Written by ケルクク
「これよりミッションを開始する。
No.3との共闘とはいえ、相手もノブリス・オブリージュにトラゼンド。ついでにサーベージビーストの三機を相手にする可能性がある事は忘れるな」
「つっても、カニスは無視してもいいレベルだし、破壊天使様はジュリアスねーさんが引き受けてくれんだよね?だったら、実質ダリオだけじゃん。楽勝楽勝」
「だとしてもだ。いくらオーダーマッチで勝った相手とはいえ油断するな」
「大丈夫大丈夫。セレンさんは心配性だなぁ。そんな心配してばっかりだと皺だらけになんぜ?って、もとか「いい度胸だ。ミッションが終わったら待っていろよ、貴様」
「じょっ冗談じゃ。ババァはまだ、若いよ!うん、テレジアさんに比べれば全然現「お前には山ほど説教がある 覚悟しておけ…」
通信機から新人とオペレーターの漫才が聞こえる。恐らくこれが彼らの実戦前の精神安定方法なのだろう。
少々煩わしいが似たような方法をとるメルツェルとデカブツに比べれば微笑ましい分全然ましだ。
だが、
「ストレイドのパイロット、今いいか?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、お仕置きは勘弁し………って、なんすか、ジュリアスねーさん」
「そのネクストはどういうつもりだ?」
「恰好いいでしょう?実はストレイドちょっとORCAに合流する時のドンパチで壊れたままでさぁ、予備機使わなくちゃいけなくなって、だったら折角だからってことで。やっぱりレイレナードの亡霊としてはデビューにはこれが相応しいかなって」
奴のネクストはよりにもよってシュープリスだった。
無論、ベルリオーズ様が乗っていたものではなくパーツとカラーリングを似せた模造品だが。
「それに、破壊天使にゃこのネクスト勝っているからね。ゲン担ぎの意味もあるんだぜ?」
「不謹慎なことは認めるが、メルツェルの許可も得ている。撹乱と宣伝効果があるので構わないとのことだ。気に障るか?」
「いや、ならばいい。少々昔を思い出しただけだ」
「あ?どういう意「おしゃべりはここまでだ。防衛部隊を確認。ネクストは確認されていない。アステリズム。作戦に従いまずはこちらが単騎で仕掛ける。いいな?」
「ああ、構わない。健闘を祈る」
「あいよ!さぁ!ORCAのお披露目だ!派手にいくぜ!」
停止したアステリズムの横で、シュープリスがOBを起動しカーパルスに突入していく。
シュープリスが敵部隊を駆逐していくのを見ながら私は溜息をつき眼を閉じた。
****
「ほい!神の所にご招待!………っとこいつでラストか。結局誰も来なかったな」
「仕方ない。一分三十秒しかかかっていないのだからな。腕を上げたな」
「おう!………ってババァが人の事を褒めるなんて珍しいな。こりゃ、明日はクレイドルが振るな」
「調子に乗るな。すぐにノブリスが来るぞ!警戒しておけ。アステリズム、戦闘は終了した。前進してくれて構わない」
目を開ける。新入りの機体を確認するが無傷だった。
それにノーマルとはいえこの数をこの時間でか。テルミドールの評価は正しかったようだな。
「アステリズム了解。新入り、すまんな。私はどうもお前の事を過小評価していたようだ」
「へっへへ!だろ!聞いた?聞いた?セレンさん。ジョシュアの再来に褒められちった!」
「ジュリアス・エメリー。余りうちのリンクスを付け上がらせないでくれ。馬鹿だから調子に乗りやすいんだ」
「そうは言ってもな、セレン・ヘイズ。実力があるものを無いとは言えない。この防衛部隊も並みのリンクスなら全滅させるのに五分はかかるし、それなりの手傷を負うだろう」
「はっはっは!でしょでしょ!もっと褒めてくれてもいいんだぜ?」
「私の予想では三分だった。二分を切るのなら十分有能だろう。一流のリンクスでも一分、私でも無傷で全滅させるには30秒程度はかかる。
それと、余り私をジョシュアの再来と呼ばないでくれ。彼との実力差は私が知っている。彼ならこの程度の部隊十秒とかからないだろう」
「………その、調子こいてすいませんでした。一分以上かかった上に実は一発被弾したリンクズの分際でいい気になってました」
さっきまで得意絶頂だった新入りの声が急に沈む。
?おかしいな褒めたつもりだったんだが。
「これで、分かったか?お前は殻がようやく取れた雛に「空き巣とは、なんとも情けない」
オープンチャンネルで通信が入る。
「来たか」
「へへ!天使様御光臨てか?でも一人とは舐めてんな」
「匪賊には、誇りもないのか? 生き易いものだな、羨ましいよ」
誇りに、生き易いか。
私達の道が別たれたあの時から変わらないなジェラルド。
誇り高く生きると決めたあの日からお前は変わらず気高いままだ。
気が付くと笑みを浮かべていた。
だが、安心しろ。私もあの日分かれたときから変わっていない。
「よっしゃ!二人がかりでフルボッコ「新入り、奴は私の獲物だ。お前は計画通りにアルテリアの確保に向かえ」
「はぁ~!?何わけのわ「アステリズム。いいんだな?」
戸惑う新人を制するように放たれたオペレーターの声に頷く。
「ああ、私がけじめを付けるべき相手だ。すまないな」
「分かった。聞いた通りだ。お前は作戦通りアルテリアを押さえろ」
「いや!?待てよ!意味わかんねぇ!ネーサンが単機でジェラルド抑えんのはネクストが複数出てきた場合だろ?
相手が単機だったら二人がかりでボコってやれば良いじゃん!」
混乱したような新入りの声。メルツェルめ!きちんと言い含めておけ!余計な手間を掛けさせる!
