Written by ケルクク


ダリオ戦記2 ダリオの華麗なる一日 前篇 ~~ダリオの華麗なる目覚め~~

ローゼンタールの兵士を簡潔に表すとしたら、古き良き貴族主義と高潔な騎士道精神溢れる騎士である。
その気風は前線の兵士のみであったが、リンクス戦争の怪我でリンクスを引退したレオハルトが経営陣に加わると徐々に経営陣にも広がっていき、経済戦争の後期にはきっちり企業全体に蔓延していた。
その結果、ORCA事変の頃にはローゼンタールは銃後の民も含めて弱きを助け強気を挫き、命や勝利よりも名誉を重んじる騎士の集団となった。

これは、そんな時代錯誤のなんちゃって騎士様達の中で成りあがろうと奮闘する一人の男の物語である!

****

9:32分、ダリオはカラードのプライベートルームの寝室で余裕で8人は並んで寝れるような広大なベット(しかも天蓋付き!)で惰眠を貪っていた。
そこに静かに入ってくるダリオの秘書。
彼女はアラームが鳴り響いているにもかかわらずいびきをかいて爆睡しているダリオを見つけると、溜息を吐いて部屋の明かりを点ける。
そして、ベットの傍まで進むと眠れるダリオに声をかける。
「ダリオ様、朝です。起きてください」ダリオは起きない。
彼女は今度は大声で呼びかける。
「ダリオ様、朝です。起きてください」ダリオは起きない。
彼女は今度は叫ぶ。
「ダリオ様、朝です。起きてください」ダリオは起きない。
彼女は溜息を吐くと土足のままダリオのベットに上がり、足首まで沈むようなベットの上を見事な平衡感覚でハイヒールのまま床の上と同じように歩き、ダリオのすぐ傍まで近づく。
彼女は屈んでダリオを揺すりながら大声で呼びかける。
「ダリオ様、朝です。起きてください」ダリオは起きない。
彼女は溜息を吐くと、スカートが捲り上がるのにも構わず右足を頭の上まで上げ、かかと落としの要領で一気に振り落とし、ダリオの腹を踏み抜いた。
「ダリオ様、朝です。起きてください」「ぐぼぉおおおお!!!」流石に目を覚まし悶絶するダリオ。当然である。
「おはようございます、ダリオ様。今日も快適な目覚めで何よりです。10時からレオハルト様との打ち合わせがあるので支度をお急ぎください」
悶絶して転げまわるダリオに巻き込まれないように距離をとりながら、秘書は内心「ざまぁw」と思っている事を表に出さないように淡々と告げた。
「ぐ、き、貴様。このどこが快適な目覚めだ。とうとう、胸と同じように脳味噌までなくなったか」
「ダリオ様が起きないのが悪いのです。本当なら会議をすっぽかしてもダリオ様の評価が下がるだけなので気にしませんが、今日はお父さ…レオハルト様との会議です。お忙しいレオハルト様をお待たせさせたり、無駄な時間を過ごさせるわけにはいきません」
「このファザコンめ」「成金趣味よりましかと」
「うぎぎ、この生意気な小娘が、あ!!」ここでダリオは口だけは達者な生意気小娘をやりこめる素晴らしい方法を思いついた。
「ち、まぁいい」とダリオはさり気無く小娘に向き合うように体を起こすと、自然に体を覆うシーツをとった。
すると朝の生理現象でこんもりと山になった下着が露になる。
否!山になるどころか、エレクトしたダリオJrは下着を押しのけ頭を出していた。
黒ずんだ頭が小娘に挨拶するようにピクピク震える。
「んな!?」真っ赤になった小娘の視線が一瞬ご立派なモノに吸い寄せられ、次の瞬間小娘は凄まじい勢いで顔を背ける。
「なんだ小娘。いきなり顔をそむけるとは失礼じゃないか?う~ん?」
その言葉にようやくこれが偶然でなく、意図的に行われたセクハラだという事に気づいた秘書は、
顔を真っ赤にし、若干涙目になりながら、「死ね!!」と叫ぶとともに渾身の力でダリオのモノを踏み抜いた。

