小説/長編

Written by えむ


 機体を前へと飛ばす。
 前方には砂煙を上げて前進してくるブラインドボルトの姿。距離は、まだ遠距離。
 それにも関わらず、イリアは両背のプラズマキャノンを展開し、ブラインドボルト目掛けて先制攻撃とばかりに撃ち放った。
 同時射撃ではなく時間を数秒開けての偏差射撃。とは言え、それでも当てるには遠すぎた。スナイパーキャノンのような高速弾ならともかく、プラズマ弾の飛行速度は決して遠距離攻撃に向いている物ではない。
 距離さえあれば、発射を確認してからでも充分に回避はできる。当然のように、ブラインドボルトは回避行動へと移り、プラズマキャノンを避ける。
 さらに前へと距離を詰めながら、イリアはさらにプラズマキャノンを放った。さきほどよりも距離は縮まったが、それでもやはり必中の距離ではない。だが、それで問題はない。
 武装をプラズマキャノンから、両手のアサルトライフルへとシフト。そして一気に前へと飛び出すために、オーバードブーストを起動する。
 膨大な出力によって機体が前へと押し出される。その瞬間。ブラインドボルトのバズーカが正面から放たれた。

「……っ!?」

 条件反射とも言える反応速度で、右方向へとクイックブーストをかける。すぐ脇をバズーカの弾がすり抜けていく。ゼロコンマのタイミングでの回避だった。

『今のを避けるか…』
 
 オーバードブースト起動直後。経験上、そのタイミングを狙うことが出来れば、ほとんどの場合直撃させることができるというのがヤンの考えであった。オーバードブーストを使うと言う事は、前に出ることを考えているわけで、横に動くことはまず考えない。前に一端飛び出してしまえば、次の動きを考えるだろう。だが、その前なら話は別。前に行こうと踏み出した瞬間、足元に穴が開けばほとんどの人は落ちることになるのだから。
 だが何事も例外はある。そしてイリアは、まさにその例外であった。
 
「あ、危なっ?!」

 絶妙なタイミングで狙ってきた一撃をかろうじて回避したイリアはコクピットで肝を冷やしていた。避けれたからよかったものの、それでも生きた心地はしない。自分ですら避けれたのは奇跡と思える回避だったのだ。
 とはいえ、いつまでもそれに気を取られているわけにはいかない。すぐに意識を切り替える。オーバードブーストをわずか2~3秒吹かして距離を詰め、すぐにカット。その勢いが落ちる前に前方へのクイックブーストで、前へと大きく跳ねる。
 両手のアサルトライフルでブラインドボルトを牽制しつつ、その頭上を飛び越えるように、その後方へとすり抜ける。
 すぐさま、ブラインドボルトは後方へとクイックターンで旋回する。だが、すでにそこにランスタンの姿はない。

『……何…?』

 直後。ブラインドの背後。斜め上空から、いくつもの弾丸が浴びせられた。その場からクイックブースト持つかいながら退避し、攻撃を受けた方向へと振り返る。一瞬、ランスタンの姿が映るも、すぐにその姿は視界の死角へと見えなくなる。
 攻撃を追って相手を視界に捉えようとするが、巧みな機動によって捕捉すらままないまま翻弄され、アサルトライフルの銃火にさらされ続けてしまう。何かの拍子に相手の姿を視界に納めても、FCSが捕捉する前に視界外に回り込まれ、攻撃のチャンスすら得られない。
 レーダーを頼りに動きを先読みしようにも、ECMをばらまきながら攻撃しているらしく、レーダーは全く役に立たないままだった。
 唯一の救いは、相手の火力の低さか。相手は機動重視で動くことに重点を置いているらしく、プラズマキャノンは使ってこない。最もランスタンであることを考えれば、無闇に撃ちまくるわけにはいかないのだろうが。
 
「(……対ネクストは初めてと聞いていたが)」

 ブラインドボルトの装甲なら、すぐに落ちることはない。そう判断したヤンは、なんとかイリアのランスタンを視界におさめようと動きながらも、相手の力量に驚いていた。噂でとんでもない新人リンクスがトーラスにいるとは聞いていたが、ここまでとは思ってもいなかったのだ。
 何よりも、こちらの死角に張り付き続ける技量が凄まじい。レーダーが潰されているため、正確なことはわからないが、相手が近距離を保ったまま張り付いているのだけは確かだった。イリアのランスタンを捕捉できたわずかな瞬間。その時は決まって、かなり近い距離なのだ。
 こちらも振り払おうと動き回っているにも関わらず、振り払うことが出来ないまま、少しずつ確実に削られている。

