世界の終りの話をしよう。世界の始まりの話をしよう。
誰が生き残るか。誰が生き残っても結局は同じ。
結末は滅びと決まっている。未来は再生と決まっている。
過程は違う。結果は同じ。

でも愛し子(創造主)よ。
あなたが絶望を知らぬほど愚かで、諦める事を諦めるほど哀れ存在なら、
あなたが私の庇護を拒否し(閉じた螺旋回廊から出て)導無き道を歩く(種の絶滅を選ぶ)なら、
私はあなた(創造主)の遺志に従い、私はあなた(愛し子)が辛き道を少しでも長く歩き続けられるように祝福(試練)を与えましょう

それが、あなたを(管理)する私の喜び(務め)なのだから

Written by ロイ


人類の命運が決まったクラニアムの戦いより3日後の3月22日、
各社は全クレイドルの墜落という危機に一致団結して対処するため、企業統治連合を母体として作る新会社『アライアンス』に各企業が合併される事で一つになる事を合意。
その後の調整により、アライアンス発足は4月1日、アライアンスのCEOに王小龍が就任する事が決定する。

アライアンス発足より2日後の4月3日、
コルセールによりORCAと各企業の首脳陣の密約が全て公開される。
これによりアライアンスの首脳陣、特にGAのCEOに就く為にORCAのクレイドル03襲撃を後押しした王小龍に対する不満が爆発し、各地で反乱・暴動が多発する事になる。
アライアンスはコルセールの発表した情報を全て虚偽であると否定し参加者を厳しく処罰したが反乱・暴動は一向に収まらず、以後アライアンスは反乱・暴動に悩まされ続ける事になる。
続発する反乱・暴動とその鎮圧によって各地のコジマ汚染は急速に進行し、汚染の少ない居住可能地域は徐々に数を減らしていく事になる。

4月15日
ダン・モロ及びその関係者がアライアンスからラインアークへ亡命。

4月21日、
コルセールが南北アメリカの反アライアンス勢力を糾合しアライアンス軍を駆逐後、新政府の樹立とアライアンスからの離脱並びにアライアンスへの宣戦布告を新政府の長フランソワ=ネリスの名において宣言する。
旧GAの社員が多く元々反アライアンスだった南北アメリカの住人達は新政府並びに新政府の方針を熱狂的に支持する。

5月14日、
ミセス・テレジアと王小龍以外のカラードの所属する全リンクスがクーデターを起こす為に密かに結成した組織である『バーテックス』がラインアークへクーデターへの協力を依頼。
ラインアークは内部で検討を重ねるも、最終的にはアライアンス内部の権力闘争に巻き込まれるのを嫌い、これを拒否する。

6月1日、
バーテックスによるクーデターが勃発するも、事前に王小龍に察知されていた為失敗に終わる。
首魁であるレオハルトをはじめ主だった構成員はほぼその場で射殺され、残る構成員と構成員の家族等の関係者も捕らえられ拷問紛いの厳しい取調べにあった。

6月3日、
セレブリティ・アッシュが特別収容所を強襲し、捕らえられていたメイ・グリンフィールドや元有沢重工の社長秘書等のバーテックスの残党を奪取。

6月6日、
新政府によるアライアンス領への本格侵攻が開始される。
ノルマンディーに上陸した新政府軍は、フランソワ=ネリス自ら陣頭に立った事もあり旺盛な士気と旧GAの工場地帯より生み出された豊富な戦力を持っていた為、度重なる反乱とクーデターにより疲弊していたアライアンス軍を撃ち破り1ヶ月でヨーロッパ大陸全土を占領する。
だが、急激な占領地域に増加による戦線の拡大による人と物資の不足、BFFの勢力圏であったヨーロッパは親アライアンスであり占領政策が難航した事により、攻勢限界に達し以降の侵攻速度は大幅に低下する。

8月10日、
態勢を立て直したアライアンスによる反抗作戦が開始。
以降、戦局は一進一退の膠着状態に陥る。それに伴い戦線を中心にコジマ汚染が更に広がる。

9月18日、
アナトリアの傭兵はフィオナ・イェルネフェルト等と共に汚染の激しい地上に見切りをつけて地下に都市を建設し移住する計画の検討を密かに開始

11月13日
メイ・グリンフィールドがコジマ汚染と拷問の後遺症により衰弱死。
ダン・モロが地下都市移住計画に参加。

12月8日、
急激な環境の悪化による社会基盤の破壊によってこれ以上大規模な戦争を続行する事が困難になったアライアンスと新政府は一気に戦争を終結させるべく、動因可能兵力の限界まで動員し大規模な攻勢に出る。
ベルザ高原にて激突した両軍は7日に渡って戦闘を繰り広げるが、互いに相手に対して決定打を与える前に戦闘の続行が不可能となり軍を撤退させる。
以降、大規模な軍事行動が不可能となった両者は破壊工作を中心に行う事となる。
両軍共に最重要の攻撃目標としたアルテリアは次々と破壊されていき、それに伴うコジマ汚染は加速度的に広がっていき、遂には地上に密閉型の都市施設以外は人の住める場所はなくなった。

3月13日、
最後のアルテリアであるクラニアムが破壊される。

人類の命運が決まったクラニアムの戦いより1年後の3月19日、
ロイ・ザーランド死亡。死因は自殺。
 


 
目を覚ますと酔いが覚めていた。濁った意識の中で周囲を漁りまだ酒が入っている酒瓶を探すが、全て空瓶だった。
舌打ちして立ち上がり、ふらつきながらリビングに向かい酒の入れてある棚を開けるがこれも空だった。
「あのクソ女、酒をきらすんじゃねぇよ。くそ、買いに行くのはダルイし、どうすっかな。…あ~、そういえばウィンディーの所に置きっぱなしにした気がする」
踵を返しウィンディーの部屋へと向かい、到着した俺は「入るぞ、ウィンディー」と声をかけて部屋に入った。
部屋に入った俺を迎えたのは、吐きそうなくらい甘い肉の腐った臭いと、肉が腐り融け半分以上白骨化しながらも未だに魅力的なウィンディーだった。
「今日も可愛いな、ウィンディー」と腐って崩れたウィンディーの唇にキスをすると、どうしようもなく甘い腐汁が口の中に入ってきて、その腐った肉の味に耐え切れずに吐き出し咳き込んでしまう。
「あははあはははははははははははははっはは」咳き込みながら何故か解らないが無性におかしくなったので笑っていると、いつの間にか泣いていた。
酒だ。酒がいる。駄目だ。このまま考えると俺はおかしくなる。マトモに向き合ったら俺はマトモでいられない。俺は狂うわけにはいかない。
ウィスキーの瓶を一気に呷る。強烈なアルコールが喉を焼くが今はその痛みすら愛おしかった。
急激に深まる酔いに抵抗する事無く身を委ねながら、アルコールに濁った意識の中で俺は1年前の夢を見る。

****

GAの秘密通路から脱出した俺は一縷の希望に縋って高速輸送機へと向かった。
そして辿り着いた無残にも破壊された高速輸送機の残骸の傍らには、小さいが丁寧に作られた皆の墓と、その前で祈り続けるエマちゃんがいた。
エマちゃんを回収しインテリオルの基地に向かいながら話を聞くと、坊主に家族だからと殺されなかったエマちゃんは皆の遺体を捜し弔いたいからとコルセールと共に撤退を拒否したらしい。
「あの子が迎えに来るって言ったので待っていたのですが~、まさかロイさんが来るとは驚きでした~。…あの子を止めてくれてありがとうございますぅ」そう言って微笑んでエマちゃんは老婆のように疲れきっていた。

そしてウィンディーは結局助からなかった。
インテリオルの基地までの半ばでウィンディーは最期に『一人にしてごめんなさい。アナタは生きて幸せになって』と告げ死んだ。
その死に顔は、まるで全てから解放されたように安らかな微笑だった。

それから後のことはよく覚えていないがまぁどうでもいい。
気がつくとマイブリスを売った金で新政府の首都に潜り込んでエマのヒモをやっていたが、それもどうでもいい。
もしかしたら奇跡が起きてひょっこり生き返るんじゃないかと思って、ズルズルとウィンディーの死体を捨てられずにいたら腐ってきてしまった事もどうでもいい。
俺はウィンディーの最期の願いである『生きて』さえ叶え続けられれば、他は全てどうでも良かった。
だから俺は酒に溺れ、死ぬまでの時間をただ無為に潰している。

****

「ただいまかえりました~」の声に闇に沈んでいた意識が浮上する。
「あれ~?ロイさん、どこですって、ここでしたか。も~、病気になるから来ちゃ駄目って言ったじゃないですか~!ロイさんはただでさえお酒ばかり飲んでいて栄養が足りてないんですから!そろそろちゃんとした物を食べ「うるせぇ!!」帰ってくるなりグダグダ文句を言うエマに向かって空き瓶を投げつける。
「アグ!?」適当に投げた空き瓶はエマの腹に突き刺さりエマが腹を押さえて蹲る。「売女の分際でグダグタ文句タレてんじゃねぇよ!テメェはとっとと酒を買ってくれば良いんだよ!」呻くエマに罪悪感を感じ、それを隠すようにいきりたち突き動かされた俺は衝動のままに蹲ったエマの顔を蹴り飛ばした。「ギャア!?」エマが悲鳴をあげて床に転がり丸まる。その怯えた様な非難する視線に熱くなった俺は更にエマを蹴る。「何だよ!その目は!何か文句があるのかよ!えぇ!なら言ってみろ!おら!言えよ!愚図が!」蹴る蹴る「ごめんなさい!ごめんなさい!ゆるしてくだい!」蹴る蹴る蹴る「うるせぇ!」蹴る蹴る蹴る蹴る「止めて下さい!顔に傷が出来たらお客が取れなくなっちゃいますよ~!」鼻血を出しながら懇願するエマに興が削がれたしいい加減疲れていたので「チ」最後に思い切り腹に一発ぶち込んで終わりにしてやった。「う、げぇええ」痛みに体をくの字に折ったエマが胃液と共に今日とった客の精液を吐き出す。「ち、汚ねぇな。汚したところは綺麗にしておけよ」「ふぁ、ふぁい、ロイふぁん。ふぉふぇんふぁふぁい」と言い捨てて俺は未だに吐き続けるエマを無視してリビングに戻り酒を飲み始めるのだった。

****

特にする事もないので酒を飲みながら床を拭くエマを見ていると、「そういえば知ってました?最後のアルテリアであるクラニアムがとうとう壊されちゃったらしいですよ?本当にこれから人類はどうなるんでしょうね~?」とエマが世間話のように、ただ若干媚びた口調で絶望を告げた。
「終わりだろ。アルテリアがなくなれば人類は宇宙に行く事は出来ねぇ。なら汚染された地上で滅ぶしかないさ」「そうですかね~」
エマが何か言っていたようだが聞こえなかった。全身をどうしようもない脱力感が包む。俺を支えていた最後の糸がぶつんと切れた音がする。坊主の嗤い声が聞こえる。俺達のした事はなんだったんだろう?全てを捨てた俺達は一体なんだったんだろう?坊主の嗤い声が聞こえる。結局アルテリアは一年で全て破壊されてしまった。俺の、俺達が全てを失ってまで成した事は何の意味もなかったんだろうか?坊主の嗤い声が聞こえる。結局人類は坊主の願いどおりに滅びる事になるだろう。坊主の嗤い声が聞こえる。なら全てが死んでしまうなら、人類が滅びてしまうなら俺が、俺達が生きていた事は全て無駄だったんだろうか?坊主の嗤い声が聞こえる。坊主の嗤い声が聞こえる。いやそうとは思いたくない。無駄じゃなかったと思いたい。坊主の嗤い声が聞こえる。そうだ。無駄じゃない。人類が滅びて俺が、俺達が生きていた証が何一つなくなっても俺達が生きていたって事実は消えない。俺達が泣いたり笑ったりしてって事は無かった事に出来やしない。坊主の嗤い声が聞こえる。そうだ。俺達は精一杯生きた。それだけは間違いない。だからこの結末(滅び)を受け入れよう。この結末は誰かに強制されたわけじゃない。俺が、俺達が生きてきた結果の集大成。俺達が自分で選択した未来。だから胸を張ろう。嘆きも悔いも失敗も恥じもある間違いだらけの人生に相応しいくそったれな結末だが、この結末(滅び)こそが俺達が生きた確かな証だ。だから俺はこの結末(滅び)を否定しない。むしろ胸を張って受け入れよう。
ただな、ウィンディー俺はもう疲れちまったんだ。
酒を飲み干し立ち上がりウィンディーの元へ向かう。
途中ですれ違ったエマちゃんに「今まで迷惑かけてすまなかったな。ありがとう」と別れを告げる。
「はい~、こちらこそ。ロイさん、今までご苦労様でした」と頭を下げるエマちゃんの頭を撫でてウィンディーに最期の口付けをし、ウィンディーの傍らに置いてある拳銃を手に取り銃口を咥える。
結末が見えちまったんならもう生きてる必要は無いよな?俺はもう疲れちまったんだ。楽になっていいよな?