滾る心に水を刺されたイラつきを声に出さないように語り掛ける。
「普通ならそうだな。これは私の我儘だ。だから悪いがお前はアルテリアに行ってくれ」
「大人がぁ!しかも命がかかってんのに我儘言うな!とにかく俺はあんたがなんて言おうとって、おいおいおい、何のつもりだよ!?」
何とか諭そうとしたがヒステリックな答えが返ってきた事と、何よりもうすぐジェラルドが来てしまうので仕方なく、VEGAを奴に向ける。
「私は本気だ。手を出すならお前から撃「そこまでにしておけ。メルツェルからの指示もある。ここはアステリズムに任せて私達はアルテリアに向かうぞ」
「くそ!くそ!わけわかんねぇ!何だよ!俺だけ外しやがって!いいよ!だったら死んじまえ!助けてって言っても助けてやんないからな!バーカ!」
悪態を吐きつつシュープリスがOBを吹かし、戦場から離脱していく。
同時に、ジェラルドが戦場に到着する。
「一人が抑えて一人がアルテリアに向かうか。小細工だね。ここはクレイドルの要だ。悪いが彼の先にはダリオとカニスが待ち構えているよ。
所詮反動家の策などこの程度だ。降参するなら命まではとらない」
そのまま仕掛ければいいものをわざわざ目の前まで来て降伏勧告か。本当に変わらんな。
笑みを噛殺しながらチャンネルを開きジェラルドに告げる。
「残念だがあいつの役目はその二人を抑える事だ。そして、ジェラルド、私はお前との約束を守りにきた」
「?テロリストに知り合いはいないんだが」
ふん、流石に声だけでは私と気付かないか。まぁ、私はずっと前に死んだ事になっているしな。
しかし、それはそれとして腹は立つ。
その感情の赴くまま私はPHACTを奴に放ち同時に吼える。
「そうか!ならば、死ぬ前に早く私の事を思い出すのだな!」
そして私達の十年振りの逢瀬が始まった。
****
O200とPHACTを交互に切り替えながらVEGAを放つ隙をうかがう。
だが、戦っていて憎らしくなるほどに隙が無い。
隙を見せずに正面から堂々とした撃ち合う。まさにノブリスのそしてジェラルドの在り方そのものだ。
笑みが零れる。集めた情報からはお前が変わっていない事は知っていたがやはり情報は情報。本当に変わっていないが不安だったのだが、変わらない、昔のままだ。
それが嬉しい。
「だが、喜んでばかりもいられんな。こうも隙が無いとな。さて、どうするか」
とはいえ、完全に隙が無いわけではない。
付け込むべき僅かな隙は確かにある。
だが、その僅かな隙に乗じるには少々距離がありすぎる。
戦闘距離は、中距離よりの遠距離と遠距離よりの中距離の中間点。撃ち合いと回避に重きを置いた距離であり私の距離だ。ゆえにこのまま続ければいずれ勝てるだろうが、
「折角の逢瀬だ。そんな無粋な真似はできんな。何より!私らしくない!」
二段QBで大きく右に跳ぶ。相手の死角にでた一瞬に一気に前QBで距離をつめる。同時に左武器チェンジ。O601JCとO200を垂れ流し弾幕を形成する。
ノブリスが後ろに下がりながら右に持ったアサルトライフルで次々とPMミサイルを打ち落としていく。O200は何発か当たっているようだが効いているようには見えん。
だが、それでも構わない。ノブリスの左で展開している天使の翼の射角にはいらないように注意しながらさらに前進する。
間合いは近距離よりの中距離からさらに接近しついには近距離へ。もうすぐ、ノブリスのブレードに注意しなければいけない距離になる。
「くっ!」ジェラルドの声。距離がここまで近づいた事により被弾が防御の高いノブリスでも無視できないレベルになったか。
だが、それは私もだ。ノブリスのアサルトライフルを避けきれずダメージが蓄積されていく。
「だが、まだだ!」さらにもう一歩踏み込み左武器チェンジ。ノブリスがアサルトライフルを撃つのをやめる。接近しすぎて死角にでも入ったか?好都合だ。
ブレードはおろかそのまま殴り合いが出来そうな間合いの中、左の翼の死角からVEGAの銃口をノブリスに接触させる。
「チェックメイトだジェラ!?」
引き金を引く寸前、ノブリスが身を捩る。避けるためではなく、右の翼の射程内に私を収めるために。くそ!アサルトライフルの連射が止んだのはこのためか!
避けられる?無理だ!攻撃を中止してQBを使っても一発は被弾する。ならば、
「いいだろう!付き合うよ!ジェラルド!」
引き金を引くと同時に右の天使の翼から紅の光が溢れ出る。
胸を射抜かれたノブリスと、身を捩り何とか一発かわすも右頬と肩を吹き飛ばされたアステリズム。
「ぐぅ!?」AMSから送られてくる痛みとエラーを堪えながらQBを吹かし同時にPHACTを発射。
レールガンの直撃に怯まずアサルトライフルを乱射するノブリス。それをかわ、しまった!左翼の射程内に追い込まれた!!
