《ウォーニング!!》
この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。
Written by 仕事人
【ケモノのスミカ レギュ11 《測り違え》】
カツカツと小気味の良い音が廊下に響いている。
黒いハイヒールの尖った靴底と廊下が触れ合う音である。
鋭利な印象のある靴を振り上げる脚は黒のストッキングに包まれていて、脚がすらりと長く伸びがあって刀剣を収める鞘を思わせる。
更に其の脚を動かしている小振りだが重力に逆らうように肉が跳ね上がった臀部から上はオーメル・サイエンス・テクノロジー社の制服に包まれている。
エリート意識の高い企業で知られるオーメルらしいグレーの格式の高そうなスーツではあり、それを着用している彼女は、上半分の方が無いタイプのナイロールフレームの眼鏡を掛けていて、また背中まで流れる光沢のある黄金色のストレートの長髪をたなびかせ、其れを纏うシャープな顎を持つ顔の輪郭は他者を寄せ付けぬような洗練されたエリートの風格を漂わせている。
しかし、お高く止まっているような印象はグレーのスーツの裾や襟元からは覗けている空色のシャツや、尖った顔型であるが、ぱっちりとしている柔和な眼が中和している。
それでもグラスの奥で輝く、菫色の瞳には何処かプライドの高さを忍ばせているようだ。
決して他者を見下している訳ではないが、プライドの高さは本人も認めている所である。
前述の通りエリート意識の高いオーメルの中でも特にエリートが多いとされる戦術部に在籍していると云う事もあるかもしれないが、何せ彼女は所謂、才女の類の人間なのである。
知能指数(IQ)は120台と高く、エリートはエリートでも親の七光りで入社する者も多いオーメルや数多のライバル達を押し退けて、己の実力と知力だけで厳しい関門を突破してきた。
そしてオーメルに入社してから判明した事であるが、彼女には更に特別な才能、適性があった。
個人が運用するものの中ではあらゆる兵器の中で最強の座を欲しいままにしている機動兵器、ネクストを操縦する為に絶対に必要であるAMS適性を持ち合わせていたのだ。
このAMS適性は万人に一人どころか、億に一人程度の割合にしか見受けられない稀有な適性であり、数学を得意とする彼女には其の確立が如何に凄まじい物か充分に理解している。
彼女は自身で兵器を動かすのではなく戦闘単位としての戦力そのものを動かす戦術部の”リザイア”としてだけでなく、ネクストの操縦者の呼称であるリンクスとして管理機構カラードにも正式なランカー――ランク12、リザイアとして登録されている。
リザイアが歩いている廊下と云うのはカラードの廊下であり、登録更新の為に来ていた。
其の用は既に終わっていて、少し喉が渇いたのでカフェに向かっている所である。
廊下を歩いていると、知り合いでも無いのに擦れ違うと無闇に二度見をしてくる者が多い。それも性別を問わないのは顔立ちもだが、スタイルが良いからであろう。
身長は然程高くは無いのだが、腰の位置は身体の半分を超えている為に必然的に高身長のモデルを思い出させる。
それにタイトなスーツの胸部はふっくらと盛り上がっていて、更に其の上にオーメルの社員章の入ったタグが下げられているのだから男の視線を集めないわけが無い。
インテリオル系やGA系の社員、そしてカラードの女性職員からは、やっかみで男の視線を集めていると思われがちなのだが、本人としてはもっと別の位置に付けたいのだが制服のデザイン上、そこにしか提げられないので仕方が無いと諦めている。
それにオーメルのイメージからは珍しいと思える程に皮肉を好まず、直線的な物言いをする性格で、己が人並み以上の美貌を持っている事は過不足無く自覚しているリザイアからすれば、同じ女から嫉妬を買うと云うのは女としてプライドを満たしているのである。
(あら……)
廊下を歩いていると、擦れ違ったカラードの女性職員が何やら過敏な反応で顔を逸らした――が、盗み見るように横目でちらちらと視線を送っているのにリザイアは気付いた。
その覚えのある顔にリザイアはにこりと微笑を投げ掛けると、女性職員は顔を紅潮させて足早に去って行った。
こういうのは別段珍しい事ではないと云うのが彼女の感覚である。
頼れるお姉様、といったタイプのせいか学生の頃から、そして現在でも同性からは好かれているからだ。
だがリザイアは同性愛者と云う訳でも無い――が、全く違うと云う訳でも無い。
結婚適齢期と云われる年代のリザイアはこれまでにも異性の恋人も居た事は勿論だが同性の恋人も居た事もある、所謂バイセクシャルである。
但し、恋愛はどれをとっても長続きした事は無い。
男運が無いのか、最初の男からずっとそうなのだがリンクスとしてもそうだが攻撃的である事を抜きにしても男が独り善がりであった為に嫌気が差してきたし、男とはそういうモノだと諦めがちだ。
では女性とはどうなのかと言うと、経験した相手は男よりも多いのだが、恋人は居なかったと言えるだろう。
何せ彼女等は生粋のレズビアンではなく至って人並みの嗜好の持ち主であって、一夜限りの関係ばかりなのだ。
今しがた擦れ違った女性職員もそんな身体だけで一度だけの付き合いの一人だった。
ではリザイアは何を基準に同性愛者では無い女性をターゲットにするかと云うと――読者諸兄にも思い当たるようなのが居ると思う、リザイアも子供からそうなのだが、友人の持っている物を欲しがるタイプの人間だ。
つまり恋人が居る女性に情欲が滾る、と云う訳だ――其の辺りは攻撃的な性質に由来するのだろう――性的に至ってノーマルで、そして寂しがっているとなると特に食指が伸びる。
今までもずっとそうしてきたのだが、何かしらの理由で恋人との仲に不和の兆しが見え始めていたり、実際に喧嘩をしてしまったと云う女性を見つけると、其の場で喰らい付く――もとい、接触を試みる。
簡単に説明すれば、心の拠り所としていた相手の心から自分の居場所が無くなりかけていて落ち込んでいる女性の心の隙間に付け込む、と云う風である。
親身になって聞いてやるフリをして話が終えるまで待ったら――文字通りにフリである。相手と恋人の仲など心底どうでもいいと考えているからだ――酒が入っていようがいまいが後は押しの一手である。
言葉責め、キス、身体へのタッチ、一歩進んで愛撫とあらゆる手段を駆使して相手を性感に叩き込む。
もとより自分の性感など求めてはいないリザイアにとってセックスで重要なのは相手の身悶える姿を眺める事なのだから、只管責め続ける。
それでも散々しゃぶり尽くし、嬲り尽くした後は確りとフォローを入れてやるのを忘れないのはデキる女と云った所だろうか。仲が修復しようと、破局しようが関係ないと思っていたとしても。
先程擦れ違った彼女もそんな毒牙に掛った一人である。
以前の話だがカラードに来ていた時、偶然にも彼女と男が言い合いをしているのを目撃した。
男の方にしても女の方にしても独り善がりな中身の薄い退屈な痴話喧嘩の後、涙を必死に堪えながら其の場を去ろうとした彼女に然も今しがた見かけたと言わんばかりに声を掛けて、人気の少ないベンチまで連れて行って話をきいてやった後――と云う訳である。
(あの子、どうなったのかしら)
心中でそう呟いたリザイアであるが、それは男との仲がどうなったか、と云う意味ではなく、同性愛に目覚めたかどうかと云う一点だ。
しかし、同じ女とは二度寝ないといったポリシーを掲げているから、仮に例の女性職員が同性愛者になって誘ってきたとしても、何の躊躇いも無く断るだろう。其の際の言い訳などを考えるのが億劫だと思う程度だ。
リザイアにとって女は肉体関係だけで良いのは、器以上のものではないとはいえプライドが高い為に理想の男を捜すのに、そして得た際の関係に邪魔だからだ。
何だかんだいって結婚願望もあるし、子供を持ちたい願望もある。
傭兵であるリンクスや戦術部と云う精神的に負担の大きい仕事をしていれば思い切り依存したいと考えても何ら不思議は無いだろう、プライドの高い自分が弱みを見せてもいいと思えるような相手を求めるばかりであるが――当分、特に今すぐは現われないだろうなとリザイアは思う。
得てして長期的な願望は目前にある刹那的な欲情に追い遣られるものだからだ。
「――あら、いいわね」
廊下から出て視野が広がったエントランスの先に獲物を見定めたのだ。
二人の男女が歩いている、男女と云うには女の方は成熟しているから兎も角として男の方は子供であるが。
だがリザイアは天性の勘なのか、それとも二人の仕草、距離感を見て経験則から算出したデータなのか、傍から見れば歳の離れた姉弟にしか見えないような二人が立派な男と女の関係である事を即座に見破った。
二人の視界に入らないように距離を詰めてみる――少年の方は見覚えがあると思ったら自分と同じリンクスであったが特に関係は無いと結論付ける。
一目を憚らずにべったりとしている訳ではないが決して不和ではなく、二人は付け込むような隙は特に無いのだが、リザイアが惹かれたのは女の見た目であった。
女はスーツを着ているが、少年のリンクスは企業専属ではない独立傭兵であるから何処かの制服と云う訳ではない。
しかし、職場に居ても別段違和感の無さそうな、自分と同じで仕事の出来そうなタイプであり、プライドが高いかは兎も角として気は強そうである。
やがて二人はカフェに入った。
リザイアも丁度目的が同じだったので二人を見易いポジションの席で紅茶を飲みながら観察を続行する。
強気で勝気な、意思の強さを窺わせる紅色の瞳。
薄い化粧に着飾らない服装は他者の視線を歯牙にも掛けない性格の顕れだろう。
僅かに聞こえてくる彼女の語調は殆ど男のものと変わらず、寧ろ少年のリンクスの方が弱々しく感じる程だ。
そのように観察すれば観察するほど、例えば先の女性職員のように押しに弱い風には見えないタイプの女性であるとリザイアは思った――また少年の方はと云うと、小柄、純白の髪、白い肌に中性的な顔立ちと、もし女子であったならと思う所ではあるが、リザイアは子供には一切興味が無い。
というのもリザイアが強気さを窺わせる見た目の割には優しげな微笑みや、眼をする事が出来るのにも関係しているのだが、昔に塾のアルバイトをやっていた所為か、教え子を思い出してしまうために子供は完全に好みから外れてしまう。
ちなみに其の頃のリザイアの評判はといえば、やや年上で美人と云う事もあってか子供達からは人気はあり、また教えるのも上手であった為に子供だけではなく親からも信頼されていた。
同時に子供達からは授業中に私語をしたり、悪戯をしたりしていると、塾の講師や学校の教師が授業で用いる大きな三角定規や1mの竹尺で頭を叩かれるので恐れられてもいた――しかも平面ではなく、角の部分で。
そんな経験がある事に何か因果があるのか、主武装も接近戦用のレーザーブレードの刀身は例の竹尺に似ていて、もう一つの主武装であるオーメル製のショットガンも三角定規の形に似た形であるから、リザイアがネクストに付けた名前は《ルーラー(ruler=定規)》と云う。
リザイアが具に観察を続けている男女の、女の方に話を戻すとしよう。
前述の通り、此れまで対象にしてきたのと比べると人物象も正反対の方に掛け離れている。
しかし、実のところ、リザイアは寧ろこっちのタイプの方が好みなのである――意思の強そうで仕事のデキる女が。
自分と同じような性質の女が恥辱と快感に歪める顔を見たいと云うのは嗜虐する面で云えばサディズムなのだろうが、自分と似たと云う点ではマゾヒズムかもしれないし、自分に似た女に劣情を醸すと云う意味では屈折したナルシズムでもあろう。
リザイアが握っているティーカップを愛撫するように撫でているのが示すように、更に食指を動かせられる要素として、艶のある黒髪の女は恋人である少年のリンクスから非情に思慕されている事だ。
特定の関係を結んでいても彼は尚も恋をしているし、愛してもいるのだろう。
少年の彼女を見る眼には、そんな強い想いがありありと輝いている。
他人のものが欲しくなる性分の彼女としては、繊細なガラス細工を扱うかの如く大事にされているのだから、益々手を付けたくなると云うものだ。
(堪らないわね)
好みの見た目に、好みの性格、そして他人のもの――これだけ高水準で三拍子揃った逸材には中々お眼に掛かれないと思うとリザイアは涎が垂れてきそうで、子宮が熱を帯びて疼くのを感じた。
少年が強く想っているのと同じく、彼女もまた少年を強く想っている事は会話や仕草の――特に眼から――察せられて、普段は食指の伸びる素振りすら起きない子供のほうにも手を付けたいと思う程だった。
「――さて、どうしようかしら」
しかし、どれだけ想おうとも実際に行動に移さねば其れは空想だけで終わってしまう。
しかし、手を付けようにも、普段なら二人きりになった所で有無を言わさずに襲い掛かる所だが、誘い出そうにも少年の方も付いてくるだろうし、人気の無い場所に連れて行って事に及ぼうとしても二対一では阻止されるのは眼に見えている。
迷っている内に絶好の獲物を逃してしまうと考えてリザイアは次第に焦りを見せていると、二人が立ち上がった。
その瞬間、彼女の焦燥は最高潮を迎えそうなものであったが、それとは反対に掛け直した際に光を反射して白く輝く眼鏡のグラスの下で瞳に獰猛な気配を漂わせていた。
「はあ、どうすれば勝てるのかなぁ」
「――確かに課題は多いが、前に比べれば悪くないと思うぞ」
少年とスミカはカフェで喉を潤した後、廊下を歩いていた。
しかし、彼は先からもそうであったが意気消沈と云った様子で、彼女はそれを厳しくも慰めている。
というのも今日カラード本部に訪れた目的はリンクス同士がシミュレーターの仮想空間上で戦い合うオーダーマッチの為であったのだが、其の相手に敗北を喫したからである。しかも同じ相手に二度目だ。
問題の相手はトーラス所属のミセス・テレジア。
トーラスに専属する唯一のリンクスであり、ネクスト戦力としては一人で防衛しているのだから重要な立場でありそうなものなのだが、其のトーラスは敵対する他企業どころか、グループ内の同盟企業からも敬遠されている所為で何かと暇を持て余している。
だから彼女はリンクス、そしてトーラスのある部門の社員と、二束の草鞋を履いている。だが其の部門の業務が少々特殊で、更にテレジア達の趣味の場のようなものだから、仕事に精力的な時とだれている時の落差が激しい。
丁度今が其の時期らしく、暇つぶしに少年にオーダーマッチを申し入れてきたのだ――公式ではなく、草試合だが。
とはいえ人物的に大いに問題のあり過ぎる上に、そしてカラードに登録されている三十数人のリンクスに夫々ランクが付けられている中でテレジアのランクが29であっても、彼女のリンクスとしての実力は本物で、期待のルーキーと目される少年が相手でも余裕を残して勝利した。
本来なら五本の指に入ってもおかしくないのだが、ランクを上げる事には興味が無いので解体作業任務しか受理しないランク30、チャンピオン・チャンプスと共に、長年ランカーの最底辺としてピラミッドを支えている。
ちなみにオーダーマッチは口実で、本当は少年に会うのが目的だった。
以前に肉体的な関係を結んでからと云うものの彼をいたく気に入ったらしく、今日も彼女の云う所の”棒姉妹”であり、そして彼の恋人であるスミカを前にして、そして彼女をも対象にしてセクハラ三昧を繰り広げたのだ。
顔を合わせた第一声が最後にセックスしたのは昨夜なのか、またどんな内容のプレイだったのかを尋ねた挙句、スミカの尻を、そして少年の股間をそれは厭らしく撫で回した。
そしてわざとらしく転んだと思ったら座り込んだ拍子に少年の股間に頬を摺り寄せたり、憤怒に燃えるスミカに後ろ首を掴んで引っぺがそうと引き寄せられた瞬間を狙い、振り返ってディープキスを仕掛けたりと、やりたい放題であった。
其の上で、以前に比べれば喰らい付いたとはいえ、敗れてしまったのだから二人の心労は察するに余りあるというものだ。
「速度ではカリオンよりストレイドの方が上なんだ、何とか死角を取り続けられるようになればいい」
「カリオンが四脚だから元からですけど、テレジアさん自身も旋回が上手いですよ」
「だからこそだ。アイツ相手に旋回戦で勝てば大多数の奴等にも互角以上に通じる筈だからな――それで勝ったら”後ろからイカされちゃった”とか言うんだろうな――ああ、考えるだけで面倒で鬱になってくる」
「でもテレジアさんは実力者ですから良い経験になるんですよね……」
「そこが納得いかん。何であんなイカれた奴に実力が備わっているんだ? 性格通りの色物で終わってたなら好き好んで会う事も無いと云うのに! ……はあ。これは前から言ってる事だった――何年も前から、ウィンの奴を鍛えてた時からだ」
そんな風にスミカと少年が対テレジアの今後の対策とリンクスや企業全体にとっての不運を嘆きながら時であった。曲がり角の陰から人影がさっと現れて、
「――きゃっ!」
同時に二人分の女性の悲鳴が上がった直後にバシャリと液体が床に打ち広げられる音がした。
少年が居た方とは逆側から飛び出してきた金髪の人物とスミカが仰天した顔付きで向かい合っていると、
「あっ、ごめんなさい。服に……」
「え? あっ」
鋭いフォルムの眼鏡を掛けた女性の言葉や、視線にスミカが自身の身を改める。
黒味の強いグレーのスーツの胸や腹、そして上着だけでなくスカートに掛けて黒い染みが広がっていて、足元にはカフェのロゴが入ったコーヒーカップが黒い小さな水溜りの中に転がっている。
衝突した時にスミカが手に持っていたカップが中身と一緒に宙を舞って掛ってしまったのだ。
そこまで高価な代物ではないとはいえ、衣服に汚れてしまった事にスミカが珍しく当惑した顔を浮かべていると、
「直ぐに落とさないと駄目になってしまうわ」
