Written by ケルクク
注意!この話はカニバリズムや流産等の残酷描写やチョットHな表現が含まれます
目を開ける。
周りは一切の光のない闇。
一瞬だけAMSを繋ぎ問題がないことを確認する。
結果に満足し目を閉じる。
約束の時間までもう少し。
ならそれまで夢を見ていよう。
俺を育ててくれた爺さんが教えてくれたところによると
俺が生まれたのは大きな戦争の最中だったらしい。
他にも爺さんは色々教えてくれたが俺は頭が悪く殆ど理解できなかった。
理解できたのは三つだけ。
一つ目は、俺の両親はその戦争で死んだこと。
二つ目は、その戦争のせいで地上は人の生きている場所ではなくなったこと。
三つ目は、爺さんは病気でもうすぐ死ぬこと。
***
爺さんが死んだ(死因はコジマ汚染とかいうやつらしい)後、引き取り手のいなかった俺は孤児院に入った。
爺さんの死後、俺は少し荒れていた。孤児院にいる奴らもそんなのばかりだった。
俺達は狭い箱庭で昔を思い出し泣くか、寂しさを忘れるために殴りあうかのどちらかだった。
あいつが来るまでは。
あいつは俺の一ヶ月後に来た。
何でも両親が神とかいう奴に仕えていたらしくあいつも神に仕えているのだそうだ。
あいつは来た日からお節介を始めた。
泣く奴がいたら泣きやむまで励まし、争いが起きれば争いが止むまで間に入り続けた。
何度騙されようともどんなにボロボロになろうとも。
最初は全員が鬱陶しがっていた。全員が馬鹿にしていた。俺もそうだった。
でも、違った。あいつは諦めなかった。
どんな酷い目にあっても人を信じ、誰かが泣きやんだり争いが止むたびに笑顔をみせた。
そんなあいつに何時のまにか皆魅かれていた。俺もそうだった。
そして気付けば俺達は泣く事も争うこともなくなっていた。
あいつは俺達に色々教えてくれた。やっぱり頭が悪かった俺はほとんど理解できなかったが。
理解できたのは三つだけ。
一つ目は、死んでしまった両親や爺さんは神とかいう奴のところで幸せに暮らしていて俺らもいつかそこに行くこと。
二つ目は、人間は平等であること
三つ目は、頑張れば神とかいう奴がいつか幸せにしてくれること。
***
孤児院から出される飯は少なかったから何時も腹は減っていたし、玩具も本もなかったから娯楽も少なかったはずだが、
それでもこの頃は俺の黄金の時代だった。
勿論、リンクスになった今なら美味い(もっとも味覚がぶっ壊れているため味は感じられないが)ものを腹いっぱい食えるし、
望めば何だって手に入るけどそれでもこの頃にはおよばない。
だが、そんなものはすぐ終わる。
***
クレイドル。
汚染された地上を汚染することで安全な空を飛ぶ揺り籠。
未来を犠牲に今を生きる箱舟。
それがいいか悪いかなんざ俺には分からない。
大事なのは俺たちがそれに乗れないという事だけだ。
まぁ、考えてみれば当然だ。
いくらクレイドルがでかくても人類全員を乗せることなんざできやしない。
そして、誰かを切り捨てなければいけないとしたら真っ先に候補に挙がるのが
何の後ろ盾もなく何の役にも立たない俺達だった。
そして、見捨てられた俺たちだがそれでも何とか居場所を見つけられた奴らもいた。
ある奴は武装組織に入った。ある奴は企業の兵士達の慰安施設に自分を売った。
そして居場所を見つけた奴らが一人抜け、二人抜けしていって気が付くと残ったのは、
銃を持たせての捨て駒にも、体を売ることさえできない正真正銘何の役にも立たない幼いガキどもと、
そんな無力なガキを見捨てられない馬鹿なあいつと、あいつに惚れてしまったもっと馬鹿な俺だけになった。
だが、何の力の無い奴らが生きていけるほどこの地上は甘くない。
飢えと何より汚染で、
三日目で最年少だった4歳のキャスが死んだ。その日からあいつは笑わなくなった。
二週間目にミカが死んだとき遂に俺らは飢えに負けてミカの死体を食べた。その日からあいつは俺と一緒じゃないと寝れなくなった。
一か月で体の弱い奴と八歳以下のガキはみんな死んだ。その日からあいつは泣かなくなった。
半年後にランが死んで俺たち以外ではアミーだけになった。その日あいつから子どもが出来たと聞かされた。