天使の翼から破壊の光が放たれる。「ああああ!?」悲鳴を上げながら回避し、牽制にO601JCをばら撒きながら後退。
アサルトライフルには構わずに距離をとる事に専念する。
最後にはO200を撃つENすらなくなっていたが何とか距離をとる事に成功する。
荒い息をつきながらお互いのダメージを確認する。
………ふん、今の接近戦はお互いに三分の一程度のダメージを与え合った痛みわけってところか。
挨拶代わりの前戯にしては些か激しすぎたな。
それにしてもジェラルドは強くなった。嬉しい。私が死んだと思っていたにも関わらず私との約束を守っていてくれてたんだね、ジェラルド。
でも、このまま忘れ去られたままというのは面白くないし、堪えられない。出来れば気付いてほしかったが仕方ないな。
「鈍ったものだな、ジェラルド・ジェンドリン」
弾む声を強引に抑える。私一人が嬉しがるのもなんだからな。
「! なぜ君が…? ジュリアス・エメリー…」
ようやく悟ったのか愕然としたような声が聞こえる。まぁ、当然か。死んだ私がこうして化けてでたのだからな。
「決まっているだろう?あの日の約束と誓いを果たすためだ」
そっけなく返しO200を向ける。
「待ってくれジュリアス!!何故僕と君が闘わねばならない!君はこの十年間何をしていたんだ!それにそのネクストは一体?」
「落ち着いてください!ジェラルド・ジェンドリン!貴方らしくない。不明ネクストのリンクスと貴方の関係は今は問いません。彼女は敵です!撃破し、できれば生け捕りにし」
「黙れ!!十年間探していた彼女がようやく見つかったんだ!もう死んだと思ってた彼女が生きていたんだ!!部外者は引っ込んでいてくれ!!!!」
「ジェラル「煩い!!」
オープンチャンネルをONにしたままオペレーターと通信し、あまつさえ怒りの余りオペレーターとの通信を切るか。
如何なる苦境でも常に冷静さと気品と余裕を失わないお前らしくないな、ジェラルド。
まぁ、十年前に死んだと思っていた私が化けて出てくれば当然か。私が同じ立場ならきっともっと酷く取り乱していただろうしな。
「答えてくれ!!ジュリアス!!」
ジェラルドの叫びがコックピットに響き渡る。その取り乱した声に彼の中に占める自分の大きさが十年前と変わっていない事が解り胸が熱くなる。
とはいえ、このままでは不味い。私はここに愛ではなく刃を持って交わる為に来たのだから。
だから唯のジェラルドに戻った彼を『リンクス』ジェラルド・ジェンドリンに戻そう。
あの日の誓いを守る為に。
「それがアルテリアを破壊しようと襲撃してきたイレギュラーに言う事か、ジェラルド?」
「アルテリアの破壊って!?何を言っているんだジュリアス!!ここはクレイドルの要何だぞ!!!ここが失われればクレイドルは翼を失い地に墜ちる。何億という人間が死ぬ事になるんだぞ!!」
「全て理解しているよ。だが今やらねば遠くない未来、人類全てが壊死する事になる。
だから、自らの死、大量虐殺者の汚名、罪の無い人間が大勢死ぬ事、死んだ者達の怨嗟、生き残った者達の嘆き、後世の誹り、全てを甘受し私はこの手を穢そう」
「ジュリアス、君は」
「お前はどうだ、ジェラルド?
仮に私がお前の疑問全てに答えたらお前は企業を裏切り私達に付いてくれるのか?
企業の欺瞞を暴く為、人類の未来の為とはいえ何十億もの無辜の民を死に追いやる人類史上二番目の規模の虐殺に加担してくれるのか?
もしそうだというなら私は喜んでお前の疑問全てに答えよう」
「………無理だ。例え如何なる理由があろうとも僕は、いや私はクレイドルに住む弱き民を守る事を放棄するわけにはいかない」
ジェラルドの声が戦士の物へと変わる。いや、戦士では無く弱き者を護る為に巨悪に立ち塞がる高貴なる騎士にか。
「そうだ、ジェラルド。ならば私達の取るべき道は一つだけだ。
私は私達の悲願の為にかつての仲間達が暮らすクレイドルを墜とし彼等を死に追いやる覚悟を、家族以上の存在であるお前を斃す覚悟を既にしている。
お前はどうだ、ジェラルド?」
ゆっくりとVEGAを引き上げジェラルドに向ける。
「そうだね。なら私も覚悟を決めよう。レイレナード崩壊後君が何をしていたのかは虜囚となった君に聞く事にしよう」
ノブリスが左右の翼を展開する。
「たっぷりと話してやる。もっとも立場は逆だろうがな。
………最後の夜に交わした誓いは覚えているか?」
VEGAにENが満ちていく。限界以上に充填されたENが解放を求め荒れ狂う。
「ああ、覚えているよ。
ジュリアス・エメリーはジェラルド・ジェンドリン以外には殺されない。
言い換えれば君を殺していいのは私だけだ」
天使の背で浄罪の光を持って咎人たる私を裁かんと翼が輝く。
「そうだ。そしてジェラルド・ジェンドリンはジュリアス・エメリー以外には殺されない。
つまりお前を殺していいのは私だけだ。
だから誓いを果たそうじゃないか。それだけが今の私達が過去の私達にしてやれる唯一の事だ」
「そうだね。なら、」
VEGAがノブリスをダブルロックするのと同時に天使の翼も完全に私を捉える。
「ローゼンタールがリンクス、ジェラルド・ジェンドリン!!
揺り籠に眠る民を護る為、師たるレオハルトより受け継ぎし誇り高きノブリス・オブリージュの名に賭けてイレギュラーを排除する!!」
名乗りか。ふふ、時代錯誤なことを。いいだろう!合してやる!
「ORCA旅団最初の五人が一人、ジュリアス・エメリー!
人類に黄金の未来を齎さんが為、レイレナードより受け継ぎし崇高なる悲願を果たさんが為に首輪付きを排除する!!」
名乗った後、ノーマルの残骸を拾い、上に放る。
そして残骸が地に落ちた刹那、
六つのレーザーと一本のハイレーザーが交差した。
****
迫り来る六本のレーザーをかわす為にQBで左に跳ね、同時にOBを起動しつつPHACTを発射。
「いくぞ!ジェラルド!!今度も凌いで見せろ!!」
着地と同時にOBが発動。圧倒的な速さで間合いを一気に詰める。接近する僅かな時間にO601JCを発射しVEGAを起動する。
両翼のレーザーを発射し、さらにVEGAとレールガンを避けるために二度QBを使った事で一時的にENが枯渇し機動力を失ったノブリスが寄らせまいとライフルを乱射する。
それを意に返さず接近し、ノブリスと交差する寸前再度VEGAをノブリスに押し付けるようにして発射。
超人的な反応速度で身を捩り直撃を回避するノブリス。
「くぅう!!」「今のをかわすか!十年前とは比べ物にならないほどに腕を上げたな!ジェラルド!!」
距離を離すと同時にDTを決め向き直り、同時に横QBで追撃に放たれたアサルトライフルを回避。お返しにO200を発射。さらにOBを再度起動。
「だが!まだ終わりではないぞ!!今度も凌げるか!」
再度OBでの突撃を敢行する。容量に優れたGAN01-SS-Gだからこそできる荒技。
ノブリスが突進を避けるためQBで右に跳ぶ。いい反応だ。だが!そんな貧弱なSBでLAHIREから逃れられると思っているのか!!
