「首輪付き君が史上最も多くの人間の殺した殺人者ですって?違うわ。あれは殺人者じゃない、殺人鬼よ。解る?鬼なの、人じゃないわ」
「一年足らずの時間で多くの人間が変わった。いや、変われた人間だけだけが生き残れたんだ。
 でも、皆が変わってしまった中でストレイドの坊主だけは最初から、出会った頃から変わらなかったんだ。最初から最後まで坊主のままだった」

Written by ケルクク


「ごっめ~~ん。ロイ兄にウィン姉!遅れた~~!!!
 いっや~、待たせてるから早く来ようと思ったんだけど、ババァが整備はしっかりしろって煩くてさぁ~」
一時間後通信機から発せられた坊主の声はあまりに何時も通りで、時間が沸騰していた頭を少し覚ましたせいもあり先程の事が全部坊主とホームの奴等が組んで行ったタチの悪い悪戯でないかと思えてしまう。
「なぁ、坊「念の為確認しておく。私達の家族と外にいた部隊はどうなった?」
だがそんな儚い希望(妄想)に浸る俺を醒ましたのはウィンディーの氷のような声と、
「ん?外にいるのは俺の家族と仲間だけだ。後は死体しかないぜ?」
なんでもない事のように坊主が告げた冷酷な事実だった。
「そうか」「ちょ!?何怒ってんだよ!ありゃ、敵だぜ?敵を殺して何が悪いのさ!」「別に悪くはない。ただ私はお前を許さない。敵と話す事はもうないので切るぞ」
「ちょと待てって!そっちになくてもコッチにあるんだよ!えーとさ、俺2人の事殺したくないから退いてくれない?」
「ふざけろ!テメェ!!!!俺の家族を殺しておいて今更殺したくないだと!!!寝言言う暇があったらとっとと来い!!!俺がお前をぶち殺して大好きな神の所に送ってやるよ!!」
あまりにふざけた提案に冷えた頭に血が上る。視界が殺意と怒りで真っ赤に染まる。
「あ~、確かに神は好きだけど会いに行く気はねえぜ。むしろたまには向こうから来てもらおうと思ってさ」
だが視界すら赤く染め上げる憤怒と殺意は、何時もの坊主(狂人)の何時ものなんでもない戯言のような一言で、ドライアイスを頭に巻きつかされたみたいに強引に冷やされた。
なんだこの怖気は。俺があいつに怯えてるってのかよ!!
「どういう意味だ」掠れた様なウィンディーの声。同じなのか。ウィンディーも奴に怯えてやがんのか。
「別に大した事をやる気はねぇさ。ただ、アサルトセルを掃除して神が来やすくなるようにした後は、全アルテリアを自爆させようって思ってね」
あっさりと告げられた無茶苦茶な計画に今度こそ血の気が失せる。
こいつは何を言ってやがるんだ?
「馬鹿な事を言ってんじゃねぇよ!!お前正気か!?全アルテリアを自爆なんてさせたらコジマ汚染が一気に進行して地上にゃ誰も住めなくなるぞ!!
 いや、万が一住めても電力の殆どを供給してるアルテリアが無くなれば人類は文明を維持できなくなる!!ガチで人類を終わらせる気かよ!!」
「そのつもりだぜ?まぁ、終わって欲しくは無いけど、終わってもいいかなと思ってる。
 ん~、そっちにつくまでもう少しかかるから説明してやるよ。
 ①自爆後生き残った奴等は僅かに残った居住可能地域やアルテリア以外の発電施設を巡って壮絶な奪い合いを起こす
 ②①の結果、殆どの居住可能地域は汚染され人が住めなくなるだろうし、殆どの発電施設は破壊される
 ③②で残った居住可能地域や発電施設を俺が全部ぶっ壊す。
 なぁ、そうなったらどうなると思う?どう足掻いても助からない絶望の中に放り込まれたら人はどうすると思う?
 祈るだろうぜ!神に奇跡を起こして私達を助けてくださいって祈るだろうぜ!!一心に、無心に、懸命に、ひたすら神に祈るのさ!!!アハハハハハハハハハハハハハハ!!!
 その純粋で無垢な祈りを聞き届け神は絶対に降りてくる!!ヒャハアハアハハハハハハハハハアハハハアハハハァア!!!独子たる俺達(人類)を救いに神は降臨なさる!!ケケケケケケケケケケケケケ!!
 ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!もし降臨しないなら!もし神がいないならこんな世界は価値はねぇ。そのまま滅びちまえ!アハハハハアアァハァハァハァハァハァアハァハァハハァハハァハアアァァハァ!!」
ナンダ、コイツハ?ナニヲイッテイル?
愉しそうに嘲笑う坊主が何を言っているのかわからない。コイツは本当に同じ人間なのか?
今、解った。この怖気の正体は、人が未知の物に出会ったときに抱く原始的な畏れだ。
「狂ってるよ、お前」「ヒッデェ~~!俺は自分ではマトモなつもりなんだけどなぁ~。つーか俺のどこが狂ってるって言うのさ!」
「全部だ!!!お前は何もかもが壊れている!!!先輩!!貴女はどうなんだ!!今のこいつの話を聞いて何も思わないのか!!それとも貴女まで狂ってしまったのか!!」
ウィンディーが畏怖と嫌悪に突き動かされるように絶叫する。
「お前の質問に答える前に私の質問に答えてくれ。なぁ、ウィン。お前ロイがとことんまで堕ちて、自分でも救いきれないって所まで堕ちたらどうする?」
坊主と対照的に冷静な声がウィンディーの声に答える。
「ロイを止めます」
「殺すしか方法がないとしてもか?」
「はい」
「そうか。私は一緒に堕ちる事を選んだ」
「何故ですか!!貴女ほどの強い人が何故そんな弱い選択を!!」
「強い弱いじゃないんだよ。お前の愛は男と女の愛で、私の愛は親と子の愛ってだけなんだ。
 この子が狂っているのも禍っているのも百も承知だ。でも私はこの子を守る。
 世界の全てがこの子の敵になろうとも私だけはこの子の味方だ。それが私の愛の形なんだ
 …これが先のお前の問いに対する答えだ」
誰に憚るでもなく、静かに、だが力強く宣誓する霞の姐さん。
その想いは、その声は、その在り様は、まるで鏡合わせのように俺と似ていた。
「ふざけるな!!私は一人の女として!一人の母親として!一人の人間としてそんなモノが愛とは認めない!!そんな愛の形を認めない!!
 子供が、いや愛する者が道を誤ったら止めるのが人だろう!!共に堕ちてどうするんだ!!それじゃ相手も自分も誰も救われないじゃないか!!」
ウィンディーが泣きながら絶叫する。
あぁ、そうだろうなウィンディー。お前には、愛を振り切れるほど強いお前には一生理解できないだろうな。
でも俺には解る。霞の姐さんと同じように弱い俺には、霞の姐さんと同じようにウィンディー(最愛の人)の為に我が子とホームの皆(他の全て)を犠牲にした、してしまった俺には霞の姐さんの気持ちが痛いほどわかる。
俺と霞の姐さんの違いは唯一つ。惚れた相手がウィンディー(英雄)坊主(悪魔)かって違いだけだ。
俺と霞の姐さんはとてもよく似ている。ある意味ウィンディー以上に俺達はお互いを理解できる。
「母親として?…そうかお前ロイの子を孕んだのか。おめでとう、ウィン。お前とロイの子供ならどちらに似ても強く正しく美しく育つだろうさ。
 …子が出来たのなら尚更引け。あの子にお前達は勝てない。いや、あの子を人が斃すのは不可「ふざけるな!!我が子可愛さに大量虐殺を見逃せるか!!!」
その祝詞は若干のからかいが含まれていたが心から俺達を祝福していた。その勧告は心から俺達を気遣ってのものだった。
それは以前と何も変わらない厳しさの中に俺達を思う心を含ませ俺達を導いてくれた霞スミカの声だった。
だから錯覚してしまう。まだこの人は味方なんじゃないかって。
「…子や恋人よりも正義を取るか。人としては正しいのだろうが同じ女として、なにより母親としてお前の決断を認めるわけにはいかないな。
 ロイ、お前はどうだ?ウィンと同じか?」
だが途絶した輸送機の信号が、あいつらの最期の通信が錯覚を否定する。
「いや、俺は姐さんと同じっす。俺は俺の惚れた相手についていきます。
 それを抜きにしても姐さん達を放っておいたら世界に安全な場所はなくなるじゃないっすか。俺は家族全員が幸せに暮らすために姐さん達を討つ。