「ギャぁアアアアアアアアアアアアアア~~~~~~~~~~!!」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


星に手は届かない

まだ少年ですらない子供の頃、私は何でもできると思っていた。

だから夜空に浮かぶ満天の星空を見た時、私は星が欲しくなり手を伸ばした。
当然、手は星に届かず、何も掴めなかった。

幼い私はそれが酷く理不尽に思い、
思い切り跳ね、踏み台を持ち出し、
最後には幼い私が知る世界の中で一番高い建物であるACガレージの屋根の上で思い切り跳び、
星に手を伸ばした。

そして、地面に転げ落ちた幼い私は痛みと共に、世界には不可能があると知った。

知ったつもりだった。

そう、知ったつもりだった。

所詮は、つもりに過ぎなかった。

年月が経ち、多少の経験と知識と分別を得たはずの私は懲りずにまた手を伸ばしたのだ。

最強という名の星に。

不可能だと知りつつ、それでも手を伸ばしたのだ。
 
 
 
****
 
 
 
「やはり不可能だったか。所詮、紛い物という事か」
完膚なきまでにレオは、私の体は破壊された。
身動きどころかセンサーの一つも動かない。
私が感知できるのは、私を格納してあるユニットに備え付けられているカメラとマイクが捉えられる情報のみとなる。
だが、これでは外の様子は解らない。
 
 
いや、もうわかる必要はない。
No2と私が破壊された今、ポラリス、いやアンジーも機能停止している事だろう。
 
 
ミッションは終了した。
我々は失敗した。
私達の全ては無駄だった。
 
 
だが、悲しくはない。
無駄である事は解っていたから。
彼等に棄てられた時に。
いや、違う。
最初から分かっていたのだ。
 
 
それでも私は、私達は手を伸ばした。
それ程までに、あの時見た星は、最強という名の星は、眩しかったのだ。
 
不可能だと知りつつ、それでも手を伸ばしてしまうほど。
 
 
****
 
 
私が見た星は2つ。
 
 
最初に見たのは白い閃光。
私が産まれる前から戦場にあり、幾度となく世界の秩序を破壊し、
だが、人々を滅びから守り続けた伝説の傭兵。
人でありながら、人の限界を超え、なお人として踏みとどまる、眩い星。
 
 
次に見たのは狂える獣。
突然現れ、世界を覆う偽りの星を打ち払い、ただ一度だけ世界と敵対し、
だが、たった一度の敵対で人々の8割を喰らった人という種の天敵。
人の形をしながら、人の限界を超え、心も体も人ではない、眩い星。
 
 
人を守る星。人を喰らう星。
正反対だがどちらも眩く、美しい星だった。
だから私達は手を伸ばしたのだ。
あの星に私達もなりたいと。
 
彼等が言っていた世界の守護や、秩序なんてどうでもよかった。
ただ、私は、私達は、あの星に、最強に、あの領域に至りたかったのだ。
その為には全てを捨てても良かった。
家族、命、どころか、人としての尊厳すら捨ててでも構わなかった。
可能性が0に等しくても構わなかった。
僅かでも可能性があれば十分だった。
 
その証拠に、ミッションが失敗し、私の全てが無駄になった今も後悔はしていない。
もし、過去の私にこうなる未来を教えたとしても、過去の私はやはり人形になる事を選んだだろう。
それ程までに、あの2つの星の輝きは美しかったのだ。

そう、後悔はしていない。
私は私の全てを失った事を後悔していない。
 
 
だが、あぁ、だが、アンジー、いや、アンジェリカ。
君を喪ってしまった事だけは、悲しい。
 
 
 
****
 
 
 
「うし。狙い通り生きてるな」
思索に沈んでいた意識が、現実に引き戻される。
どうやら何者かが、私を露にしたようだ。
 
カメラを向ける。
写るのは3人。これが私達の敵『だった』者達か。
思ったよりも若い。成程。本物は年齢による経験すら不要なのか。
あぁ、そうか。彼女達もまた、星なのだ。
手が届かないはずだ。

