小説/長編

Written by えむ


 『お茶会』と呼ばれる集まりがある。
 カラードに所属するトップクラスのリンクスが集い、その時の情勢や動きについて言葉を交わす場。企業もその存在は知っているが、直接参加することは出来ない。なぜなら、それはAMSを経由して行われるリンクス限定の座談会だからだ。
 そして、今その『お茶会』がまさに開かれていた。主な内容は、先日行われたラインアークでの戦いについてだ。

「ラインアークのホワイトグリント、及びフラジールは大破。ステイシスも海中に没し、オッツダルヴァ様は行方不明となっています。結果、生存を確認されているのはフォートネクストのレックス・アールグレイ様のみとなります」
「…結局自信が過剰だったということかな?オッツダルヴァの天才坊やも」

 リリウム・ウォルコットが状況の報告を行い、GAのトップリンクスであるローディが肩をすくめる。

「それはどうかな・・・存外、深く潜れる男かも知れんぞ」

 そんなローディの言葉に、ランク3のインテリオルに所属するウィン・D・ファンションが口を挟む。何か思うところでもあるのか、その言葉はどこか意味深だ。だがそれを深く追求する者はおらず、話は進んでいく。
 
「…とにかくホワイトグリントはいないも同然の状態だ。最低限の目的は達成したと言っていいだろう」

 さしあたって、現状で最大の障害とも言えるホワイトグリントは消えた。機体はなおも存在するが、そのリンクスが戦えなくなったのなら―――いないも同然だ。多少、気になる点はあるが。
 それは今考えることではない、と王小龍が話を閉じる。

「…で、貴様がやつの替わりか?ジェラルドはどうした?」
「…どういう意味だ」

 ウィン・Dが「視線を向ける」。その視線を向けられた男は、不機嫌さを隠そうともせず、言葉を荒げて睨み返す。
 ダリオ・エンピオ。ローゼンタールに所属するリンクスであり、ランクは11。権力志向の野心家であり、それを隠そうとしないため、密かに嫌っている者も少なくはない男だ。

「いや別に。老人達も存外不足か、とな…」
「なんだと…!?」

 ウィン・Dの返答に、ここが現実なら掴みかかりそうな勢いで牙を向くダリオ・エンピオ。

「そこまでだ。含むところがあれば戦場で好きなだけやればいい。誰も止めはせん」

 そんな彼を制止し、話はさらに進む。

「議題はまだある。例のアルテリア襲撃犯の件だ」
「奴らに関しては見つからない以上は一層警戒を強めるしかないな」

 ローディーが次の話題を出す。企業にいるものとして、決して無視することは出来ない話題だ。だがウィン・Dの言うとおり、今は完全に後手に回るしかない状況。よって、その話題はすぐに幕を閉じた。

「後は、レックス・アールグレイの扱いだな」

 改めて、ローディがスポットを当てたのは、ラインアークの生き残りであるレックスであった。

「ふん、聞いた話では、水没したホワイトグリントを戦闘中に引き上げたらしいじゃないか。これは明らかに企業への宣戦布告だろう。だとすれば、早めに芽を摘んでおくべきじゃないのか?」

 ダリオの言葉に、その場が静まる。
 ラインアーク側につき、ホワイトグリントまで救出した。それは企業としては、決して見過ごせない行為だ。脅威となるなら早めに潰した方が良い。そう告げるダリオの意見は筋の通ったものだ。
 だがそこで王小龍が口を開く。

「その必要はない。どういう意図にしろ、それだけで企業に敵対する意思を見せたと判断するのは急ぎすぎだ。そもそもホワイトグリントは、ラインアークに手を出さない限りは牙を向かなかった。それは誰もが知っていることだろう」
「………」
「オーメルはどうか知らないが、BFFはあの行為は大した問題ではないと見ている。GAもそうだったな、ローディ」
「そのとおり。そもそもグローバル・アーマメンツ社は、ホワイトグリントが健在していたとしても問題はなかった」
「インテリオルもだ」

 王小龍とローディの言葉の後、ウィン・Dが続けて口を開く。
 当初は、インテリオルも手を出していたこともあったが、ホワイトグリントの手痛い反撃を受けてからはラインアークに関しては、すでに手を引いている。

「そもそもラインアークを目の敵にしていたのは、オーメルくらいだろう」

 その言葉には反論できない。事実、ラインアークにちょっかいを出していたのはオーメルであり、他の企業はさほどラインアークのことを気にはしていないのが実情だった。その証拠は、ホワイトグリントを撃破するために送り込まれた戦力を見れば、一目瞭然だ。 