 …いや、違うっすね。こんなんただのいいわけだ。俺がここにいる理由は仇討ちだ。
 解ってんのか?テメェ等は俺の大事な家族を皆殺しにしやがったんだぞ!!許すわけねぇだろうが!グダグダくっだらねぇ事言ってる暇があるならとっとと来いよ!!!ぶっ殺してやるからよぉおお!!」
そうだ。人類の未来や正義なんざどうでもいい。ウィンディーを守る事すら2の次だ。俺は仇をとる。俺の家族を殺しやがったクソどもをぶっ殺す為に俺はここにいる。
「…いいだろう。お前達がそのつもりならもう私達は何も言わん。自らの道の為に私の最愛の子(最高傑作)を斃してみるがいい!」
吹っ切れたような、諦めきったような霞の姐さんの言葉と同時にストレイドが姿を現す。
「お待たせ~ロイに「坊主ぅうううぅううううううううう!!!」ストレイドが見えた瞬間冷えた頭が再度沸騰する。視界が殺意で真っ赤に染まる。
あぁそうか。俺は冷静になんてなっちゃいなかった。ただ爆発する為に溜めてただけだったんだ。
殺意に突き動かされるまま両背のミサイルをBELTCREEK付きで発射する。
「人の名乗りの途中に攻撃するとかヒデェ!?」ストレイドがミサイルの塊の中心にロケットを発射する。
中心でミサイルに辺り爆発するロケット。その爆発にミサイルが飲み込まれ誘爆し、その誘爆に新たなるミサイルが巻き込まれ誘爆し…が繰り返され殆どのミサイルがストレイドに届く事無く消失した。
「報いを受けろ!!」残った僅かなミサイルを避けるストレイドにウィンディーのレールガンが襲い掛かる。
「ちょっ、ウィン姉まで。きょーじとやらはどこいったのさ!?」「大量虐殺者相手に発揮する矜持などない!!」「相手によって出たり引っ込んだりするなんてきょーじって便利だね~」
ストレイドがミサイルとレールガンを紙一重で避けそのままレイテルパラッシュに接近しようとする。
「させねぇよ!!」ストレイドとレイテルパラシュの間にBECRUXを撃ち込み、WGPでストレイドを狩り立てる。
「ちっ」ストレイドがQBでBECRUXとWGPを回避すると同時にレイテルパラッシュへスナイパーキャノンを発射する。QBで回避するレイテルパラッシュ。
「あっま~い」レイテルパラッシュのQBの跳び先を先読みしたストレイドが放ったロケットが「お前がな」レイテルパラッシュが乱射したパルスに撃墜される。
「んな!?」「舐めるな!先読みされる事が解っていればどうとでも手は打てる!ロイ!!」
「おう!!」レイテルパラッシュがストレイドに突撃するのにあわせて両背のミサイルを放つ。
「いい気になるんじゃねぇよ!!」再びストレイドがミサイルの塊の中心にロケットを放ち誘爆させる。
誘爆の巨大な爆炎を突き破るってスナイパーキャノンが迫る。いいぜ。こいつも予想通りだ。迫り来るスナイパーキャノンを無視して狙いを定め「くたばれ!!」BECRUXを発射する。
「くそがぁあ!!」レイテルパラッシュを迎撃しようとしていたストレイドが慌てて身を捩りかわそうとするも完璧にはかわせず、双発のハイレーザーの片方が当たる。
「もらった!!」体勢が崩れたストレイドにブレードを構えパルスを乱射しながらレイテルパラッシュが迫る。
「しまった~!?…な~んてね」先読みしたストレイドがレイテルパラッシュの進路上に散弾をばら撒く。
発動から発射までの時間差を利用した罠。発射を見てから動いては避ける事が不可能な絶対の罠。
だが読まれていては意味がない。発動の直後にQBを起動していたレイテルパラッシュは紙一重で避け、「終わりだ」決定的な隙を晒すストレイドにレールガンとデュアルハイレーザーを発射した。
「がぁあああぁああ!!」避けきれない事を悟ったストレイドが獣の様な声を上げながらOBを起動する。一つのレールガンと二つのハイレーザーが突き刺さった直後、ストレイドはOBを発動し一気に距離を離し俺達の追撃から逃れる。

