小説/長編

Written by 雨晴


ヴァンガード・オーバード・ブースト。近年クーガー社により開発されたVOBと呼ばれる新兵器が、ストレイドを音速の2倍の速度で巡航させる。
空力など意に介さず、純粋な推力のみで叩き出されるその速度。ネクストは、目標へと直進する。

「やはりこの作戦、何か裏がある気がする」
『裏、ですか』

そんな非現実的な世界の中でも、こいつはいつも通りだ。いくつか作戦をこなしてきた慣れなのだろうか。セレンは思う。

「これまでどの企業もBFFの主力AFを潰そうとしてきたが、返り討ちだ。なぜだと思う」
『圧倒的な火力によるものではないのでしょうか』

それもある。だが、それだけではない。

「BFFの情報力は半端ではない。収集も、管理もだ」
『そのBFFが、マザーウィルの欠陥を晒したわけですね』
「そうだ。これまでマザーウィルが落ちなかったのは、その攻略法を掴ませなかったからだ。ホワイト・グリントの襲撃然り、な」

だが、それが遂に漏れた。

『オーメルのスパイ戦略の勝利、ではないのですか?』
「・・・だといいが」

スパイひとつでBFFの極秘情報が漏れるのであれば、各企業はアレにこれほど苦労はしなかっただろう。

「まあ、今はそんな事を考えていても仕方がないか」

切り替える。今の敵は、目の前だ。

「用心しろよ。そろそろ有効射程圏内だ。マザーウィルのな」
『了解』

戦闘が始まると、この男は人が変わる。
いつもは馬鹿丁寧な口調の優男が、いざ本番となると黙々と敵を排除していく。まるで機械。

「ミッション開始」

だが、機械であれなんであれ、今はこいつを導くのが私の役割だ。そう心に刻み、彼女はカメラとレーダーに向き合う。
馬鹿馬鹿しいほどの遠距離から放たれた砲弾が、あの男に降りかかるところだった。
 
 
 
 
時速2000キロ超。その飛翔体は、まっすぐにこちらへと向かってきている。

「ホワイト・グリントではないのだな?」
「そのようです。また、カラード上位クラスのリンクスとも適合しません」

褒められた解像度とは言えないが、突破された前線から送信されてきた映像には黒のネクストが被写体として残されていた。

「超長距離迎撃は?」

そう尋ねれば、伝令係の男が俯く。あまり良い結果とは思えず、その先を制する。

「ならば近接対空防御だ。敵機が5500まで接近したら超長距離砲射撃要員は各自持ち場を変更、彼らのサポートに当たらせろ」
「了解しました」
「ノーマルの配備はどうなっている」
「稼働率は5%にも及びません。先の作戦での損傷機を除き、出撃可能機を急ピッチで出撃させていますが・・・」

息を吐く。後手、か。面白くない話だ。作戦遂行直後を狙うとは。
どこから情報が漏れているのか知らないが、流出元を突き止めて051ANNRの精密射撃をぶちこんでやりたいと思う。
だが。

「なら、マザーウィルの火力を見せつけてやれば良いだけだ」

そうだな?大声を張り上げれば、CICのクルーたちが皆肯定する。そうだ。ネクスト一機退けられず、何が主力兵器か。

「敵機、ミサイル及び中距離砲射程内。距離5000」
「全砲門開け」
「敵機、VOBをパージ。通常推力へ移行。オーバードブーストの起動を確認。速力推定1300」
「各砲攻撃準備良し。ミサイルランチャー、全基解放」
「機関異常無し」

よろしい。では。

「攻撃開始」
「攻撃開始。目標、敵ネクストへ全弾集中」
「ミサイル、1番から5番まで射出。続いて6番から10番まで」
「1番砲、及び2番砲射程内、砲撃開始。3番は射程へ入り次第砲撃開始。1番冷却開始」
「3番砲撃開始」

ミサイルと榴弾が、文字通り弾雨となって黒へと吸い込まれていく。
来れるものなら来てみるがいい。そう思っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
VOBパージ。オーバードブースト起動、最大出力。
巨大。一言で表すなら、それが最も的確だろう。頭のどこかで考え、しかし目的は見失わない。
一瞬、長距離砲撃が止んだ。遅れて、ミサイルと砲撃が来る。

回避。

ミサイルの誘導性は高くないと判断。メインブースターで回避できる。問題はこの量、か。
衝撃。連続被弾。オーバードブースト、メインブースターをカット。
自由落下。ミサイルがすり抜けていく。
プライマルアーマー回復。ここからだ。まだまだ距離を詰めなくてはならない。懐に潜り込まなければ、勝機は無い。

メインブースター点火、高度を回復。ミサイル第2波接近、構わずに突き進んだ。被弾、3、4、5。突破。AP減少、戦闘続行。
目標、ミサイルランチャー視認。対空機銃より迎撃、サイドブースター全開、垂直推力限定解放。高度維持。
プライマルアーマー展開状況確認。減衰中。充填率30%。
敵対空射撃、機銃を除き沈黙。冷却の為か。

―――ここだ。

迷わずオーバードブーストを起動。プライマルアーマーの超過減衰を知らせるアラームが鳴り響き、しかし足場は目前だ。

衝撃、接地。

同時にオーバードブーストが強制停止。ジェネレーター、プライマルアーマー再展開へ全力稼働開始。
関係ない。当たらなければ良い。メインブースター出力最大、マシンガン及びグレネードをオンラインへ。目標へ接近。
FCS目標自動追尾システム解除。手動でのエイミング、射出、爆発。
第一目標沈黙。続いて下部、第二目標へマシンガンにて攻撃。破壊を確認。