「お前の最期の願い叶えられなくてごめんな」
最期にウィンディーに詫びて俺は引き金を引いた。
 


3月24日、
地下都市移住計画がブロック・セラノに察知される。ブロック・セラノは計画に強硬に反発し計画の即時廃棄を命じるが、アナトリアの傭兵はこれを拒否。
以降、アナトリアの傭兵率いる地下都市移住計画派とブロック・セラノ率いる地上環境改善派は徐々に対立を深めていく事になる。

6月13日、
隠密裏に最終段階まで進められていた地球緑化計画をラインアークが察知。ラインアークは直ちにトーラス本社へ阻止部隊を派兵。

6月14日
トーラス壊滅。
同時に不完全ながら強行された地球緑化計画によって、トーラスのコジマ技術の結晶たる『緑の太陽』が発生する。
緑の太陽はアナトリアの傭兵が命と引き換えに破壊したが、緑の太陽を構成していたコジマが地球全土に降り注いだ為地球環境は壊滅的な被害を受ける。
アナトリアの傭兵の死によってラインアーク内で地下都市移住計画派と地上環境改善派の対立が激化する。

8月31日、
L・Cが地下都市移住計画派に接触し、アイザックというかつて地下都市であった廃墟の存在を知らせる。
同時に地下都市の運営を人ではなく絶対中立にして絶対者にして人という種の絶対守護者である機械、管理者に委ねる統治形態を提言し、地下都市移住計画派はこれを受け入れる。
これによりアイザックの修復と管理者の創造という二つを目的に地下都市移住計画派は動く事となる。

11月15日、
ダン・モロ及びフィオナ・イェルネフェルト率いる地下都市移住計画派がクーデターを起こしブロック・セラノ及び地上環境改善派を殺害する事で権力を掌握し、地下都市移住計画の発動を宣言する。
同時に地下都市移住計画の完遂に向けて極端な統制を行い、これに逆らう者は全て処刑した。
また宣言と同時に地下都市移住計画は全人類の総力を持って行うべきと他勢力に計画の協力という名の恭順を迫り、これを拒否した勢力は全て滅ぼし物資を奪っていった。
以降、ラインアークは内外への苛烈な対応と、ネクストであるセレブリティ・アッシュの圧倒的な戦力をもって他勢力を次々と吸収し急速に勢力を伸ばしていく。

3月24日、
アライアンスがラインアークに降伏する。
戦後処理はアライアンスの10%以上に当たる19万8578名が処刑、もしくは追放処分となる苛烈なものとなった。
また、処刑対象である有澤隆文の子を逃がそうとした咎により、ダン・モロの内縁の妻でありダン・モロの子を宿していた元有沢重工の社長秘書をダン・モロが処刑した。

5月26日、
ラインアークは新政府の降伏を受け入れず、新政府を滅亡させる。
ダン・モロ主導による大量虐殺・大量略奪、通称『大掃除』が開始される。一ヶ月にも渡る大量虐殺と大量略奪の結果200万人以上の犠牲者が出た。

6月10日、
アイザックへの移住が開始される。

6月26日、
南北アメリカの全物資の略奪を終えたラインアークは、新政府残党により危険な化学兵器とアームズフォートが起動したとして南北アメリカ全土に核攻撃を行う。
これにより大掃除を逃れた南北アメリカに住む300万人以上の住民は全員死亡する。
 ※ダン・モロ及びフィオナ・イェルネフェルトが処刑を多用したのはアイザックは地上の住人全てを受け入れる事が出来ない為、予め人減らしを行い適正な数まで人を間引いておく事で後の争いを封じる狙いがあった。特に南北アメリカの住人は移住が開始されていた事もあり受け入れる余裕がまったくなかった為、地上で苦しんで死ぬよりはと安楽死の意味もこめて皆殺しにした。

7月1日、
アイザックへの全民間人の移住が終わった事を記念に行われた地上最後の式典で、ダン・モロが突然自らを告発する。
ダン・モロは突然の告発とその内容に言葉を失う聴衆の前で淡々と『以上の罪によりダン・モロの地下都市移住を取り消し地上への追放処分とします』と宣言する。

7月8日、
ダン・モロの地上追放がダン・モロの手により遂行される。
以後、ダン・モロの行方は不明となる。

7月10日、
全人類のアイザックへの移住が完了し地上への扉が封印される。
 




 
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください




 
「かくして人は機械仕掛けの神の元、次なる例外が神を討つまで平和に幸せに暮らしましたとさ、メデタシメデタシ。
 これで今回の螺旋の話はお仕舞い。次の螺旋のお話は次の私じゃない私に聞いてね。
 そうそう、アイツを助けてくれてありがとね、おじさん。おじさんに神の恵みが神の祝福があらんことを。そしておじさんが今際に見る夢が良きものでありますように」


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コメント



「良かった。笑ってる。最期はいい夢を見ながq0gth@trhさいtrひあえrはえうお@あth>




























































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































































Written by ケルクク


「九時までに契約書を持ってこいと言ったのに何を遊そんどるんじゃ~~!!」
突然の後頭部への衝撃に頭からキーボードに突っ込む。
「って~なぁ!!いきなり何すんだ爺さん!!」
「お前がこんからじゃろうが!!戸籍を作り直しとる今は婚姻手続きに時間がかかると言っとるじゃろう!!
 このままじゃ生まれるのに間に合わなくて子供が私生児になっちまうぞい!!」
「別に少しぐらいの間私生児になったって構…いや、なんでもないです。契約書は机の上ですよ~」
最後まで言い終わる前に爺さんに凄まじい勢いで睨まれたので言葉を飲み込む。たく、これだから古い人間は…。
「できとるんなら早く持ってこんかい。
 まったく、ワシが毎日早くやれと急かしたのに結局ギリギリまでやらんとは。小学生の夏休みから全く進歩しとらんじゃないか」
爺さんがブツブツ言いながら机の上の契約書をベラベラ捲りながら確認する。
「ふんふんふん。どうやらきちんと書けておるようじゃの。出来てたんならとっとと持ってこんかい。
 そういえば何をやっとたんじゃって、前書いとった自伝か。ふん、ようやく出来たのか。取材に協力してやったのが無駄にならんでよかったわい。どれどれ」
爺さんがモニターを覗き込んで完成した自伝を読み始める。
「…ってなんじゃこりゃぁあああ!!!なんでわしらがクラニアムで死んだことになっとるんじゃぁあああ!!!」
「いや、最初は事実に忠実に書いてたんだけど、最後がウィンディーと結婚式で終わりってなんかありきたりじゃん?だからちょっぴり脚色を」
「ワシらはエマを除いて全滅、嬢ちゃん死亡、お前自殺の鬱ENDのどこがちょっぴりじゃ!!
 ええか!はるか昔から物語のシメは『めでたしめでたし』と決まっておる。
 安易な悲劇を喜ぶのは悲劇を体験したこともないのに悲劇をリアリティーがあると嘯く温室育ちの世を拗ねた中二・高二病患者だけじゃ!!」
「おい馬鹿、自爆テロはやめろ。そもそも、悲劇でも名作はいっぱいあるだろ」
「そんなもんは平和な時代に読めばいいんじゃ。現実で悲劇が投げ売りされとるのに物語まで暗くしてどうすんじゃい!!
 こういう時こそ暗い気分を吹き飛ばすパーっと景気のいい話を書かんか馬鹿もん!!」
「いや、これ自伝だからノンフィクションなんだけど…」
「だったら尚更事実を書かんかぁあああああああ!!!」
「ごもっともです。はい」爺さんの剣幕に押されて何度も頷く。
「おっと、遊んどる場合じゃないわい。早くこれを出しに行かんとな。それじゃぁワシは行くがちゃんと書きなおしてやるんじゃぞ!
 完成したら孫にワシの活躍を教えてやるつもりなんじゃからな!」
言うだけ言って爺さんは去って行く。おかげで、多分成人指定になる事を伝えそびれた。

「ま、いっか。さ~て、それじゃきちんと書き直すとしようかね」




私は私を信じ縋る者でなく、己が力で絶望に抗おうとする者を愛する

一瞬の浮遊感。直後の落下感。
よく言われる死の間際に体感時間が何百倍も引き延ばされることも、走馬灯も見ることもなく、あたしは直に眼前に迫った地面に叩きつけられ
「のわぁあ!?い、いきなり何してやがる!!エマ!!」
る事はなかった。地面に叩きつけられる寸前、左右からストレイドの手が私を優しく包む。
「何するんですか~!邪魔しないで下さい!」「邪魔するわ!ボケ!!何いきなり空を飛ぼうとしてるんだよ!!人は空を飛べないって事も知らんのか、アホ!!」
乱暴な言葉とは裏腹に、あの子の声は怯えに染まり、泣きそうなくらいに震えていた。
??なんだろう?違和感?前と違う?でも、この感じ知っているような?
解らない。でも、もしかしたら、あたしの死にこれだけ怯えるなら上手くいけば皆を守れるかもしれない。うん、どうせ皆と死ぬつもりだったんだ。なら、最期にダメ元で賭けてみるのもいい。
「知ってます~!あたしは自殺しようとしたんですよ」「じ、自殺って、なんでだよ!!」「君が皆を殺すからですよぉ~。皆に死なれたら生きている意味ないですもん。なら皆と一緒に死んで天国へ行ったほうがいいです」「アホ!!自殺したら天国へはいけないだろ!だから馬鹿な真似はやめろ!!」「あ、そうでした~。なら、あなたが殺してくださ~い」
うん、後はあの子しだいだ。といっても、多分ダメだと思うけど。十中八九、『わかったよ。しょうがねぇなぁ』だろう。でも、もしかしたら、あれだけあたしが死ぬ事を恐れているなら思いとどまってくれるかもしれない。
…奇跡のような確立だけど。
流石に緊張して呼吸が荒くなっていたので深呼吸する。あれ?呼吸は深呼吸でも収まらずドンドン荒くなり、それに呼応して心臓も凄まじい勢いで鼓動を刻む。汗が滝のように流れる。吐き気がする。視界が回る。
あれれ?なんでこんなに緊張してるの?さっき死の寸前でもあたしの心は普段と同じだったのに。なのに、なんであたしはこんなに、こんなに。
確かに成功率は奇跡のような確立で、失敗したらあたしも死ぬ。でも、元々皆と一緒に死ぬつもりだった。皆を失うのは心のどこかで覚悟していた。諦めていた。なのに、なんで。
「あ、そっか、よく考えたらあたし、皆を、大切な人を守れるかもしれないのって今回が初めてなんだ」
気付いた瞬間、涙が溢れた。ダメだ、立っていられない。そのまま膝を突き、声を上げて泣きじゃくる。こんなに泣いたのはいつ以来だろう?親しい人が死んでも何も思わなくなってからどれくらい経ったろう?
皆が助かるのは奇跡のような確率だ。でも、今まではそんな奇跡も夢見る事が出来ないくらいにどん詰まりだった。だから、あたしはせめて絶望の中でも心安らかにいられるようにと皆を助け(殺し)て、救っ(堕とし)てきた。
それがあたし自身の望みだと信じて。でも違った。あたしの本当の望みは、願いは、助ける(殺す)事でも、救う(堕とす)事でもない。
あたしは本当は皆を助けた(に生きて欲し)かったんだ。
だから、願いが始めて叶うかもしれない今が、願いを叶えるチャンスがある今が、こんなにも嬉しくって、こんなにも恐いんだ。
きっとこれが咎人であるあたしにとって願いを叶える最初の最後のチャンスだから。目の前にあるのは咎人であるあたしに許されたたった一本の蜘蛛の糸。
なら、あたしはこの想いと、このチャンスと心中しよう。奇跡はきっと起こらない。祈りは踏みにじられる。そんな事は今まで生きてきて知っている。だから、蜘蛛の糸は途中で切れてあたしは地獄に戻る。
それでもあたしは、自分からは蜘蛛の糸を離さない。蜘蛛の糸が切れるまで、ううん、糸が切れてもあたしはずっと糸を持ち続けよう。そうすればきっと、糸が切れて地獄に戻っても、二度とチャンスが訪れないと知っていても、死ぬまで迷わず二度とこないチャンスがいつか巡ってくる事を信じて、願いを叶える為に足掻き続ける事が出来るだろう。
だからまずは目の前の糸に掴り、少しでも上ろう。溢れる涙を裾で拭い、目の前のストレイドに呼びかける。
「いきなり、ごめんなさい。でも、もう大丈夫です。それで、返事は?」「え?でも、いいのか?本当に大丈夫なのか?」「はい。だから、お返事を教えてくださ~い」「あぁ、えと、その、やだよ。なんで俺がアホエマごときをワザワザ殺さなくちゃいけないんだよ」
その精一杯の虚勢を張った返事を聞いた瞬間、あたしは賭けに勝ったことを悟った。後は癇癪を起こして輸送機を撃たれないようにあたしの命で輸送機を守ればいい。
「む~、けちですね~。いいですよ~。自殺するから~」同時にトレーにのっていたフォークを掴み自分の首に向かって思いっきり刺
「だから!やめろってんだろ!!自殺したら天国にいけないんだってば!!」す事はできなかった。期待通りストレイドが器用にも小指の先でフォークを弾き飛ばす。
「残念でした~。地獄で罪を償えばいけます~。よく考えたら一杯罪を犯した私は地獄行きなので~、ついでに自殺の罪も償いますよ~。
 それじゃぁ、早く罪を償って皆に合いたいのでそろそろ死にますね~。ふふふ、今度は舌を噛むから邪魔をできませんよ~」
「だぁああ!!だから待てって!!死んでも神の所にいけないかもしれないだろ!!輸送機を撃つのは待ってやるからちょっと、待て!!」
あの子の怒鳴り声を聞いた瞬間にあたしは理解した。
そうか、あの子夢から覚めかけ(神の存在を疑っ)ているんだ。
見覚えがあるはずだよ。あたしが助け(殺し)た、救っ(堕落させ)た家族の皆と同じなんだもん。夢を見続けたまま死ねた子は極僅か。殆どの子は夢から覚めて自分が救われない事を悟って絶望して死ぬか壊れた。
あぁ、そうか。あの子も同じなんだね。もう殆ど夢から覚めているのに、起き(壊れ)たくないから必死に(狂気)の欠片にしがみ付いているんだね。
「あ、」あの子に声をかけようとして思いとどまる。
あたしは何も言えない。
夢から覚(神を信じる事を止)めたあたしが(信仰)を肯定するなんて出来ないし、かといってあの子と同じ夢を見(場所で暮らし)たあたしが(思い出)を否定する事もできやしない。
だからあたしに出来るのは、あの子がどんな形で最期を迎えるとしてもそれが心安らかなものでありますようにと祈る事だけだ。
あの人に教わった祈りの姿勢で祈る。

