Written by ケルクク


コメディ期待とは、選択を誤ったな。残念だがシリアスなんだ


「ねぇ、ジュリアス、今日は探検に行こう?」

私のいや、私達の歩む道を決定付けた日はそんな朝食での何気ない一言から始まった。

「探検?どこに行くの?」
「うーん、ここじゃ誰かに聞かれるかもしれない。よし、検査が終わったら秘密基地で話そう」
「分かった。じゃあ、秘密基地で待っててね」

****

二人だけの秘密基地。
といっても、そんな大げさなものじゃない。
ただ、中庭の人が来なくて監視カメラの死角になっている場所を勝手に秘密基地と称しているだけだ。
掃除や整理もされていないので行くだけで二人とも泥だらけになっていたが当時の私達は気にしていなかった。

****

「誰にも後をつけられなかっただろうな?この基地は僕達だけの秘密なんだからもしばれたら絶交だぞ?」
「大丈夫だよ!絶対ばれていないよ!」
絶交という言葉に恐怖しながら、しかし二人だけの秘密という言葉に歓喜を覚えながら答える。
「ならいいや、それよりジュリアス、これを見てよ!」
ジェラルドが胸からカードキーを取り出す。
「うわぁ!SSSのカードだ。どこで拾ったの?」
「ふふふ。検査の帰りに研究員が机の上に忘れていたのをちょっとね」
「え!?泥棒したの!?返さないと怒られるよ?」
「ちっ違うよ!拾ったんだ!それに直ぐ返すよ。ただ、折角拾ったんだから返す前に少しだけ探検しようってだけさ!」
私の指摘に慌てたように口早に告げるジェラルド。
「でも、怒られるのは嫌だよ。ジョシュアさんを怒らせると2段キャンセルの刑にされるよ?」
「大丈夫だよ!ばれないように直ぐ返すから!ほら、行こうよ、ジュリアス」
「でも、」
行こうと催促するジェラルドに渋る私。しばらくそんなやり取りを続けているとついに業を煮やしたのかジェラルドが立ち上がり叫んだ。
「じゃあ!良いよ!僕一人で行くから!けど、そのかわりジュリアスとは二度と遊ばないからね!そうだよ、やっぱりジュリアスは女の子だもんね。
 女の子と男の子が一緒に遊ぶなんておかしいんだ!ジャックやンジャムジ達だったらきっと一緒にいってくれる!ジュリアスは女の子どうしで遊んでなよ!」
そのまま、秘密基地の出口に向かってズンズンと歩いていく。
どんどん小さくなっていく後姿に当時の私は心が黒く塗りつぶされていくのを感じて気がつくと、私はしゃくり上げジェラルドにしがみ付いていた。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ジェラルド!待ってジェラルド。行く!一緒に行くよ!だからごめんなさい。一人にしないで!お願い。これからも遊んで遊んで遊んでよ!
 ゆうこときくから!お願いお願いだよ!ねぇ、待って、待っててば!お願い!お願い!やだやだやだ!こっち向いてよジェラルド!」
ジェラルドの背中で泣きじゃくる私。しばらく、そうして泣いているとジェラルドが振り向き私の頭を撫でた。
「冗談だよ。だから泣かないでジュリアス」
そうして、落ち着かせるように背中を叩いてくれる。私はさらに強くジェラルドに抱きつき、
「ありがとう」と「ごめんなさい」を繰り返すのだった。

別にこんなやり取りは常にというほどではないが当時はそれなりにあった。
喧嘩になってもジェラルドが絶交するといえばその時点で私の負けで終了だ。
この日もそんないつものやり取りだったのだ。
ここまでは。

****

「第三資料室?ここが秘密の場所なの?」
「そうだよ!この前ここにジョシュアが入っていくのを見たんだ!ここにあいつの秘密があるに違いないんだ!」
一時間後、シャワーを浴びた私達は人通りが無くなる時間帯を見計らって古ぼけた扉の前まで来ていた。
何でも無い部屋だ。確かにセキュリティーレベルこそSSSと最高であったがそれ以外はどこにでもある部屋と変わらないように見えた。
当然だ。元はセキュリティーが設定されていない、研究員なら誰でも入れる部屋だったのだから。
「でも、他の薬品部屋やネクスト部屋と比べると普通だよ?秘密の部屋ってもっと豪華なんじゃないかなぁ?」
「馬鹿だなぁ。普通の部屋のほうが皆怪しまないんだよ。だから隠すのに向いてるんじゃないか」

部屋のセキュリティーを高める理由は二つある。
一つは、見られたら不味いものを侵入者から守るため。
そしてもう一つは、見てはいけないものから侵入者を守るため。

「そっかぁ~。ジュラルドは頭いいね」
「きっと、二段QBキャンセルの方法とかがあるんだよ。よし、開いた行こう!」

前者は、機密情報等の流出したら不味い資料を守るために、
後者は、正気では見れない情報から閲覧者を守るために設定される。

「うわ!?暗いな。え~と、明かりはどこだろ。それにしても変な匂いだな」
「あ!あったよ。ジュラルド!これが全部の電源みたいだよ。えい」

そして、遂に私達は白で塗りつぶしていた罪と向き合う事になる。

****

目に飛び込んできたのは赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤溢れる存分に肉体から肢体から死体から溢れ出す赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤つまり血の色動脈から出ると明るく静脈から出ると黒ずんだ血。たっぷりと溢れるように出てくる血は赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤子供から女から少女から少年から幼児から幼女から青年から老人から男から吹き出る血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血の色は赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤く染まる体赤く染まる筋肉赤く染まる乳房赤く染まる眼球お目目を取ったらお顔には丸い穴が二つそこからびゅうびゅう吹き出る血まるで噴水みたい赤く染まる腕赤く染まる足赤く染まる脳灰色の脳にぷすぷすコードをさしてスイッチON。
ジュウジュウ焼けて脳は黒くなりまして同時にお目目からお鼻からお口からお尻からあそこから噴出す真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤な血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血赤と同時に耳には不協和音和音和音和音人体が出す不協和音すなわち悲鳴絶叫懇願絶命哀願愛惜つまり悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴子供が女が少女が少年が幼児が幼女が青年が老人が男がありとあらゆる人間がありとあらゆる方法で悲鳴を上げるもはや言葉になんかなっていないですよ?つまり動物と同じでちゅ人間は動物の一種すなわちモルモットこれ大事喉を掻っ切られて血をぴゅうぴゅう噴出しながらごぼごぼ上がる悲鳴お目目を取られてそれを食べさせられた男の子が上げる悲鳴その後笑い声壊れてしまいました廃棄廃棄赤ちゃんの心臓に変な機械をさしてスイッチON凄い勢いで注がれる血血血血血血血血血血血血薬血血血赤ちゃんは最初泣き次に蛙が潰れたような声を出し最後にボンと爆発しました蛙みたいゲロゲロ悲鳴悲鳴悲鳴助けを求め恨みを絶叫絶叫絶叫絶叫絶叫最後は殺してくれと哀願哀願哀願哀願哀願でもだめ実験が終わるまでは許してあげないのです第三次開頭実験脳の特定箇所に刺激を与える事でAMSが上がる現象が確認されたので個人差がどの程度あるか再度確認です頭を開いてプスプス電極させて薬品注いで見る麻酔は無いほうがAMSが高まるので無しショック死すると困るから覚せい剤を投入絶叫悲鳴脳が真っ黒に血涙流して被験者が泡吹くけど無視モルモットに感情移入する科学者はいません結果は前回とおなじく個人差がありますが有用と結論ただ被験者が5分と持たないから実践投入はやっぱり無理でちゅ上げるには有用なんだけど仕方ないね精神負荷が有用とわかったので子供の実験に母親を立ち会わせる残念母親は舌をかんでしまいました次は舌を切除しておきましょう死体は加工して試験体の餌にBランクの生存実験両手両足を切除してお目目と鼻と舌と耳を切り取った試験体は今日も好成績ならば恒常的に負荷を与えてみましょう空っぽの口が大きく開き声にならない絶叫おお!生存を前提するものには好成績AいやSに匹敵するぞ!あれでも時間がたつと下がっていきますね慣れたからかな?負荷増大さらに大きく開く口噴出す血泡おお!適正が上がったぞ!で、死んでしまいましたね加減が難しいな今後の課題だとりあえず有用なデータが取れたので十体程度試験体を追加しようS003とS004の子供はどうだ?駄目です高くありませんうむむやはり遺伝はしないかならば代えが効かないとなればSランクは大事にしないとなでは次の実験は………繰り返される実験そのたびに出る血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴何より死体子供の女の少女の少年の幼児の幼女の青年の老人の男のありとあらゆる人間の死体詰まれる死体出される死体溢れる死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死

