Written by 独鴉
エピソード3 全ては夢物語
あらたな神のパーツを回収しようとしたとき、突然現れた新たな美少女戦士 リリウム・ウォルコットに奪われ、メイは弾薬が尽きたので補給に帰ってしまった。
しかしモフの話ではリリウムから異変を感じるという。
「同じ魔法少女が異変だと?」
スミカは杖をリリウムに向けるといつでもシリエジオを召還できるよう身構える。
「先生のご命令です。老害な似非魔法BBAは消えてください」
スミカの表情はほとんど変わっていないがこめかみに青筋が浮き上がり、周囲が揺らめき怒りのオーラのようなものが現れる。
「リリウム、どうやら 命は惜しくないようだな」
どう消し去ってやろうか、その思いが心を支配しかけていたがリリウムは気にかけている様子はなく、右手を空に向けるとクルクルと回転し始める。
「BFFレーザーパワー メイクアーーップ」
光を纏いながら周囲にアンビエントの装備が現れ体に装着されていく。どうやら魔法美少女戦士リリウムはスミカの様に強大な力を維持したまま部分的に召還するのではなく、サイズと力を落とすことで身にまとう鎧のように力を行使できるようだ。
「シリエジオ!」
スミカは自らの周囲にシリエジオの両腕を召還しリリウムを捕まえようとするが、動きは素早く身をかわし空中を飛び回る。
「魔法少女スミカ、遅いですね」
躊躇なくレーザーライフルをスミカに向けてトリガーを引くが、プライマルアーマーによって完全に防がれる。しかし単体戦特化に近いリリウムと万能に近いスミカではやや相性が悪い。
どうすべきか悩んでいると遠くから高速で接近してくる気配をスミカは感じた。前に感じたことのあるものと同じ系統これは。
「魔法少女戦士 ウィンD見参! リリウム、お前の相手は私だ!」
颯爽と現れるレオタードな魔法少女戦士 ウィンD、相変わらず防具を纏う事はないようだが、プライマルアーマーを鎧状に纏えるらしくレイピアを構え光り輝いてる。
「リリウム、後は任せるぞ」
翼が消えると小さなフクロウがリリウムの背後から飛び去る。
「スミちゃん、異常が離れていくモフ!」
「王小龍が異変だったか。リリウムはウィンDにまかせ、モフ追うぞ」
リリウムと ウィンDが戦い始めたのをしり目に、王小龍を追うとしたスミカとモフの前に二つの存在が迫ってきていた。速さからあらたな異常な存在かとスミカは一旦追わずに待ち構えると、現れた二つの存在がなんなのか判明し唖然とした。
「狂おしき美貌の魔女 スティレット」
どうみても某痴魔女、年を考えてなさ過ぎる格好に同期のスミカは痛々しさを感じ片手で顔を抱えてしまった。
「清流のように清貧 魔法戦士 エイ=プール です!」
もう一人、魔法少女だというのに胸元にネームの入った上下ジャージの姿にモフは何か悲しさを覚えてしまう。どう考えても学生時代に着ていたモノを流用しているとしか思えない。
「永遠の若さは私のもの!」
「借金完済!」
魔法少女の量産状態、神はやたらめたらに声をかけて自らのパーツを集めさせているようだ。恐らくシャミアやリザイアも魔法少女になってパーツを求めているだろう。
『さぁ、パーツを渡すのです!』
やっかいなことに目の前の二人は願いを叶える為スミカの持つパーツを狙っている。
「まずい、このままでは王小龍を見失ってしまう」
二人の口上を聞いている間に王小龍はずいぶん離れてしまっているが、背を向けて追うのはリスクが高すぎる。
「スミちゃん、援軍を呼んだモフ! 頼りになる人モフ!」
自信満々にモフの言葉の直後、スミカは遠距離から非常に高速で接近してくる存在を感じた。オーバードブーストよりもずっと早く、最大距離に存在を感じてからもう視界範囲内に見えてきている。特徴的な背部ウィングを変形させ折りたたみ、急減速しながらスミカの前に止まった。
「閃光の守護魔法騎士 ホワイトグリ子!」
人のサイズまでダウンサイジングされたホワイトグリントの装甲を纏っているのはフィオナだった。
「さぁ、魔法少女スミカ。ここはホワイトグリ子の私に任せ、世界を護る為にいくのです!」
ヒーロー像やヒロイン像は人それぞれだが、ここまで来るとある種の依存性まで垣間見えてくる。自己陶酔しきっているのか、自らをホワイトグリ子と名乗るフィオナの眼は本気そのものだ。
「あ……あぁ、ここは頼む」
スミカはさすがに引いてしまい、眼を背けたままフィオナに後を任せ王小龍の後を追う。
「あなた達の相手は私です! さぁ正義の閃光の下 私に敗北するのです!」
スミカとモフが離れていくのを確認すると、フィオナ改めホワイトグリ子はスティレットとエイ=プールに立ちはだかった。
スミカとモフは1時間ほど王小龍を追い続けていたが、とうとう諦めたのか残骸となったSOMの上空に留まるとフクロウから黒い光のようなものが流れ出していく。
「私が神に代わってBFFを世界の頂点にするのだ! さぁ 神の力をみるがいいっ!」
魔法少女が持っていた魔道具から光が消え、各々が集めていたパーツまでもが王小龍の元に集まり一つの形をなしていく。魔法少女達は力を失い、ビルや砂漠の上に立ちすくむだけだ。
SOMの残骸を取り込み鋼鉄の巨龍の姿になった王は魔法少女全てを見下ろすよう睨む。
