小説/長編

Written by えむ


 KB-O004。それは、オーメルが開発したコジマブレードと呼ばれるものである。
 ブレードと分類はされているものの、そのコンセプトは実際には射突ブレードのそれに近い。叩きつけると同時に、コジマ爆発を発生。その爆発と高濃度コジマ粒子によって、相手に致命的なダメージを与える一撃必殺兵器だ。
 さらにコジマ粒子に指向性を持たせることにより、自機に対する影響をカット。トーラスのコジマ兵装と違う一種の安全感をも使用者に与える、そんな性能の物であった。弾薬費こそかさむ物の、これは間違いなく完成された装備であるのは、誰の目にも明らかであった。
 だが、それでも。ごく一部の人間は思う。
 コジマブレードと言うからには、やはりちゃんとレーザーブレードのように剣にすべきだろうが。とっつき仕様のくせにブレードの名を語るとは、片腹痛い。そんな感じである。パイルバンカーですら射突ブレードとなってしまうような世界観。本当ならそんな細かい事情は気にしてはいけないのだろうが。
 実際はKB-O004を作ったオーメルをライバル視していてるだけだったりするのだが、それはそれとして彼らは「真のコジマブレード」作りへと取り掛かる。どうせなら至高の一本を。あのムーンライトをも越える究極の剣を…!!
 真のコジマブレードと呼べる物を作るべく、技術陣の夜も徹しての作業が人知れず始まり、幾ばくかの月日が流れた。

 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □

 目覚ましが鳴る。いつものように、無意識でその目覚ましを掴み、壁に向かって投げつけるイリア。だが、目覚ましは止まらないまま、ひたすらに鳴り続けている。

「……う、うむぅ…」

 やがて仕方なくと言ったところで、イリアはノロノロとベッドから這い出してきた。そして今もなおなり続けている目覚まし時計を拾い上げ、スイッチで止める。

「……さすが有澤製…頑丈…」

 ネクストが踏んでも壊れもない。を売り文句に作られた有澤重工製目覚まし時計。その堅牢さは、お墨付きだった。
 だが問題はある。投げつけたら家の壁にひびが入る程までにすごいものだったのだ。それでいて、本体は傷一つない。さすがは装甲技術の有澤である。
 それはともかく目覚ましは壊れなくなったため、その手の出費は大分少なくなったのは事実。だが、もうしばらくしたら家の壁を修理する必要があるかもしれないのが現状であった。…ひびだらけとなった部屋の壁を見て、イリアは小さなため息を付き、朝の身支度へと取り掛かるのであった。

 朝食を終え、カラードへと格納庫向かってみると、すでにトーラスから、試作装備テストの依頼と共にパーツが送られてきていた。
 さっそくそれはイリアの愛機への取り付けを開始する。
  
「コジマ兵装なのかな?」

 右腕部へと装着されるそれを見つめながら、イリアがポツリとつぶやいた。通常のブレードユニットと比べると一回りも二回りもでかい。それこそオーメルのコジマブレードとサイズ的には良い勝負だ。

「うむ。事前に聞いた話によると、真のコジマブレード…らしい。試作だから正式名称は不明。仮称はサンライトと言うそうだよ」
「…サン…ライト…」
「たぶん名剣として有名な、ムーンライトに対抗してつけたんだろうね。予算度外視で作ったんだってさ」

 予算度外視。試作品やプロトタイプでは、よくあることだが予算度外視で作られたブレードの効果がどれほどのものか、さすがに想像もつかない。
 
「テストは3日後。オールドクラークで行うことになってる。今回のテストのために、わざわざどっからか自律型ネクストを持ってきたらしいよ」
「自律型って…。あのでっかいブレード展開する、アレ?」
「そのタイプだね。どうせやるなら決闘形式でやろう的な意見が出たらしい」
「たかがテストのためとは言え、トーラスって本当に自由だよねぇ」

 そもそも自律型ネクストは現在、市場には出回っていない。その辺に関しては、企業の戦力としては全く使われていないのが良い例だ。実際、どんなルートで手に入れてきたのか知る術もないが、別に知りたくもない。と言うよりも知らないままの方が良い気がする。なんとなく、怖いから。