****

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自らの絶叫に驚き起きる。
目に入るのは白い部屋。私と隣で寝ているジェラルド以外は全て白い部屋。
「え?夢?良かった」
あれが夢だった事に安堵する。
いつもは嫌な白だけど今だけはありがたかった。あの赤よりましだ。
隣に寝ているジェラルドに抱きつき空を見る。

空の色は赤かった。

「え?」
同時に顔に暖かい物がかかる。
手で拭って見ると、赤い。
「ジェラルド!?」
慌てて起きてみるとジェラルドの顔は半分はきれいなままだったが、もう半分は目も鼻も耳も全て抉られ真っ赤だった。
「ああぁぁっぁぁぁぁあっぁぁぁ!」
絶叫を上げてジェラルドから離れる。嫌だ!嫌だ!嫌だ!赤は嫌!
だが、いつのまにか白かった部屋は全て染み出た赤に覆われていた。
「嫌あぁぁぁぁっぁ!」
悲鳴を上げてドアに向かう。
真っ赤に染まりヌルヌルと滑るドアノブを廻しドアを開けると、
そこには真っ赤な試験体で溢れていた。

****

「嫌あぁぁぁぁっぁ!」
自らの絶叫に驚き起きる。
「ウッ!」同時に吐き気。我慢しきれず、身を起こし朝食を吐き出す。
口元を覆った手から吐捨物が溢れシーツを汚していく。
胃の中の物を全て吐き出してもまだ吐き気はおさまらない。涙を流しながらさらに胃液を吐き出す。
吐いても吐いても収まらない。当然だ。吐くのをやめたら私はあれを思い出さねばならない。
だから吐かないと吐かないと吐かないと。
でも胃の中の物を全部吐いちゃった。もう吐けない。駄目!吐かないと吐かないと!考えたくない!
吐くのを止めたら、考えたら、思い出したら、理解してしまたら私は壊れちゃう!
だから吐かないと!吐き続けないと!
喉を指の奥に突っ込んで強引に胃液を吐きだす。
苦しくて涙をボロボロ流し名た頑張って吐いていると「何をしている!!」何時の間にか近くに来ていた誰かに手を取られて吐くのを止めさせられる。
「はなして!はかなきゃ!はかなきゃ!」振りほどこうと暴れても私を抑える誰かの力は強くて振りほどけない。
そしてもがいているといると自分の右手が視界に入る。
吐瀉物と胃液に汚れた指の先端は僅かに赤く染まっていた
赤く。
赤く赤く赤く赤赤く赤赤赤く赤赤赤赤
赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤溢れる存分に肉体から肢体から死体から溢れ出す赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤つまり血の色動脈から出ると明るく静脈から出ると黒ずんだ血。たっぷりと溢れるように出てくる血は赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤子供から女から少女から少年から幼児から幼女から青年から老人から男から吹き出る血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血の色は赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤赤く染まる体赤く染まる筋肉赤く染まる乳房赤く染まる眼球お目目を取ったらお顔には丸い穴が二つそこからびゅうびゅう吹き出る血まるで噴水みたい赤く染まる腕赤く染まる足赤く染まる脳灰色の脳にぷすぷすコードをさしてスイッチON。
ジュウジュウ焼けて脳は黒くなりまして同時にお目目からお鼻からお口からお尻からあそこから噴出す真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤な真っ赤な血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血赤と同時に耳には不協和音和音和音和音人体が出す不協和音すなわち悲鳴絶叫懇願絶命哀願愛惜つまり悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴子供が女が少女が少年が幼児が幼女が青年が老人が男がありとあらゆる人間がありとあらゆる方法で悲鳴を上げるもはや言葉になんかなっていないですよ?つまり動物と同じでちゅ人間は動物の一種すなわちモルモットこれ大事喉を掻っ切られて血をぴゅうぴゅう噴出しながらごぼごぼ上がる悲鳴お目目を取られてそれを食べさせられた男の子が上げる悲鳴その後笑い声壊れてしまいました廃棄廃棄赤ちゃんの心臓に変な機械をさしてスイッチON凄い勢いで注がれる血血血血血血血血血血血血薬血血血赤ちゃんは最初泣き次に蛙が潰れたような声を出し最後にボンと爆発しました蛙みたいゲロゲロ悲鳴悲鳴悲鳴助けを求め恨みを絶叫絶叫絶叫絶叫絶叫最後は殺してくれと哀願哀願哀願哀願哀願でもだめ実験が終わるまでは許してあげないのです第三次開頭実験脳の特定箇所に刺激を与える事でAMSが上がる現象が確認されたので個人差がどの程度あるか再度確認です頭を開いてプスプス電極させて薬品注いで見る麻酔は無いほうがAMSが高まるので無しショック死すると困るから覚せい剤を投入絶叫悲鳴脳が真っ黒に血涙流して被験者が泡吹くけど無視モルモットに感情移入する科学者はいません結果は前回とおなじく個人差がありますが有用と結論ただ被験者が5分と持たないから実践投入はやっぱり無理でちゅ上げるには有用なんだけど仕方ないね精神負荷が有用とわかったので子供の実験に母親を立ち会わせる残念母親は舌をかんでしまいました次は舌を切除しておきましょう死体は加工して試験体の餌にBランクの生存実験両手両足を切除してお目目と鼻と舌と耳を切り取った試験体は今日も好成績ならば恒常的に負荷を与えてみましょう空っぽの口が大きく開き声にならない絶叫おお!生存を前提するものには好成績AいやSに匹敵するぞ!あれでも時間がたつと下がっていきますね慣れたからかな?負荷増大さらに大きく開く口噴出す血泡おお!適正が上がったぞ!で、死んでしまいましたね加減が難しいな今後の課題だとりあえず有用なデータが取れたので十体程度試験体を追加しようS003とS004の子供はどうだ?駄目です高くありませんうむむやはり遺伝はしないかならば代えが効かないとなればSランクは大事にしないとなでは次の実験は………繰り返される実験そのたびに出る血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血血悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴悲鳴何より死体子供の女の少女の少年の幼児の幼女の青年の老人の男のありとあらゆる人間の死体詰まれる死体出される死体溢れる死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死体死

