小説/長編

Written by えむ


 アルテリア・クラニアムの内部は、思った以上に静かだった。
 途中で防衛のための戦力とも遭遇するかと思ったものの、レーダーに反応らしい反応はなく、レックスはクラニアムの中枢へとフォートネクストを進める。
 やがてネクスト2機がなんとか横に並べるほどの狭い通路を抜け、中枢へとたどり着くと―――そこにネクストの反応があった。
 数は3つ。
 GAサンシャインベースの重二脚と、ガトリング満載のタンク。そしてアクアビット製のランスタンだ。

『ようこそ、アルテリア・クラニアムへ』
「……っ」

 通信越しに若い男の声が響き、レックスはフォートネクストをその場で停止させる。ORCAのネクストは、まだ動かない。

『――よもや、ここに君が現れるとは思っていなかった』

 続く一言はそんなものだった。
 メルツェルからすれば、この場に一番現れないと思っていた相手が、今まさにそこにあった。
 ORCAと企業の間で交わした密約よって手を引いた企業がラインアークを狙うのは予想通りだった。そしてラインアークの戦力を考えて、フォートネクストが防衛のために駆り出され、こちらにまで手を回す余裕もないはずだった。
 それなのに、フォートネクストは今ここに姿を現している。
 自分の乱入は、相手にとっては想定外だったらしい。その言葉からそれを察したレックスは苦笑を浮かべながら答える。

「予想外なことがあってね。土壇場で頼もしい戦力が増えたんだ」
『…そうか、それなら頷ける』

 頼もしい戦力と言うのが誰なのかは知る由もない。だが、さらに戦力が増えたのであればフォートネクストがこの場に来ることが出来たのもわからなくはない。当人ですら予想外だった展開を、第三者である彼が読めるはずもない。
 だがいずれにしても予定は変わらない。エーレンベルクへのエネルギー供給を大幅に落とされれば、予定は確かに大きく遅れることになるのだ。
 
『だがそれはそれとして―――我々としてもここを何せず明け渡すつもりはない』
「…だろうな。だけど、それでもやらなきゃいけないんでね。精一杯やらせてもらう。1対3の戦闘なんて、やったこともないけど」

 敵戦力は、レックスが思った以上に多かった。2機程度は予想していたが、さらに1機がいる。正直、1対2でも勝てるかどうか怪しいところなのに、相手は3機。自分の実力を考えれば、無謀にしか思えない。
 それでもやるしかない。覚悟を決め、右背のOGOTOと左腕のガトリングガンを向ける。だが、そこでレーダーに新たな反応が映った。

「…増援…?」

 反応は二つ。後方から真っ直ぐに、こちらへと向かってくる。1対3どころか1対5。しかも挟み撃ち。状況としては、さすがに絶望的。いくらなんでも、それだけの数を相手になど絶対に無理だ。
 ここまでかもしれない。違う覚悟も決め、それでも悪あがきをしようと考えるレックス。やがて後方から2機のネクストが現れる。

「ランク3 レイテルパラッシュとランク7マイブリス…?!」

 現れた2機の姿に、レックスは驚いた。
 企業がORCAから手を引いたと聞いた時点で、企業所属のネクストが出てくるとは思ってもいなかったのである。
 もしレックスが、ここでレイテルパラッシュのリンクスであるウィン・Dと面識があれば、反応は大きく変わっていただろうが。

『おい、ウィンディー。ORCAじゃないネクストがいるぞ』
『ランク31 フォートネクスト…。レックス・アールグレイ、今はラインアークのリンクスか』

 どうやらく、向こうもレックスがこの場にいるのは予想外のようだった。

「企業のネクストがなぜここに?」
『それを言うのなら、そっちだって同じだろう? なぜここにいるんだ?』
「こちらがこの場にいるのは、エーレンベルクの発射を妨害するためだよ」
『…エーレンベルクの?! あれは破壊されたんじゃなかったのか…!!』
 