「待て。どこに行くつもりだ」

 とある場所にて。ネクストが数機並ぶガレージにて、その男は呼び止められて立ち止まった。

「……勝負」
「大事の前なんだ。出来るものなら、独断で動かれては困るのだが」
「………」
「メルツェル。行かせてやってはどうだ? あ奴の剣士としての本能がうずいて仕方ないのだろうよ」

 そう言って、メルツェルと呼ばれた男に、いくらか老いの見える男が情報端末を手渡す。そこにはトーラスがムーンライトに匹敵するコジマブレードを開発し近々テストすることが書かれていた。

「ムーンライトはあ奴の誇りだからのぉ。自分の目で確かめたいんじゃろうて」
「…トーラスなら、我々の動きを悟られたりする危険はほぼない…か。…今回だけだぞ」
「……感謝」

 そう答え、男はネクストへと乗り込むのであった。






 テスト当日。
 イリアは愛機を所定の位置へと移動させていた。近くまではトレーラーで輸送し、そこから戦闘エリアへと向かう段取りなのだ。

『おい、なんだあれ?』
「……?」

 だが、その目的地へと向かう途中。トーラスのスタッフからの通信が突然に入った。

『あれ?イリア君の機体ってアリーヤだったっけ?』
『そんなわけないだろう。あの子は、今でもアクアビットマンに心ときめく女の子なんだぞ?』
『だったら、あれは―――』
『あぁ、せっかく持ってきた自律型ネクストがっ?!』

 直後、爆発音らしきものが響く。

「…!? オウガさん、何が?!」
『それはこっちが聞きたいよ。いきなりやってきたネクストに自律型が一刀両断されたんだ…!!』
「……っ」

 すぐさまオーバードブーストを起動し、機体を急加速させて目的地へと向かう。
 やがて所定のエリアでは、その場に鎮座して機能停止した自律型ネクストと、その傍らに立つアリーヤの姿があった。
 こちらの接近に気がついたのか。機体ごと向き直るも、すぐに攻撃してくる様子もない。

「……何?」

 その場でいったん機体を停止させ、正面きって向き合う。そのまま沈黙の時間が流れ、やがてアリーヤの方が右腕に装着したブレードを振った。そして、静かにイリアの機体を指差した。

「どういう…こと?」
『ブレードのみで、戦闘がしたいってことじゃないのかな。どこの誰かしらないけど…』
「えっと、つまり…。試作ブレードのテストをどこからか聞きつけて、やりあいたくなったから来てみました…ってこと?」
『通信で呼びかけてはいるのだけど、返答は一切なし。でも、見たところそんな感じかな。ちなみにトーラスの面々はテストできるなら、相手は何でもいいだってさ』
「は、ははははは…」

 謎のネクストの襲撃と言うある意味問題ありまくりな状況なのだが。それでも相変わらずなトーラスの方々にイリアは、ただ笑うしかない。終わりよければ全て良しが、社訓の一つであるトーラスにとっては試作装備のテストとデータが取れればいいのだろう。
 とりあえずブレードでの戦闘を承諾することを示すため、こちらもブレードを振ってみせて答えると、どうやら通じたらしく、相手のアリーヤが静かに構えた。
 対するこちらも構える。

「……………」

 自然と緊張で手が汗ばむのがわかった。現実でネクストと対峙するのは、これで二度目。だが前回、雷電と一戦を交えた時は違うプレッシャーのようなものを感じる。
 今回の戦闘で死ぬ可能性は低い、そんな気はするもの、それでも余談は許されない。何が起こるのかわからないのが実戦なのだから。
 パチンと自分の両頬を叩く。弱気になりかけた気持ちを切り替え、相手の機体を観察する。
 ベースはアリーヤ。武装はモーターコブラと……