****

気が付くとベットに寝て天井を見ていた。
白い。頭がぼーっとする。上手く考えられないや。きっとお薬を打たれたからだね。
右手を持ち上げて見てみる。じーーーー。赤く濡れた指先。きっと吐いている途中に喉を傷つけたんだね。さっきみた赤い映像も思い出す。………ちょっと気持ち悪いけど大丈夫。
「ねぇ、じゅりあす。おきてる?」
ジェラルドの声だ。いつもと違って元気が無い。きっとジェラルドもお薬を打たれたんだ。
「うん。じぇらるど。さっきおへやでみたのおぼえてる?」
「うん。あれなんなんだろう。まっかだったね」
「うん。まっかだった。きもちわるかったね」
「うん。きもちわるかった」
それきりお互い黙る。
もう一度思い出してみる。
うん、真っ赤だ。気持ち悪いな。
嫌だな、今はお薬のおかげで平気だけどお薬が切れた時に思い出したらあたしは壊れちゃうな。どうしよう?
うーん、考えても解らないや。それに上手く考えられないし。どうしよう?
もういいや。めんどくさい。寝よう。おやすみジェラルド。あとバイバイ。
「アレはかつてアスピナで行われていた全実験のきぃろくさぁぁ~。っとぉ、S003今寝たら薬が切れた瞬間にせぇいしぃんほぉぅかぁい確定だからおぉきぃたまぁぇ」
眠りに落ちる寸前、怪しい声に起こされる。煩いなぁ~。
「かつておこなわれていた?」
「そうぉうさぁ~。君達ぃが飼われている間にぃ、下位ランクの子達ぃはぁ、日夜AMS関連の技術向上ぉぉのためぇの人柱になっていぃいたぁのさぁ~」
「アブ!!余計な事を言うな!!」
「余計な事ぉぉ?違うねぇ!何も知らなかったのならぁぁともかくぅ、彼等はぁ知ってしまったのだよぅ?ならばぁ最後まで知るべきさぁ~。自分達が何のために犠牲になって何を犠牲にしてきたのかね」
煩いなぁ~、眠いのに。そんなの知りたくないよ。きっと知ったらあたしはあたしを許せない。どうせ壊れるならあたしはあたしを好きなまま壊れたい。
だから寝よう。眠りにつこう。おやすみジェラルド。あとバイバイ。
「眠らせないよぉぉ~」
腕がちくっとなって眠くなくなる。またお薬打たれちゃった。
「アブ!またそんな劇薬を!!」
「ちゃぁぁんとぉ、調整してあるからだぁいじょぅぶうさぁ~。それに発狂よりましだろぉぅ?そんなことよりぃ!」
怒ったジョシュアに腕を掴まれた怪しい人が昔話の預言者のように両手をあげ告げる。
「眠る前に知りたまえ!自分達が何の為に集められ、何の為に虐げられ、何を犠牲にし、何を齎したのか!!そして決断するがいい!それがまだ生きている君達の権利であり義務だ!」
「アブ!」
「そして話すのは君だよジョシュア!さぁ!懺悔したまえ!君の犯した過ちを!さぁ!誇りたまえ!君が齎した救いを!この子達の生と死に意味を与えてあげるといい!」
嫌だ!聞きたくない!あたしは何も知りたくない!あたしが食べていたモノが何で、廊下ですれ違った試験体がどうなったかなんて、あたしが空を見ていた時に何が行われていたのかなんて知りたくない!
「きかせてください。あのえいぞうがなんなのか。ぼくたちがなんのためにぎせいになったのか。ぼくたちがだれをぎせいにしていきのびたのか。そしてぼくたちのぎせいがなにをうんだのか」
なのにジェラルドは教えってって言う。ううん、こんなのジェラルドじゃない!だってこれはジェラルドの声だけどジェラルドはこんな風に喋らないもん!誰?ジェラルドは何処に行ったの?助けて!ジェラルド!
もう嫌だ!帰りたい。白いお部屋にあたしを帰して。もう出たいなんて我儘言わない。お薬も飲む。あたしは空を見ているだけでいい。だからお願い。いますぐここからあたしを出して!
なのにあたしはここから出たいのに、聞きたくないと耳を塞ぎたいのにあたしの身体は動かない。何も出来ないお人形。まるで死体みたい。
「解った。全て話そう。私の過ちと罪。その全てを」
やめて!

****

むかしむかし、あるところにアスピナというむらがありました。
アスピナはとてもびんぼうで、みんなおなかがすいたすいたとないていました。

そんなアスピナにあるひ、ひとりのわかものがたからもののつくりかたがかかれたまきものをもってあらわれました。
アスピノのみんなはたからものをつくってうることにしました。
そうすればおなかいっぱいたべられます。

でも、たからものはなかなかできあがりません。
なにかがたりないのです。
みんながどうしてだろう?どうしてだろう?となやんでいると、
まきものをもってきたわかもののおよめさんになったむらいちばんのびじんがいいました。
「たりないものがわかりました。あなた、いままでありがとうございました」
およめさんはわかものにおれいをいって、たからものをつくっているひのなかにとびこみました。
およめさんがひにつつまれるとひがきんいろにひかり、たからものができました。

そしてたからものをうってアスピナはおかねもちになりました。
そのおかねでおよめさんのりっぱなおはかをつくり、あまったおかねでごはんをたくさんかいました。
もうおなかがすくことはありません。おなかいっぱいたべられてみんなにこにこわらっていました。

めでたし。めでたし。

****

そう『めでたし。めでたし。』なのだ。
例え『たからもの』を作る為に一万人の『およめさん』が『ひにとびこむ』事になろうともアスピナの全住人一億の前には僅か0.01%に過ぎない。
例えその一万が地獄以下の苦痛に満ちた死を迎えようともそれで他のアスピナの人々が幸福になるのなら必要な犠牲なのだ。
そして二人を人道的に殺す事で得られる成果と一人を非人道徳的に殺し尽す事で得られる成果が同じならば後者を選ぶべきだ。犠牲者は徹底的に少なくしなければならない。
だから犠牲にすると決めたのならば妙な慈悲など持たずに徹底的に実験し尽くそう。過程がどうであれ最後には死ぬのだから。
そして犠牲にした者たちは犠牲にされた者たちの分まで幸せを満喫しよう。悼んで悲しみにくれても死者は蘇らないのだから。
かくしてアスピナは少数の試験体に非人道徳的な実験を行い、それによって得られたAMS技術を売却する事で空前の繁栄を迎える。

