ストレイドが合流する可能性も増えるんだぞ!」
「だからだよ。VOBとBFF特製の高速輸送機を売ってやる。整備に半日、VOBの接続に半日かかってもVOBなら三時間でクラニアムまでいける。
 ついでにVOBの接続は俺達でも出来るからな。整備の終了と同時に高速輸送機を先行させればほぼVOB到着から1~2時間の遅れでクラニアムに到着できる」
「ほう!こりゃぁ気前がいい事だのう」「ちょっとあなた!そんなこと勝手に!!」
「勘違いするなよ。売るんだからな。代金はお前等が帰ってこれたらお前等から利子つきで取り立てるし、帰ってこなけりゃ残った奴等から取り立てる。
 お前等なら半年、残った奴等なら大体100年ぐらい必死で働けばなんとかってとこかな」
レイヴンがニヤリと笑う。
「せけぇなぁ~。帰ってこれたらただにしてやるとか、無利子の出世払いでいい、ぐらいいえねぇのかよ、鴉の旦那」
「傭兵は金に汚いんだよ。それでどうする?VOBと高速輸送機はいるか?」「いるに決まってんだろ!」
「商談成立だな。ランボス、アブとこっちの整備員も貸してやる。足手まといにはならないはずだぜ」
「感謝するぞい!よしお前等超特急で組み上げるぞい!但し、質は落とすなよ!むしろあげい!上手くいったらボーナスがまっとるぞい!」「あいさーー!!」
「メーヴェは最新のクラニアム内の情報を。ブギーとニーニャはORCAの戦力の洗い出しを!わかった情報はラフなものでいいからドンドンあげて。精査は僕がします。
 レティアはVOBと輸送機の航路設定をお願い。エマは全員分のサンドイッチと砂糖とミルクをたっぷりと淹れたコーヒーと紅茶と、にっが~いブッラクをお願い!」「はい!」
行動と目標が決定した瞬間、全員が慌しく動き始める。
「手が空いてる人はエマの手伝いか整備のほうを手伝って。僕達のほうは人では足りて、いや誰か一人レティアの手伝いをお願い」
「あ~、そっちは俺がやるよ。リンクしちまえば統合制御体とダイレクトに処理を命じられるから計算は俺が一番速い。
 ウィンディーお前は悪いがマイブリスとの一次リンクを「ちょっと待って!?まさか二人とも手伝うつもり!?」
俺の言葉を遮って蘭が素っ頓狂な声を上げる。
「二人は休んでいてください。解ってるんですか!これから24時間後には3時間VOBにのってそのままネクスト戦になだれ込むんですよ!
 準備は私達のほうでやっておきますから半日は休んでおいてください。ジーニーもそれで?」
「あ~、鴉。誰かネクストと一次接続が出来る奴は?」「一人いる。そいつを回そう。ただし煩いぞ」
「なら、一次までは出来るから7~8時間は休ませられるの。それ以降は今日のロイのコンディションにあった調整をするから必要じゃ。
 それにVOBとの接続は最初と最後はネクストとリンクしてもらっとかんといかん」
「解りました。ではリンクスは7時間は休んでください。7.5時間後から食事をしつつ整備や状況説明を行って、14時間後にもう一度休んで貰って21時間後から最終ミーティングとします。
 それで問題ありますか?」
「問題ないぞい」「俺も問題ない」「私も大丈夫だ」
「ではそれで。聞いてたよね、メーヴェ、ブギー、ニーニャ!五時間で一次案を作るわよ!」「はい!」「よし!なら先にいってて!」「はい!」
「それとお二人とも。どうせ禁止しても破るでしょうからするなとはいいません。でもずっとしっぱなしは無しですよ。最低でも3時間は休んでください。いいですね!」
蘭が俺達をじろりと睨んで告げる。3時間てことは身だしなみその他を整えるのに1時間として3.5時間か。足りるかな?
「い い で す ね?守れないなら薬で強制的に眠らせますよ?」
「は、はい!」「わ、解った」
 