「(……俺のブラインドボルトが重量機とは言え、ここまで死角に張り付くとはな…)」

 状況からすれば不利なのだが、ヤンは冷静なままであった。
 ランスタンとブラインドボルト。この二機は全ての点に置いて対照的だ。高機動軽装甲でなおかつ手数で攻めるタイプのランスタンに対し、ブラインドボルトは重装甲で動きこそ遅いものの一撃の威力が大きい。
 さらにリンクスとしても、イリアが新人ながらにしてある種の天才であるのに対し、ヤンは長年戦場にいた熟練の兵士だ。ほとんど全ての面で対極と言えるが―――決定的な差は二人の間にはあった。時間である。
 
「(だが、死角をつくことで被弾する危険を減らしているのなら―――それならそれで手はある。シミュレーターだからこその…手だが)」

 ブラインドボルトがオーバードブーストを起動した。そして全速力でその場から退避を始める。

「逃がさないよ…!!」

 一気に離脱を始めたブラインドボルトを追って、イリアもすぐさまその後を追撃する。やがてブラインドボルトはおもむろに途中で、その足を止めた。そして振り返りざまに、右手のグレネードキャノンをランスタンへと放つ。
 最初の一撃よりも対応する余裕のある状況で当たるはずはなく、イリアはその一撃を通常ブーストのよる軌道修正で回避する。そして両肩からECMメーカーを射出し、再び死角からの攻撃を行おうとする。

「……あ?!」

 が、すぐに――それが出来ないことに気づいた。
 ブラインドボルトの陣取った位置。それはシミュレーターでの戦闘領域の境界ラインギリギリの位置であった。
 もし、これでブラインドボルトの死角。背後を付こうとすれば―――この戦闘はエリアオーバーで自分の負けとなってしまうだろう。ぶっちゃけ撃墜されるより遥かに嫌な負け方だ。それだけは絶対にイヤだ。

「ヤンさん、それずるい…!!」
『地形や建物を利用して相手の動きを制限する。これは戦闘におけるセオリーの一つだぞ』
「…う…」

 ヤンの正論に、イリアは言葉に詰まる。確かにその通りだ。そしてヤンからすれば、利用できる地形を使っただけ。ただシミュレーターならではの地形だっただけだ。

『今度は、こちらも攻撃可能だ。いくぞ』

 ブラインドボルトがバズーカとハイレーザーキャノンを展開し、攻撃を放ってきた。

「…っ?!」

 それを左右へと動き回って回避にうつるイリア。対抗してアサルトライフルで応戦するも、ヤンとて熟練のリンクス。上手く動き回り被弾を減らしつつ反撃をしてくる。

「…さすがにこのまま動き回ってたら…っ」

 回避を続けながらも、イリアの表情に焦りの色が浮かぶ。クイックブーストを巧みに使って回避を続けてはいるが、クイックブーストとは言え無制限に使えるわけではない。このままだと先にこちらが息切れしてしまうのは時間の問題だ。
 だが、イリアには、まだその対策手段が浮かばない。そして何度目かの回避行動を取ろうと、クイックブーストを使おうとした瞬間。EN量が足りないことを知らせる警告音が響いた。

「……っ?! …ひゃっ!?」

 本来なら避けれたはずのバズーカの一撃を思うように動けなかったがために直撃をもらう。その一撃を受けて機体のバランスが崩れたところに、間髪入れずブラインドボルトのグレネードキャノンが追撃を叩き込む。

「~~~~~~~っ」

 ランスタンのPAは厚い方だが、マシンガンとかならともかく、バズーカやグレネードキャノンを防げるほどのものではない。まして地の装甲は薄いランスタン、たった二撃とは言え、重火力兵装によるダメージは無視できるものではない。

「(……どうしよう…)」

 最初こそ、こちらのペースだったものの、いまや主導権は完全にブラインドボルトに握られていた。
 本格的な対ネクスト戦闘は初めてだが、対ネクストの訓練自体は何度かやっていた。その上で身につけたのがECMによってレーダーを封じ、それでもって高機動を生かしての張り付き戦法だったのだ。だがそれが通用しなくなったとわかった時点で、イリアのペースは崩れていた。

「(……これが実戦だったら、私終わっちゃう)」

 シミュレーターだから落ちても大丈夫。だけど実戦だったら無事で済むとは限らない。

「(うぅん。それは今考えることじゃない。後でも充分だ。まずは―――)」

 どうやってこのピンチを乗り越えるか――だ。攻撃にさらされれば、ランスタンの息が切れてしまうのは確実だ。ただ息が切れるまでは、ほぼ回避も可能。じゃあ、どうする? そう聞かれれば、息が切れる前に勝負を決めるしかない。
 アサルトライフルではブラインドボルトは削りきれない。いや、削りきれないわけではないが、時間がかかりすぎる。
 プラズマキャノンでは、ENを消費してしまうので、先ほどの二の舞になりかねない。ましてEN防御もそれなりにあるゼルドナーだ。
 となれば、残る武装は格納にあるレーザーブレード2本。