それから十日後の朝、アミーが死んだ。その夜に俺達の子供が生まれる前に死んだ。
次の日、あいつは俺に結婚してほしいと言った。
汚染された地上の朽ち果てた孤児院で俺達は死が二人を別つまで愛しあう事を誓い合った。
誓いのキスが終わった後、あいつはあの日以来流せなくなった涙を流しながら半年ぶりの笑顔で俺に願った。
自分を殺してほしいと。
俺はあいつを殺した。
あいつとアミーの死体を墓地に運び埋めようするとあいつの死体から手紙がこぼれおちた。
手紙にはただ一言書かれていた。
「一人にしてごめんなさい。君は生きて幸せになって」
俺はあいつの後を追って死ぬのを止めた。
***
それからは色々な事があった。
生きるためにあいつを食べたこと(せめて味だけでも覚えていたかったが残念なことに味覚は汚染でやられていた)
瀕死なババァを助けたら、いつの間にか飼われていた事。ロイ兄やウィン姉等の出会い。カスミ・スミカの名前を継いだ事。初陣に初めてのAF戦。
そして、クレイドル。
***
人は平等だ。あいつの言ったように。
ただ生きているだけで代償を支払わなければいけない。
それは、人によって時間だったり体だったりと種類は違うし、量も差があるがとにかく誰もが払わなければならない。
勿論、無敵のネクストに乗る俺達リンクスも例外ではない。人体改造やAMS接続の苦しみやコジマ汚染といった代償を払っている。
そして、払えない奴から死んでいく。
だから人は平等だ。
そう思っていた。
リリアナに占拠されていたクレイドルを解放した後、褒美として俺達は特例でクレイドルで開かれたパーティに招待された。
そしてそこは何の代償も払わず生きている奴らで溢れていた。
何でこいつらは何の代償も払わずに生きているのだろう?
俺は考えてみたが馬鹿なのでわからなかったのでババァに聞いてみた。
だが、何時もなら答を教えてくれるババァは「自分で考えろ」と言った。
考えても解らないというと顔を歪ませて立ち去った。鬼の目にも涙。
しょうがないからロイ兄に聞くと、苦笑しながら答えてくれた。
「俺だって全てに納得しているわけじゃない。でもあいつが守ると決めたなら、俺はそれでいい」
惚気られた。でも、困ったな。ロイ兄も解らないのか。
仕方ないのでウィン姉に聞いてみた。ウィン姉は一言で答えてくれた。
「矜持のためだ」『きょうじ』が何か解らないので聞いてみたら大きくなったら解ると言われた。
じゃぁいいや。大きくなるまで待とう。でも、本当に大きくなれば納得できるのかな?
***
心に残った疑問に決着をつけないまま時を重ねる。
ある日、マクシリミアン・テルミドールが現れ告げる。
「その疑問は正しい。世界は間違っている。だからこそ我らが正さねばならない」と
彼は冷静にしかしどこか熱っぽく理想と計画を謳う。
俺は馬鹿だから殆ど理解できなかった。
解ったのは三つだけ。
一つ目は、この世界が間違っていて間違いは正さねばいけない事
二つ目は、計画が成功すれば人は宇宙に出れる事
三つ目は、計画が成功すればクレイドルが落ち多くの人が死ぬ事
俺はORCAに入った。
AMSが俺に告げる。作戦開始時間。
目を開ける。
やはり周りは闇。
それに構わず機体のチェックを行う。
問題なし。長時間PAもなしに海水に沈んでいたので不安だったが大丈夫だったようだ。
後は獲物が網にかかるのを待つだけだ。
息を潜め、獲物を待ちながら地上で囮をやっている相棒との出会いを思い出す。
ORCAに入ってしばらくした後、カーパルス襲撃後に一人で部屋で休んでいると奴は現れた。
特にどこがと言えないが一目見たときから気に入らないと思っていた。
そいつは馴れ馴れしく、しかしどこか突き放したように真実を語りだす。
俺は馬鹿だから殆ど理解できなかったが、
たった三つだけ分かれば十分だ。
一つ目は、始まりの五人しか知らない計画がある事。
二つ目は、その計画では最終的には老人たちと和解する事。
三つ目は、つまりクレイドルの住人は生き残る事。
黙り込む俺に奴は何でもないように告げた。
「クレイドル03を襲撃する。付き合わないか」