めでたし。めでたし。

****

「ジョシュアの話を補足するとその効率性はここにも適用されてねぇ。君ぃたち高ランクは死なないように壊れない様に安全にぃ。下位ランクは使い捨てられたのさぁ~。
 いぃっておくがアスピナは公正だよ?企業のように一部の経営者が富を独占する事なく住人にわけているし、地位、年齢、性別にかぁんけいなぁく、一定以上の適性を持つ者はみぃんな試験体さぁ~。
 その証拠に評議会の一族や最大の功労者ですら試験体になっているからねぇ。嘘だと思うならあとで見に行くかぁい?確か殆どはぁいきぃされちゃったけど確かB001が、っと彼女はジョシュアが直接廃棄しちゃったぁねぇ。
 そうだぁ!ジョシュアが傭兵として研究で得られる以上の利益を齎している間はぁ、試験体にたぁいするぅ非人道徳的なじぃっけんをやぁめぇるぅのにぃ同意した事は証拠になるだろぉう?
 まぁ、君達ぃが知らないのも無理は無いねぇ~。立候補いがぁいは扱いやすぅい子供しかあつめぇてぇなぁいしぃ、とくにぃせつめいもぉしてないからねぇ~」
あ~あ、知りたくなかったのに知っちゃった。嫌だな。あたし達にどうしろというのだろう?
あたしが生きる為に沢山のあたしが実験で壊されて、それを知らないあたしはあたしでつくられたご飯を食べていた。
あたし達は生き為にたくさんのあたし達を犠牲にしていて、でもそんなあたしたち全ては他の皆が生きる為の必要な犠牲。
皆の為にあたし達は我慢して殺されていたからあたしもあたしの番になったら同じように苦しみながら死ななきゃいけない。あたしだけが生きたいっていうのは我儘。
だから今の幸福は唯の夢。ジョシュアが負けたら覚める泡沫。地獄に垂らされた蜘蛛の糸。
「ひどい。なんであたしたちをたすけたの?
 なにもしらなかったらあたしはあきらめてしねたのに。
 なにもしらなかったらあたしのかわりにころされたあたしのことをしらないですんだのに。
 なにもしらなかったらあたしをころすやつらをうらんでしねたのに。
 なにもしらなかったらあたしはしにたくないってねがえたのに。
 なにもしらなかったらあたしはこのしあわせがずっとつづくとおもえたのに。
 ひどいよ。ひどい」
「すまない。全ては私のエゴだ。私のせいで傷つくお前達を救いたかった」
「すくってないよ」
「そうだな」
ジョシュアが顔を伏せる。
「そうだって………もういいよ。めんどくさい。もともとおくすりのせいでそんなにおこってないしかなしくないからどうでもいいよ」
「すまない」
謝るジョシュアを無視して瞼を閉じる。もう何もかも嫌だ。眠りたい。でも怪しい人に打たれたお薬のせいで眠れない。
「話は纏まったかぁね?」
黙り込む私達の真中で怪しい人が大声を上げる。
「わぁたしぃが君達に示せる道は二つだけだぁ!
 ひぃとぉつはぁ!このままこのカードキーをつかい部屋を出ていき昨日までと同じ毎日を送る事。
 もうひぃとぉつはぁ!これで人生を終わらせえる事さぁ~」
怪しい人が懐からカードキーと注射器を取り出し机の上におく。
「これはキサラギドキシン………成分を言ってもわぁかぁらぁなぁいだろうから効果だけを言うと、打つと眠りに就いた後に心停止する安楽死用のお薬ぃさぁ!らぁくに死ねるよ。さぁ、どぉっちを選ぶ?」
そんなの決まってるよ。ベットから立ち上がって注射器を取り静脈に刺そうとした所でジェラルドに止められる。
「ジェラルド?」
「安心して。僕が君を守るから」
ジェラルドは私に微笑み手の甲にキスをすると怪しい人を睨みつける。
「どちらも選ばないし選ばせません。
 ジュリアスに何時終わるかと怯えさせながら生活させるわけにはいけませんし、死を選ばせる気もありません。
 そんな事をしたら今まで僕達を生かす為に死んでいった者達が無駄になります。
 だからどちらも選ばないし、選ばせません」
「ふむぅ、でぇはぁ、どうするんだねぇ?」
「僕はあなたになります。ジョシュア・オブライエン。
 僕もリンクスになる。そうすれば貴方が死んでも夢は終わらない。
 だから安心してジュリアス。君達は僕が守るよ!」
最後だけ私の方を見て微笑みながら安心させるように宣言する。
「馬鹿な事を言うな!!ネクストに乗る事がどれほど危険な事か解っているのか!?命のやり取りをするんだぞ!」
「ここにいれば何時かは実験の果てに命を奪われます。ならやり取りできるだけむしろ危険は少ないですよ。
 何より僕には力があります。僕の代わりに死んでいった者達のおかげで得る事が出来た力が。
 ならば僕はその力を力無き者の為に振るいたい」
「だが!」
「いやいやいや、まぁちたまえジョシュア。S005の発言は理にかなっているよ。
 傭兵がコロニーのビジネスになる事は君や君の元彼の恋人が証明してるしぃ、最初に頃に比べてぇ、AMS技術も円熟しぃてぇ利益を上げるのぉがむぅずぅかぁしぃくなってきたからねぇ~。
 だとすれば、ここら辺で蓄積しぃたAMS技術を元にリンクスを養成して販売ぃするのもわぁるくなぁいんじゃんぁいかなぁ~。
 さぁいわいSランクならAMS適性も高いから即戦力だぁしぃ、技術でなく人をぉ商品にするならつぅかぁい潰すわけにぃもいかなくなるしねぇ~。
 そうだぁ!どうせならオリジナァルパーァァツも作りたいなぁ~。ちょぉぉっと本気で提案してみようかぁ」
「アブ!いい加減にしろ!自分の欲望を満たす為にこの子達を巻き込むな!!これ以上アスピナの為にこの子達が犠牲になる必要がどこにある!!
 そもそも適性だけ高くても戦場で通用するものか!!適性が一定以上ならあとは経験と操縦技術で決まる!!それが無い者は直ぐに淘汰される!!
 だからこそローディや彼といった粗製と呼ばれる者達が戦場で大きな戦果を上げているのだろう!!」
怒鳴るジョシュアに怖くなって震える私をジェラルドがギュッとしてくれる。
その暖かさに安心するけど「大丈夫だよ」とすぐ近くで囁かれた声が凄く遠くで言われた気がしてジェラルドに強く抱きつく。
「なぁら君が教えたまえ最強の傭兵。S005が戦えるようにS005が死なぬように君の技術を教えたまえ。
 そぉもそぉも、傭兵云々をきぃみが責める資格は無いと思うけどねぇ。何の因果も無い試験体を守る為に命を賭けて傭兵をしている君ぃが仲間をまぁもるぅ為に傭兵にぃなろうとするS005をどうしてぇ、止められるんだぁい?」
「それは、だが!」
「反論が無いならこぉのはぁなしは終わりだ。S005私達はきぃみがリンクスになぁるのをぉ全力で支援しようじゃないかぁ~」
「ありがとうございます」
「結局はそれが皆を守る事になるのか。仕方あるまい。だがやるからには徹底的に鍛えさせてもらうぞ。無理だと思ったら直ぐに言え」
「大丈夫です!僕の為に犠牲になった者達がいます。僕の後ろには護るべき仲間がいます。だから平気です。よろしくお願いします」
ジェラルドが私を抱くのを止めて起ちあがり二人にお辞儀をした後カードキーを取り私に手渡す。
「大丈夫。君達は僕が守る。だから安心して。その、これからは今までみたいに遊べなくなるから元気でね」
ジェラルドが座り込む私を立たせ笑いかける。
一体何が起こっているんだろう?一体皆は何の話をしているんだろう?ジェラルドはなにをいっているの?リンクス?傭兵?なにそれ?わかんない。お薬のせい?違う。解りたくないんだ。
「お~いお~い、S003をこのまま帰すわけにはいかないよ。精神的ショックが大きいようでねぇ~。このままだとぉ壊れちゃぁうから少々ケェアしないとねぇ~。なぁ~に、少々頭の中を弄ればばっちりさぁ~。
 それとジョシュア。悪いがぁS005を鍛えて上げてくれたまぁえ。提案するにしても成功例があぁるほうがぁ説得力があるからねぇ~。
 私はそのあいだぁにS003の修理と根回しをしておこぉぅ」
「ジュリアスに何を!」「安心しろ。ワザと露悪的な言い方をしているだけだ。腕は確かだ。行くぞ」「解りました。信じます。じゃあね、ジュリアス」
ジェラルドが部屋から出ていく。ジェラルドが行っちゃう。背を向けたジェラルドの姿が何時かの言葉を思い出させる。

『僕はいつか天使になる。天使になってあの空を飛んでいく』

駄目!今は慣れたらもう二度とジェラルドに会えない!
咄嗟にジェラルドの腕を掴む。ジェラルドが困った顔をする。
「大丈夫だよジュリアス。そんな顔をしないでこの手を離して」
首を振る。駄目。離しちゃ駄目。でも、どうしたらいいんだろう?
「安心していいジュリアス。ジェラルドは死なせん」
ジョシュアに優しく頭を撫でられる。でも駄目。絶対に離しちゃ駄目。離すとジェラルドはきっと天使になって飛んで行っちゃう。私は飛べないからジェラルドと一緒にはいけない。

本当に?本当に私は飛べないの? 

でもどうしたらいいんだろう?
お薬のせいで上手く考えられない。駄目。早く何か考えないと。でも焦れば焦るほど何も思いつかない。悔しくって涙が出て来る。

『ああ、僕はいつか天使になる。天使になってあの空を飛んでいく』
『そうだね。きっとなれるよ。もしなれたら私を抱いて飛んでね』
この後ジェラルドは何て言った?

ジェラルドの腕に泣きながらしがみ付く私と何とか宥めようとするジョシュアとジェラルド。
そんな奇妙な膠着状態を破ったのは怪しい人の一言だった。

さぁ思い出そう。私達の最初の約束を。
『      天使   ん     二    空      飛んで  う!』
『 も 使    るか      いいな』

「そんなにS005と一緒にいたいなら君もリンクスになるかね?S003」

『違うよ!君も天使になるんだ!僕たち二人であの空をどこまでも飛んで行こう!』
『私も天使に?なれるかな?なれたらいいな』
そっか。もう私はずっと前にジェラルドと一緒になるって決めていたんだ。

「なる!あたしもりんくすになる!!」
「ジュリアス!何を言っているんだ!もしそんな事をしたら絶交だぞ!!」
ジェラルドが怒鳴りつける。絶交。普段のあたしなら直ぐに泣いてジェラルドの言う事を聞く所だけど、お薬と何よりジェラルドと別れたくない一心で首を振る。
「いいよ。ぜっこうで。でもあたしはジェラルドといっしょ。だってやくそくしたもん」
「ジュリアス!!」
顔を背けたあたしにジェラルドが手を振り上げる。体が竦むがジェラルドをじっと見る。ジェラルドの振り上げた手が震える。
「そぉこぉまぁでぇにぃしておいたらどうだぁい?S003は本気だよ?それにぃ彼女は君のいぅ力の持ち主なんだ。ならリンクスになぁるぅ資格はあるぅんじゃないかぁい?」
「そうだな。やめておけ。だが、いいのか?」
ジョシュアがジェラルドの手を取って下ろしながら怪しい人に尋ねる。
「むぅしろぉ望む所さぁ!一人よりふぅたりぃの方が説得力はまぁすからねぇ。むぅしろ君の方は平気かい?」
「こちらも一人教えるのも二人教えるのもかわらん」
「なぁら!話は纏まったねぇ!S005もいいかぁい?」
「好きにすればいいじゃないですか!どうせジュリアスは直ぐに辞めちゃうに決まってる!」
拗ねたようにそっぽを向いたジェラルドが怒鳴る。
「やめないもん。でもぜっこうじゃないの?」
「ふん、特別に許してあげるよ」
「ありがとうジェラルド!!だいすき!」
私はジェラルドに抱きつき、最初は怒っていたジェラルドも最後は頭を撫でてくれるのだった。


訓練は苛烈を極めた。最初は私達に諦めさせるために。私達の意思が本物と理解した後は、私達を死なせない為に。
しかも開始してしばらくは私は血に限らず赤い色を見るとあの部屋の記憶をフラッシュバックしてしまい錯乱状態に陥ってしまうためさらに苦労した。
薬を飲めば一時的におさまるのだが劇薬の上、飲むと思考力の低下と情動が平坦になる事にくわえさらに幼児退行まで引き起こす為必要最小限の摂取にせざるをえず、ジェラルドは錯乱しがちな私の面倒まで見る事になった。