何処か見覚えのあるオーメルの制服の女性に腕を掴まれて何処かに連れて行かれそうになったので多少抵抗の素振りを見せたが、直ぐに行き先がトイレである事に気付いて引っ張られるままに後ろを振り返りながら「ちょ、ちょっと待ってろ」と少年に声を掛ける。彼は外観は足元に転がっているのと同じものだが、中身がミルクや砂糖が入って白味の強いコーヒーが湛えられているカップを握ったまま、「は、はい」と急な事態に付いていけていないような声で応えて彼女等を見送る。
通りすがる人間の視線を浴びつつ、ハイヒールの鋭い足音とローファーの重い足音を廊下に響かせている。
女性に連れられる最中、スミカは握られている腕を以前に感じた事のある、スーツの袖の上から肌を擦る手付きを感じた。
テレジアに乳房を、腹を、下腹部を、そして口腔を責められた際の感触と似ていると思い出したが、アレと同じにするのは失礼だ、と思い直した。
そんなスミカの心裡を知ってから知らずか、ハイヒールながらも足取りの速く、背中まであるブロンドを風になびかせる女性――リザイアの口角は僅かに吊り上がっていた。
しかし、先導される形のスミカは其れを見る事は出来ないので、相手の過失とはいえオーメルらしくない、親身さに感心しているばかりであった。
そうしている内に女性と男性を模った赤と青色の人型のマークが描かれている二つの入り口が見えた。
二人は彼女等とは違って裾の広がるスカートを付けているマークがある、中の壁がピンク色に塗られた方に雪崩れ込むように飛び込んだ。
「――丁度、染み落としを持ってて良かったわ。綺麗に落ちそう」
「そうか、感謝する」
「いえ、ぶつかったのは私の方だから」
トイレの洗面所から個室のドアを跨いで声が往き来する。
個室の中に居るのはスミカの方で、何故中に居るのかと云うと、彼女は上はシャツなのだが下はパンツストッキングとショーツだけの格好だからだ。
トイレに入った途端、一番奥の個室に押し込まれたのだが、有無を言わさずに上着のボタンを外され、スカートのファスナーを下ろされ二枚の衣服を脱がされた。そして「少し待ってて」と言われて、そんな格好で出歩く訳にも行かないので言われた通りに大人しくしている。
便座が暖められているタイプだったので殆ど丸出しの臀部に冷えを感じる事も無く、快適とまでは云えないが、スーツを一式駄目にするためならしょうがないと受容れる。
そんな風に考えているとスミカは今自分の服を洗っている女性に感じていた既視感の正体に気が付いて、
「――オーメルのリザイアか」
「ええ、そうよ。あなたはあの新人リンクスの……オペレーター?」
「セレン・ヘイズだ」
「セレンさんね、宜しく――歳も近そうで、これも何かの縁でしょうし、セレン、でいいかしら?」
「ああ、構わない」
元リンクスである事を知られない為に偽名を騙って会話した中でもスミカは同業者であるリザイアの知りうる限りのデータを頭の中で広げた。
オーメル所属のカラードランク12。
高いAMS適正と高い知能指数を持ち合わせる才女と謂われている事にオーメルのエリート志向を窺わせるが、その実、軽量級フレームLAHIIREのルーラーは超攻撃機と評される程の前衛型のリンクス。
重要な作戦で重用されてきた実績もあるなど、毒舌家のランク1だけがオーメルの切り札ではないと云う事を示している実力者だ。
しかし、僅かな時間接した限りの感想とはいえ、リンクスとしてのスタイルと実生活には矢張り隔たりがあるのだなとスミカは普段は慎ましいが、いざ戦場に出ると何も起きていないのに即座にコンバットハイを引き起こす友人の事を思い出して苦笑する。
そして二重の意味で自身の愛弟子は普段と戦場で変化が無い事に今更ながら思い付いたように考えていると、コンコンとドアがノックされて「入っていいかしら?」と声を掛けられた。
トイレに入ったついでに用を足している可能性を考慮したのだろう。ノックまですると、云う事は終わったに違いない。
しかし、コーヒーに含まれるカフェインの所為か、リザイアの危惧通りに直接ではないが言われた事でスミカは本当に尿意を感じ始めてしまったが、待ってくれ、と云うのも恥ずかしく、それに充分我慢できる段階であったから「ああ、いいぞ」と返して、ドアの鍵を外した。
鍵が外れるのと同時に独りでに扉は開いて、出来た隙間を縫うようにリザイアが入ってくると、後ろ手に扉を閉めて鍵を掛ける。
鍵まで掛ける事は無いのではないかとスミカは思ったが、トイレの個室内に二人が、しかも其の内一人は半裸である事を見られたら誤解されかねないかな、と考え直した――全く其の危惧通りではあるのだが。
「乾くまで少し時間が掛りそうね」
「面倒を掛けるな」
「私が悪いんだから気にしないで」
改めて接してみてスミカは思ったが、超攻撃機に乗る人間とは思えない程に今のリザイアの表情は柔和だった。
申し訳なさそうでありながらも、気遣ってくれる事への感謝をも態度の内に忍ばせている。
しかし、真っ直ぐ逸らさずに眼を合わせてくるところは、本質が攻め気である事を垣間見せているようだ。同じように強気なスミカは人見知りと云う訳でも無いので眼を逸らさないから尚更視線が交差する時間は長くなる。
すると、一瞬、リザイアの視線が自分の格好を眺めるように下へと揺らいだかと思ったら、戻ってきた其の眼には何処か湿り気があるのをスミカは感じ取った。
ベッドの中での少年や、絡み合った時のテレジアを想起させるような眼に、ぞくりと悪寒が奔り、無意識にショーツが見えないように閉じていた脚に殊更に力を入れて、握り締めたシャツの裾を下へと引っ張る。
すると、リザイアが覗き込むように顔を近付けられて、スミカは後ずさろうとするが背後のタンクに阻まれる。
照明の逆光の中で眼鏡の奥の、菫色の瞳が爛々と輝いている。
「あなた――」
「な、何だ」
「綺麗ね」
突然にそんな事を言われてスミカは、ぽかんと口を大きく開けて「は?」と声を漏らそうとしたのだが、
「んん?! んーっ?!」
直後には気だるそうに開かれた目蓋の間で眼を欲情に蕩けさせているリザイアに唐突に唇を唇で塞がれて、くぐもった驚愕の声を上げる。何とか引き剥がそうと腕を掴むも、口吻の隙間を縫って侵入してきた舌に歯や歯茎を優しく撫でられ、身体を支える芯が何処かに行ってしまって、浮遊感に似た脱力が身体を包む。
黒艶の豊かな髪を湛える後頭部に手を回して押さえながら唇に吸い付き、其の裏の肌に包まれていない露な肉を舐め、また時折門を開いた歯の噛み合わせの向こうの舌を小突きながらスミカの力を更に奪っていくリザイアは手馴れたどころか、熟練した手付きで茜色のネクタイを避けながら容易くシャツのボタンを外していく。
高価なカーテンを開くかのようにゆっくりと優しく留めを失ったシャツを開くと、開かれた白いシャツの中には、黄色人種らしい肌と、レースがあしらわれた黒の扇情的なブラジャーがあった。
スーツとシャツを押し上げていた黒いカップからむっちりとした胸乳が溢れそうになっていて、リザイアは窮屈そうにしている其れを解放してやろうとベルトを下へと摺り下ろす。
「んむぅっ?!」
ねっとりとしたディープキスの感触と呼吸を制限されて脳が働かなくなっていたスミカも、ぶるんと音を立てるようにして自身の肉房が揺れながら露になっては声を漏らしたが、一層に強くなった抑え付けてくる力に抗う事は出来ず、腕を掴むだけの些細な抵抗を見せるだけだ。
逃れようとする度に口蓋や舌根を舐め上げられて、意思が弱くなっていくスミカの様と、突き出ている女体のシンボルを、口許を唾液に塗れさせているリザイアが怜悧な眼で眺める。
気の強そうで男が寄ってこなさそうな彼女があっという間に性感に蕩けてしまっているのは、経験が少なくて弱いからではなく、寧ろ味を知っているからであり、それはあのいたいけな少年と情夜を何度も過ごしてきた記に違い無いと考えて興味深さを覚えている。
此の見た目で肉欲に、そして彼に溺れているのだ。其のギャップは実に淫らさを際立たせる、と。
「んっ、んっ、んあっ!」
手の内に柔らかな肉球を躍らせてスミカに性感を与えながらリザイアは、自分のものと比べている。
指の形を忠実に表わす柔らかさを持ちながら押し返してくる張りを持っている触感や、そして大きさは僅かばかりに負けている。だが掌中の乳房は前へと突き出す風であるが、今はグレーのスーツと水色のシャツ、そしてトルコブルーのブラジャーに隠されている自分の胸は、乳頭を中心として尖ったように上向きで――形、と云うだけでなく、衣服の中で痛い程に尖りを帯びているのが良く分かる――色素の薄い乳暈が白い乳房に生えて美乳であると自負している
眼の前の顔の頬に朱が広がっていくにつれ、抵抗する力が徐々に弱まった性感に屈する様に何とも云えない充実感を抱きながらリザイアは頭を引き寄せていた手を蛇の如くするすると、背中を這わせて背筋をなぞり、揉みしだいていた乳房から其の先の突起へと手を伸ばす。
血の集った尖りは肉房の延長にあるとは思えない程の固さを持っていて、抓繰り回すには充分であった。親指と人差し指の腹の間で擦れさせる度にスミカの身体が跳ねる。
「ん、はっ……はん、んむっ……んんっ!」
息継ぎをさせてやろうとリザイアが口吻に隙間を作ってやると、上気したスミカは非難や詰問よりも前に先ず必死な様子で酸素を取り込もうとする。その気道を通っていく間にも神経に甘い信号を奔らせてやって、久しぶりの満足な呼吸の代償として喘ぎ声を出させる。
余計な事を口にする前にと云う風に、また口を塞いでしまって更に今度は顎を上げさせて唾液を口腔へと流し込んだ。
歯の隙間に溜まり、舌を撫でる小泡の混じった液体をスミカは抗えずに、こくんこくんと喉元に波を打たせて流し込んでいく。
またリザイアはスミカの唾液を啜り上げて飲み込んでいく。
二人の味蕾に唾液の甘い味がほんのりと広がり、狭い個室に牝の濃厚な芳香が湧き立つ。
「ふぅ、ン……」
すると、其れまで執拗に口を塞いでいたリザイアが黄金色の長髪を掻き揚げながら、スミカから顔を離した。粘液の糸を引いて。
息苦しそうに喘ぐスミカをリザイアは見守る微笑を湛えて見下ろしている。
「敏感なのね、セレンは。顔が蕩けてしまってる」
「はぁ……はぁ……はぁぅっ!」
黒い髪を指先に巻き付けるように撫でながらリザイアが桃色に染まって固く屹立している乳頭を絞ると、口端から唾液を垂らして呆然としているような表情のスミカは甲高く喘いだ。
しかし、思考能力を奪われていた彼女は酸素を脳に充分に取り入れた事に加えて、其の刺激で少しは目醒めたらしい――身体はまだ性感の小波に浸っていて、力が入らないが。
「何が、目的だ」
「私がオーメルだから聞くの? そう云う意味なら別に何も無いわ。私が貴女を気に入っただけよ」
身体中を弄りながらリザイアはスミカに殊更に顔を寄せる。熱い吐息と潤む瞳は怜悧な見掛けからは見受けられない程の女を醸している。同じ女相手に。
「男なんか――なんて言う気は無いけど、偶には、同じ女相手もいいものだ、って教えてあげたいのよ。年下の男の子相手だけじゃ分からない事は沢山あるわ」
そう言われた瞬間、スミカは顔を赤くした。
少年との関係を、そしてそれだけでなく言外に、自身で自覚している程に依存している事を見抜かれたからだ。
ただリザイアの見込み違いとしては、スミカは同性相手の性交も経験していると云う事である。しかも少年を交えての乱交であるから、そういう意味ではリザイアよりも経験豊富であろう――初対面で突然に身体を求めてくるリザイアよりも経験豊富と云う事実に思い至ったスミカは後に頭を痛める事になる。
突き飛ばしたり、頬を掌で張ったりする程の力が出せない分、スミカはキッと勝ち誇った表情を睨み付けて「余計なお世話だ」と言ってやったが、リザイアは愉しげにニコリと笑った。
「ふふ、いい貌ね。それじゃあお喋りはこれぐらいにして――」
「んぐっ?! んん、んんーっ!」
スミカは再び口を塞がれて眼を見開く。先程のとは比べ物にはならない怒涛の勢い、まるで隅々まで洗うかのように舌が口内粘膜を激しく嬲られて。
口内の様子を傍から見れば蛇の尾が暴れ回っていると思えるだろう。しなやかながら力強い、そして滑り気を帯びてスミカの舌を吸引と共に引き摺り込もうとする様は軟体生物の触手にも近い。
噛み切るまではしなくとも、血が出る程に噛んでやろうと思った時にはリザイアの口腔へと連れて行かれていた。今更歯を噛み合せたとしても己の舌に歯形を付けるだけだ。
ちゅうちゅうと吸い付かれて、ねちっこく絡み付いてきては扱き上げる柔軟で自在な動きに愛撫されて、舌根の神経が悦びの悲鳴を上げる。口吻の隙間から漏れ出て胸元や谷間を汚しながらも舌を伝って流れ込んでくる唾液が自分のと混ざって口腔に溜まる度に反射的に喉が動いて腹に収めてしまう。
劣情をありありと輝かせた眼に真っ直ぐに見据えられて、スミカは口腔の性感と共にうっとりとした夢心地に包まれる感触を覚える。頭蓋に沁み込む、ぐちゅぐちゅと粘液が泡立つ淫靡な音が其れを加速させる。
もしそうされているのが舌ではなく――また、生えていたとしたらの話だが――ペニスだったならば、瞬く間に射精してしまうだろうと、何処か場違いな思考が過ぎる。
引き剥がそうとスーツの袖を掴んでいた手は、縋り付くかのようにひしと握り締められていてしまっている。其の事に気付いたのか、リザイアは顎に手を遣ると、くっと更に上を向かせて、口腔を蹂躙されている感触をより強く知らしめてくる。
見開いていた双眸も寝起きのように気だるそうに目蓋が落ちかけ、酷くだらしない表情になっているのだと自省も出来るが、中断させるだけの力は生まれそうにもない。
「ンっ、ンっ、ンン~っ……」
やがてリザイアは舌を窄めた口吻の間に確りと啄ばんだまま、頭を上下させ始めた。スミカが逃れられないように、と云うよりは、愛おしそうに頬や顎に手をそっと添わせながら。
舌を突き出した格好のままで物欲しげに仰いでいる己のあさましい状態を省みる余裕はスミカには無く、離れては降りてくるリザイアの唇と恋人同士が交わすような、鳥が啄ばむのに似たキスの甘やかな感触と、舌を口淫で以って奉仕されている性感に溺れつつある、酔いつつある事を自覚していた。
今は座っているが足腰が震えてくるような、絶頂を迎える寸前に似た陶酔感は何度も味わってきたものだった。
以前に一度だけ、一度だけだが少年とのキスで果ててしまった事があるその感覚が訪れそうな予感もある――其の時は少年に恥らいながら伝えたスミカの様子に昂奮したのか、後が激しかった。
しかし、スミカは愛しい彼相手なら兎も角――寧ろ本望であるが――同性で、しかも無理矢理迫ってきたリザイア相手にそんな痴態を曝したくはないと、普段なら思う所であろうが、既に出来上がってしまっている上に、優しく見詰めてくる眼と視線を絡ませている内に陶然としてしまって、無意識に自ずから顎を掲げてしまって、
「んんふっ! ふうぅーー……」
舌根からじわじわと潮が満ちていくような性感に、独りでに身体が嬉しそうに飛び跳ねた。
舌と唇だけに集中させられてしまっていた意識が全身へと広がっていき、何時の間にかに下腹部の奥が熱を燈らせていた事に気付く。
子宮を中心としていた其れは体外へと連なる管をも熱くさせていて、発散された熱が通っていった残滓を感じられる。だが身体の外へ出て行っても、まだ出口の付近で留まっている感触はある。秘所を隠すショーツが忍ばせている、濡れてしまっていてストッキングごとぴったりと肌に張り付いてしまっている不快感と共に。
「――ふうっ、確りとしてそうなのに快楽には弱いのね。カレに依存してばかりじゃ駄目だと思っているけど、中々踏ん切りが付けられないのも其の辺りが原因かしら?」
長時間吸い付かれていた為に血の気が失せかけているスミカの舌から、ちゅぽんと音を立て、其の拍子に唾液を飛び散らせながら口を離したリザイアは揶揄かうように苦笑してそう言った。
「う、うるさい……」
達せられた事そのものだが、それに加えて殆どキスだけでそうさせられた事にスミカは恥辱や自身に対する情けなさを噛み締めながら、負け犬の遠吠えだと理解しつつも、吐き棄てる。唾も吐き掛けてやりたい気分ではあったが、先程まで大量に溢れていたのが嘘のように、口の中はからからに渇き切っていた。
幾ら凄もうとも上気した表情では説得力も無く、リザイアは見下すと云う程でも無いが、スミカとは対称的に優位を保ったままの余裕のある表情である。
「貴方のカレもきっとそうでしょうけど、私は嫌いじゃないわ。強がっていても気持ちよくなりたい、というのは――ほら、其の証拠に股が開いてる」
リザイアは眼鏡のグラス越しではなく、眼で直接見るように上目遣いで睨んで来るスミカを見遣りながら、つぅっと黒のパンツストッキングに包まれた太腿を指先で辿る。
其の言動が何を示すかを即座に理解したスミカは急いで脚を閉じようとしたが「もう遅いわ」と冷たい声音の言葉が飛んできて、ばっと音を立てるようにして両脚を大股開きにさせられてしまった。
トイレの便器に溜まる水面に黒字のTのラインが写し出される。
羞恥心を煽るように筋や関節の駆動する限界目一杯まで開いたリザイアは、実像の方の中心を見ながら妖しげに微笑する。
「もう、びしょびしょじゃない。セレンは濡れ易い体質なのね」
ショーツの股布の部分から大きく染みが広がっている事を教えられるようにそう言われてスミカは悔しげに「だ、黙れっ、この……」と抗いの態度を見せながら脚を閉じようとしたが、足腰に力が入らないで、ふやけ切ったようでいて、両手で重い扉を開くようにがっしりと掴まれ開かれている為に僅かも動かせず、痴態の核を晒されるままである。
それによって些細な抵抗すら許さない程に完全にスミカの身体を支配している認識に拍車が掛っているらしく、リザイアは嗜虐的に頬を歪めると、
「抵抗したいならもっと力を入れないと。それとも、もっとして欲しいのかしら? こんな風に」
左脚を押さえていた右手を素早く、スミカの股座に飛び込ませて、黒のショーツの黒ずんでいる箇所に指を突き立てる。指の形に合わせて窪んだ布から愛液が染み出す。
