Written by ケルクク


No.40 ~語られざる物語~ No.14 二羽の鴉

「見事なものだ」
男はリアルタイムで送られてくる映像に感嘆の呟きを漏らす。
映像では一機のリンクスが次々とノーマルを撃破していた。
国会解体戦争時代や、ただのテロリスト相手ならともかく、対ネクスト用の戦術をもち実戦経験豊富な企業の正規部隊を相手にこうも一方的に蹂躙するのは中々出来る事ではない。
これがオリジナルどころか企業所属ですらなく、ほんの数ヶ月前にネクストに乗ったばかりのリンクスがやっているなど、自分と彼女以外では信じられないだろう。
「ネクストに慣れていないから致命的でないとはいえミスそのものは多い。だがそれを立て直す速さは戦場に慣れてるからか。流石、歴戦、いや伝説の傭兵だな」
とはいえ、ネクストに乗った時間と、半ば開発者としてネクストに関わり熟知している分、自分のほうが強い。この差は彼の戦場の経験でも埋める事が出来ないだろう。
今は。

この差はいずれ彼がネクストに慣れたら埋められる。そうなれば後に残るのは圧倒的な実戦経験の差だ。
ある時期を過ぎたら永遠に彼に勝てなくなるだろう。
いや、自分だけではない。他のリンクス、オリジナルですら例外でない。オリジナルですら彼に勝つことは出来なくなる。
それを企業や他のリンクスは自覚しているのだろうか?
…自覚してはいまい。これは映像でなく彼と直接相対した者しかわからない。
…彼を倒すべきだ。今ここで殺しておかないと彼は強くなり過ぎる。そして強くなった彼は世界を、アスピナを壊す。

だが、彼を殺す事はアナトリアの、彼女の破滅を意味する。
…そんな事が出来るのか。裏切り止めただけでなく、直接的に止めを刺す事が私にできるのか。

『ネスタ達をこうも早く片付けるなんて見事なものだな。伝説は未だ健在ってところか』
『俺は伝説なんかじゃねぇよ。昔からただの傭兵だ。それ以上でも以下でもない』
迷っているうちにノーマル部隊がやられ、クリティークが出てくる。
『…そんなアンタだから俺達レイヴンは憧れた。アンタの背中に追いつこうと努力した。
 アンタが味方ならどんな絶望的な状況でも何とかなると思ってたし、アンタが敵ならどんなに優勢でも逃げる算段をした方がいいと思った。
 正直、国家解体戦争中はバーテックス攻略組みに回らないように祈ってたぜ。ネクストとノーマル程度の差じゃアンタは何とかしちまうからな』
『ハッ、買いかぶり過ぎだ。俺には時間稼ぎが精一杯、いや、その時間稼ぎすらジャックのおかげさ。俺は何もしてやしない。
 ネクストに乗り換えてからも苦戦の連続だ。今生き残ってるのもただついてるからだ』
不思議だ。彼らは敵同士なのにまるで旧知のように話している。
特にクリティークは同僚を討たれた筈なのに、どうしてああも落ち着いて話せるんだ。
『確かにアンタの戦いを映像で見た限りはそう思ったよ。所詮、過去の栄光だってな。
 だが違った、こうして実際に戦う所を見てみてわかった。アンタは変わってない。
 自分の翼で空を飛ぶ鴉のままだ。飼い猫になった俺とは違う』
『変わらねえよ。俺とお前に違いはないさ』
『そうか。ありがとう』
両者の間に沈黙が満ちる。

『困ったな。アンタに会えたら色々話したり聞きたいことがあったんだが、いざあってみると何も思いつかないな』
沈黙を破ったのはクリティークだった。
『まぁ、鴉だしな。そろそろやるか?』
『そうだな。鴉が敵同士であったらやる事は一つか』
両者の間に殺気が高まっていく。
2人の決着が付く前に俺は決めねばならない。どちらに味方するか。
アスピナ(未来)の為にフィオナ(過去)を殺すか。
フィオナ(過去)の為にアスピナ(未来)を危険に晒すか。

俺は決めねばならない。
 




 