「とりあえずは、例の傭兵に関しては様子見で構わんだろう。仮にラインアークについたとしても、こちらから手を出さなければ、牙を向くことはないだろう。だが、それでも手を出すのなら、気をつけることだ。あの男、敵に回せば確実に噛み付いてくるぞ」

 最後に王小龍がダリオに向かって告げ、それからローディが物珍しげな表情を向けているのに気がつき向き直る。

「―――なんだ、ローディ。何か言いたそうだが?」
「あの王小龍が、独立傭兵を高く買っているのは珍しいと思ってな」
「――ふん」

 特に何か答えるわけでもなく、視線を逸らす王小龍。その様子をリリウムは、少しだけおかしそうに眺めていた。






 同時刻。
 海中を静かに進む大きな影があった。――潜水艦である。

「ホワイトグリントは戦闘不能、ステイシスは海中に没し、オッツダルヴァは生死不明、か・・・やりすぎだよメルツェル」
「よく言う・・・誰が手間をかけさせたのか」
「すまんな、完璧主義者なんだ」

 薄暗闇の中、静かに声だけが響く。一人は聞く者が聞けば、誰でもわかる男の声オッツダルヴァと同じものだ。

「ホワイトグリントは健在しているが…、もはや戦える状態ではないだろう。それよりもやっと最初に戻ったんだ。時期もある。クローズプランを開始しよう」
「…そのことだが…少しだけ待てないか?」

 オッツダルヴァの声が、もう一人の言葉を遮った。 

「…レックス・アールグレイか…」
「そうだ。企業連からの依頼を蹴ってラインアーク側についたことと言い、ただ頭の回るリンクスと言うわけでもなさそうだ。試してみるぐらいの価値はあるだろう」
「状況はすでに手遅れだが同時に緩慢だ。今さら焦ることでもあるまいよ」

 ホワイトグリントが落ちたことで、企業の注意は再び企業間同士へと向けられ始めている。こちら側の動きを本格的に悟られるのは、まだ時間の余裕はあるだろう。

□  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  ■  □  

 さて、ラインアークでの攻防戦が終わって数日が過ぎたある日のこと。
 レックスがカラードのシミュレーターでいつものように一人訓練をしていると、おもむろに対戦の希望知らせる通知が届いた。それに気がついたセレンが、レックスへとそのことを伝える。

『レックス、飛び入りだがオーダーマッチの要請が来てるぞ?』
「相手は?」
『匿名だ。どういうつもりかは知らんが…』

 カラードの施設を使う以上、登録してあるリンクスには違いない。正直、匿名で挑んでくるメリットはないと言っていいだろう。機体を見れば、ほぼバレバレなのだから。
 だがレックスからすれば、願ってもいない展開だった。実戦でも、予期せぬ戦闘と言うのは充分に起こりうる。備えが不完全な状態で挑まなければいけないこともあるだろう。かつて遭遇したブレード主体の正体不明機との交戦の例もある。

「受けよう。相手がわからないままで挑むのも、特訓にはなるしさ」
『わかった。では先方には承諾すると伝えておこう』

 通信が切れ、少しの間をおいてシミュレーターが起動する。戦闘エリアは、旧ピースシティエリア。廃墟と化したビルが点在する砂漠地帯。
 事前の相手情報はないため、装備は両腕に有澤製普及グレネードNUKABIRA。背部には右背にGAのガトリングキャノンGAN01-SS-GC、左背にインテリオル製のレールガンRC01-PHACTを選択する。
 レールガンを選んだ理由は単純だ。ラインアークでの戦闘において、敵についての情報がなく装備を選べない状況でも「それなりに戦える装備」を探してのことだった。最も現在は試行錯誤を重ねている段階ではあるのだが、弾側の早いレールガンなら高速機でも立ち回りやすくなるのではないだろうかと考えてのことだった。
 そして、シミュレーターでの戦闘が始まった。
 
「…さて、相手は――――」

 カラードに所属するネクストの機体構成は全て頭に入っている。まずは相手を確認しようと、フォートネクストを前へと進めるレックス。

「―――!?」

 正面が光った。それと同時に二発のレーザーがフォートネクストに飛来する。すぐさま右方向へのクイックブーストで回避する。そして、連続したクイックブーストで一気に間合いを詰めてくる機体を見て、レックスはすぐに相手が誰なのか悟った。

「レーザー腕の軽タンク…って。ネリスかよ!?」
『ご名答。こっちに来てるって話だったから、ついでにと思って。どれだけ強くなったか、見せてもらうよ』
「よし、わかった見せてやるから覚悟しておけ」