俺は頷き、そして気付いた。
こいつの目は鏡に映った俺の目とそっくりだ。
だから、俺はこいつを気に入らないのだと。
***
落ちていくクレイドルを見ながら俺は思う。
ああ、これで平等だ。
世界が間違っているなら自分で正せばいい。
そう、皆平等に神の元に送ってやろう
凄く晴れ晴れとした気分だった。
気が付けばオールドキングの鼻歌に併せて俺も歌っていた。
あいつから教えて貰った神を讃える歌を。
「偽りの依頼、失礼しました。あなた方にはここで果てていただきます。理由はおわかりですね?」
獲物から通信が入る。狩りの時間だ。俺は近づく獲物にばれないように慎重に機体を戦闘モードにしていく。
「まあ、そういうことだ。どうせ、確信犯なんだろ?話しても仕方ない」
ネクストと俺が一体化していく。うん。戦闘モードへの移行は終了。ばれていない。
「所詮は獣だ。人の言葉も解さんだろう」
テルミドール。やっぱり出てきたか。でも、機体はステイシスか。なめられたもんだ。
「お前とこうなるとはな…。残念だが、私の蒔いた種だ。刈らせて貰うぞ。」
ババァ。…いや、迷うな。クレイドルを墜としたときから何時かこうなるってわかっていたはずだ。
もうすぐ奴らが上を通過する。そのチャンスを見逃すな。
「戦争屋風情が、偉そうに 選んで殺すのが、そんなに上等かね」
相棒が珍しく声を荒げる。挑発……じゃないな。少しだけ驚いた。相棒も怒る事があるんだ。でも、少し安心したな。
「殺し過ぎる・・・お前らは」
ウィン姉。やはり俺には貴女の考えが理解できませんでした。貴女が俺の考えを理解できないように。
だから行こう。俺の答の正しさを証明するために!
「!気をつけろ!」
機体を一気に戦闘稼働させる。ジェネレーターをフル回転させると同時にADDICTを起動。出力されるKPをI-RIGEL/AOに叩き込む。
OBとAAを同時に起動する。一気に急加速した機体が潜んでいた海中から脱し、そのまま頭上を通過する五組の編隊の中央に飛び込む。
同時にAAが炸裂する。俺の周りを暴力的な力が荒れ狂う。完全な奇襲。殆どのリンクス相手では直撃を受け混乱しているうちに追撃を受け終わるだろう。
だが、ババァの警告の前に、ある者は歴戦のカンで、ある者は足りない経験を才能で補いAAの範囲外に逃れる。
僅かに経験を補う才が足りず警告を受けた後に動いた二人。ゆえに直撃ではないがAAを喰らい、PAが剥げ機体にいくらかのダメージと、視覚とセンサーがマヒする。
それでも、一人は強き意志ゆえに混乱せず、QBを使い一気に前方に跳び追撃から逃れる。
だが、残り一人。ただ一人自らの意思でなく代理として、戦士としてではなくリンクスとして来たが故に混乱する獲物がいた。
「きゃぁぁぁ!大人!」
直撃を回避したことで得た時間を叫びを上げる事に浪費する獲物に右背につけたOGOTOを叩き込む。
同時に左手の07-MOONLIGHTを起動。全身の力が剣に吸い取られる感覚に思わず笑みがこぼれる。
「あぁぁぁあ」
「次に来る時は自分の意思で来い!」
自らが生み出した爆炎の中に踏み込む。PAに守られていないため自分も多少炙られるが気にしない。
そのまま、半壊した獲物を叩き切る。
腰から上下綺麗に分断された獲物の上半身を跳ね飛ばす。同時にADDICTを起動しながら生き返ったレーダーで周りの様子を確認する。
いい感じだ。テルミドールとババァは海上にいる。
そして、ウィン姉は俺から逃れるために距離をとったせいで逆に壁の向こうにいる。
ローディーは、まだ空中か。だが、相棒が牽制にミサイルを放つ。
それでいい。おそらく避けられるだろうがその結果ローディーは海上にくる。
そうすれば相棒はウィン姉と1対1でやれる。
元気な相棒と傷ついたウィン姉。相性差もあるし多分勝てるだろう。
そう、これがこちらの作戦。
相手が最高の戦力を最大の数用意してくる事はわかっていた。
だからまず奇襲で場馴れしていないリリウムを墜とす。
次にウィン姉と相棒をサシで闘わせる。
実弾メインな相棒ならウィン姉に多分勝てるはずだ。
俺はその間、三人を引きつける。数が多くても防戦に徹するならそう簡単には負けない。