 レックスの答えに、ウィン・Dが驚きの声を上げる。
 知らなくて当然だ。企業側は、あれを本命だと思っていたのだから。

「あれはフェイクだったんだ。本物は、まだ残ってる」
『………つまり、ここだけでは終わらないと言う事か』
「だけどここをなんとしかないと手遅れにもなるけどな」
『じゃあ、話は簡単だ。目的は同じなんだろう?』

 マイブリスが、ORCAのネクストの方へと向き直る。

『ここは協働して、ORCAを叩くのが得策だと思うんだが。どうだ、ウィンディー?』
『そうだな、異論はない。レックス・アールグレイ、手を貸してくれ』
「言うまでもなく、了解だ。むしろ、僕の腕じゃ3機相手とか死亡フラグ確定だったんでね。大助かりなくらいだ」
『感謝する。それで、分担はどうする?』

 普通であれば、タンク機が自分。そして重二脚機をマイブリスに任せ、高機動型のランスタンをレイテルパラッシュに任せるのが一番相性的な意味でベストだろう。レックスは、すぐにそのプランを伝えようとするが、そこで気がついた。
 重二脚のネクストがこちらを見ていることに。それを見て、何かを感じ取ったレックスは最初の考えを捨てて、二人へと告げる。

「…あの重二脚を引き受けてもいいかな」
『…? わかった』
『それじゃあ、残りはタンクとランスタンか。ってウィンディー…あのランスタンのエンブレム―――』
『パーツ構成は多少違うが、間違いなくグレイグルームだ』
『AAを主体した戦術を使うランク6のネクストだったか。行方不明になったと聞いてたが…。俺のマイブリスじゃキツイ相手かもしれないな』
『それなら私があれの相手をする。ロイは、あのタンクを頼む』
『よし、分担は決まりだな。それじゃあ、始めるか…!!』

 フォートネクスト、レイテルパラッシュ、マイブリスの三機が一斉に動き始める。その動きに呼応してORCA側のネクストもそれを迎撃すべく、一斉に動き出した。






 戦闘が開始される。
 敵対するネクストのそれぞれが、思惑通りの担当に向かったのを確認し、メルツェルは自分の方へと向かってくるタンク型のネクスト――フォートネクストへと意識を傾けた。
 武装はGAの重ガトリングガンとOGOTOが2門ずつ。だが見た目だけで油断は出来ない。タンクの格納は、全ての腕部兵装を入れることが出来る以上、どんな隠し玉を仕込んでいるかはわからない。
 まして相手は、あのレックス・アールグレイ。どんな手を使ってくるかわからない。
 挨拶代わりに大型ミサイルを起動、開幕と同時に発射。続けて右背のYAMAGAの照準をフォートネクストへと合わせておく。
 弾速が遅いうえに単発発射。大型ミサイルの破壊力を考えれば、まず迎撃を優先するのは間違いない。案の定、ガトリングガンによって迎撃され、豪快な爆発音と共に視界が爆風に埋め尽くされた。
 その瞬間を狙い、YAMAGAを放つ。ロックはせずマニュアル制御による砲撃だ。
 グレネード弾の直撃によって、フォートネクストのPAが削り取られ、さらに衝撃で機体が一時的に動きを止めた。すぐに復旧し、その場から離れる。