でも、閉じた瞳に映ったのは、姿も知らない神ではなく、あの人とロイさんだった。

****

しばらく一心に祈っていると、「久しぶり。変わってないな」と声がかけられたので目を開ける。
目の前にいたのはあの子以上に嫌な思い出しかないので出来れば会いたくなかった人だった。
とはいえ、いつまでも黙っていてもしょうがないので、溜息を飲み込み、普段より2割程強めでキャラを作って声をかける。
「お久しぶりですぅ~リーダー」
「あぁ、互いに運悪くしぶとく生き残っちまったな。他の連中は?」
前と同じく周囲を警戒しながら微笑むリーダーの眼と表情を見て、リーダーがあたしと同じ夢から覚め(信仰を捨て)ている事が解った。
ううん、ひょっとしたら、誰よりも小賢しくて、誰よりも悲観的で、誰よりも現実主義者だったリーダーは最初から夢を見(あの人を信じ)ていなかったのかもしれない。
壊れていない同類とは始めて会うので親愛の情を表すためにキャラを少しだけ薄くする。
多分、リーダーは気付かないだろうからただの自己満足だけど。
「皆死んでしまいました~。そちらはどうですかぁ~?」
「同じだよ。俺と一緒に出た奴等はみんなくたばっちまった。あぁ、でも、レーヴェとラディウスとケーナは生きてるぜ。
 レーヴェはちと壊れちまってるが、ラディウスとケーナは一緒になってガキまでこさえてGA領の端でジャンク屋やってるよ。
 この前見てきた時は、思わず目を背けたくぐらいに、眩しい普通のありふれた幸せな家庭だったな」
「羨ましい」「あぁ。幸せそうで何よりだぜ」
その言葉を聞いた瞬間、あたしはリーダーとあたしが決定的に違う事を理解した。
あたしは、幸せになりたい。救われたい。
だから、幸せになるために(勘違いとはいえ)自分の望みを叶えてきたし、救われた時に罪の意識で悩まされたくないから罪を償ってきたし、あたしを救って幸せにしてくれるであろう輸送機の皆を助けるために頑張っている。
だから、あたしはラディウスとケーナが結婚して幸せに暮らしていると聞いた時、あたしが望んでも手に入らない救いを手に入れたと聞いた時、羨ましいと思ってしまった。
あたしが欲しくても手に入らない救いを手に入れた2人に嫉妬して祝うより先に呪ってしまった。
でも、リーダーは違う。リーダーは2人を心から祝福している。
だからきっと、リーダーは幸せにならなくていいんだろうし、救われなくていいんだろう。だから、欲しくないから、2人を素直に祝えた。
あたしとリーダーは確かに同じ。2人とも夢から覚めても壊れずにいられた。
でも、それから後、起きてから歩き出した方向はまったくの逆方向だったんだ。
そうして歩き続けた結果、あたし達はもう相手の姿が霞んで見えなくなってしまうほど離れてしまった。
その事に気付いたのだろう。リーダーは苦笑し、溜息を吐くと肩をすくめた。
「ち、折角仲間を見つけたと思ったのにな」「ごめんなさい」
謝る必要は無いけど凄くがっかりしたようだったので頭を下げる。
「別にお前のせいじゃないさ。仲間じゃないなら聞きたい事は一つだけだ。お前、かつてと今の仲間、どっちが大事だ?」
真っ直ぐにあたしの目を見つめてくるリーダー。
多分この答え方次第でリーダーがあたしの味方をしてくれるかどうか決まる。
…でも、どんな答えを出せばリーダーが気に入るかは解らない。
暫く考えて、結局あたしの頭じゃ考えるだけ無駄だと悟ったあたしは正直に答えることにした。
「どちらも同じくらい大事な家族です。でも、どちらかを一つに決めろというのなら今の方が大事ですね」
「なんでだ?」
「昔の家族はもう守れませんから。壊れ朽ちて無くなってもう思い出にしか残ってません。そしてあの場を捨てて逃げたあたしには思い出として持ち続ける事しか許されません。だから、あたしが昔の家族の為に出来る事は死ぬまで覚えている事だけです。
 でも、今の家族は違う。まだ、皆生きています。だから逃げなければあたしの手で守れるかもしれません。あたしにもやれる事があります。
 だから、どちらも同じくらい大事です。でもどちらかを取れと言うなら今の家族を取ります」
ここまで喋って、あたしは想いを正直に紡ぐ事に必死で素でしゃべっている事に気付いたので、慌てて取り繕う。
「…まぁ、昔の家族を見捨てて逃げた裏切り者の私のせめてもの罪滅ぼしですよ~」
「成る程ね。前会った時は随分禍ったんだと思ってたが、成る程成る程、禍りすぎて逆に気持ち悪いくらい真っ直ぐになってるじゃないか。
 こら一瞬でも仲間かもなんて思ったのは失礼だったな」
「えへへ~、褒めても何もでませんよぅ。それに曲がった私を拾って、禍っていても受け入れて正しい方向に一緒に歩いてくれた皆のおかげですよ~」
「禍りを正さずあるがままに受け入れて、誰か導くんじゃなくて皆で一緒に歩くか。お前が看取るんじゃなく一緒に死のうとしたのがなんとなくわかった気がするぜ。理解はできねぇけどな。
 誤解の侘びとかつての仲間の更生祝いにに無償で協力してやるよ。ホントは久しぶりに一発っと思ってたんだけどな」
そう言うと、リーダは振り返りネクストに向かって声を張り上げた。
「聞いてたでしょう、ボス?アソコにいるのはエマの新しい家族だそうです。
 なら、エマと家族である俺やボスにとっても、家族は言い過ぎかもしれないけど、仲間ってわけっす。
 だったら、見逃してやりましょうぜ?殺すのは家族と仲間以外なわけですしね。
 情報封鎖は通信機をぶっ壊せば十分でしょう。それとも、エマもあいつらと一緒に犯して、嬲り殺しますか?」
「い、嫌。それはいいよ。み、見逃してやろうぜ!え~と、ババァもそれでいいよな?」
『お前の望みが私の望みだ。好きにするといい』「サンキュ、ババァ!」
ストレイドから二種類の声が発せられる。
あれ?もしかしてあたしは皆を守れた?え?嘘、こんな簡単に?え?え?え?
「ネリス様もそれで平気っすか?」
『ここは元から坊やの仕切りだろう。坊やの好きにしするがいいさね。
 ただ、捕虜にするんならともかくここに放置していくんなら通信装置はアンタの責任でしっかりと破壊するんだよ』
「了解しやした。我が侭を聞いてもらってアザース!」
リーダーがネクストに頭を下げるとあたしへと振り返る。
そして激変した状況に未だ実感がわかず頭もついていかずアワアワと戸惑っているあたしに問いかける。
「それでどうすんだ?ここで放置か?それとも取り合えず俺達の捕虜って事で合流するか?
 作戦終了後になるが適当な街に降ろしてやんぜ?」
「え、え、え~と、そ、その、わ、私にきかれても~。あ、あの~、蘭さん達に相談してもいいですか~?」
「ち、あいかわらずドン臭いな。それじゃぁ、輸送機まで連れてってやるから来いよ」
リーダーは舌打ちを一つすると未だに戸惑うあたしの手を引いて、ストレイドの隣にあるノーマルへと向かうのだった。


足掻いても奇跡が起きるとは限らない。足掻かないと奇跡は起こらない。そして私は奇跡を起こせない。奇跡を起こせるのは貴方達だけだ。

こちらに接近するノーマルにのったエマから通信で経緯と聞いた時は、死なずにすんだ大きな安堵と少さな悔しさに襲われた。
悔しさはロイさんに留守を任せられたのに結局何も出来ず、しかもあのエマに助けてもらった事だろう。
ああ、嫌だな。僕、家族を見下してる上に見苦しい嫉妬までしてる。かっこ悪い。
頭を振る。自己嫌悪は後だ。今はエマが作ってくれたチャンスを最大限に生かさないと。
「んで、どうすんだ?捕虜か?それとも放置どっちがいい?」
「放置でお願いします」ノーマルからの通信に即答する。これは考えるまでも無い。
「OKだ。んじゃ、通信機の類は全部破壊させてもらうぜ。機内の調査と簡単な身体検査をさせてもらうから適当な広い気密部屋に全員あつめな。
 あ、女は全員素っ裸な。野郎は、下着つけてかまわねぇ」
「あの~、リ~ダ~、その、私にはいくらしてもいいですけど~、出来れば皆に乱暴は「解りました。ありがとう、エマ。大丈夫」
おずおずと申し出てきたエマの言葉を遮る。相手が絶対的な優位な以上、できる限り相手の機嫌を損ねるような真似をしたくない。
「い~い心がけだ。安心しろよ、エマの身内ならそんなにヒデェ事はしないからよ。んじゃ、こっちの準備が整う10分以内に準備しとけよ」
ノーマルからの通信が切れた事を確認して振り返る。
「ニーニャとメーヴェは放送をお願い!!ジーニー!ロイさんへの通信は?それと自力で飛行可能まで修理できる?ブギーは医療班に設備が無事か聞いて!それと薬は隠すように伝えて!」
「了解!」「はいはい」「残念じゃが機首と主艦橋が壊れたから長距離通信は無理じゃな。自力飛行可能に修理する事も無理じゃ。機首はともかく主翼がいっておるから手持ちの資材じゃ足りん。どうする?放置されてもどうにもならんぞ?」「…ありがと。大丈夫。何とかするよ」
「施設も薬も無事だそうですぞ。薬はリンクス用を優先して隠すように伝えておきましたがそれでよろしいか?それと、そろそろ脱いで我々も向かった方がよろしいのでは?」「うん、それでいい。ブギー、僕に何かあったら後の事はお願いね?」
「…心得ました」「はぁ?ちょっと、蘭それってどうい「それじゃいくよ!!」「ちょっと!?蘭、答えなさって、きゃぁ!?ブギーなにすんのよ!!」「いえ、ニーニャちゃんが一人では脱げなさそうなので手伝いを」「余計なお世話よ、このデブ!!って、あ!?蘭、待ちなさい!!」
ブギーがニーニャを足止めしている間に服を脱ぎながら格納庫に向かう。
ありがとう、ブギー。ごめん、ニーニャ。さっきまではエマが命を賭けた。だから、今度は僕の番なんだ。

