小説/長編

Written by 雨晴

『ネクストだと?』

彼の頭に敵機の通信が響いた。一つ息を吐く。

『くそ、こんな時に限って!』

敵の頼みの綱は、今は居ない。
―――行くぞ。
ジェネレーターが唸り、メインブースターに火が灯る。前進。
前方、MT。グレネードを展開。射出、破壊。同じく右方、射出。

『プライマルアーマーだ!まずはプライマルアーマーを減衰させるんだ!』

敵の通信を雑音としてカット。オーバードブーストを起動、一瞬で音速を突破する。
MT確認、回り込み、ミサイル展開。ロック、射出、排除。
被弾、敵ノーマルを背後に確認、クイックターン。右腕及び左腕兵装へ切り替え、至近距離戦闘。
クイックブーストでノーマルに迫り、飛び越える。再びクイックターンで背後へ。
右腕のアサルトライフルがノーマルの装甲を突き破る。左腕のマシンガンが頭部を抉り取る。
最後の一機。離脱する気配無し。グレネード展開、射出。ブースターを吹かし、一気に肉薄する。

―――終わりだ。

銃弾に貫かれ、崩れ落ちるノーマル。見下ろす機体は、ストレイド。

『敵機全滅を確認』

男に通信が入る。機体を待機状態に、AMS接続を解除する。

『良くやったな、ほぼ完璧だ』

もう一つ、息を吐く。ほぼ作業だったためか。疲れはそこまで感じない。。

『とは言え、あまり調子付くなよ。敵が弱すぎたのだからな』

辛辣な声色を聞き、了解の意を伝える。回収ポイントまで自力で到達しなければ、任務完了とは言えないだろう。
そう自分に言い聞かせ、機体の待機状態を解除。海上都市を後にする。
 
 
 
 
 
 

「戦闘ログだ。目を通しておけ」

彼が着替えを終えて殺風景な廊下を歩いていれば、命の恩人に遭遇した。

「寝たいのですが」
「聞こえなかったか?」
「・・・了解しました」

そんな端的なやり取り。じゃあな、と踵を返す女性を見送り、自室を目指す。
人気の無い、ゴミのひとつも無い、殺風景。自動ドアが彼を迎える。

「ただいま」

誰に言うでもなく呟き、ベッドに腰掛ける。キシリと音を立てて、彼を支える。ひとつ溜め息。
渡された数十枚からなる書類に目を通していく。場面ごとの、より最適な結果を得られる行動を脳内でシミュレート。それも、14枚目で力尽きる。
死んだように眠る彼を見守る写真があった。まるで生活感の無い部屋で、唯一のフォトスタンド。
それは、彼が無くしてしまったもの。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「悪くない」

数十枚の戦闘ログを片手に、メインカメラの映像を再生していた初老の男が呟いた。

「AMS適正がそれなりにあって、ネクストも上物だ。この程度、当然だろう」

隣に座る女性、セレン・ヘイズがそう答え、しかし男は否定する。

「なかなか良い動きをする。それに、初陣でアリーヤフレームをここまで動かしているんだ。有望だろう」

ただ、と言葉を濁した男にセレンが反応した。先に言葉を紡ぐ。

「独立傭兵というのが気に入らない、か?王小龍」

一瞬、沈黙が生まれた。互いにけん制するような、そんな間合い。
先に口を開いたのは、王小龍だった。

「報酬は弾む。望むなら063だって与えてやろう」
「アイツは、BFFには懐かないさ」

彼女はマグカップを呷る。

「必要なら雇えばいい。怖いなら殺せばいい」
「ふん」

王小龍は思う。このリンクスは恐らく化けるだろう、と。
ならば。

「必要になれば連絡する」
「そうか」
「GAの老人達には伝えておこう。使えそうな駒が見つかったと」
「感謝する」

ではな、とセレンを残し去っていく王小龍をマグカップ片手に見送り、彼女はリピートされる戦闘記録を眺めた。
かつての自分がそこに居て、しかしそれは自分ではない。
もう一度マグカップを呷る。中身はコーヒー、もう冷めてしまっている。

「まあ、無理にGAに頼る必要もあるまいが」

一言呟き、部屋を後にした。おそらく近いうちに、GAからオファーがあるだろう。準備をしなければならない。
それが、今の彼女の姿だった。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
その日、ミミル軍港は騒然としていた。突如レーダーが感知したネクスト反応が、刻一刻と近付いてきている。

「こちらの通信は受け付けないか」
「はい艦長。敵ネクスト、未だ接近中です。数十秒後、本軍港上空に差し掛かります」
「・・・まあ、そんな簡単に止まってはくれないだろうな」