「あぅんっ! やっ、あんっ!」
「鳴き声は可愛いらしいじゃない。ずっと其の声が聞いていたいわね」
布越しの陰唇の隙間を穿るように二本の指先を捩じ込むように左右に回転されて、スミカは背筋を丸めたり、逸らしたりと身体全体で性感を逃がそうとするが、甘い嬌声は漏れてしまっていて、感じている事を顕にしてしまう。
嬌声を愉しみながらリザイアは更に溢れさせようと言わんばかりにショーツごと押し入るように、指を更に強く捩じ込んでいくと、布が体表の位置よりも更に窪んだ。
ラビアが布を食んでいる様は彼女等自身がベッドでした事があるような――リザイアは一夜限りの相手にそうさせた事もある――口許に手繰り寄せたシーツを噛み締めて喘ぎ声を漏らしてしまうのを抑えようとするのに似ている。
「は……うぅっ、ふぅんっ!」
リザイアの指先が薄いショーツの布を纏いながらも蜜に塗れて熱を帯びていくそれらを更に絡み取るように指を強く回すと、共に捩れたショーツのレースが淫唇の口吻を擦った。
性感を抑えたく、そして脚を閉じたくて、ぶるぶると身体が震えるのを掌の先に感じながら、リザイアは一旦指を引き抜くと、愛液が糸を引き、捩れたままショーツは淫唇に挟まれたまま残っていた。
声を出させないように、口の中に布を突っ込んだようにも見える。
自分の秘所がそんな、背徳感を煽り立てる光景を作り上げているとも知らずに、スミカは股間に異物感を覚えながら、どうしようもなく其処に疼きを感じていると、
「あっ?! や、やめ……っ」
「ほら、大人しくして。脱がせられないでしょう――っと」
「きゃあっ!」
リザイアは素早く手を動かしてストッキングの腰部の縁を掴んで下ろそうとし始めた。必死に前面の裾を掴んで留めようとするが、立ち上がったリザイアはストッキングの縁からスミカの腰へと手を移すと、身体を抱え込むように尻を滑らせた。
便器の上で半身を横たわらせ、タンクに頭を預けるような、身動きの取れない格好にさせられ、更に其の拍子に掴んでいた手も離れてしまい、尻でも押さえていたストッキングがあっという間に膝の脱がされてしまった。
ごろりと音を立ててローファーも足から外されて、黒の細かい網目にぼやかされていた、肌理の細かい脚が外気に爪先まで晒される。
両脚を脇に挟みながら剥ぎ取ったストッキングをくるくると丸めて足元の荷物置きの台座に乗せたリザイアは眼の前にぴんと伸ばされた五本の足指の先の、新鮮な貝のような薄紅色の爪から、静かな川の水面を思わせるすらりと伸びた脚を通って、焼きたてのパン生地の如くふっくらとした柔軟な力強さを窺わせる太腿を、ゆっくりと視線で辿っていくと見惚れた溜息を漏らしながら、
「――綺麗な脚。脚を直に出すのはもっと若い子の特権だけど、貴女の此の脚なら誰にだって見せられるわ。いいえ、もっと見せていくべきよ。ああ、本当に綺麗……」
力を籠められて曲げられている事で整っている爪先に口付けを落としてから、形良く揃えられた五指を順繰りに唇で愛でるように食んでいって、舌先で指先や指の間の、汗と汚れの醸す饐えた芳香ごと舌先で絡め取っていく。丁寧に舌を使いながら脹脛や太腿をマッサージする様は奉仕そのものである。
足の指を口に含まれた瞬間、スミカは「ひゃっ」と驚いて、可愛らしい声を上げる。違う指を咥えられては舐められ、さわさわと脚を撫でられる、先程の貪るような口淫とは真逆の感触に、むず痒くもぞくぞくとした心地良い悪寒が局所を通り抜けて背筋へと奔っていくのを留める事は出来ず、身体を小刻みに震わせる。
微弱と云える程の小さな性感にどうして耐えれないのか不思議でならなかったスミカであったが、身体中の隅々を少年に弄ばれ、また愛され尽くされたと思っていたが末端への愛撫は数少ないからだと思い出された。
バイセクシャルの色情魔であるテレジアは兎も角、愛弟子であったウィンディー、更には最もウマが合う戦友のスティレット、そして抜けた所ばかりだが逆に其れがために放っては置けないエイ、と云った風に気づけば数少ない友人達と絡み合った以上、同じ女である事はこの際最早些細な問題だとしても、初対面であるリザイアに少年以上の愛撫をされている事が口惜しくて、現実逃避をするようにスミカは今彼女がやっている事を彼にさせてみたいなどと空想しようとしていると、
「――カレのことを考えているのかしら? でも、今は忘れさせてあげるわ」
矢張り同じ女だからなのだろうか、相手が自分の事を意識から外しているのを目付きなどで察したらしく、リザイアは足指から口を離してそう言うと内腿を撫で回していた手を奥へと進ませていく。
神経の集中部の周辺に近付きつつある気配のようなものに、また実際に肌が伝えてくる局所の性感の淵とでも云うべき微小な刺激を感じてスミカは身体が更に先、波形の中心を望んでいる事を自覚してしまわずにはいられなかった。
憎らしいほどに正直で素直な自身の身体が恨めしく、同時に情けなくて目尻に涙を僅か溜まる。其れを悟られなくて、そしてリザイアの余裕のある言葉に反抗の意を見せるように顔を横に逸らす。
だがリザイアもリザイアでスミカが思い通りの反応ばかりを見せてくれるものだとは思ってはいないだろう。確かに従順である事も良いのだろうが、多少は抗ってくれる方が昂る性分である事は間違いない。
顔を背けて脚を絡め取っている腕や脇から逃れるように身を捩らせるのも意に介さないどころか、そんな反抗をも愉しんでいる風である。
今までの遣り口から見てもリザイアは責めるのが好みらしいが焦らすつもりは余り無いようで、それでもショーツは淫唇に挟まれてしまっている為に露出している大陰唇を、少し伸びている爪先と指で弱く掻いて性感を煽ろうとしてくるのに対してスミカは声を出しまいと唇と固く結んで、横目で睨みつける。
リザイアは鋭い視線を眼で受けている訳ではないとはいえ風に流している風にスミカの股間に視線を注ぎながら尋ねた。
「身が固そうな割には際どい下着を着ているのね。カレの趣味? それとも貴女の?」
「……お前に、んっ、聞かれる筋合いは、無いっ」
「破廉恥だとか言うつもりはないからいいじゃない。確かにいやらしいとは思うけど、寧ろ褒め言葉。全体の見た目と云うよりはお尻そのものを強調していて凄くいいわ。それに私も常に穿いているぐらいTバックは好きなの」
言いながら興味が其処に移ったのだろう、リザイアは細いショーツに締め付けられて殊更に盛り上がったような印象の桃肉を
しかし、彼女と違って常用している訳ではなく、偶々であった為にスミカは同じにするなと言ってやりたいぐらいだった。しかし、下着一つでどうこう言ってもしょうがなく、与えてくる性感を耐える方がより建設的だろうと考え直す。
そんな事よりも身体が動いてくれる事が一番の解決策なのだが、其の目処は到底立ちそうに無い事がもどかしかった。だらしない己の身体に文字通りに歯噛みしていると、リザイアは口惜しそうな表情を浮かべた。
「残念だわ。私の家だったら貴女を四つん這いにして、この大きなお尻ごと犯してあげたかったのだけど。流石にペニバンは持ち運びする訳には行かないものね――もし興味があるならいらっしゃい。カレのじゃ物足りない時もあるでしょう?」
――あいつのはお前が愉しんでいるのなんかよりも二倍、三倍は大きいだろうさ。
リザイアは少年がまだ子供だから、ペニスの大きさが小さいと想像したのだろう、スミカは心の中で勝ち誇ったようにせせら笑わずにはいられなかった。しかし、純正のレズビアンでは無いリザイアに其れを教えて少年の味を知られるのも癪だと考えたので、敢えて口に出さなかったが――それと何故か心の片隅でテレジアならあのバッグの中にそう云った類の物を入れていてもおかしくは無いと思いつつも、彼女の満足するサイズは入りきらないだろうなとも思った。
目敏いリザイアにそんな心境を悟られまいと嫌がる風に眼を瞑っていたので、僅かに生まれた余裕を感付かれる事は無かった。尻肉の感触を一先ず堪能し終えたらしいリザイアは「そろそろこっちに行きましょうか?」と囁かれた事で其れを打ち砕かれる。意味する所を即座に理解して手を伸ばしたが、目的の物は面積の少ない為に、股布に引っ掛けられた指によって、あっという間に内腿から膝、脹脛、踝、そして爪先と云うように脚を滑って行ってしまった。
勿論、跡に残されたのは――元々在るものではあるが――概ね三角形に縁取られた陰毛を、帽子か冠のように冠る、リザイアの誘い文句に想起されて想い浮かべていた少年の肉棒を、幾度も受容れて来ては其の度に女としての悦びを刻み込まれてきた場所の入り口であった。
「くぅっ……」
「此処も綺麗ね」
隠すべきショーツを取り払われた上に両足首を掴まれて大股を開かれ、大事で、そして恥ずべき場所を暴かれて視線を注がれている恥辱にスミカが無意識に苦悶の声を漏らす。
其の視線が少年のであるのなら――と思わずにはいられない。
もし本当にそうであるのならば、今のように余程無理矢理に迫られた訳でないのならば何時まででも見せてあげてやりたいし、また見て貰いたいと、そしてそれ以上の事も望むのにと。
だが現実は望まぬ相手だ。改めて悔しさが募りつつ、今にも触れられてしまうのだと、眼を固く瞑り、身体中を強張らせて身構えていると――、
「……え」
シャツ一枚を羽織っているだけで上半身も下半身も露とはいえ、すとんと尻の座りが落ち着いた。
視界も照明が煌々と灯っている天井が広がっていた筈だが、今は板一枚と然して違いは無い、トイレの扉があるだけだ。
時間もそう経った訳ではないが、非日常から日常に突然に戻されたような呆気無さに放心しかける所であったが、眼の前にある筈の物が無いのだ――天井の手前にあった、豊かなストレートのブロンドの中で傲慢に輝く瞳が。
スミカはたちまち気配に気付いて下を見遣ると同時に尻の下から、ぽちゃんと水音が立ち、待ち構えていたように、
「思った以上に相当濡れ易いのね、涎が溢れてる――あ、また垂れてきたわ――それに本当に綺麗な色してる。羨ましいくらい。カレとはあまりしてないのかしら――そんな訳ないわよね」
そしてまたぽちゃりと雫の跳ねる音がした。
跪いてスミカの膝に手をやっていて両足を大きく拡げているリザイアは、広がる内腿の肉に吊られて花弁が拓いている秘肉を至近距離で眺めて、性感によって溢れながらも扉の裏に引っ掛かっていた愛液がトイレの静かな水面に水紋を広げていく様をも観察している。
愛液が溢れた瞬間、牝の香りが一段と濃くなったようであった。
「こ、この……っ!」
トイレに腰掛けながら其処を見られる事など少年にもされた事が無く、スミカは堪らず顔中に朱を差して自由になっている手でリザイアの顔を退けようとしたが――其れも読まれていた。
「――ひああっ!」
ぱっくりと口を開いてしまっている陰唇の狭間も、矢張り滑り気に覆われて瑞々しく輝いている淫肉の迫り出る土手を、愛液が伝ってぬらぬらと濡れる会陰ごと、舌でべろりと掬い上げるように舐め上げられ、最後には淫らに突き出た肉芽を舌先で押し潰されるようにされ、一際大きく甲高い、そして甘やかな媚声を上げる。
押し退けるために伸ばされた手は触れた黄金色の髪を掻き毟るだけで終わり、乱れた毛先が脚を擽る。
逃れようとして引けた腰の代わりに上半身が前屈みになって、まるで股間に埋もれている顔を自ずから秘所へと押し付けている風にも見える。
「は、ぁぁあぅっ! ふあっ、あっ、んっ!」
脚を開いていた手が腰に回されたと思うや否や、尻を便器の窪みに確りと据え直そうと力強く手繰り寄せられて、其れと同時に突き出されていた舌が秘唇の殊更に強く開いて、蜜壷の中に侵入した。
ペニス程では無いとは言え、厚い肉に押し広げられた感触に続いて膣壁を舐め上げられる快感をスミカは身体で顕すように、腰を引寄せられた反動も関係しているが、背筋をしならせてしまう。そして無意識とはいえ、僅かに腰を浮き上がらせようともしていた。
「く……ふぅっ……あンっ!」
其れを何とか自制したものの、更に刺激的な快楽を望む身体の声をありありとスミカは聞いていた。本音を云えば、腰を浮かせ、手で以って頭を押し付けて、自ずから腰を振りたいとはっきりと胸中の欲望を認識もしている。
だからこそ股座にある顔が少年だったらと強く思う。そうであるなら今頃は何の躊躇も無く、はしたなく善がり声を上げて望むままに快楽を貪っている筈だ。
悦楽に馴れていない初心な身体とは逆に、快楽を充分に知っているが余りに抑えきれない衝動を抑えるべく、歯を噛み締めて耐え忍んでいると、途端に秘所から発せられる電気信号が弱まった。
リザイアが口を離したらしい、其の内に何とか蓄積した性感を今の内に逃そうと躍起になっていると、時折ラビアを食み、淫核に息を噴き掛けるのを挟みながらリザイアは口を開いた。
「言い忘れていたけど――ここ、トイレよ。声は抑えた方がいいわ。お互いの為に、ね」
「――っ!」
忠告されてやっと思い出したようにスミカは今更ながら周囲に意識を向ける。しかし、今は他に使用者は誰もいないらしく、少しは安堵の溜息を漏らしたが、これまでは、特に自分が鳴き声を上げていた時などは居たか居なかったかはまるで分からない――そしてこれからも。
リザイアの掌中で遊ばれる悔しさよりも気に掛けるは寧ろ其方の方だったろうと、自分が如何に危うい状態に居るかに気付いたスミカであるが、しかし、忠告した本人はといえば、
「ンン、ンく……」
「あっ! や、やめろ……そんなに音を立てる、なぁ……!」
カップの中にある残り少ない飲料をストローで啜り上げるような豪快な音を態と立てて、濡れそぼったヴァギナから更に次々と溢れてくる淫汁を啜っている。他に誰も居ない静かなトイレの中には低音は良く響いていて、トイレの中どころか外にまで聞こえているのではないかとスミカの心中は焦燥感、それでも矢張り性感と欲動に満たされている。
せめて愛液の分泌が止まってくれればと願うが、啜る拍子に花肉をも吸引されてしまう感触や、どう足掻いても抱いてしまう背徳感の前には其れも虚しい。
絶頂に足らしめる程の強い刺激では無いが、羞恥を煽りに煽り尽くしたリザイアの派手な飲愛によって充分過ぎる程に下準備は整えられた。
むずがりながらも身体は思い通りに動いてくれず、実力行使に出られないからと云って大声を出す事も出来ずに、只されるがまま淫所に吸い付かれていただけであったが、やがてはリザイアも口許や頬までもを愛液でぬらぬらと輝きを帯びながら顔を離した。
「……ン、ふぅっ。ごちそうさま、セレンの美味しかったわ」
場違いな程に快活な笑みを浮かべながらリザイアはそういったが、スミカはと云うと手立ても思い浮かばずに恥辱に晒されていた事で碌に言い返す事も出来ずに恨めしげに睨むだけであったが、気だるそう煮力が無く、締まりの無い口許と云い、殆ど性欲に溺れかけているのは一目で見て取れるぐらいだ。
リザイアは舌で届く範囲の顔にこびり付いた愛液は舐め取り、それより遠くのは指先で拭ってから矢張り口中に収めるのを繰り返しながら唐突に言った。
「――セレンのクリトリス、大きいわね。元から?」
コンプレックスと云う程でも無いが、気にしていた事に言及されて放心しかけているスミカも恥じ入るように赤面した。気が付いた時には自覚する程にあったが、それに気付いたのも、それに元はと云えば少年が関係している。
少年をリンクスとしてマネージメントしようとオーメル傘下のアスピナ機関から引き取るまでは周囲に男の気配すら漂わせなかったスミカであるが――其の凡そ一年前頃から自慰の回数が増えていた。
此れは本人も気付かぬうちに少年を想い、そして求めていた為であるが、それにはっきりと自覚したのは彼の方から求められてからである。
それまでは自分の身体に触れる事など洗う時ぐらいしかなかったのが、突然に自分の身体の具合を知るようになった土台を踏まえたからこそ、そして少年の若さに振り回されるどころか、今までの人生の空白を埋めるかのように求め合った事で生じた身体の変化に気付けたのだ。
じっくりと教えられた事は無いだろうが情報を得る事は難しい事ではない、其処が一般的に女性の弱所であると知っていた少年はテクニックが無いなりにスミカを悦ばそうとしたからだろう。其処を抓り上げ、吸い付き、甘噛み、ペニスを擦り付けたりするなど、よく責めた結果、セックスそのものの頻度が多かったのもあって、以前は手助けしてやらなければ包皮さえ自ずから剥ける事は無かったスミカの陰核は大きく肥大してしまったのだ。
勿論、異常と云う膨れ上がった訳ではないが、小指の先ぐらいしかなくて、本人でさえ摘み上げるのには躊躇われ――実際の所、難しかった――脆弱そうで小さかった芽は薄いショーツを履いていて充血すれば、布地を突起が押し上げるのがはっきりと見て取れる程に花開いてしまった。サイズは変わっても芽のままだが。
お陰で変化させた当人である少年にも、また今でも彼に隠れて自慰に耽る時などにも刺激を得易くなった長所はあるが、何かの拍子に昂奮してしまった時は以前よりも強くショーツに擦れてしまうようになったなど短所もある――とはいえ其れも短所ばかりではなくて、例えば今日訪れたカフェに以前行った際、ストローを摘んでいる少年の指を何気無く見て、最初こそ綺麗だと想っていたのが、直後には自分の乳頭なり、件のクリトリスを抓られるのを想い出してしまった事があって、其の時は机の下で隠れて小刻みに腰を振って、二重の意味で肥大化した豆をショーツに擦り付けた。
公の場、そして少年の目前での――彼には気付かれたくて、何度も意味ありげに舌なめずりをしたり、ストローを咥えながら出した舌を動かしてみたりもした――オナニーによる背徳感に塗れた快楽は直ぐにスミカに絶頂を齎して、ショーツどころかスカートの裏地、そして椅子の座面までもを噴出した潮で穢した。
其の後何食わない顔で、使い捨てのナフキンで拭き取ってから退店したのだった。