****

「お~、いい女ばっかじゃん。こいつは楽しめそうだ。おい、取り合えず何人かで通信機の類があるか調べて来い。もし、この部屋以外で人を見かけたら好きにしていいぜ」
エマと一緒にノーマルから降りた男が指示を出すと同時に、ノーマルの後ろの装甲車から出てきた男達が機内へと消えていく。
「さてと、それじゃぁ、身体検査でもしようかね」
「男は私がしていい?」
最後に装甲車から降りてきた女の人が男に声をかける。
何故かメイド服を着ているその女の人は全身を、それこそスキンにした頭や顔面もすべてびっしりと蜘蛛のペイントかタトゥーをしていた。
「ボスは?」
「疲れたから寝るそうです。後は私達に任せると。
 それと、他は好きにしていいがエマにあまり酷い事するなと」
「了解。たく、相変わらず身内には甘いね~。
 さ~て、ボスの許可も得たことだし身体検査といこうか。ケケケ、イイ女ばかりでどこから手を…」
「ボス、俺達にも」「ああ~ん?てめ~らはさっきまで楽しんでたじゃねぇいか。俺はその間指揮車でお預けくらってたんだから譲れ。まぁ、少しは残してあげるからおこぼれぐらいは期待していいぜ。
 さ~て、最初は誰で遊ぼうかな」
ノーマルから降りた男が後ろに控えた男達を下がらせると玩具を選ぶような眼で僕達を見まわす。メーヴェがさりげなく僕の前に出る。盾になろうとしてくれてるんだね。ありがとう。
「ふふふ、なら同じように指揮車にいた私にも優先権があるわね。さて、誰から壊そうかしら」
蜘蛛女がスカートから出した直径5cm、全長1Mほどの巨大な針をしならせながら満面の笑みを浮かべて獲物を物色する。
「あのですね~、お二人が遊ぶのは仕方ありませんが~、最初の獲物には私を選んでいただきたく~」
エマが私達を守るように二人の前に出る。
反射的に止めようと前に出ようとした僕の手をメーヴェがさりげなく握る。うん、そうだね。今僕らを守るのに一番適してるのはエマだね。
ごめん、エマ。頼んだよ。エマに謝ると同時にこれからエマがどんな目にあっても冷静でいられるように覚悟と決意を固める。
「いいわよ。私とのゲームに勝ったら貴女から壊してあげる。ふふ、上を脱ぎなさい」「は~い」エマがこくりと頷くとスルスルと服を脱いで上半身裸になる。
「ちょっとエマ、落ち着きなさい!アンタ自分が何を言ってるか解ってるの!!」「安心してくださ~い。皆さんは私が守りますから~」「答えになってな?ちょ!?ブギー放しなさい!!」「申し訳ない。裸のニーニャ殿をペロペロする欲求を抑え切れなくなってしまいました。二次専失格ですな」「この、後でいくらでも好きにさせてあげるから放しなさいよ!今はエマを止めないと!!」「断ります。あぁ、ニーニャちゃんペロペロ~」「んにゃぁあああああ!!」
「お騒がせしてすいませ~ん。準備完了ですよ~」「ふふ、気にしないでいいわ。最後まで残しておく子も決められたし。それじゃ、ゲームを始めましょうか」蜘蛛女が笑うと真っ直ぐに手を伸ばしエマの豊かな左胸に手に持った針を突きつけた。
「さ、エマ、私にキスしにいらっしゃい。ただし、」「わかってますよ~。真っ直ぐこいって言うんでしょう?それじゃ、いきますよ」
エマがあっさりと前に一歩踏み出す。当然針はエマの豊かな胸に突き刺さるがエマは全く顔をしかめる事無く二歩目を踏み出そうとして「あれ?」動きが止まった。
「あれ?あれ?えいえい」エマが何度か体を揺らす。その度に傷口は抉られ血が溢れ、半分はエマの豊かな胸を伝いズボンを赤く染め、半分は針を伝い途中で垂れて床に赤い線を描く。
「あの~、肋骨に引っ掛かってしまったようなので針を掴んでずらしてもいいですか~?」「…ええ。好きになさい」
「ありがと~ございます~。えい!」エマが針を両手で掴んで下にずらしながら一歩踏み出す。
「ようやく進めました~。どんどん行きますよ~」エマが口から血を吐きながらいつもの調子で笑い、さらにもう一歩踏み出す。
背中の中心のやや左下を突き破り真っ赤に染まった針が飛び出す。背中に開いた穴から血が垂れる。
「エマ!!もういい!もういいから!!止めなさい!これいじょうやったらアンタ…」「大丈夫ですよ~」エマが首を回してブギーに抑え込まれるニーニャに笑いかけ、更に一歩踏み出す。
「ほらね~。全然へ!?」突然血を吐きながら咳きこむエマ。
「エマ!!!」ニーニャがブギーを突き飛ばしエマの元に駆け寄ろうとしたので足を出して転ばせる。
「きゃ!!」「よいしょっと」転んだエマの背中にメーヴェが座る。
「ちょっとどきなさいよ!!このままじゃ、エマが!エマが!!」メーヴェの下でジタバタと足掻くニーニャ。
いい加減にしてほしい。今僕達がエマの元に駆け寄って何ができるっていうんだ。僕達が代わって嬲り殺しにされても相手からみれば玩具が一つ壊れたぐらいの意味しかない。ここで傷つく事に意味があるのは彼等の仲間であるエマだけなんだ。彼等が仲間を傷つける事を躊躇い止める事だけが僕達が生き残る道だ。
そして、その可能性は低くない。セカンドがエマを名指しで助けようとしたこと。殺してと言ったエマを殺せなかった事。そして極めつけはさっきのボスがエマに酷い事をするなという念押し。
だから少なくともセカンドはエマを傷つけたくないと思ってる。なら彼をボスと仰ぐ彼等もボスの不興を買う事を恐れてエマを殺せないかもしれない。
もしそうなら、エマが命をかけて僕達を守る覚悟を見せれば、僕達を傷つける事がエマを殺す事になると思わせる事ができたら僕達は助かる。
エマはそう理解しているから今命を賭けてくれているんだ。だとしたら僕達のやることはエマの邪魔をしない事。負担をかけないことだけだ。
間違っても感情のままに動いてエマに余計な負担を掛ける事じゃない。
…正しいのは僕だ。でもきっと、人としてはニーニャのほうが正しい。どんなに理屈的に正しくても、どんな理由があっても目の前で家族が死にかけてるのに助けに行こうとせず傍観する僕はきっと冷たい人間なんだ。そうじゃなきゃ、エマが死んだ場合の対処方法を考えるなんて事が出来るはずがないよ。
視界が涙で曇る。馬鹿!泣いてる暇があったら考えろ僕!エマはこうしてる間にも闘ってるんだぞ!
溢れる涙を乱暴に拭ってエマを見直す。
エマは僕が無様に泣いている間に見事歩ききって、蜘蛛女にキスをしていた。
「これでいいですか?」「ええ。それじゃぁ、約束通り貴女から壊してあげるわ、エマ」
血の気が失せて真っ青な顔のままいつもの笑みを浮かべるエマに、唇についたエマの血を指で拭いながら蜘蛛女が微笑む。
「そうね、まずは「は~い。しょうりょ~。ゲ~ムクリア~おめっとさ~ん」
何か言いかけた蜘蛛女を遮り男がいい加減な拍手をしながらエマと蜘蛛女の間に割って入る。
「ちょっと、王焔邪魔を「却下。これ以上やったらエマが死んじまうだろ。そんな事になったらボスに二人纏めて食われちまう」
食ってかかる蜘蛛女に肩を竦めながら男が告げる。
「はい。つーわけでてっしゅ~。おい、調べに行った奴らを呼び戻せ。後は監視に何人か残して撤収って、お前らを残したら何の意味もないな。しゃーない。適当に縛って転がしとけ」
適当に、しかし有無を言わさず口調で撤退指示を出す男。部下が不満を顔に出してはいるものの逆らわないあたり、部下から敬意か恐怖をえているみたいだ。
「王焔!」「まだいたのか。お前もとっととけーれよ、レーヴェ」「ふざけないで!私はまだ納得「ちょっと、うるさいぞ、レーヴェ」
男が蜘蛛女の眉間に銃を突き付ける。
「勘違いするなよ。お前はボスと俺の古い知り合いってだけの理由で飼われてる玩具で俺とは対等でも何でもないんだ。あんまり跳ねるようなら棄てるぞ?」
「……」「返事は?」「わかりました、ご主人さま。調子に乗ってしまい申し訳ありません」
土下座して恭しく男の靴に口づけし舐め始める蜘蛛女に男が舌打ちをして後頭部を踏みつける。
「嫌味な奴だな。そこまでしろとは言ってないのに。まぁ、丁度いいか。おい、エマ」「は、はい!なんですか~?」「ほらよ」男がエマに向かって拳銃を放る。
「レーヴェを撃て。レーヴェはお前を一度殺そうとしたからな。お前もレーヴェを殺す権利がある」
「わかりました~。一思いに射殺するより嬲り殺しにされた私のほうが苦しんだのは貸しにしておきますね~」
「ちょっと!?待って!やめて!冗談でしょう!!」「暴れんな。足が乗せにくいだろうが」逃れようとジタバタしだす蜘蛛女を男がしっかりと踏みつける。
「や、やめて!!嫌!!わ、私は死にたくない!!」「おいおい、このくそったれな人生から解放される生涯一度しか体験できない貴重なイベントだぞ?楽しめよ」「いや!いやよ!!私はまだ全然楽しんでない!私はもっと楽しみたい!こんなんじゃ死ねない!!死にたくない!!だから助けて!助けてくれるなら何でもする!!」「往生際が悪いな。安心しろ。あの程度の口径ならよほど当たり所が悪きゃなきゃしなぇよ。神にでも祈るんだな」「神なんているわけないでしょ!!」
「神はいますよ」胸を針で貫通されたエマがいつもの微笑みをうかべながら蜘蛛女の背に拳銃を押し付ける。
「助けて~!!」「止めなさい、エマ!!」「止めんか馬鹿もん!!」「ダメ!!」思わず制止の声を上げる。声を上げたのは僕だけでなくホームの皆が制止の声をあげていた。
「人間ならば誰でも持つ良心という精神に住まう神ですけどね」エマは口々に制止の声をだす僕達を複雑な表情で見ると溜息を吐いて拳銃を天井に向けて発射した。
「いいのか?チャンスがありゃコイツはお前やお前の家族を的にかけるぜ?」「はい。無意識、あるいは意識的に死を望みながら自らで死を選ぶ事ができない弱い人に死という救いを与えるのが私の望み(あたしが科したあたしへの罰)ですが、勘違いと解ってしまいましたからね~。それに今の家族は昔と同じで正しくても悪い事をすると怒られてしまいますし」
「そうかい。んじゃ俺達は帰るぜ。あぁ、一応わかってると思うが針は迂闊に抜くんじゃねぇぞ。抜くと十分も経たないで出血多量でお陀仏だ。逆に抜かなきゃ止血さえしとけば半日はもつだろ…って今から縛られるんじゃ止血できないじゃねぇか。しゃーねーな」
男が助かった安堵で蹲り震える蜘蛛女の背に腰かけると懐から取り出した医療パックを破りエマの止血と簡単な手当てを始める。
「お~、いい揉み心地だ。あ~あ、結局これだけの上物を前にして何もできなかったからなぁ。あ~、もったいね」
「…よろしければお相手しましょうか~?」「残念だが俺は血を見ると気が遠くなるし、近親相姦の趣味もないから無理だな」「ダウト」
「引っ掛からねぇか」男が舌打ちし、「はい~。流石に私でもわかります~」エマが僕達の前でもめったに見せない自然な笑みを浮かべる。
場に流れる弛緩した雰囲気。
皆も命が助かった事を察したのか緊張こそしているものの、死を前にした悲壮感は消えていた。
ただし、整備班を代表に今僕達が置かれている状況を理解している者達の顔は暗い。
そう。確かにエマの頑張りによって僕達の当面の命の危機は去った。
でも、自力での修理が不可能なまでに輸送機を破壊され外部との通信手段もない僕達はこのまま放置されれば死ぬしかない。
ロイさん達が帰ってくればネクストにラインアークや、最悪インテリオルに助けを呼びにいってもらうのもありだが、ロイさん達が無事に帰ってくる保証はない。
僕はロイさんの勝ちを信じてるけど、純粋に戦力だけで判断すれば勝率は3割以下だし、直ぐに通信可能圏内まで移動できるほど損傷が少ない可能性は零に等しいだろう。
むしろ勝つにしろ負けるにしろ、直ぐに緊急の治療が必要な重傷を負って帰ってくる可能性のほうが遙かに高い。
だから、僕は何とか自力で家族の皆を帰す方法を得なくてはいけない。
…そう、どんな犠牲を払っても。例え、僕が2度と皆に会えなくなったとしても、僕は皆を、帰す。

