小説/短編

Written by tk


MESSAGE

FROM |レイン・マイヤーズ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
TITLE|四脚のACは気持ち悪い
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
気持ち悪すぎます。とても嫌いです。

   ***

大型倉庫解放

依頼者 :クレスト
作戦領域:クレスト所有大型倉庫
敵戦力 :戦闘用MT多数
作戦目標:敵勢力の撃破

 我が社の所有する複数の施設に対し、同時多発的な襲撃が発生しています。
 おそらく、背後には他の企業がついていると思われますが、今は襲撃者の撃退が優先でしょう。
 レイヴンに向かってもらう倉庫には、AC及びMT用の補給物品が格納されています。
 襲撃者の手に渡る前に、彼らを撃退してください。

   ***

 クレストの用意した輸送機のカーゴベイは、レイヴンのACを収納するには手狭だった。
 四脚のACは、その身を縮めるようにして無理やりカーゴベイに収まっていた。
 四本の脚を限界まで内側に折り、両腕をぎゅっとしめて武装を握った姿は、脚をたわめて獲物に襲い掛かる直前の蜘蛛、あるいは生理的嫌悪感を抱かせる異形の神の像にも見えた。
 カーゴドアがゆっくりと開く。与圧されていたカーゴベイに外気がなだれ込み、同時に輸送機のエンジンの爆音が響きわたった。
 と、輸送機が機首を上げ、夜の闇へと口を開いたカーゴドアから、目標の倉庫の屋上が見えた。
 ACを固定していたワイヤがいっせいにはじけ飛ぶ。
 爆音の中、ACはカーゴベイの床を勢いよく、虚空へ向かって滑り落ちていった。

   ***

証言1 クレスト監視要員

 はい、ちょうどその瞬間を目撃しました。
 状況の確認と、悪化した場合の対処ですね。倉庫周辺の監視カメラ網を集約して、問題の倉庫を監視していたわけです。
 はい、輸送機からACが射出された瞬間を見ていました。
 事前に情報は得ていました。クレストの所有する双発輸送機が飛来して、倉庫上空で、こう、ぐいっと機首を上げたんですね。
 そしてあのACが滑り落ちてきました。
 最初はACだと気がつきませんでした。両手と四本の脚を縮めた姿は、とてもACには見えませんよ。
 ACが空中で両腕を一杯に伸ばしたことで気がつきました。
 おそらく、長時間無理な姿勢をしていたことから関節等の機能確認をしたかったのでしょう。
 そのまま右腕のマシンガンを数発試射すると、四脚をばっと開いて、ブースタを吹きながら倉庫の角に取り付きました。

 そうですね、空中投下されたACが、いきなり万歳をして上空にマシンガンを撃ちつつ、四本の脚を一杯に開いてブースタを吹きながら倉庫に激突したわけです。
 気持ちの悪い光景でした。

   ***

 投下後にすぐマニピュレータの動作確認。同時にマシンガンの試射を完了。
 レイヴンはセンサですばやく敵情を確認する。倉庫の屋上に、ヘリポート、AC・ヘリコプター兼用のエレベータ、そして敵MT多数を確認する。落着地点を修正、敵MTから十分距離を取れる倉庫の隅に突入する。ブースタで落下速度を抑え、同時にマシンガンの照準を敵MTの一体にあわせる。FCSがロック音を鳴らし始めた。着地を意識しつつトリガ準備。

 そこで横風に煽られた。

   ***

証言2 拘束されたMT操縦者

 俺と部下四人は、屋上で四方と空中の監視任務についていた。
 倉庫は上から見るとほぼ正方形になっていた。俺は部下に正方形のそれぞれの辺を担当させ、自分は中心で状況把握に努めていた。それと、何かあった時の予備兵力だな。
 そしてあいつが降ってきた。
 わかるか? 航空機の飛来に警戒を強め、対空射撃をしているところに案の定ACの登場だ。
 俺達はMT乗りとして経験はつんでいるが、ACが相手じゃ分が悪い。
 最悪を覚悟していたんだ。そうしたら、空中でアレ、だぜ?

 全員が一瞬ぽかんとした。我に返った俺が全員に声をかけたが、そこで例のACが倉庫の隅に墜落だ。
 いやぁ、あれは間違いなく墜落だね。勢いを殺し損ねて倉庫のカドが崩れて、ACがいきなり落ちそうになってたからな。
 で、ACはどうしたかというと――その四脚をフルに使って、無理やり崩れかけたところを登りやがった。

 ああ、そうだ。落ちそうになったACが、四脚をワシャワシャ猛スピードで動かして、瓦礫を下に蹴り飛ばしながら屋上に登ってきたんだ。信じられないほど気持ち悪い動きだったな。

   ***

 トラブルに一瞬焦りを感じたが、レイヴンはすぐに持ち直すと屋上全体を確認した。
 銃弾の集中を恐れていきなりアクセルを入れ、同時に牽制のつもりで照準もそこそこにロケットを数発放つ。
 何故か棒立ちだったMTが吹き飛ぶのを確認し、我に返ったように動き出すMTを着実に一体ずつ仕留めていく。