そして帰ってから其の事を少年に伝えたのだが、其の日は朝方まで眠る事は出来なかった――少年が求めたからと云うだけではなく、スミカも彼との長丁場のセックスを望んだ。怒張が復活し易くなる為に、そして昼の快感を再現したいが為に、何度少年の前で一人だけの痴態を見せつけたか数え切れない程だった。
「大きいから簡単に摘めるわね」
「――ひっ、くぅう……っ!」
自身のと比べて尚一層に大きいと感じたのだろう、リザイアはそんなスミカの陰核を興味津々と云った風に遠慮なしに親指と人差し指の腹で摘んだ――と云うよりは捻るようにして抓った。
感覚が鈍っているのではないかと云う危惧があったのかもしれないが、其れは全くの杞憂であった事はスミカの予感しながらも抑えようとして尚も抑え切れなかった苦悶に近い、嬌声を聞けば分かる事であろう。
脱力していた肢体が高圧電流でも通ったかのように鋭く仰け反って、見開かれた目尻からは涙が一筋流れて、たなびくシャツの中で豊満な乳が包んでいる布を波打たせるようにして上下に大きく扇情的に揺れる。
「あら、ごめんなさい。ちゃんと感じるのね。痛かったでしょう……?」
「うっ……ンンっ」
意地の悪い責めではなく、本当に疑問だったらしく、リザイアは一瞬驚いた顔をして素直に謝罪したが、直後には一見平静ではあるが何事かを隠した表情へと変えて、強くされたのが理由の全てと云うわけではないが、赤く充血している淫核に顔を寄せると打身の痛みを和らげるように窄めた口吻で息を拭き掛けた。
小さな一箇所に局所的に熱を帯びているだけに清涼感のある風は心地良かったが、心地良過ぎもあった。しかし、所詮は微風でもあり、スミカは決して強くない性感に身悶えるように声を漏らしていると、
「はぁンンっ!」
舌先でちろちろと小刻みに、クリトリスの膣側を丁寧に舐められて甲高く喘いでしまった。
其の舌の遣い方から測るに傷口を舐めてやっていると云うつもりなのだろう、当然ながら過度な気遣いなのは確信犯的に理解しているが。
(だ、駄目だ……イカされて……イカされてしまう……っ! )
一年程前と比べて豊富になった経験がスミカ自身にそう予告する。
身体は一層に力を奪われていくばかりで、そして肉芽への責めもほんの手始めなのだ。認めたくはないが、違え様の無い事であると云う諦めに近い。
(これ……? ……あ、まずい……! )
予想通りに唾液に塗れる局所に触感が心地良い、ぷっくりとした唇が触れてきたが、しかし、予想外の、また経験外の出来事が同時にスミカを襲い始めていて、最初は其の正体が分からなかったが、直ぐに判明した。何故なら其の感覚はセックスよりも遥かに馴れ親しんでいる物であったからだ。
クリトリスに愛でるようなキスが繰り返されながら、同じ下腹部からではあるが、やや出所が異なるような衝動が鎌首をもたげて、偶然にもリザイアの責めが刺激的になっていくのと同期して其れも強くなっていく。
堪える事は出来ないと予感出来てしまっていたが為に、到底望みの薄いことをするしかなかった。
「や、やめ……ま、待て」
「んん? 止めもしないし、待ちもしないわよ」
「本当に、待ってくれ、頼む……出て、出てしまいそうなんだ……」
絶頂の到来を思わせられているだけではなく、尿意まで感じている事をリザイアに伝えるのは屈辱以外の何物でもなかったが、今のスミカには止めてくれと懇願するより他に無かった。
苦渋の決断で何とか言葉を紡いだばかりの口は直ぐに唇も歯もきつく閉じられる。
羞恥も限界と云う風なスミカの様子を上目遣いで窺いながらも、淫核に口付けを落とすのを繰り返しているリザイアの反応は、
「――丁度いいじゃない、トイレなのだから」
好都合と言わんばかりの声音でそう言ってのけたのだった。
そう云う問題ではなく、人前で排してしまう事こそが問題なのであるが、スミカの凛々しい貌を恥で崩してやりたいと思っているリザイアには正に好都合でしかない。寧ろカフェまで尾行していた時点で予定の内に組み込んでいたのかもしれない。
殆ど諦めの胸中とはいえ、スミカは絶望に近いものさえ抱いていた。
後は此の場から逃れるしか方法は無く、芯の抜けた足腰に鞭打って立ち上がろうとしたのだが、
「ふああっ!」
即座にリザイアに局部をむしゃぶりつかれて、果てるのを今か今かと待ち侘びている身体は居座りを変えるだけに終わる。喘ぎを漏らした締まりの無い口許からは意思が崩れていくように、唾液が一滴垂れていった。
そしてリザイアも制したのを皮切りにして落としに掛り始めた。
性感に打ち震えるスミカの身体を象徴する、ひくひくと震える女芽、そして周りの恥毛までもを含むように秘所の上部に吸い付き、温かな口腔の中で突起を飴玉でも舐めるのように舌先で乱暴に転がす。
リザイアの顎辺りでは自分にもして欲しいと訴えかけるかのように恥部の穴の肉壁が戦慄き、少し上ではもう一つの恥穴が膀胱に堪っている聖水を吐き出したくて口を開けている。
「やっ、やあっ! やあぁンっ!」
何かの拍子で弾けてしまいそうな意識と、矢張り緊迫が僅かに解けるだけで放尿してしまいそうな、悲哀一歩手前の切なさにスミカはかぶりを振りながら、泣声に近い嬌声を上げる。
そのように無駄だと悟りつつも必死に逃れようとしていたが故にスミカは気付けなかった。閉じようとする両脚を無理矢理に抉じ開けていた手の拘束が解かれ、其の手が何処に向かって行ったのかを。結局、起こってから分かったのだが、其の前兆は直ぐ後に音として現われていた。
自らの悲痛な喘ぎ声の狭間に何かの作動音が鳴ったのを意識の端で聞いていたが、それがアジトにある、ネクスト用のガレージの中にある巨大なクレーンのアームが動作する際の音に似ていると気付く事も無ければ、勿論正体に気付く事も無かった――突然にリザイアの手で尻肉を掴まれるまでは。
「――はううぅっ?! だ、だめっ、だめぇっ!」
左の肉を鷲掴みにされて、桃肉同士を離れさせる風に外へと押しやられたと思ったら、尚も水面に愛液を垂らし続けている膣口を通った其の先の窄まりに温水の水流が飛び込んできて、其の刺激に驚愕を交えた快感の声を高鳴らせた。引っ張られた肉と同時に広げられた菊門は元に戻ろうと力んだが、其の分尿道への意識が疎かになって、刺激臭のする液体が僅かに滲み出たが、完全に漏れ出る前に何とか食い止めた。
だが其れも長くは保ちそうに無かった。膣、口だけではなく此処も通して体内に少年の男根を受容れた経験が既に何度もあるので、穴は明らかに受容れ易い風に緩まり、痛い程の締め付けも柔らかくなっていて、供えられている快感神経も殊更に鋭敏になっている肛門には尚も衰える事無く、便座に設置されているウォシュレットの水流が当てられ続けていて、スミカに背徳の性感を与えている。
其処での絶頂も経験しているが、味を知る過程で敏感な菊座の口吻と直腸への刺激は正直に言って堪らないものであり、其の内に心からの甘い吐息を漏らしてしまった程だった。
便座の右端に設置されているコントローラーに手を遣って、スミカの直腸内に温水を注ぎ込ませているリザイアも其の反応や固さがあまり無い感触に察したらしく、
「――こっちにも興味があるなんて不健全な男の子ね」
と、驚きを隠せない風でありながらも嘲るように言った。
しかし、アナルセックスを少年に求めたのはスミカの方であるから其の予想は見当違いである。ペニスのサイズを勘違いした時とは違い、今のスミカに其れを嘲る程の余裕は無いが。
「ほら、どんどん強くなっていくわよ」
「はあっ、はっ! ああっ! もう、ダメだ……イ、ってしまうぅ……!」
一番弱かった水流の強さを一段階上げてからリザイアはそう言うと、コントローラーに手を置いたままスミカの陰部への口辱に戻った。
局部を口吻で吸い付かれ、肛門を嬲ってくる性感に善がり狂いたい衝動を抑えきれずに、自ずから淫らに叫び上げて、リザイアの頭を股間へと押し付けて、くいくいと空腰を遣い始めてもしまう。
懇願した時と違う意味での恥も外聞も棄て去ってしまった様である。
しかし、スミカがふるふると乳房を上下させながら、排泄の時のように括約筋を自ら広げて、一息ごとに締め付けを強くされるクリトリスからの快感に浸っていた時だった。
「――スミカさぁん?」
「――っ!」
トイレの入り口からの声に、心地良さ気に筋肉を緩ませていたスミカの表情が、一瞬で強張った。
誰であるかを考える必要も無く、其の声は少年であった。
分かれた際に行き先を告げてはいなかったとはいえ、走り去った方向と衣服の汚れを落とす目的からトイレへと考えが行き、また余りに長時間の為に心配になったのだろう。
何時からか彼の事をすっかりと失念していたスミカは、それまで無心に求めようとしていた性感もどうでもよくなって、反射的に腰を上げようとすると、
「――ひゃあンっ!」
其れまで淫核への刺激を段階的に強くしていたリザイアに何段も飛ばした強さで吸い立てられて、少年へと意識が向けられていた為に性感への心構えが無くなっていて、大きな声で鳴いてしまった。
直ぐに詰問する視線を股座のリザイアへとぶつけるが、嗜虐的な眼の上目遣いで一瞥くれると直ぐに股間の方へと向き直っただけだった。
其の態度に怒りを覚えずにはいられなかったが、其れよりも問題であったのは、
「スミカさん? どうしたんですか?」
今の嬌声は少年にも聞こえていたらしく、心配げな声が外から投げ掛けられてしまった。
だがスミカがそれに返答する事は出来そうにも無かった。
「……く……ぅんっ」
ウォシュレットのレベルを更に上げ、唇でクリトリスを擦りながら膣に引かれている小水の筋の大本である尿道を舌で穿ると云う風に、リザイアが一切責め手を緩める事が無いので口を開くだけで、抑えている手を外してしまうだけで少年を前にして犯されているのにも関わらず、善がる声を上げてしまいそうだからだ。
それを聞かれたくなかったら、先の通りに此処は大人しく、静かにリザイアの手で絶頂を迎えるしかない。幸いにも此処は女子トイレで少年が入ってくる事も無いだろう――だがスミカの考えは甘かった。
「スミカさん、平気ですか?」
怪訝そうな少年の声が徐々に近付きつつある。
自分の身の事もあるが警戒しながら入ってきている彼は直ぐにも個室が一つだけ閉じられている事に気付くだろう。
情交を他人に気付かれてしまうと云う焦燥に駆られた経験は以前にもあったが、赤の他人に少年との行為を見られるのも嫌だが、、赤の他人との行為を少年に見られるのはもっと嫌だと、スミカが脂汗を額から流していると、
「ひうっ?!」
水分はあるが、温水とは比べ物にはならない程の固い物に菊門を触れられて、感覚の差異に思わず声を上げてしまった。
柔らかく、其の先には硬質で鋭利な触感――考えるまでもなく、指だ。以前よりも収縮の強くなった窄まりを放射状に包む皺の端と端を、太さの違う二本の指が減り込んでいる。
「スミカさんっ?!」
薄い扉を通り抜けた声によって、いよいよ不安が危惧へと変わった少年が、女子トイレに踏み込む事の躊躇いを捨てて間隔の早い足音を立て始める。
続けて自身に向けて発せられる呼び声と足音を意識の端で耳にしながらスミカは口を手で抑えながら下半身を見遣る。股座に顔の下半を埋めているリザイアはサディスティックな光を滲ませる上目遣いをしながら、スミカの尻の下に手を伸ばしている。
視界の端でグレーの生地スーツと裾から覗ける水色のシャツに包まれている白い左腕が仰々しく、ゆらりと持ち上げられる。其の先端で小指から順繰りに折り曲げられていく指の内、勃起した男の肉棒を想起させるように人差し指だけが返る程に伸ばされ真下へと向けられる。
其の状況下で少年のモノを受容れる時を髣髴とさせる、淫らな入り口の両端を抑えられている事に、口は陰になっているが笑っていると云うリザイアに対してスミカはやめてくれと言わんばかりに嫌々とかぶりを振るが、眼鏡のグラスが光を受けるよりも菫色の瞳が蠱惑的に輝いた。
そして隣の個室で何か物音がしたと思った瞬間、
「――スミカ……さん……」
個室を隔てる壁と天井の隙間から、癖っ気の強い白い頭髪に覆われている見慣れた顔が現われて、自身を見下ろしているのと眼が合った瞬間、
「だめっ、見ない……うっ、くうぅぅぅ……ぅぅっ……はあぁっ!」
スミカの半裸の肢体が大きく二度揺れた。
一度目は涎に塗れている淫唇と同じようにアヌスを、ぱっくりと口を開けられて直に温水を注ぎ込まれる感触、そしてタンタンと小気味良く奔るリザイアの指が便器の傍のコントローラーのボタンを続けて押されたて直後には一気に直接に直腸の、奥の奥までを撫でる温かな迸りが――男根や、そして其の先端から吐き出される白濁よりも温いものの長く、強い――勢いを増した事によって。
其れらと同時に少年に目撃された同様で震える心に似て、びくりと震え上がった淫核を、責めるかのように柔らかく噛み付かれ、そして愛でるように吸われて。
スミカは少年に見守られるようにして、呆気なく達してしまった。
「はぅ……ぁっ……いやあ……」
最後には嗚咽に近い喘ぎを小さく零し、その度に脱力して矮小になった雰囲気を醸す身体を小刻みに揺らしながら、便器に湛えられている水溜りを薄く染めていく。
出始めの濃ゆいのはリザイアの口許を穢し、飛び散った雫が眼鏡のグラスをつうっと撫でた――。
「――ありがとう、愉しませて貰ったわ」
上着のポケットから取り出したハンカチで尿を掛けられた鼻下や口許、そして眼鏡を拭ったリザイアは、打ち拉がれた様子で便器に身体を預けているスミカにそう言うとドアの鍵を外した。
留めが無くなると勝手に開きっ放しになるドアはゆっくりと開く筈であるが、直ぐに開け放たれた。
「悪いわね。少しだけどセレンの事、借りたわ」
自身でもそうと分かる、勝ち誇ったような顔で鋭い視線を投げ掛けてくる、小柄な少年を見下ろしながらリザイアは傲慢に吐き捨てた。
しかし、彼は何も言うことなくリザイアの身体を跳ね飛ばすように押し退けてスミカに駆け寄った。
そんな風に走らせているのは他ならぬ彼女であるが、甲斐甲斐しい、と云う風にリザイアは思いながら其れを僅かな間見守っていたが、同時に呆れたように鼻を鳴らした。
責め立てた昂奮で不快感がある程にぐっしょりと下着が濡れているように、脇を通っていた少年もまた、股間を膨らませていたからだ。
其の処理をどうするかには僅かばかりだが興味のある所であったが、それよりも自身の疼きをどうすべきか、そして下着をどうするかの方が優先度の高かったので、あっという間に少年もそしてスミカも興味が失せて、リザイアは思考しながら何も言わず、最後に一瞥する事も無く、其の場から立ち去ろうとする。
だからリザイアは気付けなかった。
声を掛けながらスミカの身体を少年が揺らしていると、彼女は其の肩に凭れ掛ったのだが、其の様がまるで何か耳打ちしているように見えるのに――。
豊かな金髪を掻き揚げながらリザイアが個室から一歩外に出て、正面にある洗面所の壁一面の鏡に上気して朱に染まった自身の顔を認めた瞬間であった。ふわりと舞う長髪の陰で影が蠢いて、
「――きゃっ……?!」
既に全開になっていた扉が再び、ぱたんと閉じられて、ガチャリと鍵の掛かる音がした。
グレー、水色、黄金、菫、朱と様々な色を雄弁に映していた鏡は無機質な白を映すだけになった。
光景は使用者の居ない便器の中の水のように静かであるが、トイレとは思えない程に騒がしい。
「な、何をするのっ!」
「何って? お前は頭がいいんだから分かるだろう、ナニに決まっている」
あべこべに今度は自らが個室の中に引きずり込まれたリザイアは、スミカに羽交い絞めにされ、膝の上にされるように便器の上に座らされていた。と、同時に、少年が其れを見るや、手早く扉を閉めた上に、鍵を掛けるのを目の当たりにして、厳しい声で詰問する。
真後ろのスミカの顔は見えないが、声音を聞けば酷く嗜虐的な表情を浮かべている事は明らかだ。反対に眼の前の少年はスミカの言葉に対して(品が無いなぁ)と言いたげに呆れた顔付きである。
すると、スミカは唇をリザイアの耳朶に触れるか触れないか程に緩慢に接近させてから、生暖かい息を耳に掛けるようにして、更に続ける。
「だが、そういう奴に限って案外頭は固いものだ。だから分かり易いように一から説明してやる。いい迷惑な事に、態々、お節介が過ぎる事に、女相手もいいものだと教えてくれたように、お前にも教えてやろうと云う訳だ――偶には、男相手もいいものだ、と云うの事を、な」
耳朶と耳穴の壁を吐息に撫でられて、ぞくぞくと背筋に悪寒が奔って行く甘美な心地良さに、喘ぎが漏れそうになるのを必死に堪えていたリザイアだったが、不吉な宣告に惚けそうになっていた身体が緊張で強張った。
男、と云うのは今は眼の前に居る少年しかいない事に。
とはいえ、年端もいかない子供が自分に男の味を教えられるとは正直な所、露程も思っていないリザイアであるが、子供に犯されるのは嫌だった。最も性的な興味からは遠い上に、実生活は兎も角、性交では絶対的に上位者でありたいリザイアにとって子供に良い様にされる事は屈辱でしかないのだ。
性質が少なからず共通している彼女が子供に溺れていると思うと、リザイアは僅かにスミカに対する侮蔑が生まれて、また動揺を隠す為に「ふん、貴女はこんな子供で満足しているの? 随分と望みが低いのね」と見えないまでも出来る限り強く浴びせられるように、後ろを振り向くようにして辛辣な言葉を吐き掛けた。
しかし、手を出されるにせよ、詰られるにせよ、逆上されるにせよ、何かしらの暗い感情を籠めた反応があると予想していたのだが、
「望みが低い? ほう。もし、そうなら――私も相当だな」
何事かを含む意味深な言葉を返されて、その意味すると、ころが分からずに困惑していると、視界の端でスミカのあの美脚がすうと伸びていき、爪先で少年のジーンズ生地に包まれた脚を下から舐め上げるように辿り始めた。