「――いけるかな」

 浮かんだ一つの考え。だけど、それが上手く行くかと言われれば自信はちょっとない。ほんの少し、不安に駆られるイリア。
 と、そこで何の脈絡もなく、それまで黙ってみていたオウガから通信が入った。

『イリア君。トーラスの社訓を思い出すんだ』
「社訓…?」

―――言われて思い出してみる。

社訓その①、全ては技術より

   その②、思い立ったが吉日。

   その③、やりたいようにやればいい。

   その④、失敗は成功の元

   その⑤、終わりよければ全てよし

 他所の企業が知ったら、いろいろ突っ込まれそうな社訓ではある。というかたぶん誰もが頭を抱えることだろうトーラス以外。
 だが、こんな個性溢れる社訓でも―――今のイリアにとっては大きな意味があった。

「……そうだね。まずはやってみる」

 どこか吹っ切れた様子で、正面のブラインドボルトへと視線を向けれる。EN消費を抑えるため、プラズマキャノンをパージし、同時に少しでも軽くする。
 
「――勝負っ!!」

 ブーストをカットし、いったん地上へと降りる。案の上、グレネードキャノンがその着地地点を狙って放たれるが今度は当たらない。高度を下げつつも地面につく前に、正面へとクイックブースト。アサルトライフルを撃ちながら突撃をかける。
 対するブラインドボルトの対応も見事なものだった。下手に回避行動をとるよりも、ダメージを与えるほうが勝率は高いと判断し、境界ラインにそって移動し、少しでも距離を稼ぎながら攻撃しかけてくる。
 それでも機動性はランスタンのほうが遥かに上だ。
 さらに前へ。バズーカを避ける。グレネードキャノンを避ける。さらに距離を縮めるべく、オーバードブーストを起動。
 発動した瞬間。莫大な推力によって機体が前へ飛ぶ絶妙なタイミングで、バズーカが放たれる。
 だが今度は、イリアもそれを予測していた。オーバードブーストで機体が前に飛んだ瞬間、すぐにオーバードブーストをカットし、浮きかけた機体を強引に接地させ、そのまま寝かせるように体を倒し、バズーカの弾の下をスライディングで「潜り抜ける」。
 そしてそこからクイックブーストを使って機体を強引に跳ね起こし、アサルトライフルをパージ。格納からレーザーブレード2本を取り出し、斬りかかる。

「これでっ!!」
『…なっ?!』
 
 横でも上でもなく正面突破。予想外な回避方法からの攻撃に、さすがのヤンも反応が遅れる。だが遅れはしても、それでもはやりヤンは熟練の兵士であった。

『良い手だ。だが…っ!!』
「えぇぇっ?!」

 ランスタンの両手のレーザーブレードをブラインドボルトの両腕を盾にして受け止め、それと同時に右背のハイレーザーキャノンを展開。
 その砲身の先にあるのは、ランスタンの頭部だった。そして、ハイレーザーキャノンが容赦なく放たれた。






「やぁ、おつかれさま。ご感想は?」
「ヤンさん、すごく強かった。それに全然違う。ノーマルとかとは」
「そりゃあそうだ。ネクストとノーマルは別物だし、ヤン君とイリア君じゃ年季も圧倒的に違うからねぇ」
「そうだね。これからだから、もっとがんばる」

 そう言って笑顔を見せるイリア。そこへもう一つのシミュレーターから出てきたヤンが近づいてきた。

「お疲れ様だ。―――ほんと大したものだな。最後の回避は、さすがの俺も意表を突かれた」
「あ、ヤンさん。それを言うなら、ヤンさんだって。あんなことしてくるなんて、私だって考えもしなかったんだから」
「予想外の事が起こるのも戦場の常だ。そして、それに直面した時こそ、兵士としての真価が問われる。覚えておくといい」
「はいっ」

 ヤンからのアドバイスを心に留め、イリアは元気に頷く。それから、ふと何か思いついたように、イリアはヤンの顔を見上げて尋ねた。

「ヤンさん…、一つ聞いてもいいかな?」
「なんだ?」
「私、強くなれるかな…?」
「む? ……。俺が見る限り、君は強くなれるだろう。これからと言ったところか。だが、なぜそんなことを?」
「ちょっと気になったって言うか。とりあえず、ありがとうございます」
 
 ヤンの返事に少し視線が泳ぐも、イリアはすぐに明るい表情へと戻り笑顔を向けるのであった。

~つづく~


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 対ネクスト書いてたら、ボリュームが倍増した不思議!!
 さてイリアのスタイルですが、まだ完全には固まっていなかったりします。
 とりあえず高機動戦主体なのは確実ですが、いまだ試行錯誤中。そのため、武装などは今後も変わるかもしれません。
 
 それでは今回もお付き合いいただきありがとうございました!!


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