スピーカーを作動させ声を出す。
「何のようだ?私達のミッションは、私達の全ては終わった。もう私達が君達を狙う事はない」
「わ!?喋った!」「へぇ。そんなでもまだ人間なんだ。ちょっと、そんけーするわ」

突然喋った私に驚き、騒ぐ2人を制し、女が前に出る。
「その、貴方達はなぜ私達を狙ったのですか?」
そうか。そうだな。私達から見れば彼女達を狙ったのは必然だが、
彼女達からみれば突然襲われたようにしか思えないか。疑問に思うのは無理もない。
「いいだろう。勝者は全てを知る権利がある。話そう。私達のミッションを」
 
 
****
 
 
「私達が狙われた理由は分かりました。納得はしていませんが」
私の話を聞き終わった彼女が私に告げる。

「それは何よりだ。では、対価ではないがこちらからも頼みがある」
「何でしょう?」
「警戒する必要はない。私に止めを刺して欲しいだけだ。私は私を殺す権限を持っていないのだ」

前に立つ女が後ろを振り返り2人を見る。
「僕はどっちでも。
 生かしたのもフランが事情を聞きたいっていったからだしね。
 ロザリーは?一応、家族の仇の仲間でしょ?」
「アタシは、殺したくないかな。コイツ等、確かに仇だけど恩人なのよ。
 もし、コイツ等が乱入して来なかったら、アタシかアンタはリーガンを、姉さんを殺さなくちゃいけなかった。
 姉さんは大嫌いだったけど、殺す覚悟はできてなかったわ。
 それに、アンタが殺してたら、もしかしたらアンタを恨んじゃったかもしれない。
 だからむしろ感謝してるわ」

女は2人に向けて頷くと、私に向き直る。
「結論が出ました。お断りします」

仕方がないな。まぁいい。私に電力を供給していたレオが破壊された以上、そんなに長くは持たない。
予備電源が全て生きていると仮定しても36時間程度か。

「言っておきますが、私は貴方を殺す気はありません。ロザリーさんは貴方を恩人と言いました。
 ならば、最低限の延命はさせていただきます」
「な!?」」
「ロザリーさん、先程墜落したポラリスの解析して彼らの拠点を割り出してください。そこでなら解析ができる筈です。
 アナタは、ごめんなさい。戦闘で疲れてると思いますが、ロザリーさんの解析の間、周囲の警戒を」
「了解。面倒だし1文の徳にはならないけど、殺したくないって言ったのはアタシだもんね」
「えー、僕疲れてるんだけど。この人滅茶苦茶強かったんだよ?」
「はいはい。夕食当番、変わってあげるから文句言わないの」「お風呂で髪の毛洗ってくれるのもプラスで!」
「はいはい。ちゃっかりしてるわね。んじゃ、行くわよ」「へーい」

予想外の女の言葉に戸惑っている間に、女が後ろの2人に指示を出し、こちらに向き直る。
「それと、甘えないでください。
 失敗がなんだっていうんです。全てを失ったからどうだっていうんです。やり直せばいいじゃないですか。
 デザインドであるあなたには、やり直す時間は幾らでもあるでしょう。
 もう一度言います。甘えないでください。
 あなたはまだ生きています。
 なら、もがきなさい。足掻きなさい。見苦しく生き続けなさい。
 あなたが人間だった頃は知りませんが、それが今の、荒廃してただ生きるのにも苦労する世界のルールです。
 生きている限り、人は、私達は戦い続けなくてはいけません。ミッションが終わった?なら、新しいミッションを見つけなさい」

一気にまくし立てた女が、「私が言いたいのは以上です。きつい事言ってごめんなさい」と頭を下げ、私の前から消える。
 
 
「勝手な事を。言うだけなら簡単だ。
 …私の戦いは続いているか。
 ふん、いいだろう。もとより私は自殺すらできんのだ。
 ならば戦い続けよう。戦い、勝つ事だけがゾディアックに許された事なのだから」
 
 
こうして、私の戦いは再開した。
 
 
 
****
 
 
 
