《ウォーニング!!》

この作品は異性間に於ける性交を主軸とした小説です。

 
 
 
 

 
 
 
 

Written by 仕事人


 【ケモノのスミカ レギュ05 《天女》】
 
 周辺の、また遥か遠くの様々な国の影響を受けつつ、特異にして独自の文化を保ち続ける極東の海に位置する島国。
 其処は嘗て黄金の国と呼ばれていた。実際に多量の金銀が眠っていたのである。しかし有限の資源が枯渇した後も、尚その国には金が渦巻いた。
 地図上で見る国土の狭さはまるで海を漂う漂流者の様であり、世界の波に翻弄されてきた。しかし、そこに住む人々の内には本人達も知らぬ確固たる個性が眠っている。耐えがたきを耐えるほどの忍耐を美徳とする性質。生き方を道と捉える彼らには数百年前の戦士――侍の魂が眠っている。
 同じ土地でも四つの季節によって多様な変化を見せ、世界中のあらゆる神をも含む八百万の神々が住まう地。
 彼の地の名は――日本。
 
「……そんな所らしいぞ。ここは」
「へぇ、何か凄そうですね」
 スミカは手に持っているパンフレットを閉じて表紙を見る。歴史的価値の高そうな寺院と塔が遠くに見える石畳の坂で、民族衣装を身に纏った女性の凛々しい後姿が映っている。
 旅館という種類のホテルを訪れた二人はパンフレットに映る女性と同じ衣装の物腰柔らかな女性(職業名は仲居)に連れられて、本館の部屋に――ではなく、おそらくスィートルームに当たるのであろう、離れに通された。
 庭の中にひっそりと佇むような其処は部屋というより、もはや一軒屋である。余人が入らぬよう竹で出来た垣に囲まれており、中庭には二羽、鶏が――はいないが、池や見ただけでかなりの樹齢を誇るであろう樹木すら生えている。時折、コーンと明瞭な何かを叩く音が聞こえる。それはししおどしという元は農家が田畑を荒らす害獣を追い払うための装置を風流として、楽しむようになったものらしい。だが流石というべきか、機械でコントロールされており、遠隔操作で止めることも可能。しかも、無粋なスイッチが室内の景観を損なわないように、居間の机の裏に設置されているのだ。
 出る前に仲居に日本茶を出された二人は縁側に敷いた座布団の上に座ると――自然に正座の形で――それを飲みながら、しばし庭を眺めた。
 正に心が洗われるといった心持ちである。
 
 さて、傭兵業を営むこの二人がアジトから随分と離れた地に赴くのだからそれは当然、依頼ということになる――のだろうが、今回ばかりは違った。
 パンフレットを所持していることから分かるであろうが――旅行である。観光目的の。
 
 事の発端は、約一週間前。
 彼らが滞在することになった地を収める企業である有澤重工から、GAグループのAF、《グレート・ウォール》の護衛の依頼が来たことがその原因である。
 本来はそれは有澤重工所属のリンクスにして同社の社長である有澤隆文が行なうはずであったのだが、向かう途中にて襲撃を受けてしまった。
 急遽、独立傭兵である少年に依頼が回ってきた。
 だがAFはネクストに頼らないというコンセプトで建造されたものであるので、企業の面子から護衛などさせるわけはないはずである。しかし、事前にオーメルによるネクストでの襲撃が行なわれるという情報があったのと、輸送を主とするグレート・ウォールがその任務を終えたばかりで内部に殆ど戦力が残っていなかったという条件が重なったことで、少年はAF護衛という稀有な任務を受けることになった。
 しかし、重要なものである筈の内容に彼、スミカも、そしてGA側を含む誰しもが――肩透かしを喰らった。
 
 列車のような外観のグレート・ウォールは装甲が分厚いために外部からの破壊が不可能である。内部に潜入し、先頭車両の動力部を破壊するしかない。それは恐らく情報戦を得意とするオーメルは既に掴んでいると予測された。
 敵に弱点が露見している。これは非常に不利であろう。
 しかし、それ故に、やる事は簡単であった。何せ本当にグレート・ウォールは列車と言っていいのだから、動力部に向かう行程は完全な一本道である。少年のネクスト、ストレイドは唯一の入り口である最後尾で待ち伏せを仕掛けることにした。
 グレート・ウォールと合流し砂漠を走っていると、傲岸不遜な声が通信から聞こえてきた。その内容は割愛する。
 直ぐに迎撃が始まり、巨大な砲声が響く。中にいる少年は内部でそれが反響して耳が痛くなるほど。すると迎撃を回避していることで調子に乗ったのだろう、敵リンクスの
 『ハハハ……』
 という実に悪者――傭兵なので善も悪も糞もへったくれもないのだが、少年はそう思った――のような高笑いが聞こえてきた。
 レーダー上に反応を示す点が映り、装甲越しでも接近してきたことが分かる。光点の移動速度を見る限りOB。敵は調子に乗っている余り、こちらに気付いていないと判断したスミカはストレイドを入り口の影に隠れさせる。
 敵は好都合にも隔壁をブレードによって破壊し始めてくれた。燃えるような赤い線が刻まれた隔壁が崩れ、突き破る光の束が消える。
 意気揚々と敵がグレート・ウォールの内部に入った瞬間、その前にストレイドが躍り出た。
 『なに……ッ?!』
 驚いて僅かに止まったネクストがレーザーライフルを構えたときには、既にストレイドはPAを収縮させていた。
 視界が緑に染まり、コジマ粒子が爆ぜる。AAの強烈な一撃を喰らって後方に吹き飛ぶ赤い機体がグレート・ウォールの最後尾に連結している荷台のような甲板の上をごろごろと転がりまわって行く。その間、痛々しい声が聞こえてきたからリンクスは死んだわけではないだろう。
 やがて甲板の淵まで転がっていき――砂漠の上に落ちていった。
 運悪く砂の上に頭から突っ込んだネクストは頭が砂の中に埋まってしまい、なんと砂漠の上で見事なブリッジを決めた。
 グレート・ウォールと少年は砂から抜け出そうとして、もぞもぞと虫のように蠢くそれを徐々に遠くにしていく。彼の任務はあくまで護衛なので、深追いすることはない。
 敵のネクストが小さな赤とだけしか分からなくなった時、通信に弱々しい声がゴーストタウンに吹く風のように虚しく吹いた――。
 『クソが……』
 結果、グレート・ウォールは最後尾の隔壁とその周辺――後者はストレイドのAAが原因であるが――という最低限の損害だけで依頼を完遂させた少年は、有澤隆文(以下、社長)からいたく感謝された。有澤重工から追加報酬が出た上、それに加えて社長からの個人的な報酬が、今回の旅行である。実は最初、スミカは行くつもりがなかったのだが少年にせがまれ、渋々やってきたのだが、先の通りである。その心境は概ね――いいや、実に良好といえよう。
 
「どうしようか」
 観光目的で来たのだが、ししおどしの音を聞きながら、庭を眺めるだけで丸々一時間を使った(それに気付いたのは部屋を出た後であるが)二人。思い出したようにスミカが、少年にそう尋ねると「そうですねぇ」と言いながら旅館の案内を見ようと、部屋の中へ戻っていく。しかし、立てばいいものを、四つん這いである。すると、それを見ていたスミカが彼の足の裏を突然、がしりと掴んだ。
「……あぁぁぁぁぁぁ」
 床に倒れ込みながらも、前方に向かって震えながら腕を伸ばす少年。その様はまるでドラマで死の間際にメッセージを残そうとする被害者のよう。
 転がって体勢を変えると自分の足を掴んでいるスミカの手を引き離そうとして足掻くも、同時に太腿の辺りをぺしりと叩かれて、更にもがく。
 風光明媚な庭先の前で悶える少年とその足を掴む女性。風流とはいえなかったせいか、ししおどしもその間は音が鳴らなかった。
 彼がこんなになっている理由は言うまでもないであろう。
 慣れぬ上に長時間の正座のせいで少年は脚が痺れていて、スミカはそこを責めたわけである。
 なんと惨たらしい拷問であろうか。この地の人間が見たら畜生外道の行いであると泣きながら罵るに違いない。
 ひとしきり反応を楽しんだのか、スミカは手を離すと少年の代わりに案内を取りにいこうとして歩いていく。その間、彼は尚も走っている強烈なむずがゆさを抑えようとして、脚を柔~く摩っている。まるで腫れ物を扱うように。
 目的のものを手にして戻ってきたスミカだが、彼の背中に立つと、何故かそれを脇に挟む。そして自身の腕を彼の脇に差し入れて――なんと持ち上げた!
「……ひぃあぁぁぁぁぁ」
 これは先の苦痛の比ではない。何せ全体重が弱点に圧し掛かるのだ。オマケに跳ねさせるように、浮かす、落とすを繰り返させられる有様。
 無情、非情である!
 スミカはこのいたいけな少年に何の恨みがあろうというのか?!
 日本の人々がたった今繰り広げられている惨劇を見たのなら、激昂しながら彼女の血の色を問うであろう!
 
 さて、少年の希望により二人は本館の温泉に向かうことに。
 とはいえ、二人が泊まる部屋である《神の間》――失敬、《迅の間》には実は露天風呂がある。勿論、只の温水でなければ、色が付いているだけのものでもない。様々な成分が含まれている湯が引かれているのだ。だが”楽しみは後にとっておこう”という案が満場一致(二人しかいないが)で可決したことで、まだ入ってもいなければ見てもいない。
 大浴場の前の男女を分ける暖簾の前で、二人が別れる。
 少年が脱衣所に入ったが、見た限り誰もいない。一応シーズンの一つではあるのだが平日ということで人は少ないのだろう。これは彼には好都合であった。人が居なければ隠すこともないからである。そう、尻尾を。
 しかし、於いてある籠の幾つかは使用されているので、浴場には人がいるのだろう。そのため服を脱ぎ終えると、腰に巻いた尻尾の上からタオルを巻く。ある程度、尻尾を操作できるというのが幸いとなった。
 腕に巻いていた防水性の腕時計を手に持って準備完了。擦りガラスのドアを開けて――引き戸ということに気付かず、二三回押したり引いたりしたが――カラカラという音と共に視界を遮る物が無くなった瞬間、今度は熱気と湯気に覆われた。
 一瞬、目を瞑ったものの、見えたのは、落ち着いた雰囲気を醸し出す石の床、そして長方形の角が丸まったような形の湯船。それは窓に隣接しており、向こうには露天風呂が見える。数人の――主に年配の――客がどちらにも既に入っているが、とりあえず室内の方から入ることにする。
 その前に諸運はスミカに予め言われた通りに身体に湯を掛ける。
 風呂に入るのは身体が洗うのが目的なのに、その前に身体を洗うというのは奇妙なことだ。そう彼女に言ったが、湯を汚さないためのマナーだそうである。他人を気遣うことも美徳とされる日本人の心意気かと、少年は感心した。
 タオルを巻いたままという多少不自然な格好ではあったが、座りながら置いてある桶で湯を汲み身体に万遍なく掛けた少年は、出来るだけ壁を背にして、風呂の中に足を入れながら、タオルを取って、その布に紛らわせて尻尾を後ろに戻すという複雑な行程をこなして、なんとか湯に浸かる。
 淵にタオルと時計を置く。タオルを湯船の中に入れていけないというのもマナーだと聞かされていたので、時計も外しておいたのだ。
「ふぅ……」
 全身湯に浸かると温まっているはずの身体に更にじんわりと熱が広がっていく。色々な成分が入っていると聞かされている先入観のせいか、普通の湯とは違う気がしたが、肌触りだけは確実に特別なものであることは分かった。
 とても滑らかなのだ。水であるから肌の上を滑っていくのは当然であるが、撫でるような感触もある。それに自宅のものとは比べ物にならない程に広いので、開放感もあるおかげで、心地良さについ溜息が漏れた。
 何分か浸かった後、次に露天の方へ入ってみようと思い、立ち上がる。
 今度は入った時とは逆に、立ち上がりながら、尻尾を巻きつつ、タオルを腰に巻くという、やはりやけに仰々しさで以って湯船から出る。他の客は窓の外に視線を向けたり、悦に浸るように眼を瞑っていたので、不審がられることはなかったが。
 壁一面という程の窓と半ば一体化しているような扉を開けて――入り口と同じで引き戸かと思ったら、こっちは引くタイプだった――屋外へ出る。露天の岩風呂は地震で隆起した岩の隙間に湯が入りこんだような印象を受ける荒々しい外観だ。
 今度は壁が無いとはいえ、その代わりとなる竹製の垣根があるので、それを背に室内のと同じ行程で入湯。外気に晒されている肩から上と、湯に浸かる下で温度の落差が生まれ、それがまた心地良い。
「はぁぁ~~~……」
 湯煙のようにゆらゆらと立ち昇る長い溜息を吐き出していると、垣根の向こうから女性の声が聞こえたので、顔を其方に向ける。少年がふとスミカはどうしているかなと、思った瞬間、静かにハプニングが発生した。
 彼女の裸体を思い浮かべてしまい、細胞単位で落ち着いていた身体が一箇所だけ元気になってしまったのだ。流石に若いだけあって、マズイと思った時には二倍近くに膨れ上がっている状態に。
 なんとかソレを閉じた太腿に埋めるように隠してから、何事もなかった表情を作って顔を上げる。だが、その視線の先で、ご老人が『若いね~』と云うような顔で彼を見ていた。おそらく女湯の方を見上げた時から見られていたのだろう。熱で赤くなっていた顔が恥で更に赤くなっていくのだった。
 