ウィン姉を倒したら次は相棒はテルミドールを狙う。
とにかくこれも勝つ。
そうすれば、二対二だ。
もしかしたら、ウィン姉を倒した相棒に二人行くかもしれないがその場合は相棒が抑えている間に俺が残った一人を撃破する。
まぁ、簡単に言うと一人が囮になっている間に残った一人が各個撃破するっていうだけの作戦だ。
だが、これしかないのもまた事実。そして、穴だらけの作戦も今のところ順ちょ…
「っち」
相棒の舌打ち。
ローディーがミサイルを避けずに突っ込んだのだ。
フィードバックに突き刺さり爆発するミサイル。
だが、PAと何より分厚い装甲に阻まれ大したダメージを与えられたとは思えない。
そして、ローディーが壁の向こうに消える。
助けに行きたいがまさか二人に向かって後ろを向けるわけにはいかない。
作戦は失敗だ。
後は互いが生き残る事を祈るしかない。
***
くそ!
悪態をつく。
不味い。不味い。不味い。
未だ致命傷こそ受けてはいないものの状況は圧倒的に不利。
テルミドール一人でも厳しいのにさらにババァが援護に徹していて厄介極まりない。
テルミドールの攻撃後の僅かな隙を突いてもババァがフォローし追撃が出来ないし、
ババァから狙おうにもいなされ、その隙をテルミドールに突かれる。
即席にしてはいいコンビネーションだった。流石、年の功。
しかしこのままだと嬲り殺しだ。何しろ通用する武器が殆ど無い。
OGOTOの射程内にババァはいないし、テルミドールは一応射程内にいるがこんな鈍い武器ではあいつを捉えられない。
07-MOONLIGHTの間合いまではテルミドールも入ってこないし、ババァは論外。
残った右手に積んでるGAN02-NSS-WRは垂れ流しているが牽制にしかなっていない。
唯一通用しそうなのがCG-R500だが、これ一つでこの二人を倒せるかといえばNOだ。
くそ!多人数のネクストを相手にするから総火力を重視した牽制重視の装備で来たのが完全に裏目に出た!
それに相棒の方も心配だ。あの二人を相手にしてそう長く持つはずはない。
仕方がない。切り札を使うかね。
えーと、現在の負荷は30か。ん~、240ぐらいでいいかな。
よし、240%の負荷を1分間に設定。
AMSから人体に重大な被害を与えますだの、精神崩壊の危険などの、命が惜しいなら止めとけ系の警告が流れてくるが全て無視。
最後に、本当にやりますかと聞いてくるのでYESと答える。
その瞬間に頭に流れ込む自分の情報敵の情報「何だ!急に動きが変わったぞ!」足場の情報空の情報風の情報コジマの情報機体の情報勝利の情報敗北の情報戦闘の情報戦術の情報戦略の情報「まさか!馬鹿野郎が!」情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報「攻撃が当たらん!くそ!私の動きが読まれているというのか」情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報情報「引け!テルミドール!あいつはAMSに負荷をかけて処理能力を大幅に上げているんだ!」情報情報情報情報情報情報情報情報情報全ての事象は情報となり情報は抽象化され「馬鹿な!いくら処理能力を上げても機体の性能まで変わるはずがない!」記号化され数字化されさらに1と0の集合に集約される「違う!本来マシンがやるネクストの制御を全て人間がやればその分演算の精度は上がる。脆い人間を守る労力を駆動系に回せばネクストの動きは良くなる」我が脳はそれをもとに求められる答を生み出す式を編む思考思考演算演算思考思考演算演算思考「馬鹿な。そんな事をすればリンクスが直ぐに潰れるぞ。くそ!こうも私についてくる!」思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算「そうだ。だから、あいつが潰れるまで逃げろ!クソ!後ろから撃ったレールガンを避けるだと!お前、いったいどれほどの負荷をかけているんだ」演算思考思考思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算脳が過熱する与えられる情報処理すべき情報「クッ。