 
「…ッ」
ウィンディーの膣に三度目の精を放つ。
殆ど本体はトんでいるにも関わらずウィンディーの膣は積極的に熱く蠢き俺のモノを喰らいつき、吸い付く。
「…ふぅ」出し切ったので少々名残惜しさを感じながらも引き抜こうとしたところでウィンディーが足を絡めてくる。
「もう少しお前を感じていたいからちょっと待って」頬を染めずに真顔でそんなことを言うウィンディーが可愛くて笑ってしまう。
「む、何がおかしい」「いや、俺の嫁さんは可愛いなって思っただけだ」
拗ねたフリをするウィンディーと軽く口付けをかわし、ウィンディーを抱いたまま半回転し下に回る。
「名残惜しいがそろそろ止めておかないとな?そろそろ寝ないと蘭と爺さんに殺されかねない」
ウィンディーの髪を撫でながら告げる。
「そうだな。まだ甘えたりなし、したりないし、よく考えたら殴ってもいないが我慢するか。続きは10時間後にだな」
「…やっぱ殴るのか」「あぁ、半殺しだ。ま、それは帰ってきてからにしてやろう。感謝するように」
ウィンディーが俺の胸の上で頬杖をつきながら笑う。
半分潰された胸が強調されてえらいエロイ光景で、思わず息を呑んでしまう。
いや、ちょっと前までもっとエロイ事をやっていたんだが、それでも視線がいくことは避けられない。
「あ~、シャワーどうしようか?浴びとくか?それとも起きてから浴びるか」
視線が行った事がばれないように目を逸らしながら話題を変える。
だがウィンディーは気付いたようで、「スケベ」と意地悪く笑いながら軽く俺の乳首を抓り、首を振る。
「いいよ。どうせ起きてからも浴びるんだし。もう疲れたからこのまま寝てしまおう。よく考えたら二人とも病み上がりだしな」
「起きて髪の毛が大変な事になってもしらねぇぞ?」「いいんだ。洗うのはロイなんだからな」
「人任せかよ!!くしょ~、まぁいいや。心配させたお詫びにその程度はやらせてもらいまっせ」
「よろしい」「まぁいいや。んじゃ、寝るか」頷くウィンディーから息子を外そうとしたところでキュっと締め付けられる。
「いや、やらねぇって。蘭に言われただろ?三時間は休めって」「解ってるよ。だからこのまま寝よう。お前と繋がったまま眠りたい」
「いや、無茶言うなよ。完全燃焼して燃え尽きたならともかく余力を残してたんじゃ寝れねっての」
「頑張れ、パパ」「無茶言うな!!!」
ん、今何かこいつとんでもない事言わなかったか?
いやいやいや。そんなわけないよな。俺の聞き間違いに違いない。
そうだよ。俺、毎日避妊薬飲んでるし。
「あの~、ウィンディーさん。えと、多分俺の聞き間違いだと思うんですけど今、パパって?」
恐る恐る訊ねた俺にあっさりとウィンディーは頷く。
「ああ、言ったぞ。私の中にはお前の子供がいる。一ヶ月だそうだ」
「う、嘘だろ!!!だって、俺ゴムはつけたりつけなかったりだけど、避妊薬は欠かさず飲んでたし」
「私もだ。現役リンクスが子供を作るなんて正気じゃないからな。私も避妊薬は欠かさず飲んでいた」
「だったら!」「だが避妊薬は100%でない」
「いや、かも知れないが。確か俺のは99.999%は防ぐんだぞ!」
「私のもそれぐらいだな」「だったら一人ならともかく、二人が常用しててそんなはずは!」
「だから10万の二乗、100億分の1の奇跡が起きたってことさ」
「そんな馬鹿な」淡々と返ってきたウィンディーの答えに絶句する。
いやいやいやいや、有り得ないだろ。100億分の1だぞ?そんなゴミみたいな確率で当たる筈は。
まさか、インテリオルに保存してあった俺の精子を使って人工授精を。