こちらもQBで右に跳ぶ。直後目の前にいるノブリスにVEGAを押し付けるようにして発射。今度も身を捩るが回避しきれず直撃を受けるノブリス。
よし!後二撃も決め!?「なっ!?」突然目の前に現れた建造物を回避しきれずに突っ込む。
「しまっ!?」衝突の衝撃でOBで薄れていたPAが剥げ、瓦礫に埋もれた為身動きを封じられる。
くそ!ジェラルドが跳んだのは突撃を避ける為では無く私をここに誘導するためで、VEGAの直撃を受けたのは避けきれなかったのではなく建造物を自らの体でギリギリまで隠す為か!!
駄目だ!!離脱できない!!咄嗟に周囲の建造物を崩し瓦礫に埋まる。
直後ノブリスの両翼から破壊の光が放たれる。
「うわぁあぁぁあぁぁぁぁぁああああ!!」
瓦礫を一瞬で蒸発させアステリズムを焼く破壊の光。AMSから送られてくる痛みとエラーに頭を焼かれる様な苦痛を感じながら横QBで離脱。
止めを刺そうとしていたノブリスにPHACTを当て動きを止め、その隙に再度横QBで距離をとる。
さらに、O200とO601JCで牽制しながら距離をとり、ようやく中距離よりの遠距離まで離れた所で安堵の息を吐く。
「流石だね、ジュリアス。高速戦闘時の機体制御はやはり君の方が圧倒的に上だ。流石、ジョシュア・オブライエンの再来とまで謳われただけの事はあるね」
「たった一度の交差で対処法を見切られたお前に褒められると皮肉にしか聞こえんな。それと私をその名で呼ぶな。私達がジョシュアに遠く及ばない事は解っているはずだぞ?」
「そうだね。他の誰もジョシュアさんと同じ領域に達する事は出来なかったね」
ジェラルドの過去を懐かしむ声につられ私達の師を思い出す。
****
ジョシュア・オブライエン。
私はレイレナードでもORCAでも様々なリンクスを見てきたが遂に彼を上回るリンクスを見つける事は出来なった。
テルミドールや真改、いやベルリオーズ様やアンジェ様や銀翁ですら彼に比べたら明らかに見劣りした。
例えば2段QBキャンセルのマニューバを何の負担をかける事無く行う事が出来るのは今も昔も彼一人だけだ。
仮に私が行おうとするなら致死レベルの負荷と薬物投与を用いても一度が限度だろう。
それほどまでに彼は抜きんでていた。
当然だ。
彼は強かった。AMS適性や操縦技術もそうだが何よりも心が強かった。強すぎた。
師や恋人を裏切りAMS技術を盗み出した事。全てを裏切り捨てて故郷を救く為に盗み出した技術が私達というより救われぬ物を生み出した事。
傷心の果て自暴自棄になった彼を慈しみ愛し支え立ち直らせてくれた妻をAMS技術の被験者という生き地獄に堕とした事。その妻を死という形でしか救えなかった事。
私達を護る為に決して負けるわけにはいかないという重圧。私達を護る為戦場で誰かを殺し続ける矛盾。
この全てに彼は死ぬまで独りで耐え続けたのだ。それがどれ程のものか私には想像する事すら出来ない。
確かに私にもレイレナードの遺志を継いだ事によるプレッシャーや人類の過半を殺すという罪悪感がある。
だが私にはORCAの皆がいる。一人では持てない重い荷を共に支え合う仲間がいる。私が倒れたとしても後を継いでくれる同志がいる。
もし私がジョシュアと同じように一人だったら、クローズプランを実行する事は出来なかったに違いない。
だからこそ私は、いやあらゆるリンクスが彼には及ばない。
いくら早く走れても人が閃光に追いつく事など出来ないのだから。
****
頭を振って愚にもつかない回想を追いやる。今はそんな場合じゃない。
今の隙を衝かれなかったのはジェラルドも同じようにジョシュアの事を思い出していたからだろうな。お互い不様な物だ。
まあいい。お陰でようやくダウンしたPAが回復したからな。といっても天使の翼相手にどれほどの意味があるのかは疑問だが。
「戦闘中に昔を思い出すとは余裕だな。交差は破られたがそれでも遠距離での射撃戦なら私とアステリズムの方が有利だぞ」
「君もね。ここは私の庭だよ。一体私がここでどれだけの模擬戦したと思う?どれだけここの事を知り抜いていると思う?そうでなくても地形戦なら私の方が得意だよ」
「なら条件は五分だな。いいだろう。どちらが上か教えてやる」
「思い上がらないでもらおう。イレギュラーに墜とせる程ノブリス・オブリージュは甘くはない!!」
宣言と共にノブリスが前進し、私はQBで左に跳びながらO200を発射する。
足元に突き刺さるレーザーに構わずノブリスが前進しながらアサルトライフルを連射し、迫りくるPMミサイルを撃墜する。
精確極まる射撃を捌き切れなくなった私がさらにQBで左に跳び、O200を放とうとしたところでノブリスが建造物の影に隠れる。
「逃すか!」O601JCを発射しノブリスを追いたてる。PMミサイルが直撃し吹き飛ぶ建造!?悪寒!!咄嗟に機体を上昇させる。
直後に海中から放たれた三発のレーザーが寸前まで私が立っていた場所を貫通する。
「戯けた真似を!!」ジェラルドが居ると思われる位置にO601JCとPHACTを発射する。
QBで弾かれたように海中から飛び出したノブリスがレールガンをかわしPMミサイルを撃墜する。
そのまま距離を詰めてくるノブリス。アサルトライフルが私の身体に突き刺さる。ノブリスにもO200が刺さっているはずだが効いた様子も無く距離を詰めてくる。
くそ!!一旦距離をと!?くそ!これが狙いか!何時の間にか左右を建造物と壁で潰されている事に気付く。通常移動ならともかくQBなぞ使えば壁に激突するな。
退いた所で意味はないし、ノブリスの方が下にいるので下を潜るのも無理。
残りは上か。いやノブリスは右翼を展開している。上を飛んでも叩き落とされるだけだろう。交差するしかない!