 二人は予め決めていた時間になったので浴場を出て、廊下で合流した。だが着ているのは、入る前に来ていた各々の私服ではなく、日本の民族衣装である和服の種類の一つ、浴衣である。室内に置かれてあったので着てみることにしたのだ。
 全身を覆うタイプの衣服であるために夏だと暑いと思ったが、風通しが良くて意外と快適である。
「わぁ、似合ってますね」
 少年はそう言いながら、スミカを下から上まで見上げた。日本人の血が流れている彼女はその身体的特徴もあり、現地の人間と言っても気づかないほどであるのだ。そう言われた彼女は熱の燈っている頬を僅かに紅潮させると、照れたように顔を背けて、振り返った。彼の言葉は勿論その意味も含めて言ったとはいえ、前述の意味の方が大きかったのだが。
「そ、それで。どうだった?」
 多少吃りながら湿気を帯びている髪を掻き揚げてスミカがそう聞くと、少年は「ええ、気持ちよかったです」と思い返しながら、呟く。言葉通りに確かに最高の気分であった。だが最後、出る時に奇妙なことがあったのだ。そのことを彼女に言おうとしたら、
「……少しいいかな」
 そんな声を掛けられて、二人が振り向く。すると”男”と書かれた暖簾の向こうに、男が二人居るのが見えた。丁度それで隠れてしまっているので顔は見えないが、どちらも浴衣の胸元から隆々とした筋肉が見えている。
 不審な目でその二人組みを見据えていると、のそりと太い腕が上がり暖簾を退かした。顔が見えたのだが――ただ、ただ奇妙であった。
 
 一人は、目が縦に二列並んで四つ目に見える、銀色バケツのようなものを被っている。
 もう一人は、何処に頭が収まっているのか、というより、そもそも頭があるのかどうか疑わしい位に細いアンテナのようなものを被っている。
 
 正直、スミカと少年はドン引きしていた。
 それを表わすようにずざざざざと廊下の上を後ずさっていく。
 だが少年はその頭部以外の外見に見覚えがあった。そう、浴場を出る時に。
 少年が脱衣場に向かおうと戸を開けたら、二人の男と擦れ違った。その二人は大柄で顔は見えなかったのだが、異常と云えるほどに鍛えこまれた筋肉が見えた。それだけなら何ら不思議ではないのだが、その男の脇を通った後、背中に異常な視線を感じたのだ。それこそ、警戒心はおろか、危機感覚えるほどに。
 そして、その正体が恐らく前方に壁の如く立ち塞がる男達である。筋肉もそうだが、何より例の危険な視線の類が同じであったのだ。
 スミカと少年が警戒感を露にしていると、腕を組んでいた二人がおもむろにバッと腕を広げ、それぞれが一言ずつ放った。
 
 ――やらないか
 
 ――尻を貸そう
 
 その瞬間、廊下は緊迫感に包まれて、通りすがりの客達もそのピリピリとした空気に何事かと立ち止まる。何人かは、元々二人組みの異常な頭部を見て、遠巻きに見物していたのだが。
 じりじりと後ずさるスミカと少年、それを追う巨漢の男達。洗い終えた桶を荷台で運んでいた従業員が通った瞬間、戦況は動いた。
 
 スミカは、何も知らぬ従業員が台車で運んでいる桶の中から其の一つを取ると、目にも止まらぬ速さで一直線に撃ち出すように投げた。
 直撃かと思われたが、男達はその体躯からは想像も出来ない俊敏さで飛び上がると、ダイブするような格好で少年に飛び込んで行く。
 だが彼の前にスミカが躍り出るや、ジャンピング・アッパーでアンテナ頭を迎撃。着地と同時に今度はバケツ頭を、飛び上がりつつ、円を描く蹴りで撃墜――飛び道具で浮かせ、対空攻撃で落とす、という基本中の基本に観客からは歓声が上がる。
 床に倒れ込んだ男達であるが、まだ戦意はあるらしく立ち上がろうとしている中、少年の耳に何処からか――果たして本当に音がしていたのかは――『カアァン』という甲高い音や、『ユクゾッ』という鋭い掛声が音が聞こえた。次の瞬間には、スミカは男達の傍らに居て、一人を強烈なスライディングで、もう一人を蹴り上げで浮かせていた。
 そして浮いた男達の頭をそれぞれ片手で掴みながら突進し、其の猛烈な勢いで以て壁に叩き付けた。廊下に激突音と何かがひしゃげたような音が響き渡る。
 それで終わりかと思いきや、今度は逆方向に猛進。進路上にいた見物人達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく中で、また壁に叩き付ける。
 スミカは陥没した壁に頭を埋めている二人を、大根のように引っこ抜くと――二人纏めてそのまま地獄が近づきそうなほどの勢いで拳を、蹴りを乱舞させる。痛々しい殴打の音が何度も和太鼓の演奏のように鳴り続けながら。
 この時点で少年も見物人も、男達が死ぬんじゃないかと思い始めていた。だがスミカは何を彼女をそうさせるのか、仰向けで痙攣するバケツ頭を地面に這い蹲らせると、頭を掴んで持ち上げ、すぐにぱっと離した。
 落ちていく頭部。だが直ぐに墜落は止まった。打突音と共に頭が両側から拳で挟まれていたのだ。その時だった。偶然聞こえてきたのか、それとも幻聴だったのか、何処からか野太い咆哮のようなものが聞こえ出したのだ。
 スミカはそれを合図にすると、ブチこわさせてもらうと言わんばかりに、バケツ頭の頭部を両側から乱打し始める。何十発か殴った後、頭を膝に乗せて固定し、今度は右肘を何度も振り下ろしながら、左の拳で殴り続ける。
 気が済んだのか。ボコボコに陥没したバケツを放ると、虫ケラの如く這って逃げようとしているアンテナ頭のほうににじり寄る。
 其の背中に、もう遅い、脱出不可能と言わんばかりに、圧し掛かって抑え込むと、右の肘鉄と左の拳を、何発も何発も、何十発も振り下ろしていく――。
 
 正当防衛の名の下のリンチ後、警察がやってきて男達は逮捕された。どうやら何人ものを男性を襲撃していたらしく、全国規模で指名手配されていたそうだ。
 そんな凶悪犯を捕まえたということで、スミカは警察の方々に大変感謝された上、見物人からは大喝采が湧き上がったのだった。
 
「じゃあ、行くか」
 突然に起きた出来事の余韻を露とも見せない素振りでスミカはそう言って、先導するように歩き出す。遅れてそれに付いて行く少年。
 その背中を見ているとある事に気付いた。恐らく湯船に髪が入らないようにしていたせいだろう、普段は広がっている彼女の長髪が一本に纏められていることに。
 右肩へ流れていく髪とは対照的に左肩は空いている。そちらの方に並ぼうとする途中で、そっと其処を覗きこんでみる。温泉や先程の格闘のせいだろう、うなじから肩のなだらかな線、そして少し浴衣がずり落ちていて僅かに見える背中が、ほんのりと滲むように赤みを帯びてさせており、それは彼の鼓動を高鳴らせるほどに艶かしさを持っていた。
「ん?どうした?」
 どぎまぎしている彼の様子に気付いたのか、スミカが顔を向ける。うなじこそ隠れたものの、依然見えている肩の稜線と背中、更に髪型が普段と異なるせいで印象の変わっている彼女の顔を同時に見て、彼は息を呑んだ。それを誤魔化すように「ずれてますよ」と言って、スミカの胸元を引っ張って、浴衣を直した。
「あぁ、ありがとうな」
 それに感謝の弁を述べながら微笑みを浮かべたのだが、それも魅力的だったので、少年は照れたように顔を俯けてしまった。
 市街に出た二人はあちこちの店に入ってみた。流石は観光地と云うこともあって店の数はかなり多い。菓子や、日常品、工芸品など様々である。いつもショッピングなどする機会が無いので、二人共熱心に、楽しそうに商品を見ていた。
 特にスミカが気に入ったのは、
「……あぶらとり紙?」
 棚の所に『女性に大人気』と銘打ってある商品があり、興味が沸いて手に取ってみると年配の女性店員が手馴れた様子で分かりやすく説明してくれた。それは顔の皮脂を取り除くことの出来る化粧用の和紙らしく、この地方の名産らしい。薦められたのでスミカは試供品の一枚を自分に――ではなく、少年を呼んで、何も言わず出し抜けに鼻に押し付けた。驚いた彼の反応はとりあえず無視して、紙を見てみると、表面に吸い込んだ脂が広がっていた。見た目から感じられないが、彼も年頃なのでやはり顔に浮き出る脂が多いのである。
「おぉ、よく取れてる。ほら、見てみろ」
 広げた紙を少年に見せると、自覚がなかった脂の量を思い知らされ「うわぁ」と漏らした。奇妙なもので、排泄物と云えるものなのだが、多量に取れたせいか爽快感のようなものがあって、彼は手渡されたあぶらとり紙を照明に透かしたりして、しげしげと眺めていた。
 スミカが店員とその様子を眺めていると、店員が
「かいらしどすなぁ。弟はんどすか?」
 と尋ねてきた。歳が離れているからそうだと思ったのだろう。
 彼はそれを聞いていたらしく、動きをぴたりと止め、横目で背後を伺っている。勿論、注意の矛先はスミカの返答である。
「え、えぇ……まぁ……」
 しかし、スミカは苦笑を浮かべながら言葉を濁らせてそれを肯定してしまった。その後も店員と話している間は、意図して彼の方を見ることはなかった――見れなかったと云うべきか。
 スミカはあぶらとり紙や木製の高価な櫛などを、そして少年は何に惹かれたのか彼女にはまるでさっぱり理解できなかったが、木で日本刀を模った木刀というのを購入。店員がそれを予想できていたような表情をしていたのが気になったところである。
 購入する人間など皆無に感じるが、前例があるのだろうか、と彼女は考えた。
 片や紙袋を手に、片や木刀を提げている二人が石畳の上を歩いているが、少年の方は不貞腐れたように頬を膨らませていて、少しご機嫌斜めである。理由は言わずもがな。
「……悪かったよ」
 弟扱いされたことを根に持っている彼に笑みを含めながら謝ると、「気にしてませンっ」とそれを突っぱねた。正直彼女としては妹扱いされなかったことを幸運と思うべきであると思っていたが、流石にそれは言わないでおいた。更に不機嫌になることは明白である。
「……これからは”スミカお姉ちゃん”って呼びますからね」
 皮肉めいた口調で少年が突然、意趣返しのつもりでそんなことを言った。余程効果があったのか、スミカが立ち止まる。少年がどうだと言わんばかりの表情を浮かべながら、背後を見遣ると、足元の石畳の如くスミカは硬直していた。
 予想を遥かに超える反応にやりすぎたかと思って、困惑しながら近寄ってみると、彼女は固まったまま「……今、なんて言った?」と聞き返してきた。怒らしてしまったか、と思って恐る恐る彼女を見上げながら言われた通りに彼は繰り返す。
「……スミカお姉ちゃん」
 するとスミカは突然、少年を置いて、背筋を綺麗に伸ばした姿勢で、きびきびと歩き出した。彼が追いついて並ぼうとすると、何故か歩みの速度を上げる。最終的にはゆったりとした風情を持つ街で二人は競歩並みの速さで以って街並みを駆け抜けていた。前から擦れ違ったり、後ろから追い抜かれたりする通りすがりの人達が何なんだ、と云ったような怪訝な表情で彼らを見送る。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 いくら風通しの良い浴衣とはいえ、夏の強い日差しの中を大層な勢いで歩けば汗も掻くし、疲れもするのは当然である。二人の疲労がピークに達した時、丁度茶屋があったので、なんとか休憩を取ることが出来たが、もしこの店が無かったらどうなっていたか。
 体力を消費した身体に善哉の糖分や、冷えた麦茶が澄み渡っていくようであった。五臓六腑に染み渡るとはこのことだろう。
「その……ごめんなさい」
 駆け込まれた店員が驚くほどの疲労の発端が自分の言ったことであるので、少年はスミカにしゅんとしながら謝る。
「いや、そうだな、確かに……な……あはは」
 だがスミカは驚いたように身体を震わせると、寸前に頼んでいた抹茶のように、濁りに濁りきった言葉でそれに応えた。最早何が言いたいか理解できない程である。
 競歩で蓄積した熱の燈る顔を流れていく汗を拭った後、善哉を一口含めながら、ちらと隣に座っている彼を見る。その瞬間、先程の光景がフラッシュバックした。
 端整な顔立ちが小動物のような眼で以って自分を見上げ、そして小さな唇が発する一言。
 それらのせいで、胸が締め付けられるような感覚が走り、お陰で餅を喉に詰まらせかけた。
 スミカは相当に狼狽していた。まさかたった一言でここまで動揺することになるとは思ってもいなかったのだ。それに気が少しでも緩むと、先の記憶と、抱いた感情に浸りたくなってしまっていることにも。食べている善哉の甘みが比較にならぬほどにそれは甘美であるのだ。
 流石に”お姉ちゃん”と呼ばれて嬉しかったなどとは、恥ずかしくて絶対に彼に言うことは出来ないが。
 暫くして落ち着いた二人はその後は、様々な寺院を回ってみた。
 例えば、高い立地に舞台などがあり、その外観を少し遠くから眺めることが出来る寺。敷地の中に縁結びの神様を祭っている神社もあった。既に二人は結ばれているので無用であったが。その近くでは林道を通った先にある寺もあり、市中を一望できたり。
 流石に現地の交通機関の知識無く回るのには限界があり、宿の夕食の時間もあるので、引き揚げることにした。
 