 片やレーザー主体の軽量タンク。片や実弾主体の重量タンク。いろんな意味で完全に対照的な二機の戦闘が始まる。
 横方向へのクイックブーストで動き回りながらパルスキャノンでけん制し、武器腕レーザーを確実に当てようとしてくるバッカニアに対し、フォートネクストはその動きにクイックターンで追従。ガトリングで弾幕を張りつつ、相手の動きを読んでグレネードキャノンを予測射撃。地面に当てて爆風に巻き込む形で確実にバッカニアのAPを削っていく。
 
「高速機でも、『飛ばない』相手に対しては、結構な割合で当てる…か」

 バッカニアとフォートネクストの戦闘の様子を見ながら、セレンはポツリと呟いた。ネクストに乗り始めた頃を考えると、とてつもない上達度合いだ。最初は、あのセレブリティ・アッシュにすら負けたのに。
 そうこうしているうちにバッカニアがフォートネクストへと一気に間合いを詰めにかかった。機動性で劣るフォートネクストは逃げ切れず、そのまま近づかれる。そこで画面を閃光が包んだ。アサルトアーマーだ。
 フォートネクストのAPが一気になくなり、PAが消し飛ぶ。だが閃光が収まった時、動かなくなっていたのはバッカニアの方だった。
 何が起こったのか、よくわからないまま。シミュレーターからレックスとネリスが出てくる。

「アサルトアーマーの発動直後を狙ってカウンターで当てるとか。普通は考えないって」
「近づいてくるのは明らかだから、当てるチャンスだと思ったんだ。残りAPからしてアサルトアーマーで自分が落ちないのは確実だったしさ」
「むぅ、読みが甘かったか…。一時的にカメラも殺せるから行けると思ったんだけどなぁ」
「グレネードキャノンを舐めてもらっちゃ困るな。範囲攻撃だから、ある程度の位置がわかれば見えなくたって、ダメージは与えられる」

 レックスがなにやら誇らしげに答え、ネリスは小さく肩を落とした。

「う~…また負けたぁ。ボクの方がリンクスとしては先輩なのにぃ~」
「仕方ないって、シミュレーターなんだし」

 肩を落としたままのネリスを見て苦笑を浮かべるレックス。レックスからすれば何気ない一言だっただろうが、セレンはその一言に引っかかった。話の流れからすると、シミュレーターだから負けたのは仕方ない、と言う事になるからだ。

「レックス、それはどういう意味だ?」

 どうしても気になったので、尋ねてみる。するとレックスは、セレンのほうを振り返って答えた。

「そのままの意味だけど? ネリスは、シミュレーターだと弱いんだよ」
「だってさぁ。シミュレーターじゃ、空気がわからないんだもの。ボク、実戦だったら絶対にレックスに負けないよ」

 ネリスがそう答えるのを聞いて、セレンはなんとなくだがネリスの特性と言うのがわかったような気がした。
 長い間、戦場にいる者だけがわかる気配。実戦でしか感じられない空気と言うのがある。雰囲気―――とでも言えばいいのだろうか。それを具体的に言葉にするのは難しいが、熟練の兵士ほど、そういったものには敏感だ。戦いの空気を読み取り、それを元に動く。ネリスはまさにそういうタイプなのだろう。
 いくら高性能で実戦張りの戦闘が行えるシミュレーターとは言え、そこまでの再現は出来ない。それは数値には置き換えられないものだからだ。それゆえにネリスは実力がシミュレーターでは発揮できないのだろう。まして、ランクマッチがシミュレーターで行われることを考えれば、なおさらだ。
 最も、その違いがあっったとしても強い奴は関係なしに強いのだが。

「まぁ、そういうわけだ。実戦でのネリスの先読みはとんでもないぞ。正直、予知能力でもあるんじゃないかって思うくらいだし」
「ふむ。まぁ、実際に見たわけではないが…、お前がそう言うのならそうなのだろうな」

 そう答え、セレンは納得したように頷く。色々なリンクスがいるのだから、そういうタイプがいてもおかしくはない。それにカラードのランクはあくまで目安。イルビス・オーンスタインのようにランクは低くても上位クラスに匹敵する者もいたりするのだから、上位クラスに匹敵しているかもしれないと言われても、別に不思議ではない。

「さて、とりあえず…訓練はここまでにしよう。…ネリスが来てるってことは、久しぶりに時間が出来てるってことなんだろ?」
「え?あ、うん。コルセールの方は一段落したからね」