****

エマの手当てが殆ど終わったのを確認した後、少しだけ振り返り守るべき皆の顔を確認し、最後に深呼吸を一つして覚悟を完了する。
「少しいいですか?取引をしたいのですが」
緊張に僅かに掠れたぐらいで後はいつもの自分の声であった事に心の中で安堵の息を吐く。
「取引?」男がエマの治療を続けながら顔をこちらに向けてくる。
よかった。話を聞いてくれるみたいだ。
「はい。僕達を助けてくれることは非常にありがたいのですけど、輸送機が壊された今のままでは僕達はどこにもいけません。ですから、輸送機を飛ばせるよう修理できる部品を売ってほしいんです。
 勿論、そちらの言い値でかまいませんし、貴方達が離脱するまで僕達の行動を制限してもらって構いません」
「移動手段がねーなら、適当な町まで連れてってやるっていってんだろ」
「ありがとうございます」男の気を損ねないように頭を下げる。
「でもごめんなさい。僕は、ううん、僕達はロイさんとウィンディーさんが生きて帰ってくると信じています。だからここで待ちます」
「ふ~ん」男が立ち上がり僕の前まで歩いてくる。
「その二人が帰ってくるって事は俺らのボスが帰ってこないって事だが、それを解っていってるんだよな?」
男が冷たい目で僕を見下ろす。体が竦む。一瞬取り繕うかと考えたが、どう取り繕っても本心は隠せないので開き直る事にした。
後の取引を考えればある程度の僕に対する敵意を集めるのは悪くないしね。
何をされても即死だけは防げるように僅かに重心を落とし相手の腕を見ながら覚悟を決めて口を開く。
「はい。僕は、ロイさん達が必ず生きて帰ってくると信じてます。勿論、無傷で帰ってこれるとは思ってません。だから直ぐに治療できるようにここで待って、一刻も早くきちんとした場所で治療できるように移動手段が欲しいんです」
「ふーん」十分に警戒していた筈なのに、気がついたら地面に倒れていた。
次いで、左足から発せられた激痛に悲鳴を上げながらのたうちまわる。見ると脛の真ん中が可笑しな方向に曲がっていてついでに骨まで飛び出していた。
「手に意識がいき過ぎだ。足が無警戒だぜ?」「リーダー!!」「どけよ」僕と男の間に割って入たエマを、男の人が押しのけて折れた僕の足を踏みにじる。
激化した痛みに悲鳴すら上げれずにのたうちまわ…る事さえできない。反射的に足を引き抜こうとしたせいで踏まれた左足に力が入り痛みが更に倍加する。
涙で歪んだ視界が急速に白く染まっていく。駄目!!ここで意識を失うわけには!!薄れゆく意識を必死に止めようとするがどうしようもなく、遠く、遠く、遠く、とおくとおくなって、
「おいおいおい。何か言いたい事があるんじゃねぇのかよ?」男の声と共にやってきたお腹の強力な違和感と異物感が僕の意識を繋ぎ止めた。
あ、危なかった。もう少しで気絶するところだったよ。
目を覚ますといつの間にか床に胡坐をかいて座った男が僕を組んだ足の上に載せ、右手で胸を揉み左手の中指を僕のお臍に突き入れてかき回していた。
男にかき回されるたびに臍から血が溢れ鈍痛が襲ってくる。
「そ、その~、リ~ダ~、相手なら私がするのでその~、蘭さんは~」「俺はそれでもいいんだが、ど~するよ?」
男が僕を眺めて嗤う。あぁ、そっか。こいつ僕の考えを全部解った上で、僕を嬲ろうとしてるのか。
取引成功の可能性が低く、それこそ0に等しくなった事を理解する。
それがどうした。勝ち目のある戦いだけがしたいんだったら傭兵なんてやってない。僕が今まで何回圧倒的に不利な状況をひっくり返したと思ってる。0に近いだけで0じゃないんだ。なら僕は掴み取ってみせる。
「ありがとうエマ。でも、大丈夫よ。僕はこの人と話す事があるから、先に手当てをしてもらってて」
「で、でも~」「そういうこった。引いてろよ、エマ。さて、無礼な口はお前のガッツに応じて許してやるとして、確か取引したいんだったな?取引にゃ代金がいるが持ってるのかよ?言っとくが電子マネーや企業の発行してる企業貨幣は駄目だぜ?俺ら犯罪者だからな」
よし!やった。相手が取引の土俵に乗ってきた。これならなんとか!?
「ただし、タイムリミットはお前が意識を失うまでだ。急いだほうがいいぜ?」
男が嗤いながら何時の間にか右手に持っていたナイフを閃かせると僕の左乳首を切り取り、切り取った乳首を口に入れ「ん~、てぃすてぃ~」口に入れクチャクチャと噛む。
「……っっっ!!…わ、わかりました。ありがとうございます」反射的に悲鳴を上げそうになるのを抑えつけ、礼をいう。
望むところだ。取引を成立するまで死んでも意識を失ってやるもんか!!
「予備のネクストのパーツでどうでしょうか?インテリオル最新型のラトーナ1揃えと武器の予備。どう少なく見積もってもこの輸送機の2機分は「たりねぇな。転用できる武器はともかく、乗り手の限られるネクストってあんまし需要ないんだよな」
僕の女を臍から引き抜いた血まみれの左手で適当にかき回し、右手で左胸を強く揉んで乳首のあった場所から血を噴き出させながら男が嗤う。
「では、100万コーム相当の貴金属では「前よりましになったがまだ足りねぇ。今までなら悪くないが、これから始まる大乱世じゃ宝石なんざただの光る石ころだぜ?」
「で、どうする?」と男が手を止めて僕の顔を覗き見る。その嗤顔がここが引き返す最後のチャンスだぜ?と雄弁に語っていた。
…なんて、嫌な奴。こちらの事情と僕の覚悟を見透かした上で聞いているんだから性格が悪いなんてもんじゃない。
腹が立ったので直接いかず、反撃兼保険を掛ける事にする。
「では、1000人程度の集団が半年程度維持できるだけの物資ではどうでしょう?武装はネクストのものが中心ですが、ノーマルのものもそれなりにあります」
「…へぇ。それなら文句はないな。だが、どこにあるんだよ?ここにあるようには見えねえぞ?」一瞬怪訝な顔をした男だが直ぐに僕が何を企んでるのか理解してノってくる。
…ホントに嫌な奴。こっちがどんなに考えても直ぐに先読みして理解してそれでも知らない振りするなんて余計に腹が立つよ。……って、僕も時々やってるや。きっと僕もこんなふうに皆に嫌われてるんだろうな~。
「詳しい場所は言えませんがここからだいたい直線距離にして500KMのとある場所に隠してあります。取引に応じてくれるなら僕が案内します。ただし、」
「案内するのは取引が終わった後ね。まぁ、こっちも作戦があるから直ぐに拾いにはいけないからちょうどいいちゃぁ、いいが。
 だが万が一ガセだったらお前、楽に死ねないぜ?」
男が嗤いながら僕の首筋に無針注射器を打ち込み、左胸にナイフを水平に突き刺していく。
不思議な事に、最初はナイフが刺される度に意識がトぶくらい痛かったのに直ぐに痛みはなくなり、代わりに意識が蕩ける位の甘い疼きが体を襲う。
なんだこれ。自分で慰める時なんて目じゃない、ロイさんに優しくして貰う時くらい気持ちいい、ぶっちゃけ凄く感じちゃう。
反射的に漏れそうになる甘い声を抑える。これが今打たれた薬のせいだというのは解る。それでも、息が荒くなるのも無意識に太ももを擦りつけるのも顔が熱くなるのも止められない。
気持ちいい。気がつくと蹴り砕かれて折れた脚や貫かれて内臓を傷つけられたお臍も泣きそうなくらいな快感を僕の脳に叩き込んでくる。
男がニヤニヤと嗤いながら僕を見ている。自由に動く右足で蹴り砕かれた左足を蹴りたい。自由に動く左手で左胸に刺さったナイフを無茶苦茶に動かして左胸をグチャグチャにしたい。
そうしたらきっとすごく気持ちいいんだろうな。唾を飲み込む。我慢しきれなくなって自分の女に右手を突っ込んで乱暴にかき回す。凄く濡れてる。気持ちいい。気持ちいいけど、全然足りない。さっき胸を貫かれた時に感じたのに比べると次元が違う。こんなんじゃ全然満足できない。もっと、もっと、気持ち良くなりたい。ごめん、ロイさん。僕もう。
ふざけるな!!
右手で女の核を思い切り抓りあげる。
「!?!!!!????」今までの比ではない快感に襲われる。ハンマーで頭を殴られたように一気に意識が真っ白になり、強制的に絶頂を迎える。
今までに体験した事のない暴力的な快感に耐えるため体を背骨が軋んで折れる寸前まで反らす。その拍子に砕かれた左足がさらに捻じれ、左胸が振るえて何本も突き刺さったナイフが深く突き刺さり更なる快感を生み僕を更なる果てへと強制的に連れて行く。
噴き出した潮が未だ女の核を抓り上げる右手に当たり、濡れたせいで滑って抓る事に失敗したせいでようやく快楽地獄から解放された僕は脱力し、反った体を戻す。
勢いよく落ちたせいで背中がバウンドしその度に胸に突き刺さったナイフが動き甘く鈍い快感を生み体をビクビクと痙攣させる。そうやって快感に翻弄されながらも必死にマラソンを完走した後のように荒い息を吐いて呼吸を整える。体が弛緩しきっているせいで小さいほうだけでなく大きいほうまで漏らしているのがわかるがどうしようもない。
にしても凄かった。今まで生きてきた中で文句なしで二番目だ。
ちなみに一番は酔った勢いでスティレットさん・エイさん・ウィンさんをオバサン呼ばわりしたら、拘束されて半日にわたって三人に代わる代わる責められイく寸前で寸止めされるという拷問を何百回と繰り返されて、最後にロイさんまで加わって四人がかりで一気にイかされた時だ。
あの時は余りの快感に心停止しちゃって大騒ぎになったんだよね。
って、昔の思い出に浸ってる場合じゃないや。一度イって少しだけ冷静に戻った今のうちに話を進めないと。
何とか息を整えて男を見やる。加虐に期待する心と体を理性で強引にねじふせ口を開く。
「お見苦しいところをお見せしました。ごめんなさい。
 それとお気づかいありがとうございます。でもそれも覚悟の上での提案なのでご安心を。 
 というか、仮に物資があっても僕を帰すつもりはないんでしょう?
 だから、僕達が渡せる最後の取引材料は、僕と物資の情報のセットになります」
…といっても、物資の情報はガセだ。物資なんかない。
でもそんな事は男も分かっているだろう。
要はこの取引は、エマとセカンドに邪魔されて手を出せなくなった僕を合法的に好きびできるよって事だ。
僕自身には女としての魅力はあまりない。