 流石に日本でも指折りの観光地なだけあって、人も多い。そこにスミカにはある疑問を抱いた。確かに日本は汚染の度合が低いとはいえ、これほどの人間が住み、尚且つ訪れるのはどういうことだろうと。今や旅行を楽しめるような中流から上の層はクレイドルに集中しているはずであるのにも関わらず、荒れているとされる地上に来るのは何故だろうかと。
 それだけ、人気があるということなのだろうか。文化的価値が高いからか、学生らしき集団も見かけたこともあったので、最早ここが地上だということはどうでもよいことなのかもしれない。
 それともう一つ彼女が気になったのが、一人はアフロか天然パーマか判別できない縮れた髪の男、一人は髭を生やした肥満体、一人はカメラを担いでいて、一人はシュッとした男の四人組がいたのだが。最後の印象では涼しい雰囲気の男が往来でサイコロを回すと、その出た目を見て、縮れ毛がやかましく叫びながら石畳の上を転がり回っていた。暫く喚き散らしてから、サイコロを回した男を一言、「ダメ人間ッ!」と痛烈に罵っていた。
 まぁ、人が多ければその分、変なのも紛れるのだろうとスミカは結論付けておいた。
 
 風情ある街並みが夕日に包まれ、昼とは違った色を帯びている。そんな中、宿に戻る途中で、スミカが何かに気付いたようにあっと声を上げた。
「そういえば……」
「はい」
「お前とこんな風に歩くの……初めてだな」
 普段はアジトで依頼を待ち、無ければカラードで訓練。依頼があれば戦地に赴いて戦闘。終われば、帰って休養。翌日も――。
 二人の日常は主にこの繰り返しである。言われた少年もそれを思い返し、彼女の言葉を噛み締めるように頷き、
「……デート、ですよね」
 照れながらもそう言って、隣を歩くスミカの手に自分の手をそっと触れさせた。
 寄り添うように触れ合った手が開き、指が絡む。程なくして手は同時に互いのを貝殻が噛み合うように握り合うと、二人は見詰め合って、はにかんだ。
 夕日に照らされる二人の影。手が交じり合い、頭はキスするように触れ合っていた――。
「わぁ~~!」
 食卓の上を多い尽くす鮮やかな料理を見て、少年は感嘆の声を上げる。野菜や魚、一人用の鍋など、種類も様々。丁寧でいて、工芸品のような盛り付けも相俟って見ていて飽きないとさえ思えるほどだ。
 彼は、勿論スミカもわくわくしながら後続を待っていると、外で女性の「あっ!」と驚いたような声が聞こえた。皿でも落としたのかと思って、二人がその方向を見る。今度は男の声で部屋の外から
「失礼する」
 と声が聞こえた。昼のこともあるので、俄かに警戒を強める二人。スミカは箸を逆手で持ち、少年はどうしようかと逡巡した後、空のコップを構える。畳が軋む音が聞こえ、開いている襖の陰から灰色の着物がすっと現れる。
「……あ、社長さん」
 来訪者は有澤隆文であった。渋さを醸し出す貫禄のお陰か、着物が大層に似合っている。
 二人は構えていた武器代わりの食器類を下ろすと、今日一日の成果か、頭を僅かに下げて、お辞儀を同時にした。
「どうかな、楽しんで貰えているかね?」
「はい!」
 その問いに、少年ははち切れんばかりの笑顔で答える。その反応に招待した社長も満足そうな笑みを浮かべると何かの合図のように手を叩く。すると入ってきた仲居たちが湯気を立てる鍋と、赤い液体の入ったコップを持ってきた。
「これはスッポンという亀の種類の鍋と、その生き血だ。身体に非常にいい」
 折角薦めてくれたのだが、それの視覚的に強烈なインパクトに二人がたじろぐ。ほぼ亀が一匹そのまま鍋に入っている上に、片方はドロッとしている赤黒い液体なのだから。しかし、社長は二人の反応を予想していたらしく、「まぁ、ちょっと見た目がな」と笑うと、囁くように声を潜めた。
「……こいつはコラーゲンたっぷりでな、肌がツルツルになる」
「よし、頂くとしようか」
 それを聞いたからか、それとも偶然か、スミカが箸を入れる。気後れしながらもそれに続く少年は他の料理と交えつつ、ちびちびとすっぽん鍋を食べながら恐ろしいものを見るような目でちらちらとコップに視線を送っていると、社長に手招きをされた。
 僕ですかと云う風に彼が自分自身を指差すと、社長はそうそうと頷く。怪訝そうな顔をしながらも呼ばれたままに社長に近づくとそっと耳打ちをされる。
「……生き血の方は私も重宝しているんだが――ビンッビンになるぞ。驚くぐらい」
「頂きます」
 手早く戻った彼は気合を入れると強烈な生臭さに顔を歪めながらすっぽんの生き血を一気飲みし始めた。突然に豪快さを見せる彼に驚くスミカと、食後に飲めばいいのにといった顔をする有澤一同がそれを見守る。
「ぶはぁっ!」
 酒の比ではない飲み難さの生き血を酒のように飲み干した少年が勢いよく声を上げると、室内に拍手が起こった。効能のお陰か、顔は赤くなっており、本人も身体に熱が広がっている感じがある。食事はまだ始まったばかりなので、暫くの間はそれを持て余すことになるわけだが。
「では私はこれで……あ、そうそう。今日は丁度花火大会の日でな、ここの庭から見えると思うよ」
 舌鼓を打つ二人に、顔どころか首筋まで真っ赤にしている少年には申し訳無さそうな視線を送りながらそう言った社長は立ち上がり、「ごゆっくりと」と締めた。
 食事後、旅館及び社長の好意で出されたスイカを到着直後と同じように縁側に敷いた座布団の上に座りながらかぶりつく二人。すると、空に光が跡を惹きながら昇って行き、光の花を広げた。それに続いて後何発も花火が打ちあがっていき、夜空を照らす。
 打ち出した後、炸裂した後に二人は聞きなれた花火の音が聞こえたが、戦場で聞くそれとは違い、温かみのあるものだった。
「綺麗だな……」
 闇に咲く花を見つめながらスミカが惚けたように呟くと、縁側に置いていた右手に、少年は手を重ねて上から握った。
「……スミカさんの方が綺麗です」
 スミカは何も言わずに、彼の肩にそっと頭を乗せた。髪に広がる彼の熱と、口内に広がるスイカの冷たさが交じり合うのが心地良い。
 一尺玉が一際大きな輪とを広げた、炸裂音を響かせたが、二人の鼓動はそれよりも大きくかった。
「ん、終わったようだな……それじゃあ、風呂入るか?」
 空に光が灯らなくなり、辺りが静寂に包まれた頃、スミカが少年にそう尋ねると、こくりと頷いた。二人が連れ添って歩いていき、脱衣所の引き戸を開けて、中に入る。散々裸を見せ合っている二人なので躊躇することもなく、さっさと浴衣を、そして下着を脱ぎ捨てる――と思いきや、少年がほぼ裸になる傍らでスミカは浴衣を肌蹴させた辺りでぴたりと動きを止めていた。
「そういえば、思い出したんだけどな……」
 彼に聞きたかったのだが、聞きそびれていたことがあったのだ。呼びかけられ、少年は首を傾げながらスミカを見る。
「買い物してた時……お前、やけに私の後ろにいたが、アレは何だったんだ?」
 あぶらとり紙を買った所以外にも色々な店で商品を物色していたわけだが、必ず少年はスミカの背後に位置して、例えば彼女が見せようとしても、場所から動かず、覗き込むようにしていたのだ。それにたまにキョロキョロと当たりを見渡す不審な素振りは、万引きでもするのかと思えるほどであった。
 問われた彼はバツが悪そうな顔をしたり、「あのですね……」と口篭ったりと実にその理由を言い難そうな様子であったが、俯きながら語り出した。
「お店で何か見る時って、屈んだりするじゃないですか」
「……うん、それはそうだな。で?」
「その時、気付いたんです。スミカさんの下着のラインが……特にお尻の……」
 どうやら彼女は気付かなかったが浴衣の上から、下着の線が透けていたらしい。しかも彼の様子から察するにハッキリと。さっと隠すように臀部に手を遣るスミカだが、時既に遅い。更に自身で触ってみて、確かに何かの拍子で透けそうであることに気付いて、尚更に恥ずかしくなった。しかし、彼の奇行の理由が分かり、途端に嬉しさも心中に広がっていた。
「だから、隠してくれていたのか?」
 少年がこくりと頷く。辺りを見渡していたのは、周辺に他の男がいないことを、若しくは見ていないかを確認していたのだ。言うべきか、言わないべきか、気遣ってくれたのだろう。迷った挙句、身体を張って守ってくれたのだ。
 そのことを考えるとスミカを急に頼もしく、愛おしく感じ、ご褒美に小さく喉を鳴らしながら、彼の唇に短く口付けを落とした。
「……ありがとうな」
 微笑みと感謝の言葉も付け加えて。
 脱衣所を抜けた二人が風呂場に入ると、其処には大きな陶磁器製の桶のような浴槽があった。淵には木製の注ぎ口が備え付けられていて、そこから温泉が絶えず流れている。周りは小高くなっているお陰で、入るのにさほどの労力は必要なさそうである。直ぐにも入りたいと少年は思ったが、先んじたスミカが洗い場の方に行ってしまったので渋々後を付いて行く。だが、ここで好機と言わんばかりに「背中、流します」と表向きは気を利かせているようなことを言うと、スミカは了承してくれた。
 風呂椅子に腰掛けているスミカの背後から置いてあるボディソープをタオル――にではなく自分の手に付けて泡立てる。そこまでして、手であることに何か言われるかなと思ったが、特にお咎めはなかったので、そのままシャワーで背中を濡らす。
 泡塗れになった両手をそっと彼女の背中の肩甲骨に触れさせると、刺激に驚いたように一瞬身体がぴくりと跳ねたが、構わずに背中の下に向かって手を這わしていく。天然の精力剤のせいで昂りを見せている彼であったが、肌を傷つけないようにしなければという自制心はあり、擦るというよりは優しく撫でていく。しかし、それが愛撫と同じということに気付いたのは、泡を掻い潜った指の腹が彼女の背筋をつぅっと撫でた時であった。
「ふぅ……っ」
 浴槽に湯が注がれる音に消えていきそうな程の微かな吐息であったが、確かにスミカが漏れる声を留めるようにしながら。殆ど不可抗力であったが、直に肌に触れている状況でそんな声を聞かされてしまっては、まだ許容範囲であった一物も完全に勃起してしまい、それが危うく彼女の尻に触れそうになって焦りながら腰を引いた。
 そうこうしている内に、下がっていく手が――彼女の尻に到達してしまい、まだ今はそんなつもりではないと躊躇したが、水滴で濡れたそれの魅力には抗えず、揃えた指を這わせていった。
「はン……」
 スミカが性感から逃げようとしたのか、僅かに前屈みになる。だがそれは逆に尻を突き出すように格好になり、一瞬だけ肉の割れ目から秘所が垣間見えた。其処は湯のせいか、それとも別のもののせいか濡れていた。
 昂っていく劣情に加えて、柔肉に指が埋もれていく感触が心地良く、少年は指先に揉むように力を込めたい衝動に駆られたが、なんとか抑えこんで――それでも掌で堪能するように――尻を撫でるように洗った。
 とりあえず背面の洗いは終わったので腰を落としていた少年が位置に気を付けて立ち上がると、昼に魅せられた彼女のうなじが見えた。即座に触れたくなり、留めることも出来ず、其処に指を触れさせて、肩までゆっくりと這わせた。彼の意識はもう其処にしか向けられていなかった。
 