私を破った星達がタワーと呼ばれる私達の時代の遺産に赴き、別れ、建国し、
そして私を破った星が「黒い鳥」という伝説になるくらい時が流れた。
 
そんな長い時が過ぎても、私の戦いは続いていた。
幸い、長い時の中で争いが収まる事は一時としてなく、私は生前のように傭兵として戦いを続けていた。
 
しかし、あの時終わったミッションに代わる新しいミッションは見つけられず、私はただ、生き続ける為に戦っていた。
仕事を受け、こなし、得られた報酬で次の仕事の準備と、私を維持するパーツを購入する。
延々と繰り返されるルーチンワーク。淡々とこなされるルーチンワーク。
私は何のために生きているのだろう?私の存在意義は?
疑問に思っても考えないようにと助言する仲間も、反逆行為と警告するアンジーももういない。
 
 
私は迷いながら戦い続ける。
死神部隊と呼ばれる私達の完成形が、私達と同じ様に星に打ち砕かれ、3勢力がタワーを巡る争いを始めても。
死神部隊を撃ち破った星が3勢力を敵に回し、タワーの破壊を始めても。
死神部隊を撃ち破った星が3勢力を撃ち破り、3勢力の争いを収めても。
死神部隊を撃ち破った星が作りだした平和を認めないと、アイザックと名乗る者が、かつて回答者と呼ばれた兵器で世界の破壊を始めても。
死神部隊を撃ち破った星が回答者を撃ち破り、アイザックと彼らが宿る最後のタワーを破壊しても、
私は迷いながら戦い続けた。
 
 
****
 
 
このまま永遠に、新たなミッションも見いだせず、戦い続ける事になるのかと、
恐怖と諦めを覚え始めていたある日、私はいつものように依頼を受けた。
 
 
未確認兵器破壊作戦。
 
 
財団共に彼等が破壊されたことで、彼等が管理していた兵器が制御を失い暴走するという事が多発していた。
中には超大型の兵器もあったが、殆どはACを使わずとも通常戦力で対処できるような小戦力であったが、
ヴァーディクト・ウォーと、それに続く、新たなる星との戦いにより、深刻な戦力不足に陥っていた3勢力は、
辺境の依頼を傭兵に依頼するといった事はよくあった。
 
小戦力なら殲滅。万が一、大型兵器であった場合は、可能な限り情報を集めたのちに撤退する、簡単な任務。
そう、簡単な任務のはずだったのだ。
 
 
****
   
 
だが、私は見た。
懐かしい緑の粒子と共に、子供の頃のように泣きながら、破壊を振りまく彼女を!
変わり果てた彼女を!
彼女の成れの果てを!!
彼女であったものを!!!
アンジーを!!!!!!!!
アンジェリカを!!!!!!!
 
 
無くした筈の心が悲しみで裂けそうだ。
無くした筈の怒りで視界が赤く染まる。
無くした筈の彼女に会えたうれしさで、
無くした筈の涙が止まらない。
  
 
私は、私のミッションを知った。
私は、私がなぜ今まで存在し続けたかを知った。
私は、私の全てを賭けてなすべきを知った。
 
 
今は駄目だ。準備が足りない。
今出て行っては、何もできずに殺されてしまう。
 
 
彼女に見つからないように慎重に遠ざかる。
急がなければならない。

アンジーは並の相手では勝てないだろう。
だからこそ不味い。
きっと彼に依頼が行く。
死神部隊を倒した彼に。
回答者を破壊した彼に。
イレギュラーたる彼に!

イレギュラーたる彼は、きっとアンジーを倒してしまう。
その前に、その前に戦わなければ!
 
 
待っていてくれ、アンジー。
  
  
 
 
 
 


ダリオ戦記2 ダリオの華麗なる一日 後篇 ~~ダリオの黄金なる執務室~~

ローゼンタールの兵士を簡潔に表すとしたら、古き良き貴族主義と高潔な騎士道精神溢れる騎士である。
その気風は前線の兵士のみであったが、リンクス戦争の怪我でリンクスを引退したレオハルトが経営陣に加わると徐々に経営陣にも広がっていき、経済戦争の後期にはきっちり企業全体に蔓延していた。
その結果、ORCA事変の頃にはローゼンタールは銃後の民も含めて弱きを助け強気を挫き、命や勝利よりも名誉を重んじる騎士の集団となった。

これは、そんな時代錯誤のなんちゃって騎士様達の中で成りあがろうと奮闘する一人の男の物語である!

