Written by 独鴉


オリジナル・・・埋もれた過去の歴史・・・


旧ピースシティエリア・・・
 セレンたちは以前老整備士からもらった古い手帳とリンクスが持っていたハイエンドACのデータバンクを当てに砂漠に
覆われた地域を二週間近く彷徨い、さらに10日近くかけて砂と土の除去に時間をかけて目的のものを発見した。

「随分と深く掘ったが、やっと出てきたか」

 10m以上砂と土を除去した後にはランドキャリアさえ余裕で入るほどの巨大な隔壁が姿を現した。錆に覆われてはいたが
隔壁の機能そのものは失われておらず、欠け落ちたり崩れたりしている箇所はない。

「ハッチを開け。チャンプスは念のため警戒を解くな」

 状況が状況だけにセレンは事情の話せるチャンプスを護衛とし、口が堅い傭兵も何人か雇っていた。兵力はネクスト1機に
ハイエンドを含めノーマルが6機程度、カラードに気付かれず動かすのはこれが限界だった。むろんリンクスを心配する
メイ・グリンフィールドも何か手伝いたいと申し出たが、これから行く場所の情報を表沙汰に出来ることではない。
面会が出来る状態になり次第連絡すると伝え、カラードに感ずかれない様同エリアで射撃訓練を行ってもらっている。

「了解」

 ゆっくりと隔壁を開くハッチが回され、鈍い音を立てながら鋼鉄の扉が開かれていく。隔壁内部から強風が吹き出すと急勾配の
縦穴が大口をあけて待っていた。隔壁の先にはさび付いたエレベーターと思われるものが備え付けられ、ランドキャリアと複数の
ノーマルを同時に乗せても余裕がある。

「電源をランドキャリアから回すんだよ。急ぎな」

 レインの指示で整備士達がエレベータの復旧作業に移ると15分ほどして電源が復旧し、エレベータに部隊全員が乗り込みむと
鈍い音を立てて動き出すと下降を始める。隔壁入り口からの光と地上へと吹き上がる風は弱くなっていき時間が経つにつれて暗闇は
広がっていった。エレベーターから出入り口を見上げると小さな灯りほどの大きさになっていた。不安げにノーマルACが周囲を
見回すたびに鋼鉄の壁面が流れていく様子が移りいまだ降下を続けていることが解る。

「レイン隊長、大丈夫なんでしょうか」

 恐怖と不安感に襲われているGA製ノーマルACソーラウィンドウに乗るパイロットはライトの光度を最大にして何度も周囲を
見回している。

「ライトの光度を下げな! こっちはネクストが居るんだ。不安になることはないんだよ」

 PAを展開していないとは言えネクスト キルドーザーが居る。これ以上安全な護衛はないだろう。

「しかし……」
 暗闇や密閉空間などは人間が根本に持つ恐怖、それ故にそう簡単に恐怖は拭い去れない。いままだ不安感に襲われている部下を
宥めるには時間が掛かってしまうだろう。レインとて恐怖が無いわけではないが、部下達に微塵も感じさせないよう押し隠していた。
ノーマル部隊のパイロット達が精神的に頼りとしている隊長が恐怖に襲われているようでは不安が広がってしまい、いざという時
混乱が生じてしまえば部隊そのものが危険にさらされてしまう。その為には精神的よりどころとなる者は常に落ち着きを払い、
心身の動揺を隠さなければならない。

「怖いなら後衛に付きな! あたしが前に出る!」

 これ以上話を続けても他の者に動揺が伝わってしまう。自らが前に出ると言っても白兵アセンブルの軽量級、充分な支援があってこそ力を
発揮するのだが怯えている部下たちにそれは期待できないだろう。