天使の翼に注意しながらVEGAとPHACTを構えノブリスを待ち受ける。いいだろう。今回はVEGAを囮にPHACTを当ててやる。
ノブリスは右翼を展開したままさらに距離を詰めてくる。もう少し。VEGAを囮にPHACTを当てて硬直した所をVEGAで決めてやる。
後少し。集中しろ。もはや左翼を展開しても交差には間に合わないから右翼だけを…まて!?何故ノブリスは両翼を展開していない!!
「くそ!!」失敗を悟り直撃を回避するためにPHACTを発射し前QBを使う。同時にノブリスが長大な刀身を形成し、突き刺さるレールガンを無視して斬りこんで来る。
PHACTを当てる事で得た一瞬に体を捻り両断されるのだけは阻止。
「があぁぁあっぁぁあぁあああああ!!!!」だが長大なブレードはアステリズムの前胸部をごっそりと持っていく。
頭の中を駆け巡るエラーと痛みと喪失感に失禁し吐瀉物を撒き散らす。
耐Gジェルが異物を分解していくのを見ながら、前QBで距離をとった後、QTしノブリスにVEGAを向ける。
同時にノブリスが両翼を展開しながらQTで振り返る。
「ジェラルド・ジェンドリン!」
「ジュリアス・エメリー!!!」
再び六つのレーザーと一本のハイレーザーが交差した。
****
戦闘を始めてから三十分たった今も私達は闘い続けていた。
高機動で撹乱しながらダメージを積み重ねていく私と、劣る機動力を地形戦でカヴァーしダメージを最小限に抑えながら的確に逆撃を加えるジェラルド。
有効打こそ私の方が多いがそれは軽量級のアステリズムと中量級でさらにPA関連を限界まで高めたノブリスとの耐久力の差を覆すには至らなかった。
結果として私達は双方共に後一撃で斃れるという所まで追い込み、追い込まれていた。
「ち!弾切れか!」
O200をパージする。持っていてジェラルドに警戒させるという選択肢もあったのだが今更そんな小細工をする気にはなれない。
残弾はVEGAが一発にPHACTが三発か。どれでも当てればノブリスに止めは刺せるがそれでも少ない事には変わりない。
機体も限界だ。あちこちで小爆発は起きているし、PAも半分以下。統合制御体はとうの昔に発狂死し、抉られた前胸部からはコジマが漏れ出し、視界にはノイズが走っている。
そして私も限界だ。五分前に発狂死した統合制御体からネクストの制御を引き継いだため脳は書負荷で灼熱し悲鳴を上げ、毛細血管は軒並み破裂し、鼻血は止まらず、薬品の過剰摂取でいつ死んでもおかしくない。
つまり機体も私も何故動いているのか不思議な状態で残弾も僅か。
だがまだだ、まだ戦える。アステリズムは停止寸前とはいえまだ動き、弾は瀕死のノブリスに止めを刺すには十分な量があり、そして私はまだ死んでいない。
何より十年振りの逢瀬なのだ。この程度で果ててしまってはジェラルドに笑われる。
痛みに引き攣る顔に強引に笑みを浮かべ離れた場所でアステリズムと同じように限界を迎えつつあるノブリスを見る。ジェラルドの様子は解らないが私と似たような物だろう。
「そのスタピライザー捨てないのか?もう弾切れなんだろう?」
口から血を吐き出しながらジェラルドに話しかける。気を抜けば掠れ咳き込みそうになるのを抑え平静を装う。
「よくわかったね」
少しくぐもっている事以外は普段と変わらないジェラルドの声。ふん。見栄を張ったって無駄だぞ?お見通しだ。
「世界一有名な武器だからな。もう一度聞くぞ?パージしないのか?デットウェイトにしかならんぞ?」
「しないよ。ノブリス・オブリージュはローゼンタールの象徴であり、レオハルトさんから受け継いだ誇り高き機体であり、何より皆の心の拠り所なんだ。
ノブリス・オブリージュが皆にどう謳われているか知っているかい?
天使の背に常に一対の翼あり。如何なる苦境でも誇り高く輝き、唯一度の敗北でさえも折る事は能わず。だよ。
翼はノブリスの象徴であり誇りなんだ。それを勝敗の為に捨てるわけにはいかない。
いや違う。翼を付けたまま如何なる戦場でも誇り高く勝つ事がノブリス・オブリージュを駆るリンクスの義務なんだ。
だからジュリアス、これは手加減でも何でもないから気にしなくていいよ」
「思考を先読みするな。私はどちらでも構わん。翼を付けたまま負けたいならそうしてやる」
さて、どうする。残り四発の残弾の内どれか一発当てれば私の勝利だ。ならば遠距離戦で隙を窺いPHACTを撃ち込むか?
