小説/長編

Written by えむ


 状況は全くわからなかった。
 ただわかっているのは、今目の前にいるアリーヤ…正体不明のネクストは、間違いなく自分を落とそうとしていると言うことだけ。
 レーザーブレード――それは見たことのない形だった――の光刃が迫る。迫るレーザーブレードの威力はわからない。だが、そのエネルギーの輝きを見ただけでも大体のことはわかる。イルビス・オーンスタインのマロースとやりあった直後のこの機体で、まともに受けてしまっては一たまりもないことくらいは。
 咄嗟の判断で後方へとクイックブーストを吹かすが間に合わない。相手の前進速度は、遥かにこちらを上回っている。ほんの数秒…いや、ゼロコンマ数秒時間を稼いだだけ。
 避けれない。だが、ここで落ちるわけにはいかない。

「――――っ!!」

 生きるか死ぬかの瀬戸際。それこそ極限状態だったからか。感覚は引き伸ばされ、通常なら有り得ない反応速度でレックスは機体をさらに動かす。
 フォートネクストとアリーヤが交差し、そしてすれ違う。数秒遅れて、ネクストの右腕が砂の上へと落ちる。レーザーブレードによって切断させたフォートネクストの腕だ。

「まだだっ!!」

 直後。背中を向けるアリーヤ目掛けて、フォートネクストが左腕のグレネードキャノンを放つ。
 これには相手も不意を突かれたようだった。
 当然だろう。通常なら、切断されたダメージがAMSを通じて伝わり、とてもじゃないがそのすぐ直後に機体を動かすことなど出来ないのだから。
 だが腕部のAMS制御をカットして動かしているレックスに、それはない。だからこそ腕部を犠牲にして一撃を凌ぐと同時に、クイックターンでフォートネクストを180度旋回させ、背中を取ることが出来たのだ。
 相手の意表をついた一撃。直撃させる気はなかった。ただ回避行動に移ってさえくれれば、それで時間は稼げる。そう考えての攻撃。
 ほんの少し遅れて、アリーヤが動いた。こちらと同じくクイックターン。そして、振り向きざまにレーザーブレードを一閃。飛来してきたグレネードを縦一文字に両断する。二つに斬られたグレネードは、アリーヤの両サイドを抜けて後方で、その爆炎を上げる。

「…は、ははは…。こりゃ、すごいわ…」

 避けられることは考えていたが、まさかレーザーブレードで切り払うとは。相手のとんでもない技量の高さに、こんな状況ながらレックスは笑ってしまっていた。

『レックス離脱しろ。ただでさえ相性が悪いのに、今の状況では無理だ!!』
「わかってるけど、逃げれる状況じゃない!!」

 左腕のグレネードキャノンを向けつつ、レックスは思考を巡らせていた。高速型のブレード機。だが間合いをあけても意味をなさない。中距離程度では、相手は一瞬で距離を詰めてくる。さらに反応速度も異常に高い。後ろから撃ったグレネードを切り払う程だ。恐らく正面から突っ込んでくる相手にカウンターで狙っても避けられるだろう。相対速度的に、弾速が早くなっているとしても。
 状況はやばいってものではない。盾にした際に右腕は切り飛ばされて消失。APも30%を切っている。背部ミサイルは残弾があるが、こんな状況で使える装備ではない。使える武器は左腕のグレネードキャノンだけだが…正直当てれる気がしない。

『また来るぞ!!』
「…っ。くそっ!!」

 セレンの声に、我に返る。そして、すぐさまフォートネクストを連続クイックブーストで後退。だが相手もすぐに追撃を仕掛けてきた。離れかけていた距離が一瞬で詰まる。あいわらず反則的な早さだ。
 超高速仕様ソブレロとも違う、単純な直線の速さ。だが、ほんの一瞬の速さはソブレロのそれをも遥かに越えている。刃を抜き、それを振りかぶり迫るアリーヤ。
 それに対し、フォートネクストは必死で後ろに下がりながら左腕を振りぬき、グレネードキャノンをパージ。アリーヤ目掛けて、グレネードキャノンを投げつけた。投げるというよりは、空中に置くと言ったほうが正しいそうだが。いずれにしても弾とは比較にならないサイズの物体が間に割り込む。
 すでに爆発的な加速で前進している相手にとって、それは回避が困難な障害物。それを切り裂くアリーヤ。反応というより、むしろ反射的と言っていい動きだった。が、レーザーブレードによって切断された衝撃で、残っていた残弾が爆発を起こした。
 相手は軽量機のアリーヤ。決定打にならなかったとしても、爆発の衝撃による硬直は避けられないはず。その間にコジマ粒子が圧縮される僅かな時間を稼ぎ離脱する。そのつもりで、すぐさま機体を翻し、オーバードブーストを起動。

『敵ネクスト接近!!』
「――――っ!?」

 セレンの警告が響く。見れば、爆風を切り裂くようにして、アリーヤが飛び出してくるところだった。そこそこのダメージはあったようだが、その程度。想定していたほどの時間稼ぎにすらならなかったようだ。機体は硬直したかもしれないが、勢いで足そのものは止まらなかったのだろう。
 オーバードブーストはすでに発動寸前になっているが、相手が本気で追撃してくれば速度的に逃げ切れないのは確か。こちらは所詮はタンク、軽量機を振り切るスピードはない。だが迎撃するにも武器もない。
 まさに八方塞。すでに勝てる状況ではない。だが逃げるのなら、もう少し大きな隙を与えないと。そうでなければ離脱することすら出来ない。
 すでに何度も見せられた爆発的な加速力をもって、アリーヤが一気にフォートネクストへと迫る。