「……くっ…。良いのを使ってる…」

 直撃を受け、レックスの表情が少しだけ固まった。グレネードを当てられた。しかも、まんまとやられた。
 どんなに混戦状態だろうと、普段ならグレネードだけは直撃されない自信があった。グレネード好きが高じて、発砲音に対して敏感になってしまい、結果として発砲音の癖と音の大きさと方向から、グレネードの種類と距離と位置を瞬間的に割り出すという妙な特技が身についてしまったのである。だが戦闘に置いて、この特技は地味に役に立っていたのも事実だ。
 しかし当てられた。理由は簡単だ。大型ミサイルの爆音がグレネードの発射音をかき消してしまっていたからである。もちろんこれは偶然で、相手はそれを狙って撃ったわけではないだろう。実際、発射の際の目くらましとしても充分効果があったわけだから。
 いまだ爆煙で見えない相手のいる位置に見当をつけ、両腕のガトリングガンで牽制射撃を仕掛けようと試みる。
 だがそこで、レーダーの光点が突然前へと早い動きで飛び出した事に気づく。
 爆煙の中から、オーバードブーストを吹かしてオープニングが飛び出してきた。そして、そのまま展開していた大型ミサイルを発射。自らは軌道を横へと逸らし、爆発範囲から退避する。
 加速を得て、通常よりも弾速の上がった大型ミサイルが迫るが、すでに発射しようと構えていたのもあって、そのまま再びガトリングガンで迎撃する。
 さきほどよりも近い目と鼻の先で爆発が起こり、その余波と衝撃によって再びPAが削られ、抑え切れなかったダメージが機体に刻まれる。

「ぐぅ?!」

 それでも、それに怯むことなく、すぐさまクイックブーストにて、その場を離れる。一瞬遅れて、グレネードが横をすり抜けていく。
 
『直撃を避けたか。やはり、一筋縄では行きそうにない』

 レックスはすぐさま機体をクイックターンさせ、オーバードブーストをカットしてこちらへと向き直る。案の定、視線の先にはYAMAGAを構えているオープニングの姿があった。
 PAが削られれば、確実に火力の高いグレネードで狙ってくることは、レックスも予想が付いていたのだ。
 OGOTOを起動し、相手の足元目掛けて放つ。案の定、射線から回避を試みるオープニング。
 
『ぐ…』

 咄嗟にクイックブーストで回避するも、タンクより動けるとは言え重量機。完全には回避はし切れなかったようだった。

『マニュアル制御で射撃をやっていると言うのは、本当らしい。そうでなければ、地面撃ちなどが出来るはずがない』

 地上で戦う手前、FCSに頼っていれば、自動的に補正によって真っ直ぐ撃つ。それゆえに地面撃ちで爆発させるのは普通は無理なのは、誰もが知っていることだ。

「ご名答。機体制御を全部AMSでやるのは、あまりにキツイものでね…」
『なるほど。私も適正が低い手前、その気持ちはわからなくもない』

 オープニングがその場から再び後退を始める。通常ブーストによるスラローム走行を行い、ライフルを撃ちながら下がっていく。
 不意にライフルの銃口を、追撃するフォートネクストから下へと逸らした。直後、足元でいくつもの爆発が起こり、もろに巻き込まれる。
 それがいつの間にかパージされていた連動ミサイルのコンテナによるものだとわかったのは、その直後。肩装備が消えていることのに気づいてからだった。

『だが、それゆえに。君の戦い方は、私にとっても参考となる部分があった』

 オープニングがYAMAGAを向ける。地面撃ちを警戒し、ブーストも使って上へと上がる。それにも構わずYAMAGAを砲撃するオープニング。
 砲撃音のタイミングに合わせてクイックブーストで射線から回避。

「………なっ?!」

 だがフォートネクストの真横で。すれ違うはずのグレネード弾が爆発し巻き込まれる。もちろん、一撃や二撃もらった程度で落ちるほど柔な装甲はしていない。

『発射したグレネードを狙い、任意のタイミングで起爆させる。確か、それは君の特技の一つだったな』

 メルツェルの言葉に、レックスの表情が少しだけ固まる。
 確かに特技で、ネクスト戦に置いて何度かやったことのある技でもある。だが、それを特技だと相手が認定していると言う事は―――