訝しげに其れを見るリザイアと違って驚いた表情の少年であったが、股間の膨らみを引っ掛かられて男とは思えない程の甘い声を漏らす。幾ら子供に性的欲求を持たないとはいえ、サディズムを持ち合わせている為に其の声に少なからず昂揚した。
そんなリザイアの胸中の奥の反応を知ってか知らずか、スミカはもう片方の脚をも伸ばして少年の股間を弄りながら「早く脱いだらどうだ。苦しいだろう」と言った。どうやら少年の方は此の行為に乗り気ではないらしく、否応無く昂奮させる為の行為だったのだ。
しかし、リザイアからすれば確かに窮屈なのだろうが、子供のモノがどれだけ大きくなろうと大した苦しみではないだろうと心中で嘲っていると、腹を括ったのか、少年は膨らんでいる布の張りの上部に手を遣った。ジーとファスナーの噛み合わせが外れていき、開かれたスリットの中に手を突っ込み、中のモノを取り出そうとして衣擦れの音を立てているのを見て、背後のスミカが興奮し始めているのが、うなじに掛かる息の熱さと頻度で分かるようだ。
そしてごそごそと狭いポケットの中からハンカチを取り出すようにしていた少年は手を抜き出しに掛かって、スミカも最高潮の寸前と云う状態にリザイアは(児童性愛者かもしれないわね)と思わずにはいられない。
中で引っ掛かっていて僅かに手間取っていて「ふっ。小さくて、外に出すのが、大変なのかしら?」と恐れ知らずにも挑戦的に侮蔑の言葉を吐き捨てる。やがて、蔑みを秘める白目に、嘲りの――しかし、隠し切れない不安が滲む――視線の元に、漸く少年のモノが現れ出た途端、
「え……う、嘘……」
眼鏡のレンズの下の嘲笑的な半目が、驚愕の声と共に、大きく且つ真ん丸に見開かれた。
リザイアは、少年の性器の大きさを、植物の球根が少し伸びたような程度のモノだろうと想像していた。敵意に拠るバイアスを抜きにしても、彼の年齢や容姿の印象を考えれば、低過ぎる、小さ過ぎる想像とは云えないだろう。だが、実際は異なっている――そう、正に文字通り、大きく。
現実には、親指を何本も束ねたような野太く、そして、小柄の身体付きとの対比も相俟って、肘から指の先まで在ろうかと感じられる程に長大である。リザイアは、一瞬、彼のズボンの中から、表面が褐色に焼けた鉄パイプが飛び出したと思ったのも無理からぬ事だろう。実際、ソレが、ズボンや下着の中に収まり切っていのは不思議だと云える。
如何に恋人を手篭めにした相手とはいえ、初対面の人間を前に性器を晒している事に羞恥を感じて恥じ入っている、いじらしい少年、文字通りの少年、其れ以上に中性的な美少年の、白く美麗な顔とは余りに掛け離れていて、リザイアは上と下を見比べるように視線を反復させる。
拘束されていようとも傲慢さや強気を押し出す意思が脆くも崩れ去った形だ。
そうしていると、背後でスミカの、嘲るような口調の低い声が、更に驚くべき事実を告げる言葉が、リザイアの耳元に、そっと囁かれた。
「――何を驚いている? まだ勃起し切ってないぞ」
ソレを見せ付けられた瞬間は、リザイアは声が漏れたが、今度は声はおろか息すら出なかった。
よくよく観察すれば確かにスミカの言葉の通りで、ソレは既に血は通っていて太く在りながらも、未だソノ先端は力無く項垂れているのだ。しかも、徐々に力を漲らせている気配も感じられる。
其のようにリザイアは既に実感しているのだが、スミカは手早く証明しようと云うのか、下ろしていた脚を持ち上げると、渇を入れるように、しな垂れるペニスを蹴り挙げるようにした――正確には両足で挟んだ程度だったのだが、靭やかで長い脚が鞭のように振り上げられたからか、リザイアにはそんな風な印象を受けた。
「はあっ、ああうっ!」
「こいつは女の身体に擦り付けたり、擦られたりするのが大好きだからな。どんどん大きくなっているのが分かるだろう――ふふ、言わんでも分かるか」
初め、頬擦りしていた足裏が、根元を挟んで、長いストロークで扱き回す。また、口に含んで甘噛みしつつ舌で転がした足指が、穂先を捉えて、表面を擽り回す。膨張且つ伸長した事で黒味は薄くなったが禍々しく青黒くて太い血管を浮き立たせる淫茎を、縮こまっていた時は雁首との境目の区別も付かなかったが今は赤黒く染まり始めて自己主張する亀頭を、撫で擦り回す。
嗜虐心を煽るような甘い嬌声を発しているのは少年自身だが、スミカの足に荒々しく嬲られているモノをじっと見詰めているリザイアにはソレが声を上げているように聞こえた。
仕上げのように最後に、巧に捻らせながら根元から先端まで切れよく扱き上げられ、其の勢いのままに男根は足の愛撫から解かれて、水を浴びた獣が水分を飛ばすようにぶるんと震えた。
少年と云う事を考慮すれば充分に驚愕せしめられたサイズが、まるで手品のように瞬く間に何倍もの大きさに肥大化して自身に矛先を向けているのに、リザイアはまだ眼の前の光景が信じられないように呆気に取られていると、くすくすと耳元が擽ったくなるような低く、妖しい嗤いを漏らしながら、スミカはおどけた声音で、
「どうした、何を黙っている――ああ、そうか。拍子抜けしているのか。さっきも、”こいつの小さいのでは物足りない時もあるだろう” なんて言ってたものな。逆に驚いているか? “この程度の大きさ”のオモチャは、小さ過ぎて、却ってお前も持って無いのだろう――ふふ、想像も付かんよ。私は”これ”で満足してしまっているから、もっと大きいのなんて」
驚愕して固まっている所に自分が言った言葉が自分に返って来た。
実のところ、リザイアが所持している性具の中に、少年のペニスよりも長いのも、太いのも無い。それどころか匹敵するようなものも無い。
また女ばかりではなく、女相手と比べれば男との経験もある彼女であるが、矢張り、こちらでも少年に優るモノを持つ者は居なかった。というよりも、彼女にとっては不運な事に、何故か彼等のペニスのサイズは人並より小さく――なので、リザイアにとっての男性器の平均的な大きさは、社会一般の標準よりも小さい――更には、補うだけのテクニックも無かった。そして憎々しげにスミカに囁いていたように、誰も彼もが独り善がりであった。故に、男では満足な快楽を得られないと思い至り、リザイアの嗜好は同性へと傾向、いや、傾倒したのかもしれない。
また幾ら見た目は可愛げのある子供とはいえ、矢張り男なのだろう。シンボルを嘲られていたと知って、少年が、むっと顔を顰めたのを見て、リザイアはぎくりと強張った。
彼が乗り気ではなかった事が、皮肉にも彼こそが、此の状況から逃れる最後の希望だったのかもしれないのだが、今ので意地が出てしまったのなら、最早、誰も止めるものは居なくなってしまった訳だ。再び皮肉と云うべき事に、彼女を追い詰めたのは彼女自身であった。
リザイアが先程までの傲岸不遜な態度も消え失せて冷や汗まで流していると、
「よ――っと」
「あっ! ちょ、ちょっと……!」
身体の下で開いたスミカの両脚が上がったかと思うと、器用に股の間に割って入ってきて無理矢理に開かせられた。
長めのスカートであっても全開させられれば、暗がりの中のトルコブルーのショーツの殆どが露になる。いよいよ危機感を感じたリザイアは拘束されたばかりの下半身だけではなく、上半身もばたつかせるが、力ではスミカの方が優っているらしく――というより男顔負けで――無駄に体力を浪費するだけだ。
すると、スミカが肩から顔を突き出すようにして、
「中々可愛らしい下着じゃないか。流石にオーメルだけあって安かったり、ダサイのは履かないと云う訳だ」
「オーメルの人は皆、お洒落なんですか」
「いや、何となく、そんなイメージがある。但し、鼻に付くようなセンスだがな――まあ、そんな事はどうでもいい。よく見えんから確認してくれ、こいつのアソコはどんな状態だ」
「え、ええっと……ぐしょぐしょになってます。それとクリトリスの場所も分かります」
「直接、見てみろ」
筋が痛む程に更に股を広げられて、見え易くなったショーツを観察される恥辱にリザイアが唇を噛んでいるとスミカが更にそう指示したので声を上げながら抵抗したが、それも虚しく、股布の部分に指を引っ掛けられて、
「いやっ、いやあっ! 見ないでぇっ1」
「どうだ」
「毛を剃ってるからよく見えます」
「へえ、剃ってるのか」
「おまん○から汁が沢山溢れてて、周りも濡れてます。それにやっぱりクリトリスがすごい大きくなって、ひくひくしてて――あ、また垂れてきました」
「やめてっ、やめなさいっ!」
拘束された上で股座を覗き込まれ、恥部の様子を具に観察される屈辱、其の視線と吹き掛けられている熱い吐息を刺激と認識して反応してしまっている羞恥を悟られまいとリザイアは強い口調で声を張り上げるが、上擦っていて震えていた。
そんな声は無視するかのようにスミカはなる程と云う風に頷くと、
「よし、戻しておけ。それと今の感じを覚えておけ」
予想外にもそんな指示を出した。
肝心のリザイアは勿論だが、言われた少年も面食らって見上げたが、スミカの意図する所に気付いたらしく、其の通りに、明るめの色ながらも派手だけ、と云う訳では無いショーツのクロッチを戻して、つるりと剃りあがった秘所を隠した。
それと同時にスミカもリザイアの股を開かせていた脚を解放したが、まだ腕を拘束している身体をより深く自分に引寄せてから、尻を前に滑らせるようにして腰を突き出した。そうなるとリザイアの格好は排尿するのを手伝ってもらっている子供に近い、羞恥心を煽るものになるが、スミカは今は其れが目的ではなく、
「先ずは私が実践してやるとしよう――ほら、来い」
前半のリザイアへは嘲笑を多分に含んだ声であったが、少年へのたった二言は短かったが鼓膜に停滞する媚声であり、牝としての喜悦を多分に含んでもいた雄弁な二言であった。
放尿しながら果てさせられたスミカの痴態や、具合の違う淫所を間近で観察したのもあって、立ち上がった少年は其の時を迎えたことに酷く昂奮していて、便器の陰から顔を出した淫茎も小刻みに震えている。
己の尻の下にペニスが潜り込んで行く光景にリザイアは不安になった。スミカと結合するのは見せ掛けで本当は未開発の自分の菊座に性器官が侵入してくるのではないかと。
身体に近寄って着た事で改めて其れの大きさが感じられ、そして発っしている熱を会陰や尻肉、窄まりに感じて形容し難い悪寒が奔り、直ぐ上の背骨に伝わっていくのを感じていると、
「ンンっ――はっ、はあぁぁ……っ」
「く、うっ、うぅぅ……!」
リザイアの危惧は全くの杞憂でスミカと少年は、彼女が見守る中、彼女を間に挟んで性器同士を下腹部が触れ合う程に密に繋がる一体感に心底心地良さげな嘆息を長々と漏らした。
しかし、スミカにしたって、少年にしたって性交にしては歪な体勢である。スミカの方はリザイアを抱えたままで腰を突き出していて、少年の方は正常位であるので覆い被さりたい所だろうが、意識してリザイアに触れないようにしているので、スミカと同じように腰だけを前に突き出して、抽迭の為に前後させているのだ。
またスミカの脚を掴みながらも強く引っ張り過ぎては滑り落ちて彼女の体勢が崩れるかもしれない抽迭するにも意識するが必要な状態なのだが、
「ぅうっ……ふああっ!」
ゆっくりと引き抜いてはスナップを利かせるように角度を入れて腰を一気に突き出すと云う緩急の落差が激しい腰遣いに、
「ああンっ! ……はぁ……はああンっ!」
少年もスミカも案外、順調に性感を得ているようである。
自身を支えているスミカの身体ごと、突く度に上下されるリザイアは、まるで船に乗っているような心持である。波が引いては寄せ、引いては寄せる度に船体が揺さ振られて水飛沫の代わりに、じゅぷじゅぷ、と淫液が攪拌される音が上がり、まるで自分も突き上げられているような錯覚を覚えるが、膣に分け入ってくる異物感や膣壁や局所を擦り上げる性感も何もあったものではないので、本当に何処に行くのかも分からない船にただ乗っているだけの虚しい気分になる。
そんな空虚さを掻き立てるのは潮風の鼻を突いてくる臭いとは反対のまったりとした澱んだ匂いだけではなく、前後から――特に背後から――聞こえてくる嬌声であった。
「あはっ、はあンっ! 気持ち、いいぞっ……おちん○、いい……っ!」
快楽と肉欲の中に自ら溺れていくスミカの締まりの無い口許からは俗っぽく淫らな言葉が吐かれていて、それまでの中で――今までのスミカと云うだけではなく、これまでリザイアが相手にしてきた女、そして男も含む――最も熱っぽくて、官能的な鳴き声である。声に滲む媚が強くなる度に自身の腕を縛っている腕の力も強くなる。
耳朶に直接触れてきて、鼓膜を悪戯に揺らしてくる声は、女を責めるのを好みとするリザイアにとっては堪らない物であり、心臓が鼓動を繰り返すかのように子宮が収縮するのを留められない。仮にリザイアが全くのノーマルな嗜好だったとしても、女の奥底がざわつく疼きを得ただろう。目蓋を強く閉じて感激を思わせる表情を浮かべているのだろうスミカの声は羨望を抱き、劣情を醸させるには充分過ぎる媚声だ。
仮に普通の嗜好だったとした場合は、それに加えて少年の野太い牡棒に焦がれて、身も心も牝と化していた違いない――徐々にとはいえ、今もそうなりつつあるのだから。
「ああーっ、いいっ! いいっ、スミカさんっ、いいっ!」
「あっ、ああっ! もっと……もっとぉっ! もっと、突いてぇっ!」
二人の喜悦の声を耳にしながら、より強く身体が浮き上がるように前後されるリザイアは、仰け反るようにして腰を突き出しては快感に打たれて首筋を晒す少年の赤く染まった喉元や、尻の下から現われては引っ込んでいく、愛液を浴びてぬらぬらと濡れ輝く淫茎を眼にしながら、嬌声を張り上げている二人と同じように頬を上気させて、全身の肌が桃色に染まらせている火照りの熱を逃そうと息苦しそうに喘ぐが、寧ろ身体の奥から湧き上がってくる熱は一秒、また一秒と経る毎に強くなっていく。
性感の余りに形振り構わないようになってきて、リザイアの股に少年がこつこつと身体を当ててきて、スミカが自分の腰と一緒に浮かせ始める。すると、スミカは息も絶え絶えと云う風に喘ぎながら、
「ふあっ、ふうっ! ……イ、イキそう……っ」
「僕も、きそうです……ううあっ!」
「キ、キスぅ……キス、しながら、イキたい――ンンむ! ン、ンンーっ……ンふぁっ!」
其の願いに応えるべく少年が顔を近付けた時は、リザイアは自分がキスされるのではないかと本気で想って一瞬身構えたが、顔立ちが幼いが故に快感に緩む表情が酷く淫靡に思える端整な顔は、カラカラに乾いて水分を求めている口許の直ぐ傍を通り過ぎて行った。
そしてリザイアの耳の傍では、ちゅぱちゅぱと互いに互いの唇を食み合う音、じゅるじゅると口吻を交えて唾液を交換し奪い合う音が、彼女の脳髄を犯す。特に突き出した舌を宙空でいやらしく絡ませ合う、ぐちゅぐちゅ、と云ったような淫猥な粘音にあてられたリザイアは自分もしたいと言わんばかりに独りでに半開きになった口から舌を突き出していた。
二人に身体を挟まれて押し潰されるようにされて前からも後ろからも突き上げられているような感触の中、耳の直ぐ傍ではキスの様々な音、秘所の真下からは性器同士の接吻の音が響き合い、口吻の隙間から漏れる喘ぎに混じるようにリザイアも「……ん、あっ」と細く鳴き声を上げた直後、
「――ンンふぅぅぅ……っ!」
「ふっ……ふぅっ、ふうぅっ……っ!」
最後に一際強く互いに吸い付いたのだろう、嬌声ではなく塞がれた呻き声であったが、確かに二人は果てた。
リザイアの細い身体を挟み、乳房を歪曲させながらも其の向こうの相手を求めて、もう一歩だけ寄ろうとする身体は性感のざわめきに戦慄く。
暫くして結束の解かれた口は熱く、扇情的な音階の吐息を幾度も吐き出す。
下腹部から熱を発した直後、少年の精の熱が雪崩れ込んで熱く燃え滾るスミカと違い、リザイアの其処は発散される事も無く、只生み出すだけで澱んだ熱さを持て余す――。
「――それで、どうする?」
少年と甘い口付けを交わしながら絶頂の余韻が過ぎ去っていくのを愉しんでいたスミカが、リザイアに短く尋ねる。
「どうする……って」
「別にこいつとしたいのなら私は構わんぞ。ただはっきり口に出して言ってもらうがな」
「何を、言えばいいというの」
「お前が望んでいる事を包み隠さずだ」
――負けたと認めろ。
リザイアは勿論、スミカ自身にしても、はっきりと勝負を始めた覚えはないが、スミカは言外に確かにそう言った。
では何に負けたのか。散々、女同士の悦びを教えてやると嘯いたが結局男との快楽を望む事、そして少年を玩具にも及ばぬ未熟な子供と嘲った事だろう。
スミカが強気な女だと、それに少年が恋しくて堪らないのだとリザイアは予測していた訳だが、想像以上だったと云う訳だ。
リザイアが視線を顔の輪郭と黒い髪しか見えないスミカから、下へと移す。
其処には、小泡を多分に含む白い淫水を纏いながらも陶器製のトイレの白さとは対照的なまでに黒ずんだ肉棒が、射精直後にも関わらずに、時折びくりと跳ねながら雄々しく反り返っている姿がある。
締め付けられて殊更に赤黒くなった先端は証明の光を受けて。表面の滑らかさを際立たっていて放出した牡汁の青臭い匂いを女の排泄場の中に漂わせている。
リザイアにとって、体表から立派に突き出ていると云う意味では女のモノより不便で何処か醜いとさえ思っていた男根は逆に女のとは違って存在そのもので情欲を顕している姿は何処か蠱惑的であった。
そしてソレが自分に矛先を向けていると考えて、リザイアはごくりと生唾を呑み込んだ。口腔を刺激しあって口端から溢れる程に多量に水分を獲得した二人と違って渇き切った口内にある唾液は、スミカの腹の中に溜まっている精液に負けず劣らすに粘着いていて、酷く嚥下し難いものであった。
「わ、私……」
「ん?」
「こんな、大きいの初めて、で……」
「だから嫌か」
「嫌……じゃ、ない、けれど……」
「はっきり言った方がいいぞ。後悔する事になるかもしれないからな」
何時の間にかに腕の拘束を解いていたスミカの手に恐らく観察した少年の記憶の中とは比べ物にならない程に淫汁の染みが大きく広がっているであろう、股間を弄られてリザイアは弱々しい喘ぎ声を上げる。