よし!確かにデタラメな先読みだが坊主自体の動きと読みは単純だ。読まれるって事がわかってるなら互角以上に戦える。
後はどのタイミングで霞の姐さんが乱入してくるか、か。
「いやぁ~、やっぱり2人とも強いなぁ~。にしても俺の予測を読むのは解るけど、LALIGURASはどうやって知ったんだ?これ今回初使用の切り札のつもりだったんだけど?」
「蘭が最期に教えてくれたんだ」
「な~る。実戦テストなんてしなけりゃ良かったぜ。
 ん~、こうなるとやっぱり俺一人じゃ無理かぁ~。つーわけで俺も一人呼ばせてもらうぜ?」
ち、霞の姐さんを呼んでくるか。まぁいい。戦闘中に奇襲されるよりよっぽどマシだ。
ストレイドに正対するレイテルパラッシュと背中合わせに立ち全周を警戒する。

「?…あぁ!呼ぶのはババァじゃないぜ。さ~て、チビ悪いが手を貸してくれ。俺一人じゃどうにも勝てそうにない。
 …おう!心強いな。それじゃぁ、俺達の力を見せてやろうぜ!800%!」

****

負荷をかけた瞬間、あまりの激痛に毛細血管が全て破裂し心臓が止まり、大量の情報に自我が呑みこまれた。
早く統合制御体に適切な処理を命じなければこのまま死んじまうんだが、命じる自我が情報の海に四散しているのでどうしようもない。
つまり俺は死ぬ。つーか『俺』って誰だっけ??
「大丈夫、お兄ちゃんの形は私が覚えてるから」
目の前にやってきた見覚えはあるが名前を思い出せない少女が俺を見つめる。
その瞬間、少女(他者)見つめら(観測さ)れた事で自我が再構成される。
「助かったぜ、チビ」僅かに欠けたチビを見て再構成しながら、統合制御体に命じて破裂した血管を塞ぎ心臓を外的刺激で強引に動かし、ついでに出血して耐Gジェルに混じりあった血液を抽出して血管に戻す。
おっと、忘れるところだった。更に痛覚を遮断して思考を妨げる苦痛(ノイズ)を消す。
チビ(他者)見ら(観測さ)れる事で(自我)を再構成できるようになったんだから、前みたいに苦労して痛みを頼りに自己を掻き集める必要はなくなった。
つまり向上した演算機能の殆どを裂いていた自我の再生に殆どリソースを使わなくて良くなった上に、思考(演算)の妨げになっていた苦痛(ノイズ)もカットできるようになったので更に負荷を上げて演算機能を上げる事が出来る。
ホントにいい事づくめだよな~。まぁ、その為にはチビが必要なんで、夢から覚まさなくちゃいけないのは悪いんだけど。
「それじゃ俺の体は頼んだぜ」チビにリソースの1割を委ねる。
「うん!任せて!お兄ちゃん!手が空いたらお手伝いするから任せてね!」渡したリソースは俺を見る事(自我の再構成)と俺の体の維持に使っても大分余るのでチビにはその分でまどろんで(夢の続きを見て)貰うつもりだったのだが、俺を手伝ってくれるという。
「サンキュ。なら頼む」やっぱりチビはいい子だなぁ。チビの心遣いに瞼が熱くなるのを誤魔化すようにチビの頭をクシャクシャに撫でた後、演算を開始する。
演算性能が上がったといってもやる事はさっきまでと変わりはない。ただ外界の情報を取り込み、それを統合制御体とやり取りしながら求める解を導き出すだけだ。
ただし、さっきまでとは速度と規模と精度が桁違いだ。さっきまでは精々が先読みレベルだったが今なら予知まで高められる。
そう、相手のとりえる行動を全て計算してしまえばさっきまでのように裏をかかれる事はない。いや、そもそも相手の攻撃に当たる事もこちらの攻撃が外れる事もなくなる。
…解が出た。演算終了だ。2人へ通信を開く。
「さぁて、せめて1分は持ってくれよ、二人とも」
な~んてね。最長でも57秒しか持たないんだけどな。