「残念だ。 女で無ければ良かったものを」

 特徴的な円筒形のヘッドパーツを装着した重武装のハイエンドACがレインの駆るハイエンドACの横に立った。

「なんだいあんた?」

「不足かもしれないが私がサイドに立ちサポートしよう」

 口が堅いということで腕が立つ傭兵として雇ったのだが、たまたまリンクスとも面識があったらしく他の依頼を断ってまで協力を
申し出てくれていた。

「間違って私を撃つんじゃないよ」

「君に実力が有れば問題はないだろう」

「言ってくれるね」

 エレベータが低速に代わりゆっくりと最下層に到着、ノーマルに搭載されているライトによって巨大な隔壁が照らされている。
入り口の隔壁と違って錆びた様子も無く、硬く閉じられた扉を抉じ開けるのはそう簡単ではなさそうだ。しかし開閉装置の予備電源は
まだ生きているらしく開閉スイッチは赤く明滅しており、いまだ機能が生きていることがわかる。

「開けるよ。注意しな!」

 レインはハイエンドACを開閉装置まで移動させると合図を送った。ノーマルACは銃器を構えながらランドクルーザの周囲に展開、
陣形が取れた事を確認するとレインは開閉装置を起動させた。長い間開かれていなかったのか隔壁が左右に分かれながら開かれていくと
埃が落ちてくる。開かれた隔壁の先は大きな空洞になっているらしく、ノーマルACに追加したライト程度では照らしきれていなかった。

「閃光弾装備のソーラウィンドウ、一発だけ撃ちな」

 レインの命令に発射された閃光弾が炸裂し、強烈な光が二百年以上暗闇に閉ざされていた廃都を照らし出していく。どうやら隔壁の
出入り口は空洞の高い位置に設置されているらしく、地面はかなり下のほうに存在していた。

「ここまでの昇降装置があるはず、探しに降りる。 ドレイク部隊着いてきな」

 閃光弾の光が消えるとレインの操縦するハイエンドACを先頭に隔壁から飛び降り町へと降下、後に続いて2機のドレイクが降下していく。
数秒で道路に着地したらしく3個の光点が隔壁の下から周囲に散開、現在位置を確保し異常がないか確認している。

「後続部隊降下後散開、センサーシステムの連携を忘れるな」

 重量型ハイエンドACに続いてソーラウィンドウが3機降下していく。後続部隊が降下完了すると陣形を整え周囲に異常が無いか確認、
探索範囲を広げながら周囲を警戒。

「異常なし。 整備部隊降下していいよ」

 レインの連絡を受けてソーラウィンドウのサポートを受けながら整備部隊が降下、地面に着くと昇降機の駆動部の復旧と電力供給作業に移る。

「リンクスの状態はどうだ?」

 セレンはランドクルーザ管制室から医務室に繋げた。ランドクルーザに乗せてリンクスを運んできているのだが、専門施設ではない以上
何時不測の事態に陥るかわからず、念のため専門知識を持った医師や医療技術者を連れては着ている。むろん口外する事の無い様信じられる者達を選抜している。

「いまのところ安定しています。ただもう少し振動を抑えて貰えるとより良いかと」

 元々あったランドクルーザの医務室では機能が足りず、格納庫の一部を潰してまで積んだ医療設備によってリンクスの生命は維持されている。

「解った。 そのまま頼む」

 今のままではいつ容態が急変してもおかしくない以上、あまり多くの時間を使うことはできない。暗闇に覆われた廃都は何箇所も
倒壊したビルや落石によって迂回を余儀なくされ、いくつもの隔壁を通り抜けた先で光が洩れ出ている隔壁を発見。
二百年以上放置されているはずなのだが、僅かな光が隔壁から漏れ出している。地下深度から言って地上までの開口部があることは考えられず、
電源設備がいまだ動いていることを示していた。
 隔壁サイドに設置されている装置を確認すると手動開閉装置があったが、開閉機能はすでに失われておりキルドーザーの実ブレードで隔壁を破壊。
砕け落ちた隔壁の先は明るく天井に設置されている電灯が光っていた。電力系が生きている証拠なのだが舗装が乱れた道路だけがあり人が居る気配はまったくない。
 AC部隊が先に隔壁を潜ると周囲の安全を確認しながらランドクルーザが続いていく。大規模エリアなのか天上まで非常に高く、
隔壁から少しはなれた場所には目当てとしていた大規模施設が原型を留めていた。エリアそのものは整備されている様子はほとんどないのだが、
電源は生きておりいまだ点灯する電灯もまだある。