「(…知ってるってことか…)」

 もしかしたら全部ではないかもしれない。だけど、それでも相手が自分について色々と調べ上げていることは確実だった。カラードのリンクスとネクスト・そして戦術その他について、自分が調べられるだけ調べたように。
 純粋な技量では、ほとんどの相手に勝てない自分がなんとか勝ててきた要因は、ほとんどの場合…咄嗟の奇策によるものだ。しかし、やはり個性と言うか、そういった策にも個人の性格や考え方と言うのが反映されるもの。
 観察力や洞察力がある人物なら、それらがどういう手を取るかを予想することも決して難しいものではない。残る問題は、今の相手がどういう人間か…だが。

「参考までに。どこまで調べたか聞いても良いかな?」
『敵対することを考え、少しでも自分の勝利を確実なものにしようと思ったのなら。君ならどうする?』
「……その質問でわかった。ありがとう」

 何気ない問いかけ。だがそれで確実となった。答えがあって、それでいて自分ならどう答えるか、その予想が付いていたからこその問い返し。
 間違いない。相手は自分のことを、すでにかなりのレベルで熟知している。戦い方だけでなく考え方などまで。
 
「…このままじゃ勝てる気もしない…な」

 強敵。いや、むしろ天敵と言っても良いかもしれない。長い付き合いゆえに、自分を良く知るネリス相手に、今まで奇策が成功したことはほとんどないのと同じように。
 ただ―――それでも負けが確定したわけではない。

「……やるだけのことをやってみるしかないだろうな」

 何が起こるかわからないのが戦場と言うものだ。何かの間違いで勝てるかもしれない。もしくは土壇場の状況で何か、良い手が閃くかもしれない。
 覚悟は決まった。

「賭けてみるか。全額を!!」






「…ここからだな」

 フォートネクストの動きが変わったのを見て、メルツェルは改めて気を引き締めなおした。戦闘は、まだ始まって少ししか立っていない。
 状況はフォートネクストを相手として考えた場合、かなりの割合で自分の方が有利なのは間違いなかった。
 実際、メルツェルはレックス・アールグレイと言うリンクスについて、手に入る限りの戦闘記録を集め、徹底的に調べあげ分析し、考えられる限りの状況に対策を練ってきていた。
 操縦技術のレベルの低さ――ある意味では高いとも言えるが――を考えれば、純粋な実力的には、ほぼ拮抗している。違いは「情報」の有無。その部分で自分は一歩リードしている。
 戦い方そのものが武器であるレックスにとって、パターンを読まれることほどの痛手はないだろう。さらに、レックスの方はメルツェルのことを全く知らない。わかっていることがあったとしても、ここまでのやり取りで得られるレベル。だがそれは戦局を大きく左右するには至らない。
 レイテルパラッシュやマイブリスが助けに来る可能性もあるが、トーティエントもヴァオーも、自分と比べれば間違いなく強いリンクスだ。現在の戦況を見ても、すぐに決着がつくことはないだろう。
 チェスの勝負で言えば、チェックメイトの一歩手前と言った状況だった。だがチェックメイトではなく、相手にはまだ反撃のチャンスが残っている。
 わずか一手。だがたった一手で、状況がひっくり返ることがある。
 そして、それを可能とするために必要なものを、レックス・アールグレイが持っていることを、メルツェルは知っている。
 それゆえにメルツェルもまた、今だ勝ちを確信できないでいた。

To Be Countinue……


now:23
today:2
yesterday:0
total:166


移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 軽くお久しぶりな、えむです。
 クラニアム戦。前後編では収まらず、またしても三部構成に。
 そしてヴァオーや、トーティエント。インテリオルコンビは背景化…。
 後悔は…毎度の如くしません。そちらは脳内再現にしてお楽しみください(マテ

 なお今回は諸事情によりコメントレスはお休みさせていただきますorz

 さて次回は、対メルツェル戦決着。
 この状況から、レックスはどう切り返すのか!!何気に作者もわからないけど(思いつかない)お楽しみに!!
 それではここまで、お付き合いいただきありがとうございました~(・▽・)ノシ

 なお今回は諸事情によりコメントレスコーナーは、お休みとさせていただきますorz


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