小説/長編

Written by 雨晴


『来たな、色男』
『あなたに言われる筋合いはありませんよ、ロイ』

レーダー上、ストレイドの光点がマイブリスに接近する。
キタサキ・ジャンクションに出没したノーカウントと不明機の撃破作戦は、あの男の要望からロイ・ザーランドとの協働となった。

『聞いたぜ?マザーウィルどころかリリウムをも陥落させたってな、別の意味で。お前、BFFの連中に重狙撃されるんじゃないか?』
『・・・そうなのですか?』
『自覚無いのか?天然タラシめ』
「五月蝿いぞ貴様ら」

いい加減イライラしてくる。仲良しこよしで戦争だと?何を考えている。
集中しろ、と一喝。割と静かになった。

「目標はネクスト二機。ノーカウント及び不明機だ」
『了解。マイブリス、行けるぜ。・・・あまり気は進まねえがな』
『ストレイド了解。それは私もですよ、ロイ。申し訳ありません、付き合わせてしまって』
『気にすんなよ。言っただろ、お前の誘いなら大歓迎だって。稼げるだろうしな』
『有難う御座います』
『気が進まないのは、相手がアレだからだ』

ロイ・ザーランドの"気が進まない"と、あの男が言うそれは全く違うものだ。
あの男の気が進まないのは、この作戦が企業の痛手として響かないからだろう。
あまりにインテリオルに喧嘩を売っていたため、「おべっか」の意味を込めて受諾した作戦だが、あの男は最後まで渋っていた。
本当に企業が嫌いなんだな、わからんでもないが。そう思いつつ、管制に集中する。
 
 
 
 
ノーカウント、パッチ・ザ・グットラックか。独立傭兵仲間ではあるが、直接会った事は無い。
ただ言えるのは、怖いのはコイツよりも。

「奥の不明機から叩くぜ。不気味だ」

了解の反応は無かった。まあ、別に構わないが。
不明4脚。今時カラードに登録されないリンクスなんて、ロクなもんじゃない。
何をしてくるか分からないのは、こっちだ。
途端、レーダーが別の反応を捉える。何だ?その疑問に答えたのは、ストレイドの怖いオペレーターだ。

『敵ネクスト、3機目だと?』
「3機目?」

何の為のブリーフィングだ、馬鹿馬鹿しい!その罵声に、おーコワ、とか思う。よくやるな、あんなのの下で。あのリンクス。
ストレイドに目を向ければ、オーバードブーストを展開するところだった。3機目を相手するらしい。なら、4脚の対応は俺か。

「・・・了解、気を付けろよ」

何を言われた訳でもないが、伝えておく。大体解ってきた。このリンクスは、作戦時に人を変えるタイプだ。沈黙系の。
それで協働相手のことを何も考えずに好き勝手やる奴なら勘弁して欲しいが、こいつはそうじゃない。
ちゃんと4脚は俺が相手出来ると判断して、ノーカウントではなく不明機である3機目に向かっている。
良い判断だ。そういう奴は信頼できる。まあ、そう判断されるノーカウントが可哀想だとも思うが。

「なら、お前の相手は俺だ」

背中に背負ったコジマキャノンを充填し続けている不明機。ああ、当たったらまずいな。

「行くぜ」

だが、4脚のプライマルアーマーは薄くなっているところだろう。ガトリングガンを起動。
あの馬鹿みたいに強い新人の信頼を裏切るような事があってたまるか。そう思いつつ、踏み込む。接近戦に持ち込んだ。
 
 
 
 
逆関節機の相手は面倒だ。上下の機敏な動きがサイティングを妨げる。だが、大した問題でもない。
ミサイル接近、多数。だがこんなもの、マザーウィルに比べれば大したものではない。
ノーカウントが遠距離からスナイピングを仕掛けてくるが、極力無視。集中し、確実に不明機を削る。

『まだまだです。落ちませんよ、私の鎧土竜は』

更にミサイル飛来。マシンガンで対応し、弾幕の穴をくぐる。
遠方が緑に光った。コジマキャノンか?だが、ロイがあんなもので落ちるとは思わない。戦闘続行。
ミサイル展開、ノーロックで射出。相手の興味がそちらに移った一瞬、間合いを詰める。
アサルトライフル起動、マシンガン起動。一気にプライマルアーマーを削る。止めに、グレネード。

『まだまだ、まだまだで―――』

オーバードブースト。マイブリスの加勢に回る。だが、それも必要無いらしい。

『マイブリス、不明4脚撃破。あと1機だな』

流石、早い。あと1機、APは問題無し、オーバードブーストをカットし、エネルギーの充填に回す。
各兵装リロード良し、残弾良し、問題無いな。

『おい、なんかアイツ、様子がおかしいぜ』

何がだ、と疑問を抱いて望遠カメラを起動。うっすらと見えたその影は、右腕、左腕の武装を降ろしている。
悲鳴掛かった声が聞こえてきた。

『待ってくれ、降参だ!』

・・・降参?