それともいっそOB突撃を行い勝負を決めるか?いやアステリズムは限界だ。三本のレーザーの内一発でも当たれば終わる。ならギリギリまで交差は止めておくべきか。
やはり遠距離だな。方針を決め戦闘を再開しようとした時、大地が揺れる。
「何だ!何が起こった!?」
「これはまさか最終手段が発動した?」
次いで遥か遠くに見えるアルテリア施設周辺で連続して爆炎が上がる。
「そうか、新入りがアルテリアを破壊したのか。ジェラルド、私達ORCAの勝ちの様だな」
「いや、引き分けだよ。今の爆発はアルテリア内の通路全てを爆破し、アルテリアに誰も侵入できなくする最終手段が発動した物だよ。
ちなみに今の爆発の威力は巻き込まれれば例えネクストであろうと耐えきる事は出来ない。もし君の仲間が巻き込まれていたら助からないだろうね。
もっともダリオが自分のポイントにならない方法を選ぶとは思えないけどね。
手段を選んでいられないほど追い詰められたのか、それともダリオが墜ちたから守備隊が慌てて爆破したのかは解らないけど。
どちらにしろアルテリアさえ無事なら他をいくら破壊されても容易に復旧は可能だ。それとも君達反動家にカーパルスを占拠し続ける戦力があるのかい?」
「無いな。だがやはり私達の勝ちだよジェラルド。一、二ヶ月時を稼げれば十分だ。その間に全ては終わる。
いや、今はそんな事どうでもいい。大事なのはトラセンドか新入りどちらが生き残ったにしろ、そいつがもうすぐ私達の逢瀬を邪魔しにくるという事だ。
それまでに終わらせよう」
作戦は変更だ。隙を窺う時間は無くなった。次の突撃で全てを決めよう。それに確実性は無くなるがこちらの方が好みだ。
少しでも機体を軽くするためにPHACTをパージする。
「これでお前が私が接近する前に一発当てられるか、そして近づいた場合はお前が私の一撃を避けれるかの勝負になったわけだな」
ジェラルドが苦笑する。
「相変わらず思い切りがいいね。目的を達成したんだから引き揚げるとか、せめて仲間が来るかどうか見極めるとか考えないのかい?」
「誓いを果たさず帰るつもりも、私達の間に他者を入れるつもりも無い。
だからこれがいい。狙っていたわけじゃないがこの形は最高だ。
互いに目的を果たしもはやこの戦闘には何の意味も無い。ORCAの理想、クローズプランの成否、クレイドルの行く末、全てにこの勝負は何の影響も与えない。
この勝負で得られるのは、ただ私達のどちらが強いか解るだけ。ただ昔交わした誓いが守られるだけ。もはやこの勝負に私達以外の不純物は無くなった。
さぁ!勝負だ!ジェラルド・ジェンドリン!!よもや断りはしまいな!!!」
「誇り高きオブリス・オブリージュのリンクスが挑まれた勝負を断る道理はないよ。
来るといい、ジュリアス・エメリー。ノブリス・オブリージュの全力を持って受けて立とう」
ジェラルドの言葉と共にノブリスが両翼を展開する。
違う!私が望んでいた言葉はそれじゃないんだジェラルド!!!
「違う!!尽くすべきはノブリスの全力で無くお前の全力だ!!
誓え、ジェラルド!この勝負にお前の全てを尽くすと。もし僅かでも手を抜いたら私はお前を一生許さない!!」
そうだ。私が会いに来たのは、私が約束したのは、私が誓い合ったのは、私が愛したのはノブリスのリンクス等ではなくジェラルドなんだ。
「解ったよジュリアス。誓うよ。この勝負に私は、いや僕は全力を尽くす」
「ありがとう、ジェラルド。
………いくぞ!!」
私はOBを起動した。
****
ジュリアスがOBを起動する。
ジュリアス、やはり最後はOBを用いての突撃で来るんだね。なら!
左後方にQBで跳ぶ。降り立った場所はQBで左に跳ぶと壁際ギリギリに立つポイント。
だが僕がギリギリだと言う事は軽量級で高出力のSBのジュリアスは壁に激突するという事だ。OB中にしかもネクストが大破している状態で壁にぶつかれば終わりだ。これで左は封じた。
そして僕の右前方には建造物がある。避けるにも回り込むにも大きすぎ、残弾がVEGA一発しかないジュリアスには破壊する事も出来ない建造物が。
つまりジュリアスは左右を壁と建造物に挟まれた場所を通るしかない。そしてそこはEC-O307ABを当てるには絶好のチャンスだ。
勿論ジュリアスもそれは解っているはずだ。恐らくQBも併用し一瞬で抜けるに違いない。
そして抜けられた場合、一転して僕に危機が訪れる。ENを回復する暇も無く距離を一瞬で詰められ、零距離で発射されるVEGAを避けられるかどうかの勝負になる。
いや避けられないと思った方がいい。
だからこの勝負はEC-O307ABをジュリアスに当てれるかどうかの勝負だ。
白い閃光の再来とまで讃えられたジュリアスの早さに僕の翼が届くか。いや、届かせてみせる!
「来い!ジュリアス!!」
ジュリアスの背で光が爆発し、QBを多用し左右に跳びながら凄まじい速度で接近してくる。
今までで一番速い!!不要物を全て削り落し、QBまで使用して限界を超えて加速するジュリアスはもはや視認する事すら出来ない。
なら見なければいい!ロックを切り照準を建造物と壁の間に合わせ、後はレーダの自分達の相対距離だけを見る。
慎重にタイミングを計る。早過ぎても遅過ぎても駄目だ。ジュリアスに避けられてしまう。
………今!!
ジュリアスは未だポイントに到達していないが先読みし両肩のEC-O307ABを発射する。ジュリアスの速度とこちらの弾速を考えるとこのタイミングで撃たないと間に合わない!!
永遠に等しい一瞬の後、ポイントにジュリアスの姿が現れる。
よし!!このタイミングならいくらジュリアスでも避けられ………不味い!ジュリアスが遅すぎる!!
ジュリアスが後QBで速度を殺す。
三発のレーザーがジュリアスの眼前を通り過ぎた後、アステリズムが前QBでポイントを通過する。
その背にOBの光は無い。やられた!!僕の予想を誤らせる為にOBを発動して直ぐに切ったのか。最初からジュリアスはOBで接近する気なんてなかったんだ!