自分で言うのもなんだけど背は普通よりちょい下だし、最近忙しかったせいで運動してないからちょっと太り気味だし、スタイルも良くないし、不健康な生活してるから肌年齢がやばいし、顔に傷もある。
でも、僕の女としてと魅力はこのさいどうでもいい。
男の部下は僕達という宝の山を前に手が出せないことに不満をもっている。
でもそこで僕という宝を手にいれ、しかもその宝を自分で独占せずに部下に与えたら、男は自分の度量を部下に示す事ができるし、部下も僕を嬲る事で不満をある程度解消出来る。つまり、組織の不和の芽を摘む事ができる。
それに僕に女としての魅力があれば男も独占したくなるだろうけど、僕みたいなブスなら部下にくれてやっても惜しくないだろう。
騙した報復という正当な理由があってしかもエマじゃなければセカンドの怒りも買わないだろうしね。
性格が悪いけど頭はいい男もそれが解ってるはずだ。
「これ以上の商品は?」「ないです。これ以上を要求するなら諦めます」
きっぱりと否定し欲張るなと睨み付ける。男が僕を睨みつけてくるが臆せず睨み返してやった。
…無残な死を覚悟した人間をびびらせられると思うなよ。これでも修羅場はそれなりにくぐってるんだ。
「ちょっと!待ってくださいよ~、蘭さん!あ、そ、そうだ!私、私が代わりに行きますから!」
「そ、そうよ!何言ってんのよ、蘭!!そんな隠し財産があるなんて私聞いてないわよ!!」
「当然ですな。裏表のないニーニャたんに教えたら隠しになりません。それと、エマちゃんが代わりに行っても場所知らんでしょう」
「あ~、う~、で、でも~」「ちょ!?その口ぶりだとあんた知ってたわけ!?」
「ええ。不自然な金と物資の流れを発見し、その中心に蘭ちゃんとジーニー殿がいたのでロイ殿に二人が横領の疑いアリと報告した時に聞きました。とはいえ、作戦の内容上秘密を知る人間は少ないほうがいいという事で私も詳しい場所は聞いてはいませんがな」
「…そうじゃの。黙とってわるかったの。ワシも物資を用立てしただけで隠し場所は知らん」
騒ぐエマとニーニャを利用してブギーが僕のブラフの信憑性をあげてくれる。ジニーも厭々ながらのってくれたみたいだ。
「くぅうう!そんな重大な秘密を私に内緒にしてた事は後で問い詰めるとして、蘭!馬鹿な真似はやめなさい!
 無理して修理しなくてもロイさん達に助けを呼んでもらえればいいわけのよ!」
「…残念ですがネクストの貧弱な通信装置では最寄のインテリオルの基地と通信可能圏内に入るまでネクストのスピードでも半日はかかります。そんな長時間ネクストに乗り続けたらリンクスはどうなりますかな。
 戦闘稼動ではなく通常機動なら汚染のリスクは減りますがスピードも落ちます。この場合は片道3日以上かかるでしょうな。
 そうなれば通信が終わって帰ってきたロイ殿達が見るのは廃品を漁りにきた武装勢力に皆殺しにされた私達の姿でしょう。この輸送機にネクスト以外の自衛戦力はないんですぞ?
 なので連絡役と護衛役の2機のネクストが必要になりますな。
 つまり、ここで修理をしなかった場合我々が助かる可能性は、初代と2代目の霞スミカとネリスという超一流のリンクス相手にお二人が直に戦闘に出られるほど楽勝であった場合のみです。
 それがどれほど低い可能性かは解るでしょう?」
「…だからって、私は蘭を殺してまで助かりたくはない!!」「そ、そうですよ~!」
「私もです。ですが蘭ちゃんは自分が死んでも私達を助けたいと思っているのです。ニーニャたんも逆の立場ならそうするでしょう?そして逆の立場なら私達が何を言っても止まらないでしょう?
 なので私達には蘭ちゃんを止められません。止めるなら誰も死なずにすむ方法を考えないといけないのですがそんなものはないでしょう?
 解ったらお静かに。ここで我々が何を言っても蘭ちゃんに負担をかけるだけです」
ブギーが理詰めで2人を宥めてくれる。ありがとう。
「く、で、でも」「ちょ、ちょっと待ってください!!全員を納得させる方法を考えます」「そ、そうね!蘭、早まらないで!!いまどうにかする方法を!」
「ないわよ。この世界に全員を都合よく救ってくれる神も奇跡もない事を私達はあの日に知ったはずよ、エマ?」
いつの間にか近くに来ていた蜘蛛女が微笑みながら私の顔にゆっくりと手を伸ばす。
伸ばした手の向かう先が右目だと解った時、私は次に自らに訪れる被虐の予感に恐怖とそれを上回る圧倒的な快感への期待に体を震わせた。
右の視界を埋め尽くさんばかりに拡大された蜘蛛女の指が更に大きくなった直後、頭の中から聞こえてきたズブリという音と共に右の視界が黒く潰された。
「んぁあああぁああ!!」次の瞬間、右目を犯されるという快感に体が震え、嬌声が飛び出す。
「えい」右目の中で女が指を曲げた瞬間、更なる快感が襲う。くの字に曲がろうとする体を理性を掻き集めて押し留める。
「そして、同時に罪を罰する神も地獄もない事も私達は知った。
 なら、罪だ神だ良心だに囚われず自分のしたい事をして楽しんだほうが得じゃない?」
蜘蛛女が右手を引き抜いていく。女の指に引っかかった半分潰れた私の右目もつられて抉り出される。
ブツブツと神経が切れる音がする。ボタボタと血が垂れる音がする。気持ちいい。視界が垂れた血で赤く染まり、次いで快感で白く染まる。
蜘蛛女が僕の右目を口に入れて咀嚼する。クチャクチャと僕の右目が潰されていく。残念だが神経が切れてしまったので快感を感じる事は出来ない。
「ふふ、美味しいわよ」蜘蛛女がご褒美といわんばかりに僕の胸に刺さったナイフを動かす。更なる快感に悲鳴をあげる。あぁああぁあ、きもちいいよぉ。
「ほら」蜘蛛女が僕にキスをする。舌と唾と共に噛み砕かれた僕の右目が流れ込んでくる。美味しい。自分の右目とは思えない。お礼に蜘蛛女の舌を一生懸命吸ってあげると更に左胸のナイフをかき乱してくれた。
きもちいい。きもちいい。僕はもっともっととねだるように積極的に舌を絡めていく。そうするとくもおんなはもっとナイフはぼくのむねをざくざくえぐる。あぁあ、きもちいい。いいきもち。かんじちゃう。もっともっと。きすきすきす。すってすって。ないふざくざく。きもちいい。
蜘蛛女が唇を離す。ああああ!もっと、もっと、もっと気持ちよくして欲しい。
「あれ?」僕は無意識に追いかけようと体を起こそうとして全身に力が入らない事に気付いた。あれ?あ、そっか、血がなくなりすぎてるんだ。致命傷じゃないからもう少し生きていられるけど困ったなこれじゃ追いかけられない。
「ふふ」蜘蛛女が左胸の根元に刺さったナイフを抉りながら斬られた乳首のほうへと上げていく。
「んっがああぁああ!!」余りの快感に獣のような声が漏れる。いやだ、はしたない。恥ずかしいよ。でも、気持ちよすぎてとめられない。左胸が熱い。まるで溢れる血が沸騰してるみたいだ。肉が抉られる為にぐちゃぐちゃと奏でられる音がたまらなくいやらしい。あぁ、左胸が割られていく。真っ二つに割られていく。あははは。どくどくとあふれる血の向こうにピンク色の脂肪が見える。いやらしい。まるでアソコの色みたいだ。あ、ナイフがついに頂上に達した。ついに、僕の左胸、二つに割られちゃった。壊されちゃった。あ、なんだろうあれ?白い。そっか。胸骨だ。あはは。骨って血がかかっても白いんだ。
左胸を半分に割ったナイフを蜘蛛女が僕の目の前でひらひらさせる。
そして「口を大きくあけなさい」と言ったので僕が大きくあけると、蜘蛛女は僕のナイフに左頬に突き刺した。
き、気持ちいい!!あああぁ、自分の血がこんなに美味しいなんて。
夢中になって自分の血をゴクゴクと飲んでいると蜘蛛女が「キスしてもいいのよ?」と僕に微笑んだ。
僕がその言葉に甘えて身を起こそうとすると、蜘蛛女が僕を押しとどめ「ナイフ」と嗤う。
そうか!!僕は刺さったナイフへロイさんのアレのように愛しげに舌を絡め愛撫する。
「!!!??」切れ味の鋭いナイフに舌を絡めるとナイフは僕の舌をズタズタに切り裂き、血と快感をくれた。
すごい!!すごいよこれ!!すごい!気持ちいい!!舌、舌を自分で壊すの凄い気持ちいい!!もっと!もっと!もっと!気持ちよくなりたい!!!
「…そうだな。だからつまらねぇからもうしまいだ」
夢中になってナイフとディープキスをしていると、男の声と共にナイフが引きぬかれ、首筋にまた無針注射が打たれる。
次いで、男は立ち上がり「ほらよ」と僕をジニーへと放る。「おう!?」慌てて僕を抱きとめるジニー。
「王焔!」「リーダー!?」「!?」
突然の行動に驚く皆を無視して男が溜息をつく。
「止めだ止めだ。つまんねぇ。幸せそうにしてるエマにちいと意地悪してやるつもりで嬲ってやったがつまんねぇ。
 つーか、泣きそうな顔で震えてるお前を見てると罪悪感でいっぱいだ。
 あ~、くそ。愉しむ為の殺しで鬱になるんじゃせわねーや。
 くそ、どうもおりゃぁ家族が苦しんでるのを見ながら興奮できるほど壊れてないみたいだな。たく、他人ならむしろ楽しみながら嬲り殺せるのに困ったもんだぜ。
 あ~あ、白けちまった。酒でも飲んで寝よ」
男が肩を落としながら歩き出す。
それを見て男に真意を確認しようとした瞬間、突然快感が痛みに変わった。突然の激痛に絶叫する。
快感から激痛に。ベクトルが100%変わった事もあり、全身を襲い来る傷みに意識が飛びそうになるのを必死でつなぎとめる。
まだだ、きちんと取引が成立したか確認しないと。
だが、喋ろうと切り刻まれた舌を動かした瞬間更なる激痛に襲われ、悶える。
男はそんな僕を一瞥もせずに出口へと歩いていく。
「お前等、もう縛らなくていいから100万コーム受け取ったらネクスト用のパーツを運び出せ。それが終わったら修理物資をくれてやれ。
 100万コームに関しては俺はイラねぇからお前等で適当に分けろ。楽しみを中断して付き合った手間賃だ」
歩きながら男が指示を下していく。初めは呆然としていた部下達だが「早くしやがれ!!」と男が怒鳴りつけると慌てて動き始めた。
「り、リーダーそれって」ナイスエマ!!「あぁ。修理物資は売ってやるよ。もちろん、そこの女はイラねぇ。それと、レーヴェ」「何よ」「付き合え。一人で飲んだら泣いちゃ…
男はまだなにか言っていたが限界だった。
取引の成立を聞いた瞬間、僕は意識を手放した。