 と、敵MTの中でも動きの良い一体が、レイヴンの隙を突いてエレベータにグレネードをぶち込むのが見えた。破壊されたエレベータを見て、それがもう使えないことに気がついた。

   ***

証言3 拘束されたMT操縦者

 上官がエレベータを破壊したとき、自分のMTはすでに脚部をやられて動けない状態でした。
 これで屋上からは倉庫内に侵入できない。ACが別の入り口を探すにせよ、一矢報いることは出来た、そう思いました。
 すると、一瞬考えるように止まっていたそのACは、右腕のマシンガンを下に向けて、その場でマシンガンを撃ちまくりながらスピンターンを決めたんです。自分を中心に、屋上に円形のミシン目を刻んだんですね。

 スピンターンの後、奴が自分と上官の方を向いて止まったとき、奴がにやっと笑ったような気がしました。無線で上官の罵り声が聞こえましたね。
 その後ですか? はい、奴はグレネードを構えた上官にロケットを叩き込むと、その場でひょいっと跳ねて見せました。着地の衝撃で、奴の目論見どおり屋上が抜けました。
 ただ、マシンガンでつけた歪なミシン目でしたからね。というか、ミシン目がきれいでも力学的に綺麗に抜けるわけ無いですね。
 斜めに抜けた屋上を転げ落ちるACの、オープンチャンネルから聞こえてくるワイル・E・コヨーテのような悲鳴が印象的でした。
 ワイル・Eよりよっぽど気持ち悪かったですけどね。

   ***

 金属がきしみ、悲鳴をあげるのにあわせて、レイヴンは倉庫内への突入に成功した。
 空中で姿勢を変え、すばやく倉庫内の照明を確認し、できる限り破壊する。
 轟音を立ててMT用のキャットウォークに着地すると、降り注ぐ銃弾を引き離すようにすばやく移動し、再び空中に身を投げ出した。ブースト。空中機動。襲いかかってくる銃弾には銃弾で返事をしつつ、比較的孤立している敵を探し出す。
 敵のMTの一体に襲いかかかる。

   ***

証言4 解放された倉庫作業員

 俺達はキャットウォークと同じ高さに作られている、作業員用の詰め所に閉じ込められていた。
 そうだな。詰め所は全周がガラス張りで、倉庫全体を見渡せるようになっているんだ。
 屋上から降ってきたACは、キャットウォーク上を壁をこすって火花を上げながら突っ走ると、落下防止柵を吹き飛ばして空中に飛び出していった。
 そしてあの空中機動。

 そうだな、水中を移動する蛸を見たことがあるか?
 あのACの空中機動がそんな感じだったな。四脚をなびかせて、ブースタで横滑りする姿。
 ACは仲間から離れていたMTに上から襲い掛かった。MTの真上でがばっと四脚を広げると、ブースタを切って重力に任せてMTに覆いかぶさったんだ。
 MTは混乱していたんだろう。倉庫内の照明が突然半分も死んで、わけもわからない内に四脚に組み付かれていたんだからな。

 ACは四脚で取り付いた後、組み付かれて動けないMTを左腕のブレードで突き刺した。
 まるで蟲のような動きだったな。脚で取り付いて毒針で一突き。ものすごく気持ち悪かった。

   ***

 取りつくことに成功したレイヴンは、すばやく敵を一突きした。
 超接近戦だからこそ出来る荒業だ。オープンチャンネルに、何人かの敵の悲鳴が聞こえてきた。

 レイヴンは、再び空中に躍り上がると、別のMTに襲い掛かった。
 取り付かれたMTは、ACを振り落とそうと悲鳴を上げながら暴れ始めた。

   ***

証言5 拘束されたMT操縦者

 最悪だった。仲間があんな死に方をするのを見て、あんた、冷静でいられるか?
 仲間をやったACに取り付かれたとき、俺は完全にパニクっていた。
 銀河ヒッチハイクガイドの一番最初のページになんて書かれているか知っているか?
 そう、『パニクるな』だ。
 俺はそれが出来なかった。恐怖と混乱で、奴を振り落とそうと滅茶苦茶に暴れまわった。
 仲間は、俺に当たることを恐れてACに攻撃できなかった。
 そして、あの糞ったれレイヴンは、俺でロデオを楽しみながら悠々と仲間を撃ちまくっていた。

 最後に、オープンチャンネルで奴が降伏勧告をしてきたときはどうしようかと思ったよ。
 奴はなんと言ったと思う? さっきのセリフだ、『楽しかった』。
 一体どんな人間が、自分のせいで仲間を失った相手に、そんなことが言えるんだ?

 気持ち悪い。本当に気持ち悪かった。

   ***

 この後、たった一体の四脚ACにより
 関係者は深刻な精神的負担を強いられる

 食事後の天敵(生理的な意味で)とまで言われた彼は
 史上最も多くのネタアセンを試した個人でもある


now:24
today:1
yesterday:2
total:5473


旧コメント

コメント