いやいや、落ち着け俺!そんな事をこいつがするはずがない。そもそもするメリットがない。現役リンクスが子供を作ったって受精卵の段階でコジマ汚染されてまともに生まれてくるはずがない。
だったらもしウィンディーが俺の子供を欲しがってもそんな手段をとる筈が。
だが、それしか考えられないのも事実。
「混乱しているな。まぁ私もこの事実を知ったときは同じ状態だったから責めはしない。
 それと言っておくが、私は人工授精などは一切行っていない。
 この子は本当に100億分の1の奇跡で宿った私達の子だ」
ウィンディーがはっきりと断言する。態度と表情を見る限り嘘を吐いているようには見えない。
うわ。まじかよ。こいつは嘘が上手い女じゃない。まして、こんな重い嘘をしれっと言える様なズルさを持っているわけがない。
って事はなに?え?え?マジで俺に子供が出来たの?おう!?えーと、俺はどうすればいいんだ?
子供なんて絶対に出来るわけがねぇっって思ってたから、どうしていいかまるで見当がつかねぇ!!
「それでどうする?もしお前が育てたくないというなら私一人で育てても……」
「いや、俺も育てる!育てるに決まってんだろ!!」
考えが纏まらないままとんでもない事を言い出したウィンディーに言葉を返す。
ウィンディーも俺がこう返すのは想定内だったのだろう。
特に嬉しがる事もなく「よかった。それじゃあ、この話はおしまいだ。お休み、ロイ」
と、さっさと俺にキスをすると目を閉じて眠りに入ってしまった。
ちょ!?俺この状態のまま置いてきぼり~~!?つ~か、頭ん中上手く整理できてないせいか重要な問題がある気が…。
…??
……??
………??
…………??
……………??あ~駄目だ!!考えてもわからん!!もしかして気のせいか?
と、とりあえず出撃も控えてることだし、俺も寝たほうが、
って?ん?出撃?出撃ってことは当然ウィンディーも出撃するんだよなぁ?
え?え?つまり妊婦のウィンディーがコジマの塊のネクストに乗って、命の危険のある戦場に出撃するって事?
「あ~~~!!そういうことか!!こら!起きろウィンディー!!!!」
慌ててウィンディーの尻の穴に一気に右手の中指を根元まで突っ込み中で折り曲げる。
「ひゃん!!?」「く!?」
ウィンディーが嬌声を上げて飛び起きる。ついでに締め付けがいっそう厳しくなったので俺も声を上げてしまう。
おお!!いい締り。くそ、もう一回ヤりたく…ってそんな場合じゃねぇ!!
「おい!ウィンディー!!お前ガキが出来たのに一緒に出撃しようってどういうことだ!!!俺に任せてお前は待ってろ!いいな!」
「別にそれでもいいが、さっきもいったがお前が帰ってこなかったら、私は仇をとった後に死ぬぞ?」
淡々と返すウィンディーに頭が熱くなる。
「ああ、それでもいいさ。だからお前は待ってろよ!!」
「…本当にいいのか?一人で突っ込めばまず間違いなくお前は死ぬぞ?そうなれば私は、いや私達は絶対に死ぬ。
 だったら二人でいって生存の可能性をあげたほうがよくないか?」
「……お前自分がなにやってるか解ってるか?胎児は俺達より何十倍も何百倍もコジマ汚染のリスクが高いってわかってるんだよな?」
「ああ。私は自分と子供の命を盾にお前を脅している。
 はっきり言おう。私はお前と私達の子供ならおま「ふざけんな!!!」
ウィンディーの頬を思いっきり平手で打つ。
だが、ウィンディーは顔すら揺らさずに言葉を続ける。
「子供とお前ならお前を選ぶ。最低だとも母親失格とも解っているがこれが偽らざ「しゃべんじゃねぇよ!!」
さらにウィンディーの頬を打つ。だがそれでもウィンディーは言葉を続ける。
「る私の「黙れ!」気持「しゃべんな」例「うるせぇ!!」は」