「そう、わしこそが王なる龍なりっ!」
巨大な龍は咆哮によって周囲のビルは砕け散り、飛び散る残骸にウィンDやリリウム達魔法少女が巻き込まれ動けなくなってしまう。魔法の力も失った皆はただの人間と大差は無く、龍とかした化け物相手になす術はない。
しかしジャックとゲドは融合する事を拒み、スミカとモフを守るように残骸を支えていた。
「あっしは姐さんに従いますぜ」
「そうです。姐さんを裏切るなんてありえませんや」
瓦礫を押し退けると二人の身に光に覆われはじめる。
「……お前達」
「モフゥ」
『たった数日でも姐さん達と居られて楽しかったですぜ』
二人は光に代わるとステッキの宝石に吸い込まれ再び光を取り戻した。ステッキを振るうとモフの姿が人間サイズのストレイドへと変わっていく。
「モフ、いやリンクス、お前の可能性を見せてみろ!」
ストレイドの姿のまま浮き上がると王小龍に向かってヒットマンを連射しながら接近、振りかぶられた爪を避けながらドラゴンスレイヤーで切り裂く。しかし浅くしか斬れなかったのか、かまわず王小龍はもう片方の手でストレイドを掴み握りつぶそうと力を込める。
「リンクス!」
スミカが叫んだとき、ドラゴンスレイヤーが手を斬り裂き王小龍はストレイドを離した。ヒットマンを投げ捨てると王小龍の顔に飛び掛り右眼にドラゴンスレイヤーを深々と突き刺す。
「がぁぁぁぁ!」
絶叫とあげストレイドを振り落とすとめちゃくちゃに暴れ回り、避けようとしたストレイドに尻尾が叩きつけられ、スミカの目の前の地面に激突し動きが止まる。
「ばか者、返事をしろ!」
大破したストレイドはを抱え上げるがもはやまったく動くそぶりは見えない。急いで元のモフの状態に戻すと酷く疲弊しているように見える。それでもまだやるつもりなのか立ち上がるとモフっと構える。
「馬鹿やろうがっ……」
意図を読み取ったスミカはモフの首輪を外すと頭を掴み大きく振りかぶる。
「覚悟を決めろ! お前は私の全てなのだからなっ!」
投じられたモフは何をするつもりなのか身を小さく丸める。しかし何かをする間もなく龍の口に飲み込まれたモフ、スミカは大事なモノを失った絶望に膝を付き涙を流した。そんなとき突然強烈な光が周囲を覆いつくし、龍を消し去りパーツとモフが空中から落ちてくる。スミカは急いで立ち上がると涙顔なのを忘れモフを必死でキャッチする。
モフは体内に入った状態でアサルトアーマーを発動、取り込まれていたパーツも光に反応し増幅された事で全てを消し去ったのだった。
「まったくお前は、冷や冷やさせる」
首輪のないただのモフモフした獣の姿だが、モフはスミカの腕の中で左手に持っていた首輪を自ら付け直す。何も語らないがこれがないとしっくりこない。モフはそんな表情をしている。
「お前には、こんな事に付き合わせた貸しがある。忘れるなよ。高くついているのだからな」
全てが終わり魔法少女だった間の事は全て忘れてしまう。それでもなお言っておきたかった。
「モフゥ……」
首輪付きは恥ずかしそうにしていたが、疲れていたのか安心した表情でスミカの腕の中で眠り始めた。スミカの杖に宿っていた光が漏れ出し、他のパーツと融合し一つの形を成してく。 総監督マシーン改に戻った神、その後光の中にはジャックやゲドのような守護者達の影が見える。彼らもまた神や人々の願い・欲望・煩悩によって産まれた者なのだ。
「スミカよ。さぁ願いを」
力を取り戻した神は光り輝き、スミカの願いを待っている。決めていた願いはあったがしかし。
「私の願いは」
ウィンDもリリウム達も怪我をしてしまっている。今回の騒動でどれだけ多くの者が傷ついてしまっただろう。
「今回の騒動によって起きた全ての出来事をなくしてくれ! 記憶も全て!」
自らの願いを叶えたとしても誰かが多くのモノを失ってしまっている。そんな中で願いを叶えたところでなんになるというのだろう。
「それが願いならば」
総監督マシーン改は光を放ち全てが閃光に飲み込まれていく。
「全てはほんの戯れのうちに起きた夢物語、朝陽と共に目覚めるといいでしょう」
「ん、朝か」
いつの間にかベッドで寝ていたのか起き上がるが、何か夢を見ていたような気がしていた。何か思い出そうとベッドから出て立ちがあると部屋の隅には着ぐるみをきたまま眠っているリンクスが視界に入った。
(そういえば昨夜気絶させたままだったな)
しゃがむと着ぐるみの頭を掴み軽く叩くとどうやらリンクスも目が覚めたらしい。
「起きろ。 部屋に戻って着替えてこい」
「あぁ 先生おはようございま……!?」
突然言葉を詰まらせたリンクスに何事かと思い周囲を見回した後、よく見てみると魔法少女のコスプレをしたままの姿になっている。
「……」
一瞬思考が停止したが、あまり恥ずかしさは感じない。
「ハロウィンの無礼講だ。変わった姿をしてもいいだろう」
「それも……そうですね」
リンクスも何か納得したのか、いつの間にか手に持っていた首輪を着ぐるみの上からつける。
ハロウィン当日・・・
女性陣は何故か全員魔法少女の服を着て参加。リンクスは首輪をスミカに、腕をメイに掴まれ引っ張りまわされていた。
『今度こそ終わり』
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