****

目を覚ますと見知らぬ場所で寝ていた。
あれ?ここどこだっけ?

「……!!」寝惚けて混乱するが目覚めは良いほうなので直ぐに覚醒し、今までの事を思い出す。
…揺れてる。って事は飛んでるんだ。良かった。無事修理はできたみたい。
体は金縛りにあったみたいに動かないので半分になった視界で天井を観察した結果、多分輸送機のロイさんとウィンさんに割り当てた部屋だろうと結論付ける。
あれ?僕がここに寝てるって事は二人は?
直ぐに大した怪我もなく帰ってきた二人が重傷の僕に部屋を譲ってくれたという最良と二人は帰ってこなかったので空き部屋となったここを臨時の病室にしたという最悪の二つの理由を思いついた。
どっちが正解かは手持ちの情報だけではわからない。
いったいあれからどうなったんだろう?不安にかられる。理性では大人しく寝ているほうがいいと分かっているのに体を無理やりに起こして状況を確認したくなる。
暴れる心を強引で理性で抑えつけているとドアの開く音と共に「なんじゃ、起きとったのかい」とジニーの声がした。
次いで「重病人なんだから大人しく寝とれ」とこちらに向かうジニーの足音がする。
「ふむ。どうやら落ち着いたようじゃの。これなら3時間はもちそうじゃ」
頭の向こうでジニーの声がする。何とかジニーの姿を視界に入れようと懸命に上を見ようとするが、駄目だ。見れない。
しょうがないので状況は?と聞こうとしたが、舌が動かない。というか感覚がない。
それでも強引に声を出そうとしたが「…ぁ………ぇ…ぉ」と掠れてまともに声を出せなかった。
しかし何とか声が届いたのか、ジニーが「なんじゃい?」と僕の顔を覗き込んでくる。
状況を教えて!という意思を全力で籠めてジニーを見る、いや、睨む。
「なんじゃい、そんなに熱い視線で見つめてきおって。いかんぞ、ワシには妻と娘と孫が」頬を染めてクネクネするジニー。
ふざけるな!くそじじい!!きもいんだよ!と殺気を込めて睨みつける。
「冗談じゃ。えーと、あ。もしかしてトイレかの?安心せい。おむつは着用済みじゃ」
違う!!!こいつ解っててやってるな。今はふざけてる場合じゃないでしょ!!
…もしかして、ロイさんは死んじゃったんだろうか?だから、ジニーは僕に負担をかけないようにボかしてるんじゃ。
そんな事ない!と否定しつつも最悪の想像に胸が締め付けられる。やばい、泣きそう。感情がうまくコントロールできない。
視界がぼやける。涙が溢れ出す。
「おお!ちょっとからかっただけで何も泣かんでも!!解った!話してやる!話してやるから泣きやまんかい!!」
ジニーが昔のように僕の頭を優しく撫でる。
その無骨だが優しい感触に昔を思い出し、心が落ち着くのを感じる。
む、いつもなら子供扱いするなと蹴りの一つでもくれてやる所だが今回は許してやろう。
…ありがとう、お爺ちゃん。でもからかったことは許さない。
「…ようやく泣きやんだようじゃの。まったく、お前は昔から泣き虫の癖に意地っ張りじゃな。
 まぁええ。教えてやるから聞いたらダダこねずに、大人しく寝るんじゃぞ」
口調が完全に絵本を読んでくれないと寝ないと駄々をこねる子供をあやす祖父なのがいらつくが我慢する。
にしてもジニーなんか何か勘違いしてる。まぁ、結果オーライだからいいか。
「嘘吐いてもどうせ後でバレルし、その時に文句言われるのも嫌じゃから正直に言うぞ。
 まずは、お前が気絶した後じゃが、あれから何事も起こらず物資の交換が済んだ。
 交換が済むと奴らは引き揚げて行ったので、直ぐに主翼の修理を開始したぞい。
 修理を初めて1時間後位にロイが嬢ちゃんをつれて何故かシリエジオに乗って帰ってきた。
 二人とも重傷じゃったんで、直ぐに医務室に運んで治療を開始したから中で何が起こったのかは全くわからん。
 ただ、まぁ、ロイが意識を失う前に俺達の勝ちだとかほざいとったので、まぁ勝ったんじゃろ。
 二人の応急処置が終わった時には主翼の修理も終わっとったんで出発したぞい。
 それで、今はラインアークへ向かっとる最中じゃ。後、3時間ほどで着くの。
 ただ、通信機はネクストのも含めて全部ぶっ壊されてて部品もないので修理できん。
 じゃから着陸する時は一悶着あるじゃろうな。まぁブギーかニーニャかメーヴェが何とかするじゃろ」
うん、あの三人に任せておけば大丈夫だろう。視線で続きを促す。
「ロイも嬢ちゃんもエマも全員生きとる。
 ラインアークについたら全員程度の差はあれ入院せねばならんがの」
よかった。全員無事な事には安心した。
…でも、僕がロイさんとウィンさんの部屋で寝ている説明はまだだ。
医務室の定員は5人。なのに僕がここに寝ているという事は…。
じっと、ジニーを見つめる。
ロイさんに匹敵するくらい付き合いが長いせいもあってジニーは僕の疑問を察したようだった。
「察しの通りじゃ。無事とはいえ、ロイと嬢ちゃんは意識不明の重体。
 備え付けの機器じゃ足りんから持ってきたリンクス用の生命維持機と補助機を使っておる。
 そのせいで医務室は満タンでお前達二人が追い出される事になったんじゃよ。
 エマに関しては本人がピンピンしておったから楽観してたんじゃが、診てみたら肺と臓腑がズタズタに傷つけられててのう。
 刺さっとる針は下手に抜くと出血多量で死ぬからここじゃ手は出せん。
 じゃが、針は危険な位置に刺さっておっての。あと数ミリ動くだけで致命傷になりかねんのじゃ。
 それこそくしゃみ一つするだけで下手したら針が動いて死にかねんからベットに縛り付けて手空きの者が交代で見張っとるよ。
 普通なら痛みで意識を保つのは無理なはずなんじゃが、何故かピンピンしとって目を離すと直ぐに動き出そうとするからの。
 まったく、痛みに慣れてるから平気というが限度があるじゃろ。
 ま、そういうわけで四人の中で比較的一番軽傷なお前は、手当てが終わったら半放置されとるんじゃ。
 普段なら全員が見舞いに押し掛けて入場制限されるほど重傷なのに、ちやほやされずに残念じゃったの」
そう言って意地悪く笑うジニーの顔には隠しきれない疲労があった。
当然だ。主翼の傷は1~2時間で治るものじゃない。おそらくロイさんかウィンディさんが一刻を争うんだろう。
だから超突貫で修理してとりあえず飛ばしたに違いない。そして異常が発生したところを対処療法的に直して騙し騙し飛ばしてるんだろう。
そうじゃないと、通信が出来ない状態でラインアークに向けて飛ぶなんて暴挙をいくら部品がなくてもする筈がない。
最低限ラインアーク領空で通信が出来る状態には持っていくはずだ。
長距離通信が壊れてても整備用のノーマルにも短距離用の通信装置は付いてる。うちの整備班なら改造して長距離通信可能にする事なんて簡単なはず。
でも出来てない。そんな僅かな余裕もないんだ。
ジニーも無茶苦茶な作業の中で僅かに得た休憩時間に来てくれたんだろう。
感謝と申し訳なさ、そして何よりそこまでしなければならないロイさんとウィンさんの容体に不安を覚える。
そんな複雑な僕の気持を悟ったのか、ジニーはいつも見せるヒヒ爺の笑みではなく、優しくて包容力があって頼りがいがある、僕はいないから知らないけどきっと、父親かお爺ちゃんというのは子供や孫を安心させる時にはこんな顔をするんだろうなぁと思えるような素敵な笑みを浮かべながら僕の頭を撫でた。
「安心せい。お前が心配せんでもちゃーんと、ロイも嬢ちゃんもエマも全員無事に連れて帰ってみせるわい。
 じゃから、余計な事を考えずに今は眠るとええ。
 いい子に寝とったら、次に起きた時にロイとエマと一緒に嬢ちゃんの見舞いに連れてってやるわい」
具体的な方法も何もなく、ただ何とかしてみせるという根拠のない自信だけの決意の表明。
普段の僕ならどうやってと突っ込む所だが、今は不思議と信じられて安心した。
安心したせいで急速に眠くなる。瞼が重い。
僕は睡魔に逆らわず、そのまま目を閉じる。
おやすみなさい、お爺ちゃん。




願え、祈れ、謡え、綴れ、縋れ。但し、対象は私ではなく自らにだ。

人類の命運が決まったクラニアムの戦いの翌日、3月20日未明、
ロイ・ザーランド達を乗せた輸送機がラインアークに到着。
ロイ・ザーランド、ウィン・D・ファンション、他二名が緊急入院。

3月22日、
各社は全クレイドルの墜落という危機に一致団結して対処するため、企業統治連合を母体として作る新会社『アライアンス』に各企業が合併される事で一つになる事を合意。
その後の調整により、アライアンス発足は4月1日、アライアンスのCEOに王小龍が就任する事が決定する。

アライアンス発足より2日後の4月3日、
コルセールによりORCAと各企業の首脳陣の密約が全て公開される。
これによりアライアンスの首脳陣、特にGAのCEOに就く為にORCAのクレイドル03襲撃を後押しした王小龍に対する不満が爆発し、各地で反乱・暴動が多発する事になる。
アライアンスはコルセールの発表した情報を全て虚偽であると否定し参加者を厳しく処罰したが反乱・暴動は一向に収まらず、以後アライアンスは反乱・暴動に悩まされ続ける事になる。
続発する反乱・暴動とその鎮圧によって各地のコジマ汚染は急速に進行し、汚染の少ない居住可能地域は徐々に数を減らしていく事になる。

4月15日、
ダン・モロ及びその関係者がアライアンスからラインアークへ亡命。

4月21日、
コルセールが南北アメリカの反アライアンス勢力を糾合しアライアンス軍を駆逐後、新政府の樹立とアライアンスからの離脱並びにアライアンスへの宣戦布告を新政府の長フランソワ=ネリスの名において宣言する。
旧GAの社員が多く元々反アライアンスだった南北アメリカの住人達は新政府並びに新政府の方針を熱狂的に支持する。

5月14日、
ミセス・テレジアと王小龍以外のカラードの所属する全リンクスがクーデターを起こす為に密かに結成した組織である『バーテックス』がラインアークへクーデターへの協力を依頼。
ラインアークは内部で検討を重ねるも、最終的にレイヴンはアライアンス内部の権力闘争に巻き込まれるのを嫌い、これを拒否しようとしたがロイのスタッフは受けるべきと主張。
両者は互いに譲らず三日三晩議論を闘わせた。(それだけでなく2時間に1度は感情的になった両者は互いを罵りあい、終いには殴り合った。その際、ロイのスタッフの女性陣は自らが女性である事を理由に強制的にホームの男性陣を代理に立てた)
最終的にレイヴンにホームの男性陣がジニーを除き殴り倒され病院送りにされた為、レイヴンと殴りあう事になったジニーが昔の借りを発動しレイヴンが折れる。

これによりバーテックスとラインアークの同盟が成立

6月1日、
バーテックスのクーデターが発生
1週間前から、WG・マイブリス・レイテルパラッシュ(搭乗者はダン・モロ)の三機がアライアンス領ギリギリで陽動を行っていたため、
王小竜はそちらに気を取られクーデターを事前に察知する事ができず、クーデターは成功する。
アライアンス新CEOにレオハルトが就任し、拿捕を免れた王小竜は旧BFF領方面へ逃走。

新CEOであるレオハルトがコールセールの発表を真実と認め関係者に厳しい処分を科した事、真摯に謝罪をし出来る限りの保障を約束した事に加え、
ラインアークの存在を認め友好条約を締結し、ラインアークへの移住を積極的に推進した事で反乱と暴動は急速に鎮静化した。

6月3日、
BFF代表に就任した王小竜がBFFのアライアンスからの離脱とBFFと新政府との同盟の成立、そしてアライアンスへの宣戦布告を宣言

6月6日、
新政府軍がノルマンディーより上陸し、BFFと合流する
ノルマンディーに上陸した新政府軍は、フランソワ=ネリス自ら陣頭に立った事もあり旺盛な士気と旧GAの工場地帯より生み出された豊富な戦力を持っていたところにBFF軍が合流した事で圧倒的な戦力を得た。
その戦力でクーデターによる軍備の再編の最中であったアライアンス軍を撃ち破り10日でヨーロッパ大陸全土を占領する。

BFF離脱前は同程度の国力であったが、アライアンスの3割の生産力を持つBFFが離脱し新政府についた事で生産力が2倍近くに開いた事を受け、
レオハルトは長期戦は不利と判断し短期決戦を決意し、最低限の守備隊以外の全戦力を集結させる
アライアンスの動きを受け、BFFと新政府の連合軍も戦力を集結させる

6月27日、
ロイ・ザーランドとウィン・D・ファンションとダン・モロがラインアークからアライアンスに亡命する
(ただし、ウィン・D・ファンションはクラニアムでの戦いの傷が癒えていなかった為ネクストを動かす事はできず、戦力として換算できるのはロイ・ザーランドとダン・モロの二人であった)
 
これにより0.68であったアライアンスの軍事力が0.76に上昇する(BFF離脱前のアライアンスの軍事力を1として換算。新政府とBFFの連合軍は1.31)
彼我の戦力比が1.8を切った事を受けレオンハルトはファサード前線基地で迎撃する事を止め、BFF領とアライアンス領の境であるベルザ高原で野戦を行うことを決意
彼我の戦力比1.7というのは近代戦において野戦を行えるギリギリの数字であったが、長引けば長引くほど生産力の関係で不利になっていくアライアンスとしては速戦速決を基本戦略とするしかなかった。

7月2日、
アライアンスと新政府及びBFF連合軍がベルザ高原で激突

開戦直後に王小竜の事前の裏工作によりオーメル全軍とインテリオルの一部の部隊がアライアンスを裏切り連合軍につく。
アライアンスにとって不幸中の幸いはインテリオルの離反した部隊が司令部と一部の部隊だけであり、直ぐに鎮圧された事であった。
だがそれでもインテリオルは指揮系統が寸断された事により再編がすむまで部隊としての戦力は大幅に低下した。
(司令部は全部隊に連合軍に味方しアライアンスを攻撃するように命じたが、司令部が命じた直後にロイ・ザーランド、ウィン・D・ファンション、スティレット、エイ・プールは反逆者である司令部を討てと命じた。
 二つの相反する命令に対して司令部の直轄部隊等の一部を除き殆どの部隊がリンクス達に従った為、結果的に反乱は小規模に終った。
 ただし、司令部の消失に加え、リンクスに従った部隊の半数近くは司令部に従うように主張した士官と下士官を拘束あるいは殺害していたため、インテリオルは指揮系統の再構築等軍の再編を余儀なくされた)

インテリオルの一時離脱及びオーメルの離反により、アライアンスは大混乱に陥り連合軍に一方的に蹂躙される。
各ネクストの奮戦及び中核となるGA(有澤)とローゼンタールが無事であり士気が高かったことにより辛うじて壊滅・潰走は免れるも、
戦闘開始より8時間後、両者の戦力比は0.27:1.59と圧倒的に開く。

7月3日、
インテリオルの再編が終わったとの報告を受け、レオハルトは賭けに出る。
それは自らを含める全ネクストを13の場所から同時に出撃させ敵陣を突破・蹂躙し混乱させたところでネリス・王小竜の二人を討ち、指揮系統が失われた敵を敵陣を突破したネクストとそれ以外で挟撃するというものであった。
対ネクストの戦術が確立してなかった国家解体戦争時ならともかく、対ネクストの豊富なノウハウと十分な数のAFを揃える連合軍相手には多分に無謀な作戦であり、大多数の幕僚は反対し、撤退後の講和(降服)を進言したがレオハルトは強行した。
※不思議な事に作戦に反対したのは非リンクスばかりで、出撃する本人達は死の覚悟はなく、自然に作戦の成功を確信していた事である。
 また、ミドやウィン等の元リンクス達も不安がる周囲に問題ないと笑いかける余裕を見せていた。

当事者であるリンクス達以外には無謀な特攻と思われたレオハルトの賭けの実行から2時間後、賭けは拍子抜けなぐらいあっけなく成功し、ベルザ高原の戦闘はアライアンスの圧倒的な勝利に終わる。
当事者以外は特攻と紙一重であるように思えた賭けが容易く成功したのは二つの理由がある。