黙らせようと何度も何度も頬を打つがそれでもウィンディーは黙らずに喋り続ける。
「もういい!爺さんに事情を話して整備を止めてもらう!どけよ!!」
ウィンディーを跳ね除けようとするが、ウィンディーはびくともしない。
「どけって」「いや!!絶対に放さない!!!」
それどころかベットに押さえつけられて、身動きが取れなくなってしまう。
「ウィンディ!!」「私だって自分がどれだけ最低な事してるかわかってる!!でも貴方を殺したくないの!!!貴方と一緒にいたいの!!」
ウィンディーが泣きじゃくりながら絶叫する。
「ふざけんな!その為にガキが死んでもいいって言うのかよ!」
「そうよ!私は貴方が生きる為ならこの子が死んだってかまわない!
 この子の為なら私は死んだっていい。でも、貴方がこの子の為に死ぬのは許さない!私にとって貴方は絶対なのよ、ロイ」
「だったらクラニアムに行きたいなんて言うんじゃねぇよ!行かなけりゃ俺もウィンディーも子供も死なずにすむじゃねぇか!」
俺の言葉にウィンディーは更に顔を悲痛に崩して首を振る。
「それも考えたわ!!子供が出来ったって解ってからずっと考えてた。でも駄目。私はこの子一人の為にクレイドルの住民全てを見捨てることは出来ない。
 だから私は子供が出来たと知ってからもネクストにのり続けたのよ」
悲痛な表情でだが迷いなく言い切るウィンディーに絶望的な確信を得る。
あぁ、そうか。そういうことなのか。
つまり、ウィンディーにとっては自分と自分の子と恋人である俺よりも顔も知らない多数の他人の方が大切なんだろう。
その考え方は俺が惚れたウィンディーの考え方だ。人として正しい。文句などつけようがない。
家族を犠牲にしてでも多数を助ける。それはありふれた物語に登場するどこにでもいる英雄だ。
一時間前の俺ならその考え方をからかいつつも肯定し、何処までもついて行っただろう。
あぁ、だけど、あぁ、しかし。
親となった今はその考え方に全面的に賛成できない俺がいる。
まだ触れるどころか見てもいない。それどころか名付けてもいない俺の子供。
下手をすればテレビの中の有名人よりも知らない我が子が『誰か』の犠牲にされかけて、いやされてしまった今、俺はウィンディーの正しさを認めつつも心の底では凄まじい反発が起こっている。
視界が歪む。涙が零れ落ちる。嗚咽が溢れる。この感情はなんなのか。
「泣くな、ロイ。大丈夫。テレジアさんのような例もある。生まれてきた子がコジマ汚染されているとは限らないさ。それに私も出来うる限りの防護策はしてきたし、するつもりだ。
 それにネクストのGでも流産の可能性を下げる薬もあるから大丈夫さ」
頬を赤く腫らしたウィンディーが優しく微笑んで俺の頭を撫でる。
「約束してくれ。ウィンディー。これっきりだって。これっきりにしするって。これが終わったらもうリンクスを止めるって」
「あぁ、約束する。ロイ。だから泣き止んで」
ウィンディーが優しく嘘を吐く。いや、本人は嘘を吐いた気はないだろう。
でも、もしリンクスに戻らなければ多くの人が死ぬ時、ウィンディーは迷わずネクストに乗るだろう。
だからこの約束は優しい嘘。破られる約束。何の意味もない約束。
「あぁ、約束だ。約束だぞ!ウィンディー」「あぁ、約束だ」
それでも嘘とわかっていてもこの約束に縋らなければ俺は前に進めない。
ウィンディーのように強くない俺は、弱い俺は言い訳がなければ子供を犠牲に出来ない。
心に湧き上がる罪悪感を誤魔化すためにウィンディーを抱き寄せ、唇を奪い舌を絡ませる。
俺が平手をした時に口の中を切ったのかウィンディーとのキスは、