 レックスの言葉に、コクコクとネリスが頷く。
 
「じゃあ、これから一緒に昼飯でも行くか。いいだろう、セレン?」

 そう尋ねるレックスに、セレンは二人を交互に見て、それから少し思案顔を浮かべて尋ねる。

「いいのか? なんだか私は邪魔になりそうな気がするんだが」
「…は?なんで?」
「ボクは気にしないよ、セレンさん。食事は多い方が楽しいしね」

 そんなセレンの言葉に、レックスが不思議そうな顔を浮かべ、ネリスも首を傾げつつも気にしないよ、と言わんばかりに答える。

「…ふむ。それならいいが…」

 思い過ごしだろうか。そんな事を思いつつ、連れ立って歩き出したレックスとネリスに続いて歩き出すのであった。

 To be continue……


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移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 新しくなったwikiの場所がわからず数日ロスした、えむです。
 お茶会話と、ネリスのリンクスとしてのいろいろを少し。
 いずれ本格的な戦闘もさせる予定ですが、本編かどうかは現状未定です…(==;
 とりあえず、うちほどヒロインの影が薄いところはきっと他にはないに違いない!!でもしょうがない。ネリスはコルセールを率いる立場だし、コルセールの主な活動範囲は北アフリカとのことだし。なんとか機会を見つけて、本編の出番を増やしてあげたいものです…。

 では、ここで恒例のコメント返しといきましょう。

>レックス君…漢だ…!! 惚れるぞコンチクショウwww
 ありがとうございます。本人もきっと喜んでいることでしょう。

>ガトリング爆散は驚きました。燃え要素も結構出せてたと思います。3章も頑張って下さい。
 がんばります!!どうなるかはわかりませんがっ(マテ

>ガトリング爆散に水柱を使っての足止め、演出がかっこよかった~。CUBEとの戦いを実際に見たいwwww
 フラジールだからこそ使えた手の数々。自分も、実際に見てみたいです、ここだけの話w 誰か映像化を……(激しくマテ

>白鴉は生き残ったか…やはり、ラインアークルート行きなのか?とりあえずGJ
 生きてはいますが、戦えるかと聞かれると答えはノーです。ルートに関しては、先の展開をお待ちください、とだけ言わせてくださいませ。

>レックスの助けになるようなリンクスがカラードにいるか気になる。
 何気に交友範囲狭いですからね…。でもちゃんと味方になる予定の人はいます。
 
>「こんなのあんまりだろう!!」のくだりが最高に熱くて素敵だ!しかしレックス君は状況を使うのが上手い。状況戦…シャミ…ア…?
 そういえば、あの人も状況戦のプロですね。……どうなることやら。

>グリントコアにタンク脚、外部の作品ですが既に有ったりします(初回だけですが…)主の居なくなったWG、オリキャラにでも乗せますか?(さっきからエヴァなんとかってレイヴンが指くわえて見てる気が…)
 すでにあったとは知らなかった…。WGの扱いについては一応少し考えています。どうなるかは、これもお楽しみで。
 隊長さん。あなた、AMS適正はどうなのでしょうか…?(ぉ

>↑君にはパルヴァがあるでしょ、隊長さん!
 ナイス突っ込みw

>↑某笑顔付きが緑の閃光でやってた気も・・・ww それはともかく毎度乙です。ORCAに行くか企業に行くか今から楽しみにしてます!
 動画で見ました。あの人の機体構成は、どれも…引かれる…。

>やぁタンク硬い硬いwww( ´ 鉄 ` ) sikasi気持ちの良い男だ!AC自体が濁りのある作品だからってのもあるけど、我を通しつつ爽やかなのは珍しい気がします。毒気も(そんなに)無いw次回期待してますよっ
 硬くないタンクなんてタンクじゃないってのが持ち論ですので…。今後も硬さのアピールは欠かしません。
 爽やかと言う評価は予想外だった…。ありがとうございますw

>( ´ 鉄 ` )ACNX <気に入った!  ( ´鉄馬` )ACNB <良いタンクだな!
 タンク機の有名人さん達が!? Σ(・▽・;

↑6 組んだら面白そうw「あなた、良い盾ね 気に入ったわ///」…(*´д`*)
 確かに組んだら面白そうですね…。だが戦わせてもみたい…。どうしよう(悩

>白栗コア積んだタンクの活躍も見てみたいけど白栗コアには「OIGAMI積めない」っつー決定的な欠点(<か?)があるからね・・・。でもどっかで使って欲しい。
 色々ある構想の一つに、その案もあるにはあるのですが…。
 OIGAMIが詰めなければ、OGOTOを詰めばいいじゃないっ><b(マテ

 以上、コメント返信でした。
 今回も、たくさんのコメントをありがとうございました。と言うか、予想以上にコメントが多くて逆に驚いた(汗
 感想とかツッコミとかありましたら、いつでもお願いたします。

 さて次回は―――オリジナルミッションとなります。
 お楽しみにっ!!


コメント



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