本人も気付かない内に自由になっていたが、今は自分自身の胸中にある、若しくは胎の奥底で燃え上がっている炎に囚われていた。
スミカの云う所の”頭が良い”だけに何を言うべき理解していたリザイアは拘束されていた手で尻の下にあるスミカのシャツの裾を握りながら、
「ほ、欲しい……ソレ、ほ、欲しい……セックス……して欲しい」
少年を見るでもなく、スミカを見るでもなく、俯きながらそう言ったのはどちらに言えば良いか分からなかったのもあるが、随分と久しぶりに性交に対して顔面だけではなく全身までもが火照りで燃え上がりそうな強い羞恥心を感じていたからだ。
リザイアがそう言った直後、顔に篭る熱が其の空間に取り残さそうな程、突然に、そして一瞬の間、まるで腰掛けていた椅子の骨組みが崩れたかのように、身体がするりと滑っていった。
昂奮に滾っていた為に思考が惚けていたのもあって、驚く声を上げる暇も無かったリザイアの状態は著しく不安定であった。母親にあやされる子供のようにスミカの膝に上半身を預けているが、下半身は宙空に投げ出される格好だ。そのまま床に尻を落ち着けてもおかしくはなかった体勢であるが、そうはならなかったのは、少年がストッキングの滑らかな感触に包まれている両足首を確りと掴んでいるからだ。便器の蓋が閉じられていて長い黄金色の頭髪は水に浸かる事は無く、少年から見ると其の色のシーツにリザイアが横たわっているように見えた
スミカと少年の情事の間に挟まれていた時の”幼児の排尿”から”乳児のおむつの取替え”の格好に年齢的には退行して、恥辱の度合は遥かに進行した状態であるが、リザイアは二人に身体を預けている事の不思議な安堵感に身を委ねている。
シャツの前が肌蹴ていて胸乳の殆どを露にしながら、ぞっとするほどの優しくも妖艶な顔付きで見下ろしてくるスミカに魅入られたように其の真紅の眼から視線を外す事が出来ず、頭の下に敷いているシャツを握り締め直していると、
「あっ……」
ぐっと足首を握っている力が強くなったと思ったら全てが露になっている、最早何処が染みの中心なのか一目では分からない程にしとどに濡れたショーツの中心にペニスの先端を押し当てられて、淫唇からじわじわと胎内へと熱が伝わっていく。
既にコーティングされていた亀頭が愛液を二度塗りされる。
しかし、受容れる方も突き立てる方も心構えも準備も出来ているのだが、其の入り口が塞がれている事である。此れまでの流れならスミカか少年のどちらかが股布をずらす役目なのだが、膝を押さえられているスミカは離れて行った股間に手は届かないし、少年はリザイアの足首を掴んでいるので手を離せない。
一度出来上がった体勢を崩してから、と云う淫猥な雰囲気を打ち崩すような野暮ったい事を避けたい以上は、
「出来れば……ゆっくり、お願いね」
リザイア自身がトルコブルーどころか濃紺色にまでなったショーツのクロッチを己の手で横へとずらして、幼げな印象を与える無毛の淫穴を男根の前に曝け出すしかなかった。
更に介添えが無ければ入れ辛いだろうから、指で持ってラビアを広げる。ねっとりとした糸が狭い膣壁の間で引かれ、扉に引っ掛かっていたとろみのある愛液が蟻の門渡りを通り、セピア色の窄まりを撫でて、長い糸を引いて床に垂れた。
(本当にこんなの、入るのかしら……)
男が押し入ってくるのを待ち望んでいる、己の痴態に強い羞恥を感じながらもリザイアは其処から眼が離せずにいる。次から次へと溢れてくる淫液を掬いながら、より入り口を広げるように徐々に捩じ込まれる光景に怖れと期待が入り交じった感情を募らせていると、
「――は、ぐぁっ?!」
ズンッ、と奥底に熱い杭を打ちつけられたような鈍く、そしてめりめりと音を立てながら膣壁を力ずくで抉じ開けられた苦痛をも孕んだ性感に背筋を弓反らせるリザイアは見開かれた視界の中、証明の光を掻き消す程の稲光が明滅するのを見た。
亀頭の半分すら挿っていなかった肉棒が、愛液の飛沫を飛ばしながら唐突に根元まで胎内に滑り込んできたのだ。しかも全て入りきったとはいえ、最奥の壁の、更に奥の子宮ごと押し退けるようにしている、殆ど無理矢理な状態だ。
「かは……っ、はっ、はっ、はっ、はあっ!」
陰唇を開いていた右手を一瞬で詰め寄ってきた少年の腹筋に触れさせていて、スミカのシャツを握り締めている右手は関節が白み、甲には筋が浮き立つ程に力んでいて、少年に掌握されている足首の先では両足の指は右手と同じように折り曲げられている。
子宮内の胎児に退行したかの如く、子宮と共に四肢を収縮させるリザイアであるが凛々しく、冷艶な色香を漂わせていた顔は眼鏡のずれた眼は見開かれ、開き切った口許からは呻きと共に涎がだらだらと流れ、赤い舌がだらりと力無く覗けていると云う風に筋肉が緩み切った淫乱な牝の相貌と成り果てている。
虚ろな眼は彼女を見下ろす人型のぼやけた輪郭だけが映っている中で黄金色の髪と一緒に頭を撫でられてリザイアの身体は激烈な刺激から柔和な手付きの落差に「ひゃあン……っ」と小動物めいた声を上げる。
「おっと、吃驚した――イクのが良すぎて敏感になっているのか?」
そんな声に落ち着かせようとしていたスミカも驚いた声を上げると、リザイアは口許を閉じて目蓋も並みの開き具合に何とか戻したが蕩け切って劣情に瞳を潤ませながら、ゆっくりと頷いて、
「くるし……苦しいの……っ」
目尻から涙を零しながらスミカのシャツから腕へと縋る対象を変えて、そう懇願した。
其の言葉通りに少年とリザイアの結合部は押し広げられた陰唇がぱっくりと拡がっていて、見た目だけでは分からないが、膣全体が肉棒をぎゅうと締め付けているのは悦んでいるばかりではなく肉洞の狭さ故だ。また絶頂に達したとはいえ、余韻で戦慄く膣壁は鋭敏になっていて、戦慄いて熱いペニスの存在と脈を感じる度に、其の胎を押し抉じ開けられている感触をも更に強く刷り込まれるようである。
苦しさを訴えるリザイアの様子は先程まで何処か嘲りを秘めながらスミカを責めていた人物と同じとは思えない。
リザイア自身がそれを自覚する余裕があろう筈は無いが、当然スミカにはその認識がある。
「はあぁ……」
そんな感想を抱いているとは露知らず、目尻から側頭部に掛けて涙の線を一筋引いているリザイアはスミカに再び頭を撫でられて安堵の溜息を漏らした。
傍から見れば泣きじゃくる妹が姉にあやされているような、心温かい光景であるが、其の下では禍々しいまでの男のシンボルが股に深々と突き刺さっている。
しかし、不思議に苦痛が和らいでいく心地良さにうっとりと目蓋を瞑るリザイアであったが、
「――やれ」
「え……ひぃっ?! ひああっ! ああーっ!」
短い声を聞いて眼を開けると、表情にこそ然したる変化は無かったがスミカが瞳に氷を宿したような冷艶な色を秘めているのを認めた瞬間、遠慮なしに肉壁を抉られて、苦悶と性感の二つに踊らされる怖れに困惑の喘ぎを上げると、「慣れるには数をこなすのが大事だからな」と酷薄なまでの言葉が降り懸かけられた。
「――イっ、イク! イクっ……! あ、あっ、いやあっ! もうイったの! イったからぁっ!」
両脚ごと持ち上げられた下腹部の中心の熱いぬかるみに向かって、黒々とした肉杭が無慈悲に打ち込まれて雁首に掬い上げられた液体の飛沫が舞い、何度か其れが繰り返されるとリザイアは切羽詰った声を喉からひり出しながら、絶頂を迎える。責めるばかりで男のモノにしても、玩具にしても、蜜壷の中に異物を受容れるのは久しぶりだったのだろうか、鋭敏過ぎて少年が一度も達していない中で既に三度は果てていた。
少年が精を放出出来ないのも、其の前にリザイアが達してしまって、それに構わずに続行しようとしても涙を零しながら止めてくれと懇願してくる。時に快楽に打ち震え、時に過ぎる刺激に子供のように咽び泣くリザイアの顔に黒々とした長髪の毛先を触れさせているスミカはと云うと、そのまま続けろ、とでも云うような顔をしているのだが、それまでの強気さとは落差が激し過ぎる為に気が引けてしまって、思うように突けないのだ。
しかし、強烈な性の電流が過ぎて、リザイアが落ち着きを取り戻したのを確認してから、少年が腰を遣ってみると、
「ああンっ、あぁぁーっ! あーーっ!」
一瞬前の戦慄きや痙攣や強張りが嘘のように、リザイアは堪らないと言わんばかりの善がり声を張り上げて、苦悶の顔を弛緩させる。
すると、呆れたような顔を浮かべるスミカがリザイアの顔を覗き込んで、
「おい、リザイア」
「はあンっ、あンっ……ん、な、なに、ぃいンっ!」
「気持ち良いのは分かるが――ここはトイレだから気を付けた方がいいと言ったのはお前だったな」
それまで蕩け切った顔で喘いでいたリザイアだったが、別人のように強張った。
所謂、デキる女、と云うタイプは感情の揺らぎを表出させないもので、だからこそリザイアも普段は冷艶さを漂わせているのだろうが、今だけはころころと表情を変えている。
女、と云う意味では此方の方があるべき姿なのだろうが、意識して、確信犯的にやっていればの話か。
昂奮で血の巡りが良くなって上気した顔はほんのりと赤く染まっているが、顔付きは血の気が引いたようであると、矛盾しながらもどちらもを確りと外に向けて表していると、
「――はンっ! ちょっと……やっ、や、あンンっ!」
「私もヤられた事はあるのだが、こいつはこういう状況が好きな変態でな」
顔の色合いが青へと傾いていたリザイアだったが、少年が激しく突き始めたので、色が再び身体が温まっている事を示す暖色の方へと戻っていく。嫌がる素振りを見せているが、声にも甘い色が着色されている。
困惑するように嬌声を上げるリザイアを見守りながらスミカは以前にも人が来るかもしれない場所で行為を求めてきた少年の事を呆れ返った口振りで言いつつも、其の時の昂揚を想い出しているかのように、リザイアのにも劣らない熱い溜息を漏らした。
「んっ、ン……ンあっ、あっ、ふあっ……!」
何とか声を抑えようと努力はしているリザイアであるが、幾度も突かれていた事で少年のペニスに慣れ始めたのか、それまではただ膣内に強い刺激があるとしか認識出来なかったのだが、抉られている肉壁の深さの違いや、挿っているモノの大きさ、其の形や固さをはっきりと認識しつつあった。
矢張り太く長い為に息苦しさもあるが、強過ぎる電流に打ち拉がれるだけでなく、じわじわと秘所に染み入ってくるような性感を覚えて、より陶酔した声を上げる。
膣内をにゅるりにゅるりと反復する肉棒を無意識に締め付けてしまっている事も実感して、身体的な機能であるとはいえ、自分がこれほどまでに受身になっている事に新鮮さすら覚える余裕もあった。
そして自分が今まで陥落し、歓楽させてきた相手が局所だけではなく――例えば背中を擦られて、脇腹を擽られて、太腿を撫でられて、と云う風に――全身で貪っていたように、五感全てで快楽を感じたいと思った。
何時の間にか睡魔に身を預けるように瞑らせていた目蓋を開けてみると、
「あ……はぁ……」
余韻に満ち満ちた溜息がゆっくりと吐かれ、ごくりと生唾を飲み込み、こくんと心臓が高鳴る、筋肉が波打つ音が同時に身体から上がった。
自身の両脚を掴みながら腰を遣って肉棒を胎内に往き来させている少年は先よりも接近していて、白い肌に包まれる端整な顔が悦楽に上気して熱に浮かされている子供のように母性本能を擽られるのと同時に、快感に耐えて目蓋を力強く固めている苦悶の表情は実際の年齢よりも大人びていて身を任せたくなる。
正直に云ってリザイアは少年に見惚れてしまった。
蜜壷の締りを無意識に強くして男根の存在をより感じ取りつつ、滑らかさを増した蠕動で奥へ奥へと誘いながらも、声を上げるのも忘れて、とろんと蕩けた顔で一突き毎に頬を獣臭のする熱い吐息で撫でながら徐々に近付いてくる彼の顔を熱っぽく見詰めている。
そんなリザイアをどのような表情や眼でスミカが見ているのかは説明するまでもないだろう。それに気付いていない、と云うよりはスミカの事を忘れているリザイアは夢中の余りに半開きになっている唇を、僅かに顎を上げて掲げ、少しずつ迫ってくる彼のと触れ合うのを待っていると――個室の外から足音が聞こえた。
「――ッ?!」
三人の身体と顔が一斉に強張る。
リザイアが少年に見惚れていて、スミカがリザイアを睨んでいたのは幸運だった。情交の最中にしては静かであったために察知する事が出来たのだ。一人は元だが、三人が三人、戦闘を生業としているのもあるだろう。
カツカツとタイルを踏むハイヒールの音は躊躇う事無く――生理的な反応に追われていると云うのを抜きにしても彼女に躊躇する理由は全く無いが――隣の個室の前で止まった。
扉を閉める音、鍵を掛ける音、衣擦れの音がスムーズに続いていき、やがて水面に水を打つ排泄音が鳴り始める。彼女は其の隣で、狭い個室の中で三人もの、しかも男女が犇めき合って鼓動を高鳴らせている上に、
「ふっ……ふ、くぅぅ……っ」
声を噛み殺しながら結合している性器官を擦り合わせているなどと思う訳も無く、排泄の心地良さに「ふぅ……」
と溜息を吐いているだけだ。
(な、なんで……! なんで、大きくなってるのぉ……?!)
他人が薄板一枚向こうに居る事に加えて、見ず知らずの他人の排泄の音を耳にしている所為で、途端に胎内を激しく均し始めた少年の頑健な肉棒が包皮を纏う淫茎、其の先で腫れ上がった亀頭が膨らんだのを感じ取った驚きを抱えながら、リザイアは一段と逞しくなったモノに責め立てられる性感に抗いはせずとも、声は抑えようとスミカの膝の上と宙空で指を噛みながら身を捩る。
堪えるように目蓋を瞑っていても、暗闇の中に自分の手首ほどもあろうかと云う男根が自身の股座を激しく抽迭しながらも、天井を抉るように角度が入れられている光景がありありと浮かんでいると、
「ふぅ……? ンンっ……?!」
不意に身体の締め付けが弱くなった気がして眼を開けて自身を改めると、グレーのスーツの上着が肌蹴ていて、更には空色のシャツもボタンが半分以上外れ、明るい青のブラジャーと、其のカップに包まれながらも三分の一は露になっている胸乳が眼に入った。
そうさせたであろうスミカの顔を真下から見上げると、軽蔑しているような、見下しているような冷たい視線が注がれていて、恐怖とまではいかないが何がしかの畏れを抱く。
其の視線からリザイアは眼を離せずにいると、自分がそうしたようにブラジャーを力ずくで下げられてしまって、まるで乳頭を摘み上げられているかのような上向きの形の良い乳房が、ぷるんと揺れながら外に出た。
乳暈と共に、色素が薄目で白味があるとは云え、桃色に染まり上がり、尖り切っている突起を見られるのが羞かしく、声を上げそうになってしまったが「あっ」と抑えた嬌声の程度に留める。
乳房を出す為、最小限に肌蹴させられた衣類の状態が何とも淫らで、そして矢張り男と云う事なのだろう、少年の視線が其処に集中しているのを痛い程感じて、リザイアは肌に触れている眼鏡のフレームをも暖める程に顔を赤面させて、顔を肩に預けて背ける。
「はっ……くぅ……っ!」
「あっ……」
閉じ切った目蓋の隙間から涙を滲ませていると、両胸の先端からびりびりとした性感が奔って、握り締めているスミカのシャツを引っ張りながら身体を跳ねさせた。其の拍子に自分が摘んでいるのと同じように、乳首をシャツに擦られたスミカも小さく声を上げる。
リザイアは触られるまではまるで存在も感じなかった凝りだが、指の腹同士のざらざらとした感触に挟まれた途端に性感と共に其の固さを実感する事になった。人体の一部とは思えない程の、まるで石が入ったかのように硬く屹立していて、指の間でころころと良く転がる。
「はっ、はっ、はぁっ、ああっ!」
突かれながら同時に乳首を捩り上げられる性感にリザイアは溢れそうになる嬌声を吐息に置き換えて吐き出している。恐らく隣の誰かに聞こえているだろうが、明らかに感じている媚声を聞かれるよりは良い。
今までも執拗に責めてきた其処であるが、自分で味わってみて、何故これほどまでに小さな器官で人体をここまで支配出来るのか不思議でならないと困惑までしていると、コンコンと横の壁から音がして、
「――あの、大丈夫ですか?」
隣の女性が心配そうな声を掛けてきた。
再び三人の身体が硬直するが、即座にスミカはリザイアの眼前に指を掲げると、(お前が応えろ)と云う風に、隣を何度も指差した。
此の状態の自分なのかと当然リザイアは抗議の視線を送るが、このままでは弁解出来ない程に嬌声を上げさせらたり、このまま外に放り出されたりされかねないので、大人しく従う。
「――え、ええ。へ、平気よ……ちょっと、気分が、悪くて……ンン!」
どちらかと言うと気分は良い方なのだが、適当な嘘が思い付かなかったので曖昧にそう返すと、
「んんっ! ン! ふっ、こほっ、あふっ……」
少年が腰を一気に突き出し、其の勢いのまま赤味を帯びる乳頭に喰らい付き、逆をスミカに捩り上げられて声が漏れたが、咳込んで誤魔化そうとする。
「本当に? なんなら、お医者さん呼びますけど……」
「い、いえっ、本当に平気っ! た、ただの風邪っ、んっ、だと思うから……ぁっ」
スミカの淫核を吸い上げた時のように窄めた口吻に突起を挟まれて吸われ、反対は何かを搾り出すように乳暈からであったり、乳房の根元全体から搾り上げられるようにされながら、腰だけを遣っての抜き差しで肉洞の壁、床、天井を擦り、雁首で抉られる。
溢れる嬌声を突然に咳き込んで紛らわしていると、隣の女性は用を足し終えたようで「それじゃ私は出るけど、無理はしないで」と、恐らく真面目な職員はトイレで性行為に耽っているリザイアも自分と同じように職務で疲れているのだろうと想像して――普段の彼女は至って優秀で真面目であるが――身体を労わるようにと優しい声を掛けると、水を流した。其の隙に乗じて少年が奥底にペニスの感触を刻み込むように下腹部を密着させたまま何度も突かれて震える喘ぎ声を上げる。