「電源が生きている以上ガードシステムが動いている可能性がある。気をつけていけ」

 用意していた生身の突入部隊が先行して施設内部に侵入。警備システムの掌握を行ったが監視カメラ以外の機能は停止しており、
念のためシステムを完全に沈黙させる処置を行っただけだった。その後内部を探索し治療設備を見つけるとシステムの復旧と機能の解析に掛かった。

「旧時代の治療装置みたいだな。これでなんとかなるといいが」

 セレンがレオーネ時代の伝を頼って集めた医療技術者と医者達は治療装置を調べ始める。いま一般的に使われている装置とは
類似点があるのかわからないが、ある程度機能を理解できるらしく1時間以上調べた結果装置もある程度修理と調整を行えば
再び使用可能な状態にまで復旧することが出来るらしい。セレンと医師達はランドクルーザからリンクスを慎重に運び出し治療室に移送、
治療ポットと思われる装置にリンクスを寝かせた。

「システムを起動させます。 注意してください」

 治療ポッドが閉じると何か機械が動く音が僅かに響き、ポット横に設置されている端末にリンクスの状態が3D表示される。
自動で全身のスキャニングが行われ、人工臓器の交換部位が赤く調整部位が黄色く表示。医療技術者がマニュアルどおり端末を
操作すると足元のラインが赤く光り、自動で治療器具が運ばれてくる。

「幸いDNA情報の消去された臓器のストックもあるようです。半日もあれば動かせるようになるかと」

端末情報を確認した医師と技術者はセレンとレインにそう伝え、他の医師たちと共に作業に戻った。長い月日が流れても臓器の
ストックがある点など疑問の残る点はあるが、セレンにはおおよその見当がついていた。
 奴が所属していた傭兵団そのものがおそらくこの地下施設に関連があり、所属していた傭兵も何らかの処置を受けていた可能性が高い。
この区画を探せば地上へのルートがあり、そこから定期的に物資の補給等を行っていたのだろう。

「レインはこの場を頼む。私は周辺を調べてくる」

「わかった。気をつけて」

 セレンにはこの施設で調べたいことがあった。それはカラードやインテリオルの情報室では得られなかったリンクスのプロフィール、
所属部隊と同じようにおかしな点は無いのだが、所属部隊を疑ってしまえば話は変わってくる。
国家解体戦争勃発10年ほど前に初めて記録にあがり、最後の記録ではレイレナード本社で防衛に当たっていたという。
ネクストというまったく新しいACを産み出したレイレナードがハイエンドACとはいえ傭兵部隊を雇うのだろうか。
だが辻褄だけを合わせるように予測を組み立てればそれほど難しいことではない。
 レイレナードそのものがこの地下施設と関連がある。
国家解体戦争前の最大手企業群が国に反旗を翻すために共同で開発していたネクストACに、
いくら技術があるといってもレイレナードという新興企業が関われるのも考えて見ればおかしなことだ。
ACそのものの技術もしくはAMSに関わる技術のどちらかが秀でていれば話は別だが、AMSや統合制御体についてはアナトリア、
機体そのものについてはノーマルACを生産している他企業が優れているだろう。
だが超高密度水素吸着合金やコジマ技術のジェネレーター等ネクストの特徴たる面は全てレイレナードが元となっている。
最悪他企業の持つ情報は産業スパイなどを利用して得られるため、レイレナード無くしてネクストACを動かすジェネレーターは得られなかっただろう。