それも収まり厳しい訓練にも慣れてきた頃私達のAMS適性は大幅に上がっていた。
「罪悪感と守るべぇきぃ者の存在がぁ適度な負荷となった結果高くなったんだぁろうねぇ~。ジョシュアとぉ同じさぁ~」と怪しい人改めアブ・マーシュは分析した。
私達が予想以上の好成績を出した事と企業間の対立が激化した事に伴いリンクスの価値が跳ね上がった事により、
アスピナの主産業がAMS技術からリンクスの養成に正式に移行する事が決まり、商品となった私達試験体はもはや実験動物として使い捨てられる事は無くなった。
その報せを聞いた時ジェラルドは非常に喜び、自らの商品価値を高めるべくさらに修練を積むようになった。
ジェラルドはこの日常に疑問を感じてはいないようだ。
自らの価値が上がる事は他の試験体を守る事になり。犠牲になった試験体が無駄死にではない事の証にもなると考えているのだから当然だろう。
だが、私は前者については是非も無いが後者については大きな疑問を感じていた。

何故私達試験体だけが犠牲にならなければならないのだろう?

ジェラルドに聞いたら多数の為に少数が犠牲になるのは当然で、だからこそ生き残った者は犠牲者の分まで気高く生きねばならないと答えられた。
確かに理屈ではそうだ。結局皆の為に『誰か』の犠牲が必要で、その『誰か』がたまたま私達であったというだけなのだろう。
だとしても私は割り切れない。
本当に私達を犠牲にするしか方法はなかったのか?そうだとしたら私達に犠牲を強いるこの世界は間違っているのではないだろうか?
まだジェラルドに嫌われるのが怖くて口には出さなかったけれども、私は確かにジェラルドの考えを否定していたのだ。

そしてこの意見の相違が永遠に一緒だと信じていた私達の道を決定的に別つ事になる。


私は胸に巣食う疑問に答えを見つける為書物を紐解き、ライブラリーを漁り、思索に沈む。

****

国家時代、人類は瀕死の状態だった。
戦争が相次ぎ労働者たる中年層は死に絶え大量の難民と戦傷者が埋まれインフラは破壊され経済は破綻し大量の無職者が街に溢れた。
誰もがこのままでは人類は終わると悟っていた。
だが国家は何も出来なかった。
何故なら人類が再生するにはもはやただちに戦争を止め、経済を阻害する要員を切り捨てるしか方法は無かったからだ。
だが国家は無意味な威信の為に戦争を止めることは出来ず、人道という建前があるが故に難民に対する援助を止める事が出来ず、
それが選挙権を持つ国民であるが故に経済を阻害する無職者や老人や戦傷者への支援を止める事が出来なかった。

そんな国家に遂に見切りをつけた企業により国家解体戦争が引き起こされる。
既に瀕死の状態だった国家はネクストの圧倒的な戦闘力により止めを刺され、企業が新たなる人類の導き手となる。
そして勝利者たる企業は経済の発展を妨げる要因たる戦傷者や老人等の社会的弱者のみならず、難民や無職者等企業にとって有益な技能を持たない者まで含めた排除を行う。
その結果一か月の戦争でそれなりに数を減らしていたとはいえそれでも百億を超えた人類はその後半年で僅か三十億程度にまで数を減らす。
だが不要物を切り捨てた事で息を吹き返した人理は、経済という新たなる下に歪な形とはいえかつての繁栄を取り戻す。

かくして、パックス・エコノミカ、経済による平和は訪れたのだ。
百億の骸と引き換えに。

****

幾ら調べても、幾ら考えても満足のいく答えは見つからなかった。
当然だ。この世界は正しいのだから。
多数の為の少数の犠牲を認めないのは確かに美しい。弱者を助けるのは美談であろう。力や知恵の有無に関係なく生きる権利を認めるのは理想だ。
だがそれを実践した国家は多数の弱者と愚者に食い潰され人類全体が瀕死の状態に陥った。
それに対して企業は経済という無慈悲で絶対的な神の名の下に弱者を切り捨てるという最も効率的な方法で人類を再生させた。
現に日々の糧を得る為だけに働くコロニーの住民も国家時代の先進国の中産階級以上の生活レベルであり、人類の死因から餓死という項目は無くなったといっても過言ではない。
つまり多数の為に少数を犠牲にする事は正しいのだ。少数が生き続ける事で得られる利益より少数が死ぬ事で得られる利益が上回るのならば少数は犠牲になるべきなのだ。
だから一万と一人が餓えるのを一人の犠牲で防げるのならば一人は死ぬべきなのだ。ましてそれで一万人の繁栄が約束されるのなら尚更だ。
それが国家時代ならともかく今のパックス・エコノミカでは正義であり、私もそれが論理的に正しいと理解できる。
正しいという事はわかる。
だがその正しさの為に私達は毒薬を飲まされ半日にも渡り苦しみ抜いた果てに死に、頭蓋骨に穴を開けられ直接脳に電流を流され体を内側より焼かれ殺され、
目と耳と鼻と舌を抉られ死ぬ事すら許されずただ苦痛だけを与え続けられる生を強制されたのだ!
故に問う。その正しさは本当に正しいのか?それを正しいとし私達に犠牲を強いる社会は本当に正しいのか?私達が生きたいと願うのは間違っているのか?
いや正しくてもいい。誤りだとしても構わない。
だが何故私達なのだ?何故私達が犠牲にならなければならない?何故私達だけが苦しめられ虐殺されて他人が幸せになるのだ?何故私達が他人の為に犠牲にならなければならない?
望む答えは出ない。出るはずもない。
だから知れば知るほど私は絶望を深め、それを振り払うため私はさらに調べ思考する。
その全てが徒労に終わり絶望が諦観に替わる寸前、二人の男が現れた。

この二人の出会いが私の進むべき道を決定づける事になる。


ローゼンタールが急遽ジェラルドとの面談を希望したとの事で今日の訓練が中止になった私は一人のときの常で図書室に籠っていた。

「ふん、そんな物をいくら読んだ所でお前の求める答えは書いていないぞ、S003」
何時ものように本と電子書籍に埋もれていた私にの前に何時の間にかいた二人の男のうち一人が声をかけて来る。
視線を上げる。若いな。私より少し上くらいか。見ない顔だし見学に来ている企業の連中か。そういえばローゼンの連中が見学に来ていたな。
「このフロアーは関係者以外立ち入り禁止ですよ。ジェラルドがいるのは隣のフロアーです。迷われたのならば案内の者をお呼びしましょうか?」
尊大な物言いに企業のお偉方の息子辺りだろうと見当をつけ外向けの笑顔で応対する。
「残念だが私達の目的はS005ではなくお前だS003。もう一度言うぞ。そんな物を幾ら読んだところで貴様の求める答えは得られん」
「残念ながら今はプライベートなため面談には応じられません。アスピナに許可」
「お前達に犠牲を強いるこの正解は間違っている」
尊大な男が私の求める答えを告げる。
絶句する私を見て尊大な男が笑う。
「正直だな。これがお前の求めていた物だろう。教えてやろう!老人達に隠された真実を!」
「待て、オッツダルヴァ。すまないジュリアスさん。内密に話を出来る所はあるだろうか?」
今まで黙っていた男が尊大な男――オッツダルヴァというのだろうか?――を制する。
「………私の部屋ならば盗聴等の心配はありません」
「なら詳しい話はそこで話したいのですが」
「解りました。ついてきて下さい」