やがて個室から出る音と気配の後、蛇口から流れて手で遮られた水が排水溝へと吸い込まれていき、ハイヒールの音が遠ざかっていき、やがて聞こえなくなると――、
「――ンああっ! あーっ、ああーっ! くぅっ、くるっ! くふ、ぅんっ……くる、くるのっ、くるぅっ!」
少年の手を蹴り払うように脚を張り詰めさせ、スミカのシャツを千切れんばかりに引っ張りながら、抑圧されていたものを爆発させたように善がり狂うリザイアは格好といい、大きな叫び声といい、出産しているかのようだ。
しかし、子宮から胎児を産み出そうとするのとは逆に、膣道にあるモノを引き絞るように内部を狭めて、子宮の中に引き摺り込むかのように激しく蠕動させている。
のたうつ淫肉に誘われるままに少年は肉棒の半身を入れながら溢れる愛液を掻き出しながら小刻みに抽迭させる。肉襞を削ぎ落とすかのようにしながらも敏感な雁首の段差の裏、それだけではなく全体に滑りを以って吸い付かれて、-より一層に腰遣いを荒々しくしながら、爆発的に高まってきた射精感に打ちのめされるように、前屈みになって、縋り付くように自身のモノ並に凝り固まった赤い果実に甲高い啜音が上がる程に吸い付く。
そして眼を虚ろにしながら全身で以って悦楽を甘受するリザイアに憎悪しているかのように、スミカが少年が齧り付いたのとは反対の乳頭を鍵を回すかの如く、ぐりと乱暴に捻り上げると――、
「――くっ、はああああ……ああーっ……あー……っ」
責められている局所の尽くを乱雑に扱われたリザイアの身体がびくんと跳ね上がった。
身に触れる物全てを弾き飛ばすかのようでありながらも、乳房を突き出し、腰を浮かせた事から逆に全てをより受容れようとしていたのだ。
自ら最奥まで咥え込んだペニスは其の奔りによって、締め付けてくる膣壁に抗い、そして同期するかのように何度もぶくりと膨れ上がり、萎んでは、また膨らむと云う鼓動そのものの収縮を繰り返す度に迫り上がった陰嚢の中から熱い白濁の迸りを子宮口に叩き込んでいく。
初めて味わった、膣内での射精、胎内への直接の噴出を、リザイアは、蕩け切った至福の表情を晒しながら受け止めるのだった――。
「――はうンっ……精液って、はんっ、こんなに沢山出て……熱かったの……?」
白く濁った液体に包まれる肉棒が、自身の膣口と淫唇が名残惜しむように纏わり付かれながら抜けていく。直後に愛液と混じって精子の塊と其れを包む液体の精漿との区別がつかなくなっている精液がごぽりと音を立てて、淫穴の淵から流れ出て、会陰とひくひくと蠢く菊門を通って、どろりと白濁の鎖を紡いで床に垂れて行った。
其の光景を見届けていたリザイアは浮ついたような口調で言うと、右、左と脚を順番に下ろされて、性交の痕の直ぐ近くに尻を落ち着ける。胎内に残っていた淫液が膣壁を撫でながらゆっくりと下っていく感触に喉を鳴らして、ほうと満足げな溜息を漏らしていると、背後から声を掛けられた。
「随分と派手にイキまくってたじゃないか、ん?」
嘲るような口調でそう言われた上に快楽に屈服させられた形ではあるものの、未だに体内に残る情交の火照りと絶頂の細い余韻が抜け切っていないリザイアは何か鬱積を発散したような、すっきりと澄んだ表情で先ずはスミカの方を見遣ってから次に、やや力を失っているとはいえ、驚く事に充分に屹立している男根と其の影から少年の顔を見上げると、
「――ええ。とても、良かったわ」
と応えると、鼻先のモノから淫液の強烈な芳香を漂ってきて、じゅんと子宮が性懲りも無く疼くのを知覚した。
しかし、そんな風に同一人物とは思えない程の素直さを見せたリザイアとは対照的に、より一層妖しさを秘める声色で以ってスミカが言う。
「それは良かった。だが私はまだ気が晴れてないんだ」
「え……?」
危機感を抱いて、ぞくりと背筋に悪寒が奔ったのを覚えながら、リザイアはぎこちなく背後を振り返る。
見下ろすスミカの眼は剃刀の如く細められていて、狭い目蓋の間では真紅の瞳が黒々とした炎が煌々と輝いている。
「つまりだ。もう少し恥ずかしい目に遭って貰うぞ――精々、私を愉しませろ」
憎悪しているのではないかと思える声でそう言ったスミカは突き出した人差し指を扉の外に向けて薙ぎ払った。少年に対して何かしらの指示を出したのだろう。
本当に危険を感じたリザイアは優しそうな少年に縋ろうと考えたのか、彼の方へと首を戻すと先程と同じ視界がある筈なのに、急に真っ暗になった。
「ね、ねえ……落ち着いてちょうだい」
一瞬前まではしな垂れていたペニスが勢いを取り戻して反り返り、鼻先どころか眼前に突き付けられていたのだ。
自身の愛液の香りをも掻き消す程の牡臭を放っている其れが、ぴくんと揺れる度に鼻梁を打たれて、女としての肉体がフェロモンに反応して、経験もないのに口付けをしたくなる衝動に駆られるも、精神的に恐れを感じていて声は震えていた。
しかし、懇願は受容れられる事はなく、腕を掴まれ自慢のブロンドを肉棒で掻き揚げられながら強引に立ち上がらされて「あっ! は、離して……」と抵抗の声を上げたが、普段の彼女らしくない脆弱な声であった。
今度は少年に後ろから抱き竦められると、
「スミカさん、本当にするんですか?」
「当たり前だ。そいつが何をしたと思う。お前にされたのなら諦めもつくし――それに別に構わんが――お前の前で漏らされたんだぞ」
どうやらリザイアや少年の想像を遥かに超えて、放尿させられたのが腹に据えかねていたらしい。少年に対して当り散らすように言いながら、最終的には少年に腕と身体を抑えられているリザイアをきっと睨み付けた。
震えるまではしなかったが、慄くリザイアの直ぐ後ろで少年は、スカートが捲くり上がっていてショーツが丸出しになっている彼女の尻から背中との境目に触れさせているモノを勃起させながらも、矢張り気乗りしない様子で、
「それで、どうするんですか?」
「取り敢えずこのまま出ろ」
半裸の状態の自身を省みて、ぎょっとした様子でリザイアは「そ、外に?!」と抗議の声を上げたが、勿論聞き入れて貰える筈も無く、立ち上がったスミカが鍵を開けたドアの外へと少年に引き摺られるようにして連れて行かれる。
先程の親切な女性のように、誰が来るとも分からない場所に引っ立てられたリザイアは、其の事に怯えつつも心の片隅で何をされるのかと云う期待を僅かながらも秘めていると、後から出てきたスミカはシャツ以外の自分の衣服を手にしながら洗面器の前に、衣服が乗せられていた台座を粗雑に放ると、次に違う個室に入っていった。
何をするのかと不思議そうに少年とリザイアが眺めていると、もう一つの台座を取ってきて、矢張り洗面器の前に置いた。二つ並べられた其れらは丁度人間の歩幅程の間隔である。
「よし、ソイツを其処に乗せろ」
「きゃっ!」
くいと指と顎でスミカが少年に示した場所は円形の陶器製の洗面器の上だった。
リザイアがその意図する所に思い至る前に実直に従う少年の思わぬ力に横抱きで抱えられて、企業連直轄のカラードだけあって高価なのだろう、広々とした洗面所の上に乗せられた。日常で絶対に乗る事の無い洗面所の上に横たわるリザイアは視界が奇妙に高くて落ち着かないのと、脇腹に迫り出る洗面器の淵が食い込んで痛いと思ったが、直ぐにそんな事はどうでもよくなった。
躊躇いが満ちて動きの鈍い身体を起そうとして、視界の端に矢張り奇妙なものが映っていたからだ。そうして漸く其処に乗せられた意味を理解した。
(う、嘘でしょう……)
青褪めた顔で其方を見遣ったリザイアは視界一杯に広がる光景に絶望感が心を埋め尽くすのを覚えた。
横一列に洗面器が並ぶ洗面所にあるものと云えば――鏡である。
トイレの殆ど全てを映し出している一角を、鏡の直ぐ前で女が乱れた髪を添えるように身体を横たえている。
肌蹴たスーツと水色のシャツの隙間から摺り下ろされたブラジャーの上で全体的に桃色の染まっている乳房とその上で虐げられた痕として赤くなった乳首が屹立していて、下半身は皺だらけになって腰から太腿に射線を引いて引っ掛かっているスカートの下では扇情的な鼠蹊部の線や、そして担ぐようにしてトルコブルーのショーツに強調される、乾きつつある精液がこびりついて紅潮したラビアがぱっくりと口を開いている。そんな厭らしい格好で映し出されている自身の痴態に酔う昂奮の兆しか、それとも他の残滓なのか、頬に朱を差しながらも、何処か間の抜けた呆然とした表情を浮かべている。
「い、いや……っ!」
慌てて腕や手で恥部を隠して、鏡から顔を背けるリザイアだが、血の気が引くのよりも乳房や乳頭が敏感さを増し、秘所から愛液がとろりと溢れたのを自覚している。
其れを認めたくないのもあるが、嘗てない程の羞恥から逃れようと、身を翻して洗面所から降りようとするが、目の前に少年と、白い頭髪の横から顔を覗かせるスミカが立ち塞がる。
無言だったが、逃がさない、と云う意思だけは良く感じ取れた。先程いいように身体を弄ばれた事で畏れを刻み込まれたのか、身を竦めるだけで動けずにいると、少年が先程の並べた台座に乗って階段を昇るように近寄ってきた。
怯えるリザイアの脇腹に手を差し込むと、赤子か猫を抱えるように持ち上げながら、彼も洗面所の上へと上がる。
その後ろで台座に乗って身長の上がった少年の後ろではスミカが彼を抱え込むようにしてリザイアの脚を掴んでいる。
「これでよしだ。うん、中々の出来栄えじゃないか」
「いや、いやよ……こんなのっ、いやぁ……っ」
妙な連携を見せる二人の手で、あっという間に膝を立てて洗面器を跨ぐような格好になったリザイアは、後ろ手で腕を拘束されているから自然に胸を突き出し、そして自ら股を開いていると云う女の恥部を自ずから曝け出している風に姿だ。眼の前に映る虚像を見るのが耐えられないと云う風に頭を振るが、恥辱の裏の被虐心が冷めつつあった身体を再び火照らせてもいるよう。
少年はと云えば、もっと身長があったのなら台座の上に乗るだけでも良かったのだろうが、彼女の陰に隠れるように殆ど同じ格好である。
満足そうに此の痴景を眺めていたスミカは、リザイアと少年の身体に手を差し込む。スカートの中に潜り込んでいた彼の肉棒を、劣情を煽るように、にちゅにちゅと音を立てて扱きながら、愛液を洗面器の中に垂らすリザイアの股座の間に導く。
「あぅ……」
「何だ、準備万端じゃないか――少し、腰を落とせ。そう、そんな感じだ」
相当に粘度のある垂れた淫液が亀頭に纏わり付く感触に少年がか細く喘ぐと、スミカが濡れそぼっている秘所の状態を嘲りながら、垂らした膣口に愛液を返す為にペニスを触れさせる為に指示を出す。そして何時でも挿入が出来る状態にまで持っていくと、少年は今直ぐにも真下からリザイアを貫いてやると云わんばかりの体勢になった。
一度は眼を瞑ったが、直ぐに開いてしまってから魅入られるように鏡で一部始終を見ていたリザイアは「他の事なら何でもするから……お願い、やめてぇ……」と涙ながらに嘆願するも、スミカの嗜虐心を向上させるだけである。
そうして尚も繰り返されるリザイアの声を風と流しながら確りと淫唇が亀頭の先端を咥え込んだのを確認すると、徐に――まるで馬を走らせるように――少年の腰をポンと叩いた直後――、
「――いやああああっ!」
馬の嘶きに似た声が上がった――但し、少年がではなく、リザイアが上げたものだが。
じゅぽんと音を立てて愛液の飛沫を洗面器に、そして鏡の下側に散らした程の突き上げの激しさからして、最初こそ気乗りしていなかった少年もリザイアの状態に昂っていたであろう事が良く分かる。初めてスミカと身体を重ね合わせた時に予期せず鏡を使った事があったのも関係しているのかもしれない。
「ふぅーっ、ふーっ、ふうン……っ」
「いやあっ! ああっ、ああンっ!」
悲鳴だったとはいえ善がりも含んでいた声を張り上げたリザイアであったが、少年のモノに少しは慣れた所為か、一突きで達するような事は無かった。それでも黄金色の髪とそれに隠れているうなじに顔を埋められていて髪の隙間から忍び込んでくる熱い吐気と喘ぎに耳元まで擽られながら、淫茎に胎の内側を集中的に抉られるようにされながらも、その太さの為に奥側もごりごりと削られる快感に嫌がりながらも抗えずにいる。
口を全開にしたまま歯磨きでもしているかのように、洗面器の中にぽたぽたと際限なく涎を――事実、下ばかりではなく、上の口もそうなっている為に唾液も――垂らし続けて、辺りに甘い牝臭を漂わせているリザイアは、自身のだらしない表情と、先よりも繋がっていると云う事をまざまざと実感せしめてくる、今此の瞬間の自分の現実を映す虚像から眼を離せないでいながらも、その下で獰猛な笑顔を浮かべているスミカと、背後で陰になっていて見る事は出来ない少年に、
「ゆる、して……んんっ……誰か、来たら……ぁはぅっ!」
心底切迫した声の狭間に、正反対の媚声を別人が挟んでいるかのように滑り込ませる。
にやりと嗤うスミカが背後から揺さ振られる彼女に応える。
「誰か来たら? そんなの決まっているだろう、隠れるさ。幸いにも此処はトイレだ。手早く動きさえすれば――一つ、二つ、三つ、――五箇所も隠れ場所がある。勿論、お前はそのままだ」
「そ、んんんっ! そん、な……あンっ!」
「オーメルきっての”才女”が、実はトイレの洗面台に上がって鏡を見ながらオナニーする淫乱だったなんて知られたらどうなるやら――どれ、見付かった時の為にもっと厭らしい格好にしてやる」
台座に乗ったスミカは少年の背後からリザイアの衣服に手を伸ばして鏡を見ながら鼻歌交じりに、より淫らな外観となるように施した。
スーツの上着の肩口を捲り、白く細い肩を曝け出させて、二の腕にブラジャーのストラップを引っ掛からせる。
半分程までしか外していなかったシャツのボタンを全て外して、盛り上がっていて位置が明白な、其の下で少年のペニスが収まっている、余分な肉の殆ど無い腹部と、細い切れ込みが入ったような臍を曝け出させる。
スカートのホックとファスナーを外すと、拡げられている太腿に引っ掛けられたが、裾なので肉棒を必死な様子で淫茎を咥え込んでいる恥部は露なままだ。
此の状態に加えて、発情し切った牝の香りを漂わせているのだから、スミカ達が隠れた後、何とか降りたとしても洗面所に居る所を見付かれば弁解の余地無く社会的に不名誉なラベルを貼られる事は確実だろう。
「いや、あぁっ、あっ、ああンっ……いや、いやあぁ……」
鏡に映る淫らな自分と、起こりえる事態を想像してリザイアは洗面器に涙も零し始めたが、涎と愛液も留まる気配が無く、喘ぎ続けてもいる。
疑いの余地無く彼女はエリートであり、彼女自身そう思っているし、また思ってきた。
それは社会的な称号である事は勿論、人によっては自尊心そのものである。
特にオーメルと云う企業の影響下の中で育った彼女や、同じ境遇の人間ならば、其の称号への憧れ、そして獲得してから自負はより強いものだろう。其の大事な冠が性欲と云う最も俗な物によって、剥ぎ取られてしまったならば、どれだけの絶望があるかは想像も出来ない。
しかし、性欲の厄介な所は、未来の事を投げ捨ててまでも求めようとし、更には背徳と云う肴に変えて肥大化していく事にある。
「うああっ! あンっ、あンっ、あンっ! はああンっ!」
自尊心が強い為か、強いナルシズムによって鏡に映る自身の痴態に恋焦がれるかのように見惚れながら、身体の奥底を突き上げられて、其処から立ち昇ってくる何にも変えがたい悦楽に身を委ねる。
堕落を歓迎する悪魔の声が、彼女を更に一瞬の快楽へと駆り立てる。
「あ、あ、あ、あぁーっ……いいっ、リザイアさん……すごい……いい」
黄金色の髪を陰から、頬を摺り寄せるようにして髪を掻き分けた少年に、耳元の直ぐ傍で浮ついたように囁く言葉と耳洞の壁を熱い吐息で撫でられ、耳朶を唇でしゃぶるように食まれながら鏡越しに惚けた視線を向けられて、リザイアは惚然とした表情を恍惚とさせて、
「はぁっ、はあっ、はああっ……いい……私も……気持ちいぃっ!」
最初はゆっくりと、次第に速さを、そして力強さを増すようにして、腰を前後させ始め――正確には下から掬い上げる弧を描いて――胎内に抜き差しされる肉棒を自ずからざわつく肉襞に擦り付けて、より味わおうとする。
すると、水道の蛇口を少しだけ捻ったかのように、愛液が洗面器を叩く間隔が短くなっていき、少年とリザイアの善がり声も、二人を見守りながら股座を弄っているスミカの喘ぎも激しくなっていくのだった。
「――ひああっ! そ、それだめえっ! だめえっ!」
彼女自身初めて気付いた事だが耳に弱いらしく、少年に耳穴の中に舌を挿し込まれて抽迭されながら、下腹部を密着させて根元まで埋めた淫茎で奥底の空間を広げるように内部を掻き回されて、リザイアは口ではそう言いながらも心底堪らないと云うような声で鳴いて腰を左右に回している。
淫汁に塗れて滑りの良くなっている亀頭を奥の壁を無理矢理開くように、ぐりぐりと捩じ込まれている内に、今にも崩れそうであった震える膝が無意識に身体を上下させ始めて、身体の方が先に終焉をせがみ始めた。
「もう……もう、だめ……だめっ、だめっ! だめっ、だめなのっ! だめなのぉっ!」
「僕もっ、僕も……イ、ク……っ!」
女を相手にベニパンなり、双頭のディルドで繋がっている時は達しそうであったとしても、もっと淫靡な言葉を吐けるリザイアであったが、今は壊れたディスクのように、同じ事しか繰り返せずにいる。
同様に限界が近くなった少年は腹の前で抱えていた腕を手綱のよう取ると、彼女の甲高い繰言に合わせるように、太腿をずっと撫でていた引き締まった尻に腰を何度も打ち付ける。
「あ、あ、あ、あ、あ、あぁぁ……」
下腹部に柔い皮膚を打ち据えられて、ぴりぴりとした痛みが秘所の奥へと奔っていき、締め付けと蠕動を煽り立てられ、パンパンと小気味の良い音と共に、最早繰言すら出せなくなったリザイアは、引寄せられてはいないが腕ごと身体を後ろへと引っ張られている為に鏡に凭れ掛ること無く、残り数cmと云う距離で吐息と気だるそうな喘ぎを吐き掛ける。