****

それは誰もが一度は夢見る罪深いが他愛のない(仮定)。この世界で自分と愛する人以外いなくなってしまったらという(仮定)
愛する人を独占したい、愛する人に独占されたいという決して叶う事のない(仮定)
だけどその(仮定)は叶った。ここには私とお兄ちゃん(愛する人)しかいない。
だから私は心の底から笑みを浮かべる。
いつも見ているおうち(孤児院)の夢は皆がいるし他に楽しい事ややりたい事が一杯あるので中々お兄ちゃんと一緒にいられないし、
夢ではお姉ちゃんが、現実ではババァ(お母さん)がいるので私はお兄ちゃんの一番になれない。
でもお兄ちゃんに恋する女の子としてはやっぱり時々はお兄ちゃんと2人っきりになりたいので、この状況は大歓迎なのだ!
戦闘と演算に集中するお兄ちゃんに近寄りながら、耐Gジェルで私の顔を作る。
そして意識と現実の両方でお兄ちゃんのほっぺにチューをした。
えへへ、幸せだなぁ~

****

「だからあの子には勝てないといったのに」
ストレイドに蹂躙されるマイブリスとレイテルパラッシュを見て溜息を吐く。
何故かは解らないが、エーレンベルク防衛以降異常なレベルでの負荷への耐性を手に入れたあの子を倒すのは人類には不可能だ。
今までの数倍の負荷がかけられるようになった結果、あの子はセロすら問題にならないレベルの適性を手に入れた。
その結果完全に統合制御体と同化することになったあの子は最新鋭のスパコンの数世代先を行く演算能力を得た。
その演算能力はこのような閉鎖された小空間なら完全な予知すら可能になるレベルだ。
そんな化け物に誰が勝てる?例えアナトリアの傭兵ですら無理だろう。
絶望的な状況は解っているだろうにそれでも諦めずに抵抗を続ける二機を見ていられなくなったので目を閉じる。
…以前なら目を瞑る暇なんてなかった。私はあの子を殺さないために、耐Gジェルや薬品を使ってあの子の体を守らなくちゃいけなかったし、戦況を見て負荷の調整もしないといけなかった。
でも大幅に演算能力の向上したあの子は今は生体部品(リンクス)の保護も自分で行っているので、私があの子にしてやれる事はなくなった。
そう、もうあの子は私を必要としていない。でも、私にはあの子が必要だ。私はあの子と一緒にいたい。
でもあの子は私があの子に付いていけないと知れば、何時もの嗤いを浮かべながら「そっか、今までお世話になったな。アンガト、ババァ」と別れを告げて独りでどこかに行ってしまうだろう。
嫌だ!!私はあの子と離れたくない!!その為なら何だってする。
そうだ。世界を滅ぼすしかあの子と一緒にいる手段がないのなら私は躊躇わない。

****

くそ!何の冗談だよ、これは!いくら先読みができるったって限度があるだろうが!!
ストレイドのあまりのデタラメっぷりに毒吐きながらランダムにQBで跳び回りながらノーロックでWGPをばら撒く。
近くでは同じようにレイテルパラッシュがQBで跳び回りながらパルスをばら撒いている。
無様な上に時間稼ぎにしかならないが現状これしか有効な手段がないのだから仕方がない。