「(何か…何か手が……)」
 
 こんな状況でもレックスは策を巡らせていた。
 右腕を盾にする。APのダメージは抑えられるかもしれないが、生じる隙は小さい。却下。
 背部に搭載しているミサイルを使った手を考える。これもダメだ。武器のパージを使った手は二回目になる。奇策と言うの一回限定。今度は相手も引っかからないだろう。よって、これも却下。
 
「(もう残ってるのは機体くらいしかないじゃないか…っ)」

 あと残っている物と言ったら、フォートネクスト本体だけ。だがそれでどうしろというのだろう。いっそ駄目元で格闘戦でもやってみるか…?などと無茶苦茶なことを考えかけて。

「(……そうか、それだ!!)」

 レックスの脳裏に一つのアイデアが閃いた。
 迷っている時間はなかった。失敗したら、それまでだが…。成功すれば、逃げられる。どうせやられるのなら―――やれることをやった方がマシってものだ。
 コジマ粒子の圧縮が終わり、オーバードブーストが点火する。その直前、レックスはフォートネクストをクイックターンで180度旋回させた。それと同時に、機体が急加速し一気に押し出される。その先には、同じく加速して突っ込んでくるアリーヤ。
 そのまま両機は互いに避けることも出来ぬままに、正面から激突。
 フォートネクストですら、時速1000kmオーバー。軽量機で追加ブースター&クイックブーストを使っているアリーヤのほうは、それ以上の速さ。そんな高速下で、しかも距離もない状態で回避する余裕などあるはずもない。
 互いに激突。PAが干渉して衝撃をいくらか緩和するものの、それで完全に動きを止めれるはずもない。そして――アリーヤがフォートネクストに弾き飛ばされる。
 
「……ぐぅ…っ!?」

 激突の衝撃はフォートネクスト側も相当なものだった。意識が吹っ飛びそうになったのをなんとか堪え、状況をチェックする。ダメージが大きかったらしく相手のアリーヤは動かない。
 当然だろう、軽量機とタンク機では重量も装甲の厚さも違う。例えるなら、トラックと自動車だ。激突しあえば、結果は言うまでもない。最も、最初からボロボロだったこちらも耐えられるかどうかは怪しかったわけだが。
 残りAPは10%を切っていた。首の皮一枚で命はつながったらしい。ともかく、この隙に逃げなければ。

「……今のうちだ…」

 PAが戻ると同時にオーバードブーストを起動させ、レックスはすぐさまその場から退避するのであった。






 フォートネクストがその場から、何とか離脱して数分後。
 ぎこちない動きながらも、アリーヤがゆっくりと立ち上がった。

「…………」

 機体をチェックする。損傷は思ったよりは大きくない。ただ激突の衝撃で、少しの間意識が飛んでいたようだが。
 グレネードキャノンを投げつけてきたのも意表を突かれたが、まさかあの状況で踵を返してオーバードブーストで体当たりを仕掛けてくるとは。決して油断していたわけではないが、意表を突かれたのは確かだ。
 
『真改、大丈夫か』

 通信機を通して、落ち着いた男の声が響いた。

「……肯定」
『それは良かった。……何があった?』
「……戦…」
『そうか。いずれにしても無事でなによりだ。それと今回のプランは中止とする。PA‐N51のバーラット部隊はすでにカラードのリンクスによって壊滅させられたらしい。お前に何があったのかも知りたい。一度も帰還してくれ』
「……承知」

 一言、そうとだけ答える。そして彼もまた、その場からどこかへと飛び去っていくのだった。

□ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

「今回ばかりは、本気で駄目かと思ったぞっ!? あんな無茶をする奴がどこにいるかっ」
「ん?ここに。……ひぃぃぃぃっ。ご、ごめんなさいごめんなさいっ」

 自分の返答に、ピキッ…と青筋を浮かべ握りこぶしを作ったセレンを見て、あわてて謝るレックス。言うまでもないが、レックス本人今は包帯だらけの姿である。
 ちなみに今いるのはGAが所有する基地の一つである。

「ま、まぁ生きて帰れたんだから、いいじゃないか。結果オーライってことで」
「それはそうだが…」
「最も、この状況じゃしばらく依頼は出来そうにないけどな」

 そう言って、レックスはガレージのフォートネクストを見上げた。右腕部は損失。さらに胴体部分の損傷も激しく、修理には時間がかかるとのことだった。幸い、ミッション終了後の予期せぬ襲撃による被害だったこともあって、GAが費用をいくらか負担してくれることになったので、思ったより出費の損失は軽くですむことになったが。

「それより、あのネクスト。結局なんだったんだ…?」

 襲ってきた正体不明のネクスト。それについて尋ねてみると、セレンは小さく首を横に振って答える。

「わからん。調べてみたがカラードにも登録されていない機体だった。ただ、GA側の話によれば、各地で未確認のネクストによる襲撃が起きているらしい」
「じゃあ、あのアリーヤは…」
「その可能性は充分にあり得る。場合によっては―――それ絡みの依頼も来るかも知れんな」

 小さくため息をつくセレン。だが、実際のところ…彼女の予想は当たっていた。
 フォートネクストの修理が完了してから、数日後。アルゼブラから、リッチランド農業プラントを占拠した詳細不明のネクストの排除依頼が来たのである。

To be countine……


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