どうしようもなく血の味がした。




 
「もうすぐクラニアム中枢だ。
 貴方には、感謝している …嬉しかったよ」
「なんでぇ、いきなり他人行儀に」
無事にクラニアムに侵入し、たった一つを除けば順調に進んでいるとウィンディーがらしくない事を言ってきた。
「いや、本当に感謝しているんだ。私は最低の事をしているからな。
 正直三行半を叩きつけられてもしょうがないと思っていた」
「あぁ。そうだな。確かに俺はこの件に関しては生涯お前を許すつもりはねぇし、もし生まれてくるガキが何らかの障害を負ってたらそれがコジマ汚染が原因じゃなくてもお前を恨んじまうだろうな。
 だが、それでも、もう別れるなんて選択肢はないんだよ。それはガキが出来たからじゃねぇぞ、もっと昔からロイ・ザーランドはウィンディー・ファンションから離れられないんだ。
 惚れてっからな」
「…そうか。…ありがとう」息を呑む声と涙ぐむ声。あ、こいつ感極まって泣いてやがる。嬉しいね。
だが、こんな状況で泣けるなんて大物だな。
俺なんてさっきから、辺りに充満する殺気に息をするのがやっとだってのによ。
俺も傭兵家業を始めてからそれなりになる。戦場で殺気を向けられるのは慣れっこだし、ネクストを降りた状態で殺されかけた事も何度もあるし、自慢じゃねぇが生身で殺し屋や暗殺者とガチで殺し合った事もある。
その経験が全力で告げている。この殺気ははっきり言って異常だと。
なにしろこの殺気はVOBを降りた直後、クラニアムの何キロ前から漂ってきやがったんだ。
はっきり言ってこれはありえねぇ。この世界はファンタジーじゃねぇんだ。だから気やオーラなんてモンは存在しねぇ。
つまり殺気ってのはようするに相手の仕草や表情や言葉や態度等のモロモロを無意識下で総合的に統合して『殺気』として感じるもんだ。
だから俺は相手が見えないうちから殺気は感じた事がねぇし、多分他の奴等もそうなんだろう。
そうでなければレイヴンが扉の向こうにいるのに俺達が馬鹿騒ぎ出来るはずがねぇ。
だから相手の姿を見れない今、殺気を感じられるはずがない。感じられるはずがないんだが…
「感じちゃってるんだな、これが。どういう~~~~!!!!!????」
突然殺気が濃縮し形を持ち腰の辺りを通った気がした。
「え?」違和感を感じ腰を見るが何もない。そりゃぁそうだ。俺は何もされていない。だから何も起こる筈が…ってうおおお!?
視線の先で真っ二つに割れた、いや斬られたクラニアムが崩れ落ちる。慌てて後ろをモニターしてみると後ろも斬られて崩れ落ちている。
そして正面、全てを真っ二つに斬った男が俺達のほうを見て、嗤って首を振ると踵を返してすぐ傍らに置いてあるいつぞやのサムライネクストの方へと歩きだす。
次の瞬間、斬られたはずの壁は元に戻り男とサムライネクストの姿は見えなくなっていた。
「な、な、な、な、な!!?ウ、ウィンディー?い、今の」
「…ロイにも見えたということは私が狂ったというわけではないようだな」
ストレートに動転を出す俺の質問に対し、俺とは対照的に動揺する心を押し殺した声でウィンディーが答える。
「い、今のなんなんだ?」「さぁ、魔術かまやかしか、あるいは気なのか。どちらにしろ実際に私達を傷つけられないなら問題ないさ」
ウィンディーが何時もの調子で答える。おぉ、もう立ち直りやがった。
「それよりも注意しておけよ。このまま進んだら奴が待ち受けているって事なんだからな。訓練の結果を忘れずにな」
そうだ。落ち着け。動揺していて負けたんじゃ話しにならねぇ。俺は、いや俺達三人は絶対に生きて帰らなくちゃならないんだ。
「あぁ。解った。動揺してすまなかった。それじゃ行こう」
「もうすぐ最後の隔壁。これをあければ中枢だ。行こう、ロイ!」