「こら……当たってるぞ」
 肩に這わせている手がぺちりと叩かれて、我に戻った少年が下半身に眼を向けると自身のモノがスミカの背中に気分良さげに寄りかかっていた。慌てて腰を引いたのだが、泡に塗れた背中は滑らかで裏筋を撫でられた感触に小さく喉を鳴らしてしまった挙句、彼女の背中と先端が腺液の糸で結ばれていた。それでも彼の視線はうなじから肩の辺りに向けられていた。
「全く。胸ばかりじろじろと見て……やらしい奴だ」
 見に覚えのないことを言われたので「え?」と聞き返そうとしたが、どきりとした。今まで気付かなかったが、肩の辺りから先を見ていくと、スミカの豊満な乳房が見えるのだ。既に彼女が上から手が添えているので、隠れてしまっているが。
 視線を上げると鏡越しにスミカが呆れている顔をしたのが眼に入った。おそらくずっと見ていたのだろうし、視線を感じていたのだろう。実際にはその上であったのだが。
 少年が気まずそうにしていると、スミカが突然椅子の上で振り向くように半回転した。尻が泡に塗れていたおかげで滑らかに。そして、彼の手を取ると自身の胸元に導いた。
「……前もお願いしようかな」
 スミカがそう言った途端。少年の掌に鼓動の高鳴りが伝わった。
 彼女の痴態、媚態の前に我慢など何処かに飛んで行き、一歩前に出ると、両手でその豊満な乳房を両側から強く激しく捏ね繰り回した。
「あぁンっ! そんな、乱暴にぃ……」
 少年の手の中で二つの肉が自在に姿を変えていき、時折泡のせいで滑ってしまい、跳ねるように手から零れていくが、弾き出される刺激も彼女には性感をもたらした。快感を享受するように眼を瞑るスミカは気付かなかったが嬲られる乳房の先で先端が徐々に尖りを見せていた。少年はそれを目ざとく見つけると、摘んで上に引っ張った。
「あぅぅっ!」
 先端が吊られていくに連れて乳房も伸びていく傍ら、もう片方は正面から握られ、逆に身体の中に押し込むようにされる。真逆の様相を見せる彼女の胸部を眺める彼であったが、引っ張っている乳房と自身のモノが同時に眼に入り、下方に下げていく。
「あ、熱っ……?」
 突然に広がった熱の正体を確かめるためにスミカが眼を開けると、少年が腰を浮かして自分の乳房に肉棒を擦り付けているのが眼に入った。自身でも痛々しく見えるほどに伸ばされている乳房に、苦しそうに膨らんでいるものが触れている光景に生唾を飲み込みそうになったが、「ま、まって……」と言って、それを止めさせた。
「その前に……」
 潤んだ瞳で見上げながら、股を開いて彼に懇願する。その言葉の真意は自分の身体を撫で回してくれという、はしたないものであり、スミカが恥じ入るように赤面する。少年は腰を落とし、胸から手を離すと、柔らかな手付きで彼女の身体を愛撫し始めた。それもどこか愉しげな表情で。
 腕を洗われながら、それを見たスミカは股の奥の股が期待に熱くなるのを感じるのだった。
「はぁ……ンっ!あっ あっ あっ!」
 泡に塗れた手が全身を這いずり回る感触にスミカは喘ぎ続ける。特に脇や洗い終えた尻、そして少年もよく知っている彼女の感じる場所である太腿を撫でられた際は一層高く声を上げた。持ち上げられた足の指を手ではなく、口でしゃぶられ、舌で舐め回されるなどされて、単純な性感だけではなく、奉仕させているような優越感によって劣情は更に高まりを見せていた。
 そして、スミカの身体のほぼ全てが泡に包まれた。だが一箇所だけ、泡の隙間があった。少年にとっても、スミカにとっても、其処は最後に残しておきたかった場所である。水に濡れているだけの筈が、滑り気を帯びている。彼がそっと其処に手を伸ばそうとするとスミカがそれを制した。
 あ、待て……沁みるから……」
 敏感であるからか、人体の仕組みなどには詳しくなかったが、洗剤が触れると痛みが奔るのである。とはいえ、彼も濡れた瞳を向けている上に、秘唇が物欲しそうに半開きになっているのも自分で分かっているために、此処で止めるということは考えられなかった。そこでスミカは閃きを得た。
 それを想像するだけで、愉しくなりそうな閃きを。
 スミカは身体に付着している泡を落としながら、おもむろに立ち上がると、床に座っている少年を見下ろしながら、そして丁度彼の顔が秘所の前に来るように、半歩脚を開く。同時に僅かに開いた秘唇から愛液が垂れて、落ちた泡と交じり合って流れていった。
 口で、洗え」
 抑え切れないほどの興奮を抱いて頬を紅潮させながらも、眼には冷艶な光を灯らせて彼に短く命令した。彼が犬のように吐き出している吐息が秘所を擽るのと、支配しているような感情が相俟って、スミカの背筋にぞくぞくと快感を走らせる。
 興奮を示すように、だらしなく開いた口から吐息を漏らしながら少年が彼女に濡れた瞳を向けながら従順な様子で頷いたが、「スミカさぁン……」と泣きそうな声で呼びかけた。
 ん?」
 もう、我慢出来ないです……」
 スミカはそれを挿入の懇願かと思った。だが、ここ最近はスミカに責められていた彼は命令をこなすことが染み付いており、言われた通りに口で洗うつもりであった。だから床に置いていた両手でそっと自身の肉棒を握る。
「……出しても、いいですか?」
 そう強請られた瞬間、スミカの秘所からとろりと愛液が溢れるように流れ出て、泡を落としながら太腿へと垂れていき、意図せず口から甘い溜息が滲み出た。その量に彼女は絶頂を迎えたと本気で思った。それほどに彼女の中を走ったものは大きく、強かったのだ。
 何せ、相手が必要である性交ならいざ知らず、自分一人で行なう自慰の許可を乞わせたのだ。半端な征服感ではない。
「……いいぞ。でも私がイクまで我慢す……ンンぅっ?!」
 嘲笑うかのような冷笑を浮かべながら、許可を下ろしたスミカであったが、その途端に秘所に少年が顔を飛び込ませながら舐めてきたので、驚愕の交じった嬌声を上げながら前屈みになってしまった。だが彼はそんなことお構いなしに、半ば塞がれている口から吐息を上げて、舌を這わす。そしてそれを肴にして、自慰に励み、それによって更に吐息が激しくなっていく。その様子たるや餌に喰い付く犬のよう。
「あっ! すご……く、いぃっ……!感じるぅっ!」
 自身の股に快感に酔いしれる顔を埋める彼を陰毛の向こうに、その下で必死にグロテスクな牡の器官が扱かれて先端から汁を床に垂らすのを鑑賞するスミカは彼の頭に手を置いて、ぐっと引き寄せる。その拍子に膣内が充分に濡れていたおかげか、舌が何の抵抗もなく挿いってきた。
「ふぶっ……ンンむ……っ」
 無理矢理に引き寄せられた挙句、彼女がかくかくと腰を遣い出したせいで少年が苦しげに声を上げるが、スミカはそれに構うことなく、まるで男が強引に口淫させるように更に腰を振る。
「あっ あっ! あぁぁーーっ! ……もっとぉっ! もっとしてぇっ!」
 膣肉を舌先でなぞられ、秘唇を吸引されて、スミカが口から唾液を垂らしながら、嬌声を上げる。期待に答えなければならないという義務感のようなものが少年にはあるので、息苦しいながらも、肉棒から片手を離して、彼女の尻を掴んだ。
「ふぁ……? はあぁぁンっ! それっ! それっ、いいっ!」
 掴んだ尻を乱暴に撫でると、膣の天井に舌先をくっ付けて、今度は少年がスミカを引き寄せた。中が抉られていく快感にスミカは前屈みになっていた身体を吊るされるように張り詰めさせる。露天とはいえ、雨などを遮るための木製の天井を見上げながら。
「いいっ、いいっ、いいっ! イクっ イクっ!イキそうっ、イっちゃうぅ!!」
 やがてスミカが腰の遣い方が、引くのよりも押す方の時間を長く、そして力を強くしながら、うわ言のように叫び出す。本人も言っている通り、絶頂が近いのだ。それに当てられて、肉棒を扱きを速めながら、口内に流れ込んでくる白く濁り出した愛液を掻き分けるようにしながら膣内を舌で四方八方に暴れさせる。そして自慰の刺激によって少年が不意に身体を震わせて、身体を僅かに持ち上げた瞬間、尻の下方を掴んでいた手も持ち上がり、スミカの菊門をそっと撫で上げた。膣肉を撫でられながら、未知の感触を味わったスミカは、
「イクぅぅぅぅっっ……!!!」
 太腿の筋肉をぴんと張り詰め、脚を震わせながらも、腰を押し出し、少年の頭を更に力強く引き寄せて、絶頂を迎えた。
 また、彼女の股の下では、
「ンンンむぅっ!!」
 少年がスミカが噴出している愛液を口内に、そして喉に流し込み、甘い芳香に溺れながら遅れて射精を迎えていた。
 白濁は彼女が座っていた椅子の直ぐ前に音を立てながら、降り注いでゆく――。
 絶頂から暫くして、やっとスミカが荒く息遣いをしながらも、なんとか椅子に座った。
 余韻で、立ちながら身体が震えていたために、彼女自身も動くのが、そして少年も離すのが躊躇われたのだ。つまり、その間、ずっと彼の顔が股間に埋もれたままであったということになる。
 既に昂りが戻りつつあるとはいえ、絶頂後の虚脱感の中でのそれというのはかなり恥ずかしく、スミカは少女のように嫌々とか細く声を上げていた。彼としては、鼻先から漂ってくる香りが芳ばしく、ずっとそうしていたいぐらいの心地良さであった。何度かすんすんと犬のように臭いを嗅いだら、スミカが涙声でそれを止めさせようとしたのが愉しかったというのもある。
 