CIC内、艦長と呼ばれた男が遠い目をする。ネクスト。通常兵器とは一線を画す、強力な戦闘機械。
いくら艦船の自動化が進んだからといって、それでもまだ多くの人員を要する船だ。彼らを殺すわけにはいかないし、容易く沈むわけにもいかない。

「敵ネクスト、降下開始!」
「接敵まで10秒!」

迎撃だ。迎撃のほか無い。やれる限りのことをしよう、そう心に決める。

「各砲及びミサイル、目標前方、敵ネクスト!ありったけ撃ち込め!」

各班から返る了解の声に、砲撃音が重なる。何度も聞いてきた、耳に残る音。
だが、敵は早い。

「巡洋艦ハーディンとの交信途絶、撃沈!」
「空母バルチャー沈黙!早過ぎます、追い切れません!」

回頭だ、頭の中で艦長が思う頃には、目前にはもう独特の複眼がある。
舌打ち。

「化け物が」

次の瞬間、視界が染まる。何色かまでは、わからなかった。

 
ミサイル接近、サイドクイックブースターで回避、グレネード、敵巡洋艦撃破。

『この辺りは片付いたか』

オーバードブースト。

『他に向かえ、時間は限られているぞ』

オーバードブースト継続、敵施設へ侵入、マシンガンによる防衛部隊の殲滅、大型艦確認。

『敵アームズフォートを確認、ボーナス対象だ』

優先して撃破しろ、その言葉に反応する。残弾確認。マシンガン200、アサルトライフル50、グレネード3、ミサイル12。
足りない、そう判断する。見渡せば、補給艦を確認。補給艦へグレネードを射出。大爆発を引き起こす。

『よし、敵アームズフォートは落ちたな』

クイックターン、連続クイックブースト。残り2発のグレネードを使用、巡洋艦と空母を4隻巻き込む。
最後の1隻。ミサイル接近、マシンガンで対応、敵艦へ接近、そのままマシンガンを使用し、撃沈。
敵反応、ゼロ。
戦闘終了。

『素晴らしい戦果だ。感服したよ』

彼女には珍しい破格の褒め言葉を聞きながら、息を吐いた。
大量殺人だ。達成感や、ましてや嬉しさなんて微塵も感じない。代わりに吐き気を催す。AMSを理由にして、抑えこんだ。
こんな事をしても、あいつは喜ばない。そんなことは、わかっているのに。

「ストレイド、帰投します」

けれど今の自分には、これしかないのだから。
だから。
 
 
 
「王小龍?」

グローバルアーマメンツ社、通称GA。本社内、それも重役だけが立ち入ることが可能なフロア。
本来部外者である筈の王小龍らしき後姿を見つけたローディーは、訝しげに声をかけた。振り向いた初老は、紛れなく王小龍だ。

「何をしている」
「報告だ。老人達にな」

貴様も十分老人だろうが、という言葉は胸に仕舞い込んで、理由を探す。

「例のルーキーか」
「ああ。それもある」

ラインアーク防衛戦力を、ものの数十秒で突破したというルーキー。それも、独立傭兵。

「そんなに凄いのか、そのリンクスは。貴様が執心するのはウォルコット嬢くらいだと思っていたが」
「戦力判断調査に仕組んだミミル軍港襲撃作戦、聞けば成果は予想よりも遥か上だったらしい」
「具体的には」
「全滅だ。防衛部隊と、停泊していたスティグロを含めて」
「・・・全滅?」

ミミル軍港の規模はローディーも知っている。インテリオルの旗艦であるティターンも、あそこを根城にするくらいだ。

「気を付けろよローディー。油断していると食われるぞ」

そうだな、と首肯。

「独立傭兵というのが不気味だ」

通常、そんな才能や能力を持つリンクスが独立傭兵である筈が無い。社会的な地位や経済的な面から鑑みても、企業からの見返りが大きいからだ。
無論、企業の目もある。今の時代も、どの企業だってリンクスという存在を喉から手が出るほど欲している。それが、どうして。

「ちなみにそのリンクスだが、セレン・ヘイズに飼われている」

わかるか?という問いに、記憶を掘り返す。

「・・・霞スミカ?レオーネの元リンクスが、なぜだ」
「そこまではわからん。だが、言えるのは―――」

含みを持たせる一拍。

「確実にGAグループにも牙を剥いてくるだろう、という事だ」
「だとすると、もう少し情報が必要だな。まだ対ネクスト戦のデータは収集出来ていないのだろう?」
「ああ」
「私がやるか?そのリンクスに興味がある」

王小龍が、そうだな、と考え込む。すぐに顔をあげた。

「いや、こちらでやろう。私の名前のほうが、カラードも動きやすいだろうしな」
「だが、ある程度腕の立つ者でなくては意味が無いだろう」
「ああ、わかっている」

王小龍の頭に、ある少女の姿が浮かぶ。

「その時にはとっておきを送り込んでやるとも」

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