私が追い詰められているだと!認めん!認められるか!そんな事!」式を編む作業いずれも脳の処理を越えている限界を超えて暴走する「テルミドール!逃げる事に集中しろ!奴の標的はお前だ!」脳は栄養と酸素を求め血液はそれを供給すべくまた暴走する思考と演算の繰り返しの中も相手は動き私も動くゆえに「私に空気になれというのか!ふざけるな」情報は変化し記号は更新され数字は踊る唯一変わらぬ解に向けて式は編まれ破棄され「テルミドール!!」また編まれる暴走する血液は血管を摩擦で燃やし傷つける「黙れ!今の私はランク1!オッツダルヴァだ!」耐Gジェルが灼熱する体を強制冷却し「クソ!単純馬鹿が!」破裂した毛細血管から溢れる血を止めるべく硬化する思考思考演算演算思考思考演算演算「ふん!当たらんよ!いくら精度が上がりネクストの運動性が上がろうが弾速は上がらん!止まって見えるぞ!」思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考「落ち着け!テルミドール!あいつは何かを狙っているぞ!くそ!なぜ当たらない!」演算演算思考思考思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算思考思考演算演算視界が紅く染まる「ふん。何を企んでいようと同じ事だ。そもそも、負荷を掛けるなぞ古い!進化の現実ってやつを教えてやる!」脳の異常でもなく機体の異常でもなく眼球の毛細血管が破裂しただけ「クソ!グレネード!違う!あいつは、こういうときのあいつは何か企んでいるんだ!甘く見るな!」一時的に肉体の視覚からの情報を削除無限に近しい思考と思索の果て遂に求めた解を出す式は編まれ我はそれを実行する「黙れ!クッ!壁だと!うぉぉ!しまった!いや!まだだ!」状況終了全ては求めた解に辿り着き俺は人に戻る。
目の前には俺の求めていた状況。壁際に追い詰められたテルミドールと追い詰めた俺。
負荷が切れた瞬間にAMSから大量の警告が出させられる。同時に体中から血が噴き出し、視界は明滅を繰り返し、鼓動は時に早く時に止まり不規則だ。
こりゃすごい。常人なら死んでいるし他のリンクスなら痛みでショック死しているね。
痛覚が壊れててよかったよ。でも、次にやったら肉体が持たないか。気をつけないと。
全ての警告を無視し、壊れた体をまともに稼働させるため劇薬を流しこむように指示しながら同時に07-MOONLIGHTとOGOTOを起動する。
さて、壁際に追い詰めたと言っても、右と後ろと下はカーパルスの壁に前は俺に塞がれているが左と上は開いているので袋小路というわけじゃない。
上と左の二通りの選択肢がある以上、追い詰めた方は追い詰められた側が動いてからではなくては動けない。
そして、その僅かなタイムラグさえあればテルミドールほどの者ならば大きなダメージを受けることにはなるだろうが致命傷を受けずに離脱できるだろう。
「それが狙いか!跳ぶな!」
ババァの叫び。だが遅い。
テルミドールは跳び上がり、それより一瞬早く跳んだ俺に無防備な姿を晒す。
OGOTOが炸裂し、07-MOONLIGHTが煌めいた。
そう、二通りならばだ。
俺には確信があった。テルミドールは上に跳ぶだろうという確信が。
スティシスはテルミドールの愛機ではない。もし、テルミドールが今乗っているのがステイシスではなくアンサングだった場合跳ぶ事が正しい。
逆脚の跳躍力ならば一瞬にしてOGOTOの射角を越え無傷で脱出する事が出来る。
だが、今奴が乗っているのはスティシスだ。テルミドールも普段はステイシスにとっての最善の行動を行っている。
しかし、本当に追い詰められた時テルミドールはアンサングに搭乗している時の行動をしてしまう。
この本人すら知らない弱点を知っている事が俺の切り札。
そう、ただ一度だけオッツダルヴァが追い詰められた、ラインアークでのホワイト・グリントとの戦闘。
その時見せた致命的な隙。だが、その隙もステイシスの動きのみとして見た場合は少々不味い手だが不自然ではない。