****
****
****

「お前たち、やはり、腐っては生きられぬか」
隔壁の先、中枢前の最後の隔壁を開けた俺達を迎えたのはどこかで聞いた誰かの声だった。
だがその誰かを思い出す暇なぞ無い。
人の形をした殺気、サムライネクストが一直線に突っ込んでくる。
こいつはやばい。間近で見て確信した。
待ち構えていたネクストは二機。そのうちサムライネクストじゃないほうも化け物クラスだが、サムライネクストは正直格が違う。
はっきり言っていつぞやのアナトリアの傭兵が乗ったWGに匹敵する。
「だがそれでもなぁ!負けるわけにはいかねぇんだよ!!」
WGPで弾幕を張りつつ、BECRUXの狙いを定め発射する。
サムライネクストがQBでBECRUXを回避する。すかさずVERMILLIONで追い討ちをかける。
いよし!!作戦成功!!!
こいつの強さは神がかり的な見切りに支えられる攻防一体の移動技術だ。
普通ならQBでかわすところを、敵の攻撃を見切ったこいつは敵へと進みながら半歩の軸移動と体の捻りでギリギリ回避する。
だから普通なら回避と移動という2の動作を、こいつは回避しながら移動できるので1の動作で出来る。
つまり単純に考えて2倍の速さで動ける。それもただの2倍じゃない、出力特化なブースターに追加ブースターまでつけた高速機が2倍で動けるんだ。
おまけに通常なら背中武器が使えずに落ちる火力もブレードがメインなため問題ない。
まさに攻・速・防全て揃った完璧な機体だ。まともに戦ったら一人でカラードの上位リンクス全員を斬り捨てかねない強さだ。
だが、その強さはあくまで回避と移動を同時にこなせる事に根付いている。
ならその前提を壊してやればいい。つまり半歩では避けきれない広い攻撃を、どんなに体を捻っても動かない唯一の箇所、腰に向かって攻撃すればいいのだ。
そうすればいくら見切っていようが回避するしかない。単純だが絶対的な攻略方法だ。
サムライネクストが左手を一閃させミサイルを全て撃ち落す。
「それも予想通りなんだよ!!喰らえ!!」腰に向かってもう一度BECRUXを発射する。
さらにQBで回避するサムライネクスト。
「今だウィンディーー!!」俺が叫ぶ前にウィンディーはサムライネクストが2度のQBを使った事で開いたスペースを一気に突っ切り、奥のネクストへ向かう。
奥のネクストに向かって両肩のミサイルをBELTCREEK03とセットで発射する。
奥のネクストが迫り来るミサイルをライフルで迎撃しながらQBで回避する。
そこに
「貴様が人類のためには人の死を厭わないのなら、まずは自分で死を実践してみせろ!!!」
咆哮と共にウィンディーが襲い掛かる。
よし!殺った!!回避で体勢が崩れた今ならたとえWGでも回避はでき「なに!?」
サムライネクストがこちらに前進しながら左腕だけを後方に向けてマシンガンを乱射する。
その放たれた弾は正確にウィンディーを撃ち抜いた。
「く!?」「ウィンディー避けろ!!!」
体勢を立て直した奥のネクストが、予期せぬマシンガンの攻撃で姿勢が崩れたウィンディーにレーザーバズーカとプラズマを発射する。
紙一重で避けるウィンディー。
「させねぇよ!!」そこへプラズマとライフルで追撃をかけようとする奥のネクストにVERMILLIONを発射しつつ、WGPでサムライネクストを牽制しながらQBで距離をとる。
「すまない」WGPを無視して突っ込もうとしたサムライネクストが合流してきたウィンディーのレールガンをかわす為にQBを使う。
「ち、サムライネクストはマシンガンをミサイル迎撃にしか使わないんじゃないのかよ」
奥のネクストもサムライネクストの隣に降りてくる。仕切り直しってとこか。
「相手も本気だって事さ。それとサムライネクストじゃなくスプリットムーンだ。
 ついでに奥の奴はアンサングだ。さっきの通信の発信名がそうだった」
へへへ。そういうことかよ。前回は遊びだったって事か?遊びでワンダフルボディを倒した上に、先輩とウィンディーを中破させて俺を大破させたわけね。
…帰りたい。帰りたいがそういうわけにはいかないよな~。
「大丈夫。私達だってあの時のままじゃない。だから勝てる。だろ?」
「…そうだな。それに即席コンビに俺達2人のラブラブコンビが負けるわけねぇモンな。PT戦なら望むところだ!」
「ああ!だが2人じゃない。3人だ」
「そうだったな!それじゃぁ俺達家族の力を見せてやるか!いくぜぇ!!!」
 




 

かくしてORCA事変の最終章、もしくは絶滅戦争の序章である後世でクラニアムの戦いと呼ばれる戦闘が始まった。
そしてこれは彼によるスピリット・オブ・マザーウィルの襲撃によって決定付けられた破滅が遂に歴史の表に出てきた事件でもある。
無論彼らがこの事を知る術はない。彼等は形は異なるもののそれぞれが人類の為に行動した。
それが大破壊という結果を齎した事は悲劇としか言いようがないだろう。
勿論この時点での彼等にそれを知る術はない。
破滅を知るのは少し後。破滅の御使いが彼らの元へ現れてからである。
そしてその時こそ、人類の未来をかけた理想者達の死闘は、人類の生存を賭けた戦争へとかわるのである。

 

第三十二章 かくして人は滅びゆ より
 



 
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください
 




 
「ロ~イクゥン。ちょっとみぃみよりぃな話があるぅんだけどぉ~、いいかな?」
「んだよ。俺はこれからウィンディーとヤ…じゃなかった。決戦に向けて英気を養わなきゃいけないんだけど」
「なぁにぃ。すぐ済むよ~。それにぃ、聞いておいたぁ~、ほうがいいよぉ~。
 上手くぅいけばぁ~、パワァ~アップゥできるんだからねぇ~。…失敗したら死ぬけど」
「うさんくせえなぁ。なんだよ?」
「ふっふっふぅ~。それはねぇ~…」


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英雄が作る正しい世界なんざ、生き辛くてしょうがない。凡人が作る間違った世界の方が万倍マシだね。
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