「ここが資料室か」

 リンクスの素性について何か解るかもしれないとセレンは資料室の扉を開けた。中は少々荒れていたが、
少々古びた端末に触れるとディスプレイに光が灯り機能が生きていることがわかる。

「IDカードを入れてください」

 画面表示はセキュリティーマークに覆われキーボードを触れてもなんら反応は無い。セキュリティの一環だろうが、
IDカードのみで認証できるのは随分と甘いセキュリティだろう。だが、
身体スペックが常人を超える強化人間が身からほとんど離さずに所持していれば論外に近いだろう。
 セレンはリンクスが普段RAVENジャケットに入れて持ち歩いていたIDカードを取り出してIDカードをリーダーに差し込む。
何か情報が表示された後セキュリティが解除され、画面表示が入力待ちへと変更される。

「Type―S―0573―I141を確認。アクセスを許可。音声入力待機」

 以前にリンクスの口から聞いたナンバーとまったく同じ、リンクスは自らの重要な情報もセレンに対しては何も偽らず言っていたことになる。
そこまで信頼されていた事にセレンは内心驚いたが、命令という言葉に従っていただけの可能性もある。
心を落ち着かせるとセレンは求める情報を表示される為必要なコマンドを行う。

「プロフィール及び施設情報を開示。全てだ」

「了解しました。Type―S―0573―I141のIDレベルで開示可能な情報及び現施設情報を表示します」

 表示された情報は人間が人間を保護する為に生み出した管理システムの人間に対する結論そのものだった。
【旧ムラクモ・ミニアム社 ウェンディズ機関 強化人間及び新型AC研究所。現RN管理下 生体ナインボール及びナインブレイカー生産プラント】
【プログラムR・Nの起動によってレイヤードからの人類の開放と同時に第二プログラムに移行、人類に対する管理システムの必要性を確認中。並行して第一プログラム破壊システム イレギィラーを第二プログラム破壊システムとして上位互換の開発を実行】
 人類を保護する管理システムである以上保護が不要になった時自らを破壊し人類を独り立ちさせなければならない。
しかし保護と破壊が同軸に存在していてはプログラムに矛盾が存在する。そのため別の意思を持って動作するシステムが必要となり、
破壊する段階に達すればプログラムR・Nが起動し管理システムの破壊者の創出と最終判定を下す。
 そしていまだ人類が管理システムを必要としないよう世界に干渉し、破壊によって停滞する現状の変化を促す存在を送り出していた。
【Type―S―0573―I141、出生時生体年齢4 現生体年齢26、染色体XY、管理プログラムシステムのイレギュラー、DNA ナインブレイカーを使用】
【管理プログラム破壊者のDNAをR・Nによって採取し保存。データ採取の為数度生産し世界に与える影響を確認中、得られた戦闘情報は全て睡眠教育を実施し現在13体目の情報を収集中】
 リンクスの戦闘に関する事柄の高い習得能力。それは根底に刻まれている戦闘経験と膨大な戦闘情報の積み上げによるもの。
そして国家解体戦争以前に一部のRAVENにのみ該当するドミナント【先天的に戦闘適正に優れた者】である存在のクローン、
旧AC時代であれば 伝説的強さを持ったRAVEN にでもなれただろう。
【なお、世界を不安定にするイレギュラー要素と相対した時のみナインボールとして対象を排除する】
 秩序の破壊者たるナインブレイカーに秩序の管理者ナインボールとしても戦わせる。刷り込まれた管理者としての考え方と
DNAに刻まれている破壊者としての心理的根幹、相反する故にリンクスは精神が不安定になるとどちらかの存在が主となっていた。
 改造AFと対した時奴は自律兵器に対して怒り、乱れた感情は異常な存在に対して排除する意思が働いていた。
これだけを見るなら奴はすでに端末になっていると思えるだろう。
だが、普段のリンクスは訓練で感情を抑えていると言っても感情に左右されることが多く、感情が乱れる原因も機械的な考え方とは違う所から来ている。
しかし、それさえも管理プログラムによって計算された人格であったならば普段のリンクスはなんなのだろうか。
 ネクストに搭乗しても自らはRAVENだと言い、旧時代の操作技術を工夫しながらネクストに使用している考えも刷り込まれたものだったとしたら、
伝説的強さを持ったRAVENに憧れる意思も、管理プログラムの思惑通りに戦闘情報を集め、
世界に干渉するシステムを構成している1端末に過ぎないのではないのか。