俺達以外の奴が見ても焦ったなオッツダルヴァと思って終わりだろう。
現に俺達もその時は気付かなかった。ORCAと合流した後にアンサングが真の愛機という事を知った時点でやっと気付いたのだ。
結局は出来レースに遊び心を出してお互いが一瞬本気で闘いその結果追い詰められてしまった事。
そして、それを見ていた俺達がORCAに入団した事が奴にとっての最大の不幸だろう。
「馬鹿な!この私がこんなところで!」
ステイシスを切り捨てると同時にOBを起動。
「次にやる時は紛いもんじゃなくて本物に乗ってこい!」
崩れさるステイシスに罵声を浴びせながら俺はババァとは逆方向に加速。同時にADDICTを起動する。
「しまった!くそ!」
焦るババァから背中にレザライとレールガンを頂くが気にせず引き離し一気に壁の切れ目に。そこでDTを決めてさらにOBを起動。
そこでやっと、相棒の様子が確認できる。
相棒は、…瀕死か。動いているのが不思議なくらいの損傷だ。
「気をつけろ!そっちに行ったぞ!」
ババァの警告。だが遅い。こちらを迎撃しようとしたローディーに対して牽制のためOGOTOを発射する。
ローディーがQBを使用し一時的に距離が離れる。それを確認し07-MOONLIGHTをパージして格納してあったKIKUを取り出す。
「ハッラッショォォォォ!」
叫びながらウィン姉に激突するようにKIKUを突き刺す。
OBの速度がのっていたせいか左手がウィン姉を貫通し、二つのネクストがもつれ合うように滑る。
だが、立ち上がるのは俺一人。ウィン姉は二度と立ち上がらない。
「限界だと?まだいけるだろう。レイテルパラッシュ!」
残念だね。無理だよウィン姉。ジェネレーターを撃ち抜いたんだ。思いや『きょうじ』じゃどうにもならな、衝撃、そして痛み。
「惜しいな。若さのせいか油断しすぎだな」
AMSをエラー情報が駆け巡る。確認すると右腕の肘から先が吹っ飛んでいる。
しまった。慌てて左腕を引っこ抜きダメコンもそこそこにQBを連発し距離を取ろうと試みる。
「甘いな」
だが、正確な射撃で次々に被弾していく。
くそ!ハイアクトに追いかけられ足が止まった所をバズで射抜かれる。
かといって、ハイアクトは無視できるものじゃない。
どうする?もう一度負荷を掛けるか?でも、駄目だ!こいつで終わりじゃない!まだババァがいる!
とにかく今は距離をとらないと!
「遅い」
だが、間に合わない。もうすぐローディーのバズが俺を射抜き殺すだろう。
「すまねえな、相棒。このあたりが俺の器らしい」
だが、バズが発射される直前に相棒がローディーにぶつかる。いや、組みつく。それるバズーカ。そして急速に高まるコジマ濃度。
「クソ!悪い」
相棒が何をするのか悟りQBで距離をとる。
「よかったぜ、お前とは」
ローディーが相棒に止めを刺したのを確認したと同時に視界を強烈な光が塗りつぶした。
回復すると同時にセンサーがババァの接近を告げる。
間に合ったか。
二機の残骸に背を向け、ババァに向き合う。
ババァはゆっくりと接近し間合いのギリギリ外で止まる。
「残ったのはお前一人か」
「そりゃあ、師匠が良かったからね」
「当然だ。私が見込んだのだからな」
「まぁね。ところで、俺の海中からドーン!作戦どうだった?」
「いい手だ。奇襲は警戒していたが、オールドキングの隣にお前がいるから油断したよ。わざわざ囮のネクストまで用意するまで思っていなかった」
「へへ。ストレイドの予備パーツを使ったからね。わざわざ、海中に半日も沈んでいたかいがあったよ」
「そうか。それと、お前また負荷をかけただろう。いい加減にしないと死ぬぞ。アマジークがどうなったのか教えただろう?」
「今日の生のために、明日の死を覚悟する。あんたが教えてくれた事だよ」
「そういう意味じゃない!!…そうか。私はもっとお前と話し合うべきだったのか」
「かもね。でも、きっとこの結果は変わらなかったと思うよ」
会話を強引に打ち切り構える。これ以上話すと泣きそうだ。そんな恥ずかしい姿を最後に見せたくない。
ババァが構えるのを見ながら考える。
俺はこの人に勝てるだろうか?