「嘘…。ムーンライト…?」

 レーザーブレードとしては最高の一品と言われるムーンライト。それが相手の右腕に装着されていた。実物を見るのは初めてだが、カタログスペックその他は、しっかりと頭に入っている。
 レンジの長さこそオーメルのロングブレードに適わないが、それ以外の要素は全てトップクラスの性能だったはずだ。唯一の難点は重量。それゆえに普通のブレードよりも振りが「遅い」。
 しかし高速戦闘に置いて、その遅さはたいした問題ではない。使用する機体が早ければ、その速さが上乗せされるのだ。そしてブレードをメインに使う機体は、基本的に速度重視のアセンとなっている。
 正面のアリーヤも、きっと同じだろう。中量クラスとはいえアリーヤは機動性に長けた機体であるし、さらに背部に追加の大型ブースターが積まれていることからもわかる。ブレード戦を主軸においた機体であることが。
 恐らく乗り手自身も近接戦に長けているのだろう。そうでなければ、あんな機体アセンは選ばないはず。つまりのところ、ブレードでの戦闘に絶大な自信があるということだ。

「………」

 それに対して、こちらは不利となる要因を抱えている。
 トーラスの作ったコジマブレード――サンライト。コレのスペックは高い。性能的にはムーンライトと五分五分に近いし、刀身の長さはむしろこちらが上。さらにコジマ粒子を使うため、使用の際のEN消費が少なくて済むという利点があり、刀身展開可能時間も長い。その代わり、使用時にPAが幾らか減衰してしまうらしいが、今回においては大した問題ではない。
 問題は大型なため、ムーンライトよりも振りが「遅い」ということと、機体の速さだ。
 こちらも軽二脚で向こうよりも軽く機動性も高いが、ブースターまわりはブレード戦を前提とした構成というわけではない。瞬間速度では向こうに適わないだろうし、それはつまりブレードの射程距離がその分短いということになる。
 基本的に機体性能で判断した場合。こちらが圧倒的に不利である感はぬぐえない。ブレードだけの戦闘など未経験ではあるが、恐らく一発勝負になるだろう。一撃で落ちることはないにしても綺麗に入れば大ダメージは避けられない。
 総合的に勝ち目はない。こんなことをしてくる相手だ。経験その他でも向こうが上なのは間違いないだろう。

「……オウガさん。…私、勝てる気しないよ…」
『いやいやいや。そんな弱気でどうするんだい。相手に合わせる事はない。自分の長所を生かして攻めればいいんだよ』
「…長所」

 自分の長所は何だろうと思い返してみる。
 AMSの数値が非常に高く、機体を自在に扱えること。そして反射神経の高さ。今浮かぶのはそんなところか。あとはネクストやパーツについて熟知していること。
 機体の長所は小回りの強さ。旋回速度やクイックターンの速さなら、こちらが上だろう。自分の戦闘スタイルは、ともかく動き回って翻弄するもの。よって前進より左右の動きを重視している。
腕部の運動性ではアリーヤとほぼ互角だが、軽い分だけ「早い」かもしれない。

「あ……」

 頭の中で色々と線が繋がってきた。この一発勝負に置いて勝てるかもしれない構図が。うまくいけば、相手よりも早く振れるかもしれない方法が浮かんだのである。
 それは必勝というわけではなく、一か八かと言ったところだが、やってみる価値はあると思った。
 トーラスの社訓でもあった。「思い立ったが吉日」「失敗は成功の元」「終わりよければ全てよし」と。もしこれで負けても、次に生かせばいいのだ。この戦闘に置いては、恐らく生死の問題は…ない。
 そう決意が決まったところで、イリアはおもむろに愛機を動かし、相手とは違う方向へと機体を向いた。具体的には左斜め後方へと機体を傾け、ブレードを装備した右腕を胸部の前へと持ってくる。こちらの攻撃は内側から外へ向けての横薙ぎ。ただし、それに一工夫を加えたものだ。
 これが自分の構えだと言わんばかりに、動きを止め相手の出方を待つイリア。

「いいよ」

 オープンチャンネルで告げる。やがて一つの通信が返ってきた。

『――参る』

 相手の機体から目は離さない。距離は約500程度、ネクストのクイックブーストなら一瞬で詰めれる距離だ。
 相手の機体後部で光が瞬いた。クイックブースト。右腕のムーンライト、その光刃を煌かせつつ迫る。――予想通り早い。
 相手の動きとFCSが表示する相対距離に最大限の集中力を払う。相手のブレードの長さを考え、最大の効果を発揮するであろう距離。その少し手前の距離にさらに+30ほど足した位置が攻撃のタイミングだ。
 距離が縮まる。凄まじい速さで距離が縮まる。距離計が想定した数値に近づく。
 ―――プラスマイナス0。
 その瞬間、イリアはその場で機体をクイックターンさせた。さらにその動きに連動させて、腕を外側へと大きく振りぬく。
 向こうが直進速度の高さを生かしてブレードを振るのなら、こちらは旋回力の高さを生かしてブレードを振ろうと考えたのである。さらにクイックブーストの最高速度は発動直後が一番速い。発動して攻撃をする相手よりも、発動と同時に攻撃にする方がその速さを上手く乗せることができる――はず。
 