「…伝説的強さを持ったRAVEN?」

 その時ホワイト・グリントとフィオナ・イェネフェルトが最後に言った言葉が頭を過ぎった。
《君が私と【同じ】ならばいずれ解る時がくるだろう》。
《あなた達は、昔の私達と同じです。考えてください。何の為に戦うのか》。
《同じ》そして《何の為に戦うのか》、最初はカラードのリンクスとして依頼のままに戦う事のみを指しているのかと思っていたが、
【伝説的強さを持ったRAVEN】《私と同じならば》《何の為に戦うのか》、
アナトリアの傭兵も自分という存在を得る為に戦った事があったとしたらどうだろうか。

「I141の前に送り出されたRAVENの情報を全て表示しろ」

「このIDでは質問情報に関するアクセス権限がありません」

 アクセス権限が無い。自らに関する事以上の情報は不可能と考えれば妥当な権限設定だろう。

「ではI141の前に送り出されたRAVENは何年前だ」

「I140は35年前に送り出されています」

 35年前、アナトリアの傭兵の詳細情報は不明だがいままでのキーワードから予想はついていた。

「同じ…産み出されたRAVEN」

 アナトリアの傭兵も理由は定かではないが自らの存在に気付き、それでも自らの意思を持って戦っていた。
そうだとすればリンクスも同じように自己意思を確立し戦う事はできるはず。ナインボールでもナインブレイカーでもなく奴という個を持って。
 セレンはIDカードを引き抜いて資料室を出ると考え事をしながら施設内部を歩いていた。
通路そのものは少々汚れてはいたが施設としての機能は充分まだ生きているらしい。
時折空調の動く音や自動清掃装置が動いている事が数年前まで物資の補給やメンテナンスが行われていた証拠となっている。
セレンは一度治療室に向かうと整備士達の手によって治療室周辺の設備が整備し直され食堂が機能を取り戻していた。
軍用レーションとしては特に味も良く評価の高い有澤製を買い込んで要るものの、作った
ばかりのものと比べるとやはり味は落ちてしまうだろう。
料理が行われている香ばしいが周辺には漂っており、緊張によって疲れた体は食物を求め始めている。
セレンは食堂の扉を開けるとすでに数人が出来上がったレトルトカレーや水戻しの寿司を食べていた。
軍用レーションとは違い携帯食料に人手間を加えた程度のものだが、適度な香辛料が加えられれば充分美味しい食事に変わるものだ。
セレンは手早く食事を済ませると考えを纏めるためランドクルーザの管制室へと戻った。
 3時間ほどランドクルーザの管制室で仮眠を取った後セレンは再び施設内を調べる為に再び施設内を回り始める。
途中壁面がガラス張りの通路に行き当たり、セレンは何かの防犯設備かとゆっくりガラスの先を確認するとそこには見慣れないものが立ち並んでいた。
巨大な試験管らしきものが立ち並んでおり、どれも空なのだが人が入れるだけのサイズがある。
セレンは注意深く横にあった扉をゆっくり開けると中に入っていく。高めの天井からコード等が繋げられたガラスケースが下りている事から、
何かの保存装置または培養装置にも見える。空の巨大な試験管らしきものが並ぶ中をセレンは進んでいくと何かの液に浸かった状態の人間が残っていた。

「生きて……居るのか?」

 よく見ると機械はまだ機能しているらしく、試験管サイドに設置されたディスプレイには心拍数や脳波の変化が映し出され、
中の女性がいまだ生きていることを伝えている。
外見的年齢は20代中盤か後半くらいだろうが、生体年齢となるとまた話は別だろう。