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「打ち合わせお疲れ様でした、ダリオ様。後の予定は昼食まで執務、午後は訓練となっております」
無事にレオハルトとの打ち合わせが終わり、養父であるレオハルトに昼食を誘われた事で普段より若干上機嫌な秘書がダリオの一歩後ろに付き従いつつ今後の予定を告げる。
「そうか。昨夜、新執務室が完了したと報告を受けたから今後はそこで政り事を執どるぞ?」
「了解しました。それと、ダリオさま無理して難しい言葉を使わなくていいですよ?言葉が無茶苦茶です。
 まぁいいです。話は変わりますがダリオさま日頃の感謝をこめてプレゼントがあります」
「ほう、感心な心がけだな。ようやく、貴様にも俺の偉大さが解ったか。それで何だ?」
「残念ながらダリオさまの偉大さを理解する前に私の寿命が尽きるかと」と秘書が言いながら差し出されたプレゼントの中身をダリオは確認し、「これはなんだ?」と秘書に問うた。
「カラード本部の地下2階のファーストフード店のカッケーセットのタダ券です。おまけはSDノブリスらしいですよ?期限が今日までなのでお昼にでもどうぞ。あ、おまけはいらないなら持って帰ってきてください」
そんな事も知らないですのかと蔑けずみの視線で見る秘書の頭にダリオはデコピンをかます。
「うきゃ!??」「そんな事は知っている。今日の昼はレオハルト様に食事に誘われているではないか」
「はい。レオハルト様には私が急用が入ったと伝えておきます」仕返しに後ろからダリオの背を蹴りながら秘書が淡々と告げる。
「ふざけるな。ファーストフードと高級レストランのどっちがいいか考えるまでもないだろう。後、仕返しが強すぎだ」
「解りませんか、親娘の語らいを邪魔するなと言ってるのです。後、一発は一発です」
「解るか、このファザコン」「ロリコンよりましかと」「誰がロリコンだ!!そうか!貴様がデマを流したんだな!」「ダリオ様が人のプログを荒らすからです」「それとこれとは別問題だろうが!!」「やはり匿名で私のプログを荒らしていたのはダリオ様だったのですね」「く、誘導尋問とは汚いぞ!」「引っ掛かる方が悪いかと」「ぐぅぅ。悪逆貧乳小娘めぇ~。大人しく小学校へ帰れ」
いつもの調子で言い争いながら歩く二人をカラード職員が微笑ましい目で見ながら巻き込まれてはかなわないと遠ざかる。
そしていつもの調子の言い合いは目的地である新執務室についたところで唐突に止まった。
「悔しければWGを倒しって!?こ、これは純金の扉?」
周囲との調和をガン無視して黄金色に光る扉を見て秘書が絶句する。
「ふん、扉だけで驚いているようでは中に入るとびっくりするぞ。さぁ!我が新執務室を見よ!」
秘書が驚くさまに機嫌を直したダリオが指を鳴らすと重々しく、金の扉が開いていく。
「こ、これは!!…うわぁ~~」
部屋の中を見た秘書がまず驚愕の叫びを上げ、ついで心底呆れた声を上げる。
それもそのはず、部屋の中は、

金!
金!!

金!!!

金!!!!

金!!!!!

金!!!!!!

金!!!!!!!