「それじゃ、今度はお前を洗ってやるか……」
 一息ついたスミカが快感に蕩けた眼で――それでも何かを企んでいるような色が見える――彼を見上げる。その妖艶な様に期待を抱いた彼が生唾を飲み込むと、スミカは座ったばかりだというのに立ち上がった。精を放った直後でありながら剛直を保っている彼の肉棒に視線を送りながら、傍を通っていく。少年がまさかと想像を膨らませた瞬間――肩に手が、背中には二つの柔く、滑らかな、そして固い感触が走った。
「……私の身体でな」
 背後から抱き着かれたと理解した時には、耳の直ぐ傍で冷笑交じりの声が聞こえた。背筋にぞくりと悪寒のようなものが走っていくと、更に耳たぶを甘く噛まれ、それは増していった。
 肩に置かれていたスミカの手、そして腕が脇から差し込まれ、少年の胸部に絡みつく。その様は蛇を思わせるほどに艶かしかった。そして腕だけではなかった。上げられた脚も立ちすくむ少年の脚に絡んでいたのだ。
「ン……」
 短く喉が鳴ったのが直ぐ背後で聞こえると、次に泡を間に置いて触れ合う身体同士が擦れ合う音がした。身体中が滑り気のある柔い肉に包まれながら、摩られる感触。まるで二人の身体がそっくり肉棒と膣肉に摩り替わったような。しかし、心地良さに陶酔していた少年は快感に打ち震えていたために、そのような具体的な例えを出すことは出来なかった。
「あ……はぁ……うぁ……」
 全身を這いずり回る快感に少年が天を仰ぎながら嬌声を漏らす。
 細い指先が上半身のあちこちを、また逆の手が太腿を摩っていく。腕が乳首を擦りあげたり、脇腹を摩っていく。スミカが身体を上下させることで乳房が背中の全面を撫でる。絡んでいる脚の脹脛が太腿や脛に触れていく。時折、スミカも喘いでいるが、それは彼女も性感帯が擦れるのが快感なのだろう。
 それでも触られてもいないのにびくびくと震えるペニスにだけにはスミカは触れなかった。それがもどかしいと少年は思いつつ、期待が募っていく感じに心を震わせている。
 
「はぁぅっ?!」
 突然、少年が身体を張り詰めさせた。今まで緩やかな性感が一際強くなったのだ。しかし自分でもその原因が分からず、背後の様子を伺うと、
「なんだ。お前、ここも弱かったんだな……っ」
 スミカがその肉付きのよい太腿で尻尾を挟んでいたのだ。そして彼の見てる前でそれを扱き出した。背骨と直接繋がっているせいだろうか、撫でられる度に、背筋に悪寒が伝わっていく。日常でも偶にスミカに撫でられることがあるとはいえ、それは性感とは言い難いものである。だが快感が蓄積し、かつ股に挟まれているというのが、それを変えていた。
「あぅぅっ……うぁあ……」
「あン……ンン……」
 スミカが腰を前後する度に、尻尾が犬が喜びを示すかのように太腿の中で跳ね回り、それに呼応するように肉棒も上下に跳ねる。そして尾が纏っている毛に秘唇を擽られて、スミカがもどかしそうに嬌声を漏らし、身体の泡や水滴と共に愛液で尻尾を濡らしていく。
「ふぅ……次は……」
 尻尾を泡塗れにしたスミカは刺激されて疼く秘所の昂りを抑えるように短く息を吐くと、空で震えながら腺液を垂らしている少年のペニスの根元から手を添える。触れられた途端にそれを手の内で跳ねさせ、嬉しそうに高い声を恥ずかしげもなく出すのは、最近の成果だろうか。
 だが陰茎を扱きも、握りもせずに手を離すと、少年の傍を通り過ぎて行く。手淫を期待していた彼は蕩けた眼で追っていくと、スミカは椅子に座り、突然に
「あ……ン……」
 自分の胸を両側から揉み始めた。左右の胸が上下に別々にずれて行き、肉がひしゃげる。自慰をし出した彼女であるが、少し不満げな顔で谷間を見ながら「少し、足りないか」と言うと、台の上に置いてあるボディソープを手に付け、泡立てもせずに原液のまま胸に塗りたくった。そして先程のように胸をもう一度擦りあげる。まるでボディソープを沁み込ませたナイロンタオルを泡立てる時のように。
 徐々に泡に埋もれ出すスミカの谷間を見て、少年は上せたと思えるほどに頭に熱が篭っていくのを感じていた。口からはそれを排熱するように熱い吐息が断続的に吐き出されている。
「よし、これぐらいでいいかな……ふふ。ほら、来い」
 自分の身体の淫らな様子と剣先を向けられている肉棒を見て、スミカが妖しげに笑うと、秘唇を開いて挿入を促すように、乳房を掴んで拡げた。谷間で虹色に光る泡の膜が広がり、ぱちんと弾ける。それがまるで秘所を濡らす愛液のよう。
 堪らないという風に生唾を飲み込んだ少年が彼女に歩み寄り、開かれているその場所に陰茎を差し出す。
「そうだ。お前がするか?それとも私がしてやろうか?」
 愉悦を含んだ濡れた眼で少年を見上げながら、スミカがそう尋ねる。
 自分で好き勝手に責め立てるか、それとも乳房に捏ね繰り回されるか。考えるだけで先走りが溢れそうな想像を巡らし、それに顔を惚けさせながらも、決断しかねると云った風に逡巡した少年は、いい案を思いついた。
「……じゃあ、お願いします」
 それを悟られぬように先ずは彼女に強請る。
 スミカはそれを受け取ると、冷笑を浮かべ、無理矢理引き離していた乳房をぱっと離す。その間にあったペニスが二つの肉に叩かれるような勢いで挟まれて、埋もれる快感に跳ね上がりそうになったが、それを見越していたスミカはすかさず両側から乳房を押さえつけ、抜け出すのを防いだ。
「ほら、どうだ?」
「はぁぁ……すご、いぃ……」
 感想を聞いてみると答えは返ってきたが、聞いてはいなかったのだろう。偶然言葉が重なっただけだというのは、彼の陶酔しきった顔を見れば分かる。包まれた感慨を抱かせる暇を与えることなく、スミカは胸を回転させるように動かすと、彼が更に甘い声を上げて、肉棒が逃げ場無く震える。
 泡と腺液によって、擦れ合う度に抽迭の時のような淫音が鳴り響き二人の脳髄に染み渡っていく。
「スミカさん……」
 身体を棒のようにしながら震わせる少年が、弱々しくスミカの名前を呼ぶ。乳房の間で広がる熱に興奮し、頬を紅潮させている彼女は彼に甘く囁くと、埋もれていたペニスを持ち上げて、竿だけを挟むようにする。鈴口から腺液の糸を引きながら、露出した亀頭と目が合い、充血しているそれに見惚れて、ほぅと甘い溜息が漏れた。
「……好きなときに出していいからな」
 そう言ってから泡に塗れた亀頭に口付けを落とした。僅かに口に洗剤の苦味が広がっていく。それを合図にするとスミカは手淫のように、挟んでいる乳房で肉棒を上下に扱き始めた。愛液が攪拌されるのに似た淫音が鳴り出し、竿が柔肉に刺激され、出っ張りが乳房に引っ掛かる。
「あっ、あっ、あぁっ! でちゃうっ、でるっ!」
 肉棒を刺激しながらも自身の乳房に快感が奔り、より一層彼女の責めが激しくなっていくと、少年が腰を押し出し始める。反り返るペニスが限界を伝えるようにとろとろと腺液を溢れ出しているのが間近になる。苦しそうなそれを見て、スミカは悪戯心が芽生えて、裏筋にふっと息を吹きかけた。瞬間、びくりと陰茎が大きく震え、にゅるりと谷間を駆け上り、
「あぁぁぁああーーーっ!!」
 スミカの眼前で上を向きながら噴水の如く白濁を噴出した。
 律動を乳房に伝えながら、数度に渡って勢い良く射精すると、自身を包んでいる乳房に、そしてスミカの髪や顔に精液を降り注がせた。
「いっぱい、出したな……」
 途端に白濁に塗れたスミカが牡の芳香を嗅ぎつつ、乳房や顔に張り付いた精液を指で絡め取って、惚けながら呟く。蕩けた眼で汚された自身の上半身を見渡していき、思い出したようにその原因である彼のペニスを見つめる。丁度、精液の残りが緩やかに鈴口から零れようとしていた。渇きを覚えた彼女はそれを啜ろうと舌を伸ばして顔を寄せていく。
 だが、後もう少しのところで肉棒が姿を消した。
「あ……?」
 舌先に広がる筈であった熱が消えていく空虚さに不可思議そうな声を上げると同時に乳房の横に添えられていた手の上に重ねられる感触が生まれた。確かめるべくそこに眼を向けると、自分の手の上から、彼が手で乳房を固定するようにしていた。そして次にその持ち主に視線を向けようとしたが、
「ふぅぁぁぁ……」
「あぁンっ!」
 彼の甘い喘ぎ声と胸の先端から根元に向かって熱が分け入ってくるのを感じた。
「あぁーー……スミカさんのおっぱい、きもちいぃ……」
 嬌声こそ、漏れ出る溜息のようであるが、それに反して乳房を両側から彼女の手ごと押さえつけて、埋もれている陰茎を音を立てながら抽迭させる腰遣いは相当に手荒で、膣へのものと殆ど変わりない。
「こらぁ……もう、やめ……」
 先程から一転、胸を責められてスミカが弱々しく拒む声を上げる。だがその気になれば簡単に振りほどける手をそのままにして、拒否を示すようにかぶりを振っているが、その眼はちらちらと挿入口となっている先端の周辺に向けられている。胸を犯されているというシチュエーションに興奮しているのだ。
 (私の胸が……おまん○みたいに……)
 心の中で状況を反芻すると、更に興奮が高まる。凌辱されている乳房だけではなく、彼が腰を押す度に先端がノックするようにその身体に接触するのも快感であった。
「あ……もう、イク……」
 やがてスミカの視線が固定された辺りで少年がか細くそう言った。元々射精直後だったから敏感になっていたのだ。
 そして抽迭の速度が速くなっていくと、直ぐにペニスが膨らんで根元まで乳房の中に埋まり、「あぁぁぁーーーっ!」
 ぐっぐっと腰を突き出しながら、射精し始めた。スミカの乳房の中で震える肉棒は律動を余すことなく伝播させていく。
「ン……ン……」
 胸の中で熱がじんわりと広がっていく感触に性感と身の温まる心地良さを感じて、スミカが小さく喉を鳴らした。
「……折角洗ったのに、汚れただろうが」
「……すいません」
 乳房の間で糸を引く精液を流し、再び身体を――今度は自分で――洗い終えたスミカがそう零した。とはいえ、二回目はともかく一回目は彼女からやったのだから、少年が叱られる必要はあまり無いように思えたが、彼は話がこじれるそうだと、大人しく謝っておいた。また、スミカは汚れたのは彼女の身体だけではなく彼の肉棒もであったために、ついでにそれにもシャワーを掛けたのだが、水流にぴくぴく反応するのが面白かった。だがまた出されては――自分も求めたくなっては――堪らないので、あくまで洗うに留めておくことにした。
 それと、いい加減温まらないと風邪を引きそうなので、二人はシャンプーは適当に済ませ、やっと入湯という段階で、スミカが「あ、ちょっと待ってろ」と言って、脱衣所に戻って行った。少年が何だろうと思いながら言われた通りに待っていると、すぐに帰ってきた彼女は徳利とお猪口が入った風呂桶を手にしていた。
「何ですか、それ?」
「温泉で日本酒を飲むのが風流らしい……パンフレットに載ってた」
 徳利のセットを手に取りながらのスミカと少年が同時に浴槽に入る。そして同時に肩まで浸かって行き――
「はぁ~~~……」
「ふぅ~~~……」
 同時に気持ち良さそうに長い溜息を漏らした。
 そしてスミカはお猪口に日本酒を注ぎ、一気に煽って
「――っはぁぁ~~~」
 もう一度嘆息を漏らした。少年はそれを苦笑しながら見届けていた。
「こっち来い」
 向かい合う位置に居た少年をスミカが手招きする。呼ばれたままに彼女の隣に行くと、脇に手を回されて持ち上げられ――膝に乗せられた。
「……スミカさん? その、恥ずかしいです」
「別にいいだろう、誰かが見てるわけじゃなし」
 それはそうですが……」
 スミカが左手にお猪口を持ちながら、右腕で少年を抱き締める。
「……やっぱり抱き心地がいいな、お前は」
「もう酔ったんですか?」
「悪いか?丁度いい、お前も飲め」
 彼にお猪口をぐっと差し出した。断ると面倒そうなので受け取る。とはいえ酒など一滴も飲んだことがないのでちびちびと飲んでいくが、
「……うぇ」
「はは、お前には早かったか。でもな、飲みやすくする方法があるんだ」
 酒を補充すると、自分の口に含めると、桶にお猪口を置くと、空いた両手で彼の頭を振り返らせて
「んむぅ?! ……んく……ん」
 口移しで無理矢理に飲ませていく。
「……はぁ。どうだ、美味しいか?」
 こくりと頷く少年。
 僕もスミカさんに飲まして上げたいです……」
「いいぞ、ほら……飲ませてくれ……」
 それから何度かお互いに口移しで酒を飲ませあうのだった。
「スミカさん」
「ん?」
「触り合ってから、こんな風に間を挟むのって初めてじゃありません?」
「……そうだな、いつもは最後までして、寝てしまうものな」
「ですよね」
「……心底疲れるまでやる必要はないんだぞ?」
「ちょっと待って下さい……最近はスミカさんが僕にさせてるじゃないですか!」
「なっ……前まではお前が私にしてたろうが!」
 