適正と反応では僅かに俺が上。だが、経験と判断では圧倒的にババァの方が上だ。
シュミレーターでは数えきれない程ボコボコにされた。最近こそ勝てるようにはなったがそれでも勝率は五割を切る。
それに、俺は全力だったがババァはあくまで訓練のつもりだったろうしな。
とにかく、お互い手の内は知れている以上、小細工や奇襲は一切通用しない。
「最後に聞こう。お前は何のためにリンクスになったのだ?」
「全員神の元に送ってやるためだよ」
「それが本心か?違うだろう。これが最後なんだ。正直に答えてくれ」
ババァの泣きそうな声に少しだけ考える。
答は直ぐに見つかった。いや違う。ずっと前から出てたんだ。ただ俺が馬鹿だから気が付かなかっただけ。
「許せないんだ。ガキどもとあいつがあんなに苦しんで死んだのが。許せないんだ。あいつが死んだのにまだ生きている奴らが。
だから、殺す。皆殺しにしてやる。クレイドルが終わったら次は地上だ。とにかくこの世界に生きている奴らを皆殺しにしてやる。
人類を皆殺しにする。しかも、できるだけ苦しめて。それが俺がリンクスになったいえ、生きる理由です」
思い出せば簡単な理由。理想でも復讐でもなくたの激情。気付けば俺は笑っていた。きっと、相棒と同じ顔をしているだろう。
「そうか。ただ、殺すためだけの存在になり果てるか。残念だ」
ババァから、殺意が溢れ出る。今ここに俺の師であり、家族であったセレン・ヘイズはいなくなった。
いるのは、霞スミカという一人のリンクス。
「いくぞ」
「こちらこそ」
俺達は最後の戦闘を開始する。
***
…やはり勝てないか。
全てにおいてババァに一歩か二歩程度先を行かれている。
何しろ全くこちらの攻撃が通用しない。
正攻法も、KIKUを意識させてのOGOTOも、CG-R500で追いたてながらのOGOTOも、破れかぶれのKIKU特攻も全部無駄だった。
しかも反撃を的確に当てられもはやこちらは動いているのが精一杯というところだ。
こちらはせいぜいCG-R500を50発程度当てたぐらい。それも、連続で当てたのではなく数発ずつ散発的に当てただけだ。
このままでは、そう遠くない未来に俺は負ける。
嫌だ!やっと、自分のやりたい事が見つかったんだだからこんなところで終わるわけにはいかない。
負荷を設定する。
300%の負荷で、相手を倒すまで。
警告を無視し、実行する寸前、これが最後になるであろうババァの姿を目に焼き付ける。
「おい、ババァ。これが最後だと思うから言うけど一度しか言わないから良く聞けよ」
そして気付くと自然にババァに声をかけていた。
「何だ。命乞いなら聞かんぞ」
そうだ。これが最後になるのなら言っておかないと。
「怒るかもしれないけど俺はあんたを母親のように思っていたぜ」
「そうか。私もお前を息子だと思っていたよ」
そっか。良かった。
「ありがとう。お母さん。そして、さようなら」
感謝と別れを告げ、負荷を掛ける。
AMSから光が逆流した。
「ほら、朝だよ。起きなさい」
同時に体が揺すられる。
まだ、猛烈に眠い。だが、何故かもう一度寝るのが怖くなったので目を開けて体を起こす。
別にいつもと変わらない。今いるのは孤児院の俺とあいつのベットで隣で俺を起こそうとしているのはあいつ。
そういえば何やら夢を見ていた気がする。どんな夢か覚えていないがいい夢でなかった気がする。
「うわ。君が一発で目を覚ますなんて珍しいね。ご褒美にチューしてあげよう」
唇に温かい感触。そして、目の前にはあいつの顔。寝起きだからか少しむくんで見える。
その、むくんだ顔が急にぼやける。
「はい、おしまい。って、どうしたの泣いて!」
確認すると俺は泣いていた。
「んあ?いや、いやな夢をうわっぷ」
あいつの胸に顔を押し付けられる。せめて、服を着ていればいいんだが、お互い裸のため肋骨に顔が当たって痛い。子供が出来たのに何で大きくならんかね?