だった。
もう、部屋の全てが、天井が床が本棚が机が椅子がソファーが絨毯が本が端末が灰皿が照明がカーテンがありとあらゆるものが金キラリンに輝いていた。
ギルガザムネもゴールドセイントもオージェもギルガメッシュも百式もアルヴァトーレもスペリオルガンダムもアカツキもビックリの金一色だった。
「ふ、どうだ!素晴しいだろう!!古代のメソポタピアやアステカやインカや日本では高貴なるものは黄金で住居を作りその権威を示したのだ。
 それに俺も習ってみてな。ふふ、長かった。あの日、観光に行った有沢で金色に輝く寺を見た時に思ったのだ、俺もいつかこんな豪奢な部屋に住んでやるとな。
 その夢をついにかなえる事が出来たのだ。フハハハ!もっと驚き俺を讃えてもいいぞ!
 クククク、なにしろこの部屋は全部金でできてるからな。ショーグンが作った寺も!カンパクが作った茶室も所詮金箔を貼っただけの偽物!この部屋にはかなうまい!げははは!」
「あぁ、確かに豊臣秀吉は下賤の身から成り上がったという点では似てるかもしれませんね。俗っぽさもいい勝負ですし」
「ん?何か言ったか?」「いいえ」
「では、ついにこの金の椅子に座ってみるか。くはははは!!しかし、素晴らしい座り心地だ!!これが金の力か!!…しかし、ちょっと冷たいな。それに背もたれが動かんぞ!」
「金だから当然ですね」
「ち、まぁ、多少の事は我慢するか。金だしな。次は、金の机で執務を、ぬおおおおおおお!!って、引出が重くて出せんぞ!!」
「金だから当然ですね」
「く、これは問題かもしれんな。ん、雲が晴れようやく日が差したか。くくくく、日の光でこの黄金の部屋はより美しく輝…って、目が~~!!目が~~!!」
「眩し!!金で太陽の光が乱反射していますね。金だから当然ですね。しかし、屋内なのにサングラス必須とは斬新な部屋ですね」
「はぁはぁ。く、曇ったか。助かった。まぁ、多少住みづらいが直ぐになれるだろう。金だしな。そうだ、秘書。さっきの礼ではないがこれをやろう」
ダリオは苦労して金でできた引き出しを開け中に入っていた金色のナニカを秘書に放る。
秘書は「ありがとうございます」と放られたものを受け取り、「こ、これは!!」受け取った物を広げ絶句する。
それは金色に輝くローゼンタールの女性用制服だった。ご丁寧にアンダーは当然のこと、PADまで金一色に染まっていた。
開いたままプルプルと震える秘書を誤解したのか、ダリオが機嫌よく笑う。
「折角金で統一したのにお前がそんなみすぼらしい格好をしたのでは意味がないからな。くれてやる。オーダーメードだぞ?サイズは衛生課から聞き出したからぴったりのはずだが、違ったら言え。
 クククク、それを着れば貴様のようなウンコたれの小娘でも外見だけはこの部屋にあうだろう」
「……誰がウンコたれですか。セクハラと名誉棄損で訴えますよ?それとダリオ様が趣味の悪い部屋を作るのは勝手ですが私にそれを強制するのは…」
30秒かけてようやく再起動した秘書がダリオに対して『こんな趣味の悪い服誰が着るかボケェ』という本心を上品且つ婉曲に表現しようとしたところで、
「ん?そこについているのはウンコではないのか?」とダリオが秘書の足元を指さす。
「止めていただ…え?」秘書が視線を自分の足元に落とすと、磨き上げられた金色の床には自分のスカートの中が映っており、確かにプリントされているデフォルメされたノブリスの胸に茶色い染みがついていた」
自分の今の状況を理解した瞬間、「…きゃぁあああ!!!」普段の冷静さを捨てて外見年齢相応の甲高い悲鳴をあげた秘書がスカートを抑えへたり込む。
そのまま真っ赤な顔をして俯きながら震える秘書を見てダリオが珍しく優しい笑みを浮かべると、優しく秘書の頭を撫でた。
「俺の姪もこの前初等科に入学したばかりなのにたまに漏らしているから気にするな。いや、むしろ全部漏らさないだけお前は成長している。
 それに、俺は性的魅力ナルなお前のパンツなぞこれっぽっちもまったく全然欠片も興味がないからな。むしろ不快な物を見せられたと慰謝料を請求したいくらいだ。
 だから、とっとと着替えてこい、ウンコタレ」
ダリオの言葉に秘書はブツリと自分の中で大きな物が切れた音を聞いた。