防曇処置がされているらしい鏡は室温を遥かに超える温度の息に晒されても、全くぼやける事無く、虚ろな眼で、締りの無い口許からは前のめりになっている為に舌が垂れていて、其の先端から唾液をも垂れ流している、だらしない牝顔を綺麗に映し続ける。
眼前で自身の表情と其の下で抽迭される度に淫唇の隙間から白く濁る愛液がだらだらと流れているのをリザイアが呆然と眺めていると、ぐいと後ろに力強く引寄せられて――、
「――うぅっ……くうぅぅぅ……っ!」
「――あぁ……っ! ああぁぁぁ……っ」
芯の抜け切った身体に其の力は余りに過ぎていて、人形のように揺さ振られたリザイアの顔からは眼鏡が飛んでいき、膝は殊更に股を開くように横滑りしていって、胎内をペニスが奔ってくるだけではなく、自ら猛烈な勢いで迎えにいった。落ちて行った眼鏡はカランと音を立ててから、愛液が敷かれた洗面器の中を滑る。
蠕動する肉壁の戦慄きも、締め付ける収縮も、全てを無視して滑ってきた熱棒に最奥を殴り付けられて、其の密着した状態で精の噴水を浴びせられ、諾々と注ぎ込まれる。
リザイアは素顔のまま、牡に犯される己を見続ける。ぼやける視界ではあったが、自身が悦楽に浸っている事だけはよく理解出来る。
ぶるぶると震える二人の身体の下で、排水溝の穴に引っ掛かって止まった眼鏡に、結合部から溢れてくる白濁の淫水が降り注いでグラスにべっとりと伝っていって鈍い光を放っている。
虚ろを眺めるリザイアの菫色の眼のように――。
「――ンっ、ンはっ、ンンっ」
――私、何をやっているのかしら。
気だるい気分を頭に抱えながら眼を覚ましたリザイアは、誰かが近くで発している悩ましげな声をぼんやりと聞いていた――直ぐにそれは自分だと気付いた。
無理矢理に唇を奪われた後、口腔を蹂躙される心地良さに溺れて自ずから舌を絡めてくるようになった彼女等が発していた声に近く、では自分は誰かとキスをしているのかと考えて、瞬間的に自身を激しく突き上げた少年かと考えて、頬が火照る想いになる。
しかし、其の予測は半分は当たっていたが、半分は外れていた。口内を占有していたのは、己の愛液と少年の精液に塗れる淫茎だったのだ。
男の前では性癖はノーマルである事を演じている、と云うよりは曝け出しても意味の無いリザイアはペニスを口で愛撫するのは初めての事で、更に何時の間にかに咥え込んだのかは全く覚えていないが、全く動揺する事はなく、恐らく覚醒する前の自分がしていたように唇で食んで、舌を巡らしている。
流石に知能の巡りの良く応用も聞く彼女は、形も機能も違うが結局は同じ性器官であると結論付けて、ヴァギナを責めるのと同じように、敏感で繊細である事を念頭に置いて優しく、丁寧に、そして時に熱烈に愛でる。
生臭いと表現出来るのでは同じでも味にも臭いもタイプの異なり、そして何よりも全く大きさが違うが――少年のだから、と云うのもあるが――雁首を唇に引っ掛けてから更に亀頭一つ分を含めると、まだ根元までは遠いのに、えずきそうになるが、少年が幼げで中性的な顔を歪めているのを見れば立派に感じているのだろうと判断して続行する。
「はんっ、ンふっ、ンく、ンっ」
男に全てを委ねた事の無いリザイアは、しかし、男尊女卑などとっくに形の無い世界であり、男が女を虐げていると云うのを実感した事の無いので、別に男を毛嫌いしているわけでもないとはいえ、今行なっている男に奉仕する行為を知っていても、行なった事も、行なおうとも思った事は無い、と云うよりは行ないたくなかった。
自身に悦楽を与えてくれぬ男に何故性的に尽くさなければならないのかと考えての事である。
だがいざやってみると案外悪くないと、汚れの溜まりそうな雁首の裏を甲斐甲斐しくも舌で洗いながら思った――先程の主張から考えれば、悦楽を与えてくれた少年だからこそ奉仕する事に躊躇いが無いとも取れるかもしれないが、指紋などとは違って決定的なまでに違うわけではないであろう、其のものの味や臭い、そして精液の味も特に嫌な物ではなかったから、もしかし、たら好きなのかもしれないとさえ、ぼんやりと考えていると、
「あ、あっ、でそう……でる……っ」
側頭部を撫でるように其処に手を置いていた少年が其の手に力を掛けながら腰を遣い始めた。
大きく太いモノを抽迭されるのは流石に息苦しいが、リザイアは口蓋と共に圧迫される舌を出来る限り動かして、とろとろと舌の上に流れてくる苦い腺液に射精の予感を抱きながら、其の内に昇って来るものを促すように下側を撫でて少年が感じているか確認する為に上目遣いで見遣る。
其の表情は生涯で初めてリザイアが見せた媚態であって、少年は征服感に背筋を粟肌立てる。
だが本人はそんな事に全く気付かず、彼が突然に数段上の心地よさげな表情になったか分からないでいると、
「うあっ、ああっ、うあぁ……」
「んんーっ?! んっ! んっ……ン! ン、ンっ、ンぶぅっ」
咥え込んでいる肉棒がどくんどくんと鼓動を打ちながら収縮して、濃厚な牡臭を放つ精液を諾々と口腔に注ぎ込まれ、最初は驚いた声を上げるも、それからは従順に受け止めた。
「ンン……ン、はぁ……?」
漸く律動が止まった時には口腔を臭いと味だけでなく、白濁そのものが埋め尽くしたのだが、嚥下する勇気も無く、かといって吐き出す気にもなれず、どう処理すればよいかと困ったリザイアは、一先ず口腔に溜め込みながら零さぬように上を向いて口を開けると、息苦しさを解消しようと酸素を取り込む。鼻腔だけではなく肺の隅々まで青臭い芳香が埋め尽くしていくようで、何とも言えない充足感を感じながら。
何とか一息付いたリザイアは眼鏡が無いので少し見難いが、妙に驚いた顔で少年とスミカが自分を見下ろしているらしいと分かって、何故だろうかと疑問を抱いていたのだが少し経ってから理解した時には顔が赤面した。
自省すれば自分は男が吐き出した物を、確り受け止めたとアピールしているようなものだと。
「ぐっ……?! ……えほっ、えふっ」
しかし、慌てて口を閉じた瞬間、口腔に溜まっていた白濁の多くを一気に喉に飛び込ませてしまって眼を白黒させながらも、勢いで流し込んでしまった。初めての飲精にしては量が多かったが、喉に引っ掛かる感触に違和感を覚えつつも吐き戻す事はなかったが、小さく咳き込んでしまう。
「ふっ、ふっ……あっ」
落ち着いてから大きく口を開けると、残りが口端から垂れていって、乳房の上に落ちて行って、穢らわしくへばりついた。胸にある妙な触感を人差し指で掬うと親指の間で延ばして、初めて手で触れる精液を興味深そうに観察するのだった。
「こいつも相当な好きものだな――いや、そうでもないのか?」
リザイアの見せる無邪気な痴態を、固唾を呑んで少年が見ている横で、スミカが呆れたように、しかし、自然にやっている事に気付いて驚くに声を出す。
鏡の前でのセックスの後、失神したリザイアを洗面所の上から下ろした少年は壁に凭れさせた。そして立ち上がろうとした時に、虚ろな表情の彼女は偶然にも眼前にぶら下がっていた肉棒を唐突にむしゃぶり始めたのだ。
尚も衰えない劣情の標的を変えつつあった少年だったが、丁寧な口淫に酔い痴れてしまって、そのまま口の中に射精してしまったと云う訳だ。
「まあいい。全く、待たせてくれる」
ふんと鼻を鳴らしながらそう言ったスミカは少年の隣から洗面所の前に歩いていく。
そして陶器製の淵に凭れ掛って尻を突き出すように身体の前面を預けると、シャツの裾をはためかせている尻肉に手を遣って、
「――次は私に、な?」
吐気を洗面器の底に吐き掛けながら少年に艶やかな視線を送って、菊門をぱっくりと開いた。
リザイアとの情交の最中に自身を煽るように股座を弄っていた時に愛液を塗り込まれていただけではなく、直接にも指を突っ込まれていた窄まりの口は淫液でぬらぬらと輝いている。
リザイアの口内に放出したばかりの少年だが其の姿に生唾を呑み込むと腹を打つ程にペニスを反り返らせて――其の勇ましい様子にスミカも期待を募らせる風に嘆息を漏らす――無言で頷いてから、桃のようにつるんとした尻の後ろに回る。
丁度、下腹部の辺りにあるスミカの顔は鏡越しに丁度下腹部にあって、待たせられていたからか、真紅の瞳にぎらぎらとした劣情を燃え上がらせている。
少年が今にも左右へと振られそうな尻にぺたりと手を触れる。
「ン……きゃっ?」
触れられる悦びにスミカは喉を鳴らしたが、直後、身体が急に浮き上がる浮遊感に小さく悲鳴を上げた。
すると、履き直していたローファーが再び脱げて、ごろごろと床に転がると、スミカの足の裏がひんやりとした冷たさを感じた。
「――全く、こんな格好をさせるなんて。やっぱりお前は変態だな」
少年に抱えられながら洗面器の脇に脚を乗せて鏡に向かって股を開く姿にされ、ぱっくりと開く淫唇の合間から濡れた淫肉を映し出されたスミカは呆れたように鏡越しに少年を罵りながらも其の声音は昂揚している。
少年はまだ床にある台座に順番に足を乗せて、ただでさえ低いというのに更に今回は低くなる結合部となる場所をよく見えるように高さを上げる為に抱えているスミカごと自分の下腹部の位置を上げながら「嫌がらないスミカさんも同じだと思います」と言い返すと、菊座に肉棒を宛がうスミカに視線を合わせているスミカが微笑を浮かべて、
「ふふっ、お前が変態なら――私もそうなるのは当たり前だろう?」
少年は握られているモノを柔らかな掌の中で嬉しそうに跳ね上がらせる。
「スミカさんの顔、すごくエッチです……」
「お前の顔だって……あんっ、やんっ! ……やらし、いぞ」
鏡越しに視線を交わす二人は身体を上下させて、肛門と性器を擦れ合わさせる。
その度に結合部の隙間から空気が入って淫猥な音が鳴る。
少年は当然だが、スミカも鏡に向かって大股を開いて濡れそぼった淫穴を晒しながら菊座を口開かせて彼の野太いペニスを咥え込んでいる己の痴態に酔い痴れていて、顔もシャツをふんわりと羽織っているだけの裸体も赤く染まっていて、黒髪が流れている肩口から顔を覗かせている少年の顔も強く紅潮している。
「スミカさん、エッチだ、エッチすぎるよぉ……スミカさん、スミカさん……!」
血走った眼で鏡に映るスミカの姿を喰い入るように見詰める少年は乗っている台座をガタガタと揺らして直腸の襞を抉りながら浮ついたように繰り返し呟く。
「私で、興奮してるんだな……嬉しい、ぞ……」
シチュエーションの所為か普段より大きくなっている、若しくは大きく感じてしまっている男根に突かれ、怖いほどに真っ直ぐぶつけてられる劣情の視線を一身に浴びる快楽に陶酔しながら、より少年を悦ばそうと――其れが結局は自分にも返ってくるから――背後の彼の頭を抱くように手を回しながら身体を反らせて血の巡りが良くなっていて硬くなった乳房を突き出して挑発的な妖艶な眼にしたり、胸の上に手を乗せて媚びるように上目遣いをしたりと扇情的なポーズを取る。
其の思惑にまんまと乗せられた少年は鏡に引き込まれるように顔を寄せていくと、二人はお互いの顔が近い事に同時に気付き、顔を夫々の方に向けると唇を触れ合わせた――しかし、顔を相手へと向けても、眼だけは鏡に向けたままで。
「いいっ、いい……僕、気持ちいい……! スミカさんも、気持ちいいですか……?」
「うんっ……感じる、お前のっ、おっきいおちん○で……私、感じてるぅ……!」
二人はちろちろと宙空で舌先を淫靡に絡ませながらお互いに視線を送っている。
膣と違って道具なしで充分に潤わせるのが難しいアナルであるが、膣に比べれば緩慢だが分泌される腸液と、淫茎に塗れていたものや、新たに膣口から垂れ流しになっている愛液が伝って、陰茎に纏わり付いているのも手助けして、徐々に結合はより深くなっている。
黒ずんでいる少年の淫茎だが、下腹部へと行くにつれて元々の白い肌を現すように色が薄くなって、根元はまるで別人のもののように真っ白である。
鏡に映る結合部から突き出ている淫茎は其の白い部分が多くなって、黒ずみの殆ど直腸粘膜が包んだ瞬間、二人は一気に昂りを見せる。
「はあぁぁンっ! 奥っ、奥まで……っ、奥ぅっ! で、でちゃぅ……なにかっ、でちゃうぅっ!」
「あうぅっ、きつく……なって……イキ、そう……!」
子宮の裏側を責められる強い性感にスミカが善がると、それに合わせて肉筒のうねりが強くなって少年のペニスを千切らんばかりに締め付ける。其の痛い程の締め付けをより味わうように少年は抽迭を速めると、排泄の似た幸福感がスミカの身体を奔る。
唾液を垂れ流しにしながら舌同士の愛撫をよりねちっこくさせながら、少年は確りと支える為に内腿に遣っていた手を伸ばして、突き上げられる度に上下に揺れる豊満な乳房を鷲掴みにすると、スミカは自分でもするように彼の手を自身の手で覆う。
疲労困憊で呆然と痴情を見守るリザイアの視線を浴びながら、二人は淫らな部分ではなく、蕩け切った瞳で見詰め合いながら――、
「――やあぁはああぁぁっ!」
「――イクうううぅぅっ!」
放尿の所為で緩んでいたのか、スミカは膣口から白く濁りのある淫水をそれこそ尿のように洗面器へと噴出す。
捩じ切るかのように柔軟で力強い肉官に肉棒を締上げられた少年は、其の裏側で膨らみのある器官の存在を感じながら精を放つ。
ペニスが射精によって跳ね回る度に子宮を責められるスミカは幾度も幾度も小刻みに潮を噴いて、少年は直腸の排出の蠕動に抗うと、一転してそれは最後の一滴まで精を絞り尽くそうとしてくる動きに変わって望まれるままに大量に放った。
室内を埋め尽くすか甘い芳香に包まれる中、意識を朦朧とさせる二人は、スミカが少年にがっくりと凭れ掛かり、其の勢いに少年は台座から脚を踏み外しながらも出来る限り勢いを殺して、繋がったまま床に座り込む。
熱い吐息をお互いに吐き掛けながら、虚像ではなく実像と向き合った二人は目蓋を瞑りながら幾度も甘い口付けを交わしたのだった――。
「――あ、長かったですね」
「いや、女のトイレは長いものだからな」
「そうそう。そう云うものなのよ」
少年が壁に凭れ掛かっていると、女子トイレからスミカとリザイアが揃って出てきた。待ち草臥れた、と直接には言わなかったが遠回しにそう云うと、二人は何か誤魔化すかのように気恥ずかしそうにしていた。
と云うのもセックスの後、スミカ、リザイア共に膣内に、そしてスミカは直腸内にも多量に射精された為に、ウォシュレットとビデで洗浄していたのだが、まだ敏感であったために性感がぶり返してしまって、水流で自慰をしてしまっていて遅れてしまったのだ。
「それにしても――あなた達、本当に良かったわぁ。男相手でも女相手でもあんなに気持ちよかったの、私始めて」
「ああ、そうか。ソレはよかったな。次に私、それにこいつにあんな事したら殺すからな」
「そう言わないで、また愉しみましょ、ね?」
「うるさい! 絶対にやるものかっ! ――全く、何でこんな事ばかりになるんだ――ほら、帰るぞっ。付き合ってられん!」
「ねえねえ、セレン。いいじゃない、お願いよ」
「ええいっ! 寄るなっ、擦りつくなっ!」
結構な時間、リザイアはスミカに擦り寄っていたのだが、少年はそんな二人の様子を姉妹のようだと思った。
かなり勝気だったリザイアが急に甘え出したから、これはスミカがリザイアを手篭めにしたと云う事なのだろうか、とぼんやり考えている時、肝心なスミカは後で後悔すると、分かっている筈なのに、いつもアノ時は昂ってしまう時分への自己嫌悪に陥っていたのだった――。
それから幾らか経った頃、
「あ」
「うっ」
「あら、セレンにボク。あの時以来ね、久しぶり」
カラードのカフェで、少年、スミカ、リザイアの三人は再会した。
少年は並みの反応であったのだが、スミカは明らかに嫌悪した風な、リザイアは喜んだ様子である。
「私達の事、尾行してたんじゃないだろうな」
「それはあの日だけよ。私だって、ここ良く来るもの」
「それはどういう意味だ――おい。勝手に横に座るな」
「別にいいじゃない、一緒のテーブルに座るぐらい」
あの日の甘え具合と比べると別人のように、我を通してくるリザイアはスミカの言葉も無視して、早々に椅子に座ると、
「実はね、ちょっと悩んでるのよ」
「誰が話せと言った。誰が聞くと言った」
「ス、セレンさん……いいじゃないですか」
言葉だけでなく、視線もつっけんどん過ぎるので少年が宥めるように声を掛けると、リザイアは微笑みを彼に投げ掛ける。
「ありがとう、ボク。それで私、昔のよしみで、偶に、塾の講師をやる事あるのだけども、あなたとした所為かしら。、妙に男の子達が気になっちゃうの。それと女の子――あ、教え子じゃなくて、大人のね――とは、満足してるんだけども、やっぱり物足りない時もあるのよね」
リザイアは頬杖を付きながら憂いの溜息を突くと、同じように頬杖を付いているが角度や体勢的に明らかに投げ遣りなスミカが其の後を継いだ。
「――で、もう一度、私達とヤりたいと?」
「――だめ?」
普段なら絶対に言わないであろう、媚びに媚び切った口調と声音で、リザイアはそう言うも、
「――殺すぞ」
スミカにけんもほろろに一刀の元に叩き伏せられた。其の声音は、喩えるならば、壊滅させたゲリラの拠点で捕虜にしたゲリラの女兵士に、ジャングルの案内をさせていたのだだが、隙を突いて逃げ出そうとしたのを果たせなかった彼女に、短く且つ厳しい一言で恫喝するようだった。
しかし、何故かリザイアは恫喝されているのだが愉しそうに笑う。
「――う~ん。やっぱり、セレンにキツくされるのいいわ。ね、もっと言って頂戴」
――私達の周りには、何故、こんなのが、こんなのばっかりが集まるんだ。
――リンクスって、もしかして、全員こんな人ばっかりなのかな。
疲労困憊と云う風に、げんなりとするスミカと、恐ろしい想像を膨らませる少年の傍らで、リザイア独りが、きゃっきゃっと黄色い声でも上げそうな位に愉しげだ――。
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