『………』
「……っ?!」

 間合いに入った瞬間。アリーヤがバッククイックブーストで急制動をかけた。横へと振りぬいた一撃、ブレードの先がアリーヤのコアの先端部を掠めていく。

『………』

 速度もタイミングも充分だった。ただ、相手の力量がわからなかったことが敗因だ。結果として大きく相手に隙を見せることになってしまったのだから。
 そのまま突っ込んでくれば、一撃を入れれたかもしれなかったのに。相手の予想外の対応に、イリアの脳裏に一瞬動揺が走る。だが、そこで以前――シミュレーターで模擬戦闘をした熟練のリンクス、ヤンの言葉が浮かぶ。

――予想外の事が起こるのも戦場の常だ。そして、それに直面した時こそ、兵士としての真価が問われる――

 咄嗟の判断だった。反射的にイリアはAMSを通じて、次のコマンドを叩き込んでいた。

「う、うあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 必死の感情が声となって出る。それと同時に、愛機はイリアのコマンドに答えた。
 再び踏み込もうとしたアリーヤが、身の危険を感じ、左方向へとクイックブーストを使ってその場から離れた。一瞬遅れて、切り返しの一撃がアリーヤのいたその場所を切り裂く。
 クイックターンから逆方向へのクイックターンによる間髪いれずの切り返しから斬撃。こちらのサンライトの発生時間が長いからこそ出来た半ば偶然の産物による二連撃。
 その返しの一撃は、直撃こそしなかったもののアリーヤに傷をつけていた。

『………』
「はぁ…っ。はぁ…っ」

 さすがにクイックターンの二段クイックブーストは、イリアにとってもきついものだった。それでも気を抜かず、対峙するアリーヤを睨みつける。

『…見事』
「え……?」

 一言。端的な一言が通信を通して入る。それと同時に、アリーヤは踵を返し、オーバードブーストを展開して、あっという間にその場から立ち去って行く。

「……なんか、褒められた」

 極限の緊張感から開放され、コクピット内でへなへなとなりながら、イリアは呟く。結局、あのアリーヤが何をしたかったのかわからなかったが、でもなんか褒められたのは確かだった。

「私って…近接格闘戦が向いてるのかな…?」

 ブレードメインの戦いなどしたことも、これまでしたこともなかったが、この一戦において、イリアは何かいつもと違うものを感じていた。結局、相手に見逃してもらったような形ではあるが、一つのビジョンが見え始めてきていたのだ。
 そして、後日。イリアは愛機のガチ装備を決めて、オウガに提出するのだが、それはカラード始まって以来のトンデモアセンであった。

 ちなみにサンライトのレポートは、至って良好の一言でまとめられた。だが、この装備が表舞台に姿を現すことはなかった。―――予算度外視での開発は伊達ではなく、量産できる代物ではなかったのである。
 しかしながら、イリアはこの時。この謎のネクストとの戦闘が、後に起こる出来事の前触れでもあったとは思ってすらいなかった。

 そして状況は大きく動き始める。

~つづく~


now:26
today:1
yesterday:0
total:82


移設元コメント


☆作者の一言コーナー☆
 軽くお久しぶりの、えむです。
 どうしても真改とブレード対決させてみたかった。ただそれだけで書いた。
 ちょっぴり強引な展開になったとこ後悔はしてるけど反省はしない。

 さて、次回から再び話の路線が変わる予定です。試作装備の持ちネタつきちゃったし、ストーリー的な方をオリジナル的に勧めていこうかと。
 あんまり長くはならないでしょうが、生暖かくでも見守っていただければ幸いです。

 それでは今回はこの辺で。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 次回、イリアの愛機の機体名と基本戦闘用アセンも公開です。こう、ご期待。


コメント



小説へ戻る