『どうやら効いているようだな』

そうなのだろうか。

『一気に仕留めるぞ』

ジェネレーターより、プライマルアーマー再展開報告。AP確認、問題無し。飛翔、主砲の破壊に向かう。
敵ノーマルより迎撃を確認。右腕兵装より背部ミサイルを展開、射出。
敵主砲台座に向けグレネード射出、マシンガンによる射撃。後方より敵ミサイル多数接近。クイックブースト。
敵ミサイル、敵主砲に命中。敵主砲破壊。次目標、上部甲板。ノーマル多数、ミサイルマルチロック、射出。ノーマル無力化、及び甲板を破壊。
次目標―――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
おかしい。

「主砲、破壊されました!」
「第5ブロックにて火災発生!」
「第3ブロックもです!」

敵の攻撃が、あまりに的確すぎる。

「何としても撃ち落とせ。弾幕用意」

生き残っていた各砲が一斉に吠える。翻すのは、黒。

「敵機、健在!」
「メインシャフトに被害が及んでいます、抑えられません!」
「ダメコン急げ、これ以上被害を拡大させるな」
「ミサイルランチャー10番沈黙!」
「9番、同じく沈黙!」
「第8ブロック火災発生!」

思わず舌打ちが漏れた。眉間に皺が寄る。これは、もう確定だろう。
伝令係を呼び寄せると、彼の顔は蒼白だった。

「機関にこれ以上の影響が広がる前に、全ブロックを閉鎖する」
「ですが」
「構わん。もう落とされるのも時間の問題だろう。時間稼ぎだ。総員の退避準備を始めろ」

伝令係が敬礼をそこそこに、各班へ指示を伝えに行く。一層騒々しくなった。
マザーウィルの弱点を突かれているのなら、そしてあのネクストの戦闘力があるのなら、もうこの母艦は落ちるだろう。
さて、何人生き残らせることが出来るか。思わず天井を仰ぐ。

「残念だ。10年間無敵を誇ったマザーウィルが、たった一機に。この短時間で」
『メインシャフト、熱量負荷限界突破!』
『ダメです!機関部が持ちません!』

本当に、どこから情報が漏れたのだろうか。流出元を突き止めて、マザーウィルのロングレンジキャノン3連射をぶちこんでやりたいと思う。
黒のネクストは、縦横無尽に駆け巡っている。ノーマルの放つミサイルや生き残っている対空機銃弾が、まるですり抜けていくようだ。

ネクストなど時代遅れ。これからは、アームズフォートが時代を作る。

かつてこの艦を任された日、式典に出席していた重鎮から直々に頂いた言葉。リンクスである彼の口から出たその一言は、重たかった。
だが、これは。
黒のネクストがグレネードを構える。目標は、3番ランチャーか。脱出できただろうか、あそこの射撃要員は。
瞬間、聞いたことの無いような鈍い音がした。シャフトが折れたか、曲がったか。

『総員、地上装備!』
『退避しろ!マザーウィルが崩壊するぞ!』

崩壊、聞きたくもなかった言葉だ。
気付けば、CICには誰も居ない。皆、脱出できるだろうか。してもらわなければ困る。私の責任問題になるではないか。
もう、6脚が地面を踏みしめる音は聞こえない。空気を震わせる超長距離砲の射撃音も、無限とも思える砲弾を打ち上げる対空砲も。
10年間慣れ親しんだ全ての音が崩壊していく。
溜め息を吐いたと同時に、意識が呑まれていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
各企業のトップリンクスが集う場がある。不定期で催されるそれは意見交換の場でもあり、或いは互いをけん制しあう場でもあり。

「新参の傭兵が、あのマザーウィルを?」

その場でリリウム・ウォルコットから発せられた一言を、ローディーは信じられないと口調で拾い上げた。少女が頷く。

「間違いありませんローディー様。カラードは情報の精度を確認しています」
「・・・仮にもリンクス、本来そう言うものだろう」

オッツダルヴァはさも当然だろうと言う反応を示し、しかしインテリオルのウィン・D・ファンションはまるで興味が無さそうに先を望む。

「アルテリア襲撃犯はどうなっている?」

唐突な話題の転換。

「堂々とクレイドルの要諦を襲われ、全て不明、打つ手無しなど。管理者の存在意義が問われるだろう」
「その通りだ」

沈黙を続けていた王小龍が口を開く。

「ルールが守れないのであれば、静かに退場してもらう他はない」

ラインアークであれ、レイレナード辺りの亡霊であれ。そんな含みを持たせるような一言に、その場は解散となる。
たった数分間の話し合いの場。いつもは、あっても無くても一緒だろうとローディーは思う。だが、今回は違った。
オッツダルヴァ、ウィン・D・ファンションが退出し、3人がその場に残る。

「ついにマザーウィルまで落としてきたか。あのルーキーは」
「ああ。流石に無傷で、という訳には行かなかったようだがな」

二人の会話を邪魔しないように、リリウム・ウォルコットは一歩下がる。目を閉じた。それは、自分の聞くべき内容ではない。

「いよいよ、実力を見る必要性があるな。カラード中、一体どの程度のランクに相当するのか」
「そうだな」

リリウム。そう呼ばれ、目を開ける。

「はい」
「オーダーマッチだ。行けるな」

相手はおそらく、マザーウィルを撃破したリンクスだろう。私はそのリンクスの判断材料か。そうリリウムは思う。

「はい、王大人」

だが、そんなことは一切関係ない。王小龍が必要だというのなら、彼女は従うだけである。


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