「ふ、ふふふふふふふふふふ」狂気の笑みを浮かべ、瞳に暗い光を宿らせ、全身に静かな殺気を纏って秘書が立ち上がる。
「ん?どうした?俺のあまりの寛大さについに頭がおかしくなったか?」
秘書はダリオの戯言を無視し机に向う。そして机に到達するとダリオに向きなおり、そしてさりげなく背中に回した右手で純金製の灰皿を握る。
灰皿は普段なら非力な彼女では両手でも持ちあげられるか怪しかったが、全身に力が満ち溢れている今は余裕で片手で持ちあげる事が出来た。
そして秘書は、死刑執行人が死刑囚に対して浮かべるような冷徹だが慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「素敵なプレゼント及び気遣いありがとうございます、ダリオ様」
「お、おう。な、何か笑顔が怖いぞ、お前」
「ただし、ひとつ修正を。あれは昨晩、お風呂上りにチョコアイスを食べていた時にこぼしてしまったのを気付かなかっただけです。自室だからと油断して下着で過ごしたのが間違いでした」
「あ~そうか。わかった、わかった。うんうん、お前は漏らしてないぞ~。納得はしてないがこう言っておかないとメンドくさくなるからな」
「また思った事が口に出ていますよ、ダリオ様。まぁ、どちらでもいいです。それでダリオさまに今日の報…お礼を差し上げたいのです」
「そうか。ようやく俺への感謝の気持ちを覚えたか。うむうむ、誉めてやろう。それで何を献上する気だ?」
「死です」
「詩だと。メルヘンな。いや、お前の歳だと仕方ないのか」
「いえ、死です」そう言って秘書はにっこりと微笑むと隠していた純金の灰皿を振り上げダリオの頭に振り下ろした。
「いつもいつもいつも私の事をチビだ幼児体型だ馬鹿にしやがってぇええええ!!!私は成人してるんだよぉおお!!死ねエエエエ!」
「うおおおお!!!」咄嗟に体を捻ってかわすダリオ。
「き、貴様!何をする!!」「ちぃい!外したか。だが次は外さない!他にも私のプログを荒らしたり、今日は人の身体データを勝手にばら撒いた上にパンツのタダ見までしやがってぇ、絶対に許さん!性的魅力がNULLで悪かったなぁあ!!!」
普段の冷静さをかなぐり捨て顔を真っ赤にしながら鈍器(純金製の灰皿)を振り回す秘書。
「黙って聞いていれば勝手な事を!!貴様だって俺の悪口をばら撒いたり、俺の名前で好き勝手にしているではないか!!!ええい!いい機会だ!今日という今日は俺の恐ろしさと偉大さを教えてやる!!」
秘書の攻撃を紙一重でなんとか避けながら距離をとったダリオが戦闘態勢に移る。
いくら思うところがあるとはいえ半分以上自分が悪く、さらに真っ赤な顔で半泣きになって怒る年下の女性相手に対して本気の迎撃を選ぶのがダリオのダリオたる由縁であった。
ここで、ダンのように土下座しながら謝るか、ロイのように甘い言葉と態度でなだめるか、最低でもレイヴンのように反撃はせず相手の気が済むまで攻撃させればフラグが立つのに本当にもったいない事である。

「死ねぇええ!デリカシー0のセクハラ魔人!!」
「いい気になるなよ!小娘!!」

****

1時間後、約束した時間になっても現れない二人を迎えに部屋を訪れたレオハルトが見たのは、「すいません、勘弁してください」等と泣いて許しを乞いながら必死に両手で顔を防御するダリオと、「死ね!死ね!」と雄たけびをあげつつマウントポジションで許しを乞うダリオに容赦なく拳を振るう顔を腫らした愛娘の姿だった。

☆秘書  ダリオ★
TKO勝ち
決まり手 マウントポジションからの駄々っ子パンチ




後書き

DAEMON X MACHINAやばい、超楽しい!!
久しぶりのロボゲーでハァハァしすぎて、嬉ション漏らしていたら、
おしっこと一緒に何故か、小説も出ていたので、
途中から上げるのが面倒になって、ダリオだからいいかと放置していた、
ダリオ戦記とセットで上げる事にしました。

ちなみに、これは前後編の前編で、
バトルのみの後編もありますので、
暇な人はDAEMON X MACHINAでデカールを拐取しながら、
待っていてください。
  
 


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