「管理者の端末か……」

 セレンは銃を抜くとその照準をいまだ目覚めていない女性の額に合わせた。それから数秒間トリガーを引かずにセレンは女性を見ていたが、
ゆっくりと銃をホルスターに収めると部屋を出て行った。

「……殺す必要などない」

 生まれ方が違ったとしても自己の意思を確立できる以上同じ人間、セレンには撃つことはできなかった。
もしかしたら生きている間に敵として現れるかもしれないが、その時までにリンクスを鍛えておけばいい。
 治療室に戻ると何か問題が起きたのか医師と医療技師達がなにやら治療ポッドを調べながらマニュアルを見返している。
何が起きたのか尋ねるとポッドの開閉が行われないというのだ。

「処置は終わったのですが、ポッドの開閉装置が動かずどうしたものかと」

 セレンがディスプレイを見ると何かカードを入れろと表示されているが、IDカードはセレンが持ち歩いていたため解らなかったのだろうか。

「状態は?」

「身体についてはすでに終わっている様なのですが、残りの設定が」

「最適化という項目がマニュアルにはない為どうしたものかと」

 まだ医師達は気付いていないだろうが、この最適化は恐らくリンクスの人格設定を表しているのだろう。
 最適化、聞こえはいいが人格そのものを都合よく書き換えることになる。確かに不安定な今のままでは危険性はあり、
その要素が無くなり最高のスペックを出せるとなると魅力的な話ではある。
しかし本当に書き換えてしまえば人間としてリンクスを扱わない事に繋がり、今後の接し方にも少なからず変化が起きてしまうだろう。
セレンはリンクスの情報を見たことでその心は決まっていた。

(…問題児だが私の教え子だ。私の手で育てていく)

 セレンはIDカードを装置に差し込むとディスプレイに最適化の有無が表示され、周りの技術者が気付く前にNOを選択した。
ゆっくりと治療ポッドが開くといまだリンクスは眠った状態だった。

「起きろ」

 セレンは乱暴にリンクスの額を殴りつける。周りの医者達は驚いたがリンクスは額を押さえながら飛び起きた。
何が起きたのか自分では良く解っていないのか目を白黒させながら周りを見ている。

「手間をかけさせるな。帰るぞ」

「了解」

「違う、わかりました だろう」

 命令や他者の意思では無く自分の意思で動いてもらう。基本的なことだが命令は非常時以外行わないようにする事から始めようとセレンは考えていた。

「意図が読めませんが、わかりました」

 いまだ状況が飲み込めていないリンクスはセレンから何を求められているか理解していなかった。
だがセレンもまたリンクスにとって彼女の言葉は命令以上の意味を持っていることも理解していなかった。

 リンクス達が地上に戻り再び人気の無くなった施設では何かのスイッチが入り液体が抜かれ始める。
完全に水が抜かれると試験管は天井に引き上げられ、中に居た女性はゆっくりと目を開けた。

「セラフ起動要請から数ヶ月経過か、干渉要因の確認をしなくては」

 女性は自動機器によって用意された服を着ると暗い通路に姿を消した。
 それから数分後格納庫の一機の機体が動き始めた。赤く染め上げられた機体は飛行用バインダーと思われる大型ブースタを背負い、
両腕にはレーザーブレード発信機が装着されている。
カメラアイに光が灯るとゆっくりと機体は歩き出し、格納庫から出ると施設外部の壁面まで進む。
何かしら操作したのが壁面が開き始め隔壁が姿を現した。隔壁を破壊するとエレベータ
を起動させ地上へと上昇、
エレベータ終着点はレイレナード本社が見える切り立った崖だった。
 切り立った崖の前に出ると崖から身を投げるとゆっくり上昇、地上に姿を現した赤い天使は自らの役目を果たすべく空に舞い始めた。


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