くそ!!右後方に下がりながらMR-R102を乱射する。だがジュリアスはそれを読んだかのようにQBを使いかわし、こちらの移動先に廻り込んでくる。
『私はS003と呼ばれています』『僕が君を守ってあげる』『僕たち二人であの空をどこまでも飛んで行こう!』『やっぱり一番ジェラルドが好き』
ジュリアスが僕の右側面に回り込む。
駄目だ!!今からじゃ何をやっても間に合わない!!
『僕が君を守るから』『絶交だぞ!!』『あたしはジェラルドといっしょ』『ありがとうジェラルド!!だいすき!』
右側面にいるジュリアスがQTで向き直る。
死の寸前に極限まで活性化した脳が万物全てをスローモーションにし、過去を回想しこの死地を抜け出す術を探す。
『ジュリアス・エメリー!!』『ジェラルドに私をあげる』『お前に貰って欲しいんだ』『38、じゃなくて72でもないな。55?違うな、えーと88でもなくて66!!そう!66だ!!』『次に会うまで絶対に死ぬなよ!!また私達は会うんだからな!!』
『私はジェラルド以外には殺されない』『僕もジュリアス以外には殺されない』『次に会った時に私はお前に伝えなきゃいけない事があるんだからな!』『僕もだよ、ジュリアス』
VEGAが僕に向けられる。
ジュリアス!!僕は!僕は!!僕は!!!僕は!!!!!
『誓え、ジェラルド!この勝負にお前の全てを尽くすと。もし僅かでも手を抜いたら私はお前を一生許さない!!』
僕は!!!!!!!!!
『誓うよ。この勝負に私は、いや僕は全力を尽くす』
****
「止まれぇぇぇぇぇぇええええぇぇえええ!!!!」
ジェラルドの右翼が輝いた瞬間、ブーストを限界まで前方に噴射し同時に後QBを起動する。
OBの余剰スピードと通常ブーストに前QBでOBに匹敵する速度を出していた機体を強引に減速させる。
耐Gジェルが殺しきれない凄まじいGが全身に掛かる。
肺が潰れ、眼球が圧力に負けて外に飛び出すのを耐Gジェルが抑え、視界がブラックアウトし意識が途切れるのを薬物の力と唇を噛み切る事で強引に防ぐ。
そして、肋骨がGに負け折れて肺に突き刺さるのと同時に私の前を天使の光が通り過ぎた。
「勝ったぞ!!!ジェラルド!!!」
溢れる血を吐き出しながら勝利の雄叫びを上げ、前QBでノブリスに接近する。
ノブリスが左に後退しながら乱射するライフルを避けるためとノブリスとの距離を詰める為にもう一度QBを用い左前方に跳ねる。
ノブリスとアステリズムの重量差、BBとMBの出力差。二つの差が遂にノブリスとの距離を詰め切り、ノブリスの左手に飛び込む。
「終わりだ!ジェラルド!!」
QTしノブリスにVEGAを押し付け、引き金を引く寸前ノブリスがQBを使い前に跳ぶ。
「無駄な事を!!逃すか!!」
ノブリスの着地予想地点に銃口を向け直し同時に引き金を!?いない!?
レーダがジェラルドの位置をしらせる。ノブリスがいるのは予想した場所より遥か前方。馬鹿な!!ノブリスがあそこまで跳べる筈がない!!どんな手品を使った!ジェラルド!!!
一瞬戸惑った私を敵ネクストにロックされたという警告が正気に戻す。
そうだ。困惑も疑問も後にしろ。今はジェラルドを斃す事だけを考えろ!!
天使の翼が私を捉えたというのならば、羽ばたく前にジェラルドを撃ち抜くだけだ!!!
ジェラルドに向き直りVEGAを発射す!?
****
ジェラルドに向き直った私が見たのは、翼を失い人に堕ちた天使がそれでも誇り高く剣を掲げる姿だった。
****
棄てられた翼が水中に没し、両断された腕が空を舞った。
****
VEGAを持ったまま空を舞う左腕を呆然と見る。
空を舞うVEGAから放たれたハイレーザーが空を穿つ。綺麗。そのまま空を貫いてアサルトセルを破壊して。
翼を失ったノブリスが腕を断ち斬った勢いのまま私の両足を両断するのを無抵抗に受け入れる。
「きゃぁあぁぁっぁああああぁぁあ!!!!」
凄まじい負荷に悲鳴を上げた私がショック死する寸前に負荷が急に収まり同時に視界が黒一色に染まり自分の荒い息と心臓の音以外なにも聞こえなくなる。
私より先にアステリズムが限界を迎えたか。
負けたか。大きく息を吐き、耐Gスーツの胸元を緩める。
AMS経由で幾つか指示を出す。戦闘モードは解除。視覚及び聴覚の復帰を最優先に。
暫くして外部の音が聞こえ、視界が回復す………。
「綺麗」
戻った視界に映った光景の余りの美しさに忘我する。
眼前には翼を失ったノブリスが私にブレードを突きつけていた。
日輪を背負いボロボロになりながらも気高く剣を構えるその姿はまるで完成された一枚の宗教画のようだった。
どれくらいそうしていたのだろう?自らの頬を伝う涙の感触に我に返り、頭を振る。
そしてジェラルドに通信を送ろうとしたが通信機能が死んでいた。しかたなく何とか生きていた外部スピーカを起動する。
運が無いな。最期なんだからジェラルドの顔を見たかったのに。
「完敗だ。私の負けだよジェラルド。まさか最後の最後に翼を棄てて速度を上げるなんていい作戦だ。私か、侮ったのは…」
「違うよ。あの時は無我夢中でそんな事は全く考えてなかった。僕はただ死にたくなかっただけなんだ!!!僕はノブリス・オブリージュのリンクスとして失格だ!!」
ジェラルドの泣きそうな声が周囲に響く。馬鹿。勝者が敗者より落ち込んでどうする。そんなお前を最期にみたくないのに。仕方ないな。
「胸を張れジェラルド。私の目に映るノブリスの姿は戦闘前と何も変わっていないぞ。いやむしろ今の方がらしく見える。お前は立派なノブリスのリンクスだよ」