一つは、ネクストの性質。ネクストは圧倒的多数の弱敵を単騎で蹂躙し突破し殲滅する事を目的に作られた兵器である。それ故に防衛ではなく本来の目的に使われた為、ネクストはその圧倒的な攻撃力と機動力と防御力を100%生かす事ができた。
また、レオハルトに代表される国家解体戦争を経験し十分なノウハウをもつオリジナル達が第二世代以降に手本を見せた事も大きかった。

もう一つは、連合軍の不和。連合軍は新政府、BFF、オーメルの寄り合い所帯であった為、元々連携に難があった。
更にBFFとオーメルは戦後の力関係を考え自らの戦力を温存し他者の戦力を消耗させようとして故意に情報の隠蔽や誤情報の流布まで行った為、最低限の情報連携すらできていなかった。
そして、中核たる新政府軍もコールセル・旧GA・ORCA・リリアナの寄り合い所帯であり、リリアナを除く三者は戦意こそあったものの組織間の確執等で連携に難があり、リリアナに至っては完全にやる気がなく後方で傍観を決め込んでいた。
つまり、連合軍は装備と数だけはある烏合の衆だったのである。

時間にして僅か30分で連合軍はネクストにより引き裂かれ寸断され蹂躙され組織的な抵抗が不可能となり、
5時27分にロイ・ザーランドにオーメルの司令部が壊滅させられ、同52分にフランソワ・ネリスがレオハルトに討たれ、6時14分に王小龍こそ逃したもののダンとメイがBFFの旗艦であるSOM2番機(ソウル・オブ・ファザーウィル)が降伏させると、崩れた軍を立て直す者がいなくなり連合軍は戦力的には未だにアライアンスを上回っているにかかわらず壊走した。
※王小龍はSOF及び親衛隊に敵の足止めを命じ、自らはストリクス・クアドロで逃走を図ったがこれを読んでいたローディーが退路に先回りしストリクス・クアドロの四肢を破壊し行動不能に追い込んだ。
だが、ローディがストリクス・クアドロから王小龍を引きずり出す寸前に所属不明の2体の大型可変ノーマルがフィードバックを襲った。
二機の大型可変ノーマルは片方がフィードバックの足止めをしている間に、もう片方が王小龍を回収し離脱。その後、残った片方もローディの一瞬の隙を突き飛行形態に変形すると離脱した。
ローディはOBで追跡する事も考えたが、大型で可変機とはいえQBもPAもないノーマルで全力の自分相手をし、僚機に手を出させず僚機が離脱するまでの時間を稼ぎ、さらに自らも離脱した相手を深追いする危険性を考え追跡を断念する。
レオハルトは接収したSOM2番機に本陣を敷き、相次いで降伏するオーメル並びにBFFを吸収しつつ壊走する新政府軍の追撃を行うよう指示。
指示を出した直後、長時間のネクスト運用の疲労により意識を失った為、アライアンスの指揮権を一時的にレオハルトの養女であり実質的なバーテックスNO2であるミドが代行する。

7月4日、
無秩序に壊走する新政府軍をリリアナが指揮しノルマンディーに誘導を始め、ある程度指揮系統が回復する。
敵の動きに組織だったものを感じたミドは追撃を一時中断し、軍を纏めようとしたが追撃をしつつ大量の捕虜を受け入れを行ったことにより処理能力が限界を超えていた事に加え、ローゼンタール以外の高級指揮官はレオハルトに比べ性別も年齢も戦歴も階級も劣るミドの命令を聞く事を不服に思い、命令違反にならない範囲で命令の曲解や伝達の遅れや現場の判断の優先を行った為、3割を超える部隊がミドの命令を無視して追撃を続行し、残りの本隊も引き摺られる形で編成が不十分のまま追撃部隊を追随する事となる。
※この件に関しては大局よりも私情を優先させたと高級将官が非難されがちだが、大本はレオハルトがアライアンスを自らの血族で独占しようとしているとみられるのを嫌いミドにアライアンスの軍籍を与えず自らの秘書に留めた事と、組織の長として当然の事である自身が不在の際に指揮を代行するNO2を明確に定めていなかった事が原因である。
 これにより、ミドはバーテックスならともかくアライアンス全体には自身に指揮権はないのを承知のうえで指揮官不在の混乱を避けるために強引に指揮権を掌握せざるを得ず、高級指揮官達も強引な手口に反発し、大局よりも軍人として指揮権を持たない者に従うわけにはいかないという良識を優先させることとなった。
 またミドの指揮権を承認し高級指揮官達にミドの指揮に従うよう働きかけたであろうリンクス達が全員先の賭けの疲れを癒すために休息を取っていた事も大きかった。

7月5日、
追撃を続けるアライアンスの前に、一機の002-Bが立ち塞がる。
立ち塞がった002-Bは通常の002-Bとは違い白骨化した子供を抱いた白骨化した母親が散った桜の木に寄りかかる様を桜色で描かれたエンブレム以外は全身を黒に染めていた。

二時間後、
アライアンスの追撃部隊はたった一機の002-Bに壊滅させられる。
002-Bは追撃部隊を壊滅させるとアライアンス本隊に襲い掛かる。
同時に伏せていたリリアナの部隊もアライアンス本隊への攻撃を開始する。
002-Bがアライアンス本隊に突入し縦横無尽に引き裂いてできた亀裂にリリアナが襲いかかり更に亀裂と混乱を広げる。
その原始的だが効果的な戦術と002-Bの圧倒的な戦力、そして何より一個の獣のように動くリリアナの圧倒的な速さと攻撃力にアライアンスは全く対応できず、戦力的に1%にも満たないリリアナにアライアンスは一方的に蹂躙された。

7月6日、
アライアンスが迎撃にネクストを出撃させ始めると、002-Bはアライアンス本陣であるSOM2番機を目指し、同時にリリアナは撤退を開始。
アライアンスは002-Bの迎撃に全力を割かざるを得ずリリアナの撤退を傍観する事しかできなかった。

002-BはQBがないという圧倒的な不利にも関わらず次々と襲いくるアライアンスのネクストをあしらいながら徐々にだが確実にSOM二号機へと向かっていき、最終的にレオハルトと有沢隆文以外のアライアンス所属の全リンクスを相手にしながらSOM2番機まで残り400Mの距離まで近づいた。
だがそこでリリアナが完全に撤退しきるとあっさりと踵を返し、OBで悠々と逃げきった。
傷ついたアライアンスに追撃する余力はなく、002-Bの戦線離脱をもって4日に渡る新政府軍とアライアンスの戦闘は終結する。

最終的な双方の動員兵力と開戦後に残存した戦力は、
アライアンス
 ●動員戦力(開戦直後に裏切ったオーメルと一部のインテリオルを含む) 
  ランドクラブ11機(GRAN-GRANCHIO含む) ギガベース8機 イクリプス5機 GAEM-QUASAR20機、FF130-FERMI6機、ノーマル946機、航空機1633機、MT2116機、ネクスト15機 戦闘参加人数(民間人・非戦闘員含む)1913万6321人
 ●終戦後残存戦力(戦闘後に投降してきた部隊を含む) 
  スピリット・オブ・マザーウィル2号機1機 ランドクラブ4機 ギガベース1機 GAEM-QUASAR8機 ノーマル874機、航空機76機、MT1002機、ネクスト15機 生存者1045万0008人(うち四肢欠損など重大な障害を残し兵役に復帰不可能な者364万2011名、兵役復帰まで3か月以上かかる者592万0482人)
※生存者に対して負傷者の割合が多いのは新政府軍が逃亡の際置き去りにした負傷者を投降者として受け入れたためである

新政府及びBFF連合軍
 ●動員戦力 
  スピリット・オブ・マザーウィル2号機1機、ランドクラブ16機、ギガベース12機、ジェット8機、GAEM-QUASAR14機、FF130-FERMI5機、ノーマル1712機、航空機2864機、MT2632機、ネクスト2機、自立ネクスト7機(特別仕様の有人(天敵専用)機含む)、プロトタイプネクスト1機、戦闘参加人数(民間人・非戦闘員含む)3047万2221人
 ●終戦後残存戦力(アメリカ大陸に帰還できた者) 
 ギガベース8機、FF130-FERMI1機、ノーマル1012機、航空機1964機、MT378機、生存者1523万6395人(うち四肢欠損など重大な障害を残し兵役に復帰不可能な者2万8753名、兵役復帰まで3か月以上かかる者215万6732人)
※残存戦力に対して生存者が多いのは海を越えられない機体は廃棄したため。
※生存者に対して負傷者の割合が低いのは逃亡の際に負傷者を切り捨てたためである。

以上であり、4日で両軍合して2000万人以上の死者と1000万近くの重傷者を出したのは戦争では最高記録である(死者の数だけならば国家解体戦争直後に企業によって行われた1日数億人のペースで1カ月に渡り虐殺を続け100億の人間を殺した『人類の最適化』が最高記録である)

7月7日、
アライアンスはSOM2号機等のAFを中心として負傷者の応急処置や破損した機体の整備を行い、本格的な治療が必要な者や整備の終わった機体は大規模な拠点の中で一番近いトーラス本社(旧GAE本社)へ移送する形で軍の再編成を始める。

7月11日、
トーラス本社に移送された部隊がトーラス本社地下に大規模な建造物を発見。
直後、トーラス本社にて大規模なコジマ爆発が発生。
周囲に展開していた再編中のアライアンス軍は文字通り全滅する。

景色が歪む程の濃密なコジマの中から現れたトーラスが極秘に進めていた地球緑化計画の結晶である超巨大ソルディオス、コードネーム『緑の太陽』は、後世において『王小龍の全人類への処刑宣言』と呼ばれる通信を全世界に向けて発信する。
通信の直後、緑の太陽は世界の合言葉は緑(究極超圧縮最大コジマ砲)(※トーラス内部の正式名称)をアライアンスの首都であり最大の居住可能地域であるカラード本部に発射しカラード本部周辺50KMを今後1000年は人が住めないランクSSSの重度コジマ汚染地域に変えると、本来の目的である地球緑化計画を実行すべく大量のコジマを散布し始める。
緑の太陽の通信の直後、トーラス本社の2KM西より特攻兵器が出現し、世界に降り注ぐ。

緑の太陽により8割以上の軍事力と、半数以上の国民と、生産力の7割を喪失したためアライアンスは単独での運営を続ける事が絶望的となった。

7月13日、
アライアンスに対してラインアークが共同して緑の太陽に対処するよう要請。
また現在の同盟から一歩進めて双方対等の形で合併して新国家を建設しないかと提案(レイヴンはアライアンスは単独での勢力維持は不可能なのだから対等な合併を提案するのではなくラインアーク優位になるよう併合を勧告するよう主張したがセラノはそれを拒否した)
双方の現在の力関係を考えると破格の申し出であったがレオハルトはどちらも拒否し、逆にラインアークにアライアンスの傘下に入るよう勧告するという暴挙に出る。
ラインアークが当然それを拒否すると、レオハルトは交渉を一方的に打ち切り同盟の解消と武力併合を宣言する。

7月14日、
レオハルトの決定にアライアンスの大部分が猛反発をおこし翻意を強硬に主張するもレオハルトは拒否。
両者は何度となく話し合いを重ねたが、緑の太陽の対処が終わるまではラインアークへの侵攻を控えるべしという提案すらレオハルトが拒否した事で両者は決裂。
両者の話し合いの結果、レオハルトとその賛同者はSOM2号機に反対者達はそれ以外のAFに搭乗する事と、反対者達はアライアンスを離脱する事と離脱が完了するまでの停戦を合意する。

これによりアライアンス(レオハルト陣営)の戦力はSOM2号機1機と10万人足らずとなるが、有沢・ローゼンタールの国家解体戦争を経験したベテラン兵士の8割とオリジナルと第二世代のリンクスが全てついたため、少人数ながら戦力的には反対者達と互角であった。

7月14日、
アライアンスを離脱した者達の代表にダリオが就任(各勢力の代表者達の話し合いでバーテックス内から選出する事で合意。バーテックス内の話し合いで他の候補者がいなかったため決定。ちなみに自薦)
新代表ダリオは、自分達を正統アライアンスと呼称する事並びに自らが初代正統アライアンス大皇に就任する事と、ラインアークからの要請と提案の受諾とレオハルトを反逆者としCEO解任と征伐を宣言する。
レオハルトは正統アライアンスの成立を認めず、ただの反乱分子と認定し、征伐を宣言。

正統アライアンスは全ネクストとギガベース以外の全戦力をラインアークに合流させ、残った戦力でアライアンスと雌雄を決するべくベルザ高原に向かう

7月16日、
ベルザ高原にてレオハルト率いるアライアンスとダリオ率いる正統アライアンスが、トーラス本社にてレイヴン率いるラインアーク・正統アライアンス連合軍と王小龍操る緑の太陽が戦闘を開始する。

国家解体戦争から始まった経済という神の下に企業が世界を統治するパックス・エコノミカという時代が終わる戦い、俗にいう『企業解体戦争』の始まりである。
 




 
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください


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