****

ジェラルド以外の人を入れた事のない部屋に二人を招きいれる。
二人を椅子に座らせ紅茶を出し、私は椅子が二人分しかない為ベットに腰掛ける。
「では話していただけますか、その」
「そういえば名乗っていませんでしたね。私はスティンガー。こちらの毒舌馬鹿はオッツダルヴァといいます。それと話しやすい言葉で結構ですよ」
「すまない。そちらも敬語でなくて構わん。それと私の事はナンバーではなくジュリアスと呼んでくれ」
「了解した、ジュリアス。それでは先程オッツダルヴァが言った事をもう一度聞こうか。お前はこの世界は正しいと思うか」
「ああ。企業によって人類は再生し国家時代より遥かに豊かになった」
先程は動揺してしまったがこいつ等の真意も正体も解らないので慎重に言葉を紡ぐ。
それに嘘は言っていない。私も頭ではパックス・エコノミカが正しいと理解している。
「そうだな。企業によって地球が養いきれぬ百億以上を数えた人口は三十億という適性値に修正され、さらに適切な規模の紛争を適宜起し放って置くと増えてしまう所を随時間引いている。
 そして適度な戦闘は経済の活性化を生み、また人道に囚われず効率的に経済性を追い求める社会は最小の犠牲で最大の効果を生み人類は豊かになった。
 試験体を犠牲にする事で繁栄を続けるアスピナのようにな」
「………そうだ。論理的に考えてパックス・エコノミカは現在の人類が取り得る中で最良の体制だ」
ただ納得は出来ないがな。
スティンガーは私の顔を一瞥すると僅かに頷き言葉を発する。
「そうだ。パックス・エコノミカは最高とはいわないが人類が取り得る社会体制おしては最善の方法だろう。
 だが、パックス・エコノミカという道具が正しくともその使い手が使用方法を意図的に誤れば意味が無い」
「………どういう意味だ?」
「ふん、簡単な事だ。一部の企業はパックス・エコノミカというシステムをあくまで人類が地球のみを生活圏にする事を前提に用いているのだ。
 なぜ宇宙という無限のフロンティアに進出しない?何故宇宙に生活圏を広げない?
 そうすれば戦争などといった手段を用いて消費を創造する事も人類を間引く必要も無くなり、限られたパイを奪い合う事も無くなるんだぞ?」
話に割り込んだオッツダルヴァが熱に浮かされたように語る。その勢いに呑まれぬように反論する。
「宇宙を開拓する手段が無いのではないか?」
「何を言っている屑が。いいか、既に国家時代に権益争いと資金不足と反乱によって失敗したとはいえ火星への移住が行われていたし、月や軌道上にもコロニーの建設が行われていたのだ!!
 にもかかわらず、何故当時より技術が進んだ今行わない!何故当時より資本があるそれを行わない!何故人類の繁栄に対して最も効率的な手段が行われない!!
 答えは唯一つだ!一部の企業が自らの過ちたるアサルト・セルの存在を隠蔽せんがためにパックス・エコノミカの理念を捻じ曲げているからだ!!」
「落ち着け理想馬鹿。いきなり核心を話されてもジュリアスも何が何だかわからんだろう。そもそもセルの事は極秘事項だ」
息を荒くするオッツダルヴァをスティンガーが苦笑しながら制する。
「ふん、少々熱くなり過ぎたようだな」
「その言い方ではアサルト・セルが何なのかは話してくれる気はないのだな。聞いた感じではそれが宇宙に人類が進出するのを阻んでいるようだが」
「いや、阻んでいるのはあくまでGAやローゼンタール等の一部の企業だ。っと、私も口が滑ったな。悪いがこれ以上は同志以外には言えん。
 それと、もしセルの事を調べるのなら慎重に行え。下手をすると消されるぞ。
 さて、話がずれたが本題に入るか。もし人類が宇宙というフロンティアを得ていた場合アスピナの試験体の犠牲は無かった」
「何だと!?どういう意味だ!!」
アサルト・セルの事等一瞬にして消え去る。それがスティンガーの狙いだと解っていても熱くなりベットから立ち上がりスティンガーに詰め寄る。
「何故なら試験体を生む原因たるアスピナの貧困その物が存在しないからだ。宇宙というフロンティアが存在する場合アスピナを含めた全てのコロニーの生活水準は平均して現在の二倍程度、特に貧困層では五倍以上の水準になるはずだ。
 なぜなら限られたパイの奪い合いである地球のみの経済圏ではある分野に秀でていないと利益は上げにくいが、経済圏が拡大していけばその過程で資源の発掘や製造作業や物資の運搬等の単純作業を行う労働者の需要は増大し続ける。
 最盛期には本体機械化されるべき単純作業もその機械の製造が追いつかなくなり人力で行われるようになるだろうから、それこそ最後は人間であるというだけで働き口が見つかるようになる。
 そうすればコロニーとして平均的な人口を持つアスピナは労働力の提供だけで十分潤う事になる。
 まぁ、AMS技術の研究その物は先進技術ゆえ行われたのだろうが、実験の被験者に人的資源を浪費するよりは労働力として提供した方が遥かに経済的なのだから犠牲者は殆ど出まい」
「ふん。それは貴様等だけでなく戦後に屠殺された百億の人間にも当てはまる。宇宙というフロンティアが手にはいるのならそもそも百億の人間を殺す必要は無い。
 なにせ宇宙開拓事業に人では幾らあっても足りないのだからな。つまり一部の人間の惰弱な発想が人類の過半を壊死させたのだ!!」
熱病のように言葉を紡ぐオッツダルヴァを無視して二人の発言を考える。
こいつ等の言う事は正しい。一万一人が繁栄できるのならばわざわざ一人を殺す必要はない。
だからこの社会は間違っていた。そしてこの社会を変える方法がある。なら真に死者に報いるべき道は、私が歩むべき道は一つしかない!!
「話を聞いていないだと!?馬鹿な、この私が空気だと言うか!認めん、認められるか、こんな事!」
意を決し顔を上げる。
「私をお前達の」
「落ち着け、ジュリアス。一時の激情で物事を判断するな。まずは私達の裏を取れ。そしてその上で良く考えるといい」
スティンガーが私を制し立ち上る。
「そうだな。その上で覚悟を決めたらレイレナードの門を叩くといい。そろそろ行くぞ。ちんたらやっていると怪しまれる」
「ああ。ではジュリアス、出来れば君と共に人類が黄金の時代を迎える手伝いを行いたい」
そして二人は決意を透かされ呆然とする私をよそに部屋から出て行ったのだった。

****

その後私は奴等が言った事が本当かどうか確かめた。
その結果、アサルト・セルの事だけは調べられなかったが、それでもかつて人類は火星にまで進出し今も宇宙に進出できる十分な技術がある事を確認し、
国家解体戦争後に宇宙に進出していた場合をシミュレートした結果が奴等のいう通りになる事も確認できた。
だから私はレイレナードに志願する事を決めた。

折しも丁度その頃ジェラルドもローゼンタールの精鋭主義と何よりレオハルトの人格と思想に惚れ込みローゼンタールに決めた。
当然ジェラルドは私もローゼンタールに来るよう誘ったが断った。理由を尋ねるジェラルドにまさか何処の誰とも解らない怪しい二人組に説得されたから等とは言えず、
結局アスピナの方針である両陣営にリンクスを提供しどちらが勝ってもアスピナの立場を守る事を理由にせざるをえなかった。