 ――暫くお前が悪い、そっちが悪いといった見苦しい責任の擦り付け合いが続く。
 
「……しょうがないじゃないですか。スミカさん、おっぱい大きいし、あそこも、すっごく気持ちいいし……一回だけじゃ……」
「お前の、ふぅン、ンむぅ……この指も、舌も……はぁ、ンン……気持ちいいぞ。それに……勃起、してるな」
「スミカさん、やらしい」
「そっちだって、さっきから私の太腿触ったり、背中を胸に押し付けてるだろう」
「だってすごく肌触りがいいんですよ、すべすべで……あ、乳首立ってますよ。ほら」
「あンっ!こらぁ、動くな……お前だって……」
「ひゃっ! ……指は、反則ですよぉ」
「なんだ、乳首弄られて気持ちいいのか?」
「それなら……僕だって……よいしょっ、と……!」
「はぁぁっ! もうっ、本当にお前の手は、やらしい、な……」
「スミカさん……しましょう?」
 浴槽の中で愛撫し合っていたせいで昂りを抑えらなくなった少年は、抱き合うようにスミカと向き合うと、ペニスを彼女の臍辺りに押し付けながら、蕩けた視線が絡み合わせて誘うように囁く。
 しかし、惚けている表情を見せているスミカも昂揚して呼吸が荒くなってすぐに彼を受け入れそうに見えたが、性交に臨むのとは違った笑みを浮かべた。
「……ちょっとゲームをしないか?」
「ゲーム?」
「何、簡単だ。このまま部屋へ戻って、普通に過ごす。それで我慢が出来なくなった方の負け。それだけだ」
 確かに理解するのも勿論、行なうのも簡単そうな遊びであるが、少年が反対するような表情になると、スミカはそれを察し、耳元に顔を寄せていく。
「勝った方は……相手を好きに出来る、というのはどうだ?」
 好きに出来る。これはスミカが言うのであるならば、言葉以上に激しい意味を持つのだろう。
 妖艶な声色で囁いた言葉とその真意は中々に魅力的であったために、少年は多少乗り気になって、負けないと言わんばかりの顔で頷いた。
 