『俺は、あいつらに頼まれてやっただけだ!』

何だ、それは。

『あいつらが居なけりゃ、戦う意味もねえ』

下らない。

『なあ、分かるだろう?同じリンクスじゃないか』

同じ?お前と?どこがだ。

『すげえなコイツ。感動した』

どうすんだ、お前に任せる。ロイのその言葉に、不意に意思が戻る。

一息。

「・・・任されましても」

だよなぁ、というロイの反応に苦笑する。こちらが武装を降ろすと、オーバードブーストを吹かして逃げていくノーカウント。

『・・・ミッション完了だ』

締りが悪いがな、とセレン。似たような感想を得る。

『了解。マイブリス、帰投する』
「ストレイド了解」

2機併走し、キタサキジャンクションを後にする。

『良い戦いっぷりだったぜ、ルーキー』

ロイの声を聞きながら、相手に見えないながらも一礼する。

「有難う御座います。そちらも流石です、ロイ」
『伊達にランク7背負ってないからな。また誘ってくれよ』

じゃあな、とロイは進路を変えて去っていく。何の意味も見出せなかった作戦だが、彼と協働できたのは良かったと思う。
そんなことを考えながら、帰路についた。
 
 
 
 
 
「成る程。確かにそれは、予想外だな」

王小龍は、受話器を片手に会話をしていた。相手は、以前オーメルに潜伏していた腹心だ。今はアルゼブラに居るが。

「だが、それであの男の能力と行動に合点が行く。強い訳も、企業に属しない訳も」
『消しますか?今のアルゼブラであれば、カブラカンとバーラット部隊、それにレッドラムと戦力が整っています』

必要であればテクノクラートのスタルカも用意できます、とは腹心の言。
確かに、それだけあれば消せるかもしれんとも思う。一瞬、判断を迷う。

「いや、正体は知れた。そこさえ注意すれば、良く動く駒となるだろう。BFFから直接動かすつもりは毛頭無いがな」
『触らぬ神に祟り無し、ですか』

その通りだ、と肯定。ではな、と回線を切断する。目を閉じる。

「結局はあの男同様、企業の駒か。同情せんでもないな」

誰に言うでもなく、そう呟いた。
 
 
 
 
夢だ、これは。わかっている。良く見る夢だ。
ただ広大な砂漠が広がり、振り向けばキャンプがある。懐かしい光景。
戻ってきたのか、そんな錯覚に陥る。

駄目だ、見るな。

「兄さん。それ、どうしたんですか?」
「戦利品だって。要らないからって、防衛隊の人たちがくれた」

意思とは無関係に、会話が進む。

「でも、何を撮るんですか?何も無いですよ?」
「そうだね」

考え込むのは、私であって私ではない。ああ、僕か。

「でも折角だから、何か撮ってみたいですね」
「じゃあ、お前を撮ろうか」

その一言に、ええー、と必要以上に驚く彼女。特に立ち位置なんて気にせずに、数歩下がってファインダーを覗く。砂嵐は止んでいる。
慌てていてぎこちない、可愛らしい笑顔がそこにあった。

目が覚める。
数瞬呆け、泣いている事に気が付いた。
女々しいな。そう思い目元を拭いつつ、フォトスタンドに手を伸ばす。
あの時は現像の仕方なんて知らなくて、出来上がったら見せてやるなんて言っていたけれど。
一度も見せてやることの出来なかった、慌てていてぎこちない、可愛らしい笑顔が此処に在る。

今の私を見て、こいつはどう思うだろうか。怖がるだろうか。
父親をしてくれていた、尊敬していたあの人は、怒るだろうか。
人種の違う兄妹に暖かく接してくれていた皆は、軽蔑するだろうか。

―――それでも、私は。

噛み締める。血の味がした。
ホワイト・グリント撃破。その任務が今日、私に下される。
企業に損は無い。いつもの私なら拒絶する。

だが。

私から全てを奪っていった元凶であるあのリンクスと対峙出来るのであれば、例えそこで死んだとしても構わない。
あのリンクスに罪は無い。ただ企業に与えられた任務を遂行していただけだ。
だが、それでも。それでも。

あのリンクスだけは。


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