それは私が生涯でただ一つだけジェラルドに吐いた嘘だ。


私達二人の希望は通りジェラルドがローゼンタールに、私がレイレナードに出荷されることが決まった。

私達が出荷される前夜、特に準備等を行う必要も無く、別れを告げるべき相手もお互い以外にはジョシュアぐらいしかおらずそのジョシュアもミッションで出ていたため、私達はアスピナで過ごす最後の夜を何時ものように私の部屋で迎えていた。
私が入れた紅茶を飲みジェラルドが焼いたクッキーを摘みながらのお喋り。幾度と無く繰り返した他愛の無い、でも掛け替えの無い大切な二人だけの時間。
でもそれお今日で終わり。だから私はある決意をし、この夜を迎えていた。
「君の淹れてくれた紅茶を飲むのは今日で最後かぁ~。レオハルトさんは向こうの紅茶も美味しいって言ってたけどきっと、君が入れたのには及ばないんだろうなぁ~」
ジェラルドが紅茶を啜りながらしみじみと呟く。駄目だ!緊張で顔がまともに見れない。落ち着こうとクッキーを口に放り込む。
「ジェラルドのクッキーもな、なに素人の私より上手く淹れる奴は沢山いるさ」
落ち着け私!!!この時の為に参考文献を読み漁り、計画を練り上げ、シュミレーションを繰り返したんだろう!!計画を思い出せ!!
「他の人がどんなに美味しく紅茶をいれても駄目だよ。僕にとって君が淹れてくれた紅茶が一番さ」
「そうか。なら金を取って置けばよかったな。次からはそうしよう」
駄目だ!!緊張で頭の中真っ白で何も思い出せないし、ジェラルドが何を言っているのかもわからない!!殆ど反射で答えているが私はちゃんと答えられているのか?
外していた視線をジェラルドに戻す。ジェラルドは何故か神妙な顔をしていた。普段あまり見せない表情に顔が熱く、動悸が激しくなり直ぐに視線を外す。
「次か。うん、そうだね。次に会ったら絶対に払うよ。僕の我儘で君に迷惑を掛けた分も含めてね」
くそ!冷静になれ私!!今日を逃せばもしかしたら二度とチャンスは無いかもしれないんだぞ!!計画を忘れたというなら何でもいいから思い出せ!!
「何だ、まだ気にしていたのか。何度も言うが私は何処でもよかったんだ。なら少しでもアスピナの為になった方がいい。
 それに私がレイレナードにいけば私達が勝った時にジェラルドを助けられる。逆もまた然りだ。
 それともジェラルドは私を助けないつもりなのか?」
「そんな事無い!前にも言ったろう!君は僕が守る」
「なら問題ないさ。だろ?」
「そうだね」
「ああ」
それきり会話が途絶え、二人の間に紅茶を啜る音とクッキーを噛み砕く音だけが満ちる。
そんな沈黙の中ようやく参考文献の一つのシーンを思い出す。
うん、今とシチュエーションは大体同じだな。よし!もうこれを実行しよう!!
椅子から立ち上がり無言で着ている服を脱ぎ捨て全裸になる。
よし!!次はジェラルドが突然全裸になった私に慌てて理由を問いだすのでそこで微笑むと。さぁ!ジェラルド慌てるがいい!!
「お風呂かい?ジュリアス。確かに丁度食べ終わったしシャワーでも浴びようか?でも、前から言っているけど服を脱ぎ捨てるのは行儀が悪いよ」
………あれ?ちっとも慌ててないぞ?
ジェラルドは落ち着いて私が脱ぎ捨てた服を拾い一枚一枚折り畳んでいる。あれ?何で?
あ!そうか。良く考えたら子供の頃から一緒だったんだし、訓練後やお茶の後は大体一緒にシャワーを浴びているから今さら慌てるわけ無いんだ。
どうしよう?いきなり参考文献から外れてしまった。えーい!賽は投げられたんだ!このまま強行しよう!!
「ほらジュリアス。何時までもそんな格好だと風邪をひくよ!僕が片付けてるから君は先にって、ガ!?」
服を畳み終えカップを片付け始めたジェラルドの頭を掴み強引にキスをする。
力の加減が解らず勢いをつけすぎた為参考文献に書いてあった様な唇と唇が触れあう様な形ではなく、互いの歯が激突する様な激しい物になる。
………涙が出る程痛い。何というか、紅茶かクッキーの味がすると予想したのだが鉄錆の、要は血の味がする。唇と歯茎を傷付けた様だ。
ファーストキスは血の味。なんというかロマンが無い。そして目の前には口を抑えて悶絶するジェラルド。
どうしよう?参考文献とは全く異なってしまった。予定ではこの後ジェラルドが何で?と尋ねてくる筈なんだが。
「ヒュリアフ!?いっふぁいはひほ?」
おお!!聞いてくれた!!よし!ならここでにっこり笑って貴方が好きだからと告白だ!!!
ジェラルドに笑いかける。
「それはジェラルドが、ジェラルドを、すっすっすっす」
駄目だ!!言えない!!シュミレーションではあんなに簡単に言えたのに!!でも駄目だ!!いざ、ジェラルドを前にすると何も言えない!
そうか。私は断られるのが怖いんだ。断られるくらいならこのまま家族のままでいいと思ってるんだ!!くそ!なんて情けない!!
情けなくて泣きそうになるのを俯いて堪えているとジェラルドが私を抱き寄せて頭を撫でてくれる。
「緊張しているんだねジュリアス。大丈夫。君なら新しい場所でも上手くやれるさ。
 もしレイレナードが負ける事があっても大丈夫。僕が君を守るよ。だから安心して」
ジェラルドの言葉に涙が出てくる。この温もりが得られるのなら家族でも良いかもしれない。
「そうだ!本当は明日の朝、別れる寸前に渡そうと思ってたんだけど、はい」
そういってジェラルドが懐から封筒を取り出し私に渡す。
何かと思い開けてみると、出てきたのは私のリンクスとしてのプロフィールが書かれた物………だろう。多分。
「ジュリアス・エメリー?」
「そうさ!エメリー、これが君の家族の名前さ。これは僕の母さんの姓なんだ」
ジェラルドが笑いかける。
「ジュリアス・エメリー」
「うん。別れる前に君に何か贈りたくてずっと考えていたんだ。どうせならずっと残る物をあげたいなって。それでレオハルトさんに相談したらこれにしたらって言われて決めたんだ!」
「ジュリアス・エメリー!!ありがとうジェラルド!!凄く嬉しい!!大事に!!大事にするね!!!」
ジェラルドに強く抱きつく。嬉しい。凄く嬉しい!!
『エメリー』ジェラルドがくれた名前。ジェラルドと私を繋ぐ名前。ジェラルドと私の絆の証。
「気に入ってくれて嬉しいな。大事にしてね」
ジェラルドが私の頭を撫でる。
嬉しい。でも少し悔しい。ジェラルドはこんな素晴らしいプレゼントを私にくれたのに私は何もあげられない。ううん、ジェラルドはずっとずっと私に与え続けてくれたのに私はなにも返せていない。
せめて好きという気持ちだけでもあげたいのに私が臆病なせいでそれもあげる事が出来ない。
あ!!違う!!良く考えたら想いだけじゃない!!私にはもう一つジェラルドにあげられる物がある!!
だから、ジェラルドにあげよう。一杯貰ったお礼に少しでもお返ししよう。
「ありがとうジェラルド。でもどうせならジェラルドと一緒のジェンドリンが良かったな」
顔を上げて拗ねるように言ってみる。
「そっそれはその!それも考えたんだけどそれは少し早いというか、その家族だと色々不味い事が。いや!決してジュリアスと家族になりたくないと言っているわけじゃなく、むしろなりたいんだけどやっぱりそれはすこしはやいムグ!?」
背伸びをしてジェラルドにキスをする。うん、今度は上手く出来た。クッキーと紅茶とジェラルドの味がする。やった。
「冗談だよ。ちょっと意地悪しただけだ。なぁ、ジェラルド。私もお前にプレゼントがあるんだ」
突然の事に目をパチクリさせたジェラルドが、「何をだい?」と掠れた声で呟く。
「私だ。ジェラルドに私をあげる。
 私にはジェラルドと違って何も無いからな。この部屋にあるのは全部アスピナの備品だし、思い出も姓も名前も私の物じゃなくてジェラルドやジョシュアから与えられた物だ。
 私が持っているのは私しかない。そしてそれも明日になればレイレナードの所有物になる。だから、私が私を持っているうちにお前に私をあげる。
 だからジェラルド。私の全てを貰ってくれないか?」
「そんな事無い!!ジュリアスは色々な物を持っている!!紅茶の淹れ方にAMS適性や優しさや操縦技術にほかにも一杯ある!!
 それに思い出は誰かに与えられる物じゃなくて皆で作り上げる物なんだ!!だからジュリアスは僕から思い出を与えられたかもしれないけど僕もジュリアスから一杯貰ってる!!
 だからジュリアス!!そんな悲しい事いっムグ」
ジェラルドにキスをする。なんかいいなこれ。する度にポカポカしていい気持ちだ。癖になりそうだ。
「そうだな。今の私は何も持っていないわけでは無かったな。でもそれは人にあげられる物じゃないだろう?だから私がお前にあげられるのは私しか無いんだ。だから貰ってくれないか?」
「それは、そのそうかもしれないけど。でも、いいの?」
「ああ、お前に貰って欲しいんだ」
お前が好きだからな、とはやっぱり言えない。私の意気地なし!!
ジェラルドは大きく深呼吸をし私と目を合わせ頷いた。
「じゃぁ、その頂きます」
「どうぞ」
「うん、いくよ」
ゆっくりとジェラルドの顔が私に近づいてくる。
唇と唇が触れあう寸前、私はキスをするときは目を瞑る事を思い出し、瞳を閉じた。