ストレイドは「さぁて、せめて1分は持ってくれよ、二人とも」と通信を終えると通常ブーストで突っ込んできた。
当然俺達は迎撃しようとした。
だが出来なかった。
何しろストレイドはこちらが2次ロックをした瞬間にQBで視界外に消えてしまうのだ。つまり撃っても避けられる以前に、撃つ事さえできない。
1次ロックで当てるのはレイテルパラッシュのレールガンが避けられたので諦めざるをえない。つーか、1次ロックでの攻撃も撃つ前に動かれて避けられてしまった。
逆にストレイドの攻撃はこちらを誘導する目的で撃たれた物以外、つまり当てるつもりで撃たれた物は全弾命中している。
加えて最悪なのは徐々にストレイドに距離を詰められてる、いや詰められきられてしまった事だ。
0距離まで寄られたらコジマブレードを振るわれて終わり。だから何とか距離を離そうとしたのだが攻撃が出来ない以上どうしたって距離を詰められる。
後一歩でコジマブレードの間合いに入るまで接近されたので仕方なくQBと連射武器をランダムに使い始めたのだ。
移動もランダム、攻撃もランダムなら坊主も読みようがないだろう。とはいえこれは時間稼ぎだ。弾かENが尽きたら終わるので早急に対抗策を考えな「ざんね~ん、この程度なら予測できるんだな、これが」
QBの最中にストレイドに並ばれる。マジかよ!!この状態でも先読みできるってのか!?ストレイドがコジマブレードを振りかぶる。くそ!!駄目だ!!QBが終わる前にコジマブレードが振り下ろされる。どうにもならねぇ!せめてもの抵抗としてWGPをストレイドに向ける。よし。これで死ぬまでに少しはストレイドを削れる。スマン、ウィンディー後は頼んだ。後追いなんてするんじゃねぇぞ!ゴメン皆。仇討てなかった。あの世で会えたら焼き土下座でもなんで「やらせない!!!」コジマブレードが直撃する寸前、左上からレイテルパラッシュに激突される。衝撃で押し出されマイブリスがコジマブレードから逃れる。だが「馬鹿だね。ウィン姉が残ったほうが平均して8秒はもったのに」代わりにレイテルパラッシュの腰にコジマブレードが突き刺さった。「ウィンディィイイイイイイイ!!!」レイテルパラッシュの腰から緑色の極光が溢れ出る。コジマ爆発でレイテルパラッシュが上半身と下半身に千切れ飛ぶ。爆発の余波で左背武器がひしゃげ使用不能になった。
「テメェエエエ!!!」激情のままにBECRUXをストレイドに向け「残念遅い。1秒早く距離をとるか攻撃すれば6秒は長生きできたのに」た時にはストレイドは視界から消えていた。どこだ!?センサーに反応!?後ろ!!「46秒かまぁ頑張ったほうかな」くそくそくそ!!俺はここで終わるのか!!皆の仇も取れずにこんなところで終わるのかよ!!
だが「嘘だろ!?」ストレイドは攻撃せずにQBで距離をとった。
次の瞬間、ストレイドが立っていた場所にレザバズとライフルが突き刺さる。
「早く撤退しろ、クズが!」OBで飛んできたステイシスがマイブリスとストレイドの間に舞い降りる。
「マジでスティシスかよ!おいおいおい、いったい何がどうなってやがる?」なぜか混乱するストレイド。
「誰が撤退なんぞするか!!俺は家族とウィンディーの仇を!」
「同志との約束を忘れたか!」オッツダルヴァの怒声に

「ロイさん、ちゃんと危なくなったら逃げてくださいね?」

蘭の最後の言葉を思い出す。
「それにウィンはまだ生きている。お前はウィンを守る為にここに来たのだろう。ならお前のここでの戦いは終わりだ。後は私に任せておけ」
オッツダルヴァの言葉に慌ててレイテルパラッシュと繋がりリンクス(ウィンディー)の様子を確認する。
本当だ!マジで生きてる!!確かに殆どの項目がイエローかレッドだがこれならリンクスの生命維持を最優先にして、最寄のインテリオルの基地にOBで急行すれば間に合う!
「すまない!後は任せた!」「あぁ。全て私に任せておけ」
そうと解れば決断は早かった。俺はレイテルパラッシュにリンクスの生命維持を最優先にするように命じると、レイテルパラッシュの上半身を抱えて一気にOBでこの場から離脱を図る。
人類の未来を考えるとウィンディーを見捨ててスティシスに加勢するのが正しいのだろう。
だがそんな正しさ知ったこっちゃない。ウィンディーが死んじまうんなら他の人間がいくら生きていようが無意味だ。ホームの皆の仇討ちが出来ないのは涙が出るほど悔しいが耐えられる。
そう、今わかった。いや再確認した。ロイ・ザーランドにとって最優先すべきはウィンディーなのだ。だから俺は正義も人類の未来も家族の仇も全てを放り出して逃げる。

お願いだからウィンディー、死なないでくれよ!
 