もがく俺を抑えつけながらあいつが優しく声を掛けながら俺の頭を撫でる。
「大丈夫だよ。怖くない。怖くないからね」
抵抗を諦める。いい気持ちだ。落ち着くな。気が付くと涙は収まっていた。
「うん。もう大丈夫だね。ほら、皆のところに行こう?」
俺の頭をポンと叩くと、俺を引き剥がそうとする。
「いやだ。もうちょっとだけ」
俺は逆にあいつの胸に顔を押し付ける。
「ちょっと、駄目だよ!もう!」
俺は押し付ける、あいつは引き剥がす。
そうやって、じゃれていると、
「お前たち!!朝っぱら何をやっている!」
ババァが怒鳴りこんできた。
****
「あれ?お兄ちゃん達また、怒られてるの?」
「せえざ!せえざ!はんせい~!!」
キャスとアミーが俺達四人の周りをクルクル回りながら囃し立てる。
「うるさい!とっとと、飯を食って来い!」
俺が怒鳴ると、きゃ~と子供特有の奇声を上げながら食堂に逃げていく。
「ウィンディお姉ちゃんとロイお兄ちゃんもですか」
「いや、俺は巻き沿いだよ。ウィンディーが寝ぼけて裸でトイレに行って、帰るときに間違えてミカとランの部屋に行ッガッ」
「ロイ!余計な事を言うな!」
真っ赤になりながら肘をロイ兄に肘を叩きこむウィン姉さんと、鼻血で真っ赤になるロイ兄さん。
「それは是非現場に、痛てぇ!」
あいつに脇腹を抓られる。
「お前ら、仲がいいのは結構だが反省しろよ。ここにはガキがいるんだからな」
何時の間にやら目の前に来ていた爺さんが俺達の頭を叩いていく。
「悪かったって。反省してるよ爺さん」
「ごめんなさい」
「ほぅらな。ほんろはふぁんとウィンディーをみふぁっへるよ」
「ロイ!いや、すまない。我が名にかけて二度はやらない」
頭を下げる俺達を見て爺さんは溜息をついて
「それは、お前のセリフじゃないだろう。まあいいか。ほら行くぞ。皆待っている」
その声を聞いて、俺以外の全員が立ち上がり食堂に向かう。
「どうしたの?」
「いや、足が痺れた。しばらくしたら向うから先行っててくれ」
「………わかった。先に行ってる。チビちゃんや皆と待ってるから早く来てね」
あいつの姿が消えたのを確認し呟く。
「ごめん。まだ、そこには行けない」
「いいのか?まだ引き返せるぜ?」
呟くと同時に誰もいないはずの背後から声が聞こえる。
振り向くとそこには血塗れの相棒の姿があった。
「そうだな。もし、ここに行れたらいいだろうな」
ここはきっと神とかいう奴の場所。だから皆がいる。爺さん、あいつ、ガキども、ババァにウィン姉とロイ兄、そして俺とあいつの子供。
そこで、ずっと幸せに暮らす。そこはきっと俺が夢に見ることすら出来なかった理想郷。
でも、
「まだ駄目だ。やりたい事が残っているし、それにもう引き返せないだろう?」
相棒に向かって嗤いかける。
「違いねえ。じゃぁ、行こうぜ相棒」
相棒は血塗れの顔で嗤い返す。
きっと俺達は同じ顔をしているだろう。
そして、俺達は理想郷に背を向けて歩き出す。
大丈夫。二度と会えなくなるわけじゃない。全人類を殺した後、最後に自分を殺せばまた帰ってこれる。
だから、行こう。
そして、俺は人に戻る
この後、たった一人のリンクスにより
クレイドルは深刻な出血を強いられる。
人類種の天敵とすら呼ばれた彼は
史上最も多くの人命を奪った個人でもある。
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください
「ただいま」
「お帰り。もうどこにも行かないよね?」
「ああ、ずっと一緒だ」
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