「……お前もか」
「……スミカさんもですか」
 普通に過ごす。そういうルールの為に脱衣所に戻ったので服を着ることになるのだが、二人は示し合わしたわけでもないのに、下着の類を身に付けず、素肌の上から浴衣を羽織ったために互いに呆れたような声を出す。
 下腹部で剛直が浴衣を盛り上がらせている彼と、胸部が盛り上がっているのは常として、その先端に凝りが透けている彼女が居間へと歩いていく。
 その途中、初手を打ったのはスミカの方であった。
「ンっ……」
 歩く度に布に乳首が擦れることをアピールするように、小さく喉を鳴らす。直ぐ隣で嬌声を漏らされるというのは、甘美であったが、少年は一瞬だけ胸に視線を送っただけで、何とか堪えた。その視線に対し、スミカが意地悪い眼で彼を見ると、お返しと言わんばかりに下半身に力を込めて、盛り上がりを強くする。誘われるままに視線を送ってしまった彼女を意地悪い眼で見る。
 普通に過ごす。はずであるが、居間でテレビを付けたり、会話をしたり、何かするというわけでもなく、座布団の上に座って向かい合う二人。
 しかしスミカは酒を飲みながら、脚を崩して艶かしい太腿を浴衣の裾からはみ出させ、更に白々しくも肌蹴てしまったと云いたげに、右の肩を広く露出させ、乳房を半分以上外気に晒したりして、相手の劣情を煽る。こういうことが出来るために女である彼女の方が有利であると思われたが、危機感を感じているのはスミカの方であった。
 対面に位置する少年は正座で座り、天に向かって聳え立っている下腹部の剛直を際立たせている。更に時折座りを直そうとして、尻を浮かせるのだが、その度に徐々に一枚の布が前面で重なっているだけの浴衣がずれて、その隙間からペニスが僅かに覗いている。それだけではなく、先程話をしていないと述べたが少年は喋っていた。それでも独り言を呟いているだけなので話にはなっていない。但し、その内容こそが露出している性器ではなく、スミカの劣情を煽り、掻き立てているのだ。
「スミカさんの脚って長くて、すらっとしてて、本当に綺麗です。足首も細いし、太腿も丁度いい感じに肉が付いてて、見ているだけで、むしゃぶり付きたくなります。そうだ、脚を抱えながら寝てみたいな。それにお尻も綺麗で触り心地が最高ですね。きゅって締まってるのに、固くなくて……撫で回したいです。今度お尻を舐めてみようかな、それとも顔を埋めてみようかな。
 脚も長いし、お腹も引き締まってて無駄な贅肉が付いてないし、まるでモデルさんのように綺麗な――いえ、美しい身体です。あ、お臍が可愛いんですよね。やっぱり舐めてみたいなぁ。
 おっぱいは大きくて張りがあって肌も滑らかで、さっきの――パイズリでしたっけ?本当に気持ちよかったなぁ。アレで何度でも何度でも出せそうでした。乳首は桃色で凄く敏感で触り甲斐があります。乳輪も大きすぎずに、程よい大きさですごくエッチだし……あ、パイズリの時、おち○ち○で乳首とかも擦ればよかったかな。そしたら二人共気持ち良いでしょうし」
 先程からこの調子でずっとスミカの身体を褒め称えているのだ。独り言であるが、勿論対面の相手には充分聞こえる声量でだ。
 今している遊びに誘ったのが自身であるとはいえ彼同様に疼いているスミカは、彼の恋人としてではなく、女性としての自尊心を存分に満たされていく快感に心が震えていた。更に単純に褒めるだけではなく、所々に含められる自身へ向けられる彼の性欲も相俟って――語っている彼が美少年ということもあるのだろう――自分はそれだけに素晴らしい女であるというような自己陶酔に酔いしれそうだった。そして、彼が希望を述べる度に、そうして貰いたいと心の中でとはいえ、恥ずかしげもなく快諾していた。
 (まずい……)
 尚も続く自分に向けてというよりは第三者に向けて発しているような独白に身体が火照っているのを自覚し、スミカが酒を遣りながら、先に彼を我慢できなくさせる方法を考えようとする。しかし、中々に考えは纏まらなかった。そうしている間にも常に彼の語りが聞こえてくるからだ。
 思いあぐねたスミカは最後の手段として、前屈みになった。ほぼ外に出ている右の乳房であったが、その拍子に持ち合わせている弾力を現すように弾かれながら、浴衣の胸元から零れ落ちた。更に屈みながら胸元が肌蹴ているせいで左の胸の先端も彼に見えている。だがスミカはそれだけに留まらず、更に右の膝を立てた。脚が持ち上がり、掛かっていた浴衣の裾がはらりとその右側に落ちていくと、彼女の既に敷いている座布団にまで愛液を垂らしている秘所が対面の彼に晒された。
 その様にスミカが局所を見せつけながら誘うような冷艶な笑みを浮かべると、少年が多少離れていても分かるほどに喉を動かしながら生唾を飲み込みながら、更に膨らみを増し、布一枚の下で震えている一物の居心地を正すように座り直す。その時、勃起した肉棒が完全に外に出てしまった。正座する彼の膝を支えにして、塔のようにそそり立ちながら。
 自身を求めて滾りを魅せるそれに熱い視線を送りながら、スミカも少年と同じように生唾を喉に流し込んでいく。
 すると少年がおもむろに立ち上がり、浴衣の肌蹴た裾を陰茎に擦らせながら、そしてそれを揺らしながら、スミカの方に歩み寄って行く。我慢しきれなくなったのだと、勝利を確信したスミカが彼を責め立てる淫靡な妄想を膨らませて、疼きを表わすように秘所から汁を垂らす。しかし、彼が自分の前に立つと思っていると、傍を通り過ぎていく。怪訝そうな表情で頭だけを動かして、それを追おうとすると背後で彼が止まった気配がした。
「ン……どうした? したいのか?」
 突然に背中から抱き竦められて小さく喉を鳴らしたが、直ぐに嘲笑うかのような声で彼に言葉を掛ける。首筋を擽る熱い吐息と背中に押し付けられる硬く熱いものがこの上なく心地良い。
 初めて交わった時も最初はこんな感じだったとスミカが思い返し、更に、この後腹の辺りで固定されている手が自分の胸を掴むのだろうと予測していると、
「きゃ……?」
 その手に持ち上げられ、身体を浮かせられたスミカ。浮いた時間は僅かで、すぐに尻を突くと、着地したのは座布団ではなく、彼の腰の上であった。彼には一度もそのようなことをさせられたことがないので、どれぐらいの腕力があるか知らなかった。しかし見掛けからは想像出来なかったが、自分を持ち上げるぐらいは出来るのだなと、考えていると、秘唇に何かが触れたのを感じた。
「わ……!」
 一瞬、自分の股から異物が生えているのかと思ったが、それは下になっている彼の下半身のものが股の間にあるだけであった。このまま挿入する気なのだろうと更に予測した彼女が来る快感に甘い溜息を漏らしそうになったが、遊びのことを思い出す。
「こら。したいのは分かったが、私の勝ちだから……」
「……スミカさんの身体柔らかい」
 だが、まだ勝負は終わっていなかったのだ。え?と聞き返そうとしたが、尚も彼は言葉を続ける。
「髪の毛さらさらで触り心地いいなぁ……はぁ、いい香り……」
 直ぐ後ろで囁くような声量でそう言いながら、少年が背中に架かっているスミカの髪に頬ずりしながら、髪と首筋に鼻を寄せてすんすんと空気を取り込む。その度に彼女の股の間で陰茎が脈動する。
「ま、待て……身体に触るのは」
「さっき、そんなこと禁止だって言ってませんでしたよ?それに後ろから抱いてるだけですし」
「それはそうだが……じゃあ、こ、これは触れてるじゃないか……」
「偶然、そこにあるだけですよ。気にしないで下さい」
 気にするなと言われても、気にしない方が無理である。言葉にこそしなかったものの、それを示すようにスミカの視線ははち切れんばかりになっているペニスにのみ向けられている。
 その視線に気付いたのか、彼は最後の詰めと言わんばかりに口を開いた。
「……スミカさんはおまん○も気持ちいいんですよねぇ。敏感だから――それともスミカさんがエッチだからかな?直ぐに濡れて中がびしょびしょになって、それでいてきゅっきゅってよく締まるし……あぁ、思い出すだけで出ちゃいそう……」
 少年が体裁こそは独り言であるが、スミカに向かってそう囁く。すると事実射精したげに震えている陰茎の根元を、その言葉を証明するように秘所から新たに溢れ出た愛液が汚していく。彼女もまた思い出していたのだ、眼下でそびえるそれに突かれる感触を。
「挿れたい……」
「え……?」
「スミカさんのおまん○に挿れたいな……」
 意図せず期待感を込めてスミカが聞き返したが、今度は本当に独り言であった。しかし、以降も彼はうわ言のように彼女の耳元に何度も何度もそれを囁き続けた。まるで洗脳する際に流れる音楽のように幾度も繰り返されるのを聞かされ続ける。
 やがて、本当に洗脳されてしまったのだろうか、彼女は彼が希望を告げる度に心の中で
「……挿れて、ほしい……」
 と呟いていた。
 そして昂奮の熱で頭にもやが掛かり、更に同じ言葉を聞かされ続けて前後不覚にでもなってしまったのだろうか、スミカは気付いた時には、
「あ……」
 股の間にある彼の肉棒を両手で確りと握り締めていた。
「したいんですか、スミカさん?」
 言い逃れが出来る状態ではなかった。何せ気付かない内にとはいえ、性器を握ってしまっている上に、一回先端を撫で回してしまったようで、指の間で腺液が糸を引いている。それに其処から手を離せないでいるのだ。
 背後に振り返り、縋るような眼で彼を見ると、スミカは殊勝にも頷いた。だが、
「しょうがないだろう……食事の時から、お前が私のことをいやらしい眼で見るから……」
 悔しいのか、眼に涙を浮かべながら恨み言を述べた。原因は生き血のせいだろう。彼自身もそのような眼になっていたとは気付いていなかったが。
 しかし、それ以降彼女は反抗する言葉を述べることはなく、従順な色を秘めた眼で彼を見る。
「スミカさん、こっち向いて下さい」
 少年がそう言うと、スミカは言われた通りに――そして手早く、背後に向き直ると、二人が彼を下にして抱き合う格好になる。理性のタガが飛んでいるらしく、犬のようにスミカは荒い吐息を彼にぶつけている。更に強請るように尻の割れ目に触れている肉棒を刺激するように腰を前後に動かす。
「うわぁ……すごいエッチです……」
 浴衣が肌蹴きっている彼女の身体の格好を見て少年が感嘆したような声を上げる。言われてスミカが自身で仕立てたそれを見て、赤面した。よく見れば、胸が片方だけが露出しており、下半身は臍から下辺りが全開になっている。ある意味全裸よりも恥ずかしいとさえ思えるものであり、こんな格好によくなったと自分に驚いた。慌てたように、胸を隠そうと浴衣を引っ張り上げたが「このままで」と彼に制された。
「じゃあ、行きますよ。腰上げて下さい」
 やはり言われたままに彼の肩を支えにして手早く腰を浮かす。少年がスミカの股の間に手を差し入れ、自分のモノを掴んで、物欲しそうに半開きになって涎を垂らしている秘所の真下に固定させると、徐々にスミカが腰を下ろしていく。
「あン……」
 性器同士が触れ合った瞬間、彼女は止まった。されるのはあくまで自分であると心得ているのだろう。媚びるような眼で彼を見て、挿入を強請る。
 それに少年は笑顔で応えると、彼女の腰に両手を遣って、
「はぁぁぁぁっ……・!」
 一気に腰を落と込んで、膣の中に肉棒を捩じ込んだ。
 二人の甘い溜息が漏れて重なっていく。
「はぁンっ!あっ あぅっ!んぁあっ!」
「やっぱり……きもちいい……!」
 二人がひしと抱き付きながら互いが上下に腰を遣う。既に三度射精しているのにも関わらず、剛直を保ち続ける陰茎が前戯が要らぬ程に濡れそぼったスミカの膣肉を出っ張りで抉り、竿で撫でる。それに返すかのように、圧迫が竿を締め付け、肉襞が段の裏を撫でる。
 何度も重なっているが故に思い返すのも容易であったはずの感触であったが、それは彼らの想像以上であり、二人の身体が喜びに打ち震える。
「私、もう、だめ、ぇ……」
 すると絶頂を迎えた数が少ないスミカが先に快感に音を上げた。
 少年もそれを止めることはせず、彼女を突き上げながら「……イっていい、ですよ」と声を掛ける。許可を得たからと云った風にスミカは抱き締めていた彼の身体から離れると、肩に手を置き、身体を見せ付けるように仰け反ると、膣の奥底に肉棒の先端を擦り付けるように前後に激しく腰を遣い出した。
「あっ! あっ! あぁーーっ!!」
 露出している右の乳房をゆさゆさと揺らし、隠れている左の乳首を浴衣に擦り合わせながら、スミカが一際大きく叫ぶと、
「あぁぁぁっっ……!」
 膣口から白く濁った愛液を噴出させながら、がくがくと身体を揺らし、果てた。
 大きく仰け反りながら力が抜けてしまったせいで、後ろに倒れそうになる彼女を少年が背中に腕を回して、留める。抱きかかえられることが嬉しかったのか、スミカは身体を起こすと彼にキスをした。
「しょ……っと」
 余韻に浸るスミカを少年が抱え上げる。膝の下に腕を回され、背中を支えられ、まるで赤子のよう。落ちないようにするためか、それとも男らしさを見せる彼への愛情か、スミカは首辺りに腕を回して、しがみ付きながら、交わるための場所に運ばれることに期待を寄せるように濡れた瞳で見つめながら、時折短く頬や口に口付けを落としていく。
 やがて寝室の前まで着き、手が塞がっている少年の代わりにスミカが襖を開けると、
「あ……」
 旅館のシステムである。暗い室内に何時頃か――おそらく風呂に入ってた時だろうか――既に布団が二組敷かれていた。部屋は充分に広いのに、中央に間が隙間無く。付属として枕の少し上にはティッシュも置かれている。
 それを見て、二人は確認するように視線を交わすと、照れるように苦笑した。もし眼下にあるものが、その時に用意されていたのなら、もしかしたら――
「聞かれちゃいましたかね?」
「……かもな」
 風呂場で上げた嬌声を他人に聞かれていた可能性があるのだ。とはいえ、相手は仮にも宿の従業員である。少なからず慣れているだろうし、布団の敷き方から察するに二人がそういう関係であることも分かっているだろう。それにスミカは知らないことであるが、社長が振舞ったものもある。最悪、布団が汚れることすら試算に入れているだろう。
 恭しく少年が屈んで布団の上にスミカを下ろす。そのまま彼もその上に身を投げ出してもよかったのだが、立ったままであった。しかし、その状態が彼に奮い立つような光景を見せることになった。
 布団の上に衣類が肌蹴た美女が身体を投げ出し、自分を見上げている。媚態を表わすように濡れた瞳は濡れているが故に怯えているようにも見え、それが嗜虐感を煽っている。
 背筋がぞくりとし、劣情に駆られた眼でスミカを見下ろす。それに呼応するかのように彼女は少年を、より媚の色を強くした眼で見上げた。
「スミカさん」
「……なに?」
「僕、今からスミカさんのこと――」
 ――犯しますから。
 強い口調で少年はそれだけ言うと、脚こそ投げ出しているが手を突いて上体を起こす、座るのと横になっているのとの中間の姿勢であるスミカににじり寄って布団の上に仰向けになるように身体を押し込む。浴衣の左肩を掴むと、
「きゃぁっ!」
 ぐっと力を入れ、ずり下げて左の乳房を外に出した。ほぼ出ているとはいえ布のずれ具合で見え隠れする下半身と違って、細い帯から上が完全に露出している状態である。そして拒むように震えながら弱々しく閉じている膝を手で抉じ開けると、肉棒を手で掴みながら股の間に入り、何の声を掛けることなく――
 スミカの中に侵入した。普段より劣弱な嬌声がより少年を煽り立てていく。縋ろうとして伸ばされた彼女の手を押さえ付けると、ペニスを奥底まで捩じ込み、引いていく。相手のことを考えもしない単純で独り善がりな抽迭である。
 モノのように扱われて、喘ぎながらもスミカが悲痛な顔を浮かべる。しかし、今の彼にとってはそれも劣情を駆り立てるに過ぎなかった。
「スミカさん!締めてっ、締めてっ!」
 ただ、自分を満足させろという欲求に彼女は言われたままに従い、下腹部に力を込める。彼が甘い声を上げて――真実、暴力的な抽迭を強めていく。置いていかれるような寂しさが広がっていくような気がしながらも、同時に陰茎の喜びで脈動するのを感じると嬉しいような気がした。
「やぁっ! あぁぁっ!」
 乞われたことを忠実にこなしたこと、そして眼下で抵抗も出来ずに揺さぶられて震える乳房を見て、スミカが自分の思い通りになっているということを改めて噛み締めた少年が暗い衝動に駆られる。
 最近は彼女に好き勝手されたのだから、今日は自分が思い通りにしてやろうと。
 淫靡な想像に煽られるように少年は背筋を奔る快感が強くなっていく。そして一層腰の動きを速くしながら射精感を高めていき――
「うぁぁあっ!」
 蜜壷から愛液に塗れ、腺液を垂らすペニスを引き抜くと、スミカの顔の上までそれを持っていくと
「むぅっ?!」
 白濁の第一射を顔にぶち撒けながら、唇に押し付けて、口中に二射以降を吐き出す。温かい粘膜に包まれながら、舌や、喉に音が聞こえる程に叩きつけるのは実に心地良かった。
 出し終えても、突っ込んだままスミカを見下ろしながら髪を撫でる。言わんとしていることが理解できたらしく、彼女は甘えような色を浮かべて彼の眼を見ると、肉棒を洗うように舌を這わし、尿道に残っている腺液と精液を吸い出し、口腔に打ち出された分も含めて、喉を鳴らしながら飲み込んでいく。
 その光景だけでまたも射精できそうな快感を抱きながら、陰茎を口から引き抜くと様々な液体の混合物が糸を引いていく。愉悦を含んだ表情でスミカを見下ろす少年は、風呂場での胸の凌辱の際、彼女が自身のモノに舌を這わそうとしていたことを思い出した。
「舐めたかったんですよね?美味しかったですか?」
 スミカは白濁を浴びた顔を紅潮させながら媚を示す蕩けた目で頷いた。
 彼女自身が呈示したゲームの戦利品通りの振る舞いに少年が気を良くし、優しく髪を撫でる。それによって更にスミカは眼を蕩けさせていく。
「……僕、スミカさんの顔も大好きですよ」
 おもむろに少年がスミカを陥落させた言葉の続きを語る。
「眼も鼻も唇も綺麗で……美人としか言えません。それに可愛い。感じてる時なんか特に」
 そう言いながら頬に手を添えると、彼女は猫が甘えて擦り付くように頬ずりをしていた。
「今度はちゃんとしてあげますからね……」
 座って向かい合いながらティッシュでスミカの顔の汚れを拭き取った後、優しくそう言う。先程彼女に語り掛けたのが理由か、暴力的な衝動は大分なりを潜めていた。しかし、「どんな格好でしたいですか?」と羞恥を感じるであろう質問を続けた。とはいえ、少しは相手のことを慮っての発言である。
 頭を撫でられる猫のように気持ち良さそうな顔で眼を瞑りながら顔を拭かれていたスミカはそう聞かれると顔を紅潮させながら、背けた。やはり恥ずかしいのだろう、それでも逡巡を見せているから充分にやる気であることは間違いないが。
「……じゃあ」
 和やかな笑顔を浮かべる彼に見守られながら、暫し考えていたスミカが、恐る恐ると云った風にそう切り出す。そのまま仰向けになるのだろう少年は予想してた。所謂女の子座りをしていたスミカはその予想通りに身体を後ろに倒して、背中を布団に預けた。男を受け容れる体勢である。その体勢か、彼女のことをか、それとも両方か、少年が可愛らしいと思いつつ、その上に覆いかぶさろうとして身体を前に持っていく。その直後、スミカは寝返りを打つように側面を見せるように横になる。そして行動が中断し、硬直した彼の前で更に寝返りを打ち、うつ伏せになって――手と膝を布団に突き、尻を上げると、恥ずかしそう表情で背後の彼を見た。
「この、格好で……してくれ」
 少年の予想に反し、スミカが選んだのは、男を受け容れるどころか、完全に支配されるものであった。
  自ら秘所を掲げるような、その痴態に彼がどぎまぎしながらも、「あの……これだと、顔が見えませんけど……」と恐る恐る進言した。少年がスミカが正常位を選ぶと思ったのは、先程彼女の顔を褒めたというのもある。しかし、それに反し彼女は体位の中でも一番ではないかもしれないが、かなり顔が見えにくいものを選んだ。咄嗟に彼が辺りを見渡したが、鏡があるのかと思ったからである。
 そのように少年が躊躇う素振りを見せていると、スミカは眼に涙を浮かべ、浴衣に覆われているとはいえ美しい線を持つ臀部を更に少し高くして、震える声を発する。
「後でいくらでも見せてやるから……今は、私を……」
 ――犯して。
 最近責められていなかったせいか、久しぶりの被虐間に彼女は少年の思う以上に酔いしれていたようだ。
 その懇願によって隠れていた少年の牡が鎌首をもたげ出す。
「……やっぱり、エッチですね。スミカさんは」
 そう言いながら彼女の浴衣を愉しげな手付きでそっと捲ると隠れていた下半身を外に晒した。
 尻肉が汗ばんでおり、ひくひくと菊門が震えている。そして滲んでいる汗以上に湿り気を帯びている――濡れている秘所が姿を表わす。見られて感じているのか、秘唇からとろりと愛液が垂れそうになっている。落ちる前に指で根元からそれを掬った少年は、腰を引き寄せて割れ目に肉棒を触れさせながら、スミカの顔の前に見せ付けるように濡れた指を持って行く。
 何を言うでもなく、また何を言われることもなく彼女が自身の愛液に塗れた指を咥えた。それと同じくして、少年の肉棒も――
「ふぅぁぁぁっ……!!」
 締まる膣肉を押し広げながら、挿入すると、スミカは舌先を動かしながら心底嬉しそうな鳴き声を上げた。
 余程感じているのか入った瞬間から、収縮を繰り返す膣の感触がこの上なく快感で、少年は高く上がっている尻を更に持ち上げるように突き上げると、
「ひゃあぅっ! きもちいいっ! あぁぁっ!」
 スミカは平素からは想像も出来ないようなはしたない声色で叫びながら、突き上げられた腰を落として、そして自ずから持ち上げて、また落とし、淫らに腰を上下させてペニスをむしゃぶっている。
 口から指を引き抜き、腰を掴んで負けじと膣内に自身のモノを進ませる少年の眼は彼女の背中に向けられていた。以上に汗が滲んでいるそこは濡れていると云っていいほどだ。開かれている襖から差し込む光がその一面を輝かせており、スミカが快感に打ちひしがれて、背中が丸まっていることで生み出されている稜線が艶かしさを感じさせる。
 背中を見つめていた少年であったが、身体の幅からちらちらとはみ出すように、何かが見え隠れしていることに気付いた。少年がスミカを揺らし、スミカが少年に揺らされ――また自ら揺れる度に見えるそれは、彼女の乳房であった。ぶるんと音を立てるように震えているそれと美しい背中に当てられた彼は居ても立ってもいられなくなり、飛び込むように艶やかな背中に顔と身体を寄せ、豊満な乳房を鷲掴みにした。
「うぁンっ!胸、いいっ!やぁ……くすぐった……あっ!だめぇっ!すごぃのぉっ!!」
 掌に余るほどの乳房を押し込むように掴み、跡が残るほどに指で揉みしだきながら、乳輪から先端を扱き上げる。柔らかさと硬さが掌と指先に感じる。顔を背中に触れさせると汗と体臭が交じった芳香が鼻腔に鼻を擽られ、舌を這わすと口腔に汗の味が広がる。胸を嬲られる性感と、擽ったさに身を捩りながら、膣壁を抉られ、子宮口を突かれてスミカは堪らないと云ったように嬌声を上げる。
「スミカさぁン……!きもちいいですかっ?!」
「……きもち、いいぃっ!かんじるっ かんじるぅっ!」
 布団に突いていた手も崩れ、倒れこんだスミカの上で少年が無茶苦茶に手を蠢かし、そして一心不乱に腰を振りながら、そう聞くと自身の胸を嬲る手を上から掴んで同時に揉みながら、彼女が叫ぶ。感じてることが嬉しいことを表わすように尻と股間が打ち鳴らされる音と、膣口の愛液と腺液が入り混じって肉棒に攪拌される音が高くなっていく。
「……あぁっ!もうっ……イキますっ! スミカさんのなかに出しますっ!……でるっ! でるっ!!」
「だしてぇっ! イカせ、てっ……イカせてぇっ!……イっちゃぅぅっ……!!」
 噴出し始めた愛液によって肉同士が爆ぜる明瞭な音の中にびしゃびしゃと水音が混じり、繋がっている二人にだけとはいえ、締め付ける音が聞こえそうな程に膣肉が収縮し、渾身の力で少年が肉棒を彼女の奥に向かって突き立てた時――、
「くぅぁぁぁぁっっ!!!」
「いいぁぁぁあああっっ!!!」
 子宮口に触れながら、ペニスの先端から白濁が迸った。律動を押さえ込むかのように膣が何度も収縮する度に愛液が、そして精液が噴出し続け、互いを真っ白に汚していく。
 視界が明滅するほどの快感の中で力尽きたように倒れこんだ二人の結合が空気の入る鈍い音と共に解けると、体液がべっとりと付着した肉棒がスミカの太腿にべちゃりと音を立てながら着地し、膣が潮を吹いてぴしゃっと水を掛ける音を上げて、少年のを濡らすのだった――。
「あっ……イク イク イクっ……!」
「ふぅン……んむぅ……ンっ ンっ ンンっ……」
 何時開けたかは本人達もあまり覚えていないが、あまりにも暑いので二人は縁側で夜風と月の光を浴びている。少年が座りながら障子に持たれかかり、スミカはその股の間に白濁が付着している顔を埋めて、肉棒を掃除しており、ついでに最後の精液を搾り取っている。
 何度も身体を重ねた二人は疲労困憊と云った風情で、少年は射精を終えると天を仰ぎながら息苦しそうに喘ぎ、スミカは彼の身体の上に持たれかかった。
「じゃ、じゃあ……寝ましょうか……」
「そうだな……」
 息も絶え絶え少年がそう言うとスミカも溜息を漏らしながら、ふらふらと布団のところまで行く。二人して汚れた掛け布団を取っ払い、横たわるとスミカが「あ……そうだ」と思い出したようで、それでいて失敗したような声を出す。
「どうしました?」
「私、口がその……あれ……だから、今日はお前が私に……」
「ああ、はい……」
 恥ずかしそうにしているスミカに少年がその額に顔を寄せると、優しく口付けを落とす。
「おやすみなさい、スミカさん」
「ああ、おやすみ」
 