星を見る人

空には数え切れないほどの、圧倒されるほどの、見惚れるほどの満天の星。
研究所の屋上に寝そべり星空を見上げていた男はふと、手を伸ばせば届きそうだなと思い輝く星に手を掴む。
だが、当たり前だが伸ばした手は何も掴めなかった。
「ふ、私も進歩がないな」苦笑し男は手を下ろす。
「何をしているんですか、NO8?]
「アンジーか。空を、いや、星を見ていただけだ」体を起こしながら屋上の入り口に立つ女に声をかける男。
「隣よろしいですか?」「あぁ」
男の了解を受けて女が男の元に歩き、男の隣に腰を下ろす。
「しかし、星ですか。意外と詩的な趣味をお持ちなんですね、NO8」
男の意外な趣味をからかい半分で女が茶化す。
「ACの操縦しか能のない男でも趣味の一つぐらいあるさ。まぁ、似合わないのは解っている。NO2にもよくからかわれるからな。
 だが、それでも見ておきたかったんだ。肉眼で星を見れるのはこれが最後だろうからな」
男の言葉に様々な想いが込められている事を悟った女は、隣にいる自分を見ずに空を見続ける男の顔を見つめ言葉に籠められた想いを探ろうとする。
だが、研究一筋に生きてきた女には自分の倍以上の年月を生きてきた男が何を考えているのかはわからなかった。
「……後悔しているのですか」逡巡の末、女は男に問う。
普段なら聞かない。興味本位で他人の内面に踏み込むのは女の主義に反する。
だが、今聞かなければ答えは二度と得られない。明日には男が、そして近い未来に自分も人ではなくなってしまうのだから。
「…そうだな。後悔しているな」「ならばまだ止める事が出来ます」
「いや、止めない」「私の研究の事を気遣っているなら問題ありません。たしかに、ゾディアックの適正は素晴らしいですが他の候補は」
「そうじゃない。そうじゃないんだ。アンジェリカ」男は昔のように女の頭を撫でながら首を振る。
「迷いも躊躇いも後悔もしてる。当然だ。明日には私は人ではなくなってしまうのだから。
 今日まで持っていた物を棄てる事に逡巡するのは人として当然の弱さだ。
 だから、お前も我等がデザインドになる前に最終確認という名目で引きとめて回っていたのだろう?
 NO3とNO10がお前がプライベートで自分達の所を訪ねてくるのは初めてだったと驚いていたぞ」
「それは!…その…」全てを男に見透かされた女が赤面し咄嗟に反論しようとするが、図星だった為に何も言い返せず口篭る。
男は初めて星から女に視線を移し、しっかりと女の目を見ながら言い聞かせる。
「だが、誰もお前の提案に首を振ることはなかったはずだ。当然だ。デザインドの被検体になる事を決めたのは我等だ。
 軍の命令でも、お前の為でもない我等の決断だ。
 我等は自分の意思で全てを捨てて力を手に入れる事を選んだ」
「自分の意思すらも失ってしまってもよいのですか?」
「あぁ。我等は我等が迎えるであろう結末を知ってもなおこの道を選んだ」
「発言の意味が不明です。私にはあなた達の考えがわかりません、NO8」
首を振り静かに涙する女の顔から男は目を逸らし、再び空に目を向ける。
「我等が馬鹿だからだよ、アンジー。
 …子供の頃、今日のような満天の星空を見て私は星が掴めそうだと思い手を伸ばした。
 愚かな事だ。いくら子供とはいえ星が宇宙の果てにある事は知っていたのにな。
 当然掴めるわけがない。だが、悔しくなった私は跳ねたり、踏み台を持ち出したり色々試してな。
 最終的には周りで一番高い建物であるACガレージの屋根の上で思い切り跳んで、見事に足を滑らせ転がり落ちた。
 骨折程度ですんだのは奇跡に近い。途中で木に引っかからなかったか、足ではなく頭から落ちていたら死んでいただろうよ」
「…今の冷静沈着なNO8からは考えられません」老成した男の子供の頃の失敗談に泣き止み、微笑う女。
「無駄に年月を重ね多少の分別と知恵は付いたが本質的にその頃と私は変わらないのさ。
 だから、今も最強という星を追い求めている。
 そんなもの幻想に過ぎないと知っているのにな。
 だからお前が気にする必要は無い。馬鹿は死ななければ直らないというだけの話だ」
そういって男は空に向かって手を伸ばし、何かを掴むように手を閉じる。
「やはり掴めんか」苦笑した男が手を降ろそうとしたのを、女が止め再び空に向けて伸ばす。
「いえ、今は掴めなくともいつか必ず掴めます、NO8」
「そうだな。私、いや我等とお前でいつか必ず掴もう。
 さぁ、そろそろ部屋に戻れアンジー。用件は済んだだろう。子供はそろそろ寝る時間だ」
「子ども扱いしないでください、NO8」
「では、そろそろ寝ないと美容に悪いぞ、アンジェリカ」
「からかわないでください、NO8。それに私の用件はまだ終わっていません」そう言いながら立ち上がる女。
「まだ何かあるのか?」
「はい」そう言いながら立ち上がった女は服を脱いでいく。
「何を!?」慌てて身を起こす男を無視して全ての服を脱ぎ捨てた女は男の前に自分の体を隠す事無く立ち、告げる。
「私を記憶してください、NO8。あなたを記憶させてください、NO8。
 私達はこれから人ではなくなり、私達の記憶はただの記録に堕ちます。それでも私は私達を残したい。
 何百年か後に私達を記憶している人がいなくなってしまった時のために、私は記録でもいいのであなたに覚えていて欲しい、NO8。あなたを覚えていたい、NO8」
満天の星空の下に晒される女の裸体に見惚れ、自分に訴えてくる女の想いにうたれた男は、暫く迷い、逡巡し、やがて首を横に振った。
「アンジェリカ。知っているだろう。私は肉体年齢こそお前より若いが、実際にはお前の倍近く生きている。
 おむつを替えた事すらあるお前を今更そんな対象には「お願いします、NO8。いえ、レオ」
男の言葉を遮り頭を下げる女。
「お前にはもっと相応しい「あなたがいいんです、レオ。それとも、レオは私の事が嫌いなのですか?私には女としての魅力がないのですか?」
男の言葉を再び更に遮り詰め寄る女。
「その言い方は卑怯だな。嫌いでないと好きは同じではない」
「そうですね。すいません。ですが答えをはぐらかし、一般論で逃げるのも卑怯だとおもいます」
「…はぁ。死んで両親に似てきたな。了解した、アンジー」
「ありがとうございます、NO8」
 




 
後書き
 
某所からの移送です。良ければ見てください。




 
「NO2、NO8、こちらに接近する機影があります。迎撃の準備を」
「了解した。なぁ、アンジー」
「なんですか、NO8」
「星を掴めると思うか?」
「発言の意味が不明です、NO8。星を掴める筈がありません」
「そうか。そうだな」


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人間には二種類いる。パンツを被る人間とパンツを食べる人間だ
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