****

ゆっくりと私の中のジェラルドが引き抜かれる。自分の中の異物が抜け出す安堵とジェラルドがいなくなる寂しさを感じる。
そしてジェラルドが私の中から抜け出した後、溢れだした私とジェラルドの混合液を指で指で掬い、口に運ぶ。
「………不味い」
「当たり前だよ。ほら吐きだして」
私の身体を綺麗にしていたジェラルドが苦笑して新たにベッドの脇に置いてあったティッシュを取り私の口に近付ける。
「おかしいな。本には美味しいって書いてあったのに」
首をかしげながらティッシュに吐き出す。そういえば参考文献では直接飲んでいたな。それでも少し苦いと書いてあったから酸化しやすいのかもしれない。よし、次は直接飲もう。
「どんな本を呼んだのさ?それより大丈夫かい?痛くなかった?」
ジェラルドが心配そうに私の頭を覗き込むので心配かけない様に微笑む。
「問題無い。確かに痛かったけど訓練や実験に比べればどうという事は無い。でもおかしいな。本には最後には気持ちよくなると書いてあったんだけど痛いままだったな。ジェラルドもしかして下手?」
「そっそんな事無いよ!!確かに初めてだから上手く出来なかったかもしれないけど下手じゃないよ!!普通だよ!!」
ジェラルドが慌てて捲し立てる。私もキスを失敗しちゃったし初めてなら大抵は下手だと思うんだけど、変なの。でも本当に下手なのかな?私もジェラルドが初めての相手だから比較できないからな。
「そっそれよりも!やっぱり痛いんじゃないか!!大丈夫かい?痛くしてごめんね」
今度はジェラルドが謝り始める。忙しい奴だな。
「気にしないでいい。確かに痛かったが満足感の方が大きいんだ。それに」
お前が好きだから嬉しいんだ、とはまたしても言えない。私の意気地なし!!
「それに?」
ジェラルドが不思議そうに続きを促す。
「それに!!」
悔しさを振り払うように上にいるジェラルドを引き寄せ、キスをしたまま上下を入れ替える。
唇を離しジェラルドを見下し微笑む。
「それにまだ終わりじゃない!!本に書いてあった事は全部やってみるぞ!!」
宣言し前後を入れ替える。一度出したとは言えまだ元気なジェラルドが私の前に来る。む、血に汚れているせいもあり想像より少しグロテスクだな。
まあいいや。ジェラルドを掴む。あ、先端から何か出てきた。舐めてみる。む、少し苦いけどさっき程じゃない。やっぱり酸化するんだな。
「ひゃん!!!ジュリアス!?一体何を!?」
「わからないのか?俗に言う、38、じゃなくて72でもないな。55?違うな、えーと88でもなくて66!!そう!66だ!!
 さっきは女性器を使ったので今度は口と胸と手を使ってみようと思ってな。それが終われば次はお尻で、その次はお風呂で、その次は」
「ちょっと!ジュリアス!!そんなには無理だよ!!それにまだ痛みもあるんだからまだ動いちゃ」
「駄目だ!!お前は気持ち良かったんだろう?」
「………うん、まぁ。僕は男だし」
「私はまだだから不公平だ!!それに女が達するときに得られる快感は男性の十倍以上らしいからな。是非体験したい」
それにこのまま寝てしまったら想いを告げるチャンスは無くなってしまう。ならば時間を引き延ばさないと!
「だからって。それにこの態勢じゃジュリアスは気持ち良くならないん!?って痛い!痛いよジュリアス!!強く握り過ぎ!!あ!液が口に!!苦い!!何これ!!凄く苦い!!」
「む、強すぎたか。やはり加減が難しいな。とにかく私が満足するまで舐めたり弄ったりしてくれ。あ!クリトリスは余り強くしないでくれよ、敏感なんだ。
 えーと、手は加減が難しいし、大きさが足りなくて胸では挟めんな。仕方ない。口でいくか。よーし、いくぞ!!ガブリ」
「ぎゃああああぁぁあああ!!!!!」

****

ジェラルドが六度目の絶頂と同時にようやく私も達する。
その直後、体力の限界に達していた私達はドロドロのベットに崩れ落ちる。
「限界。ジュリアスには悪いけどもう無理だよ」
息も絶え絶えなジェラルドに
「安心して。私も限界」
と大きく上下するジェラルドの胸の上で生きを荒げながら返す。それにしても驚いた。まさかあれほどとは。最後の方は殆ど意識が無かったし、イッた瞬間は一瞬意識がトんでしまったぞ。
だからそれについては問題ないんだが、結局想いを伝える事は出来なかったな。あれから何度もチャンスはあったのに。私の意気地なし!!!
悲しくなってジェラルドの頭に顔を押し付ける。駄目。泣きそう。
嗚咽の衝動に肩を震わせながら耐えているとジェラルドが私の頭を撫でる。
馬鹿!逆効果だ!!堪え切れなくなりグズグズと泣き、ジェラルドの胸を涙と鼻水で汚す。
「ジェラルドォ」
「なんだい?ジュリアス」
「次に会うまで絶対に死ぬなよ!!また私達は会うんだからな!!」
「約束するよ。ジュリアスもね」
「当たり前だ!!私はお前以外にはアナトリアの傭兵やノブリス・オブリージュが来ても殺されるもんか!!」
「僕もだよ。例え、シュープリスやオルレアが来ても君に会うまでは死なないよ」
「じゃあ!誓え!!私はジェラルド以外には殺されない」
「僕もジュリアス以外には殺されない」
「よし!これで絶対に会えるな。もし破ったりしたら私はお前を絶対に許さないからな!!!」
「肝に銘じておくよ。そうだ。もし次に会った場所が戦場でも僕がジュリアスを助けてあげるよ」
「む!なら私は無傷でお前を倒してネクストごと捕まえふぁ~」
安心したせいか今までの疲れが出たのか急激に眠くなり大欠伸をする。私の欠伸につられたのか次いでジェラルドも大きな欠伸をする。なんとなく可笑しくてお互いに笑い合う。
「ごめんジュリアス。本当に限界。少し眠らせて」
「私も。おやすみジェラルド」
笑いあった後お互いに挨拶をして、子供の頃のように抱き合ってお互い目を瞑る。
直ぐに頭の上からジェラルドの規則正しい寝息が聞こえてくる。
それを確認し、眠っているジェラルドに告げる。
「絶対だぞ!!次に会った時に私はお前に伝えなきゃいけない事があるんだからな!」
言いたい事を言った後、最後にジェラルドにキスをして本当に意識を手放す。

眠りに落ちる寸前、誰かに「僕もだよ、ジュリアス」と囁かれた後、唇に暖かい何かが触れた気がした。


ジェラルドと別れてから色々な事があった。
レイレナードとの合流。アサルト・セルの正体と排除方法。アンジェ様の死とペルリオーズ様達の死。
そして、レイレナードの崩壊とORCA旅団の結成。

レイレナードの崩壊後私達は地下に潜り濁り水が滲み込む様にゆっくりとしかし確実に世界に浸透していく。
オーメルを騙し資金を得て私達の思想に賛同する同志を集めていく。
そうして十年の時をかけ力を蓄え、老人達が地上から揺り籠に移り地上の事を忘れ去った今、私達はクローズ・プランを開始する。
最初は武装勢力に紛れ目立たず企業の戦力を削いでいき、旅団長が帰還した今各アルテリアへの襲撃を敢行する。
その候補の一つに上がった、アルテリア・カーパルス。ジェラルドの護る場所。

ジェラルド。
地下に潜ってからも暇さえあればお前の事を調べた。
だからお前がノーゼンタールに所属後も努力を続け遂にはノブリスの後継者になった事も、企業連に働きかけてアスピナの全市民だけではなく試験体までクレイドルに乗せてくれた事も知っているし、
お前が約束を守ってレイレナード崩壊後から今までずっと必死になって私を探し続けている事も、何時私が帰ってきてもいいように私の住居を用意してくれている事も知っている。
何度お前に会いに行こうと思っただろう。何度お前をORCAに誘おうと思っただろう。何度お前と一緒になれたらと思っただろう。
だがそれは出来ない。会えばお前は今まで何をしていたか聞くだろう。ORCAに誘ってもきっとお前は断るだろう。だからお前とは一緒になれない。
お前が私と顔の見えない多数の人間の命を秤にかけた時多数の人間を選ばざるを得ない様に、私もお前と皆の悲願では後者を選ばざるを得ない。
私はもうリンクスだから。ジュリアス・エメリーはお互い以外大切な物を持っていなかったジュリアスの頃に比べて色々な物を背負ってしまったから、もうジュリアスには戻れない。
だからジェラルド。せめてあの時の約束を守ろう。あの時の誓いを果たそう。あの時伝えられなかった想いを告げよう。

もはや私達は刃を持ってしか交われないのだから。


後書き
某所からの移送です。良かったら見てください


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子供は幸せだ。世界に蔓延する醜さを知らずに済むのだから
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