「うぅン……」
 朝、少年が目覚めた。眠たい目蓋を擦りながら、上体を起こして、外を見るとまだ微かに空が白んでいた。
 何時眠ったかは分からないが、おそらく深夜に眠ったことは想像できる。だというのに早く起きたな、と考えていると、隣にスミカがいないことに気付いた。
「あれ……」
 とんでもないところまで寝返りを打ったのかと思って、部屋中を見渡してみても、何処にも居ない。どうしたのだろうかと俄かに不安が過ぎると、彼女が何処に居るか、そして自分が何故起きたかが理解できた。
 水の音が聞こえる。
 (あぁ、朝風呂か……)
 少年は自分も風呂に入ろうと立ち上がって、風呂場へ向かう。腰の帯が引っ掛かっているだけの浴衣はそのまま引き摺るようにして歩いていき、脱衣所で、脱いだ。既に脱げていたと云った方が正しいかもしれないが。
 擦りガラスの引き戸をガラッと開けながら「スミカさん、僕も……」と言い掛けて、彼の言葉はそこで止まったのは、息が出来なくなったからだ。
 眼の前にいるスミカは別人のようであった。
 夏とはいえ、まだ早朝で多少涼しいせいか、湯気が夜よりも多い。その中でスミカが桶で掬った湯を自分の身体に流したらしく、更に湯気が広がっている。
 全裸のスミカはその湯気を纏っているようで、霞みがかって見える。
 そうでありながら湯気の中で身体の輪郭が浮き出ており、そして存在の不確かさが彼女の美貌を際立たせているのだ。
 一瞬、心臓を鷲掴みされたようで、少年は胸を抑えた。
 鼓動が高鳴り、息苦しい。呼吸が上手くできないせいか、それとも別の原因か、顔には昨日生き血を飲んだ時以上にかーっと熱が昇っていく。
 感じたことのないほどの昂揚であった――いや、一度だけ同じものを感じたことがある。それは彼がスミカを異性として好いていると自覚した時と同様の。
「どうした、入らないのか?」
 入り口で立ち止まっている少年のことを訝しく思ったのだろう、スミカがそっと歩み寄る。
 顔を赤くして、ハッハッと息を荒くしているのを見て、「具合が悪いのか?」と声を掛けると、少年は喉のつっかえを取り除くように唾を飲み込むと、
「スミカさん……好きです」
 潤んだ瞳で彼女を見え上げながらそう言った。
「な、なんだ、急に……」
 余りに気の入った告白に面食らったスミカは驚いて赤面する。
 そして照れているのを隠すように視線を逸らし頬を掻く。それでも嬉しさから口を開いた。
「あの、だな……アレはしてくれないのか?」
「アレ……?」
「……昨日、私に言ってくれた……」
 少年は思い出した。昨日スミカとの遊びの最中に自分が言った彼女への欲望の数々である。
「はい、したいです」
 真面目な顔で彼女に視線を送りながら、力強く言う。
「じゃあ……いいぞ」
 スミカは動きなどの見た目こそ変化は見せなかったが、短くそう言って、彼に自分の身体を許した。許可を得たので、すぐにその身体に抱きつく少年。するとスミカはやはり照れていると分かる声色で続ける。
「そうだな……この旅行の間は……お前の好きにして、いいぞ」
 彼はそれを聞いて、元気良く嬉しそうに「はい!」と答え、
「大好きです、スミカさん!」
「……私も、大好きだよ」
 二人は暫し湯ではなく、互いの身体で自分の身体を温めるのだった――。
 
「……すいません」
「……申し訳ない」
 二人が顔を真っ赤にしながら、スミカの方は座布団を差し出して、謝っているのは何故かと言うと
「いいんですよ、お若いんだから」
 仲居さんが布団を回収しにきたので、色々なもので汚したことを平に謝罪しているのだ。ついでに座布団も。
 更に二人を申し訳なくさせるのは、仲居さんが逆に自分達の気を遣ってくれているからである。
「どうぞ、頑張ってくださいな」
 狼狽するでもなく、余裕たっぷりの彼女に
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
 ぐらいしか言えることのない二人であった。


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