 
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください
 




すまん、友よ。お前からの指令をいきなり破ってしまった。
戦場から離脱するマイブリスを見ながら亡き友に詫びる。
『またか。どうしてお前は感情で指令や計画を変更するのだ。もうフォローする私はいないのだぞ』
何時ものように溜息をつく友の幻影に再度頭を下げる。
すまない。だが、最期の瞬間まで目的の為に最善の手段を行う強い姿が、死を前にして取り乱さず最期まで最愛の人(同志)を気遣う気高き姿が、お前達と重なってしまったのだ。
だがら私は、感傷だとわかっていても、愚かだとわかっていても、マイブリスを見捨てる(彼女達の遺志を無に帰す)事が出来なかったのだ。
『はぁ、まぁ、しょうがないか。幸いあの傷ならウィン・D・ファンションは再起不能。ロイ・ザーランドも基盤となるホームの全員を殺害されては自由に動けないだろう。つまり最低限の仕事は果たした。後は、』
あぁ、わかっている。後は最後のORCAを潰すだけだ。
安心しろ。もう迷わん。いや、お前の最期の指令抜きでもORCAを人類廃滅に用いようとする奴は生かしておけん。
私の全てに賭けて奴を潰そう。
『そうか、覚悟が出来ているならいい。頼んだぞ、我が友テルミ、いやカラードランク1位オッツダルヴァ』
あぁ、任せておけ。私は必ず人類に黄金の時代を齎して見せよう。

****

ストレイドに向けて700と705を撃ちこむ。
「どわぁ!!テ、テメェマジで裏切りやがったのか!?」戸惑うストレイドに向けて更に901を発射し回避に追われるストレイドに705を撃ちこむ。
「グゥ!!ババァ!どうしたらいいんだ!確かテルミドールが生きていた場合は助けた方が争いが長引くんだよな?やっぱり生け捕りにした方がい…いの…って、ババァ?」
「テルミドール…裏切ったか…。元より、貴様等のはじめたことだろうが!
 貴様は貴様の理想を叶える為に死んでいった者達にどんな顔を向けるつもりだ!!!師であるベルリオーズになんと言い訳するつもりだ!!!」
指示を求めるセカンドを無視してセレン・ヘイズ、いや霞スミカが激昂する。
当然だ。逆の立場なら私でもこうなる。
「テルミドールは既に死んだ ここにいるのは、ランク1、オッツダルヴァだ」
「ふざけるな!!!!」
「ふざけてなどいない。貴様が私に師を、ベルリオーズを重ねてみるのは勝手だが私は私だ、クズが。
 初めからこれが私の目的だ。この騒乱で企業の人的資源も戦力も失われた。これからの後、戦いの主役は再びネクストに戻るだろう。
 そして有力なランカーはこの騒乱で全て斃れ後はクズばかりだ。私を脅かせる者はもはや誰もいない。
 故に私はリンクスの頂点に、否!全ての人類に君臨する!
 …セカンドと違い貴様は脅威にならんから私の配下に加えてやろうか?
 望むならあの晩と同じように抱いてやろう。ハハハ!私に師を重ね、いい年をした女が偽りの愛の言葉に少女のように涙ぐむ姿は中々に滑稽なファルスだった。
 あれがもう一度見れるのなら貴様のような年増を抱くのも悪くない!」
敬愛する同志をこうも嘲笑するのは気分も悪いが仕方がない。
霞スミカは鋭い女性だ。故に冷静になられては私の目的を感づかれ銀翁と同じ行動をとられる危険がある。
そんな事は許されない。これ以上最悪の裏切り者である私が許される事などあってはならない。
オッツダルヴァは権力を手に入れるが、生者と死者から卑劣で最低の裏切り者として蔑げずまれながら道化の王として生きていく。
それが理想を信じる同志を卑劣で最低な裏切る私の罰だ。そうでなくては、(テルミドール)(オッツダルヴァ)を許せない。
「殺せ!!!全てを裏切ったあの男を許すな!!!」
霞スミカが殺意に満ちた声でストレイドに命じる。
胸が痛い。だがこの痛みこそが全てを裏切る私への罰なのだ。
「やってみろ、クズが!!!」

だから征こう。オッツダルヴァ(罪人)たる私の生はここから始まるのだから。


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さぁ、人類全てを生贄にした降神の儀のはじまりだ!
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