「違う!!僕は命欲しさにノブリスの誇りを棄てたんだ!!」
「ジェラルド、お前の言う誇りとは翼を持ち続ける事なのか?それとも弱者を守る為に例え泥を啜っても勝つ事なのか?」
「………ただ勝つだけじゃ駄目なんだ。ノブリスのリンクスは弱き者の身を守るのと同時に弱き者の心を護り勇気を与える為に常に完全な姿でいなければならないんだ」
「じゃぁ、問題ないじゃないか。私を斃したお前はこれからも弱き者の身を守る為に闘い続ける事が出来る。
そして今のノブリスの姿を見て勇気付けられない者はいないよ。瀕死の重傷を負いながらなお品位と誇りを失わずに剣を構えるその姿、敵ながら見惚れてしまう。
確かにお前はノブリスの翼はパージしたかもしれない。でもな、誇りまではパージしていない。
お前は最後までノブリスの誇りを守ったんだ。だから誇れよジェラルド」
「………ありがとう、ジュリアス。あ~あ、敵である君に励まされるなんて僕もまだまだだな」
「そうだな、まだまだだ。でもいつか立派なノブリスのリンクスになれるさ。私が保証する」
「ありがとう。誰に保証されるより君に保証されるのが一番心強いよ」
良かった。私の知っているジェラルドに戻った。うん、これで想い残す事は後一つ。
そろそろ頃合いだ。さぁ、遠い昔に伝えられなかった想いを告げて全て終わりにしよう。
「なぁ、ジェ」
「ジュリアス!!君が知っている事を全て話してくれるなら僕が絶対に救ってみせる!!だからお願」
「ジェラルド」
懇願するように矢継ぎ早に言葉を紡ぐジェラルドの名を呼ぶ。
「言いたい事は解る。でもジェラルドが逆の立場だったら話す?」
「それは」
ジェラルドが悔しそうに黙る。気持ちは解る。私も同じ立場なら同じように無駄と知りながらも説得を試みただろう。
「だから気持ちだけ貰っておくね。ありがとうジェラルド。一つ聞いてもいいか。私はこれからどうなるんだ?」
「………尋問の後処分される。処分の方法は解らない。ただ殺されるだけで済むのかそれとも何らかの人体実験の材料にされるのか」
「そうか。その過程でお前にもう一度会えるか?」
「無理だと思う。遺言ですら無理だろうね。交渉すれば使用済みになった遺体くらいは払い下げて貰えるかもしれないけど」
「それでは意味が無いな。つまり私がお前に言の葉を渡せるのは今が最後という事か」
「………そうだね。ごめん」
少し残念だ。どうせなら面と向かって言いたかったのだがな。
「気にするな。唯の我儘だからな」
まぁいい。さぁ、終わりにしよう。
大きく息を吸い込み吐き出す。
「ならジェラルド、私はお前に伝えなきゃいけない言葉がある」
伝えられれば全てが終わる事を悟ったジェラルドが息を呑む。
そして何とか終わりを引き延ばそうと何か言おうとする。
「………」
だが結局何も言えずに溜息を吐いた。
「………そうだね。うん、なら僕もジュリアスに言わなきゃいけない事があるんだ」
「そうか。なら私から言わせてもらうぞ?」
「うん、解った」
ジェラルドの声が僅かに震える。泣いているのか。それとも痛みで震えただけなのか?どっちでもいいか。
「ジェラルド、私はお前の事が好きだ」
「僕もジュリアスの事が好きだよ」
答えは解りきっていたがそれでもジェラルドの言葉に涙が溢れる。
さっきはあいつの顔が見たかったと思ったがこの形で良かった。ジェラルドにこんな情けない顔見られたくない。
「そうか」
「うん」
限界だった。
スピーカーのスイッチを切り、泣き声を聞かれる心配のない密室で声を上げて泣く。
良かった。本当に良かった。ありがとう、ジェラルド。好き。大好き。愛してる。
これでもう思い残す事は無い。
泣きながら微笑み耐Gスーツから拳銃を取り出す。そして他の弾と違う紅く塗られた弾のみを残し抜いた後、こめかみに押し当てる。
これでいい。ORCAの情報を、特にクローズプランの第二計画だけは今漏らすわけにはいかない。この特殊弾頭なら私の頭蓋を粉砕し一切の情報を残さずに済む。
「すまんな、皆。最早共に成就は叶わん。………バイバイジェラルド」
全てに別れを告げ引き金を引く
「ジュリアス!!もし君が自らの手で命を断とうとしているなら僕にやらせてほしい!!僕達を誓いを破る卑怯者にしないでくれ!!!」
寸前でジェラルドの叫びを聞き思い留まる。そうだったな。そういえばそういう誓いだったな。
苦笑して外部スピーカーの電源を再度入れる。
「いいのか?自殺を防げなかったならともかく自ら止めを刺してしまっては言い訳は出来んぞ?」
「構わない。僕は君の命を奪う事から逃げるわけにはいかない。それにジュリアス・エメリーを殺していいのは僕だけの筈だ。例え君でもこれだけは悪いが譲れないよ」
「相変わらずそんな生き方だな。じゃあ、お願いするよ」
銃を下ろし目の前のノブリスを見る。
ノブリスが刃を出していないブレードをコックピットに押し付ける。
「この状態でブレードを展開すれば君の身体もコックピットも蒸発して情報が漏れる事は無いよ」
「そうだな。それに一瞬で死ねて痛みも無いな。最期まで迷惑をかけてごめんねジェラルド。さようなら。愛しているよ」
ジェラルドからは見えないだろうが笑顔を浮かべる。最期は泣き顔よりも笑顔で終わりたい。
「僕も愛してるよ、ジュリアス。さようなら」
うん、バイバイジェラルド。
迫る光の中に天使になって空を飛ぶ私達が見えた。
後書き
某所からの移送です。良かったら見てください
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